説明

シタグリプチンの合成

本発明は、シタグリプチンなどの鏡像異性的に富化された生物学的に活性な分子の合成に有用な、β−アミノエステルなどの鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体の調製のための新規なプロセスに関する。主要なステップは、マンデル酸を用いたラセミ体の分割を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シタグリプチン(01)およびシタグリプチンリン酸二水素塩(02)などの鏡像異性的に富化された生物学的に活性な分子の合成に有用な、β−アミノエステルなどの鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体の調製のための新規なプロセスに関する。本発明はさらに、そのような生物学的に活性な分子を含有する医薬組成物、およびそのような組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
【化1】

【0003】
化学的にリン酸二水素(2R)−4−オキソ−4−[3−(トリフルオロ−メチル)−5,6−ジヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[4,3−a]ピラジン−7(8H)−イル]−1−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン−2−アミンと称されるシタグリプチンリン酸二水素塩(02)は、ジペプチジルペプチターゼ−IV(DPP−IV)阻害剤クラスの経口血糖降下薬である。グルコース依存性インスリン分泌刺激ペプチド(GIP)およびグルカゴン様ペプチド1(GLP−1)の両方を不活性にする酵素であるDPP−IVの阻害は、インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)としても知られる2型糖尿病の治療および予防に対する最近のアプローチを表す。シタグリプチンは、胃運動性を低下させて満腹感を引起すことから、食欲に対する効果もある。この食欲減少は、患者が、これも糖尿病患者に有用な効果である減量をする助けとなる。
【0004】
シタグリプチンおよびその類似物の調製のためのいくつかのプロセスが、先行技術に開示されている。スキーム1に概要が示される米国特許第6,699,871号に開示されているプロセスは、中間体(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸(07)および3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ−[1,2,4]トリアゾロ[4,3−a]ピラジン塩酸塩(11)の調製を含み、次にそれらをカップリングさせてBoc保護シタグリプチン塩基(12)とし、塩酸メタノールを用いてこれを脱保護して、塩酸シタグリプチン(13)を得ている。
【0005】
しかし、米国特許第6,699,871号に開示されているプロセスは、中間体(07)および(12)の精製および合成に分取キラルHPLCおよび分取HPLCをそれぞれ使用しなければならず、これらは非常に高価で、かつ工業規模で不便な技術であるという欠点がある。また、このプロセスは、有毒で有害な試薬ジアゾメタンの使用を含む。
【0006】
国際公開第2004/085661号に開示されている別の先行技術のプロセスでは、メルドラム付加物(19)からのケト−アミド(14)と3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[4,3−a]ピラジン塩酸塩(11)との合成を含む、スキーム2に示されるプロセスによってシタグリプチン遊離塩基(01)を合成している。中間体(14)をイソプロパノールおよび酢酸の中で(S)−フェニルグリシンアミドでさらに処理してアミド(15)を得て、これを、触媒としてのPtOの存在下で90psiおよび22℃で24時間、不斉水素化によってアミド(16)にさらに変換した。中間体(16)を、20%水酸化パラジウム/炭素の存在下で40psiおよび50℃で脱ベンジル化反応を実行して、シタグリプチン遊離塩基(01)に変換している。
【0007】
しかし、国際公開第2004/085661号に開示されているプロセスは、PtOおよび水酸化パラジウムなどの高価な試薬を含み、24時間よりも長い時間にわたって高圧での反応が必要であるため、工業生産に向いていない。
【0008】
米国特許公開第2006/194977号に開示されている別の先行技術のプロセスでは、スキーム3に概要が示されるプロセスによってシタグリプチンリン酸二水素塩(02)を調製している。メルドラム付加物(19)と3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[4,3−a]ピラジン塩酸塩(11)の反応によって調製した中間体(14)を、メタノール中の酢酸アンモニウムを用いてエナミン(20)にさらに変換した。エナミン(20)を、Josiphos触媒およびクロロ(1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)二量体を用いた不斉還元によって、鏡像異性的に富化されたシタグリプチン遊離塩基(01)にさらに変換した。不斉合成は、13時間にわたる200psiおよび50℃でのエナミン(20)の水素化を含み、それによって、鏡像異性的に富化されたシタグリプチン遊離塩基(01)を得ている。
【0009】
しかし、このプロセスは、非常に高価なキラル触媒を含み、10時間よりも長い時間にわたって高圧での反応が必要であるため、工業生産に向いていない。
【0010】
国際公開第2004/087650号に、シタグリプチン遊離塩基(01)の合成のためのさらなるプロセスが開示されている。スキーム4に概要が示されるこのプロセスは、メルドラム付加物(19)をメタノール中で還流させることによってメチル 4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)アセトアセテート(21)を合成することを含む。形成したβ−ケトエステル(21)を、二塩化ルテニウムおよび(S)−BINAPを用いてさらに不斉水素化して(3S)−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−3−ヒドロキシブタン酸(23)を得て、これをヒドロキシ中間体(24)を介してオキサゼチジン(25)にさらに変換した。オキサゼチジン(25)を(3R)−3−[(ベンゼルオキシ)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸(26)に変換し、これを鏡像異性的に富化されたシタグリプチン遊離塩基(01)およびシタグリプチンリン酸二水素塩(02)にさらに変換した。
【0011】
しかし、国際公開第2004/087650号に開示されているプロセスは、非常に高価なキラル触媒を含み、高圧での反応が必要であるため、工業生産に向いていない。
【0012】
上述のように、先行技術は、シタグリプチンの調製における鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸およびそれらの誘導体を調製するためのさまざまな不斉合成を教示している。先行技術はさらに、シタグリプチン遊離塩基(01)およびシタグリプチンリン酸二水素塩(02)の合成のための主要な中間体として、β−アミノ酸誘導体、特にβ−アミノエステルおよびアミドの重要性を説明している。しかし、上述のように、先行技術のプロセスには、商業生産に関してさまざまな欠点がある。
【0013】
抗糖尿病治療用のシタグリプチン遊離塩基(01)およびそのリン酸二水素塩(02)の重要性に鑑みて、商業的に許容される収率および純度でのシタグリプチンの合成のための、単純で、便利で、安価で、商業的に実現可能なプロセスが非常に必要である。
【0014】
光学分割は、不斉合成に関する問題を取り除くため、キラル分子の商業生産に特に便利な技術である。驚くべきことに、ラセミのβ−アミノ酸または誘導体を分割して鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸または誘導体を得ること、およびそれらを次に鏡像異性的に富化されたシタグリプチン遊離塩基(01)およびそのリン酸二水素塩(02)に変換させることは、いずれの先行技術にも報告されていない。
【0015】
驚くべきことに、本願発明者らは、ラセミのβ−アミノ酸誘導体、特にβ−アミノエステルを分割して、鏡像異性的に純粋なシタグリプチンおよびその塩の合成に極めて好適な鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体を得る方法を開発した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって本発明の目的は、単純で、信頼性があり、便利で、商業的に許容されるプロセスによって、鏡像異性的に富化されたシタグリプチン遊離塩基(01)およびその塩を合成するのに有用な、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体、特にβ−アミノエステルを調製することである。
【0017】
本発明の別の目的は、β−アミノエステルなどの鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体と、安価で容易に入手可能な分割剤を典型的に含む単純で信頼性のある分割技術を用いて、当該誘導体が鏡像異性的に富化されたシタグリプチン遊離塩基(01)およびその塩を合成するための中間体として有用となる、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体を調製するプロセスとを提供することである。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、本発明のプロセスによって得られたシタグリプチン遊離塩基(01)またはリン酸二水素塩(02)などのその塩を含有する医薬組成物およびその使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
定義
本発明において、1つ以上のキラル中心を有する化合物は、1つの立体異性体を75%を超える割合、好ましくは80%を超える割合、好ましくは85%を超える割合、好ましくは90%を超える割合、好ましくは95%を超える割合で含有する場合、「鏡像異性的に富化された」状態である。したがって、「鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体」という用語は、たとえば、(R)−立体異性体を75%を超える割合および(S)−立体異性体を25%未満の割合で含有する「鏡像異性的に富化された(R)−シタグリプチン(01)またはそのリン酸二水素塩(02)」を含む。同様に、「鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体の塩」という用語は、たとえば、(R),(R)−立体異性体を75%を超える割合ならびに(S),(R)−,(R),(S)−および(S),(S)−立体異性体を25%未満の割合で含有する「鏡像異性的に富化された(R)−β−アミノ酸誘導体(R)−マンデル酸塩」を含む。
【0020】
本発明において、1つ以上のキラル中心を有する化合物は、各々の立体異性体と各々の他の立体異性体を1:1.5〜1.5:1の比率で含有する場合、「ラセミ」である。つまり、1つのキラル中心を有する化合物は、2つの立体異性体の各々を40〜60%含有する場合、「ラセミ」である。2つのキラル中心を有する化合物は、4つの立体異性体の各々を20〜30%含有する場合等、「ラセミ」である。したがって、「ラセミのβ−アミノ酸誘導体(03)」という用語は、たとえば、(R)−シタグリプチンまたはそのリン酸二水素塩および(S)−シタグリプチンまたはそのリン酸二水素塩を60:40〜40:60の比率で含有する「ラセミのシタグリプチンまたはそのリン酸二水素塩」を含む。
【0021】
本発明において、酒石酸、カンファー−10−スルホン酸、カンファー−3−スルホン酸、3−ブロモ−カンファー−9−スルホン酸、2−ケト−グロン酸、α−メトキシフェニル酢酸、2−ニトロタルトラニル酸、リンゴ酸、2−フェノキシプロピオン酸、N−アセチルロイシン、N−(α−メチルベンジル)スクシンアミド酸、N−(α−メチルベンジル)フタルアミド酸、キナ酸、ジ−O−イソプロピリデン−2−オキソ−L−グロン酸、2−ヒドロキシ−4−イソプロペニル−l−メチル−シクロヘキサン−l−スルホン酸、マンデル酸、もしくはそれらの誘導体などの光学活性酸の「鏡像異性体」という用語、またはマンデル酸誘導体の「鏡像異性体」という用語は、酸またはその誘導体が、1つの立体異性体を95%を超える割合、好ましくは98%を超える割合、好ましくは99%を超える割合、好ましくは99.9%を超える割合で含有することを意味する。同様に、「(R)−(−)―マンデル酸」という用語は、マンデル酸が(R)−立体異性体を95%を超える割合、好ましくは98%を超える割合、好ましくは99%を超える割合、好ましくは99.9%を超える割合で含有することを意味する。
【0022】
本発明において、「キラル酸」または「酸分割剤」は、β−アミノ酸誘導体のアミノ基と塩を形成可能な任意の酸である。本発明の好ましい酸分割剤は、酒石酸、カンファー−10−スルホン酸、カンファー−3−スルホン酸、3−ブロモ−カンファー−9−スルホン酸、2−ケト−グロン酸、α−メトキシフェニル酢酸、2−ニトロタルトラニル酸、リンゴ酸、2−フェノキシプロピオン酸、N−アセチルロイシン、N−(α−メチルベンジル)スクシンアミド酸、N−(α−メチルベンジル)フタルアミド酸、キナ酸、ジ−O−イソプロピリデン−2−オキソ−L−グロン酸、2−ヒドロキシ−4−イソプロペニル−l−メチル−シクロヘキサン−l−スルホン酸、マンデル酸、およびそれらの誘導体であり、好ましくは(L)−酒石酸、O,O’−ジ−p−トルオイル−(L)−酒石酸、O,O’−ジベンゾイル−(L)−酒石酸、(R)−マンデル酸、ならびに(R)−3−クロロ−マンデル酸および(R)−3−ブロモ−マンデル酸などのその誘導体であり、好ましくは(R)−マンデル酸である。
【0023】
本発明において、「アルキル」基は、直鎖もしくは分岐鎖であるか、または環状基であるか、または環状基を含んでいてもよい、一価の飽和炭化水素と定義される。アルキル基は任意に置換されていてもよく、その炭素骨格に1つ以上のヘテロ原子N,OまたはSを任意に含んでいてもよい。好ましくは、アルキル基は直鎖であるか分岐鎖である。好ましくは、アルキル基は置換されていない。好ましくは、アルキル基はその炭素骨格にヘテロ原子を全く含まない。アルキル基の例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチル基である。好ましくは、アルキル基はC1−12アルキル基であり、好ましくはC1−6アルキル基である。好ましくは、環状アルキル基はC3−12環状アルキル基であり、好ましくはC5−7環状アルキル基である。
【0024】
「アルケニル」基は、直鎖もしくは分岐鎖であるか、または環状基であるか、または環状基を含んでいてもよい、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含有する一価の炭化水素と定義される。アルケニル基は任意に置換されていてもよく、その炭素骨格に1つ以上のヘテロ原子N,OまたはSを任意に含んでいてもよい。好ましくは、アルケニル基は直鎖であるか分岐鎖である。好ましくは、アルケニル基は置換されていない。好ましくは、アルケニル基はその炭素骨格にヘテロ原子を全く含まない。アルケニル基の例は、ビニル、アリル、ブト−1−エニル、ブト−2−エニル、シクロヘキセニルおよびシクロヘプテニル基である。好ましくは、アルケニル基はC2−12アルケニル基であり、好ましくはC2−6アルケニル基である。好ましくは、環状アルケニル基はC3−12環状アルケニル基であり、好ましくはC5−7環状アルケニル基である。
【0025】
「アルキニル」基は、直鎖もしくは分岐鎖であるか、または環状基であるか、または環状基を含んでいてもよい、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含有する一価の炭化水素と定義される。アルキニル基は任意に置換されていてもよく、その炭素骨格に1つ以上のヘテロ原子N,OまたはSを任意に含んでいてもよい。好ましくは、アルキニル基は直鎖であるか分岐鎖である。好ましくは、アルキニル基は置換されていない。好ましくは、アルキニル基はその炭素骨格にヘテロ原子を全く含まない。アルキニル基の例は、エチニル、プロパルギル、ブト−1−イニルおよびブト−2−イニル基である。好ましくは、アルキニル基はC2−12アルキニル基であり、好ましくはC2−6アルキニル基である。好ましくは、環状アルキニル基はC5−12環状アルキニル基である。
【0026】
「アリール」基は、一価の芳香族炭化水素と定義される。アリール基は任意に置換されていてもよく、その炭素骨格に1つ以上のヘテロ原子N,OまたはSを任意に含んでいてもよい。
【0027】
本発明において、たとえばアリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、アルキルアリール、アルケニルアリールまたはアルキニルアリールなど、基の組合わせが1つの部分と称される場合、最後に言及された基が含有する原子によって、当該部分が残りの分子に付着している。アリールアルキル基の典型的な例はベンジルである。
【0028】
「シタグリプチン」および「(R)−シタグリプチン」という用語は、明細書および請求項全体にわたって互換的に用いられ、特別の定めのない限り、シタグリプチンおよび/またはその任意の塩、水和物または溶媒和物を意味する。同様に、(R)−シタグリプチンの鏡像異性体を指す「(S)−シタグリプチン」という用語は、特別の定めのない限り、(S)−シタグリプチンおよび/またはその任意の塩、水和物または溶媒和物を意味する。
【0029】
発明の要約
本発明の第1の局面は、酸分割剤を用いたラセミのβ−アミノ酸またはその誘導体の分割を含む、シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩の調製のためのプロセスを提供する。好ましくは、β−アミノ酸誘導体はβ−アミノエステルまたはβ−アミノアミドである。より好ましくは、β−アミノ酸誘導体はβ−アミノエステルである。
【0030】
好ましくは、β−アミノ酸誘導体はアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルエステルである。より好ましくは、β−アミノ酸誘導体はC−Cアルキルエステル、またはベンジルエステル、または置換ベンジルエステルである。より好ましくは、β−アミノ酸誘導体はC−Cアルキルエステルであり、好ましくはメチルまたはエチルエステルである。最も好ましくは、β−アミノ酸誘導体はメチルエステルである。
【0031】
好ましくは、β−アミノ酸は3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸またはその誘導体である。好ましくは、誘導体はエステルであり、最も好ましくは誘導体はメチル 3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートである。
【0032】
好ましくは、本発明の第1の局面で使用する分割剤は、マンデル酸、酒石酸、カンファー−10−スルホン酸、カンファー−3−スルホン酸、3−ブロモ−カンファー−9−スルホン酸、2−ケト−グロン酸、α−メトキシフェニル酢酸、2−ニトロタルトラニル酸、リンゴ酸、2−フェノキシプロピオン酸、N−アセチルロイシン、N−(α−メチルベンジル)スクシンアミド酸、N−(α−メチルベンジル)フタルアミド酸、キナ酸、ジ−O−イソプロピリデン−2−オキソ−L−グロン酸、2−ヒドロキシ−4−イソプロペニル−l−メチル−シクロヘキサン−l−スルホン酸、またはそれらの誘導体の鏡像異性体である。好ましくは、分割剤は、(R)−(−)−マンデル酸または(S)−(+)−マンデル酸などのマンデル酸の鏡像異性体である。
【0033】
好ましくは、本発明の第1の局面に係るプロセスは、
(a)ラセミのβ−アミノ酸またはその誘導体を、酸分割剤、好ましくは(R)−(−)−マンデル酸またはその誘導体で処理して、鏡像異性的に富化された塩を得るステップと、
(b)鏡像異性的に富化された塩を任意に結晶化させるステップと、
(c)ステップ(a)または(b)で得られた鏡像異性的に富化された塩を、有機溶媒または水またはそれらの混合物中に溶解するか懸濁させ、その溶液または懸濁液のpHを塩基で調整して、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸またはその誘導体を得るステップとを含む。
【0034】
好ましくは、ステップ(c)で使用する塩基は、有機塩基、無機塩基またはそれらの混合物から選択される。
【0035】
好ましくは、ステップ(c)で使用する塩基は、好ましくは、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、シクロヘキシルアミン、またはそれらの混合物から選択される、アミンなどの有機塩基である。
【0036】
好ましくは、ステップ(c)で使用する塩基は、アンモニア、金属水酸化物、金属炭酸化物、またはそれらの混合物などの無機塩基である。好ましくは、金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくは水酸化リチウムであり、および/または金属炭酸化物は、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムもしくは炭酸カルシウムである。
【0037】
好ましくは、ステップ(a)は、任意に水の存在下で、有機溶媒中で実行される。有機溶媒は、好ましくは、プロトン性もしくは非プロトン性溶媒、またはその混合物から選択される。より好ましくは、有機溶媒は、アルコール、ケトン、エーテル、アルカン、シクロアルカン、ホルムアミド、酢酸エステル、ハロゲン化溶媒またはそれらの混合物である。より好ましくは、有機溶媒は、好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、4−ペンテン−2−オール、1,6−ヘキサンジオール、1−ヘキサノール、5−ヘキセン−l−オール、グリセロール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノールまたはそれらの混合物から選択されるアルコールである。最も好ましくは、アルコールはイソプロパノールである。
【0038】
必要であれば、ステップ(a)で使用する溶媒は、アルコールおよび少なくとも0.1〜20%の水を含有する混合物であり、好ましくはアルコールおよび0.5〜5%の水の混合物である。
【0039】
好ましくは、本発明の第1の局面に係るプロセスは、シタグリプチン(01)またはシタグリプチンリン酸二水素塩(02)、好ましくはシタグリプチンリン酸二水素塩(02)の調製のためのプロセスである。
【0040】
本発明の第2の局面は、(Z)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブト−2−エン酸またはその塩のエステルを提供する。エステルは、好ましくは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルエステルであり、最も好ましくは、メチル (Z)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブト−2−エノエートまたはその塩である。
【0041】
本発明の第3の局面は、(3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸またはその塩のエステルを提供する。エステルは、好ましくは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルエステルであり、最も好ましくは、メチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートまたはその塩である。
【0042】
本発明の第4の局面は、(3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸またはその塩のエステルを提供する。エステルは、好ましくは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルエステルであり、最も好ましくは、メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートまたはその塩である。
【0043】
本発明の第5の局面は、本発明の第2、第3または第4の局面に係る化合物を含む、シタグリプチン(01)またはその薬学上許容される塩の調製のためのプロセスを提供する。好ましくは、シタグリプチン(01)は、そのリン酸二水素塩(02)の形態である。
【0044】
本発明の第6の局面は、本発明の第1〜第5の局面に係るプロセスによって調製されるシタグリプチン(01)、またはその薬学上許容される塩(リン酸二水素塩(02)など)を提供する。好ましくは、シタグリプチン(01)またはその薬学上許容される塩は、99%以上、99.5%以上、99.9%以上、または99.99%以上の鏡像異性純度(キラルHPLCで測定)、および99%以上、99.5%以上、99.9%以上、または99.99%以上の化学純度(HPLCで測定)を有する。
【0045】
本発明の第6の局面はさらに、99%以上、99.5%以上、99.9%以上、または99.99%以上の鏡像異性純度(キラルHPLCで測定)を有するシタグリプチン(01)、またはその薬学上許容される塩(リン酸二水素塩(02)など)を提供する。
【0046】
本発明の第6の局面はさらに、99%以上、99.5%以上、99.9%以上、または99.99%以上の化学純度(HPLCで測定)を有するシタグリプチン(01)、またはその薬学上許容される塩(リン酸二水素塩(02)など)を提供する。
【0047】
好ましくは、本発明の第6の局面に係るシタグリプチン(01)またはその薬学上許容される塩は、医学における使用、好ましくはジペプチジルペプチターゼ−IVの阻害剤が有効な疾病または症状の治療または予防、好ましくは糖尿病、高血糖症、インスリン抵抗性、肥満、または高血圧の治療または予防、好ましくは2型糖尿病を治療または予防するのに好適である。
【0048】
本発明の第7の局面は、本発明の第6の局面に係るシタグリプチン(01)またはその薬学上許容される塩を含有する医薬組成物を提供する。
【0049】
本発明の第8の局面は、ジペプチジルペプチターゼ−IVの阻害剤が有効な疾病または症状の治療または予防のための医薬の製造における、本発明の第6の局面に係るシタグリプチン(01)もしくはその薬学上許容される塩の使用、または本発明の第7の局面に係る医薬組成物の使用を提供する。好ましくは、本発明の第8の局面に係る使用は、糖尿病、高血糖症、インスリン抵抗性、肥満、または高血圧の治療または予防におけるものであり、より好ましくは2型糖尿病の治療または予防におけるものである。
【0050】
本発明の第9の局面は、治療的もしくは予防的に有効な量の本発明の第6の局面に係るシタグリプチン(01)もしくはその薬学上許容される塩、または治療的もしくは予防的に有効な量の本発明の第7の局面に係る医薬組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む、ジペプチジルペプチターゼ−IVの阻害剤が有効な疾病または症状を治療または予防する方法を提供する。好ましくは、当該方法は、糖尿病、高血糖症、インスリン抵抗性、肥満、または高血圧の治療または予防のためのものである。より好ましくは、当該方法は、2型糖尿病の治療または予防のためのものである。好ましくは、患者は哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0051】
必要であれば、本発明の第8の局面に係る使用、または本発明の第9の局面に係る方法において、シタグリプチン(01)またはその薬学上許容される塩は、1つ以上の他の活性薬剤成分と併用される。他の活性成分は、別々に、または同一の医薬組成物中に投与され得る。好ましくは、他の活性成分は、グリタゾン(トログリタゾン、ピオグリタゾン、エングリタゾンおよびロシグリタゾンなど)などのインスリン感受性改善薬;フェノフィブリン酸誘導体(ゲムフィブロジル、クロフィブラート、フェノフィブラートおよびベザフィブラートなど);ビグアニド(メトホルミンおよびフェンホルミンなど);スルホニル尿素(グリピジドなど);またはそれらの混合物から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩の調製のための先行技術のプロセスの概要を示す。
【図2】シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩の調製のための先行技術のプロセスの概要を示す。
【図3】シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩の調製のための先行技術のプロセスの概要を示す。
【図4】シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩の調製のための先行技術のプロセスの概要を示す。
【図5】シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩の調製のための本発明のプロセスの特に好ましい実施形態の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
発明の詳細な説明
本発明は、単純で、信頼性があり、便利で、商業的に許容されるプロセスによって、シタグリプチン遊離塩基(01)およびその塩を調製するためのプロセスを含む。当該プロセスは以下の利点を含む:
・使用する分割剤、好ましくはマンデル酸またはその誘導体の鏡像異性体が安価で容易に入手可能である。
【0054】
・プロセスが穏やかな反応条件下で実行可能である。
・分割ステップにおいて優れた鏡像異性純度が達成される(98〜99%以上、典型的に99.25〜99.75%以上)。
【0055】
・プロセスが便利で実行が容易である。
・鏡像異性的に富化されたβ−アミノエステルの単離が簡便である。
【0056】
・得られる鏡像異性的に富化されたβ−アミノエステルが、シタグリプチン(01)および/またはシタグリプチンリン酸二水素塩(02)などのその塩に変換されたとき、ICHガイドラインの要件を満たすのに十分高品質である。
【0057】
・プロセスが商業規模の製造に特に好適である。
本発明は、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体またはβ−アミノエステルを用いて、鏡像異性的に富化されたシタグリプチン遊離塩基(01)およびシタグリプチンリン酸二水素塩(02)を調製する、単純で、便利で、安価なプロセスを提供する。
【0058】
本発明の好ましい実施形態は、(R)−(−)−マンデル酸またはその誘導体などの酸分割剤を用いてラセミのβ−アミノエステル(04)を分割して、鏡像異性的に富化された(R)−β−アミノエステル(4a)を得るプロセスを含む。ここで、Rは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキル基である。
【0059】
他の好ましい酸分割剤は、酒石酸、カンファー−10−スルホン酸、カンファー−3−スルホン酸、3−ブロモ−カンファー−9−スルホン酸、2−ケト−グロン酸、α−メトキシフェニル酢酸、2−ニトロタルトラニル酸、リンゴ酸、2−フェノキシプロピオン酸、N−アセチルロイシン、N−(α−メチルベンジル)スクシンアミド酸、N−(α−メチルベンジル)フタルアミド酸、キナ酸、ジ−O−イソプロピリデン−2−オキソ−L−グロン酸、2−ヒドロキシ−4−イソプロペニル−l−メチル−シクロヘキサン−l−スルホン酸、もしくはそれらの誘導体の鏡像異性体、またはマンデル酸もしくはその誘導体の鏡像異性体である。好ましくは、マンデル酸の鏡像異性体は、(R)−(−)−マンデル酸である。
【0060】
好ましくは、得られた鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体またはβ−アミノエステルは、鏡像異性的に富化されたシタグリプチン塩基(01)またはそのリン酸二水素塩(02)に変換される。
【0061】
本発明の第1の局面の好ましい実施形態では、プロセスは、
(a)ラセミのβ−アミノ酸誘導体(03)をマンデル酸またはその誘導体の鏡像異性体で処理して、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体塩を得るステップと、
(b)鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体塩を任意に結晶化させるステップと、
(c)ステップ(a)または(b)で得られた鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体塩を、有機溶媒または水またはそれらの混合物中に溶解するか懸濁させ、溶液または懸濁液のpHを塩基で調整して、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体を得るステップとを含む。
【0062】
本発明の別の好ましい実施形態では、プロセスは、
(a)ラセミのβ−アミノエステル(04)を(R)−(−)−マンデル酸またはその誘導体で処理して、鏡像異性的に富化されたβ−アミノエステル(4a)塩、すなわちβ−アミノエステル(4a)(R)−(−)−マンデル酸塩またはその誘導体を得るステップ(ここで、Rは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキル基である。)と、
(b)鏡像異性的に富化されたβ−アミノエステル(4a)(R)−(−)−マンデル酸塩またはその誘導体を任意に結晶化させるステップと、
(c)ステップ(a)または(b)で得られた鏡像異性的に富化されたβ−アミノエステル(4a)(R)−(−)−マンデル酸塩またはその誘導体を、有機溶媒または水またはそれらの混合物中に溶解するか懸濁させ、溶液または懸濁液のpHを塩基で調整して、鏡像異性的に富化されたβ−アミノエステルを得るステップとを含む。
【0063】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、プロセスは、
(a)ラセミのメチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(29)またはその誘導体を(R)−(−)−マンデル酸またはその誘導体で処理して、鏡像異性的に富化されたメチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)またはその誘導体を得るステップと、
(b)鏡像異性的に富化されたメチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)またはその誘導体を任意に結晶化させるステップと、
(c)ステップ(a)または(b)で得られた鏡像異性的に富化されたメチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)またはその誘導体を、有機溶媒または水またはそれらの混合物中に溶解するか懸濁させ、溶液または懸濁液のpHを塩基で調整して、鏡像異性的に富化されたメチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(31)を得るステップとを含む。
【0064】
好ましくは、これらの好ましい実施形態のステップ(a)で使用するマンデル酸またはその誘導体の鏡像異性体などの酸分割剤は、ラセミのβ−アミノ酸誘導体(03)に対して、またはラセミのβ−アミノエステル(04)に対して0.4〜10当量、好ましくは0.5〜2.05当量使用される。
【0065】
好ましくは、これらの好ましい実施形態のステップ(a)は、水の存在下または非存在下、有機溶媒中で実行される。好ましくは、これらの好ましい実施形態のステップ(b)において、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体またはβ−アミノエステル塩は、水の存在下または非存在下で有機溶媒から結晶化する。有機溶媒は、プロトン性または非プロトン性溶媒であり得る。好ましくは、有機溶媒は、アルコール、ケトン、エーテル、アルカン、シクロアルカン、ホルムアミド、酢酸エステル、ハロゲン化溶媒またはそれらの混合物である。
【0066】
好ましい実施形態のステップ(b)は、典型的に、アルコールと少なくとも0.10〜15%の水を含有する溶媒混合物からの結晶化を含む。
【0067】
これらの好ましい実施形態のステップ(c)は、典型的に、有機溶媒または水またはそれらの混合物中で実行される。
【0068】
好ましくは、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体またはβ−アミノエステル塩は、酒石酸、カンファー−10−スルホン酸、カンファー−3−スルホン酸、3−ブロモ−カンファー−9−スルホン酸、2−ケト−グロン酸、α−メトキシフェニル酢酸、2−ニトロタルトラニル酸、リンゴ酸、2−フェノキシプロピオン酸、N−アセチルロイシン、N−(α−メチルベンジル)スクシンアミド酸、N−(α−メチルベンジル)フタルアミド酸、キナ酸、ジ−O−イソプロピリデン−2−オキソ−L−グロン酸、2−ヒドロキシ−4−イソプロペニル−l−メチル−シクロヘキサン−l−スルホン酸、O,O’−ジ−p−トルオイル−(L)−酒石酸(O,O’−ジ−p−トルオイル−(L)−酒石酸一水和物を含む)、O,O’−ジベンゾイル−(L)−酒石酸、マンデル酸、(R)−3−クロロ−マンデル酸、または(R)−3−ブロモ−マンデル酸の塩である。より好ましくは、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体またはβ−アミノエステル塩は、(R)−(−)−マンデル酸またはその誘導体の塩である。
【0069】
好ましくは、これらの好ましい実施形態のステップ(c)で使用する塩基は、有機または無機塩基である。好ましくは、有機塩基は、アミン、好ましくはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、シクロヘキシルアミン、またはそれらの混合物であり、好ましくはN,N−ジイソプロピルエチルアミンである。好ましくは、無機塩基は、アンモニア、金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくは水酸化リチウムなど)、金属炭酸化物(炭酸ナトリウム、炭酸リチウムもしくは炭酸カルシウムなど)、またはそれらの混合物である。好ましくは、溶液または懸濁液のpHは4〜9、好ましくは8〜9に調整される。好ましくは、ステップ(c)は、0〜30℃、好ましくは20〜30℃の温度で実行される。
【0070】
本発明のプロセスのすべての実施形態において、好ましくは、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体、β−アミノエステル、シタグリプチンおよびその塩は工業規模で、好ましくは0.5kg以上、lkg以上、10kg以上、または50kg以上の単位で調製される。
【0071】
本発明のプロセスのすべての実施形態において、好ましくは、反応全体にわたる温度は、100℃未満、好ましくは90℃未満である。
【0072】
本発明のプロセスのすべての実施形態において、好ましくは、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体およびβ−アミノエステルは、少なくとも60%〜65%のモル収率で得られる。
【0073】
好ましくは、得られた鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体塩およびβ−アミノエステル塩は、93%以上、95%以上、97%以上、98.5%以上、または99.9%以上の鏡像異性純度(キラルHPLCで測定)を有する。好ましくは、得られた鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体塩およびβ−アミノエステル塩は、95%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、または99.9%以上の化学純度(HPLCで測定)を有する。
【0074】
好ましくは、得られた鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体およびβ−アミノエステルは、93%以上、95%以上、97%以上、98.5%以上、または99.9%以上の鏡像異性純度(キラルHPLCで測定)を有する。好ましくは、得られた鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸誘導体およびβ−アミノエステルは、95%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、または99.9%以上の化学純度(HPLCで測定)を有する。
【0075】
好ましくは、シタグリプチン遊離塩基(01)、およびリン酸二水素塩(02)などのその塩は、99%以上、99.5%以上、99.9%以上、または99.99%以上の鏡像異性純度(キラルHPLCで測定)、および99%以上、99.5%以上、99.9%以上、または99.99%以上の化学純度(HPLCで測定)で調製される。
【0076】
シタグリプチンの調製のための本発明のプロセスの特に好ましい実施形態の概要が、スキーム5に示される。
【0077】
本発明の好ましい実施形態は、以下のステップを含む。
(1)メルドラム付加物(19)の調製。
【0078】
(2)メチル 4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)アセトアセテート(21)の調製。
【0079】
(3)メチル (Z)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブト−2−エノエート(28)の調製。
【0080】
(4)ラセミのメチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(29)の調製。
【0081】
(5)ラセミのメチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(29)の分割。
【0082】
(6)(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸(07)の調製。
【0083】
(7)7−[(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブタノイル]−3−(トリフルオロメチル)−5,6,7,8−テトラヒドロ−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(12)の調製。
【0084】
(8)鏡像異性的に富化されたシタグリプチン遊離塩基(01)の調製。
(1)メルドラム付加物(19)の調製
メルドラム付加物の形成は、文献で報告されたプロセスを用いて実行した。2,4,5−トリフルオロフェニル酢酸(18)を酸活性化グループで、好ましくはN,N’−カルボニルジイミダゾール(CDI)で、好ましくはエーテル性溶媒中で処理して、複合体を形成した。複合体をメルドラム酸でさらに処理し、一連の反応を25〜55℃の温度範囲で実行した。メルドラム付加物を、溶媒の完全除去、反応混合物の酸性化、ハロゲン化溶媒を用いた抽出、水での有機層の洗浄、および溶媒を蒸留して生成物を提供することを好ましくは含む、水性ワークアップ手順によって、さらに単離した。
【0085】
(2)メチル 4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)アセトアセテート(21)の調製
メルドラム付加物(19)をアルコール溶媒で、好ましくはメタノールで、高温で、好ましくは60〜65℃で処理した。形成したエステルを、溶媒の完全除去、反応混合物の塩基性化、ハロゲン化溶媒を用いた抽出、水での有機層の洗浄、および溶媒を蒸留して生成物を提供することを好ましくは含む、水性抽出ワークアップ手順によって、さらに単離した。
【0086】
(3)メチル (Z)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブト−2−エノエート(28)の調製
メチル 4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)アセトアセテート(21)を、アルコール溶媒、好ましくはメタノール中で、好ましくは高温で、好ましくは60〜65℃で、無水酢酸アンモニウムで処理した。形成したメチル (Z)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブト−2−エノエート(28)を、好ましくは、減圧下での溶媒の完全除去、酢酸エチルなどの極性有機溶媒を用いた過剰酢酸アンモニウムの分離、極性有機溶媒の蒸留、およびヘキサンなどの非極性溶媒での生成物のトリチュレーションによって単離した。
【0087】
(4)ラセミのメチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(29)の調製
メチル (Z)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブト−2−エノエート(28)を、水素化ホウ素アルカリ金属などの還元剤で還元することによって、ラセミのメチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(29)を調製した。還元剤は、好ましくはシアノ水素化ホウ素ナトリウムである。還元は、好ましくは有機プロトン性溶媒またはエーテル性溶媒の存在下で行なう。この反応の温度は、好ましくは、シアノ水素化ホウ素ナトリウムの添加時に0〜−5℃未満であるべきである。また、水除去剤を用いることによって、反応時に存在する水の量を厳重に管理すべきである。この反応に用いるシアノ水素化ホウ素ナトリウムの量は、好ましくは0.5〜10当量である。
【0088】
(5)メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(31)の調製
ラセミのアミン(29)の分割は2つまたは3つの段階を含む。
【0089】
(a)メチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(29)を、(R)−(−)−マンデル酸またはその誘導体などの酸分割剤で処理して、(R)−(−)−マンデル酸塩などの、鏡像異性的に富化された粗メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートの塩を得る。
【0090】
(b)鏡像異性的に富化された粗メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートの塩を任意に結晶化させて、(R)−(−)−マンデル酸塩(30)などの、鏡像異性的に富化された純メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートの塩を得る。
【0091】
(c)ステップ(a)または(b)から得られたメチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)またはその誘導体などの、鏡像異性的に富化された塩を、有機溶媒または水またはそれらの混合物中に溶解するか懸濁させ、溶液または懸濁液のpHを塩基で調整して、鏡像異性的に富化されたメチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(31)を得る。
【0092】
好ましくは、これらの好ましい実施形態のステップ(a)で使用する、たとえば(R)−(−)−マンデル酸またはその誘導体などの酸分割剤は、ラセミのメチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(29)に対して0.4〜10当量、好ましくは0.5〜2.05当量使用される。
【0093】
ステップ(a)において、酸分割剤は、固体として、または溶液で、メチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(29)の溶液または懸濁液に添加され得る。好ましい溶液は、有機プロトン性もしくは非プロトン性溶媒中で、有機プロトン性もしくは非プロトン性溶媒の混合物中で、水中で、または1つ以上の有機プロトン性もしくは非プロトン性溶媒と水の混合物中で調製される。好ましくは、有機プロトン性または非プロトン性溶媒は、アルコール、ケトン、エーテル、アルカン、シクロアルカン、ホルムアミド、酢酸エステル、ハロゲン化溶媒またはそれらの混合物である。好ましくは、(R)−(−)−マンデル酸溶液は、イソプロパノール中で調製される。
【0094】
(R)−(−)−マンデル酸などの酸分割剤の添加のための好ましい温度は、−10〜90℃、好ましくは25〜30℃である。
【0095】
(R)−(−)−マンデル酸などの酸分割剤を添加した後、反応混合物を、好ましくは、−10〜90℃、好ましくは−10〜30℃、より好ましくは25〜30℃の温度で攪拌して、澄明な溶液を得る。澄明な溶液を、好ましくは5分〜10時間攪拌し、好ましくは−10〜30℃の温度で5分〜10時間、好ましくは25〜30℃で約3〜4時間攪拌して、メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩などの鏡像異性的に富化された塩を析出させる。鏡像異性的に富化された塩を、好ましくは濾過によって単離し、好ましくはイソプロパノールで洗浄し、好ましくは、真空オーブン内で40〜60℃、より好ましくは40〜45℃の温度で約4〜5時間乾燥させる。
【0096】
好ましい分割手順では、ステップ(a)において、ラセミのメチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(29)を(R)−(−)−マンデル酸で処理して、93〜99%の鏡像異性純度(キラルHPLCで測定したR−異性体)を有する、鏡像異性的に富化された粗メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)を得る。鏡像異性的に富化された粗メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)のモル収率は、好ましくは少なくとも60〜65%である。ステップ(b)の間、鏡像異性的に富化された粗メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)の鏡像異性純度を最大99.75〜100%(キラルHPLCで測定したR−異性体)まで高めて、鏡像異性的に富化された純メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)を得る。
【0097】
好ましくは、これらの好ましい実施形態のステップ(a)およびステップ(b)は、任意に水の存在下で有機溶媒中で実行される。有機溶媒は、プロトン性または非プロトン性溶媒であり得る。好ましくは、有機溶媒は、アルコール、ケトン、エーテル、アルカン、シクロアルカン、ホルムアミド、酢酸エステル、ハロゲン化溶媒またはそれらの混合物である。溶媒は好ましくはアルコールであり、好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、4−ペンテン−2−オール、1,6−ヘキサンジオール、1−ヘキサノール、5−ヘキセン−l−オール、グリセロール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、または3−オクタノールまたはそれらの混合物から選択される。溶媒は、最も好ましくはイソプロパノールである。
【0098】
好ましくは、これらの好ましい実施形態のステップ(a)およびステップ(b)において、溶媒混合物は、50:50〜99.9:0.1の比率の、好ましくは80:20〜99.9:0.1の比率のアルコール:水を含有する。好ましい溶媒混合物は、80:20〜99.9:0.1の比率のイソプロパノール:水である。
【0099】
これらの好ましい実施形態のステップ(c)は、有機溶媒または水またはそれらの混合物中で、好ましくは溶媒としての水中で実行される。
【0100】
メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(31)などの鏡像異性的に富化されたβ−アミノエステルは、好ましくは、有機溶媒中の塩基性化および抽出、ならびに40〜60℃、好ましくは40〜45℃で有機溶媒の蒸留によって単離される。メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(31)などの、得られた鏡像異性的に富化されたβ−アミノエステルの鏡像異性純度は、好ましくは99.5%以上、99.8%以上、99.9%以上、または99.99%以上(キラルHPLCで測定)である。得られた鏡像異性的に富化されたβ−アミノエステルのモル収率は、好ましくは90%以上である。
【0101】
鏡像異性的に富化されたβ−アミノエステル塩の溶液または懸濁液を塩基性化するために、pHは4〜9、好ましくは8〜9に調整される。pHは好ましくは、有機または無機塩基を用いて調整される。好ましい有機塩基は、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、またはシクロヘキシルアミン、好ましくはN,N−ジイソプロピルエチルアミンである。好ましい無機塩基は、アンモニア;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウムなどの金属炭酸化物;およびそれらの混合物である。最も好ましい塩基は炭酸ナトリウムである。
【0102】
pHは好ましくは、−10〜30℃、好ましくは20〜25℃の温度で調整される。
分割剤として(R)−(−)−マンデル酸を使用する上述の条件と同様の反応条件に従うことによって、酒石酸もしくはその誘導体(O,O’−ジ−p−トルオイル−(L)−酒石酸(O,O’−ジ−p−トルオイル−(L)−酒石酸一水和物を含む)もしくはO,O’−ジベンゾイル−(L)−酒石酸など)の鏡像異性体、またはマンデル酸の誘導体((R)−3−クロロ−マンデル酸もしくは(R)−3−ブロモ−マンデル酸など)の鏡像異性体、またはカンファー−10−スルホン酸、カンファー−3−スルホン酸、3−ブロモ−カンファー−9−スルホン酸、2−ケト−グロン酸、α−メトキシフェニル酢酸、2−ニトロタルトラニル酸、リンゴ酸、2−フェノキシプロピオン酸、N−アセチルロイシン、N−(α−メチルベンジル)スクシンアミド酸、N−(α−メチルベンジル)フタルアミド酸、キナ酸、ジ−O−イソプロピリデン−2−オキソ−L−グロン酸、2−ヒドロキシ−4−イソプロペニル−l−メチル−シクロヘキサン−l−スルホン酸、もしくはそれらの誘導体の鏡像異性体を用いて、分割が達成され得る。
【0103】
分割剤として(R)−(−)−マンデル酸を用いる上述の条件と同様の反応条件に従うことによって、ラセミのβ−アミノ酸誘導体、ラセミのβ−アミノエステルおよびラセミのメチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートの分割のために(S)−(+)−マンデル酸を用いて、(S)−β−アミノ酸誘導体、(S)−β−アミノエステルおよびメチル (3S)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートを得ることができる。メチル (3S)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートは、(S)−シタグリプチンおよびそのリン酸二水素塩に変換可能である。
【0104】
上述の条件と同様の反応条件に従うことによって、ラセミのβ−アミノ酸誘導体(03)の分割も達成され得る。
【0105】
(6)(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸(07)の調製
鏡像異性的に富化されたメチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(31)を、加水分解および保護によって、(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸(07)に変換した。好ましくは、加水分解および保護はこの順序で、好ましくはワンポット反応として実行される。メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(31)を、好ましくは、水の存在下または非存在下で、エーテル性溶媒、より好ましくはテトラヒドロフラン中、金属水酸化物、好ましくは水酸化リチウムを用いて加水分解した。この反応のための好ましい温度および時間は、0〜65℃で5分〜15時間、より好ましくは25〜3O℃で8〜10時間である。加水分解が完了した後、好ましくはジ−tert−ブチルピロカルボナートを用いてアミノ基を保護した。アミノ保護は、0〜45℃で15分〜10時間、より好ましくは25〜30℃で5〜6時間実行した。生成物を、好ましくは、溶媒の除去、NaHSOなどの塩基を用いてpHを約2に調整すること、酢酸エチルなどの有機溶媒中での抽出、有機層の洗浄、および溶媒の蒸留などの水性抽出ワークアップ手順によって単離することで、生成物を得た。
【0106】
(7)7−[(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブタノイル]−3−(トリフルオロメチル)−5,6,7,8−テトラヒドロ−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(12)の調製
(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸(07)を3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[4,3−a]ピラジン塩酸塩(11)とカップリングさせて、Boc保護シタグリプチン遊離塩基、7−[(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)−ブタノイル]−3−(トリフルオロメチル)−5,6,7,8−テトラヒドロ−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(12)を得た。カップリングは好ましくは、EDC−HCl、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールなどのカップリング剤、およびN,N−ジイソプロピルエチルアミンなどの好適な塩基を用いて実行した。カップリングは好ましくは、0〜30℃で1〜12時間、好ましくは25〜30℃で8〜10時間、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性溶媒中で実行した。Boc保護シタグリプチン遊離塩基(12)を、好ましくは、減圧下、50〜55℃でのN,N−ジメチルホルムアミドの除去、その後の好ましくは炭酸ナトリウムを用いた塩基性化、および酢酸エチルなどの有機溶媒中への生成物の抽出を好ましくは含む水性ワークアップ手順によって単離した。Boc保護シタグリプチン遊離塩基(12)を、好ましくは、減圧下で有機溶媒の除去によって単離して白色固体を得て、これを好ましくはヘキサンなどの非極性溶媒でトリチュレーションした。
【0107】
(8)鏡像異性的に富化されたシタグリプチン遊離塩基(01)の調製
Boc保護シタグリプチン遊離塩基(12)を、好ましくは、塩酸またはトリフルオロ酢酸などの酸性剤を用いて脱保護した。脱保護は好ましくは、塩酸の存在下で、0〜65℃で、より好ましくは25〜45℃で、好ましくはアルコール性反応溶媒、好ましくはメタノール中で実行した。シタグリプチン遊離塩基(01)を、好ましくは、減圧下での反応溶媒の蒸留、その後の炭酸ナトリウムなどの塩基を用いた塩基性化、酢酸エチルなどの有機溶媒中での抽出、有機層の洗浄および除去を典型的に含む水性ワークアップ手順によって単離した。得られた粗生成物を、オルトリン酸を用いた酸塩基処理によってさらに精製して、シタグリプチン遊離塩基をオフホワイト固体として得ることができ、これは、トルエンなどの溶媒を用いた処理によって結晶固体に変換可能である。
【0108】
鏡像異性的に富化されたシタグリプチン遊離塩基(01)は、当業者に公知の従来の方法によって、シタグリプチンリン酸二水素塩(02)などの任意の塩に変換可能である。
【0109】
類似の態様で、本明細書中で(S)−シタグリプチンと称されるシタグリプチンの鏡像異性体は、酸分割剤として(S)−(+)−マンデル酸を用いて調製され得る。(S)−シタグリプチン塩基および(S)−シタグリプチンリン酸二水素塩を調製する好ましい方法は、(S)−(+)−マンデル酸を用いて得られたメチル (3S)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートから始まる本明細書中に記載の方法と類似の方法を用いる。
【0110】
本発明の第7の局面に係る医薬組成物は溶液または懸濁液であり得るが、好ましくは固形の経口投薬形態である。本発明に従った好ましい経口投薬形態は、所望であれば任意にコーティングされ得る錠剤、カプセル剤などを含む。錠剤は、直接圧縮、湿式造粒および乾式造粒を含む従来の技術によって調製され得る。カプセル剤は一般にゼラチン材料から形成され、本発明に従って従来通りに調整された賦形剤の顆粒を含み得る。
【0111】
本発明に係る医薬組成物は典型的に、充填剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤からなる群から選択される1つ以上の従来の薬学上許容される賦形剤を含有し、着色剤、吸着剤、界面活性剤、塗膜形成剤および可塑剤から選択される少なくとも1つの賦形剤を任意にさらに含有する。
【0112】
固形製剤処方がコーティング錠の形態である場合、コーティングは、ポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、クエン酸トリエチルなどの少なくとも1つの可塑剤を任意に含み得る、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースまたはメタクリル酸ポリマーなどの少なくとも1つの塗膜形成剤、および顔料や充填剤などの塗膜コーティング用として慣用な他の医薬補助物質から調製され得る。
【0113】
好ましくは、本発明に係る医薬組成物は、シタグリプチンの投与量が1日当たり1kg当たり0.1mg〜100mgであるように、1mg〜500mgの量のシタグリプチンを含有する単位投与量形態である。
【0114】
本発明の第7の局面に係る医薬組成物は、ジペプチジルペプチターゼ−IVの阻害剤が有効な疾病および症状の治療および予防における使用のためのものである。好ましくは、その使用は、糖尿病、高血糖症、インスリン抵抗性、肥満および高血圧の治療におけるものである。より好ましくは、その使用は、2型糖尿病の治療におけるものである。
【0115】
シタグリプチンまたはその塩は、他の活性成分と併用可能である。本発明の化合物と併用して、および別々に、または同一の医薬組成物中で投与され得る他の活性成分の例は、他のジペプチジルペプチターゼIV(DP−IV)阻害剤;グリタゾン(トログリタゾン、ピオグリタゾン、エングリタゾンおよびロシグリタゾンなど)などのインスリン感受性改善薬;フェノフィブリン酸誘導体(ゲムフィブロジル、クロフィブラート、フェノフィブラートおよびベザフィブラートなど);ビグアニド(メトホルミンおよびフェンホルミンなど);スルホニル尿素(グリピジドなど);またはそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0116】
本発明の詳細、その目的および利点を、非制限的な例によって以下により詳細に説明する。
【実施例】
【0117】
メルドラム付加物(19)
2,4,5−トリフルオロフェニル酢酸(500.0gm、2.63mol)(18)を25〜30℃でテトラヒドロフラン(5.26vol、2.63Ltr)中に懸濁させ、反応混合物を10〜15分間攪拌した。この澄明な溶液に対して、1,1’−カルボニルジイミダゾール(1.5当量、639.68gm)を4ロットに分けて加え、反応混合物を25〜30℃で2〜3時間攪拌した。2〜3時間の攪拌の後、メルドラム酸(1.2当量、454.87gm)を加え、反応混合物を50〜55℃で6時間加熱した。50〜55℃で6時間加熱した後、テトラヒドロフランを減圧下、50〜55℃で完全に蒸留して、暗黄色の残渣を得た。暗黄色の残渣を、0〜5℃で35%塩酸:水の1:1混合物(0.5vol、250.0ml)を用いて酸性化した。ジクロロメタン(3×5.0vol、3×2.5Ltr)を用いて、水溶液から生成物を抽出した。合わせたジクロロメタン層を、水(3×10.0vol、3×5.0Ltr)でさらに洗浄した。水で洗浄した後、ジクロロメタンを減圧下で完全に蒸留して、綿毛状の暗黄色の固体を得た。生成物を、0〜5℃でメタノール(2.0vol、1.0Ltr)でさらに洗浄した。
【0118】
モル収率:60〜65%(505.0gm)
化学純度:98〜99.5%(HPLCで測定)
【0119】
メチル 4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)アセトアセテート(21)
メルドラム付加物(500.0gm、1.58mol)(19)を25〜30℃でメタノール(10.0vol、5.0Ltr)に加え、この部分的に澄明な溶液を60〜63℃で3〜4時間還流させた。3〜4時間還流させた後、減圧下、45〜50℃でメタノールを完全に蒸留して、淡黄色の残渣を得た。淡黄色の残渣を、5%の炭酸ナトリウム溶液(10.0vol、5.0Ltr)でさらに処理して、pHを7〜8に調整した。pHを調整した後、生成物をジクロロメタン(2×10.0vol、2×5.0Ltr)中に抽出した。合わせたジクロロメタン層を、水(3×2.5vol、3×1.25Ltr)でさらに洗浄した。ジクロロメタンを減圧下で蒸留して、淡黄色の油状生成物を得た。
【0120】
モル収率:85〜90%(350.0gm)
化学純度:93〜95%(HPLCで測定)
【0121】
メチル (Z)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブト−2−エノエート(28)
メチル 4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)アセトアセテート(350.0gm、1.42mol)(21)および酢酸アンモニウム(6.0当量、657.0gm)をメタノール(5.0vol、1.75Ltr)に加え、この溶液を60〜63℃で5〜6時間還流させた。5〜6時間還流させた後、メタノールを完全に蒸留して、淡黄色の残渣を得た。淡黄色の残渣を、25〜30℃で酢酸エチル(20.0vol、7.0Ltr)でさらに攪拌した。析出した酢酸アンモニウムを濾過し、酢酸エチルを完全に蒸留して、淡黄色の生成物を得た。生成物をヘキサン(10.0vol、3.5Ltr)で、25〜30℃で1時間さらに攪拌し、濾過し、45〜50℃で4〜5時間、減圧下で乾燥させた。
【0122】
モル収率:85〜90%(325.0gm)
化学純度:96〜97%(HPLCで測定)
【0123】
メチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(29)
メチル (Z)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブト−2−エノエート(350.0gm、1.42mol)(28)を25〜30℃でメタノール(10.0vol、3.5Ltr)に加え、反応物を10〜15分間攪拌して澄明な溶液を得た。この澄明な淡黄色溶液に対して、0〜−10℃で硫酸(70.0ml、0.2vol)を制御添加し、この澄明な溶液を0〜−10℃で10〜15分間攪拌した。0〜−10℃で10〜15分間攪拌した後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(2.0当量、170.0gm)を10ロットに分けて加えた。この澄明な白色懸濁液を0〜−10℃で2時間攪拌した。メタノールを減圧下で45〜50℃で完全に蒸留して、淡黄色の残渣を得た。淡黄色の残渣を、0〜5℃で35%塩酸:水の1:1混合物でさらに処理し、pH2とした。懸濁液を0〜5℃で10〜15分間攪拌し、懸濁液を20%炭酸ナトリウムを用いてさらに塩基性化して、pH8〜9とした。生成物を酢酸エチル(2×10.0vol、2×3.5Ltr)中に抽出した。合わせた酢酸エチル層を、水(3×10.0vol、3×3.5Ltr)で洗浄した。酢酸エチルの蒸留によって生成物を単離して、淡黄色油状物を得た。
【0124】
モル収率:75〜80%(268gm)
化学純度:78〜85%(HPLCで測定)
【0125】
メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)
メチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(260gm、1.05mol)(29)を25〜30℃でイソプロパノール(6.0vol、1.56Ltr)に加え、反応混合物を15分間攪拌して澄明な溶液を得た。15分間の攪拌の後、(R)−(−)−マンデル酸[2.0当量、6.0vol中320gm、1.56Ltrのイロプロパノール]の制御添加を実行した。添加が完了した後、反応混合物を25〜30℃で3時間攪拌して、鏡像異性的に富化された粗メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩を白色生成物として得た。生成物を濾過し、イソプロパノール(1.0vol、260ml)で洗浄し、真空オーブン内で40〜45℃で4〜5時間乾燥させて、鏡像異性的に富化された粗メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(135gm、モル収率:64%)を得た。乾燥した鏡像異性的に富化された粗メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩生成物(135gm)を25〜30℃でイソプロパノール(20.0vol、2.7Ltr)に加え、この白色懸濁液を75〜80℃で0.5時間さらに加熱して、部分的に澄明な溶液を得た。部分的に澄明な溶液を、75〜80℃で水(2.0vol、270.0ml)を添加することによって澄明にした。澄明な溶液を、0.5時間さらに攪拌した。0.5時間攪拌した後、澄明な溶液を3時間以内に0〜5℃まで徐々に冷却して、鏡像異性的に富化された純メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)を白色生成物として得た。生成物を濾過し、イソプロパノール(1.0vol、135.0ml)で洗浄し、真空オーブン内で40〜45℃で4〜5時間乾燥させた。
【0126】
モル収率:80〜85%(113gm)
化学純度:98〜99.5%(HPLCで測定)
鏡像異性純度:99.25〜99.75%(キラルHPLCで測定)
【0127】
メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(31)
メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(R)−(−)−マンデル酸塩(30)(113.0gm)を水(10.0vol、1.13Ltr)に入れ、この懸濁液を10〜15分間攪拌した。反応混合物のpHが8〜9に達するまで、10%NaCO溶液(1.0vol、113.0ml)を用いて懸濁液をさらに塩基性化した。生成物を酢酸エチル(2×10.0vol、2×1.13Ltr)中に抽出した。合わせた酢酸エチル層を、水(2×10.0vol、2×1.13Ltr)でさらに洗浄した。45〜50℃で減圧下、酢酸エチルを完全に蒸留して、生成物を淡黄色油状物として単離した。
【0128】
モル収率:90〜95%(65.0gm)
化学純度:99〜99.5%(HPLCで測定)
鏡像異性純度:99.25〜99.75%(キラルHPLCで測定)
【0129】
(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸(07)
メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート(76.0gm)(31)を25〜30℃でテトラヒドロフラン(5.0vol、380.0ml)および水(5.0vol、380.0ml)に加えた。この澄明な淡黄色溶液を0〜5℃でさらに冷やした。この澄明な淡黄色溶液に対して、水酸化リチウム(3.0当量、38.73gm)を0〜5℃で加え、反応混合物を25〜30℃で9〜10時間攪拌した。9〜10時間攪拌した後、ジ−tert−ブチルピロカルボナート(3.0当量、202.0gm)を25〜30℃で反応混合物に加えた。この白色懸濁液を6時間攪拌して、その後、テトラヒドロフランを完全に蒸留することで、オフホワイト残渣を得た。残渣を10%NaHSO溶液(5.0vol、380ml)でさらに処理して、pH2とした。生成物を酢酸エチル(2×10.0vol、2×760ml)中に抽出した。合わせた酢酸エチル層を、水(2×10.0vol、2×760ml)で洗浄した。40〜45℃で減圧下、酢酸エチルを完全に蒸留して、白色生成物を単離した。白色生成物をヘキサン(10.0vol、760.0ml)でさらにトリチュレーションし、濾過し、真空オーブン内で40〜45℃で4〜5時間乾燥させた。
【0130】
モル収率:80〜85%(100.0gm)
化学純度:96〜98%(HPLCで測定)
【0131】
7−[(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノイル]−3−(トリフルオロメチル)−5,6,7,8−テトラヒドロ−1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピラジン(12)
N,N−ジメチルホルムアミド(4.0vol、160.0ml)中の3−トリフルオロメチル−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[4,3−a]ピラジン塩酸塩(11)(1.0当量、28.0gm)、ジイソプロピルエチルアミン(2.0当量、31.0gm)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1.2当量、22.0gm)、およびEDC−HCl(1.2当量、28.0gm)の溶液に、N,N−ジメチルホルムアミド(4.0vol、160.0ml)中の(3R)−3−[N−(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸(07)(40.0gm、0.12mol)の溶液を0〜5℃で1時間以内に加えた。この澄明な淡黄色溶液を25〜30℃で12時間さらに攪拌した。12時間の攪拌の後、減圧下、55〜65℃でN,N−ジメチルホルムアミドを完全に蒸留して、褐色の残渣を得た。褐色の残渣を10%NaCO溶液(1.0vol、40.0ml)でさらに塩基性化し、生成物を酢酸エチル(3×10.0vol、3×400.0ml)中に抽出した。合わせた酢酸エチル層を水で洗浄し、活性炭処理して濾過し、酢酸エチルを完全に蒸留して、白色生成物を得た。生成物をヘキサン(10.0vol、400.0ml)でトリチュレーションし、25〜30℃で濾過した。粗Boc保護シタグリプチン遊離塩基(12)を、イソプロパノール(20.0vol)と水(2.0vol)の混合物から結晶化させることによってさらに精製した。
【0132】
モル収率:75〜81%(56gm)
化学純度:95〜97%(HPLCで測定)
【0133】
シタグリプチン遊離塩基(01)
Boc保護シタグリプチン(22.0gm、0.043mol)(12)をメタノール(10vol、220.0ml)に入れた。この懸濁液を15分間攪拌して、部分的に澄明な溶液を得た。部分的に澄明な溶液に、25%塩酸メタノール溶液(1.0vol、22.0ml)を25〜30℃で添加した。反応混合物を25〜30℃で10時間攪拌した。25〜30℃で10時間攪拌した後、反応混合物を40〜45℃まで2時間温めた。減圧下、40〜45℃でメタノールを完全に蒸留して、粘着性の白色残渣を得た。粘着性の残渣を10%炭酸ナトリウム(10.0vol、220.0ml)を用いて塩基性化し、シタグリプチン遊離塩基(01)を酢酸エチル(3×10.0vol、3×220.0ml)中に抽出した。合わせた酢酸エチル層を水(3×10.0vol、3×220.0ml)で洗浄し、減圧下、40〜45℃で完全に蒸留して、粘着性の褐色油状物を得た。この油状物を、HPOを用いる酸塩基精製法によってさらに精製して、流動性のオフホワイト色固体を得た。オフホワイト色固体をトルエン(20.0vol、440.0ml)からさらに結晶化させて、純シタグリプチン遊離塩基(01)を得た。
【0134】
モル収率:80〜85%(15.0gm)
化学純度:97〜99%(HPLCで測定)
鏡像異性純度:99.85〜100%(キラルHPLCで測定)
【0135】
シタグリプチン遊離塩基(01)の塩は、引用によって本明細書中に含まれる先行技術に開示されている公知の方法を用いて容易に調製され得る。
【0136】
本発明はほんの一例として上記で説明されたことが理解されるであろう。実施例は、本発明の範囲を制限することを意図していない。以下の請求項によってのみ定義される本発明の範囲および思想から逸脱することなく、さまざまな変更および実施形態が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸分割剤を用いたラセミのβ−アミノ酸またはその誘導体の分割を含む、シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩の調製のためのプロセス。
【請求項2】
前記β−アミノ酸誘導体はエステルまたはアミドである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記β−アミノ酸誘導体はエステルである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記β−アミノ酸誘導体はアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルエステルである、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記β−アミノ酸誘導体はC−Cアルキルエステル、またはベンジルエステル、または置換ベンジルエステルである、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記β−アミノ酸誘導体はC−Cアルキルエステルである、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記β−アミノ酸誘導体はメチルまたはエチルエステルである、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記β−アミノ酸誘導体はメチルエステルである、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記β−アミノ酸は3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタン酸またはその誘導体である、請求項1〜8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
前記誘導体はエステルである、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記エステルはメチル 3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエートである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記分割剤は、マンデル酸、酒石酸、カンファー−10−スルホン酸、カンファー−3−スルホン酸、3−ブロモ−カンファー−9−スルホン酸、2−ケト−グロン酸、α−メトキシフェニル酢酸、2−ニトロタルトラニル酸、リンゴ酸、2−フェノキシプロピオン酸、N−アセチルロイシン、N−(α−メチルベンジル)スクシンアミド酸、N−(α−メチルベンジル)フタルアミド酸、キナ酸、ジ−O−イソプロピリデン−2−オキソ−L−グロン酸、2−ヒドロキシ−4−イソプロペニル−l−メチル−シクロヘキサン−l−スルホン酸、またはそれらの誘導体の鏡像異性体である、請求項1〜11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
前記分割剤はマンデル酸の鏡像異性体である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記分割剤は(R)−(−)−マンデル酸または(S)−(+)−マンデル酸である、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
(a)ラセミのβ−アミノ酸またはその誘導体を、酸分割剤、好ましくは(R)−(−)−マンデル酸またはその誘導体で処理して、鏡像異性的に富化された塩を得るステップと、
(b)鏡像異性的に富化された前記塩を任意に結晶化させるステップと、
(c)ステップ(a)または(b)で得られた鏡像異性的に富化された前記塩を、有機溶媒または水またはそれらの混合物中に溶解するか懸濁させ、その溶液または懸濁液のpHを塩基で調整して、鏡像異性的に富化されたβ−アミノ酸またはその誘導体を得るステップとを含む、請求項1〜14のいずれかに記載のプロセス。
【請求項16】
ステップ(c)で使用する前記塩基は、有機塩基、無機塩基またはそれらの混合物から選択される、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
ステップ(c)で使用する前記塩基は有機塩基である、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記有機塩基はアミンである、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記アミンは、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、シクロヘキシルアミン、またはそれらの混合物から選択される、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
ステップ(c)で使用する前記塩基は無機塩基である、請求項16に記載のプロセス。
【請求項21】
前記無機塩基は、アンモニア、金属水酸化物、金属炭酸化物、またはそれらの混合物である、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムもしくは水酸化リチウムであり、および/または前記金属炭酸化物は、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムもしくは炭酸カルシウムである、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
ステップ(a)は、任意に水の存在下で、有機溶媒中で実行される、請求項15〜22のいずれかに記載のプロセス。
【請求項24】
前記有機溶媒は、プロトン性もしくは非プロトン性溶媒、またはその混合物から選択される、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
前記有機溶媒は、アルコール、ケトン、エーテル、アルカン、シクロアルカン、ホルムアミド、酢酸エステル、ハロゲン化溶媒またはそれらの混合物である、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
前記有機溶媒はアルコールである、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
前記アルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、4−ペンテン−2−オール、1,6−ヘキサンジオール、1−ヘキサノール、5−ヘキセン−l−オール、グリセロール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノールまたはそれらの混合物から選択される、請求項26に記載のプロセス。
【請求項28】
前記アルコールはイソプロパノールである、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
ステップ(a)で使用する前記溶媒は、アルコールおよび少なくとも0.1〜20%の水を含む混合物である、請求項23〜28のいずれかに記載のプロセス。
【請求項30】
前記混合物は、アルコールおよび0.5〜5%の水である、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
シタグリプチンの前記塩は、リン酸二水素塩である、請求項1〜30のいずれかに記載のプロセス。
【請求項32】
メチル (Z)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブト−2−エノエート。
【請求項33】
メチル (3RS)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート。
【請求項34】
メチル (3R)−3−アミノ−4−(2,4,5−トリフルオロフェニル)ブタノエート。
【請求項35】
請求項32〜34のいずれかに記載の化合物を含む、シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩の調製のためのプロセス。
【請求項36】
シタグリプチンの前記塩は、リン酸二水素塩である、請求項35に記載のプロセス。
【請求項37】
請求項1〜31,35または36のいずれかに記載のプロセスによって調製される、シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩。
【請求項38】
99%以上の鏡像異性純度(キラルHPLCで測定)を有する、シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩。
【請求項39】
99%以上の化学純度(キラルHPLCで測定)を有する、シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩。
【請求項40】
請求項37〜39のいずれかに記載のシタグリプチンまたはその薬学上許容される塩を含有する、医薬組成物。
【請求項41】
ジペプチジルペプチターゼ−IVの阻害剤が有効な疾病または症状の治療または予防のための医薬の製造における、請求項37〜39のいずれかに記載のシタグリプチンもしくはその薬学上許容される塩の使用、または請求項40に記載の医薬組成物の使用。
【請求項42】
糖尿病、高血糖症、インスリン抵抗性、肥満、または高血圧の治療または予防における、請求項41に記載の使用。
【請求項43】
2型糖尿病の治療または予防における、請求項42に記載の使用。
【請求項44】
前記シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩は、1つ以上の他の活性薬剤成分と併用される、請求項41〜43のいずれかに記載の使用。
【請求項45】
前記他の活性成分は、別々に、または同一の医薬組成物中で投与される、請求項44に記載の使用。
【請求項46】
前記他の活性成分は、グリタゾン(トログリタゾン、ピオグリタゾン、エングリタゾンおよびロシグリタゾンなど)などのインスリン感受性改善薬;フェノフィブリン酸誘導体(ゲムフィブロジル、クロフィブラート、フェノフィブラートおよびベザフィブラートなど);ビグアニド(メトホルミンおよびフェンホルミンなど);スルホニル尿素(グリピジドなど);またはそれらの混合物から選択される、請求項44または45に記載の使用。
【請求項47】
治療的もしくは予防的に有効な量の請求項37〜39のいずれかに記載のシタグリプチンもしくはその薬学上許容される塩、または治療的もしくは予防的に有効な量の請求項40に記載の医薬組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む、ジペプチジルペプチターゼ−IVの阻害剤が有効な疾病または症状を治療または予防する方法。
【請求項48】
糖尿病、高血糖症、インスリン抵抗性、肥満、または高血圧の治療または予防における、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
2型糖尿病の治療または予防における、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記シタグリプチンまたはその薬学上許容される塩は、1つ以上の他の活性薬剤成分と併用される、請求項47〜49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
前記他の活性成分は、別々に、または同一の医薬組成物中で投与される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記他の活性成分は、グリタゾン(トログリタゾン、ピオグリタゾン、エングリタゾンおよびロシグリタゾンなど)などのインスリン感受性改善薬;フェノフィブリン酸誘導体(ゲムフィブロジル、クロフィブラート、フェノフィブラートおよびベザフィブラートなど);ビグアニド(メトホルミンおよびフェンホルミンなど);スルホニル尿素(グリピジドなど);またはそれらの混合物から選択される、請求項50または51に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−526791(P2012−526791A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510370(P2012−510370)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050760
【国際公開番号】WO2010/131025
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(508116469)ジェネリクス・(ユーケー)・リミテッド (34)
【Fターム(参考)】