説明

コンクリート製残存型枠、同残存型枠製造用金型及び同残存型枠の製造方法

【課題】 引き抜き強度を高めることができる残存型枠を提供することを課題とする。
【解決手段】 コンクリート打ち込みのための型枠を、コンクリートが凝固した後も撤去しないで残存させるコンクリート製残存型枠10であり、この残存型枠10は、裏面13に、勾配が1/100〜1/10である基本凹部16を複数個設けたことを特徴とする。
【効果】 基本凹部16は勾配が極く小さいため、この基本凹部に流れ込んだコンクリートにより、引き抜き強度を高めることができる。仮に引っ張り金具を設けるにしても、引っ張り金具の径を小さくすることができ、引っ張り金具の軽量化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート製残存型枠及びその製造技術の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般のコンクリート打ち込みでは、型枠を組立て、この型枠で形成した空間にコンクリートを流し込み、コンクリートが固まったら型枠を撤去する。この型枠撤去を省くことができる工法に、残存型枠工法がある。
すなわち、残存型枠工法は、型枠を残存させるために型枠撤去工数が発生しないと共に、型枠をコンクリート構造物の強度部材に充てることができるという利点がある。
【0003】
従来残存型枠工法に使用する残存型枠に関する多数の提案がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平11−323827号公報(図1)
【特許文献2】特開2000−185311公報(図4)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図11は従来の技術の基本構成を説明する図であり、この残存型枠100は、金網102入りのコンクリート系パネル101に多数の溝穴103を、金網102の各網目内に穿設すると共に、各溝穴103の薄肉な底部103aに通気手段104を設けたことを特徴とする。
【0005】
特許文献1の詳細な説明中に、溝穴103の勾配の数値的説明が無いため、次の手順で勾配を調べた。
すなわち、溝穴103の斜辺から線105を延長し、パネル101に平行な線106と直角な線107とを書き足し、線106、107の長さを測った。この結果、線106の勾配は、図示する如くほぼ6/10であった、
【0006】
溝穴103にコンクリートが流入し、凝固するが、勾配が6/10と大きいため、引き抜き強度は期待できない。
【0007】
溝穴103の勾配を大きくせざるを得ない理由は、特許文献2(残存型枠を製造する技術)から伺い知ることができる。
そこで、特許文献2を次図に基づいて説明する。
図12は従来の技術の別の基本構成を説明する図であり、残存型枠を製造するために、枠状の金型201と、この金型201の底に設ける格子の受部材202と、この受部材202に起立させた複数の穴形成用ピン203と、これらのピン203に干渉しないようにしながら金型201に上から嵌めた可動底204と、この可動底204を必要なときに押し上げる底押上げ手段205とを準備する。
【0008】
そして、図の状態に保ちながら上からコンクリートを金型201に充填し、コンクリートが凝固したら、底押上げ手段205で可動底204を上昇させる。金型201、受部材202及びピン203は残す。この結果、コンクリート製品を上へ払い出すことができ、生産性を高めることができる。
【0009】
特許文献2にもピン203の勾配に関する数値的説明は無い。そこで、ピン203から線207を延長し、垂直線208、水平線209を書き足し、勾配を求めたところ、図示する如く、勾配は、約5/10であった。この勾配は、円滑に型抜きするには、3/10以上の抜き勾配が必要であると言われている一般則に、よく合致する。
【0010】
しかし、勾配6/10や、5/10では引き抜き強度の向上は望めない。そこで、従来は引っ張り金具で引き抜き強度を稼ぐ必要があり、引っ張り金具が大径になり、重量が嵩み、残存型枠工法でのコストアップの要因となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、引き抜き強度を高めることができる残存型枠を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係るコンクリート製残存型枠は、コンクリート打ち込みのための型枠を、コンクリートが凝固した後も撤去しないで残存させるコンクリート製残存型枠において、
この残存型枠は、裏面に、勾配が1/100〜1/10である基本凹部を複数個設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項2に係るコンクリート製残存型枠は、金網若しくは金属製格子などの補強用金属部材を、基本凹部の底に沿って埋設したことを特徴とする。
【0014】
請求項3に係るコンクリート製残存型枠は、残存型枠の裏面に、同型枠の天地方向を示す方向指示凹部を設けたことを特徴とする。
【0015】
請求項4に係るコンクリート製残存型枠は、残存型枠の裏面に、必要時に底を打ち抜くことができる深い凹部を設けたことをことを特徴とする。
【0016】
請求項5に係るコンクリート製残存型枠は、残存型枠のおもて面に、模様を施したことを特徴とする。
【0017】
請求項6に係るコンクリート製残存型枠製造用金型は、コンクリート打ち込みのための型枠を、コンクリートが凝固した後も撤去しないで残存させるコンクリート製残存型枠を製造する金型において、
この金型は、抜き勾配が3/10を超える勾配の付いた普通ピンを起立させて備える固定型と、この固定型の底部を貫通して昇降するとともに抜き勾配が1/100〜1/10である特殊ピンを備える分割型と、前記固定型の開口面を塞ぐ可動型と、この可動型を前記固定型へ加圧力する加圧手段とを備えることを特徴とする。
【0018】
請求項7に係るコンクリート製残存型枠製造用金型は、固定型に、雌ねじ付きインサート金具を支える金具支持部を備え、この金具支持部に空気通路を備え、この空気通路を通じてブローエアをインサート金具に吹き込むことで、雌ねじに回り込んだコンクリートをブローすることができる構造にしたことを特徴とする。
【0019】
請求項8に係るコンクリート製残存型枠の製造方法は、抜き勾配が3/10を超える勾配の付いた普通ピンを起立させて備える固定型と、この固定型の底部を貫通して昇降するとともに抜き勾配が1/100〜1/10である特殊ピンを備える分割型と、前記固定型の開口面を塞ぐ可動型と、この可動型を前記固定型へ加圧力する加圧手段とを備えるコンクリート製残存型枠製造用金型を準備する工程と、
前記固定型に前記分割型をセットする工程と、
セメントが100重量部で水が25重量部〜35重量部であるモルタルを、前記固定型へ充填する工程と、
この固定型へ可動型を型合わせし、水が22重量部〜28重量部になるまで加圧脱水する工程と、
この加圧脱水後に、前記分割型を固定型から抜く工程と、
コンクリート製残存型枠を脱型する工程と、
からなることを特徴とする。
【0020】
請求項9に係るコンクリート製残存型枠の製造方法は、固定型に前記分割型をセットする工程と、セメントが100重量部で水が25重量部〜35重量部であるモルタルを、前記固定型へ充填する工程との間に、金網若しくは金属製格子などの補強用金属部材をセットする工程を介在させ、この補強用金属部材は、前記特殊ピンに載せることでセットすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明では、残存型枠の裏面に、勾配が1/100〜1/10である基本凹部を複数個設けた。基本凹部は勾配が極く小さいため、この基本凹部に流れ込んだコンクリートにより、引き抜き強度を高めることができる。
したがって、請求項1によれば、仮に引っ張り金具を設けるにしても、引っ張り金具の径を小さくすることができ、引っ張り金具の軽量化を図ることができる。
【0022】
請求項2に係る発明では、補強用金属部材を、基本凹部の底に沿って埋設した。
型枠の製造時に、基本凹部を形成するピンに補強用金属部材を載せることで、補強用金属部材の位置決めができる。
したがって、製造が容易になり、製造コストを下げることができる。
【0023】
請求項3に係る発明では、残存型枠の裏面に、同型枠の天地方向を示す方向指示凹部を設けた。
残存型枠のおもて面に模様を施した場合は、模様の種類によって天地が重要になることがある。加えて、残存型枠は複数枚を縦横に並べた大きな壁とする場合が多く、この場合は、裏側で作業をする人とは別におもて面を見る人が必要となる。いわゆる、二人作業となる。
この点、請求項3によれば、裏側で方向を知ることができるため、一人作業が可能となり、作業コスト(型枠組立て作業コスト)を削減することができる。
【0024】
請求項4に係る発明では、残存型枠の裏面に、必要時に底を打ち抜くことができる深い凹部を設けた。
残存型枠を、小さなサイズが必要になることがある。このときには標準サイズの残存型枠を切断する。このとき及びその他の理由で、金具を取り付ける必要が発生したときには、深い凹部の底を打ち抜いて、金具を取り付ければよい。
【0025】
コンクリートドリルで残存型枠に貫通穴を開けるのに比較して、請求項4によれば簡単に短時間で貫通穴を開けることができる。
さらには、コンクリートドリルで残存型枠に貫通穴を開けると残存型枠に亀裂が入ることがあるが、請求項4によれば、その心配はない。
【0026】
請求項5に係る発明では、残存型枠のおもて面に、模様を施したことを特徴とする。おもて面に模様を施すことで、残存型枠を、いわゆる意匠面として活用することができる。この結果、後工程(別途化粧タイルを貼り付けるなどの後工程)を省くことができる。
【0027】
請求項6に係る発明では、金型に、抜き勾配が3/10を超える勾配の付いた普通ピンを起立させて備える固定型と、この固定型の底部を貫通して昇降するとともに抜き勾配が1/100〜1/10である特殊ピンを備える分割型と、固定型の開口面を塞ぐ可動型と、この可動型を固定型へ加圧力する加圧手段とを備える。
【0028】
可動型及び加圧手段を備えることにより、加圧成形が可能となる。加圧成形であれば、普通の流し込み成形より、製品密度を高めることができる。または、加圧により脱水させるため、モルタルに含める水の量は多くても差し支えない。水の量が多ければ流動性が増して、巣の発生を抑えることができる。
また、抜き勾配が1/100〜1/10である特殊ピンは、モルタル充填後で且つ完全凝固前、すなわち半凝固時点で、抜くことができるから、勾配の極く小さな基本凹部を簡単に残存型枠に裏面に形成することができる。
【0029】
なお、特殊ピンの抜き勾配が1/100を下回ると、半凝固時点であっても抜くときに、凹部の一部が欠ける危険性が高まる。また、抜き勾配が1/10を上回ると、目的とする引き抜き強度が得られなくなる。そこで、特殊ピンの抜き勾配は1/100〜1/10の範囲から選択することにする。
【0030】
請求項7に係る発明では、固定型に、雌ねじ付きインサート金具を支える金具支持部を備え、この金具支持部に空気通路を備え、この空気通路を通じてブローエアをインサート金具に吹き込むことで、雌ねじに回り込んだコンクリートをブローすることができる構造にした。
【0031】
雌ねじ付きインサート金具をコンクリートに埋設しようとすると、モルタルの一部が不可避的にねじの谷に付着することがある。後工程で付着物を除去することはコスト増を招く。
この点、請求項7では脱型前にエアブローすることで清掃が完了するため、コストアップを抑えることができる。
【0032】
請求項8に係る発明では、加圧脱水するため、普通の流し込み成形より、製品密度を高めることができる。または、加圧により脱水させるため、モルタルに含める水の量は多くても差し支えない。水の量が多ければ流動性が増して、巣の発生を抑えることができる。
また、抜き勾配が1/100〜1/10である特殊ピンは、モルタル充填後で且つ完全凝固前、すなわち半凝固時点で、抜くことができるから、勾配の極く小さな基本凹部を簡単に残存型枠に裏面に形成することができる。
【0033】
なお、充填時のモルタルは、セメントが100重量部で水が25重量部〜35重量部とした。25重量部未満では、流動性不足で細部への充填が困難となり成形不良を招きやすい。また、35重量部を超えると流動性は良好であるが、脱水に時間が掛かり、生産性が低下する。したがって、充填時のモルタルは、セメントが100重量部で水が25重量部〜35重量部とする。
【0034】
また、加圧脱水は、モルタルの水が22重量部〜28重量部になるまで実施する。22重量部未満では硬くなり過ぎて、円滑な脱型が難しくなる。28重量部を超えると軟らかくなり過ぎて脱型後に変形が発生する。したがって、加圧脱水は、モルタルの水が22重量部〜28重量部になるまで実施する。
【0035】
また、特殊ピンの抜き勾配が1/100を下回ると、半凝固時点であっても抜くときに、凹部の一部が欠ける危険性が高まる。一方、抜き勾配が1/10を上回ると、目的とする引き抜き強度が得られなくなる。そこで、特殊ピンの抜き勾配は1/100〜1/10の範囲から選択することにする。
【0036】
請求項9に係る発明では、固定型に前記分割型をセットする工程と、セメントが100重量部で水が25重量部〜35重量部であるモルタルを、固定型へ充填する工程との間に、金網若しくは金属製格子などの補強用金属部材をセットする工程を介在させ、この補強用金属部材は、特殊ピンに載せることでセットすることを特徴とする。
【0037】
一般に、補強用金属部材は空中に浮かせた状態でモルタル充填を待つが、充填圧で移動若しくはずれない様に補強用金属部材を保持するには、引っ張りワイヤなどの副資材が必要である。
この点、請求項9では主たる保持を特殊ピンで行わせるため、ワイヤなどの副資材を不要にすることができ、製造コストを下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係るコンクリート製残存型枠の側面図であり、コンクリート製残存型枠10(以下「残存型枠10」と記す)は、コンクリート打ち込みのための型枠で且つコンクリートが凝固した後も撤去しないで残存させるものであって、本例では、おもて面11に、破断岩石肌などの模様12を施し、裏面13には後述する各種の凹部を形成してなるコンクリート製パネルである。
【0039】
図2は図1の2矢視図であり、型枠10は、例えば500mm×500mmで厚さが30〜50mmの矩形板であり、裏面13に、各種の凹部を形成してなる。これらの凹部は断面図を用いて順次説明する。
【0040】
図3は図2の3−3線断面図であり、厚さ中央に金網などの補強用金属部材15が埋設され、勾配が1/100〜1/10である基本凹部16、16、16、16と、天側方向指示凹部17と、地側方向指示凹部18とが裏面13側へ開口させたことを示す。
【0041】
図2に戻って、天側方向指示凹部17は矩形穴であり、地側方向指示凹部18は円錐穴であるため、裏面13の天地方向を知ることができる。これらの方向指示凹部17,18にもモルタルが充填されるため、方向指示凹部17、18は方向指示と接着強度向上との両用の作用を発揮する。
ただし、方向指示凹部17、18を形成する位置および凹部の深さは、適宜設定することができる。また、方向指示凹部17、18の形は任意であり、例えば矢印形状の凹部や、上下を意味する文字形状の凹部であっても良い。
【0042】
図4は図2の4−4線断面図であり、残存型枠10の縁部に深い凹部21、21を設けたことを示す。凹部21が補強用金属部材15を貫通して延びるため、底22を必要時に打ち抜くことができる。
【0043】
残存型枠を、小さなサイズが必要になることがある。このときには標準サイズの残存型枠を切断する。このとき及びその他の理由で、金具を取り付ける必要が発生したときには、深い凹部の底を打ち抜いて、金具を取り付ければよい。
図2に戻って、深い凹部21は、上辺、下辺、左辺、右辺に各3個、中央に1個設けたので、どこで分割してもいずれかの凹部21を活用することができる。
【0044】
図5は図2の5−5線断面図であり、雌ねじ23の付いたインサート金具24の取り付け姿を示す。
図2に戻って、雌ねじ付きインサート金具24は残存型枠10の裏面13の4隅に設けた。残存型枠10は複数枚を縦横に並べて大きな壁にすることが多い。このときには、雌ねじ付きインサート金具24に穴あき連結プレート(図示せず)を重ね、雌ねじ23(図5参照)にボルトをねじ込むことで対処することができる。
【0045】
さらに、図2において、破線で示す部材は格子状の補強用金属部材15であり、基本凹部16の大部分と、方向指示凹部17、18の全ては補強用金属部材15に重ねた。このことが補強用金属部材15をセットするときに好都合に作用する。詳細は後述。
深い凹部21は底を打ち抜く都合上、補強用金属部材15の無い部位に配列したことは言うまでもない。
【0046】
以上に述べた残存型枠10の製造に用いる金型の例を次に説明する。
図6は本発明に係る残存型枠製造用金型の原理図であり、残存型枠製造用金型30は、抜き勾配が3/10を超える勾配の付いた普通ピン31を起立させて備える底板状の固定型33と、この固定型33に開けた貫通孔34を貫通して昇降するとともに抜き勾配が1/100〜1/10である特殊ピン35を備える分割型36と、固定型33に対向配置するとともに側枠部32を備え、下面が開口面37である可動型38と、この可動型38を固定型33へ加圧力する加圧手段39とを備える。
【0047】
41、41はベース、42、42はベースに立てたガイドコラム、43はガイドコラム42、42に昇降自在に渡した昇降フレームである。
また、44はインサート金具24を保持するために固定型33に起立させた金具支持部である。
【0048】
図7は本発明に係る特殊ピンの拡大図であり、特殊ピン35は、大きい方の径がAで、小さい方の径がBで、径Aと径Bとの距離がCであるテーパーピンである。例えば、距離Cは17mmであり、径の差(A−B)が2mmである。このとき勾配は、2mmの半分を17mmで割ればよいから、1/17となる。
【0049】
図8は本発明に係る金具支持部の作用図であり、金具支持部44は、インサート金具24を保持する部材であると共に、空気通路45を備え、高圧のエアを矢印Dの如く供給することができる。
モルタルをインサート金具24の周囲に充填すると、一部のモルタルが侵入して雌ねじ23に付着する可能性はある。そのときに、高圧エアを供給することで、付着物を吹き飛ばすことができる。このことをエアブローによる清掃という。
【0050】
以上に述べた残存型枠製造用金型30を用いて行う残存型枠の製造方法を次に説明する。
図9は分割型セット工程から加圧脱水工程までの説明図である。
(a)で、固定型33に分割型36を所定の高さにセットし、分割型36の特殊ピン35に補強用金属部材15を載せる。そして、セメントが100重量部で水が25重量部〜35重量部であるモルタルの所定量を固定型33の成形空間46へ載せる。
【0051】
(b)で、可動型38を白抜き矢印のように下げ、さらに加圧する。すると、モルタル47に含まれる水が絞り出され、側枠部32と固定型33との間の隙間及び排水孔48から落下する。側枠部32と固定型33との間の隙間は総長が大きいため、排水面積を稼ぐことができ、排水を促して排水時間を大幅に短縮することができる。
これは、可動型38側に側枠部32を設け、固定型33を平板形状にしたことによって得られる特有の効果である。
【0052】
この際に補強用金属部材15は多数の特殊ピン35に載っているため、下方へ撓むことはなく、その位置が効果的に保持される。加圧排水は、水が22重量部〜28重量部になるまで続ける。その時間は30秒を超えないで到達できるので、効率よく成形を完了することができる。
【0053】
なお、排水孔48は、固定型33の底部に開ける他、特殊ピン35自体に開けることもできる。したがって、排水孔48を開ける位置及び数は任意である。
【0054】
図10は分割型を抜く工程からエアブロー工程までの説明図である。
(a)で、所定の加圧脱水が終わると、モルタル47はある程度の強度が発生する。ただし、凝固は完了しないため、軟らかさは残る。このタイミングで、特殊ピン35をモルタル47から抜く。
すなわち、凝固が進行し過ぎるとモルタル47は特殊ピン35に強く付着して、抜けなくなり、無理に抜くと基本凹部16が欠ける。また、脱水不足であると、軟らか過ぎて、特殊ピン36を抜いた後、基本凹部16が変形する。
【0055】
したがって、本発明で採用した、抜き勾配が極く小さい特殊ピン35は、適度に硬くなった段階で、引き抜くことが重要となる。そうすれば、欠け及び変形を防止することができる。
そのためには、図示する如く、可動型38で加圧を掛けたままで特殊ピン35を抜く。可動型38で抑えることで、モルタル47の波打ちを防止することができる。
【0056】
(b)で、白抜き矢印の如く可動型38をモルタル47と共に上昇させる。この上昇の際に金具支持部44から高圧エアを吹き込み、インサート金具24のエアブローを実行する。この後、可動型38からモルタル47をはずし、養生させれば、図1〜図5に示した残存型枠10を得ることができる。
【0057】
すなわち、本発明方法は次の通りになる。
抜き勾配が3/10を超える勾配の付いた普通ピンを起立させて備える固定型と、この固定型の底部を貫通して昇降するとともに抜き勾配が1/100〜1/10である特殊ピンを備える分割型と、前記固定型の開口面を塞ぐ可動型と、この可動型を前記固定型へ加圧力する加圧手段とを備えるコンクリート製残存型枠製造用金型を準備する工程(図6参照)と、
前記固定型に前記分割型をセットする工程(図9(a)参照)と、
セメントが100重量部で水が25重量部〜35重量部であるモルタルを、前記固定型へ充填する工程(図9(b)参照)と、
この固定型へ可動型を型合わせし、水が22重量部〜28重量部になるまで加圧脱水する工程(図9(b)参照)と、
この加圧脱水後に、前記分割型を固定型から抜く工程(図10(a)参照)と、
コンクリート製残存型枠を脱型する工程(図10(b)参照)と、からなることを特徴とする。
【0058】
なお、従来の流し込み方法では、準備から脱型までの1サイクルは、約24時間であった。モルタルが形状を保持するために必要なモルタルの強度を発生させるための時間は、 24時間必要であるためである。
これに対して、本発明の加圧脱水方法では、1サイクルは、30秒〜2分で済ませることができる。加圧脱水により脱型に必要な強度が得られるからである。
【0059】
尚、残存型枠10の大きさや形状は、変更することができる。また、各種の凹部の個数や配置も変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、コンクリート打ち後に残存させる残存型枠に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係るコンクリート製残存型枠の側面図である。
【図2】図1の2矢視図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図2の4−4線断面図である。
【図5】図2の5−5線断面図である。
【図6】本発明に係る残存型枠製造用金型の原理図である。
【図7】本発明に係る特殊ピンの拡大図である。
【図8】本発明に係る金具支持部の作用図である。
【図9】分割型セット工程から加圧脱水工程までの説明図である。
【図10】分割型を抜く工程からエアブロー工程までの説明図である。
【図11】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【図12】従来の技術の別の基本構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0062】
10…コンクリート製残存型枠、11…おもて面、12…模様、13…裏面、15…補強用金属部材、16…基本凹部、17、18…方向指示凹部、21…深い凹部、22…深い凹部の底、23…雌ねじ、24…雌ねじ付きインサート金具、30…残存型枠製造用金型、31…普通ピン、32…側枠部、33…固定型、34…貫通孔、35…特殊ピン、36…分割型、37…開口面、38…可動型、39…加圧手段、44…金具支持部、45…空気通路、46…成形空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打ち込みのための型枠を、コンクリートが凝固した後も撤去しないで残存させるコンクリート製残存型枠において、
この残存型枠は、裏面に、勾配が1/100〜1/10である基本凹部を複数個設けたことを特徴とするコンクリート製残存型枠。
【請求項2】
金網若しくは金属製格子などの補強用金属部材を、前記基本凹部の底に沿って埋設したことを特徴とする請求項1記載のコンクリート製残存型枠。
【請求項3】
前記残存型枠の裏面に、同型枠の天地方向を示す方向指示凹部を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のコンクリート製残存型枠。
【請求項4】
前記残存型枠の裏面に、必要時に底を打ち抜くことができる深い凹部を設けたことをことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載のコンクリート製残存型枠。
【請求項5】
前記残存型枠のおもて面に、模様を施したことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4記載のコンクリート製残存型枠。
【請求項6】
コンクリート打ち込みのための型枠を、コンクリートが凝固した後も撤去しないで残存させるコンクリート製残存型枠を製造する金型において、
この金型は、抜き勾配が3/10を超える勾配の付いた普通ピンを起立させて備える固定型と、この固定型の底部を貫通して昇降するとともに抜き勾配が1/100〜1/10である特殊ピンを備える分割型と、前記固定型の開口面を塞ぐ可動型と、この可動型を前記固定型へ加圧力する加圧手段とを備えることを特徴とするコンクリート製残存型枠製造用金型。
【請求項7】
前記固定型に、雌ねじ付きインサート金具を支える金具支持部を備え、この金具支持部に空気通路を備え、この空気通路を通じてブローエアをインサート金具に吹き込むことで、雌ねじに回り込んだコンクリートをブローすることができる構造にしたことを特徴とする請求項6記載のコンクリート製残存型枠製造用金型。
【請求項8】
抜き勾配が3/10を超える勾配の付いた普通ピンを起立させて備える固定型と、この固定型の底部を貫通して昇降するとともに抜き勾配が1/100〜1/10である特殊ピンを備える分割型と、前記固定型の開口面を塞ぐ可動型と、この可動型を前記固定型へ加圧力する加圧手段とを備えるコンクリート製残存型枠製造用金型を準備する工程と、
前記固定型に前記分割型をセットする工程と、
セメントが100重量部で水が25重量部〜35重量部であるモルタルを、前記固定型へ充填する工程と、
この固定型へ可動型を型合わせし、水が22重量部〜28重量部になるまで加圧脱水する工程と、
この加圧脱水後に、前記分割型を固定型から抜く工程と、
コンクリート製残存型枠を脱型する工程と、
からなることを特徴とするコンクリート製残存型枠の製造方法。
【請求項9】
前記固定型に前記分割型をセットする工程と、セメントが100重量部で水が25重量部〜35重量部であるモルタルを、前記固定型へ充填する工程との間に、金網若しくは金属製格子などの補強用金属部材をセットする工程を介在させ、この補強用金属部材は、前記特殊ピンに載せることでセットすることを特徴とする請求項8記載のコンクリート製残存型枠の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−142555(P2006−142555A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332934(P2004−332934)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(594075765)日本板硝子環境アメニティ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】