説明

オイル供給装置を備えたエンジン

【課題】 オイル溜めを大型化することなく、オイルに含まれる空気やブローバイガスを効果的に除去することのできるオイル供給装置を備えたエンジンを提供すること。
【解決手段】 ウォータービークル10のエンジン20にオイルOを供給するオイル供給装置30を、オイル溜め33と、気液分離室31と、オイル溜め33のオイルOを気液分離室31に送るスカベンジポンプ35cと、気液分離室31内で空気やブローバイガスが分離されたオイルOをオイル溜め33に戻すための移送通路37と、オイル溜め33のオイルOをエンジン20に供給するフィードポンプ34aと、エンジン20を潤滑したオイルをオイル溜め33に戻すための開口部26b,26cとで構成した。そして、オイル溜め33をクランク室22aの下方に設け、気液分離室31をエンジン20の側面に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォータービークルのエンジンに潤滑用のオイルを供給するオイル供給装置を備えたエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ウォータービークル等の小型滑走艇で用いられるエンジンは、オイル供給装置から潤滑用のオイルが供給されるように構成されており、このオイルによってエンジンの駆動がスムーズになる(例えば、特許文献1参照)。この小型滑走艇では、エンジンがシリンダヘッドとオイルタンクを有するドライサンプ式のエンジンで構成されており、オイルタンクはシリンダヘッドよりも低い位置に設置されている。
【0003】
また、この小型滑走艇には、オイルタンク内のオイルをエンジンに供給するためのフィードポンプやシリンダヘッドからクランクケース内の底部に自重により溜まったオイルをオイルタンクに戻すためのスカベンジポンプも備わっている。そして、オイルタンクには、ブリーザ管が接続されており、オイルに含まれる空気やブローバイガスは、オイルタンク内でオイルと分離されこのブリーザ管を介してオイルタンクから放出される。
【特許文献1】特開2003−293721号公報
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、前述した従来の小型滑走艇が備えるオイル供給装置では、オイルに含まれる空気やブローバイガスを、オイルタンク内でオイルと分離する構造になっているため、オイルを移動させる際の流速を遅くして、オイルをオイルタンク内で一定時間滞留させる必要が生じる。このため、オイルタンクの容量を大きくする必要も生じる。しかしながら、ウォータービークル等の小型滑走艇のエンジンルームは狭くスペース的な制約が大きいため、オイルタンクを大型化することは問題となる。
【0005】
本発明は、前述した問題を解決するためになされたもので、その目的は、オイルを溜めるためのオイル溜めを大型化することなく、オイルに含まれる空気やブローバイガスを効果的に除去することのできるオイル供給装置を備えたエンジンを提供することである。
【0006】
前述した目的を達成するため、本発明に係るオイル供給装置を備えたエンジンの構成上の特徴は、ウォータービークルのエンジンに潤滑用のオイルを供給するオイル供給装置を備えたエンジンであって、エンジンに供給されエンジンを潤滑したオイルを回収するオイル溜めと、オイルに含まれる空気やブローバイガスをオイルから分離する気液分離室と、オイル溜めに溜まったオイルを気液分離室に送る第1のオイルポンプと、気液分離室内で空気やブローバイガスが分離されたオイルをオイル溜めに戻すためのオイル戻し通路と、オイル溜めに溜まったオイルをエンジンに供給する第2のオイルポンプとを備えたことにある。
【0007】
このように構成した本発明に係るオイル供給装置を備えたエンジンでは、エンジンに供給する潤滑用オイルを溜めるためのオイル溜めとは別にオイルから空気やブローバイガスを分離する気液分離室を設けている。このため、オイル溜めの内部にオイルを所定時間滞留させながらオイルに含まれる空気やブローバイガスを分離する必要がなくなる。この結果、オイル溜めの容量を小さくすることができ、その分オイル供給装置を含めたエンジン全体を小型化することができる。
【0008】
また、本発明に係るオイル供給装置を備えたエンジンの他の構成上の特徴は、気液分離室の少なくとも一部を、エンジンの壁面に設けたことにある。これによると、気液分離室をエンジンの壁面に沿って形成することができるため、気液分離室を設置するためのスペースを小さくすることができる。また、この場合、気液分離室におけるエンジンの壁面に設けられた部分をエンジンの壁面と一体的に形成することが好ましい。これによると、気液分離室をエンジンの本体を構成する壁面と別体で形成しなくても良くなるため、さらに省スペース化が図れるとともに、部品点数の削減、製造時における組立工数の削減、コストダウン等が図れる。
【0009】
また、本発明に係るオイル供給装置を備えたエンジンのさらに他の構成上の特徴は、オイル溜めをエンジンが備えるクランク室の下方に設け、気液分離室をオイル溜めよりも高い位置に設置したことにある。
【0010】
ウォータービークルのエンジンルームにおけるエンジンのクランク室の下方は通常デッドスペースになっている部分である。また、オイル溜めは変形可能な液体を収容するタンク状のものであるためその形状に比較的自由度がある。このため、オイル溜めをクランク室の下方部分の形状およびエンジンルームのデッドスペースの形状に合わせて形成することにより、エンジンルーム内のデッドスペースを有効利用しながら必要な容量を備えたオイル溜めを形成することができる。
【0011】
また、気液分離室をオイル溜めよりも高い位置に設置することにより、気液分離室からオイル溜めに回収されるオイルが自重で落下するようになるため気液分離室からオイル溜めへのオイルの回収が容易になる。すなわち、気液分離室をオイル溜めの上方に設置することにより、オイル戻し通路は、気液分離室から下方のオイル溜めに向けて延ばすだけでよくなり、空気やブローバイガスが除去されたオイルの回収が容易になるとともに、オイル戻し通路の構造が簡単になる。
【0012】
また、本発明に係るオイル供給装置を備えたエンジンのさらに他の構成上の特徴は、気液分離室をエンジンの側面のうちのエンジンが備えるクランク軸に平行する側面に設置したことにある。ウォータービークルのエンジンが設置されるエンジンルームにおいては、エンジンの前後部分よりも左右の側面側にスペースが生じやすい。このため、エンジンの側面に気液分離室を設置することにより、気液分離室の設置が容易になる。また、通常、エンジンはシリンダ部分よりもクランク室部分の方が幅が広くなるように形成されている。このため、エンジンルームにおけるシリンダの側面側はデッドスペースになっている。したがって、気液分離室をエンジンの側面、特にシリンダ部分の側面に設置することにより、エンジンルーム内のデッドスペースを有効に利用して気液分離室を形成することができる。
【0013】
また、本発明に係るオイル供給装置を備えたエンジンのさらに他の構成上の特徴は、気液分離室を前記ウォータービークルの船体の長手方向に平行させて前後方向に長くなるように形成し、気液分離室の前部に第1のオイルポンプに連通するオイル導入口を設けるとともに、気液分離室の後部にオイル戻し通路に連通するオイル戻し口を設け、気液分離室におけるオイル導入口とオイル戻し口との間で、かつオイル導入口とオイル戻し口よりも上方に、オイルから分離した空気やブローバイガスを排出するガス排出口を設けたことにある。
【0014】
ウォータービークルは、航走中に、船体の前部側が後部側よりも上方に位置する姿勢になるため、気液分離室の中では、オイルの液面は船体に対して傾いた状態になり、オイルは気液分離室の後部側に偏りがちになる。このため、気液分離室の前部にオイル導入口を設け、気液分離室におけるオイル導入口より後部の上方に空気やブローバイガスを排出するガス排出口を設け、気液分離室の後部下方にオイル戻し通路に連通するオイル戻し口を設けることにより、オイルの液面が船体に対して傾いてもオイル戻し口がオイルで塞がれることがなくなりオイル戻し口からオイル溜めへのオイルの回収をスムーズに行うことができる。また、ガス排出口をオイル導入口よりも後方でかつ上方に設けたため空気やブローバイガスの排出も良好に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて詳しく説明する。図1は、同実施形態に係るオイル供給装置を備えたエンジン20(図8参照)を備えたウォータービークル10を示している。このウォータービークル10では、船体11がデッキ11aとハル11bとで構成されており、船体11の上部における中央よりもやや前側部分に操舵ハンドル12が設けられ、船体11の上部における中央部にシート13が設けられている。また、船体11の内部は、前部から中央部にかけて形成されたエンジンルーム14と、後部に形成されたポンプルーム15とで構成されている。
【0016】
そして、エンジンルーム14には、燃料タンク16、エンジン20、過給機17a(図4参照)等からなる吸気装置17および排気マニホールド18a等からなる排気装置18などが設置され、ポンプルーム15には、ジェットポンプ等からなる推進機19などが設置されている。また、エンジンルーム14内における前部側には、外部の空気をエンジンルーム14内に導くための空気ダクト(図示せず)が設けられている。
【0017】
この空気ダクトは、船体11の上部からエンジンルーム14の底部まで上下に延びるように形成され、船外の空気を上端部から吸い込み、下端部からエンジンルーム14内に導く構成をとっている。また、燃料タンク16は、エンジンルーム14の前部側に設置され、エンジン20は、エンジンルーム14の後部側(船体11内の底部中央)に設置されている。そして、図2および図3に示したように、エンジン20の側面に、オイル供給装置30の一部を構成する気液分離室31が形成されている。
【0018】
エンジン20は水冷式の4ストロークエンジンからなっており、そのエンジン20のエンジン本体は、図4ないし図6に示したように、クランク軸21が収容されたクランクケース22の上部に、シリンダボディ23およびシリンダヘッド24を順次固定して構成されている。このエンジン本体を構成する各ケース部材はアルミニウムの成形体からなっている。また、クランクケース22は、アッパーケース25とロアケース26とからなっており、ロアケース26の下面には、オイル溜めケース32が取り付けられている。オイル溜めケース32は、底浅の四角容器状に形成され、ロアケース26の下面との間に潤滑用のオイルOを貯留するための空間部であるオイル溜め33が形成されている。
【0019】
オイル溜めケース32の内部は、図7に示したように、外周部に形成された外周壁32aと内部に形成された隔壁32bとによって、前端部から左右中央側の後部側に向って延びる部分と、前部を除く外周側部分とに区画されており、中央側部分が主オイル溜め33aを構成し、外周側部分が副オイル溜め33bを構成している。そして、主オイル溜め33a内には、フィードパイプ34が設置され、副オイル溜め33b内には、スカベンジパイプ35が設置されている。フィードパイプ34の後端開口部は、主オイル溜め33aの後部側における左右方向の略中央に位置しており、主オイル溜め33a内を前方に向って延びたのちに屈曲してオイル溜めケース32の前端右側部分の壁面から外部に延びている。
【0020】
そして、図8に示したように、フィードパイプ34の先端側部分には、本発明の第2のオイルポンプとしてのフィードポンプ34aが設けられており、フィードパイプ34は、フィードポンプ34aを介してエンジン20の所定部分にオイルOを移送する移送通路34bに接続されている。また、スカベンジパイプ35は、後端側部分が二股状のパイプで構成されており、副オイル溜め33bの左側部分を後部側から前端に向って直線状に延びる支管35aと、副オイル溜め33bの右側部分を後部側から中央側に向って延びたのちに屈曲して主オイル溜め33aを貫通したのちに支管35aと合流する支管35bとを備えている。
【0021】
そして、スカベンジパイプ35の先端側部分は、オイル溜めケース32の前端左側部分の壁面から外部に延びて、本発明の第1のオイルポンプであるスカベンジポンプ35cに接続されている。さらに、スカベンジパイプ35は、スカベンジポンプ35cを介して気液分離室31にオイルOを移送する移送通路35dに接続されている。また、隔壁32bにおけるオイル溜めケース32の左側部分の前後方向の中央部分は、主オイル溜め33aを副オイル溜め33b側に突出させる平面視がコ字状の突出壁32cが形成されている。
【0022】
この突出壁32cの内部は、上方の気液分離室31から落下してくるオイルOを主オイル溜め33a内に導入する入口を構成している。そして、オイル溜めケース32における突出壁32cで囲まれた部分を除く主オイル溜め33aの上面には、複数の開口36aが形成された蓋部材36が取り付けられている。このため、オイル溜め33に入ったオイルOは、開口36aを通過して主オイル溜め33a内に入っていく。また、オイル溜め33に入ったオイルOの一部、ウォータービークル10の旋回中にエンジン20が傾いて落下したオイルOおよび主オイル溜め33aから溢れたオイルO等は左右の副オイル溜め33b内に流れていく。
【0023】
オイル溜めケース32の上方に位置するロアケース26は、前後方向の長さが幅よりも長くなった外形が略矩形のケース部材で構成されており、その下面は、オイル溜め33の天井面を構成している。また、ロアケース26の上面は、クランクケース22の内部に形成されたクランク室22aの底部26aを構成しており、この底部26aには、クランク室22a内のオイルOをオイル溜め33に落下させる左右一対の開口部26b,26cが形成されている。また、底部26aにおける開口部26b,26cの間には、クランク軸21の回転方向に対向するように突出してクランク軸21の回転によって連れまわるオイルOを掻き落とすガイド部26dが形成されている。
【0024】
この開口部26b,26cによって、クランク室22a内のオイルOはオイル溜め33に回収される。また、アッパーケース25は、下面の大きさがロアケース26の底部26aの上面の大きさと同じに形成され、上部側部分の幅がロアケース26の幅よりも小さくなるように形成されたケース部材で構成されている。そして、アッパーケース25の左側面には、オイル溜め33の主オイル溜め33aおよび副オイル溜め33bにそれぞれ所定の通路を介して連通する気液分離室31が形成されている。
【0025】
気液分離室31は、アッパーケース25の側面に沿ってアッパーケース25と一体に形成された凹部31aの開口部に、凹部31aを閉塞する平板状の蓋部材31bを取り付けて構成されている。凹部31aは、図3、図5および図6に示したように、前後方向に長く左右方向の幅が小さな略矩形の凹部で構成されており、幅は、アッパーケース25の曲面に沿って上部側が大きく下部側が小さくなるように形成されている。また、気液分離室31の前部側部分の天井面は前部側が低く後部側が高くなる傾斜面に形成されており、その傾斜面の後端部に、気液分離室31内の上部側部分を前部側と後部側とに区切る仕切り壁31cが設けられている。
【0026】
そして、気液分離室31の前端下部には、スカベンジポンプ35cから延びてくる移送通路35dに連通するオイル導入口31dが形成され、気液分離室31の天井面における前端部と仕切り壁31cが設けられた部分との略中央部には、気液分離室31内でオイルOから分離された空気やブローバイガスを排出するガス排出口31eが形成されている。また、気液分離室31の後端下部には、気液分離室31内で空気やブローバイガスを分離されたオイルOを下方に落下させるオイル戻し口31fが形成されている。このオイル戻し口31fは、本発明のオイル戻し通路を構成する移送通路37およびオイル溜めケース32に形成された突出壁32cの内部を介して主オイル溜め33aに連通している。
【0027】
また、シリンダボディ23は、前後方向の長さがクランクケース22の前後方向の長さよりも短く設定され、下部側部分の幅がアッパーケース25の上部側部分の幅と同じに設定されている。そして、シリンダボディ23の上部側部分の幅は、下部側部分の幅よりもやや小さく設定されている。また、前述した気液分離室31の上部側部分は、シリンダボディ23の左側面の下部側部分まで延びている。そして、シリンダボディ23の左側面には、気液分離室31のガス排出口31eから上部に延びたのちに屈曲して後方に延びるブリーザ管38が設けられている。このブリーザ管38は、排気装置18が備えるブリーザケース18bに接続されており、気液分離室31から排出される空気やブローバイガスをブリーザケース18bに送る。
【0028】
ブリーザケース18bは、空気やブローバイガスを吸気装置17の吸気に合流させたのちに再燃焼させる。また、シリンダヘッド24は、シリンダボディ23の上部側部分と略等しい長さと幅を備えたケース部材で構成されており、シリンダボディ23の上端部に固定されている。また、ロアケース26の前端部には、ポンプ収容部39が設けられており、フィードポンプ34aとスカベンジポンプ35cとはユニット化されてこのポンプ収容部39内に設置されている。さらに、エンジン本体の所定部分には、エンジン20を冷却するための冷却水の水路を構成するウォータージャケット29も形成されている。
【0029】
このように構成されたエンジン本体におけるシリンダボディ23内には、コンロッド27を介してクランク軸21に連結されたピストン28が上下移動可能な状態で収容されており、このピストン28の上下運動がクランク軸21に伝達されてクランク軸21の回転運動になる。また、シリンダヘッド24に形成された各気筒24a(図4参照)は、吸気弁と排気弁(図示せず)とで構成されている。各気筒24aの吸気弁に連通する吸気口は過給機17aを含む吸気装置17に接続され、排気弁に連通する排気口は排気装置18に接続されている。
【0030】
吸気弁は、吸気のときに開いて吸気口を介して吸気装置17から供給される空気と、燃料タンク16から供給される燃料との混合気をシリンダヘッド24内に送り、排気のときに閉じる。排気弁は、排気のときに開いて排気口を介してシリンダヘッド24から吐出される燃焼ガスを排気装置18に送り出し、吸気のときに閉じる。また、エンジン20は点火装置を備えており、この点火装置の点火によって混合気は爆発する。この爆発によって、ピストン28が上下に移動しその移動によってクランク軸21が回転する。
【0031】
また、エンジン20の後部からはクランク軸21にカップリング21aを介して連結されたポンプ駆動軸(図示せず)が後方のポンプルーム15内に延びている。このポンプ駆動軸は、船体11の船尾に設けられた推進機19の内部に設けられたインペラーに連結され、エンジン20の駆動によるクランク軸21の回転力をインペラーに伝達してインペラーを回転させる。また、推進機19は、船体11の底部に開口する水導入口19aと船尾に開口する水噴射口(図示せず)とを備えており、水導入口19aから導入される海水をインペラーの回転駆動により水噴射口から噴射させることにより船体11に推進力を生じさせる。
【0032】
そして、推進機19の後端部には、操舵ハンドル12の操作に応じて、後部側を左右に回転移動させることにより、ウォータービークル10の進行方向を左右に変更させるステアリングノズル19bが取り付けられている。また、ステアリングノズル19bの後部には、上下に移動することによりウォータービークル10の進行方向を前後に変更させるリバースゲート19cが取り付けられている。さらに、本実施形態に係るウォータービークル10は、前述した各装置の外に、CPU、ROM、RAMおよびタイマ等を含む電気制御装置や各種の電気機器を収容した電装ボックス、スタートスイッチおよび各種のセンサなどウォータービークル10を安全走行させるために必要な各種の装置を備えている。
【0033】
以上のように構成されたウォータービークル10を航走させるときには、まず、スタートスイッチをオンに操作することによって、エンジン20が始動してウォータービークル10は航走可能な状態になる。この場合、スタートスイッチをオン操作する前のエンジン20が停止した状態のときには、オイルOは、図5に示したように、オイル溜め33の左右両側の上部を除く部分とクランク室22aの底部側に溜まって、オイルOの液面aは全体に均一な水平面になっている。そして、エンジン20が始動すると、フィードポンプ34aとスカベンジポンプ35cも同時に始動して、オイルOの一部は、クランク室22aおよび気液分離室31に送られ、オイル溜め33内のオイルOの液面b(左側上部を除く部分)は、図6に示したように、蓋部材36の上面近傍の位置で略水平面になる。
【0034】
この際、フィードポンプ34aの作動により、主オイル溜め33a内のオイルOは、フィードパイプ34および移送通路34bを通ってクランク室22a内におけるクランク軸21をはじめエンジン20の所定部分に供給される。そして、オイルOはエンジン20の所定部分を潤滑したのちに、クランク室22aから開口部26b,26cを通過して落下し、主に開口36aを通過してオイル溜め33の主オイル溜め33a内に落下していく。その際、そのオイルOの一部は開口36aを通過せずに副オイル溜め33b内に入る。このエンジン20の各部分を潤滑したのちのオイルOには、空気やクランク室22a内で発生するブローバイガス等が含まれるようになる。
【0035】
また、スカベンジポンプ35cの作動により、副オイル溜め33b内のオイルOは、スカベンジパイプ35および移送通路35dを通って気液分離室31内に送られる。そして、気液分離室31内で所定時間滞留することによりオイルOに含まれる空気やブローバイガスはオイルOから分離される。オイルOから分離された空気とブローバイガスは、ガス排出口31eからブリーザ管38を通過してブリーザケース18bに送られる。また、空気とブローバイガスを除去されたオイルOは、オイル戻し口31fから移送通路37を通って主オイル溜め33aに戻される。
【0036】
そして、主オイル溜め33a内に戻ったオイルOは、フィードポンプ34aの作動によって再度クランク室22a内に供給され、エンジン20の各部分を潤滑する間に空気やブローバイガスを含み、クランク室22aからオイル溜め33の副オイル溜め33b内や主オイル溜め33a内に落下していく。そして、空気やブローバイガスを含んだオイルOは、スカベンジポンプ35cの作動によって副オイル溜め33bから気液分離室31内に送られ、空気やブローバイガスを除去されたのちに主オイル溜め33aに戻ってくるといったことが繰り返される。その間、エンジン20は良好な作動状態を継続できるように潤滑され、オイルOは潤滑性能が低下しないように維持される。
【0037】
そして、シート13に座った運転者が操舵ハンドル12を操舵するとともに、スロットルレバー(図示せず)を操作することによりウォータービークル10は各操作に応じて所定の方向に所定の速度で航走を開始する。このウォータービークル10の航走の際、船体11は、船首側が船尾側よりも高くなるように傾斜するが、フィードパイプ34およびスカベンジパイプ35の後端開口部がオイル溜めケース32の後部側に位置しているため、オイルOの液面から上方に突出することはない。これによって、オイル溜め33からクランク室22aや気液分離室31に供給されるオイルO内にオイル溜めケース32内の空気が入り込むことがなくなる。
【0038】
また、気液分離室31内にオイルOを導入するオイル導入口31dが、気液分離室31の前端下部に設けられ、空気やブローバイガスを排出するガス排出口31eが気液分離室31の天井面における前端部と仕切り壁31cが設けられた部分との略中央部に設けられている。そして、気液分離室31内のオイルOを下方に落下させるオイル戻し口31fが気液分離室31の後端下部に設けられている。このため、気液分離室31内には、前部側から後部側に向うオイルOの流れが生じ、オイルOが気液分離室31内で前部側から後部側に流れる間に、オイルOに含まれる空気やブローバイガスは気液分離室31内の上部側に上昇していく。
【0039】
このとき、空気やブローバイガスは、仕切り壁31cによって気液分離室31の後部側に移動することを防止されて、気液分離室31の前部側上部に集まる。また、気液分離室31の前部側部分の天井面は前部側が低く後部側が高くなる傾斜面に形成されているため、この傾斜面は、ウォータービークル10が航走しているときには略水平面になる。このため、気液分離室31の前部側部分における仕切り壁31cの近傍に空気やブローバイガスが溜まることがなくなり、空気やブローバイガスは、効率よくガス排出口31e側に集まってガス排出口31eからブリーザ管38内に入っていく。
【0040】
また、オイル戻し口31fが気液分離室31の後端下部に設けられているため、ウォータービークル10が航走しているときには、オイル戻し口31fは気液分離室31の最下部に位置するようになる。このため、オイル戻し口31fは、常時オイルOで塞がれるようになり、オイル戻し口31fからオイルOと一緒に空気が入っていくことが防止される。また、仕切り壁31cは、空気やブローバイガスが気液分離室31の後部側に進入することを防止するだけでなく、気液分離室31内でオイルOが揺れ動くことを防止する機能も備えている。
【0041】
以上のように、本実施形態に係るオイル供給装置30では、エンジン20に供給するオイルOを溜めるためのオイル溜め33とは別にオイルOから空気やブローバイガスを分離する気液分離室31を設けている。このため、空気やブローバイガスを含むオイルOを気液分離室31内に所定時間貯留して、空気やブローバイガスを分離したのちのオイルOをオイル溜め33の主オイル溜め33aに戻すことにより、オイル溜め33の容量を小さくすることができ、これによってエンジン20全体を小型化することができる。
【0042】
また、気液分離室31を構成する凹部31aを、アッパーケース25の側面に沿わせてアッパーケース25と一体的に形成しているため、気液分離室31を設置するためのスペースを小さくすることができるとともに、部品点数の削減、組立工数の削減、コストダウンが図れる。さらに、オイル溜め33をクランク室22aの下方に、クランク室22aの底部に沿わせて設け、気液分離室31をオイル溜め33よりも高いアッパーケース25の側面に設けている。
【0043】
このため、エンジンルーム14におけるエンジン20の下方のデッドスペースを利用してオイル溜め33を設け、エンジン20における幅が小さくなったアッパーケース25およびシリンダボディ23の側面のデッドスペースを利用して気液分離室31を設けることができる。これによって、エンジンルーム14内のデッドスペースを有効利用することができる。また、気液分離室31がオイル溜め33よりも高い位置にあるため、気液分離室31からオイル溜め33の主オイル溜め33aに回収されるオイルOが自重で落下するようになる。これによって、移送通路37は、気液分離室31から下方に延ばすだけでよくなり、オイルOの回収が容易になるとともに、移送通路37の構造が簡単になる。
【0044】
また、本実施形態では、オイル導入口31dを気液分離室31の前端下部に設け、ガス排出口31eを気液分離室31の天井面における前端部と仕切り壁31cが設けられた部分との略中央部に設けるとともに、オイル戻し口31fを気液分離室31の後端下部に設けている。このため、ウォータービークル10の航走中に、船体11の前部側が後部側よりも上方に位置するように傾斜しても、オイル戻し口31fがオイルOで塞がれることがなくなりオイル戻し口31fからオイル溜め33の主オイル溜め33aへのオイルOの回収をスムーズに行うことができる。また、ガス排出口31eからの空気やブローバイガスの放出も効果的に行える。
【0045】
また、本発明に係るオイル供給装置を備えたエンジンは、前述した実施形態に限らず適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、気液分離室31の凹部31aをアッパーケース25およびシリンダボディ23と一体的に形成しているが、この気液分離室31は、アッパーケース25等のエンジン本体と別部材で構成してもよい。また、その設置場所もアッパーケース25やシリンダボディ23の側面に限らず適宜変更することができる。さらに、本発明に係るオイル供給装置を備えたエンジンを構成するその他の部分の配置や構造、材質等も本発明の技術的範囲内で適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係るオイル供給装置を備えたエンジンを備えたウォータービークルを示した側面図である。
【図2】気液分離室が側面に設けられたエンジンを示した側面図である。
【図3】図2に示した気液分離室の蓋部材を外して凹部内を表した状態を示した側面図である。
【図4】エンジンの内部を表した断面図である。
【図5】停止時のエンジンにおけるオイルの状態を示した断面図である。
【図6】運転中のエンジンにおけるオイルの状態を示した断面図である。
【図7】オイル溜めケースを示した平面図である。
【図8】エンジンとオイル供給装置との関係を示した概略構成図である。
【符号の説明】
【0047】
10…ウォータービークル、11…船体、20…エンジン、22a…クランク室、23…シリンダボディ、25…アッパーケース、26…ロアケース、26b,26c…開口部、30…オイル供給装置、31…気液分離室、31d…オイル導入口、31e…ガス排出口、31f…オイル戻し口、32…オイル溜めケース、34a…フィードポンプ、35c…スカベンジポンプ、37…移送通路、O…オイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォータービークルのエンジンに潤滑用のオイルを供給するオイル供給装置を備えたエンジンであって、
前記エンジンに供給され前記エンジンを潤滑したオイルを回収するオイル溜めと、
前記オイルに含まれる空気やブローバイガスを前記オイルから分離する気液分離室と、
前記オイル溜めに溜まったオイルを前記気液分離室に送る第1のオイルポンプと、
前記気液分離室内で空気やブローバイガスが分離されたオイルを前記オイル溜めに戻すためのオイル戻し通路と、
前記オイル溜めに溜まったオイルを前記エンジンに供給する第2のオイルポンプと
を備えたことを特徴とするオイル供給装置を備えたエンジン。
【請求項2】
前記気液分離室の少なくとも一部を、前記エンジンの壁面に設けた請求項1に記載のオイル供給装置を備えたエンジン。
【請求項3】
前記気液分離室における前記エンジンの壁面に設けられた部分を前記エンジンの壁面と一体的に形成した請求項2に記載のオイル供給装置を備えたエンジン。
【請求項4】
前記オイル溜めを前記エンジンが備えるクランク室の下方に設け、前記気液分離室を前記オイル溜めよりも高い位置に設置した請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載のオイル供給装置を備えたエンジン。
【請求項5】
前記気液分離室を前記エンジンの側面のうちの前記エンジンが備えるクランク軸に平行する側面に設置した請求項4に記載のオイル供給装置を備えたエンジン。
【請求項6】
前記気液分離室を前記ウォータービークルの船体の長手方向に平行させて前後方向に長くなるように形成し、前記気液分離室の前部に前記第1のオイルポンプに連通するオイル導入口を設けるとともに、前記気液分離室の後部に前記オイル戻し通路に連通するオイル戻し口を設け、前記気液分離室における前記オイル導入口と前記オイル戻し口との間で、かつ前記オイル導入口と前記オイル戻し口よりも上方に、オイルから分離した空気やブローバイガスを排出するガス排出口を設けた請求項4または5に記載のオイル供給装置を備えたエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−138592(P2008−138592A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325563(P2006−325563)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】