説明

カラオケ作品に歌唱旋律データを付加する方法、歌唱旋律データの生成方法

【課題】MIDIタイプのカラオケ作品に含まれている歌唱旋律データを流用して簡単に生録音タイプのカラオケ作品に歌唱旋律データを付加する。
【解決手段】(1)第1歌唱旋律データと、第1歌詞字幕データと、第2歌詞字幕データとに基づき、第2歌唱旋律データを生成する方法であること(2)第1歌唱旋律データは、音符データを音楽進行時間軸上に配列したデータであること(3)第1歌詞字幕データは、歌詞文字列の文字コード集合と、第1歌唱旋律データの進行時間軸上で歌詞文字列を色変えするタイミングを規定するデータを含むこと(4)第2歌詞字幕データは、第1歌詞字幕データと同じ歌詞文字列の文字コード集合と、第1歌唱旋律とは異なる音楽進行時間軸上で歌詞文字列を色変えするタイミングを規定するデータを含むこと(5)第1歌詞字幕データと第2歌詞字幕データの文字同士の色変えタイミング差に基づいて、第1歌唱旋律データの各音符の時間軸配置を変更した第2歌唱旋律データを生成すること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カラオケソフトの制作技術に関し、とくに、同一楽曲の第1カラオケ作品と第2カラオケ作品をコンピュータにより処理し、第2カラオケ作品に歌唱旋律データを付加する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
===MIDIタイプと生録音タイプ===
1992年に商用化された通信カラオケシステムにおいては、MIDI形式の電子楽譜データで伴奏音楽を記述したカラオケソフト(カラオケ作品)が採用された。電子楽譜データによるカラオケ作品は、カラオケ装置に搭載されたシンセサイザーによって演奏処理されて伴奏音楽が音響出力される。
【0003】
通信カラオケシステム以前のカラオケ装置においては、もちろん、伴奏音楽を生録音したカラオケ作品が用いられていた。通信カラオケシステムの普及とともに、電子楽譜データによるカラオケ作品が10年以上にわたって市場を席巻してきた。
【0004】
ところが最近のカラオケ業界では、音楽作品としての品質の良さ、音の良さといった観点で、生録音タイプのカラオケ作品に対する見直しが進んでいる。そのため、最新型の通信カラオケシステムにおいては、MIDIタイプのカラオケ作品と生録音タイプのカラオケ作品を併用する構成が採り入れられるようになった。楽曲によってMIDIタイプの作品と生録音タイプの作品を使い分けたり、同一楽曲についてMIDIタイプの作品と生録音タイプの作品を利用者が選択できるようになっている。特許第3294526号公報においては、2つの異なるタイプのカラオケ作品を併用するカラオケ装置について詳しく解説されている。
【0005】
===歌唱力採点システム===
最近のカラオケ利用シーンにおいて顕著なことの1つに、歌唱力の採点システムに対する利用者の人気がきわめて高いことがある。その背景には、歌唱力の採点技術が著しく進歩し、カラオケ装置の採点能力に対する利用者の信頼感が高まったことがあげられる。装置が機械的に行う採点に対する人々の信頼感が高まったため、多くの人が自分の採点結果と他人の採点結果を比べ、競うことを楽しむようになった。特開2004−206009号公報や特開2005−107087号公報には進歩した採点技術が詳しく解説されている。特開2005−99288号公報には採点結果を楽しく出力する技術が詳しく解説されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
===歌唱旋律データと採点システム===
通信カラオケ全盛期に飛躍的に進歩した歌唱力採点システムにおいては、MIDIタイプのカラオケ作品に歌唱旋律データを含めておき、歌声の正確さや技巧の的確さを測る採点基準として歌唱旋律データを用いている。つまり、近年の歌唱力採点システムは、採点基準として電子楽譜形式の歌唱旋律データが存在することを前提に構築されている。
【0007】
ところが、上述のように再評価されて活用されることの多くなった生録音タイプのカラオケ作品には、電子楽譜形式の歌唱旋律データは付いていない。生録音タイプのカラオケ作品を再生する際にも、MIDIタイプのカラオケ作品と同様に、近年の進歩した歌唱力採点システムを共用できるようにしたい。それには、生録音タイプのカラオケ作品に電子楽譜形式の歌唱旋律データを付加しておく必要がある。
【0008】
===生録音タイプ作品への歌唱旋律データ付加作業===
現在のカラオケでは、生録音タイプのカラオケ作品は高能率圧縮符号化されたデジタルデータとして存在しており、このデータと、MIDI形式の歌唱旋律データとを、音楽時間軸を統一した論理構造でファイル化することは容易である。その用途にあった音楽編集用ソフトウエア(デジタルパフォーマーという商品名の製品が代表的である)をパソコン上で稼働させ、上記のファイル化作業を容易に行うことができる。
【0009】
しかし、生録音タイプのカラオケ作品として通信カラオケ以前に制作された音源を再利用するとしても、これに付加する歌唱旋律データをMIDI機器によって新たに制作しなければならない。通信カラオケ以前に制作された膨大な曲数の音源を生録音タイプの最新のカラオケ作品として再利用することを考えると、歌唱旋律データを制作する作業時間とコストを最小限に抑えなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
===発明の手がかり===
この出願の発明者は、通信カラオケ以前に制作された生録音タイプのカラオケ作品については、それと同一楽曲のMIDIタイプのカラオケ作品がほぼ間違いなく既存であることに着目し、MIDIタイプのカラオケ作品に含まれている歌唱旋律データを流用することで、生録音タイプのカラオケ作品に歌唱旋律データを付加する作業を大幅に省力化できると考えた。
【0011】
===音楽時系列構造は2作品で一致しない===
同一楽曲のMIDIタイプのカラオケ作品と生録音タイプのカラオケ作品とを比較したとき、曲の開始から終了まで、テンポおよびピッチも含めて音楽時系列構造が完全に同一であると仮定すれば、話しはきわめて簡単である。MIDIタイプのカラオケ作品の歌唱旋律データをコピーして生録音タイプのカラオケ作品に付加すれば済んでしまう。
【0012】
ところが現実には、2つの異なるタイプのカラオケ作品の音楽時系列構造が完全に一致することは、ほとんどあり得ない。従って、上記のような単純コピーで済ますことは不可能である。
同一楽曲で2つの異なるタイプのカラオケ作品を比較すると両者の音楽時系列構造が異なるが、その相違点の中から、この発明の目的とする歌唱旋律データ付加処理に影響を与える事項を抽出すると、通常は以下の事項である。
(A)前奏の長さが異なる。
(B)間奏の長さが異なる。
(C)テンポが異なる。
【0013】
両作品で前奏の編曲が異なると、前奏の長さが異なることがある。この場合、当然ながら、前奏開始タイミングから冒頭の歌唱開始タイミングまでの時間が両作品で異なってくる。1コーラス目と2コーラス目に挟まれた間奏の編曲が両作品で異なると、間奏の長さが異なることがある。この場合、1コーラス目の歌唱終了タイミングが両作品で仮に一致していたとしても、2コーラス目の歌唱開始タイミングが異なってくる。両作品のテンポが異なると、当然ながら、歌唱旋律に従って歌うタイミングが異なってくる。テンポの相違は、曲全体に均一に及ぶ要素と、部分的な揺らぎの要素とがある。
以上の相違が存在するので、MIDIタイプ作品の歌唱旋律データを単純コピーで生録音タイプ作品に付加しても、歌唱力採点システムの採点基準とはなり得ないのである。
【0014】
===歌詞字幕データ===
カラオケ作品には歌詞字幕データが含まれている。歌詞字幕データは、歌詞文字列データと、歌詞文字列データの各文字に対応付けられる色変えタイミングデータとを含んでいる。ある1文字についての色変えタイミングデータは、伴奏音楽の先頭タイミングを基準として、その1文字の歌唱発声を開始するタイミングと、その1文字の歌唱発声の終了タイミング(または発声持続時間)の情報を含んでいる。この情報をどのようなデータ形式で記述するのかに関わりなく、音楽の進行に合わせて歌詞文字の表示色を変化させるためには各1文字の発声開始と終了を直接または間接に規定する色変えタイミングデータが不可欠であり、歌詞字幕データにはそのような色変えタイミングデータが含まれている。
【0015】
この発明においては、第1カラオケ作品(MIDIタイプ作品)の歌詞字幕データの歌詞文字列データと、第2カラオケ作品(生録音タイプ作品)の歌詞字幕データの歌詞文字列データとは、両者が同一楽曲のものであれば、同一の文字列であることを前提としている。両作品の歌詞文字列データが同一であっても、各1文字に対応けられる色変えタイミングデータは、両作品の音楽時系列構造の上述した相違点を反映し、両作品で同一とはならない。
【0016】
===音符データと歌詞文字===
電子楽譜形式の歌唱旋律データは、音符データや休符データの時系列の連なりである。ある1つの音符データは、伴奏音楽の先頭タイミングを基準として、その1音符のピッチ発音を開始するタイミングと、その1音符のピッチ発音の終了タイミング(または発音持続時間)の情報を含んでいる。通常はMIDI形式であるが、原理的には、この情報をどのようなデータ形式で記述するのかに関わりなく、音楽の進行に合わせて歌唱旋律の各ピッチ発音の開始・終了タイミングを直接または間接に規定する各音符のデータが不可欠であり、それらデータの時系列集合が歌唱旋律データである。
【0017】
ここまでの説明で明らかなように、歌唱旋律データの各音符データと、歌詞字幕データにおける歌詞文字データの各文字とは、音楽時系列構造上で対応付けされる。つまり、音符データが特定されると、それに対応する歌詞文字が特定されるとともに、歌詞文字が特定されると、音符データが特定されるという関係にある。特許第3363390号公報、特許第3363407号公報、特許第3319985号公報、特許第3667123号公報、特許第3482354号公報に関連技術が詳しく解説されている。
【0018】
===第1カラオケ作品===
典型的にはMIDIタイプである第1カラオケ作品は、第1作品時間軸上において統一された時系列データとして、伴奏音楽データと、歌詞字幕データと、歌唱旋律データを含んでいる。歌詞字幕データは、歌詞文字列データと、歌詞文字列データの各文字に対応付けられる色変えタイミングデータとを含んでいる。第1カラオケ作品において、歌唱旋律データの各音符データと、歌詞文字列データの各文字と、色変えタイミングデータの各タイミングは、第1作品時間軸上で対応付け可能である。
【0019】
===第2カラオケ作品===
第2カラオケ作品は、第2作品時間軸上において統一された時系列データとして、典型的には生録音タイプである伴奏音楽データと、歌詞字幕データを含んでいる。歌詞字幕データは、歌詞文字列データと、歌詞文字列データの各文字に対応付けられる色変えタイミングデータとを含んでいる。第2カラオケ作品において、歌詞文字列データの各文字と、色変えタイミングの各タイミングは、第2作品時間軸上で対応付け可能である。
そして、重要な前提事項として、第1と第2カラオケ作品における歌詞文字列データは同一である。
【0020】
===コンピュータ処理===
「あたまをくものうえにだし」という歌詞文字列で始まる小学唱歌を例にして、図1を参照しながら説明を続ける。この楽曲の第1カラオケ作品と第2カラオケ作品をコンピュータに読み込み、第1カラオケ作品に含まれる歌唱旋律データを第2カラオケ作品に合わせて修正し、第2カラオケ作品に付加する自動処理をコンピュータにより行わせる。
【0021】
コンピュータは、第1カラオケ作品における歌詞文字「あ」の色変えタイミングデータが(A11/A12)であること、第2カラオケ作品における同じ「あ」の色変えタイミングデータが(A21/A22)であることを読み取り、両者のタイミング差(+a1/+a2)を計算する。
【0022】
コンピュータは、第1カラオケ作品において、歌唱旋律データの先頭のラ音の付点四分音符データが歌詞文字「あ」に対応することを認知するとともに、「あ」についてのタイミング差(+a1/+a2)に基づいて、当該音符データ(先頭の付点四分音符)を修正して新たな音符データを生成し、新たな音符データを第2時間軸上に配置する。
【0023】
同様にして、コンピュータは、第1カラオケ作品における歌詞文字「た」の色変えタイミングデータが(B11/B12)であること、第2カラオケ作品における同じ「た」の色変えタイミングデータが(B21/B22)であることを読み取り、両者のタイミング差(+b1/+b2)を計算する。
【0024】
コンピュータは、第1カラオケ作品において、歌唱旋律データの2番目のラ音の八分音符データが歌詞文字「た」に対応することを認知するとともに、「た」についてのタイミング差(+b1/+b2)に基づいて、当該音符データ(2番目の八分音符)を修正して新たな音符データを生成し、新たな音符データを第2時間軸上に配置する。
【0025】
以上の処理を行うことで、第2カラオケ作品の伴奏音楽データの時間進行に同期した歌唱旋律データが生成されることになり、これを所定のファイル構造で第2カラオケ作品に付加すればよい。
【0026】
なお、以上の実施例のように歌詞1文字ずつ処理する必要性はかならずしもない。両作品のテンポ値に基づいて、第1作品の歌唱旋律データの時間スケールを第2作品用に修正すれば、両作品の前奏時間の差異や間奏時間の差異に合わせた修正を加えるだけでよい。その場合は、1コーラス分の歌詞文字列データおよび歌唱旋律データを1つのブロックとして捉え、そのブロックの第2時間軸上の位置を1コーラスの先頭の歌詞文字の色変えタイミングデータと音符データの対照により決定すればよいことになる。ただし、両作品のいずれか一方にテンポの揺らぎがある場合には、上記した実施例のように緻密な処理を行うことが望ましい。たとえばコーラス単位やフレーズ単位でブロック化したり、音符単位で取り扱ったりし、緻密な修正処理と大雑把な修正処理を適宜に組み合わせることもできる。
【0027】
===発明の核心部分===
以上の説明から明らかなように、この発明の技術思想の核心部分は、以下に列挙した要件(1)〜(5)を備えた歌唱旋律データの生成方法であるといえる。
(1)第1歌唱旋律データと、第1歌詞字幕データと、第2歌詞字幕データとに基づき、第2歌唱旋律データを生成する方法であること
(2)第1歌唱旋律データは、音符データを音楽進行時間軸上に配列したデータであること
(3)第1歌詞字幕データは、歌詞文字列の文字コード集合と、第1歌唱旋律データの進行時間軸上で歌詞文字列を色変えするタイミングを規定するデータを含むこと
(4)第2歌詞字幕データは、第1歌詞字幕データと同じ歌詞文字列の文字コード集合と、第1歌唱旋律とは異なる音楽進行時間軸上で歌詞文字列を色変えするタイミングを規定するデータを含むこと
(5)第1歌詞字幕データと第2歌詞字幕データの文字同士の色変えタイミング差に基づいて、第1歌唱旋律データの各音符の時間軸配置を変更した第2歌唱旋律データを生成すること
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明に係る方法の一実施例の原理説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一楽曲の第1カラオケ作品と第2カラオケ作品をコンピュータにより処理し、第2カラオケ作品に歌唱旋律データを付加する方法であって、
第1カラオケ作品は、第1作品時間軸上において統一された時系列データとして、伴奏音楽データと、歌詞字幕データと、歌唱旋律データを含み、
第2カラオケ作品は、第2作品時間軸上において統一された時系列データとして、伴奏音楽データと、歌詞字幕データを含み、
歌詞字幕データは、歌詞文字列データと、歌詞文字列データの各文字に対応付けられる色変えタイミングデータとを含み、
第1と第2カラオケ作品における歌詞文字列データは同一であり、
第1カラオケ作品において、歌唱旋律データの各音符データと、歌詞文字列データの各文字と、色変えタイミングデータの各タイミングは、第1作品時間軸上で対応付け可能であり、
第2カラオケ作品において、歌詞文字列データの各文字と、色変えタイミングの各タイミングは、第2作品時間軸上で対応付け可能であり、
コンピュータは、第1、第2ステップの処理を行い、
第1ステップでは、第1と第2カラオケ作品における歌詞文字列データの共通の文字並びに対する両作品の色変えタイミングデータを対照することで両作品のタイミング差を求め、
第2ステップでは、第1ステップで求めた歌詞文字Xについてのタイミング差Yに基づいて第1カラオケ作品の歌唱旋律データにおける歌詞文字Xに対応する音符データZを修正して新たな音符データを生成し、新たな音符データを第2作品時間上に配列することで新たな歌唱旋律データを生成して第2カラオケ作品に付加する
方法。
【請求項2】
第1歌唱旋律データと、第1歌詞字幕データと、第2歌詞字幕データとに基づき、第2歌唱旋律データを生成する方法であって、
第1歌唱旋律データは、音符データを音楽進行時間軸上に配列したデータであり、
第1歌詞字幕データは、歌詞文字列の文字コード集合と、第1歌唱旋律データの進行時間軸上で歌詞文字列を色変えするタイミングを規定するデータを含み、
第2歌詞字幕データは、第1歌詞字幕データと同じ歌詞文字列の文字コード集合と、第1歌唱旋律とは異なる音楽進行時間軸上で歌詞文字列を色変えするタイミングを規定するデータを含み、
第1歌詞字幕データと第2歌詞字幕データの文字同士の色変えタイミング差に基づいて、第1歌唱旋律データの各音符の時間軸配置を変更した第2歌唱旋律データを生成する
方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−264190(P2007−264190A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87556(P2006−87556)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(390004710)株式会社第一興商 (537)
【Fターム(参考)】