説明

キャブ連結機構

【課題】簡易な構成により、キャブに対する振動の減衰機能を確保でき、且つ、転倒時等においてキャブの変位量を規制して運転者を適切に保護できるキャブ連結機構を提供する。
【解決手段】キャブ連結機構1は、車両の本体フレーム20と運転者が収容されるキャブ10とを連結する。第1連結機構3は、キャブ10と本体フレーム20とを互いに弾性的に揺動可能に連結し、且つ、本体フレーム20の振動を吸収して本体フレーム20からキャブ10への振動の伝達を抑制する。第2連結機構2は、キャブ20と本体フレーム20とを第1ワイヤ体2Wを介して連結する。第2連結機構2がキャブ10と本体フレーム20とを連結している状態において第1ワイヤ体2Wは弛みを有しており、第2連結機構2は、キャブ10が本体フレーム20に対して第1連結機構3の揺動可能範囲内で変位するように第1ワイヤ体2Wによって規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャブを車両本体に連結するためのキャブ連結機構に関する。
【背景技術】
【0002】
土木建築作業に使用される建設機械(作業車両)は、一般に、下部走行体を含む車体と、これに搭載され運転者が収容されるキャブ(運転室)と、車体に装着される作業機(アタッチメント)とを有している。このような建設機械のうち、例えば油圧ショベルは、下部走行体と、下部走行体に対して旋回可能に取り付けられた上部旋回体とを有して構成されており、上部旋回体の骨格は本体フレームにより構成され、当該本体フレームに、キャブ、作業機等が設置される。
【0003】
上記のような油圧ショベル等の建設機械においては、作業時や走行時に、車体からキャブへと伝達される振動を低減して運転者の良好な居住性を確保するために、キャブは、マウントを介して本体フレームに搭載されている。そして、当該マウントは、キャブと本体フレームとを互いに弾性的に揺動可能に連結して本体フレームからキャブへ伝えられる振動を緩和しつつキャブの荷重を支持する弾性支持機能と、本体フレームからキャブへ伝えられる振動そのものを吸収する減衰機能とを有する(以下、弾性支持機能と減衰機能とをまとめて減衰機能と記す)。
【0004】
特許文献1には、上記のようなマウント(具体的には、弾性部材を含む液体封入式のマウント)を有するキャブ支持構造の一例が開示されており、このキャブ支持構造には、車体フレーム(本体フレーム)に対してキャブが所定の変位量を超えて変位しないように規制する規制部材がさらに設けられている。ところで、建設機械においては、キャブが大きな衝撃を受けた場合であっても運転者が保護されるように、ROPS(Rollover Protective Structure、転倒時保護構造)規格に対応したキャブが近年採用されている。このROPS規格では、本体フレームに対してキャブが固定設置された状態においてキャブに求められる強度が定められているため、キャブが衝撃を受けたときに、本体フレームからキャブが分離しないことがその前提として要求される。特許文献1のキャブ支持構造においては、上記のマウントによる減衰機能が確保され、且つ、ROPSに対応したキャブが車両の転倒等により大きな衝撃を受けた場合であっても、キャブが車体フレーム(本体フレーム)に対して所定の変位量を超えて変位しないように規制される。このようにしてマウントの破損を防止することで、転倒時等においてもキャブが車体フレームから分離しないため、ROPSに準拠した所定のキャブ強度が確保される。そのため、キャブ損傷等の事故を防止することができ、運転者の適切な保護が可能となる。
【特許文献1】特開2004−189089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1における規制部材(規制機構)について具体的に説明すると、当該規制部材として、キャブの底部には、上下方向に伸びる棒状部材が設けられ、棒状部材の先端には、鍔状のストッパが設けられている。そして、車体フレーム(本体フレーム)の上壁の貫孔に対して、棒状部材が遊嵌状に嵌合されている。そして、車体フレームに対するキャブの水平方向の変位に対しては、棒状部材と貫孔の内周面との当接により変位量が規制される。また、車体フレームに対するキャブの上下方向の変位に対しては、鍔状のストッパの上面と車体フレーム上壁の下部に配置された受け板との当接等により変位量が規制される。
【0006】
しかし、規制部材(規制機構)を上記のような構造とした場合には、変位量を規制するための隙間(例えば棒状部材及び貫孔の間の隙間)を、上記のマウントのストローク(弾性変形による最大変形量)との関連において適切に設定する必要がある。具体的には、マウントによる減衰機能の確保のため、このような隙間(運転者の居住性確保のための、車体フレームに対するキャブの揺動幅)を確保する一方で、この隙間が過大にならない設計にしてマウントの破損及びキャブの車体フレームからの分離を防止する必要がある。従って、このような規制部材(規制機構)の製造には、溶接施工等において高い寸法精度が求められ、生産性の向上は困難である。
【0007】
また、車両の転倒時等に、地面等からの荷重により、規制部材と車体フレームとの接触部、及び、棒状部材とキャブとの接続部には、軸方向とは垂直な方向(平常時の水平方向に相当する方向)の力が加えられる。また、車両の転倒時等に、車体フレームとキャブとの接続部において曲げモーメントが作用することに起因して、上下方向に伸びる棒状部材(及び内部の軸部材)には、棒状部材を上方へ引き抜くように(又は下方へ押し込むように)軸方向の力が加えられる。そのため、棒状部材は、強度確保のためにそのサイズを大きくする必要がある。また、規制部材及び車体フレーム上壁において、これらの変形防止のために、部材同士の当たり面に補強部材を追加することが必要となる。以上のように、特許文献1の規制部材(規制機構)を用いる場合には、そのサイズを大きくする必要があり、また、補強部材の追加を必要とする。そのため、特許文献1の規制部材(規制機構)を使用せず、簡易な構成により、キャブに対する振動の減衰機能が確保でき、且つ、転倒時等にキャブの変位量を規制することでキャブの強度を確保しつつキャブの分離を防止して運転者を適切に保護できることが望ましい。
【0008】
そこで、本発明の目的は、簡易な構成により、キャブに対する振動の減衰機能を確保でき、且つ、転倒時等においてキャブの変位量を規制して運転者を適切に保護できるキャブ連結機構を提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のキャブ連結機構は、車両の本体フレームと、前記車両の運転者が収容されるキャブとを連結するキャブ連結機構であって、前記キャブと前記本体フレームとを互いに弾性的に揺動可能に連結し、且つ、前記本体フレームの振動を吸収して前記本体フレームから前記キャブへの振動の伝達を抑制する第1連結機構と、第1ワイヤ体を有し、前記キャブと前記本体フレームとを当該第1ワイヤ体を介して連結する第2連結機構と、を備えている。そして、前記第2連結機構が前記キャブと前記本体フレームとを連結している状態において、前記第1ワイヤ体は弛みを有しており、前記第2連結機構は、前記キャブが前記本体フレームに対して前記第1連結機構の揺動可能範囲内で変位するように前記第1ワイヤ体によって規制する。
【0010】
この構成によると、振動の減衰機能を有する第1連結機構によりキャブと本体フレームとが連結され、さらに、弛みのある第1ワイヤ体を介してキャブと本体フレームとが連結されることで、キャブが本体フレームに対して第1ワイヤ体の弛み分は揺動でき、且つ、キャブの本体フレームに対する変位が第1連結機構の揺動可能範囲内に規制される。そのため、簡易な構成により、キャブに対する振動の減衰機能を確保でき、且つ、転倒時等においてキャブの変位量を規制して運転者を適切に保護できるキャブ連結機構が得られる。ここで、「揺動」とは、第1連結機構が破損していない正常の状態における弾性的揺動のことをいう。また、ここで、「弾性的」とは、変位が元に戻る性質、及び、荷重の大きさに応じて変形する性質等を有していることをいう。
【0011】
前記第1ワイヤ体の一端側は、前記キャブの骨格を構成するピラーに取り付けられ、他端側は前記本体フレームに取り付けられていてもよい。これによると、ピラーごとに第1ワイヤ体の長さを変更できるので、簡易な構成により、キャブの変位量の微調整が可能となる。
【0012】
前記第1ワイヤ体の少なくとも一方の端部は環状に形成されており、当該環状の端部に対応して、前記キャブ又は前記本体フレームには、第1引っ掛け用突起部が設けられ、当該第1引っ掛け用突起部には前記環状の端部が引っ掛けられていてもよい。これによると、簡易な構成により、第1ワイヤ体の弛み量の調整が可能となる。
【0013】
前記キャブには、前記第1ワイヤ体の一端側及び他端側がそれぞれ取り付けられ、前記本体フレームには、第2引っ掛け用突起部が設けられており、前記第1ワイヤ体は前記第2引っ掛け用突起部に引っ掛けられていてもよい。これによると、キャブ連結機構の構成をさらに簡易なものとすることができる。
【0014】
前記キャブの骨格は複数のピラーにより構成されており、前記複数のピラーのうち、隣り合う2本の前記ピラーの一方には前記第1ワイヤ体の一端側が、他方には前記第1ワイヤ体の他端側がそれぞれ取り付けられ、前記本体フレームには、第1支持部及び第2支持部が設けられており、前記第1支持部には下向きの第1接触面が形成されており、当該第1接触面は前記第1ワイヤ体の前記一端側の取り付け位置よりも低位置であり、前記第2支持部には上向きの第2接触面が形成されており、当該第2接触面は前記第1ワイヤ体の前記他端側の取り付け位置よりも高位置であり、前記第1ワイヤ体は、前記第1接触面及び前記第2接触面とは、前記一端側からこの順序で接触するように配置されていてもよい。これによると、車両の転倒時等において、隣り合う2本のピラーのうちの一方のピラーが他方のピラーの下端を支点として持ち上がる方向へキャブが回転する方向の力を受けた場合に、他方のピラーも持ち上がる方向へキャブが第1ワイヤ体によって引っ張られるために、キャブの回転が抑制される。そのため、キャブの変位量を確実に規制することができる。
【0015】
前記第1支持部は、前記第2支持部よりも前記一方のピラー側に配置されていてもよい。これによると、簡易な構成により、キャブの変位量を確実に規制することができる。
【0016】
第2ワイヤ体を有し、前記キャブと前記本体フレームとを当該第2ワイヤ体を介して連結する第3連結機構をさらに備え、前記第3連結機構が前記キャブと前記本体フレームとを連結している状態において、前記第2ワイヤ体は、前記キャブが前記本体フレームに対して少なくとも前記第1連結機構の揺動可能範囲を超えて変位可能となる量の弛みを有しており、前記第3連結機構は、前記キャブが前記本体フレームから分離しないように前記第2ワイヤ体によって規制してもよい。これによると、キャブに大きな力が加えられて、第1連結機構、第2連結機構が破損してしまっても、第3連結機構がさらに設けられていることにより、キャブが本体フレームから分離せず、運転者がより確実に保護される。
【0017】
また、別の観点において、本発明のキャブ連結機構は、車両の本体フレームと、前記車両の運転者が収容されるキャブとを連結するキャブ連結機構であって、前記キャブと前記本体フレームとを互いに弾性的に揺動可能に連結し、且つ、前記本体フレームの振動を吸収して前記本体フレームから前記キャブへの振動の伝達を抑制する第1連結機構と、第3ワイヤ体を有し、前記キャブと前記本体フレームとを当該第3ワイヤ体を介して連結する第4連結機構と、を備えている。そして、前記第4連結機構が前記キャブと前記本体フレームとを連結している状態において、前記第3ワイヤ体は、前記キャブが前記本体フレームに対して少なくとも前記第1連結機構の揺動可能範囲を超えて変位可能となる量の弛みを有しており、前記第4連結機構は、前記キャブが前記本体フレームから分離しないように前記第3ワイヤ体によって規制する。
【0018】
この構成によると、振動の減衰機能を有する第1連結機構によりキャブと本体フレームとが連結され、さらに、弛みのある第1ワイヤ体を介してキャブと本体フレームとが連結されることで、キャブが本体フレームに対して、第1連結機構の揺動範囲内では揺動可能となり、且つ、第1連結機構が破損してしまってもキャブが本体フレームから分離しないように規制される。そのため、簡易な構成により、キャブに対する振動の減衰機能を確保でき、且つ、転倒時等においてキャブの変位量を規制して運転者を適切に保護できるキャブ連結機構が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。ここでは、本発明に係るキャブ連結機構が油圧ショベルに用いられている一実施形態について説明する。
【0020】
まず、図1を用いて、本発明の一実施形態に係るキャブ連結機構を含む油圧ショベルの全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係る油圧ショベルの側面図である。
【0021】
(全体構成)
図1に示すように、本実施形態に係る油圧ショベル90は、下部走行体92と、下部走行体92に対して旋回機構90Rを介して旋回可能に取り付けられた上部旋回体93とを有して構成されている。そして、上部旋回体93の骨格は、後述する本体フレーム20により構成されている。また、本体フレーム20には、キャブ10と、作業機(アタッチメント)91と、カウンターウェイト94とが設置されている。ここで、キャブ10は、運転者が収容される運転室である。また、作業機91は、一端側を支点として揺動可能に装着されるブーム91aと、ブーム91aの先端に装着されるアーム91bと、アーム91bの先端に装着されるバケット91cとから構成されている。
【0022】
そして、詳細は後述するが、図5、図6に示すように、本発明に係るキャブ連結機構1(図1では図略)は、第1連結機構3と第2連結機構2とを含んで構成されており、本体フレーム20に対してキャブ10を連結するものである。そして、キャブ連結機構1に含まれる第1連結機構3は、本体フレーム20からキャブ10へ伝えられる振動を減衰させるものであり、第2連結機構2は、第1ワイヤ体2Wを含んで構成され、本体フレーム20に対するキャブ10の変位量を規制するものである。
【0023】
(キャブへの衝撃について)
次に、油圧ショベル90の運転時にキャブ10が受ける衝撃について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、図1の油圧ショベル90の正面概略図であり、図3は、図2の油圧ショベルがキャブ10側に転倒した状態を示す正面概略図である。
【0024】
まず、平常運転時においては、走行時に生じる振動、土砂の掘削作業時に発生する掘削反力による振動等によって、下部走行体92から上部旋回体93へと振動が伝達され、上部旋回体93の骨格を構成する本体フレーム20が振動することがある。
【0025】
一方、油圧ショベル90の転倒等の場合には、油圧ショベル90には平常運転時と比べて大きな衝撃が与えられることがある。このように大きな衝撃が与えられる場合としては、転倒の他、走行中における岩石等との衝突等が考えられる。
【0026】
油圧ショベル90においては、キャブ10の図1における矢印方向を正面として右側(図2の左側)に作業機91が設けられている。ここで、油圧ショベル90の転倒については、その構造から、左右方向への転倒を考えればよい(前方には重量の大きい作業機91があるために、重心は前方よりになる。しかし作業機91自体が支持するために前方へ転倒することがない)。左右方向のうち、作業機91側(図2の矢印方向参照)に車両が転倒しても、作業機91が地面とキャブ10との間に位置するために、作業機91はキャブ10よりも先に接地するため、作業機91に比べてキャブ10への衝撃は小さい。しかし、作業機91側とは逆のキャブ10側(図2の矢印方向参照)へキャブ10が転倒すると、キャブ10の左側面が最初に接地し、キャブ10は大きな衝撃を受けることになる(図3参照)。そのため、以下、油圧ショベル90が大きな衝撃を受ける場合として、油圧ショベル90が図2のキャブ10側へと転倒した場合を想定して説明する。
【0027】
(本体フレーム及びキャブ)
図4を用いて本体フレーム20及びキャブ10について説明する。図4は、図1の油圧ショベルにおける本体フレーム及びキャブの構成を表わす概略斜視説明図である。上記のように、本体フレーム20は、上部旋回体93の骨格を構成しているが、図4においては、本体フレーム20のうち、本発明に係るキャブ連結機構による連結に関連する部分(図1において破線で囲まれたL部分の中央及び右側デッキに相当)のみを示しており、その他の部分を省略している。また、図4においては、キャブ10のフレーム部分のみを上下方向に分解して示しており、側面のパネル、天井板等は省略している。また、図4においては、第2連結機構(後述)についても省略して示している。
【0028】
本体フレーム20は、図4に示すように、キャブ10が設置される部分である前方デッキ22a及び後方デッキ22bと、作業機91が装着される作業機支持部21とを有している。そして、前後デッキ22a、22bには、第1連結機構3(詳細は後述する)が四つ(前方デッキ22a、後方デッキ22bのそれぞれに二つずつ)設置されている。
【0029】
キャブ10のフレーム部分は、図4のように、ピラー11a〜11d、天井支持部11r、サイドシル12、フロアプレート13を含んでいる。そして、これらが一体に組み立てられてキャブ10のフレーム部分が構成される。ここで、ピラー11a〜11dは、それぞれ、右前方ピラー11a、左前方ピラー11b、右後方ピラー11c、左後方ピラー11dを示している。本実施形態のキャブ10のフレーム部分は、四本のピラーを有する構成であるが、ピラーの数はそれ以上であってもよく、例えば、前方ピラー11a、11bと、後方ピラー11c、11dとの間にさらに二本の中間ピラーが設けられた、6本のピラーを有する構成であってもよく、これら二本の中間ピラーのうち一本のみが設けられた、五本のピラーを有する構成であってもよい。
【0030】
そして、キャブ10のフロアプレート13には、その四隅付近に4つの貫通孔13hが形成されており、後述するように、これらを貫通するボルトにより、第1連結機構3とキャブ10とが接続される。
【0031】
ここで、キャブ10が大きな衝撃を受けた場合であっても運転者が保護されるように、キャブ10は、ROPS(Rollover Protective Structure、転倒時保護構造)規格に対応したものとなっている。このROPS規格では、本体フレーム20にキャブ10が固定設置された状態においてキャブ10に求められる強度が定められているため、キャブ10が衝撃を受けたときに、本体フレーム20からキャブ10が分離しないことがその前提として要求される。本実施形態においては、キャブ連結機構1により、本体フレーム20に対してキャブ10が分離しないように連結される。また、そのようにして固定された状態において、転倒時等に大きな衝撃が加えられてもキャブ10が破損しないように、キャブ10は、所定の強度を確保するように設計されている。
【0032】
(第1連結機構)
次に、図4及び図5を参照しながら第1連結機構について説明する。図5は、図1の油圧ショベル90のフレーム部分の背面概略図である。図5はキャブ10を中心にした範囲(図1のLの範囲)のフレーム部分を示しており、その他の部分は省略している。また、図5では、一方(左側)の第1連結機構3(第1連結機構3a)については断面を示しており、キャブ10、及び、本体フレーム20についてもその周辺において断面を示している。
【0033】
第1連結機構3は上記の「マウント」に相当し、本実施形態においては、液体封入式ゴムマウントが用いられる。そして、これらの第1連結機構(マウント)3は、キャブ10のフロアプレート13の四隅付近に配置される。そして、これらの第1連結機構3によって、キャブ10が本体フレーム20に対して連結される構成となっている。
【0034】
第1連結機構3の詳細な構造について説明する。まず、キャブ10のフロアプレート13の底部には、図5の上下方向に延在する棒状部材30Sが設けられている。そして、棒状部材30Sの先端部には、棒状部材よりも径が大きい減衰板30Bが設けられている。また、減衰板30Bの径方向外側には、下方に突出した突出部30Tが設けられている。そして、棒状部材30Sは、フロアプレート13の貫通孔13hを上方から下方へ貫通するボルト32Bにより、キャブ10に対して固定されている。また、減衰板30Bは、棒状部材30Sに対して、ボルト31Bを用いて固定されている。
【0035】
本体プレート20の後方デッキ22bには、貫通孔が設けられており、当該貫通孔内部に、上方に開口したケース31Cが嵌挿設置されている。そして、図示しないボルトにより、ケース31Cが後方デッキ22bに対して固定されている。ケース31Cの内部には、シリコンオイルなどの粘性液30Lが収容されており、減衰板30Bが、粘性液30Lと接触するような配置となっている。また、筒状に形成された弾性部材30が、棒状部材30Sと同軸に、棒状部材30Sを径方向について取り囲んで配置されている。ここで、弾性部材30はゴム製である。また、弾性部材30の径方向外側に突出した鍔部30Tの下面とケース31Cの上部とが接している。また、ケース31Cの内周面と、弾性体30と、棒状部材30Sとにより、粘性液30Lがケース31Cの外部へ漏洩しないようにシーリングされている。
【0036】
このように構成された第1連結機構3は、以下のように作用する。油圧ショベル90の平常運転時において、走行時に生じる振動、土砂の掘削作業時に発生する掘削反力による振動等により本体フレーム20が振動すると、この振動は、ケース31Cに伝えられる。そのためケース31Cが、本体フレーム20とともに、キャブ10に取り付けられた棒状部材30S及び減衰板30Bに対して振動する。そのため、粘性液30Lが減衰板30Bにより攪拌される。このときに、粘性液30Lと減衰板30Bとの間の粘性抵抗により振動の減衰作用が働き、キャブに伝わる振動10を吸収することができる。なお、キャブ10に加えられる荷重は、筒状の弾性部材30において受けることができる。
【0037】
なお、上記の説明においては、図5の左側、すなわち、左後方の第1連結機構3(第1連結機構3a)についての構成を説明したが、これは、図5の右側、すなわち、右後方の第1連結機構3(第1連結機構3b)についても同様である。また、図5においては、後方デッキ22bのみを示しているが、前方デッキ22aも同様の構成であり、前方の二つの第1連結機構3についても同様の構成となっている。
【0038】
以上のように、第1連結機構3は、振動の減衰機能を有する。すなわち、第1連結機構3は、キャブ10と本体フレーム20とを、互いに(相対的に)弾性的に揺動可能に連結して、本体フレーム20からキャブ10へ伝えられる振動を緩和しつつキャブ10の荷重を支持する弾性支持機能と、本体フレーム20からキャブ10へ伝えられる振動そのものを吸収する減衰機能とを有する。これにより、平常運転時において、キャブ10内での良好な居住性が確保される。
【0039】
(第2連結機構)
次に、図5及び図6を参照しながら、第2連結機構2について説明する。図6は、本実施形態に係るキャブ連結機構1の構成を示す斜視概略図である。
【0040】
第2連結機構2は、四本の第1ワイヤ体2Wと、四つの第1引っ掛け用突起部2Hとを含んで構成され、キャブ10と本体フレーム20とを当該第1ワイヤ体2Wを介して連結する。そして、第2連結機構2がキャブ10と本体フレーム20とを連結している状態において、第1ワイヤ体2Wは弛みを有している。第1ワイヤ体2Wは、上記のように、本体フレーム20に対するキャブ10の変位量を規制するものであるが、この弛みによって、第1連結機構3による揺動が弛みの分だけは許容されるために、平常運転時において必要な分の第1連結機構3による減衰機能が確保されて、キャブ10内での運転者の良好な居住性が確保される。
【0041】
ここで、平常運転時には問題がないが、上記のように、キャブ10に大きな衝撃が作用する場合には、第1連結機構3が破断し、キャブ10が本体フレーム20から分離してしまう可能性がある。そこで、キャブ連結機構1においては、第1連結機構3が破断しないように、第2連結機構2により、キャブ10が本体フレーム20対して、第1連結機構3の揺動可能範囲内(後述)で変位するように規制している。具体的には、第1ワイヤ体2Wの弛みの量を調整することで、当該変位量が規制される。
【0042】
第2連結機構2の構成について具体的に説明する。第1ワイヤ体2Wの一端側は、キャブ10の骨格を構成するピラー11a〜11dに取り付けられ、他端側は本体フレーム20に取り付けられている。このようにすることで、ピラーごとに第1ワイヤ体2Wの長さを変更できるので、簡易な構成により、キャブ10の変位量の微調整が可能となる。ここで、第1ワイヤ体2Wとしては、高い強度を有する鉄製のものを用いる。また、第1ワイヤ体2Wとして、連結強度の向上のために、複数のワイヤを重ねて用いてもよい。
【0043】
また、第1ワイヤ体2Wの一方の端部は環状に形成されている。以下、これを環状端部2Rとする。そして、環状端部2Rのある側に対応するように、キャブ10又のピラー11a〜11bには、それぞれに第1引っ掛け用突起部2Hが設けられ、第1引っ掛け用突起部2Hのそれぞれには環状端部2Rが引っ掛けられている。また、第1ワイヤ体2Wの他方の端部は、本体フレーム20の固定部2fにおいて溶接固定されている。
【0044】
ここで、第1ワイヤ体2Wの端部を環状に形成する方法について説明する。まず、第1ワイヤ体2Wの一方の先端部を環状となるように曲げ、その上で、その先端部を第1ワイヤ体2Wの本体部にねじりながら巻きつける。この状態でも環状端部2Rの形成は可能であるが、当該巻き付け部分が解けないように、巻き付け部分を別の金具や接着剤等により補強することが望ましい。
【0045】
第1引っ掛け用突起部2Hは、図に示すようにピラー11a〜11dの壁部から、第1ワイヤ体2Wが引っ掛けられる隙間を形成しつつ上方へ向かって延出するように設けられており、その根元の固定部2gにおいて、ピラー11a〜11dに対して固定されている。また、その上方の先端部において、ボルト2Bが、第1引っ掛け用突起部2Hの外側からピラー方向に向かって第1引っ掛け用突起部2Hを貫通し、ピラー11a〜11dの孔部へと挿入されている。これにより、第1引っ掛け用突起部2Hの構造的強度を確保しつつ、第1ワイヤ体2Wが第1引っ掛け用突起部2Hから外れるのを防止している。ここで、ボルト2Bはなくてもよい。また、第1引っ掛け用突起部2Hの形状は、第1ワイヤ体20を本体フレーム20側へ引っ張っても外れないように、環状端部2Rを引っ掛けられるようになっていればこのような形状には限られない。また、第1引っ掛け用突起部2Hは、ピラー11a〜11dと一体に形成されたものであってもよい。
【0046】
なお、本実施形態では、キャブ10側に第1引っ掛け用突起部2Hが設けられているが、これは本体フレーム20に設けられていてもよいし、キャブ10及び本体フレーム20の両方に設けられていてもよい。また、その場合、第1ワイヤ体2Wの環状端部は、それに対応した端部(本体フレーム20側端部、又は、両端部)に設ける必要がある。また、第1引っ掛け用突起部2Hは、4本のピラーに設けられていなくてもよく、1本以上のピラーに取り付けられていればよい。また、それに対応して、第1ワイヤ体2Wの数も4本には限られない。また、第1引っ掛け用突起部2Hはなくてもよく、第1ワイヤ体2Wの他方の両端が、本体フレーム20及びキャブ10の固定部において溶接固定されていてもよい。
【0047】
(揺動可能範囲と第1ワイヤ体の弛みについて)
上記の第1連結機構3による揺動可能範囲について説明する。ここで、「揺動」とは、第1連結機3が破損していない正常の状態における、本体フレーム20に対するキャブ10の(キャブ10に対する本体フレーム20の)弾性的揺動のことをいう。従って、「揺動可能範囲」は、弾性的揺動が可能な状態における第1連結機構3による変位量の範囲のことであり、第1連結機構3が破損して、弾性的揺動ができなくなった場合における変位量の範囲とは異なる。また、ここでの「第1連結機構3の破損」とは、具体的には弾性部材30に弾性限界を超えた応力が作用して、弾性部材30が伸び方向に破断することをいう(その他、粘性液30Lの漏洩等も破損に含まれ得る)。
【0048】
平常の運転時における衝撃は、走行時に生じる振動、土砂の掘削作業時に発生する掘削反力による振動等であり、この程度の衝撃では弾性部材30は破断することがない。しかし、油圧ショベル90が転倒等する場合には、平常時に比べて大きな衝撃がキャブ10に与えられる。ここで、上記のように、油圧ショベル90が転倒する場合で、第1連結機構3の破損が起こりうるのは、キャブ10側への転倒の場合である(図2、図3参照)。キャブ10側へ転倒すると、キャブ10は、地面から荷重Aを受ける(図3、図5参照)。そして、それに関連して、キャブ10と本体フレーム20との連結部分では、キャブ10に対して曲げの作用を及ぼす曲げモーメントBが作用する(図3、図5参照)。その結果、図5の左側の、左後方側の第1連結機構3aには、キャブ10が本体フレーム20から分離する方向の力が、図5の右側の、右後方側の第1連結機構3bには、キャブ10が本体フレーム20へと接近する方向の力が、それぞれ作用する。そして、左後方側の第1連結機構3aの弾性部材30には、伸び方向(図5におけるほぼ上下方向)の力が作用する。
【0049】
第1連結機構3における紙面の水平方向(棒状部材30Sの軸方向と垂直な方向)についての揺動可能範囲(図5のC参照)は、弾性部材30の弾性範囲内における最大変形量となる。また、紙面の上下方向(棒状部材30Sの軸方向)についての第1連結機構3における揺動可能範囲(図5のD参照)は、以下のようになる。
【0050】
上記のように、キャブ10と本体フレーム20とが互いに分離するように、キャブ10及び本体フレーム20が相対変位する方向(すなわち、図5において、本体フレーム20に対してキャブ10が上方へと変位する方向、又は、キャブ10に対して本体フレーム20が下方へと変位する方向)については、第1連結機構3aの弾性部材30の変位方向は伸び方向となり、第1連結機構3aの弾性部材30の弾性範囲内における最大変形量が、第1連結機構3における揺動可能範囲となる。
【0051】
上記のような転倒の場合には考慮する必要がないが、例えば岩石などとの衝突等の場合には、これとは逆に、キャブ10と本体フレーム20とが互いに接近するように、キャブ10及び本体フレーム20が相対変位することがあり得る。この変位方向については、上記の場合とは逆に、右後方の第1連結機構3(第1連結機構3b)の弾性部材30の変位方向が伸び方向となり、第1連結機構3bの弾性部材30の弾性範囲内における最大変形量が揺動可能範囲となる。また、衝撃方向が左右方向でない場合には、他の第1連結機構3(右前方、左前方)の弾性部材30の弾性範囲内における最大変形量が揺動可能範囲となることもある。
【0052】
そして、第1ワイヤ体21Wの弛み量は、平常運転時における第1連結機構3による減衰機能の確保に必要な分の揺動幅以上であり、且つ、キャブ10が本体フレーム20に対して上記の揺動可能範囲内で変位するように設定される。
【0053】
(効果)
キャブ連結機構1が以上のように構成されることにより、振動の減衰機能を有する第1連結機構3によりキャブ10と本体フレーム20とが連結され、さらに、第2連結機構2に含まれる弛みのある第1ワイヤ体2Wを介してキャブ10と本体フレーム20とが連結されることで、キャブ10が本体フレーム20に対して第1ワイヤ体2Wの弛み分は揺動できる。また、第1ワイヤ体2Wによって、キャブ10の本体フレーム20に対する変位が第1連結機構3の揺動可能範囲内に規制されるために、第1連結機構3の破損が防止され、本体フレーム20に対するキャブ10の変位量が規制される。そのため、簡易な構成により、キャブ10に対する振動の減衰機能を確保でき、且つ、転倒時等においてキャブ10の変位量を規制して運転者を適切に保護できるキャブ連結機構が得られる。
【0054】
また、第1ワイヤ体2Wの一方の端部は環状に形成されており、当該環状の端部(環状端部)2Rに対応して、キャブ10には、第1引っ掛け用突起部2Hが設けられ、当該第1引っ掛け用突起部2Hには環状端部2Rが引っ掛けられているため、簡易な構成により、第1ワイヤ体2Wの弛み量の調整が可能となる。
【0055】
(変形例)
次に、本発明に係るキャブ連結機構の変形例について、図7〜11を参照しながら、上記の実施形態と異なる部分を中心に説明する。図7、8、9及び11は、それぞれ、上記の実施形態に係るキャブ連結機構の第1、第2、第3及び第4変形例を示す斜視概略図であり、図10は、第3変形例に係るキャブ連結機構を含む油圧ショベルのフレーム部分の背面概略図である。なお、上記の実施形態及びその変形例と同様の部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
(第1変形例)
図7に示すように、第1変形例に係るキャブ連結機構100においては、キャブ10のピラー11d及びピラー11cの固定部102F、102Fにおいて、第1ワイヤ体102Wの一端側及び他端側がそれぞれ溶接固定により取り付けられている。また、本体フレーム20の後方デッキ22bには、第2引っ掛け用突起部102Hが設けられている。第2引っ掛け用突起部102Hは、金属板をコの字断面を有するように曲げて形成されたもので、コの字の開口側が下方へ向くようにして、デッキ22b後方の起立壁22Wへボルト102Bによって取り付けられているものである。そして、第1ワイヤ体102Wは、図7に示すように、弛みを有しつつ、第2引っ掛け用突起部102Hに引っ掛けられている。この弛み量は、平常運転時における第1連結機構3による減衰機能の確保に必要な分の揺動幅以上であり、且つ、キャブ10が本体フレーム20に対して揺動可能範囲内で変位するように設定されている。このようにすることによっても、上記の実施形態と同様に、キャブ10に対する振動の減衰機能を確保でき、且つ、転倒時等においてキャブ10の変位量を規制して運転者を適切に保護できる。また、キャブ連結機構の構成をさらに簡易なものとすることができる。
【0057】
また、上記の実施形態とは異なり、本変形例においては、第2連結機構102(第1ワイヤ体102Wと第2引っ掛け用突起部102Hとを有して構成されている)は、後方にのみ設置され、前方には設置されていない。これは、油圧ショベル90の前方に作業機91が配置されているために、油圧ショベル90が前方へ転倒して、キャブ10が前方から大きな衝撃を受けることを想定していないからである。しかし、前方にも後方と同様に第2連結機構が設けられていてもよい。また、第2連結機構が前方にのみ設けられていてもよい。
【0058】
(第2変形例)
図8に示すように、第2変形例に係るキャブ連結機構200は、第1変形例に係るキャブ連結機構100とは、第3連結機構204がさらに設けられている点において異なる。
第3連結機構204は、第2ワイヤ体202Sと、第2引っ掛け用突起部102Hとを有し、キャブ10と本体フレーム20とを当該第2ワイヤ体202Sを介して連結するものである。ここで、第2引っ掛け用突起部102Hは、第2連結機構102に用いられているものと共通である。しかし、第2連結機構102とは別の引っ掛け用突起部が設けられていてもよい。
【0059】
そして、第3連結機構204がキャブ10と本体フレーム20とを連結している状態において、第2ワイヤ体202Sは、キャブ10が本体フレーム20に対して、少なくとも第1連結機構3の揺動可能範囲を超えて変位可能となる量の弛みを有している。また、第3連結機構204は、弛み量が調整された第2ワイヤ体202Sによって、キャブ10が本体フレーム20から分離しないように規制している。これによると、キャブ10に大きな力が加えられて、第1連結機構3、第2連結機構102が破損してしまっても、第3連結機構204がさらに設けられていることにより、第3連結機構204が第2連結機構102のバックアップ機構として機能し、キャブ10を本体フレーム20から分離しないように支持することができる。そのため、キャブ10の本体フレーム20からの分離をより確実に防止でき、運転者がより確実に保護される。
【0060】
(第3変形例)
図9に示すように、第3変形例に係るキャブ連結機構300においても、上記のように、キャブ10の骨格は複数(四本)のピラー11a〜11dにより構成されている。そして、これらのピラーのうち、後方において、隣り合う2本のピラー11c、11dの一方のピラー11dには、第1ワイヤ体2Wの一端側が、固定部302Fにおいて溶接固定されている。また、他方のピラーであるピラー11cには、第1ワイヤ体2Wの他端側が、固定部302Gにおいて溶接固定されている。このようにして、第1ワイヤ体2W両端が、ピラー11c、11dに取り付けられている。
【0061】
また、本体フレーム20には、第1支持部302L及び第2支持部302Hが設けられている。第1支持部302Lは、金属板をコの字断面を有するように曲げて形成されたもので、コの字の開口側が下方へ向くようにして、デッキ22b後方の起立壁22Wへボルト302Bによって取り付けられているものである。また、第2支持部302Hは、金属性の板部302Pと、金属板の一端部及び他端部を互いに反対の方向に直角に曲げて形成された受け部302Tとを有しており、受け部302Tは、板部302Pの上部に対してボルト302rによって取り付けられており、また、板部302Pは、その下部において、起立壁22Wへボルト302Bによって取り付けられている。
【0062】
また、第1支持部302Lには下向きの第1接触面302aが形成されており、当該第1接触面302aは、第1ワイヤ体302Wの一端側の取り付け位置(固定部302Fの位置)よりも低位置である(図10のE参照)。また、第2支持部302Hには上向きの第2接触面302bが形成されており、当該第2接触面302bは第1ワイヤ体302Wの他端側の取り付け位置(固定部302Gの位置)よりも高位置である(図10のF参照)。そして、第1ワイヤ体302Wは、第1接触面302a及び第2接触面302bとは、一端側(固定部302F側)からこの順序で接触するように配置されている。また、第1支持部302Lは、第2支持部302Hよりもピラー11d側に配置されている。
【0063】
上記のように、車両の転倒時等、特にキャブ10側への転倒時においては、隣り合う2本のピラー11c、11dのうちの一方のピラー11dが他方のピラー11cの下端を支点として持ち上がる方向(図10の矢印G方向参照)へキャブ10が回転する方向の力(図10の荷重A参照)を受ける(さらに、キャブ10の支持部分において曲げモーメントBが作用する)。ここで、ピラー11dが持ち上げられるときに、ピラー11dに設けられている固定部302Fも持ち上げられるために、第1支持部302Lと固定部302Fの間において、第1ワイヤ体302Wは上方へ引っ張られる(図10の矢印I参照)。また、それに起因して、第1支持部302Lと第2支持部302Hとの間において、第1ワイヤ体302Wは、下方へと引っ張られる(図の矢印J参照)。そして、それに起因して、第2支持部302Hと固定部302Gの間において第1ワイヤ体302Wは上方へ引っ張り上げられる(図の矢印K参照)。そして、第1ワイヤ体302と共に固定部302Gが上方へと持ち上げられるために、固定部302が設けられているピラー11cもまた上方へと引っ張り上げられる(図10の矢印H参照)。これが、キャブ10の矢印B方向への回転を相殺するように作用するため、右後方の第1連結機構3aを支点としたキャブ10の回転が抑制され、本変形例に係るキャブ連結機構300によりキャブ10の変位量を確実に規制することができる。
【0064】
また、第1支持部302Lは、第2支持部302Hよりも一方のピラー11d側に配置されているため、簡易な構成により、キャブの変位量を確実に規制することができる。
【0065】
(第4変形例)
図11に示すように、第4変形例に係るキャブ連結機構400は、第4連結機構402を有している。第4連結機構402は、第3ワイヤ体402Sと、第2引っ掛け用突起部102Hとを有して構成されており、キャブ10と本体フレーム20とを第3ワイヤ体402Sを介して連結するものである。そして、第4連結機構402がキャブ10と本体フレーム20とを連結している状態において、第3ワイヤ体402Sは、キャブ10が本体フレーム20に対して、少なくとも第1連結機構3の揺動可能範囲を超えて変位可能となる量の弛みを有している。また、第4連結機構402は、弛み量が調整された第3ワイヤ体402Sによって、キャブ10が本体フレーム20から分離しないように規制している。このように、本変形に係るキャブ連結機構400は、第1変形例に係るキャブ連結機構100とは、ワイヤ体の弛みの量において異なっている。すなわち、第3ワイヤ体402Sの弛み量と第1ワイヤ体102Wの弛み量とが異なっており、本変形例に係る第3ワイヤ体402Sの方が長くなっている。ワイヤ体の弛みはこのようになっていてもよい。
【0066】
これにより、キャブ10が本体フレーム20に対して、第1連結機構3の揺動範囲内では揺動可能となり、且つ、第1連結機構3が破損してしまってもキャブ10が本体フレーム20から分離しないように規制される。そのため、簡易な構成により、キャブ10に対する振動の減衰機能を確保でき、且つ、転倒時等においてキャブ10の変位量を規制して運転者を適切に保護できるキャブ連結機構が得られる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【0068】
例えば、上記の実施形態においては、本発明に係るキャブ連結機構を油圧ショベルに用いているが、この形態には限られず、他の建設機械(例えば、油圧クレーン、ブルドーザ、ホイールローダ、パワーショベル、ショベルローダ、ダンプトラック等)に用いられてもよい。また、上記の実施形態では、ROPS対応のキャブについてキャブ連結機構を使用しているが、ROPS対応のキャブ以外に使用してもよい。
【0069】
また、第3変形例において、ワイヤ体の弛み量を、第4変形例の第3ワイヤ体と同様の弛みとしてもよい。このようにすることで、第1連結機構が破損しても、キャブが回転して本体フレームから分離することを抑制することができる。
【0070】
また、上記の実施形態においては、油圧ショベルに大きな衝撃が与えられる場合として、車両の転倒の場合を想定している。しかし、転倒以外であっても、岩石との衝突などによってキャブに大きな衝撃が与えられることがある。このような場合についても本発明は適用可能である。
【0071】
また、上記の実施形態においては、ワイヤ体の端部を溶接によって取り付けているが、この取り付け方法については、溶接以外であってもよく、例えば、固定部でボルト止めによって取り付けられていてもよい。
【0072】
また、第1、第2、第3、第4変形例においては、ワイヤ体を有する連結機構は、後方にのみ設置され、前方には設置されていない。しかし、前方にも後方と同様にこの連結機構が設けられていてもよいし、前方にのみ設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態に係るキャブ連結機構を含む油圧ショベルの側面概略図。
【図2】図1の油圧ショベルの正面概略図。
【図3】図2の油圧ショベルがキャブ側に転倒した状態を示す正面概略図。
【図4】図1の油圧ショベルの本体フレーム及びキャブの構成を表わす概略斜視説明図。
【図5】図1の油圧ショベルのフレーム部分の背面概略図。
【図6】図1の油圧ショベルに用いられているキャブ連結機構の構成を示す斜視概略図。
【図7】本発明の一実施形態に係るキャブ連結機構の第1変形例を示す斜視概略図。
【図8】本発明の一実施形態に係るキャブ連結機構の第2変形例を示す斜視概略図。
【図9】本発明の一実施形態に係るキャブ連結機構の第3変形例を示す斜視概略図。
【図10】第3変形例に係るキャブ連結機構を含む油圧ショベルのフレーム部分の背面外略図。
【図11】本発明の一実施形態に係るキャブ連結機構の第4変形例を示す斜視概略図。
【符号の説明】
【0074】
1、100、200、300、400 キャブ連結機構
2、102 第2連結機構
2H 第1引っ掛け用突起部
2R 環状端部
2W、102W、302W 第1ワイヤ体
3 第1連結機構
10 キャブ
11a〜11d ピラー
20 本体フレーム
102H 第2引っ掛け用突起部
202S 第2ワイヤ体
204 第3連結機構
302a 第1接触面
302b 第2接触面
302H 第2支持部
302L 第1支持部
402 第4連結機構
402S 第3ワイヤ体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の本体フレームと、前記車両の運転者が収容されるキャブとを連結するキャブ連結機構であって、
前記キャブと前記本体フレームとを互いに弾性的に揺動可能に連結し、且つ、前記本体フレームの振動を吸収して前記本体フレームから前記キャブへの振動の伝達を抑制する第1連結機構と、
第1ワイヤ体を有し、前記キャブと前記本体フレームとを当該第1ワイヤ体を介して連結する第2連結機構と、を備え、
前記第2連結機構が前記キャブと前記本体フレームとを連結している状態において、前記第1ワイヤ体は弛みを有しており、
前記第2連結機構は、前記キャブが前記本体フレームに対して前記第1連結機構の揺動可能範囲内で変位するように前記第1ワイヤ体によって規制することを特徴とするキャブ連結機構。
【請求項2】
前記第1ワイヤ体の一端側は、前記キャブの骨格を構成するピラーに取り付けられ、他端側は前記本体フレームに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のキャブ連結機構。
【請求項3】
前記第1ワイヤ体の少なくとも一方の端部は環状に形成されており、
当該環状の端部に対応して、前記キャブ又は前記本体フレームには、第1引っ掛け用突起部が設けられ、
当該第1引っ掛け用突起部には前記環状の端部が引っ掛けられることを特徴とする請求項2に記載のキャブ連結機構。
【請求項4】
前記キャブには、前記第1ワイヤ体の一端側及び他端側がそれぞれ取り付けられ、
前記本体フレームには、第2引っ掛け用突起部が設けられており、
前記第1ワイヤ体は前記第2引っ掛け用突起部に引っ掛けられていることを特徴とする請求項1に記載のキャブ連結機構。
【請求項5】
前記キャブの骨格は複数のピラーにより構成されており、
前記複数のピラーのうち、隣り合う2本の前記ピラーの一方には前記第1ワイヤ体の一端側が、他方には前記第1ワイヤ体の他端側がそれぞれ取り付けられ、
前記本体フレームには、第1支持部及び第2支持部が設けられており、
前記第1支持部には下向きの第1接触面が形成されており、当該第1接触面は前記第1ワイヤ体の前記一端側の取り付け位置よりも低位置であり、
前記第2支持部には上向きの第2接触面が形成されており、当該第2接触面は前記第1ワイヤ体の前記他端側の取り付け位置よりも高位置であり、
前記第1ワイヤ体は、前記第1接触面及び前記第2接触面とは、前記一端側からこの順序で接触するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のキャブ連結機構。
【請求項6】
前記第1支持部は、前記第2支持部よりも前記一方のピラー側に配置されていることを特徴とする請求項5に記載のキャブ連結機構。
【請求項7】
第2ワイヤ体を有し、前記キャブと前記本体フレームとを当該第2ワイヤ体を介して連結する第3連結機構をさらに備え、
前記第3連結機構が前記キャブと前記本体フレームとを連結している状態において、前記第2ワイヤ体は、前記キャブが前記本体フレームに対して少なくとも前記第1連結機構の揺動可能範囲を超えて変位可能となる量の弛みを有しており、
前記第3連結機構は、前記キャブが前記本体フレームから分離しないように前記第2ワイヤ体によって規制することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のキャブ連結機構。
【請求項8】
車両の本体フレームと、前記車両の運転者が収容されるキャブとを連結するキャブ連結機構であって、
前記キャブと前記本体フレームとを互いに弾性的に揺動可能に連結し、且つ、前記本体フレームの振動を吸収して前記本体フレームから前記キャブへの振動の伝達を抑制する第1連結機構と、
第3ワイヤ体を有し、前記キャブと前記本体フレームとを当該第3ワイヤ体を介して連結する第4連結機構と、を備え、
前記第4連結機構が前記キャブと前記本体フレームとを連結している状態において、前記第3ワイヤ体は、前記キャブが前記本体フレームに対して少なくとも前記第1連結機構の揺動可能範囲を超えて変位可能となる量の弛みを有しており、
前記第4連結機構は、前記キャブが前記本体フレームから分離しないように前記第3ワイヤ体によって規制することを特徴とするキャブ連結機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−105541(P2008−105541A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289769(P2006−289769)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】