説明

カロテノイドの製造方法

【課題】高純度かつ安価なカロテノイド高含有組成物及びその工業的な製造方法の提供。さらには該組成物を含有する機能性食品、医薬組成物、又は化粧品の提供。
【解決手段】微生物培養物を低級ジアルキルケトン類及びエーテル類の少なくとも一方で抽出した後、抽出液を濃縮して得られる沈殿物を低級アルコール類及び低級ジアルキルケトン類の少なくとも1種又はそれらの混合液で洗浄することを特徴とするカロテノイド含量が90%以上の組成物を得る製造方法。及び該カロテノイド含有組成物を含有する食品、医薬組成物、又は化粧品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイドの製造方法に関し、特に、アスタキサンチンの工業的に適した製造方法に関する。具体的には、微生物培養物を低級ジアルキルケトン類及びエーテル類の少なくとも一方で抽出した後、抽出液を濃縮して得られる沈殿物を低級アルコール類及び低級ジアルキルケトン類の少なくとも1種又はそれらの混合液で洗浄することを特徴とする、生体由来の夾雑物が少ないアスタキサンチンを含有するカロテノイド含量が90%以上の組成物を得る製造方法に関する。また、該方法で得られるカロテノイド含有組成物、さらには該カロテノイド含有組成物を含有する食品、医薬組成物、又は化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは自然界に広く存在する天然色素であり、黄色から赤色又は紫色のポリエン色素である。アスタキサンチンは天然に見出されるカロテノイドの1種であり、遊離の状態あるいはエステルとして存在するほか、タンパク質と結合して種々の色素タンパク質として存在する。
アスタキサンチンは、魚類、鶏卵の色揚げ剤として広く使用されている。また、食品添加物としても認められており、油脂加工食品、タンパク質性食品、水性液状食品などに幅広く使用されている。さらに、フリーラジカルによって誘起される脂質の過酸化に対する抗酸化活性、α−トコフェロールの数百倍に達する一重項酸素消去作用などから、その強力な抗酸化活性を生かした機能性食品、化粧品、又は医薬品としての用途が期待されている。
アスタキサンチンは、サケ、マス、マダイ等の魚類、カニ、エビ、オキアミ等の甲殻類など広く自然界に分布すると共に、アグロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、パラコッカス属に属する細菌類、ヘマトコッカス属緑藻類、ファフィア属酵母類等の微生物によっても生産されている。アスタキサンチンやゼアキサンチン等のカロテノイドは、化学合成法により工業的に生産されているが、安全面の不安から天然物由来のものが求められている。
【0003】
こうした背景から特に、大量生産に適していると考えられている藻類や微生物由来のアスタキサンチンを含有するカロテノイド類の製造方法が数多く報告されている。
例えば、ヘマトコッカス藻類の場合、培養後の藻類のシスト細胞を熱アセトン処理し、夾雑物であるクロロフィルを溶出させた後、該シスト細胞をスプレードライし、得られた乾燥細胞からエタノールでカロテノイドを抽出する方法(特許文献1)などが報告されている。しかし、このような製造方法で得られる組成物には、まだ多くの生体由来の夾雑物が多く含まれており、1)カロテノイドの含量、2)アスタキサンチンの含量、等の点で満足のいくものではない。
【0004】
アスタキサンチン高含量のものを得るために、上述の方法に準じて得た粗キサントフィルを、水存在下でリパーゼを作用させて夾雑物のひとつである中性脂質を分解し、そのリパーゼ酵素処理液を油水分離し、次いで分取した油層から遊離脂肪酸を蒸留にてアスタキサンチンと分離して濃縮精製する方法(特許文献2)などが報告されている。しかし、このような複雑な処理工程を施してもアスタキサンチン含量として30%を超えたものが得られていない。
【0005】
また、超臨界流体抽出法を用いて0.5〜60%含量のアスタキサンチンを得る方法(特許文献3)も報告されているが、必ず同時に副生産される目的含量未満のアスタキンサンチン分画は、廃棄するか含量を上げるために別のさらなる濃縮操作が必要となる。したがって、本製造方法も簡便性と経済性の点で生体由来の夾雑物が少ないアスタキサンチンを高含量に含む高純度カロテノイドを製造する工業的方法として満足できるものではない。
【0006】
また、ファフィア属酵母を用いる方法として、該酵母の破砕菌体を有機溶媒で抽出し、抽出液を濃縮して得られた油状の粗抽出エキスをイオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等の精製を行ってアスタキサンチンを得る方法(特許文献4)が報告されているが、低濃度のアスタキサンチンの粗液を複数のカラムクロマトグラフィーにて精製を行うといった非工業的な方法で行っている。
【0007】
また、別の方法として、該酵母培養後の菌体をアセトンで抽出し、得られた抽出液を濃縮して得られる粗油状物に炭化水素系溶剤を加えて晶析させる製造方法(特許文献5)が報告されている。この製造方法は簡便性が高いが、得られる組成物はカロテノイド含量が70〜73%程度(アスタキサンチン含量としては36〜42%)しかなく、生体由来の夾雑物の少ない高純度カロテノイドの製造方法として満足できるものではない。
【0008】
また、E−396株(FERM BP−4283)においては、安全面から、食品の製造では使用することが危惧される環状親水性有機化合物と菌体を接触させて抽出する方法(特許文献6)や特許文献3と同様に超臨界流体抽出を用いた方法(特許文献7)が報告されている。さらに、E−396株を水溶性有機溶媒、非極性溶媒及び水と接触させ、液液抽出を行う方法(特許文献8)が報告されている。
こうした状況から、特殊な設備や複雑な操作などを必要としない簡便な方法であって、アスタキサンチンを高含量で含む高純度カロテノイドを工業的に製造する方法の確立が切望されていた。
【特許文献1】特開平11−56346号公報
【特許文献2】特開2002−218994号公報
【特許文献3】特開2004−41147号公報
【特許文献4】特開平10−276721号公報
【特許文献5】特開2004−208504号公報
【特許文献6】特開平7−242621号公報
【特許文献7】特開平8−89280号公報
【特許文献8】特開平8−253695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高純度かつ安価なカロテノイド高含有組成物及びその工業的な製造方法を提供し、さらには該組成物を含有する機能性食品、医薬組成物、又は化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために微生物培養物に注目して研究した結果、従来技術である液液抽出法で高純度カロテノイドを得るには、1)取り扱う工程に用いる溶液が多くなる点で、従来の低濃度溶液の状態での高純度化精製を行う技術と同様に工業的には非効率であり、2)混合有機溶媒からの分画操作を加えた溶媒回収が必要なことからも簡便性が低い、との課題を新たに見出した。該課題の解決も含めてさらに鋭意研究を重ねた結果、微生物培養物を低級ジアルキルケトン類及びエーテル類の少なくとも一方で抽出した後、抽出液を濃縮して得られる沈殿物を低級アルコール類及び低級ジアルキルケトン類の少なくとも1種又はそれらの混合液で洗浄することにより、高純度のカロテノイド組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
(1)以下の1)〜3)の工程を含むカロテノイド含有組成物の製造方法。
1)微生物培養物を低級ジアルキルケトン類及びエーテル類の少なくとも一方で抽出する工程
2)得られる抽出液を濃縮して沈殿物を得る工程
3)沈殿物を低級アルコール類及び低級ジアルキルケトン類の少なくとも1種又はそれらの混合液で洗浄する工程
(2)以下の1)〜3)の工程を含むカロテノイド含有組成物の製造方法。
1)微生物培養物をアセトンで抽出する工程
2)得られる抽出液を濃縮して沈殿物を得る工程
3)沈殿物をエタノールで洗浄する工程
(3) 以下の1)〜3)の工程を含むカロテノイド含有組成物の製造方法。
1) 微生物培養物をアセトンで抽出する工程
2) 得られる抽出液を濃縮して沈殿物を得る工程
3) 沈殿物をアセトンで洗浄する工程
(4)カロテノイド含有組成物が、カロテノイドを90%以上含有する組成物である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)カロテノイドが、アスタキサンチンを40%以上含有するカロテノイドである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(6)微生物の16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が、配列表配列番号1に記載の塩基配列と実質的に相同である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(7)微生物が、E−396株(FERM BP−4283)又はその変異株である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のカロテノイドの製造方法。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法で得られるカロテノイドを含有する組成物。
(9)前記(8)に記載のカロテノイド含有組成物を含有する食品、医薬組成物、又は化粧品。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、天然物由来の高純度かつ安価なカロテノイド高含有組成物及びその工業的な製造方法を提供し、さらには該組成物を含有する機能性食品、医薬組成物、又は化粧品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明に用いることができる微生物としては、カロテノイド類を生産する微生物であれば何ら限定されないが、パラコッカス細菌、ヘマトコッカス属藻類、ファフィア属酵母などを用いることができる。特に増殖速度の速さ、カロテノイド類の生産性から、16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列表配列番号1記載の塩基配列と実質的に相同である細菌が好ましい。
実質的に相同であるとは、DNAの塩基配列決定のエラー頻度等を考慮し配列が、98%以上の相同性を有することを意味する。このような細菌の中でもE−396菌株(FERM BP−4283)が特に好ましい。また、これらの微生物を変異処理してカロテノイド生産性の観点で選択したカロテノイド高生産株を用いることも大変に好適な例として挙げられる。
【0013】
本発明に用いる微生物培養物は、上記微生物を効率良く培養できる方法、例えば、下記の培地を用いて、液体培養、固体培養、又はそれらの組み合わせによって培養する方法を用いることで得られる培養物であれば何ら限定されない。
【0014】
本発明に用いる微生物の培養に使用される栄養培地としては、生産菌の生育に必要な炭素源、窒素源及び無機塩を含む栄養培地であれば十分であるが、ビタミン類を添加するとさらに好ましい場合がある。また、さらにアミノ酸、核酸塩基等を添加すると好ましい場合もある。その他として、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、麦芽エキス、コーンスチープリカー、乾燥酵母、大豆粕等を適宜添加しても良い。
炭素源としてはグルコース、シュークロース、ラクトース、フルクトース、トレハロース、マンノース、マンニトール、マルトース等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸、ピルビン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブタノール、グリセノール等のアルコール類、大豆油、ヌカ油、オリーブ油、トウモロコシ油、ゴマ油、アマニ油等の油脂類などが挙げられ、1種又は2種以上の炭素源を用いることができる。添加割合は炭素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1L当たり1〜100g、好ましくは2〜50gである。
窒素源としては、例えば硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、アンモニア、尿素等の1種又は2種以上が用いられる。添加割合は窒素源の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.1g〜30g、好ましくは1〜10gである。
無機塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、塩化鉄、硫酸マンガン、塩化マンガン、硫酸亜鉛、塩化鉛、硫酸銅、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等の1種又は2種以上が用いられる。添加割合は無機塩の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.001〜10gである。
ビタミン類を加える場合における量としては、添加割合はビタミン類の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.1〜1000mgで、好ましくは1〜100mgである。
アミノ酸、核酸塩基、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、麦芽エキス、コーンスチープリカー、乾燥酵母、大豆粕等の添加割合は、物質の種類により異なり適宜調整すれば足りるが、通常、培地1Lに対し0.2g〜200g、好ましくは3〜100gである。
培地のpHは2〜12、好ましくは6〜9に調整する。培養条件は15〜80℃、好ましくは20〜35℃の温度であり、通常1日〜20日間、好ましくは2〜8日間、好気条件で培養を行う。好気条件としては、例えば、振とう培養又は通気撹拌培養等が挙げられる。
【0015】
本発明に用いる培養微生物が産生したアスタキサンチンを抽出するに際しては、培養後、培養液を膜濾過濃縮で得られる菌体濃縮液もしくは、遠心分離、加圧もしくは減圧濾過などの一般的に知られている濾過方法で得られる湿菌体を噴霧乾燥、流動乾燥、回転式ドラム乾燥もしくは凍結乾燥など一般的に知られている乾燥方法によって得られる乾燥菌体を以下の抽出に供する方法がより好適な例としてあげられる。また、以下の抽出を行う前に、培養液、菌体濃縮液、湿菌体もしくは乾燥菌体の段階において、アルカリ試薬や界面活性剤などを用いた化学的処理、溶菌酵素や脂質分解酵素及びタンパク質分解酵素などを用いた生化学的処理もしくは超音波もしくは粉砕などの物理的処理のうち1つもしくは2つ以上の処理を行うことも良い。尚、通常、該乾燥菌体とした場合にはその1g中には、約20mg程度のアスタキサンチンが含有されていると考えられる。
【0016】
本発明に用いる培養微生物からの抽出に用いる溶媒(以下、抽出溶媒ということがある)としては、低級ジアルキルケトン類及びエーテル類の少なくとも一種が挙げられ、アセトン、メチルエチルケトン、又はテトラヒドロフランが好ましく、アセトン、又はテトラヒドロフランがより好ましく、アセトンが特に好ましい。抽出時の溶媒の温度は、0℃から該溶媒の沸点までが好ましく、さらに好ましくは該溶媒の沸点から5℃程度低い温度付近が良い。アセトンの場合は、25℃〜55℃が好ましく、40℃〜55℃がより好ましく、45℃〜52℃がさらに好ましい。抽出溶媒の量としては、菌体中に含有されるアスタキサンチン量を溶解できる量であれば良く、例えば乾燥菌体からアセトンを用いて抽出する場合は、菌体に含まれるアスタキサンチン1gに対して0.2〜18kg、好ましくは0.9〜3kgである。
例えば、前記した本発明に用いる培養微生物から得た約20mgのアスタキサンチンを含む乾燥菌体1gからの抽出を50℃のアセトンで行う場合は、7g〜180g程度、好ましくは15g〜70g程度、さらに好ましくは25g〜50g程度の量のアセトンを用いると良い。
【0017】
抽出操作中においてカロテノイドの酸化を極力防止したい場合には、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下、及び/又は医薬品や食品で用いられている酸化防止剤を選択して抽出溶媒に加えて行っても良い。
該酸化防止剤は、最終的にはカロテノイド組成物から除くことが好ましいが、用いる酸化防止剤の種類によっては除去不要である。
また、抽出時間については特に制限する必要はないが、室温以上で抽出する場合には熱分解による収量低下を少なくするためにも短時間処理が良く、例えば、50℃のアセトンで行う場合には、12時間以内が好ましく、6時間以内がより好ましく、3時間以内がさらに好ましく、2時間以内が特に好ましく、1時間以内が最高に好ましい。
【0018】
微生物培養物を低級ジアルキルケトン類及びエーテル類の少なくとも一方で抽出して得られた抽出液の濃縮方法としては、加熱及び/又は減圧濃縮が挙げられる。また、濃縮時にカロテノイドの酸化を極力防止するために窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行っても良い。濃縮の程度としては、得られる沈殿物の量と純度を考慮して適宜決定すれば良いが、例えば、抽出液の重量の3倍〜100倍濃縮で良く、好ましくは7倍〜50倍、さらに好ましくは15倍〜40倍、特に好ましくは20倍〜30倍である。
また、抽出液の濃縮で得られた留去液は、そのまま微生物培養物からの抽出に再利用することができる。
【0019】
濃縮後に得られる濃縮液を、得られる沈殿物の量と純度を考慮して適宜冷却(例えば、抽出時の温度より20℃以上低い温度、或いは5℃、0℃、−5℃、−10℃など)して、さらに沈殿を促進させても良い。或いは、濃縮を沈殿物が生成する直前で停止した後、該濃縮液を、得られる沈殿物の量と純度を考慮して適宜冷却(例えば、抽出時の温度より20℃以上低い温度、或いは5℃、0℃、−5℃、−10℃など)して、沈殿物を得る方法が好ましい態様もある。この際、沈殿物の生成を円滑に行う目的で種沈殿を添加してもよい。
【0020】
沈殿物は、減圧式もしくは加圧式の濾過器もしくは遠心分離機などを用いて採集する。この時、必要に応じて抽出溶媒と同じ溶媒を少量用いて、採集した沈殿物を洗浄しても良い。また、カロテノイドの酸化を極力防止したい場合は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行っても良い。さらに、これ以降で実施する高純度化のために行う沈殿物の洗浄で使用する溶媒に、該洗浄溶媒を複数回回収して再利用することを考慮すると、抽出で使用した溶媒がなるべく残留しない様な条件で沈殿物を採集する工夫を行うことは好ましい態様である。
【0021】
また、沈殿物を採集する時に発生する生体由来夾雑物を含んだ濾液から蒸留や減圧留去などの方法を用いて溶媒を回収し、再度微生物培養物からの抽出及び沈殿物の洗浄に再利用することができる。
【0022】
得られた沈殿物から高純度カロテノイドを得るために以下の洗浄を行うにあたっては、このまま未乾燥物を供してもかまわないし一旦乾燥させたものを供してもかまわない。また、沈殿物の粉砕も特に必要としないが、洗浄効率をあげるために粉砕したものを供してもかまわないし洗浄中に粉砕を加えてもかまわない。以下に記載の洗浄に用いる溶媒を使用することが重要であり、詳細な洗浄条件は得られた沈殿物の純度に応じて適宜決定すれば良い。
【0023】
洗浄に用いる溶媒としては、低級アルコール類及び低級ジアルキルケトン類の少なくとも1種又はそれらの混合液が挙げられる。
低級アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、又はイソプロパノ−ル等の炭素数1〜3のアルコールが挙げられるが、エタノール、又はイソプロパノールが好ましく、エタノールが特に好ましい。
低級ジアルキルケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、又はメチルイソブチルケトン等の炭素数3〜6のケトンが上げられるが、アセトン、又はメチルエチルケトンが好ましく、アセトンが特に好ましい。
また、洗浄力を落とさない程度に水もしくは他の有機溶媒を含有させた混合溶媒で洗浄することも好ましい一態様である。
【0024】
洗浄に用いる溶媒の下限量としては、沈殿物の純度を考慮しながら工業的に耐え得る程度に少量の量を選択することが好ましく、例えば、エタノールを用いる場合、乾燥された沈殿物を洗浄する時はその重量に対して;また、未乾燥の沈殿物を洗浄する時は、未乾燥物の容量又は重量と乾燥された沈殿物との相関関係を予め検討して設定することができる換算係数を用いて算出された乾燥物重量に対して;2倍量以上あれば良いが、好ましくは4倍量以上、より好ましくは6倍量以上、さらに好ましくは10倍量以上が好ましく、必要に応じて20倍量以上を用いてもよい。
【0025】
また、上限量としては最大でも200倍量あれば十分であり、特に工業的な効率性の観点から100倍量以下が好ましく、80倍量以下がより好ましく、40倍量以下がさらに好ましく、条件を詳細に設定すれば20倍量以下、場合によっては10倍量程度で十分である。
【0026】
また、例えばアセトンを用いる場合、乾燥された沈殿物を洗浄する時はその重量に対して;また、未乾燥の沈殿物を洗浄する時は、未乾燥物の容量又は重量と乾燥された沈殿物との相関関係を予め検討して設定することができる設定した換算係数を用いて算出された乾燥物重量に対して;30倍量以上あれば良いが、好ましくは35倍量以上、より好ましくは40倍量以上で、必要に応じて40倍量以上を用いても良い。また、上限量としては最大でも200倍量あれば十分であり、特に工業的な効率性の観点から100倍量以下が好ましく、80倍量以下がより好ましく、60倍量以下がさらに好ましく、条件を詳細に設定すれば50倍量以下程度で十分である。
【0027】
洗浄の手法は何ら限定されないが、例えば、懸濁攪拌後に濾取する方法もしくは沈殿物の上から通液する方法等が実用的に好ましい方法として挙げられる。洗浄時の温度は、通常、1℃〜30℃が好ましいが、状況に応じて1℃以下や30℃以上の温度としても良い。但し上限温度としては、洗浄に用いる溶媒の沸点付近(例えば、エタノールで78℃、アセトンで56℃)が挙げられる。また、カロテノイドの酸化を極力防止したい場合は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行っても良い。
【0028】
また、沈殿物から高純度カロテイドを得るための洗浄で発生する廃液から蒸留や減圧留去などの方法で使用した溶媒を回収し、洗浄に用いる溶媒として再利用することができる。
また、洗浄、乾燥後の本発明のカロテノイド含有組成物中における残存溶媒量を低減することを目的として、洗浄の最後に水で溶媒置換的に洗浄する工程などを必要に応じて加えることも大変に好ましい方法である。例えば、少量の低温の水やエタノールで洗浄する工程を最後に加える方法などが好ましい一例として挙げられる。
【0029】
上記の製造方法を用いて得られるカロテノイド含有組成物におけるカロテノイド含量、及びアスタキサンチン等の主成分含量の調整は、収量が最大となる様に上記精製工程の条件を適宜変更すればよい。
本発明のカロテノイド含有組成物におけるカロテノド含量としては、90%以上が好ましく、91%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上が最も好ましい。
また、該カロテノイド中におけるアスタキサンチン含量としては、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、46%以上がさらに好ましく、47%以上が特に好ましく、50%以上が特に大変好ましく、55%以上が極めて大変好ましく、60%以上が最も好ましい。
具体的には、例えば、微生物培養物をアセトンで抽出した後、抽出液を濃縮して得られる沈殿物をエタノールで洗浄することにより、カロテノイド含量として95%以上の組成物が得られ、又、微生物培養物をアセトンで抽出した後、抽出液を濃縮して得られる沈殿物をアセトンで洗浄することにより、カロテノイド含量として90%以上の組成物が得られる。
【0030】
本発明の製造方法は、微生物培養物から低級ジアルキルケトン類及びエーテル類の少なくとも一方で抽出後、該抽出液を濃縮して得られる沈殿物を炭素数1〜3のアルコール含有溶媒もしくは炭素数3〜6のケトン含有溶媒で洗浄するだけという、極めて簡便な操作のみでカロテノイドを高純度化できることを特徴とする。
本発明の方法は、従来技術に比較して、1)複雑な操作を必要としない点、2)カラム精製や液液抽出のような1%以下の低濃度溶液の状態での非効率な高純度化の精製操作を必要としない点において、工業的な観点から著しく有利である。そして本発明の効果として、3)アスタキサンチンを高含量で含む高純度カロテノイド組成物を安価に提供できる点、4)各工程で使用した溶媒の回収が容易になる点で優れた工業的製造方法を提供するものである。
【0031】
本発明のカロテノイド含有組成物を含有する食品、医薬組成物、又は化粧品も本発明の範囲内である。
本発明の製造方法により製造されるアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドを含有する医薬品の剤型としては、散在、顆粒剤、丸剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、粘付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製されるが、カロテノイドは水に難溶性であるため、植物性油、動物性油等の非親水性有機溶媒に溶解するか又は、乳化剤、分散在もしくは界面活性剤等とともに、ホモジナイザー(高圧ホモジナイザー)を用いて水溶液中に分散、乳化させて用いる。更に、カロテノイドの吸収性を高めるために、平均粒子系を1ミクロン程度まで微粉砕し用いることも可能である。
【0032】
製剤化のために用いることができる添加剤としては、例えば大豆油、サフラー油、オリーブ油、胚芽油、ひまわり油、牛脂、いわし油等の動植物性油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤、精製水、乳糖、デンプン、結晶セルロース、D−マンニトール、レシチン、アラビアガム、ソルビトール液、糖液等の賦形剤、甘味料、着色料、pH調整剤、香料などをあげることができる。尚、液体製剤は、服用時に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしても良い。
【0033】
注射剤の形で投与する場合としては、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮、関節内、滑液嚢内、胞膜内、骨膜内、舌下、口腔内等に投与することが好ましく、特に静脈内投与又は腹腔内投与が好ましい。静脈内投与は、点滴投与、ポーラス投与のいずれであってもよい。
【0034】
本発明のアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドを含有する食品の形態としては、例えばサプリメント(散在、顆粒剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤等)、飲料(お茶、炭酸飲料、乳酸飲料、スポーツ飲料等)、菓子(グミ、ゼリー、ガム、チョコレート、クッキー、キャンデー等)、油、油脂食品(マヨネーズ、ドレッシング、バター、クリーム、マーガリン等)、ケチャップ、ソース、流動食、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ等)、パン類、麺類(うどん、そば、ラーメン、パスタ、やきそば、きしめん、そーめん、ひやむぎ、ビーフン等)等が挙げられる。
【0035】
本発明のアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドを含有する機能性食品としては、必要に応じて各種栄養素、各種ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンE等)、各種ミネラル類、食物繊維、多価不飽和脂肪酸、その他の栄養素(コエンザイムQ10、カルニチン、セサミン、α−リポ酸、イノシトール、D−カイロイノシトール、ピニトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルDHA、ホスファチジルイノシトール、タウリン、グルコサミン、コンドロイチン硫酸、S−アドノシルメチオニン等)、分散剤、乳化剤等の安定剤、甘味料、呈味成分(クエン酸、リンゴ酸等)、フレーバー、ローヤルゼリー、プロポリス、アガリクス等を配合することができる。また、ペパーミント、ベルガモット、カモンミール、ラベンダーなどのハーブ類を配合してもよい。また、テアニン、デヒドロエピアンドステロン、メラトニンなどの素材を配合してもよい。
【0036】
本発明のアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドを含有する化粧料としては、クリーム、乳液、ローション、マイクロエマルジョンエッセンス、入浴剤などが挙げられ、香料等を混合してもよい。
【実施例】
【0037】
本発明を実施例、参考例、製剤例及び試験例に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の例に限定されることはない。
なお、実施例及び比較例におけるアスタキサンチン及びカロテノイドの定量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行った。カラムはWakosil−II SIL−100(φ4.6×250mm)(和光純薬社製)を2本連結して使用した。溶出は、移動相であるn−ヘキサン−テトラヒドロフラン−メタノール混合液(40:20:1)を室温付近一定の温度にて毎分1.0mL流すことで行った。測定においては、サンプルをテトラヒドロフランで溶解したものを移動相にて100倍希釈した液20μLを注入量とし、カラム溶離液の検出は波長470nmで行った。また、定量のための標準品としてはシグマ社製アスタキサンチン(Cat.No.A9335)を用いた。標準液のアスタキサンチン濃度の設定は、標準液の477nmの吸光度(A)及び上記条件でHPLC分析を行った時のアスタキサンチンピークの面積百分率%(B)を測定した後に、以下の式を用いて行った。
アスタキサンチン濃度(mg/L)=A÷2150×B×100
【0038】
[実施例1]アスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドの製造1
工程1:E−396菌株の培養工程
グルコース2g/L、肉エキス3g/L、ペプトン10g/L、塩化ナトリウム5g/Lの組成からなる培地10mlを直径18mmの試験管に入れ、121℃、15分間蒸気殺菌した。これにE−396菌株(FERM BP−4283)を1白金耳植菌し30℃で6日間、300rpmの往復振とう培養を行った。この培養液200本分(2L)を遠心分離した後凍結乾燥し、1g中に18mgのアスタキサンチンを含む乾燥菌体を得た。
【0039】
工程2:アセトン抽出工程
実施例1の工程1で得られた乾燥菌体50gにアセトンを2.2kg加え、50℃にて1時間攪拌しながらアスタキサンチンを含めたカロテノイドの抽出を行った。次に、濾過にて菌体を除き、さらに菌体ケークをアセトンで洗浄してアスタキサンチン0.034%(wt/wt)、カロテノイド重量濃度0.077%(wt/wt)の抽出液2.3kgを得た。
【0040】
工程3:抽出液濃縮、及び析出工程
実施例1の工程2で得られた抽出液2.3kgを、エバポレーターを用いて減圧濃縮して沈殿物を含んだ濃縮液(約80g)と留去液(約2kgのアセトン)を得た。この濃縮液を外温5℃にて1時間冷却しながら撹拌した。
【0041】
工程4:沈殿物濾取、及び乾燥工程
実施例1の工程3で得られた冷却された濃縮液約80gを減圧濾過してカロテノイドを含んだ沈殿物のケークを得た。さらに上から20gのアセトンを加えて濾過洗浄した後に、一晩35℃にて減圧乾燥して2.13gの沈殿物の乾燥物を得た。この乾燥物中のアスタキサンチン及びカロテノイドの含量はそれぞれ34%と71%であった。
【0042】
工程5:エタノール洗浄工程、及び乾燥工程
実施例1の工程4で得られた沈殿物の乾燥物2.13gに80gのエタノールを加え、1.8%相当のカロテノイドが懸濁した状態で室温下1時間攪拌洗浄を行った。得られた洗浄物を減圧濾過にて採取し、一晩35℃にて減圧乾燥を行い、エタノール洗浄乾燥物を1.49g得た。このエタノール洗浄乾燥物中のアスタキサンチン及びカロテノイドの含量はそれぞれ47%と98%であった。
【0043】
工程6:減圧留去による溶媒の回収
工程4で発生した濾液約100g(約120mL)から減圧留去により留去液側に80gのアセトンを回収した。また、工程5で発生する濾液約80g(約100mL)から減圧留去により留去液側に76gのエタノールを回収した。
【0044】
[実施例2]回収溶媒を用いたアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドの製造1
実施例1の工程1で得られた乾燥菌体25gに実施例1の工程3で得られた留去液(アセトン)を1.1kg加え、実施例1の工程2に準じたカロテノイドの抽出と菌体濾過を行い、抽出液1.2kgを得た。この抽出液を実施例1の工程3に準じて減圧濃縮した後、冷却された濃縮液約40gを得た。この冷却された濃縮液から実施例1の工程4に準じて沈殿物を濾取した。次に、実施例1の工程6で回収したアセトン10gを、沈殿物のケークの上から加えて濾過洗浄した後に、乾燥を行い1.00gの乾燥物を得た。この乾燥物に実施例1の工程6で回収したエタノールを40g加えて実施例1の工程5に準じて行いエタノール洗浄乾燥物0.72gを得た。エタノール洗浄前の減圧乾燥物のアスタキサンチン及びカロテノイドの含量がそれぞれ33%と70%に対して、エタノール洗浄乾燥物でのアスタキサンチン及びカロテノイドの含量がそれぞれ46%と97%であった。
以上のことより、回収された溶媒の再利用は何ら支障がないことが確認できた。
【0045】
[実施例3]アスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドの製造2
実施例1の工程1〜工程3と同様に行い、さらに実施例1の工程4に準じて、工程3で得られた冷却された濃縮液約80gを減圧濾過してカロテノイドを含んだ沈殿物のケークを得た。さらに上から20gのアセトンを加えて濾過洗浄した後に沈殿物カロテノイド含量を調べるためにケークの一部を採取した。次いで、乾燥する工程を省略して、上から80gのエタノールを加えてさらに濾過洗浄した。この濾過洗浄ケークを一晩35℃にて減圧乾燥を行いエタノール洗浄乾燥物を1.50g得た。このエタノール洗浄前の減圧乾燥物のアスタキサンチン及びカロテノイドの含量は、それぞれ33%と70%であるのに対して、エタノール洗浄乾燥物中のアスタキサンチン及びカロテノイドの含量はそれぞれ46%と97%であった。
また、実施例1の工程4に準じて行われる沈殿物濾取で得られる濾液約100g(約120mL)から、アセトン85gを、実施例1の工程5に準じて行われるエタノール洗浄工程で得られる濾液約80g(約100mL)から、僅かにアセトンが混入したエタノール75gをそれぞれ回収した。
【0046】
[実施例4]回収溶媒を用いたアスタキサンチン高含量の高純度カロテノイドの製造2
実施例3で用いた乾燥菌体25gに、実施例3で得られた留去液(アセトン)を1.1kg加え、実施例1の工程2に準じたカロテノイドの抽出と菌体濾過を行い、抽出液1.1kgを得た。この抽出液を実施例1の工程3に準じて減圧濃縮した後、冷却された濃縮液約40gを得た。この冷却された濃縮液から実施例1の工程4に準じて沈殿物を濾取した。次に、実施例3で得られた回収アセトン10gを、沈殿物のケークの上から加えて濾過洗浄し、さらに実施例3と同様に乾燥する工程を省略して実施例3で回収したエタノール40gを加えてさらに濾過洗浄した。この濾過洗浄ケークを一晩35℃にて減圧乾燥を行いエタノール洗浄乾燥物を0.73g得た。エタノール洗浄前の減圧乾燥物のアスタキサンチン及びカロテノイドの含量はそれぞれ34%と71%であるのに対して、エタノール洗浄乾燥物中のアスタキサンチン及びカロテノイドの含量はそれぞれ46%と97%であった。
実施例4において減圧留去で回収されたアセトンが混入したエタノールを用いても洗浄能力の低下は認められないことが確認できた。但し、複数回回収して再利用することを考慮すると、エタノール洗浄工程前にアセトンがなるべく残留しない様な条件で、沈殿物を濾取する工夫をすることは好ましい態様と考えられる。
【0047】
[実施例5]アスタキサンチン高含量である高純度カロテノイドの製造3
実施例1におけるエタノール洗浄の代わりにアセトン洗浄を行う以外は同様に実施したところ、得られた乾燥物中のアスタキサンチン及びカロテノイドの含量はそれぞれ45%と91%であった。
【0048】
[参考例1]アスタキサンチンの室温における溶解濃度測定
アスタキサンチン(シグマ製)の室温における溶解濃度を測定し、表1に示した。
表1から明らかなとおり、発ガン性や変異原性を有するハロゲン溶媒以外の溶媒における溶解濃度は1%以下という低濃度であることが分かった。このことから、従来技術の液液分配において比較的に有害性の低い一般的有機溶媒を用いている限りは、1%を超えるカロテノイド濃度の溶液で高純度化の処理をすることは極めて困難であり、工業生産性上、大変に問題があることが明らかとなった。
【0049】
【表1】

【0050】
[比較例1]特開平8−253695号公報の実施例1−1に準じた製法
実施例1の工程1〜2と同様にして得たアスタキサンチン濃度0.034%(wt/wt)、カロテノイド濃度0.077%(wt/wt)の抽出液2.3kg(2.9L)にヘキサン1.9kg(2.9L)と1%食塩水2.9kg(2.9L)を加えて1時間攪拌した。静置後、2層分離して上層のヘキサン層3.7L(2.5kg)と下層の水層5L(4.6kg)を得た。得られたヘキサン層をエバポレーターにて減圧濃縮し約0.3Lの濃縮液を調整した後に4℃にて12時間放置後、沈殿物を減圧濾過し、上から25mLのヘキサンを加えて濾過洗浄し、減圧乾燥にて一晩乾燥してアスタキサンチン含量47%、カロテノイド含量98%の1.45gの乾燥物を得た。
【0051】
カロテノイドの高純度化処理時の条件において、例えば実施例1では約1.8%(wt/wt)のカロテノイド懸濁液で取り扱えたのに対して、比較例1ではカロテノイド濃度が約0.07%(wt/wt)という低いカロテノイド濃度のヘキサン溶液3.7Lに対して5Lの水層を接触させる必要があった。この点から、比較例1の方法は工業的に非効率であることが明らかとなった。
また、取り扱い総液量の点においても、例えば実施例1において使用したアセトン及びエタノールの合計容量2.925Lに対して、比較例1では使用したアセトン、ヘキサン及び1%食塩水の合計容量は8.725Lであるので約3倍も工程液の取扱量が多いものであった。この点からも工業的に非効率であることが明らかとなった。
さらに、抽出に使用したアセトン約2.9Lの回収は、例えば実施例1及び3においては、製造工程中の抽出液の減圧濃縮と同時に留去液としてアセトン約2.8Lが回収できたのに対して、比較例1においてはヘキサン層の減圧濃縮で得られたアセトンとヘキサンからなる留去液約3.4Lから新たに分画してアセトンとヘキサンをそれぞれ回収する操作と水層約5Lから新たにアセトンを回収する操作が必要であった。このことから溶媒の回収工程において簡便性が低いことも明らかとなった。
【0052】
[食品例1]マーガリン
抗酸化剤及び着色剤として、実施例1で得たアスタキサンチン組成物を、マーガリンの5重量%になるように植物油に添加した後、乳化剤などとともに均一になるよう攪拌し、通常の方法によりマーガリンを作製した。このマーガリンは、通常のマーガリンと比較して、アスタキサンチンの存在により、薄い赤色を呈していた。
【0053】
[食品例2]人工イクラ
実施例1で得たアスタキサンチン組成物を、1%アルギン酸ナトリウム水溶液に0.6%添加し、ホモジナイザーで分散後、5%塩化カルシウム凝固液に滴下し、直径5mmの球状に成型した。外観は自然に近く、形状、色調、及び味の観点でイクラと酷似していた。
【0054】
[製剤例1]アスタキサンチン含有錠剤
実施例1で得たカロテノイド含有組成物120重量部に対して結晶セルロース330重量部、カルメロース−カルシウム15重量部、ヒドロキシプロピルセルロース10重量部及び精製水60重量部を用いて通常の方法にて配合、乾燥した後、10重量部のステアリン酸マグネシウムを添加し、打錠を行い、1錠あたりカロテノイド含有組成物を20mg含有する100mgの錠剤を得た。
【0055】
[製剤例2]アスタキサンチン含有ソフトカプセル
実施例1で得たカロテノイド含有組成物1重量部に、5倍重量部の大豆油に懸濁し、均質になる様に十分に混合した後、カプセル充填機にてカプセル充填し、内容物約300mgの赤褐色状のカプセルを得た。
【0056】
[化粧品例]アスタキサンチン含有クリーム剤(化粧品)
実施例1で得たアスタキサンチン含有組成物を、白色ワセリンに10重量%になるように添加し、芳香剤などとともに、均一になるように攪拌し、通常の方法によりクリーム剤を作製した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、天然物由来の高純度かつ安価なカロテノイド高含有組成物及びその工業的な製造方法を提供することができ、その結果、該組成物を含有する機能性食品、医薬組成物、又は化粧品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の1)〜3)の工程を含むカロテノイド含有組成物の製造方法。
1)微生物培養物を低級ジアルキルケトン類及びエーテル類の少なくとも一方で抽出する工程
2)得られる抽出液を濃縮して沈殿物を得る工程
3)沈殿物を低級アルコール類及び低級ジアルキルケトン類の少なくとも1種又はそれらの混合液で洗浄する工程
【請求項2】
以下の1)〜3)の工程を含むカロテノイド含有組成物の製造方法。
1)微生物培養物をアセトンで抽出する工程
2)得られる抽出液を濃縮して沈殿物を得る工程
3)沈殿物をエタノールで洗浄する工程
【請求項3】
以下の1)〜3)の工程を含むカロテノイド含有組成物の製造方法。
1)微生物培養物をアセトンで抽出する工程
2)得られる抽出液を濃縮して沈殿物を得る工程
3)沈殿物をアセトンで洗浄する工程
【請求項4】
カロテノイド含有組成物が、カロテノイドを90%以上含有する組成物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
カロテノイドが、アスタキサンチンを40%以上含有するカロテノイドである請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
微生物の16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が、配列表配列番号1に記載の塩基配列と実質的に相同である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
微生物が、E−396株(FERM BP−4283)又はその変異株である請求項1〜5のいずれか1項に記載のカロテノイドの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法で得られるカロテノイドを含有する組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のカロテノイド含有組成物を含有する食品、医薬組成物、又は化粧品。

【公開番号】特開2007−261972(P2007−261972A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87223(P2006−87223)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】