説明

ジアザポルフィリン化合物又はその塩、半導体材料、膜、電子デバイス、電界効果トランジスタ、及び光電変換素子

【課題】既存の半導体材料化合物とは異なる基本骨格を有する化合物を含む、新たな半導体材料を提供する。
【解決手段】例えば式(1a)で表されるジアザビシクロポルフィリン化合物又はその塩。


(上記式(1a)中、Q(nは1〜4の整数)は、構造単位である両端置換のエチレン基を表す。この半導体材料を用いることにより高性能で耐久性の高い電子デバイスを実現することができ、例えば、電子写真感光体、有機トランジスタ、有機太陽電池、有機EL等に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料及び半導体材料、並びに顔料及び半導体材料の前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物の半導体材料を用いる電子デバイスが注目されている。例えば、半導体材料にテトラベンゾポルフィリンを用い、電界効果トランジスタ又は光電変換素子のような電子デバイスに応用する例が、特許文献1に記載されている。しかしながら、より高性能で耐久性の高い電子デバイスを実現するための半導体材料が、さらに求められている。
【0003】
ジアザポルフィリン化合物の合成方法は、すでに1939年にP.A.Barretらによって知られている。また、特許文献2及び3には、ジアザポルフィリン化合物の光記録媒体としての可能性が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−135622号公報
【特許文献2】特開2001−187460号公報
【特許文献3】国際公開WO01/47719号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、より高性能で耐久性の高い電子デバイスを実現するための新たな半導体材料が、さらに求められている。例えば、高い光電変換効率を持つ光電変換素子を実現することが望まれている。さらには、空気中に放置した際の特性の変化が小さい光電変換素子を実現することも望まれている。
【0006】
一方で、基本骨格であるポルフィリン環の構造がテトラベンゾペルフィリン化合物とは異なるジアザポルフィリン化合物は、半導体材料としての特性が知られていなかった。そもそもジアザポルフィリン化合物は平面性の高さゆえに結晶性が高く、精製が容易ではない。そのためにジアザポルフィリン化合物を高純度に得て半導体材料として用いることは困難であった。また、結晶性の高さ、すなわち溶解性の悪さゆえに塗布などして半導体デバイスに適用することも困難であった。
【0007】
本発明は、既存の半導体材料化合物とは異なる基本骨格を有する化合物を含む、新たな半導体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、下記式(1a)又は式(1b)で表されるジアザビシクロポルフィリン化合物又はその塩によって達成される。
【化1−1】

(上記式(1a)及び(1b)中、Q(nは1〜4の整数)は、以下の構造を表す。
【化1−2】

11〜R16、R21〜R26、R31〜R36、R41〜R46、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子2個又は金属原子を表し、当該金属原子上には他の原子団が結合又は配位していてもよい。また、上記式(1a)及び(1b)中、X及びXはそれぞれ独立に以下の構造の何れかを示す。)
【化1−3】

【発明の効果】
【0009】
既存の半導体材料化合物とは異なる基本骨格を有する化合物を含む、新たな半導体材料を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る電界効果トランジスタの構造の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る光電変換素子の構造の一例を示す図である。
【図3】化合物2cのマススペクトルである。
【図4】化合物2dのマススペクトルである。
【図5】化合物2cから2eへの変換反応における熱分析のチャートである。
【図6】化合物2dから2fへの変換反応における熱分析のチャートである。
【図7】化合物2fのマススペクトルである。
【図8】化合物2c〜2fの溶液の吸光スペクトルである。
【図9】化合物2e及びテトラベンゾポルフィリン銅錯体の吸光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、電子デバイスの高性能化及び耐久性の向上のために、半導体材料に用いる化合物の最高被占(HOMO)準位を低くすることを考えた。すると、この半導体材料を用いる光電変換素子において、開放電圧(Voc)が増加することが期待される。さらに、酸化電位が上がり酸化されにくくなる為、空気中での安定性が向上することも期待される。また、半導体材料に用いる化合物の吸収スペクトルを可視光領域に近づくようにシフトさせることにより、短絡電流(Jsc)が増加することも期待される。
【0012】
本発明者らは、ジアザポルフィリン化合物が、テトラベンゾポルフィリンよりもHOMO準位がより低く、吸収スペクトルが可視光領域によりシフトされていることを見出した。このことから、発明者らはジアザポルフィリン化合物が新たな半導体材料として利用可能であることを見出した。そして、前駆体であるジアザビシクロポルフィリン化合物を経由することによりジアザポルフィリン化合物を容易に得る方法を発見し、電界効果トランジスタ及び光電変換素子を含む電子デバイスに用いることが可能であることを見出した。さらには、精製が容易な前駆体ジアザビシクロポルフィリン化合物を用いることで、高純度なジアザポルフィリン化合物が得ることが出来ることを見出した。高純度なジアザポルフィリン化合物を用いることで、半導体特性の向上や顔料の色合いの向上が見込まれる。
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0014】
本明細書において「半導体」とは、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義されるものである。キャリア移動度とは、周知であるように、電荷をどれだけ速く(又は多く)移動されることができるかという指標となるものである。具体的には、本明細書における「半導体」は、室温におけるキャリア移動度が1.0x10-7cm2/V・s以上、好ましくは1.0x10-5cm2/V・s以上、より好ましくは1.0x10-4cm2/V・s以上であることが望ましい。なお、キャリア移動度は、例えば電界効果トランジスタのIV特性、タイムオブフライト法等により測定できる。
【0015】
[1.ジアザビシクロポルフィリン化合物]
本発明のジアザビシクロポルフィリン化合物又はその塩(以下、単にジアザビシクロポルフィリン化合物と称する)は、下記式(1a)又は式(1b)で表わされる構造を有する化合物又はその塩である。
【0016】
【化2−1】

【0017】
上記式(1a)及び(1b)において、Q(nは1〜4の整数)は、以下の構造を表す。
【0018】
【化2−2】

【0019】
すなわち、構造QにはR15及びR16が、QにはR25及びR26が、QにはR35及びR36が、QにはR45及びR46が、それぞれ含まれる。
【0020】
上記式(1a)及び(1b)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R41、R42、R43、R44、R45、R46(以下、R11〜R46と略す)、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表す。
【0021】
1価の置換基は何でもよく、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有しても良いアミノ基、置換基を有しても良いカルボキシル基、または1価の有機基等が挙げられる。有機基は、直鎖でもよく、分岐を有していてもよい。また、鎖状でもよく、環を有していてもよいし、各置換基が互いに結合して環を形成していてもよい。さらに、有機基は、飽和結合と二重結合及び/又は三重結合とを有していてもよい。有機基としては例えば、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアルキニル基、置換基を有しても良いアルコキシル基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基、及び置換基を有しても良い芳香族複素環基が挙げられる。
【0022】
アルキル基としては、炭素数1〜20のものが好ましく、具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。アルケニル基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、具体例としてはスチリル基、ジフェニルビニル基等が挙げられる。アルキニル基としては、炭素数2〜20のものが好ましく、具体例としてはメチルエチニル基、フェニルエチニル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。中でも、飽和結合のみを有するアルキル基が好ましい。アルキル基の中でも、脂肪族アルキル基、芳香族アルキル基が挙げられ、中でも脂肪族アルキル基が好ましい。なお、有機基は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0023】
また、有機基は、置換基で置換されていてもよい。置換基はどのようなものでもよく、何価の置換基であってもよいが、置換基の具体例として、上記の1価の置換基と同様のものが挙げられる。ただし、有機基が置換基で置換されている場合、その置換基も含めた有機基全体の分子量及び炭素数が、上記の炭素数の範囲を満たすことが好ましい。なお、有機基は1種の置換基だけで置換されていてもよく、2種以上の置換基で任意の比率及び組み合わせによって置換されてもよい。また、これらの置換基が、更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。置換しうる置換基としては、例えは、上記の1価の置換基と同様のもの等が挙げられる。
【0024】
また、Q〜Qは脱離基であり、ジアザビシクロポルフィリン化合物からこの脱離基を脱離させるとジアザポルフィリン化合物を得ることができる。従って、ジアザビシクロポルフィリン化合物を合成する環境下では脱離基が脱離せず、脱離環境下に付した場合(例えばジアザビシクロポルフィリン化合物の合成時よりも高い温度条件下)においては脱離基が脱離することが好ましい。従って、脱離基Q〜Qがこのような性質を有することが好ましく、そのようにR15、R16、R25、R26、R35、R36、R45、及びR46が選択されることが好ましい。脱離基Q〜Q部分の分子量は、通常18g/モル以上、また、通常200g/モル以下、好ましくは150g/モル以下、より好ましくは100g/モル以下である。分子量が大きすぎる場合、脱離基を系外に除去することが難しくなる傾向がある。
【0025】
上記式(1a)及び(1b)において、Mは、水素原子2個又は金属原子を表し、当該金属原子上には他の原子団が結合又は配位していてもよい。金属の具体例としては、Cu、Zn、Mg、Ni、Co(II)、Fe(II)、Ag(II)、Pt等の2価の金属が挙げられる。中でも、Cu又はZnの錯体には良好な半導体特性が知られているため、Cu又はZnを用いることが好ましい。さらに、Mは、2価の金属でなくても、3価、4価等の2価より大きい金属と原子又は原子団とが結合して全体として2価であるもの(即ち、金属を含む2価の原子団)であってもよい。金属を含む2価の原子団の具体例としては、AlZ、TiZ、Sn(IV)Z、TiO、SiZ、Fe(III)Z(Zは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、又は水酸基等の、1価の原子団を表す。)等が挙げられる。また、CO、acac等の配位子がMに対して配位結合していてもよい。
【0026】
また、上記式(1a)及び(1b)中、X及びXはそれぞれ独立に以下の構造の何れかを示す。
【0027】
【化2−3】

【0028】
及びXの少なくとも一方が上式において一番右の構造を取る場合、本発明のジアザビシクロポルフィリン化合物は塩である。この場合化合物(1a)又は(1b)は陽イオンであって、対となる陰イオンが存在する。陰イオンはどのようなものでもよいが、例えばCl、Br、I等のハロゲン化物イオン、CO2−、HCO、NO、SO2−、PF、ClO、CHCO、CClCO、CFCO等が挙げられる。また、上述の置換基R11〜R46、R、及びRがイオン化しうる場合にも、このジアザビシクロポルフィリン化合物は塩となることができる。
【0029】
[2.ジアザビシクロポルフィリン化合物の製造方法]
本発明のジアザビシクロポルフィリン化合物の製造方法の一例を、R11〜R46、R、及びRがHであるジアザビシクロポルフィリン化合物を例にとって説明する。置換基R11〜R46、R、又はRの少なくとも1つが他の基であるジアザビシクロポルフィリン化合物製造をする場合は、対応する原料化合物を用いればよい。
【0030】
まず、1,3-シクロヘキサジエンからイソインドールを合成する。この手法は、J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1997, 3161 に記載されており、以下のような経路でイソインドール(ethyl-4,7-dihydro-4,7-ethano-2H-isoindole-1-carboxyrate)を合成できる。
【0031】
【化2−4】

【0032】
次に、上記のイソインドール(ethyl-4,7-dihydro-4,7-ethano-2H-isoindole-1-carboxyrate)より、ジピロメタン(bis(4,7-dihydro-4,7-ethano-2H-isoindolyl)methane)を合成する。この手法は、Chem. Commun. 2006, 383 に記載されており、以下のような経路で行うことができる。
【0033】
【化2−5】

【0034】
さらに、ジピロメタンと亜硝酸ナトリウム、及び金属錯体を反応させることで、ジアザビシクロポルフィリン化合物を合成することができる。
【0035】
【化2−6】

【0036】
この例では窒素源として亜硝酸ナトリウムを用いているが、その他の亜硝酸塩を含めて、窒素原子を供給する適切な試薬であれば何を用いても良い。また、中心金属(M)の供給源として、金属(M)のアセチルアセトン塩を用いているが、ハロゲン塩、酢酸塩、硝酸塩等の金属塩を用いることもできる。金属塩の使用量は、原料化合物に対して、通常1モル倍以上、好ましくは1.5モル倍以上である。また、通常20モル倍以下、好ましくは10モル倍以下、より好ましくは5モル倍以下である。
【0037】
反応溶媒としては原料化合物を溶解可能であればることが好ましいものの、どのような溶媒を用いることもできる。極性溶媒を用いることが好ましく、例えばジクロロメタンやクロロホルムが特に好ましい。反応温度は、通常20℃以上、好ましくは30℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。反応時間は、通常1時間以上、好ましくは3時間以上また、通常24時間以下、好ましくは12時間以下である。また、酢酸を加えて酸性条件下で反応を行っているが、用いる酸としてはアスコルビン酸、p−トルエンスルホン酸などの任意の酸を用いることができる。
【0038】
この例の他に、水酸化リチウム、リチウムアルコキシド、ナトリウムアルコキシド等の塩基触媒を用いて無金属体(Mが水素原子2個)を合成してから、金属塩との錯体形成反応を行って、中心金属が入った金属錯体を合成しても良い。この場合、リチウムアルコキシド等の触媒の使用量は、原料化合物に対して1モル倍以下であってもよい。この場合の中心金属は、式(1a)及び(1b)について述べた金属Mと同様のものを用いることができ、Cu、Zn、Mg、Ni、Co(II)、Fe(II)、Ag(II)、Pt等の2価の金属又は金属を含む2価の原子団が挙げられる。例えば、無金属体の溶液に金属(M)のアセチルアセトン塩等の金属塩を加えて反応させればよい。もちろんMは金属ではなく2Hでもよく、すなわち本発明のジアザビシクロポルフィリン化合物には無金属体も含まれる。金属錯体である本発明のジアザポルフィリン化合物に対して酸などで処理することにより、無金属体である本発明のジアザポルフィリン化合物を得ることも可能である。
【0039】
また、塩である本発明のジアザビシクロポルフィリン化合物、及び以下で述べるような、塩である本発明のジアザポルフィリン化合物は、化合物(1a)〜(1d)に対して、HClO等所望の対イオンを与える酸で処理することでも得ることができる。
【0040】
[3.ジアザポルフィリン化合物の製造方法]
本発明のジアザポルフィリン化合物の製造方法には、上記式(1a)又は(1b)で表わされるジアザビシクロポルフィリン化合物から、以下の式(1c)又は(1d)に表わされるジアザポルフィリン化合物(以下、「本発明に係わるジアザポルフィリン化合物」ということがある。)を誘導する工程を含む。
【0041】
【化2−7】

【0042】
上記式(1c)及び(1d)において、R11、R12、R13、R14、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R34、R41、R42、R43、R44、R、及びRは、式(1a)及び(1b)と同様に、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表す。1価の置換基の意味は、式(1a)及び(1b)におけるものと同様である。また、X及びXの意味も式(1a)及び(1b)と同様である。
【0043】
本発明のジアザポルフィリン化合物(1c)及び(1d)は、以下の式に示すように、本発明のジアザビシクロポルフィリン化合物(1a)及び(1b)を逆ディールス・アルダー反応で変換することによって生成することができる。
【0044】
【化2−8】

【0045】
【化2−9】

【0046】
本発明のジアザビシクロポルフィリン化合物(1a)又は(1b)を加熱することにより、ジアザポルフィリン化合物(1c)又は(1d)を得ることができる。ここで、加熱手段、加熱温度、加熱時間等の各種条件は、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を生成することができる限り任意に決定できるが、好適な例について以下で紹介する。
【0047】
(加熱手段)
加熱手段は、本発明に係るジアザポルフィリン化合物が得られる限り任意である。加熱手段の具体例としては、ホットプレート;オーブン;熱ローラー;レーザー光、赤外光等の光;マイクロ波;加熱した気体、液体、固体から選ばれる1種以上のものとの接触;等が挙げられる。加熱手段は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の方法を組み合わせで用いてもよい。2種以上の方法を用いる場合には、その順序、加熱に用いる比率等は任意である。
【0048】
(加熱条件)
加熱温度は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上、また、通常400℃以下、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下である。反応温度が低すぎる場合、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を得るまでの時間がかかりすぎる可能性がある。また、高すぎる場合、本発明に係るジアザポルフィリン化合物の製造の際に用いられる各種材料が、熱により影響を受ける可能性がある。なお、加熱温度は、本発明に係るジアザポルフィリン化合物が得られる限り、一定であってもよいし、異なる温度で複数回加熱してもよい。また、加熱した後冷却し、さらに所望の温度で加熱してもよい。
【0049】
加熱時間は、加熱温度、加熱装置等によるため一概には言えないが、通常1ナノ秒以上、また、通常1日以下とする。より具体的には、例えば、レーザー光により加熱する場合、通常1ナノ秒以上、好ましくは10ナノ秒以上、より好ましくは100ナノ秒以上、また、通常1秒以下、好ましくは0.5秒以下、より好ましくは0.1秒以下である。また、例えば、加熱手段としてホットプレート、オーブン等を用いる場合、通常0.1秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、また、通常10時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは1時間以下である。
【0050】
さらに、例えば、加熱した気体、液体、固体を接触することにより本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を加熱する場合、通常1ミリ秒以上、好ましくは10ミリ秒以上、より好ましくは100ミリ秒以上、また、通常1日以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは1時間以下であることが望ましい。加熱時間が短すぎる場合、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を膜とした後に変換反応を行って得た、本発明に係るジアザポルフィリン化合物の膜が良好な結晶性を有さない可能性がある。また、加熱時間が長すぎる場合、膜の生産性が低下する可能性がある。
【0051】
本発明に係るジアザポルフィリン化合物の生産性の観点からは加熱時間は短いことが好ましいが、十分に反応を進行させたり、本発明に係るジアザポルフィリン化合物の半導体特性、色調の発現のための結晶成長等を所望のものとさせたりする場合には、加熱時間は、通常1秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、また、通常3時間以内、好ましくは2時間以内、より好ましくは1時間以内である。加熱時間が短すぎる場合結晶化が十分進行せず、顔料や半導体としての特性を十分に発現しない可能性がある。また、長すぎる場合、生産性の悪化や組み合わせるほかの材料の劣化を引き起こす可能性がある。
【0052】
(加熱時の雰囲気)
加熱時の雰囲気は、本発明に係るジアザポルフィリン化合物が得られる限り任意である。ただし、酸素、水分等が本発明に係るジアザポルフィリン化合物製造の際の障害となる可能性があるので、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で加熱を行うことが好ましい。不活性ガスは、1種を単独で用いもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。また、減圧下で加熱を行ってもよい。
【0053】
また、本発明に係るジアザポルフィリン化合物が有する特性を向上させる観点から、形成されるジアザポルフィリン化合物の結晶が成長することが好ましい。具体的には、非晶質部分が少なく、欠陥の少ない結晶であることが好ましい。本発明に係るジアザポルフィリン化合物の結晶を成長させる方法としては、例えば、一度生成した結晶をさらに適当な温度と時間で加熱処理をしたり、溶媒に接触させたり溶媒蒸気に晒して溶媒処理をしたりする事が挙げられる。
【0054】
さらに、ジアザポルフィリン化合物への変換の度合いをモニターしながら、ジアザビシクロポルフィリン化合物を加熱することが好ましい。この操作により、最適な変換条件を定めて所望の物性を有するジアザポルフィリン化合物を得ることができる。モニターの方法としては、公知の任意のものを用いることができるが、例えば、顕微鏡等による外見の変化の観察、色(即ち、吸収スペクトル)の変化の観察、赤外分光法、紫外分光法、マススペクトル、ラマンスペクトル等の振動スペクトルの測定、X線回折の測定、1H−NMR及び13C−NMRの測定、熱重量示差熱同時分析(TG−DTA)の測定等が挙げられる。
【0055】
(その他の条件)
本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を加熱する際、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物の状態は、本発明に係るジアザポルフィリン化合物が得られる限り特に制限されない。本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物は、例えば、液状であってもよいし、ゲル状であってもよい。また、例えば、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を塗布して得られた膜状のジアザビシクロポルフィリン化合物を加熱してもよいし、ジアザビシクロポルフィリン化合物を直接加熱してもよい。中でも、本発明のジアザポルフィリン化合物の製造方法においては、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を塗布して成膜した後に、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物の膜を加熱することが好ましい。
【0056】
また、本発明のジアザポルフィリン化合物の製造方法においては、本発明に係るジアザポルフィリン化合物が得られる限り加熱以外の任意の追加的な処理を行うことができる。処理の具体例としては、乾燥、洗浄等が挙げられる。例えば、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を加熱する前に水等の溶媒で洗浄した後、乾燥してから該ジアザビシクロポルフィリン化合物を加熱したり、該ジアザビシクロポルフィリン化合物を加熱後に水等の溶媒で洗浄して乾燥させたりすることもできる。この追加的な処理は、1種のみ行ってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行ってもよい。
【0057】
(本発明のジアザポルフィリン化合物の製造方法における好ましい工程の態様)
本発明のジアザポルフィリン化合物の製造方法において、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を加熱して本発明に係るジアザポルフィリン化合物が得られる限り、その他の工程、条件等は任意に決定できる。上記のように、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を加熱し、本発明に係るジアザポルフィリン化合物が得られる限り、その他の工程、条件等は任意である。
【0058】
[4.本発明のジアザビシクロポルフィリン化合物により得られる利点]
ジアザポルフィリン化合物は、通常多くの溶媒に対して難溶性を示す。しかしながら、例えばジクロロメタン、クロロホルム等の多くの溶媒に対して、ジアザビシクロポルフィリン化合物は対応するジアザポルフィリン化合物よりも高い溶解性を示す。従って、ジアザビシクロポルフィリン化合物が可溶である溶媒を用いることにより、カラムクロマトグラフィーや再結晶法等、溶液状態での一般的な精製方法を利用して純度の高いジアザビシクロポルフィリン化合物を精製することができる。
【0059】
この純度の高いジアザビシクロポルフィリン化合物を用いて変換反応を行うことにより、ジアザビシクロポルフィリン化合物を経由しない方法では製造が難しい高純度のジアザビシクロポルフィリン化合物を得ることができる。また、ジアザポルフィリン化合物を塗布して成膜し、当該膜を加熱することにより、難溶性のために成膜が困難なジアザポルフィリン化合物の膜を製造することもできる。
【0060】
[5.ジアザポルフィリン化合物の膜の製造方法]
本発明に係る半導体材料の膜は、半導体材料であるジアザポルフィリン化合物を膜状に形成することによって得られ、後述するように種々のデバイスに用いることができる。より具体的には、本発明のジアザビシクロポルフィリン化合物(1a又は1b)を基板に塗布する工程と、上述のような変換工程によってジアザビシクロポルフィリン化合物(1a又は1b)をジアザポルフィリン化合物(1c又は1d)に変換する工程とによって、本発明のジアザポルフィリン化合物を含む半導体材料の膜を製造することができる。
【0061】
本発明に係る半導体材料の膜を生成する方法は、ジアザポルフィリン化合物を基板に塗布する工程を含む方法には限定されない。ビシクロジアザポルフィリン化合物を含む組成物を膜状に形成した後に変換反応を行えば、本発明の半導体材料の膜を得ることができる。また、ジアザビシクロポルフィリン化合物と他の材料とを含む組成物に対して変換反応を行うことで、ジアザポルフィリン化合物と他の材料とを含む半導体材料の膜としてもよい。以下、この方法について具体的に説明する。もっとも、本発明のジアザポルフィリン化合物を含む半導体材料の膜を製造する方法は、以下の内容に限定されない。
【0062】
<本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を塗布して成膜する工程>
本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を塗布して成膜する工程は、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を塗布して成膜する限り、成膜方法、条件等は任意であるが、いくつかの具体例を以下で説明する。
【0063】
(成膜方法)
成膜方法としては、本発明に係るジアザポルフィリン化合物が得られる限り任意の方法を用いることが出来る。例えば、成膜方法としては、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を溶媒に溶解させた溶液(以下、「ジアザビシクロポルフィリン化合物溶液」いうことがある。)を、基板上に任意の塗布方法により塗布することにより成膜する塗布法、任意の印刷方法を用いて基板上にジアザビシクロポルフィリン化合物の膜をパターニングすることにより成膜する印刷法等が挙げられる。中でも、本発明のジアザビシクロポルフィリン化合物は通常溶媒への溶解性が高いという観点から、成膜は、塗布法、及び/又は印刷法により行うことが好ましい。なお、成膜方法は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0064】
塗布法としては、公知の任意の方法を用いることが出来る。塗布法の具体例としては、キャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法等が挙げられる。塗布法は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。また、印刷法としては、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等が挙げられる。印刷法は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0065】
(溶媒)
本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を溶解させる溶媒は、本発明に係るジアザポルフィリン化合物が得られる限り任意である。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、ベンゼン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エーテル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類;ピリジン、キノリン等の含窒素有機溶媒類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;などが挙げられる。これらは、目的により適したものを選択できる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0066】
(溶液中の濃度)
ジアザビシクロポルフィリン化合物溶液における、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物の濃度は、本発明に係るジアザポルフィリン化合物の膜が得られる限り任意であるが、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。濃度が低すぎる場合は、塗布膜厚が薄くなる可能性がある。また、濃度が高すぎる場合は、溶質の析出や薄膜作製を困難にする可能性がある。
【0067】
(溶液の使用量)
ジアザビシクロポルフィリン化合物溶液の使用量は、本発明に係るジアザポルフィリン化合物の膜が得られる限り任意であるが、所望の膜厚となるように決定すればよい。
【0068】
(その他の成分)
ジアザビシクロポルフィリン化合物溶液は、上記の溶媒及び本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物以外の成分(以下、「その他の成分」ということがある。)を含んでいてもよい。その他の成分としては、本発明に係るジアザポルフィリン化合物が得られる限り、任意のものを用いることができる。なお、その他の成分は、1種を単独で含んでもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでもよい。
【0069】
例えば、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を半導体として用いる場合、その他の成分としては、本発明に係るジアザポルフィリン化合物と同種の半導体材料及び/又は異種の半導体材料;これら半導体材料の前駆体;半導体特性を制御する電子受容体及び/又は供与体等のドーパント;成膜性を制御するための添加剤;酸化防止剤;等が挙げられる。特に、正孔と電子とが反応に関与する太陽電池等の電子デバイスにジアザポルフィリン化合物が用いられる場合、ジアザビシクロポルフィリン化合物溶液中にp型を示す半導体成分と、n型を示す半導体成分とを共存させて用いることもできる。
【0070】
p型を示す半導体成分としては、例えば、チオフェン環が連結したポリチオフェン等の共役分子、ペンタセン、フタロシアニン、ベンゾポルフィリン及びその前駆体等が挙げられる。また、n型を示す半導体成分としては、例えばPCBM([6,6]-phenyl C61-butyric acid methyl ester)等、溶媒に可溶性のn型半導体、無機若しくは有機半導体微粒子、n型半導体の前駆体等が挙げられる。ドーパントの具体例としては、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸;PF、AsF、FeCl、SbF等のルイス酸;塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン;ICl、ICl、IBr、IF;リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウム等のアルカリ金属原子;バリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類等が挙げられる。成膜性を制御するための添加剤としては、界面活性剤等が挙げられる。酸化防止剤の具体例としては、ヒンダードフェノール等が挙げられる。
【0071】
また、例えば、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を顔料として用いる場合、その他の成分としては、バインダー等を用いることが出来る。バインダーがジアザビシクロポルフィリン化合物溶液に含まれることにより、膜の機械強度の向上、撥水性、耐光性、耐候性等の耐環境性の付与、反射率等の光学的な特性の改良等の利点を本発明に係るジアザポルフィリン化合物の膜に付与することが出来る。バインダーの具体例としては、通常塗料等に用いられるポリマー、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0072】
(基板)
基板としては、任意のものを用いることが出来る。基板の具体例としては、ガラス、サファイア等のガラス基板、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル、ポリエチレン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、アクリル樹脂、シロキサン樹脂、ポリノルボルネン等のプラスチック基板、紙、合成紙、アルミ、ステンレス、鉄等の金属等が挙げられる。
【0073】
基板は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。基板の厚さも、基板としての強度が保てる限り任意である。ただし、基板の厚さは、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、また、通常1cm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは2mm以下である。基板の厚さが薄すぎる場合、基板としての強度が保てない可能性がある。また、基板の厚さが厚すぎる場合、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物の製造コストが高くなる可能性がある。なお、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を、窓ガラス、瓦、自動車の車体等、他の構造物の上に直接成膜する場合、それら塗布する対象を基板とする。この場合には、基板の厚みに制限はない。
【0074】
(膜厚)
ジアザビシクロポルフィリン化合物溶液を成膜して得られた膜の膜厚に制限は無く、その膜の目的に応じて適宜決定すればよい。例えば、本発明に係るジアザポルフィリン化合物に変換後の膜を横型の電界効果トランジスタ(FET)に用いる場合、膜厚が一定以上であれば、通常電子デバイスの各種特性に影響は無い。ただし、膜厚が厚すぎると漏れ電流が増加する可能性があるという観点から、膜厚は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは500nm以下であることが望ましい。
【0075】
またジアザポルフィリン化合物の膜をジアザポルフィリン化合物の光学特性を利用した塗装膜に用いる場合、色調を十分に発現する、及び/又は、塗装による、塗装される面の保護効果を得ることができるという観点から、膜厚は、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、また、通常1mm以下であることが望ましい。膜の形状としては、膜厚が均一である膜が好ましい。ただし、膜厚が一定でなくても、膜の全ての部分において膜厚が上記の範囲に収まることが好ましい。例えば、ジアザビシクロポルフィリン化合物溶液が液滴として膜表面に付着した場合、その付着した部分の厚さが、上記範囲に収まることが好ましい。
【0076】
<本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を本発明に係るジアザポルフィリン化合物に変換する工程>
本工程において、上記のように製膜された膜を加熱することにより、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を本発明に係るジアザルフィリン化合物に変換できる限り、加熱方法、条件等は任意である。ただし、[3.ジアザポルフィリン化合物の製造方法]の(加熱手段)において説明した加熱方法を、本工程においても適用することが好ましい。
【0077】
なお、上記のように、本発明のジアザポルフィリン化合物の膜の製造方法は、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を塗布して成膜する工程と、当該膜を加熱することにより本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を本発明に係るジアザポルフィリン化合物に変換する工程とを有することが好ましい。この場合、これらの2つの工程は、それぞれ1回のみ行ってもよく、それぞれ2回以上行ってもよい。例えば、成膜した後に膜を加熱してジアザビシクロポルフィリン化合物をジアザポルフィリン化合物に変換した後、さらに、当該膜上にジアザビシクロポルフィリン化合物を塗布して成膜し、再び加熱してジアザポルフィリン化合物に変換してもよい。また、後述するその他の工程と任意に組み合わせて行ってもよい。
【0078】
(その他の工程)
本発明のジアザポルフィリン化合物の膜の製造方法は、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を塗布して成膜する工程と、当該膜を加熱することにより本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を本発明に係るジアザポルフィリン化合物に変換する工程とを有することが好ましいが、本発明に係るジアザポルフィリン化合物膜が得られる限り、これら以外のその他の工程を有していてもよい。
【0079】
その他の工程としては、例えば、[3.ジアザポルフィリン化合物の製造方法]の(加熱手段)において説明した加熱方法以外の任意の処理等が挙げられる。また、その他の工程は、1種を単独で行ってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行ってもよい。例えば、2回洗浄を行った後、1回乾燥させてもよい。
【0080】
[6.ジアザポルフィリン化合物膜の用途]
本発明に係るジアザポルフィリン化合物は、可視領域に強い光の吸収を有することから、色素としての塗装用途等に好適に用いられる。さらに、本発明に係るジアザポルフィリン化合物は半導体特性を有することが好ましい。即ち、本発明に係るジアザポルフィリン化合物は、半導体材料であることが好ましい。これにより、本発明に係るジアザポルフィリン化合物の膜を、電界効果トランジスタ、太陽電池、エレクトロルミネッセンス素子等の電子デバイスの半導体部材の材料として、好適に用いることが出来る。
【0081】
ただし、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を半導体材料として用いるためには、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を膜状にした時の、当該膜の電気的な特性が重要である。具体的は、膜における室温でのキャリア移動度が、通常1.0×10−7cm/V・s以上、好ましくは1.0×10−5cm/V・s以上、より好ましくは1.0×10−4cm/V・s以上である。キャリア移動度が小さすぎる場合、半導体特性が低く、機能を十分に発現できない可能性がある。
【0082】
半導体は、その材料中で電荷を運搬できるものであり、不純物のドーピング、印加する電場、光の照射等の各種条件によりキャリア密度を制御することで、整流素子としての機能、トランジスタ機能、光による電流発生機能、光による起電力発生機能等の各種の機能を発現させることができる。また、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を膜状にした時のHOMOのエネルギーの真空準位からの低さは、4.6eVを超えることが好ましく、4.7eVを超えることがさらに好ましく、4.8eVを超えることが最も望ましい。
【0083】
[7.ジアザポルフィリン化合物を用いた電子デバイス]
本発明に係るジアザポルフィリン化合物は、半導体として用いることが好ましく、中でも、電子デバイスとして用いることが好ましい。以下、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を用いた電子デバイスのことを、「本発明の電子デバイス」ということがある。電子デバイスは、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気、又は化学物質等により制御するデバイスである。
【0084】
本発明の電子デバイスとしては、例えば、電極間に流れる電流、生じる電圧等を、電気、光、磁気、化学物質等により制御する素子;印加した電圧又は電流により、光、電場、磁場等を発生させる素子;電圧又は電流の印加により電流又は電圧を制御する素子;磁場の印加により電圧又は電流を制御する素子;化学物質を作用させて電圧又は電流を制御する素子等が挙げられる。これらの制御の方法としては、例えば、整流、スイッチング、増幅、発振等が挙げられる。本発明の電子デバイスの具体例としては、抵抗器;ダイオード等の整流器;スイッチング素子トランジスタ、サイリスタ等のスイッチング素子;トランジスタ等の増幅素子;メモリー素子、化学センサー等、又はこれらの素子の組み合わせ、集積化したデバイス等が挙げられる。
【0085】
また、本発明に係るジアザポルフィリン化合物は、通常は近紫外〜可視〜近赤外領域に強い光の吸収を有する。これを利用して、本発明に係るジアザポルフィリン化合物は、光電機能材料として用いることもできる。この場合、本発明の電子デバイスの具体例としては、吸収された光により電荷分離を引き起こし機能する素子等が挙げられる。このような素子としては、例えば、光により起電力を生じる太陽電池、光電流を生じるフォトダイオード等の光電変換素子、フォトトランジスタ等が挙げられる。
【0086】
ここで、太陽電池(光電変換素子)は、半導体と金属又は他の半導体との接合部分に生じる内部電界を利用して、光による電荷分離を引き起こし、これを外部に取り出すものである。また、このような素子は、例えば、光の吸収により生じた励起状態を利用して、ラジカル発生剤を増感したり、直接励起状態からラジカルを発生させたりすることにより、光ラジカル発生等にも応用できる。中でも、本発明の電子デバイスは、電界効果トランジスタ、光電変換素子、又はエレクトロルミネッセンス素子であることが好ましい。本発明の電子デバイスには、上記の本発明に係るジアザポルフィリン化合物を含む半導体材料を用いる。あるいは、本発明の電子デバイスには、上記の本発明のジアザポルフィリン化合物の製造方法により作製したジアザポルフィリン化合物を含む半導体材料を用いる。従って、本発明の電子デバイスは。上記の本発明のジアザポルフィリン化合物を含む半導体材料を用いる限り、他の構成は自由である。また、本発明の電子デバイスの製造方法も、本発明ジアザポルフィリン化合物を用いる限り、他の工程、方法、条件等は、任意である。
【0087】
他の電子デバイスとしては、例えば、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley−Interscience 1981)等に記載されているものが考えられる。中でも、例えば、本発明の電子デバイスが電界効果トランジスタの場合、特開2004−6750号公報に記載されている方法を用いることもできる。また、本発明の電子デバイスが光電変換素子(太陽電池)の場合、特開2007−324587号公報に記載されている方法を用いることもできる。さらに、本発明の電子デバイスが有機EL等のエレクトロルミネッセンス素子の場合、特開2004−327166号公報等に記載されている方法も用いることもできる。以下で、本発明に係る電子デバイスの製造方法を述べる。その後、本発明に係る電子デバイスの例として、電界効果トランジスタ及び光電変換素子の製造方法を述べる。
【0088】
・基板処理
本発明に係る電子デバイスは、基板上に作製するが、その基板への処理により特性を調節することができる。これは基板の親水性/疎水性を調整して、製膜の際に得られる膜質を向上させること、特に基板と半導体層の界面部分の特性を改良することがその原理であると推定される。このような基板処理としては、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシラン等を用いる疎水化処理、塩酸や硫酸、酢酸等の酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等を用いるアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュアブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理が挙げられる。
【0089】
・膜厚
本発明の電子デバイスには、例えば基板上に形成した、ジアザポルフィリン化合物が用いられる。この化合物を膜状に形成して薄膜電子デバイスで用いる場合、膜厚が薄いと十分に光吸収ができなかったり短絡することが多くなる。また、膜厚が厚くなると膜厚方向の抵抗が増して特性が劣化する事が多い。従って、好ましい膜厚は1nmから10μmの範囲であり、より好ましくは10nmから500nmの範囲であることが望ましい。また、基板上に均一な膜があるのではなく、ジアザビシクロポルフィリン化合物を含む溶液を液滴として付着させて電子デバイスを製造する場合でも、その付着物の厚さが上記範囲であることが好ましい。
【0090】
・混合
本発明のジアザポルフィリン化合物が電子デバイスの製造において単独で有機半導体として使用できることはもちろんであるが、他の化合物と混合して用いることもできる。さらには、他の層との積層構造として用いることも出来る。
【0091】
・成膜
上述の通り、ジアザビシクロポルフィリン化合物を溶媒に溶解した後に塗布し、その後上記で述べたように変換反応を行うことによって、本発明のジアザポルフィリン化合物を含む電子デバイスを作製することが出来る。塗布の方法としては、キャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法を用いることができる。さらに、塗布に類似の技術として、水面上に形成した単分子膜を基板に移し積層するラングミュア・ブロジェット法、液晶や融液状態を2枚の基板で挟んだり毛管現象で基板間に導入する方法等も挙げられる。
【0092】
塗布液の溶媒、即ち、本発明に係るジアザビシクロポルフィリン化合物を溶解させる溶媒としては、例えば有機溶媒が挙げられる。中でも、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、及びハロゲン非含有芳香族系溶媒からなる群より選ばれるいずれかが好ましい。ケトン系溶媒の具体例を挙げると、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、メシチルオキシド、ホロン、イソホロン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、ショウノウ等が挙げられる。これらの中で、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンが更に好ましい。
【0093】
また、エステル系溶媒の具体例を挙げると、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル、イソ吉草酸エステル、ステアリン酸エステル、安息香酸エステル、桂皮酸エチル、アビエチン酸エステル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、γ−ブチロラクトン、シュウ酸エステル、マロン酸エステル、マレイン酸エステル、酒石酸ジブチル、クエン酸トリブチル、セバシン酸エステル、フタル酸エステル、エチレングリコールモノアセタート、二酢酸エチレン、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールモノアセタート、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、モノブチリン、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、ホウ酸エステル、リン酸エステル等が挙げられる。これらの中で、安息香酸エステル、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールモノアセタートが更に好ましく、安息香酸エステルが特に好ましく、安息香酸エチルが最も好ましい。
【0094】
さらに、ハロゲン非含有芳香族系溶媒の具体例を挙げると、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン、p−シメン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ジペンチルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、メトキシトルエン、アニリン、ベラトロール、ニトロベンゼン等が挙げられる。これらの中で、トルエン、キシレン、テトラリン、アニソールが更に好ましい。なお、溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0095】
さらに、本発明に係るジアザポルフィリン化合物又はジアザビシクロポルフィリン化合物を、真空プロセスにより基板上に成膜して半導体デバイスを作製することもできる。この場合には、化合物をルツボや金属のボートに入れて真空中で加熱し、基板に付着させる真空蒸着法を用いることが出来る。この際、真空度としては、通常1×10−3Torr以下、好ましくは1×10−5Torr以下が望ましい。なお、1Torr=1.33322×10Paである。
【0096】
また、真空度と、蒸着源である本発明に係るジアザポルフィリン化合物又はジアザビシクロポルフィリン化合物の加熱温度の条件を調節することにより、種々の方法を採用できる。例えば、ジアザビシクロポルフィリン化合物を蒸着源でまず脱エチレンさせた後に蒸着する事もできるし、この反応温度より低温でジアザビシクロポルフィリン化合物のまま蒸着した後に、基板上に成膜された膜の加熱処理を行ない、脱エチレン反応により有機半導体層に変換することもできる。このような方法を採用することにより、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を高純度で含む半導体層を得ることができる。
【0097】
また、基板温度でデバイスの特性が変化するので、最適な基板温度を選択することが好ましい。具体的には、蒸着時の温度は0℃から200℃の範囲が好ましい。また、蒸着速度は通常0.01Å/秒以上、好ましくは0.1Å/秒以上、また、通常100Å/秒以下、好ましくは10Å/秒以下である。材料を蒸発させる方法としては、加熱の他、加速したアルゴン等のイオンを衝突させるスパッタ法も用いることが出来る。なお、1Å=10-10mである。
【0098】
さらに、作製された半導体層は、後処理により特性を改良することが可能である。例えば、加熱処理により、成膜時に生じた膜中の歪みを緩和することができ、特性の向上や安定化を図ることができる。さらに、酸素等の酸化性あるいは水素等の還元性の気体や液体にさらすことにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは例えば膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用することができる。
【0099】
また、微量の原子や原子団、分子、高分子を加える、ドーピングと呼ばれる手法により、半導体材料の特性を変化させて望ましいものにすることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF、AsF、FeCl等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン、ナトリウム、カリウム等の金属原子等をドーピングする事が挙げられる。これは、これらのガスに接触させたり、溶液に浸したり、電気化学的なドーピング処理をすることにより達成できる。これらのドーピングは膜の形成後に行う必要は必ずしもない。例えば、材料合成時に添加してもよいし、溶液を用いて作製するプロセスにおいては、その溶液に添加してもよい。さらに、前駆体の膜に対して添加することもできる。また、添加する材料を蒸着時に共蒸着したり、膜形成時の雰囲気に混合したり、さらにはイオンを真空中で加速して膜に衝突させてドーピングすることも可能である。
【0100】
これらのドーピングの効果は、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられ、半導体デバイスでは良く利用されているものである。ドーピング処理は電界効果トランジスタを含む様々な電子デバイスの作成時に行うことができる。
【0101】
・電極、配線及び保護層
また、光電変換素子及び電界効果トランジスタを含む電子デバイス作製の為の電極や配線には、金、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、コバルト、チタン、白金、等の金属、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、等の導電性高分子及びそのドーピングされた材料、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、等の半導体及びそのドーピングされた材料、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料、等を用いることができる。これらを形成する方法も、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等を用いることができる。
【0102】
また、そのパターニング方法も、フォトレジストのパターニングとエッチング液や反応性のプラズマでのエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法及びこれらの手法の複数の組み合わせた手法を利用することができる。また、レーザーや電子線等のエネルギー線を照射して材料を除去したり材料の導電性を変化させる事により、直接パターンを作製することも利用できる。
【0103】
さらに、電子デバイスには、半導体特性を改良したり、外気の影響を最小限にするために、保護膜を形成することができる。これには、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート樹脂等のポリマー膜、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化膜や窒化膜等が挙げられる。ポリマー膜は、溶液の塗布乾燥する方法、モノマーを塗布あるいは蒸着して重合する方法が挙げられ、さらに架橋処理や多層膜を形成することも可能である。無機物の膜の形成には、スパッタ法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法に代表される溶液プロセスでの形成方法も用いることができる。
【0104】
半導体に接するポリマー膜は、半導体特性の改良にはポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリベンジルメタクリレート、ポリアセナフチレン、ポリカーボネート樹脂等の芳香環を含むものが好ましく、その上にガスバリア性を有する膜、例えば窒化珪素や酸化ケイ素等の無機膜、アルミニウムやクロム等の金属膜を積層するのが好ましい。また、用途などに応じて、電子デバイスには上述した以外の層や部材を設けても良い。
【0105】
[8.ジアザポルフィリン化合物を用いた電界効果トランジスタ]
本発明に係るジアザポルフィリン化合物を適用するのに好適な電子デバイスの例として、以下で電界効果トランジスタ(FET)ついて詳細に説明する。
【0106】
図1は、FETの構造の例を模式的に示す図である。図1において、1が半導体層、2が絶縁体層、3及び4がソース電極及びドレイン電極、5がゲート電極、6が基板をそれぞれ示す。図1(A)〜(D)は、それぞれが本発明に係るFETの構造の一例を示す。
【0107】
ソース電極、ドレイン電極及びゲート電極の各電極には、例えば、白金、金、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属の他、InO、SnO、ITO等の導電性の酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子、及び、それに塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF、AsF、FeCl等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム・カリウム等の金属原子等のドーパントを添加したもの、カーボンブラックや金属粒子を分散した導電性の複合材料等の、導電性を有する材料が用いられる。
【0108】
また、絶縁体層に用いられる材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物、窒化珪素等の窒化物、チタン酸ストロンチウムやチタン酸バリウム等の強誘電性酸化物、あるいは、上記酸化物や窒化物、強誘電性酸化物等の粒子を分散させたポリマー等が挙げられる。
【0109】
一般に絶縁膜の静電容量が大きくなるほどゲート電圧を低電圧で駆動できることになるので、有利になる。このことは、誘電率の大きな絶縁材料を用いるか、絶縁体層の厚さを薄くする事で実現できる。絶縁体層は、塗布(スピンコーティングやブレードコーティング)、蒸着、スパッタ、スクリーン印刷やインクジェット等の印刷法、アルミ上のアルマイトの様に金属上に酸化膜を形成する方法等、材料特性に合わせた方法で作製することができる。
【0110】
また、FETは、通常基板上に作製する。基板としては任意のものを用いることができ、例えば、ポリマーの板、フィルム、ガラス、あるいは金属をコーティングにより絶縁膜を形成したもの、ポリマーと無機材料の複合材等を用いることができる。さらに、基板に処理を施すことにより、FETの特性を向上させることができる。これは基板の親水性/疎水性を調整して、成膜の際に得られる膜質を向上させること、特に基板と半導体層の界面部分の特性を改良することによるものと推定される。このような基板処理としては、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシラン等による疎水化処理、塩酸や硫酸、酢酸等の酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等のアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュアブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理が挙げられる。
【0111】
さらに、このFETにおいては、半導体層を、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を含む有機半導体により形成する。半導体層は、基板上に直接又は他の層を介して有機半導体を膜状に形成したものである。ここで、半導体層には、本発明に係るジアザポルフィリン化合物以外にも、他の化合物(他の有機半導体など)を含有させても良い。また、半導体層は、特定化合物の層と、それ以外の半導体の層とを積層した積層構造で構成しても良い。
【0112】
半導体層の膜厚に制限は無く、例えば横型の電界効果トランジスタの場合、素子の特性は必要な膜厚以上であれば膜厚には依存しない。ただし、膜厚が厚くなりすぎると漏れ電流が増加してくることが多いため、半導体層の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは500nm以下である。また、半導体層の形状は基板上に形成された均一な膜の状態以外にも、例えば塗布液(有機半導体を適切な溶媒に溶解させた溶液)が液滴として付着した場合であっても、その付着物の厚さが上記範囲であるのが好ましい。
【0113】
[9.ジアザポルフィリン化合物を用いた光電変換素子]
本発明の光電変換素子は基板と1対の電極を有し、当該1対の電極間に、少なくとも電子受容体と、電子供与体とを含む混合物層を有する。また、混合物層と電極(正極)との間にp型半導体層を設けることができる。本発明に係る光電変換素子は、混合物層とp型半導体層との少なくとも一方に、上記のジアザポルフィリン化合物又はその金属錯体を含む。
【0114】
図2は本発明の光電変換素子の一例を示す図である。図2において、1は基板、2は電極(正極)、3は正孔取り出し層、4は混合物層、5は電極(負極)、6は電子取り出し層、7はp型半導体層、8はn型半導体層を示す。ただし、全ての層が存在することは本発明にとって必須ではない。各層については以下で詳細に説明する。
【0115】
・基板
本発明の光電変換素子の基板は電極等の支持体となるものである。基板の材料(基板材料)は電極等の支持体となり得るであれば特に限定されない。ただし、本発明の光電変換素子において、基板に照射された光を素子内に取り込むため、基板には透光性の材料が用いられる。基板材料としては、当該基板を透過する可視光の透過率が、60%以上が好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0116】
基板材料の好適な例としては、石英、ガラス、サファイア、チタニア等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル、ポリエチレン、セルロース、ポリ塩化ビニリデ
ン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン等の有機材料;紙、合成紙等の紙材料;ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート或いはラミネートしたもの等の複合材料などが挙げられる。これらの中でも、ガラス、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンが好ましい。なお、基板材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0117】
基板のガスバリヤ性が低いと、基板を通過する外気により本発明の光電変換素子が劣化する可能性がある。そこで、基板材料としてガスバリヤ性の低い材料(例えば合成樹脂)を用いる場合には、基板のどちらか片側もしくは両側に、ガスバリヤ性を有する層(ガスバリヤ層)を形成することが好ましい。このガスバリヤ層としては、例えば、緻密なシリコン酸化膜などが挙げられる。
【0118】
基板の形状に制限はなく、例えば、板、フィルム、シートなどの形状を用いることができる。基板の厚みには制限はないが、5μm〜20mmが好ましく、20μm〜10mmがさらに好ましい。基板が薄すぎると本発明の光電変換素子を保持する強度が不足する可能性があり、厚すぎるとコストが高くなったり、重量が重くなりすぎたりする可能性があるからである。
【0119】
・電極
本発明の光電変換素子において、電極に用いられる材料は、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ITO、酸化スズ、酸化亜鉛、Au、Co、Ni、Ptなどの仕事関数が高い材料と、Al、Ag、Li、In、Ca、Mg、LiFなどを組み合わせて用いることが好ましい。なかでも、光が透過する位置にある電極は、ITO、酸化スズ、酸化亜鉛などの透明電極を用いることが好ましい。これら電極の製造方法及び膜厚などは適宜選択することができる。
【0120】
・混合物層
混合物層は、電子供与体として用いられる化合物と電子受容体として用いられる化合物とを含めば特に限定されない。電子供与体及び電子受容体には、1種の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上の化合物を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、混合物層に電子供与体又は電子受容体として働かない他の化合物を含んでもよい。また、混合物層は、電子供与体と電子受容体の化合物との混合物の層の他に、電子供与体を含む層(電子供与体層)、電子受容体を含む層(電子受容体層)、及び電子供与体層と電子受容体層とを含む層、のうちの少なくとも1つの層をさらに含んでもよい。
【0121】
混合物層の製造方法は特に限定されないが、電子供与体と電子受容体の化合物とを共に溶解した溶液を、基板や基板上に設けられた層にスピンコート等を用いて塗布することによって製造できる(塗布型の混合物層)。また、電子供与体と電子受容体の化合物とを、基板や基板上に設けられた層に蒸着させることによっても製造できる(蒸着型の混合物層)。
【0122】
混合物層の厚さは特に限定されないが、0.1nm未満では均一性が十分ではなく、短絡を起こしやすいという問題が生じる。他方、混合物層の厚さが5000nmを超えると内部抵抗が大きくなり、また素子1個当たりの固体層の占める体積割合が高くなるため、容量が低下し好ましくない。また、電極間の距離が離れるので、電荷の拡散が悪くなる問題が生じる。そこで、混合物層の厚さは0.1〜5000nmが好ましく、1〜1000nmがさらに好ましい。より好ましくは20〜500nmがさらに好ましい。
【0123】
本発明においては、電子供与体として上述のジアザポルフィリン化合物又はその金属錯体を用いることができる。その他、電子供与体として高分子化合物、ポルフィリン化合物またはフタロシアニン化合物を用いることもできる。電子供与体として用いられる高分子化合物としては、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフラン、ポリピリジン、ポリカルバゾール、ポリフェニレンビニレンなどの芳香族を有する高分子を用いることができる。これらの中でも、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフラン、ポリフェニレンビニレンは、種々の置換基が結合しているものが存在し、種々の構造が存在するために、多種多様なポリマーを合成できることで好ましい。
【0124】
電子供与体として用いられるポルフィリン化合物としては、例えば、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンコバルト(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン銅(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン亜鉛(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィン等が挙げられる。
【0125】
また、電子供与体として用いられるフタロシアニン化合物としては、例えば、29H,31H−フタロシアニン、銅フタロシアニン錯体、亜鉛フタロシアニン錯体、チタンフタロシアニンオキシド錯体、マグネシウムフタロシアニン錯体、鉛フタロシアニン錯体、銅4,4’,4’’,4’’’−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン錯体が挙げられる。これらの中でも、銅フタロシアニン錯体が好ましい。
【0126】
また、電子受容体の好ましい例を挙げると、フラーレン誘導体;8−ヒドロキシキノリンアルミニウムに代表されるキノリノール誘導体金属錯体;ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の縮合環テトラカルボン酸ジイミド類;ターピリジン金属錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体、ペリノン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ビススチリル誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジン誘導体;アントラセン、ピレン、ナフタセン、ペンタセン等の縮合多環芳香族の全フッ化物;単層カーボンナノチューブ;二酸化チタン等の無機半導体;等があげられる。
【0127】
・p型半導体層
電子供与体と電子受容体を含む混合物層と電極(正極)との間に、p型半導体層が設けることができる。p型半導体層の材料(p型半導体材料)としては、混合物層で生成した正孔を効率よく正極へ輸送できるものが好ましい。そのためには、p型半導体材料は、正孔移動度が高いこと、導電率が高いこと、正極との間の正孔注入障壁が小さいこと、混合物層からp型半導体層への正孔注入障壁が小さいこと、などの性質を有することが好ましい。
【0128】
また、p型半導体層を有する光電変換素子では、p型半導体層を通じて光電変換素子内に光を取り込むので、p型半導体層は透明であることが望ましい。通常は光のうちでも可視光を光電変換素子の内に取り込むことになるため、透明なp型半導体材料としては、当該p型半導体層を透過する可視光の透過率が、60%以上がこのましく、80%以上がさらに好ましい。光電変換素子の製造コストの抑制、大面積化などを実現するためには、p型半導体材料として有機半導体材料を用い、p型半導体層をp型有機半導体層として形成することが好ましい。
【0129】
本発明においては、p型半導体材料として上記のジアザポルフィリン化合物、又はその金属錯体を用いることができる。p型半導体材料のその他の好ましい例を挙げると、顔料が挙げられ、好ましくはポルフィリン化合物又はフタロシアニン化合物が挙げられる。これらの化合物は、中心金属を有していてもよいし、無金属のものでもよい。その具体例としては、29H,31H−フタロシアニン、銅(II)フタロシアニン、亜鉛(II)フタロシアニン、チタンフタロシアニンオキシド、銅(II)4,4’,4’’,4’’’−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン等のフタロシアニン化合物;ポルフィリン化合物;などが挙げられる。
【0130】
また、ポルフィリン化合物及びフタロシアニン化合物等の顔料以外の好ましいp型半導体材料の例としては、正孔輸送性高分子にドーパントを混合した系が挙げられる。この場合、正孔輸送性高分子の例としては、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどが挙げられる。一方、ドーパントの例としては、ヨウ素;ポリ(スチレンスルホン酸)、カンファースルホン酸等の酸;PF、AsF、FeCl等のルイス酸;などが挙げられる。なお、p型半導体材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0131】
p型半導体層の厚みに制限はないが、厚すぎると透過率が低下したり、直列抵抗が増大したりする可能性があり、薄すぎると不均一な膜となる可能性がある。そこで、p型半導体層の厚みは3nm〜200nmが好ましく、10nm〜100nmがさらに好ましい。なお、p型半導体層の形成方法に制限は無いが、顔料を含むp型半導体層を形成する場合には、潜在顔料(顔料の前駆体)を塗布し、その後に潜在顔料を顔料へと変換することが好ましい。
【0132】
・n型半導体層
電子供与体と電子受容体を含む混合物層と電極(負極)との間に、n型半導体層を設けることができる。n型半導体層の材料(n型半導体材料)としては、混合物層で生成した電子を効率よく負極へ輸送できるものが好ましい。混合物層で生成される励起子(エキシトン)が負極により消光されるのを防ぐために、電子供与体と電子受容体が有する光学的ギャップより大きい光学的ギャップを、n型半導体層の材料(n型半導体材料)が有することが好ましい。
【0133】
n型半導体材料の好ましい例を挙げると、フラーレン誘導体;8−ヒドロキシキノリンアルミニウムに代表されるキノリノール誘導体金属錯体;ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の縮合環テトラカルボン酸ジイミド類;ターピリジン金属錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体、ペリノン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ビススチリル誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジン誘導体;アントラセン、ピレン、ナフタセン、ペンタセン等の縮合多環芳香族の全フッ化物;単層カーボンナノチューブ;二酸化チタン等の無機半導体;等があげられる。なお、n型半導体材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。n型半導体層の厚みに制限はないが、2nm〜200nmが好ましく、5nm〜100nmがさらに好ましい。
【0134】
・正孔取り出し層及び電子取り出し層
本発明の光電変換素子は、1対の電極、およびその間に配置された電子供与体と電子受容体の化合物の他に、さらに正孔取り出し層と電子取り出し層とからなる群から選ばれる1以上を有することができる。
【0135】
正孔取り出し層の材料は、電子受容体と電子供与体を含む層から電極(正極)へ正孔の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミンなどの導電性有機化合物などが挙げられる。また、Au、In、Ag、Pdなどの金属などの薄膜も使用することができる。さらに、金属などの薄膜は、単独で形成してもよく、上記の有機材料と組み合わせて用いることもできる。
【0136】
電子取り出し層の材料は、電子受容体と電子供与体を含む層から電極(負極)へ電子の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、バソキュプロイン(BCP)または、バソフェナントレン(Bphen)、及びこれらにアルカリ金属あるいはアルカリ金属土類をドープした層が挙げられる。また、電子取り出し層の材料にフラーレン類やシロール類などを用いることも可能であり、たとえば、上記のバソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、または、バソキュプロイン(BCP)とバソフェナントレン(Bphen)にアルカリ金属もしくはアルカリ金属土類をドープした層を組み合わせたものも用いることができる。
【0137】
正孔取り出し層と電子取り出し層は1対の電極間に、電子受容体と電子供与体(たとえば、混合物層、または、混合物層とn型半導体層とp型半導体層)を挟むように配置される。すなわち、本発明の光電変換素子が正孔取り出し層と電子取り出し層の両者を含む場合、電極、正孔取り出し層、電子受容体と電子供与体(たとえば、混合物層、または、混合物層とn型半導体層とp型半導体層)、電子取り出し層、電極の順に配置される構成を有する。また、本発明の光電変換素子が正孔取り出し層を含み電子取り出し層を含まない場合、電極、正孔取り出し層、電子受容体と電子供与体(たとえば、混合物層、または、混合物層とn型半導体層とp型半導体層)、電極の順に配置される構成を有する。本発明の光電変換素子が電子取り出し層を含み正孔取り出し層を含まない場合、電極、電子受容体と電子供与体(たとえば、混合物層、または、混合物層とn型半導体層とp型半導体層)、電子取り出し層、電極の順に配置される構成を有する。
【0138】
電子供与体と電子受容体を含む層(たとえば、混合物層)に光が照射されると、照射による励起によって発生した電子は当該層中の電子受容体を通って対極に移動する。また、電子受容体に電子が移動すると電子供与体の化合物は酸化された状態になり、正孔が作用電極に移動する。このようにして、電流が流れることになる。
【0139】
・光電変換素子の用途
本発明の光電変換素子は、太陽電池に限らず、光スイッチング装置、センサなどの各種の光電変換装置に好適に使用することができる。
【0140】
[10.実施例]
以下、本発明について、実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0141】
(実施例1 ジアザビシクロポルフィリン銅錯体の合成)
【0142】
【化3−1】

【0143】
ジピロメタン2a(4.48 g, 10.0 mmol)を遮光した反応容器中の水酸化ナトリウム(5.24 g)のエチレングリコール溶液(100 mL)に加え、アルゴン雰囲気下、1時間、175℃に加熱し、撹拌した。反応溶液を室温まで冷却したあと、水に注ぎ、クロロホルムで抽出した。有機層を水、食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。エバポレーターで濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製し、ジピロメタン2b(2.60 g, 86%)を得た。
【0144】
【化3−2】

【0145】
ジピロメタン2b(0.91 g, 3.0 mmol)とビス(アセチルアセトナト)銅(II) (0.20 g, 0.76 mmol)のジクロロメタン溶液(300 mL)を撹拌しながら、酢酸(1.02 g)を加えたのち、亜硝酸ナトリウム水溶液(0.21 g in 1 mL)を0℃で滴下した。得られた混合物を室温で3時間撹拌した。反応溶液を水に注ぎ、クロロホルムで抽出し、有機層を水、食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を濃縮したあと、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製し、紫色の粉末2c(CudiazaBCODP)(17.5 mg, 収率1.7%)と緑色の粉末2d(CudiazaBCODP-NO)(10.5 mg, 収率1.0%)を得た。
【0146】
化合物2c(CudiazaBCODP)(分子量 686.31):質量分析(MALDI-TOF) m/z 686, 658, 630, 602, 573.
化合物2d(CudiazaBCODP-NO)(分子量 702.30):質量分析(MALDI-TOF) m/z 702, 686, 658, 630, 574.
化合物2cのMALDI−TOF質量分析のスペクトルを図3に、化合物2dのMALDI−TOF質量分析のスペクトルを図4に、それぞれ示す。
【0147】
(実施例2 ジアザポルフィリン銅錯体への変換)
【0148】
【化3−3】

【0149】
化合物2c(5.8mg, 8.45x10-3mmol)をミクロチューブに入れ、220℃で10分間加熱することで、暗紫色の粉末である化合物2e(4.8mg, 8.36x10-3mmol)を得た(収率99%)。
【0150】
【化3−4】

【0151】
化合物2dから化合物2fへの変換については、以下のように熱重量分析を行うことにより、脱離反応(逆ディールス・アルダー反応)が進行していることを確認した。
【0152】
化合物2cから化合物2e、及び化合物2dから化合物2fへの上記の変換反応時には熱分析(熱重量分析)を行った。化合物2cから化合物2eへの変換反応における熱分析のチャートを図5に、化合物2dから化合物2fへの変換反応における熱分析のチャートを図6に、それぞれ示す。熱分析の結果から、2c、2d共に200℃以下で、逆ディールス・アルダー反応による2e、2fへの変換が行われたことがわかる。
【0153】
化合物2f(CudiazaBP-NO)(分子量 589.08):質量分析(MALDI-TOF) m/z 589, 573.
化合物2fのMALDI−TOF質量分析のスペクトルを図7に示す。
【0154】
(実施例3 溶液の吸収スペクトル)
化合物2c〜2fの溶液の吸収スペクトルを図8に示す。図8において、CudiazaBCODPは化合物2cを、CudiazaBPは化合物2eを、CudiazaBCODP-NOは化合物2dを、CudiazaBP-NOは化合物2fを、それぞれ示す。化合物2c及び2dはクロロホルムを溶媒として、化合物2e及び2fはピリジンを溶媒として溶解し、日本分光株式会社製紫外可視分光光度計V−570を用いて吸収スペクトルを測定した。図8のスペクトルから、変換後の化合物2e,2fが化合物2c,2dよりも長波長シフトしていることがわかる。
【0155】
(実施例4 膜の吸収スペクトル)
テトラベンゾポルフィリン銅錯体(2g)及びジアザテトラベンゾポルフィリン銅錯体(2e)の膜を以下のように作製した。すなわち、各種前駆体化合物(ジアザビシクロポルフィリン銅錯体(2c)、及びテトラベンゾポルフィリン銅錯体の前駆体であるテトラビシクロベンゾポルフィリン銅錯体)の10mmol/lのクロロホルム溶液を調製し、それを合成石英上にスピンコートすることにより、良好な膜を得た。その後、210℃で20分間加熱処理することにより、テトラベンゾポルフィリン銅錯体(2g)及びジアザテトラベンゾポルフィリン銅錯体(2e)の膜を形成した。これらの膜について、測定した吸収スペクトルを図9に示す。作製した膜の吸収スペクトルは、島津製作所製紫外・可視・近赤外分光光度計SolidSpec−3700を用いて測定した。CuBPはテトラベンゾポルフィリン銅錯体(2g)を、CudiazaBPはジアザテトラベンゾポルフィリン銅錯体(2e)をそれぞれ示す。図9のスペクトルから、CudiazaBP(2e)が、CuBP(2g)よりも可視光領域に吸収領域が存在することがわかる。すなわち、可視光領域(360nm〜760nm)において、幅広い波長領域に渡ってCudiazaBP(2e)はCuBP(2g)よりも大きい吸光度を示す。このことは、太陽光のような連続スペクトルを有する光に対して、本発明に係るジアザポルフィリン化合物は高い吸収率を有することを意味する。従って、本発明に係るジアザポルフィリン化合物を用いる光電変換素子の光電変換効率が高いことが推測される。
【化3−5】

【0156】
(実施例5 イオン化ポテンシャル)
ジアザビシクロポルフィリン銅錯体(2c)の10mmol/lのクロロホルム溶液を調製し、ITO付きガラス基板上にスピンコートすることにより、膜を良好に生成した。その後、210℃で20分間加熱処理を行うことにより、ジアザポルフィリン銅錯体(CudiazaBP)(2e)の半導体膜を作製した。同様に、テトラビシクロベンゾポルフィリン銅錯体溶液を用いることで、テトラベンゾポルフィリン銅錯体(CuBP)(2g)の半導体膜を作製した。これらの半導体膜のイオン化ポテンシャルを、住友重機械メカトロニクス製イオン化ポテンシャル測定装置PCR-101を用いて測定した。イオン化ポテンシャルの測定結果を以下の表に示す。単位はeVである。
【0157】
【表1】

【0158】
イオン化ポテンシャルから、CudiazaBP(2e)のHOMO準位は、CuBP(2g)よりも低いことがわかる。
【0159】
(実施例6 電界効果トランジスタ(FET)特性)
膜厚300nmの酸化膜を形成したn型シリコン(Si)基板(Sbドープ、抵抗率0.02Ω・cm以下、住友金属工業社製)上に、フォトリソグラフィーで長さ(L)10μm、幅(W)500μmのギャップを有する金電極をソース、ドレイン電極として形成した。また、この電極とは異なる位置の酸化膜を削り取ってむき出しになったSi部分にクロムを蒸着して、この部分をシリコン基板に電圧を印加するためのゲート電極として利用した。
【0160】
ジアザビシクロポルフィリン化合物CudiazaBCODP(2c)の10mmol/lのクロロホルム溶液を調整し、それを上述の基板上にスピンコートすることにより、良好な膜を得た。その後、210℃で20分間加熱処理を行うことにより、電極を形成した基板上にジアザポルフィリン化合物CudiazaBP(2e)の半導体膜を作製することで、FET素子を作製した。得られたFET素子は、Agilent社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて評価した。CudiazaBP(2e)は、FET特性を示し、その飽和移動度は、6.9x10−4[cm2/V・s]であった。
【0161】
(実施例7 CudiazaBPを用いた太陽電池)
ITO電極がパターニングされたガラス基板上に、正孔取り出し層としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)水性分散液(エイチ・シー・スタルク社製 商品名「CLEVIOSTM P VP AI4083」)をスピンコートにより塗布した後、当該基板を120℃のホットプレート上で大気中10分間、加熱処理を施した。その膜厚は約30nmであった。
【0162】
クロロホルム/モノクロロベンゼンの1:2混合溶媒(重量)に、ジアザビシクロポルフィリン化合物 CudiazaBCODP(2c)を0.5重量%溶解した液を調製し、濾過した。窒素雰囲気下で得られた濾液をスピンコートし、180℃で20分間加熱した。これにより、正孔取り出し層の上に、CudiazaBP(2e)のp型半導体の層を約50nm形成した。
【0163】
次に、トルエンに以下の式に示すフラーレン誘導体(2h)を1.2重量%溶解した液を調整し、濾過した。窒素雰囲気下で、得られた濾液をスピンコートし、120℃で5分間加熱処理を施した。これによって、混合物層上にフラーレン誘導体(2h)の層を約50nm形成した。そして、真空蒸着装置内に配置されたメタルボートにBCPを入れ、加熱して、膜厚6nmになるまで蒸着し、フラーレン誘導体の層上にバッファー層を形成した。
【0164】
【化3−5】

【0165】
更に、バッファー層の上に真空蒸着により厚さが80nmのアルミニウム電極を設けた。ガラス板を封止板として用いて封止した太陽電池に、ITO電極側からソーラシミュレーター(AM1.5G)で100mW/cmの強度の光を照射し、ソースメーター(ケイスレー社製,2400型)にて、ITO電極とアルミニウム電極と間における電流−電圧特性を測定した。
【0166】
また、比較例として、CudiazaBP(2e)の代わりにCuBP(2g)を用いた以外は同様にして、太陽電池を作製し、一定時間毎に電流−電圧特性を測定した。以下の表において、Vocは開放電圧を、Jscは短絡電流を、FFは曲線因子を、PCEはエネルギー変換効率を、それぞれ示す。
【0167】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0168】
ジアザポルフィリン化合物を含む半導体材料、及びこの半導体材料を用いる電子デバイスを提供するものである。本発明のその趣旨に反しない限り適用される電子デバイスに制限はなく、例えば、電子写真感光体、有機トランジスタ、有機太陽電池、有機EL等に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1a)又は式(1b)で表されるジアザビシクロポルフィリン化合物又はその塩。
【化1】

(上記式(1a)及び(1b)中、Q(nは1〜4の整数)は、以下の構造を表す。
【化2】

11〜R16、R21〜R26、R31〜R36、R41〜R46、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子2個又は金属原子を表し、当該金属原子上には他の原子団が結合又は配位していてもよい。また、上記式(1a)及び(1b)中、X及びXはそれぞれ独立に以下の構造の何れかを示す。)
【化3】

【請求項2】
請求項1に記載のジアザビシクロポルフィリン化合物又はその塩に対して逆ディールス・アルダー反応を行う工程を含む、下記式(1c)又は(1d)のジアザポルフィリン化合物の製造方法。
【化4】

(上記式(1c)及び(1d)中、X及びXはそれぞれ独立に以下の構造の何れかを示す。
【化5】

11〜R14、R21〜R24、R31〜R34、R41〜R44、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子2個又は金属原子を表し、当該金属原子上には他の原子団が結合又は配位していてもよい。)
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法によって得られたジアザポルフィリン化合物又はその塩。
【請求項4】
請求項3に記載のジアザポルフィリン化合物又はその塩を含む半導体材料。
【請求項5】
下記式(1c)又は式(1d)で表されるジアザポルフィリン化合物又はその塩を含む半導体材料。
【化6】

(上記式(1c)及び(1d)中、X及びXはそれぞれ独立に以下の構造の何れかを示す。
【化7】

11〜R14、R21〜R24、R31〜R34、R41〜R44、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子2個又は金属原子を表し、当該金属原子上には他の原子団が結合又は配位していてもよい。)
【請求項6】
請求項4又は5に記載の半導体材料の膜。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の半導体材料を用いた電子デバイス。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の半導体材料を用いた電界効果トランジスタ。
【請求項9】
請求項4又は5に記載の半導体材料を用いた光電変換素子。
【請求項10】
=R=Hである式(1a)で表される、請求項1に記載のジアザビシクロポルフィリン化合物又はその塩。
【請求項11】
=R=Hである式(1c)で表されるジアザポルフィリン化合物又はその塩を含む、請求項5に記載の半導体材料。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−74161(P2011−74161A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225558(P2009−225558)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】