説明

カム、スプロケットおよびエンジン

【課題】 爆発2次の音を強調させることができるカム、スプロケットおよびエンジンを提供する。
【解決手段】 本発明に係るカム(90)は、n本の気筒を有するエンジンのバルブ駆動用に用いられ、ベース部(91)と、ベース部から突出するノーズ部(92)と、を有するカムであって、ベース部は、平面部(93)を2n個有する略正多角形状に形成されていることを特徴とするものである。本発明に係るカムによれば、回転n次の音を強調させることができることから、爆発2次の音を強調させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカム、スプロケット、およびエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用のエンジンの音色を改善する要求が高くなってきている。そこで、近年では、エンジンの音色を変更可能な技術が開発されてきている。例えば特許文献1には、エンジンのエアダクト内の吸気通路に、吸気流速変動を受けて吸気流速変動の2分の1の周期で振動する加振体を設けたことを特徴とするエンジンのエアダクト構造が開示されている。この技術によれば、加振体が吸気流速変動の2分の1の周期で振動する。それにより、エアダクトを流れる吸気は、吸気流速変動の2分の1の周期で加振される。その結果、エアダクト内に吸気流速変動の2分の1の周期の圧力変動が生じることから、吸気音の2次成分(倍音)、つまり爆発2次の音を強調させることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2006−161725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、車両用のエンジンにおいては、カムとバルブリフタとの強制力(接触時に生じる力)、タイミングチェーンとクランクスプロケットとの強制力等、によって、エンジンの爆発1次の音が発せられる。ここで、爆発n次の音とは、エンジンが爆発する周期のn倍の周波数を有する音をいう(nは自然数である)。車両の運転者は、爆発1次の音を騒音として感じることが多い。一方、運転者は爆発2次の音を軽快感のある音として感じることが多い。
【0005】
本発明は、爆発2次の音を強調させることができるカム、スプロケットおよびエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るカムは、n本の気筒を有するエンジンのバルブ駆動用に用いられ、ベース部と、ベース部から突出するノーズ部と、を有するカムであって、ベース部は、平面部を2n個有する略正多角形状に形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
本発明に係るカムによれば、カムのベース部は、平面部を2n個有する略正多角形状に形成されている。ここで、例えば4気筒エンジンの場合、1サイクル(クランクシャフト2回転)当たり、4回の爆発が生じる。したがって、クランクシャフト1回転当たり、2回の爆発が生じる。つまり、4気筒エンジンの場合、爆発1次の音は、回転2次の音である。したがって、4気筒エンジンの場合、爆発2次の音は、回転2次の2倍である回転4次の音である。同様に、6気筒エンジンの場合、爆発2次の音は、回転6次の音である。8気筒エンジンの場合、爆発2次の音は、回転8次の音である。つまり、n本の気筒を有するエンジンの場合、爆発2次の音は、回転n次の音である。また、1サイクル当たり、カムは1回転する。したがって、本発明に係るカムをエンジンに用いた場合には、カムとカムに接触するカム動力伝達部(例えば、バルブリフタ)との間には、爆発1回あたり「n回の強制力」が発生する。それにより、回転n次の音を強調させることができることから、爆発2次の音を強調させることができる。
【0008】
本発明に係るエンジンは、n本の気筒を有するエンジンであって、各々の気筒の吸気および排気ポートにそれぞれ配置されたバルブと、請求項1記載のカムと、カムに接触しながらカムからバルブへ動力を伝達させるカム動力伝達部と、を備えることを特徴とするものである。本発明に係るエンジンによれば、エンジンは、請求項1記載のカムを備えている。それにより、カムとカム動力伝達部(例えば、バルブリフタ)との間には、爆発1回あたり「n回の強制力」が発生する。それにより、回転n次の音を強調させることができることから、爆発2次の音を強調させることができる。また、本発明に係るエンジンによれば、エンジンの停止時においてカムの停止位置が安定する。その結果、エンジンの停止時において、ピストンの位置が安定する。それにより、エンジンの停止時におけるピストン位置のばらつきが抑制されることから、エンジンの始動性を向上させることができる。
【0009】
本発明に係るスプロケットは、n本の気筒を有するエンジンに用いられ、ローラチェーンと噛み合う歯を外周に複数有するスプロケットであって、複数の歯は、ローラチェーンに噛み合い始める部位である噛み合い開始部位とスプロケットの回転中心とを結ぶ噛み合い−中心線の長さが相異なりかつ隣接する第1歯および第2歯を含み、第1歯は、第2歯よりも噛み合い−中心線の長さが長くかつ複数の歯の中にn個設けられていることを特徴とするものである。本発明に係るスプロケットによれば、第1歯が、スプロケットの複数の歯の中にn個配置されている。それにより、本発明に係るスプロケットをn本の気筒を有するエンジンのクランクスプロケットとして用いた場合には、クランクシャフト1回転当たり、ローラチェーンにn回の張力変動が生じる。その結果、クランクシャフト1回転当たり、クランクスプロケットとローラチェーンとの間にn回の強制力が発生することから、回転n次の音を強調させることができる。したがって、本発明に係るスプロケットによれば、爆発2次の音を強調させることができる。
【0010】
上記構成において、隣り合う第1歯の噛み合い開始部位同士を結んだ線分を一辺とする仮想輪郭線の形状は、略正n角形であってもよい。この構成によれば、この構成のスプロケットをエンジンに用いた場合に、エンジンの回転数が一定の場合には、爆発2次の音の周波数は一定となる。その結果、一定の周波数を有する爆発2次の音を強調させることができる。上記構成において、隣り合う第1歯の噛み合い開始部位同士を結んだ線分を一辺とする仮想輪郭線の形状は、噛み合い−中心線の長さの長い頂点と噛み合い−中心線の長さの短い頂点とがスプロケットの回転方向に対して交互に配置されたn角形であってもよい。
【0011】
本発明に係るエンジンは、n本の気筒を有するエンジンであって、エンジンのクランクシャフトに接続されたクランクスプロケットと、クランクスプロケットに巻き掛けられたローラチェーンと、を備え、クランクスプロケットは、請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載のスプロケットであることを特徴とするものである。本発明に係るエンジンによれば、クランクスプロケットは請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載のスプロケットである。それにより、クランクシャフト1回転当たり、クランクスプロケットとローラチェーンとの間にn回の強制力が発生することから、回転n次の音を強調させることができる。したがって、本発明に係るエンジンによれば、爆発2次の音を強調させることができる。
【0012】
上記構成において、第1および第2バンクと、第1および第2バンクに対応してそれぞれ設けられた複数のバルブと、バルブを駆動させるカムを回転させるカムスプロケットと、を備え、クランクスプロケットは、請求項5記載のスプロケットであり、ローラチェーンは、カムスプロケットに巻き掛けられて第1バンク側から第2バンク側へと走行し、噛み合い−中心線の長さの短い頂点に相当する歯は、第1バンクに設けられた駆動中のバルブのリフト量が第2バンクに設けられた駆動中のバルブのリフト量よりも大きくなる期間内において、ローラチェーンに噛み合ってもよい。
【0013】
ここで、第1バンクに設けられた駆動中のバルブのリフト量が第2バンクに設けられた駆動中のバルブのリフト量よりも大きくなる期間内において、ローラチェーンの張力はより大きくなる。つまり、この構成によれば、ローラチェーンの張力がより大きくなる期間内において、噛み合い−中心線の長さの短い頂点に相当する歯がローラチェーンに噛み合う。それにより、ローラチェーンの張力変動が抑制されることから、ローラチェーンの信頼性を向上させることができる。
【0014】
本発明に係るエンジンは、n本の気筒を有するエンジンであって、エンジンのクランクシャフトにクランクシャフトと同じ周期で回転するように接続され、かつn個の平面部からなる外周面を有する回転体と、外周面に接触する接触部と、接触部を外周面に向けて付勢する付勢手段と、を備えることを特徴とするものである。本発明に係るエンジンによれば、エンジンは回転体と接触部と付勢手段とを有する。それにより、クランクシャフト1回転当たり、回転体と接触部との間にn回の強制力が発生することから、回転n次の音を強調させることができる。したがって、本発明に係るエンジンによれば、爆発2次の音を強調させることができる。
【0015】
上記構成において、回転体の輪郭形状は、略正n角形であってもよい。この構成によれば、エンジンの回転数が一定の場合には、爆発2次の音の周波数は一定となる。その結果、一定の周波数を有する爆発2次の音を強調させることができる。
【0016】
上記構成において、クランクシャフトに接続されたクランクスプロケットに巻き掛けられたローラチェーンに対して、ローラチェーンの走行軌道の外側から張力を与えるアクチュエータと、アクチュエータを駆動させるポンプと、を有するチェーンテンショナをさらに備え、ポンプは、アクチュエータに連通されたシリンダと、シリンダの内側に配置され、シリンダの内壁面に沿って往復運動するピストンと、シリンダの内側に配置され、ピストンのシリンダの側と反対側の端面が回転体の外周面に接触するように、ピストンを回転体の外周面に向けて付勢するスプリングと、を有し、接触部は、ピストンであり、付勢手段は、スプリングであってもよい。この構成によれば、ピストンと回転体との間の強制力と同じ周期の強制力を、チェーンテンショナからローラチェーンに対して与えることができる。それにより、爆発2次の音を強調させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、爆発2次の音を強調させることができるカム、スプロケットおよびエンジンを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1に係るエンジン300について説明する。図1は、本発明の実施例1に係るエンジン300の模式図である。エンジン300はn本の気筒を有するエンジンである。本実施例においては、6本の気筒を有するV型のエンジン(V6エンジン)をエンジン300の一例として説明する。
【0020】
エンジン300は、右バンク11(図1において向かって左側)と、左バンク12(図1において向かって右側)と、を有している。本実施例においては、エンジン300は、右バンク11および左バンク12にそれぞれ3つの気筒を有している。各気筒には、それぞれピストン(図示せず)が配置されている。各ピストンは、それぞれコンロッド(図示せず)によってクランクシャフト20に連結されている。各ピストンの往復運動は、コンロッドを介してクランクシャフト20の回転運動に変換される。
【0021】
クランクシャフト20の一端には、クランクスプロケット22が接続されている。クランクスプロケット22は、周知のスプロケットを用いることができる。具体的には、クランクスプロケット22は、ローラチェーンに噛み合う歯が外周に一定のピッチで配置された周知のスプロケットを用いることができる。クランクスプロケット22の歯数は、特に限定されない。本実施例においては、クランクスプロケットの歯数は18である。
【0022】
右バンク11の各気筒は、図示しない各ポート(吸気ポートおよび排気ポート)を有している。右バンク11の各気筒の吸気ポートには、右バンク吸気バルブ(図示せず)が配置されている。右バンク11の各気筒の排気ポートには、右バンク排気バルブ(図示せず)が配置されている。そして、右バンク11には、右バンク吸気バルブを開閉駆動させるための右バンク吸気カム(図示せず)と、右バンク吸気カムを回転させる右バンク吸気カムシャフト30と、が配置されている。また、右バンク11には、右バンク排気バルブを開閉駆動させるための右バンク排気カム(図示せず)と、右バンク排気カムを回転させる右バンク排気カムシャフト33と、が配置されている。これらのカムおよびカムシャフトについての詳細は後述する。
【0023】
左バンク12の各気筒は、吸気ポート(図示せず)と排気ポート(図示せず)とを有している。左バンク12の各気筒の吸気ポートには、左バンク吸気バルブ(図示せず)が配置されている。左バンク12の各気筒の排気ポートには、左バンク排気バルブ(図示せず)が配置されている。そして、左バンク12には、左バンク吸気バルブを開閉駆動させるための左バンク吸気カム(図示せず)と、左バンク吸気カムを回転させる左バンク吸気カムシャフト40と、が配置されている。また、左バンク12には、左バンク排気バルブを開閉駆動させるための左バンク排気カム(図示せず)と、左バンク排気カムを回転させる左バンク排気カムシャフト43と、が配置されている。
【0024】
右バンク吸気カムシャフト30には、第1右バンク吸気カムスプロケット31と、第2右バンク吸気カムスプロケット32と、が接続されている。第1右バンク吸気カムスプロケット31および第2右バンク吸気カムスプロケット32は、それぞれ、右バンク吸気カムシャフト30と同じ周期で回転する。第1右バンク吸気カムスプロケット31および第2右バンク吸気カムスプロケット32は、ローラチェーンと噛み合う歯が外周に一定のピッチで配置された周知のスプロケットを用いることができる。第2右バンク吸気カムスプロケット32の歯数は、第1右バンク吸気カムスプロケット31の歯数の2倍である。本実施例においては、第2右バンク吸気カムスプロケット32の歯数は36であり、第1右バンク吸気カムスプロケット31の歯数は18である。
【0025】
右バンク排気カムシャフト33には、右バンク排気カムスプロケット34が接続されている。右バンク排気カムスプロケット34は、右バンク排気カムシャフト33と同じ周期で回転する。右バンク排気カムスプロケット34は、ローラチェーンと噛み合う歯が外周に一定のピッチで配置された周知のスプロケットを用いることができる。右バンク排気カムスプロケット34の歯数は、第1右バンク吸気カムスプロケット31の歯数と同じである。本実施例においては、右バンク排気カムスプロケット34の歯数は、18である。
【0026】
左バンク吸気カムシャフト40には、第1左バンク吸気カムスプロケット41と、第2左バンク吸気カムスプロケット42と、が接続されている。第1左バンク吸気カムスプロケット41および第2左バンク吸気カムスプロケット42は、それぞれ、左バンク吸気カムシャフト40と同じ周期で回転する。第1左バンク吸気カムスプロケット41および第2左バンク吸気カムスプロケット42は、ローラチェーンと噛み合う歯が外周に一定のピッチで配置された周知のスプロケットを用いることができる。第2左バンク吸気カムスプロケット42の歯数は、第1左バンク吸気カムスプロケット41の歯数の2倍である。本実施例においては、第2左バンク吸気カムスプロケット42の歯数は36であり、第1左バンク吸気カムスプロケット41の歯数は18である。
【0027】
左バンク排気カムシャフト43には、左バンク排気カムスプロケット44が接続されている。左バンク排気カムスプロケット44は、左バンク排気カムシャフト43と同じ周期で回転する。左バンク排気カムスプロケット44は、ローラチェーンと噛み合う歯が外周に一定のピッチで配置された周知のスプロケットを用いることができる。左バンク排気カムスプロケット44の歯数は、第1左バンク吸気カムスプロケット41の歯数と同じである。本実施例においては、左バンク排気カムスプロケット44の歯数は、18である。
【0028】
右バンク11と左バンク12との間には、アイドラスプロケット50が配置されている。具体的には、アイドラスプロケット50は、後述するタイミングチェーン60の走行軌道の外側からタイミングチェーン60に噛み合うように、右バンク11と左バンク12との間に配置されている。アイドラスプロケット50は、タイミングチェーン60の走行軌道を規制する機能を有する。アイドラスプロケット50は、クランクスプロケット22と同様の構成を有している。つまり、アイドラスプロケット50は、ローラチェーンと噛み合う歯が外周に一定のピッチで配置された周知のスプロケットを用いることができる。また、アイドラスプロケット50の歯数は、クランクスプロケット22の歯数と同じである。本実施例においては、アイドラスプロケット50の歯数は18である。
【0029】
クランクスプロケット22、第2右バンク吸気カムスプロケット32、アイドラスプロケット50および第2左バンク吸気カムスプロケット42には、タイミングチェーン60が巻き掛けられている。具体的には、タイミングチェーン60は、クランクスプロケット22、第2右バンク吸気カムスプロケット32および第2左バンク吸気カムスプロケット42に、タイミングチェーン60の走行軌道の内側から巻き掛けられている。また、タイミングチェーン60は、アイドラスプロケット50に、タイミングチェーン60の走行軌道の外側から巻き掛けられている。
【0030】
タイミングチェーン60としては、周知のローラチェーンを用いることができる。例えば、タイミングチェーン60としては、複数のリンクが曲折可能に連結されてリング形状をなしたローラチェーンを用いることができる。
【0031】
第1右バンク吸気カムスプロケット31および右バンク排気カムスプロケット34には、右バンク用カムチェーン70が巻き掛けられている。右バンク用カムチェーン70としては、周知のローラチェーンを用いることができる。
【0032】
第1左バンク吸気カムスプロケット41および左バンク排気カムスプロケット44には、左バンク用カムチェーン80が巻き掛けられている。左バンク用カムチェーン80としては、周知のローラチェーンを用いることができる。
【0033】
本実施例に係るエンジン300においては、例えばクランクシャフト20が時計回りに回転すると、クランクスプロケット22も時計回りに回転する。その結果、タイミングチェーン60は、図1の矢印の方向に走行する。タイミングチェーン60が走行すると、第2右バンク吸気カムスプロケット32、アイドラスプロケット50および第2左バンク吸気カムスプロケット42が回転する。
【0034】
第2右バンク吸気カムスプロケット32が回転すると、右バンク吸気カムシャフト30が回転する。右バンク吸気カムシャフト30が回転すると、第1右バンク吸気カムスプロケット31が回転する。第1右バンク吸気カムスプロケット31が回転すると、右バンク用カムチェーン70が走行する。右バンク用カムチェーン70が走行すると、右バンク排気カムスプロケット34が回転する。右バンク排気カムスプロケット34が回転すると、右バンク排気カムシャフト33が回転する。
【0035】
第2左バンク吸気カムスプロケット42が回転すると、左バンク吸気カムシャフト40が回転する。左バンク吸気カムシャフト40が回転すると、第1左バンク吸気カムスプロケット41が回転する。第1左バンク吸気カムスプロケット41が回転すると、左バンク用カムチェーン80が走行する。左バンク用カムチェーン80が走行すると、左バンク排気カムスプロケット44が回転する。左バンク排気カムスプロケット44が回転すると、左バンク排気カムシャフト43が回転する。
【0036】
以上のようにして、クランクシャフト20の動力は、右バンク吸気カムシャフト30、右バンク排気カムシャフト33、左バンク吸気カムシャフト40および左バンク排気カムシャフト43に伝達される。それにより、右バンク11に配置された右バンク吸気バルブおよび右バンク排気バルブ、並びに左バンク12に配置された左バンク吸気バルブおよび左バンク排気バルブが駆動される。つまり、右バンク吸気バルブ、右バンク排気バルブ、左バンク吸気バルブおよび左バンク排気バルブは、それぞれクランクシャフト20の回転力によって駆動される。
【0037】
また、第1右バンク吸気カムスプロケット31および第1左バンク吸気カムスプロケット41の歯数は、クランクスプロケット22の歯数の2倍である。したがって、クランクシャフト20が2回転(720°)することにより、右バンク吸気バルブ、右バンク排気バルブ、左バンク吸気バルブおよび左バンク排気バルブは、それぞれ開閉動作を1回行う。
【0038】
続いて、カムおよびバルブについて説明する。図2は、カム90およびバルブ100の模式図である。カム90は、カムシャフト35に接続されている。なお、カムシャフト35としては、図1に示す右バンク吸気カムシャフト30、右バンク排気カムシャフト33、左バンク吸気カムシャフト40および左バンク排気カムシャフト43のいずれかを用いることができる。また、カム90としては、カムシャフト35が右バンク吸気カムシャフト30の場合には右バンク吸気カム、カムシャフト35が右バンク排気カムシャフト33の場合には右バンク排気カム、カムシャフト35が左バンク吸気カムシャフト40の場合には左バンク吸気カムおよびカムシャフト35が左バンク排気カムシャフト43の場合には左バンク排気カム、を用いることができる。
【0039】
カム90は、カムシャフト35と同じ周期で回転する。つまり、クランクシャフト20の2回転当たり、カム90は1回転する。
【0040】
また、カム90は、ベース部91と、ベース部91から突出するノーズ部92と、を有している。そして、カム90のベース部91は、平面領域を有する平面部93を気筒数(n)の2倍の個数(2n個)有する略正多角形状に形成されている。つまり、それぞれの平面部93のカム90の回転方向の長さは略等しく、また、隣り合う平面部93同士のなす角度は略等しい。例えば、エンジン300が4本の気筒を有するエンジン、例えばL4エンジン(直列4気筒エンジン)の場合には、カム90のベース部91は、平面部93を8個有する略正8角形状に形成されている。エンジン300が6本の気筒を有するエンジン、例えばV6エンジン(V型6気筒エンジン)の場合には、カム90のベース部91は、平面部93を12個有する略正12角形状に形成されている。エンジン300が8本の気筒を有するエンジン、例えばV8エンジン(V型8気筒エンジン)の場合には、カム90のベース部91は、平面部93を16個有する略正16角形状に形成されている。
【0041】
カム90の材質は、特に限定されない。例えば、カム90の材質としては、鋼を用いることができる。また、カム90の製造方法は、特に限定されない。例えば、周知のNC工作機械を用いることによって、カム90を製造することができる。
【0042】
なお、カム90の隣り合う平面部93の接続部位は、鋭角にならないように滑らかに加工されていることが好ましい。隣り合う平面部93の接続部位が滑らかに加工されていることにより、後述するように、カム90とバルブリフタ110との接触時に生じる音、すなわち爆発2次の音が大きくなりすぎることを抑制できるからである。例えば、隣り合う平面部93の接続部位は数μm程度の半径のRに加工されていればよい。
【0043】
バルブ100は、吸気ポート(図示せず)および排気ポート(図示せず)にそれぞれ配置されている。例えば、カムシャフト35が右バンク吸気カムシャフト30の場合には、バルブ100は右バンク吸気バルブである。カムシャフト35が右バンク排気カムシャフト33の場合には、バルブ100は右バンク排気バルブである。カムシャフト35が左バンク吸気カムシャフト40の場合には、バルブ100は左バンク吸気バルブである。カムシャフト35が左バンク排気カムシャフト43の場合には、バルブ100は左バンク排気バルブである。
【0044】
バルブ100は、バルブステム102(支持棒)と、バルブステム102の一端に接続されたバルブヘッド104と、を有している。バルブヘッド104は、吸気ポートまたは排気ポートを開閉する機能を有する。
【0045】
カム90とバルブ100との間には、バルブリフタ110と、リテーナ114と、が配置されている。また、リテーナ114とシリンダヘッド14に配置されたスプリング座部15との間には、バルブスプリング116が配置されている。
【0046】
バルブリフタ110は、カム90の外周面に接触しながらカム90からバルブ100へ動力を伝達させるカム動力伝達部としての機能を有する。具体的には、バルブリフタ110は、カム90と接触する接触部112を有し、カム90の回転運動により発生する動力をバルブ100へ伝達する。それにより、バルブ100は直進運動を行う。なお、バルブリフタ110の接触部112の表面形状は、特に限定されない。本実施例においては接触部112の表面形状は、平坦な平面形状である。
【0047】
リテーナ114は、バルブステム102とバルブリフタ110とを接続する機能を有している。バルブスプリング116は、バルブ100を閉弁方向に付勢する機能を有する。つまり、バルブスプリング116は、バルブヘッド104をポートに密着させる(閉弁)機能を有する。また、バルブスプリング116は、バルブリフタ110の接触部112をカム90の外周面に付勢する機能を有する。したがって、カムシャフト35は、バルブ100を閉弁から開弁させる場合には、バルブスプリング116の付勢力に抵抗しながら回転する。つまり、エンジン300において、バルブ100を閉状態から開状態に移行させる場合のカムシャフト35の回転負荷の方が、バルブ100を開状態から閉状態に移行させる場合のカムシャフト35の回転負荷に比較して、大きくなる。特に、バルブ100の開方向のリフト量が最大となったときに、最もカムシャフト35の回転負荷が大きくなる。
【0048】
ここで、エンジン300の爆発n次の音と回転n次の音について説明する。エンジン300の爆発n次の音とは、爆発の周期のn倍の周波数に相当する音をいう。回転n次の音とは、エンジン300の回転周期のn倍の周波数に相当する音をいう。例えば、4気筒エンジンの場合、1サイクルすなわちクランクシャフト20の2回転当たり、4回の爆発が生じる。したがって、クランクシャフト20の1回転当たり2回の爆発が生じる。つまり、4気筒エンジンの場合、爆発1次の音は回転2次の音である。したがって、4気筒エンジンの場合、爆発2次の音は回転2次の2倍である回転4次の音である。同様に、6気筒エンジンの場合、爆発2次の音は回転6次の音である。8気筒エンジンの場合、爆発2次の音は回転8次の音である。つまり、n本の気筒を有するエンジン300において、爆発2次の音は回転n次の音である。
【0049】
なお、爆発1次の音は、運転者にとって一般に「騒音」として聞こえる。一方、爆発2次の音は、運転者にとっていわゆる「軽快感ある音」として聞こえる。したがって、爆発2次の音は、爆発1次の音に比較して、運転者にとって好ましいと感じられる音である。
【0050】
本実施例に係るエンジン300によれば、図2に示すカム90を備えている。カム90のベース部91は、平面部93を2n個(気筒数nの2倍)有する略正多角形状に形成されている。そして、1サイクルすなわちクランクシャフト20の2回転当たり、カム90は1回転する。したがって、カム90とカム90に接触するカム動力伝達部(例えばバルブリフタ110)との間には、爆発1回あたり2nの2分の1に相当する「n回の強制力」が発生する。それにより、本実施例に係るカム90によれば、回転n次の音を強調させることができることから、爆発2次の音を強調させることができる。その結果、本実施例に係るエンジン300によれば、爆発2次の音を強調させることができる。
【0051】
また、本実施例に係るエンジン300によれば、エンジン300に配置された複数のカム90のうち少なくとも1つのカム90の平面部93はカム動力伝達部(例えばバルブリフタ110)の接触部112と接触した状態で、エンジン300は停止する。この場合、エンジン300の停止時においてカム90の停止位置が安定する。その結果、エンジン300の停止時において、ピストンの位置が安定する。それにより、エンジン300の停止時におけるピストン位置のばらつきが抑制されることから、エンジン300の始動性を向上させることができる。
【実施例2】
【0052】
続いて、本発明の実施例2に係るエンジン300aについて説明する。図3は、本発明の実施例2に係るエンジン300aの模式図である。図3に示すエンジン300aは、図1に示すクランクスプロケット22の代わりにクランクスプロケット22aを備える点において、図1に示すエンジン300と異なる。また、図3に示すエンジン300aは、図2に示すカム90のベース部91に平面図93が形成されていない点、すなわちベース部91が滑らかな曲面構造を有する点において、図1に示すエンジン300と異なる。その他の構成は、図1に示すエンジン300と同じため、説明を省略する。
【0053】
図4は、エンジン300aのクランクスプロケット22aの模式図である。具体的には、図4は、クランクスプロケット22aをクランクシャフト20の端面側から見た模式図である。なお、図4においてクランクスプロケット22aの回転方向は、矢印で図示されている。クランクスプロケット22aは、タイミングチェーン60と噛み合う歯120を外周に複数(18個)有するスプロケットである。また、クランクスプロケット22aは、エンジン300aの気筒数nと同じ略n角形状の基本外形を有している。
【0054】
具体的には、クランクスプロケット22aは、n本(6本)の気筒を有するエンジン300aに用いられ、タイミングチェーン60と噛み合う歯120を複数有するクランクスプロケットである。また、クランクスプロケット22aにおいて、複数の歯120は、各々の歯120のタイミングチェーン60に噛み合い始める部位である噛み合い開始部位とクランクスプロケット22aの回転中心とを結ぶ線である噛み合い−中心線の長さが相異なりかつ隣接する第1歯および第2歯を含んでいる。さらに、クランクスプロケット22aにおいて、第1歯は、第2歯よりも噛み合い−中心線の長さが長くかつ複数の歯120の中にn個(6個)設けられている。
【0055】
なお、図4において、歯121、歯122、歯123、歯124、歯125および歯126が第1歯に相当し、18個の歯120のうち第1歯を除く歯120が、第2歯に相当する。
【0056】
また、クランクスプロケット22aにおいて、第1歯(歯121、歯122、歯123、歯124、歯125および歯126)の噛み合い開始部位同士を結んだ線分を一辺とする仮想輪郭線130の形状は、略正n角形(正6角形)である。歯121の噛み合い−中心線を噛み合い−中心線141とし、歯122の噛み合い−中心線を噛み合い−中心線142とし、歯123の噛み合い−中心線を噛み合い−中心線143とし、歯124の噛み合い−中心線を噛み合い−中心線144とし、歯125の噛み合い−中心線を噛み合い−中心線145とし、歯126の噛み合い−中心線を噛み合い−中心線146とする。また、仮想輪郭線130の各頂点のうち、歯121に相当する頂点を頂点151とし、歯122に相当する頂点を頂点152とし、歯123に相当する頂点を頂点153とし、歯124に相当する頂点を頂点154とし、歯125に相当する頂点を頂点155とし、歯126に相当する頂点を頂点156とする。
【0057】
クランクスプロケット22aの材質は特に限定されない。例えば、クランクスプロケット22aの材質としては、鋼を用いることができる。クランクスプロケット22aの製造方法としては、特に限定されない。例えば、周知のNC工作機械を用いることによって、クランクスプロケット22aを製造することができる。
【0058】
本実施例に係るエンジン300aによれば、クランクスプロケット22aを備えている。クランクスプロケット22aは、第1歯(歯121、歯122、歯123、歯124、歯125および歯126)を、複数の歯120の中にn個(6個)有している。それにより、クランクスプロケット22aをn本の気筒を有するエンジン300aに用いた場合には、クランクシャフト20の1回転当たり、クランクスプロケット22aとタイミングチェーン60との間にn回の張力変動が生じる。その結果、クランクシャフト20の1回転当たり、クランクスプロケット22aとタイミングチェーン60との間にn回の強制力が発生することから、回転n次の音を強調させることができる。したがって、本実施例に係るクランクスプロケット22aによれば、爆発2次の音を強調させることができる。それにより、本実施例に係るエンジン300aによれば、爆発2次の音を強調させることができる。
【0059】
なお、図4に示すクランクスプロケット22aにおいて、第1歯(歯121、歯122、歯123、歯124、歯125および歯126)の噛み合い開始部位同士を結んだ線分を一辺とする仮想輪郭線130の形状は、略正n角形(正6角形)としたが、これに限られない。しかしながら、仮想輪郭線130の形状が略正n角形であることにより、この構成のクランクスプロケット22aをエンジン300aに用いた場合に、エンジン300aの回転数が一定の場合には、爆発2次の音の周波数は一定となる。その結果、一定の周波数を有する爆発2次の音を強調させることができる。
【0060】
(変形例1)
続いて実施例2の変形例1に係るエンジン300b(図示せず)のクランクスプロケット22bについて説明する。図5は、実施例2の変形例1に係るエンジン300bのクランクスプロケット22bの模式図である。クランクスプロケット22bは、仮想輪郭線の形状が図4に示すクランクスプロケット22aの仮想輪郭線130と異なっている。図5に示すクランクスプロケット22bの仮想輪郭線を、仮想輪郭線130bとする。クランクスプロケット22bに仮想輪郭線130bの形状は、噛み合い−中心線の長さの長い頂点(頂点151b、頂点153bおよび頂点155b)と噛み合い−中心線の長さの短い頂点(頂点152b、頂点154bおよび頂点156b)とがクランクスプロケット22bの回転方向に対して交互に配置されたn角形(6角形)である。
【0061】
具体的には、頂点151bに相当する歯121の噛み合い−中心線141b、頂点153bに相当する歯123の噛み合い−中心線143bおよび頂点155bに相当する歯125の噛み合い−中心線145bの長さは同じである。また、頂点152bに相当する歯122の噛み合い−中心線142b、頂点154bに相当する歯124の噛み合い−中心線144bおよび頂点156bに相当する歯126の噛み合い−中心線146bの長さは同じである。そして、噛み合い−中心線141b、噛み合い−中心線143bおよび噛み合い−中心線145bの長さは、噛み合い−中心線142b、噛み合い−中心線144bおよび噛み合い−中心線146bの長さに比較して、長い。
【0062】
噛み合い−中心線の長さの短い頂点(頂点152b、頂点154bおよび頂点156b)に相当する歯(歯122、歯124および歯126)は、右バンク11に設けられた駆動中のバルブ100のリフト量が左バンク12に設けられた駆動中のバルブ100のリフト量よりも大きくなる期間内において、タイミングチェーン60に噛み合う。この場合の効果について説明するために、まずはタイミングチェーン60の張力変動について説明する。
【0063】
図6(a)は、V6エンジンにおいて、図1に示すクランクスプロケット22を用いた場合のタイミングチェーン60の張力変動を示す模式図である。つまり、図6(a)は、V6エンジンにおいて、各々の歯120の噛み合い−中心線の長さが全て等しいクランクスプロケット22を用いた場合のタイミングチェーン60の張力変動を示す模式図である。図6(b)は、V6エンジンにおいて、図5に示すクランクスプロケット22bを用いた場合のタイミングチェーン60の張力変動を示す模式図である。図6(a)および図6(b)において、縦軸は、タイミングチェーン60の張力(N)を示す。図6(a)および図6(b)において、横軸は、クランクシャフト20の回転角度(°)すなわちクランク角(°)を示す。
【0064】
図6(a)に示すように、クランクスプロケットとして図1に示すクランクスプロケット22を用いた場合、タイミングチェーン60の張力は、クランクシャフト20が2回転(720°)する間に、6つのピークを有する。6つのピークのうち、クランク角の小さい方から順に、ピーク161、ピーク162、ピーク163、ピーク164、ピーク165およびピーク166とする。なお、ピーク161、ピーク163およびピーク165の大きさ(張力の最大値の大きさ)は、等しい。また、ピーク162、ピーク164およびピーク166の大きさ(張力の最大値の大きさ)は、等しい。そして、ピーク162、ピーク164およびピーク166の大きさは、ピーク161、ピーク163およびピーク165の大きさに比較して、大きい。
【0065】
なお、図6(a)において、ピーク162、ピーク164およびピーク166のクランク角は、右バンク11に設けられた駆動中のバルブ100のリフト量が左バンク12に設けられた駆動中のバルブ100のリフト量よりも大きくなるクランク角である。また、ピーク161、ピーク163およびピーク165のクランク角は、左バンク12に設けられた駆動中のバルブ100のリフト量が右バンク11に設けられた駆動中のバルブ100のリフト量よりも大きくなるクランク角である。
【0066】
ピーク162、ピーク164およびピーク166に頂点に対応するクランク角は、右バンク11の駆動中のバルブ100のリフト量が最大となるクランク角である。ピーク161、ピーク163およびピーク165の頂点に対応するクランク角は、左バンク12の駆動中のバルブ100のリフト量が最大となるクランク角である。
【0067】
ここで、本変形例に係るエンジン300bにおいて、噛み合い−中心線の長さの短い頂点(頂点152b、頂点154bおよび頂点156b)に相当する歯(歯122、歯124および歯126)が、右バンク11に設けられた駆動中のバルブ100のリフト量が左バンク12に設けられた駆動中のバルブ100のリフト量よりも大きくなる期間内(ピーク162、ピーク164およびピーク166)において、タイミングチェーン60に噛み合った場合には、図6(a)に示す模式図は、図6(b)に示す模式図のようになる。つまり、図6(a)に示すピーク162、ピーク164およびピーク166の大きさが小さくなる。これは、タイミングチェーン60と噛み合い−中心線の長さの長い頂点に相当する歯(歯121、歯123および歯125)とが噛み合う場合に比較して、タイミングチェーン60と噛み合い−中心線の長さの短い頂点に相当する歯(歯122、歯124および歯126)とが噛み合う場合の方が、タイミングチェーン60の張力が小さくなることによるものである。
【0068】
以上のように、噛み合い−中心線の長さの短い頂点に相当する歯(歯122、歯124および歯126)が、右バンク11に設けられた駆動中のバルブ100のリフト量が左バンク12に設けられた駆動中のバルブ100のリフト量よりも大きくなる期間内において、タイミングチェーン60に噛み合う場合には、図6(b)に示すようにタイミングチェーン60の張力変動が抑制される。それにより、タイミングチェーン60の信頼性を向上させることができる。
【0069】
なお、噛み合い−中心線142b、噛み合い−中心線144bおよび噛み合い−中心線146bの長さは、タイミングチェーン60の張力変動が最も抑制される長さであることが好ましい。例えば、図6(b)に示すように、ピーク162a、ピーク164aおよび166aの張力の大きさが、ピーク161、ピーク163およびピーク165の張力の大きさに等しくなるように、噛み合い−中心線142b、噛み合い−中心線144bおよび噛み合い−中心線146bの長さが設定されていることが好ましい。この場合、タイミングチェーン60の張力変動が最も抑制されるからである。
【0070】
本変形例において、右バンク11が請求項7の第1バンクに相当し、左バンク12が請求項7の第2バンクに相当し、第2右バンク吸気カムスプロケット32および第2左バンク吸気カムスプロケット42が請求項7のカムスプロケットに相当する。
【実施例3】
【0071】
続いて、本発明の実施例3に係るエンジン300cについて説明する。図7は、本発明の実施例3に係るエンジン300cの模式図である。エンジン300cは、回転体170およびチェーンテンショナ180をさらに備える点において、図1に示すエンジン300と異なる。また、図7に示すエンジン300cは、図2に示すカム90のベース部91に平面図93が形成されていない点、すなわちベース部91が滑らかな曲面構造を有する点において、図1に示すエンジン300と異なる。その他の構成は、図1に示すエンジン300と同じため、説明を省略する。
【0072】
図8は、回転体170およびチェーンテンショナ180の拡大図である。図8に示すように、回転体170は、エンジン300cのクランクシャフト20に、クランクシャフト20と同じ周期で回転するように接続されている。本実施例においては、回転体170は、クランクシャフト20のクランクスプロケット22よりもさらに一端側に、回転体170の中心がクランクシャフト20の回転中心と一致するように接続されている。
【0073】
回転体170の材質としては、特に限定されないが、例えば、鋼を用いることができる。また、回転体170は、平面部172が気筒数と同じ数(n個)、接続されて形成された外周面を有している。つまり、回転体170は、n個の平面部172からなる外周面を有している。例えばエンジン300cの気筒数が4本の場合(L4エンジン)には、回転体170は4個の平面部172からなる外周面を有している。また、エンジン300cの気筒数が6本の場合(V6エンジン)には、回転体170は6個の平面部172からなる外周面を有している。エンジン300cの気筒数が8本の場合(V8エンジン)には、回転体170は8個の平面部172からなる外周面を有している。図8においては、6個の平面部172を有する回転体170が例示されている。
【0074】
なお、平面部172の輪郭形状外周方向の長さは、特に限定されないが、本実施例においては全て等しい。つまり、回転体170の輪郭形状は、回転軸方向から見て略正n角形(nは気筒数)の形状を有している。また、隣り合う平面部172の接続部位は、鋭角にならないように滑らかに接続されていることが好ましい。隣り合う平面部172同士が滑らかに接続されていることにより、回転体170と後述するピストン204との接触時に生じる音、すなわち爆発2次の音が大きくなりすぎることを抑制できるからである。例えば、隣り合う平面部172の接続部位は数μm程度の半径のRに加工されていればよい。
【0075】
チェーンテンショナ180は主として、アクチュエータ190と、ポンプ200と、を備える。アクチュエータ190は、タイミングチェーン60に対して、タイミングチェーン60の走行軌道の外側から張力を与えている。アクチュエータ190としては、周知の油圧ピストンシリンダを用いることができる。
【0076】
アクチュエータ190のロッド192の一端には、タイミングチェーン60に当接する当接部としてのスリッパー194が接続されている。スリッパー194は、長手方向の一端がアクチュエータ190のロッド192に接続され、長手方向の他端が回転軸196によって回動可能に軸支されている。アクチュエータ190のロッド192が伸びると、スリッパー194はd方向へ回動する。それにより、アクチュエータ190は、タイミングチェーン60に張力を与えることができる。また、アクチュエータ190のロッド192が縮むと、スリッパー194はc方向へ回動する。それにより、アクチュエータ190は、タイミングチェーン60に与えていた張力を緩めることができる。
【0077】
ポンプ200は、シリンダ202と、ピストン204と、スプリング206と、を備える。シリンダ202は、アクチュエータ190と配管210によって連通されている。
【0078】
ピストン204は、シリンダ202の内側に配置され、シリンダ202の内壁面に沿って往復運動(a方向とb方向の往復運動)を行う。また、シリンダ202とピストン204との間には作動流体としてのオイルが貯留される。スプリング206は、シリンダ202の内側に配置されている。スプリング206は、ピストン204のシリンダ202側と反対側の端面が回転体170の外周面に接触するように、ピストン204を回転体170の外周面に向けて付勢している。つまり、本実施例において、ピストン204は、回転体170の外周面に接触する接触部としての機能を有する。また、スプリング206は、付勢手段としての機能を有する。
【0079】
図8において、クランクシャフト20が回転する場合、回転体170はクランクシャフト20と同じ周期で回転する。回転体170が回転すると、ポンプ200のピストン204が往復運動する。この場合、回転体170とピストン204との間で回転体170の1回転当たり6回の強制力が発生する。そして、例えば、ピストン204が縮む方向(a方向)へ移動すると、ポンプ200のシリンダ202内のオイルは、アクチュエータ190に送られる。その結果、アクチュエータ190のロッド192が伸びることにより、スリッパー194の一端はd方向へ回動する。この場合、タイミングチェーン60の張力が増加する。一方、ピストン204が伸びる方向(b方向)へ移動すると、アクチュエータ190内のオイルは、ポンプ200のシリンダ202内へ吸い込まれる。その結果、アクチュエータ190のロッド192が縮むことにより、スリッパー194の一端はc方向へ回動する。この場合、タイミングチェーン60に与えられていた張力は緩む。
【0080】
本実施例に係るエンジン300cによれば、エンジン300cは回転体170と接触部(ピストン204)と付勢手段(スプリング206)とを有する。それにより、クランクシャフト20の1回転当たり、回転体170と接触部(ピストン204)との間に気筒数nに相当するn回の強制力が発生することから、回転n次の音を強調させることができる。したがって、本実施例に係るエンジン300cによれば、爆発2次の音を強調させることができる。
【0081】
また、本実施例に係るエンジン300cによれば、接触部および付勢手段は、それぞれチェーンテンショナ180のアクチュエータ190を駆動させるポンプ200のピストン204およびスプリング206である。それにより、ピストン204と回転体170との間の強制力と同じ周期の強制力を、チェーンテンショナ180からタイミングチェーン60に対して与えることができる。それにより、爆発2次の音を強調させることができる。
【0082】
なお、本実施例において回転体170の輪郭形状は、略正n角形(略正6角形)であるが、これに限られない。しかしながら、回転体170の輪郭形状が略正n角形であることにより、エンジン300cの回転数が一定の場合には、爆発2次の音の周波数は一定となる。その結果、一定の周波数を有する爆発2次の音を強調させることができる。
【0083】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、実施例1に係るエンジンの模式図である。
【図2】図2は、実施例1に係るカムおよびバルブの模式図である。
【図3】図3は、実施例2に係るエンジンの模式図である。
【図4】図4は、実施例2に係るエンジンのクランクスプロケットの模式図である。
【図5】図5は、実施例2の変形例1に係るエンジンのクランクスプロケットの模式図である。
【図6】図6(a)は、V6エンジンにおいて、図1に示すクランクスプロケットを用いた場合のタイミングチェーンの張力変動を示す模式図である。図6(b)は、V6エンジンにおいて、図5に示すクランクスプロケットを用いた場合のタイミングチェーンの張力変動を示す模式図である。
【図7】図7は、実施例3に係るエンジンの模式図である。
【図8】図8は、回転体およびチェーンテンショナの拡大図である。
【符号の説明】
【0085】
11 右バンク
12 左バンク
20 クランクシャフト
22 クランクスプロケット
31 第1右バンク吸気カムスプロケット
32 第2右バンク吸気カムスプロケット
34 右バンク排気カムスプロケット
35 カムシャフト
41 第1左バンク吸気カムスプロケット
42 第2左バンク吸気カムスプロケット
44 左バンク排気カムスプロケット
50 アイドラスプロケット
60 タイミングチェーン
90 カム
91 ベース部
92 ノーズ部
93 平面部
100 バルブ
110 バルブリフタ
112 接触部
116 バルブスプリング
120 歯
130 仮想輪郭線
141,142,143,144,145,146 噛み合い−中心線
151,152,153,154,155,156 頂点
170 回転体
172 平面部
180 チェーンテンショナ
190 アクチュエータ
194 スリッパー
200 ポンプ
202 シリンダ
204 ピストン
206 スプリング
210 配管
300 エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n本の気筒を有するエンジンのバルブ駆動用に用いられ、ベース部と、前記ベース部から突出するノーズ部と、を有するカムであって、
前記ベース部は、平面部を2n個有する略正多角形状に形成されていることを特徴とするカム。
【請求項2】
n本の気筒を有するエンジンであって、
各々の前記気筒の吸気および排気ポートにそれぞれ配置されたバルブと、
請求項1記載のカムと、
前記カムに接触しながら前記カムから前記バルブへ動力を伝達させるカム動力伝達部と、を備えることを特徴とするエンジン。
【請求項3】
n本の気筒を有するエンジンに用いられ、ローラチェーンと噛み合う歯を外周に複数有するスプロケットであって、
前記複数の歯は、前記ローラチェーンに噛み合い始める部位である噛み合い開始部位と前記スプロケットの回転中心とを結ぶ噛み合い−中心線の長さが相異なりかつ隣接する第1歯および第2歯を含み、
前記第1歯は、前記第2歯よりも前記噛み合い−中心線の長さが長くかつ前記複数の歯の中にn個設けられていることを特徴とするスプロケット。
【請求項4】
隣り合う前記第1歯の前記噛み合い開始部位同士を結んだ線分を一辺とする仮想輪郭線の形状は、略正n角形であることを特徴とする請求項3記載のスプロケット。
【請求項5】
隣り合う前記第1歯の前記噛み合い開始部位同士を結んだ線分を一辺とする仮想輪郭線の形状は、前記噛み合い−中心線の長さの長い頂点と前記噛み合い−中心線の長さの短い頂点とが前記スプロケットの回転方向に対して交互に配置されたn角形であることを特徴とする請求項3記載のスプロケット。
【請求項6】
n本の気筒を有するエンジンであって、
前記エンジンのクランクシャフトに接続されたクランクスプロケットと、
前記クランクスプロケットに巻き掛けられたローラチェーンと、を備え、
前記クランクスプロケットは、請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載のスプロケットであることを特徴とするエンジン。
【請求項7】
第1および第2バンクと、前記第1および第2バンクに対応してそれぞれ設けられた複数のバルブと、前記バルブを駆動させるカムを回転させるカムスプロケットと、を備え、
前記クランクスプロケットは、請求項5記載のスプロケットであり、
前記ローラチェーンは、前記カムスプロケットに巻き掛けられて前記第1バンク側から前記第2バンク側へと走行し、
前記噛み合い−中心線の長さの短い頂点に相当する前記歯は、前記第1バンクに設けられた駆動中の前記バルブのリフト量が前記第2バンクに設けられた駆動中の前記バルブのリフト量よりも大きくなる期間内において、前記ローラチェーンに噛み合うことを特徴とする請求項6記載のエンジン。
【請求項8】
n本の気筒を有するエンジンであって、
前記エンジンのクランクシャフトに前記クランクシャフトと同じ周期で回転するように接続され、かつn個の平面部からなる外周面を有する回転体と、
前記外周面に接触する接触部と、
前記接触部を前記外周面に向けて付勢する付勢手段と、を備えることを特徴とするエンジン。
【請求項9】
前記回転体の輪郭形状は、略正n角形であることを特徴とする請求項8記載のエンジン。
【請求項10】
前記クランクシャフトに接続されたクランクスプロケットに巻き掛けられたローラチェーンに対して、前記ローラチェーンの走行軌道の外側から張力を与えるアクチュエータと、前記アクチュエータを駆動させるポンプと、を有するチェーンテンショナをさらに備え、
前記ポンプは、前記アクチュエータに連通されたシリンダと、前記シリンダの内側に配置され、前記シリンダの内壁面に沿って往復運動するピストンと、前記シリンダの内側に配置され、前記ピストンの前記シリンダの側と反対側の端面が前記回転体の前記外周面に接触するように、前記ピストンを前記回転体の前記外周面に向けて付勢するスプリングと、を有し、
前記接触部は、前記ピストンであり、
前記付勢手段は、前記スプリングであることを特徴とする請求項8または請求項9記載のエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−138530(P2009−138530A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312530(P2007−312530)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】