説明

スクリーン印刷用感光性樹脂積層体及びそれを用いたスクリーン印刷版の製造方法

【課題】従来よりも高品位の印刷画像が得られる感光性スクリーン印刷用原版を提供する。
【解決手段】少なくとも支持体、感光性樹脂層、IRアブレーション層およびカバーフィルムを有するスクリーン印刷用感光性樹脂積層体であって、前記支持体と感光性樹脂層との間に接着剥離層が、IRアブレーション層とカバーフィルムとの間に非IR感受性高分子樹脂層がそれぞれ存在し、感光性樹脂層と接着剥離層との間の剥離力が、感光性樹脂層と非IR感受性高分子樹脂層との間の剥離力より大きいことを特徴とするスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ製版技術によりスクリーン印刷版を製造するために使用されるスクリーン印刷用感光性樹脂積層体、およびそれを用いたスクリーン印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種印刷の分野において、デジタル画像形成技術としても知られているコンピュータ製版技術(コンピュータ・トゥ・プレート(CTP)技術)は、極めて一般的なものとなってきている。CTP技術では、感光性印刷版の重合するべきでない領域を覆うために従来から使用されている写真マスク(フォトマスクやネガフィルムともいう)は、印刷版内で形成統合されるマスクに取って代わられている。このような統合マスクを得るための方法として、市場には2つの技術が存在する。一つは感光性印刷原版上にインクジェットプリンターでマスクを印刷する方法であり、もう一つは感光層上に紫外線に対して実質的に不透明で(即ち紫外線を実質的に通さない)、かつ、IRレーザの照射により融除可能な層(この層は、一般に「IRアブレーション層」や「赤外融除層」等と呼ばれており、本明細書では「IRアブレーション層」と呼ぶこととする。)を設け、当該層にIRレーザで画像形成をすることでマスクを形成する方法である。これらの技術を用いることで画像(マスク)が版上に直接形成され、次の工程で当該画像(マスク)を介して紫外線が照射され、製版へといたる。
【0003】
なお、CTP技術はネガフィルムが必要でないという利便性を有するだけでなく、ネガフィルムを使用する従来技術に比べて遙かに高い解像度を与え得る。このようなCTP技術の従来技術に対する優位性について、詳細な議論がなされている。
【0004】
一方、従来のスクリーン印刷版の製造方法においては、スクリーン印刷用感光性樹脂積層体の支持体を最初に剥がしてスクリーンに貼り付け、その後、カバーフィルムを剥がして画像露光、現像といった製版工程に入るため、先に剥がす支持体側の剥離力が、後から剥がすカバーフィルム側の剥離力よりも小さくなるように設計してある。しかしCTP技術を用いたスクリーン印刷版の製造においては、原版をスクリーンに貼り付けてからIRレーザ装置で画像形成することは装置の制約上困難であるため、原版をスクリーンに貼る前にIRレーザ装置で画像形成する必要があり、従来のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体では、カバーフィルムが支持体よりも剥がれにくい為、このままの構成でCTP技術のみを取り入れただけでは、非常に使い難いものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、従来よりも高品位の印刷画像が得られ、かつCTP技術を用いたスクリーン印刷版の製造に使い易いスクリーン印刷用感光性樹脂積層体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意、検討、研究した結果、支持体と感光性樹脂層との間の剥離力を、感光性樹脂層とカバーフィルムとの間の剥離力よりも大きくする為、支持体と感光性樹脂層との間に接着剥離層を、IRアブレーション層とカバーフィルムとの間に非IR感受性高分子樹脂層をそれぞれ設けることで、感光性樹脂層と接着剥離層との間の剥離力を、感光性樹脂層と非IR感受性高分子樹脂層との間の剥離力より大きくすることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)少なくとも支持体、感光性樹脂層、IRアブレーション層およびカバーフィルムを有するスクリーン印刷用感光性樹脂積層体であって、前記支持体と感光性樹脂層との間に接着剥離層が、IRアブレーション層とカバーフィルムとの間に非IR感受性高分子樹脂層がそれぞれ存在し、感光性樹脂層と接着剥離層との間の剥離力が、感光性樹脂層と非IR感受性高分子樹脂層との間の剥離力より大きいことを特徴とするスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
(2)IRアブレーション層の光学濃度が2.0以上である前記(1)記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
(3)IRアブレーション層がIR吸収性金属からなる層である前記(1)記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
(4)IR吸収性金属からなる層がアルミ蒸着層である前記(3)記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
(5)IRアブレーション層が少なくとも1種のバインダーと少なくとも1種のIR吸収材料を含有する前記(1)記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
(6)IR吸収材料がカーボンブラックである前記(5)記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
(7) 非IR感受性高分子樹脂層に水溶性高分子および可塑剤が含有されている前記(1)記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
(8) 少なくとも支持体、感光性樹脂層、IRアブレーション層およびカバーフィルムを有するスクリーン印刷用感光性樹脂積層体を用いたスクリーン印刷版の製造方法であって、前記支持体と感光性樹脂層との間に接着剥離層が、IRアブレーション層とカバーフィルムとの間に非IR感受性高分子樹脂層がそれぞれ存在し、感光性樹脂層と接着剥離層との間の剥離力が、感光性樹脂層と非IR感受性高分子樹脂層との間の剥離力より大きいことを特徴とするスクリーン印刷用感光性樹脂積層体を用い、前記IRアブレーション層にレーザ光で画像を描画後、該感光性樹脂積層体の感光性樹脂層側をスクリーンに貼り付け、該感光性樹脂積層のIRアブレーション層を介して露光することにより感光性樹脂層に潜在画像を形成させた後、感光性樹脂層の非硬化部を現像液で除去することを特徴とする、スクリーン印刷版の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明感光性樹脂積層体を用いることにより、従来よりも高品位の印刷画像が得られ、かつ容易にCTP技術を用いたスクリーン印刷版を得ることができるので産業界に寄与すること大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の詳細および最良の一実施態様例を説明する。
本発明のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体は、少なくとも支持体、感光性樹脂層、IRアブレーション層およびカバーフィルムを有し、前記支持体と感光性樹脂層との間に接着剥離層が、IRアブレーション層とカバーフィルムとの間に非IR感受性高分子樹脂層がそれぞれ存在し、感光性樹脂層と接着剥離層との間の剥離力が、感光性樹脂層と非IR感受性高分子樹脂層との間の剥離力より大きいことを特徴とするものである。
図1は本発明スクリーン印刷用感光性樹脂積層体の一実施態様例の断面図であり、支持体1、接着剥離層2、感光性樹脂層3、IRアブレーション層4、非IR感受性高分子樹脂層5およびカバーフィルム6を積層した構成である。
【0010】
本発明のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体においては、図1に示すように、支持体1と感光性樹脂層3との間に接着剥離層2が、IRアブレーション層4とカバーフィルム6との間に非IR感受性高分子樹脂層5がそれぞれ存在し、感光性樹脂層3と接着剥離層2との間の剥離力が、感光性樹脂層3と非IR感受性高分子樹脂層5との間の剥離力より大きくなっていることから、原版をスクリーンに貼る前にIRレーザ装置で画像形成するというCTP技術を用いたスクリーン印刷版の製造に使い易いものとなる。
なお、図1は、あくまで例示であり、前記の特徴(すなわち、支持体と感光性樹脂層との間に接着剥離層が、IRアブレーション層とカバーフィルムとの間に非IR感受性高分子樹脂層がそれぞれ存在し、感光性樹脂層と接着剥離層との間の剥離力が、感光性樹脂層と非IR感受性高分子樹脂層との間の剥離力より大きい)を有するならば、その他の部分については、公知のこの種の印刷原版の技術を適用できることはいうまでもない。
【0011】
本発明において、IRアブレーション層とは、実質的に紫外線(活性光線)を通さず(即ち活性光線に対して不透明である)、一般に、活性光線に対する光学濃度は、2.0を超える値であり、好ましくは3.0を超える値である。光学濃度は、画像を形成したIRアブレーション層を介して、感光性組成物の全露光に使用される化学線の波長又は波長範囲で得られ、IRレーザ照射に曝された際に、効果的に除去することができるものである。
具体的に、IRアブレーション層として、(イ)IR吸収性金属層のみで構成、(ロ)少なくとも1種のバインダーと少なくとも1種のIR吸収材料で構成、あるいは(ハ)それらを組み合わせて多層になっていてもよいが、本発明においては、(イ)IR吸収性金属層のみで構成されている方が、解像度が高く、かつ現像後の汚れ等も少ないので好ましい。
【0012】
本発明において、前記IR吸収性金属とは、IRを吸収して融除され得る、金属、合金または含金属化合物を意味し、ここでの合金とは、2種以上の金属元素の融合物だけでなく、2種以上の金属元素とともに金属元素以外の元素を含む融合物も含む。また、IR吸収性金属は1種の金属でも2種以上の金属を併用してもよい。
具体的には、Al、Zn、Cu、Ca、Sc、Tl、V、Sb、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Ta、W、Au、BiおよびPb等が挙げられ、金属単体としては、Al、Zn、Cuが好ましく、さらに好ましくはAlである。また、合金として好ましくはBi−In−Cu合金が挙げられる。さらに非金属元素(炭素、ケイ素等)および/または希土類元素(Nd、Sm、Gd、Tb等)を含む合金が挙げられ、また、含金属化合物としては、IRを吸収して融除され得るものであれば、金属酸化物、金属窒化物等の各種化合物を使用できるが、それらの中でも、亜クロム酸銅、酸化クロム、アルミン酸コバルト−クロム等の暗色無機顔料が好ましい。
【0013】
本発明において、IRアブレーション層を(ロ)少なくとも1種の高分子バインダーと少なくとも1種のIR吸収材料で構成する場合、前記高分子バインダーは、IRアブレーション層がIRレーザ照射に曝された際に、IR吸収材料より発生した熱により効果的に除去することができるものである。
【0014】
前記バインダーは上述の要求を満たすバインダーであれば、どのような種類でも本発明の範囲内において使用することができるが、水系現像型感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層の場合に対しては、水溶性ポリマーが好ましく使用できる。具体的には、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、セルロース系、水溶性ブチラール、分子中に水酸基を有する化合物が挙げられるが、酸素遮断性、皮膜形成性、耐温湿度、塗工性より少なくとも1種のポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシドなどを含むことが好ましい。なかでも重合度500〜4000、好ましくは1000〜3000、ケン化度70%以上、好ましくは80〜99%、さらに好ましくは80〜90%のポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが望ましい。
【0015】
本発明におけるIRアブレーション層は、前記バインダー以外に、別の成分として、多価アルコールおよび/またはアミン化合物を含有しても良い。具体的にはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどの低分子量のアルキレングリコール類、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200、ポリエチレングリコール#300、ポリエチレングリコール#400,ポリエチレングリコール#600などの低分子量ポリアルキレングリコール類、2,3ブタンジオール、1,3ブタンジオールなどのブタンジオール類、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなど3価以上のアルコール類などの多価アルコール類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのエタノールアミン類やN−メチルピロリドン、シクロヘキシルアミン、尿素などのアミン化合物が挙げられる。また2種以上の混合物も使用することができる。
【0016】
また、前記IRアブレーション層に含有されるIR吸収材料としては、750〜20000nmの範囲で強い吸収を有し、層内に均一に分散されているものであり、好適なIR吸収材料としては、IR吸収染料(例、フタロシアニン及び置換フタロシアニン誘導体、シアニン染料、メロシアニン染料及びポリメチン染料)或いは濃色の無機顔料(例、カーボンブラック、グラファイト、酸化鉄又は酸化クロム)を挙げることができる。本発明においては、カーボンブラックの使用が好ましい。カーボンブラックは、IRアブレーション層が化学線に対して不透明になり、これにより他のUV−吸収染料の添加を絶対的に不要にすることを保証する。最大カラー強度のためには小粒径を使用することが望ましい。特に、60nm未満の平均粒径をもつ微細カーボンブラックの銘柄を使用することが望ましい。好適な銘柄の例としては、PrintexR U(プリンテックス(商標登録)U)、PrintexR LVI、Spezialschwarz 4(スペチアールシュバルツ(商標登録)4)又はSpezialschwarz 250(Degussa(株)製)、BONJET CW-1(オリエント化学(株)製)を挙げることができる。
【0017】
本発明において、前記構成におけるIRアブレーション層の厚みは、50〜15000Åが好ましく、特に好ましくは70〜8000Å、とりわけ好ましくは100〜5000Åである。厚みが50Å未満であると、IRアブレーション後のマスクとしての機能が劣るので好ましくなく、また、15000Åを超えると、画像形成用のIRではアブレーション(融除)することが困難になるので、好ましくない。
【0018】
なお、本発明において、IRアブレーション層を(イ)IR吸収性金属層のみで構成する場合、IR吸収性金属層の厚みは、100〜20000Åが好ましく、特に好ましくは200〜8000Å、とりわけ好ましくは300Åを超え5000Å以下である。厚みが100Å未満であると、IRアブレーション後のマスクとしての機能が劣るので好ましくなく、また、2000Åを超えると、画像形成用のIRではアブレーション(融除)することが困難になるので、好ましくない。
【0019】
次に、本発明において、非IR感受性高分子樹脂層の構成材料としては、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、両性インターポリマー、アルキルセルローズ、セルロース系ポリマー(特にヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース)、エチレンとビニルアセテートのコポリマー、セルロースアセテートブチレート、ポリブチラール、環状ゴム等が挙げられる。これらは、いずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、両性インターポリマーは米国特許第4,293,635号に記載されているものである。
【0020】
非IR感受性高分子樹脂層の厚みは、0.01〜200μm、好ましくは0.1〜100μm、特に好ましくは0.1〜50μmである。厚みが200μmを超えると、IRアブレーションをする際に用いるドラムへの装着が困難になったり、また、主露光および現像して得られるレリーフの解像度が低下する虞があるので好ましくない。
【0021】
本発明における感光性樹脂層は、公知の可溶性合成高分子化合物、光重合性不飽和化合物(以下、架橋剤ともいう)及び光重合開始剤を少なくとも含む組成物の層である。さらに添加剤、例えば可塑剤、熱重合防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、香料または酸化防止剤を含んでもよい。
【0022】
本発明において、可溶性合成高分子化合物としては公知の可溶性合成高分子化合物を使用できる。例えばポリエーテルアミド(例えば特開昭55−79437号公報等)、ポリエーテルエステルアミド(例えば特開昭58−113537号公報等)、三級窒素含有ポリアミド(例えば特開昭50−76055公報等)、アンモニウム塩型三級窒素原子含有ポリアミド(例えば特開昭53−36555公報等)、アミド結合を1つ以上有するアミド化合物と有機ジイソシアネート化合物の付加重合体(例えば特開昭58−140737号公報等)、アミド結合を有しないジアミンと有機ジイソシアネート化合物の付加重合体(例えば特開平4−97154号公報等)などが挙げられ、そのなかでも三級窒素原子含有ポリアミドおよびアンモニウム塩型三級窒素原子含有ポリアミドが好ましい。
【0023】
また、好適に用いられる光重合性不飽和化合物としては、多価アルコールのポリグリシジルエーテルとメタアクリル酸およびアクリル酸との開環付加反応生成物であり、前記多価アルコールとして、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、フタル酸のエチレンオキサイド付加物などが挙げられ、そのなかでもトリメチロールプロパンが好ましい。
【0024】
光開始剤の例としては、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などが挙げられる。具体的には、ベンゾフェノン、クロロベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジイソプロピルケタール、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2―メチルアントラキノン、2−アリルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、チオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。
【0025】
また、本発明におけるカバーフィルムは、原版の貯蔵および取り扱いの際のIRアブレーション層を保護するために設けられ、IR照射前またはIR照射後に除去(剥離)されるものである。
【0026】
本発明のカバーフィルムとして具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド等が好適である。これらはいずれかを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、これらに他の有機重合体を少量共重合したり、ブレンドしたりしてもよい。カバーフィルム5の厚みは10〜300μmが好ましく、特に好ましくは10〜200μmである。
【0027】
なお本発明において、カバーフィルムと非IR感受性高分子樹脂層との間に離型層が存在していてもよい。該離型層の材料としては、シリコーン離型剤、フッ素樹脂、ステアリン酸系樹脂、ポリエチレンワックス、流動性パラフィン等が好適であり、厚みとしては0.001〜10μm程度が好ましく、特に好ましくは0.001〜5μmである。
【0028】
次に、本発明における支持体は、可撓性を有し、かつ、寸法安定性に優れた材料が好ましく用いられ、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、或いはポリカーボネートを挙げることができる。支持体1の厚みは50〜350μm、好ましくは100〜250μmが原版の機械的特性、形状安定性あるいは印刷版製版時の取り扱い性等から好ましい。また、本発明においては、支持体と感光性樹脂層との間に接着剥離層が設けられる。該接着剥離層の材料としては、シリコーン離型剤、フッ素樹脂、ステアリン酸系樹脂、ポリエチレンワックス、流動性パラフィン等が好適であり、厚みとしては0.001〜10μm程度が好ましく、特に好ましくは0.001〜5μmである。
【0029】
本発明のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体を作製する方法としては、特に限定されないが、一般的には、支持体上に塗布、スプレーコーティング等で感光性樹脂層を形成するか、若しくは、市販の感光性印刷版からカバーフィルムを剥がすことで一方の積層体を作成し、さらにこれとは別に、カバーフィルムに真空蒸着、スパッタリング等でIR吸収性金属層を形成するか、若しくは、カバーフィルムに塗布、スプレーコーティング等で有機高分子層を形成後、これに続けて真空蒸着、スパッタリング等でIR吸収性金属層を形成して他方の積層体を形成し、このようにして得られた2つの積層体をヒートプレス機等を用いてラミネートすることにより作製することができる。ラミネート条件は、温度を室温〜150℃、好ましくは50〜120℃とし、圧力を20〜200kg重/cm2、好ましくは50〜150kg重/cm2とするのがよい。
【0030】
本発明において、感光性樹脂積層体からのスクリーン印刷版の作製は以下のようにして行うのが好ましい。
まず、カバーフィルムを剥がした後、または、残したまま、IRアブレーション層にIRレーザによる画像照射を行うことでIRアブレーションを実施し、感光性樹脂層上にマスクを形成する。適当なIRレーザの例としては、ND/YAGレーザ(1064nm)又はダイオードレーザ(例、830nm)を挙げることができる。コンピュータ製版技術に適当なレーザシステムは、市販されており、例えばダイオードレーザシステムOmniSetter(登録商標)(Fa. Misomex;レーザ波長:830nm;作業幅:1800mm)或いはND/YAGレーザシステムDigilas(登録商標)(Fa. Schepers)を挙げることができる。これらは、それぞれ感光性スクリーン印刷用原版を保持する回転円筒ドラム、IRレーザの照射装置およびレイアウトコンピュータを含む。画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザ装置に直接移される。
【0031】
次に、上記のようにして、マスクをIRアブレーション層に書き込んだ後、紗貼り工程に供される。紗貼り工程では、該感光性スクリーン印刷用原版の支持体を剥離してから、感光性樹脂層側を型枠に張られたスクリーンに載置し、軽く押圧した状態で、裏面側より水を塗布して感光性樹脂層を軟化させて、感光性樹脂層をスクリーンに食い込ませた状態で感光性樹脂を一部溶解し、スクリーンに貼り付けるか、或いは、スクリーンに載置して、裏面側より感光性乳剤を塗布して乾燥させることにより、型枠に張られたスクリーンに感光性スクリーン印刷用原版を貼り付けることが出来る。
次に、型枠に貼り付けた感光性スクリーン印刷用原版にマスクを介して化学線を全面照射する。照射工程の間、感光性樹脂層は上記マスクの形成工程(融除工程)で露出した領域において重合し、一方照射光を通さないIRアブレーション層によりなお被覆されているIRアブレーション層領域では、重合は起こらない。活性光線の照射は、慣用の真空フレームで酸素を除去して行うことも可能であるが、大気酸素の存在下に行うことが有利である。
【0032】
上記のようにして活性光線が照射された版は、現像工程に供される。現像工程は、慣用の現像ユニットで実施することができ、版の性質に応じて、水、有機溶剤またはこれらの混合物を使用することができる。現像の間に、感光性樹脂層の非重合領域及びIRアブレーション層の残留部は除去される。IRアブレーション層を1種の溶剤又は溶剤混合物でまず除去し、別の現像剤で感光性樹脂層を現像することも可能である。現像工程後、得られた印刷版は乾燥させる。版の乾燥条件は、例えば、60〜70℃で5分〜60分間である。乾燥後に、幾つかの後処理操作をさらに行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における剥離力は以下の方法によって測定した値である。
剥離力:引っ張り試験機(オリエンテック(株)製RTC-1210A)を用い、カバーフィルム(または支持体)を感光性樹脂層に対して90°の角度の方向にスピード500mm/分で引っ張ったときの値であり、単位幅(cm)あたりの強度で表示した。
【0034】
実施例1
A.IRアブレーション層の作製
ケミカルマット処理を施したPETフィルム(原反は東洋紡績(株)製E5002、厚さ125μm)にポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製ゴーセノールAH−26:熱分解開始温度220℃、極限酸素指数22.5)/プロピレングリコール(旭電化(株)製)/界面活性剤(第一工業製薬(株)製エパン740)/純水=8.75g/8.75g/0.01g/332.5gの比率で溶解した水溶液をバーコーター#26で塗布し、100℃、3分間乾燥して、乾燥後の厚みが1μmの塗膜を形成し、次いで、この塗膜の面に、真空蒸着法により、アルミニウムを800Åの厚みに蒸着した。この時の光学濃度(OD)は3.5であった。この光学濃度(OD)は白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン(株)製)によって測定した。
【0035】
B.原版の作製
接着剥離層コート済PETフィルム(東洋紡績(株)製K1504)を支持体とし、感光性樹脂層、ポリビニルアルコール層およびPETカバーフィルムから構成される感光性スクリーン印刷用原版(コスモマスクTF20E (東洋紡績(株)製))のPETカバーフィルムを剥離し、更に下層のポリビニルアルコール層を感光性樹脂層から慣用の接着テープを用いて除去した。露出させた感光性樹脂層に上記Aで作製したアルミニウム蒸着フィルムの蒸着面を重ね合わせ、ヒートプレス機を用いて100℃、100kg重/cm2でラミネートし、PET支持体、接着剥離層、感光性樹脂層、アルミニウム蒸着層、ポリビニルアルコール層およびケミカルマット化PETカバーフィルムからなる積層体を得た。この版の総厚みは0.45mmであった。なお、前記感光性スクリーン印刷用原版における接着剥離層は、シリコーン離型剤(KS-774(信越シリコーン(株)製)1.7%、トルエン49.1%、メチルエチルケトン49.1%および触媒(PL−3(信越シリコーン(株)製)0.1%からなる組成物を、PET支持体上に、グラビアコーター(165メッシュロール使用)にてコート後、150℃で約30秒乾燥して得られたものであり、該接着剥離層と感光性樹脂層との剥離力は10g/cmであった。
【0036】
C.IRアブレーション
まずケミカルマット化PET保護フィルム(カバーフィルム)を剥離した。この時の剥離力は5g/cmであり、保護フィルム(カバーフィルム)のみが綺麗に剥がれ、ポリビニルアルコール層とアルミニウム蒸着層は感光性樹脂層上に残っていた。この感光性樹脂層上を10倍ルーペで拡大して観察したところ、ポリビニルアルコール層とアルミニウム蒸着層に破れやキズは認められなかった。この版を、Cyrel Digital Imager Spark(BARCO社製)の回転ドラムにポリビニルアルコール層が表側に、支持体のPETフィルムが裏側なるように巻き付け、真空引き後、ダイオードレーザで画像形成を行った。使用した本装置のレーザー出力は4.8mW、レーザー解像度は2540dpi、レーザースポット径は直径15μmであった。回転ドラムは1500rpmで回転させた。IRアブレーション後、版を取り出して10倍ルーペで拡大して観察したところ、問題なくアルミニウム蒸着層がアブレーションされていることを確認した。
【0037】
D.製版の実施
上記IRアブレーションした、デジタル画像マスクで覆われた感光性スクリーン印刷用原版の支持体PETフィルムを剥がし、日本特殊織物(株)製200メッシュのスクリーンに、感光性スクリーン印刷用原版の支持体PETフィルムを剥がした感光性樹脂層面を水により軟化させて貼り付け、乾燥させた。
上記の紗貼りを行った感光性スクリーン印刷用原版を、(株)ムラカミ製露光機 MS PRINTER A−I型を用いて、真空密着させることなく、超高圧水銀灯:3KW
/1m、40秒間露光し、感光性樹脂層に潜在画像を形成した。上記露光後に(株)ムラカミ製簡易水洗現像機を用いて約5分間スプレー洗浄して感光性樹脂層の未露光部分を水洗除去した。上記水洗後、スクリーン面の水滴を良く落とし、約30分間乾燥してスクリーン印刷用版を得た。
出来上がったスクリーン印刷用版を、(株)ムラカミ製スクリーン印刷機MS−2010HGを用いて印刷した。その結果、開口部精度(理論値300μm線幅)が、印刷線幅300μm±20μm(大日本スクリーン(株)製DR−550−Fの測長機にて測定)
であり、スクリーン印刷用の版としては実用に耐えるものであった。
【0038】
実施例2
A.IRアブレーション層の作製
PETフィルム(厚さ125μm)にポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製ゴーセノールAH−26:熱分解開始温度220℃、極限酸素指数22.5)/プロピレングリコール(旭電化製)/界面活性剤(第一工業製薬(株)製エパン740)/純水=8.75g/8.75g/0.01g/332.5gの比率で溶解した水溶液をバーコーター#26で塗布し、100℃、3分間乾燥して、乾燥後の厚みが1μmの塗膜を形成し、次いで下記表1に示す成分を用いて、カーボンブラック、ポリビニルアルコール(日本合成化学社製ゴーセノールGH−23、熱分解開始温度220℃、極限酸素指数22.5)及び可塑剤を含む分散液を調製した分散液を、ナンバー26のバーコーターで塗布し、100℃、3分間乾燥して、水を蒸発させ、平滑で無粘着の塗布膜(4.1g/m2の塗布量及び4.8の化学線領域の光学濃度)を得、つまりIRアブレーション層が設けられたカバーフィルムを得た。
【0039】
【表1】

【0040】
B.原版の作製
上記作製したIRアブレーション層が設けられたPETフィルム(カバーフィルム)及び実施例1で用いたものと同じ感光性印刷版を使用し、ヒートプレス機を用いて約100℃、100kg重/cm2でラミネートし、PET支持体、接着剥離層、感光性樹脂層、IRアブレーション層、非IR感受性高分子樹脂層およびPETフィルム(カバーフィルム)からなる原版を得た。
得られた原版のカバーフィルムであるPETフィルムを剥離した。この時の剥離力は5g/cmであり、カバーフィルムのみが綺麗に剥がれ、ポリビニルアルコール層とIRアブレーション層は感光性樹脂層上に残っていた。
また出来上がったスクリーン印刷用版を、(株)ムラカミ製スクリーン印刷機MS−2010HGを用いて印刷したところ、開口部精度(理論値300μm線幅)が、印刷線幅300μm±50μm(大日本スクリーン(株)製DR−550−Fの測長機にて測定)
となり、スクリーン印刷用の版としては実用に耐えるものであった。
【0041】
比較例1
A.IRアブレーション層の作製
市販のアルミニウム蒸着CPPフィルム(中井工業(株)製ケミライトS:未延伸ポリプロピレンフィルム、フィルム厚み25μm、アルミニウム蒸着厚み750Å)をIRアブレーション層を設けたカバーフィルムとして用いた。
【0042】
B.原版の作製
実施例1と同様にして感光性スクリーン印刷用原版(コスモマスクTF20E (東洋紡績製))の感光性樹脂層を露出させ、この面に上記アルミニウム蒸着フィルムの蒸着面を重ね合わせ、ヒートプレス機を用いて80℃、100kg重/cm2でラミネートし、PET支持体、感光性樹脂層、アルミニウム蒸着層およびCPPフィルムからなる版を得た。この版の総厚みは0.35mmであった。
【0043】
上記作製した原版のCPPフィルム(カバーフィルム)を剥離した。この時CPPフィルム(カバーフィルム)の剥離力は50g/cm以上あり、保護フィルム(カバーフィルム)のみを綺麗に剥がすことが困難で、アルミニウム蒸着層に破れやキズが発生した。またカバー剥離時に支持体フィルムの一部も同時に剥がれてしまい、実用に耐えられないものだった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上かかる構成よりなる本発明感光性樹脂積層体は、高品位の印刷画像が得られるスクリーン印刷版として利用することができ、かつ該スクリーン印刷版を容易に得ることができるので、産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体の一実施態様例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 支持体
2 接着剥離層
3 感光性樹脂層
4 IRアブレーション層
5 非IR感受性高分子樹脂層
6 カバーフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも支持体、感光性樹脂層、IRアブレーション層およびカバーフィルムを有するスクリーン印刷用感光性樹脂積層体であって、前記支持体と感光性樹脂層との間に接着剥離層が、IRアブレーション層とカバーフィルムとの間に非IR感受性高分子樹脂層がそれぞれ存在し、感光性樹脂層と接着剥離層との間の剥離力が、感光性樹脂層と非IR感受性高分子樹脂層との間の剥離力より大きいことを特徴とするスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
【請求項2】
IRアブレーション層の光学濃度が2.0以上である請求項1記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
【請求項3】
IRアブレーション層がIR吸収性金属からなる層である請求項1記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
【請求項4】
IR吸収性金属からなる層がアルミ蒸着層である請求項3記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
【請求項5】
IRアブレーション層が少なくとも1種のバインダーと少なくとも1種のIR吸収材料を含有する請求項1記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
【請求項6】
IR吸収材料がカーボンブラックである請求項5記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
【請求項7】
非IR感受性高分子樹脂層に水溶性高分子および可塑剤が含有されている請求項1記載のスクリーン印刷用感光性樹脂積層体。
【請求項8】
少なくとも支持体、感光性樹脂層、IRアブレーション層およびカバーフィルムを有するスクリーン印刷用感光性樹脂積層体を用いたスクリーン印刷版の製造方法であって、前記支持体と感光性樹脂層との間に接着剥離層が、IRアブレーション層とカバーフィルムとの間に非IR感受性高分子樹脂層がそれぞれ存在し、感光性樹脂層と接着剥離層との間の剥離力が、感光性樹脂層と非IR感受性高分子樹脂層との間の剥離力より大きいことを特徴とするスクリーン印刷用感光性樹脂積層体を用い、前記IRアブレーション層にレーザ光で画像を描画後、該感光性樹脂積層体の感光性樹脂層側をスクリーンに貼り付け、該感光性樹脂積層のIRアブレーション層を介して露光することにより感光性樹脂層に潜在画像を形成させた後、感光性樹脂層の非硬化部を現像液で除去することを特徴とするスクリーン印刷版の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−58622(P2006−58622A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240644(P2004−240644)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】