説明

ステッピングモーター用防振マウント

【課題】基板と防振ゴム層との界面の密着性に優れるとともに、防振マウントの物性低下や加工性の悪化等を引き起こすことなく、高い放熱性を有するステッピングモーター用防振マウントを提供する。
【解決手段】2層のポリアミド樹脂層1の間に防振ゴム層2が介在している防振マウントであって、上記防振ゴム層2が、下記の(A)〜(F)を必須成分とするゴム組成物の加硫物からなり、ポリアミド樹脂層1と化学的接着している防振マウントである。
(A)ジエン系ゴムまたはメチレン基を有するゴム。
(B)加硫剤。
(C)レゾルシノール系化合物。
(D)メラミン系樹脂。
(E)1,2ビニル量が55〜90重量%の液状ポリブタジエン。
(F)平均繊維径4〜15μm,平均繊維長10μm〜10cmのピッチ系炭素繊維フィラー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振部材として用いられる防振マウントに関するものであり、OA機器に内蔵されるステッピングモーターの振動制御用(ステッピングモーター用)として用いられる防振マウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
OA機器の多様化に伴い、フィードバック制御が不用で、低速・高トルク、始動・停止の信頼性が高いステッピングモーターが、OA機器における光学系機構や用紙の自動処理機構に使用されるようになり、需要が伸びてきている。それに伴い、モーターの構造上発生する振動を制御するためのモーターマウントの需要も増加している。このようなモーターマウントとしては、従来では、2枚の金属板(金具)の間にゴム材を挟み、金属板とゴム材とを接着剤で貼着してなる、金属板/接着剤/ゴム材/接着剤/金属板の積層構造を有する防振マウントが用いられてきた。
【0003】
しかしながら、上記のような従来の防振マウントは、金属部材を構成要素としているため、軽量化がしにくく、しかも、金属部材は、高度の寸法精度を出すのが難しく、錆対策(防錆処理)も必要となるため、防振マウントの製造コストが割高となるという難点がある。また、上記防振マウントは、その製造工程において、接着剤を塗布する作業を要するため、その分だけ製造工程が煩雑となり、また接着材料費もかさむという問題も生じている。
【0004】
これらの問題を解決するため、例えば、2枚の変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)基板の間にSBR系ゴムを介在させ、同時一体成形してなるステッピングモーター用防振ゴムが、近年、提案されている(例えば、特許文献1参照)。上記提案に係るステッピングモーター用防振ゴムは、金属部材に代えて樹脂部材(変性PPE基板)を用いているため、先に述べたような金属部材を構成要素とすることによる問題が解消されている。しかも、上記提案のステッピングモーター用防振ゴムは、接着剤を使用せずに複合一体化されているため、接着剤の塗布工程等も要しない。
【0005】
一方、本出願人も、2枚のポリアミド樹脂基板の間に防振ゴム層を介在させてなるステッピングモーター用防振ゴムを既に提案しており、その防振ゴム組成物には、ジエン系ゴム等に特定の接着剤成分(レゾルシノール系化合物とメラミン系樹脂)を配合したものを用いている。また、この防振ゴムは、上記特許文献1に開示のものよりも、材料単価が低コストで、しかも剛性強度も高い。また、防振ゴム組成物中の接着剤成分(レゾルシノール系化合物とメラミン系樹脂)の作用により、ポリアミド樹脂基板と防振ゴム層との接着性も良好である(特許文献2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−168193号公報
【特許文献2】特開2003−97644公報
【特許文献3】特開2007−139183公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来から、上記のような防振マウントにおいて、モーターが発生する熱を逃がしたいといった要求がある。この要求に対し、例えば、防振ゴム層の材料中に、カーボンブラック、金属酸化物(アルミナ、酸化亜鉛等)等の従来公知の熱伝導性フィラーを含有させるといった対処方法が検討されている。
【0008】
しかしながら、上記のような方法で所望の放熱性を発揮させるには、多量の熱伝導性フィラーを添加する必要がある。このような熱伝導性フィラーの多量添加は、防振ゴム層の伸びの低下や硬度上昇を伴うことから、防振マウントの物性低下(機能低下)を引き起こすとともに、その防振ゴム組成物(未加硫ゴム)の粘度が増大することによる加工性(ハンドリング)の悪化や、ゴム組成物の混練時のゴム焼け等が懸念される。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、基板と防振ゴム層との界面の密着性に優れるとともに、防振マウントの物性低下や加工性の悪化等を引き起こすことなく、高い放熱性を有するステッピングモーター用防振マウントの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明のステッピングモーター用防振マウントは、2層のポリアミド樹脂層の間に防振ゴム層が介在している防振マウントであって、上記防振ゴム層が、下記の(A)〜(F)を必須成分とするゴム組成物の加硫物からなり、ポリアミド樹脂層と化学的接着しているという構成をとる。
(A)ジエン系ゴムまたはメチレン基を有するゴム。
(B)加硫剤。
(C)レゾルシノール系化合物。
(D)メラミン系樹脂。
(E)1,2ビニル量が55〜90重量%の液状ポリブタジエン。
(F)平均繊維径4〜15μm,平均繊維長10μm〜10cmのピッチ系炭素繊維フィラー。
【0011】
すなわち、本発明者らは、軽量で、かつ製造コストが安価であり、基板と防振ゴム層との界面の密着性にばらつきがなく、湿熱条件下で使用した場合であっても界面剥離を生じないステッピングモーター用防振マウントとして定評のあった特開2007−139183に開示の防振マウントを、本発明の基本構成とすることを想起した。この防振マウントでは、防振ゴム組成物として、上記(A)〜(D)成分に加え、1,2ビニル量が55〜90重量%の液状ポリブタジエン〔(E)成分〕を配合しており、その防振ゴム組成物の加硫(架橋)反応による接着(化学的接着)により、基板と防振ゴム層との界面の密着性のばらつきが改善されている。このような防振マウントを基礎とし、防振マウントの物性低下や加工性の悪化等を引き起こすことなく、その放熱性を改良するため、防振ゴム層の材料中に含有させる熱伝導性フィラーを中心に各種実験を重ねた。その実験の結果、平均繊維径4〜15μm,平均繊維長10μm〜10cmのピッチ系炭素繊維フィラー〔(F)成分〕を配合したところ、その配合量が少量であっても、ゴム内に炭素繊維が細かく分散されることにより、熱を伝える媒体となり、上記のような問題を生じず高熱伝導性を実現できることから、所期の目的が達成されることを突き止め、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明のステッピングモーター用防振マウントは、2層のポリアミド樹脂層の間に防振ゴム層が介在しており、この防振ゴム層が、レゾルシノール系化合物およびメラミン系樹脂とともに特定の液状ポリブタジエンを含有する特殊なゴム組成物からなり、ポリアミド樹脂層と化学的接着している。そして、上記防振ゴム層中には、平均繊維径4〜15μm,平均繊維長10μm〜10cmのピッチ系炭素繊維フィラーも含有している。そのため、本発明のステッピングモーター用防振マウントは、基板と防振ゴム層との界面の密着性に優れるとともに、防振マウントの物性低下や加工性の悪化等を引き起こすことなく、高い放熱性を発揮することができる。また、上記のような特殊な炭素繊維フィラーの使用により、上記ゴム組成物加硫時の熱伝導も良好に行われるようになるため、防振マウント製造時の加硫時間の短縮効果も期待できる。なお、本発明の防振マウントは、錆の問題も生じず、軽量化もなされ、しかも複雑な形状の成形が可能となり、例えば、マウントのモーターやシャーシへのワンタッチ取り付けも実現できるようになる。
【0013】
特に、上記炭素繊維フィラー〔(F)成分〕の、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であると、本発明のステッピングモーター用防振マウントは、より高い放熱性を発揮することができる。
【0014】
また、上記炭素繊維フィラー〔(F)成分〕の真密度が1.5〜2.3g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が300W/m・K以上であると、本発明のステッピングモーター用防振マウントは、より高い放熱性を発揮することができる。
【0015】
そして、上記防振ゴム層を形成する防振ゴム組成物において、そのポリマーゴム〔(A)成分〕100重量部に対し、上記炭素繊維フィラー〔(F)成分〕の含有割合が5〜100重量部の範囲に設定されていると、防振マウントの物性低下や加工性の悪化等を引き起こすことなく、その放熱性の改良がより良好になされるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の防振マウントを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0018】
本発明のステッピングモーター用防振マウント(以下、「防振マウント」と略す)の一例を、図1に基づいて説明する。この防振マウントは、2層のポリアミド樹脂層1の間に防振ゴム層2が介在され構成されている。そして、上記防振ゴム層2が、特殊なゴム組成物の加硫物からなり、そのゴム組成物の加硫反応(架橋反応)による接着(化学的接着)により、2層のポリアミド樹脂層1と一体化しているという構成をとる。
【0019】
上記特殊なゴム組成物は、特定のゴム〔(A)成分〕と、加硫剤〔(B)成分〕と、レゾルシノール系化合物〔(C)成分〕と、メラミン系樹脂〔(D)成分〕と、1,2ビニル量が55〜90重量%の液状ポリブタジエン〔(E)成分〕と、平均繊維径4〜15μm,平均繊維長10μm〜10cmのピッチ系炭素繊維フィラー〔(F)成分〕を用いて得ることができる。
【0020】
上記特定のゴム〔(A)成分〕としては、ジエン系ゴムまたはメチレン基を有するゴムが用いられる。上記ジエン系ゴムとしては、具体的には、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM),天然ゴム(NR),ブタジエンゴム(BR),スチレン−ブタジエンゴム(SBR),イソプレンゴム(IR),アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR),クロロプレンゴム(CR),ブチルゴム(IIR),塩素化ブチルゴム(Cl−IIR),臭素化ブチルゴム(Br−IIR)等があげられる。また、上記メチレン基を有するゴムとしては、具体的には、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM),エチレン−プロピレンゴム(EPM),水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR),アクリルゴム(ACM),ヒドリンゴム(ECO,CO),ウレタンゴム,水素添加スチレン−ブタジエンゴム(H−SBR),シリコーンゴム(Q),ビニル基含有シリコーンゴム(VMQ),フロロシリコーンゴム(FVMQ),フッ素ゴム(FKM)等があげられる。なかでも、強度、耐油性、耐熱性等の観点から、EPDM,NR,NBR,H−NBRが好ましい。
【0021】
上記特定のゴム〔(A)成分〕とともに用いられる加硫剤〔(B)成分〕としては、例えば、硫黄、塩化硫黄等の硫黄系加硫剤や、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルペルオキシヘキサン、n−ブチル−4,4′−ジ−t−ブチルペルオキシバレレート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルペルオキシ−ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3、1,3ビス−(t−ブチルパーオキシ−イソ−プロピル)ベンゼン等の過酸化物加硫剤があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、硫黄、ジクミルパーオキサイドが好適に用いられる。
【0022】
そして、上記(A)成分のゴムが、NR,BR,SBR,IR,NBRからなる群から選ばれた少なくとも一つであり、かつ上記(B)成分の加硫剤が硫黄系加硫剤である場合、加硫反応がより円滑に進むことによって、防振ゴム層2とポリアミド樹脂層1との接着力が向上し、より強固に一体化されるようになるため、好ましい。他方、上記(A)成分のゴムが、EPDM,EPM,H−NBRからなる群から選ばれた少なくとも一つであり、かつ上記(B)成分の加硫剤が過酸化物加硫剤である場合も、加硫反応がより円滑に進むことによって、防振ゴム層2とポリアミド樹脂層1との接着力が向上し、より強固に一体化されるようになるため、好ましい。
【0023】
上記加硫剤〔(B)成分〕の配合割合は、上記特定のゴム〔(A)成分〕100重量部(以下「部」と略す)に対して、0.5〜10部の範囲が好ましい。すなわち、(B)成分の配合割合が上記範囲未満であると、架橋密度が低いため圧縮永久歪みが大きくなり、また接着性も低く、逆に(B)成分の配合割合が上記範囲を超えると、架橋密度が高くなりすぎ、耐久性も低下する傾向がみられるからである。
【0024】
上記(A)成分および(B)成分とともに用いられるレゾルシノール系化合物〔(C)成分〕としては、例えば、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン、レゾルシン・ホルムアルデヒド(RF)樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、低揮発性、低吸湿性、ゴムとの相溶性が優れる点で、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂が好適に用いられる。
【0025】
上記変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂としては、例えば、下記の一般式(1)〜(3)で表されるものがあげられる。なかでも、下記の一般式(1)で表されるものが、上記観点から、特に好ましい。
【0026】
【化1】

【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
上記レゾルシノール系化合物〔(C)成分〕の配合割合は、上記特定のゴム〔(A)成分〕100部に対して、0.1〜10部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.5〜5部である。すなわち、(C)成分の配合割合が上記範囲未満であると、ポリアミド樹脂との接着性に劣り、逆に(C)成分の配合割合が上記範囲を超えると、ゴムの物性が低下する傾向がみられるからである。
【0030】
上記(A)〜(C)成分とともに用いられるメラミン系樹脂〔(D)成分〕としては、主に加硫助剤として作用し、ホルムアルデヒドを供与しうるものが用いられ、例えば、ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物、ヘキサメチレンテトラミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、低揮発性、低吸湿性、ゴムとの相溶性が優れる点で、ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物が好適に用いられる。これらは、加硫工程等の加熱下において分解し、ホルムアルデヒドを系に供給する。
【0031】
上記ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物としては、例えば、下記の一般式(4)で表されるものが好適に用いられる。
【0032】
【化4】

【0033】
そして、上記メラミン系樹脂〔(D)成分〕のなかでも、上記一般式(4)で表される化合物の混合物が好ましく、n=1の化合物が43〜44重量%、n=2の化合物が27〜30重量%、n=3の化合物が26〜30重量%の混合物が特に好ましい。
【0034】
また、上記レゾルシノール系化合物〔(C)成分〕と、メラミン系樹脂〔(D)成分〕との配合比は、重量比で、(C)成分/(D)成分=1/0.5〜1/2の範囲が好ましく、特に好ましくは(C)成分/(D)成分=1/0.77〜1/1.5である。すなわち、(D)成分の重量比が上記範囲未満であると、ゴムの引張強さ(TB)や伸び(EB)等が若干悪くなる傾向がみられ、逆に(D)成分の重量比が上記範囲を超えると、接着性が飽和し接着力が安定するため、それ以上(D)成分の重量比を高くしても、コストアップにつながるのみで、それ以上の効果は期待できないからである。
【0035】
そして、上記(A)〜(D)成分とともに用いられる液状ポリブタジエン〔(E)成分〕としては、1,2ビニル量が55〜90重量%のものが用いられる。好ましくは、1,2ビニル量が70〜90重量%のものである。すなわち、このように1,2ビニル量が多いものを用いることにより、ポリアミド樹脂層1と防振ゴム層2との界面の密着性にばらつきがなくなり、湿熱条件下であっても界面剥離を生じなくすることができる。ここで、上記液状ポリブタジエンは、通常、ブタジエンをアニオンリビング重合等することにより得ることができる。また、上記液状ポリブタジエンは、その1,2ビニル量が上記特定範囲内のものであればよく、必要に応じ変性させたものであってもよい。このような液状変性ポリブタジエンとしては、例えば、エポキシ変性ポリブタジエン,エポキシ樹脂変性ポリブタジエン,アクリル酸変性ポリブタジエン,メタクリル酸変性ポリブタジエン,マレイン酸変性ポリブタジエン,ウレタン変性ポリブタジエン等の液状物、または、それらを更に変性させたもの(例えば、液状エポキシ変性ポリブタジエンのアミン化物等)があげられる。そして、上記液状ポリブタジエンは、単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0036】
そして、上記特定の液状ポリブタジエン〔(E)成分〕は、その数平均分子量(Mn)が1400〜6400の範囲内のものが好ましく、特に好ましくは、数平均分子量(Mn)2900〜5200のものである。すなわち、数平均分子量(Mn)が上記範囲内の液状ゴムを用いることにより、加硫反応が良好に行えるようになる。
【0037】
上記特定の液状ポリブタジエン〔(E)成分〕の配合割合は、上記特定のゴム〔(A)成分〕100部に対して、3〜50部の範囲が好ましく、特に好ましくは6〜25部である。すなわち、上記液状ポリブタジエンの配合割合が上記範囲未満であると、その液状ポリブタジエンの使用により得られるポリアミド樹脂層1との密着性改善効果が有意に得られないからであり、逆に上記液状ポリブタジエンの配合割合が上記範囲を超えると、ゴム組成物の粘度が大きくなり、加工性に不具合が生じたり、圧縮永久歪み特性が悪化するおそれがあるからである。
【0038】
そして、上記(A)〜(E)成分とともに用いられる熱伝導性フィラーとしては、先に述べたように、平均繊維径4〜15μm,平均繊維長10μm〜10cmのピッチ系炭素繊維フィラー〔(F)成分〕が用いられる。好ましくは、平均繊維長50μm〜25mm,平均繊維径8〜10μmの炭素繊維フィラーである。すなわち、炭素繊維フィラーの平均繊維径が上記範囲未満であると、熱伝導性が悪くなる方向となるからであり、逆に、平均繊維径が上記範囲を超えると、材料特性の変化に大きく影響を与える(ゴムが硬くなり、伸びも悪くなる)からである。また、炭素繊維フィラーの平均繊維長が上記範囲未満であると、高い熱伝導性(所望の加硫速度向上効果)を発揮することができないからであり、逆に、平均繊維長が上記範囲を超えると、ゴムコンパウンド練り前における秤量時に作業性(ハンドリング)が悪くなる為である。なお、上記平均繊維径および平均繊維長は、例えば、SEM(電子顕微鏡)観察等により測定することができる。
【0039】
特に、上記特定のピッチ系炭素繊維フィラー〔(F)成分〕は、その六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であることが好ましい。より好ましくは、20nm以上であり、さらに好ましくは30nm以上である。すなわち、このような範囲に設定することにより、本発明の防振マウントは、より高い放熱性を発揮することができる。なお、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは、例えば、X線回折法にて得られる炭素結晶の(110)面からの回折線によって求めることができる。結晶子サイズが重要になるのは、熱伝導が主としてフォノンによって担われており、フォノンを発生するのが結晶であることに由来している。
【0040】
また、上記特定のピッチ系炭素繊維フィラー〔(F)成分〕は、その真密度が1.5〜2.3g/ccであり、繊維軸方向の熱伝導率は300W/m・K以上であることが好ましい。すなわち、このような範囲に設定することにより、本発明の防振マウントは、より高い放熱性を発揮することができる。
【0041】
上記特定のピッチ系炭素繊維フィラー〔(F)成分〕の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。なかでも、放熱性(熱伝導性)を向上させる観点から、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特に光学的異方性ピッチ、すなわちメソフェーズピッチが好ましい。
【0042】
そして、上記特定のピッチ系炭素繊維フィラー〔(F)成分〕は、例えば、メルトブロー法等に従い、250〜350℃程で溶融した上記原料ピッチを、ノズル口金から糸状に吐出し、これを冷却して溶融紡糸を得た後、この溶融紡糸を、不融化、焼成、粉砕を経て最後に黒鉛化することによって製造することができる。
【0043】
上記不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いて200〜350℃で達成される。安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが好ましい。また、不融化したピッチ繊維は、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス中で600〜1500℃で焼成され、次いで2000〜3500℃で黒鉛化されるが、焼成は常圧で、且つコストの安い窒素中で実施される場合が多く、黒鉛化は使用する炉の形式に応じて、不活性ガスの種類を変更する事が一般的である。不融化後或いは焼成後、必要に応じ得られた繊維を粉砕する。粉砕は、具体的には、カッター、ボールミル、ジェットミル、クラッシャーなどを用いることにより行われる。粉砕されたピッチ系炭素繊維フィラーを必要に応じて焼成し、次いで黒鉛化する。黒鉛化温度は、炭素繊維としての熱伝導率を高くするためには、2000〜3500℃にすることが好ましい。より好ましくは2300〜3100℃である。黒鉛化の際に黒鉛性のルツボに入れ処理すると、外部からの物理的、化学的作用を遮断でき、好ましい。黒鉛製のルツボは上記の炭素繊維を、所望の量入れることが出来るものであるならば、大きさ、形状に制約はないが、黒鉛化処理中または冷却中に炉内の酸化性のガス、または水蒸気との反応による当該炭素繊維の損傷を防ぐために、フタ付きの気密性の高いものが好適に利用できる。
【0044】
上記特定のピッチ系炭素繊維フィラー〔(F)成分〕の配合割合は、ポリマーゴム〔(A)成分〕100部に対して、5〜100部の範囲が好ましく、特に好ましくは10〜50部の範囲である。すなわち、上記炭素繊維フィラーの配合割合が上記範囲未満であると、所望の放熱性を発揮することができないからであり、逆に、上記炭素繊維フィラーの配合割合を上記範囲よりも高くしても、コストアップにつながるのみで、それ以上の効果は期待できないからである。しかも、このような炭素繊維フィラーの配合量増大は、防振ゴム層の伸びの低下や硬度上昇を伴うことも懸念されるからである。
【0045】
また、上記特殊なゴム組成物には、上記(A)〜(F)成分に加えて、カーボンブラック、プロセスオイル、老化防止剤、加工助剤、加硫促進剤、白色充填剤、反応性モノマー、発泡剤等を必要に応じて適宜配合しても差し支えない。
【0046】
そして、上記特殊なゴム組成物は、上記(A)〜(F)成分および必要に応じてその他の成分を用いて常法により調製することができる。すなわち、加硫剤〔(B)成分〕、レゾルシノール系化合物〔(C)成分〕およびメラミン系樹脂〔(D)成分〕を除いた各成分を予備混合した後、80〜140℃で数分間混練する。その後、得られた混練物に、上記(B)〜(D)成分を追加混合〔なお、レゾルシノール系化合物(C成分)、メラミン系樹脂(D成分)は予備混合で添加しても差し支えない。〕し、これらをオープンロール等のロール類を用いて、ロール温度40〜70℃で5〜30分間混練した後、分出し、シート状またはリボン状のゴムを得ることができる。
【0047】
ここで、上記(E)成分の液状ポリブタジエンの秤量時における作業性および上記ゴム組成物の練り時の加工性を改善するため、上記液状ポリブタジエンに、珪酸カルシウム,シリカ,炭酸カルシウム等の白色充填材を予め混合し、このものを、上記ゴム組成物の混練時に使用してもよい。
【0048】
本発明の防振マウントを構成する2層のポリアミド樹脂層1の形成材料であるポリアミドは、アミド結合(−CONH−)を繰り返し単位にもつ高分子化合物であればよく、例えば、重合形式により、以下のものがあげられる。
【0049】
(1)ジアミンと二塩基酸との重縮合によるもの、例えば、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−または2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−または1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシルメタン)、m−またはp−キシリレンジアミンのような脂肪族、脂環族または芳香族のジアミンと、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸のような脂肪族、脂環族または芳香族のジカルボン酸とから製造されるポリアミド。
【0050】
(2)アミノカルボン酸の重縮合によるもの、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸のようなアミノカルボン酸から製造される結晶性または非結晶性のポリアミド。
【0051】
(3)ラクタムの開環重合によるもの、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ドデカラクタムのようなラクタムから製造されるポリアミド。
【0052】
上記ポリアミド樹脂層1の形成材料としては、上記ポリアミドの他、共重合ポリアミド、ポリアミドの混合物、あるいはこれらポリアミドと他の樹脂とのポリマーブレンド等が使用できる。上記ポリアミドの具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6とナイロン66との共重合体、芳香族ナイロン、非晶質ナイロン等があげられる。これらのなかでも、剛性および耐熱性が特に良好な点で、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ナイロンが好ましい。そして、上記ポリアミド樹脂層1は、曲げ弾性率が6000MPa以上で、TB120MPa以上になるよう設定することが好ましく、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ウィスカー、粘度鉱物等を配合して補強しても差し支えない。
【0053】
そして、本発明の防振マウントは、例えば、つぎのようにして作製することができる。
【0054】
すなわち、まず、上記ポリアミド樹脂層1形成材料を用い、金型成形等により、ポリアミド樹脂基板を作製する。このようにして得られたポリアミド樹脂基板を2枚用意し、その基板の間に、先述のようにして調製した特殊なゴム組成物を挟む。そして、その後、上記ゴム組成物を加熱(150〜200℃の温度で、3〜60分程度)し加硫させることにより、図1に示すような、2つのポリアミド樹脂層1の間に防振ゴム層2が形成されてなる防振マウントを得ることができる。なお、上記ゴム組成物中のホルムアルデヒドは、加硫反応時にのみ存在し、製品内部に残ることはない。また、量産性を考えると短時間で加硫することが必須であるが、単純に時間だけを短くするとゴムの加硫があまく、未加硫状態になるところ、本発明においては、特殊な熱伝導性フィラー〔(F)成分〕を配合していることから、このように加硫時間を短縮しても、充分に加硫を促すことができる。また、本発明においては、このように短時間加硫した場合であっても、特定の液状ポリブタジエン〔(E)成分〕の作用により、従来品のように密着性のばらつきが生じず、安定した接着界面(ゴム破壊)が得られる。なお、上記特殊なゴム組成物は、2枚のポリアミド樹脂基板の間に挟む際に、予め予備成形しておいてもよい。一方、ポリアミド樹脂基板の表面は、場合によっては、アルカリ洗浄液により洗浄処理するか、あるいはアルカリ洗浄液と研磨材とを用いてポリアミド樹脂表面をウェットブラスト処理してもよい。
【0055】
他方、本発明の防振マウントは、上記のようにポリアミド樹脂層1と防振ゴム層2とを別工程で作製するのではなく、例えば、上記ポリアミド樹脂層1形成材料と、上記特殊なゴム組成物とを、インジェクション成型等の方法により一体成形するようにしても、得ることができる。このような製法により、ポリアミド樹脂層1と防振ゴム層2とを同時に架橋成形することができるため、その分、製造工程を削減することができ、製造コスト等の面において好ましい。
【0056】
なお、上記の場合、ポリアミド樹脂層1と防振ゴム層2との接着は、化学的接着でなされていて接着剤を用いていないが、場合によっては、補助的に、接着剤を用いてもよい。
【0057】
本発明の防振マウントは、OA機器に内蔵されるステッピングモーターの振動制御用として用いられるが、ほかにも、家電機器に内蔵される小型モーターの振動制御用に利用することができる。
【0058】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0059】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0060】
〔EPDM〕
エスプレン6101、住友化学社製
【0061】
〔カーボンブラック〕
SRFカーボン(シーストS、東海カーボン社製)
【0062】
〔炭素繊維フィラー(i) 〕
ラヒーマX−A101(平均繊維径:8μm,平均繊維長:10μm,真密度:1.0g/cc、熱伝導率:約600W/m・K)、帝人社製
【0063】
〔炭素繊維フィラー(ii)〕
ラヒーマR−A201(平均繊維径:8μm,平均繊維長:50μm,真密度:1.0g/cc、熱伝導率:約600W/m・K)、帝人社製
【0064】
〔炭素繊維フィラー(iii) 〕
GRANOC XN−100−25Z(平均繊維径:10μm、平均繊維長:25mm、真密度:2. 2g/cc、熱伝導率:約900W/m・K)、日本グラファイトファイバー社製
【0065】
〔プロセスオイル〕
ダイアナプロセスPW−380、出光興産社製
【0066】
〔液状ポリブタジエン〕
1,2ビニル量が90重量%の液状ポリブタジエン(RICON154、数平均分子量:5200、米国SARTOMER社製)
【0067】
〔エポキシ樹脂〕
エピコート828、ジャパンエポキシレジン社製
【0068】
〔レゾルシノール系化合物〕
前記一般式(1)で表される変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂(スミカノール620、住友化学工業社製)
【0069】
〔過酸化物加硫剤〕
パーブチルP−40MB(K)、日本油脂社製
【0070】
〔メラミン系樹脂〕
ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物(スミカノール507A、住友化学社製)
【実施例】
【0071】
〔実施例1〕
〔防振ゴム層形成用ゴム組成物の調製〕
EPDM170部(上記EPDMとして用いるエスプレン6101(住友化学社製)は、油展ポリマーであり、EPDMポリマー100部に対し、オイル70部を含有するコンパウンドである)と、カーボンブラック75部と、炭素繊維フィラー(i) 30部と、プロセスオイル10部と、液状ポリブタジエン10部と、エポキシ樹脂3部と、レゾルシノール系化合物2部とをバンバリーミキサーを用いて120℃で5分間混練し、ついで、過酸化物加硫剤5部と、メラミン系樹脂1.54部とを追加混合し、オープンロールを用いて50℃で10分間混練し、防振ゴム層形成用ゴム組成物を調製した。
【0072】
〔ポリアミド樹脂層〕
変性6−ナイロン(アーレンA335、三井化学社製)からなるポリアミド樹脂板(大きさ:50mm×50mm、厚み:5mm)を2枚用意した。
【0073】
〔防振マウントの作製〕
上記防振ゴム層形成用ゴム組成物を分出し、シート状のゴム組成物(大きさ:40mm×40mm、厚み:6mm)を得た。ついで、準備しておいた2枚のポリアミド樹脂板で上記シート状のゴム組成物を挟み、油圧プレスを用いて180℃で10分間加熱して加硫(架橋)を行った。このようにして、2層のポリアミド樹脂層の間に防振ゴム層が介在されてなる防振マウントを得た。
【0074】
〔実施例2〜3、比較例1〜2〕
後記の表1に示すように、各成分の配合量等を変更する以外は、実施例1に準じて、防振ゴム層形成用ゴム組成物を調製した。そして、この防振ゴム層形成用ゴム組成物を用いること以外は、実施例1と同様にして、目的とする防振マウントを得た。
【0075】
このようにして得られた実施例および比較例の防振マウントを用いて、下記の基準に従って、熱伝導性の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示した。
【0076】
〔熱伝導性〕
迅速熱伝導率計装置(KemthermQTM−D3、京都電子工業社製)を用い、そのプローブを、防振マウントの表面および裏面に押しあて、熱伝導率を測定した。そして、その値が0.35W/m・K未満のものを×、0.35W/m・K以上で0.45W/m・K未満のものを○、0.45W/m・K以上のものを◎と評価した。
【0077】
【表1】

【0078】
上記結果から、実施例品は、比較例品に比べ、熱伝導性に優れることがわかる。
【0079】
なお、実施例のゴム組成物のポリマーには、上記のようにEPDMが使用されているが、他のジエン系ゴムや、またはメチレン基を有するゴムを用いた場合も、上記実施例と同様、優れた結果が得られた。
【0080】
また、実施例で使用されている炭素繊維フィラー以外であっても、平均繊維径4〜15μm,平均繊維長10μm〜10cmのピッチ系炭素繊維フィラーであれば、本発明の防振マウントにおける防振ゴム層の材料として用いることにより、実施例と同様、優れた結果が得られることが、実験により確認されている。また、実施例で使用されている液状ポリブタジエン以外であっても、1,2ビニル量が55〜90重量%の液状ポリブタジエンであれば、本発明の防振マウントにおける防振ゴム層の材料として用いることにより、実施例と同様、優れた結果が得られることが、実験により確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の防振マウントは、OA機器に内蔵されるステッピングモーターの振動制御用として用いられるが、ほかにも、家電機器に内蔵される小型モーターの振動制御用に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 ポリアミド樹脂層
2 防振ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層のポリアミド樹脂層の間に防振ゴム層が介在している防振マウントであって、上記防振ゴム層が、下記の(A)〜(F)を必須成分とするゴム組成物の加硫物からなり、ポリアミド樹脂層と化学的接着していることを特徴とするステッピングモーター用防振マウント。
(A)ジエン系ゴムまたはメチレン基を有するゴム。
(B)加硫剤。
(C)レゾルシノール系化合物。
(D)メラミン系樹脂。
(E)1,2ビニル量が55〜90重量%の液状ポリブタジエン。
(F)平均繊維径4〜15μm,平均繊維長10μm〜10cmのピッチ系炭素繊維フィラー。
【請求項2】
上記(F)成分のピッチ系炭素繊維フィラーの、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上である請求項1記載のステッピングモーター用防振マウント。
【請求項3】
上記(F)成分のピッチ系炭素繊維フィラーの真密度が1.5〜2.3g/ccの範囲であり、その繊維軸方向の熱伝導率が300W/m・K以上である請求項1または2記載のステッピングモーター用防振マウント。
【請求項4】
上記防振ゴム層を形成するゴム組成物における、上記(F)成分のピッチ系炭素繊維フィラーの含有割合が、上記(A)成分のゴム100重量部に対して、5〜100重量部の範囲に設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載のステッピングモーター用防振マウント。

【図1】
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【公開番号】特開2010−230108(P2010−230108A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79376(P2009−79376)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】