説明

シリコーン樹脂、封止材料および光半導体装置

【課題】透明性および耐熱性に優れながら、熱可塑性および熱硬化性を併有するシリコーン樹脂、そのシリコーン樹脂からなる封止材料、および、その封止材料が用いられる光半導体装置を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される基を有するかご型オクタシルセスキオキサンと、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基のモル数より少ないモル数のアルケニル基を含有するアルケニル基含有ポリシロキサンとをヒドロシリル化触媒の存在下で反応して得られるシリコーン樹脂からなる封止材料を、光半導体素子の封止に用いる。


(式中、Rは、1価の炭化水素基を示し、Rは、水素または1価の炭化水素基を示す。但し、かご型オクタシルセスキオキサン全体の平均値として、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比が、6.5:1.5〜5.5:2.5の範囲である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂、封止材料および光半導体装置、詳しくは、シリコーン樹脂、そのシリコーン樹脂からなる封止材料、および、その封止材料が用いられる光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光ダイオード(LED)などの光半導体素子の封止材料として、透明性に優れるシリコーン樹脂が用いられている。そのようなシリコーン樹脂は、室温で液体状であり、光半導体素子に塗布された後、加熱により硬化することによって、光半導体素子を封止している。
【0003】
また、保存性および取扱性の観点から、室温で固体状のシリコーン樹脂も用いられている。そのような固体状のシリコーン樹脂として、例えば、ペンタシクロ[9.5.1.13.9.15.15.17.13]オクタシロキサンと1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサンとを反応させることにより得られる含シルセスキオキサンポリマーが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、水素化オクタシルセスキオキサンとジシラノールとを反応して得られるポリシロキサンが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
特許文献1および2で提案される封止材料は、加熱によって可塑化させ、光半導体素子を封止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−154252号公報
【特許文献2】特開2002−69191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、耐熱性および耐久性を向上させる観点から、固体状のシリコーン樹脂を、加熱により可塑化した後、硬化させたい要求がある。しかし、特許文献1および2の封止材料は、硬化させることができないという不具合がある。
【0008】
本発明の目的は、透明性および耐熱性に優れながら、熱可塑性および熱硬化性を併有するシリコーン樹脂、そのシリコーン樹脂からなる封止材料、および、その封止材料が用いられる光半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシリコーン樹脂は、下記式(1)で表される基を有するかご型オクタシルセスキオキサンと、前記かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基のモル数より少ないモル数のアルケニル基を含有するアルケニル基含有ポリシロキサンとをヒドロシリル化触媒の存在下で反応して得られることを特徴としている。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは、1価の炭化水素基を示し、Rは、水素または1価の炭化水素基を示す。但し、前記かご型オクタシルセスキオキサン全体の平均値として、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比が、6.5:1.5〜5.5:2.5の範囲である。)
また、本発明のシリコーン樹脂では、前記かご型オクタシルセスキオキサンが、下記式(2)で表されることが好適である。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、RおよびRは、前記と同意義を示す。また、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比は、前記と同一である。)
また、本発明のシリコーン樹脂では、前記アルケニル基含有ポリシロキサンが、下記式(3)で表されることが好適である。
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Rは、1価の炭化水素基を示し、Rは、アルケニル基を示す。また、aは、1以上の整数を示す。)
また、本発明の封止材料は、光半導体素子を封止するために用いられ、上記したシリコーン樹脂からなることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の光半導体装置は、光半導体素子と、前記光半導体素子を封止する上記した封止材料とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシリコーン樹脂は、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比が特定範囲であるので、かご型オクタシルセスキオキサンにおいて、アルケニル基含有ポリシロキサンのアルケニル基と反応するヒドロシリル基の割合が調整されている。しかも、アルケニル基含有ポリシロキサンは、そのアルケニル基が、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基のモル数よりも少ないモル数となるように反応される。そのため、得られるシリコーン樹脂は、熱可塑性および熱硬化性を併有することができる。さらに、シリコーン樹脂は、透明性および耐熱性にも優れている。
【0018】
そのため、本発明の封止材料は、上記したシリコーン樹脂からなるので、封止時の加熱によって可塑化した後、硬化させて、光半導体素子を封止することができる。
【0019】
よって、本発明の光半導体装置は、光半導体素子が上記した封止材料によって封止されているので、光学特性および耐熱性に優れながら、機械強度および耐久性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のシリコーン樹脂は、かご型オクタシルセスキオキサンと、アルケニル基含有ポリシロキサンとを、ヒドロシリル化触媒の存在下で反応することにより得られる。
【0021】
かご型オクタシルセスキオキサンは、3官能シリコーンモノマーの8量体であって、具体的には、下記式(1)で表される基を8つ有し、
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、Rは、1価の炭化水素基を示し、Rは、水素または1価の炭化水素基を示す。但し、かご型オクタシルセスキオキサン全体の平均値として、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比が、6.5:1.5〜5.5:2.5の範囲である。)
より具体的には、下記式(2)で示される。
【0024】
【化5】

【0025】
(式中、RおよびRは、上記と同意義を示す。また、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比は、上記と同一である。)
上記式(1)および(2)において、Rにて示される1価の炭化水素基としては、例えば、飽和または不飽和の、直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基が挙げられる。
【0026】
具体的には、飽和の直鎖状の炭化水素基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの炭素数1〜6のアルキル基)、飽和の分岐状の炭化水素基(例えば、イソプロピル、イソブチルなどの炭素数3〜6のアルキル基)、飽和の環状の炭化水素基(例えば、シクロヘキシルなどの炭素数3〜6のシクロアルキル基)、不飽和の環状の炭化水素基(例えば、フェニルなどの炭素数6〜8のアリール基)などが挙げられる。
【0027】
1価の炭化水素基の炭素数は、例えば、1〜8、好ましくは、1〜6である。
【0028】
は、同一または相異なっていてもよく、好ましくは、同一である。
【0029】
1価の炭化水素基として、好ましくは、調製の容易性および熱安定性の観点から、飽和の直鎖状の炭化水素基、さらに好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基、とりわけ好ましくは、メチルが挙げられる。
【0030】
上記した(1)および(2)において、Rにて示される1価の炭化水素基としては、上記したRにて示される1価の炭化水素基と同様のものが挙げられる。好ましくは、メチルが挙げられる。
【0031】
式(2)におけるRの1価の炭化水素基:水素のモル比は、かご型オクタシルセスキオキサン全体の平均値として、6.5:1.5〜5.5:2.5の範囲であり、好ましくは、6.0:2.0〜5.5:2.5の範囲である。
【0032】
つまり、かご型オクタシルセスキオキサン1分子において、上記式(1)で示される基が、1.5〜2.5個(具体的には、2つ)、好ましくは、2〜2.5個(具体的には、2つ)のヒドロシリル基(−SiH)を形成する。
【0033】
上記したRの1価の炭化水素基:水素のモル比が、6.5/1.5(=6.5:1.5)を超える場合(例えば、7/1(=7:1))には、ヒドロシリル基のモル数が過度に少ないため、アルケニル基含有ポリシロキサンに対するかご型オクタシルセスキオキサンの反応度合が過度に低下して、得られるシリコーン樹脂の分子量が低くなり、固体状のシリコーン樹脂が得られない。
【0034】
一方、上記したRの1価の炭化水素基:水素のモル比が、5.5/2.5(=5.5:2.5)に満たない場合(例えば、5/3(=5:3))には、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基のモル数が過度に多いため、アルケニル基含有ポリシロキサンに対するかご型オクタシルセスキオキサンの反応度合いが過度に増大するため、シリコーン樹脂が熱可塑性を示さない。
【0035】
上記したかご型オクタシルセスキオキサンとしては、具体的には、例えば、上記式(1)および(2)において、Rがメチル、Rがメチルまたは水素であり、かご型オクタシルセスキオキサン全体の平均値として、Rのメチル:水素のモル比が、5.5:2.5、6:2、または、6.5:1.5であるかご型オクタシルセスキオキサンなどが挙げられる。
【0036】
上記式(2)で示されるかご型オクタシルセスキオキサンは、例えば、公知の方法(例えば、特開2007−246880号公報などの記載に準拠)に従って合成される。
【0037】
具体的には、テトラアルコキシシラン(テトラエトキシシランなど)を、メタノールなどのアルコールおよび/または水と、触媒との存在下で反応させて、オクタ(シルセスキオキサン)骨格(式(2)において式(1)の基を除く部分)を合成し、その後、ジアルキルクロロシラン(ジメチルクロロシランなど)およびトリアルキルクロロシラン(トリメチルクロロシランなど)を、上記したRの1価の炭化水素基:水素のモル比に対応する配合割合で配合して、オクタ(シルセスキオキサン)骨格のケイ素原子に結合するアルコキシル基(エトキシなど)と、ジアルキルクロロシランおよびトリアルキルクロロシランとを反応させる。反応後、必要により、反応物を精製する。これにより、かご型オクタシルセスキオキサンを得ることができる。
【0038】
なお、かご型オクタシルセスキオキサンは、市販品を用いることもできる。
【0039】
アルケニル基含有ポリシロキサンは、アルケニル基を含有するポリシロキサンであり、具体的には、下記式(3)で示される。
【0040】
【化6】

【0041】
(式中、Rは、1価の炭化水素基を示し、Rは、アルケニル基を示す。また、aは、1以上の整数を示す。)
式(3)においてRで示される1価の炭化水素基は、同一または相異なっていてもよく、好ましくは、同一である。
【0042】
で示される1価の炭化水素基としては、上記した(1)および(2)においてRにて示される1価の炭化水素基と同様のものが挙げられ、好ましくは、メチルが挙げられる。
【0043】
式(3)においてRで示されるアルケニル基としては、例えば、置換または非置換のアルケニル基が挙げられ、好ましくは、非置換のアルケニル基が挙げられる。
【0044】
そのようなアルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、ペンテニルなどの炭素数2〜10のアルケニル基が挙げられる。
【0045】
アルケニル基の炭素数は、例えば、2〜10、好ましくは、2〜5である。
【0046】
は、同一または相異なっていてもよく、好ましくは、同一である。
【0047】
アルケニル基として、好ましくは、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基との反応性の観点から、炭素数2〜5のアルケニル基、さらに好ましくは、ビニルが挙げられる。
【0048】
aは、反応性および安定性の観点から、好ましくは、1〜5000の整数、さらに好ましくは、1〜1000の整数を示す。
【0049】
上記式(3)で示されるアルケニル基含有ポリシロキサンの数平均分子量は、安全性および取扱性の観点から、例えば、100〜10000、好ましくは、300〜5000である。数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)にて測定される。
【0050】
上記式(3)で示されるアルケニル基含有ポリシロキサンは、例えば、公知の方法に従って合成され、または、市販品(例えば、Gelest社製)を用いることもできる。
【0051】
ヒドロシリル化触媒としては、例えば、白金黒、塩化白金、塩化白金酸、白金オレフィン錯体、白金カルボニル錯体、白金アセチルアセテートなどの白金触媒、例えば、パラジウム触媒、例えば、ロジウム触媒などが挙げられる。
【0052】
これらヒドロシリル化触媒のうち、好ましくは、相溶性および透明性の観点から、白金触媒、さらに好ましくは、白金オレフィン錯体が挙げられ、具体的には、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体、白金−ジビニルシロキサン錯体などが挙げられる。
【0053】
なお、ヒドロシリル化触媒は、公知の溶媒(トルエンなど)溶液として調製されていてもよい。
【0054】
ヒドロシリル化触媒(固形分)の配合割合は、かご型オクタシルセスキオキサンおよびアルケニル基含有ポリシロキサンの総量100質量部に対して、例えば、1.0×10−10〜3質量部、好ましくは、1.0×10−8〜1質量部である。
【0055】
そして、本発明では、かご型オクタシルセスキオキサンとアルケニル基含有ポリシロキサンとを、ヒドロシリル化触媒の存在下で、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基のモル数が、アルケニル基含有ポリシロキサンのアルケニル基のモル数より多く(過剰と)なるように、反応させる。
【0056】
アルケニル基とヒドロシリル基とのモル比(アルケニル基のモル数/ヒドロシリル基のモル数)は、1未満、例えば、0.10〜0.99、好ましくは、0.20〜0.99、さらに好ましくは、0.50〜0.99である。
【0057】
一方、上記したモル比が上記範囲を超える場合には、ヒドロシリル基がアルケニル基より少なくなり、その場合には、反応後に、過剰分のヒドロシリル基が残存せず、シリコーン樹脂に熱硬化性が付与されない。
【0058】
そして、上記したかご型オクタシルセスキオキサンとアルケニル基含有ポリシロキサンとを反応させるには、それらを上記した配合割合で、ヒドロシリル化触媒および溶媒とともに配合し、その後、必要により、それらを加熱する。
【0059】
溶媒としては、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、例えば、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、例えば、酢酸エチルなどのエステルなどが挙げられる。好ましくは、各成分の相溶性を向上させる観点から、芳香族炭化水素、さらに好ましくは、トルエンが挙げられる。
【0060】
反応温度は、例えば、0〜100℃、好ましくは、20〜80℃であり、反応時間は、例えば、0.5〜96時間である。
【0061】
これにより、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基と、アルケニル基含有ポリシロキサンのアルケニル基とが、ヒドロシリル化反応する。
【0062】
なお、ヒドロシリル化反応の度合は、1H−NMR測定によって、アルケニル基含有ポリシロキサンのアルケニル基に由来するシグナルの強度によって確認することができ、そのシグナルが消失したときが、ヒドロシリル化反応が終了したとされる。
【0063】
上記のヒドロシリル化反応では、ヒドロシリル基のモル数が、アルケニル基のモル数に比べて、過剰となるように、かご型オクタシルセスキオキサンとアルケニル基含有ポリシロキサンとが反応するので、その反応後には、ヒドロシリル基の過剰分が残存し、かかる過剰分のヒドロシリル基は、加熱(例えば、100〜200℃の加熱)によって、空気中の水分と加水分解および縮合反応して、互いに結合(3次元架橋)し、これにより、シリコーン樹脂に熱硬化性が付与される。
【0064】
これにより、本発明のシリコーン樹脂を得ることができる。
【0065】
得られたシリコーン樹脂は、固体状である。かご型オクタシルセスキオキサンの立体障害に起因して、アルケニル基含有ポリシロキサンの運動性が低下するため、シリコーン樹脂が固体状として得られる。
【0066】
なお、シリコーン樹脂には、本発明の優れた効果を損なわない範囲で、例えば、老化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤、充填材、蛍光体などの添加物を適宜の割合で添加することができる。
【0067】
そして、このシリコーン樹脂は、例えば、各種産業製品の封止材料として用いられる。好ましくは、光半導体素子を封止するための封止材料として用いられる。
【0068】
光半導体素子としては、光半導体装置に備えられる素子であれば特に限定されず、例えば、発光ダイオード(LED)、フォトダイオード、フォトトランジスタ、レーザーダイオードなどが挙げられる。好ましくは、LEDが挙げられ、さらに好ましくは、照明用LEDなどが挙げられる。
【0069】
そして、上記した封止材料を、光半導体素子を被覆するように配置し、そして、封止材料を、例えば、封止材料が熱硬化する温度(例えば、100〜300℃)に加熱する。
【0070】
すると、封止材料は、上記した加熱により、一旦可塑化(あるいは液状化)して光半導体素子を封止し、その後、熱硬化する。
【0071】
シリコーン樹脂の熱可塑性は、加熱によりかご型オクタシルセスキオキサンおよびアルケニル基含有ポリシロキサンの運動性が上昇することにより発現される。
【0072】
なお、シリコーン樹脂の熱可塑温度は、例えば、40〜100℃、好ましくは、50〜90℃である。なお、熱可塑温度は、シリコーン樹脂が熱可塑性を示す温度であり、具体的には、固体状のシリコーン樹脂が加熱によって軟化して完全に液体状になる温度であって、軟化温度と実質的に同一である。
【0073】
また、このシリコーン樹脂の融点は、例えば、50〜100℃、好ましくは、60〜90℃である。
【0074】
一旦可塑化したシリコーン樹脂の熱硬化性は、過剰分のヒドロシリル基が加水分解および縮合反応して、互いに結合(3次元架橋)することにより発現される。
【0075】
また、シリコーン樹脂の熱硬化温度は、例えば、150〜300℃、好ましくは、180〜250℃である。熱硬化温度は、シリコーン樹脂が熱硬化性を示す温度であり、具体的には、液体状のシリコーン樹脂が加熱によって硬化して、完全に固体状となる温度である。
【0076】
これにより、光半導体素子と、その光半導体素子を封止する封止材料とを備える光半導体装置を得る。
【0077】
そして、本発明のシリコーン樹脂は、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比が特定範囲であるので、かご型オクタシルセスキオキサンにおいて、アルケニル基含有ポリシロキサンのアルケニル基と反応するヒドロシリル基の割合が調整されている。しかも、アルケニル基含有ポリシロキサンは、そのアルケニル基が、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基のモル数よりも少ないモル数となるように反応される。そのため、得られるシリコーン樹脂は、熱可塑性および熱硬化性を併有することができる。さらに、シリコーン樹脂は、透明性および耐熱性にも優れている。
【0078】
そのため、本発明の封止材料は、上記したシリコーン樹脂からなるので、封止時の加熱によって可塑化した後、硬化させて、光半導体素子を封止することができる。
【0079】
よって、本発明の光半導体装置は、光半導体素子が上記した封止材料によって封止されているので、光学特性および耐熱性に優れながら、機械強度および耐久性に優れている。
【実施例】
【0080】
以下に、合成例、比較合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、何らそれらに限定されない。
【0081】
合成例1
(かご型オクタシルセスキオキサンの合成)
テトラメチルアンモニウムハイドライド(25%メタノール溶液)66.8mL(158.6mol)、メタノール32.8mLおよび蒸留水24.6m1の混合液に、テトラエトキシシラン35.8mL(160.6mol)を徐々に滴下して一昼夜攪拌することにより、それらを反応させた。
【0082】
次いで、反応液を濾過し、濾液を、ヘキサン428mL、ジメチルクロロシラン7.1g(75mmol)およびトリメチルクロロシラン24.4g(225mmol)の混合液に滴下し、一昼夜攪拌した。その後、ヘキサンで反応物を抽出し、抽出液に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。その後、一旦ヘキサンを除去した後、さらにヘキサンを加えて再結晶させることにより、白色固体のかご型オクタシルセスキオキサンを得た。
【0083】
得られたかご型オクタシルセスキオキサンは、NMRにて式(2)の構造であることを確認するとともに、式(2)におけるRがメチル基、Rが水素またはメチル基であることを確認し、Rのメチル基と水素とのモル比(かご型オクタシルセスキオキサン全体の平均値)を算出したところ、メチル基:水素=6:2であった。
【0084】
合成例2、3および比較合成例1、2
表1に準拠して、ジメチルクロロシランおよびトリメチルクロロシランの配合割合を変更した以外は、合成例1と同様に処理して、合成例2、3および比較合成例1、2のかご型オクタシルセスキオキサンをそれぞれ得た。
【0085】
得られたかご型オクタシルセスキオキサンは、NMRにて式(2)の構造であることを確認するとともに、式(2)におけるRおよびRの基を同定し、Rのビニル基と水素とのモル比(かご型オクタシルセスキオキサン全体の平均値)を算出した。その結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例1
合成例1のかご型オクタシルセスキオキサン(メチル基:水素(モル比)=6:2)0.3gと、アルケニル基含有ポリシロキサン(式(3)中、Rがメチル基、Rがビニル基、aが8、数平均分子量800、Gelest社製)0.24gと、トルエン1gと、白金−ジビニルシロキサン錯体溶液(ヒドロシリル化触媒、トルエン溶液、白金濃度2質量%)0.5μLとを配合して、50℃で、15時間攪拌した。アルケニル基含有ポリシロキサンのビニル基と、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基とのモル比(=ビニル基/ヒドロシリル基)は、0.91であった。
【0088】
その後、トルエンを留去することにより、透明固体状のシリコーン樹脂を得た。
【0089】
実施例2
アルケニル基含有ポリシロキサン(式(3)中、Rがメチル基、Rがビニル基、aが8、数平均分子量800、Gelest社製)0.24gに代えて、アルケニル基含有ポリシロキサン(式(3)中、Rがメチル基、Rがビニル基、aが25、数平均分子量2000、Gelest社製)0.6gを配合した以外は、実施例1と同様に処理して、透明固体状のシリコーン樹脂を得た。
【0090】
なお、アルケニル基含有ポリシロキサンのビニル基と、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基とのモル比(=ビニル基/ヒドロシリル基)は、0.91であった。
【0091】
実施例3
合成例1のかご型オクタシルセスキオキサン(メチル基:水素(モル比)=6:2)0.3gに代えて、合成例2のかご型オクタシルセスキオキサン(メチル基:水素(モル比)=6.5:1.5)0.2gを配合した以外は、実施例1と同様に処理して、透明固体状のシリコーン樹脂を得た。
【0092】
なお、アルケニル基含有ポリシロキサンのビニル基と、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基とのモル比(=ビニル基/ヒドロシリル基)は、0.91であった。
【0093】
実施例4
合成例1のかご型オクタシルセスキオキサン(メチル基:水素(モル比)=6:2)0.3gに代えて、合成例3のかご型オクタシルセスキオキサン(メチル基:水素(モル比)=5.5:2.5)0.37gを配合した以外は、実施例1と同様に処理して、透明固体状のシリコーン樹脂を得た。
【0094】
なお、アルケニル基含有ポリシロキサンのビニル基と、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基とのモル比(=ビニル基/ヒドロシリル基)は、0.90であった。
【0095】
比較例1
アルケニル基含有ポリシロキサン(式(3)中、Rがメチル基、Rがビニル基、aが8、数平均分子量800、Gelest社製)0.24gに代えて、アルケニル基を含有しないポリシロキサン(式(3)中、RおよびRがともにメチル基、aが25、数平均分子量800、Gelest社製)0.24gを配合した以外は、実施例1と同様に処理して、白濁オイル状のシリコーン樹脂を得た。
【0096】
比較例2
合成例1のかご型オクタシルセスキオキサン(メチル基:水素(モル比)=6:2)0.3gに代えて、比較合成例1のかご型オクタシルセスキオキサン(メチル基:水素(モル比)=7:1)0.15gを配合した以外は、実施例1と同様に処理して、透明オイル状のシリコーン樹脂を得た。
【0097】
なお、アルケニル基含有ポリシロキサンのビニル基と、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基とのモル比(=ビニル基/ヒドロシリル基)は、0.90であった。
【0098】
比較例3
合成例1のかご型オクタシルセスキオキサン(メチル基:水素(モル比)=6:2)0.3gに代えて、比較合成例2のかご型オクタシルセスキオキサン(メチル基:水素(モル比)=5:3)0.45gを配合した以外は、実施例1と同様に処理して、透明固体(ゲル)状のシリコーン樹脂を得た。
【0099】
なお、アルケニル基含有ポリシロキサンのビニル基と、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基とのモル比(=ビニル基/ヒドロシリル基)は、0.91であった。
【0100】
比較例4
白金−ジビニルシロキサン錯体溶液(ヒドロシリル化触媒、トルエン溶液、白金濃度2質量%)を配合しなかった以外は、実施例1と同様に処理して、白濁オイル状のシリコーン樹脂を得た。
【0101】
(評価)
1. 熱可塑性および熱硬化性
各実施例および各比較例のシリコーン樹脂の加熱時の挙動を評価した。
【0102】
具体的には、実施例1〜4および比較例3のシリコーン樹脂から大きさ1cm角のサンプルを作製し、そのサンプルをホットプレートの上に置き、30〜200℃に加熱することにより熱可塑温度と熱硬化温度とを目視により観察した。その結果を表2に示す
なお、比較例3は、固体状であるが、加熱によって軟化しなかったため、熱可塑温度を評価できなかった。また、比較例3は、固体状であるため、熱硬化温度を評価しなかった。
【0103】
また、比較例1、2および4については、液体状であるため、熱可塑温度を評価しなかった。また、比較例1、2および4について、所定量(約1mL)をホットプレートの上に塗布して、30〜200℃に加熱して、これを観察したが、加熱によって硬化しなかったため、熱硬化温度を評価できなかった。
2. 融点測定
上記と同様に作製した実施例1〜4のサンプルについて、示差走査熱量測定装置(DSC−6200、SIIナノテクノロジー社製)を用いて、融点を測定した。その結果を表2に示す。
【0104】
なお、示差走査熱量測定装置の測定条件は、走査温度を−100〜200℃、昇温速度を10℃/minに設定した。
3. 耐熱性(光透過率の減少率)
上記と同様に作製した実施例1〜4のサンプルについて、波長450nmの光に対する光透過率を分光光度計(U4100、目立ハイテック社製)にて測定した。
【0105】
その後、サンプルを200℃の温風型乾燥機内に所定時間投入した。そして、24時間および168時間経過後に、サンプルを温風型乾燥機から取り出し、取り出したサンプルの波長450nmの光に対する光透過率を測定した。
【0106】
そして、サンプルの光透過率の減少率(=(投入後の光透過率/投入前の光透過率)×100)をそれぞれ算出した。その結果を表2に示す。
【0107】
【表2】

【0108】
表2から分かるように、実施例1〜4のシリコーン樹脂は、熱可塑性および熱硬化性の両方を有している。
【0109】
一方、比較例1〜4のシリコーン樹脂は、熱可塑性および熱硬化性の両方を有していない。
【0110】
具体的には、比較例1のシリコーン樹脂は、ポリシロキサンがアルケニル基を含有していないため、ヒドロシリル化反応が生じず、得られたシリコーン樹脂が室温で固体状とならず、室温で液体状となった。つまり、熱可塑性を有していない。
【0111】
比較例2のシリコーン樹脂は、かご型オクタシルセスキオキサン全体の平均値として、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比が、7:1であり、ヒドロシリル基のモル数が少ないため、かご型オクタシルセスキオキサンおよびアルケニル基含有ポリシロキサンの反応度合が低下して、シリコーン樹脂の分子量が低くなり、得られたシリコーン樹脂が室温で固体状とならず、室温で液体状となった。つまり、熱可塑性を有していない。
【0112】
比較例3のシリコーン樹脂は、かご型オクタシルセスキオキサン全体の平均値として、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比が、5:3であり、かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基のモル数が多いため、得られたシリコーン樹脂が熱可塑性を示さなかった。
【0113】
比較例4のシリコーン樹脂は、ヒドロシリル化触媒を配合していなかったため、ヒドロシリル化反応が生じず、得られたシリコーン樹脂が室温で固体状とならず、室温で液体状となった。つまり、熱可塑性を有していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される基を有するかご型オクタシルセスキオキサンと、
前記かご型オクタシルセスキオキサンのヒドロシリル基のモル数より少ないモル数のアルケニル基を含有するアルケニル基含有ポリシロキサンと
をヒドロシリル化触媒の存在下で反応して得られることを特徴とする、シリコーン樹脂。
【化1】


(式中、Rは、1価の炭化水素基を示し、Rは、水素または1価の炭化水素基を示す。但し、前記かご型オクタシルセスキオキサン全体の平均値として、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比が、6.5:1.5〜5.5:2.5の範囲である。)
【請求項2】
前記かご型オクタシルセスキオキサンが、下記式(2)で表されることを特徴とする、請求項1に記載のシリコーン樹脂。
【化2】


(式中、RおよびRは、前記と同意義を示す。また、Rの1価の炭化水素基:水素のモル比は、前記と同一である。)
【請求項3】
前記アルケニル基含有ポリシロキサンが、下記式(3)で表されることを特徴とする、請求項1または2に記載のシリコーン樹脂。
【化3】


(式中、Rは、1価の炭化水素基を示し、Rは、アルケニル基を示す。また、aは、1以上の整数を示す。)
【請求項4】
光半導体素子を封止するために用いられ、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリコーン樹脂からなることを特徴とする、封止材料。
【請求項5】
光半導体素子と、
前記光半導体素子を封止する請求項4に記載の封止材料と
を備えていることを特徴とする、光半導体装置。

【公開番号】特開2012−102167(P2012−102167A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249094(P2010−249094)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】