説明

コンテンツ配信システムの配信経路決定装置

【課題】閾値秘密分散された複数の部分コンテンツや冗長化された複数の同一コンテンツを異なる経路で配信するシステムにおいて、盗聴や障害に対する信頼性の高い配信経路を決定できるコンテンツ配信システムの配信経路決定装置を提供する。
【解決手段】最大独立経路数求解部102は、各配信元ノードから配信先ノードへ至るリンク独立(第1実施形態)またはノード独立(第2実施形態)な経路の最大数mを算出する。配信経路決定部103は、配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが最大数m以下であると当該m本の独立経路の中からk本の独立経路を決定する第1の配信経路決定部103a、および配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが最大数mよりも多いと当該m本の独立経路を含むk本の経路を決定する第2の配信経路決定部103bを含む。経路通知部104は、前記k本の経路の決定結果を各配信元ノード1へ通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテンツ配信システムの配信経路決定装置に係り、特に、一つのコンテンツを複数の部分コンテンツに分割してネットワーク上に分散配置し、これらの部分コンテンツを一つの配信先ノードへ複数の経路で配信する閾値秘密分散に好適なコンテンツ配信システムの配信経路決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1つのコンテンツを暗号化されたn個の部分コンテンツに分割し、n個の部分コンテンツのうち、k (<= n) 個以上の部分コンテンツが集まらないと元のコンテンツを復元できないように秘密分散する閾値秘密分散が非特許文献1に開示されている。
【0003】
また、データ保持のリスク分散を図るために、n個に分割された部分コンテンツを複数のノードで秘密分散保持する技術が特許文献1,2に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shamir, Adi (1979), "How to share a secret", Communications of the ACM 22 (11): 612-613
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−122731号公報
【特許文献2】特開2009−10531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
n個の部分コンテンツから任意のk個の部分コンテンツを集めれば元データを復元できるが(k-1)個の部分コンテンツからでは元データを復元できない(k,n)閾値秘密分散では、少なくともk個の部分コンテンツがネットワーク上の配信元ノードに分散配置され、元データを復元しようとする配信先ノードに対して、部分コンテンツを保持する配信元ノードから部分コンテンツが配信される。
【0007】
このとき、各部分コンテンツの配信経路が同一リンクや同一ノードを通っていると、k本未満のリンクやk個未満のノードを盗聴するだけで元のデータが復元されてしまうので安全率が低下してしまう。したがって、(k,n)閾値秘密分散を適用したデータ配信では、できるだけk本の経路は同一リンクや同一ノードを通らない経路であることが望ましい。
【0008】
また、閾値秘密分散以外であっても、同一コンテンツを複数の経路で配信する冗長化では、全ての経路が同一リンクや同一ノードを通過する場合はもちろん、一部の経路が同一リンクや同一ノードを通過する場合でも、リンク障害やノード障害に対する安全度が低下してしまう。
【0009】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、閾値秘密分散された複数の部分コンテンツや冗長化された複数の同一コンテンツを異なる経路で配信するシステムにおいて、盗聴や障害に対する信頼性の高い配信経路を決定できるコンテンツ配信システムの配信経路決定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた点に特徴がある。
【0011】
(1)配信対象のコンテンツを複数の部分コンテンツに分割してネットワーク上の配信元ノードに分散配置し、各配信元ノードから配信先ノードへ複数の経路で各部分コンテンツを配信するコンテンツ配信システムの配信経路決定装置において、ネットワークのトポロジに基づいて、各配信元ノードから配信先ノードへ至るリンク独立な経路の最大数mを算出する手段と、配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが前記最大数m以下であると、当該m本のリンク独立な経路の中からk本の経路を決定する第1の決定手段と、配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが前記最大数mよりも多いと、当該m本のリンク独立な経路を含むk本の経路を決定する第2の決定手段とを具備し、各決定手段は、各経路のリンクが盗聴される確率に基づいて、全ての経路が盗聴される確率が最小となるk本の経路の組み合わせを決定することを特徴とする。
【0012】
(2)配信対象のコンテンツを複数の部分コンテンツに分割してネットワーク上の配信元ノードに分散配置し、各配信元ノードから配信先ノードへ複数の経路で各部分コンテンツを配信するコンテンツ配信システムの配信経路決定装置において、ネットワークのトポロジに基づいて、各配信元ノードから配信先ノードへ至るノード独立な経路の最大数mを算出する手段と、配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが前記最大数m以下であると、当該m本のノード独立な経路の中からk本の経路を決定する第1の決定手段と、配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが前記最大数mよりも多いと、当該m本のノード独立な経路を含むk本の経路を決定する第2の決定手段とを具備し、各決定手段は、各経路上のノードが盗聴される確率に基づいて、全ての経路が盗聴される確率が最小となるk本の経路の組み合わせを決定することを特徴とする。
【0013】
(3)配信対象のコンテンツが(k,n)閾値秘密分散法に基づいてn分割され、各配信元ノードからは、n個の部分コンテンツの中のk個が重複無く配信されることを特徴とする。
【0014】
(4)ネットワーク上の配信元ノードに複数の同一コンテンツを分散配置し、各配信元ノードから配信先ノードへ複数の経路で各コンテンツを配信するコンテンツ配信システムの配信経路決定装置において、ネットワークのトポロジに基づいて、各配信元ノードから配信先ノードへ至るリンク独立な経路の最大数mを算出する手段と、配信先ノードへ配信するコンテンツの数kが前記最大数m以下であると、当該m本のリンク独立な経路の中からk本の経路を決定する第1の決定手段と、配信先ノードへ配信するコンテンツの数kが前記最大数mよりも多いと、当該m本のリンク独立な経路を含むk本の経路を決定する第2の決定手段とを具備し、各決定手段は、各経路のリンクに障害が発生する確率に基づいて、全ての経路に障害が発生する確率が最小となるk本の経路の組み合わせを決定することを特徴とする。
【0015】
(5)ネットワーク上の配信元ノードに複数の同一コンテンツを分散配置し、各配信元ノードから配信先ノードへ複数の経路で各コンテンツを配信するコンテンツ配信システムの配信経路決定装置において、ネットワークのトポロジに基づいて、各配信元ノードから配信先ノードへ至るノード独立な経路の最大数mを算出する手段と、配信先ノードへ配信するコンテンツの数kが前記最大数m以下であると、当該m本のノード独立な経路の中からk本の経路を決定する第1の決定手段と、配信先ノードへ配信するコンテンツの数kが前記最大数mよりも多いと、当該m本のノード独立な経路を含むk本の経路を決定する第2の決定手段とを具備し、各決定手段は、各経路上のノードに障害が発生する確率に基づいて、全ての経路に障害が発生する確率が最小となるk本の経路の組み合わせを決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
【0017】
(1)盗聴されると元のコンテンツを復元できてしまうようなリンク数を最大化し、そのような組み合せのリンクが実際に全て盗聴される確率を最小化するような部分コンテンツの配信経路を決定できる。したがって、複数のノードで秘密分散保持されている部分コンテンツを、盗聴される可能性のあるリンクを含む経路で配信する場合でも、安全なコンテンツ配信が可能になる。
【0018】
(2)盗聴されると元のコンテンツを復元できてしまうような中継ノード数を最大化し、そのような組み合せの中継ノードが実際に全て盗聴される確率を最小化するような部分コンテンツの配信経路を決定できる。したがって、複数の配信元ノードで秘密分散保持されている部分コンテンツを、盗聴される可能性のあるノードを中継して配信する場合でも、安全なコンテンツ配信が可能になる。
【0019】
(3)コンテンツを(k,n)閾値秘密分散法に基づいて配信する際に、n分割された部分コンテンツの配信経路を適正に決定できるようになる。
【0020】
(4)同一コンテンツを複数の経路で同時に配信する冗長化において、同時にリンク障害が発生するとコンテンツ配信が不能となるようなリンク数を最大化し、そのような組み合わせのリンクの全てに実際に障害が発生する確率を最小化するようなコンテンツの配信経路を決定できるので、信頼性の高い冗長化が可能になる。
【0021】
(5)同一コンテンツを複数の経路で同時に配信する冗長化において、同時にノード障害が発生するとコンテンツ配信が不能となるようなノード数を最大化し、そのような組み合わせのノードの全てに実際に障害が発生する確率を最小化するようなコンテンツの配信経路を決定できるので、信頼性の高い冗長化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明が適用されるコンテンツ配信システムのネットワーク構成を示した図である。
【図2】配信経路決定装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態によりリンク独立経路が確立される様子を示した図である。
【図5】本発明の第2実施形態の動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明が適用されるコンテンツ配信システムのネットワーク構成を示した図であり、ここでは、(k,n)閾値秘密分散を利用したコンテンツ配信を例にして説明する。
【0024】
制御対象のネットワーク3にはU個の配信元ノード1が配置され、各配信元ノード1には、1つのコンテンツcをn分割して得られるn個の部分コンテンツcp(cp1〜cpn)が分散配置されている。各配信元ノード1に分散配置される部分コンテンツcpは一つとは限らず、複数の異なる部分コンテンツcpが配置される場合もあり、また同一の部分コンテンツcpが複数の配信元ノード1に重複配置されることもある。
【0025】
配信先ノード2は、少なくともk個の部分コンテンツcpから元のコンテンツcを再現するコンテンツ再現機能を備えている。配信経路決定サーバ4は、各配信元ノード1から配信先ノード2へk個の部分コンテンツを漏れなく、かつ重複無く配信する経路を決定して各配信元ノード1へ通知する。
【0026】
図2は、前記配信経路決定サーバ4の主要部の構成を示した機能ブロック図である。トポロジ取得部101は、ネットワーク3のトポロジを取得する。最大独立経路数求解部102は、各配信元ノード1から配信先ノード2へ至るリンク独立(第1実施形態)またはノード独立(第2実施形態)な経路の最大数mを、後述する第1の整数計画法(第1実施形態)または第4の整数計画法(第2実施形態)を解くことで算出する。
【0027】
配信経路決定部103は、配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが最大数m以下であると、後述する第2の整数計画法(第1実施形態)または第5の整数計画法(第2実施形態)を解くことで当該m本の独立経路の中からk本の独立経路を決定する第1の配信経路決定部103a、および配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが最大数mよりも多いと、後述する第3の整数計画法(第1実施形態)または第6の整数計画法(第2実施形態)を解くことで当該m本の独立経路を含むk本の経路を決定する第2の配信経路決定部103bを含む。経路通知部104は、前記k本の経路の決定結果を各配信元ノード1へ通知する。
【実施例1】
【0028】
本発明の第1実施形態では、U個の配信元ノード1で秘密分散保持されているn個の部分コンテンツcpのうち任意のk個をネットワーク3を介して配信先ノード2まで配信するための経路選択において、配信途中の部分コンテンツcpが経路上のリンクで盗聴される可能性がある場合を想定し、k個の部分コンテンツcpの全てが盗聴される確率を最小化する経路が決定される。
【0029】
次いで、本発明の一実施形態の動作を図3のフローチャートに沿って説明する。ステップS1では、ネットワーク3のトポロジ(N,Link)が前記トポロジ取得部101により取得される。ステップS2では、部分コンテンツcpを保持しているU個の配信元ノード1から配信先ノード2に至る多数の経路のうち、互いに共通のリンクを含まないリンク独立な経路の最大数mが、前記最大独立経路数求解部102において第1の整数計画法を解くことで求められる。第1の整数計画法では、定数が以下のように定義される。
【0030】
N:ネットワークを構成するノードの集合
n:ノード
NC:部分コンテンツを保持しているノードの集合
c:部分コンテンツを保持しているノード
d:配信先ノード
L:ネットワークを構成するリンクの集合
l:リンク
【0031】
また、変数が以下のように定義される。
【0032】
xl:リンク独立な経路がリンクlを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数
M:リンク独立な経路の数
【0033】
第1の整数計画法では制約式が次式(1)〜(5)で与えられる。(1)式は、部分コンテンツcpを保持している配信元ノード1に入る経路数はゼロであるという制約であり、経路をループさせない条件となる。(2)式は、各配信元ノード1から出る経路の総数がリンク独立な経路の数Mと等しくなるという制約である。(3)式は、配信先ノード2に入る経路数がMであるという制約である。(4)式は、配信先ノード2から出る経路数がゼロであるという制約である。(5)式は、配信元ノード1および配信先ノード2以外の中継ノードでは、入る経路数と出る経路数とが同一であるという制約である。
【0034】
【数1】

【0035】
【数2】

【0036】
【数3】

【0037】
【数4】

【0038】
【数5】

【0039】
また、本実施形態では全ての経路がリンク独立でなければならず、各リンクを複数の経路が通ることは無いので、次式(6)がリンク独立の条件として与えられる。
【0040】
【数6】

【0041】
最大化すべき目的関数は変数Mなので、このステップS2では、上記の第1の整数計画法を解いてリンク独立な経路数Mの最大数mが求められる。
【0042】
ステップS3では、リンク独立な経路数の最大数mが閾値kと比較される。最大数mがk以上であれば、m本のリンク独立経路からk本の経路を選んでk個の部分コンテンツを配信すべくステップS4へ進む。これにより、攻撃者は少なくともk本のリンクを盗聴しなければ元のコンテンツcを復元することができない。
【0043】
ステップS4では、k本のリンクが盗聴されて元のコンテンツcが漏洩する確率が最小となるように、各部分コンテンツcpを配信するためのリンク独立なk本の経路が、前記第1の配信経路決定部103aにより決定される。ここでは、以下に詳述する第2の整数計画法を解くことでk本の経路が決定される。第2の整数計画法では定数が以下のように定義される。
【0044】
N:ネットワーク構成するノードの集合
n:ノード
NC:部分コンテンツを保持しているノードの集合
c:部分コンテンツを保持しているノード
d:配信先ノード
L:ネットワークを構成するリンクの集合
l:リンク
LK:盗聴されるk本のリンクの組合せの集合
LKj:LK内のj番目の組合せに含まれるリンクの集合
P j:LKjに含まれる全てのリンクが盗聴される確率
nin:ノードnを終点とするリンクの集合
nout:ノードnを始点とするリンクの集合
【0045】
また、変数が以下のように定義される。
【0046】
Xl(i):i(1〜k)番目の経路がリンクlを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数
Yj(i):i(1〜k)番目の経路がLKjに含まれるリンクを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数
Zj:全ての経路がLKjに含まれるリンクを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数
Obj:k本のリンクが盗聴されて元のコンテンツcが漏洩する確率
【0047】
この第2の整数計画法では制約式が次式(7)〜(9)で与えられる。(7)式は、各k本の経路が、配信元ノード1から出るリンクの中の1本だけを通ること、すなわちk本の経路は配信元ノード1のいずれかから出るという経路保存則である。(8)式は、配信先ノード2に入るリンクにはk本の経路が必ず通るという経路保存則である。(9)式は、配信元ノード1および配信先ノード2以外の中継ノードでは、各k本の経路が、入らなければ出ても行かないし、入れば必ず出て行くという経路保存則である。
【0048】
【数7】

【0049】
【数8】

【0050】
【数9】

【0051】
また、本実施形態では全ての経路がリンク独立でなければならず、各リンクlを複数の経路が通ることは無いので、次式(10)がリンク独立の条件とされる。
【0052】
【数10】

【0053】
さらに、本実施形態では盗聴されるリンク集合を経路が通る条件として次式(11)が与えられる。また、盗聴されるリンク集合を全ての経路が通る条件として次式(12)が与えられる。
【0054】
【数11】

【0055】
【数12】

【0056】
そして、本実施形態では盗聴されるk本のリンクの中の少なくとも1つのリンクを全ての経路が通過するときに元のコンテンツcが漏洩する。本実施形態の目的は、このような確率を最小化することであるから、最小化すべき目的関数は次式(13)で与えられる。なお、本実施形態では各リンクlが盗聴される確率が既知であり、確率PjはLK jに含まれる全てのリンクlの盗聴確率に基づいて、例えば各盗聴確率の積として算出される。
【0057】
【数13】

【0058】
このステップS4では、上記の第2の整数計画法を解くことによって得られるXl(i)の値から、各部分コンテンツcpを配信すべきリンク独立なk本の経路が決定される。
【0059】
一方、前記ステップS3において、リンク独立な経路の最大数mが必要経路数kよりも小さいと判定されるとステップS5へ進む。この場合、攻撃者はk本よりも少ないm本のリンクを盗聴するだけで元のコンテンツcを復元できる場合がある。しかしながら、部分コンテンツを配信するためのk本の経路がm本のリンク独立な経路を含んでいれば、攻撃者はm-1本のリンクを盗聴するだけでは元のコンテンツcを復元できない。
【0060】
そこで、このステップS5では、図4に一例を示したように、m(<k)本のリンク独立な経路を含み、かつm本のリンクが盗聴されて元のコンテンツcが漏洩する確率が最小となるように、部分コンテンツcpを配信するためのk本の経路が、前記第2の配信経路決定部103bにより決定される。
【0061】
本実施形態では、以下に詳述する第3の整数計画法を解くことにより、このようなk本の経路が決定される。第3の整数計画法における定数は以下のように定義される。
【0062】
N:ネットワーク構成するノードの集合
n:ノード
NC:部分コンテンツを保持しているノードの集合
c:部分コンテンツを保持しているノード
d:配信先ノード
L:ネットワークを構成するリンクの集合
l:リンク
LK:盗聴されるm本のリンクの組合せの集合
LKj:LK内のj番目の組合せに含まれるリンクの集合
Pj:LKj含まれる全てのリンクが盗聴される確率
nin:ノードnを終点とするリンクの集合
nout:ノードnを始点とするリンクの集合
【0063】
また、第3の整数計画法では変数が以下のように定義される。
【0064】
Xl(i):i(1〜k)番目の経路がリンクlを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数。
Yj(i):i(1〜k)番目の経路がLKjに含まれるリンクlを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数。
Zj:全ての経路がLKjに含まれるリンクlを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数。
Obj:m本のリンクが盗聴されて元のコンテンツが漏洩する確率。
【0065】
第3の整数計画法における制約式は次式(14)〜(16)の通りであり、これらは第2の整数計画法における経路保存則の制約式(7)〜(9)と同一である。
【0066】
【数14】

【0067】
【数15】

【0068】
【数16】

【0069】
第3の整数計画法において、k本の経路の内、m本の経路がリンク独立である条件は、次式(17)で与えられる。
【0070】
【数17】

【0071】
さらに、本実施形態では盗聴されるリンク集合を経路が通る条件として次式(18)が与えられる。また、盗聴されるリンク集合を全ての経路が通る条件として次式(19)が与えられる。
【0072】
【数18】

【0073】
【数19】

【0074】
そして、盗聴されるm本のリンクの中の少なくとも1つのリンクを全ての経路が通過するとき、元のコンテンツが漏洩する。本発明の目的は、この様な確率を最小化することであるから、最小化すべき目的関数は次式(20)で与えられる。
【0075】
【数20】

【0076】
本実施形態によれば、盗聴されると元のコンテンツcを復元できてしまうようなリンク数を最大化し、そのような組み合せのリンクが実際に全て盗聴される確率を最小化するような部分コンテンツcpの配信経路を決定できる。したがって、複数のノードで秘密分散保持されている部分コンテンツcpを、盗聴される可能性のあるリンクを含む経路で配信する場合でも、安全なコンテンツ配信が可能になる。
【実施例2】
【0077】
上記の第1実施形態では、配信途中の部分コンテンツcpがリンク上で盗聴される可能性を想定していたが、配信途中の部分コンテンツcpが中継ノード上で盗聴される可能性を想定する場合も、リンク独立な経路をノード独立な経路で置き換えることにより、同様の手順で各部分コンテンツの配信経路を決定できる。
【0078】
すなわち、本発明の第2実施形態では、U個の配信元ノード1で秘密分散保持されているn個の部分コンテンツcpのうち任意のk個をネットワーク3を介して配信先ノード2まで配信するための経路選択において、配信途中の部分コンテンツcpが経路上の中継ノードで盗聴される可能性がある場合を想定し、k個の部分コンテンツcpの全てが盗聴される確率を最小化する経路が決定される。
【0079】
図5は、本実施形態の動作を示したフローチャートである。ステップS21では、ネットワーク3のトポロジ(N,Link)が前記トポロジ取得部101により取得される。ステップS22では、部分コンテンツcpを保持しているU個の配信元ノード1から配信先ノード2に至る多数の経路のうち、互いに共通のノードを含まないノード独立な経路の最大数mが、第4の整数計画法を解くことにより求められる。第4の整数計画法では、定数が以下のように定義される。
【0080】
N:ネットワーク構成するノードの集合。
n:ノード。
NC:部分コンテンツを保持しているノードの集合。
c:部分コンテンツを保持しているノード。
d:配信先ノード。
L:ネットワークを構成するリンクの集合。
l:リンク。
【0081】
また、変数が以下のように定義する。
【0082】
xl:ノード独立な経路がリンクlを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数。
M:ノード独立な経路の数。
【0083】
この第4の整数計画法では、経路の保存則に係る制約式が次式(21)〜(25)で与えられる。また、各経路がノード独立である条件として次式(26)が与えられる。
【0084】
【数21】

【0085】
【数22】

【0086】
【数23】

【0087】
【数24】

【0088】
【数25】

【0089】
【数26】

【0090】
最大化すべき目的関数は変数Mなので、このステップS22では、上記の第4の整数計画法を解いてノード独立な経路数の最大数mが求められる。
【0091】
ステップS23では、ノード独立な経路数の最大数mが閾値kと比較される。最大数mがk以上であれば、m本のノード独立経路からk本の経路を選んでk個の部分コンテンツを配信すべくステップS24へ進む。これにより、攻撃者は少なくともk個の中継ノードを盗聴しなければ元のコンテンツcを復元することができない。
【0092】
ステップS24では、k個の中継ノードが全て盗聴されて元のコンテンツcが漏洩する確率が最小となるように、各部分コンテンツcpを配信するためのノード独立なk本の経路が決定される。ここでは、以下に詳述する第5の整数計画法を解くことでk本の経路が決定される。第5の整数計画法では定数が以下のように定義される。
【0093】
N:ネットワーク構成するノードの集合
n:ノード
NC:部分コンテンツを保持しているノードの集合
c:部分コンテンツを保持しているノード
d:配信先ノード
L:ネットワークを構成するリンクの集合
l:リンク
NK:盗聴されるk個の中継ノードの組合せの集合
NK j:NK内のj番目の組合せに含まれる中継ノードの集合
P j:NK jに含まれる全ての中継ノードが盗聴される確率
nin:ノードnを終点とするリンクの集合
nout:ノードnを始点とするリンクの集合
【0094】
また、変数が以下のように定義される。
【0095】
Xl(i):i(1〜k)番目の経路がリンクlを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数
Yj(i):i(1〜k)番目の経路がNKjに含まれる中継ノードを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数
Zj:全経路がNKjに含まれる中継ノードを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数
Obj:k個の中継ノードが盗聴されて元のコンテンツcが漏洩する確率
【0096】
この第5の整数計画法では、経路保存則として次式(27),(28),(29)の制約式が与えられる。また、本実施形態では全ての経路がノード独立でなければならず、各中継ノードnを複数の経路が通ることは無いので、次式(30)がノード独立の条件とされる。
【0097】
【数27】

【0098】
【数28】

【0099】
【数29】

【0100】
【数30】

【0101】
さらに、本実施形態では盗聴される中継ノードの集合を経路が通る条件として次式(31)が与えられる。また、盗聴される中継ノードの集合を全ての経路が通る条件として次式(32)が与えられる。
【0102】
【数31】

【0103】
【数32】

【0104】
そして、本実施形態では盗聴されるk個の中継ノードの中の少なくとも1つの中継ノードを全ての経路が通過するときに元のコンテンツcが漏洩する。本実施形態の目的は、このような確率を最小化することであるから、最小化すべき目的関数は次式(33)で与えられる。なお、本実施形態では各中継ノードnが盗聴される確率が既知であり、確率PjはLK jに含まれる全ての中継ノードnの盗聴確率に基づいて、例えば各盗聴確率の積として算出される。
【0105】
【数33】

【0106】
このステップS24では、上記の第5の整数計画法を解くことによって得られるXl(i)の値から、各部分コンテンツcpを配信すべきノード独立なk本の経路が決定される。
【0107】
一方、前記ステップS23において、ノード独立な経路の最大数mが必要経路数kよりも小さいと判定されるとステップS25へ進む。この場合、攻撃者はk個よりも少ないm個の中継ノードを盗聴するだけで元のコンテンツcを復元できる場合がある。しかしながら、部分コンテンツを配信するためのk本の経路がm本のノード独立な経路を含んでいれば、攻撃者はm-1個のノードを盗聴するだけでは元のコンテンツcを復元できない。
【0108】
そこで、このステップS25では、m(<k)本のノード独立な経路を含み、かつm個の中継ノードが盗聴されて元のコンテンツcが漏洩する確率が最小となるように、部分コンテンツcpを配信するためのk本の経路が決定される。
【0109】
本実施形態では、以下に詳述する第6の整数計画法を解くことにより、このようなk本の経路が決定される。第6の整数計画法における定数は以下のように定義される。
【0110】
N:ネットワーク構成するノードの集合
n:ノード
NC:部分コンテンツを保持しているノードの集合
c:部分コンテンツを保持しているノード
d:配信先ノード
L:ネットワークを構成するリンクの集合
l:リンク
NK:盗聴されるm個の中継ノードの組合せの集合
NKj:NK内のj番目の組合せに含まれる中継ノードの集合
P j:NKjに含まれる全ての中継ノードが盗聴される確率
nin:ノードnを終点とするリンクの集合
nout:ノードnを始点とするリンクの集合
【0111】
また、変数が以下のように定義される。
【0112】
Xl(i):i(1〜k)番目の経路がリンクlを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数
Yj(i):i(1〜k)番目の経路がNKjに含まれる中継ノードを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数
Zj:全経路がNKjに含まれる中継ノードを通れば「1」、通らなければ「0」であるバイナリ変数
Obj:m個の中継ノードが盗聴されて元のコンテンツが漏洩する確率
【0113】
第6の整数計画法における制約式は次式(34)〜(36)の通りであり、これらは第5の整数計画法における経路保存則の制約式(27)〜(29)と同一である。
【0114】
【数34】

【0115】
【数35】

【0116】
【数36】

【0117】
第6の整数計画法において、k本の経路の内、m本の経路がノード独立である条件は、次式(37)で与えられる。
【0118】
【数37】

【0119】
さらに、本実施形態では盗聴される中継ノードの集合を経路が通る条件として次式(38)が与えられる。また、盗聴される中継ノードの集合を全ての経路が通る条件として次式(39)が与えられる。
【0120】
【数38】

【0121】
【数39】

【0122】
そして、盗聴されるm個の中継ノードの中の少なくとも1つの中継ノードを全ての経路が通過するとき、元のコンテンツが漏洩する。本発明の目的は、この様な確率を最小化することであるから、最小化すべき目的関数は次式(40)で与えられる。
【0123】
【数40】

【0124】
本実施形態によれば、盗聴されると元のコンテンツを復元できてしまうような中継ノード数を最大化し、そのような組み合せの中継ノードが実際に全て盗聴される確率を最小化するような部分コンテンツの配信経路を決定できる。したがって、複数の配信元ノードで秘密分散保持されている部分コンテンツを、盗聴される可能性のあるノードを中継して配信する場合でも、安全なコンテンツ配信が可能になる。
【実施例3】
【0125】
上記の各実施形態では、本発明を(k,n)閾値秘密分散を利用したコンテンツ配信を例にして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、経路上の各リンクまたは各ノード上で部分コンテンツが盗聴される確率を、各リンクまたは各中継ノードの障害確率と考えれば、k個の同一コンテンツをU個のノードから配信先ノードまで配信する際に、信頼性のより高いk本の経路を決定できる。
【0126】
すなわち、複数の同一データを一つの配信先ノードへ配信する冗長化において、多重リンク障害または多重ノード障害によってk本の経路が全て障害になり、コンテンツ配信が行えなくなる確率が最小化されるような配信経路を決定できるので、信頼性の高い冗長化が可能になる。
【符号の説明】
【0127】
1…配信元ノード
2…配信先ノード
3…ネットワーク
4…配信経路決定サーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配信対象のコンテンツを複数の部分コンテンツに分割してネットワーク上の配信元ノードに分散配置し、各配信元ノードから配信先ノードへ複数の経路で各部分コンテンツを配信するコンテンツ配信システムの配信経路決定装置において、
ネットワークのトポロジに基づいて、各配信元ノードから配信先ノードへ至るリンク独立な経路の最大数mを算出する手段と、
前記配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが前記最大数m以下であると、当該m本のリンク独立な経路の中からk本の経路を決定する第1の決定手段と、
前記配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが前記最大数mよりも多いと、当該m本のリンク独立な経路を含むk本の経路を決定する第2の決定手段とを具備し、
前記各決定手段は、各経路のリンクが盗聴される確率に基づいて、全ての経路が盗聴される確率が最小となるk本の経路の組み合わせを決定することを特徴とするコンテンツ配信システムの配信経路決定装置。
【請求項2】
配信対象のコンテンツを複数の部分コンテンツに分割してネットワーク上の配信元ノードに分散配置し、各配信元ノードから配信先ノードへ複数の経路で各部分コンテンツを配信するコンテンツ配信システムの配信経路決定装置において、
ネットワークのトポロジに基づいて、各配信元ノードから配信先ノードへ至るノード独立な経路の最大数mを算出する手段と、
前記配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが前記最大数m以下であると、当該m本のノード独立な経路の中からk本の経路を決定する第1の決定手段と、
前記配信先ノードへ配信する部分コンテンツの数kが前記最大数mよりも多いと、当該m本のノード独立な経路を含むk本の経路を決定する第2の決定手段とを具備し、
前記各決定手段は、各経路上のノードが盗聴される確率に基づいて、全ての経路が盗聴される確率が最小となるk本の経路の組み合わせを決定することを特徴とするコンテンツ配信システムの配信経路決定装置。
【請求項3】
前記配信対象のコンテンツが(k,n)閾値秘密分散法に基づいてn分割され、各配信元ノードからは、n個の部分コンテンツの中のk個が重複無く配信されることを特徴とする請求項1または2に記載のコンテンツ配信システムの配信経路決定装置。
【請求項4】
ネットワーク上の配信元ノードに複数の同一コンテンツを分散配置し、各配信元ノードから配信先ノードへ複数の経路で各コンテンツを配信するコンテンツ配信システムの配信経路決定装置において、
ネットワークのトポロジに基づいて、各配信元ノードから配信先ノードへ至るリンク独立な経路の最大数mを算出する手段と、
前記配信先ノードへ配信するコンテンツの数kが前記最大数m以下であると、当該m本のリンク独立な経路の中からk本の経路を決定する第1の決定手段と、
前記配信先ノードへ配信するコンテンツの数kが前記最大数mよりも多いと、当該m本のリンク独立な経路を含むk本の経路を決定する第2の決定手段とを具備し、
前記各決定手段は、各経路のリンクに障害が発生する確率に基づいて、全ての経路に障害が発生する確率が最小となるk本の経路の組み合わせを決定することを特徴とするコンテンツ配信システムの配信経路決定装置。
【請求項5】
ネットワーク上の配信元ノードに複数の同一コンテンツを分散配置し、各配信元ノードから配信先ノードへ複数の経路で各コンテンツを配信するコンテンツ配信システムの配信経路決定装置において、
ネットワークのトポロジに基づいて、各配信元ノードから配信先ノードへ至るノード独立な経路の最大数mを算出する手段と、
前記配信先ノードへ配信するコンテンツの数kが前記最大数m以下であると、当該m本のノード独立な経路の中からk本の経路を決定する第1の決定手段と、
前記配信先ノードへ配信するコンテンツの数kが前記最大数mよりも多いと、当該m本のノード独立な経路を含むk本の経路を決定する第2の決定手段とを具備し、
前記各決定手段は、各経路上のノードに障害が発生する確率に基づいて、全ての経路に障害が発生する確率が最小となるk本の経路の組み合わせを決定することを特徴とするコンテンツ配信システムの配信経路決定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−139240(P2011−139240A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297262(P2009−297262)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】