ステージ及び電子顕微鏡装置
【課題】
本発明は、停止時のドリフトが小さいステージ機構およびそれを備えた電子顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
上記課題を解決するために、本発明では、2以上の伸縮或いは揺動が可能な駆動素子を有し、当該2つの駆動素子の協働によりステージを移動させる試料ステージを提供する。2つの駆動素子の協働により、当該2つの駆動素子の動作を組合わせることによる種々の制御が可能となり、結果として、ステージの移動のみならず、停止時のドリフトの抑制が可能なステージ機構の提供が可能となる。
本発明は、停止時のドリフトが小さいステージ機構およびそれを備えた電子顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
上記課題を解決するために、本発明では、2以上の伸縮或いは揺動が可能な駆動素子を有し、当該2つの駆動素子の協働によりステージを移動させる試料ステージを提供する。2つの駆動素子の協働により、当該2つの駆動素子の動作を組合わせることによる種々の制御が可能となり、結果として、ステージの移動のみならず、停止時のドリフトの抑制が可能なステージ機構の提供が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡及び電子顕微鏡用ステージ機構に関し、特に半導体デバイスの微細パターン寸法測長あるいは観察用途に好適な電子顕微鏡及び電子顕微鏡用ステージ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope;SEM)は、多様な研究開発分野に利用されるだけでなく、近年は製造分野にも応用されるようになった。特に半導体製造プロセスにおいては、走査型電子顕微鏡による微細構造の寸法計測や観察が不可欠なものとなっている。
【0003】
半導体集積回路は年々デザインルールが微細化して現在ではパターン幅が100nm以下に達しており、このような微細パターンの寸法計測や形状観察,異物欠陥の観察を行うため、測長SEMやレビューSEMなどが利用される。このうち例えば、測長SEMは半導体ウエハに形成された回路パターンの幅を測定することを目的とする装置であり、電子線を収束,走査するための電子光学系,試料であるウエハを真空中で位置決めするための試料室およびステージ等から構成される。
【0004】
これら半導体検査計測用電子顕微鏡の試料ステージには従来、送りネジを駆動手段に用いた構造が多く用いられてきたが、近年は位置決め高速化,精度向上やウエハに対する潤滑油由来の化学的汚染を避ける等の目的で、圧電セラミック素子(ピエゾ素子)を利用したリニアアクチュエータである超音波モータを駆動源とするステージの提案が行われている(特許文献1および3参照)。
【0005】
超音波モータの具体構造にはいくつかの方式があるが、大別すると(1)送り対象物と接触する面上に表面弾性波を発生させるタイプ、と(2)送り対象物と接触する駆動部分をアクチュエータの変形により変位あるいは振動させるタイプ、の二種類に分けられる。一般には上記(2)のアクチュエータ変形を利用するタイプの方が、重量のある送り対象物に対し送りスピードを高く取ることができるため、大型の送りステージが必要な半導体用電子顕微鏡用途には好適とされる。
【0006】
また上記(2)の方式はさらに、モータ構造の共振を利用するタイプと、構造を共振させない非共振タイプに分けられる。特許文献2に記載された例は、アクチュエータ変形利用の超音波モータにおいて共振を利用しているタイプであり、圧電板の長手方向の伸縮モードの共振と、折れ曲り(ベンド)モードの共振を組合わせてセラミックスペーサ(駆動部分)を振動させ、これにより対象物を駆動する。この際、上記二つの共振の位相関係の正負を切替えることにより、送り方向を切替えることができることが述べられている。
【0007】
また、特許文献3には、非共振タイプの超音波モータ構造の例が開示されている。この例では、伸縮および先端部の横変位が可能なアクチュエータを二つ並列に用い、それぞれに伸縮と横変位が位相差90度となるような駆動電圧を与えて先端(駆動部分)を楕円運動させることにより対象物を駆動する構造を用いている。
【0008】
【特許文献1】特開平3−129653号公報
【特許文献2】特開平7−184382号公報
【特許文献3】特許第3834486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体検査計測用の電子顕微鏡においては、真空室内においてステージにより試料の観察部分を観察視野に高速に移動させ、観察部分に電子ビームを照射して観察・計測を行う。ところが、高倍率で試料を観察する際に、試料ステージにドリフト、すなわち位置決め完了後に時間の経過とともに停止位置が微小にずれていく現象が存在すると、微細パターンの寸法測定などを行う際に測定精度が低下するという問題がある。
【0010】
近年の半導体検査計測用電子顕微鏡ではビーム分解能は1.5ナノメートル程度に達しており、また、微細パターン幅の測定再現性は0.2ナノメートル程度が要求されている。このため、ステージ停止後から次の測定部分に向かって起動する1〜2秒程度の間に、ドリフトは0.5ナノメートル毎秒程度以下に押える必要があるとされる。
【0011】
なお、電子ビームは電気的に偏向が可能なため、ステージの位置決め精度自体の要求値は1マイクロメートル程度であり、この程度の位置決め誤差であれば観察・測定に先立ってウエハ上の対象パターンをビーム偏向により画像中心に持ってくることが可能である。ところがドリフトに関しては、ビーム偏向により補正しようとすると観察・測定中に実時間で補正を行わなければならず、高速高精度の補正が必要となり回路が複雑化する上、電気的な外来雑音への耐性が低下する等の問題点がある。
【0012】
このように、位置決め精度に対してドリフトの許容値が1000倍以上厳しいことが半導体検査計測用電子顕微鏡のステージの特徴となっており、こういった性能を要求されるステージ機構は他分野では見ることができない。
【0013】
特許文献1,2および3に記載の超音波モータ、およびそれを用いたステージにおいては、高速高精度の位置決めが可能である反面で、上記ドリフトの問題が考慮されておらず、半導体検査計測用電子顕微鏡のステージとして使用する場合に、ドリフト低減が困難であるという問題がある。
【0014】
ピエゾ素子を応用した超音波モータには特有の問題として、ピエゾ素子の「残留変形」現象がある。これはピエゾ素子が駆動電圧の変化に即応して変形した後に、駆動電圧を一定に保ってもゆっくり微少な変形を続ける現象であり、超音波モータを用いたステージにおいてドリフトの原因となる。なお、この残留変形の大きさは通常1マイクロメートル以下程度の大きさであり、さほどステージの低ドリフト性を要求されない用途においては問題とならないが、上に述べたようにドリフトの許容値が厳しい半導体検査計測用電子顕微鏡のステージにおいては大きな問題となる。
【0015】
本発明は、停止時のドリフトが小さいステージ機構およびそれを備えた電子顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明では、2以上の伸縮或いは揺動が可能な駆動素子を有し、当該2つの駆動素子の協働によりステージを移動させる試料ステージを提供する。2つの駆動素子の協働により、当該2つの駆動素子の動作を組合わせることによる種々の制御が可能となり、結果として、ステージの移動のみならず、停止時のドリフトの抑制が可能なステージ機構の提供が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、停止時のドリフトが小さい試料ステージ、およびそれを備えた電子顕微鏡を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一形態においては、駆動対象面に対し互いに対称をなす角度で設置されたピエゾ素子を有する超音波モータにより駆動される試料ステージにおいて、位置決め停止時に、位置決め条件成立後、ピエゾ素子にそれぞれ印加される駆動電圧の変動の位相差を一定時間0に保つ。
【0019】
あるいは、同様の試料ステージにおいて、位置決め停止時に、位置決め条件成立後、ピエゾ素子にそれぞれ印加される駆動電圧の変動の位相が予め定められた位相となった時点で、駆動電圧を固定する。またこの打切り位相を位置決め停止直前のステージの移動方向と位置決め停止座標に応じ決定する。
【0020】
また、駆動対象面に対し駆動チップを押し付けるピエゾ素子と、駆動チップを駆動方向に移動させるピエゾ素子を有した試料ステージにおいて、位置決め停止時に、位置決め条件成立後、後者のピエゾ素子への印加電圧の位相が所定の位相となった時点で印加電圧を固定する。また、この打切り位相を印加電圧振幅に対するピエゾ素子の変形応答が、ピエゾ素子の変形収束線と交差する点に対応する位相とする。
【0021】
さらに、これらの試料ステージを電子顕微鏡に備える。
【0022】
また、超音波モータにより駆動される試料ステージを制御するため、超音波モータに備えられたピエゾ素子の対にそれぞれ印加される電圧の変動の位相差を制御する位相差発振回路と、位置決め条件成立後に該印加電圧の変動の位相を一定時間維持した後、固定するための遅延回路およびホールド回路を備えた制御回路を電子顕微鏡に設ける。また、位相差発振回路の入力に加算される位相差値を、ステージ移動方向及び位置決め座標と関連付けて記憶する記憶回路をさらに設ける。
【0023】
あるいは、同様の位相差発振回路と、位置決め条件成立後にピエゾ素子への印加電圧が所定の位相に達した時点で印加電圧を固定する同期回路およびホールド回路を備える制御回路を電子顕微鏡に設ける。また、位相差発振回路の入力に加算される位相差値、および固定回路に入力する打切り位相を、ステージ移動方向及び位置決め座標と関連付けて記憶する記憶回路を設ける。
【0024】
また、超音波モータ,リニアモータ等のリニア駆動源により駆動される試料ステージを備えた電子顕微鏡において、試料ステージの移動ストローク内に配置された複数の座標の各点において、(1)試料ステージを位置決めする工程と、(2)位置決めにおける停止時のステージ抗力を評価する工程と、を移動軸の両方向からの位置決めについてそれぞれ行うことにより、移動ストローク内におけるステージの停止抗力分布を測定し、その結果に基づいて、ステージ位置決め時のドリフトを低減する機能を備える。
【0025】
あるいは、同様な電子顕微鏡において、試料ステージの移動ストローク内に配置された複数の座標の各点において、(1)試料ステージを位置決めする工程と、(2)停止後ドリフトを評価する工程と、(3)ステージ制御パラメータを補正する工程と、を繰返す方法により、移動ストローク内におけるステージの停止ドリフトを低減する機能を備える。
【0026】
さらに、これらの停止ドリフト低減機能を操作コマンドの発行により自動的に実行可能とする。
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明ではSEMの一態様として測長SEMを例にとって説明するが、これに限られることはなく、例えば先に説明したレビューSEMなど、特に微細な測定,検査,加工,観察等を行う荷電粒子線装置一般への適用が可能である。
【実施例1】
【0028】
(用途,装置)
図1は、本発明による測長SEMの概略構成図である。本発明による測長SEMは、荷電粒子光学系1と、ウエハ(試料)7を真空に保つ為の試料室2と、ウエハ7を移動する試料ステージを備え、荷電粒子源から放出された荷電粒子線をウエハ7上に細く集束して走査し、ウエハ7から放出された2次電子等を検出してウエハ7の走査像を得、その信号からウエハ上に形成された微細パターンの寸法を計測するものである。
【0029】
試料室2は図示しない真空ポンプ等により10のマイナス4乗パスカル程度の真空状態に保たれる。試料室2の中に配置される試料ステージは電子ビームが照射される測長位置にウエハ上の任意の部位を高速に移動,位置決めする機構である。
(ステージ構成)
図2に、試料ステージの基本的構成を示す。試料ステージはベース13、ベース13上を移動するYテーブル15及び、Yテーブル15上を移動するXテーブル14から概ね構成され、Xテーブル14上にはウエハ7を固定するためのチャック機構16が設けられている。各テーブルはレール19上を移動可能に支持されており、移動及び位置決めは超音波モータ18により行われる。超音波モータ18は安定した加減速,位置決め及び固定を実施するため、各テーブルを挟み込むように配置されている。
【0030】
(モータ動作)
図3に、超音波モータ18の構造を示す。超音波モータ18は一対の、互いに角度をなして固定されたピエゾ素子23A,23Bを有し、その先端は共通の駆動チップ24に固定されている。駆動チップ24の先端の面は駆動対象物であるテーブルの側面に設けた駆動面に接触しており、駆動チップ24の振動によりテーブルが駆動される。図4に示すように、ピエゾ素子23A,23Bに互いに同相で変動する電圧を印加すると、素子の伸縮により駆動チップ24は駆動面と垂直な方向への変位を生ずる。また逆相の電圧を印加すると、ステージ送り方向への変位を生じる為、これを利用して超音波リニアアクチュエータとして使用することができる。図5に示すごとく、互いに位相のずれた正弦波電圧を含む駆動電圧を各ピエゾ素子に印加すると、駆動チップの変位の軌跡は双方の電圧のリサージュ波形である楕円に近い形状となる。位相差が90度においてはこの軌跡は円形となり、位相差の符合に応じ回転方向が逆転する。この状態では最大突き出し部での横移動速度が大きい為、ステージを高速に駆動することができる。また、印加電圧の位相差が小さくなると、軌道は縦長の楕円となり、最大突き出し部での横移動速度が小さくなる為、ステージの移動速度は小さくなる。位相差0度においては、駆動チップは送り対象面に垂直に振動するのみで駆動力は発生しない。
【0031】
なお、駆動周波数は、好ましくは20キロヘルツ以上とする。公知の共振型超音波モータの場合と同様に、このような帯域での振動では、駆動チップが引っ込んだ際には駆動チップと送り対象面との接触は維持されず、その結果として、上記リサージュ図形の突き出し側の先端に近い領域における横方向変位速度によって、駆動チップは対象面を駆動することになる。
【0032】
図15は、上記2つのピエゾ素子の配置関係を立体的視点から説明するための図である。図15における配置関係は無論例示に過ぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。2つのピエゾ素子23A,23Bは、図15の視点から見たとき、第3の直線と、第4の直線に、それぞれ伸縮方向が沿うように配置される。当該第3の直線と第4の直線は、駆動面(図15のy−z面)に対する垂線である第1の直線と、図15のy軸である第2の直線が含まれる平面(図15のx−y面)内に位置する。また、第3と第4の直線は、上記第1の直線を中心として、鏡対称に配置される。
【0033】
以上のような配置によれば、ピエゾ素子23Aとピエゾ素子23Bの協働によって、駆動チップ24を、駆動面に押圧、或いは離脱させることが可能となる。
【0034】
(位置決め,回路)
図6は超音波モータの駆動制御回路である。本実施例では、位置決め移動のためにいわゆる台形速度制御を用いており、起動時および位置決め停止時には時間に対して直線的にテーブル移動速度を変化させる。速度制御を実現するには上記の位相差の変化を利用し、図6に示すがごとく、両位相差を抑制すべく、速度指令値を速度位相差変換回路によって位相差指令値Δφ0に変換し、さらに位相差発振回路によりΔφ0に等しい位相差を持つピエゾ駆動信号Vd1,Vd2を発生する。ホールド回路は、テーブルが目標位置に到達した際に、印加電圧Vp1,Vp2を固定する為に設けてあり、印加電圧固定によって超音波モータ18は振動を停止し、テーブルは超音波モータ18によって固定される。
【0035】
(ドリフトの発生)
次に超音波モータ特有のピエゾ素子によるドリフトの発生について説明する。図7は超音波モータ18に用いられているピエゾ素子の残留変形の一般的な特性を示した図であり、横軸は経過時間、縦軸はピエゾ素子変形量ΔLを示す。ピエゾ素子は電圧の印加、除去により素子が伸縮する特性を持ち、その応答速度は非常に速く電圧印加により瞬時に変形が生ずる。ただし、その後の経過時間に伴い、量は僅かであるがじわじわと残留変形が生じる事が広く知られている。
【0036】
ピエゾ素子の変形現象は、駆動電圧の印加で内部に生じた電場により、素子を構成する多結晶の方位が回転して生ずるものであるが、この回転には内部摩擦が作用するため、印加電圧−変形量のグラフにはヒステリシスが生じる。この関係を示したのが図8である。印加電圧上昇時と下降時で、変形量は同一値とはならずグラフはループを描く。
【0037】
図中で、ループにおいてC点で印加電圧を固定すると、内部摩擦で安定点に至らずに拘束されていた結晶方位の回転は、時間の経過と共に分子の熱運動により徐々に開放され、この結果、ピエゾ素子は徐々に伸びの変形を生じ、最終的に印加電圧によって定まる安定点であるD点に収束する。なおこの安定点は印加電圧による電場に応じて定まり線状のグラフとなるため、ここではこれを変形収束線と呼ぶ。グラフから、例えば印加電圧を減少させながらB点で電圧を固定した場合には、残留変形はC点の場合とは逆の、図中下向きの方向に生じることなどが分かる。
【0038】
超音波モータ18は、駆動対象面への押し付け方向と平行でない角度をなしてピエゾ素子が設置されているため、位置決め後に上記残留変形があると、テーブルを固定している駆動チップ24のテーブル移動方向への変位を生じ、ドリフトの原因となる。
【0039】
(同位相遅延打切り)
ただし、ピエゾ素子23A,23Bは対称的に配置されているため、同じ残留変形を生じた場合には駆動チップ24は押し付け方向のみの変位が生じドリフトは発生しない。通常の位置決め動作においては、位置決め点近傍にテーブルが到達すると、位置サーボをかけて位置決め点にテーブルを停止させるが、この場合、残留摩擦力等の影響により、モータは推力を発生した状態となるため両方のピエゾ素子に印加される電圧は常に等しくはならない。そこで本実施例では、位置決め点近傍にテーブルが到達後、短時間δの間、印加電圧Vp1,Vp2の位相差を0に保ち、ピエゾ素子の変形履歴を同じに保った後、駆動を打ち切って印加電圧を固定する。時間δの間はピエゾ素子23A,23Bに加わる電圧が常に同一となるため、駆動打切り後の残留変形が等しくなる。δは駆動周波数の数周期程度、通常の位置決め時間の百分の1以下の遅延で十分な効果がある。なお、本発明のように位置サーボを用いず、位置決め直前に位相差を0として駆動を行うと、上記残留摩擦力等の影響でテーブル位置に1マイクロメートル以下程度のずれを生じることがあるが、既に述べた通り、半導体検査計測用電子顕微鏡におけるステージ機構には、位置決め精度に対してドリフトの許容値が1000倍以上厳しいという特徴があり、この程度の位置決め精度の低下は装置性能に影響せず、一方でドリフト低減による検査測定精度の向上を実現することができる。
【0040】
なお、上記の方法により送り方向へのピエゾ素子の変形は防止できるが、送り方向に垂直な押し付け方向への残留変形は生じる。しかし、送り垂直方向のテーブルの支持剛性は高い上、本実施例ではテーブルをはさみこむように両側に超音波モータ18を設けているため、押し付け方向への残留変形は打消し合い、テーブルの移動を引起さない。
【実施例2】
【0041】
(設定位相打切り)
上記実施例1と同様の装置構成において、テーブルのドリフトを低減する別の方法について図9および図10を用いて説明する。実施例1において残留摩擦力等による位置決め精度の低下が起こることを述べたが、残留摩擦力等が大きい場合には位置決め精度の低下が大きくなる為、これは必ずしも望ましいものではない。そこで本実施例では、駆動打切りの位相を制御して、位置決め精度を低下させずにドリフトを低減する方法を用いる。
【0042】
図9は図8と同様のピエゾ素子印加電圧−変形量のグラフにおいて、打切り位相により残留変形量を制御する方法を示す。図9中で斜めの点線は変形収束線に平行に引いた変形特性グラフの接線である。位置決め時に位置決め精度を低下させない為には、残留摩擦力等の大きさと等しい推力を超音波モータが発生する必要があるが、このためにはピエゾ素子印加電圧Vp1,Vp2には位相差が無ければならない。しかしこの場合、特性グラフ上で各ピエゾ素子の状態を表す点は位置のずれを持つことになる。通常の制御方法では、位置決め条件が成立すると直ちに制御を打切るため、ピエゾ素子間の残留変形量が異なりドリフトが生じてしまう。
【0043】
本実施例では制御打切りのタイミングを限定することによりこの問題を解決する。図中の接点近傍において、A点およびB点で示すがごとく、接点を挟んで両側に配置された位置を駆動打切り点とすると、位相差があっても残留変形量を等しくすることができることが分かる。また、簡単な考察により、A点とB点の位相差が小さい場合には、この条件が成立するのは図中の2ヶ所の接点の回りしかないことも容易に分かる。
【0044】
本実施例では、上記の条件が成立する位相値φt1およびφt2を予め計算し、この条件のもとで超音波モータ18の駆動打切りを行うことでドリフトを低減する。図10はこれを実現する回路の一例である。実施例1と同様の速度位相差変換回路の出力である位相差指令値Δφ0に、残留摩擦力等に相当する推力を発生する為の加算位相値φrが加算される。また、同期回路は、位置決め条件成立信号Spが入力後に、Vp1と同期した発振同期信号Socから打切り位相φtに相当する遅延時間だけ遅延した信号を発生して、ホールド回路により印加電圧Vd1,Vd2を固定する。この結果、Vd1は位相φt1=φt,Vd2は位相φt2=φt+φrにおいて常に駆動打切りを行う制御が実現する。
【0045】
(記憶回路)
残留摩擦力は、レールの歪や摺動機構の特性などによって決まる為、座標依存性および方向依存性を持つ場合がある。このため、上記の方法による位置決めを行う場合には、位置決め座標や方向に応じ残留摩擦力が変動すると、固定した加算位相値φrや打切り位相φtを用いたのでは充分なドリフトの低減が可能とならないケースがありうる。従って、上記打切り位相を移動方向および座標に関連付けて記憶し、位置決め時に用いることが望ましい。
【0046】
このような制御を行う回路の例を図11に示す。図において加算位相値φrおよび打切り位相φtは、ステージ座標値Pおよび移動方向信号Drに関連付けて予め記憶回路に格納されており、PおよびDrに応じて読み出される。加算位相値φrはDAコンバータを介して位相差指令値Δφ0に加算され、打切り位相φtは同期回路に送られる。
【0047】
なお、ステージ座標値Pはステージ座標を刻々入力しても良いが、位置決め動作開始時に位置決め目標位置に固定する方法の方が安定な制御を行うことができる。
【実施例3】
【0048】
(直列型モータ)
本実施例は、上記実施例1および実施例2と異なる直列配置型の超音波モータを用いた場合のドリフト低減方法である。図12は直列配置型の超音波モータの構造例および変形を示す図である。超音波モータ18は台座22上に伸縮型ピエゾ素子23Aとせん断型ピエゾ素子23B、及び駆動チップ24を積重ねた構造であり、上記実施例の超音波モータと同様に双方のピエゾ素子の印加電圧の位相差により、駆動チップ24の軌跡を制御することができる。図12に図示する通り、伸縮型ピエゾ素子23Aは、駆動チップ24を、駆動面に押圧するように動作し、ステージの移動方向に揺動するせん断型ピエゾ素子23Bは、ステージをその移動方向に移動させるように動作する。2つのピエゾ素子の協働により、試料ステージは所定の移動方向に移動する。
【0049】
本実施例の超音波モータ18を搭載するステージは上記実施例1と同様のものが使用可能である。また、駆動のための回路は図10または図11に示した回路をそのまま用いることができる。ただし、位相差と駆動速度の関係は若干異なり、位相差が90°において最高速度、位相差が0°または180°において駆動速度が0となる特性となるが、駆動方式に本質的な相違は無い。
【0050】
(収束点打切り制御)
本実施例においては、送り方向ドリフトに関し、押し付け方向にのみ伸縮するピエゾ素子23Aは影響を与えず、送り方向にせん断変形するピエゾ素子23Bのみが影響する。従って、ピエゾ素子23Bの残留変形を0とするような制御が求められることになる。そこで本実施例では、図8において、ピエゾ素子の印加電圧−変形量を示すグラフが、変形収束線と交わる交点AまたはA1においてピエゾ素子23Bへの印加電圧が固定されるよう打切り位相を定める。交点AまたはA1においては印加電圧固定時の変形量が最終的な変形量収束値と一致するので、残留変形は殆ど生じず、テーブルのドリフトを有効に低減することができる。
【実施例4】
【0051】
(停止抗力測定,ステージ制御パラメータ補正)
上記実施例2または3において図11の回路を用いて高精度なドリフト低減を図る場合、予め加算位相値φrおよび打切り位相φtを記憶回路に格納しておく必要があることを既に説明した。本実施例では、その具体的な方法の例について説明する。
【0052】
図13は残留摩擦力等による停止抗力の測定に基づいて、φrおよびφtを計算し、記憶回路に格納する手順を示す図である。まずテーブルを測定位置に移動し、さらに正方向へ移動させてから測定位置に位置決めする。次いで停止抗力を測定する。これには超音波モータ18の発生反力を測定する機能を台座22に設ける等の方法も考えられるが、より簡便には位置決めサーボによる停止を行わせて、その際のピエゾ素子23A,23Bの印加電圧位相差から停止に必要な推力を求める方法でも良い。測定された停止抗力から実施例2または3で説明した条件を満たすφrおよびφtを計算し、記憶回路に格納する。
【0053】
以上の正方向の手順が完了後、さらに負方向からの位置決めを行い、同様に測定,格納を実施する。これら両方向からの手順を、測定点全てについて実行することで、記憶回路への格納走査が完了する。
【0054】
図14は加算位相値φrおよび打切り位相φtを計算ではなく実測に基づいて決定する手順を示す図である。図13との相違点は、パラメータであるφrおよびφtを調整しながら同一方向からの位置決めを繰返し、ドリフトが許容値以下となる値を決定して格納することであり、図13の手順と比較してさらに高精度なドリフト低減が期待できる。
【0055】
なお、XY2軸を持つステージ機構においては、上記測定または補正はXY各軸に関しそれぞれ実施する必要があるが、XY平面上に格子点状に配置された測定点を設定し、その各点に関し測定または補正を行うことでより高精度なドリフト低減を実現することも可能である。
【0056】
(操作コマンド)
残留摩擦力等に由来する停止抗力は、試料ステージ機構の部品の磨耗等による経時変化や保守等のサービス実施に伴い変化することが考えられるため、図11の記憶回路の内容は自動で更新可能とすることが良い。このためには、上記の測定あるいは補正動作を実行する装置コマンドを設け、操作者がコマンド発行により記憶内容の変更が自動的に行えるようにすることが望ましい。
【0057】
また、上記実施例1から3では、もっぱら超音波モータを用いた試料ステージにおけるピエゾ素子の残留変形に注目してドリフトの低減方法を示したが、リニアモータ等の他のリニア駆動源においても、位置決め後に残留摩擦力等に由来する停止抗力によってドリフトが発生する現象は起こる。従って、本実施例による、停止抗力の測定、あるいは制御パラメータ補正によるドリフト低減は、他のリニア駆動源を用いた試料ステージにおいても有効である。この際、例えばリニアモータ駆動の場合では、位置決め後に一定の推力を維持させたままにする為、界磁コイルに流す保持電流値を制御パラメータとして用いることができる。
【0058】
なお、ここでは、ウエハ(試料)を検査計測する走査電子顕微鏡(SEM)に適用した例によって本発明を説明したが、本発明によるステージ装置は、SEMに限らず、電子線描画装置,FIBなど、試料を把持してXY2次元方向に移動するステージ装置を用いる荷電粒子線装置一般、さらには荷電粒子線装置に限らず光散乱等を利用して異物や欠陥の検査を行う光学式検査装置等にも適用できることは勿論である。また、保持する試料はウエハに限らず、リソグラフィ用のレチクル,マスク等の微細パターンを有する試料を検査計測する場合についても本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、半導体素子製造分野における検査計測用電子顕微鏡等の荷電粒子線装置、およびこれに用いる試料ステージ機構に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による一実施形態の電子顕微鏡装置を示す概略構成図。
【図2】電子顕微鏡装置における一実施形態のステージの概略構成図。
【図3】超音波モータの構造例を示す図。
【図4】超音波モータの動作を示す図。
【図5】超音波モータにおける駆動チップの軌跡を示す図。
【図6】駆動回路の一例を示す図。
【図7】ピエゾ素子の残留変形特性を示す図。
【図8】ピエゾ素子の印加電圧−変形特性を示す図。
【図9】ピエゾ素子の印加電圧−変形特性を示す図。
【図10】駆動回路の別の例を示す図。
【図11】駆動回路のさらに別の例を示す図。
【図12】超音波モータの別の構造例を示す図。
【図13】ドリフト低減手順の一例を示すフローチャート。
【図14】ドリフト低減手順の別の例を示すフローチャート。
【図15】2つのピエゾ素子の配置関係を立体的視点から説明するための図。
【符号の説明】
【0061】
1 荷電粒子光学系
2 試料室
7 ウエハ
13 ベース
14 Xテーブル
15 Yテーブル
16 チャック
18 超音波モータ
19 レール
20 台座
22 モータベース
23A,23B ピエゾ素子
24 駆動チップ
【技術分野】
【0001】
本発明は電子顕微鏡及び電子顕微鏡用ステージ機構に関し、特に半導体デバイスの微細パターン寸法測長あるいは観察用途に好適な電子顕微鏡及び電子顕微鏡用ステージ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope;SEM)は、多様な研究開発分野に利用されるだけでなく、近年は製造分野にも応用されるようになった。特に半導体製造プロセスにおいては、走査型電子顕微鏡による微細構造の寸法計測や観察が不可欠なものとなっている。
【0003】
半導体集積回路は年々デザインルールが微細化して現在ではパターン幅が100nm以下に達しており、このような微細パターンの寸法計測や形状観察,異物欠陥の観察を行うため、測長SEMやレビューSEMなどが利用される。このうち例えば、測長SEMは半導体ウエハに形成された回路パターンの幅を測定することを目的とする装置であり、電子線を収束,走査するための電子光学系,試料であるウエハを真空中で位置決めするための試料室およびステージ等から構成される。
【0004】
これら半導体検査計測用電子顕微鏡の試料ステージには従来、送りネジを駆動手段に用いた構造が多く用いられてきたが、近年は位置決め高速化,精度向上やウエハに対する潤滑油由来の化学的汚染を避ける等の目的で、圧電セラミック素子(ピエゾ素子)を利用したリニアアクチュエータである超音波モータを駆動源とするステージの提案が行われている(特許文献1および3参照)。
【0005】
超音波モータの具体構造にはいくつかの方式があるが、大別すると(1)送り対象物と接触する面上に表面弾性波を発生させるタイプ、と(2)送り対象物と接触する駆動部分をアクチュエータの変形により変位あるいは振動させるタイプ、の二種類に分けられる。一般には上記(2)のアクチュエータ変形を利用するタイプの方が、重量のある送り対象物に対し送りスピードを高く取ることができるため、大型の送りステージが必要な半導体用電子顕微鏡用途には好適とされる。
【0006】
また上記(2)の方式はさらに、モータ構造の共振を利用するタイプと、構造を共振させない非共振タイプに分けられる。特許文献2に記載された例は、アクチュエータ変形利用の超音波モータにおいて共振を利用しているタイプであり、圧電板の長手方向の伸縮モードの共振と、折れ曲り(ベンド)モードの共振を組合わせてセラミックスペーサ(駆動部分)を振動させ、これにより対象物を駆動する。この際、上記二つの共振の位相関係の正負を切替えることにより、送り方向を切替えることができることが述べられている。
【0007】
また、特許文献3には、非共振タイプの超音波モータ構造の例が開示されている。この例では、伸縮および先端部の横変位が可能なアクチュエータを二つ並列に用い、それぞれに伸縮と横変位が位相差90度となるような駆動電圧を与えて先端(駆動部分)を楕円運動させることにより対象物を駆動する構造を用いている。
【0008】
【特許文献1】特開平3−129653号公報
【特許文献2】特開平7−184382号公報
【特許文献3】特許第3834486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体検査計測用の電子顕微鏡においては、真空室内においてステージにより試料の観察部分を観察視野に高速に移動させ、観察部分に電子ビームを照射して観察・計測を行う。ところが、高倍率で試料を観察する際に、試料ステージにドリフト、すなわち位置決め完了後に時間の経過とともに停止位置が微小にずれていく現象が存在すると、微細パターンの寸法測定などを行う際に測定精度が低下するという問題がある。
【0010】
近年の半導体検査計測用電子顕微鏡ではビーム分解能は1.5ナノメートル程度に達しており、また、微細パターン幅の測定再現性は0.2ナノメートル程度が要求されている。このため、ステージ停止後から次の測定部分に向かって起動する1〜2秒程度の間に、ドリフトは0.5ナノメートル毎秒程度以下に押える必要があるとされる。
【0011】
なお、電子ビームは電気的に偏向が可能なため、ステージの位置決め精度自体の要求値は1マイクロメートル程度であり、この程度の位置決め誤差であれば観察・測定に先立ってウエハ上の対象パターンをビーム偏向により画像中心に持ってくることが可能である。ところがドリフトに関しては、ビーム偏向により補正しようとすると観察・測定中に実時間で補正を行わなければならず、高速高精度の補正が必要となり回路が複雑化する上、電気的な外来雑音への耐性が低下する等の問題点がある。
【0012】
このように、位置決め精度に対してドリフトの許容値が1000倍以上厳しいことが半導体検査計測用電子顕微鏡のステージの特徴となっており、こういった性能を要求されるステージ機構は他分野では見ることができない。
【0013】
特許文献1,2および3に記載の超音波モータ、およびそれを用いたステージにおいては、高速高精度の位置決めが可能である反面で、上記ドリフトの問題が考慮されておらず、半導体検査計測用電子顕微鏡のステージとして使用する場合に、ドリフト低減が困難であるという問題がある。
【0014】
ピエゾ素子を応用した超音波モータには特有の問題として、ピエゾ素子の「残留変形」現象がある。これはピエゾ素子が駆動電圧の変化に即応して変形した後に、駆動電圧を一定に保ってもゆっくり微少な変形を続ける現象であり、超音波モータを用いたステージにおいてドリフトの原因となる。なお、この残留変形の大きさは通常1マイクロメートル以下程度の大きさであり、さほどステージの低ドリフト性を要求されない用途においては問題とならないが、上に述べたようにドリフトの許容値が厳しい半導体検査計測用電子顕微鏡のステージにおいては大きな問題となる。
【0015】
本発明は、停止時のドリフトが小さいステージ機構およびそれを備えた電子顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明では、2以上の伸縮或いは揺動が可能な駆動素子を有し、当該2つの駆動素子の協働によりステージを移動させる試料ステージを提供する。2つの駆動素子の協働により、当該2つの駆動素子の動作を組合わせることによる種々の制御が可能となり、結果として、ステージの移動のみならず、停止時のドリフトの抑制が可能なステージ機構の提供が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、停止時のドリフトが小さい試料ステージ、およびそれを備えた電子顕微鏡を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一形態においては、駆動対象面に対し互いに対称をなす角度で設置されたピエゾ素子を有する超音波モータにより駆動される試料ステージにおいて、位置決め停止時に、位置決め条件成立後、ピエゾ素子にそれぞれ印加される駆動電圧の変動の位相差を一定時間0に保つ。
【0019】
あるいは、同様の試料ステージにおいて、位置決め停止時に、位置決め条件成立後、ピエゾ素子にそれぞれ印加される駆動電圧の変動の位相が予め定められた位相となった時点で、駆動電圧を固定する。またこの打切り位相を位置決め停止直前のステージの移動方向と位置決め停止座標に応じ決定する。
【0020】
また、駆動対象面に対し駆動チップを押し付けるピエゾ素子と、駆動チップを駆動方向に移動させるピエゾ素子を有した試料ステージにおいて、位置決め停止時に、位置決め条件成立後、後者のピエゾ素子への印加電圧の位相が所定の位相となった時点で印加電圧を固定する。また、この打切り位相を印加電圧振幅に対するピエゾ素子の変形応答が、ピエゾ素子の変形収束線と交差する点に対応する位相とする。
【0021】
さらに、これらの試料ステージを電子顕微鏡に備える。
【0022】
また、超音波モータにより駆動される試料ステージを制御するため、超音波モータに備えられたピエゾ素子の対にそれぞれ印加される電圧の変動の位相差を制御する位相差発振回路と、位置決め条件成立後に該印加電圧の変動の位相を一定時間維持した後、固定するための遅延回路およびホールド回路を備えた制御回路を電子顕微鏡に設ける。また、位相差発振回路の入力に加算される位相差値を、ステージ移動方向及び位置決め座標と関連付けて記憶する記憶回路をさらに設ける。
【0023】
あるいは、同様の位相差発振回路と、位置決め条件成立後にピエゾ素子への印加電圧が所定の位相に達した時点で印加電圧を固定する同期回路およびホールド回路を備える制御回路を電子顕微鏡に設ける。また、位相差発振回路の入力に加算される位相差値、および固定回路に入力する打切り位相を、ステージ移動方向及び位置決め座標と関連付けて記憶する記憶回路を設ける。
【0024】
また、超音波モータ,リニアモータ等のリニア駆動源により駆動される試料ステージを備えた電子顕微鏡において、試料ステージの移動ストローク内に配置された複数の座標の各点において、(1)試料ステージを位置決めする工程と、(2)位置決めにおける停止時のステージ抗力を評価する工程と、を移動軸の両方向からの位置決めについてそれぞれ行うことにより、移動ストローク内におけるステージの停止抗力分布を測定し、その結果に基づいて、ステージ位置決め時のドリフトを低減する機能を備える。
【0025】
あるいは、同様な電子顕微鏡において、試料ステージの移動ストローク内に配置された複数の座標の各点において、(1)試料ステージを位置決めする工程と、(2)停止後ドリフトを評価する工程と、(3)ステージ制御パラメータを補正する工程と、を繰返す方法により、移動ストローク内におけるステージの停止ドリフトを低減する機能を備える。
【0026】
さらに、これらの停止ドリフト低減機能を操作コマンドの発行により自動的に実行可能とする。
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明ではSEMの一態様として測長SEMを例にとって説明するが、これに限られることはなく、例えば先に説明したレビューSEMなど、特に微細な測定,検査,加工,観察等を行う荷電粒子線装置一般への適用が可能である。
【実施例1】
【0028】
(用途,装置)
図1は、本発明による測長SEMの概略構成図である。本発明による測長SEMは、荷電粒子光学系1と、ウエハ(試料)7を真空に保つ為の試料室2と、ウエハ7を移動する試料ステージを備え、荷電粒子源から放出された荷電粒子線をウエハ7上に細く集束して走査し、ウエハ7から放出された2次電子等を検出してウエハ7の走査像を得、その信号からウエハ上に形成された微細パターンの寸法を計測するものである。
【0029】
試料室2は図示しない真空ポンプ等により10のマイナス4乗パスカル程度の真空状態に保たれる。試料室2の中に配置される試料ステージは電子ビームが照射される測長位置にウエハ上の任意の部位を高速に移動,位置決めする機構である。
(ステージ構成)
図2に、試料ステージの基本的構成を示す。試料ステージはベース13、ベース13上を移動するYテーブル15及び、Yテーブル15上を移動するXテーブル14から概ね構成され、Xテーブル14上にはウエハ7を固定するためのチャック機構16が設けられている。各テーブルはレール19上を移動可能に支持されており、移動及び位置決めは超音波モータ18により行われる。超音波モータ18は安定した加減速,位置決め及び固定を実施するため、各テーブルを挟み込むように配置されている。
【0030】
(モータ動作)
図3に、超音波モータ18の構造を示す。超音波モータ18は一対の、互いに角度をなして固定されたピエゾ素子23A,23Bを有し、その先端は共通の駆動チップ24に固定されている。駆動チップ24の先端の面は駆動対象物であるテーブルの側面に設けた駆動面に接触しており、駆動チップ24の振動によりテーブルが駆動される。図4に示すように、ピエゾ素子23A,23Bに互いに同相で変動する電圧を印加すると、素子の伸縮により駆動チップ24は駆動面と垂直な方向への変位を生ずる。また逆相の電圧を印加すると、ステージ送り方向への変位を生じる為、これを利用して超音波リニアアクチュエータとして使用することができる。図5に示すごとく、互いに位相のずれた正弦波電圧を含む駆動電圧を各ピエゾ素子に印加すると、駆動チップの変位の軌跡は双方の電圧のリサージュ波形である楕円に近い形状となる。位相差が90度においてはこの軌跡は円形となり、位相差の符合に応じ回転方向が逆転する。この状態では最大突き出し部での横移動速度が大きい為、ステージを高速に駆動することができる。また、印加電圧の位相差が小さくなると、軌道は縦長の楕円となり、最大突き出し部での横移動速度が小さくなる為、ステージの移動速度は小さくなる。位相差0度においては、駆動チップは送り対象面に垂直に振動するのみで駆動力は発生しない。
【0031】
なお、駆動周波数は、好ましくは20キロヘルツ以上とする。公知の共振型超音波モータの場合と同様に、このような帯域での振動では、駆動チップが引っ込んだ際には駆動チップと送り対象面との接触は維持されず、その結果として、上記リサージュ図形の突き出し側の先端に近い領域における横方向変位速度によって、駆動チップは対象面を駆動することになる。
【0032】
図15は、上記2つのピエゾ素子の配置関係を立体的視点から説明するための図である。図15における配置関係は無論例示に過ぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。2つのピエゾ素子23A,23Bは、図15の視点から見たとき、第3の直線と、第4の直線に、それぞれ伸縮方向が沿うように配置される。当該第3の直線と第4の直線は、駆動面(図15のy−z面)に対する垂線である第1の直線と、図15のy軸である第2の直線が含まれる平面(図15のx−y面)内に位置する。また、第3と第4の直線は、上記第1の直線を中心として、鏡対称に配置される。
【0033】
以上のような配置によれば、ピエゾ素子23Aとピエゾ素子23Bの協働によって、駆動チップ24を、駆動面に押圧、或いは離脱させることが可能となる。
【0034】
(位置決め,回路)
図6は超音波モータの駆動制御回路である。本実施例では、位置決め移動のためにいわゆる台形速度制御を用いており、起動時および位置決め停止時には時間に対して直線的にテーブル移動速度を変化させる。速度制御を実現するには上記の位相差の変化を利用し、図6に示すがごとく、両位相差を抑制すべく、速度指令値を速度位相差変換回路によって位相差指令値Δφ0に変換し、さらに位相差発振回路によりΔφ0に等しい位相差を持つピエゾ駆動信号Vd1,Vd2を発生する。ホールド回路は、テーブルが目標位置に到達した際に、印加電圧Vp1,Vp2を固定する為に設けてあり、印加電圧固定によって超音波モータ18は振動を停止し、テーブルは超音波モータ18によって固定される。
【0035】
(ドリフトの発生)
次に超音波モータ特有のピエゾ素子によるドリフトの発生について説明する。図7は超音波モータ18に用いられているピエゾ素子の残留変形の一般的な特性を示した図であり、横軸は経過時間、縦軸はピエゾ素子変形量ΔLを示す。ピエゾ素子は電圧の印加、除去により素子が伸縮する特性を持ち、その応答速度は非常に速く電圧印加により瞬時に変形が生ずる。ただし、その後の経過時間に伴い、量は僅かであるがじわじわと残留変形が生じる事が広く知られている。
【0036】
ピエゾ素子の変形現象は、駆動電圧の印加で内部に生じた電場により、素子を構成する多結晶の方位が回転して生ずるものであるが、この回転には内部摩擦が作用するため、印加電圧−変形量のグラフにはヒステリシスが生じる。この関係を示したのが図8である。印加電圧上昇時と下降時で、変形量は同一値とはならずグラフはループを描く。
【0037】
図中で、ループにおいてC点で印加電圧を固定すると、内部摩擦で安定点に至らずに拘束されていた結晶方位の回転は、時間の経過と共に分子の熱運動により徐々に開放され、この結果、ピエゾ素子は徐々に伸びの変形を生じ、最終的に印加電圧によって定まる安定点であるD点に収束する。なおこの安定点は印加電圧による電場に応じて定まり線状のグラフとなるため、ここではこれを変形収束線と呼ぶ。グラフから、例えば印加電圧を減少させながらB点で電圧を固定した場合には、残留変形はC点の場合とは逆の、図中下向きの方向に生じることなどが分かる。
【0038】
超音波モータ18は、駆動対象面への押し付け方向と平行でない角度をなしてピエゾ素子が設置されているため、位置決め後に上記残留変形があると、テーブルを固定している駆動チップ24のテーブル移動方向への変位を生じ、ドリフトの原因となる。
【0039】
(同位相遅延打切り)
ただし、ピエゾ素子23A,23Bは対称的に配置されているため、同じ残留変形を生じた場合には駆動チップ24は押し付け方向のみの変位が生じドリフトは発生しない。通常の位置決め動作においては、位置決め点近傍にテーブルが到達すると、位置サーボをかけて位置決め点にテーブルを停止させるが、この場合、残留摩擦力等の影響により、モータは推力を発生した状態となるため両方のピエゾ素子に印加される電圧は常に等しくはならない。そこで本実施例では、位置決め点近傍にテーブルが到達後、短時間δの間、印加電圧Vp1,Vp2の位相差を0に保ち、ピエゾ素子の変形履歴を同じに保った後、駆動を打ち切って印加電圧を固定する。時間δの間はピエゾ素子23A,23Bに加わる電圧が常に同一となるため、駆動打切り後の残留変形が等しくなる。δは駆動周波数の数周期程度、通常の位置決め時間の百分の1以下の遅延で十分な効果がある。なお、本発明のように位置サーボを用いず、位置決め直前に位相差を0として駆動を行うと、上記残留摩擦力等の影響でテーブル位置に1マイクロメートル以下程度のずれを生じることがあるが、既に述べた通り、半導体検査計測用電子顕微鏡におけるステージ機構には、位置決め精度に対してドリフトの許容値が1000倍以上厳しいという特徴があり、この程度の位置決め精度の低下は装置性能に影響せず、一方でドリフト低減による検査測定精度の向上を実現することができる。
【0040】
なお、上記の方法により送り方向へのピエゾ素子の変形は防止できるが、送り方向に垂直な押し付け方向への残留変形は生じる。しかし、送り垂直方向のテーブルの支持剛性は高い上、本実施例ではテーブルをはさみこむように両側に超音波モータ18を設けているため、押し付け方向への残留変形は打消し合い、テーブルの移動を引起さない。
【実施例2】
【0041】
(設定位相打切り)
上記実施例1と同様の装置構成において、テーブルのドリフトを低減する別の方法について図9および図10を用いて説明する。実施例1において残留摩擦力等による位置決め精度の低下が起こることを述べたが、残留摩擦力等が大きい場合には位置決め精度の低下が大きくなる為、これは必ずしも望ましいものではない。そこで本実施例では、駆動打切りの位相を制御して、位置決め精度を低下させずにドリフトを低減する方法を用いる。
【0042】
図9は図8と同様のピエゾ素子印加電圧−変形量のグラフにおいて、打切り位相により残留変形量を制御する方法を示す。図9中で斜めの点線は変形収束線に平行に引いた変形特性グラフの接線である。位置決め時に位置決め精度を低下させない為には、残留摩擦力等の大きさと等しい推力を超音波モータが発生する必要があるが、このためにはピエゾ素子印加電圧Vp1,Vp2には位相差が無ければならない。しかしこの場合、特性グラフ上で各ピエゾ素子の状態を表す点は位置のずれを持つことになる。通常の制御方法では、位置決め条件が成立すると直ちに制御を打切るため、ピエゾ素子間の残留変形量が異なりドリフトが生じてしまう。
【0043】
本実施例では制御打切りのタイミングを限定することによりこの問題を解決する。図中の接点近傍において、A点およびB点で示すがごとく、接点を挟んで両側に配置された位置を駆動打切り点とすると、位相差があっても残留変形量を等しくすることができることが分かる。また、簡単な考察により、A点とB点の位相差が小さい場合には、この条件が成立するのは図中の2ヶ所の接点の回りしかないことも容易に分かる。
【0044】
本実施例では、上記の条件が成立する位相値φt1およびφt2を予め計算し、この条件のもとで超音波モータ18の駆動打切りを行うことでドリフトを低減する。図10はこれを実現する回路の一例である。実施例1と同様の速度位相差変換回路の出力である位相差指令値Δφ0に、残留摩擦力等に相当する推力を発生する為の加算位相値φrが加算される。また、同期回路は、位置決め条件成立信号Spが入力後に、Vp1と同期した発振同期信号Socから打切り位相φtに相当する遅延時間だけ遅延した信号を発生して、ホールド回路により印加電圧Vd1,Vd2を固定する。この結果、Vd1は位相φt1=φt,Vd2は位相φt2=φt+φrにおいて常に駆動打切りを行う制御が実現する。
【0045】
(記憶回路)
残留摩擦力は、レールの歪や摺動機構の特性などによって決まる為、座標依存性および方向依存性を持つ場合がある。このため、上記の方法による位置決めを行う場合には、位置決め座標や方向に応じ残留摩擦力が変動すると、固定した加算位相値φrや打切り位相φtを用いたのでは充分なドリフトの低減が可能とならないケースがありうる。従って、上記打切り位相を移動方向および座標に関連付けて記憶し、位置決め時に用いることが望ましい。
【0046】
このような制御を行う回路の例を図11に示す。図において加算位相値φrおよび打切り位相φtは、ステージ座標値Pおよび移動方向信号Drに関連付けて予め記憶回路に格納されており、PおよびDrに応じて読み出される。加算位相値φrはDAコンバータを介して位相差指令値Δφ0に加算され、打切り位相φtは同期回路に送られる。
【0047】
なお、ステージ座標値Pはステージ座標を刻々入力しても良いが、位置決め動作開始時に位置決め目標位置に固定する方法の方が安定な制御を行うことができる。
【実施例3】
【0048】
(直列型モータ)
本実施例は、上記実施例1および実施例2と異なる直列配置型の超音波モータを用いた場合のドリフト低減方法である。図12は直列配置型の超音波モータの構造例および変形を示す図である。超音波モータ18は台座22上に伸縮型ピエゾ素子23Aとせん断型ピエゾ素子23B、及び駆動チップ24を積重ねた構造であり、上記実施例の超音波モータと同様に双方のピエゾ素子の印加電圧の位相差により、駆動チップ24の軌跡を制御することができる。図12に図示する通り、伸縮型ピエゾ素子23Aは、駆動チップ24を、駆動面に押圧するように動作し、ステージの移動方向に揺動するせん断型ピエゾ素子23Bは、ステージをその移動方向に移動させるように動作する。2つのピエゾ素子の協働により、試料ステージは所定の移動方向に移動する。
【0049】
本実施例の超音波モータ18を搭載するステージは上記実施例1と同様のものが使用可能である。また、駆動のための回路は図10または図11に示した回路をそのまま用いることができる。ただし、位相差と駆動速度の関係は若干異なり、位相差が90°において最高速度、位相差が0°または180°において駆動速度が0となる特性となるが、駆動方式に本質的な相違は無い。
【0050】
(収束点打切り制御)
本実施例においては、送り方向ドリフトに関し、押し付け方向にのみ伸縮するピエゾ素子23Aは影響を与えず、送り方向にせん断変形するピエゾ素子23Bのみが影響する。従って、ピエゾ素子23Bの残留変形を0とするような制御が求められることになる。そこで本実施例では、図8において、ピエゾ素子の印加電圧−変形量を示すグラフが、変形収束線と交わる交点AまたはA1においてピエゾ素子23Bへの印加電圧が固定されるよう打切り位相を定める。交点AまたはA1においては印加電圧固定時の変形量が最終的な変形量収束値と一致するので、残留変形は殆ど生じず、テーブルのドリフトを有効に低減することができる。
【実施例4】
【0051】
(停止抗力測定,ステージ制御パラメータ補正)
上記実施例2または3において図11の回路を用いて高精度なドリフト低減を図る場合、予め加算位相値φrおよび打切り位相φtを記憶回路に格納しておく必要があることを既に説明した。本実施例では、その具体的な方法の例について説明する。
【0052】
図13は残留摩擦力等による停止抗力の測定に基づいて、φrおよびφtを計算し、記憶回路に格納する手順を示す図である。まずテーブルを測定位置に移動し、さらに正方向へ移動させてから測定位置に位置決めする。次いで停止抗力を測定する。これには超音波モータ18の発生反力を測定する機能を台座22に設ける等の方法も考えられるが、より簡便には位置決めサーボによる停止を行わせて、その際のピエゾ素子23A,23Bの印加電圧位相差から停止に必要な推力を求める方法でも良い。測定された停止抗力から実施例2または3で説明した条件を満たすφrおよびφtを計算し、記憶回路に格納する。
【0053】
以上の正方向の手順が完了後、さらに負方向からの位置決めを行い、同様に測定,格納を実施する。これら両方向からの手順を、測定点全てについて実行することで、記憶回路への格納走査が完了する。
【0054】
図14は加算位相値φrおよび打切り位相φtを計算ではなく実測に基づいて決定する手順を示す図である。図13との相違点は、パラメータであるφrおよびφtを調整しながら同一方向からの位置決めを繰返し、ドリフトが許容値以下となる値を決定して格納することであり、図13の手順と比較してさらに高精度なドリフト低減が期待できる。
【0055】
なお、XY2軸を持つステージ機構においては、上記測定または補正はXY各軸に関しそれぞれ実施する必要があるが、XY平面上に格子点状に配置された測定点を設定し、その各点に関し測定または補正を行うことでより高精度なドリフト低減を実現することも可能である。
【0056】
(操作コマンド)
残留摩擦力等に由来する停止抗力は、試料ステージ機構の部品の磨耗等による経時変化や保守等のサービス実施に伴い変化することが考えられるため、図11の記憶回路の内容は自動で更新可能とすることが良い。このためには、上記の測定あるいは補正動作を実行する装置コマンドを設け、操作者がコマンド発行により記憶内容の変更が自動的に行えるようにすることが望ましい。
【0057】
また、上記実施例1から3では、もっぱら超音波モータを用いた試料ステージにおけるピエゾ素子の残留変形に注目してドリフトの低減方法を示したが、リニアモータ等の他のリニア駆動源においても、位置決め後に残留摩擦力等に由来する停止抗力によってドリフトが発生する現象は起こる。従って、本実施例による、停止抗力の測定、あるいは制御パラメータ補正によるドリフト低減は、他のリニア駆動源を用いた試料ステージにおいても有効である。この際、例えばリニアモータ駆動の場合では、位置決め後に一定の推力を維持させたままにする為、界磁コイルに流す保持電流値を制御パラメータとして用いることができる。
【0058】
なお、ここでは、ウエハ(試料)を検査計測する走査電子顕微鏡(SEM)に適用した例によって本発明を説明したが、本発明によるステージ装置は、SEMに限らず、電子線描画装置,FIBなど、試料を把持してXY2次元方向に移動するステージ装置を用いる荷電粒子線装置一般、さらには荷電粒子線装置に限らず光散乱等を利用して異物や欠陥の検査を行う光学式検査装置等にも適用できることは勿論である。また、保持する試料はウエハに限らず、リソグラフィ用のレチクル,マスク等の微細パターンを有する試料を検査計測する場合についても本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、半導体素子製造分野における検査計測用電子顕微鏡等の荷電粒子線装置、およびこれに用いる試料ステージ機構に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による一実施形態の電子顕微鏡装置を示す概略構成図。
【図2】電子顕微鏡装置における一実施形態のステージの概略構成図。
【図3】超音波モータの構造例を示す図。
【図4】超音波モータの動作を示す図。
【図5】超音波モータにおける駆動チップの軌跡を示す図。
【図6】駆動回路の一例を示す図。
【図7】ピエゾ素子の残留変形特性を示す図。
【図8】ピエゾ素子の印加電圧−変形特性を示す図。
【図9】ピエゾ素子の印加電圧−変形特性を示す図。
【図10】駆動回路の別の例を示す図。
【図11】駆動回路のさらに別の例を示す図。
【図12】超音波モータの別の構造例を示す図。
【図13】ドリフト低減手順の一例を示すフローチャート。
【図14】ドリフト低減手順の別の例を示すフローチャート。
【図15】2つのピエゾ素子の配置関係を立体的視点から説明するための図。
【符号の説明】
【0061】
1 荷電粒子光学系
2 試料室
7 ウエハ
13 ベース
14 Xテーブル
15 Yテーブル
16 チャック
18 超音波モータ
19 レール
20 台座
22 モータベース
23A,23B ピエゾ素子
24 駆動チップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象試料を所定の方向に移動するテーブルを備えた試料ステージにおいて、
前記テーブルを前記所定方向に移動するための駆動機構と、
当該駆動機構による押圧作用を受ける面を備え、
前記駆動機構は、少なくとも2つのピエゾ素子を有し、当該2つのピエゾ素子の協働によって前記テーブルを前記所定方向に移動させるように構成され、前記試料ステージの停止のときには、前記2つのピエゾ素子に印加される電圧の位相差が、抑制される方向に調整されることを特徴とする電子顕微鏡用試料ステージ。
【請求項2】
請求項1において、
前記2つのピエゾ素子は、前記押圧作用を受ける面に対して傾斜した方向に、伸縮するように配置されることを特徴とする電子顕微鏡用試料ステージ。
【請求項3】
請求項1において、
前記面に対する垂線である第1の直線と、当該第1の直線と前記面の交点を通過すると共に、前記テーブルの移動方向と平行な第2の直線をその面内に含む平面内であって、当該第2の直線に交差する第3の直線の方向に伸縮する第1のピエゾ素子と、
当該平面内にあって、前記第1の直線を中心として、前記第3の直線に対し鏡対称な第4の直線の方向に伸縮する第2のピエゾ素子と、当該第1のピエゾ素子と、第2のピエゾ素子の前記テーブル側に、当該第1のピエゾ素子と第2のピエゾ素子の協働によって、前記面に押圧される押圧部を備えたことを特徴とする電子顕微鏡用試料ステージ。
【請求項4】
請求項1において、
前記駆動機構は、前記位相差がゼロとなる時間を所定時間保つことを特徴とする電子顕微鏡用試料ステージ。
【請求項5】
対象試料を所定の方向に移動するテーブルを備えた試料ステージにおいて、
前記テーブルを前記所定方向に移動するための駆動機構と、
当該駆動機構による押圧作用を受ける面を備え、
前記駆動機構は、少なくとも2つのピエゾ素子を有し、当該2つのピエゾ素子の協働によって前記テーブルを前記所定方向に移動させるように構成され、前記試料ステージの停止のときには、前記2つのピエゾ素子に印加される電圧の位相が、所定の位相となった時点で、当該印加電圧を固定することを特徴とする電子顕微鏡用試料ステージ。
【請求項6】
請求項5において、
前記位相は、印加電圧に対する前記ピエゾ素子の変形応答が、ピエゾ素子の変形収縮点と交差する点に対応する位相であることを特徴とする電子顕微鏡用ステージ。
【請求項7】
ピエゾ素子の対を備えた超音波モータにより駆動される試料ステージと、該試料ステージを制御する制御回路を備えた電子顕微鏡であって、該制御回路は、超音波モータに備えられたピエゾ素子の対にそれぞれ印加される電圧の変動の位相差を制御する位相差発振回路と、位置決め条件成立後に該印加電圧の変動の位相差を一定時間維持した後、固定するための遅延回路およびホールド回路を備えることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項8】
上記請求項7に記載の電子顕微鏡において、該位相差発振回路の入力に加算される位相差値を、ステージ移動方向及び位置決め座標と関連付けて記憶する記憶回路を設けたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項9】
超音波モータにより駆動される試料ステージと該試料ステージを制御する制御回路を備えた電子顕微鏡であって、該制御回路は、超音波モータに備えられたピエゾ素子の対にそれぞれ印加される電圧の変動の位相差を制御する位相差発振回路と、位置決め条件成立後に該印加電圧が所定の位相に達した時点で該印加電圧を固定する同期回路およびホールド回路を備えることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項10】
上記請求項9に記載の電子顕微鏡において、該位相差発振回路の入力に加算される位相差値および該固定回路に入力する打切り位相を、ステージ移動方向及び位置決め座標と関連付けて記憶する記憶回路を設けたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項11】
超音波モータ,リニアモータ等のリニア駆動源により駆動される試料ステージを備えた電子顕微鏡であって、該試料ステージの移動ストローク内に配置された複数の座標の各点において、(1)試料ステージを位置決めする工程と、(2)位置決めにおける停止時のステージ抗力を評価する工程と、を移動軸の両方向からの位置決めについてそれぞれ行うことにより、移動ストローク内におけるステージの停止抗力分布を測定し、その結果に基づいて、ステージ位置決め時のドリフトを低減する機能を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項12】
超音波モータ,リニアモータ等のリニア駆動源により駆動される試料ステージを備えた電子顕微鏡であって、該試料ステージの移動ストローク内に配置された複数の座標の各点において、(1)試料ステージを位置決めする工程と、(2)停止後ドリフトを評価する工程と、(3)ステージ制御パラメータを補正する工程と、を繰返す方法により、移動ストローク内におけるステージの停止ドリフトを低減する機能を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項13】
上記請求項11または12に記載の電子顕微鏡において、該停止ドリフト低減機能が操作コマンドの発行により自動的に実行されることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項14】
対象試料を所定の方向に移動するテーブルを備えた試料ステージにおいて、
前記テーブルを前記所定方向に移動するための駆動機構と、
当該駆動機構による押圧作用を受ける面を備え、
前記駆動機構は、前記面に対する垂線である第1の直線と、当該第1の直線と前記面の交点を通過すると共に、前記テーブルの移動方向と平行な第2の直線をその面内に含む平面内であって、当該第2の直線に交差する第3の直線の方向に伸縮する第1の素子と、
前記平面内にあって、前記第1の直線を中心として、前記第3の直線に対し鏡対称な第4の直線の方向に伸縮する第2の素子と、
当該第1の素子と第2の素子の前記面側に設けられると共に、前記第1の素子と第2の素子の協働によって、前記面に押圧される押圧部とを備えたことを特徴とする試料ステージ。
【請求項15】
対象試料を所定の方向に移動するテーブルを備えた試料ステージにおいて、
前記テーブルを前記所定方向に移動するための駆動機構と、
当該駆動機構による押圧作用を受ける面を備え、
当該駆動機構は、伸縮型ピエゾ素子,せん断型ピエゾ素子、及び前記面を押圧する押圧部が、当該伸縮型ピエゾ素子の伸縮方向に沿って積層された構造を備え、前記押圧部を前記面に押圧するように前記伸縮型ピエゾ素子が動作し、前記所定方向に前記ステージを移動するように、前記せん断型ピエゾ素子が動作するように構成されていることを特徴とする試料ステージ。
【請求項1】
対象試料を所定の方向に移動するテーブルを備えた試料ステージにおいて、
前記テーブルを前記所定方向に移動するための駆動機構と、
当該駆動機構による押圧作用を受ける面を備え、
前記駆動機構は、少なくとも2つのピエゾ素子を有し、当該2つのピエゾ素子の協働によって前記テーブルを前記所定方向に移動させるように構成され、前記試料ステージの停止のときには、前記2つのピエゾ素子に印加される電圧の位相差が、抑制される方向に調整されることを特徴とする電子顕微鏡用試料ステージ。
【請求項2】
請求項1において、
前記2つのピエゾ素子は、前記押圧作用を受ける面に対して傾斜した方向に、伸縮するように配置されることを特徴とする電子顕微鏡用試料ステージ。
【請求項3】
請求項1において、
前記面に対する垂線である第1の直線と、当該第1の直線と前記面の交点を通過すると共に、前記テーブルの移動方向と平行な第2の直線をその面内に含む平面内であって、当該第2の直線に交差する第3の直線の方向に伸縮する第1のピエゾ素子と、
当該平面内にあって、前記第1の直線を中心として、前記第3の直線に対し鏡対称な第4の直線の方向に伸縮する第2のピエゾ素子と、当該第1のピエゾ素子と、第2のピエゾ素子の前記テーブル側に、当該第1のピエゾ素子と第2のピエゾ素子の協働によって、前記面に押圧される押圧部を備えたことを特徴とする電子顕微鏡用試料ステージ。
【請求項4】
請求項1において、
前記駆動機構は、前記位相差がゼロとなる時間を所定時間保つことを特徴とする電子顕微鏡用試料ステージ。
【請求項5】
対象試料を所定の方向に移動するテーブルを備えた試料ステージにおいて、
前記テーブルを前記所定方向に移動するための駆動機構と、
当該駆動機構による押圧作用を受ける面を備え、
前記駆動機構は、少なくとも2つのピエゾ素子を有し、当該2つのピエゾ素子の協働によって前記テーブルを前記所定方向に移動させるように構成され、前記試料ステージの停止のときには、前記2つのピエゾ素子に印加される電圧の位相が、所定の位相となった時点で、当該印加電圧を固定することを特徴とする電子顕微鏡用試料ステージ。
【請求項6】
請求項5において、
前記位相は、印加電圧に対する前記ピエゾ素子の変形応答が、ピエゾ素子の変形収縮点と交差する点に対応する位相であることを特徴とする電子顕微鏡用ステージ。
【請求項7】
ピエゾ素子の対を備えた超音波モータにより駆動される試料ステージと、該試料ステージを制御する制御回路を備えた電子顕微鏡であって、該制御回路は、超音波モータに備えられたピエゾ素子の対にそれぞれ印加される電圧の変動の位相差を制御する位相差発振回路と、位置決め条件成立後に該印加電圧の変動の位相差を一定時間維持した後、固定するための遅延回路およびホールド回路を備えることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項8】
上記請求項7に記載の電子顕微鏡において、該位相差発振回路の入力に加算される位相差値を、ステージ移動方向及び位置決め座標と関連付けて記憶する記憶回路を設けたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項9】
超音波モータにより駆動される試料ステージと該試料ステージを制御する制御回路を備えた電子顕微鏡であって、該制御回路は、超音波モータに備えられたピエゾ素子の対にそれぞれ印加される電圧の変動の位相差を制御する位相差発振回路と、位置決め条件成立後に該印加電圧が所定の位相に達した時点で該印加電圧を固定する同期回路およびホールド回路を備えることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項10】
上記請求項9に記載の電子顕微鏡において、該位相差発振回路の入力に加算される位相差値および該固定回路に入力する打切り位相を、ステージ移動方向及び位置決め座標と関連付けて記憶する記憶回路を設けたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項11】
超音波モータ,リニアモータ等のリニア駆動源により駆動される試料ステージを備えた電子顕微鏡であって、該試料ステージの移動ストローク内に配置された複数の座標の各点において、(1)試料ステージを位置決めする工程と、(2)位置決めにおける停止時のステージ抗力を評価する工程と、を移動軸の両方向からの位置決めについてそれぞれ行うことにより、移動ストローク内におけるステージの停止抗力分布を測定し、その結果に基づいて、ステージ位置決め時のドリフトを低減する機能を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項12】
超音波モータ,リニアモータ等のリニア駆動源により駆動される試料ステージを備えた電子顕微鏡であって、該試料ステージの移動ストローク内に配置された複数の座標の各点において、(1)試料ステージを位置決めする工程と、(2)停止後ドリフトを評価する工程と、(3)ステージ制御パラメータを補正する工程と、を繰返す方法により、移動ストローク内におけるステージの停止ドリフトを低減する機能を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項13】
上記請求項11または12に記載の電子顕微鏡において、該停止ドリフト低減機能が操作コマンドの発行により自動的に実行されることを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項14】
対象試料を所定の方向に移動するテーブルを備えた試料ステージにおいて、
前記テーブルを前記所定方向に移動するための駆動機構と、
当該駆動機構による押圧作用を受ける面を備え、
前記駆動機構は、前記面に対する垂線である第1の直線と、当該第1の直線と前記面の交点を通過すると共に、前記テーブルの移動方向と平行な第2の直線をその面内に含む平面内であって、当該第2の直線に交差する第3の直線の方向に伸縮する第1の素子と、
前記平面内にあって、前記第1の直線を中心として、前記第3の直線に対し鏡対称な第4の直線の方向に伸縮する第2の素子と、
当該第1の素子と第2の素子の前記面側に設けられると共に、前記第1の素子と第2の素子の協働によって、前記面に押圧される押圧部とを備えたことを特徴とする試料ステージ。
【請求項15】
対象試料を所定の方向に移動するテーブルを備えた試料ステージにおいて、
前記テーブルを前記所定方向に移動するための駆動機構と、
当該駆動機構による押圧作用を受ける面を備え、
当該駆動機構は、伸縮型ピエゾ素子,せん断型ピエゾ素子、及び前記面を押圧する押圧部が、当該伸縮型ピエゾ素子の伸縮方向に沿って積層された構造を備え、前記押圧部を前記面に押圧するように前記伸縮型ピエゾ素子が動作し、前記所定方向に前記ステージを移動するように、前記せん断型ピエゾ素子が動作するように構成されていることを特徴とする試料ステージ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−224234(P2009−224234A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68660(P2008−68660)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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