説明

グリース封入転がり軸受

【課題】高温、高速回転下で使用される転がり軸受において、転走面での水素脆性による剥離を効果的に防止できるグリース封入転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪32および外輪33と、これら内外輪の転走面間に介在する複数の転動体4とを備え、転動体表面4a、内輪外径面32aおよび外輪内径面33aから選ばれた少なくとも一つの面に酸化被膜を有し、該転動体の周囲に、グリース37を封入してなる転がり軸受であって、上記酸化被膜の厚みが 0.1μm 以上、かつ酸化被膜の表面粗さが Ry で 1.1μm 未満であり、上記グリースは基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなり、該添加剤はアルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つのアルミニウム系添加剤を含有し、該アルミニウム系添加剤の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05〜10 重量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリース封入転がり軸受に関し、特にオルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、電動ファンモータ等の自動車電装部品、補機等の転がり軸受や、モータ用の転がり軸受として使用されるグリース封入転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車における電装部品や補機、産業機械におけるモータ等は、年々小型化や高性能、高出力が求められており、使用条件が厳しくなってきている。これらには、転がり軸受が使用されており、その潤滑には主としてグリースが用いられている。ところが、高温下での高速回転等、使用条件が過酷になることで、転がり軸受の転走面に、滑り運動や後述する水素脆性に起因する白色組織変化を伴った特異的な剥離が早期に生じ、問題になっている。
【0003】
この特異的な剥離は、通常の金属疲労により生じる転走面内部からの剥離と異なり、転走面表面の比較的浅いところから生じる破壊現象で、水素が原因の水素脆性による剥離と考えられている。このような早期に発生する白色組織変化を伴った特異な剥離現象を防ぐ方法として、例えばグリース組成物に不動態化剤を添加する方法(特許文献1参照)やグリース組成物にビスマスジチオカーバメートを添加する方法が知られている(特許文献2参照)。また、軸受に電気絶縁被膜や酸化被膜を設けた方法も知られている(特許文献3および特許文献4参照)。
【0004】
しかしながら、近年、自動車における電装部品や補機、産業機械におけるモータ等では、高温下で、高速運転−急減速運転−急加速運転−急停止が頻繁に行なわれる等ますます転がり軸受の使用条件が過酷化され、不動態化剤やビスマスジチオカーバメートをグリースに添加する方法、電気絶縁被膜や酸化被膜を軸受に設ける方法では剥離現象を防ぐ対策として不十分になってきている。
【特許文献1】特開平3−210394号公報
【特許文献2】特開2005−42102号公報
【特許文献3】特公平6−89783号公報
【特許文献4】特開平4−160225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、高温、高速回転下で使用される転がり軸受において、転走面での水素脆性による剥離を効果的に防止できるグリース封入転がり軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のグリース封入転がり軸受は、内輪および外輪と、これら内外輪の転走面間に介在する複数の転動体とを備え、上記転動体の周囲にグリースを封入してなる転がり軸受であって、上記転動体表面、内輪外径面および外輪内径面から選ばれた少なくとも一つの面に、厚みが 0.1μm 以上、かつ、表面粗さが Ry で 1.1μm 未満の酸化被膜が形成されてなり、上記グリースは、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなり、該添加剤はアルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つのアルミニウム系添加剤を含有し、該アルミニウム系添加剤の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05〜10 重量部であることを特徴とする。
【0007】
上記アルミニウム化合物は、炭酸アルミニウムおよび硝酸アルミニウムから選ばれた少なくとも一つの化合物であることを特徴とする。
また、上記増ちょう剤は、ウレア系増ちょう剤であることを特徴とする。
また、上記基油は、アルキルジフェニルエーテル油およびポリ-α-オレフィン油から選ばれた少なくとも一つの油であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のグリース封入転がり軸受は、転動体表面、内輪外径面および外輪内径面から選ばれた少なくとも一つの面に、厚みが 0.1μm 以上、かつ、表面粗さが Ry で 1.1μm 未満の酸化被膜を形成したので、転走面等が化学的に安定な被膜で覆われて不活性処理され、金属接触や、水素の発生の要因となる潤滑剤・グリースの分解を防ぐことができる。この結果、無処理の軸受と比較して軸受寿命を向上させることができる。さらに、摩擦摩耗面または摩耗により露出した金属新生面においてグリースに配合したアルミニウム系添加剤が反応し、酸化鉄とともにアルミニウム被膜が軸受転走面に生成し、各種産業機械に使用される軸受で見られる水素脆性等による特異な剥離の発生を抑制することができる。これらの結果、軸受の長寿命化について飛躍的な向上を図ることができる。
このため、オルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、電動ファンモータ等の自動車電装部品、補機等の転がり軸受として好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
水素脆性による転走面での剥離を効果的に防止できる転がり軸受について鋭意検討の結果、アルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つのアルミニウム系添加剤を配合したグリースを封入した転がり軸受において、あらかじめ転動体表面、内輪外径面および外輪内径面から選ばれた少なくとも一つの面に所定の厚さと表面粗さとを有する酸化被膜を形成した転がり軸受を用いて、急加減速試験を行なったところ軸受寿命が飛躍的に延長することがわかった。
本発明の転がり軸受は、軸受転走面に酸化被膜を形成し、金属接触や、水素の発生の要因となる潤滑剤・グリースの分解を防ぐことによって、転走面での水素脆性剥離を防止する効果と、軸受の摩擦摩耗面または摩耗により露出した金属新生面が露出したとしてもアルミニウム系添加剤が反応し、酸化鉄とともにアルミニウム被膜が軸受転走面に生成する効果とを併せ持つので、転走面で生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を防止するこれらの効果を相乗的に発揮させることができるものと考えられる。本発明は、このような知見に基づくものである。
【0010】
本発明のグリース封入転がり軸受について図1により説明する。図1は本発明の一実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。図2〜図4は本発明の他の実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。
図1に示すグリース封入転がり軸受1は、同心に配置された内輪2および外輪3と、内輪2、外輪3間に介在する転動体4と、この転動体4を保持する保持器5と、内、外輪の軸方向両端開口部をシールするシール部材6と、軸受空間に封入されたグリース7とからなる。転動体表面4aに所定の厚みと表面粗さとを有する酸化被膜が形成されている。グリース7は後述するアルミニウム系添加剤を配合したグリースである。
【0011】
図2に示すグリース封入転がり軸受11は、同心に配置された内輪12および外輪13と、内輪12、外輪13間に介在する転動体14と、この転動体14を保持する保持器15と、内、外輪の軸方向両端開口部をシールするシール部材16と、軸受空間に封入されたグリース17とからなる。外輪内径面(転走面含む)13aに所定の厚みと表面粗さとを有する酸化被膜が形成されている。グリース17は後述するアルミニウム系添加剤を配合したグリースである。
【0012】
図3に示すグリース封入転がり軸受21は、同心に配置された内輪22および外輪23と、内輪22、外輪23間に介在する転動体24と、この転動体24を保持する保持器25と、内、外輪の軸方向両端開口部をシールするシール部材26と、軸受空間に封入されたグリース27とからなる。内輪外径面(転走面含む)22aに所定の厚みと表面粗さとを有する酸化被膜が形成されている。グリース27は後述するアルミニウム系添加剤を配合したグリースである。
【0013】
図4に示すグリース封入転がり軸受31は、同心に配置された内輪32および外輪33と、内輪32、外輪33間に介在する転動体34と、この転動体34を保持する保持器35と、内、外輪の軸方向両端開口部をシールするシール部材36と、軸受空間に封入されたグリース37とからなる。転動体表面34aと、外輪内径面(転走面含む)33aと、内輪外径面(転走面含む)32aとに所定の厚みと表面粗さとを有する酸化被膜が形成されている。グリース37は後述するアルミニウム系添加剤を配合したグリースである。
【0014】
酸化被膜を形成する方法は黒染め処理法で行ない、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液(塩基性処理液)を加熱し( 130℃〜160℃)、あらかじめ脱脂・洗浄処理・調温しておいた、酸化被膜形成対象である転動体や内輪、外輪等の基材を投入する。内輪の場合は内輪外径面以外の面に、外輪の場合は外輪内径面以外の面に、それぞれマスキングテープを貼り付けてから投入することによって、内輪外径面や外輪内径面に酸化被膜を形成することができる。酸化被膜の厚みの調整はあらかじめ試験金属片で黒染め処理を行ない、処理時間とそのときに形成された膜厚との関係を求めておき、膜厚に対応する処理時間を選択することによって所望の膜厚を得ることができる。所定の処理時間経過後、基材を取り出し、中和処理および湯洗浄を行なう。
この処理により基材表面に黒色の四酸化三鉄 Fe3O4 である酸化被膜が形成される。
【0015】
本発明のグリース封入転がり軸受の転動体表面、内輪外径面および外輪内径面から選ばれた少なくとも一つの面に形成される酸化被膜の厚みは 0.1μm 以上、かつ酸化被膜の表面粗さは Ry で 1.1μm 未満であることを必須とする。酸化被膜の厚みが 0.1μm 未満のときは、耐脆性剥離性の発現が不十分であり、かつ酸化被膜の表面粗さが Ry で 1.1μm 以上のときは、金属接触が大きくなり摩耗により酸化被膜が剥がれやすくなる。
【0016】
本発明のグリース封入転がり軸受は、軌道輪等への上記酸化被膜の形成に加えて、アルミニウム系添加剤を配合したグリースを使用することを特徴としている。
本発明に用いるアルミニウム系添加剤は、アルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つである。アルミニウム化合物としては、炭酸アルミニウム、硫化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムおよびその水和物、硫酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、臭化アルミニウム、よう化アルミニウム、酸化アルミニウムおよびその水和物、水酸化アルミニウム、セレン化アルミニウム、テルル化アルミニウム、りん酸アルミニウム、りん化アルミニウム、アルミン酸リチウム、アルミン酸マグネシウム、セレン酸アルミニウム、チタン酸アルミニウム、ジルコン酸アルミニウム等の無機アルミニウム、安息香酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム等の有機アルミニウムが挙げられる。これらアルミニウム系添加剤は、1種類または2種類を混合してグリースに添加してもよい。
本発明において特に好ましいのは、耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、極圧性効果の高いアルミニウム粉末である。
【0017】
アルミニウム系添加剤の配合割合は、ベースグリース 100 重量部に対して 0.05 重量部 〜10 重量部である。すなわち、(1)アルミニウム系添加剤がアルミニウム粉末のみである場合、ベースグリース 100 重量部に対してアルミニウム粉末を 0.05〜10 重量部、(2)アルミニウム系添加剤がアルミニウム化合物のみである場合、ベースグリース 100 重量部に対してアルミニウム化合物を 0.05〜10 重量部、(3)アルミニウム系添加剤がアルミニウム粉末とアルミニウム化合物とである場合、ベースグリース 100 重量部に対して、アルミニウム粉末とアルミニウム化合物とを合せて 0.05〜10 重量部配合する。
アルミニウム系添加剤の配合割合が、0.05 重量部未満であると水素脆性等による転走面での剥離を効果的に防止できない。また 10 重量部をこえても剥離防止効果がそれ以上に向上しない。
【0018】
本発明に使用できる基油としては、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油等の鉱油、高精製度鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、フィッシャー・トロプシュ法により合成されたGTL油、ポリ-α-オレフィン油、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂、ポリオールエステル油、りん酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルベンゼン油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等を使用できる。
これらの中で、耐熱性と潤滑性に優れたアルキルジフェニルエーテル油、または、ポリ-α-オレフィン油を用いることが好ましい。
【0019】
本発明に使用できる増ちょう剤としては、ベントン、シリカゲル、フッ素化合物、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、力ルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられる。
これらの中で、耐熱性、コスト等を考慮するとウレア系化合物が望ましい。
【0020】
ウレア系化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
【0021】
ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
【0022】
基油にウレア系化合物等の増ちょう剤を配合して、上記アルミニウム系添加剤等を配合するためのベースグリースが得られる。ウレア系化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中でイソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させて作製する。
ベースグリース 100 重量部中に占める増ちょう剤の配合割合は、1 〜40 重量部、好ましくは 3 〜25 重量部配合される。増ちょう剤の含有量が 1 重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、 40 重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
【0023】
また、アルミニウム系添加剤とともに、必要に応じて公知のグリース用添加剤を含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系化合物等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、金属スルホネート、多価アルコールエステルなどの防錆剤、有機モリブデンなどの摩擦低減剤、エステル、アルコールなどの油性剤、りん系化合物などの摩耗防止剤等が挙げられる。これらを単独または 2 種類以上組み合せて添加できる。
【0024】
本発明のグリース封入転がり軸受は、軌道輪等に対する所定厚さ・表面粗さの酸化被膜の形成と、アルミニウム系添加剤を含有するグリースの封入とにより、軸受転走面における水素脆性による特異な剥離の発生を抑制することができる。このため、玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受等も長寿命の軸受として使用することができる。
【実施例】
【0025】
実施例1〜実施例5および比較例2〜比較例3
表1に示す転がり軸受の被膜形成部位を 150 ℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬して四酸化三鉄被膜を形成した。また、酸化被膜の厚みは、あらかじめ試験金属片に黒染め処理を行ない、処理時間とそのときに形成された膜厚との関係から対応させたものである。被膜形成後、他の軸受部品を取り付け急加減速試験の試験用軸受(図1および図2参照)とした。
表1に示す基油の半量に、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製、商品名ミリオネートMT、以下、MDIと記す)を表1に示す割合で溶解し、残りの半量の基油にMDIの2倍当量となるモノアミンを溶解した。それぞれの配合割合および種類は表1のとおりである。
MDIを溶解した溶液を撹拌しながらモノアミンを溶解した溶液を加えた後、100℃〜120℃で 30 分間撹拌を続けて反応させて、ジウレア化合物を基油中に生成させた。
これにアルミニウム系添加剤(比較例2および比較例3は未配合)および酸化防止剤を表1に示す配合割合で加えてさらに 100℃〜120℃で 10 分間撹拌した。その後冷却し、三本ロールで均質化し、グリースを得た。得られたグリースを上記試験用軸受に 1.9 g 封入し、以下に示す急加減速試験に供し、軸受寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
【0026】
<急加減速試験>
グリースを封入した試験用軸受を用いて電装補機の一例であるオルタネータの回転べルトを巻きかけたプーリを支持する回転軸を内輪で支持する転がり軸受の急加減速試験を行なった。急加減速試験条件は、回転軸先端に取り付けた試験用軸受に対する負荷荷重を 1960 N 、回転速度は 0 rpm〜18000 rpm で運転条件を設定し、さらに、試験用軸受に 0.1 A の電流が流れる状態で試験を実施した。そして、試験用軸受内に異常剥離が発生し、振動検出器の振動が試験初期値の 3 倍以上となって発電機が停止する時間を軸受寿命時間( h )とした。なお、試験は 750 時間で打ち切った。
【0027】
比較例1および比較例4〜比較例6
酸化被膜を形成しなかった試験用軸受(図5参照)を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して表1に示す配合割合のグリースを得た。得られたグリースを上記試験用軸受に 1.9 g 封入し、上記急加減速試験に供し、軸受寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、グリースと表面処理の相乗作用により、各実施例は転走面で生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を効果的に防止できるので、急加減速試験に優れている。各実施例の急加減速試験は全て 750 時間以上を示した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のグリース封入転がり軸受は、転走面で生じる白色組織変化を伴った特異的な剥離を効果的に防止でき軸受寿命に優れるのでオルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、電動ファンモータ等の自動車電装部品、補機等の転がり軸受、モータ用軸受に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す深溝玉軸受の断面図である。
【図5】本発明の比較例を示す深溝玉軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1、11、21、31、41 グリース封入転がり軸受
2、12、22、32、42 内輪
3、13、23、33、43 外輪
4、14、24、34、44 転動体
4a、34a 転動体表面
5、15、25、35、45 保持器
6、16、26、36、46 シール部材
7、17、27、37、47 グリース
13a、33a 外輪内径面
22a、32a 内輪外径面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪と、これら内外輪の転走面間に介在する複数の転動体とを備え、前記転動体の周囲にグリースを封入してなる転がり軸受であって、
前記転動体表面、内輪外径面および外輪内径面から選ばれた少なくとも一つの面に、厚みが 0.1μm 以上、かつ、表面粗さが Ry で 1.1μm 未満の酸化被膜が形成されてなり、
前記グリースは、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなり、該添加剤はアルミニウム粉末およびアルミニウム化合物から選ばれた少なくとも一つのアルミニウム系添加剤を含有し、該アルミニウム系添加剤の配合割合はベースグリース 100 重量部に対して 0.05〜10 重量部であることを特徴とするグリース封入転がり軸受。
【請求項2】
前記アルミニウム化合物は、炭酸アルミニウムおよび硝酸アルミニウムから選ばれた少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項1記載のグリース封入転がり軸受。
【請求項3】
前記増ちょう剤は、ウレア系増ちょう剤であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のグリース封入転がり軸受。
【請求項4】
前記基油は、アルキルジフェニルエーテル油およびポリ-α-オレフィン油から選ばれた少なくとも一つの油であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のグリース封入転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−69885(P2008−69885A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249696(P2006−249696)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】