説明

オットマンを備えた車両用シート装置

【課題】車両が衝突するときや乗員がウォークインするときには、使用状態にあるオットマンを自動的に格納状態に変位させることができるようにする。
【解決手段】オットマン71やウェビング101が備えられた車両用シート装置である。オットマン71をシートクッション10の前側に格納する格納状態と使用状態とに切り替える作動機構80や、この作動機構80とリトラクタ102とを連結可能にする連結機構120などを備える。車両衝突時やウォークイン時等の所定状態が検出され、リトラクタ102が作動してウェビング101を一時的に巻き取るときに、連結機構120も作動して使用状態にあるオットマン71が格納状態に切り替わり可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オットマン及びシートベルトを備えた車両用シート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗員が快適に過ごせるように、車室内に設置する車両用シートにオットマンを装備する場合がある(例えば特許文献1〜3参照)。このオットマンは、シートクッションの前側に設けられていて、シート(シートクッション)に着座している乗員が脚部(特に脹脛)をオットマン上に載せてリラックスできるようにするためのものである。そして、上記オットマンは、通常、乗員が普通にシートに着座できる格納状態と、乗員が脚部をオットマン上に載せられる使用状態とに切換え可能になっている。
【0003】
上記特許文献1及び2では、オットマンは、格納状態では、略鉛直方向に延びてシートクッションの前端に近接した状態にあり、その状態から、上端部を中心にして、下端部がシート前側へ移動するように回動することで、鉛直方向に対する傾斜角が大きくなって使用状態となるようになっている。
【0004】
そして、車両の後突時に、後突荷重を受けた振り子部材を移動させることで、オットマンを保持するラチェットを解除することによって、使用状態にあるオットマンを格納状態にし、これにより、後突時に乗員の後方移動を生じ難くするとともに、当該オットマンを備えたシートが後席シートの場合には、後突時に後傾する前席シートのシートバックがオットマン上の脚部に接触するのを防止して、衝突安全性を確保するようにしている。
【0005】
また、特許文献3では、車両の前面衝突時に、インフレータからのガスにより、使用状態にあるオットマンを後上方にスライド移動させて、乗員の脚部をオットマンの該スライド移動に伴って後上方へ引き込み、これにより、車両前面衝突時に車室内側に変形移動する車室前部(インストルメントパネル等)とオットマンに載置された脚部との干渉を回避して、衝突安全性を確保するようにしている。
【0006】
一方、シートベルトについては、従来より広く用いられていることからその基本的な構成は公知となっている。例えば、車両の衝突時などにウェビングのたるみをとり除く、所謂プリテンショナ機構も公知である。このプリテンショナ機構は、所定のタイミングで一気にガスを発生させ、その力を利用してウェビングを引き込むタイプが一般的であるが、近年では、モータによってウェビングを引き込む機構(モータプリテンショナ機構)を併用したものも認められる。
【特許文献1】特開2006−159979号公報
【特許文献2】特開2006−151169号公報
【特許文献3】特開2005−238931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、シートが3列装備された車両において、2列目のシートにオットマンを設けた場合、3列目のシートに着座する乗員が2列目のシート側方の開口から乗降(ウォークイン)する際、オットマンが使用状態にあると、1列目のシートにオットマンが当接して2列目のシートのスライド量が制限されるため、3列目のシートの乗員の乗降に邪魔になる。
【0008】
この点、上記特許文献1〜3のように衝撃荷重やインフレータからのガスを利用する方法では、車両衝突時には対応できるものの、このような乗員の乗降スペース確保に採用することは困難である。
【0009】
一方、乗員の乗降時にオットマンを自動的に格納できるようにするにしても、それだけのために別途多くの装置を組み付ければ、コストや車両重量などを犠牲にせざるを得ない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、既存の装備をうまく活用つつ、車両衝突時には、オットマンに載置された脚部への衝撃を低減することができ、しかも、複数列シートにおいて後側の乗員の乗降用にスライドさせるシートに適用するような場合には、オットマンが使用状態にあっても、簡単な操作で乗降スペースを確保できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明では、シートベルト装置を活用して、車両が衝突するときやウォークインするときには、使用状態にあるオットマンを自動的に格納状態に変位させることができるようにした。
【0012】
具体的には、シートに着座する乗員に対し、その脚部を支持するオットマン装置と、その胴部を支持するシートベルト装置とを備えた車両用シート装置であって、上記オットマン装置は、乗員の脚部を載置するためのオットマンと、このオットマンを、上記シートのシートクッションの前側に格納する格納状態と、この格納状態よりも前方に保持する使用状態と、に切り替える作動機構と、を有し、上記シートベルト装置は、乗員の胴部を拘束するためのウェビングと、このウェビングを出し入れ可能に巻き取るリトラクタと、を有し、上記リトラクタと上記作動機構とは、連結機構を介して連結可能に構成されていて、車両の所定状態が検出され、上記リトラクタが作動して上記ウェビングを一時的に巻き取るときに、この動作に連動して、使用状態にある上記オットマンが格納状態に切り替わり可能になることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、オットマンを使用状態と格納状態に切り替える作動機構が、シートベルト装置のリトラクタと連結機構を介して連結することができるようになっている。
【0014】
そして、車両の所定の状態が検出されてリトラクタがウェビングを巻き取るときに、その動作に連動してオットマンの保持が解除される。
【0015】
従って、車両の所定の状態が検出されれば、オットマンは使用状態にあっても格納可能な状態になるため、必要に応じてオットマンを格納することができ、邪魔になることがない。しかも、シートベルト装置を利用しているため、余計な装置等を別途組み込む必要がなく、コストや車両重量等の面で効果的である。
【0016】
具体的には、車両の衝突を検出するためのセンサと、このセンサからの信号に基づいて車両の衝突を予測する衝突予測手段と、を備えており、上記車両の所定状態が、上記衝突予測手段によって車両の衝突が予測された状態を含むものとすることができる。
【0017】
そうすれば、車両が衝突する前にオットマンが格納状態に切り替り可能となるため、車両衝突時には、オットマンに載置された脚部への衝撃を低減することができ、安全性を向上させることができる。
【0018】
また、上記シートを前後方向にスライド可能とするスライド機構と、上記シートを所定位置にロックするロック機構と、乗員の要求に応じて上記シートのロック状態を解除するロック解除機構と、を備え、上記車両の所定状態が、上記ロック解除機構によって上記シートのロックが解除された状態を含むものとすることもできる。
【0019】
そうすれば、シートをスライド可能にするロック解除が行われたときに、オットマンが格納状態に切り替り可能となるため、ウォークインするような場合に、オットマンが邪魔にならずに済む。
【0020】
この場合、上記シートは、そのシートクッションの後端部に前後方向に回動可能に支持されたシートバックを有し、上記ロック解除機構が、上記シートバックの回動に連動して上記シートのロックを解除するように構成されているものとすることもできる。
【0021】
そうすれば、シートのロックは、シートバックの回動動作を利用して解除することができるので、ロックを解除するための駆動源が不要になって、同じようなタイミングで作動するリトラクタにも余計な負担をかけずに済む。
【0022】
更に具体的には、上記作動機構は、一端が開口する筒状のシリンダと、このシリンダ内にその筒軸上を往復変位可能に設けられたピストンと、このピストンを上記開口側に付勢する付勢部材と、上記ピストンによって区画形成されるシリンダ室に連通する開口部と、この開口部を開閉する蓋部材と、を有し、上記オットマンは、上記ピストンの上記開口側の一側に連結されている構成とするのが好ましい。
【0023】
この構成によれば、蓋部材が閉じた状態では、シリンダ室は密閉状態となるため、付勢部材の付勢力にシリンダ室内部の空気圧が抗して釣り合って、ピストンが所定の位置に保持されるので、オットマンを任意の使用状態に保持することができる。そして、蓋部材を開けると、シリンダ室が開放されて空気圧の規制がなくなるため、オットマンはピストンとともに付勢部材の付勢力で押し出され、かつ往復変位可能になる。
【0024】
また、この構成によれば、比較的簡単な構造で済むし、モータ等の駆動力も不要な利点がある。
【0025】
そして、この場合、上記リトラクタはこれを駆動するモータを有し、上記蓋部材は、閉じ方向に付勢されていて、上記連結機構は、上記モータの回転に連動して上記蓋部材を開くように構成されているものとしておけばよい。
【0026】
そうすれば、シートベルト装置が有するモータの回転を利用して、蓋部材を開けてシリンダ室を開放させることができるため、別途駆動源を設けることもなしに、オットマンを自動的に切り替えることができるようになる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明のオットマンを備えた車両用シート装置によれば、既存のシートベルト装置をうまく活用することで、別途組み込む部材点数を抑制することができる。そして、車両衝突時には、オットマンに載置された脚部への衝撃を低減することができ、また、オットマンが使用状態にあっても、簡単な操作で乗降スペースを確保できる。従って、車両のコストや性能を大きく犠牲にすることもなく実用化できるし、乗員は気兼ねせずに安心してオットマンを使用することができ、乗車中、快適に過すことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の車両用シート装置を適用した車両(自動車)の要部を示している。この車両の車室のフロア1(車体フロア)上には、車両前側から順に、第1シートS1(運転席シート又は助手席シート)、第2シートS2(前側後席シート)、第3シートS3(後側後席シート)が設置されている。車両の左側側部には、第1シートS1の車両左側側方において、第1シートS1に着座する乗員の乗降用の前側開口部2が形成され、第2シートS2の車両左側側方において、第2シートS2及び第3シートS3に着座する乗員の乗降用の後側開口部3が形成されている。この後側開口部3の後方には、後輪4を収容するリヤホイールハウス5が車室内に膨出して設けられている。
【0030】
第1シートS1は、フロア1に対して前後方向にスライドして位置調整可能に設けられたシートクッション6と、このシートクッション6に対してシート前後方向(車両前後方向)に角度(リクライニング)調整可能に支持されたシートバック7と、このシートバック7の上端部に配設されたヘッドレスト8と、シートクッション6の下側ないしシートバック7の下端部を左右両側側方からそれぞれ覆うカバー部材9とを有している。
【0031】
第3シートS3は、第1シートS1及び第2シートS2の設置部分よりも高くされたフロア1上に固定されたシートクッションやこのシートクッションと一体に設けられたシートバック、このシートバックの上端部に配設されたヘッドレストとを有している。
【0032】
本実施形態では、第2シートS2に本発明のシート装置が適用されているため、第2シートS2について詳しく説明する。尚、前後や幅等の方向は、特に言及しない限り、この車両やシートの前後や幅等の方向を示すものとする。
<シート装置の構成>
第2シートS2は、図1〜図3に示すように、シートクッション10やシートバック11、ヘッドレスト12、カバー部材13、前後スライド機構30(スライド機構)、横スライド機構50、オットマン装置70、シートベルト装置100などを備えている。
【0033】
具体的には、図2、図3に詳しく示すように、フロア1上に前後方向に設けられた前後スライド機構30と、この前後スライド機構30により前後方向に移動可能に支持されたシート基部15と、このシート基部15上に設けられた横スライド機構50と、この横スライド機構50により幅方向に移動可能に支持されたシートクッション10と、このシートクッション10の後端部に下端部が支持されたシートバック11と、このシートバック11の上端部に配設されたヘッドレスト12と、シートクッション10の下側ないしシートバック11の下端部を左右両側側方からそれぞれ覆うカバー部材13などを有している。
【0034】
{前後スライド機構30}
前後スライド機構30は、フロア1に固定されかつ前後方向に延びる左右一対のロアレール31と、これら一対のロアレール31,31に、前後方向に摺動可能にそれぞれ支持された左右一対のアッパレール32,32とを有している。シート基部15は、各アッパレール32の上面に固定されていて、これらと共に前後方向に移動する。尚、上記ロアレール31及びアッパレール32の断面形状は、図3に示した横スライド機構50におけるロアレール51及びアッパレール52の断面形状とそれぞれ同様である。そして、これらアッパレール32をロアレール31に対して移動不能にして、第2シートS2を所定位置にロックするために、ロック機構40が設けられている。
【0035】
{ロック機構40}
ロック機構40は、図3に示すように、前後方向に延びる左右一対のロック部材41,41を有し、このロック部材41は、これの前後方向略中央部にて、アッパレール32の側面に幅方向に延びるように設けたロック部材支持軸42に回動可能に支持されている。このロック部材41の前側端部には、下方に突出する複数の突起部43が形成され、ロアレール31の上面には、該複数の突起部43がそれぞれ係合可能な孔部(図示せず)が設けられている。そして、ロック部材41は、不図示のバネにより、図3で反時計回り方向に回動付勢されており、通常は、上記突起部43がロアレール31上面の孔部に係合して、アッパレール32をロアレール31に対して移動不能にロックする。
【0036】
{横スライド機構50}
横スライド機構50は、幅方向に延びる前後一対のロアレール51,51と、これら一対のロアレール51,51に、幅方向に摺動可能にそれぞれ支持された前後一対のアッパレール52,52と、各アッパレール52を各ロアレール51に対して移動不能にそれぞれロックする前後一対の横ロック部材(図示せず)とを有している。
【0037】
各ロアレール51の両端部は、上記左右一対のシート基部15,15の上面にそれぞれ固定されている。また、各アッパレール52の両端部は、シートクッション10内の左右両側の側部にそれぞれ配設された左右一対のシートクッションサイドフレーム16,16の下面にそれぞれ固定されている。これらシートクッションサイドフレーム16,16は、シートクッション10の後寄りの位置で幅方向に延びるクロスメンバ17で一体に固定されている。
【0038】
{シートクッション10、シートバック11}
シートクッションサイドフレーム16の後端部の上部には、図3に示すように、幅方向に延びる回動軸18が設けられ、シートバック11が、この回動軸18回りに前後方向に回動可能に支持されている。このシートバック11内の左右両側の側部には、左右一対のシートバックサイドフレーム19,19がそれぞれ配設されている。
【0039】
車両左側のシートバックサイドフレーム19の下端部には、このシートバックサイドフレーム19と共に回動軸18回りに回動するナックル20が固定されている。このナックル20は、不図示のリクライニング用操作レバーを操作することによって、シートバック11を所定角度に位置決め保持する回動規制状態と、この回動規制状態を解除してシートバック11の回動を許す回動許可状態とに切り変えられるようになっている。
【0040】
そして、このナックル20の回動規制状態は、第3シートS3に乗員が乗降する際に操作されるウォークインレバー21によっても解除されるようになっている。
【0041】
ウォークインレバー21は、シートバック11の上端の車両左側のシートバックサイドフレーム19に回動可能に支持されている。このウォークインレバー21の近傍には、詳細は後述するが、ウォークインレバー21の操作部をシート前側へ押す、つまりウォークインレバー21をオン操作することよってスイッチが入り、オットマン装置70を作動させるオットマンスイッチ74が取り付けられている(図1参照)。
【0042】
このウォークインレバー21と、ナックル20に併設されている解除レバー22とがケーブル23によって互いに接続されている。そして、ウォークインレバー21をオン操作すると、ケーブル23を介して解除レバー22が作動して、ナックル20が回動規制状態から回動許可状態に切り替わり、シートバック11が回動軸18を支点にして図3において反時計回りに回動できるようになる。そして、この回動動作に連動して第2シートS2のロック状態を解除するロック解除機構60が設けられている。
【0043】
{ロック解除機構60}
ロック解除機構60は、図3に詳しく示すように、リンク体61や連結棒62などで構成されている。
【0044】
具体的には、シートバック11の左右両側の下端部、詳しくは、シートバックサイドフレーム19の下端部で回動軸18を除く部分(本実施形態では、シートバック11が回動軸18回りに前側へ回動したときに、前側かつ下側へ移動する部分)に、それぞれ、細長い鋼材からなるリンク体61の上端部が回動自在に取り付けられている。そして、これらリンク体61,61の下端部に、幅方向に延びる断面円形状の連結棒62が連結されている。この連結棒62は、左右両側のロック部材41,41の後側端部の上側に位置しているとともに、前後方向に移動しないように規制されている。
【0045】
{オットマン装置70}
オットマン装置70は、図2、図3に詳しく示すように、オットマン71や作動機構80、リンク機構90などで構成されている。
【0046】
オットマン71は、本実施形態では、第2シートS2に着座している乗員の脚部を載置するために設けられた、前面にパッド等の弾性体を有する板状の部材からなり、作動機構80の作用によってシートクッション10の前側に格納される格納状態と、この格納状態よりも前方に保持される使用状態とに切り替え可能に構成されている。
【0047】
{作動機構80}
作動機構80は、一端が開口する筒状のシリンダ81やこのシリンダ81内に設けられたピストン82、コイルバネ83(付勢部材)などで構成されている。
【0048】
シリンダ81は、その閉じられた他端側がクロスメンバ17に取り付けられていて、その長手方向が前後方向と略一致するように配設されている。尚、本実施形態では、水平に対して前側ほど上側になるように僅かに傾斜させ、車両衝突時におけるオットマン71に対する外力が効率よく作用するように設定されている。
【0049】
ピストン82は、シリンダ81の内周面に摺接する弁体82aと、この弁体82aと一体に設けられた軸体82bとを有し、シリンダ81内においてその筒軸上を往復変位可能に設けられている。その軸体82bの先端部は、シリンダ81の前側に位置する開口から突出している。
【0050】
一方、ピストン82によってシリンダ81の他端側に区画形成される気密状のシリンダ室84内には、コイルバネ83が配設されている。コイルバネ83の一端は弁体82aに連結されていて、ピストン82はこのコイルバネ83によって常時開口側に押し出し付勢されている。
【0051】
また、シリンダ81の他端側の周壁には、シリンダ室84に連通する開口部85が開口しており、この開口部85の前側の近傍には、閉じ方向に付勢された蓋部材86が揺動自在に軸支されていて、この蓋部材86を開けることで、開口部85を介して密閉されたシリンダ室84が開放されるようになっている。
【0052】
そして、オットマン71を手動操作で切り替えられるように、この蓋部材86の揺動先端側には、オットマンレバー72に連結された第1ワイヤ73の一端が連結されている。
【0053】
オットマンレバー72は、やや細長い部材からなり、その長手方向の一端がシートクッションサイドフレーム16に回動自在に軸支され、常態では上下方向に延びるように位置していて、前側に回動操作してもその位置に戻るように付勢されている。そして、その他端側に第1ワイヤ73が連結されていて、オットマンレバー72を前側に回動操作することで、常態では閉じている蓋部材86を開けることができるようになっている。
【0054】
尚、蓋部材86には掛止部(図示せず)が設けられていて、閉じた状態では、シリンダ室84の内圧が多少高くても開かないが、外側から引っ張れば比較的小さな力で開くことができるようになっている。
【0055】
{リンク機構90}
リンク機構90は、作動機構80の動作をオットマン71に伝動するために、オットマン71と作動機構80との間に設けられていて、第1から第4のリンク部材91,92,93,94で構成されている。
【0056】
具体的には、図3に詳しく示すように、上下方向に延びかつ上端部にて、シートクッションサイドフレーム16に設けられた第1支持軸95に回動可能に支持された第1リンク部材91と、一端部が第1リンク部材91の下端部に回動可能に連結され、他端部がオットマン71の上端部に回動可能に連結された第2リンク部材92と、第1リンク部材91よりも前側において上下方向に延び、上端部にて、シートクッションサイドフレーム16に設けられた第2支持軸96に回動可能に支持された第3リンク部材93と、一端部が第3リンク部材93の下端部に回動可能に連結され、他端部がオットマン71の上下方向中央部に回動可能に連結された第4リンク部材94とで構成されている。そして、第1リンク部材91の上下方向中央部に、ピストン82の軸体82bの先端部が連結部97を介して回動可能に連結されている。
【0057】
図3に示すように、格納状態のオットマン71は、シートクッション10の前端面に略沿って上下方向に延びた状態にある。このとき、シリンダ81内のコイルバネ83は強く圧縮されているが、蓋部材86が閉じてシリンダ室84が密閉された状態にあるため、シリンダ81内の空気圧とのバランスによってその状態が保持されるようになっている。
【0058】
{シートベルト装置100}
シートベルト装置100は、乗員を拘束するためのウェビング101やリトラクタ102、モータ103、遠心クラッチ104などで構成されている。
【0059】
具体的には、図2に示すように、シートベルト装置100は、ウェビング101の一方の端部を出し入れ可能に巻き取っているリトラクタ102と、このリトラクタ102を回転駆動するモータ103と、リトラクタ102とモータ103との間に介在してモータ103の回転をリトラクタ102に伝動する遠心クラッチ104とを有し、これら各部材はモータ103の回転軸方向に並ぶように一体に組み付けられていて、シートクッション10の内部にその回転軸方向が幅方向と略平行になるように配設されている。
【0060】
リトラクタ102から引き出されたウェビング101は、後方に延び、シートクッション10の後端部において、幅方向に延びるように設けられた丸棒状のガイド24に案内されてシートバック11の内部を上方に延び、シートバック11の上端におけるヘッドレスト12の側方に設けられた開口105(図2参照)から引き出されている。そして、シートバック11から引き出されたウェビング101の他端は、シートクッション10の側部に固定された不図示のアンカに着脱自在に取り付けられるようになっている。
【0061】
そして、このシートベルト装置100には、車両の衝突時に、あるいは衝突を予測した時に、リトラクタ102によってウェビング101を強制的に巻き取るプリテンショナ機構が備えられている。特に本実施形態のプリテンショナ機構には、車両の衝突時を予測して、事前にモータ103でウェビング101を一時的にリトラクタ102に巻き取るモータプリテンショナ機構が含まれている。
【0062】
このモータプリテンショナ機構は、車両に別途装備されたモータ制御装置110(図1に示す)によって制御されていて、そのモータ制御装置110が車両の所定状態、例えば、走行中に車両前方の障害物が不可避になるなど車両の衝突が予測されたときや、車両の衝突を検出したときに作動するようになっている。
【0063】
{モータ制御装置110}
モータ制御装置110は、不図示の記憶装置やCPUなどを有し、各種プログラムが実装されていて、例えば、車両の衝突を検出するために装備されたセンサ111からの信号を受信して演算処理し、モータ103を制御する。
【0064】
センサ111は、例えば車両の前方に設置された距離センサなどであり、走行中にはこのセンサ111からデータ信号が絶えず発信されている。
【0065】
モータ制御装置110は、例えばシートクッション10に内蔵されていて、センサ111からのデータ信号を受信して車両が障害物に衝突するか否かを計測し、衝突を予測する機能(衝突予測手段)や、その予測に基づいてモータ103を駆動制御する機能をそなえている。また、オットマンスイッチ74の入力信号に基づいてモータ103を駆動制御する機能も備えている。
【0066】
{連結機構120}
シートベルト装置100とオットマン装置70とは、連結機構120を介して連結されており、シートベルト装置100でオットマン装置70が作動するように工夫されている。連結機構120は、図2、図3に示すように、プーリ121や第2ワイヤ122などで構成されている。
【0067】
すなわち、シートベルト装置100は、幅方向においてモータ103がリトラクタ102とオットマン装置70の作動機構80との間に位置するように配置され、作動機構80側に突出するモータ103の回転軸にプーリ121が固定されている。そして、このプーリ121に第2ワイヤ122の一端が連結されていて、その他端は作動機構80の蓋部材86の揺動先端側に連結されている。
【0068】
<シート装置の作動>
次に、上記構成のシート装置の動きについて、図4〜図7を参照しながら、オットマン71を手動で操作したとき、車両の衝突が予測される状態を検出したとき、乗員の乗降時にウォークインレバー21を操作したときに分けて説明する。
【0069】
{手動操作時}
オットマン71を手動で操作するときには、図4に示すように、乗員が手でオットマンレバー72を前側へ回動操作する。そうすると、蓋部材86が第1ワイヤ73を介して引っ張られ、開口部85が開いてシリンダ室84が開放されるため、コイルバネ83が作動してピストン82が前方に押し出される。それに伴いリンク機構90の第1及び第3リンク部材91,93が、それぞれ第1、第2支持軸95,96の回りに図3で時計回り方向に回動し、オットマン71は、最も前方に変位して下側ほど前側になるように傾斜した使用状態となる。
【0070】
そして、オットマンレバー72から手を離せば蓋部材86が閉じてシリンダ室84は再度密閉状態となり、コイルバネ83の付勢力にシリンダ室84内の空気圧が抗するようになるため、オットマン71はその最大前出位置で保持され、乗員が脚部を載置しても支障なく支持することができるようになる。
【0071】
また、オットマン71がこのような最大前出位置に至る前に、オットマンレバー72から手を離せば、オットマン71は、その前出位置で保持されるため任意の前出位置で使用することもできる。
【0072】
更に、使用状態のオットマン71を格納する場合には、オットマンレバー72を回動操作してシリンダ室84を開放すれば、空気圧の規制が解かれて、オットマン71は前後方向に変位可能となるため、コイルバネ83に抗して後側に押し込めばオットマン71を格納状態に戻すことができる。
【0073】
{車両衝突予測時}
車両の衝突が予測された場合や車両の衝突が検出されたときには、図5に示すように、シートベルト装置100が作動し、その動作に連動して使用状態にあるオットマン71は、その保持状態が解除され、格納状態に変位可能となる。
【0074】
具体的には、まず、図6の流れ図に示すように、モータ制御装置110にはセンサ111から連続的にデータ信号が入力されている(ステップA1)。そして、モータ制御装置110は、そのデータ信号に基づいて車両の衝突を予測し、例えば1.6sec後に車両が衝突すると判断すると(ステップA2でYES)、遠心クラッチ104をモータ103に接続して、モータ103を所定時間(例えば3〜10sec)駆動させる(ステップA3)。
【0075】
そうすると、ウェビング101はリトラクタ102によって一時的に所定量(例えば5〜30cm)だけ比較的小さなトルクで巻き取られる(モータプリテンショナ機構)。モータ103の回転が停止した後は、モータ103と遠心クラッチ104との接続を解除して元の状態に戻してもよいし、数sec間だけ回転トルクを保持するようにしてもよい。
【0076】
その後、車両が衝突すれば、ウェビング101はプリテンショナ機構によって比較的大きなトルクで強制的に巻き取られることとなる。
【0077】
そして、このモータプリテンショナ機構の動作に連動して、連結機構120も作動する。
【0078】
すなわち、モータ103の軸に固定されたプーリ121が回転し、蓋部材86が第2ワイヤ122を介して引っ張られ、開口部85が開いてシリンダ室84が開放される。そうすると、オットマン71は前後方向に変位可能となるため、オットマン71に載置した乗員の脚部に外力が加われば、オットマン71は簡単に格納状態に変位する。従って、車両の衝突時には、オットマン71に載置された脚部への衝撃を大幅に低減することができる。
【0079】
{乗員の乗降時}
第3シートS3を利用するため、後側開口部3から乗降するような場合に乗員がウォークインレバー21をオン操作すると、まず、ナックル20が回動規制状態から回動許可状態に切り替わる。そして、図7に示すように、シートバック11が前傾すると、リンク体61は下側へ変位し、ロック部材41の後側端部は連結棒62によって押し下げられ、ロック部材41はロック部材支持軸42回りに図3で時計回り方向に回動する。その結果、ロック部材41の突起部43がロアレール31上面の孔部から外れてロックが解除され、第2シートS2のスライドが可能となる。
【0080】
また、このとき、オットマンスイッチ74のスイッチが入り(図6においてステップA4のYES)、先の車両衝突予測時と同様に、遠心クラッチ104やモータ103が作動する(ステップA3)。そうすると、オットマン71は前後方向に変位可能となるため、第2シートS2を前側へスライドして、オットマン71が第1シートS1の後面に当接すればその勢いで簡単にオットマン71が押し込まれ、第2シートS2のシートバック11の後面と後側開口部3の後縁(リヤホイールハウス5)との間に乗降スペースを形成することができ、オットマン71が邪魔になることがない。
【0081】
以上、説明したように、本発明のシート装置によれば、シートベルト装置100をうまく活用することで、別途複雑な機構を設けることもなしに、車両衝突時等には、オットマン71に載置された脚部への衝撃を低減することができ、また、乗員の乗降時には、オットマン71が使用状態にあっても邪魔にならずに、簡単な操作で乗降し易いスペースを確保できるようになる。
【0082】
なお、本発明にかかる車両用シート装置は、前記の実施の形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0083】
例えば、図8に示すように、ウォークインレバー21をオン操作して第2シートS2のロック状態が解除されたときに、第2シートS2が自動的に前方にスライドするようにすることもできる。
【0084】
具体的には、前後スライド機構30に、アッパーレール32を前方に付勢するスプリング等の付勢手段33を設ければよい。そうすれば、ロック解除機構60が作動して、第2シートS2がフロア1に対して前後方向にスライド可能となれば、付勢手段33の作用でより小さな力で第2シートS2を前側にスライドすることができるため、更に操作性を向上させることができる。
【0085】
その場合、付勢手段33の付勢力を、少なくもオットマン装置のコイルバネ83の付勢力よりも強く設定すれば、自動的に第2シートS2をスライドさせることができ、より効果的である。
【0086】
また、上記実施形態以外にも、オットマン71を使用状態から格納状態までの前後の複数位置で位置決め可能に保持するラチェット機構を備えたシートに対しても応用できる。
【0087】
すなわち、モータ103の作動によってそのラチェットの係合を解除するようにすれば、オットマン71は前後に変位可能となるため、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0088】
その場合、更にモータ103の駆動力を利用して、オットマン71が強制的に格納状態側に変位するようにすれば更にいっそう効果的である。
【0089】
その他、上記実施形態では、リトラクタ102等を第2シートS2に装備したが、第2シートS2近傍の車体フレームに取り付け、そこからウェビング101を第2シートS2内に導くようにしてあってもよい。
【0090】
上記実施形態では、3列シートの第2シートS2に本発明を適用したが、複数列シートにおいて後側の乗員の乗降用にスライドさせるシートであれば、本発明を好適に採用することができる。また、本発明は、後側の乗員の乗降用にスライドさせるシート以外に適用しても、簡単な構成で、オットマン71に載置された脚部への衝撃値を低減することができる点で好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の車両用シート装置を適用した車両の要部を示す側面図である。
【図2】2列目のシートの要部を示す平面図である。
【図3】図2における要部を示すX−X線断面図である。
【図4】手動操作時のオットマンの動きを説明するための図である。尚、この図は図2におけるX−X線断面図に相当している。
【図5】衝突予測時のオットマンの動きを説明するための図である。尚、この図は図2におけるX−X線断面図に相当している。
【図6】モータ制御装置の主な制御の流れを示す流れ図である。
【図7】乗員の乗降時のオットマンの動きを説明するための図である。尚、この図は図2におけるX−X線断面図に相当している。
【図8】別実施形態を示す図である。尚、この図は図2におけるX−X線断面図に相当している。
【符号の説明】
【0092】
3 後側開口部
10 シートクッション
11 シートバック
12 ヘッドレスト
13 カバー部材
15 シート基部
16 シートクッションサイドフレーム
17 クロスメンバ
18 回動軸
19 シートバックサイドフレーム
20 ナックル
21 ウォークインレバー
22 解除レバー
23 ケーブル
24 ガイド
30 前後スライド機構(スライド機構)
40 ロック機構
41 ロック部材
50 横スライド機構
60 ロック解除機構
61 リンク体
62 連結棒
70 オットマン装置
71 オットマン
72 オットマンレバー
73 第1ワイヤ
74 オットマンスイッチ
80 作動機構
81 シリンダ
82 ピストン
83 コイルバネ(付勢部材)
84 シリンダ室
85 開口部
86 蓋部材
90 リンク機構
91 第1リンク部材
92 第2リンク部材
93 第3リンク部材
94 第4リンク部材
100 シートベルト装置
101 ウェビング
102 リトラクタ
103 モータ
104 遠心クラッチ
110 モータ制御装置
111 センサ
120 連結機構
121 プーリ
122 第2ワイヤ
S1 第1シート
S2 第2シート(シート)
S3 第3シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座する乗員に対し、その脚部を支持するオットマン装置と、その胴部を支持するシートベルト装置とを備えた車両用シート装置であって、
上記オットマン装置は、乗員の脚部を載置するためのオットマンと、このオットマンを、上記シートのシートクッションの前側に格納する格納状態と、この格納状態よりも前方に保持する使用状態と、に切り替える作動機構と、を有し、
上記シートベルト装置は、乗員の胴部を拘束するためのウェビングと、このウェビングを出し入れ可能に巻き取るリトラクタと、を有し、
上記リトラクタと上記作動機構とは、連結機構を介して連結可能に構成されていて、
車両の所定状態が検出され、上記リトラクタが作動して上記ウェビングを一時的に巻き取るときに、この動作に連動して、使用状態にある上記オットマンが格納状態に切り替わり可能になることを特徴とするオットマンを備えた車両用シート装置。
【請求項2】
請求項1に記載のオットマンを備えた車両用シート装置であって、
車両の衝突を検出するためのセンサと、このセンサからの信号に基づいて車両の衝突を予測する衝突予測手段と、を備えており、
上記車両の所定状態が、上記衝突予測手段によって車両の衝突が予測された状態を含むことを特徴とするオットマンを備えた車両用シート装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のオットマンを備えた車両用シート装置であって、
上記シートを前後方向にスライド可能とするスライド機構と、上記シートを所定位置にロックするロック機構と、乗員の要求に応じて上記シートのロック状態を解除するロック解除機構と、を備え、
上記車両の所定状態が、上記ロック解除機構によって上記シートのロックが解除された状態を含むことを特徴とするオットマンを備えた車両用シート装置。
【請求項4】
請求項3に記載のオットマンを備えた車両用シート装置であって、
上記シートは、そのシートクッションの後端部に前後方向に回動可能に支持されたシートバックを有し、
上記ロック解除機構が、上記シートバックの回動に連動して上記シートのロックを解除するように構成されていることを特徴とするオットマンを備えた車両用シート装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一つに記載のオットマンを備えた車両用シート装置であって、
上記作動機構は、一端が開口する筒状のシリンダと、このシリンダ内にその筒軸上を往復変位可能に設けられたピストンと、このピストンを上記開口側に付勢する付勢部材と、上記ピストンによって区画形成されるシリンダ室に連通する開口部と、この開口部を開閉する蓋部材と、を有し、
上記オットマンは、上記ピストンの上記開口側の一側に連結されていることを特徴とするオットマンを備えた車両用シート装置。
【請求項6】
請求項5に記載のオットマンを備えた車両用シート装置であって、
上記リトラクタはこれを駆動するモータを有し、
上記蓋部材は、閉じ方向に付勢されていて、
上記連結機構は、上記モータの回転に連動して上記蓋部材を開くように構成されていることを特徴とするオットマンを備えた車両用シート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−35970(P2010−35970A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205259(P2008−205259)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】