説明

クロロゲン酸酵素処理物の製造方法及びヒアルロニダーゼ阻害剤

【課題】ヒアルロニダーゼ阻害活性の高いクロロゲン酸酵素処理物の製造方法、クロロゲン酸酵素処理物を有効成分とするヒアルロニダーゼ阻害剤、及び該ヒアルロニダーゼ阻害剤を含有する皮膚外用剤、飲料及び食品、医薬品を提供すること。
【解決手段】クロロゲン酸類を、酸素の存在下でポリフェノールオキシダーゼを作用させるか又は過酸化物の存在下でペルオキシダーゼを作用させて酸化重合することにより、ヒアルロニダーゼ阻害活性を有するクロロゲン酸酵素処理物を製造し、該クロロゲン酸酵素処理物を有効成分として含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロニダーゼ阻害活性を有するクロロゲン酸酵素処理物の製造方法、クロロゲン酸酵素処理物を有効成分とするヒアルロニダーゼ阻害剤、及び該ヒアルロニダーゼ阻害剤を含有する皮膚外用剤、飲料及び食品、医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、コラーゲン、エラスチンと並ぶ哺乳動物の結合組織に広く存在するマトリックス成分の一つである。ヒアルロン酸の機能は細胞の保持、皮膚の保水、関節の潤滑など物理的なものから、近年では血管内皮細胞、多形核白血球、マクロファージなどの細胞機能の制御など、生化学的なものも注目されている。生体内のヒアルロン酸は比較的短期間で代謝回転されており、通常の状態ではヒアルロン酸合成酵素と分解酵素の活性の平衡が保たれている。
【0003】
しかし、一般的に、老化に伴いこの平衡が失われ、ヒアルロン酸合成に対して分解酵素(ヒアルロニダーゼ)活性が亢進することになって、組織の柔軟性や湿潤性も失われ、皮膚のしわ等の老人性変化を引き起こす。
【0004】
また、I型アレルギーの肥満細胞からの脱顆粒とヒアルロニダーゼ活性に相関があることが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
慢性関節炎リウマチの炎症部位でもヒアルロニダーゼ活性が亢進することもよく知られている。更に癌細胞が血管新生する際に、ヒアルロニダーゼ活性が亢進すると報告されている。
【0006】
従って、ヒアルロニダーゼを阻害することは、皮膚老化、アレルギー性の炎症、リウマチ性関節炎、腫瘍の成長等の進行を抑制することにつながる。
【0007】
従来、特許文献1には、コーヒー豆のような食品の抽出物がヒアルロニダーゼ亢進により発現する炎症に対する抗炎症作用を有する旨の記載があるが、抽出物の酵素処理は行っていない。このためコーヒー豆の抽出物について測定されたヒアルロニダーゼ阻害活性は、実用に値する高い値を示さない欠点がある。
【0008】
なお、コーヒー豆抽出物に含まれている成分のひとつであるクロロゲン酸に関しては、特許文献2は、クロロゲン酸を含有する高血圧症予防・治療剤について記載しているが、クロロゲン酸の酵素処理は行っていない。特許文献3は、クロロゲン酸を含有するコーヒー豆抽出物がダイエット作用を有する旨記載しているが、クロロゲン酸の酵素処理は行っていない。
【0009】
特許文献4には、カフェ酸又はカフェ−タンニン酸の酵素処理を必須成分とする抗アレルギー食品について記載しているが、カフェ酸及びカフェ−タンニン酸の酵素処理は行っていない。特許文献5には、クロロゲン酸にポリフェノールオキシダーゼを作用させ褐変させる技術が記載されているが、ヒアルロニダーゼ阻害作用については記載がない。
【0010】
特許文献6には、コーヒー豆抽出物であるヒドロキシヒドロキノンにラッカーゼ酵素を作用させて酸化する技術が記載されているが、クロロゲン酸は酸化しないと記載している(0011欄)。
【非特許文献1】ヒサオ カケガワ、“Chem.Pharm.Bull.”、1985、33(11)5079−5082
【特許文献1】特開平11−318387号公報
【特許文献2】特開2002−053464号公報
【特許文献3】特開2006−335758号公報
【特許文献4】特開昭60-192555号公報
【特許文献5】特公昭57−37301号公報
【特許文献6】特開2006−149235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、ヒアルロニダーゼ阻害活性の高い組成物について研究を重ねるうちに、クロロゲン酸に特定の酵素を作用させて得られる酵素処理物に、ヒアルロニダーゼを強く阻害する作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
そこで、本発明の課題は、クロロゲン酸を酵素処理することにより得られるヒアルロニダーゼ阻害活性の高いクロロゲン酸酵素処理物の製造方法、クロロゲン酸酵素処理物を有効成分とするヒアルロニダーゼ阻害剤、及び該ヒアルロニダーゼ阻害剤を含有する皮膚外用剤、飲料及び食品、医薬品を提供することにある。
【0013】
本発明の他の課題は以下の記載によって明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(請求項1)
クロロゲン酸類を、酸素の存在下でポリフェノールオキシダーゼを作用させるか又は過酸化物の存在下でペルオキシダーゼを作用させて酸化重合することにより、ヒアルロニダーゼ阻害活性を有するクロロゲン酸酵素処理物を製造するクロロゲン酸酵素処理物の製造方法。
【0015】
(請求項2)
クロロゲン酸類が、コーヒー由来のものであることを特徴とする請求項1記載のクロロゲン酸酵素処理物の製造方法。
【0016】
(請求項3)
ポリフェノールオキシダーゼ又はペルオキシダーゼが、コーヒー豆中に内在するものであることを特徴とする請求項1又は2記載のクロロゲン酸酵素処理物の製造方法。
【0017】
(請求項4)
請求項1〜3の何れかに記載の製造方法によって得られるクロロゲン酸酵素処理物を、有効成分として含有することを特徴とするヒアルロニダーゼ阻害剤。
【0018】
(請求項5)
請求項4記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【0019】
(請求項6)
請求項4記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有することを特徴とする飲料及び食品。
【0020】
(請求項7)
請求項4記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有することを特徴とする医薬品。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、クロロゲン酸を酵素処理することにより得られるヒアルロニダーゼ阻害活性の高いクロロゲン酸酵素処理物の製造方法、クロロゲン酸酵素処理物を有効成分とするヒアルロニダーゼ阻害剤、及び該ヒアルロニダーゼ阻害剤を含有する皮膚外用剤、飲料及び食品、医薬品を提供することができる。
【0022】
即ち、このクロロゲン酸酵素処理物は、酵素処理を行わないクロロゲン酸に比べ、はるかにヒアルロニダーゼ阻害活性が強いので、この酵素処理物を有効成分として含有することで、皮膚老化、抗アレルギー、抗炎症効果が期待でき、皮膚外用剤、飲料及び食品、医薬品として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
クロロゲン酸類には、クロロゲン酸(chlogenic acid)、すなわちカフェ酸(caffeic acid)とキナ酸(quinic acid)が結合した5−カフェオイルキナ酸ともいわれるポリフェノール化合物があり、その他、異性体としてネオクロロゲン酸、クリプトクロロゲン酸、また、カフェ酸2分子がキナ酸1分子と結合したイソクロロゲン酸類があり、それらすべてを総称したものである。
【0025】
本発明においては、クロロゲン酸酵素処理物とは、特に5-カフェオイルキナ酸に限定したものではなく、クロロゲン酸類全般の酵素処理物である。
【0026】
本発明において、クロロゲン酸類が合成品か天然物かは限定されない。クロロゲン酸類は広く植物体中に存在するものであり、その種類を問わない。クロロゲン酸類の起源品としては、コーヒー、バナナ、リンゴ、ゴボウ等が挙げられるが、コーヒーが最もクロロゲン酸類の含量が豊富であり好ましい。
【0027】
本発明に使用するコーヒーは、コーヒー生豆の他、生豆に果肉部分と外皮部分までを含んだコーヒー果実を用いることもでき、これらのコーヒー由来のものを用いることができるが、中でもコーヒー生豆が好ましい。
【0028】
本発明では、これらコーヒー由来となるコーヒーの品種としては、アラビカ種、ロブスタ種などがあり、収穫する場所としては、ブラジル、コロンビア、タンザニア、インドネシア、ベトナムなどがあるが、特に品種や産地を指定するものではない。
【0029】
コーヒー豆は、単品種で使用しても良いし、複数種をブレンドして用いてもよい。コーヒー豆は、焙煎をしない生豆のまま使用しても良いし、焙煎しても良い。焙煎する場合、通常の方法を採用することができるが、好ましくは、焙煎によるコーヒーに含まれるクロロゲン酸類の消失が少ない浅煎りが好ましい。
【0030】
クロロゲン酸類を含有する素材としてコーヒーの生豆あるいは焙煎豆を用いて酵素処理物を得る場合、粉砕するか又はそのままの状態で加水し、酵素を加えて酵素反応を行う。あるいは、加水後に熱水抽出等を行い、抽出物の残渣を除いてから酵素を加えて、酵素反応を行うこともできる。
【0031】
本発明では、酵素として、ポリフェノールオキシダーゼ又はペルオキシダーゼを用いる。
【0032】
ポリフェノールオキシダーゼを用いる場合、コーヒー豆中に存在する内在のポリフェノールオキシダーゼを利用してもよいし、食品添加物等工業用酵素を用いても良く、その種類は限定されない。
【0033】
ポリフェノールオキシダーゼの使用量は、特に制限されるものではないが、基質であるクロロゲン酸類に対し、0.1〜10,000 U/gの範囲の量を添加することが好ましく、より好ましくは10〜1,000 U/gである。
【0034】
ポリフェノールオキシダーゼを作用させる手段としては、コーヒー豆を含む水、あるいはコーヒー豆抽出液の反応温度を好ましくは80℃以下、より好ましくは20〜60℃として、好気的に酵素反応を進めればよい。
【0035】
酵素反応中は、激しく攪拌することが酵素反応の基質の1つである酸素の供給の点で好ましく、通気しながらの攪拌が酸素供給量の増大及びそれに伴う反応速度の向上の点でさらに好ましい。反応時間は、1分〜12時間が好ましく、より好ましくは30分〜5時間である。
【0036】
ペルオキシダーゼを用いる場合は、反応は過酸化物の存在下で行う必要がある。過酸化物としては、過酸化水素が好ましい。以下は過酸化水素を用いる例について説明する。
【0037】
用いる酵素は西洋ワサビから粗酵素液を調製することもできるし、コーヒー豆に内在するペルオキシダーゼを利用しても良い。また、食品添加物等工業用酵素を用いてもよく、その種類は限定されない。
【0038】
ペルオキシダーゼの使用量は、特に制限されるものではないが、基質であるクロロゲン酸類に対し、0.1〜10,000U/gの範囲が好ましく、より好ましくは10〜1,000 U/gの範囲である。
【0039】
過酸化水素の使用量は、特に限定されるものではないが、クロロゲン酸類に対し、1〜1,000mg/gとなるように添加することが好ましい。
【0040】
過酸化水素の存在下でペルオキシダーゼを作用させる手段としては、コーヒー豆を含む水あるいはコーヒー豆抽出液の反応温度を好ましくは80℃以下、より好ましくは20〜60℃で攪拌しながら反応すればよい。反応時間は条件により異なるが、1分〜12時間で十分である。
【0041】
ポリフェノールオキシダーゼ又はペルオキシダーゼによるクロロゲン酸類の酵素処理が十分に進んだ時点で、80℃以上に加熱することで酵素を失活させて反応を停止させる。
【0042】
前記の処理により得られたクロロゲン酸酵素処理物を、濾過又は、遠心分離などの固液分離の工程により残渣を取り除くと、クロロゲン酸酵素処理物を含有する水溶液が得られる。さらに濃縮しても良いし、粉末にしてもよい。
【0043】
クロロゲン酸酵素処理物は、クロロゲン酸類が酵素によりクロロゲン酸キノンに酸化され、さらに酸化重合することによって得られる。
【0044】
クロロゲン酸酵素処理物は、クロロゲン酸類の、ジフェノールのオルト位やパラ位が反応した生成物、側鎖として結合している2重結合のα位やβ位が反応した生成物など多様な重合様式で、重合度(n≧2)が異なる生成物の混合物であり、生成物の重合様式、重合度は特定されない。
【0045】
得られたクロロゲン酸酵素処理物は、高いヒアルロニダーゼ阻害効果を有し、ヒアルロニダーゼ活性に起因する皮膚老化、アレルギー、炎症などを予防、防止又は低下させ、例えば食品としての価値を向上させるものである。
【0046】
本発明のクロロゲン酸酵素処理物は、溶液又は粉末形態として製剤化することができ、あるいは添加対象とする製品の性状や工程などに合わせ、顆粒状やペースト状の最も効果が期待できる剤型に加工することができる。
【0047】
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、上記のクロロゲン酸酵素処理物を有効成分として含むものである。従って、上記のクロロゲン酸酵素処理物と他の成分との混合状態であってもよい。
【0048】
当該他の成分としては、クロロゲン酸酵素処理物の効果を損なわないものであって、かつ皮膚外用剤、飲料、食品及び医薬品の加工やその機能などに好ましい効果を有するものを使用することができる。
【0049】
さらに、本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤の有効成分であるクロロゲン酸酵素処理物は、目的とする効果や使用方法からその添加量、濃度を算出すればよい。
【0050】
本発明に係る皮膚外用剤は、本発明のクロロゲン酸酵素処理物を有効成分とする化粧料(医薬部外品を含む)であり、さらには、コーヒー由来のクロロゲン酸酵素処理物を含有し、ヒアルロニダーゼ阻害効果を奏する化粧料である。
【0051】
本発明に係る皮膚外用剤の剤型は任意であり、カプセル状、顆粒状、粉末状、固形状、液状、ゲル状、気泡状、液乳状、クリーム状、軟膏状、シート状などがあり、例えば、基礎化粧料をはじめ、メイクアップ化粧料、洗顔料、頭髪用化粧料、香水類、浴用剤、歯磨類等様々な製品それらの原材料又は加工中間物等として利用可能であるが、これらの例示に限定されるものではない。
【0052】
本発明に係る皮膚外用剤の製造方法は、既知のいずれの方法によっても可能である。また、油脂類、ロウ類、各種植物抽出物、炭化水素類、脂肪酸、高級アルコール類、エステル類、種々の界面活性剤、色素、香料、ビタミン類、動物由来原料、紫外線吸収剤、抗酸化剤、防腐・殺菌剤など、通常の皮膚外用剤原料として使用されているものを適宜配合して製造することができる。さらに、一般にヒアルロニダーゼ阻害剤として既知である他の植物抽出物などを併用することで、皮膚老化防止、抗アレルギー及び抗炎症の効果を高めることもできる。
【0053】
本発明に係る皮膚外用剤におけるクロロゲン酸酵素処理物の配合量は、その剤形などを考慮して定めることが望ましいが、一般的には製品の全量に対して0.01〜99重量%、好ましくは、0.1〜50重量%程度とすればよい。
【0054】
本発明に係る飲料及び食品は、本発明のクロロゲン酸酵素処理物を有効成分とするものであり、さらには、コーヒー由来のクロロゲン酸酵素処理物を含有し、ヒアルロニダーゼ阻害効果を奏する飲料及び食品である。
【0055】
剤型としては、液状、エキス状、ペースト状、固形状、粉末状、顆粒状などがあり、各種飲食品としては、例えば、嗜好飲料、乳飲料、アルコール飲料、穀物加工品、大豆加工品、油脂加工品、食肉加工品、水産加工品、野菜・果実加工品、乳製品、菓子類、冷菓類、調味料などが挙げられる。しかし、前記例示により本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤の取り得る形態が限定されるものではない。
【0056】
本発明に係る飲料及び食品の製造方法は、既知のいずれの方法によっても行うことができる。また、糖類、アミノ酸類、油脂類、塩類、甘味料、有機酸、乳化剤、増粘剤、栄養強化剤、色素、香料、保存料など、通常の飲料及び食品の原料として使用されているものを適宜使用することができる。また、抗アレルギー効果が既知である乳酸菌、酵母菌体などを併用することで抗アレルギー効果を高めることもでき、さらに一般にヒアルロニダーゼ阻害効果が既知である他の植物抽出液などを併用することで、抗アレルギー及び抗炎症の効果を高めることもできる。
【0057】
本発明に係る飲料及び食品において、本発明のクロロゲン酸酵素処理物の配合量は、その剤型などを考慮して定めることが好ましいが、一般的には全量の0.01〜99重量%、好ましくは、0.1〜80重量%程度とすればよい。
【0058】
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、医薬品製剤用原料を適宜配合し、ヒアルロニダーゼ阻害効果を奏する医薬品として、錠剤、丸剤、軟・硬カプセル剤、細粒剤、散剤、顆粒剤等の経口投与剤あるいは、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤などの外用剤として適用することもできる。
【0059】
医薬品製剤用原料としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、吸収促進剤、吸着剤、潤沢剤などが挙げられる。さらにヒアルロン酸を併用することで、抗アレルギー及び抗炎症の効果をより高めることもできる。本発明に係る医薬品におけるクロロゲン酸酵素処理物の配合量は、その剤型などを考慮して定めるが、一般的には全量の0.01〜99重量%、好ましくは、0.1〜80重量%程度と考えられる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施の形態を具体的な実施例に基づいて説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例1
東京化成工業社製のクロロゲン酸を水に溶かし0.1%水溶液とした。その水溶液にアマノエンザイム社製のラッカーゼ(ポリフェノールオキシダーゼ、108,000U/g)を0.1%添加し、50℃で1時間振盪させ、その後、加温し、90℃達温後、10分間保持することで、酵素を失活させ、クロロゲン酸酵素処理物含有水溶液を得た。
【0062】
実施例2
東京化成工業社製のクロロゲン酸を水に溶かし0.1%水溶液とした。その水溶液に和光純薬社製の酵素ペルオキシダーゼ(100U/mg、西洋ワサビ由来)を0.05%と、35%過酸化水素水を0.01%添加して、30℃で1時間振盪させ、その後、加温し、90℃達温後、10分間保持することで、酵素を失活させ、クロロゲン酸酵素処理物含有水溶液を得た。
【0063】
比較例1(酵素処理なし)
酵素を添加しない以外は実施例1と同様に実施し、クロロゲン酸含有水溶液を得た。
【0064】
実施例3
アラビカ種のコーヒー生豆100gを粗粉砕し、水1,000gを加え、アマノエンザイム社製のラッカーゼ(ポリフェノールオキシダーゼ、108,000 U/g)をコーヒー生豆に対し、0.2%添加し、60℃、3時間攪拌した後、加熱して85℃に達温後、30分間保持してラッカーゼを失活させた。この酵素処理液を遠心分離して、その上清を減圧濃縮し、Brix20(糖度と固形分濃度の比)とした。さらに、これを凍結乾燥して、23gのコーヒー由来のクロロゲン酸重合物であるクロロゲン酸酵素処理物粉末を得た。
【0065】
実施例4
ロブスタ種のコーヒー生豆100gを焙煎し、92gの焙煎コーヒー豆を得た。それを粗粉砕し、水1,000gを加え、アマノエンザイム社製のラッカーゼ(ポリフェノールオキシダーゼ、108,000U/g)を焙煎コーヒー豆に対し、0.1%添加し、60℃、3時間通気しながら攪拌した後、加熱して90℃に達温後、10分間保持してラッカーゼを失活させた。この酵素処理液を濾過してコーヒー固形分に対して4倍量のデキストリンを加え、凍結乾燥して、119gのコーヒー由来のクロロゲン酸酵素処理物含有粉末を得た。
【0066】
比較例2(酵素処理なし)
実施例4と同様に、ロブスタ種のコーヒー生豆100gを焙煎し、90gの焙煎コーヒー豆を得た。それを粗粉砕し、水1,000gを加え、攪拌しながら加熱して90℃に達温後、10分間保持した。この抽出液を濾過してコーヒー固形分に対して4倍量のデキストリンを加え、凍結乾燥して、121gのコーヒー由来のクロロゲン酸含有粉末を得た。
【0067】
実施例5
ロブスタ種のコーヒー生豆30gを粗粉砕し、水300gを加え、35℃で6時間攪拌し、コーヒー生豆中に内在するポリフェノールオキシダーゼ又はペルオキシダーゼを作用させる方法で酵素反応を行った。その後、ろ紙濾過することで、コーヒー生豆由来のクロロゲン酸酵素処理物含有抽出液を得た。これを減圧濃縮することで、Brix24%のクロロゲン酸酵素処理物含有エキス29gを得た。
【0068】
比較例3
実施例5と同様のコーヒー生豆を粗粉砕し、80℃の温水300gを加え、さらに90℃達温後、10分間保持し、コーヒー生豆中のポリフェノールオキシダーゼ又はペルオキシダーゼの活性を失活させた後、3時間攪拌し、その後、ろ紙濾過することで、コーヒー生豆由来のクロロゲン酸含有抽出液を得た。これを減圧濃縮することで、Brix26%のクロロゲン酸含有エキス24gを得た。
【0069】
〔ヒアルロニダーゼ阻害活性の測定〕
実施例1〜5、比較例1〜3、及び、抗アレルギー剤として知られる甜茶抽出物のヒアルロニダーゼ阻害活性を、以下の方法で分析した。
【0070】
ヒアルロニダーゼ(typeIV−S from Bovine testis、Sigma社製)溶液の100μL(4500units/ml;0.1M酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解)に試料200μLを加えて、37℃で20分間放置した。
【0071】
次に酵素活性化剤(Compound48/80、Sigma社製)溶液(0.5mg/ml;0.1M酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解)200μLを加え、37℃で20分間放置した後、基質であるヒアルロン酸カリウム(from rooster comb、和光純薬工業社製)溶液(0.8mg/ml;0.1M酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解)500μLを入れ、37℃で40分間放置した。
【0072】
次いで、0.4N水酸化ナトリウム溶液200μLを加えて反応を停止させた後、0.8Mホウ酸溶液0.2mLを加え、沸騰水中で3分間加熱した。室温まで冷却後、1%p−ジメチルアミノベンズアルデヒド酢酸溶液6mLを加え、37℃で20分間放置した後、585nmにおける吸光度を測定した。
【0073】
試料は実施例1〜5、比較例1〜3で得られたもの及び甜茶抽出物を0.1M酢酸緩衝液(pH4.0)で適切な濃度に調製した。
【0074】
上記と同様の酵素反応と吸光度測定を、試料溶液の代わりに緩衝液を用いて行った。さらにそれぞれの場合について酵素を添加せずに緩衝液を加えて同様の操作を行った。
【0075】
以下の数式1により阻害率を算出し、IC50(50%阻害活性)の値を求めた。表1にIC50の値を示した。
(数式1)
ヒアルロニダーゼ阻害率(%)=(1−(A−B)/(C−D))×100
A:試料溶液添加、酵素添加時の吸光度
B:試料溶液添加、酵素無添加時の吸光度
C:試料無添加、酵素添加時の吸光度
D:試料無添加、酵素無添加時の吸光度
【0076】
【表1】

【0077】
表1から、比較例1のクロロゲン酸単体では、ヒアルロニダーゼ阻害活性を示さなかったが、実施例1と2のクロロゲン酸酵素処理物は、高いヒアルロニダーゼ阻害活性を示した。
【0078】
実施例4と比較例2の場合、デキストリンをコーヒー抽出物の4倍量添加したことから、実質的なIC50の値は、それぞれ表1の値の1/5となるため、実施例4の場合もある程度高いヒアルロニダーゼ阻害活性を示したということができる。
【0079】
実施例3〜5におけるクロロゲン酸酵素処理物の方が、甜茶抽出物よりも明らかに高いヒアルロニダーゼ阻害活性を有することがわかった。
【0080】
なお、各実施例において、クロロゲン酸類含量を高速液体クロマトグラフ法により測定した結果、実施例1と2のクロロゲン酸酵素処理物はクロロゲン酸が不検出となり、実施例3,4及び5の場合、クロロゲン酸が酵素処理する前の1/10の含量となり、クロロゲン酸酵素処理物の同酵素阻害活性を裏付けるものであった。
【0081】
実施例6(化粧水)
実施例3で得られたクロロゲン酸酵素処理物粉末から抽出されたクロロゲン酸酵素処理物エキス5g、グリセリン10g、クエン酸0.1g、及び精製水100gを混合し、化粧水(ローション)を調製し、5名の被験者の皮膚に塗布した。
【0082】
その結果、被験者のうち、2名が肌の張り、つやが改善されたと回答した。他の2名も僅かに改善されたと回答し、肌の張り、つやを改善する効果が示された。
【0083】
実施例7(コーヒー飲料)
以下のようなコーヒー飲料を調製し、その評価を行った。
【0084】
焙煎コーヒー豆5gに対し熱湯を注ぎ100mLのコーヒーを抽出し、その中に実施例4で得られたクロロゲン酸酵素処理物粉末から抽出されたクロロゲン酸酵素処理物エキスを1.0%、砂糖4.7%、脱脂粉乳0.4%、全脂粉乳0.25%、重曹0.12%、乳化剤0.1%を加え、70℃で攪拌乳化し、コーヒー飲料を調製した。
【0085】
そのコーヒー飲料をアレルギー性鼻炎を患う4名の被験者に1ヶ月間、毎日150ml喫飲させた。
【0086】
その結果、被験者のうち、2名が鼻水、鼻づまり症状が改善したと回答した。他の1名も改善傾向を体感したと回答し、アレルギー性鼻炎の症状を改善する効果が示された。
【0087】
実施例8(配合例)
以下に上述のクロロゲン酸酵素処理物の用途として配合例を示す。各々の配合例は常法により製造したもので、配合量のみを記した。単位は%(重量/重量)とする。
【0088】
[配合例1]クリーム
クロロゲン酸酵素処理物(実施例3) 5.0
ステアリン酸 8.0
ステアリルアルコール 4.0
ステアリン酸ブチル 6.0
プロピレングリコール 5.0
モノステアリン酸グリセリン 2.0
水酸化カリウム 0.4
防腐剤 適 量
酸化防止剤 適 量
香料 適 量
精製水 70.0
【0089】
[配合例2]ローション
クロロゲン酸酵素処理物(実施例3) 5.0
ステアリン酸 2.0
セチルアルコール 1.5
ワセリン 4.0
グリセロールトリ−2−エチルヘキサン酸エステル 2.0
ソルビタンモノオレイン酸エステル 2.0
ジプロピレングリコール 5.0
PEG1500 3.0
トリエタノールアミン 1.0
香料 適 量
防腐剤 適 量
精製水 100とする残余
【0090】
[配合例3]キャンディー
クロロゲン酸酵素処理物含有粉末(実施例4) 0.8
砂糖 42.0
水飴 45.0
クエン酸 2.0
香料 0.2
水 10.0
【0091】
[配合例4]アイスクリーム
クロロゲン酸酵素処理物含有粉末(実施例4) 0.6
生クリーム 33.8
脱脂粉乳 11.0
グラニュー糖 14.8
加糖卵黄 0.3
バニラエッセンス 0.1
水 39.4
【0092】
[配合例5]錠剤(サプリメント)
クロロゲン酸酵素処理物(実施例3) 60.0
L−アスコルビン酸 10.0
乳糖 15.0
ステアリン酸マグネシウム 15.0
【0093】
[配合例6]カプセル剤(サプリメント)
クロロゲン酸酵素処理物(実施例3) 80.0
酢酸カルシウム・一水塩 10.0
L−乳酸マグネシウム・三水塩 10.0
【0094】
[配合例7]軟膏
クロロゲン酸酵素処理物(実施例3) 1.0
酢酸ナトリウム・三水塩 1.0
DL―乳酸カルシウム 4.0
グリセリン 10.0
ワセリン 50.0
木ロウ 10.0
ラノリン 9.0
ゴマ油 14.5
ハッカ油 0.5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロゲン酸類を、酸素の存在下でポリフェノールオキシダーゼを作用させるか又は過酸化物の存在下でペルオキシダーゼを作用させて酸化重合することにより、ヒアルロニダーゼ阻害活性を有するクロロゲン酸酵素処理物を製造するクロロゲン酸酵素処理物の製造方法。
【請求項2】
クロロゲン酸類が、コーヒー由来のものであることを特徴とする請求項1記載のクロロゲン酸酵素処理物の製造方法。
【請求項3】
ポリフェノールオキシダーゼ又はペルオキシダーゼが、コーヒー豆中に内在するものであることを特徴とする請求項1又は2記載のクロロゲン酸酵素処理物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の製造方法によって得られるクロロゲン酸酵素処理物を、有効成分として含有することを特徴とするヒアルロニダーゼ阻害剤。
【請求項5】
請求項4記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項6】
請求項4記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有することを特徴とする飲料及び食品。
【請求項7】
請求項4記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有することを特徴とする医薬品。

【公開番号】特開2008−285420(P2008−285420A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129753(P2007−129753)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000210067)池田食研株式会社 (35)
【Fターム(参考)】