説明

ガスバリア性積層フィルムの製造方法

【課題】本発明は基材の両面に加工を行う場合に、電子ペーパーや有機ELなどのFPD向けとして好適に用いることができる透明なガスバリア性積層フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】透明なプラスチックフィルムからなる基材層1−1の両面上に、一方の面上にアンカーコート層2−1とガスバリア層3−1を順次積層し、もう一方の面上にアンカーコート層2−2とガスバリア層3−2を順次積層してなるガスバリア性積層フィルムにおいて、前記アンカーコート層を、フラッシュ蒸着法を用いて重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物を前記基材層上に成膜し、紫外線または電子線を照射して硬化させて形成することを特徴とするガスバリア性積層フィルムの製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、日用品、医薬品、および電子機器関連部材などの包装分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に、好適に用いられる透明なガスバリア性積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、日用品、医薬品などの包装に用いられる包装材料や電子機器関連部材などに用いられる包装材料は、収容物の変質を抑制して、その機能や性質を包装中においても保持できるようにするため、包装材料を透過する酸素、水蒸気など、収容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これらの気体を遮断するガスバリア性を備えていることが求められている。
【0003】
通常のガスバリア性を有する包装材料としては、比較的ガスバリア性に優れている塩化ビニリデン樹脂フィルムまたは塩化ビニリデン樹脂をコーティングしたフィルムなどがよく用いられてきたが、これらの包装材料は、高度なガスバリア性が要求される包装に用いることはできない。従って高度なガスバリア性が要求される場合には、アルミニウムなどの金属箔をガスバリア層として積層した包装材料を用いざるを得なかった。
【0004】
アルミニウムなどの金属箔を積層した包装材料は、温度や湿度の影響が殆どなく、高度なガスバリア性を有している。しかし、こうした包装材料では、それを透視して収容物を確認することができない、使用後に不燃物として廃棄処理しなければならない、収容物の検査に金属探知器が使用できない、などの多くの欠点を有していた。
【0005】
これらの欠点を克服した包装材料として、特許文献1には、透明なプラスチックフィルムからなる基材層に、透明な酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの無機酸化物の蒸着薄膜層をガスバリア層とし、その上に適宜のガスバリア性被膜層とを積層してなる積層フィルムが開示されている。
【0006】
また近年、次世代のFPDとして期待される電子ペーパー、有機ELなどの開発が進むなかで、これらFPDのフレキシブル化を達成するため、ガラス基板をプラスチックフィルムに置き換えたいという要求が高まっている。ガラス基板は環境由来の酸素や水蒸気による内部素子の劣化を抑制するため必要とされるガスバリア性が備わっている。しかし、上述した包装材料用のガスバリアフィルムはそのバリアレベルには達しておらず、プラスチックフィルムが適用され得る電子ペーパー、有機ELなどでは、食品包材用バリアフィルムの100倍から1万倍のガスバリア性が必要とも言われている。
【0007】
このような高いガスバリア性を有するプラスチックフィルムを実現するために、電子ビーム蒸着や誘導加熱蒸着を用いた反応性蒸着法、スパッタリング法、プラズマ化学気相蒸着(PECVD)法などのドライコーティング法により成膜された無機酸化物薄膜は、高いガスバリア性の発現が期待できるものとして検討されている。
【0008】
しかしながら、上記ドライコーティング法を用いたとしても、高いガスバリア性を目指すために緻密な膜を得ようとすると、高温プロセスが必要であり、また緻密であるために膜中の応力が大きくなる傾向がある。そのため、プラスチックフィルムの使用可能な温度範囲では緻密な膜を得ることが困難であったり、プラスチックフィルムと無機酸化物薄膜との熱膨張係数の差が大きいため密着不良やクラックが発生したりする問題が生じ、高いガスバリア性の発現は容易ではない。
【0009】
上記のような問題に鑑み、最近では無機酸化物薄膜とプラスチックフィルムとの密着性を向上させ、さらに表面平滑性を向上させるために特許文献2のようにアンカーコート層を設ける方法が知られている。しかし、基材層両面にアンカーコート層を形成する場合、両面のアンカーコート層の膜厚のバランスを考慮しなければ、基材層とアンカーコート層の密着性が低下したり、表面平滑性が十分に得られないことがある。また、アンカーコート層を形成する工程が必要となるため、コストの増大を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−164591号公報
【特許文献2】特開2003−1745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した電子ペーパーや有機ELなどのFPD向けとして、特に高いガスバリア性が必要となる場合、基材の両面に加工を行うことがある。本発明は基材の両面に加工を行う場合に、電子ペーパーや有機ELなどのFPD向けとして好適に用いることができる透明なガスバリア性積層フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、透明なプラスチックフィルムからなる基材層1−1の両面上に、一方の面上にアンカーコート層2−1とガスバリア層3−1を順次積層し、もう一方の面上にアンカーコート層2−2とガスバリア層3−2を順次積層してなるガスバリア性積層フィルムにおいて、前記基材層上にフラッシュ蒸着法を用いて重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物から成る未硬化のアンカーコート層を形成し、前記未硬化のアンカーコート層に紫外線または電子線を照射して硬化させて前記アンカーコート層を形成することを特徴とするガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記アンカーコート層2−1の厚さXと前記アンカーコート層2−2の厚さYとの関係が、下記3つの式を満たすように形成することを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
0.1≦X≦1[式中、X単位はμmである]
0.1≦Y≦1[式中、Y単位はμmである]
XY≦0.5[式中、X及びY単位はμmである]
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記ガスバリア層は酸化ケイ素または酸化アルミニウムからなることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記ガスバリア層の厚さが0.005μm以上0.2μm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記ガスバリア層3−1及び3−2が真空蒸着法により形成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記基材層1−1の両面上に積層したアンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2の形成に用いる前記重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物の硬化収縮率が、0.2%以上10%以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0018】
請求項7に記載の発明は、前記重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物が、モノアクリレート、ジアクリレートのうちの少なくとも1つを含有しており、前記モノアクリレートとジアクリレートを合わせた含有率が前記重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物の50重量%以上であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【0019】
請求項8に記載の発明は、前記基材層がプラスチックからなり、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルまたはこれらの共重合体であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、食品、日用品、医薬品などの包装分野や、電子機器関連部材などの分野において、包装材料としての通常の加工を施してもガスバリア性が劣化せず、また包装材料を透視して収容物を確認することができ、また、FPD向けとして特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いることができる透明なガスバリア性積層フィルムを提供できる。即ち、本発明のガスバリア性積層フィルムは、フラッシュ蒸着法を用いてアンカーコート層を形成することにより、続くガスバリア層を同一の真空蒸着装置内で連続して形成することができるため、生産性の向上及び生産コストを低減することができる。また、本発明のガスバリア性積層フィルムは、前記アンカーコート層2−1の厚さX及び前記アンカーコート層2−2の厚さYがXY≦0.5(式中、XおよびYの単位はμmである)を満たすことにより、基材層とアンカーコート層の密着性が向上してアンカーコート層が平滑となり、アンカーコート層上に形成するガスバリア層のガスバリア性及び密着性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例における、ガスバリア性積層フィルムの一例の断面図である。
【図2】基材片面上に積層したガスバリア性積層フィルムの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のガスバリア性積層フィルムを実施するための最良の形態を、図面に沿って説明する。図1に示すように、プラスチックフィルムからなる基材層1−1の両面にアンカーコート層2−1、及び、アンカーコート層2−2、ガスバリア層3−1、及び、ガスバリア層3−2が順次積層された積層構成となっている。
【0023】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層1−1は透明なプラスチックフィルムからなっている。透明なプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックフィルム、などが用いられる。
【0024】
これらの透明なプラスチックフィルムは、延伸、未延伸のどちらでもよいが、機械的強度や寸法安定性などが優れたものが好ましい。特に、耐熱性や寸法安定性などの面から、二軸方向に延伸したポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。また、透明なプラスチックフィルムは、帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤等などの添加剤を含有してもよい。さらに、透明なプラスチックフィルムにおいて、他の層を積層する側の表面には、密着性をよくするために、コロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理、溶剤処理などを施してもよい。
【0025】
これらの透明なプラスチックフィルムからなる基材層1−1の厚さは、特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性や他の層を積層する場合の加工適性などを考慮すると、実用的には3〜200μmの範囲、特に6〜30μmの範囲であることが好ましい。
【0026】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、アンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2の形成方法は、基材層1−1の両面上に重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物を硬化させて形成することができる。本発明では、フラッシュ蒸着法により重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物を未硬化のフラッシュ蒸着被膜層として基材層1−1両面上に積層し、紫外線または電子線を照射して硬化することができ、同一の真空蒸着装置内で真空中において、基材層1−1の片面上に連続してアンカーコート層2−1と酸化ケイ素蒸着薄膜層からなるガスバリア層3−1を積層することができ、生産性の向上及び生産コストの低減が可能である。また、上記アンカーコート層及びガスバリア層の形成工程と同様の工程により、基材層1−1の両面上にアンカーコート層2−1及び2−2を同時に形成し、続いて連続して両面上にガスバリア層3−1及び3−2を同時に形成することで更なる生産性の向上が可能である。そのため、従来のディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法などによりアンカーコート層を形成するよりも低コストでガスバリア性積層フィルムを生産することが可能である。
【0027】
フラッシュ蒸着法を説明する。未硬化のフラッシュ蒸着被膜層は、真空蒸着装置内において、高温の蒸発源の中に挿入したノズルなどから、重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物を滴下して気化させ(フラッシュ蒸着)、基材層1−1上に連続して積層することができる。
【0028】
未硬化のフラッシュ蒸着被膜層に紫外線を照射して硬化させる場合には、重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物に光重合開始剤を混合する。具体的な光重合開始剤としては、ベンゾインエーテル類、ベンゾフェノン類、キサントン類、アセトフェノン誘導体などを挙げることができる。これらの光重合開始剤を0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の割合で混合される。
【0029】
未硬化のフラッシュ蒸着被膜層に電子線を照射して硬化させる場合には、フラッシュ蒸着被膜層の膜厚と、電子線のエネルギー条件、加工速度、除電とのバランスが重要になる。これは、過度の電子線エネルギーを供給すると、基材層1−1が軟化し、その結果として、基材層1−1とアンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2の密着性が低下する恐れがあるためである。
【0030】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、アンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2は、表面が粗い基材層1−1を覆うことで、表面を平滑にする役割を担う。アンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2の表面が平滑になることでガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2が高いガスバリア性を発現することが可能となる。
【0031】
このアンカーコート層2−1の厚さは、0.1μm以上1μm以下、より好ましくは0.2μm以上1μm以下である。ここで、厚さが0.1μm以下では均一な膜を形成することが困難であり十分な表面平滑性が得られず、ガスバリア層3−1を積層しても十分なバリア性が得られない。また厚さが1μm以上ではアンカーコート層2−1形成時、アンカーコート層2−1の硬化収縮によって基材層1−1に内部応力が過度に働いて密着性が不十分となり、アンカーコート層の表面平滑性が得られず、十分なガスバリア性をもつガスバリア層を形成することができない。アンカーコート層2−2の厚さに関しても同様に、0.1μm以上1μm以下、より好ましくは0.2μm以上1μm以下である。
【0032】
さらに、本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、アンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2は、上記ガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2のガスバリア性を向上する機能を発現し、基材層1−1との密着性を良好にするためには、アンカーコート層2−1とアンカーコート層2−2の各々の厚さのバランスを考慮する必要がある。
【0033】
アンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2を形成する際、重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物を紫外線または電子線の照射により硬化させるが、このときプラスチックフィルムからなる基材層1−1は上述の通り、アンカーコート層2−1の硬化収縮によって基材層1−1に内部応力が過度に働き、基材層1−1とアンカーコート層2−1の密着性が不十分となる。
【0034】
例えば、図2に示すように、プラスチックからなる基材層4−1の片面上にアンカーコート層5−1、ガスバリア層6−1が順次積層されたガスバリア性積層フィルムにおいて、プラスチックからなる基材層4−1の片面上に、重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物を紫外線または電子線の照射によりアンカーコート層5−1を形成する場合、通常、密着性が低下しない程度の厚さのアンカーコート5−1を積層するが、アンカーコート層5−1の厚さが更に厚くなれば、アンカーコート層5−1の硬化収縮によって基材層4−1に内部応力が過度に働き、(このときのアンカーコート層5−1の厚さをAとする)、基材層4−1とアンカーコート層5−1の密着性が不十分となる。
【0035】
そのため、図1に示すように、プラスチックからなる基材層1−1の両面に、アンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2を積層する場合、アンカーコート層の硬化収縮による内部応力によって密着性を低下させないためには、基材層1−1の両面上に積層したアンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2の厚さの二つのバランスを考慮しなくてはならない。
【0036】
すなわち、図1に示すアンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2の少なくとも一方の厚さが、図2に示す積層フィルムにおいて密着性が不十分となる場合のアンカーコート層5−1の厚さAより大きい場合、密着性が低下することは当然であるが、図1に示すアンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2の厚さが共に、図2に示す積層フィルムにおいて密着性が不十分となる場合のアンカーコート層5−1の厚さAより小さい場合においても、アンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2の硬化収縮によって密着性が低下することがある。これは、基材層1−1の片面上に、密着性が低下しない程度の厚さのアンカーコート層2−1を形成したとしても、もう一方の面上にアンカーコート層2−1と同程度の厚さでアンカーコート層2−2を積層すると、基材層1−1は基材層の両面に形成したアンカーコート層の硬化収縮による内部応力を二度受けるためである。
【0037】
上記の密着性の低下を防ぐためには、基材両面に形成したアンカーコート層の厚さを制御する必要がある。具体的には、上記アンカーコート層2−1の厚さX[μm]および上記アンカーコート層2−2の厚さY[μm]が、下記式を満たすことが必要である。
XY≦0.5(式中、XおよびYの単位はμmである)
【0038】
ここで、XY>0.5(式中、XおよびYの単位はμmである)では内部応力によって密着性が不十分となる。
【0039】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、アンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2の原材料である、重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物は、モノアクリレート、ジアクリレートのうちの少なくとも1つを含有する。
【0040】
これらのアクリレートとしては、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、アクリルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、シリコーンアクリレート、ポリアセタールアクリレート、ポリブタジエン系アクリレート、メラミンアクリレートなどの重合性が高いアクリル系のモノマーまたはオリゴマーを、適宜選定して用いることができる。
【0041】
モノアクリレート、ジアクリレートおよびトリアクリレートには様々な種類があり、特に限定されないが、ガスバリア層との密着性が良好であって、効率良く未硬化のフラッシュ蒸着被膜層が形成でき、さらに衛生性に優れたものを選択することが好ましい。具体的には、モノアクリレートとしては、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレートなどが挙げられる。ジアクリレートとしては、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレートなどが挙げられる。トリアクリレートとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレートなどが挙げられる。
【0042】
上記したアンカーコート層の硬化収縮による内部応力による基材層との密着性の低下を抑えるために、アクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物の硬化収縮率は、0.2%以上10%以下であることが望ましい。
【0043】
また、アクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物をフラッシュ蒸着法によって効率良く成膜するためには、モノアクリレートとジアクリレートを合わせた含有率が前記重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物の50重量%以上であることが望ましい。例えば、モノアクリレート/ジアクリレート/トリアクリレート=60/30/10(重量%)のような組成に設定することが望ましい。
【0044】
前記アンカーコート層2−1及び前記アンカーコート層2−2の表面に、ガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2を真空中において成膜して、高いガスバリア性を発現させるためには、アルミニウム、錫、チタン、ケイ素及びそれらの化合物を用いることができ、特に酸化アルミニウム及び酸化ケイ素が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0045】
このガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2の厚さは、0.005μm以上0.2μm以下、より好ましくは0.01μm以上0.1μm以下である。ここで、厚さが0.005μm以下ではガスバリア層がアイランド状になり、十分なガスバリア性が得られない。また厚さが0.2μm以上ではガスバリア層の内部応力により、ガスバリア層に割れが生じ、十分なガスバリア性が得られない。
【0046】
ガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2の形成方法としては真空蒸着法が好ましい。また、プラスチック基材の特徴を活かした巻取式による連続成膜を行うことができ、巻取式の真空成膜装置を用いることが好ましい。
【0047】
真空蒸着法について以下に説明する。真空蒸着法とは真空中で物質を加熱蒸発させ、基材に付着させて薄膜を作製する方法である。化合物薄膜を作製したい場合は、雰囲気中に酸素や窒素、炭化水素などの反応性ガスを導入すれば化合物薄膜が作製可能となる。本発明においては蒸発物質として酸化ケイ素を用い、ガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2を作製することができる。なお、加熱方法としては、抵抗誘導加熱、高周波誘導加熱、電子線衝撃による加熱、アーク放電加熱などがあるが、いずれを使用してもよい。
【0048】
また、酸化ケイ素薄膜のガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2はスパッタリング法を用いて作製してもよい。スパッタリングについて以下に説明する。陰極ターゲットとしては金属を用い、不活性ガスを用いる。陰極と陽極の間に電圧を印加すると、グロー放電が起きる。この状態において、陰極と陽極の間はプラズマ化された不活性ガスで満たされる。プラズマ中の正イオンは陰極方向へ運動エネルギーを持って加速され、陰極と衝突する。衝突の際、正イオンは運動エネルギーを陰極ターゲットと交換して陰極ターゲットである金属を弾き飛ばす。弾き飛ばされた金属は陽極上の基板へ堆積する。この一連の過程において反応性のガスを導入していれば、化合物薄膜の作製が可能となる反応性スパッタリング法となる。本発明においては、陰極ターゲットにはケイ素を用い、不活性ガスとしてアルゴンを用い、反応性ガスとして酸素を導入することで酸化ケイ素薄膜のガスバリア層3を作製することができるが各原料はこれらに限定されるものではない。また、スパッタリング法としては、高周波スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、電子サイクロトロンスパッタリング法、対向ターゲット式スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などがあるが、いずれを使用してもよい。
【0049】
さらに、酸化ケイ素薄膜のガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2はプラズマ化学気相成長法(PECVD)を用いて作製してもよい。PECVD法により積層される酸化ケイ素蒸着薄膜のガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2は、分子内に炭素を有するシラン化合物と酸素ガスを原料として成膜することができ、この原料に不活性ガスを加えて成膜することもできる。分子内に炭素を有するシラン化合物としては、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラメチルシラン(TMS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン。メチルトリメトキシシランなどの比較的低分子量のシラン化合物を選択し、これらシラン化合物の1つまたは、複数を選択しても良い。これらシラン化合物のうち、成膜圧力と蒸気圧を考えると、TEOS、TMOS、TMS、HMDSO、テトラメチルシランなどが好ましい。PECVD法による成膜では、上記シラン化合物を気化させ酸素ガスと混合したものを電極間に導入し、低温プラズマ発生装置にて電力を印加してプラズマ化し、上記基材層1−1の両面上に片面ずつ積層することができる。また、PECVD法では、上記酸化ケイ素蒸着薄膜層の膜質を様々な方法で変えることが可能であり、例えば、シラン化合物やガス種の変更、シラン化合物と酸素ガスの混合比や、印加電力の増減などが考えられる。
【0050】
酸化ケイ素薄膜のガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2は上述したように真空蒸着法、スパッタリング法、PECVD法などを用いて作製することができるが、スパッタリング法またはPECVD法を用いて作製したガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2は真空蒸着法を用いて作製したガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2よりガスバリア性が高い。しかし、スパッタリング法またはPECVD法による成膜は真空蒸着法による成膜より成膜速度が遅い。これら成膜法において、成膜速度の違いによる生産性を考慮すると真空蒸着法がより好ましく、ガスバリア性を考慮するとスパッタリング法またはPECVD法が好ましいが、成膜方法はこれに限定されるものではない。
【0051】
本発明のガスバリア性積層フィルムを他のフィルムと積層して、食品、日用品、医薬品などの包装分野や電子機器関連部材などの分野において、包装材料として用いることもできる。たとえば、本発明のガスバリア性積層フィルムを最外層として使用し、その一方の面に、接着剤を介して中間フィルム層やヒートシール層などを積層した構成にしてもよい。また、本発明のガスバリア性積層フィルムを中間層として使用し、その両面に接着剤を介して外側フィルム層などを積層し、その一方の面に接着剤を介してヒートシール層などを積層した構成にしてもよい。
【0052】
上記の中間フィルム層または外側フィルム層としては透明なフィルム層が用いられる。こうした透明なフィルム層としては、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリアクリルニトリル系フィルム、ポリイミド系フィルムなどが挙げられる。上記のヒートシール層としては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、およびこれらの金属架橋物、などの合成樹脂が用いられる。中間フィルム層、外側フィルム層、ヒートシール層の厚さは、目的に応じて決められるが、一般的には15〜200μmの範囲である。上記の接着剤としては、1液硬化型または2液硬化型のポリウレタン系接着剤などが用いられる。接着剤を介してこれらの層を積層するには、ドライラミネート法などが用いることができる。また、ヒートシール層の他の積層方法として、ヒートシール層の合成樹脂を、熱溶融押出する方法(エクストルージョンラミ)を用いることもできる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0054】
以下の実施例1、2、3においては、図1に示したように、基材層1−1の両面上に、アンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2とガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2を順次積層したガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0055】
<実施例1>
基材層1−1として厚さ12μmのニ軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、巻取式真空蒸着装置を用いて、アンカーコート層2−1をフラッシュ蒸着法により、基材層1−1上に2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートとプロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレートとエトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレートとの60/30/10(重量%)の混合物からなる、未硬化のフラッシュ蒸着被膜層を積層した。フラッシュ蒸着被膜層に電子線を照射して硬化させ、厚さ0.2μmのアンカーコート層2−1を形成した。
【0056】
続いて、アンカーコート層2−1の表面上に、厚さ25nmの酸化ケイ素を積層した。
【0057】
次に、巻取式真空蒸着装置を用いて、アンカーコート層2−2をフラッシュ蒸着法により、基材層1−1のアンカーコート層2−1を形成した面の反対側の面上にアンカーコート層2−1と同様の方法でアンカーコート層2−2を形成し、その厚さを0.2μmとした。
【0058】
続いて、アンカーコート層2−2の表面上に、厚さ25nmの酸化ケイ素を積層した。こうして実施例1のガスバリア積層フィルムを作製した。
【0059】
実施例1では基材層1−1上にアンカーコート層2−1及びガスバリア層3−1を積層し、基材層1−1のアンカーコート層2−1を形成した面の反対側の面上にアンカーコート層2−2及びガスバリア層3−2を積層したが、基材層1−1の両面にアンカーコート層2−1及びアンカーコート層2−2を形成し、さらにガスバリア層3−1及びガスバリア層3−2を積層しても良い。
【0060】
<比較例1>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、アンカーコート層2−1の厚さを0.05μmとし、アンカーコート層2−2の厚さを0.1μmとした。その他の条件は実施例1と同様であった。こうして比較例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0061】
<比較例2>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、アンカーコート層2−1の厚さを1.5μmとした。その他の条件は実施例1と同様であった。こうして比較例2のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0062】
<比較例3>
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、アンカーコート層2−1の厚さを1μmとした。同様に、アンカーコート層2−2の厚さを1μmとした。その他の条件は実施例1と同様であった。こうして比較例3のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0063】
<比較評価>
1.酸素透過度
実施例1、比較例1、2、3について、モダンコントロール社製の酸素透過度計(MOCON OX−TRAN 2/21)により、30℃−70%RH雰囲気下での酸素透過度(cc/m・24h・MPa)を測定した。
【0064】
2.水蒸気透過度
実施例1、比較例1、2、3について、モダンコントロール社製の水蒸気透過度計(MOCON PERMATRAN−W 3/31)により、40℃−90%RH雰囲気下での水蒸気透過度(g/m・24h)を測定した。
【0065】
3.ラミネート強度
実施例1、比較例1、2、3について、オリエンテック社製の万能試験機(テンシロン)により、ラミネート強度(N/15mm)を測定した。得られたラミネート強度を密着性の評価とした。
これらの測定結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1からわかるように、実施例1のガスバリア性積層フィルムは、低い酸素透過度および水蒸気透過度と、高いラミネート強度を兼ね備えている。
また、ガスバリア層2−1の厚さX[μm]、アンカーコート層2−2の厚さY[μm]が0.1≦X≦1[式中、X単位はμmである]を満たさない比較例1のガスバリア性積層フィルムは、実施例1のガスバリア性積層フィルムと比較して、ラミネート強度は同等であるが、酸素透過度及び水蒸気透過度が高かった。
【0068】
ガスバリア層2−1の厚さX[μm]が、0.1≦X≦1[式中、X単位はμmである]を満たさない比較例2のガスバリア性積層フィルムは、実施例1のガスバリア性積層フィルムと比較して、ラミネート強度が劣っており、酸素透過度及び水蒸気透過度が高かった。
【0069】
さらにまた、アンカーコート層2−1の厚さX[μm]が0.1≦X≦1[式中、X単位はμmである]を満たさない比較例3のガスバリア性積層フィルムは、実施例1のガスバリア性積層フィルムと比較して、酸素透過度及び水蒸気透過度が高く、ラミネート強度が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、食品、日用品、医薬品などの包装分野、および電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0071】
1−1・・・基材層
2−1・・・アンカーコート層
2−2・・・アンカーコート層
3−1・・・ガスバリア層
3−2・・・ガスバリア層
4−1・・・基材層
5−1・・・アンカーコート層
6−1・・・ガスバリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なプラスチックフィルムからなる基材層の一方の面上にアンカーコート層とガスバリア層を順次積層し、他方の面上にアンカーコート層とガスバリア層を順次積層してなるガスバリア性積層フィルムの製造方法において、前記基材層上にフラッシュ蒸着法を用いて重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物から成る未硬化のアンカーコート層を形成し、前記未硬化のアンカーコート層に紫外線または電子線を照射して硬化させて前記アンカーコート層を形成することを特徴とするガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記アンカーコート層の厚さXと前記アンカーコート層の厚さYとの関係が、下記3つの式を満たすように形成することを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
0.1≦X≦1[式中、X単位はμmである]
0.1≦Y≦1[式中、Y単位はμmである]
XY≦0.5[式中、X及びY単位はμmである]
【請求項3】
前記ガスバリア層は酸化ケイ素または酸化アルミニウムからなることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ガスバリア層の厚さが0.005μm以上0.2μm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ガスバリア層及びガスバリア層が真空蒸着法により形成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記基材層の両面上に積層したアンカーコート層及びアンカーコート層の形成に用いる前記重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物の硬化収縮率が、0.2%以上10%以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物が、モノアクリレート、ジアクリレートのうちの少なくとも1つを含有しており、前記モノアクリレートとジアクリレートを合わせた含有率が前記重合可能なアクリル系のモノマーまたはモノマーとオリゴマーとの混合物の50重量%以上であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記基材層がプラスチックからなり、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルまたはこれらの共重合体であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−184409(P2010−184409A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29607(P2009−29607)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】