説明

グリセリンリシノール酸モノエステル及びポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法

【課題】 未反応のリシノール酸が少なく、短時間で高純度のグリセリンリシノール酸モノエステル及びポリグリセリンリシノール酸モノエステルを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 減圧下で、水を添加せずに、リシノール酸、グリセリン(またはポリグリセリン)およびCandida属由来の固定化リパーゼを混合し、反応中に生成する水を減圧除去しながら反応を行わせることを特徴とする。得られる(ポリ)グリセリンリシノール酸モノエステルは抗菌作用を示し、食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材から選ばれる抗菌対象物の配合成分として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステル及びポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセリン脂肪酸モノエステルはグリセリン1分子と脂肪酸1分子とがエステル結合した物質であり、モノアシルグリセロールともいわれる油脂の一種である。グリセリン脂肪酸モノエステルは、化粧品、食品、工業用の乳化剤あるいは潤滑油の油性剤等として広く使用されている。
【0003】
ポリグリセリンはエーテル結合を分子内に含む多価アルコールの一種であり、界面活性剤としての機能を有さないが、ポリグリセリン脂肪酸モノエステルは人体に対して安全性の高い界面活性剤であり、食品添加物として、また化粧品や医薬品などの分野において乳化液あるいは可溶化液の製造に広く用いられている。ポリグリセリン脂肪酸モノエステルは、親水基であるポリグリセリンの重合度、親油基である脂肪酸の種類およびエステル化度を選択することで、親水性から親油性まで、幅広い範囲のHLB値を有するものが得られる特徴がある。
【0004】
ポリグリセリンリシノール酸モノエステル及びグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法としては、高温条件下(200〜250℃)でアルカリ触媒を用いて多量のグリセリンとリシノール酸トリグリセリド又は脂肪酸メチルエステルなどとのエステル交換反応による方法などが開示されている。しかし、これらの化学法による製造は、多くのエネルギーを必要とし、アルカリ排水処理が必要となるなどの問題がある。さらに、高温条件下の化学法による製造方法は、多量のジエステルやトリエステルの生成やリシノール酸の縮合反応によって低純度(30〜40%程度)にしか合成できないという問題があった。
【0005】
また、窒素封入下、高温条件(250℃)で 遊離脂肪酸から合成する直接エステル化法(特許文献1)では、合成途中でリシノール酸の分解や縮合がおこり、ほとんどグリセリンリシノール酸モノエステルが合成されない。
【0006】
そこで、穏和な条件下で反応可能な酵素を用いて、グリセリンリシノール酸モノエステル及びポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造が考えられる。特許文献2には、ペニシリウム属に属する微生物から得られたモノおよびジグリセリドリパーゼを用いて、C8:0からC18:0の炭素数が偶数個の脂肪酸またはオレイン酸(C18:1)とグリセリンとから、部分グリセリドを製造する方法が記載されている(ここで、Cn:mは、炭素数がnであり、二重結合数がm個の直鎖脂肪酸を示す。Mが0のときは、直鎖飽和脂肪酸である)。しかし、この方法では、脂肪酸のエステル化率が最大でも75%であることから、効率的な製造方法ではない。
【0007】
特許文献3及び4には、0〜20℃でエステル化反応を行い、反応途中で減圧してエステル化率を高める方法、常温で、反応開始時から減圧下で反応を行う方法、常温でエステル化反応行った後、0〜20℃でグリセロリシスを行う方法、などを用いることにより、脂肪酸のエステル化率が96%以上で、脂肪酸グリセリドを90%以上含む生成物が得られることが記載されている。
【0008】
しかし、0〜20℃でエステル化を行う反応では反応温度を低温にしなくてはならず、多くのエネルギーを必要とする。常温で反応開始から減圧下で行う反応では、水分量をコントロールしなければならず、工業的に難しい。また、いずれの方法も共役脂肪酸およびω−3系高度不飽和脂肪酸に限定されており、その他の脂肪酸を用いた場合のグリセリン脂肪酸モノエステルの製造方法については、開示されていない。さらに、ペニシリウム属に属する微生物から得られたモノおよびジグリセリドリパーゼを用いて合成を行っているが、このリパーゼを用いたエステル化反応では、リシノール酸からグリセリンリシノール酸モノエステル、又はポリグリセリンリシノール酸モノエステルを得るには、特異性が低く反応に長時間がかかる。加えて、使っているリパーゼも粉体であり、一回使用のみで連続使用はできないことから高価なリパーゼを使用するにはコスト的に難しい。
【0009】
さらに、固定化酵素を用いたグリセリン、又はポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法については、未だ報告されていない。
【0010】
【特許文献1】特開2004−359885号公報
【特許文献2】特開昭61−181390号公報
【特許文献3】特開2003−113396号公報
【特許文献4】特開2004−168985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、未反応のリシノール酸が少なく、短時間で高純度のグリセリンリシノール酸モノエステル及びポリグリセリンリシノール酸モノエステルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、Candida属由来の固定化リパーゼを用いて、リシノール酸と、グリセリンまたはポリグリセリンとの直接エステル化反応を行うことにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 減圧下で、水を添加せずに、リシノール酸、グリセリンおよびCandida属由来の固定化リパーゼを混合し、反応中に生成する水を減圧除去しながら反応を行わせることを特徴とする、グリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法、
〔2〕 前記〔1〕に記載のリパーゼがantractica種由来のものである、グリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法、
〔3〕 リシノール酸1モル量に対してグリセリンを少なくとも2.5モル量使用する、前記〔1〕または〔2〕に記載のグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法、
〔4〕 減圧下で、水を添加せずに、リシノール酸、ポリグリセリンおよびCandida属由来の固定化リパーゼを混合し、反応中に生成する水を減圧除去しながら反応を行わせることを特徴とする、ポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法、
〔5〕 前記〔4〕に記載のリパーゼがantractica種由来のものである、ポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法、
〔6〕 リシノール酸1モル量に対してポリグリセリンを少なくとも2.5モル量使用する、前記〔4〕または〔5〕に記載のポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法、
〔7〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法で得られるグリセリンリシノール酸モノエステルまたは前記〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法で得られるポリグリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする抗菌剤、
〔8〕 前記〔7〕記載の抗菌剤を含有する皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、未反応のリシノール酸が少なく、短時間で高純度のグリセリンリシノール酸モノエステル及びポリグリセリンリシノール酸モノエステルを製造することができる。
また、本発明の製造方法により得られるグリセリンリシノール酸モノエステル及びポリグリセリンリシノール酸モノエステルは、配合特性に優れ、かつ強い抗菌活性を有する抗菌剤として使用可能である。特に、抗菌活性については、ストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)やポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)などの口腔細菌、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、結膜乾燥症菌(C. xerosis)、枯草菌(B. subtilis)、セレウス菌(B. cereus)、リステリア・モノサイトゲネス(L. monocytogenes)、プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)に対して高い抗菌活性を示す。このため、該抗菌剤を例えば、皮膚や粘膜で使用される食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材等の抗菌対象物に配合することで、細菌感染や食中毒を予防し、種々の場面での有効な応用が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法は、上述したように、減圧下で、水を添加せずに、リシノール酸、グリセリンおよびCandida属由来の固定化リパーゼを混合し、反応中に生成する水を減圧除去しながら反応を行わせることを特徴とする。ここで、グリセリンリシノール酸モノエステルは、リシノール酸1分子とグリセリン1分子とがエステル結合した化合物である。
【0016】
また、本発明に係るポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法は、上述したように、減圧下で、水を添加せずに、リシノール酸、ポリグリセリンおよびCandida属由来の固定化リパーゼを混合し、反応中に生成する水を減圧除去しながら反応を行わせることを特徴とする。ここで、ポリグリセリンリシノール酸モノエステルは、リシノール酸1分子とポリグリセリン1分子とがエステル結合した化合物である。
【0017】
エステル化反応に使用されるCandida属由来の固定化リパーゼは、Candida属由来のリパーゼを、例えば、イオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックス、シリカゲル等の公知の担体に固定化したものである。上記固定化リパーゼを用いれば、固定化されていないリパーゼに比べて、短時間でリシノール酸のエステル化率を向上させることができる。
【0018】
Candida属由来のリパーゼとしては、グリセリド類を基質として認識するものであれば特に限定されない。
【0019】
上記リパーゼとしては、例えばantractica種由来のものが挙げられ、市販品として、例えば商品名「Novozym 435」(ノボザイムジャパン社製)が入手可能である。
【0020】
エステル化反応に使用されるリシノール酸は、遊離型、金属塩型、およびエステル型のいずれの形態でもよい。本発明においては、エステル化反応が進行しやすい点で、遊離型が好ましい。実際の使用にあたっては、リシノール酸の純品の他、リシノール酸を高濃度に含み他の脂肪酸が少量含まれているリシノール酸の高純度品を使用することもできる。また、該リシノール酸の高純度品を、例えば蒸留またはカラムクロマトグラフィーなど公知の方法を用いて精製したものを使用することもできる。
【0021】
エステル化反応に使用されるポリグリセリンは、2以上の重合度を有するグリセリンの重合体であり、単一の重合度からなるポリグリセリンを使用してもよいし、複数の重合度を有するポリグリセリンの混合物を使用してもよい。
【0022】
ポリグリセリンの混合物は、通常、グリセリンに少量の酸またはアルカリを触媒として添加し、窒素または二酸化炭素などの任意の不活性ガス雰囲気下で、例えば約180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させて得られる。ポリグリセリンの混合物としては、グリセリンの平均重合度が約2〜10のポリグリセリン組成物が挙げられ、例えばジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ヘキサグリセリン(平均重合度6)、デカグリセリン(平均重合度10)などが挙げられる。
【0023】
また、本発明において、上記重合度の異なるポリグリセリンの混合物を、例えば蒸留またはカラムクロマトグラフィーなど公知の方法を用いて精製し、単一成分の含量を高濃度化した高純度ポリグリセリンを使用してもよい。そのような例としては、例えばグリセリン2分子からなるジグリセリンの含有量が、好ましくは約50重量%以上、さらに好ましくは約70重量%以上、特に好ましくは約90重量%以上であるジグリセリン組成物などが挙げられる。
【0024】
本発明において、リシノール酸に対するグリセリン(またはポリグリセリン)の仕込み量は限定されるものではないが、例えば、リシノール酸1モル量に対して、通常2.5〜10モル量、好ましくは2.5〜5モル量である。リシノール酸1モル量に対するグリセリン(またはポリグリセリン)の仕込み量が2.5モル量を下回ると、リシノール酸のエステル化の速度が遅くなるとともに、目的生成物であるモノエステル含量が低下する場合があり好ましくない。一方、リシノール酸1モル量に対するグリセリン(またはポリグリセリン)の仕込み量が10モル量を超えると、グリセリンの使用量が多くなるため、コスト高になり好ましくない。
【0025】
上記エステル化反応は、例えば、真空ポンプ、撹拌機、加熱用のジャケット、不活性ガス吹き込み管、温度計および冷却器などを備えた通常の反応容器に、減圧下で、水を添加せずに、リシノール酸、グリセリン(またはポリグリセリン)、および上記固定化リパーゼを撹拌混合し、窒素または二酸化炭素などの任意の不活性ガス雰囲気下、エステル化反応により生成する水を減圧状態で系外に除去しながら、所定温度で一定時間加熱して行われる。上記製造方法のうち、「水を添加せずに」とは、上記各反応原料以外に外部から水を添加しないことをいう。したがって、上記各反応原料は実質的に水分を含まない方が好ましい。しかし、本発明者らの検討によれば、上記各反応原料中に微量の水分(水分含量:0.1重量%以下)が元々含まれている場合でも、リシノール酸のエステル化率およびモノエステル含量が低下することはない。したがって、上記各反応原料は、微量の水分を含んだ状態でエステル化反応に供することができる。
【0026】
反応温度は通常30〜70℃、好ましくは50〜65℃の範囲である。また、反応圧力は減圧下で行われ、通常1〜100mmHg、好ましくは5〜30mmHgの範囲である。反応時間は、通常6〜48時間、好ましくは16〜24時間である。反応の終点は通常反応液の酸価からリシノール酸のエステル化率(単位:重量%、以下、単に「%」と表記する)を計算し、エステル化率90%以上で、かつモノエステル含量80%以上を目安に設定される。
【0027】
本発明では、リシノール酸のエステル化率は約6時間で90%を超えるので、他の方法と比べてエステル化の速度が速い点が特徴の一つである。リシノール酸のエステル化率は、反応液中の遊離リシノール酸含量(酸価)をアルカリによる滴定で測定し、以下の式で求められる。
〔(反応前の酸価−反応後の酸価)/(反応前の酸価)〕×100
ここで、酸価とは、油脂中の遊離脂肪酸含量を、油脂1gを中和するのに要したKOHの質量(単位:mg)で表したものをいう。
【0028】
本発明において、「モノエステル含量」とは、リシノール酸とグリセリンとを反応させる場合は、反応液中のリシノール酸、グリセリンリシノール酸モノエステルおよびグリセリンリシノール酸ジエステルの合計重量に対する反応液中のグリセリンリシノール酸モノエステルの重量(すなわち、重量分率)を100倍したもの(単位:重量%、以下、単に「%」と表記する)をいい、リシノール酸とポリグリセリンとを反応させる場合は、反応液中のリシノール酸、ポリグリセリンリシノール酸モノエステルおよびポリグリセリンリシノール酸ジエステルの合計重量に対する反応液中のポリグリセリンリシノール酸モノエステルの重量(すなわち、重量分率)を100倍したもの(単位:重量%)をいう。モノエステル含量は、エステル化反応において、本発明の目的生成物である(ポリ)グリセリンリシノール酸モノエステルの選択性の指標となるものである。
【0029】
上記成分のうち、各種モノエステル及びジエステルの含量(単位:重量%)は、キャピラリーカラムを装着したガスクロマトグラフィーを用いて、反応液を分析・定量することにより求められる。リシノール酸含量(単位:重量%)は、100−(エステル化率)から算出される。
【0030】
本発明では、反応液中のモノエステル含量が80%を超えるので、他の方法と比べてモノエステルの選択性が高い点が特徴の一つである。したがって、反応液を単離・精製することなく、グリセリンリシノール酸モノエステル(またはポリグリセリンリシノール酸モノエステル)の高純度品として種々の用途に使用し得る。また、反応液からグリセリンリシノール酸モノエステル(またはポリグリセリンリシノール酸モノエステル)を単離・精製する場合は、公知の単離・精製法を採用し得る。具体的には、例えば、脱酸、水洗、蒸留、溶媒抽出、イオン交換クロマトグラフィー、シリカゲルクロマトグラフィー、膜分離など、およびこれらの方法の組み合わせが挙げられる。
【0031】
上記エステル化反応により得られるグリセリンリシノール酸モノエステル(またはポリグリセリンリシノール酸モノエステル)(以下、単に「本発明品」という場合がある)は、ストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)やポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)などの口腔細菌、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、結膜乾燥症菌(C. xerosis)、枯草菌(B. subtilis)、セレウス菌(B. cereus)、リステリア・モノサイトゲネス(L. monocytogenes)、プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)に対して高い抗菌活性を示す。
【0032】
本発明品は、上記種々の細菌類に対して高い抗菌活性を示す。このため、例えば、食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材などを抗菌対象物として本発明品を配合すれば、該抗菌対象物の抗菌力を高めることができる。抗菌対象物中の抗菌剤の含量は、通常0.0001〜50重量%であり、好ましくは0.001〜10重量%である。
【0033】
上記の抗菌対象物中に本発明品を配合する場合、他の抗菌剤の1種または2種以上を併用してもよい。併用できる他の抗菌剤としては、例えば、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、クロロヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、オフロキサシン、ヨウ素、フッ化ナトリウム、安息香酸系、ソルビン酸系、有機ハロゲン系、ベンズイミダゾール系の殺菌剤、銀、銅などの金属イオン、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、エタノール、プロピレングリコール、ポリリジン、リゾチーム、キトサン、チモール、オイゲノール、油性甘草エキス、桑白皮エキス、アシタバ抽出エキス、香辛料抽出物、ポリフェノールなどの植物抽出物エキスなどが挙げられる。
【0034】
本発明品の形態は、上述した抗菌対象物に応じて適宜変更可能であり、例えば、粒状、ペースト状、固形状、液体状などが採用できる。
【0035】
上述した抗菌対象物に本発明品を配合する際は、上述した形態を製造し得る公知の装置(パドルミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザーなど)が好適に使用できる。本発明の抗菌剤は配合特性に優れるので、製造された種々の抗菌対象物から該抗菌剤が結晶として析出することはない。
【0036】
本発明品は、皮膚外用剤の抗菌成分としても配合することができ、このようにすることで、該皮膚外用剤の抗菌力を高めることができる。皮膚外用剤中の抗菌剤の含量は、通常0.0001〜50重量%であり、好ましくは0.001〜10重量%である。
【0037】
皮膚外用剤には、本発明品の他、通常の皮膚外用剤に用いられる各種任意成分、例えば、精製水、アルコール類、油性成分、界面活性剤、増粘剤、防腐剤、保湿剤、粉体、香料、色素、乳化剤、pH調整剤、セラミド類、ステロール類、抗酸化剤、一重項酸素消去剤、紫外線吸収剤、美白剤、抗炎症剤、他の抗菌剤などが挙げられる。
【0038】
具体的には、油性成分としては、流動パラフィン、ワセリン、固形パラフィン、ラノリン、ラノリン脂肪酸誘導体、ジメチルポリシロキサン、高級アルコール高級脂肪酸エステル類、脂肪酸、長鎖アミドアミン類、動植物油脂などが挙げられ、界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、イソステアリルグリセリンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸塩、N−ステアリロイル−N−メチルタウリン塩、ラウリルリン酸、リン酸モノミリスチル、リン酸モノセチル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンなどが挙げられ、増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン、ゼラチンなどの水溶性高分子化合物が挙げられ、保湿剤としては、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトールなどが挙げられ、粉体としては、タルク、セリサイト、マイカ、カオリン、シリカ、ベントナイト、亜鉛華、雲母などが挙げられる。
【0039】
皮膚外用剤の形態は特に限定されず、使用用途に応じて、クリーム状、ジェル状、乳液状、ローション状、軟膏状、パウダー状、ハップ剤、粉末剤、滴下剤、貼付剤、エアゾール剤などが採用できる。
【0040】
皮膚外用剤に本発明品を配合する際は、上述した形態を製造し得る公知の装置(パドルミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザーなど)が好適に使用できる。本発明の抗菌剤は配合特性に優れるので、製造された皮膚外用剤から該抗菌剤が結晶として析出することはない。
【実施例】
【0041】
以下、各種製造例、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0042】
1. リシノール酸とグリセリン(またはジグリセリン)との反応におけるリシノール酸のエステル化率及び反応液組成の測定方法
1-1. リシノール酸のエステル化率
リシノール酸のエステル化率(%)は、反応液中の遊離リシノール酸含量(酸価)をアルカリによる滴定で測定し、以下の式で求めた。
〔(反応前の酸価−反応後の酸価)/(反応前の酸価)〕×100
ここで、酸価は、油脂中の遊離脂肪酸含量を、油脂1gを中和するのに要したKOHの質量(単位:mg)で表したものをいい、本実施例では、0.5gの反応液と20mlのエタノールを混合し、1%フェノールフタレイン溶液(溶媒:エタノール)を数滴加え、0.2MのKOHで滴定して求めた。
【0043】
1-2. 反応液組成
反応液組成とは、リシノール酸とグリセリンとを反応させる場合は、反応液中のリシノール酸、グリセリンリシノール酸モノエステルおよびグリセリンリシノール酸ジエステルの合計重量に対する上記各成分の重量(すなわち、重量分率)に100を掛けたもの(単位:%)をいい、リシノール酸とジグリセリンとを反応させる場合は、反応液中のリシノール酸、ジグリセリンリシノール酸モノエステルおよびジグリセリンリシノール酸ジエステルの合計重量に対する上記各成分の重量(すなわち、重量分率)に100を掛けたもの(単位:%)をいう。
上記成分のうち、各種モノエステル及びジエステルの組成(単位:%)は、DB−5キャピラリーカラム(0.25mm×15m、J&W Scientific社製)を装着したガスクロマトグラフィーを用いて、反応液を分析・定量することにより求めた。リシノール酸の組成(単位:%)は、以下の式:
100−(リシノール酸のエステル化率)
から算出した。
【0044】
2. グリセリンリシノール酸モノエステルの製造例
2-1. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例(実施例1)
真空ポンプ、撹拌機、加熱用ジャケット、不活性ガス吹き込み管、温度計および冷却器を備えた1Lの円形反応釜中に、500gのリシノール酸/グリセリン=1/3(モル比)の混合液、および5gのCandida antractica 由来の固定化リパーゼ(ノボザイムジャパン社製、商品名「Novozym 435」)を添加し、水を添加せずに撹拌機で撹拌し、反応中に生ずる水を系外に減圧除去しながら、窒素気流下で、60℃、20mmHgで48時間反応させた。表1に反応経過に伴うリシノール酸のエステル化率及び反応液組成を示す。なお、リシノール酸(リシノール酸含量87.5%)は小倉合成工業社より購入したものを用い、グリセリン(グリセリン含量99%)は東京化成社より購入したものを用いた。以下の製造例でも同様である。
【0045】
【表1】

【0046】
6時間経過時にエステル化率が90%に達しており、後述する表3の結果(24時間経過時にエステル化率が90%を超える)に比べて、エステル化の速度が速いことがわかった。また、8時間経過時にモノエステル含量が80%に達しており、後述する表2の結果(48時間経過時にモノエステル含量が76%)に比べて、モノエステルの選択性はほぼ同じだが、より短時間でモノエステル含量が増えることが分かった。
【0047】
2-2. Penicillum camembertii 由来の固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例(比較例1)
(Penicillum camembertii 由来リパーゼの固定化)
担体(住化ケムテックス社製、弱塩基性陰イオン交換樹脂、商品名「Duolite A-568K」)を1/10N NaOH中で30分間撹拌し、担体をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、次いで200mMリン酸緩衝液(pH7)を加えてpHを平衡化した。pHが平衡化された担体を含むリン酸緩衝液に対してエタノール置換を10分間行い、次いで酵素活性を維持するため、リシノール酸/エタノール=1/10(重量比)の溶液を用いて20分間リシノール酸を担体に吸着させた。続いて、リシノール酸を吸着させた担体をろ過した後、該担体に200mMリン酸緩衝液(pH7)を加えて洗浄した。そして、洗浄後の担体をろ過して回収し、担体1gに対して5000U/mlのリパーゼ溶液(天野エンザイム社製、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillum camembertii)由来、商品名「リパーゼG」)2mlを2時間接触させ、リパーゼを担体に固定化させた。最後に、リパーゼを固定化した担体をろ過して担体を回収し、イオン交換水で洗浄したものをPenicillum camembertii 由来の固定化リパーゼとして以後の反応に供した。
【0048】
( Penicillum camembertii由来の固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例)
真空ポンプ、撹拌機、加熱用ジャケット、不活性ガス吹き込み管、温度計および冷却器を備えた1Lの円形反応釜中に、500gのリシノール酸/グリセリン=1/3(モル比)の混合液、5gの水、および上記で調製した10gのPenicillum camembertii 由来の固定化リパーゼを添加し、撹拌機で撹拌しながら、窒素気流下で、60℃、20mmHgで48時間反応させた。表2に反応経過に伴うリシノール酸のエステル化率及び反応液組成を示す。
【0049】
【表2】

【0050】
エステル化率が80%を超えるのに48時間を必要とし、エステル化率が80%を超えるのに3時間しかかからなかった実施例1と比べてエステル化の速度が遅いことが分かった。一方、48時間経過時のモノエステル含量が76.0%であり、モノエステルの選択性は比較的高いことが分かった。
【0051】
2-3. Rizomucor miehei由来の固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例(比較例2)
比較例1で使用した10gのPenicillum camembertii 由来の固定化リパーゼに代えて、5gのRizomucor miehei由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズジャパン社製、商品名「Lipozyme RM IM」)を使用したこと以外は、比較例1と同じ条件でグリセリンリシノール酸モノエステルを製造した。表3に反応経過に伴うリシノール酸のエステル化率及び反応液組成を示す。
【0052】
【表3】

【0053】
24時間経過時でエステル化率が90%に達し、エステル化の速度が速いことが分かった。一方、24時間経過時及び48時間経過時におけるモノエステル含量が約65%であり、モノエステルの選択性は低いことが分かった。
【0054】
上記表1〜表3の結果から、実施例1で使用した固定化リパーゼを用いると、リシノール酸のエステル化率が高く、エステル化の速度が最も速いこと、及びモノエステルの選択性が高く、短時間でモノエステル含量が増えることが分かった。
【0055】
3. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステルの製造におけるグリセリン量の影響(実施例2)
真空ポンプ、撹拌機、加熱用ジャケット、不活性ガス吹き込み管、温度計および冷却器を備えた1Lの円形反応釜中に、500gのリシノール酸/グリセリン混合液(混合比:1/2(モル比)、1/3(モル比)、1/4(モル比)または1/5(モル比))、および5gのCandida antractica 由来の固定化リパーゼ(ノボザイムジャパン社製、商品名「Novozym 435」)を添加し、水を添加せずに撹拌機で撹拌し、反応中に生ずる水を系外に減圧除去しながら、窒素気流下で、60℃、20mmHgで48時間反応させた。表4に、上記各リシノール酸/グリセリン混合液を用いて反応させたときの、反応開始2時間後と24時間後におけるリシノール酸のエステル化率および反応液組成を示す。
【0056】
【表4】

【0057】
表4より、反応開始時に、リシノール酸に対するグリセリンの割合を増やすほど、2時間経過時のエステル化の速度が速くなること、及び24時間経過時のモノエステル含量も増加する傾向があることが分かった。特に、モノエステル含量については、24時間経過時にモノエステル含量を80%以上にするには、反応開始時にリシノール酸1モルに対してグリセリンを少なくとも2.5モル使用する必要があるといえる。
【0058】
4. Candida antractica 由来の固定化リパーゼの耐久性(実施例3)
真空ポンプ、撹拌機、加熱用ジャケット、不活性ガス吹き込み管、温度計および冷却器を備えた1Lの円形反応釜中に、500gのリシノール酸/グリセリン=1/3(モル比)の混合液、および5gのCandida antractica 由来の固定化リパーゼ(ノボザイムジャパン社製、商品名「Novozym 435」)を添加し、水を添加せずに撹拌機で撹拌し、反応中に生ずる水を系外に減圧除去しながら、窒素気流下で、60℃、20mmHgで24時間反応させた。その後、反応釜から上記固定化リパーゼ以外の反応液だけを抜き取り、500gのリシノール酸/グリセリン=1/3(モル比)の混合液を添加し、上記と同条件で反応を繰り返した。上記と同じ繰り返し反応させる操作を20回繰り返し、上記固定化リパーゼの耐久性を調べた。図1に、反応開始2時間後と24時間後における、固定化リパーゼの使用回数に対するリシノール酸のエステル化率の変化を示した。
【0059】
エステル化の速度は20回連続使用してもほぼ一定であり、2時間経過時に約75%、24時間経過時に約98%を維持した。これらの結果から、グリセリンリシノール酸モノエステルの製造において、Candida antractica 由来の固定化リパーゼは20回以上使用可能なことが分かった。
【0060】
5. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたジグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例(実施例4)
真空ポンプ、撹拌機、加熱用ジャケット、不活性ガス吹き込み管、温度計および冷却器を備えた1Lの円形反応釜中に、500gのリシノール酸/ジグリセリン=1/3(モル比)の混合液、および5gのCandida antractica 由来の固定化リパーゼ(ノボザイムジャパン社製、商品名「Novozym 435」)を添加し、水を添加せずに撹拌機で撹拌しながら、、反応中に生ずる水を系外に減圧除去しながら、窒素気流下で、60℃、20mmHgで24時間反応させた。表5に反応経過に伴うリシノール酸のエステル化率及び反応液組成を示す。なお、ジグリセリンとしては、東京化成社のジグリセリン(ジグリセリン含量80%)を蒸留して、ジグリセリン含量98%に精製したものを用いた。
【0061】
【表5】

【0062】
エステル化率は6時間経過時に90%に達しており、エステル化の速度はグリセリンリシノール酸モノエステルの製造時と同等であることが分かった(表1参照)。また、24時間経過時のモノエステル含量が88.7%を示し、モノエステル含量は、グリセリンリシノール酸モノエステルの製造時よりも増加する傾向にあることが分かった(表1参照)。
【0063】
6.抗菌試験(実施例5)
6-1. 結膜乾燥症菌(C. xerosis)または黄色ブドウ球菌(S. aureus)に対する抗菌効果
96穴深型マイクロプレートにあらかじめ滅菌処理済の培地(日本製薬社製、商品名「ブレインハートインフュージョン液体培地」)0.5mlを添加し、本発明品(グリセリンリシノール酸モノエステル、ジグリセリンリシノール酸モノエステル(それぞれ、「2-1. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例(実施例1)」、「5. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたジグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例」で製造したものを使用)を0.5ml添加し、各発明品を培地中最終濃度で3ppm、6ppm、12ppm、25ppm、50ppm、100ppm、200ppm、400ppmになるよう段階的に調製した。これらの試料溶液に対し、約1×10CFU/mlの結膜乾燥症菌(C. xerosis(JCM 1971))または黄色ブドウ球菌(S. aureus(JCM 2151))の各培養菌液を0.1ml添加し、撹拌後好気条件下で37℃、24時間培養を行った。抗菌効果の判定は目視で行い、上記微生物の無添加試験区と比較し、微生物増殖による濁りの見られない試験区を抗菌効果有りとして発育を阻止するために必要な最低濃度(以下、「最小発育阻止濃度」という)を測定した。また、比較例として、広範囲の抗菌スペクトルを有する抗菌剤として知られている4−イソプロピル−3−メチルフェノールも上記と同様の方法を用いて最小発育阻止濃度を測定した。表6に結果を示す。
【0064】
6-2. プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)に対する抗菌効果
96穴深型マイクロプレートにあらかじめ滅菌処理済の培地(日本製薬社製、商品名「ブレインハートインフュージョン液体培地」)0.5mlを添加し、本発明品(グリセリンリシノール酸モノエステル、ジグリセリンリシノール酸モノエステル(それぞれ、「2-1. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例(実施例1)」、「5. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたジグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例」で製造したものを使用)を0.5ml添加し、各発明品を培地中最終濃度で3ppm、6ppm、12ppm、25ppm、50ppm、100ppm、200ppm、400ppmになるよう段階的に調製した。これらの試料溶液に対し、約1×10CFU/mlのプロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes(JCM 6425))の培養菌液を0.1ml添加し、脱酸素剤を用いて嫌気条件下で37℃、48時間培養を行った。抗菌効果の判定は目視で行い、最小発育阻止濃度を測定した。また、比較例として、広範囲の抗菌スペクトルを有する抗菌剤として知られている4−イソプロピル−3−メチルフェノールを用いて、上記と同様の方法で最小発育濃度を測定した。表6に結果を示す。
【0065】
【表6】

【0066】
表6より、結膜乾燥症菌(C. xerosis)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)のいずれの菌種に対しても、グリセリンリシノール酸モノエステルとジグリセリンリシノール酸モノエステルは、4−イソプロピル−3−メチルフェノールに比べて1/2〜1/8の最小発育濃度を示した。したがって、グリセリンリシノール酸モノエステルとジグリセリンリシノール酸モノエステルは、4−イソプロピル−3−メチルフェノールに比べて強い抗菌活性を示すことが分かった。また、グリセリンリシノール酸モノエステルとジグリセリンリシノール酸モノエステルの抗菌効果を比べると、グリセリンリシノール酸モノエステルの方が、強い抗菌効果を有することが分かった。
【0067】
6-3. 他の菌種に対する抗菌効果
表7に示す9種類の指標菌に対する本発明品(グリセリンリシノール酸モノエステル、ジグリセリンリシノール酸モノエステル(それぞれ、それぞれ、「2-1. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例(実施例1)」、「5. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたジグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例(実施例4)」で製造したものを使用)の最小発育阻止濃度を上記「6.抗菌試験」と同様の方法を用いて測定した。また、比較例として、抗菌作用を示す6種類の脂肪酸グリセリド及び4−イソプロピル−3−メチルフェノールを用いて、上記と同様の方法で最小発育濃度を測定した。表7に結果を示す。
【0068】
【表7】

【0069】
表7より、ストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、結膜乾燥症菌(C. xerosis)、枯草菌(B. subtilis)、セレウス菌(B. cereus)及びリステリア・モノサイトゲネス(L. monocytogenes)に対して、グリセリンリシノール酸モノエステルとジグリセリンリシノール酸モノエステルは、6種類の脂肪酸グリセリド及び4−イソプロピル−3−メチルフェノールに比べて同等以下の最小発育濃度を示した。特に、グリセリンリシノール酸モノエステルは、上記すべての比較例に対して低い最小発育濃度を示した。なお、グリセリンリシノール酸モノエステルとジグリセリンリシノール酸モノエステルは、表7に示す9種類の指標菌のうち、大腸菌(E. coli)に対しては抗菌活性を示さなかった。
【0070】
7.殺菌試験(実施例6)
7-1. 黄色ブドウ球菌(S. aureus)に対する殺菌試験
「2-1. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例(実施例1)」で製造したグリセリンリシノール酸モノエステルを0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)に添加して、200ppmの試料を調製した。試料5mlに対し、約1×10CFU/mlの黄色ブドウ球菌(S. aureus(JCM 2151))を0.1ml添加し、好気条件下で保持しつつ、添加後0、5、10、30、60、120分後にサンプリングし、各保持時間における試料中の残存菌数をカウントした。具体的には、ブレインハートインフュージョン寒天培地を用いてサンプリングした試料を段階希釈し、平板塗抹法により、37℃で48時間培養した後にカウントした。比較対照として4−イソプロピル−3−メチルフェノールも上記と同様の方法により同時に評価した。図2に結果を示す。
【0071】
図2より、グリセリンリシノール酸モノエステルは10分後に菌数を1/1000以下に減少させる効果を有し、即効性の殺菌剤として有用であることが分かった。一方、比較例の4−イソプロピル−3−メチルフェノールは10分後では殺菌作用が弱く、菌数を1/1000以下に減少させるには30分の保持時間を必要とした。
【0072】
7-2. プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)に対する殺菌試験
「2-1. Candida antractica 由来の固定化リパーゼを用いたグリセリンリシノール酸モノエステルの製造例(実施例1)」で製造したグリセリンリシノール酸モノエステルを0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)に添加して、200ppmの試料を調製した。試料5mlに対し、約1×10CFU/mlのプロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes(JCM 6425))を0.1ml添加し、嫌気条件下で保持しつつ、添加後0、5、10、30、60、120分後にサンプリングし、各保持時間における試料中の残存菌数をカウントした。具体的には、GAM寒天培地を用いてサンプリングした試料を段階希釈し、平板塗抹法により、嫌気条件下、37℃で4日間培養した後にカウントした。比較対照として4−イソプロピル−3−メチルフェノールも上記と同様の方法により同時に評価した。図3に結果を示す。
【0073】
図3より、グリセリンリシノール酸モノエステルは僅か5分の保持時間で菌数を1/100以下に減少させた。一方、比較例の4−イソプロピル−3−メチルフェノールは5分後では殺菌作用が弱く、菌数を1/100以下に減少させるには10分の保持時間を必要とした。
【0074】
8. 配合特性(実施例7)
<化粧水>
ヒアルロン酸(0.1重量%水溶液) 2.0重量%
グリセリン 5.0
エタノール 5.0
グリセリンリシノール酸モノエステル 0.5
精製水 残部
(製法)
ヒアルロン酸、エタノール、グリセリン、グリセリンリシノール酸モノエステルをそれぞれ混合し、次いで精製水を添加して化粧水を得た。
(配合特性)
グリセリンリシノール酸モノエステルは他の成分と容易に混合した。得られた化粧水には濁りや析出などは見られなかった。
【0075】
<乳液>
スクワラン 8.0重量%
ホホバ油 2.0
ミツロウ 0.5
ソルビタンセスキオレエート 0.8
キサンタンガム 0.2
1,3−ブチレングリコール 6.0
エタノール 4.0
グリセリンリシノール酸モノエステル 1.0
N−椰子油脂肪酸アシルL−アルギ
ニンエチル−DL−ピロリドンカ
ルボン酸塩 0.2
精製水 残部
(製法)
スクワラン、ホホバ油、ミツロウ、ソルビタンセスキオレエートをそれぞれ混合し70℃に加温溶解した(これを混合物Aとする)。一方、キサンタンガム、1,3−ブチレングリコール、エタノール、グリセリンリシノール酸モノエステルをそれぞれ室温下で混合した(これを混合物Bとする)。続いて、混合物Aと混合物Bを合わせて60℃に加温し、N-椰子油脂肪酸アシルL-アルギニンエチル-DL-ピロリドンカルボン酸を添加した精製水中に少量ずつ添加しながら激しく攪拌し乳化して乳液を得た。
(配合特性)
グリセリンリシノール酸モノエステルは他の成分と直ちに混和した。得られた乳液には分離や析出は見られなかった。
【0076】
<クリーム>
スクワラン 10.0重量%
ステアリン酸 8.0
ミツロウ 2.0
ステアリルアルコール 5.0
グリセリンリシノール酸モノエステル 2.0
N−椰子油脂肪酸アシルL−アルギ
ニンエチル−DL−ピロリドンカ
ルボン酸塩 10.0
精製水 残部
(製法)
スクワラン、ステアリン酸、ミツロウ、ステアリルアルコール、グリセリンリシノール酸モノエステルをそれぞれ混合し、70℃に加温溶解した。加温溶解した前記油性成分に少量ずつ精製水を添加し良く攪拌してクリームを得た。
(配合特性)
グリセリンリシノール酸モノエステルは他の成分と非常に良く混和した。得られたクリームには分離や析出は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、未反応のリシノール酸が少なく、短時間で高純度のグリセリンリシノール酸モノエステルおよびポリグリセリンリシノール酸モノエステルを製造する方法として広く利用可能である。
また、本発明の製造方法で得られるグリセリンリシノール酸モノエステルおよびポリグリセリンリシノール酸モノエステルは抗菌活性が高く、配合特性にも優れるので、食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材から選ばれる抗菌対象物の配合成分として広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】Candida antractica 由来の固定化リパーゼを繰り返し使用した場合におけるエステル化率の推移を示す図である。
【図2】黄色ブドウ球菌(S. aureus)に対する殺菌試験の結果を示す図である。
【図3】プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)に対する殺菌試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下で、水を添加せずに、リシノール酸、グリセリンおよびCandida属由来の固定化リパーゼを混合し、反応中に生成する水を減圧除去しながら反応を行わせることを特徴とする、グリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリパーゼがantractica種由来のものである、グリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法。
【請求項3】
リシノール酸1モル量に対してグリセリンを少なくとも2.5モル量使用する、請求項1または2に記載のグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法。
【請求項4】
減圧下で、水を添加せずに、リシノール酸、ポリグリセリンおよびCandida属由来の固定化リパーゼを混合し、反応中に生成する水を減圧除去しながら反応を行わせることを特徴とする、ポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のリパーゼがantractica種由来のものである、ポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法。
【請求項6】
リシノール酸1モル量に対してポリグリセリンを少なくとも2.5モル量使用する、請求項4または5に記載のポリグリセリンリシノール酸モノエステルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で得られるグリセリンリシノール酸モノエステルまたは請求項4〜6のいずれかに記載の方法で得られるポリグリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする抗菌剤。
【請求項8】
請求項7記載の抗菌剤を含有する皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−183210(P2009−183210A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26735(P2008−26735)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000208086)大洋香料株式会社 (34)
【Fターム(参考)】