ガスタービンエンジン用ブレードの製造方法
【課題】ガスタービンエンジン用ブレードの製造方法の生産性を向上させる。
【解決手段】熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材シート10を、互いに積層して積層体11を形成する積層工程S1と、積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに3次元曲面形状を付与し、当該部位11aの中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片12を成形する翼片成形工程S2と、複数の翼片12を、互いに重ね合わせた状態で加熱および加圧して一体化し、所定の翼面形状に成形する一体化工程S3と、を備えているガスタービンエンジン用ブレードの製造方法である。
【解決手段】熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材シート10を、互いに積層して積層体11を形成する積層工程S1と、積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに3次元曲面形状を付与し、当該部位11aの中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片12を成形する翼片成形工程S2と、複数の翼片12を、互いに重ね合わせた状態で加熱および加圧して一体化し、所定の翼面形状に成形する一体化工程S3と、を備えているガスタービンエンジン用ブレードの製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジン用ブレードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、強化繊維を含み、かつ熱可塑性樹脂をマトリックスとする複合材プリプレグから、ガスタービンエンジン用ファンブレードを製造する方法が開示されている。この製造方法では、積層位置に応じて大きさおよび形状の異なるプリプレグを平面上に厚さ方向に積層して積層体を形成し、この積層体を加熱および加圧して平板形状に成形したものを、再度加熱および加圧して3次元曲面形状の翼片に成形し、この翼片を複数重ねたものを加熱および加圧して一体化することで、ファンブレードの3次元翼面形状を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2009/119830号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1にかかる製造方法では、比較的薄い翼片の段階で3次元曲面形状を付与しているため、容易かつ高精度に3次元曲面形状を得ることができるものの、プリプレグを積層位置に応じて異なる大きさおよび形状に裁断し、それらを正しい位置に積層する必要があるため、ブレードの生産性を向上させることが困難であった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、ガスタービンエンジン用ブレードの製造方法の生産性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材シートを、互いに積層して積層体を形成する積層工程と、前記積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与し、当該部位の中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片を成形する翼片成形工程と、複数の前記翼片を、互いに重ね合わせた状態で加熱および加圧して一体化し、所定の翼面形状に成形する一体化工程と、を備えているガスタービンエンジン用ブレードの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかる製造方法によれば、積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与し、当該部位の中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片を成形するので、積層工程の段階において、複合材シートを積層位置に応じて異なる大きさおよび形状に裁断する必要がない。また、仮に、積層体の各層を構成する複合材シート間に層ずれ(面方向の位置ずれ)が生じたとしても、翼片成形工程において3次元曲面形状を付与された積層体の周縁部をトリミング等すればよく、積層体を形成してから積層体の各層の複合材シートが一体化されるまでの間に、上記層ずれを厳密に管理する必要がない。従って、本発明にかかる製造方法によれば、積層工程に要する時間が大幅に短縮され、かつ、作業工程も簡略化され、ブレードの生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態にかかるブレードの側面図である。
【図2】図1のブレードの正面図である。
【図3】図1のブレードの平面図である。
【図4】図1のIV−IV断面図である。
【図5】図1のV−V断面図である。
【図6】本発明の実施形態にかかるブレードの製造方法を示すフロー図である。
【図7】本発明の実施形態にかかるブレードの製造方法の詳細を示すフロー図である。
【図8】比較例にかかるブレードの製造方法を示すフロー図である。
【図9】図8の製造方法で翼片を製造した場合の所要時間を説明する図である。
【図10】本発明の実施例1にかかるブレードの製造方法を示すフロー図である。
【図11】図10の製造方法で翼片を製造した場合の所要時間を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明において同様の部材には同様の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図1〜5中の「軸方向」「径方向」「回転方向」は、ブレード各部の位置関係を説明するために、便宜上定めたものであり、実際のブレードの取付姿勢を規定するものではない。なお、これらの「軸方向」等は、ブレードが取付けられる典型的なガスタービンエンジンの軸方向等に対応している。
【0010】
本実施形態に係るブレードは、航空機用ジェットエンジン等のガスタービンエンジンに用いられる動翼としてのブレード1(例えば、ファンブレード等)である。
【0011】
図1〜5に示すように、ブレード1は、図示しないファンディスクなどの支持構造物に支持される基部2と、該基部2から径方向外側に延びる翼部3とを備えている。
【0012】
翼部3は、空力計算により求められた所定の翼面形状を有している。該翼部3の翼面形状は、前縁3aと、後縁3bと、前縁3aから後縁3bまで延在する回転方向前側の側面である正圧面3cと、前縁3aから後縁3bまで延在する回転方向後側の側面である負圧面3dとによって画成されている。
【0013】
翼部3の翼面形状は、径方向に垂直な断面において、略翼型形状を呈する。すなわち、翼部3の各径方向位置における径方向に垂直な断面では、翼部3の厚さは前縁3aから後縁3bにかけて変化し、かつ、翼部3の中心線が湾曲している。ここで翼部3の厚さとは、正圧面3cと負圧面3dとによって切り取られる翼弦(前縁3aと後縁3bとを結ぶ直線)に垂直な線分の長さである。
【0014】
翼部3の中心線とは、翼部3の径方向に垂直な断面において、正圧面3cと負圧面3dとの間の中点(正圧面3cと負圧面3dとによって切り取られる翼弦に垂直な線分の中点)を結んでできる曲線分であり、典型的な翼型における翼型中心線に該当する曲線分である。この中心線の湾曲の程度は、概して翼部3の径方向内側から翼部3の径方向外側に行くほど小さくなる。つまり、径方向内側端部における翼部3の中心線は、図4に示すように大きく湾曲しているのに対し、径方向外側端部における翼部3の中心線は、ほとんど湾曲しておらず、図5に示すように略直線である。
【0015】
また、翼部3の中心線の集まりによって規定される曲面(径方向に垂直な面との交線が翼部3の中心線と一致する曲面)は、3次元曲面を形成している。3次元曲面とは、柱面や錐面のように平面を単に丸めることで成立させることのできる曲面とは異なり、球面のように元の平面から変形する際に面方向の伸縮が伴わなければ成立しない曲面である。3次元曲面は、非可展面あるいはガウス曲率がゼロでない曲面とも呼ばれる。
【0016】
本実施形態では、翼部3が規定する3次元曲面は、負のガウス曲率を有しており、翼部3は、図2に示すように大きくねじれている。翼部3の平面図上において、径方向内側端部における径方向に垂直な断面の翼弦(図3及び図4に示されたA)と、径方向外側端部における径方向に垂直な断面の翼弦(図3及び図5に示されたB)とがなす角度θの最大値を、翼部3のねじれ角として定義すると、翼部3のねじれ角は45度以上70度以下の範囲内にある。
【0017】
次に、本実施形態にかかるブレード1の製造方法について説明する。
【0018】
ブレード1の製造方法は、図6〜7に示すように、熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材シート10を、互いに積層して積層体11を形成する積層工程S1と、積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに3次元曲面形状を付与し、当該部位11aの中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片12を成形する翼片成形工程S2と、複数の翼片12(12A,12B、12C、12D)を、互いに重ね合わせた状態で加熱および加圧して一体化し、上記翼面形状に成形する一体化工程S3と、を備える。なお、3次元曲面形状とは、厚さを有する形状で、厚さ方向中心面が実質的に3次元曲面である形状をいう。
【0019】
積層工程S1では、熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材シート10を、互いに厚さ方向に積層する。複合材シート10は、ブレード1に要求される高強度・高靭性の要請から、連続繊維を強化繊維として含むものであることが好ましい。ここで連続繊維とは、連続状態の繊維を表し、本実施形態では、複合材シート10のうち翼片12となる部位の端から端まで途切れることなく連続している繊維を意味する。連続繊維を強化繊維として含む複合材シート10を使用することにより、ブレード1の強度および靭性を向上させることができる。
【0020】
本実施形態では、複合材シート10として、一方向に引きそろえられた強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた一方向プリプレグが用いられる。なお、複合材シート10は、一方向プリプレグに限らず、平織り、綾織り、朱子織りなどの織物の強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた織物プリプレグであってもよい。強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたプリプレグは、可使時間が長く(略無限であり)、作業性に優れている。複合材シート10として、強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたプリプレグを使用すれば、例えば、積層工程S1の途中で作業を長時間中断することも可能であり、上流または下流工程の停止などにも柔軟に対応することができるため、量産性が向上する。
【0021】
熱可塑性樹脂の種類は、特に限定されず、ブレード1に要求される強度・靭性などの特性に応じて、公知のエンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチック等の中から適宜選択可能である。ブレード1に好適な例としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトンなどが挙げられる。
【0022】
また、強化繊維の種類も、特に限定されず、ブレード1に要求される強度・靭性などの特性に応じて適宜選択可能である。ブレード1に好適な例としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などが挙げられる。
【0023】
積層工程S1において積層される複合材シート10の大きさ・形状は、特に限定されず、積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aの一部または全部から、少なくとも一つの翼片12を成形しうる大きさ・形状であればよい。当該部位11aでは、積層体11を構成する全ての複合材シート10の各々が、部位11aの範囲全体に亘って連続して広がっている。すなわち、積層体11のいずれの層においても、部位11aの範囲内に、複合材シート10が存在しない領域は形成されていない。
【0024】
一の積層体11を構成する複数の複合材シート10は、最終的に翼片12となる部分以外の部分は、各層共通の形状を有してもよいし、各層で異なる形状を有していてもよい。つまり、例えば、強化繊維の配向が異なる複合材シート10を同一形状に切り出し、それらの端部を揃えて積層するようにしてもよいし、形状および強化繊維の配向が同一の複合材シート10を、各層の強化繊維の向きが所望の向きとなるように、複合材シート10の方向を変えて(例えば、1層目の配向角が0°、2層目の配向角が45°となるように積層したい場合は、1層目の複合材シート10に対して、2層目の複合材シート10を45°回転させて)積層してもよい。前者の場合は、積層体11の取扱いが容易になり、例えば、後述の翼片成形工程S2で金型M1a(または金型M1b)内に積層体11を設置する際に、積層体11全体を位置決めしやすくなる。また、揃えた端部がそのまま翼片12の一端を構成するように複合材シート10を切り出せば、後述のトリミング工程S22の一部を省略することが可能になる。一方、後者の場合は、複合材シート10の切り出し作業を簡略化または省略することができる。なお、翼片12の大きさ・形状は、ブレード1の大きさ・形状に応じて適宜設定することが可能である。
【0025】
また、積層体11を構成する複合材シート10の強化繊維の配向は、翼片12(ひいてはブレード1)に要求される強度・靭性等に応じて、適宜設定される。本実施形態では、1層目の配向角が0°、2層目の配向角が45°、3層目の配向角が0°、4層目の配向角が−45°(以下、繰り返し)となるように積層している。なお、強化繊維の配向角は、ブレード1の翼長方向(図1〜5の径方向)に一致または対応する方向を基準0°としている。
【0026】
積層体11を構成する複合材シート10の周縁部の形状は、例えば、自動積層機を用いて積層作業を行う場合に、自動積層機が各複合材シート10の強化繊維の配向を自動で認識できるように、強化繊維の配向に応じて異なる位置に切欠きを設けるなど、オートメーション化の要求に応じて適宜変更可能である。
【0027】
なお、一の積層体11を構成する複合材シート10の枚数は、2枚以上20枚以下であることが好ましい。より好ましくは、4枚以上16枚以下である。複合材シート10の枚数が2枚以上20枚以下であれば、翼片成形工程S2において、積層体11に対して、より容易かつ高精度に3次元曲面形状を付与することができ、4枚以上16枚以下であれば、さらに容易かつ高精度に3次元曲面形状を付与することができる。
【0028】
また、積層される複合材シート10の間に、必要に応じて熱可塑性樹脂からなるインターリーフを介在させることも可能である。これにより、層間の密着力を向上させることができる。
【0029】
次に、翼片成形工程S2では、積層工程S1で形成した積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに3次元曲面形状を付与し、当該部位11aの中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片12を成形する。
【0030】
翼片成形工程S2は、積層体11を加熱および加圧することで(所謂サーモフォーム成形により)、積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに、3次元曲面形状を付与する曲面成形工程S21を含む。
【0031】
この曲面成形工程S21では、積層体11を所定の金型M1a(または金型M1b)内に設置し、該金型M1a(または金型M1b)を所定の温度に加熱しつつ所定の圧力で積層体11に押圧する。金型M1a(または金型M1b)の上型および下型には、図示しないカートリッジヒータ等の加熱手段およびミスト冷却配管等の冷却手段が埋設されており、これらを制御することによって、金型M1a(または金型M1b)を所望の温度に調節することができる。金型M1a(または金型M1b)の温度は、特に限定されないが、150℃以上400℃以下であることが好ましい。金型M1a(または金型M1b)の圧力は、特に限定されないが、0.2MPa以上0.4MPa以下であることが好ましい。ここで積層体11は、金型M1a(または金型M1b)によって加圧されつつ、金型M1a(または金型M1b)からの伝熱によって加熱される。これにより、複合材シート10の樹脂が溶融または半溶融状態となって複合材シート10が軟化し、さらに、積層体11内で強化繊維の移動、樹脂の流動、層間のずれ等が生じて、積層体11が一体化されつつ変形することで、積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに、3次元曲面形状が付与される。なお、このとき積層体11の層間の融着を確実なものとするために、金型M1a(または金型M1b)による加熱および加圧に加え、抵抗融着、誘導融着、超音波融着等を併用してもよい。曲面成形工程S21は、加熱した金型M1a(または金型M1b)を積層体11に押圧することで積層体11の加熱と加圧とを同時に行っており、これにより翼片成形工程S2の時間短縮に寄与している。
【0032】
本実施形態では、曲面成形工程S21において、2種類の金型M1a、M1bを用いている。すなわち、複数の積層体11のうち、翼部3の正圧面3c側の翼片12となる積層体11は、それらに共通の金型M1aで加熱および加圧することで、それらの部位11aに共通の3次元曲面形状を付与している。また、複数の積層体11のうち、負圧面3d側の翼片12となる積層体11は、それらに共通の金型M1bで加熱および加圧することで、それらの部位11aに共通の3次元曲面形状を付与している。本実施形態では、金型M1aによって付与される3次元曲面形状は、金型M1bによって付与される3次元曲面形状と異なっており、正圧面3c側の翼片12と負圧面3d側の翼片12とでは、少なくとも形状が異なる。一方で、翼部3の負圧面3d側または正圧面3c側のうち同じ側の翼片12となる積層体11には、共通の金型によって共通の3次元曲面形状を付与している。このように、1枚のブレードを構成する複数の翼片12のうち2枚以上の翼片12を、それらに共通の金型で成形すれば、金型の数を減らし、ブレード1の製造ラインを小型化することができる。なお、曲面成形工程S21で使用する金型の種類の数は、特に限定されず、例えば、成形する翼片12ごとに異なる個別の金型を用いてもよい。この場合、各翼片12の大きさ・形状(特に、各翼片12の厚さ、ねじれ角、湾曲の程度など)を翼片12ごとに異なるものとすることができる(一体化工程S3において一体化されたあとの翼片12の形状に近づけることができる)ので、比較的厚さの大きい大型のブレード1を製造する場合でも、一体化工程S3における翼片12の変形量を抑えることができ、一体化工程S3における成形時のしわの発生を防止することができる。
【0033】
また、本実施形態にかかる翼片成形工程S2は、上記3次元曲面形状を付与された積層体11の周縁部をトリミングするトリミング工程S22を含む。ここで、積層体11の上記部位11aのうち上記3次元曲面形状を付与された部分の周縁部の全周または一部を、適宜の大きさ(長さ、幅等)で除去することにより、一体化工程S3において一体化される複数の翼片12(12A〜12D)の大きさ・形状を、積層位置に応じて異なるものとすることができる。これにより、一体化工程S3後のブレード1の形状を、設計通りの厚さ分布を有する翼面形状とすることができる。本実施形態では、翼片12A〜12Dの形状を、ブレード1の翼面形状を厚さ方向に4分割したときに得られる形状としている。なお、積層体11の全部がそのまま翼片12となる場合(積層体11を構成する全ての複合材シート10が、各々積層方向に隣接する層に対して互いにその全面において重なり合っており、かつ、当該重なり合っている部位全域に対して翼片12の3次元曲面形状が付与される場合)は、トリミング工程S22を省略することができる。また、1枚のブレード1を構成する翼片12の枚数(ブレード1の分割数)は、4枚に限らず、ブレード1の厚さに応じて適宜増減可能である。
【0034】
また、翼片成形工程S2は、上記3次元曲面形状を付与された積層体11にテーパ形状を付与するテーパ加工工程S23を含んでもよい。翼片12または積層体11の上記部位11aのうち上記3次元曲面形状を付与された部分にテーパ形状を付与することにより、各翼片12の形状(特に、翼片12の厚さ分布など)を設計通り積層位置ごとに異なるものとすることができるので、一体化工程S3後のブレード1の厚さ分布を、設計通りの厚さ分布により近づけることができる。なお、テーパ形状とは、翼片12の中央部から周縁部に向かって厚さが減少するように表面が傾斜した形状をいう。
【0035】
翼片成形工程S2は、積層体11を加熱および加圧して一体化し、平板形状に成形する平板成形工程S20を含んでもよい。この場合、曲面成形工程S21では、当該平板形状に成形された積層体11を再度加熱および加圧して、該積層体11の前記部位11aに、前記3次元曲面形状を付与する。これにより積層体11に3次元曲面形状を付与する前に、該積層体11を構成する複合材シート10が層ずれを起こすことを防止でき、積層体11の取扱いを容易にすることができる。
【0036】
次に、一体化工程S3では、複数の翼片12A〜12Dを、互いに重ね合わせた状態で所定の金型M2内に設置する。このとき、翼片12A〜12Dを積層することによって、所望の翼面形状が得られるように積層順番を間違えないように注意する。そして、上記金型M2を、所定の温度に加熱しつつ、所定の圧力で互いに重ね合わせた状態の複数の翼片12A〜12Dに押圧する。金型M2の上型および下型には、上記金型M1a、M1bと同様に、図示しないカートリッジヒータ等の加熱手段およびミスト冷却配管等の冷却手段が埋設されており、これらを制御することによって、金型M2を所望の温度に調節することができる。これにより、複数の翼片12A〜12Dが、金型M2からの伝熱によって加熱され、軟化し、さらに、それらの境界面の樹脂が溶融することによって、翼片12A〜12Dが一体化し、所定の翼面形状を有するブレード1に成形される。
【0037】
ブレード1の基部2は、ダブテール形状とすることが多い。ダブテール形状をブレード1に付与するために、翼片12とは別に、金属または複合材からなる部品13を別途成形しておき、上記一体化工程S3で、翼片12A〜12Dを、それらの基部2側端部の間に部品13を介在させた状態で加熱および加圧して一体化してもよい。これにより部品13と翼片12A〜12Dとが、基部2側端部の間に部品13を挟みこんだ状態で一体化する。このようにして基部2にダブテール形状を付与したブレード1では、支持構造物の外周に設けたダブテール形状の溝に基部2を嵌め込んだときに、部品13が抜け止めの楔の役割を果たす。そのため、ブレード1が遠心力に対し十分な強度を発揮することができるようになる。なお、図7では、楔形断面を有する2つの部品13を例示したが、部品13の大きさ、形状、個数などは、特に限定されず、要求される基部2のダブテール形状や強度に応じて適宜変更可能である。
【0038】
また、翼部3の特定箇所(例えば、径方向内側中央部)の厚さを大きく形成する必要がある場合は、別途、金属または複合材から芯材14を形成しておき、一体化工程S3において、翼片12A〜12Dを、特定箇所に芯材14を介在させた状態で加熱および加圧して一体化してもよい。これにより、設計通りの厚さおよび強度を有するブレード1を得ることが可能となる。なお、芯材14を複合材から形成する場合、芯材14は、例えば、複合材シート10などのシート状複合材を積層したものから形成してもよいし、所定形状の金型に所定の複合材材料を射出して成形したものから形成してもよい。
【0039】
次に、本実施形態にかかる製造方法の効果について説明する。
【0040】
一般に、連続繊維を強化繊維として含む複合材シートは伸縮性が低いため、当該複合材シートを複数積層して形成した積層体は、3次元曲面形状に成形することが困難であると考えられていた。特に、当該積層体のうち、その積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位は、全ての層の複合材シートが互いに拘束しあうため、当該部位に3次元曲面形状を付与すれば、高い確率で表面にしわが生じるものと考えられていた。
【0041】
そのため、従来、上記複合材シートの積層体から厚さ分布を有する翼片を成形する場合は、上記特許文献1に示されているように、積層体の段階において、各層の積層位置に応じて複合材シートの大きさ・形状を異なるものとしていた。そして、それらの複合材シートを各々所定の位置に配置して積層し、積層体の段階で翼片の形状に近い厚さ分布を得ておくことで、翼片成形後の整形作業を省略しつつ、成形時の拘束力を低減させてしわの発生を防止することが可能となり、このことが生産効率の向上にプラスに作用するものと考えられていた。
【0042】
本実施形態にかかるブレード1の製造方法は、上記従来の常識に反するものである。すなわち、本実施形態にかかる製造方法では、上記積層体11のうち、その積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに3次元曲面形状を付与し、その部位11aの中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片12を成形している。
【0043】
本実施形態にかかる製造方法によれば、積層工程S1の段階において、各層の積層位置に応じて複合材シートの大きさ・形状を異なるものとする必要がなくなる。
また、仮に、積層体11の各層を構成する複合材シート10間に層ずれ(面方向の位置ずれ)が生じたとしても、翼片成形工程S2において、積層体11の上記部位11aに所望の3次元曲面形状を付与した後に、積層体11の周縁部をトリミングするなどして翼片12に成形すればよく、積層体11を形成してから積層体11の各層の複合材シート10が一体化されるまでの間に、上記層ずれを厳密に管理する必要がなくなる。すなわち、従来は、例えば、熱可塑性樹脂をマトリックスとする複合材シートなどタック性の低い複合材シートを積層する場合は、各層の複合材シートの面方向位置を仮固定するために、一旦、積層体を加熱および加圧して平板形状に成形していたが、本実施形態にかかる製造方法によれば、この工程も省略することが可能となる。
このように、本実施形態にかかる製造方法によれば、積層工程に要する時間が大幅に短縮され、かつ、作業工程も簡略化されるため、ブレードの生産性が向上する。
【0044】
また、本実施形態にかかる製造方法によれば、ブレード1を厚さ方向に分割して複数の翼片12とし、この薄い翼片12の段階で3次元曲面形状を付与したことで、成形時のしわの発生を防止する。その結果、厚さが比較的大きく、かつ、ねじれ角の大きなブレード1であっても容易に成形することができる。
【0045】
本実施形態にかかる製造方法の生産性を評価すべく、1枚のブレードを製造する場合に積層工程の開始から一体化工程の準備が完了するまでの所用時間を試算し、上記従来の積層方法を採用した製造方法(比較例)と、本発明の実施例1にかかる製造方法とで比較した。この試算においては、1枚のブレードが4枚の翼片から構成され、1枚の翼片は、16枚の複合材シートから構成されるものと仮定した。また、比較のため、いずれの方法においても、積層工程および翼片成形工程は、全て1ラインで実施されるものとし、翼片成形工程では、予備曲げ工程と本曲げ工程との2段階の曲げ工程によって、積層体に3次元曲面形状を付与するものとした。
【0046】
図8〜9は、比較例にかかる製造方法でブレードを製造する場合のフローおよび各工程の所要時間を説明する図である。比較例にかかる製造方法では、まず積層工程A1で、16枚の複合材シートを積層した積層体を形成する。このとき、積層体の段階で翼片の形状に近い厚さ分布が得られるように、定型の複合材シートから積層位置ごとに異なる形状で複合材シートを精度よく切り出し、これらを各層所定の位置に正確に配置して積層する必要がある。そのため、切り出しおよび位置決め配置に比較的長い時間を要する。この切り出しおよび位置決め配置の作業は、複合材シート1枚あたり少なくとも0.5分程度かかるため、一つの積層体を形成するのに8分(=16枚×0.5分/枚)かかる。
【0047】
その後、翼片成形工程では、まず、積層体の複合材シートの層ずれを防止するため、積層体を平板形状に成形する(平板成形工程A2)。この工程に、4分かかる。次に、平板形状に成形された積層体に対し、予備曲げ工程A3と本曲げ工程A4とを施し、積層体に3次元曲面形状を付与する。各曲げ工程は、それぞれ4分を要する。つまり、比較例にかかる製造方法によれば、図9に示すように、1ラインで積層工程を開始(複合材シートの切り出しを開始)してから、4枚の翼片を成形して一体化工程の準備が完了するまで、44分(=8分×4+4分×3)かかることになる。
【0048】
なお、比較例にかかる製造方法では、積層工程における複合材シートの切り出し形状やそれらの積層位置ごとの配置は、翼片ごとに異なり、また、予備曲げ工程A3および本曲げ工程A4に用いる金型も、翼片ごとに異なる。なお、図9では、同じ工程であっても、使用する装置や作業の詳細が同一でないものに対しては、積層工程A1’のように「ダッシュ」を付して示している。
【0049】
一方、本発明の実施例1にかかる製造方法によれば、図10〜11に示すように、積層工程B1において、複合材シート10を積層位置ごとに形状・大きさが異なるように切り出す必要がなく、また、切り出した複合材シート10の積層位置についても、特に厳密に管理する必要はない。そのため、積層工程B1は、大幅に時間短縮され、4分(=16枚×0.25分/枚)で完了する。その後の予備曲げ工程B2、本曲げ工程B3、およびトリミング工程B4の所要時間は、それぞれ4分である。つまり、実施例1にかかる製造方法によれば、1ラインで積層工程を開始(複合材シートの切り出しを開始)してから、4枚の翼片を成形して一体化工程の準備が完了するまで、28分(=4分×4+4分×3)の所要時間で済むことが分かる。
すなわち本発明の実施例1にかかる製造方法によれば、上記比較例にかかる製造方法と比較して、当該所要時間が36%も短縮されることが分かる。
【0050】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、該実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために記載された単なる例示に過ぎず、本発明は、それらの実施形態または実施例に限定されるものではない。本発明の技術的範囲は、上記実施形態等で開示した具体的な技術事項に限らず、そこから容易に導きうる様々な変形、変更、代替技術なども含むものである。
【0051】
例えば、上記実施形態等では、複合材シートとしてプリプレグを使用した例を説明したが、複合材シートはこれに限らず、熱可塑性樹脂が完全には含浸しておらずドレープ性を有するセミプレグや、強化繊維と樹脂とを重ね合わせ、高温でプレスして平板状とした積層板(RTL)等であってもよい。
【0052】
また、上記実施形態等では、ファンブレード等の動翼を製造する場合を例として説明したが、本発明の製造方法の適用対象となるブレードは動翼に限定されず、ガイドベーン、統合型OGV等の静翼であってもよい。
【0053】
さらに、上記実施形態等では、航空機用ジェットエンジンに使用されるブレードを製造する場合を例として説明したが、本発明の製造方法の適用対象はこれに限定されず、その他のガスタービンエンジンのブレードにも適用しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1…ブレード
2…基部
3…翼部
10…複合材シート
11…積層体
11a…部位
12(12A〜12D)…翼片
13…部品
14…芯材
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジン用ブレードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、強化繊維を含み、かつ熱可塑性樹脂をマトリックスとする複合材プリプレグから、ガスタービンエンジン用ファンブレードを製造する方法が開示されている。この製造方法では、積層位置に応じて大きさおよび形状の異なるプリプレグを平面上に厚さ方向に積層して積層体を形成し、この積層体を加熱および加圧して平板形状に成形したものを、再度加熱および加圧して3次元曲面形状の翼片に成形し、この翼片を複数重ねたものを加熱および加圧して一体化することで、ファンブレードの3次元翼面形状を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2009/119830号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1にかかる製造方法では、比較的薄い翼片の段階で3次元曲面形状を付与しているため、容易かつ高精度に3次元曲面形状を得ることができるものの、プリプレグを積層位置に応じて異なる大きさおよび形状に裁断し、それらを正しい位置に積層する必要があるため、ブレードの生産性を向上させることが困難であった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、ガスタービンエンジン用ブレードの製造方法の生産性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材シートを、互いに積層して積層体を形成する積層工程と、前記積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与し、当該部位の中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片を成形する翼片成形工程と、複数の前記翼片を、互いに重ね合わせた状態で加熱および加圧して一体化し、所定の翼面形状に成形する一体化工程と、を備えているガスタービンエンジン用ブレードの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかる製造方法によれば、積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与し、当該部位の中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片を成形するので、積層工程の段階において、複合材シートを積層位置に応じて異なる大きさおよび形状に裁断する必要がない。また、仮に、積層体の各層を構成する複合材シート間に層ずれ(面方向の位置ずれ)が生じたとしても、翼片成形工程において3次元曲面形状を付与された積層体の周縁部をトリミング等すればよく、積層体を形成してから積層体の各層の複合材シートが一体化されるまでの間に、上記層ずれを厳密に管理する必要がない。従って、本発明にかかる製造方法によれば、積層工程に要する時間が大幅に短縮され、かつ、作業工程も簡略化され、ブレードの生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態にかかるブレードの側面図である。
【図2】図1のブレードの正面図である。
【図3】図1のブレードの平面図である。
【図4】図1のIV−IV断面図である。
【図5】図1のV−V断面図である。
【図6】本発明の実施形態にかかるブレードの製造方法を示すフロー図である。
【図7】本発明の実施形態にかかるブレードの製造方法の詳細を示すフロー図である。
【図8】比較例にかかるブレードの製造方法を示すフロー図である。
【図9】図8の製造方法で翼片を製造した場合の所要時間を説明する図である。
【図10】本発明の実施例1にかかるブレードの製造方法を示すフロー図である。
【図11】図10の製造方法で翼片を製造した場合の所要時間を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明において同様の部材には同様の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図1〜5中の「軸方向」「径方向」「回転方向」は、ブレード各部の位置関係を説明するために、便宜上定めたものであり、実際のブレードの取付姿勢を規定するものではない。なお、これらの「軸方向」等は、ブレードが取付けられる典型的なガスタービンエンジンの軸方向等に対応している。
【0010】
本実施形態に係るブレードは、航空機用ジェットエンジン等のガスタービンエンジンに用いられる動翼としてのブレード1(例えば、ファンブレード等)である。
【0011】
図1〜5に示すように、ブレード1は、図示しないファンディスクなどの支持構造物に支持される基部2と、該基部2から径方向外側に延びる翼部3とを備えている。
【0012】
翼部3は、空力計算により求められた所定の翼面形状を有している。該翼部3の翼面形状は、前縁3aと、後縁3bと、前縁3aから後縁3bまで延在する回転方向前側の側面である正圧面3cと、前縁3aから後縁3bまで延在する回転方向後側の側面である負圧面3dとによって画成されている。
【0013】
翼部3の翼面形状は、径方向に垂直な断面において、略翼型形状を呈する。すなわち、翼部3の各径方向位置における径方向に垂直な断面では、翼部3の厚さは前縁3aから後縁3bにかけて変化し、かつ、翼部3の中心線が湾曲している。ここで翼部3の厚さとは、正圧面3cと負圧面3dとによって切り取られる翼弦(前縁3aと後縁3bとを結ぶ直線)に垂直な線分の長さである。
【0014】
翼部3の中心線とは、翼部3の径方向に垂直な断面において、正圧面3cと負圧面3dとの間の中点(正圧面3cと負圧面3dとによって切り取られる翼弦に垂直な線分の中点)を結んでできる曲線分であり、典型的な翼型における翼型中心線に該当する曲線分である。この中心線の湾曲の程度は、概して翼部3の径方向内側から翼部3の径方向外側に行くほど小さくなる。つまり、径方向内側端部における翼部3の中心線は、図4に示すように大きく湾曲しているのに対し、径方向外側端部における翼部3の中心線は、ほとんど湾曲しておらず、図5に示すように略直線である。
【0015】
また、翼部3の中心線の集まりによって規定される曲面(径方向に垂直な面との交線が翼部3の中心線と一致する曲面)は、3次元曲面を形成している。3次元曲面とは、柱面や錐面のように平面を単に丸めることで成立させることのできる曲面とは異なり、球面のように元の平面から変形する際に面方向の伸縮が伴わなければ成立しない曲面である。3次元曲面は、非可展面あるいはガウス曲率がゼロでない曲面とも呼ばれる。
【0016】
本実施形態では、翼部3が規定する3次元曲面は、負のガウス曲率を有しており、翼部3は、図2に示すように大きくねじれている。翼部3の平面図上において、径方向内側端部における径方向に垂直な断面の翼弦(図3及び図4に示されたA)と、径方向外側端部における径方向に垂直な断面の翼弦(図3及び図5に示されたB)とがなす角度θの最大値を、翼部3のねじれ角として定義すると、翼部3のねじれ角は45度以上70度以下の範囲内にある。
【0017】
次に、本実施形態にかかるブレード1の製造方法について説明する。
【0018】
ブレード1の製造方法は、図6〜7に示すように、熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材シート10を、互いに積層して積層体11を形成する積層工程S1と、積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに3次元曲面形状を付与し、当該部位11aの中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片12を成形する翼片成形工程S2と、複数の翼片12(12A,12B、12C、12D)を、互いに重ね合わせた状態で加熱および加圧して一体化し、上記翼面形状に成形する一体化工程S3と、を備える。なお、3次元曲面形状とは、厚さを有する形状で、厚さ方向中心面が実質的に3次元曲面である形状をいう。
【0019】
積層工程S1では、熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材シート10を、互いに厚さ方向に積層する。複合材シート10は、ブレード1に要求される高強度・高靭性の要請から、連続繊維を強化繊維として含むものであることが好ましい。ここで連続繊維とは、連続状態の繊維を表し、本実施形態では、複合材シート10のうち翼片12となる部位の端から端まで途切れることなく連続している繊維を意味する。連続繊維を強化繊維として含む複合材シート10を使用することにより、ブレード1の強度および靭性を向上させることができる。
【0020】
本実施形態では、複合材シート10として、一方向に引きそろえられた強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた一方向プリプレグが用いられる。なお、複合材シート10は、一方向プリプレグに限らず、平織り、綾織り、朱子織りなどの織物の強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた織物プリプレグであってもよい。強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたプリプレグは、可使時間が長く(略無限であり)、作業性に優れている。複合材シート10として、強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたプリプレグを使用すれば、例えば、積層工程S1の途中で作業を長時間中断することも可能であり、上流または下流工程の停止などにも柔軟に対応することができるため、量産性が向上する。
【0021】
熱可塑性樹脂の種類は、特に限定されず、ブレード1に要求される強度・靭性などの特性に応じて、公知のエンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチック等の中から適宜選択可能である。ブレード1に好適な例としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトンなどが挙げられる。
【0022】
また、強化繊維の種類も、特に限定されず、ブレード1に要求される強度・靭性などの特性に応じて適宜選択可能である。ブレード1に好適な例としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などが挙げられる。
【0023】
積層工程S1において積層される複合材シート10の大きさ・形状は、特に限定されず、積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aの一部または全部から、少なくとも一つの翼片12を成形しうる大きさ・形状であればよい。当該部位11aでは、積層体11を構成する全ての複合材シート10の各々が、部位11aの範囲全体に亘って連続して広がっている。すなわち、積層体11のいずれの層においても、部位11aの範囲内に、複合材シート10が存在しない領域は形成されていない。
【0024】
一の積層体11を構成する複数の複合材シート10は、最終的に翼片12となる部分以外の部分は、各層共通の形状を有してもよいし、各層で異なる形状を有していてもよい。つまり、例えば、強化繊維の配向が異なる複合材シート10を同一形状に切り出し、それらの端部を揃えて積層するようにしてもよいし、形状および強化繊維の配向が同一の複合材シート10を、各層の強化繊維の向きが所望の向きとなるように、複合材シート10の方向を変えて(例えば、1層目の配向角が0°、2層目の配向角が45°となるように積層したい場合は、1層目の複合材シート10に対して、2層目の複合材シート10を45°回転させて)積層してもよい。前者の場合は、積層体11の取扱いが容易になり、例えば、後述の翼片成形工程S2で金型M1a(または金型M1b)内に積層体11を設置する際に、積層体11全体を位置決めしやすくなる。また、揃えた端部がそのまま翼片12の一端を構成するように複合材シート10を切り出せば、後述のトリミング工程S22の一部を省略することが可能になる。一方、後者の場合は、複合材シート10の切り出し作業を簡略化または省略することができる。なお、翼片12の大きさ・形状は、ブレード1の大きさ・形状に応じて適宜設定することが可能である。
【0025】
また、積層体11を構成する複合材シート10の強化繊維の配向は、翼片12(ひいてはブレード1)に要求される強度・靭性等に応じて、適宜設定される。本実施形態では、1層目の配向角が0°、2層目の配向角が45°、3層目の配向角が0°、4層目の配向角が−45°(以下、繰り返し)となるように積層している。なお、強化繊維の配向角は、ブレード1の翼長方向(図1〜5の径方向)に一致または対応する方向を基準0°としている。
【0026】
積層体11を構成する複合材シート10の周縁部の形状は、例えば、自動積層機を用いて積層作業を行う場合に、自動積層機が各複合材シート10の強化繊維の配向を自動で認識できるように、強化繊維の配向に応じて異なる位置に切欠きを設けるなど、オートメーション化の要求に応じて適宜変更可能である。
【0027】
なお、一の積層体11を構成する複合材シート10の枚数は、2枚以上20枚以下であることが好ましい。より好ましくは、4枚以上16枚以下である。複合材シート10の枚数が2枚以上20枚以下であれば、翼片成形工程S2において、積層体11に対して、より容易かつ高精度に3次元曲面形状を付与することができ、4枚以上16枚以下であれば、さらに容易かつ高精度に3次元曲面形状を付与することができる。
【0028】
また、積層される複合材シート10の間に、必要に応じて熱可塑性樹脂からなるインターリーフを介在させることも可能である。これにより、層間の密着力を向上させることができる。
【0029】
次に、翼片成形工程S2では、積層工程S1で形成した積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに3次元曲面形状を付与し、当該部位11aの中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片12を成形する。
【0030】
翼片成形工程S2は、積層体11を加熱および加圧することで(所謂サーモフォーム成形により)、積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに、3次元曲面形状を付与する曲面成形工程S21を含む。
【0031】
この曲面成形工程S21では、積層体11を所定の金型M1a(または金型M1b)内に設置し、該金型M1a(または金型M1b)を所定の温度に加熱しつつ所定の圧力で積層体11に押圧する。金型M1a(または金型M1b)の上型および下型には、図示しないカートリッジヒータ等の加熱手段およびミスト冷却配管等の冷却手段が埋設されており、これらを制御することによって、金型M1a(または金型M1b)を所望の温度に調節することができる。金型M1a(または金型M1b)の温度は、特に限定されないが、150℃以上400℃以下であることが好ましい。金型M1a(または金型M1b)の圧力は、特に限定されないが、0.2MPa以上0.4MPa以下であることが好ましい。ここで積層体11は、金型M1a(または金型M1b)によって加圧されつつ、金型M1a(または金型M1b)からの伝熱によって加熱される。これにより、複合材シート10の樹脂が溶融または半溶融状態となって複合材シート10が軟化し、さらに、積層体11内で強化繊維の移動、樹脂の流動、層間のずれ等が生じて、積層体11が一体化されつつ変形することで、積層体11のうち、該積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに、3次元曲面形状が付与される。なお、このとき積層体11の層間の融着を確実なものとするために、金型M1a(または金型M1b)による加熱および加圧に加え、抵抗融着、誘導融着、超音波融着等を併用してもよい。曲面成形工程S21は、加熱した金型M1a(または金型M1b)を積層体11に押圧することで積層体11の加熱と加圧とを同時に行っており、これにより翼片成形工程S2の時間短縮に寄与している。
【0032】
本実施形態では、曲面成形工程S21において、2種類の金型M1a、M1bを用いている。すなわち、複数の積層体11のうち、翼部3の正圧面3c側の翼片12となる積層体11は、それらに共通の金型M1aで加熱および加圧することで、それらの部位11aに共通の3次元曲面形状を付与している。また、複数の積層体11のうち、負圧面3d側の翼片12となる積層体11は、それらに共通の金型M1bで加熱および加圧することで、それらの部位11aに共通の3次元曲面形状を付与している。本実施形態では、金型M1aによって付与される3次元曲面形状は、金型M1bによって付与される3次元曲面形状と異なっており、正圧面3c側の翼片12と負圧面3d側の翼片12とでは、少なくとも形状が異なる。一方で、翼部3の負圧面3d側または正圧面3c側のうち同じ側の翼片12となる積層体11には、共通の金型によって共通の3次元曲面形状を付与している。このように、1枚のブレードを構成する複数の翼片12のうち2枚以上の翼片12を、それらに共通の金型で成形すれば、金型の数を減らし、ブレード1の製造ラインを小型化することができる。なお、曲面成形工程S21で使用する金型の種類の数は、特に限定されず、例えば、成形する翼片12ごとに異なる個別の金型を用いてもよい。この場合、各翼片12の大きさ・形状(特に、各翼片12の厚さ、ねじれ角、湾曲の程度など)を翼片12ごとに異なるものとすることができる(一体化工程S3において一体化されたあとの翼片12の形状に近づけることができる)ので、比較的厚さの大きい大型のブレード1を製造する場合でも、一体化工程S3における翼片12の変形量を抑えることができ、一体化工程S3における成形時のしわの発生を防止することができる。
【0033】
また、本実施形態にかかる翼片成形工程S2は、上記3次元曲面形状を付与された積層体11の周縁部をトリミングするトリミング工程S22を含む。ここで、積層体11の上記部位11aのうち上記3次元曲面形状を付与された部分の周縁部の全周または一部を、適宜の大きさ(長さ、幅等)で除去することにより、一体化工程S3において一体化される複数の翼片12(12A〜12D)の大きさ・形状を、積層位置に応じて異なるものとすることができる。これにより、一体化工程S3後のブレード1の形状を、設計通りの厚さ分布を有する翼面形状とすることができる。本実施形態では、翼片12A〜12Dの形状を、ブレード1の翼面形状を厚さ方向に4分割したときに得られる形状としている。なお、積層体11の全部がそのまま翼片12となる場合(積層体11を構成する全ての複合材シート10が、各々積層方向に隣接する層に対して互いにその全面において重なり合っており、かつ、当該重なり合っている部位全域に対して翼片12の3次元曲面形状が付与される場合)は、トリミング工程S22を省略することができる。また、1枚のブレード1を構成する翼片12の枚数(ブレード1の分割数)は、4枚に限らず、ブレード1の厚さに応じて適宜増減可能である。
【0034】
また、翼片成形工程S2は、上記3次元曲面形状を付与された積層体11にテーパ形状を付与するテーパ加工工程S23を含んでもよい。翼片12または積層体11の上記部位11aのうち上記3次元曲面形状を付与された部分にテーパ形状を付与することにより、各翼片12の形状(特に、翼片12の厚さ分布など)を設計通り積層位置ごとに異なるものとすることができるので、一体化工程S3後のブレード1の厚さ分布を、設計通りの厚さ分布により近づけることができる。なお、テーパ形状とは、翼片12の中央部から周縁部に向かって厚さが減少するように表面が傾斜した形状をいう。
【0035】
翼片成形工程S2は、積層体11を加熱および加圧して一体化し、平板形状に成形する平板成形工程S20を含んでもよい。この場合、曲面成形工程S21では、当該平板形状に成形された積層体11を再度加熱および加圧して、該積層体11の前記部位11aに、前記3次元曲面形状を付与する。これにより積層体11に3次元曲面形状を付与する前に、該積層体11を構成する複合材シート10が層ずれを起こすことを防止でき、積層体11の取扱いを容易にすることができる。
【0036】
次に、一体化工程S3では、複数の翼片12A〜12Dを、互いに重ね合わせた状態で所定の金型M2内に設置する。このとき、翼片12A〜12Dを積層することによって、所望の翼面形状が得られるように積層順番を間違えないように注意する。そして、上記金型M2を、所定の温度に加熱しつつ、所定の圧力で互いに重ね合わせた状態の複数の翼片12A〜12Dに押圧する。金型M2の上型および下型には、上記金型M1a、M1bと同様に、図示しないカートリッジヒータ等の加熱手段およびミスト冷却配管等の冷却手段が埋設されており、これらを制御することによって、金型M2を所望の温度に調節することができる。これにより、複数の翼片12A〜12Dが、金型M2からの伝熱によって加熱され、軟化し、さらに、それらの境界面の樹脂が溶融することによって、翼片12A〜12Dが一体化し、所定の翼面形状を有するブレード1に成形される。
【0037】
ブレード1の基部2は、ダブテール形状とすることが多い。ダブテール形状をブレード1に付与するために、翼片12とは別に、金属または複合材からなる部品13を別途成形しておき、上記一体化工程S3で、翼片12A〜12Dを、それらの基部2側端部の間に部品13を介在させた状態で加熱および加圧して一体化してもよい。これにより部品13と翼片12A〜12Dとが、基部2側端部の間に部品13を挟みこんだ状態で一体化する。このようにして基部2にダブテール形状を付与したブレード1では、支持構造物の外周に設けたダブテール形状の溝に基部2を嵌め込んだときに、部品13が抜け止めの楔の役割を果たす。そのため、ブレード1が遠心力に対し十分な強度を発揮することができるようになる。なお、図7では、楔形断面を有する2つの部品13を例示したが、部品13の大きさ、形状、個数などは、特に限定されず、要求される基部2のダブテール形状や強度に応じて適宜変更可能である。
【0038】
また、翼部3の特定箇所(例えば、径方向内側中央部)の厚さを大きく形成する必要がある場合は、別途、金属または複合材から芯材14を形成しておき、一体化工程S3において、翼片12A〜12Dを、特定箇所に芯材14を介在させた状態で加熱および加圧して一体化してもよい。これにより、設計通りの厚さおよび強度を有するブレード1を得ることが可能となる。なお、芯材14を複合材から形成する場合、芯材14は、例えば、複合材シート10などのシート状複合材を積層したものから形成してもよいし、所定形状の金型に所定の複合材材料を射出して成形したものから形成してもよい。
【0039】
次に、本実施形態にかかる製造方法の効果について説明する。
【0040】
一般に、連続繊維を強化繊維として含む複合材シートは伸縮性が低いため、当該複合材シートを複数積層して形成した積層体は、3次元曲面形状に成形することが困難であると考えられていた。特に、当該積層体のうち、その積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位は、全ての層の複合材シートが互いに拘束しあうため、当該部位に3次元曲面形状を付与すれば、高い確率で表面にしわが生じるものと考えられていた。
【0041】
そのため、従来、上記複合材シートの積層体から厚さ分布を有する翼片を成形する場合は、上記特許文献1に示されているように、積層体の段階において、各層の積層位置に応じて複合材シートの大きさ・形状を異なるものとしていた。そして、それらの複合材シートを各々所定の位置に配置して積層し、積層体の段階で翼片の形状に近い厚さ分布を得ておくことで、翼片成形後の整形作業を省略しつつ、成形時の拘束力を低減させてしわの発生を防止することが可能となり、このことが生産効率の向上にプラスに作用するものと考えられていた。
【0042】
本実施形態にかかるブレード1の製造方法は、上記従来の常識に反するものである。すなわち、本実施形態にかかる製造方法では、上記積層体11のうち、その積層体11を構成する全ての複合材シート10が積層方向に重なり合っている部位11aに3次元曲面形状を付与し、その部位11aの中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片12を成形している。
【0043】
本実施形態にかかる製造方法によれば、積層工程S1の段階において、各層の積層位置に応じて複合材シートの大きさ・形状を異なるものとする必要がなくなる。
また、仮に、積層体11の各層を構成する複合材シート10間に層ずれ(面方向の位置ずれ)が生じたとしても、翼片成形工程S2において、積層体11の上記部位11aに所望の3次元曲面形状を付与した後に、積層体11の周縁部をトリミングするなどして翼片12に成形すればよく、積層体11を形成してから積層体11の各層の複合材シート10が一体化されるまでの間に、上記層ずれを厳密に管理する必要がなくなる。すなわち、従来は、例えば、熱可塑性樹脂をマトリックスとする複合材シートなどタック性の低い複合材シートを積層する場合は、各層の複合材シートの面方向位置を仮固定するために、一旦、積層体を加熱および加圧して平板形状に成形していたが、本実施形態にかかる製造方法によれば、この工程も省略することが可能となる。
このように、本実施形態にかかる製造方法によれば、積層工程に要する時間が大幅に短縮され、かつ、作業工程も簡略化されるため、ブレードの生産性が向上する。
【0044】
また、本実施形態にかかる製造方法によれば、ブレード1を厚さ方向に分割して複数の翼片12とし、この薄い翼片12の段階で3次元曲面形状を付与したことで、成形時のしわの発生を防止する。その結果、厚さが比較的大きく、かつ、ねじれ角の大きなブレード1であっても容易に成形することができる。
【0045】
本実施形態にかかる製造方法の生産性を評価すべく、1枚のブレードを製造する場合に積層工程の開始から一体化工程の準備が完了するまでの所用時間を試算し、上記従来の積層方法を採用した製造方法(比較例)と、本発明の実施例1にかかる製造方法とで比較した。この試算においては、1枚のブレードが4枚の翼片から構成され、1枚の翼片は、16枚の複合材シートから構成されるものと仮定した。また、比較のため、いずれの方法においても、積層工程および翼片成形工程は、全て1ラインで実施されるものとし、翼片成形工程では、予備曲げ工程と本曲げ工程との2段階の曲げ工程によって、積層体に3次元曲面形状を付与するものとした。
【0046】
図8〜9は、比較例にかかる製造方法でブレードを製造する場合のフローおよび各工程の所要時間を説明する図である。比較例にかかる製造方法では、まず積層工程A1で、16枚の複合材シートを積層した積層体を形成する。このとき、積層体の段階で翼片の形状に近い厚さ分布が得られるように、定型の複合材シートから積層位置ごとに異なる形状で複合材シートを精度よく切り出し、これらを各層所定の位置に正確に配置して積層する必要がある。そのため、切り出しおよび位置決め配置に比較的長い時間を要する。この切り出しおよび位置決め配置の作業は、複合材シート1枚あたり少なくとも0.5分程度かかるため、一つの積層体を形成するのに8分(=16枚×0.5分/枚)かかる。
【0047】
その後、翼片成形工程では、まず、積層体の複合材シートの層ずれを防止するため、積層体を平板形状に成形する(平板成形工程A2)。この工程に、4分かかる。次に、平板形状に成形された積層体に対し、予備曲げ工程A3と本曲げ工程A4とを施し、積層体に3次元曲面形状を付与する。各曲げ工程は、それぞれ4分を要する。つまり、比較例にかかる製造方法によれば、図9に示すように、1ラインで積層工程を開始(複合材シートの切り出しを開始)してから、4枚の翼片を成形して一体化工程の準備が完了するまで、44分(=8分×4+4分×3)かかることになる。
【0048】
なお、比較例にかかる製造方法では、積層工程における複合材シートの切り出し形状やそれらの積層位置ごとの配置は、翼片ごとに異なり、また、予備曲げ工程A3および本曲げ工程A4に用いる金型も、翼片ごとに異なる。なお、図9では、同じ工程であっても、使用する装置や作業の詳細が同一でないものに対しては、積層工程A1’のように「ダッシュ」を付して示している。
【0049】
一方、本発明の実施例1にかかる製造方法によれば、図10〜11に示すように、積層工程B1において、複合材シート10を積層位置ごとに形状・大きさが異なるように切り出す必要がなく、また、切り出した複合材シート10の積層位置についても、特に厳密に管理する必要はない。そのため、積層工程B1は、大幅に時間短縮され、4分(=16枚×0.25分/枚)で完了する。その後の予備曲げ工程B2、本曲げ工程B3、およびトリミング工程B4の所要時間は、それぞれ4分である。つまり、実施例1にかかる製造方法によれば、1ラインで積層工程を開始(複合材シートの切り出しを開始)してから、4枚の翼片を成形して一体化工程の準備が完了するまで、28分(=4分×4+4分×3)の所要時間で済むことが分かる。
すなわち本発明の実施例1にかかる製造方法によれば、上記比較例にかかる製造方法と比較して、当該所要時間が36%も短縮されることが分かる。
【0050】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、該実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために記載された単なる例示に過ぎず、本発明は、それらの実施形態または実施例に限定されるものではない。本発明の技術的範囲は、上記実施形態等で開示した具体的な技術事項に限らず、そこから容易に導きうる様々な変形、変更、代替技術なども含むものである。
【0051】
例えば、上記実施形態等では、複合材シートとしてプリプレグを使用した例を説明したが、複合材シートはこれに限らず、熱可塑性樹脂が完全には含浸しておらずドレープ性を有するセミプレグや、強化繊維と樹脂とを重ね合わせ、高温でプレスして平板状とした積層板(RTL)等であってもよい。
【0052】
また、上記実施形態等では、ファンブレード等の動翼を製造する場合を例として説明したが、本発明の製造方法の適用対象となるブレードは動翼に限定されず、ガイドベーン、統合型OGV等の静翼であってもよい。
【0053】
さらに、上記実施形態等では、航空機用ジェットエンジンに使用されるブレードを製造する場合を例として説明したが、本発明の製造方法の適用対象はこれに限定されず、その他のガスタービンエンジンのブレードにも適用しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1…ブレード
2…基部
3…翼部
10…複合材シート
11…積層体
11a…部位
12(12A〜12D)…翼片
13…部品
14…芯材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材シートを、互いに積層して積層体を形成する積層工程と、
前記積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与し、当該部位の中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片を成形する翼片成形工程と、
複数の前記翼片を、互いに重ね合わせた状態で加熱および加圧して一体化し、所定の翼面形状に成形する一体化工程と、
を備えていることを特徴とするガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項2】
前記複合材シートは、連続繊維を強化繊維として含むことを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項3】
前記翼片成形工程は、前記積層体を加熱および加圧することで、前記積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与する曲面成形工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項4】
前記曲面成形工程では、複数の前記積層体を、該複数の積層体に共通の金型で加熱および加圧することで、各積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与することを特徴とする請求項3に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項5】
前記翼片成形工程は、前記3次元曲面形状を付与された前記積層体の周縁部をトリミングするトリミング工程を含むことを特徴とする請求項3乃至4のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項6】
前記翼片成形工程は、前記積層体を加熱および加圧して一体化し、平板形状に成形する平板成形工程を含み、
前記曲面成形工程では、平板形状に成形された前記積層体を再度加熱および加圧して、前記積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項7】
前記翼片成形工程は、前記3次元曲面形状を付与された前記積層体にテーパ形状を付与するテーパ加工工程を含むことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項8】
金属または複合材からなる部品を成形する部品成形工程を更に備え、
前記一体化工程では、前記複数の翼片を、前記部品を介在させた状態で加熱および加圧して一体化することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項9】
前記積層工程は、前記複合材シートを所定形状に切り出す切り出し工程を含み、
所定形状に切り出された前記複合材シートを、端部を揃えて積層することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項10】
前記複合材シートは、強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたプリプレグであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項1】
熱可塑性樹脂をマトリックスとする複数の複合材シートを、互いに積層して積層体を形成する積層工程と、
前記積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与し、当該部位の中の少なくとも一部から3次元曲面形状を有する翼片を成形する翼片成形工程と、
複数の前記翼片を、互いに重ね合わせた状態で加熱および加圧して一体化し、所定の翼面形状に成形する一体化工程と、
を備えていることを特徴とするガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項2】
前記複合材シートは、連続繊維を強化繊維として含むことを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項3】
前記翼片成形工程は、前記積層体を加熱および加圧することで、前記積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与する曲面成形工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項4】
前記曲面成形工程では、複数の前記積層体を、該複数の積層体に共通の金型で加熱および加圧することで、各積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与することを特徴とする請求項3に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項5】
前記翼片成形工程は、前記3次元曲面形状を付与された前記積層体の周縁部をトリミングするトリミング工程を含むことを特徴とする請求項3乃至4のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項6】
前記翼片成形工程は、前記積層体を加熱および加圧して一体化し、平板形状に成形する平板成形工程を含み、
前記曲面成形工程では、平板形状に成形された前記積層体を再度加熱および加圧して、前記積層体のうち、該積層体を構成する全ての複合材シートが積層方向に重なり合っている部位に3次元曲面形状を付与することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項7】
前記翼片成形工程は、前記3次元曲面形状を付与された前記積層体にテーパ形状を付与するテーパ加工工程を含むことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項8】
金属または複合材からなる部品を成形する部品成形工程を更に備え、
前記一体化工程では、前記複数の翼片を、前記部品を介在させた状態で加熱および加圧して一体化することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項9】
前記積層工程は、前記複合材シートを所定形状に切り出す切り出し工程を含み、
所定形状に切り出された前記複合材シートを、端部を揃えて積層することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【請求項10】
前記複合材シートは、強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたプリプレグであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のガスタービンエンジン用ブレードの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−18228(P2013−18228A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154707(P2011−154707)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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