キャパシタ、強誘電体メモリ装置、アクチュエータおよび液体噴射ヘッド
【課題】結晶性の良好な誘電体膜を有し、良好なヒステリシス特性を有することができるキャパシタを提供する。
【解決手段】本発明に係るキャパシタ100は,下部電極4と、下部電極4の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜11と、第1誘電体膜11の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜13と、第2誘電体膜13の上方に形成された上部電極6と,を含む。
【解決手段】本発明に係るキャパシタ100は,下部電極4と、下部電極4の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜11と、第1誘電体膜11の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜13と、第2誘電体膜13の上方に形成された上部電極6と,を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタおよびその製造方法、強誘電体メモリ装置、アクチュエータ、並びに、液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体メモリは、不揮発性、高速書き込み/読出し、低消費電力といった特長を有し、次世代不揮発性メモリの有力な候補の一つである。
【0003】
強誘電体メモリの構造として一般的なものの一つに1T1C型構造がある。1T1C型構造の強誘電体メモリは、当初、プレーナ型構造で開発が行なわれてきた。しかしながら、強誘電体メモリの高集積化が進むにつれて、よりセル面積が小さな構造が求められるようになり、スタック型構造で開発が行われるようになってきている(例えば特開平10−223847号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−223847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、結晶性の良好な誘電体膜を有し、良好なヒステリシス特性を有することができるキャパシタおよびその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、強誘電体メモリ装置、アクチュエータ、および、液体噴射ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るキャパシタは、
下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、を含む。
【0007】
このキャパシタは、前記第1誘電体膜と、前記第2誘電体膜と、を含む。これにより、誘電体膜(前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜)をより高配向化させることができ、かつ、残留分極量を大きくすることができる。即ち、このキャパシタは、結晶性の良好な前記誘電体膜を有し、良好なヒステリシス特性を有することができる。このことは、後述する実験例において確認されている。
【0008】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「A」という)の「上方」に形成された他の特定のもの(以下「B」という)」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bが形成されているような場合と、A上に他のものを介してBが形成されているような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。
【0009】
本発明に係るキャパシタにおいて、
前記第2誘電体膜の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第3誘電体膜を有し、
前記第3誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛は、前記第2誘電体膜がニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる場合において、前記第2誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が大きいことができる。
【0010】
本発明に係るキャパシタの製造方法は、
基板の上方に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極の上方に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜を形成する工程と、
前記第1誘電体膜の上方に、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜を形成する工程と、
少なくとも前記第2誘電体膜に対して行う熱処理工程と、
前記第2誘電体膜の上方に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第3誘電体膜を形成する工程と、
前記第3誘電体膜の上方に上部電極を形成する工程と、を含み、
前記第3誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛は、前記第2誘電体膜がニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる場合において、前記第2誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が大きく、
前記熱処理工程は、前記第3誘電体膜の形成工程よりも前に行われる。
【0011】
本発明に係る強誘電体メモリ装置は、
下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、
前記下部電極および前記上部電極のうちの少なくとも一方と電気的に接続された制御回路部と、を含む。
【0012】
本発明に係る強誘電体メモリ装置において、
基板と、
前記基板の上方に形成された層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜に形成されたコンタクトホールに埋め込まれたプラグ層と、を含み、
前記下部電極は、少なくとも前記プラグ層の上面に接して形成されていることができる。
【0013】
本発明に係るアクチュエータは、
弾性板と、
前記弾性板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、を含む。
【0014】
本発明に係る液体噴射ヘッドは、
基板と、
前記基板の上方に形成された弾性板と、
前記弾性板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、
前記基板に形成された流路と、
前記基板の下方に形成され、前記流路に連続するノズル穴を有するノズルプレートと、を含む。
【0015】
なお、本発明に係る記載では、「下方」という文言を、例えば、「Aの「下方」に形成されたB」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、Aの下に直接Bが形成されているような場合と、Aの下に他のものを介してBが形成されているような場合とが含まれるものとして、「下方」という文言を用いている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係るキャパシタを模式的に示す断面図。
【図2】第1の実施形態のスタック型の強誘電体メモリ装置を模式的に示す断面図。
【図3】第1の実施形態のプレーナ型の強誘電体メモリ装置を模式的に示す断面図。
【図4】実験例の条件aによりキャパシタを形成した場合のX線回折測定の結果。
【図5】実験例の条件bによりキャパシタを形成した場合のX線回折測定の結果。
【図6】実験例の条件cによりキャパシタを形成した場合のX線回折測定の結果。
【図7】実験例の条件dによりキャパシタを形成した場合のX線回折測定の結果。
【図8】実験例の比較例1に係るキャパシタのX線回折測定の結果。
【図9】実験例の比較例1に係るキャパシタのX線回折測定の結果。
【図10】条件aによりキャパシタを形成した場合のヒステリシス特性の測定結果。
【図11】条件bによりキャパシタを形成した場合のヒステリシス特性の測定結果。
【図12】条件dによりキャパシタを形成した場合のヒステリシス特性の測定結果。
【図13】実験例の比較例1に係るキャパシタのヒステリシス特性の測定結果。
【図14】実験例の比較例2に係るキャパシタのヒステリシス特性の測定結果。
【図15】誘電体膜がPZTN単層である場合のヒステリシス特性の測定結果。
【図16】第1の実施形態に係るオージェ電子分光(AES)の分析結果。
【図17】スタック型電極およびプレーナ型電極のPtのX線回折測定の結果。
【図18】第2の実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す断面図。
【図19】第2の実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
1. 第1の実施形態
1.1. まず、第1の実施形態に係るキャパシタの製造方法およびその製造方法により得られるキャパシタ100について説明する。図1は、本実施形態に係るキャパシタ100を模式的に示す断面図である。
【0019】
(A)まず、基板1上に下部電極4を形成する。基板1としては、例えば、半導体基板、樹脂基板などを用途に応じて任意に用いることができ、特に限定されない。下部電極4としては、例えば、Pt、Irなどの高融点金属やその酸化物などを用いることができる。下部電極4は、単層膜構造でも積層膜構造でも良く、酸素拡散防止膜などの機能性膜を含んでも良い。下部電極4は、例えば、スパッタ法、蒸着法などにより形成されることができる。下部電極4の構造は、例えば、Pt(100nm)/IrOx(30nm)/Ir(100nm)/TiAlN(100nm)とすることができる。
【0020】
(B)次に、下部電極4上に第1誘電体膜11を形成する。第1誘電体膜11は、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)(以下「PZTN」ともいう)からなる。PZTNは、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)(以下「PZT」ともいう)にNbを添加した誘電体である。第1誘電体膜11は、例えば、スピンコート法などを用いて、Pb、Zr、Ti、Nbを含むゾルゲル溶液を下部電極4上に塗布することにより形成されることができる。第1誘電体膜11の膜厚は、例えば5nmとすることができる。
【0021】
(C)次に、熱処理を行うことが好ましい。これにより、第1誘電体膜11を含む誘電体膜5の結晶性を向上させることができる。このことは、後述する実験例において確認されている。熱処理は、RTAにて行われることができる。熱処理は、例えば、酸素雰囲気中にて、650℃で3分間行われることができる。
【0022】
(D)次に、第1誘電体膜11上に第2誘電体膜13を形成する。第2誘電体膜13は、PZT、または、第1誘電体膜11を構成するPZTNよりもNb組成が小さいPZTNからなる。第2誘電体膜13は、例えば、スピンコート法などを用いて、構成元素(PZTの場合には、Pb、Zr、Ti、PZTNの場合には、Pb、Zr、Ti、Nb)を含むゾルゲル溶液を第1誘電体膜11上に塗布することにより形成されることができる。第2誘電体膜13の膜厚は、例えば100nmとすることができる。
【0023】
(E)次に、熱処理を行うことが好ましい。これにより、第2誘電体膜13を含む誘電体膜5の結晶性を向上させることができる。特に、第2誘電体膜13上に後述する第3誘電体膜15を形成する場合に、本工程の熱処理を行うことが有効である。このことは、後述する実験例において確認されている。熱処理は、RTAにて行われることができる。熱処理は、例えば、酸素雰囲気中にて、650℃で3分間行われることができる。
【0024】
(F)次に、第2誘電体膜13上にPZTNからなる第3誘電体膜15を形成し、熱処理を行うことが好ましい。これにより、第3誘電体膜15を含む誘電体膜5の結晶性を向上させることができる。このことは、後述する実験例において確認されている。第3誘電体膜15を構成するPZTNは、第2誘電体膜13がPZTNからなる場合において、第2誘電体膜13を構成するPZTNよりもNb組成が大きいことが好ましい。第3誘電体膜15は、例えば、スピンコート法などを用いて、Pb、Zr、Ti、Nbを含むゾルゲル溶液を第2誘電体膜13上に塗布することにより形成されることができる。第3誘電体膜15の膜厚は、例えば5nmとすることができる。熱処理は、RTAにて行われることができる。熱処理は、例えば、酸素雰囲気中にて、650℃で3分間行われることができる。なお、本発明では、第3誘電体膜15を形成しないこともできる。
【0025】
以上の工程により、下部電極4上に、第1〜第3誘電体膜11,13,15から構成される誘電体膜5が形成される。
【0026】
(G)次に、熱処理を行うことができる。これにより、誘電体膜5の結晶性を向上させることができる。熱処理は、RTAにて行われることができる。熱処理は、例えば、650℃で5分間行われることができる。
【0027】
(H)次に、誘電体膜5上に上部電極6を形成する。上部電極6としては、例えば、Pt、Irなどの高融点金属やその酸化物などを用いることができる。上部電極6は、例えば、スパッタ法、蒸着法などにより形成されることができる。上部電極6の膜厚は、例えば100nmとすることができる。
【0028】
(I)次に、熱処理を行うことができる。熱処理は、RTAにて行われることができる。熱処理は、例えば、650℃で10分間行われることができる。
【0029】
(J)次に、図1に示すように、上部電極6、誘電体膜5、および下部電極4をエッチングして所望の形状に加工する。これにより、基板1上に、下部電極4、誘電体膜5、および上部電極6から構成される柱状の堆積体が形成される。この柱状の堆積体が本実施形態に係るキャパシタ100である。即ち、以上の工程によって、図1に示すように、本実施形態に係るキャパシタ100を形成することができる。
【0030】
1.2. 次に、本実施形態に係るキャパシタ100を強誘電体メモリ装置200に適用する例について説明する。
【0031】
図2は、本実施形態に係る強誘電体メモリ装置200を模式的に示す断面図である。なお、図示の例は、1T1C型であって、スタック型の強誘電体メモリ装置である。
【0032】
強誘電体メモリ装置200は、図2に示すように、キャパシタ100と、制御回路部300と、を含む。
【0033】
制御回路部300は、キャパシタ100に対して情報の書き込みまたは読出しを行うための各種回路を含む。制御回路部300は、例えば、図2に示すように、基板1の表面近傍に形成されたMOSトランジスタから構成されることができる。MOSトランジスタのゲート電極は、ワード線WLとなっている。MOSトランジスタには、ビット線BLが電気的に接続されている。MOSトランジスタは、他の素子(図示せず)と素子分離領域410によって分離されている。MOSトランジスタが形成された基板1上には、第1層間絶縁膜420が形成されている。第1層間絶縁膜420の上にキャパシタ100が形成されている。また、第1層間絶縁膜420の上方には、キャパシタ100を覆うようにして、第2層間絶縁膜430が形成されている。制御回路部(図示の例ではMOSトランジスタ)300とキャパシタ100とは、第1層間絶縁膜420に形成されたコンタクトホールに埋め込まれたプラグ層451によって電気的に接続されている。制御回路部300は、下部電極4および上部電極6のうちの少なくとも一方と電気的に接続されている。図示の例では、制御回路部300は、プラグ層451を介して、下部電極4と電気的に接続されている。下部電極4は、少なくともプラグ層451の上面に接して形成されている。図示の例では、下部電極4の下面の一部が、プラグ層451の上面に接している。
【0034】
なお、図2に示す例では、1T1C型であって、スタック型の強誘電体メモリ装置について説明したが、本実施形態に係るキャパシタ100を、図3に示すような1T1C型であって、プレーナ型の強誘電体メモリ装置に適用することもできる。図3は、本実施形態に係るプレーナ型の強誘電体メモリ装置200を模式的に示す断面図である。図示の例では、制御回路部300は、配線層450を介して、上部電極6と電気的に接続されている。
【0035】
また、上述した例では、1T1C型の強誘電体メモリ装置について説明したが、本実施形態の強誘電体メモリ装置は、例えば、2T2C型や単純マトリクス型(クロスポイント型)などの各種のセル方式を用いた強誘電体メモリ装置にも適用することができる。
【0036】
1.3. 次に、実験例について説明する。
【0037】
まず、上述した製造方法を用いてキャパシタ100を形成した。キャパシタ100の形成条件は、表1の条件a〜dに示す通りである。表1における「○」は表1に記載された工程を行ったことを示し、「×」は表1に記載された工程を行わなかったことを示している。表1に記載されていない工程については、すべての条件において行っている。第1誘電体膜11および第3誘電体膜15としては、PbZr0.16Ti0.60Nb0.24O3を用いた。第2誘電体膜13としては、PbZr0.3Ti0.7O3を用いた。下部電極4としては、窒化チタンアルミニウム(TiAlN)層、イリジウム(Ir)層、酸化イリジウム層(IrOx)層、白金(Pt)層をこの順に積層したものを用いた。
【0038】
また、比較例として、第1誘電体膜11および第3誘電体膜15を形成せずにキャパシタを形成した。即ち、誘電体膜5は、PZT単層である。比較例1では、下部電極4を形成した後の熱処理(上述した(B)工程)を行っておらず、比較例2では、該(B)工程を行っている。
【0039】
【表1】
【0040】
図4〜図7は、それぞれ条件a〜dによりキャパシタ100を形成した場合のX線回折測定の結果である。図8、図9は、それぞれ比較例1、2に係るキャパシタのX線回折測定の結果である。表2は、X線回折測定の結果をまとめたものである。表2には、誘電体膜5における(100)、(110)、(111)のピーク強度、並びに、これらのピーク強度の総和における(111)のピーク強度の割合が記載されている。なお、例えば、誘電体膜5における(111)のピーク強度とは、条件a〜dにおいては、PZTN(111)のピーク強度とPZT(111)のピーク強度の和を示しており、比較例においては、PZT(111)のピーク強度を示している。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、PZT(111)のピーク強度の割合で比較すると、比較例1(87%)や比較例2(90%)に比べ、条件aの場合(95%)や条件bの場合(96%)の方が、誘電体膜5はより(111)高配向していることが分かる。このことは、下部電極4上に第1誘電体膜11を形成した後に、第2誘電体膜13を形成することによって、誘電体膜5(第1、第2誘電体膜11,13)がより(111)高配向することを示している。
【0043】
また、表2に示すように、さらに第3誘電体膜15を形成した場合であって、第3誘電体膜15を形成する前に熱処理工程を行わなかった場合(条件c)では、誘電体膜5の(111)のピーク強度の割合は89%であった。これに対し、第3誘電体膜15を形成する前に熱処理工程を行った場合(条件d)では、誘電体膜5の(111)のピーク強度の割合は98%であった。条件dの場合は、全条件の中で最も誘電体膜5の(111)のピーク強度の割合が高くなっている。即ち、下部電極4上に、第1〜第3誘電体膜11,13,15を形成し、第3誘電体膜15を形成する前に熱処理工程を行うことによって、誘電体膜5(第1〜第3誘電体膜11,13,15)をより一層(111)高配向させることができることが確認された。
【0044】
次に、キャパシタ100のヒステリシス特性を測定した。図10、図11、図12は、それぞれ表1の条件a、b、dによりキャパシタ100を形成した場合のヒステリシス特性の測定結果である。図13、図14は、それぞれ表1の比較例1、2に係るキャパシタのヒステリシス特性の測定結果である。図15は、表1の比較例1の条件により、第2誘電体膜13としてPZTNを用いてキャパシタを形成した場合(即ち、誘電体膜5がPZTN単層である場合)のヒステリシス特性の測定結果である。なお、図10、図11、図14においては、上述したように、第1誘電体膜11および第3誘電体膜15として、PbZr0.16Ti0.60Nb0.24O3を用い、第2誘電体膜13として、PbZr0.3Ti0.7O3を用いた。また、図12、図13においては、第1誘電体膜11および第3誘電体膜15として、PbZr0.24Ti0.56Nb0.20O3を用い、第2誘電体膜13として、PbZr0.4Ti0.6O3を用いた。また、図15の場合においては、第2誘電体膜13として、PbZr0.24Ti0.56Nb0.20O3を用いた。
【0045】
条件a、b、dによりキャパシタ100を形成した場合(図10〜図12)は、誘電体膜5としてPZTN単層を用いてキャパシタを形成した場合(図15)に比べ、残留分極量が大きなヒステリシス特性を示している。さらに、条件dによりキャパシタ100を形成した場合(図12)は、ヒステリシス曲線が電圧軸および分極軸に対して対称となり、良好なヒステリシス特性を示している。一方、比較例1、2の条件によりキャパシタを形成した場合(図13、図14)は、ヒステリシス曲線が電圧軸および分極軸に対して非対称となっており、ヒステリシス特性は良好ではない。
【0046】
1.4. 本実施形態に係るキャパシタ100は、下部電極4上に形成され、PZTNからなる第1誘電体膜11と、第1誘電体膜11上に形成され、PZT、または、第1誘電体膜11を構成するPZTNよりもNb組成が小さいPZTNからなる第2誘電体膜13と、を含む。これにより、誘電体膜5(第1、第2誘電体膜11,13)をより(111)高配向させることができ、かつ、残留分極量を大きくすることができる。このことは、上述した実験例において確認されている。なお、この理由としては、以下のように考えられる。
【0047】
例えば、第1誘電体膜11を形成せずに、下部電極4上に直接PZTからなる第2誘電体膜13を形成するような場合には、下部電極4および第2誘電体膜13を構成する各成分が相互拡散する場合がある。このため、下部電極4と第2誘電体膜13との界面に酸化チタン(TiO2)、酸化鉛(PbO)などの異相が形成され、それらに妨げられてPZTの高配向化が妨げられるものと考えられる。これに対し、本実施形態のように、下部電極4上にPZTNからなる第1誘電体膜11を形成すると、下部電極4および第2誘電体膜13を構成する各成分の相互拡散を防ぐことができる。図16は、このことを示すオージェ電子分光(AES)の分析結果である。図16に示すように、下部電極4のうちの最上層を構成する白金(Pt)と、PZTNからなる第1誘電体膜11を構成する鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、酸素(O)との相互拡散がほとんど生じていないことが分かる。従って、本実施形態のように、下部電極4上にPZTNからなる第1誘電体膜11を形成すると、下部電極4と第1誘電体膜11との界面に上述した異相が形成されない。このため、下部電極4上に高配向したPZTNからなる第1誘電体膜11を形成することができる。さらに、第1誘電体膜11の上に形成される第2誘電体膜13を構成するPZT、または、第1誘電体膜11を構成するPZTNよりもNb組成が小さいPZTNを高配向化させることができる。
【0048】
そして、PZTまたはNb組成の小さいPZTNは、Nb組成の大きいPZTNに比べ、残留分極量が(111)配向の量に依存されにくいため、第2誘電体膜13として、PZTまたはNb組成の小さいPZTNを用いると、PZTNを用いる場合に比べ、残留分極量を大きくすることができる。
【0049】
以上のことから、本実施形態に係るキャパシタ100によれば、誘電体膜5(第1、第2誘電体膜11,13)をより(111)高配向させることができ、かつ、残留分極量を大きくすることができる。即ち、本実施形態に係るキャパシタ100は、結晶性の良好な誘電体膜5を有し、良好なヒステリシス特性を有することができる。
【0050】
また、本実施形態に係るキャパシタ100は、第2誘電体膜13上に、さらにPZTNからなる第3誘電体膜15を有することができる。これにより、誘電体膜5(第1〜第3誘電体膜11,13,15)をより一層(111)高配向させることができる。そして、ヒステリシス曲線を電圧軸および分極軸に対して対称とすることができ、良好なヒステリシス特性を得ることができる。これらのことは、上述した実験例において確認されている。なお、ヒステリシス曲線を電圧軸および分極軸に対して対称とすることができる理由としては、以下のように考えられる。
【0051】
上述したように、PZTNからなる第1誘電体膜11と下部電極4との界面には、TiO2、PbOなどの異相が形成されない。同様に、PZTNからなる第3誘電体膜15と上部電極6との界面にも、前記異相が形成されない。従って、第1誘電体膜11と下部電極4との界面、および、第3誘電体膜15と上部電極6との界面では、例えば、第1誘電体膜11および第3誘電体膜15を形成しないような場合に比べ、構成成分の組成が均一である。そして、第1誘電体膜11と第3誘電体膜15とが第2誘電体膜13を挟むことにより、キャパシタ100において、第2誘電体膜13に関して、その上下の構成をほぼ対称にすることができる。即ち、キャパシタ100の対称性を良くすることができる。以上のことから、本実施形態に係るキャパシタ100によれば、ヒステリシス曲線を電圧軸および分極軸に対して対称とすることができ、延いては、キャパシタ100の信頼性を高くすることができる。
【0052】
また、本実施形態では、スタック型の強誘電体メモリ装置200においては、例えばタングステン(W)などからなるプラグ層451上に、直接キャパシタ100を形成する。従って、キャパシタ100の形成プロセスにおいて、プラグ層451の酸化を防止することが望まれる。例えば、下部電極4として、窒化物層(例えばTiAlN層)、Ir層、IrOx層、Pt層をこの順に積層したもの(以下「スタック型電極」ともいう)を用いることにより、プラグ層451の酸化を防止することができる。ここで、窒化物層は、第1層間絶縁膜420と下部電極4との間の密着層である。Ir層は、前記窒化物層の酸化を防止することができる酸素バリア層である。IrOx層は、Pt層とIr層との間の密着層である。Pt層は、その上に形成される誘電体膜5を(111)配向させやすくすることができる層であり、(111)配向している。スタック型の強誘電体メモリ装置200に対し、プレーナ型の強誘電体メモリ装置200では、プラグ層451の酸化を防止することは望まれないため、下部電極4としては、例えば、酸化チタン(TiOx)層、Pt層をこの順に積層したもの(以下「プレーナ型電極」ともいう)を用いることができる。
【0053】
図17は、スタック型電極およびプレーナ型電極におけるPt(111)のX線回折測定の結果である。図17において、グラフSがスタック型電極の場合を示しており、グラフPがプレーナ型電極の場合を示している。図17に示すように、スタック型電極の最上層のPt層の結晶性は、プレーナ型電極の最上層のPt層よりも劣っていることが分かる。本実施形態に係るキャパシタ100によれば、下部電極4としてスタック型電極を用いても、結晶性の良好な誘電体膜5を有することができ、良好なヒステリシス特性を有することができる。このことは、上述した実験例において確認されている。従って、本実施形態に係るキャパシタ100は、プレーナ型の強誘電体メモリ装置200よりもデバイスの小型化が可能なスタック型の強誘電体メモリ装置200に適用される場合に極めて有効である。
【0054】
また、本実施形態に係るキャパシタ100によれば、図16に示すように、スタック型電極(下部電極4)とPZTN(第1誘電体膜11)との間の酸素成分の拡散がほとんどない。このため、本実施形態に係るキャパシタ100は、スタック型の強誘電体メモリ装置200に適用される場合に有効である。
【0055】
2. 第2の実施形態
2.1. 次に、第2の実施形態に係るアクチュエータおよび液体噴射ヘッドについて説明する。
【0056】
図18は、本実施形態に係る液体噴射ヘッド50を模式的に示す断面図であり、図19は、本実施形態に係る液体噴射ヘッド50の分解斜視図である。なお、図19は、通常使用される状態とは上下を逆に示したものである。
【0057】
液体噴射ヘッド50は、図18に示すように、ノズルプレート51と、基板52と、アクチュエータ70と、を含む。アクチュエータ70は、基板52の上に形成された弾性板55と、弾性板55の上に形成された圧電部(振動源)54と、を含む。圧電部54は、下部電極104と、誘電体膜105と、上部電極106と、を含む。圧電部54は、さらに、下部電極104、誘電体膜105、および上部電極106を被覆する絶縁層120を有することができる。アクチュエータ70および液体噴射ヘッド50において、下部電極104、誘電体膜105、および上部電極106には、上述した第1の実施形態に係る下部電極4、誘電体膜5、および上部電極6を適用することができる。なお、図19において、圧電部54の各層の図示は省略されている。
【0058】
液体噴射ヘッド50は、図19に示すように、さらに、基体56を含む。基体56に、ノズルプレート51、基板52、弾性板55、および圧電部54が収納される。基体56は、例えば、各種樹脂材料、各種金属材料等を用いて形成される。
【0059】
ノズルプレート51は、例えばステンレス製の圧延プレート等で構成されたものである。ノズルプレート51には、液滴を吐出するための多数のノズル穴511が一列に配置されている。ノズルプレート51には、基板52が固定されている。基板52は、ノズルプレート51と弾性板55との間の空間を区画して、リザーバ523、供給口524、および複数の流路521を形成する。リザーバ523は、液体カートリッジ(図示せず)から供給される液体を一時的に貯留する。供給口524によって、リザーバ523から各流路521へ液体が供給される。
【0060】
流路521は、図18および図19に示すように、各ノズル穴511に対応して配設されている。ノズル穴511は、流路521と連続している。流路521は、弾性板55の振動によってそれぞれ容積可変になっている。この容積変化によって、流路521から液体が吐出される。
【0061】
弾性板55の所定位置には、図19に示すように、弾性板55の厚さ方向に貫通した貫通孔531が形成されている。貫通孔531によって、液体カートリッジからリザーバ523へ液体が供給される。
【0062】
圧電部54は、圧電素子駆動回路(図示せず)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)することができる。弾性板55は、圧電部54の振動(たわみ)によって振動し(たわみ)、流路521の内部圧力を瞬間的に高めることができる。
【0063】
2.2. 本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、結晶性の良好な誘電体膜105を得ることができる。これにより、アクチュエータ70および液体噴射ヘッド50の品質の向上を図ることができる。
【0064】
3. 上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0065】
1 基板、4 下部電極、5 誘電体膜、6 上部電極、11 第1誘電体膜、13 第2誘電体膜、15 第3誘電体膜、50 液体噴射ヘッド、51 ノズルプレート、52 基板、54 圧電部、55 弾性板、56 基体、70 アクチュエータ、100 キャパシタ、104 下部電極、105 誘電体膜、106 上部電極、120 絶縁層、200 強誘電体メモリ装置、300 制御回路部、410 素子分離領域、420 第1層間絶縁膜、430 第2層間絶縁膜、450 配線層、451 プラグ層、511 ノズル穴、521 流路、523 リザーバ、524 供給口,531 貫通孔。
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタおよびその製造方法、強誘電体メモリ装置、アクチュエータ、並びに、液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体メモリは、不揮発性、高速書き込み/読出し、低消費電力といった特長を有し、次世代不揮発性メモリの有力な候補の一つである。
【0003】
強誘電体メモリの構造として一般的なものの一つに1T1C型構造がある。1T1C型構造の強誘電体メモリは、当初、プレーナ型構造で開発が行なわれてきた。しかしながら、強誘電体メモリの高集積化が進むにつれて、よりセル面積が小さな構造が求められるようになり、スタック型構造で開発が行われるようになってきている(例えば特開平10−223847号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−223847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、結晶性の良好な誘電体膜を有し、良好なヒステリシス特性を有することができるキャパシタおよびその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、強誘電体メモリ装置、アクチュエータ、および、液体噴射ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るキャパシタは、
下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、を含む。
【0007】
このキャパシタは、前記第1誘電体膜と、前記第2誘電体膜と、を含む。これにより、誘電体膜(前記第1誘電体膜および前記第2誘電体膜)をより高配向化させることができ、かつ、残留分極量を大きくすることができる。即ち、このキャパシタは、結晶性の良好な前記誘電体膜を有し、良好なヒステリシス特性を有することができる。このことは、後述する実験例において確認されている。
【0008】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「A」という)の「上方」に形成された他の特定のもの(以下「B」という)」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bが形成されているような場合と、A上に他のものを介してBが形成されているような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。
【0009】
本発明に係るキャパシタにおいて、
前記第2誘電体膜の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第3誘電体膜を有し、
前記第3誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛は、前記第2誘電体膜がニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる場合において、前記第2誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が大きいことができる。
【0010】
本発明に係るキャパシタの製造方法は、
基板の上方に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極の上方に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜を形成する工程と、
前記第1誘電体膜の上方に、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜を形成する工程と、
少なくとも前記第2誘電体膜に対して行う熱処理工程と、
前記第2誘電体膜の上方に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第3誘電体膜を形成する工程と、
前記第3誘電体膜の上方に上部電極を形成する工程と、を含み、
前記第3誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛は、前記第2誘電体膜がニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる場合において、前記第2誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が大きく、
前記熱処理工程は、前記第3誘電体膜の形成工程よりも前に行われる。
【0011】
本発明に係る強誘電体メモリ装置は、
下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、
前記下部電極および前記上部電極のうちの少なくとも一方と電気的に接続された制御回路部と、を含む。
【0012】
本発明に係る強誘電体メモリ装置において、
基板と、
前記基板の上方に形成された層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜に形成されたコンタクトホールに埋め込まれたプラグ層と、を含み、
前記下部電極は、少なくとも前記プラグ層の上面に接して形成されていることができる。
【0013】
本発明に係るアクチュエータは、
弾性板と、
前記弾性板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、を含む。
【0014】
本発明に係る液体噴射ヘッドは、
基板と、
前記基板の上方に形成された弾性板と、
前記弾性板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、
前記基板に形成された流路と、
前記基板の下方に形成され、前記流路に連続するノズル穴を有するノズルプレートと、を含む。
【0015】
なお、本発明に係る記載では、「下方」という文言を、例えば、「Aの「下方」に形成されたB」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、Aの下に直接Bが形成されているような場合と、Aの下に他のものを介してBが形成されているような場合とが含まれるものとして、「下方」という文言を用いている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係るキャパシタを模式的に示す断面図。
【図2】第1の実施形態のスタック型の強誘電体メモリ装置を模式的に示す断面図。
【図3】第1の実施形態のプレーナ型の強誘電体メモリ装置を模式的に示す断面図。
【図4】実験例の条件aによりキャパシタを形成した場合のX線回折測定の結果。
【図5】実験例の条件bによりキャパシタを形成した場合のX線回折測定の結果。
【図6】実験例の条件cによりキャパシタを形成した場合のX線回折測定の結果。
【図7】実験例の条件dによりキャパシタを形成した場合のX線回折測定の結果。
【図8】実験例の比較例1に係るキャパシタのX線回折測定の結果。
【図9】実験例の比較例1に係るキャパシタのX線回折測定の結果。
【図10】条件aによりキャパシタを形成した場合のヒステリシス特性の測定結果。
【図11】条件bによりキャパシタを形成した場合のヒステリシス特性の測定結果。
【図12】条件dによりキャパシタを形成した場合のヒステリシス特性の測定結果。
【図13】実験例の比較例1に係るキャパシタのヒステリシス特性の測定結果。
【図14】実験例の比較例2に係るキャパシタのヒステリシス特性の測定結果。
【図15】誘電体膜がPZTN単層である場合のヒステリシス特性の測定結果。
【図16】第1の実施形態に係るオージェ電子分光(AES)の分析結果。
【図17】スタック型電極およびプレーナ型電極のPtのX線回折測定の結果。
【図18】第2の実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す断面図。
【図19】第2の実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
1. 第1の実施形態
1.1. まず、第1の実施形態に係るキャパシタの製造方法およびその製造方法により得られるキャパシタ100について説明する。図1は、本実施形態に係るキャパシタ100を模式的に示す断面図である。
【0019】
(A)まず、基板1上に下部電極4を形成する。基板1としては、例えば、半導体基板、樹脂基板などを用途に応じて任意に用いることができ、特に限定されない。下部電極4としては、例えば、Pt、Irなどの高融点金属やその酸化物などを用いることができる。下部電極4は、単層膜構造でも積層膜構造でも良く、酸素拡散防止膜などの機能性膜を含んでも良い。下部電極4は、例えば、スパッタ法、蒸着法などにより形成されることができる。下部電極4の構造は、例えば、Pt(100nm)/IrOx(30nm)/Ir(100nm)/TiAlN(100nm)とすることができる。
【0020】
(B)次に、下部電極4上に第1誘電体膜11を形成する。第1誘電体膜11は、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3)(以下「PZTN」ともいう)からなる。PZTNは、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)(以下「PZT」ともいう)にNbを添加した誘電体である。第1誘電体膜11は、例えば、スピンコート法などを用いて、Pb、Zr、Ti、Nbを含むゾルゲル溶液を下部電極4上に塗布することにより形成されることができる。第1誘電体膜11の膜厚は、例えば5nmとすることができる。
【0021】
(C)次に、熱処理を行うことが好ましい。これにより、第1誘電体膜11を含む誘電体膜5の結晶性を向上させることができる。このことは、後述する実験例において確認されている。熱処理は、RTAにて行われることができる。熱処理は、例えば、酸素雰囲気中にて、650℃で3分間行われることができる。
【0022】
(D)次に、第1誘電体膜11上に第2誘電体膜13を形成する。第2誘電体膜13は、PZT、または、第1誘電体膜11を構成するPZTNよりもNb組成が小さいPZTNからなる。第2誘電体膜13は、例えば、スピンコート法などを用いて、構成元素(PZTの場合には、Pb、Zr、Ti、PZTNの場合には、Pb、Zr、Ti、Nb)を含むゾルゲル溶液を第1誘電体膜11上に塗布することにより形成されることができる。第2誘電体膜13の膜厚は、例えば100nmとすることができる。
【0023】
(E)次に、熱処理を行うことが好ましい。これにより、第2誘電体膜13を含む誘電体膜5の結晶性を向上させることができる。特に、第2誘電体膜13上に後述する第3誘電体膜15を形成する場合に、本工程の熱処理を行うことが有効である。このことは、後述する実験例において確認されている。熱処理は、RTAにて行われることができる。熱処理は、例えば、酸素雰囲気中にて、650℃で3分間行われることができる。
【0024】
(F)次に、第2誘電体膜13上にPZTNからなる第3誘電体膜15を形成し、熱処理を行うことが好ましい。これにより、第3誘電体膜15を含む誘電体膜5の結晶性を向上させることができる。このことは、後述する実験例において確認されている。第3誘電体膜15を構成するPZTNは、第2誘電体膜13がPZTNからなる場合において、第2誘電体膜13を構成するPZTNよりもNb組成が大きいことが好ましい。第3誘電体膜15は、例えば、スピンコート法などを用いて、Pb、Zr、Ti、Nbを含むゾルゲル溶液を第2誘電体膜13上に塗布することにより形成されることができる。第3誘電体膜15の膜厚は、例えば5nmとすることができる。熱処理は、RTAにて行われることができる。熱処理は、例えば、酸素雰囲気中にて、650℃で3分間行われることができる。なお、本発明では、第3誘電体膜15を形成しないこともできる。
【0025】
以上の工程により、下部電極4上に、第1〜第3誘電体膜11,13,15から構成される誘電体膜5が形成される。
【0026】
(G)次に、熱処理を行うことができる。これにより、誘電体膜5の結晶性を向上させることができる。熱処理は、RTAにて行われることができる。熱処理は、例えば、650℃で5分間行われることができる。
【0027】
(H)次に、誘電体膜5上に上部電極6を形成する。上部電極6としては、例えば、Pt、Irなどの高融点金属やその酸化物などを用いることができる。上部電極6は、例えば、スパッタ法、蒸着法などにより形成されることができる。上部電極6の膜厚は、例えば100nmとすることができる。
【0028】
(I)次に、熱処理を行うことができる。熱処理は、RTAにて行われることができる。熱処理は、例えば、650℃で10分間行われることができる。
【0029】
(J)次に、図1に示すように、上部電極6、誘電体膜5、および下部電極4をエッチングして所望の形状に加工する。これにより、基板1上に、下部電極4、誘電体膜5、および上部電極6から構成される柱状の堆積体が形成される。この柱状の堆積体が本実施形態に係るキャパシタ100である。即ち、以上の工程によって、図1に示すように、本実施形態に係るキャパシタ100を形成することができる。
【0030】
1.2. 次に、本実施形態に係るキャパシタ100を強誘電体メモリ装置200に適用する例について説明する。
【0031】
図2は、本実施形態に係る強誘電体メモリ装置200を模式的に示す断面図である。なお、図示の例は、1T1C型であって、スタック型の強誘電体メモリ装置である。
【0032】
強誘電体メモリ装置200は、図2に示すように、キャパシタ100と、制御回路部300と、を含む。
【0033】
制御回路部300は、キャパシタ100に対して情報の書き込みまたは読出しを行うための各種回路を含む。制御回路部300は、例えば、図2に示すように、基板1の表面近傍に形成されたMOSトランジスタから構成されることができる。MOSトランジスタのゲート電極は、ワード線WLとなっている。MOSトランジスタには、ビット線BLが電気的に接続されている。MOSトランジスタは、他の素子(図示せず)と素子分離領域410によって分離されている。MOSトランジスタが形成された基板1上には、第1層間絶縁膜420が形成されている。第1層間絶縁膜420の上にキャパシタ100が形成されている。また、第1層間絶縁膜420の上方には、キャパシタ100を覆うようにして、第2層間絶縁膜430が形成されている。制御回路部(図示の例ではMOSトランジスタ)300とキャパシタ100とは、第1層間絶縁膜420に形成されたコンタクトホールに埋め込まれたプラグ層451によって電気的に接続されている。制御回路部300は、下部電極4および上部電極6のうちの少なくとも一方と電気的に接続されている。図示の例では、制御回路部300は、プラグ層451を介して、下部電極4と電気的に接続されている。下部電極4は、少なくともプラグ層451の上面に接して形成されている。図示の例では、下部電極4の下面の一部が、プラグ層451の上面に接している。
【0034】
なお、図2に示す例では、1T1C型であって、スタック型の強誘電体メモリ装置について説明したが、本実施形態に係るキャパシタ100を、図3に示すような1T1C型であって、プレーナ型の強誘電体メモリ装置に適用することもできる。図3は、本実施形態に係るプレーナ型の強誘電体メモリ装置200を模式的に示す断面図である。図示の例では、制御回路部300は、配線層450を介して、上部電極6と電気的に接続されている。
【0035】
また、上述した例では、1T1C型の強誘電体メモリ装置について説明したが、本実施形態の強誘電体メモリ装置は、例えば、2T2C型や単純マトリクス型(クロスポイント型)などの各種のセル方式を用いた強誘電体メモリ装置にも適用することができる。
【0036】
1.3. 次に、実験例について説明する。
【0037】
まず、上述した製造方法を用いてキャパシタ100を形成した。キャパシタ100の形成条件は、表1の条件a〜dに示す通りである。表1における「○」は表1に記載された工程を行ったことを示し、「×」は表1に記載された工程を行わなかったことを示している。表1に記載されていない工程については、すべての条件において行っている。第1誘電体膜11および第3誘電体膜15としては、PbZr0.16Ti0.60Nb0.24O3を用いた。第2誘電体膜13としては、PbZr0.3Ti0.7O3を用いた。下部電極4としては、窒化チタンアルミニウム(TiAlN)層、イリジウム(Ir)層、酸化イリジウム層(IrOx)層、白金(Pt)層をこの順に積層したものを用いた。
【0038】
また、比較例として、第1誘電体膜11および第3誘電体膜15を形成せずにキャパシタを形成した。即ち、誘電体膜5は、PZT単層である。比較例1では、下部電極4を形成した後の熱処理(上述した(B)工程)を行っておらず、比較例2では、該(B)工程を行っている。
【0039】
【表1】
【0040】
図4〜図7は、それぞれ条件a〜dによりキャパシタ100を形成した場合のX線回折測定の結果である。図8、図9は、それぞれ比較例1、2に係るキャパシタのX線回折測定の結果である。表2は、X線回折測定の結果をまとめたものである。表2には、誘電体膜5における(100)、(110)、(111)のピーク強度、並びに、これらのピーク強度の総和における(111)のピーク強度の割合が記載されている。なお、例えば、誘電体膜5における(111)のピーク強度とは、条件a〜dにおいては、PZTN(111)のピーク強度とPZT(111)のピーク強度の和を示しており、比較例においては、PZT(111)のピーク強度を示している。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、PZT(111)のピーク強度の割合で比較すると、比較例1(87%)や比較例2(90%)に比べ、条件aの場合(95%)や条件bの場合(96%)の方が、誘電体膜5はより(111)高配向していることが分かる。このことは、下部電極4上に第1誘電体膜11を形成した後に、第2誘電体膜13を形成することによって、誘電体膜5(第1、第2誘電体膜11,13)がより(111)高配向することを示している。
【0043】
また、表2に示すように、さらに第3誘電体膜15を形成した場合であって、第3誘電体膜15を形成する前に熱処理工程を行わなかった場合(条件c)では、誘電体膜5の(111)のピーク強度の割合は89%であった。これに対し、第3誘電体膜15を形成する前に熱処理工程を行った場合(条件d)では、誘電体膜5の(111)のピーク強度の割合は98%であった。条件dの場合は、全条件の中で最も誘電体膜5の(111)のピーク強度の割合が高くなっている。即ち、下部電極4上に、第1〜第3誘電体膜11,13,15を形成し、第3誘電体膜15を形成する前に熱処理工程を行うことによって、誘電体膜5(第1〜第3誘電体膜11,13,15)をより一層(111)高配向させることができることが確認された。
【0044】
次に、キャパシタ100のヒステリシス特性を測定した。図10、図11、図12は、それぞれ表1の条件a、b、dによりキャパシタ100を形成した場合のヒステリシス特性の測定結果である。図13、図14は、それぞれ表1の比較例1、2に係るキャパシタのヒステリシス特性の測定結果である。図15は、表1の比較例1の条件により、第2誘電体膜13としてPZTNを用いてキャパシタを形成した場合(即ち、誘電体膜5がPZTN単層である場合)のヒステリシス特性の測定結果である。なお、図10、図11、図14においては、上述したように、第1誘電体膜11および第3誘電体膜15として、PbZr0.16Ti0.60Nb0.24O3を用い、第2誘電体膜13として、PbZr0.3Ti0.7O3を用いた。また、図12、図13においては、第1誘電体膜11および第3誘電体膜15として、PbZr0.24Ti0.56Nb0.20O3を用い、第2誘電体膜13として、PbZr0.4Ti0.6O3を用いた。また、図15の場合においては、第2誘電体膜13として、PbZr0.24Ti0.56Nb0.20O3を用いた。
【0045】
条件a、b、dによりキャパシタ100を形成した場合(図10〜図12)は、誘電体膜5としてPZTN単層を用いてキャパシタを形成した場合(図15)に比べ、残留分極量が大きなヒステリシス特性を示している。さらに、条件dによりキャパシタ100を形成した場合(図12)は、ヒステリシス曲線が電圧軸および分極軸に対して対称となり、良好なヒステリシス特性を示している。一方、比較例1、2の条件によりキャパシタを形成した場合(図13、図14)は、ヒステリシス曲線が電圧軸および分極軸に対して非対称となっており、ヒステリシス特性は良好ではない。
【0046】
1.4. 本実施形態に係るキャパシタ100は、下部電極4上に形成され、PZTNからなる第1誘電体膜11と、第1誘電体膜11上に形成され、PZT、または、第1誘電体膜11を構成するPZTNよりもNb組成が小さいPZTNからなる第2誘電体膜13と、を含む。これにより、誘電体膜5(第1、第2誘電体膜11,13)をより(111)高配向させることができ、かつ、残留分極量を大きくすることができる。このことは、上述した実験例において確認されている。なお、この理由としては、以下のように考えられる。
【0047】
例えば、第1誘電体膜11を形成せずに、下部電極4上に直接PZTからなる第2誘電体膜13を形成するような場合には、下部電極4および第2誘電体膜13を構成する各成分が相互拡散する場合がある。このため、下部電極4と第2誘電体膜13との界面に酸化チタン(TiO2)、酸化鉛(PbO)などの異相が形成され、それらに妨げられてPZTの高配向化が妨げられるものと考えられる。これに対し、本実施形態のように、下部電極4上にPZTNからなる第1誘電体膜11を形成すると、下部電極4および第2誘電体膜13を構成する各成分の相互拡散を防ぐことができる。図16は、このことを示すオージェ電子分光(AES)の分析結果である。図16に示すように、下部電極4のうちの最上層を構成する白金(Pt)と、PZTNからなる第1誘電体膜11を構成する鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、酸素(O)との相互拡散がほとんど生じていないことが分かる。従って、本実施形態のように、下部電極4上にPZTNからなる第1誘電体膜11を形成すると、下部電極4と第1誘電体膜11との界面に上述した異相が形成されない。このため、下部電極4上に高配向したPZTNからなる第1誘電体膜11を形成することができる。さらに、第1誘電体膜11の上に形成される第2誘電体膜13を構成するPZT、または、第1誘電体膜11を構成するPZTNよりもNb組成が小さいPZTNを高配向化させることができる。
【0048】
そして、PZTまたはNb組成の小さいPZTNは、Nb組成の大きいPZTNに比べ、残留分極量が(111)配向の量に依存されにくいため、第2誘電体膜13として、PZTまたはNb組成の小さいPZTNを用いると、PZTNを用いる場合に比べ、残留分極量を大きくすることができる。
【0049】
以上のことから、本実施形態に係るキャパシタ100によれば、誘電体膜5(第1、第2誘電体膜11,13)をより(111)高配向させることができ、かつ、残留分極量を大きくすることができる。即ち、本実施形態に係るキャパシタ100は、結晶性の良好な誘電体膜5を有し、良好なヒステリシス特性を有することができる。
【0050】
また、本実施形態に係るキャパシタ100は、第2誘電体膜13上に、さらにPZTNからなる第3誘電体膜15を有することができる。これにより、誘電体膜5(第1〜第3誘電体膜11,13,15)をより一層(111)高配向させることができる。そして、ヒステリシス曲線を電圧軸および分極軸に対して対称とすることができ、良好なヒステリシス特性を得ることができる。これらのことは、上述した実験例において確認されている。なお、ヒステリシス曲線を電圧軸および分極軸に対して対称とすることができる理由としては、以下のように考えられる。
【0051】
上述したように、PZTNからなる第1誘電体膜11と下部電極4との界面には、TiO2、PbOなどの異相が形成されない。同様に、PZTNからなる第3誘電体膜15と上部電極6との界面にも、前記異相が形成されない。従って、第1誘電体膜11と下部電極4との界面、および、第3誘電体膜15と上部電極6との界面では、例えば、第1誘電体膜11および第3誘電体膜15を形成しないような場合に比べ、構成成分の組成が均一である。そして、第1誘電体膜11と第3誘電体膜15とが第2誘電体膜13を挟むことにより、キャパシタ100において、第2誘電体膜13に関して、その上下の構成をほぼ対称にすることができる。即ち、キャパシタ100の対称性を良くすることができる。以上のことから、本実施形態に係るキャパシタ100によれば、ヒステリシス曲線を電圧軸および分極軸に対して対称とすることができ、延いては、キャパシタ100の信頼性を高くすることができる。
【0052】
また、本実施形態では、スタック型の強誘電体メモリ装置200においては、例えばタングステン(W)などからなるプラグ層451上に、直接キャパシタ100を形成する。従って、キャパシタ100の形成プロセスにおいて、プラグ層451の酸化を防止することが望まれる。例えば、下部電極4として、窒化物層(例えばTiAlN層)、Ir層、IrOx層、Pt層をこの順に積層したもの(以下「スタック型電極」ともいう)を用いることにより、プラグ層451の酸化を防止することができる。ここで、窒化物層は、第1層間絶縁膜420と下部電極4との間の密着層である。Ir層は、前記窒化物層の酸化を防止することができる酸素バリア層である。IrOx層は、Pt層とIr層との間の密着層である。Pt層は、その上に形成される誘電体膜5を(111)配向させやすくすることができる層であり、(111)配向している。スタック型の強誘電体メモリ装置200に対し、プレーナ型の強誘電体メモリ装置200では、プラグ層451の酸化を防止することは望まれないため、下部電極4としては、例えば、酸化チタン(TiOx)層、Pt層をこの順に積層したもの(以下「プレーナ型電極」ともいう)を用いることができる。
【0053】
図17は、スタック型電極およびプレーナ型電極におけるPt(111)のX線回折測定の結果である。図17において、グラフSがスタック型電極の場合を示しており、グラフPがプレーナ型電極の場合を示している。図17に示すように、スタック型電極の最上層のPt層の結晶性は、プレーナ型電極の最上層のPt層よりも劣っていることが分かる。本実施形態に係るキャパシタ100によれば、下部電極4としてスタック型電極を用いても、結晶性の良好な誘電体膜5を有することができ、良好なヒステリシス特性を有することができる。このことは、上述した実験例において確認されている。従って、本実施形態に係るキャパシタ100は、プレーナ型の強誘電体メモリ装置200よりもデバイスの小型化が可能なスタック型の強誘電体メモリ装置200に適用される場合に極めて有効である。
【0054】
また、本実施形態に係るキャパシタ100によれば、図16に示すように、スタック型電極(下部電極4)とPZTN(第1誘電体膜11)との間の酸素成分の拡散がほとんどない。このため、本実施形態に係るキャパシタ100は、スタック型の強誘電体メモリ装置200に適用される場合に有効である。
【0055】
2. 第2の実施形態
2.1. 次に、第2の実施形態に係るアクチュエータおよび液体噴射ヘッドについて説明する。
【0056】
図18は、本実施形態に係る液体噴射ヘッド50を模式的に示す断面図であり、図19は、本実施形態に係る液体噴射ヘッド50の分解斜視図である。なお、図19は、通常使用される状態とは上下を逆に示したものである。
【0057】
液体噴射ヘッド50は、図18に示すように、ノズルプレート51と、基板52と、アクチュエータ70と、を含む。アクチュエータ70は、基板52の上に形成された弾性板55と、弾性板55の上に形成された圧電部(振動源)54と、を含む。圧電部54は、下部電極104と、誘電体膜105と、上部電極106と、を含む。圧電部54は、さらに、下部電極104、誘電体膜105、および上部電極106を被覆する絶縁層120を有することができる。アクチュエータ70および液体噴射ヘッド50において、下部電極104、誘電体膜105、および上部電極106には、上述した第1の実施形態に係る下部電極4、誘電体膜5、および上部電極6を適用することができる。なお、図19において、圧電部54の各層の図示は省略されている。
【0058】
液体噴射ヘッド50は、図19に示すように、さらに、基体56を含む。基体56に、ノズルプレート51、基板52、弾性板55、および圧電部54が収納される。基体56は、例えば、各種樹脂材料、各種金属材料等を用いて形成される。
【0059】
ノズルプレート51は、例えばステンレス製の圧延プレート等で構成されたものである。ノズルプレート51には、液滴を吐出するための多数のノズル穴511が一列に配置されている。ノズルプレート51には、基板52が固定されている。基板52は、ノズルプレート51と弾性板55との間の空間を区画して、リザーバ523、供給口524、および複数の流路521を形成する。リザーバ523は、液体カートリッジ(図示せず)から供給される液体を一時的に貯留する。供給口524によって、リザーバ523から各流路521へ液体が供給される。
【0060】
流路521は、図18および図19に示すように、各ノズル穴511に対応して配設されている。ノズル穴511は、流路521と連続している。流路521は、弾性板55の振動によってそれぞれ容積可変になっている。この容積変化によって、流路521から液体が吐出される。
【0061】
弾性板55の所定位置には、図19に示すように、弾性板55の厚さ方向に貫通した貫通孔531が形成されている。貫通孔531によって、液体カートリッジからリザーバ523へ液体が供給される。
【0062】
圧電部54は、圧電素子駆動回路(図示せず)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)することができる。弾性板55は、圧電部54の振動(たわみ)によって振動し(たわみ)、流路521の内部圧力を瞬間的に高めることができる。
【0063】
2.2. 本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、結晶性の良好な誘電体膜105を得ることができる。これにより、アクチュエータ70および液体噴射ヘッド50の品質の向上を図ることができる。
【0064】
3. 上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0065】
1 基板、4 下部電極、5 誘電体膜、6 上部電極、11 第1誘電体膜、13 第2誘電体膜、15 第3誘電体膜、50 液体噴射ヘッド、51 ノズルプレート、52 基板、54 圧電部、55 弾性板、56 基体、70 アクチュエータ、100 キャパシタ、104 下部電極、105 誘電体膜、106 上部電極、120 絶縁層、200 強誘電体メモリ装置、300 制御回路部、410 素子分離領域、420 第1層間絶縁膜、430 第2層間絶縁膜、450 配線層、451 プラグ層、511 ノズル穴、521 流路、523 リザーバ、524 供給口,531 貫通孔。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、を含む、キャパシタ。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2誘電体膜の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第3誘電体膜を有し、
前記第3誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛は、前記第2誘電体膜がニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる場合において、前記第2誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が大きい、キャパシタ。
【請求項3】
基板の上方に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極の上方に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜を形成する工程と、
前記第1誘電体膜の上方に、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜を形成する工程と、
少なくとも前記第2誘電体膜に対して行う熱処理工程と、
前記第2誘電体膜の上方に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第3誘電体膜を形成する工程と、
前記第3誘電体膜の上方に上部電極を形成する工程と、を含み、
前記第3誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛は、前記第2誘電体膜がニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる場合において、前記第2誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が大きく、
前記熱処理工程は、前記第3誘電体膜の形成工程よりも前に行われる、キャパシタの製造方法。
【請求項4】
下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、
前記下部電極および前記上部電極のうちの少なくとも一方と電気的に接続された制御回路部と、を含む、強誘電体メモリ装置。
【請求項5】
請求項4において、
基板と、
前記基板の上方に形成された層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜に形成されたコンタクトホールに埋め込まれたプラグ層と、を含み、
前記下部電極は、少なくとも前記プラグ層の上面に接して形成されている、強誘電体メモリ装置。
【請求項6】
弾性板と、
前記弾性板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、を含む、アクチュエータ。
【請求項7】
基板と、
前記基板の上方に形成された弾性板と、
前記弾性板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、
前記基板に形成された流路と、
前記基板の下方に形成され、前記流路に連続するノズル穴を有するノズルプレートと、を含む、液体噴射ヘッド。
【請求項1】
下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、を含む、キャパシタ。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2誘電体膜の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第3誘電体膜を有し、
前記第3誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛は、前記第2誘電体膜がニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる場合において、前記第2誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が大きい、キャパシタ。
【請求項3】
基板の上方に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極の上方に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜を形成する工程と、
前記第1誘電体膜の上方に、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜を形成する工程と、
少なくとも前記第2誘電体膜に対して行う熱処理工程と、
前記第2誘電体膜の上方に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第3誘電体膜を形成する工程と、
前記第3誘電体膜の上方に上部電極を形成する工程と、を含み、
前記第3誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛は、前記第2誘電体膜がニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる場合において、前記第2誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が大きく、
前記熱処理工程は、前記第3誘電体膜の形成工程よりも前に行われる、キャパシタの製造方法。
【請求項4】
下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、
前記下部電極および前記上部電極のうちの少なくとも一方と電気的に接続された制御回路部と、を含む、強誘電体メモリ装置。
【請求項5】
請求項4において、
基板と、
前記基板の上方に形成された層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜に形成されたコンタクトホールに埋め込まれたプラグ層と、を含み、
前記下部電極は、少なくとも前記プラグ層の上面に接して形成されている、強誘電体メモリ装置。
【請求項6】
弾性板と、
前記弾性板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、を含む、アクチュエータ。
【請求項7】
基板と、
前記基板の上方に形成された弾性板と、
前記弾性板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極の上方に形成され、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第1誘電体膜と、
前記第1誘電体膜の上方に形成され、チタン酸ジルコン酸鉛、または、前記第1誘電体膜を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛よりもNb組成が小さいニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛からなる第2誘電体膜と、
前記第2誘電体膜の上方に形成された上部電極と、
前記基板に形成された流路と、
前記基板の下方に形成され、前記流路に連続するノズル穴を有するノズルプレートと、を含む、液体噴射ヘッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−166073(P2010−166073A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50183(P2010−50183)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【分割の表示】特願2005−292552(P2005−292552)の分割
【原出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【分割の表示】特願2005−292552(P2005−292552)の分割
【原出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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