説明

ガラス組成物およびこれを用いたディスプレイパネル

【課題】有害な鉛を含まず、誘電率が低く、軟化点が低く、ガラス転移点が高く、基板との熱膨張係数のマッチングが良く、耐水性の高い、信頼性の高いディスプレイパネルを作製可能とするガラス組成物を提供する。
【解決手段】酸化物ガラスであって、含まれる元素の内、酸素(O)を除く元素の比率が原子%表示で、硼素(B)が72%を越え88%以下、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)の合計量が6%以上16%以下、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)の合計が1%以上8%以下、珪素(Si)が0%以上12%以下、亜鉛(Zn)が2%を越え18%以下である、ガラス組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の被覆に適したガラス組成物およびこれを用いたディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略す)、フィールドエミッションディスプレイ、液晶表示装置、蛍光表示装置、セラミック積層デバイス、混成集積回路の如き表示装置や集積回路においては、その表面にAg、Cu等よりなる電極や配線を有する基板が用いられている。こうした電極や配線は、これらを保護するために、絶縁性ガラス材料により被覆される場合がある。ここでは、代表的な表示装置であるPDPを例に挙げて以下に説明する。
【0003】
一般にPDPは、2枚の対向するガラス基板にそれぞれ規則的に配列した一対の電極を設け、その間にNe、Xe等の不活性ガスを主体とするガスを封入した構造になっており、電極間に電圧を印加し、電極周辺の微小なセル内で放電を発生させることにより、各セルを発光させて表示を行なっている。そして、これらの電極は、誘電体層と呼ばれる絶縁性材料で被覆されて、保護されている。
【0004】
例えば、AC型PDPの前面板となるガラス基板においては、透明電極が形成され、さらにその上に、より抵抗率が低いAg、Cu、Al等の金属電極が形成されている。この複合電極を覆って誘電体層が形成され、さらにその上に保護層(MgO層)が形成されている。
【0005】
電極を覆って形成される誘電体層は、CVD等の方法によりSiO等の薄膜を形成することも出来るが、通常は設備やコストの面から、低軟化点のガラスが用いられる。上記低軟化点のガラスを用いた誘電体層は、ガラス粉末を含むペーストを、スクリーン印刷法やダイコート法等で電極を覆うように塗布した後、焼成することにより形成されている。
【0006】
誘電体層を形成するガラス組成物に要求される特性としては、(1)電極上に形成されるため、絶縁性であること、(2)大面積のパネルでは、ガラス基板の反り、誘電体層の剥がれやクラックを防止するために、ガラス組成物の熱膨脹係数を、基板材料とあまり変わらない値にしておくこと、(3)前面板用であれば、蛍光体から発生した光を効率よく表示光として利用するために、可視光透過率が高い非晶質ガラスであること、(4)基板ガラスの耐熱性に適合するように、軟化点(軟化温度)が低いこと、等が挙げられる。
【0007】
PDPに使用されるガラス基板としては、フロート法で作製され、一般に入手が容易な窓板ガラスであるソーダライムガラスや、PDP用に開発された高歪点ガラスがあり、これらは通常、600℃までの耐熱性、75×10−7〜85×10−7/℃の熱膨脹係数を有する。
【0008】
このため、前述した(2)については、熱膨脹係数が60×10−7〜90×10−7/℃程度のガラス組成物が望ましい。また、前述した(4)については、ガラスペーストの焼成をガラス基板の歪点である600℃以下で行う必要があるので、600℃以下の温度で焼成しても充分軟化するように、軟化点が少なくとも595℃以下、より望ましくは590℃程度以下のガラス組成物である必要がある。
【0009】
以上のような要望を満足するガラス材料として、現在はPbOを主原料とするPbO−SiO系ガラスが主に使用されている。
【0010】
しかし、近年の環境問題への配慮から、Pbを含まない誘電体層が求められており、また、ガラス材料の誘電率については、PDPの低消費電力化のために、より下げることが求められている。Pbを含まないガラスとしては、ホウ酸亜鉛を主成分とし、Pbの代わりにBiを含むことによって低軟化点としたBi−B−ZnO−SiO系ガラス材料(例えば、特許文献1)等が開発されているが、これらのBi系材料もPb系材料と同じく、比誘電率が9〜13程度で高いという問題点を有する。そこで、低誘電率と低軟化点を両立させるため、Pbの代わりにアルカリ金属を含むホウ酸亜鉛系ガラス(アルカリ金属酸化物−B−ZnO−SiO系)によって、比誘電率7前後を達成した材料も提案されている(例えば、特許文献2〜4)。
【特許文献1】特開2001−139345号公報
【特許文献2】特開平9−278482号公報
【特許文献3】特開2000−313635号公報
【特許文献4】特開2002−274883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、望まれる比誘電率としては低ければ低いほど良いが、比誘電率が6.5以下で、軟化点が低いガラスは見出されていなかった。また、従来検討されているアルカリホウ酸亜鉛系ガラスでは、低い軟化点、適度な熱膨張係数は満足できても、これに加え、高いガラス転移点(ガラス転移温度)を有するガラスを実現することは困難であった。
【0012】
単純に電極を被覆するためのガラスでよければ、低軟化点、適度な熱膨張係数、低誘電率を実現すれば足りる。しかし、PDPにおいては、電極被覆を行った後に、MgO層のアニールや前面板と背面板を接合する封着工程等で、再度ガラス層に500℃近い熱が加わる。誘電体層用ガラスの軟化点は600℃弱なので、500℃程度の温度が加わっても軟化する訳ではないが、この加熱温度がガラス転移点を大幅に超えると、ガラスの物性が急激に変化するために、特に大面積のディスプレイでは、誘電体層が基板から剥がれたり、クラックが入って絶縁性、信頼性が低下してしまう。発明者の検討によると、500℃程度で再熱処理するためには、ガラスに求められるガラス転移点は465℃以上が望ましく、より望ましくは480℃以上である。また、PDP以外の表示装置や回路基板等においても、被覆後に再度高温での熱処理を行うと、同様の問題が生じる危険があった。
【0013】
発明者の検討によると、アルカリホウ酸亜鉛系ガラスにおいて、誘電率を低くするためにはB量を多くする必要があるが、B量を多くするとガラス転移点が低下する傾向があった。従来の電極被覆用ガラスでは、ガラス転移点については全く注意が払われていないため、低軟化点、低誘電率、適度な熱膨張係数の材料は得られていても、これに併せて高いガラス転移点を有する材料は得られていなかった。
【0014】
さらに、B量の含有量が多いアルカリ系ガラスでは、Bが容易に水に溶解するために、耐水性が低い/吸湿性が高いという問題点があった。耐水性の低さは、基板切断時に誘電体層ガラスに水がかかることにより、絶縁不良の原因となる場合があり、また吸湿性の高さは、系中の水分量を増加させ、誘電体層上に形成したMgO保護膜の特性を劣化させたりする場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、軟化点が低く、誘電率が低く、基板との熱膨張係数のマッチングが良い上に、ガラス転移点が高く、耐水性が高い、高信頼性のディスプレイパネルを作製することが可能なガラス組成物を提供することを目的とする。
【0016】
本発明のガラス組成物は、酸化物ガラスであって、含まれる元素の内、酸素(O)を除く元素の比率が、
72原子%<硼素(B)≦88原子%
6原子%≦R≦16原子%
1原子%≦M≦8原子%
0原子%≦珪素(Si)<12原子%
2原子%<亜鉛(Zn)≦18原子%
(ここで、Rはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)より選ばれた1種類以上であり、Mはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)より選ばれた1種類以上)であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第1のディスプレイパネルは、ガラス組成物を含む誘電体層によって電極が被覆されているディスプレイパネルであって、このガラス組成物が、本発明による上記ガラス組成物である。本発明の第2のディスプレイパネルは、誘電体層によって電極が被覆されているディスプレイパネルであって、上記誘電体層が電極を直接被覆する第1誘電体層と、第1誘電体層上に形成された第2誘電体層とを含み、第1誘電体層がアルカリ金属元素を実質的に含まず、第2誘電体層に含まれるガラス組成物が、本発明による上記ガラス組成物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、軟化点が低く、誘電率が低く、基板との熱膨張係数のマッチングが良い上に、ガラス転移点が高く、耐水性が高い、信頼性の高いディスプレイパネルを作製することが可能なガラス組成物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明者は詳細な検討の結果、下記のような組成範囲内において、誘電率が極めて低いにもかかわらず、軟化点が低く、熱膨張係数の基板とのマッチングが良く、さらにガラス転移点が充分に高く、耐水性も高い、従来のアルカリ金属を含むホウ酸亜鉛系ガラスの欠点を払拭したガラス組成物が得られることを見出した。
【0020】
本発明によれば、軟化点が595℃以下であり、ガラス転移点が465℃以上であり、熱膨張係数が60×10−7/℃〜90×10−7/℃であり、比誘電率が6.5以下であるガラス組成物を得ることが可能である。
【0021】
(実施の形態1)
以下、本発明のガラス組成物における各成分の限定理由を説明する。
【0022】
Bは本願発明のガラス組成物の主成分である。Bが多いほど低誘電率となり、軟化点も下がるが、ガラス転移点も低下する。特に問題となるのは、軟化点の温度低下よりも、ガラス転移点の温度低下が大きい点である。前述したように、軟化点は595℃以下であることが必要であり、ガラス転移点は465℃以上は必要なので、軟化点とガラス転移点の差は130℃以下、より望ましくは110℃以下とする必要があるが、Bが多くなるほどその差が広がってしまう。その量を、72原子%を越え、88原子%以下に限定する理由は、72原子%よりBが少ないと誘電率が高くなるか、あるいは軟化点が高くなるためであり、88原子%よりBが多いとガラス転移点が低くなりすぎるためである。
【0023】
アルカリ金属(Li、Na、K)は、本願発明のガラス組成物のもう一つの主成分である。アルカリ金属量の増加は、軟化点とガラス転移点の差を縮める効果があるが、誘電率は高くなり、また黄変を生じやすくする。その合計量を6原子%以上16原子%以下とする理由は、6原子%未満だと、軟化点が高くなりすぎるためであり、16原子%を超えると誘電率と熱膨張係数が大きくなりすぎるためである。
【0024】
アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)は、本願発明の必須成分である。本願発明はBを多く含むために、ガラス転移点が低下し、軟化点とガラス転移点の差も広がりやすい。Mg、Ca、Sr、Baを少量加えると、軟化点自体が上昇し、さらにそれ以上にガラス転移点も高くなるので、ガラス転移点を高くすると同時に軟化点との温度差を縮める効果がある。同様の効果は、後述するようにZnにも認められるが、ガラス転移点を高くする効果は、アルカリ土類金属の方が大きい。また、Zn添加では、添加量増加により結晶化温度が低下するという問題が生じるが、アルカリ土類金属の添加では結晶化の問題が生じず、さらにZnとアルカリ土類金属を同時に添加することによって、Zn添加によって生じた結晶化の問題を回避することが出来る。また、アルカリ土類金属の添加は、Znほどではないが、ガラスの耐水性を高める効果もある。従って、本願におけるような低誘電率/高B量組成域のガラスを実用的な材料にするためには、アルカリ土類金属の添加は必須である。その量を8原子%以下とする理由は、多すぎると軟化点が高くなるとともに、誘電率が高くなりすぎるためである。
【0025】
アルカリ土類金属の種類を同一量で比較すると、ガラス転移点を高くする効果、軟化点とガラス転移点の差を縮める効果は共にCaが最も大きく、誘電率はBaが最も高くなり、Sr、Ca、Mgの順で小さくなるので、これらの中ではCaが最も好ましい。
【0026】
Siは本願発明の必須元素ではない。Siの含有は、ガラスの化学的安定性を高めたり、ガラス転移点を高くする効果がある。しかしながら、ガラス転移点より以上に軟化点を高くするので、軟化点とガラス転移点の差が大きくなってしまう。従って、Siは、全く含まなくてもかまわないが、化学的安定性の向上や熱膨張係数の調整等の理由で、多少含ませることも可能である。その上限を12原子%以下に限定する理由は、12原子%を超えると軟化点が高くなりすぎるとともに、軟化点とガラス転移点の差が広がりすぎるためである。
【0027】
Znは本願発明の必須成分である。Znの添加は、誘電率、軟化点、ガラス転移点とも若干上昇させるが、その効果は同じ添加量で比較すると、アルカリ土類金属より少ない。しかしながら、ガラス転移点の上昇に比べて軟化点の上昇が小さく、また誘電率や軟化点を上昇させる効果が少ないために、比較的多く用いることができ、その結果、軟化点とガラス転移点の差を縮める効果は、アルカリ土類金属よりも大きい。また、Znの添加は、少量でも耐水性を向上させる効果がある。2原子%を越える量に限定する理由は、2原子%以下では耐水性を付与するに不足するためであり、18原子%以下とする理由は、18原子%を超えると軟化点が高くなりすぎるためである。
【0028】
上記の組成範囲とすることによって、良好な特性のガラス材料を得ることが出来る。さらに、より特性を改善するためには、BやSiのような、ガラスの網目形成酸化物となる元素(これをAグループ元素とする)と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Znのような、ガラスの網目修飾酸化物となる元素(これをBグループ元素とする)の原子比率を、下記のような特定の範囲内とすることが重要である。
【0029】
Aグループに属するBとSiは、いずれも低誘電率化をもたらすが、Bは軟化点とガラス転移点を下げながら、両者の差を広げる効果を持ち、Siは軟化点とガラス転移点を上げながら、両者の差を広げる効果を持つ。従って、低軟化点と低誘電率を両立させるには、Bを多めにすれば良いが、軟化点とガラス転移点の差は広がってしまう。一方、Bグループに属する元素は、程度の差はあれ、軟化点とガラス転移点の差を縮める効果を持つ。
【0030】
このため、低誘電率、低軟化点、高ガラス転移点を同時に実現するためには、Aグループ元素とBグループ元素の原子比率が重要となる。Aグループ、Bグループのそれぞれの元素の%の合計をX、Yとした場合、上記の組成範囲では、X/Yは2.6〜10程度となるが、より望ましくは3.0以上5.0以下である。なぜなら、上記の各成分の原子%の範囲内で、かつX/Yを3.0以上5.0以下とすれば、比誘電率6.0以下で軟化点とガラス転移点の差を110℃以下とすることが出来るからである。
【0031】
本発明のガラス組成物は上記成分を含み、典型的には実質上、上記成分のみからなる(換言すれば、上記成分以外は実質的に含まなくても良い)が、本発明の効果が得られる限り、他の成分を含有してもよい。他の成分の含有量の合計は、好ましくは5原子%以下、より好ましくは3原子%以下、さらに好ましくは1原子%以下である。
【0032】
他の成分の具体例としては、イットリウム(Y)やランタン(La)等の希土類金属、ビスマス(Bi)、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)、リン(P)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、銅(Cu)が挙げられる。イットリウム(Y)やランタン(La)等の希土類金属は、ガラス転移点を10〜20℃程度上昇させるが、軟化点も同程度上昇させるため、基本組成のガラス転移点、軟化点とも低い場合に、これを高くすることができる。ビスマス(Bi)、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)、リン(P)は、ガラス転移点を10〜20℃程度低下させるが、軟化点も同程度低下させるため、基本組成のガラス転移点、軟化点とも高い場合に、これを低下させることができる。モリブデン(Mo)、タングステン(W)は、黄変の発生を抑制する効果がある。チタン(Ti)、コバルト(Co)、銅(Cu)は、ガラスを青く着色するので、黄変が生じた場合に、補色である青色により、カラーバランスが崩れるのを防ぐことができる。これらの添加物の望ましい上限は、上述したように5原子%以下、より好ましくは3原子%以下、さらに好ましくは1原子%以下であるが、その理由は、5原子%を超えると着色がひどくなったり、誘電率が高くなったり、原料コストが高くなったりするためである。
【0033】
また、これら以外にも、熱膨張係数の調整、ガラスの安定化および化学的耐久性の向上等のために、Al、Zr、Mn、Nb、Ta、Te、Ag等を添加することも、少量であれば可能である。これらについても、好ましくは5原子%以下、より好ましくは3原子%以下、さらに好ましくは1原子%以下である。
【0034】
本発明のガラス組成物は、鉛(Pb)を実質的に含まないことが好ましい。Pbの添加は、環境への影響や、誘電率の上昇、ガラスの着色、原料コストが高くなる等の問題を引き起こすことがあるためである。
【0035】
本発明のガラス組成物は、成分にアルカリ金属を含むために、AgやCuを保護する誘電体材料として用いた場合、焼成条件等によってはAgやCuが酸化されてイオン化し、これらイオンがガラス中を拡散するという問題が発生することがある。AgやCuのイオンは、再度還元されてコロイド状金属として析出し、誘電体層やガラス基板が黄色く着色して見える、いわゆる黄変を生じさせる。黄変が生じると、特にPDPの前面板用誘電体層として用いた場合には表示性能が劣化する。この場合には、アルカリ金属を実質的に含まない層を電極に直接接する第1誘電体層に用い、その上に積層する第2誘電体層として本発明のガラス組成物を用いれば、全体として誘電率を低く維持しながら黄変を防止できる。
【0036】
本明細書において、「実質的に含まない」とは上記と同様、酸素(O)を除く元素の比率において、除去することが工業的に難しく、かつ特性に影響を及ぼさないごく微量の成分を許容する趣旨であり、具体的には、含有率が1原子%以下、より好ましくは0.1原子%以下であることをいう。
【0037】
なお、本明細書においては、元素の比率を陽イオンのみの比率で表記しているが、酸化物ガラスであるので、ガラス中には陰イオンとして酸素が存在する。上記の陽イオンを通常行われるように単位酸化物で表現すると、B、SiO、ZnO、KO、NaO、LiO、MgO、CaO、SrO、BaOのようになる。ただし、こうした表記は各陽イオンのガラス中における価数を限定しているわけではない。
【0038】
また、ガラス組成比を上記のような酸化物の重量%比率で表現し、例えば、LiとNaとKがアルカリ金属として類似した寄与をガラスの特性に与えるため、これらの一種をa重量%と表記される場合がある。しかしながら、同じ重量%でもLiとKでは含まれる原子数は全く異なってくるので、各成分比率を重量%で記載することは本質的に適当ではない。また、酸化物のmol%で表記されることもあるが、例えば、KO=20mol%、ZnO=20mol%、B=60mol%と、KO=10mol%、ZnO=30mol%、B=60mol%では、Bは同じ60mol%であるが、ガラスに含まれるB原子の数は同じではないので、このmol%表記も望ましいとは言いがたい。本願が原子%で記載するのはこの理由によるものである。
【0039】
便宜のために、本願の請求項1を重量%で換算して記載すると、
52重量%<硼素(B)≦90重量%
2重量%≦R≦19重量%
1重量%≦M≦29重量%
0重量%≦珪素(Si)≦20重量%
3.5重量%<亜鉛(Zn)≦35重量%
となる。特にRやMにおいて、元の原子%表示に比べて上限と下限の幅が広がってしまうのは、RやMの元素に原子量の幅があるためである。
【0040】
しかしながら、Rとして最も望ましいのは、最も黄変を生じにくいKであり、Mとして最も望ましいのは、上述した理由でCaであるので、この点を考慮して、より望ましい範囲を重量%で記載すると、
60重量%<硼素(B)≦85重量%
6重量%≦R≦19重量%
1重量%≦M≦12重量%
0重量%≦珪素(Si)≦19重量%
3.5重量%<亜鉛(Zn)≦34重量%
となる。
【0041】
なお、請求項2については同様に、亜鉛(Zn)が15重量%を越え、34重量%以下の範囲が望ましい。
【0042】
(PDPの構成)
本発明のディスプレイパネルの具体例として、PDPについて説明する。図1は、本実施形態にかかるPDPの主要構成を示す部分切り取り斜視図である。図2は、このPDPの断面図である。このPDPはAC面放電型であって、誘電体層が上述したガラス組成物で形成されている以外は、従来例にかかるPDPと同様の構成を有する。
【0043】
このPDPは、前面板1と背面板8とを貼り合わせて構成される。前面板1は、前面ガラス基板2と、その内側面(放電空間14に臨む面)に形成された透明電極3およびバス電極4からなる表示電極5と、表示電極5を覆うように形成された誘電体層6と、誘電体層6上に形成された酸化マグネシウムからなる誘電体保護層7とを備える。上記表示電極5は、ITOまたは酸化スズからなる透明電極3に良好な導電性を確保するため、Ag等からなるバス電極4を積層して形成される。
【0044】
背面板8は、背面ガラス基板9と、その内側面に形成したアドレス電極10と、アドレス電極10を覆うように形成された誘電体層11と、誘電体層11の上面に設けられた隔壁12と、隔壁12の間に形成された蛍光体層13とを備える。上記蛍光体層13は、赤色蛍光体層13(R)、緑色蛍光体層13(G)および青色蛍光体層13(B)がこの順に配列するように形成される。
【0045】
誘電体層6および/または誘電体層11、好ましくは誘電体層6には、上述した本発明によるガラス組成物が使用される。
【0046】
上記蛍光体層13を構成する蛍光体としては、例えば、青色蛍光体としてBaMgAl1017:Eu、緑色蛍光体としてZnSiO:Mn、赤色蛍光体としてY:Euを用いることができる。
【0047】
前面板1および背面板8は、表示電極5とアドレス電極10の各々の長手方向が互いに直交し、かつ互いに対向するように配置し、封着部材(図示せず)を用いて接合される。
【0048】
放電空間14には、He、Xe、Ne等の希ガス成分からなる放電ガス(封入ガス)が66.5〜79.8kPa(500〜600Torr)程度の圧力で封入されている。
【0049】
表示電極5とアドレス電極10は、それぞれ外部の駆動回路(図示せず)と接続され、駆動回路から印加される電圧によって放電空間14で放電が発生し、放電に伴って発生する短波長(波長147nm)の紫外線で蛍光体層13が励起されて可視光を発光する。
【0050】
誘電体層6は、通常、ガラスの粉末に印刷性を付与するためのバインダや溶剤等を添加することによってガラスペーストとし、このガラスペーストをガラス基板上に形成された電極上に塗布、焼成することによって形成される。
【0051】
ガラスペーストは、ガラスの粉末と溶剤と樹脂(バインダ)とを含むが、これら以外の成分、例えば、界面活性剤、現像促進剤、接着助剤、ハレーション防止剤、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料等、種々の目的に応じた添加剤を含んでもよい。
【0052】
ガラスペーストに含まれる樹脂(バインダ)の種類は、原料粉末との反応性が低いものであれば、特に限定されない。化学的安定性、コストおよび安全性などの観点から、例えば、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレンfグリコール、カーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂およびメラミン系樹脂から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0053】
ガラスペーストに含まれる溶剤の種類は、原料粉末との反応性が低いものであれば、特に限定されない。化学的安定性、コストおよび安全性などの観点、ならびに、バインダとの相溶性の観点から、例えば、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、脂肪族カルボン酸のエステル類、ターピネオールやベンジルアルコール等のアルコール類等の有機溶剤を使用することができる。
【0054】
ガラスペーストは、スクリーン法、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、ドクターブレード等によって塗布し、焼成する方法が代表的である。ただし、それに限定されることなく、例えば、上記ガラス組成物を含むシートを貼り付けて焼成する方法でも形成できる。
【0055】
誘電体層6の膜厚は、絶縁性と光透過性を両立させるために、10μm〜50μm程度とすることが好ましい。
【0056】
次に、誘電体層が2層構造になっているPDPについて、図3を用いて説明する。図3は、前面板における誘電体層が2層構造になっているPDPの断面図であり、誘電体層6に代えて、第1誘電体層15、第2誘電体層16の2層構造の誘電体層が用いられている以外は、図2のPDPと同様である(同じ部材(膜)については同じ符号を付し、説明を省略する)。
【0057】
図3に示すように、第1誘電体層15は、表示電極5を被覆し、第2誘電体層16は、第1誘電体層15を被覆するように配設される。このように誘電体層が2層構造の場合、第2誘電体層16に含まれるガラス組成物を本発明のガラス組成物とし、第1誘電体層15は、アルカリ金属元素を実質的に含まない層とすることが好ましい。表示電極5に直接接触している第1誘電体層15は、アルカリ金属元素を実質的に含まないため、少なくとも第1誘電体層15については、AgやCuのコロイド析出による黄変、耐圧低下を防止できる。また、第1誘電体層15でAgやCuのイオンの拡散を抑制しているため、第2誘電体層16についても変色したり、耐電圧が低下したりすることを抑制できる。
【0058】
本発明のガラス組成物によれば、比誘電率が6.5以下であるガラス組成物を提供できる。このガラス組成物を第2誘電体層16に用いれば、第1誘電体層15に多少誘電率の大きい材料を使用したとしても、全体として低誘電率の誘電体層が形成できる。従来のPb系ガラスやBi系ガラスの比誘電率が9〜13であることを考慮すると、上記のような2層構成としても消費電力は低減できる。
【0059】
上記2層構造の誘電体層は、第1誘電体層15を形成した後に、第2誘電体層16用のガラス組成物を塗布し、焼成することによって形成することができるのだが、第1誘電体層15にガラス組成物を用いた場合には、第2誘電体層16に含まれるガラス組成物の軟化点よりも高い軟化点を有することが好ましい。
【0060】
透明電極3およびバス電極4と第2誘電体層16との絶縁、および界面反応防止を確保するため、第1誘電体層15の膜厚は1μm以上とすることが好ましい。
【0061】
また、絶縁性と透過率を両立させるためには、第1誘電体層15と第2誘電体層16とを合わせた膜厚を10μm〜50μm程度とすることが好ましい。
【0062】
(PDPの作製方法)
上記PDPの作製方法について、一例を挙げて説明する。まず、前面板1を作製する。平坦な前面ガラス基板2の一主面に、ITOまたは酸化スズからなる複数のライン状の透明電極3を形成する。引き続き、透明電極3上に銀ペーストを塗布した後、前面ガラス基板2全体を加熱することによって銀ペーストを焼成し、表示電極5を形成する。
【0063】
表示電極5を覆うように、前面ガラス基板2の上記主面に誘電体層6として本発明のガラス組成物を含むガラスペーストをブレードコーター法によって塗布する。その後、前面ガラス基板2全体を90℃で30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、次いで580℃前後の温度で10分間焼成を行う。
【0064】
誘電体層6上に酸化マグネシウム(MgO)を電子ビーム蒸着法によって成膜し、焼成を行い、誘電体保護層7を形成する。この時の焼成温度は500℃前後である。
【0065】
図3に示すように、誘電体層が2層構造になっているPDPの製造方法については、上記と同様、表示電極5を覆うように第1誘電体層15を形成し、この第1誘電体層15上に第2誘電体層16用のガラスペーストを塗布、乾燥、焼成して第2誘電体層16を形成する。
【0066】
次に、背面板8を作製する。平坦な背面ガラス基板9の一主面に、銀ペーストをライン状に複数本塗布した後、背面ガラス基板9全体を加熱して銀ペーストを焼成することによってアドレス電極10を形成する。
【0067】
隣り合うアドレス電極10の間の誘電体層11上にガラスペーストを塗布し、背面ガラス基板9全体を加熱してガラスペーストを焼成することによって隔壁12を形成する。
【0068】
隣り合う隔壁12の間に、R、G、B各色の蛍光体インクを塗布し、背面ガラス基板9全体を約500℃に加熱して上記蛍光体インクを焼成することによって、蛍光体インク内の樹脂成分(バインダ)等を除去して蛍光体層13を形成する。
【0069】
こうして得た前面板1と背面板8とを封着ガラスを用いて貼り合わせる。この時の温度は500℃前後である。その後、封止された内部を高真空排気した後、希ガスを封入する。以上のようにしてPDPが得られる。
【0070】
上述したPDPおよびその製造方法は一例であり、本発明はこれに限定されないが、上記のように誘電体層は、それ自体の焼成以外に、MgO層の焼成と、前面板と背面板の封着の際に、いずれも短時間ではあるが500℃程度の熱処理を経ることになる。その際、誘電体層のガラス転移点があまりに低いと、ガラス転移点を超えた温度域で熱膨張係数が大きくなるため、誘電体層にクラックが生じたり、剥離が生じたりして使用できない。発明者の検討によると、誘電体層に含まれるガラス組成物のガラス転移点は、465℃以上、さらには480℃以上が望ましい。
【0071】
なお、本発明を適用するPDPとしては、上記のような面放電型のものが代表的であるが、これに限定されるものではなく、対向放電型にも適用できる。また、AC型に限定されるものではなく、DC型のPDPであっても誘電体層を備えたものに対して適用することができる。
【0072】
本発明のガラス組成物は、PDPに限定されず、ガラス層形成の熱処理後に、再度500℃程度の高温熱処理を行う必要があるディスプレイパネルに有効に使用され得る。
【0073】
本発明のガラス組成物は、誘電体層によって被覆される電極がAgおよびCuから選ばれる少なくとも1種を含むディスプレイパネルに好適である。上記電極は、Agを主成分とするものであってもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0075】
(実施例1)
出発原料として、試薬特級以上の各種金属の酸化物または炭酸塩を用いた。これらの原料を、各元素の原子比が(表1)に示すようになるように秤量し、充分混合した後、白金坩堝に入れ、900〜1100℃の電気炉中で2時間溶融した。得られた融液を真鍮板にてプレスすることにより急冷し、ガラスカレットを作製した。このガラスカレットを粉砕し、マクロ型示差熱分析計を用いて、軟化点Tsと、結晶化発熱のピーク温度(=結晶化開始温度)Txを測定した。
【0076】
次に、ガラスカレットを再溶融して4mm×4mm×20mmのガラスロッドを形成し、熱機械分析計を用いて、ガラス転移点Tgと熱膨張係数αを測定した。また、ガラスカレットを再溶融して20mm×20mm×1mmの板を形成し、その表面を鏡面研磨した後、電極を蒸着し、LCRメータを用いて、周波数1kHzにて比誘電率εを測定した。また、ガラスカレットを再溶融して、20mm×10mm×5mmのブロックを作製し、このブロックを80℃の熱水に24時間浸漬し、浸漬前後の重量変化より溶解した体積を算出し、この体積を浸漬前の試料の表面積で徐して、溶解した厚さ(=溶解量)△tを測定した。測定結果を(表1)に示す。なお、以下のすべての表において、ガラス転移点Tg、軟化点Ts、ピーク温度(=結晶化開始温度)Txの単位は℃、熱膨張係数αの単位は×10−7/℃、溶解量Δtの単位はμmである。
【0077】
【表1】

【0078】
(表1)より明らかなように、BとKのみよりなる試料No.1は、比誘電率εが非常に低いが、ガラス転移点Tg、軟化点Tsとも低く、Ts−Tgは137℃である。また、耐水性は全くなく、完全に溶解した。この試料No.1に、Zn、Mg、Ca、Sr、Baをそれぞれ単独で添加していった試料No.2〜16では、添加に伴い、ガラス転移点Tg、軟化点Tsとも上昇し、Ts−Tgも小さくなり、耐水性も向上した。しかし、Zn添加でガラス転移点Tgを充分上げるには多量の添加が必要であり、このような多量の添加を行うと、試料No.4のように、結晶化開始温度Txが低下するという問題点があった(結晶化開始温度Txに関しては、微量の結晶の生成は、発熱ピークよりかなり低温で生じるため、結晶化開始温度Txと軟化点Tsの差が50℃以下では、焼成後のガラス層に少量の結晶が混入し、透過率が低下する危険性があり、実使用上では問題となる)。また、アルカリ土類添加では、比較的少量でガラス転移点Tg、軟化点Tsが上昇し、結晶化開始温度Txも高くなったが、Ts−Tgは120℃以上であり、また溶解量△tは100μmを越え、いずれも実使用において不安が残る結果となった。
【0079】
これに対して、Znとアルカリ土類を併用した試料No.17〜23では、比誘電率εが6.0以下の範囲で、ガラス転移点Tg、軟化点Tsを適度な値とすることができ、結晶化の問題も無く、溶解量△tも20μm程度と少なかった。No.24ではB量が少なく、軟化点Tsが高くなった。
【0080】
B量を多く、あるいは少なくした試料No.25〜31では、B量が88mol%を越えると、ガラス転移点Tgが低くなりすぎ、72mol%では、軟化点Tsが高くなりすぎた。No.17〜24の結果と併せて、B量は72mol%を越え、88mol%以下である必要があることがわかった。
【0081】
Zn量を固定し、Ca量を増加させた試料No.32〜35では、Caが8mol%を越えると軟化点Tsが高く、比誘電率εも大きくなりすぎた。
【0082】
アルカリ土類の種類を変えた試料No.33と36〜38では、いずれも良好な結果を示したが、Caが最もガラス転移点Tgと軟化点Tsの差が小さく、比誘電率εも低く、良好であった。また、4種類のアルカリ土類を併用したNo.39では、平均的な特性が得られた。
【0083】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、各金属元素の原子比が(表2)となるガラスカレットおよびガラスロッドを作成し、実施例1と同様の方法で、ガラス転移点Tg、軟化点Ts、結晶化開始温度Tx、熱膨張係数α、比誘電率ε、溶解量△tを測定した。全ての試料で結晶化開始温度Txは700℃を越え、溶解量△tは20μm未満であったので、それ以外の測定結果を(表2)に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
K量を増やし、B量を減少させていったNo.41〜45では、K量が少ない時に軟化点Tsが高くなりすぎ、K量が多いときに比誘電率εが高くなった。
【0086】
KをNaやLiに置き換え、6原子%または16原子%とした試料No.46〜49では、同一添加量において、軟化点TsはLi<Na<Kとなり、熱膨張係数αはLi<Na<Kとなり、比誘電率εはLi>Na>Kとなったが、大きな差は見られなかった。また、Li、Na、Kを併用した試料No.50では、平均的な特性となった。従って、Li+Na+K量は6原子%以上16原子%以下が望ましい。
【0087】
他の成分に対してSi量を増加させていった試料No.51〜56では、添加量増加に伴い、軟化点Tsが上昇した。従って、Siは12原子%以下であることが必要であり、より望ましくは10原子%以下、さらに望ましくは5原子%以下であることが必要である。
【0088】
発明者は、上記実施例1、2に示した以外にも種々の組成の組み合わせを検討したが、いずれの場合にも、72原子%<B≦88原子%、6原子%≦Li+Na+K≦16原子%、1原子%≦Mg+Ca+Sr+Ba≦8原子%、0原子%≦Si≦12原子%、2原子%<Zn≦18原子%の範囲で組成を調整することによって、6.5以下の比誘電率、465℃以上のガラス転移点、595℃以下の軟化点、60×10−7〜90×10−7/℃の熱膨張係数を併せ持ち、溶解厚さが100μm以下の良好な特性のガラスを得ることが可能であった。また、Zn量を7原子%以上、より望ましくは7.5原子%以上とすることによって、ガラス転移点を480℃以上とすることが可能であった。
【0089】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、B:K:Ca:Zn=80.5:10:2:7.5の原子比となるように、各種原料粉末を混合して白金坩堝に入れ、電気炉中1150℃で2時間溶融した後、ツインローラー法によってガラスカレットを作製した。このガラスカレットを、乾式ボールミルによって粉砕して粉末を作製した。得られたガラス粉末の平均粒径は5μm程度であった。本ガラスの比誘電率は5.7、ガラス転移点は485℃、軟化点は582℃、熱膨張係数は72×10−7/℃であった。
【0090】
この粉末に、バインダとしてエチルセルロースを、溶剤としてα−ターピネオールを加え、3本ロールにて混合してガラスペーストとした。
【0091】
次に、厚さ約2.8mmの平坦なソーダライムガラスからなる前面ガラス基板の面上に、ITO(透明電極)の材料を所定のパターンで塗布し、乾燥した。次いで、銀粉末と有機ビヒクルとの混合物である銀ペーストをライン状に複数本塗布した後、上記前面ガラス基板を加熱することにより、上記銀ペーストを焼成して表示電極を形成した。
【0092】
表示電極を作製した前面ガラス基板に、上述したガラスペーストをブレードコーター法を用いて塗布した。その後、上記前面ガラス基板を90℃で30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、585℃の温度で10分間焼成することによって、厚さ約30μmの誘電体層を形成した。
【0093】
上記誘電体層上に酸化マグネシウム(MgO)を電子ビーム蒸着法によって蒸着した後、500℃で焼成することによって保護層を形成した。
【0094】
一方、以下の方法で背面板を作製した。まず、ソーダライムガラスからなる背面ガラス基板上にスクリーン印刷によって銀を主体とするアドレス電極をストライプ状に形成し、引き続き、前面板と同様の方法で、厚さ約8μmの誘電体層を形成した。
【0095】
次に、誘電体層上に、隣り合うアドレス電極の間に、ガラスペーストを用いて隔壁を形成した。隔壁は、スクリーン印刷および焼成を繰り返すことによって形成した。
【0096】
引き続き、隔壁の壁面と隔壁間で露出している誘電体層の表面に、赤(R)、緑(G)、青(B)の蛍光体ペーストを塗布し、乾燥および焼成して蛍光体層を作製した。蛍光体としては上述した材料を用いた。
【0097】
作製した前面板、背面板をBi−Zn−B−Si−O系の封着ガラスを用いて500℃で貼り合わせた。そして、放電空間の内部を高真空(1×10−4Pa)程度に排気した後、所定の圧力となるようにNe−Xe系放電ガスを封入した。このようにして、PDPを作製した。
【0098】
作製したパネルは、特に誘電体層に欠陥を生じることもなく、問題なく動作することが確認できた。
【0099】
(実施例4)
実施例3と同様に、第2誘電体層用に、B−K−Ca−Zn−O系ガラスペーストを準備した。また別途、第1誘電体層用に、Biを含み、アルカリ金属を実質的に含まない、比誘電率が11で軟化点が587℃の、Bi−Zn−B−Ca−Si−O系ガラスペーストを準備した。
【0100】
これらのペーストを用いて、実施例3と同様の方法で、前面板の誘電体層が、電極を直接覆う第1誘電体層と、この第1誘電体層の上に形成される第2誘電体層の、2層構造となるPDPパネルを作成した。なお、第1誘電体層は、590℃で焼成して厚さ約10μm、第2誘電体層は、580℃で焼成して厚さ約20μmとした。
【0101】
作製したパネルは、特に誘電体層に欠陥を生じることもなく、問題なく動作することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、電極用絶縁被覆ガラス、特にプラズマディスプレイパネルの表示電極やアドレス電極を被覆するための誘電体層の形成に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明によるPDPの構成の一例を示す部分切り取り斜視図
【図2】図1に示したPDPの断面図
【図3】本発明によるPDPの構成の別の一例を示す断面図
【符号の説明】
【0104】
1 前面板
2 前面ガラス基板
3 透明電極
4 バス電極
5 表示電極
6 誘電体層
7 誘電体保護層
8 背面板
9 背面ガラス基板
10 アドレス電極
11 誘電体層
12 隔壁
13 蛍光体層
14 放電空間
15 第1誘電体層
16 第2誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物ガラスであって、含まれる元素の内、酸素(O)を除く元素の比率が、
72原子%<硼素(B)≦88原子%
6原子%≦R≦16原子%
1原子%≦M≦8原子%
0原子%≦珪素(Si)≦12原子%
2原子%<亜鉛(Zn)≦18原子%
(ここで、RはLi、Na、Kより選ばれた1種類以上であり、MはMg、Ca、Sr、Baより選ばれた1種類以上)であることを特徴とするガラス組成物。
【請求項2】
亜鉛(Zn)が7原子%を越え、18原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
軟化点が595℃以下であり、ガラス転移点が465℃以上であり、熱膨張係数が60×10−7/℃〜90×10−7/℃であり、比誘電率が6.5以下である請求項1または2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
ガラス組成物を含む誘電体層によって電極が被覆されているディスプレイパネルであって、前記ガラス組成物が、請求項1〜3のいずれかに記載のガラス組成物であるディスプレイパネル。
【請求項5】
誘電体層によって電極が被覆されているディスプレイパネルであって、前記誘電体層が前記電極を直接被覆する第1誘電体層と、前記第1誘電体層上に形成された第2誘電体層とを含み、前記第1誘電体層がアルカリ金属元素を実質的に含まず、前記第2誘電体層が、請求項1〜3のいずれかに記載のガラス組成物であるディスプレイパネル。
【請求項6】
前記電極が銀(Ag)および銅(Cu)から選ばれる少なくとも1種を含む請求項4または5に記載のディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−269590(P2007−269590A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98814(P2006−98814)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】