説明

カーボンナノチューブの形成方法、その前処理方法、電子放出素子及び照明装置

【課題】基板上において垂直に近い状態で配向し、かつ高密度なカーボンナノチューブを極力低い温度で形成する方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブの形成方法は、触媒金属層に温度Tで酸素プラズマを作用させ、表面が酸化された触媒金属微粒子を形成する工程(STEP1)と、触媒金属微粒子に温度Tより高い温度Tで水素プラズマを作用させ、触媒金属微粒子の表面を還元して活性化する工程(STEP2)と、活性化された触媒金属微粒子の上に温度TでプラズマCVD法によりカーボンナノチューブを成長させる工程(STEP3)と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの形成方法、その前処理方法、電子放出素子及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは優れた電気伝導性(低電気抵抗)、熱伝導性(高放熱性)、高い電流密度耐性(高エレクトロマイグレーション耐性)という特徴を持つことから、現在主流になっているCu配線に代わる次世代半導体装置の配線材料として期待されている。カーボンナノチューブを配線材料として用いるには、チューブの長さがある程度長く、かつ多数のチューブが一定の配向性を有していることが必要とされており、例えば、カーボンナノチューブを、電界電子放出(フィールドエミッション)を利用した電子放出素子として利用する場合には、基板表面に対して垂直かつ高密度にカーボンナノチューブを配置することが求められる。
【0003】
カーボンナノチューブの成長手法として、プラズマなどの高エネルギー源を使って原料となる炭化水素分子などを励起・分解し、その活性種と触媒金属を反応させることでカーボンナノチューブを成長させる方法が挙げられる(プラズマCVD法)。プラズマCVD法によるカーボンナノチューブの成膜方法として、例えば特許文献1では、Ni、Fe、Co等の遷移金属で構成された触媒層を基板上に形成し、その上に炭素含有ガスと水素ガスとを用いたプラズマCVDにより600℃の処理温度でカーボンナノチューブを成膜する方法が提案されている。この特許文献1には、触媒金属を微粒子化した場合に、微粒子表面が酸化して触媒活性が低下することを防止する目的で、触媒金属の表面に炭素含有ガスと水素ガスとを用いたプラズマ中のラジカルを作用させて活性化させることが記載されている。
【0004】
一方、原料の炭化水素分子を触媒金属表面で熱分解させてカーボンナノチューブを成長させる方法(熱CVD法)も知られている。熱CVD法によるカーボンナノチューブの成膜方法として、例えば特許文献2では、微粒子化された触媒が形成された基板上に、炭化水素系ガスを原料として800〜1000℃の温度で熱CVD法によりカーボンナノチューブを成膜する方法が提案されている。この特許文献2の方法では、基板上に形成されたFe等の触媒金属薄膜を、酸素雰囲気中(例えば大気中)で800〜1000℃に加熱、溶融してから冷却することにより、粒子状にする細分化工程と、この粒子状の触媒を、酸素雰囲気中(例えば大気中)で800〜1000℃に加熱して微粒子状にする再細分化工程を行うことが記載されている。
【0005】
ところで、従来の蛍光灯・白熱灯に代わる省エネルギー照明として、今後LED照明の需要が増加していくことが予想される。LED照明は、家庭・オフィス用の照明だけでなく、近年注目が高まっている植物工場用の照明としても期待されている。植物育成に必要な高輝度を持つLED照明が次々と開発されているが、高輝度にするほどLEDからの発熱量が増大するため、植物工場に使用するためには、さらなる改善が求められている。またLED照明は基本的には点発光であるので、大規模植物栽培をするために面発光の光源がより望ましい。
【0006】
フィールドエミッションは、アスペクト比の大きな材料に強電界を印加したとき、トンネル効果によりその材料の表面から電子放出が起こる現象である。電界電子放出型の照明装置は、フィールドエミッションにより放出される電子を蛍光体に入射させ、蛍光体を励起・発光させる。電界電子放出型の照明装置は、従来の白熱電球や蛍光灯などと比較して低消費電力、低公害などのような優れた特徴を有しており、次世代の照明器具として注目を集めている。カーボンナノチューブはフィールドエミッションの電子源として以前から知られており、カーボンナノチューブから電子を放出させて蛍光体を発光させることで照明装置を作製することが可能である。こうして作製した照明装置は、低消費電力、低発熱で高輝度を実現できるため、基材に対して一様に配置することで面発光照明も構築できる。こうした特長から、カーボンナノチューブ照明は植物工場用として非常に適した照明装置であると言える。
【0007】
カーボンナノチューブを使用した照明装置に関して、例えば、特許文献3では、金属物質を内包しているカーボンナノチューブと、金属物質を内包していないカーボンナノチューブとを含有するエミッタを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−252970号公報
【特許文献2】特開2007−261867号公報
【特許文献3】特開2010−192245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3をはじめ、カーボンナノチューブを使用した従来の照明装置では、カーボンナノチューブの大きな特徴である高アスペクト比の形状の先端部からの電子放出が実現できていない。その理由として、垂直配向したカーボンナノチューブを低温で成長させることが難しい点が挙げられる。垂直配向したカーボンナノチューブの成長には、少なくとも600℃以上の熱処理が必要とされている。そのため、電子放出素子の構成部材の材質が制限され、例えばガラス基材やプラスチック基材を用いる場合には、垂直配向したカーボンナノチューブの形成が困難であった。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、基板表面に対して略垂直に近い状態で配向し、かつ高密度なカーボンナノチューブを、極力低い温度で形成する方法を提供することである。また、本発明の第2の目的は、基板表面に対して略垂直に近い状態で配向したカーボンナノチューブを使用した電子放出素子及び照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のカーボンナノチューブの形成方法は、表面に触媒金属層が形成された基板を準備する工程と、
前記触媒金属層に温度Tで酸素プラズマを作用させ、表面が酸化された触媒金属微粒子を形成する工程と、
前記触媒金属微粒子に前記温度Tより高い温度Tで水素プラズマを作用させ、前記触媒金属微粒子の表面を還元して活性化する工程と、
前記活性化された触媒金属微粒子の上に温度TでプラズマCVD法によりカーボンナノチューブを成長させる工程と、
を備えている。
【0012】
本発明のカーボンナノチューブの形成方法は、前記温度Tが100℃〜450℃の範囲内であり、前記温度Tが100℃〜550℃の範囲内であってもよい。この場合、前記温度Tと前記温度Tとの温度差(T−T)が50℃以上であってもよい。
【0013】
また、本発明のカーボンナノチューブの形成方法は、前記温度Tから前記温度Tまでの温度変化の過程で、少なくとも100℃/分以上の昇温速度による加熱区間を有していてもよい。
【0014】
また、本発明のカーボンナノチューブの形成方法は、前記活性化する工程と、前記カーボンナノチューブを成長させる工程を、同一の処理容器内で連続的に行ってもよい。
【0015】
また、本発明のカーボンナノチューブの形成方法は、前記カーボンナノチューブを成長させる工程を、前記温度Tが100℃〜550℃の範囲内で行ってもよい。
【0016】
また、本発明のカーボンナノチューブの形成方法は、前記基板が、ガラス基板又は合成樹脂製基板であってもよい。
【0017】
また、本発明の電子放出素子は、上記いずれかに記載の方法により形成されたカーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブに電気的に接続されたカソード電極と、を備えている。
【0018】
本発明の照明装置は、上記電子放出素子と、前記電子放出素子に対向して配置されたアノード電極と、前記アノード電極に積層され、前記カーボンナノチューブとの間に配置された蛍光層と、を備えている。
【0019】
本発明の前処理方法は、基板上に形成された触媒金属微粒子の上にプラズマCVD法によってカーボンナノチューブを成長させる前に行う前処理方法であって、
表面に触媒金属層が形成された基板を準備する工程と、
前記触媒金属層に温度Tで酸素プラズマを作用させ、表面が酸化された触媒金属微粒子を形成する工程と、
前記触媒金属微粒子に前記温度Tより高い温度Tで水素プラズマを作用させ、前記触媒金属微粒子の表面を還元して活性化する工程と、
を備えている。
【0020】
本発明の前処理方法は、前記温度Tが100℃〜450℃の範囲内であり、前記温度Tが100℃〜550℃の範囲内であってもよい。この場合、前記温度Tと前記温度Tとの温度差(T−T)が50℃以上であってもよい。
【0021】
本発明の前処理方法は、前記温度Tから前記温度Tまでの温度変化の過程で、少なくとも100℃/分以上の昇温速度による加熱区間を有していてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のカーボンナノチューブの形成方法によれば、前処理として、温度Tで酸素プラズマ処理を行い、次に、温度Tより高い温度Tで水素プラズマ処理を行い、その後プラズマCVD(化学気相成長)法によりカーボンナノチューブの形成を行うことによって、例えば550℃以下、好ましくは350℃以下の低い温度で基板表面に対して略垂直に配向したカーボンナノチューブを形成することができる。
【0023】
また、本発明方法により、例えばガラス基材やプラスチック基材など耐熱性の低い材質についても、略垂直に配向したカーボンナノチューブを形成できる。そのため、これら耐熱性の低い材質の基材を用いてカーボンナノチューブを形成し、電子放出素子を作製することができる。また、この電子放出素子を組み込んだ照明装置等において、高い電界放出効果により低電圧化、低消費電力、低発熱を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係るカーボンナノチューブ成膜装置の構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の成膜装置の制御部の構成例を説明する図面である。
【図3】図1の成膜装置を備えたマルチチャンバタイプの処理システムの構成例を示す図面である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るカーボンナノチューブの形成方法を示すフローチャートである。
【図5A】処理対象となる触媒金属層を有するウエハの構造を示す模式図である。
【図5B】酸素プラズマ処理によって、触媒金属層を微粒子化した状態を説明する模式図である。
【図5C】水素プラズマ処理によって、触媒金属微粒子を活性化した状態を説明する模式図である。
【図5D】カーボンナノチューブを形成した状態を模式的に説明する図面である。
【図6】カーボンナノチューブを形成する際のウエハWの温度変化の一例を示す図面である。
【図7】カーボンナノチューブを形成する際のウエハWの温度変化の別の例を示す図面である。
【図8】本発明の一実施の形態に係るカーボンナノチューブ照明装置の概略構成を示す図面である。
【図9】実施例1におけるカーボンナノチューブの形成実験の結果を示す基板断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図10】比較例1におけるカーボンナノチューブの形成実験の結果を示す基板断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図11】実施例2におけるカーボンナノチューブの形成実験の結果を示す基板断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
[成膜装置]
図1は、本発明の一実施の形態に係るカーボンナノチューブの形成方法に使用可能な成膜装置の一例を模式的に示す断面図である。図1に示す成膜装置100は、マイクロ波を平面アンテナの多数のマイクロ波放射孔から放射させて処理容器内に均質なマイクロ波プラズマを形成できるRLSA(Radial Line Slot Antenna)方式のマイクロ波プラズマ処理装置として構成されている。マイクロ波プラズマはラジカルを主体とする低電子温度プラズマであるため、プラズマCVD法によるカーボンナノチューブの形成処理及びその前処理としての酸素プラズマ処理、水素プラズマ処理に適している。
【0027】
この成膜装置100は、主要な構成として、略円筒状の処理容器1と、処理容器1内に設けられ、被処理体である半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」と記す)Wを載置するステージ3と、処理容器1内にマイクロ波を導入するマイクロ波導入部5と、処理容器1内にガスを導くガス供給部7と、処理容器1内を排気する排気部11と、成膜装置100の各構成部を制御する制御部13と、を有している。
【0028】
(処理容器)
処理容器1の底壁1aの略中央部には円形の開口部15が形成されており、底壁1aにはこの開口部15と連通し、下方に向けて突出する排気室17が設けられている。また、処理容器1の側壁には、ウエハWを搬入出するための搬入出口19と、この搬入出口19を開閉するゲートバルブG1とが設けられている。
【0029】
(ステージ)
ステージ3は、例えばAlN等のセラミックスから構成されている。ステージ3は、排気室17の底部中央から上方に延びる円筒状のセラミックス製の支持部材23により支持されている。ステージ3の外縁部にはウエハWをガイドするためのガイドリング25が設けられている。また、ステージ3の内部には、ウエハWを昇降するための昇降ピン(図示せず)がステージ3の上面に対して突没可能に設けられている。
【0030】
また、ステージ3の内部には抵抗加熱型のヒータ27が埋め込まれている。このヒータ27にヒータ電源29から給電することによりステージ3を介してその上のウエハWを加熱することができる。また、ステージ3には、熱電対(図示せず)が挿入されており、ウエハWの加熱温度を50〜650℃の範囲で制御可能となっている。なお、ウエハWの温度は、特に断りのない限り、ヒータ27の設定温度ではなく、熱電対により計測された温度を意味する。また、ステージ3内のヒータ27の上方には、ウエハWと同程度の大きさの電極31が埋設されている。この電極31は接地されている。
【0031】
(マイクロ波導入部)
マイクロ波導入部5は、処理容器1の上部に設けられ、多数のマイクロ波放射孔33aが形成された平面アンテナ33と、マイクロ波を発生させるマイクロ波発生部35と、誘電体からなる透過板39と、処理容器1の上部に設けられた枠状部材41と、マイクロ波の波長を調節する誘電体からなる遅波板43と、平面アンテナ33及び遅波板43を覆うカバー部材45と、を有している。また、マイクロ波導入部5は、マイクロ波発生部35で発生したマイクロ波を平面アンテナ33に導く導波管47及び同軸導波管49と、導波管47と同軸導波管49との間に設けられたモード変換器51とを有している。
【0032】
マイクロ波を透過させる透過板39は、誘電体、例えば石英やA1、AlN等のセラミックス等の材質で構成されている。透過板39は、枠状部材41に支持されている。この透過板39と枠状部材41との間は、Oリング等のシール部材(図示せず)により気密にシールされている。したがって、処理容器1内は気密に保持される。
【0033】
平面アンテナ33は、例えば円板状をなしており、表面が金または銀メッキされた銅板、アルミニウム板、ニッケル板およびそれらの合金などの導電性部材で構成されている。平面アンテナ33は、透過板39の上方(処理容器1の外側)において、ステージ3の上面(ウエハWを載置する面)とほぼ平行に設けられている。平面アンテナ33は、枠状部材41の上端に係止されている。平面アンテナ33は、マイクロ波を放射する多数の長方形状(スロット状)のマイクロ波放射孔33aを有している。マイクロ波放射孔33aは、所定のパターンで平面アンテナ33を貫通して形成されている。典型的には隣接するマイクロ波放射孔33aが所定の形状(例えばT字状)に組み合わされて対をなし、さらにそれが全体として同心円状、螺旋状、放射状等に配置されている。マイクロ波放射孔33aの長さや配列間隔は、マイクロ波の波長(λg)に応じて決定される。
【0034】
平面アンテナ33の上面には、真空よりも大きい誘電率を有する遅波板43が設けられている。この遅波板43は、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。遅波板43の材質としては、例えば石英、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリイミド樹脂などを用いることができる。
【0035】
これら平面アンテナ33および遅波材43を覆うように、カバー部材45が設けられている。カバー部材45は、例えばアルミニウムやステンレス鋼等の金属材料によって形成されている。カバー部材45の上壁(天井部)の中央には、同軸導波管49が接続されている。同軸導波管49は、平面アンテナ33の中心から上方に伸びる内導体49aとその周囲に設けられた外導体49bとを有している。同軸導波管49の他端側には、モード変換器51が設けられ、このモード変換器51は、導波管47によりマイクロ波発生部35に接続されている。導波管47は、水平方向に延びる矩形導波管であり、モード変換器51は、導波管47内をTEモードで伝播するマイクロ波をTEMモードに変換する機能を有している。
【0036】
(ガス供給部)
ガス供給部7は、処理容器1の内壁に沿ってリング状に設けられた第1のガス導入部としてのシャワーリング57と、このシャワーリング57の下方において、処理容器1内の空間を上下に仕切るように設けられた第2のガス導入部としてのシャワープレート59と、を有している。
【0037】
シャワーリング57は、処理容器1内空間へガスを導入するガス放出孔57aと、このガス放出孔57aに連通するガス流路57bとを有しており、該ガス流路57bは、ガス供給配管71を介して第1ガス供給部7Aに接続されている。第1ガス供給部7Aは、ガス供給配管71から分岐した3本の分岐管71a、71b、71cを有している。分岐管71aは、プラズマ生成ガス(例えばArガス)を供給するプラズマ生成ガス供給源73に接続されている。分岐管71bは酸素プラズマ処理に用いる酸素含有ガス(例えばOガス)を供給する酸素含有ガス供給源75に接続されている。分岐管71cは、不活性ガス(例えばNガス)を供給する不活性ガス供給源77に接続されている。なお、分岐管71a、71b、71cには、図示しない流量制御装置やバルブが設けられている。プラズマ生成ガスとしては、例えば希ガスなどを用いることができる。希ガスとしては、例えばAr、Ne、Kr、Xe、Heなどを用いることができる。これらの中でも、プラズマを安定に生成できるArを用いることが特に好ましい。酸素含有ガスとしては、例えば、O、HO、O、NO等を用いることができる。不活性ガスとしては、例えば、Nなどの不活性ガスを用いることができる。不活性ガス供給源77からの不活性ガスは、例えば、パージガス、圧力調整用ガス等の用途で使用される。
【0038】
シャワープレート59は、例えばアルミニウム等の材質からなる平面視格子状に形成されたガス分配部材61を有している。このガス分配部材61は、その格子状の本体部分の内部に形成されたガス流路63と、このガス流路63からステージ3に対向するように開口する多数のガス放出孔65とを有している。また、格子状のガス分配部材61は、多数の貫通開口67を有している。シャワープレート59のガス流路63には処理容器1の壁に達するガス供給路69が接続されており、このガス供給路69はガス供給配管79を介して第2ガス供給部7Bに接続されている。第2ガス供給部7Bは、ガス供給配管79から分岐した3本の分岐管79a、79b、79cを有している。分岐管79aは、水素プラズマ処理及びカーボンナノチューブの形成に用いる水素含有ガス(例えばHガス)を供給する水素含有ガス供給源81に接続されている。分岐管79bは、カーボンナノチューブの原料となる炭素含有ガス(例えばエチレンガス;C)を供給する炭素含有ガス供給源83に接続されている。分岐管79cは、不活性ガス(例えばNガス)を供給する不活性ガス供給源85に接続されている。なお、分岐管79a、79b、79cには、図示しない流量制御装置やバルブが設けられている。水素含有ガスとしては、例えばH、NH等を用いることができる。炭素含有ガスとしては、例えばエチレン(C)、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、プロピレン(C)、アセチレン(C)、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)等を用いることができる。不活性ガスとしては、例えば、Nなどの不活性ガスを用いることができる。不活性ガス供給源85からの不活性ガスは、例えばパージガス、キャリアガス等の用途で使用される。
【0039】
(排気部)
排気部11は、排気室17と、この排気室17の側面に設けられた排気管97と、この排気管97に接続された排気装置99とを有している。排気装置99は、図示は省略するが、例えば真空ポンプや圧力制御バルブ等を有している。
【0040】
(プラズマ生成空間・混合拡散空間)
成膜装置100では、処理容器1内において、マイクロ波を導入する透過板39と、シャワープレート59との間の空間S1に、シャワーリング57からプラズマ生成ガスを導入する構成となっている。従って、空間S1は主にプラズマ生成を行うプラズマ生成空間である。
【0041】
また、処理容器1内において、シャワープレート59とステージ3との間の空間S2は、シャワープレート59により導入される炭素含有ガスと、空間S1で生成したプラズマとを混合するとともに、プラズマ中の活性種をステージ3上のウエハWへ向けて拡散させる混合・拡散空間である。
【0042】
(制御部)
制御部13は、成膜装置100の各構成部を制御するモジュールコントローラである。制御部13は、典型的にはコンピュータであり、例えば図2に示したように、CPUを備えたコントローラ101と、このコントローラ101に接続されたユーザーインターフェース103および記憶部105を備えている。コントローラ101は、成膜装置100において、例えば温度、圧力、ガス流量、マイクロ波出力などのプロセス条件に関係する各構成部(例えば、ヒータ電源29、第1ガス供給部7A、第2ガス供給部7B、マイクロ波発生部35、排気装置99など)を制御する制御手段である。
【0043】
ユーザーインターフェース103は、工程管理者が成膜装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードやタッチパネル、成膜装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を有している。また、記憶部105には、成膜装置100で実行される各種処理をコントローラ101の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や処理条件データ等が記録されたレシピなどが保存されている。そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース103からの指示等にて任意のレシピを記憶部105から呼び出してコントローラ101に実行させることで、コントローラ101の制御により成膜装置100の処理容器1内で所望の処理が行われる。また、前記制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体107に格納された状態のものを利用できる。そのような記録媒体107としては、例えばCD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリなどを用いることができる。さらに、前記レシピを他の装置から例えば専用回線を介して伝送させて利用することも可能である。
【0044】
[処理システム]
次に、図3を参照しながら、本実施の形態のカーボンナノチューブの形成方法に利用可能な処理システムの構成例について説明する。図3に示す処理システム200は、複数(図3では4つ)のプロセスモジュール100A〜100Dを備えたマルチチャンバ構造のクラスタツールとして構成されている。
【0045】
処理システム200は、主要な構成として、4つのプロセスモジュール100A,100B,100C,100Dと、これらのプロセスモジュール100A〜100Dに対してゲートバルブG1を介して接続された真空側搬送室203と、この真空側搬送室203にゲートバルブG2を介して接続された2つのロードロック室205a,205bと、これら2つのロードロック室205a,205bに対してゲートバルブG3を介して接続されたローダーユニット207とを備えている。
【0046】
(プロセスモジュール)
4つのプロセスモジュール100A〜100Dは、それぞれが図1の成膜装置100と同様の構成を有しており、ウエハWに対して酸素プラズマ処理、水素プラズマ処理、及びカーボンナノチューブ形成処理を行うことができるように構成されている。なお、プロセスモジュール100A〜100DをウエハWに対して異なる処理を行うものとして構成することもできる。各プロセスモジュール100A〜100D内には、それぞれウエハWを載置するためのステージ3A,3B,3C,3Dが配備されている。
【0047】
(真空側搬送室)
真空引き可能に構成された真空側搬送室203には、プロセスモジュール100A〜100Dやロードロック室205a,205bに対してウエハWの受け渡しを行う第1の基板搬送装置としての搬送装置209が設けられている。この搬送装置209は、互いに対向するように配置された一対の搬送アーム部211,211を有している。各搬送アーム部211,211は同一の回転軸を中心として、屈伸及び旋回可能に構成されている。また、各搬送アーム部211,211の先端には、それぞれウエハWを載置して保持するためのフォーク213,213が設けられている。搬送装置209は、これらのフォーク213,213上にウエハWを載置した状態で、各プロセスモジュール100A〜100Dの間、あるいはプロセスモジュール100A〜100Dとロードロック室205a,205bとの間でウエハWの搬送を行う。
【0048】
(ロードロック室)
ロードロック室205a,205b内には、それぞれウエハWを載置するステージ206a,206bが設けられている。ロードロック室205a,205bは、真空状態と大気開放状態を切り替えられるように構成されている。このロードロック室205a,205bのステージ206a,206bを介して、真空側搬送室203と大気側搬送室219(後述)との間でウエハWの受け渡しが行われる。
【0049】
(ローダーユニット)
ローダーユニット207は、ウエハWの搬送を行う第2の基板搬送装置としての搬送装置217が設けられた大気側搬送室219と、この大気側搬送室219に隣接配備された3つのロードポートLPと、大気側搬送室219の他の側面に隣接配備され、ウエハWの位置測定を行なう位置測定装置としてのオリエンタ221とを有している。オリエンタ221は、図示しない駆動モータによって回転される回転板233と、この回転板233の外周位置に設けられ、ウエハWの周縁部を検出するための光学センサ237とを備えている。
【0050】
(大気側搬送室)
大気側搬送室219は、例えば窒素ガスや清浄空気などの循環設備(図示省略)を備えた平面視矩形形状をなしており、その長手方向に沿ってガイドレール223が設けられている。このガイドレール223に搬送装置217がスライド移動可能に支持されている。つまり、搬送装置217は図示しない駆動機構により、ガイドレール223に沿ってX方向へ移動可能に構成されている。この搬送装置217は、上下2段に配置された一対の搬送アーム部225,225を有している。各搬送アーム部225,225は屈伸及び旋回可能に構成されている。各搬送アーム部225,225の先端には、それぞれウエハWを載置して保持する保持部材としてのフォーク227,227が設けられている。搬送装置217は、これらのフォーク227,227上にウエハWを載置した状態で、ロードポートLPのウエハカセットCRと、ロードロック室205a,205bと、オリエンタ221との間でウエハWの搬送を行う。
【0051】
(ロードポート)
ロードポートLPは、ウエハカセットCRを載置できるようになっている。ウエハカセットCRは、複数枚のウエハWを同じ間隔で多段に載置して収容できるように構成されている。
【0052】
(統括制御部)
処理システム200の各構成部は、統括制御部250に接続されて制御される構成となっている。統括制御部250は、例えばロードロック室205a,205b、搬送装置209、搬送装置217等を制御するほか、各プロセスモジュール100A〜100Dを個別に制御する制御部13を統括して制御する。
【0053】
[カーボンナノチューブの形成方法]
次に、成膜装置100において行われるカーボンナノチューブの形成方法について説明する。図4は、本発明の一実施の形態に係るカーボンナノチューブの形成方法の手順を説明するためのフローチャートである。図5A〜図5Dは、カーボンナノチューブの形成方法の主要な工程を説明するウエハWの表面付近の縦断面図である。本実施の形態のカーボンナノチューブの形成方法では、カーボンナノチューブの形成に先立って行われる酸素プラズマ処理及び水素プラズマ処理を含めている。酸素プラズマ処理は、触媒金属を微粒子化するとともに、生成した触媒金属微粒子の表面を酸化することにより、凝集によって必要以上の大きさまで粒子が大きくなることを抑制する工程である。また、水素プラズマ処理は、酸素プラズマ処理で表面酸化された触媒金属微粒子の表面を還元して活性化する工程である。本実施の形態では、これら酸素プラズマ処理及び水素プラズマ処理を合わせてカーボンナノチューブ形成の「前処理」と称する。また、以下の説明では、プラズマ生成ガスとしてArガス、酸素含有ガスとしてOガス、水素含有ガスとしてHガス、不活性ガスとしてNガス、炭素含有ガスとしてCガスを用いる場合を例に挙げる。
【0054】
まず、触媒金属が形成されたウエハWを準備し、成膜装置100のゲートバルブG1を開放して、このウエハWを処理容器1内に搬入し、ステージ3上に載置する。このウエハWとしては、例えば図5Aに示すように、シリコン基板301の表層付近に、下地層303と、該下地層303の上に積層された下地層305と、該下地層305の上に積層された触媒金属層307と、が形成されたものを用いる。
【0055】
下地層303,305は、いずれも触媒金属の凝集による粗大化を防止する膜として機能するものであり、材質としては、例えばAl、Al、Ti、TiN、Ta、TaN、SiO等を挙げることができる。これらの下地層303,305を形成する手法としては、例えば、スパッタリング、蒸着法、CVD法、めっき等の公知の成膜技術を用いることができる。下地層303,305の厚さは、例えば、それぞれ5〜100nmであることが好ましい。なお、下地層303,305は、2層に限るものではなく、1層でもよい。また、下地層303,305より下層に、さらに絶縁層等の任意の層を有していてもよい。
【0056】
触媒金属層307は、カーボンナノチューブの成長の核となる触媒金属微粒子を形成するための金属膜である。触媒金属層307を構成する金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Ru、Au等の遷移金属、またはこれらの遷移金属を含む合金を挙げることができる。この触媒金属層307を形成する手法としては、例えば、スパッタリング、蒸着法、CVD法、めっき等の公知の成膜技術を用いることができる。触媒金属層307の厚さは、酸素プラズマ処理工程(STEP1)で生成される触媒金属微粒子の大きさに影響を与えるため、例えば0.1〜5nmとすることが好ましい。
【0057】
なお、半導体基板であるウエハWの代わりに、例えばガラス基板、プラスチック(高分子)基板などの基板を用いることもできる。
【0058】
(STEP1;酸素プラズマ処理)
STEP1では、ステージ3上に載置されたウエハWを加熱しながら、触媒金属層307に対して酸素プラズマ処理を施す。この処理は、触媒金属層307を酸素プラズマの作用によって微粒子化して、図5Bに示したように触媒金属微粒子307Aを生成させる工程である。すなわち、酸素プラズマ処理では、触媒金属層307の金属表面に付着している有機物等の不純物を酸素プラズマにより除去することで、金属原子が動きやすくなる。その結果、触媒金属層307の表面に加熱によるマイグレーションが起こり、触媒金属層307を構成している金属に適度の凝集が生じて微粒子化を進行させる。このように、酸素プラズマ処理では、熱とプラズマにより、触媒金属層307において、金属表面の原子が動けるだけのエネルギーを与え、金属原子がある程度寄り集まった島状に近い表面へと変化させる(これを「凝集」と呼ぶ)。この際に、生成した触媒金属微粒子307Aの表面は、酸素プラズマにより酸化され、必要以上の凝集によって粒子が大きくなることが抑制されるため、粒子の大きさを制御できる。
【0059】
STEP1で形成する触媒金属微粒子307Aの大きさとしては、例えば1〜50nm程度が好ましい。なお、触媒金属層307の最初の膜厚が薄いほど、形成される島の大きさが小さくなり、触媒金属微粒子307Aの直径も小さくなる。例えば触媒金属層307の膜厚が1nmでは生成する触媒金属微粒子307Aの直径は10nm程度、触媒金属層307の膜厚が2nmでは生成する触媒金属微粒子307Aの直径は20nm程度となる。
【0060】
STEP1では、シャワーリング57から処理容器1内にArガスおよびOガスを導入するとともに、マイクロ波発生部35で発生したマイクロ波を、導波管47及び同軸導波管49を介して所定のモードで平面アンテナ33に導き、平面アンテナ33のマイクロ波放射孔33a、透過板39を介して処理容器1内に導入する。このマイクロ波により、ArガスおよびOガスをプラズマ化し、ウエハW表面の触媒金属層307に酸素プラズマ処理を施し、触媒金属微粒子307Aに変化させる。
【0061】
酸素プラズマ処理の際の温度Tは、ウエハWの温度として、例えば100℃〜450℃とすることが好ましく、250℃〜350℃がより好ましい。温度Tが100℃未満では、触媒金属層307の微粒子化が十分に進行せず、450℃を超えると、触媒金属微粒子307Aの凝集が進み、肥大化するおそれがある。
【0062】
処理容器1内の圧力は、酸素プラズマ中のラジカルの生成を多くする観点から、例えば66.7〜400Pa(0.5〜3Torr)とすることが好ましく、133〜266Paがより好ましい。
【0063】
ガス流量は、触媒金属微粒子307Aの必要以上の酸化を抑制する観点から、例えば50〜500mL/min(sccm)とすることが好ましく、100〜200mL/min(sccm)がより好ましい。
【0064】
また、Arガス流量は、プラズマ中での活性種の生成効率を高める観点から、例えば100〜2000mL/min(sccm)とすることが好ましく、300〜1000mL/min(sccm)がより好ましい。
【0065】
マイクロ波パワーは、プラズマ中で活性種を効率よく生成させるとともに、低温でカーボンナノチューブの生成を可能にする観点から、例えば500W〜4000Wとすることが好ましく、500W〜1500Wがより好ましい。
【0066】
処理時間は、触媒金属層307から触媒金属微粒子307Aへの微粒子化を最適にする観点から、例えば1分〜20分とすることが好ましく、5分〜10分がより好ましい。
【0067】
STEP1の酸素プラズマ処理の終了時には、まずマイクロ波の供給を停止し、さらにOガスの供給を停止する。なお、この酸素プラズマ処理を行う際のガスとしては、例えばOガスの他、HO、O、H、NO、NO等を用いることができる。
【0068】
(STEP2;水素プラズマ処理)
次に、STEP2では、水素プラズマ処理を行う。水素プラズマ処理は、STEP1の後に行う処理であり、STEP1の酸素プラズマ処理により形成された触媒金属微粒子307Aの表面を水素プラズマにより還元して触媒金属微粒子307Aの活性化を行う(活性化処理)。図5Cでは、水素プラズマ処理された後の活性化触媒金属微粒子を符号307Bで示している。また、水素プラズマ処理を行うことにより、活性化触媒金属微粒子307Bを微粒子の状態に保ちながら高密度化することができる。
【0069】
STEP2では、STEP1の酸素プラズマ処理の終了後、Arガスを流したまま、マイクロ波発生部35から導波管47及び同軸導波管49を介してマイクロ波を平面アンテナ33に導き、透過板39を介して処理容器1内に導入する。このマイクロ波により、Arガスをプラズマ化し、プラズマが着火されたタイミングでシャワープレート59を介してHガスを処理容器1内に導入し、ArプラズマによりHガスをプラズマ化する。このように形成されたマイクロ波プラズマにより、触媒金属微粒子307Aの表面に水素プラズマ処理を施し、表面の酸化膜(図示せず)を還元して活性化触媒金属微粒子307Bへと変化させる。
【0070】
この水素プラズマ処理の温度Tは、触媒金属微粒子307Aの活性化を図りつつ、粒子の肥大化を防ぐ観点から、ウエハWの温度として、例えば100〜550℃とすることが好ましく、250〜550℃がより好ましい。温度Tが100℃未満では、触媒金属微粒子307Aの表面の酸化膜の還元が十分に進行せず活性化が不十分となり、550℃を超えると、活性化触媒金属微粒子307Bの凝集が進み、肥大化するおそれがある。また、水素プラズマ処理の温度Tは、酸素プラズマ処理の温度Tより高い(T>T)ことが必要である。この点は後述する。
【0071】
処理容器1内の圧力は、水素プラズマ中のラジカルの生成を多くする観点から、例えば66.7〜400Pa(0.5〜3Torr)とすることが好ましく、66.7〜133Paがより好ましい。
【0072】
ガス流量は、プラズマ中での活性種の効率的な生成の観点から、例えば100〜2000mL/min(sccm)とすることが好ましく、100〜500mL/min(sccm)がより好ましい。
【0073】
また、Arガス流量は、プラズマ中での活性種の生成効率を高める観点から、例えば100〜2000mL/min(sccm)とすることが好ましく、300〜1000mL/min(sccm)がより好ましい。
【0074】
マイクロ波パワーは、プラズマ中で活性種を効率よく生成させるとともに、低温でカーボンナノチューブの生成を可能にする観点から、例えば500W〜4000Wとすることが好ましく、500W〜1500Wがより好ましい。
【0075】
処理時間は、触媒金属微粒子307Aの凝集を抑制しながら高密度化及び活性化させる観点から、例えば1分〜15分が好ましく、5分〜10分がより好ましい。
【0076】
STEP2の水素プラズマ処理の終了時には、まずマイクロ波の供給を停止し、さらにHガスの供給を停止する。なお、この水素プラズマ処理を行う際のガスとしてはHガスの代わりに、NHガス等の水素含有ガスを用いることができる。
【0077】
(STEP3;カーボンナノチューブの形成)
次に、STEP3では、カーボンナノチューブの形成を行う。このカーボンナノチューブの形成は、水素プラズマ処理によって活性化された活性化触媒金属微粒子307Bが不活性化することを防止するため、STEP2の水素プラズマ処理に引き続き行うことが好ましく、水素プラズマ処理と同一の処理容器内において連続して行うことがより好ましい。成膜装置100において、カーボンナノチューブの形成は、例えばプラズマCVD法により行うことができる。
【0078】
STEP3では、例えばSTEP2の水素プラズマ処理の後、Arガスを所定流量で流したまま、マイクロ波発生部35から導波管47及び同軸導波管49を介してマイクロ波を平面アンテナ33に導き、透過板39を介して処理容器1内に導入する。このマイクロ波により、Arガスをプラズマ化し、プラズマが着火したタイミングでシャワープレート59を介してCガスおよびHガスを処理容器1内に導入し、ArプラズマによりCガスおよびHガスをプラズマ化する。そして、生成したマイクロ波プラズマにより、図5Dに示すように、活性化触媒金属微粒子307Bの上にカーボンナノチューブ309を形成する。
【0079】
プラズマCVD法によるカーボンナノチューブ309の成長処理の際の温度Tは、低温プロセスを実現する観点から、ウエハWの温度として、例えば100℃〜550℃とすることが好ましく、100℃〜350℃がより好ましい。本実施の形態では、前処理として、上記STEP1の酸素プラズマ処理とSTEP2の水素プラズマ処理を行うことにより、550℃以下、好ましくは350℃以下の低い温度でカーボンナノチューブ309を成長させることが可能である。なお、この温度Tは、水素プラズマ処理(STEP2)と異なっていてもよいし、同じ温度でもよい。水素プラズマ処理(STEP2)と同じ温度の場合は、スループットを高めることができる。
【0080】
処理容器1内の圧力は、プラズマ中のラジカルの生成を多くする観点から、例えば66.7〜400Pa(0.5〜3Torr)とすることが好ましく、266Pa〜400Paがより好ましい。
【0081】
ガス流量は、プラズマ中で活性種を効率的に生成させる観点から、例えば、5〜200mL/min(sccm)とすることが好ましく、6〜30mL/min(sccm)がより好ましい。
【0082】
また、Arガス流量は、プラズマを安定して生成させる観点から、例えば100〜2000mL/min(sccm)とすることが好ましく、300〜1000mL/min(sccm)がより好ましい。
【0083】
また、また、CガスとともにHガスを処理容器1内に導入することで、カーボンナノチューブ309の成長速度を速め、かつ品質を向上させることができる。ただしHガスの使用は任意である。Hガスを用いる場合、その流量は、プラズマ中で活性種を効率的に生成させる観点から、例えば、100〜2000mL/min(sccm)とすることが好ましく、300〜1200mL/min(sccm)がより好ましい。
【0084】
マイクロ波パワーは、活性種を効率的に生成させてカーボンナノチューブ309の成長を促進する観点から、例えば500W〜4000Wとすることが好ましく、500W〜1500Wがより好ましい。
【0085】
処理時間は、触媒活性が低下することを防ぎつつ、十分な長さまでカーボンナノチューブ309を成長させる観点から、例えば1分〜60分とすることが好ましく、5分〜20分がより好ましい。
【0086】
プラズマCVD法によるカーボンナノチューブ309の形成においては、エチレン(C)ガスに限らず、例えばメタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、プロピレン(C)、アセチレン(C)等の他の炭化水素ガスや、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)等の炭素含有ガスを用いることができる。また、プラズマ生成用のArガスに替えて、例えば、N、He、Ne、Kr、Xeなどの希ガスを用いることもできる。さらに、炭素含有ガス及び希ガスに加えて、H、NHなどの還元性ガス、またはO、O、HO、NOなどの酸化性ガスを同時に処理容器1内に導入することで、カーボンナノチューブ309の成長速度を高くすることが可能であり、また、品質を向上させることができる。
【0087】
プラズマCVD法では、カーボンナノチューブ309が活性化触媒金属微粒子307Bの性状を保ったまま成長する。したがって、STEP2の水素プラズマ処理により、活性化および高密度化された活性化触媒金属微粒子307Bの上に、高密度のカーボンナノチューブ309をウエハW(下地層305)表面に対して略垂直に配向させることができる。また、プラズマCVD法では、100℃〜350℃の低温でもカーボンナノチューブ309を形成することができるため、例えばガラス基板や合成樹脂製(高分子)基板などの耐熱性の低い基板上にもカーボンナノチューブ309を形成できる。
【0088】
以上のSTEP1〜STEP3の工程によってカーボンナノチューブ309を形成した後、まずマイクロ波の供給を停止し、さらにArガス等のガスの供給を停止し、処理容器1内の圧力を調整した後に、ゲートバルブG1を開放してウエハWを搬出する。なお、本実施の形態のカーボンナノチューブの形成方法は、上記STEP1〜STEP3以外の任意の工程を含むことができる。例えば、STEP1〜STEP3の各工程の間に、排気装置99によって一旦処理容器1内を急速に排気した後、ArガスやNガスを流し、処理容器1内をパージする工程を設けてもよい。
【0089】
[前処理の温度]
次に、前処理として行われるSTEP1の酸素プラズマ処理における温度Tと、STEP2の水素プラズマ処理における温度Tとの関係について説明する。STEP1の酸素プラズマ処理は、STEP2の水素プラズマ処理よりも相対的に低い温度Tで行うことで(つまり、T>T)、触媒金属層307の微粒子化の過程で、生成した触媒金属微粒子307Aの凝集を抑制できる。一方、STEP2の水素プラズマ処理は、酸素プラズマ処理よりも相対的に高い温度Tで行うことにより、触媒金属微粒子307Aの表面を効率的に還元し、高い活性状態にすることができる。本発明では、このようにSTEP1とSTEP2の処理温度に差を設けることによって、酸素プラズマ処理と水素プラズマ処理の効果を最大限に引き出すことができる。
【0090】
上記のように温度Tは100℃〜450℃の範囲内であり、温度Tは100℃〜550℃の範囲内であるが、温度Tと温度Tとの温度差(T−T)が50℃以上あることが好ましく、100℃以上あることがより好ましい。T−Tを50℃以上に設定することによって、STEP1とSTEP2との境界を明確にし、各処理における効果を最大限に引き出すことができる。すなわち、温度差(T−T)を設けることにより、STEP1の酸素プラズマ処理における触媒金属の微粒子化及び生成した触媒金属微粒子307Aの表面酸化と、STEP2の水素プラズマ処理における触媒金属微粒子307Aの活性化(酸化表面の還元)を、それぞれ確実に行うことができる。
【0091】
また、STEP1からSTEP2への移行は、温度TからTへのウエハWの温度変化が段階的に生じるように行うことが好ましい。ここで、「温度変化が段階的」とは、ゆっくりと傾斜的に温度上昇させるのではなく、STEP1からSTEP2へ移行する間に、少なくとも100℃/分以上(好ましくは200℃/分〜300℃/分)の急激な温度変化を生じさせてウエハWを昇温させることを意味する。
【0092】
温度TからTへウエハWの温度変化を段階的に生じさせる方法の例として、以下第1の方法及び第2の方法を挙げて説明する。
【0093】
(第1の方法)
第1の方法として、ステージ3を複数使用し、ウエハWを、温度Tに加熱できるように設定されたステージ3から、温度Tに加熱できるように設定された別のステージ3へ短時間で移送する方法が挙げられる。第1の方法は、例えば図3に示したようなマルチチャンバ形式の処理システム200において好ましく実施できる。例えば、図3の処理システム200において、プロセスモジュール100Aのステージ3Aにおいて温度TでSTEP1の酸素プラズマ処理を実施し、終了後に、搬送装置209によって、ウエハWをプロセスモジュール100B〜100Dのいずれかのステージ3B〜3Dに移送し、温度Tで水素プラズマ処理を実施する。この際にウエハWを搬入するいずれかのプロセスモジュール100B〜100Dのステージ3B〜3Dは、ウエハWの加熱温度が温度Tになるように設定しておく。このように、温度TでSTEP1の処理が終了したウエハWを、直ちに別のチャンバに入れ替え、温度TでSTEP2の処理を行うことにより、ウエハWの温度を段階的に昇温させることができる。
【0094】
第1の方法における温度変化の一例を図6に示した。まず、初期温度TのウエハWを時点tで、例えばプロセスモジュール100Aのステージ3A上に載置する。ステージ3Aは、ウエハWを温度Tに加熱できるようにヒータ電源29からヒータ27への出力が調節されている。時点tからtまでは、ウエハWを初期温度TからSTEP1の酸素プラズマ処理のための温度Tまで昇温させる期間である。そして、ウエハWの温度がTまで上昇した時点tからtまでの間酸素プラズマ処理を行う。
【0095】
STEP1の酸素プラズマ処理が終了したら、ウエハWをプロセスモジュール100Aから搬出し、搬送装置209によって、例えばプロセスモジュール100Bのステージ3B上に移送する。ステージ3Bは、ウエハWを温度Tに加熱できるようにヒータ電源29からヒータ27への出力が調節されている。なお、プロセスモジュール100Aから搬出し、プロセスモジュール100Bへ搬入する間に若干ウエハWの温度の低下が生じるが、搬送装置209によるウエハWの移送を迅速に行うことで無視できる範囲の低下であるため、図6では図示を省略している。プロセスモジュール100Bのステージ3B上に載置されたウエハWは、時点tからtまでの間に温度Tまで急速に加熱される。この時点tからtまでのウエハWの昇温速度は、上述のとおり少なくとも100℃/分以上となるようにする。この時点tからtまでの区間は、短いほどよい。
【0096】
次に、時点tから時点tまで、温度TでSTEP2の水素プラズマ処理を行う。この水素プラズマ処理が終了したら、温度T(この場合は温度Tと同じ)を維持したまま、引き続き時点tから時点tまで、プラズマCVD法によってSTEP3のカーボンナノチューブ309の形成処理を行う。なお、カーボンナノチューブ309の形成処理は、温度T以外の温度で行うこともできる。つまり、温度Tと温度Tは異なっていてもよい。時点tでカーボンナノチューブ309の形成が終了したら、搬送装置209によりプロセスモジュール100BからウエハWを搬出し、ロードロック室205a又は205bを介して搬送装置217により、いずれかのロードポートLPに収容する。その後、時点tまでの降温過程で、ウエハWの温度は初期温度Tに戻る。
【0097】
(第2の方法)
STEP1とSTEP2との間で、温度TからTへの変化を段階的に生じさせるための第2の方法として、一つのステージ3を使用し、温度Tで酸素プラズマ処理を行った後、一旦ウエハWをこのステージ3から別の場所へ移送し、ヒータ電源29からヒータ27への出力を調節して当該ステージ3がウエハWを温度Tに加熱できるまで昇温した段階で、再び当該ステージ3へウエハWを戻す方法を挙げることができる。この場合、再びステージ3へ戻されたウエハWは、少なくとも100℃/分以上の昇温速度で温度Tまで加熱される。また、STEP1とSTEP2との間で、ウエハWを別の場所に保持している間、ウエハWの温度が温度Tよりも低い温度に低下することがあってもよい。
【0098】
第2の方法は、図3に示した処理システム200において、例えばプロセスモジュール100Aのステージ3Aにおいて温度TでSTEP1の酸素プラズマ処理を実施し、終了後に、搬送装置209によって、ウエハWを一旦プロセスモジュール100Aからロードロック室205a(又は205b)へ移送し、ステージ206a(又は206b)へ載置する。そして、該ロードロック室205a(又は205b)でウエハWを待機させている間に、ヒータ27にヒータ電源29から給電することでステージ3Aの温度を上昇させる。ステージ3Aの温度がウエハWを温度Tで加熱できるまで上昇した段階で、搬送装置209によって、再びウエハWをプロセスモジュール100Aに搬入し、ステージ3Aに載置する。なお、第2の方法は、図3のようなマルチチャンバ形式の処理システム200に限らず、単一のチャンバとロードロック室とを備えた処理装置においても同様に実施できる。また、ウエハWを待機させる場所はロードロック室に限らず、ウエハWを保持できる限り任意の場所を利用できる。
【0099】
第2の方法における温度変化の一例を図7に示した。まず、初期温度TのウエハWを時点t11でプロセスモジュール100Aのステージ3A上に載置する。ステージ3Aは、ウエハWを温度Tに加熱できるようにヒータ電源29からヒータ27への出力が調節されている。時点t11からt12までは、ウエハWを初期温度TからSTEP1の酸素プラズマ処理のための温度Tまで昇温させる期間である。そして、時点t12からt13までの間に温度Tで酸素プラズマ処理を行う。
【0100】
STEP1の酸素プラズマ処理が終了したら、ウエハWをプロセスモジュール100Aから搬出し、ロードロック室205a(又は205b)へ移送し、ステージ206a(又は206b)へ載置する。ウエハWを搬出したプロセスモジュール100Aでは、ヒータ電源29からヒータ27への出力を上げてステージ3Aの温度を上昇させる。ステージ3Aは、ウエハを温度Tに加熱できるようになるまで昇温される。
【0101】
プロセスモジュール100Aから搬出し、ロードロック室205a(又は205b)に一時的に収容された待機状態のウエハWは、時点t13からt14までの間に温度Tまで下降し、その後、時点t14からt15まで同温度に保持される。温度Tは、例えば100℃程度であってもよい。なお、時点t14からt15までの間は、特段の温度管理を行わなくて良いので、必ずしも温度Tに保持する必要はない。
【0102】
次に、プロセスモジュール100Aのステージ3Aの温度が十分に上昇した段階で、ウエハWをロードロック室205a(又は205b)からプロセスモジュール100Aのステージ3Aへ戻す。ステージ3A上に載置されたウエハWは、時点t15からt16までの間に温度Tまで急速に加熱される。この時点t15からt16までのウエハWの昇温速度は、上述のとおり、少なくとも100℃/分以上となるようにする。この時点t15からt16までの区間は、短いほどよい。
【0103】
次に、時点t16から時点t17まで、温度TでSTEP2の水素プラズマ処理を行う。この水素プラズマ処理が終了したら、温度T(この場合は温度Tと同じ)を維持したまま、時点t17から時点t18まで、引き続きプラズマCVD法によってSTEP3のカーボンナノチューブ309の形成処理を行う。なお、カーボンナノチューブ309の形成処理は、温度T以外の温度で行うこともできる。つまり、温度Tと温度Tは異なっていてもよい。カーボンナノチューブ309の形成が終了したら、プロセスモジュール100AからウエハWを搬出し、ロードロック室205a又は205bを介して搬送装置217により、いずれかのロードポートLPに収容する。その後、時点t19までの降温過程で、ウエハWの温度は初期温度Tに戻る。
【0104】
以上のように、温度TからTへウエハWの温度変化を段階的に生じさせる方法を採用することにより、STEP1の酸素プラズマ処理と、STEP2の水素プラズマ処理を、温度管理において明確に区別することができる。これにより、STEP1では、触媒金属層307の微粒子化と表面酸化を適度に進行させ、STEP2では生成した触媒金属微粒子307Aに過度の凝集を生じさせることなく、粒子表面を効率的に還元し、高い活性状態にすることができる。本発明では、このようにSTEP1とSTEP2の処理温度に差を設けることによって、酸素プラズマ処理と水素プラズマ処理とを組み合わせて実施する効果を最大限に引き出し、微粒子化および高密度化された活性化触媒金属微粒子307Bの上に、ウエハW(下地層305)表面に対して略垂直に配向した高密度のカーボンナノチューブ309を形成できる。
【0105】
なお、上記第1の方法及び第2の方法はあくまでも例示であり、これらに限定されるものではない。すなわち、温度TからTへ移行させる際の温度管理を、上記第1の方法及び第2の方法と同様に段階的に実現できれば、他の構成の装置を使用することが可能であり、また、温度履歴についても種々の変形が可能である。
【0106】
本実施の形態の方法により製造されるカーボンナノチューブは、後述するように、電子放出素子やカーボンナノチューブ照明装置に利用できるほか、例えば半導体装置のビア配線などの用途にも利用できる。
【0107】
[電子放出素子及びカーボンナノチューブ照明装置]
次に、本発明方法によって形成されるカーボンナノチューブを電子放出素子及びカーボンナノチューブ照明装置に適用した例について説明する。図8は、カーボンナノチューブを電子放出素子として用いたカーボンナノチューブ照明400の概略構成を示している。カーボンナノチューブ照明400は、カソード基板401、カソード電極402、第1の触媒層403、第2の触媒層404及びカーボンナノチューブ405を有するエミッタ部410と、蛍光層(白色)411、アノード電極412及びアノード基板413を有する発光部420と、前記カソード電極402と前記アノード電極412との間に電圧を印加する外部電源430と、を備えている。ここで、エミッタ部410のカソード電極402とカーボンナノチューブ405は、第1の触媒層403及び第2の触媒層404を介して電気的に接続されている。また、カソード電極402とカーボンナノチューブ405は、電子放出素子を構成している。
【0108】
(エミッタ部)
エミッタ部410は、カソード基板401、カソード電極402、第1の触媒層403、第2の触媒層404及びカーボンナノチューブ405を積層した構造を有している。カソード基板401としては、例えば100℃〜350℃程度の加熱に耐えうるものであれば良く、例えばシリコン基板、ガラス基板、合成樹脂(高分子)基板を用いることができる。また、カソード電極402を構成する材料としては、導電性材料であれば特に限定されず、例えば銅、アルミニウム、ニッケル、鋼、ステンレス等を用いることができるが、紫外光・可視光・赤外光で反射率が高く安価なアルミニウムが最も好ましい。カソード電極402の厚さは、例えば1〜10μm程度が好ましい。第1の触媒層403は、第2の触媒層404の下地層として、例えばAl、Al、TiNなどから構成することができる。第1の触媒層403を介在させることで、第2の触媒層404の触媒活性を持続させることができる。第2の触媒層404は、カーボンナノチューブ405の成長を促進するための触媒を配置する。第2の触媒層404の材質としては、特に限定されるものではなく、例えば遷移金属を用いることが好ましく、特に鉄族のFe、Co、Niが望ましい。
【0109】
(発光部)
発光部420は、蛍光層(白色)411、アノード電極412、及びアノード基板413を積層させた構造を有しており、アノード基板413の表面を発光面とする。蛍光層411は、カーボンナノチューブ405に対向して、アノード電極412に積層して設けられ、電子放出素子から放出された電子を受けて発光する部位である。蛍光層411に用いる蛍光体は、発光する波長や用途に応じ、適宜選択することができる。蛍光体としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化イットリウムなどの微粒子を用いることができる。蛍光層411は、例えば、塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法などにより形成することができる。アノード電極412は、カソード電極402及びカーボンナノチューブ405を含む電子放出素子と対向して配置される。アノード電極412は、透明導電性材料膜であればよく、その材質として、例えば酸化インジウムスズ(ITO)、グラフェン、酸化亜鉛、酸化スズ等を用いることができる。アノード電極412は、例えばスパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法、スプレー法、ディップ法などの方法でアノード基板413上に形成できる。アノード基板413は、透光性を示す材料であればよく、例えばガラス基板のほか、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの合成樹脂(高分子)基板を用いることができる。
【0110】
カーボンナノチューブ照明400では、少なくともカソード電極402とアノード電極412との間を真空に保持できるように、例えば真空排気された容器(図示せず)中に設置される。
【0111】
以上のような構成のカーボンナノチューブ照明400では、エミッタ部410のカソード電極402と、発光部420のアノード電極412との間に外部電源430により電圧を印加する。これにより、電界放出効果によってカーボンナノチューブ405の先端部から電子eが放出されて蛍光層411に入射し、発光が生じる。この光はアノード電極412及びアノード基板413を透過してアノード基板413の表面から外部に照射される。
【0112】
カーボンナノチューブ照明400では、カソード電極402及びアノード電極412に対して略垂直に配向したカーボンナノチューブ405を備えているため、均一かつ高効率の電界放出が可能である。従って、高い電界放出効果により低電圧化、低消費電力、低発熱の照明装置を実現できる。また、350℃以下の低温で略垂直に配向したカーボンナノチューブを形成することによって、ガラス基板や高分子基材を用いる照明装置への適用も可能である。カーボンナノチューブ照明400の具体的な用途としては、例えば屋内・屋外の一般照明;野菜工場などの工場などにおける大規模照明設備;液晶バックライト、LEDディスプレイ光源等のディスプレイ用途;赤外線センサ光源、産業用光センサ光源などのセンシング用途;交通信号灯、非常灯などのシグナル用途;内視鏡などの医療用光源を例示することができる。
【0113】
また、本実施の形態の電子放出素子は、強電界によって電子を放出する電界放射型の電子放出素子として、上記照明装置に限らず、例えば、光プリンタ、電子顕微鏡、電子ビーム露光装置などの電子発生源や、電子銃、平面ディスプレイを構成するアレイ状のフィールドエミッタアレイの電子源などの各種用途にも利用可能である。
【0114】
次に、実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより制約されるものではない。
実施例1:
図5Aと同様に、シリコン基板301上に下地層303,305及び触媒金属層307が積層形成されたウエハを準備した。下地層303はSiOにより厚さ200nmに、下地層305はTiNにより厚さ70nmに、触媒金属層307はNiにより厚さ2nmに、それぞれ形成した。このウエハWを図1の成膜装置100と同様の構成を有する成膜装置の処理容器内に搬入し、下記の条件で、酸素プラズマ処理、水素プラズマ処理及びパージ処理を行った後、プラズマCVD法によってカーボンナノチューブを成長させた。なお、酸素プラズマ処理と水素プラズマ処理との間に、ウエハWを一旦ロードロック室に待機させることにより、酸素プラズマ処理の温度Tから水素プラズマ処理の温度Tまでの温度変化が240℃/分以上の昇温過程を含むように段階的に行った。また、水素プラズマ処理とカーボンナノチューブの形成は同じ温度で行った。
【0115】
<酸素プラズマ処理の条件>
処理温度:300℃(ステージ設定温度;400℃)
処理圧力:267Pa(2Torr)
処理ガス:
ガス 100mL/min(sccm)
Arガス 450mL/min(sccm)
マイクロ波パワー:2.0kW
処理時間:10分間
【0116】
<ロードロック室での待機の条件>
待機時間:約8分間
待機温度:100℃(安定時)
【0117】
<水素プラズマ処理の条件>
処理温度:350℃(ステージ設定温度;450℃)
処理圧力:66.7Pa(0.5Torr)
処理ガス:
ガス 462mL/min(sccm)
Arガス 450mL/min(sccm)
マイクロ波パワー:1kW
処理時間:10分間
【0118】
<パージ処理の条件>
処理圧力:400Pa(3Torr)
処理ガス:
ガス 200mL/min(sccm)
処理時間:2分間
【0119】
<カーボンナノチューブ形成(プラズマCVD処理)の条件>
処理温度:350℃(ステージ設定温度;450℃)
処理圧力:400Pa(3Torr)
処理ガス:
ガス 6.3mL/min(sccm)
ガス 370mL/min(sccm)
Arガス 450mL/min(sccm)
マイクロ波パワー:0.5kW
処理時間:30分間
【0120】
このようにして成長させたカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した結果を図9に示した。図9より、カーボンナノチューブは、基板表面で略垂直に近い状態で配向し、高密度に形成されていることが確認された。カーボンナノチューブの長さは、平均で1.1μmであった。
【0121】
比較例1
水素プラズマ処理及びカーボンナノチューブ形成(プラズマCVD処理)の温度を300℃とした以外は、実施例1と同様にしてカーボンナノチューブの形成を試みた。その結果を図10に示した。図10より、カーボンナノチューブは、基板表面で略垂直に近い状態で配向し、高密度に形成されていることが確認された。ただし、カーボンナノチューブの長さは、平均で0.1μmであり、実施例1に比べて極端に短く、電界電子放出型の照明装置などの高アスペクト比が要求される用途には不向きであった。
【0122】
実施例2
水素プラズマ処理及びカーボンナノチューブ形成(プラズマCVD処理)の温度を470℃とした以外は、実施例1と同様にしてカーボンナノチューブの形成を試みた。その結果を図11に示した。図11より、カーボンナノチューブは、基板表面で略垂直に近い状態で配向し、高密度に形成されていることが確認された。カーボンナノチューブの長さは、平均で1.6μmであった。ただし、実施例1に比べて処理温度が高いため、ガラス基板や合成樹脂製基板への適用には制約があると考えられた。
【0123】
以上の実験結果から、マイクロ波プラズマを利用する成膜装置100を用いて、触媒金属層を形成した基板に、温度Tで酸素プラズマ処理を行い、温度Tより高い温度Tで水素プラズマ処理(活性化処理)を行うことにより、基板表面に対して略垂直に配向したカーボンナノチューブを高密度に形成できることが確認された。また、カーボンナノチューブの形成をプラズマCVD法によって行うことにより、350℃以下の低温で基板表面に対して略垂直に配向したカーボンナノチューブ形成できることが確認された。
【0124】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態においては、酸素プラズマ処理、水素プラズマ処理及びプラズマCVD処理をRLSAマイクロ波プラズマ方式のプラズマ処理装置で行った例を示したが、他のマイクロ波プラズマ方式を用いてもよいし、マイクロ波プラズマに限らず、例えば、誘導結合プラズマ、容量結合プラズマ等の他の方式のプラズマを用いてもよい。
【符号の説明】
【0125】
1…処理容器、3…ステージ、5…マイクロ波導入部、7…ガス供給部、11…排気部、13…制御部、100…成膜装置、W…半導体ウエハ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に触媒金属層が形成された基板を準備する工程と、
前記触媒金属層に温度Tで酸素プラズマを作用させ、表面が酸化された触媒金属微粒子を形成する工程と、
前記触媒金属微粒子に前記温度Tより高い温度Tで水素プラズマを作用させ、前記触媒金属微粒子の表面を還元して活性化する工程と、
前記活性化された触媒金属微粒子の上に温度TでプラズマCVD法によりカーボンナノチューブを成長させる工程と、
を備えているカーボンナノチューブの形成方法。
【請求項2】
前記温度Tが100℃〜450℃の範囲内であり、前記温度Tが100℃〜550℃の範囲内である請求項1に記載のカーボンナノチューブの形成方法。
【請求項3】
前記温度Tと前記温度Tとの温度差(T−T)が50℃以上である請求項2に記載のカーボンナノチューブの形成方法。
【請求項4】
前記温度Tから前記温度Tまでの温度変化の過程で、少なくとも100℃/分以上の昇温速度による加熱区間を有している請求項1から3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの形成方法。
【請求項5】
前記活性化する工程と、前記カーボンナノチューブを成長させる工程を、同一の処理容器内で連続的に行う請求項1から4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの形成方法。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブを成長させる工程を、前記温度Tが100℃〜550℃の範囲内で行う請求項1から5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの形成方法。
【請求項7】
前記基板が、ガラス基板又は合成樹脂製基板である請求項1から6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブの形成方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法により形成されたカーボンナノチューブと、
前記カーボンナノチューブに電気的に接続されたカソード電極と、
を備えた電子放出素子。
【請求項9】
請求項8に記載の電子放出素子と、
前記電子放出素子に対向して配置されたアノード電極と、
前記アノード電極に積層され、前記カーボンナノチューブとの間に配置された蛍光層と、
を備えた照明装置。
【請求項10】
基板上に形成された触媒金属微粒子の上にプラズマCVD法によってカーボンナノチューブを成長させる前に行う前処理方法であって、
表面に触媒金属層が形成された基板を準備する工程と、
前記触媒金属層に温度Tで酸素プラズマを作用させ、表面が酸化された触媒金属微粒子を形成する工程と、
前記触媒金属微粒子に前記温度Tより高い温度Tで水素プラズマを作用させ、前記触媒金属微粒子の表面を還元して活性化する工程と、
を備えている前処理方法。
【請求項11】
前記温度Tが100℃〜450℃の範囲内であり、前記温度Tが100℃〜550℃の範囲内である請求項10に記載の前処理方法。
【請求項12】
前記温度Tと前記温度Tとの温度差(T−T)が50℃以上である請求項11に記載の前処理方法。
【請求項13】
前記温度Tから前記温度Tまでの温度変化の過程で、少なくとも100℃/分以上の昇温速度による加熱区間を有している請求項10から12のいずれか1項に記載の前処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−176856(P2012−176856A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39490(P2011−39490)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】