説明

スナバ回路

【課題】実装密度の高い電力変換装置に組み込んだ場合でも、スイッチング素子の転流時における急峻な短絡電流を効果的に抑制でき、しかも低損失なスナバ回路を提供する。
【解決手段】スイッチング素子S1のターンオフ時に、スナバコンデンサC1に電荷を蓄えて、スイッチング素子S1の両端間に発生するサージ電圧を抑制すると共に、スイッチング素子S1がターンオンした瞬間の急峻な短絡電流を、従来のような配線インダクタンスLs12を考慮することなく、インダクタンス素子Ls1により効果的に抑制することができる。また、スナバコンデンサC1,インダクタンス素子Ls1,およびスナバ抵抗R1からなる直流電圧の両端間電圧が、直流電源Eによって一定の値に保たれており、スナバコンデンサC1の両端間電圧が0Vになるまで放電せず、インダクタンス素子Lsひいてはスナバ回路22としての損失が小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子の電圧破壊を防止するためのスナバ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スイッチング電源装置に組み込まれるトランジスタやFETなどの半導体スイッチング素子は、オフ状態からオン状態に移行するターンオン時、およびオン状態からオフ状態に移行するターンオフ時に、当該スイッチング素子に加わる過渡電圧を低減して、スイッチング素子の電圧破壊を防止するために、抵抗,コンデンサ,ダイオードの各素子を組み合わせてなるスナバ回路が付加される。
【0003】
図7は、特許文献1で提案されたスナバ回路の一例を示すものである。同図において、Eは直流電源、S1,S2はスイッチング回路1をなす直列接続されたスイッチング素子であり、これはスイッチング素子S1,S2の接続点に接続したインダクタンスL1と共に、スイッチング電源装置のインバータ回路を構成している。また、各スイッチング素子S1,S2のドレイン・ソース間には、帰還ダイオードD1,D2がそれぞれ逆並列接続される。スイッチング素子S1,S2の直列回路は、直流電源Eの両端間に接続され、直流電源Eの正極端子にコレクタを接続するハイサイドのスイッチング素子S1と、直流電源Eの負極端子にエミッタを接続するローサイドのスイッチング素子S2が、制御回路(図示せず)からの駆動信号により、交互にオン,オフするように構成される。
【0004】
2はスイッチング素子S1に適用されたスナバ回路であり、このスナバ回路2は、スイッチング素子S1のコレクタ・エミッタ間に、スナバコンデンサC1とスナバダイオードD3を順に直列に接続し、当該スナバコンデンサC1とスナバダイオードD3の接続点と、前記直流電源Eの負極端子との間にスナバ抵抗R1を接続して構成される。またここでは、直流電源Eとスイッチング回路2との間の配線路中に、所定の配線インダクタンスLs11,Ls12が存在するように構成する。この配線インダクタンスLs11,Ls12は、後述するようにスナバコンデンサC1の放電電流ピークを抑制するために、意図的に形成される。
【0005】
そしてこの場合は、ハイサイドのスイッチング素子S1がオン状態となる一方、ローサイドのスイッチング素子S2がオフ状態となっているときに、インダクタンスL1を通して負荷(図示せず)側に電力を伝送し、ハイサイドのスイッチング素子S1がオフ状態となる一方、ローサイドのスイッチング素子S2がオン状態となっているときに、それまでインダクタンスL1に蓄えられていたエネルギーを、引き続き負荷側に供給することができる。
【0006】
また、スイッチング素子S1,S2が交互にオン,オフを繰り返す一連の動作中において、スイッチング素子S1がターンオフした瞬間に、スナバダイオードD3が導通してスナバコンデンサC1が充電され、スイッチング素子S1の両端であるエミッタ・コレクタ間に過大な電圧が印加するのを防止する。その後、スイッチング素子S1がターンオンすると、その瞬間に当該スイッチング素子S1と、スイッチング素子S2のエミッタ・コレクタ間における寄生容量によって、スナバコンデンサC1→スイッチング素子S1,S2→配線インダクタンスLs12→スナバ抵抗R1→スナバコンデンサC1の経路で短絡電流が流れる。このときの放電電流は、スイッチング素子S2から直流電源Eに至る配線路中の配線インダクタンスLs1を通ることにより、その急峻なピークを効果的に抑制することができる。またその後、スイッチング素子S1,S2の短絡状態が解消すると、スナバコンデンサC1→配線インダクタンスLs11→直流電源E→スナバ抵抗R1→スナバコンデンサC1の経路で、スナバコンデンサC1の蓄えられた電荷を放電する放電電流が流れる。
【0007】
一方、前述のような配線インダクタンスLs1を利用しない別な回路例を、図8に示す。この図8の回路図は、特許文献2に提案されたものである。
【0008】
同図において、ここに示すスイッチング素子S1に適用したスナバ回路12は、スイッチング素子S1のコレクタ・エミッタ間に、スナバダイオードD3とスナバコンデンサC1を順に直列に接続すると共に、この、スナバダイオードD3とスナバコンデンサC1の接続点と、直流電源E1の正極端子に繋がるスイッチング素子S1の一端すなわちコレクタとの間に、スナバ抵抗R1とインダクタンス素子Ls2を接続した点が、前記図7に示すスナバ回路2と相違する。それ以外の構成は、図7に示すものと共通している。
【0009】
そしてこの回路例では、スイッチング素子S1がターンオフした瞬間に、スナバダイオードD3が導通してスナバコンデンサC1が充電され、スイッチング素子S1の両端であるエミッタ・コレクタ間に過大な電圧が印加するのを防止する。その後、スイッチング素子S1がターンオンすると、インダクタンス素子Ls2と、スナバ抵抗R1と、スナバコンデンサC1と、スイッチング素子S1とによる閉回路が形成され、スナバコンデンサC1に蓄えられていた電荷が抵抗R1で放電すると共に、このときの放電電流がインダクタンス素子Ls2を通ることで、放電電流の変化速度を効果的に抑制できる。
【特許文献1】特開2004−88941号公報
【特許文献2】特開平5−161253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述した従来のスナバ回路2,12では、次のような問題点を生じる。
【0011】
図7に示すスナバ回路2は、電力伝送用の主回路の配線インダクタンスLs1を利用して、スイッチング素子S1の転流(ターンオン)時における急峻な短絡電流の抑制を図っている。しかし、これは大容量で大形の電力変換装置であれば、配線インダクタンスLs1が大きいためその効果もある程度は期待できるが、小型で且つ高電力のパワーモジュールのような実装密度の高い電力変換装置の場合は、配線インダクタンスLs1を極めて小さく設計しなければならず、配線インダクタンスLs1による効果は期待できない。
【0012】
また、別な図8に示すスナバ回路12は、設計的に主回路の配線インダクタンスLs1が極めて小さいものであっても、スイッチング素子S1の転流時における短絡電流は発生せず、またスナバ抵抗R1と直列に接続したインダクタンス素子Ls2によって、放電電流の変化速度を抑制できる。しかし、スイッチング素子S1のオン時には、スナバコンデンサC1の両端間電圧が0Vに達するまで放電し、その放電電流がインダクタンス素子Ls2を通って流れるので、インダクタンス素子Ls2ひいてはスナバ回路12としての損失が大きくなる懸念を生じる。
【0013】
本発明は上記の各問題点に着目してなされたもので、実装密度の高い電力変換装置に組み込んだ場合であっても、スイッチング素子の転流時における急峻な短絡電流を効果的に抑制でき、しかも低損失なスナバ回路を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明における請求項1のスナバ回路は、上記目的を達成するために、直流電源からの直流電圧が断続的に印加されるスイッチング素子のスナバ回路において、前記スイッチング素子の両端間にスナバコンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、前記スナバコンデンサ,放電電流抑制用のインダクタンス素子および放電抵抗からなる直列回路を、前記直流電源の両端間に接続したものである。
【0015】
また、請求項2のスナバ回路は、上記目的を達成するために、直流電源からの直流電圧が断続的に印加されるスイッチング素子のスナバ回路において、前記スイッチング素子の両端間にスナバコンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、前記直流電源の一端にカレントトランスを接続し、前記スナバコンデンサと放電抵抗からなる直列回路を、前記直流電源の一端と他端との間に接続したものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、スイッチング素子のターンオフ時に、スナバコンデンサに電荷を蓄えて、スイッチング素子の両端間に発生するサージ電圧を抑制すると共に、スイッチング素子がターンオンした瞬間の急峻な短絡電流を、従来のような配線インダクタンスを考慮することなく、インダクタンス素子により効果的に抑制することができる。またスナバコンデンサ,インダクタンス素子,および放電抵抗からなる直流電圧の両端間電圧が、直流電源によって一定の値に保たれているので、スナバコンデンサの両端間電圧が0Vになるまで放電せず、インダクタンス素子ひいてはスナバ回路としての損失が小さくなる。
【0017】
請求項2の発明によれば、スイッチング素子のターンオフ時に、スナバコンデンサC1に電荷を蓄えて、スイッチング素子の両端間に発生するサージ電圧を抑制すると共に、スイッチング素子がターンオンした瞬間の急峻な短絡電流を、従来のような配線インダクタンスを考慮することなく、カレントトランスにより効果的に抑制することができる。またスナバコンデンサおよび放電抵抗からなる直流電圧の両端間電圧が、直流電源によって一定の値に保たれているので、スナバコンデンサの両端間電圧が0Vになるまで放電せず、カレントトランスひいてはスナバ回路としての損失が小さくなる。さらに、カレントトランスは本来電流検出用などに用いる部品であるため、わざわざ専用のインダクタンス素子を組み込む必要がなく、回路構成の簡素化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明におけるスナバ回路の好ましい一実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、従来の図7や図8と共通する回路や素子には共通の符号を付し、共通する箇所の説明は重複を避けるために極力省略する。
【0019】
図1は、第1実施例における回路図を示したものである。本実施例におけるスナバ回路22は、例えばパワーモジュールのような高密度実装の電力変換装置(すなわち、スイッチング電源装置)に組み込まれるもので、前述のように直流電源Eとスイッチング回路1との間に、図7に示すような不必要な配線インダクタンスLs1が極力存在しないように、直流電源Eからスイッチング回路1に至る配線路が最短に形成される。また、スイッチング回路1の構成として、本実施例は同一特性のスイッチング素子S1,S2を直列接続したものを用いているが、これは例えばフルブリッジ型のコンバータのように、4個のスイッチング素子で構成してもよく、ハイサイドのスイッチング素子S1とローサイドのスイッチング素子S2が直列に接続されていれば、どのようなものであっても構わない。図1に示す直流電源E,スイッチング回路1,インダクタンスL1は、従来例で示したものと全く同じ回路構成であり、ハイサイドのスイッチング素子S1とローサイドのスイッチング素子S2は、制御回路(図示せず)からの駆動信号により、交互にオン,オフ動作するようになっている。
【0020】
図1に示すスナバ回路22は、ハイサイドのスイッチング素子S1に適用されたものである。具体的には、スイッチング素子S1のコレクタ・エミッタ間に、スナバコンデンサC1とスナバダイオードD3を順に接続し、このスナバコンデンサC1とスナバダイオードD3との間の接続点と、直流電源Eの負極端子との間に、インダクタンス素子Lsとスナバ抵抗R1が順に直列に接続される。これにより、スイッチング素子S1のターンオン時にスナバコンデンサC1からの短絡電流と放電電流が流れ、スナバコンデンサC1,インダクタンス素子Ls,およびスナバ抵抗R1からなる直列回路が、直流電源Eの両端間に接続される。
【0021】
前記インダクタンス素子Lsは、配線路のインダクタンス成分を利用したものではなく、外付けのチップビーズ部品で構成される。このようなチップビーズは、図示しないプリント基板の表面にスルーホールなどを設けることなく実装でき、電力変換装置の高密度実装に適している。また、スナバ回路22を構成するその他の素子も、電力変換装置の高密度実装を目的として、好ましくは何れもチップ部品で構成される。なお、図1に示すスナバ回路22では、インダクタンス素子Lsの位置にスナバ抵抗R1を接続し、スナバ抵抗R1の位置にインダクタンス素子Lsを接続してもよい。
【0022】
次に、上記構成についてその作用を説明する。電力変換装置の主回路における動作は従来例と同じであり、ハイサイドのスイッチング素子S1がオン状態となる一方、ローサイドのスイッチング素子S2がオフ状態となっているときに、インダクタンスL1を通して負荷(図示せず)側に電力を伝送し、ハイサイドのスイッチング素子S1がオフ状態となる一方、ローサイドのスイッチング素子S2がオン状態となっているときに、それまでインダクタンスL1に蓄えられていたエネルギーを、引き続き負荷に供給する。
【0023】
また、スナバ回路22の動作として、スイッチング素子S1がターンオフした瞬間に、スナバダイオードD3が導通してスナバコンデンサC1が充電され、スイッチング素子S1の両端であるエミッタ・コレクタ間に過大な電圧が印加するのを防止する。その後、スイッチング素子S1がターンオンすると、その瞬間に当該スイッチング素子S1と、スイッチング素子S2のエミッタ・コレクタ間における寄生容量によって、スイッチング素子S1のみならずスイッチング素子S2も短絡状態となり、スナバコンデンサC1→スイッチング素子S1,S2→スナバ抵抗R1→インダクタンス素子Ls→スナバコンデンサC1の経路で短絡電流が流れる。このときのインダクタンス素子Lsは、時間の短い急峻な短絡電流に対して、そのインピーダンスが大きくなるように設定されており、当該短絡電流を効果的に抑制して、スナバ抵抗R1の損失を低減することができる。
【0024】
またその後、スイッチング素子S1,S2の短絡状態が解消すると、スナバコンデンサC1→直流電源E→スナバ抵抗R1→インダクタンス素子Ls→スナバコンデンサC1の経路で、スナバコンデンサC1の蓄えられた電荷を放電する放電電流が流れるが、このときのインダクタンス素子Lsのインピーダンスは、時間の長い放電電流に対しては小さく、放電に影響を与えることはない。しかも、スナバコンデンサC1,インダクタンス素子Ls,およびスナバ抵抗R1の直列回路は、その両端間電圧が直流電源Eからの直流電圧に維持されているので、スナバコンデンサC1の両端間は0Vになるまで放電せず、インダクタンス素子Lsひいてはスナバ回路22としての損失が小さくなる。さらに、こうしたスナバ回路22の効果は、図7に示すような主回路の配線インダクタンスLs11,Ls12の影響を受けないため、直流電源Eとスイッチング回路1との配線ループを最短に設計できる。
【0025】
このように本実施例では、直流電源Eからの直流電圧が断続的に印加されるスイッチング素子S1のスナバ回路22において、このスナバ回路22は、例えばハイサイドのスイッチング素子S1の両端間にスナバコンデンサC1とスナバダイオードとしてのダイオードD3との直列回路を接続し、このスナバコンデンサC1,放電電流抑制用のインダクタンス素子Ls1および放電抵抗であるスナバ抵抗R1からなる直列回路を、直流電源Eの両端間に接続している。
【0026】
こうすると、スイッチング素子S1のターンオフ時に、スナバコンデンサC1に電荷を蓄えて、スイッチング素子S1の両端間に発生するサージ電圧を抑制すると共に、スイッチング素子S1がターンオンした瞬間の急峻な短絡電流を、従来のような配線インダクタンスLs12を考慮することなく、インダクタンス素子Ls1により効果的に抑制することができる。またスナバコンデンサC1,インダクタンス素子Ls1,およびスナバ抵抗R1からなる直流電圧の両端間電圧が、直流電源によって一定の値に保たれているので、スナバコンデンサC1の両端間電圧が0Vになるまで放電せず、インダクタンス素子Lsひいてはスナバ回路22としての損失が小さくなる。こうして、本実施例のスナバ回路22は、実装密度の高い電力変換装置に組み込んだ場合であっても、スイッチング素子S1の転流時における急峻な短絡電流を効果的に抑制でき、また少ない損失とすることができる。
【0027】
図5と図6は、図1の回路図において、インダクタンス素子Ls1を介在させない場合と、図1の回路図そのもののインダクタンス素子Ls1を介在させた場合の、スナバ抵抗R1の両端間電圧をそれぞれ測定したものである。これらの各図において、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示しているが、インダクタンス素子Ls1を介在させた場合には、短絡電流のピーク値が小さくなっており、その効果が明確に現れていることがわかる。なお、図5の場合におけるスナバ回路22の損失は、1.19Wであるのに対し、図6の場合におけるスナバ回路22の損失は0.34Wに改善された。
【0028】
図2は、ローサイドのスイッチング素子S2に適用した別な第2実施例のスナバ回路32である。ここでのスナバ回路32は、スイッチング素子S2のコレクタ・エミッタ間に、スナバダイオードD3とスナバコンデンサC1を順に接続し、このスナバダイオードD3とスナバコンデンサC1との間の接続点と、直流電源Eの正極端子との間に、インダクタンス素子Lsとスナバ抵抗R1が順に直列に接続される。そしてこの場合も、スイッチング素子S2のターンオン時にスナバコンデンサC1からの短絡電流と放電電流が流れ、スナバコンデンサC1,インダクタンス素子Ls,およびスナバ抵抗R1からなる直列回路が、直流電源Eの両端間に接続される。インダクタンス素子Lsが外付けのチップビーズ部品であることは、図1の第1実施例と同じである。
【0029】
そして、ここでのスナバ回路32は、スイッチング素子S2がターンオフした瞬間に、スナバダイオードD3が導通してスナバコンデンサC1が充電され、スイッチング素子S2の両端であるエミッタ・コレクタ間に過大な電圧が印加するのを防止する。その後、スイッチング素子S2がターンオンすると、その瞬間に当該スイッチング素子S2と、スイッチング素子S1のエミッタ・コレクタ間における寄生容量によって、スイッチング素子S2のみならずスイッチング素子S1も短絡状態となり、スナバコンデンサC1→インダクタンス素子Ls→スナバ抵抗R1→スイッチング素子S1,S2→スナバコンデンサC1の経路で短絡電流が流れる。このときのインダクタンス素子Lsは、時間の短い急峻な短絡電流に対して、そのインピーダンスが大きくなるように設定されており、当該短絡電流を効果的に抑制して、スナバ抵抗R1の損失を低減することができる。
【0030】
またその後、スイッチング素子S1,S2の短絡状態が解消すると、スナバコンデンサC1→インダクタンス素子Ls→スナバ抵抗R1→直流電源E→スナバコンデンサC1の経路で、スナバコンデンサC1の蓄えられた電荷を放電する放電電流が流れるが、このときのインダクタンス素子Lsのインピーダンスは、時間の長い放電電流に対しては小さく、放電に影響を与えることはない。しかも、スナバコンデンサC1,インダクタンス素子Ls,およびスナバ抵抗R1の直列回路は、その両端間電圧が直流電源Eからの直流電圧に維持されているので、スナバコンデンサC1の両端間は0Vになるまで放電せず、インダクタンス素子Lsひいてはスナバ回路32としての損失が小さくなる。さらに、こうしたスナバ回路32の効果は、図7に示すような主回路の配線インダクタンスLs11,Ls12の影響を受けないため、直流電源Eとスイッチング回路1との配線ループを最短に設計できる。
【0031】
このように本実施例では、直流電源Eからの直流電圧が断続的に印加されるスイッチング素子S2のスナバ回路32において、このスナバ回路32は、スイッチング素子S2の両端間にスナバコンデンサC1とダイオードD3との直列回路を接続し、このスナバコンデンサC1,インダクタンス素子Ls1およびスナバ抵抗R1からなる直列回路を、直流電源Eの両端間に接続しているので、第1実施例と同様の作用効果を発揮できる。
【0032】
図3は、ハイサイドのスイッチング素子S1に適用した別な第3実施例のスナバ回路42である。ここでのスナバ回路42の特徴は、図1に示すインダクタンス素子Lsに代わって、同様の機能を発揮するカレントトランスCTのインダクタンスを利用していることにある。このカレントトランスCTは、本来電力変換装置の負荷電流検出器として、直流電源Eの一端である負極端子から負荷に至る電力供給ラインに挿入接続されたものである。またここでも、スナバコンデンサC1とスナバ抵抗R1との直列回路は、直流電源Eの両端間に接続される。なお、その他の構成は、図1に示す回路図と共通している。
【0033】
ここでのスナバ回路42は、スイッチング素子S1がターンオフした瞬間に、スナバダイオードD3が導通してスナバコンデンサC1が充電され、スイッチング素子S1の両端であるエミッタ・コレクタ間に過大な電圧が印加するのを防止する。その後、スイッチング素子S1がターンオンすると、その瞬間に当該スイッチング素子S1と、スイッチング素子S2のエミッタ・コレクタ間における寄生容量によって、スイッチング素子S1のみならずスイッチング素子S2も短絡状態となり、スナバコンデンサC1→スイッチング素子S1,S2→カレントトランスCT→スナバ抵抗R1→スナバコンデンサC1の経路で短絡電流が流れる。このときのカレントトランスCTは、時間の短い急峻な短絡電流に対して、そのインピーダンスが大きくなるように設定されており、当該短絡電流を効果的に抑制して、スナバ抵抗R1の損失を低減することができる。
【0034】
またその後、スイッチング素子S1,S2の短絡状態が解消すると、スナバコンデンサC1→直流電源E→スナバ抵抗R1→スナバコンデンサC1の経路で、スナバコンデンサC1の蓄えられた電荷を放電する放電電流が流れるが、このときカレントトランスCTには放電電流が流れることはなく、カレントトランスCTが放電に影響を与えることはない。しかも、スナバコンデンサC1およびスナバ抵抗R1の直列回路は、その両端間電圧が直流電源Eからの直流電圧に維持されているので、スナバコンデンサC1の両端間は0Vになるまで放電せず、スナバ回路42としての損失が小さくなる。さらに、こうしたスナバ回路42の効果は、図7に示すような主回路の配線インダクタンスLs11,Ls12の影響を受けないため、直流電源Eとスイッチング回路1との配線ループを最短に設計できる。
【0035】
このように本実施例では、直流電源Eからの直流電圧が断続的に印加されるスイッチング素子S1のスナバ回路42において、このスナバ回路42は、例えばハイサイドのスイッチング素子S1の両端間にスナバコンデンサC1とスナバダイオードとしてのダイオードD3との直列回路を接続し、直流電源Eの一端にカレントトランスCTを接続し、スナバコンデンサC1とスナバ抵抗R1からなる直列回路を、直流電源Eの一端と他端との間に接続している。
【0036】
こうすると、スイッチング素子S1のターンオフ時に、スナバコンデンサC1に電荷を蓄えて、スイッチング素子S1の両端間に発生するサージ電圧を抑制すると共に、スイッチング素子S1がターンオンした瞬間の急峻な短絡電流を、従来のような配線インダクタンスLs12を考慮することなく、カレントトランスCTにより効果的に抑制することができる。またスナバコンデンサC1およびスナバ抵抗R1からなる直流電圧の両端間電圧が、直流電源によって一定の値に保たれているので、スナバコンデンサC1の両端間電圧が0Vになるまで放電せず、カレントトランスCTひいてはスナバ回路42としての損失が小さくなる。こうして、本実施例のスナバ回路42は、実装密度の高い電力変換装置に組み込んだ場合であっても、スイッチング素子S1の転流時における急峻な短絡電流を効果的に抑制でき、また少ない損失とすることができる。
【0037】
さらに、カレントトランスCTは本来電流検出用などに用いる部品であるため、わざわざ専用のインダクタンス素子を組み込む必要がなく、回路構成の簡素化を実現できる。
【0038】
図4は、ローサイドのスイッチング素子S2に適用した別な第4実施例のスナバ回路52である。ここでのスナバ回路52の特徴は、第3実施例と同様にカレントトランスCTのインダクタンスを利用している。このカレントトランスCTは、本来電力変換装置の負荷電流検出器として、直流電源Eの他端である正極端子から負荷に至る電力供給ラインに挿入接続され、スナバコンデンサC1とスナバ抵抗R1との直列回路が、直流電源Eの両端間に接続される。なお、その他の構成は、図2に示す回路図と共通している。
【0039】
ここでのスナバ回路52は、スイッチング素子S2がターンオフした瞬間に、スナバダイオードD3が導通してスナバコンデンサC1が充電され、スイッチング素子S1の両端であるエミッタ・コレクタ間に過大な電圧が印加するのを防止する。その後、スイッチング素子S2がターンオンすると、その瞬間に当該スイッチング素子S2と、スイッチング素子S1のエミッタ・コレクタ間における寄生容量によって、スイッチング素子S2のみならずスイッチング素子S1も短絡状態となり、スナバコンデンサC1→スナバ抵抗R1→カレントトランスCT→スイッチング素子S1,S2→スナバコンデンサC1の経路で短絡電流が流れる。このときのカレントトランスCTは、時間の短い急峻な短絡電流に対して、そのインピーダンスが大きくなるように設定されており、当該短絡電流を効果的に抑制して、スナバ抵抗R1の損失を低減することができる。
【0040】
またその後、スイッチング素子S1,S2の短絡状態が解消すると、スナバコンデンサC1→スナバ抵抗R1→直流電源E→スナバコンデンサC1の経路で、スナバコンデンサC1の蓄えられた電荷を放電する放電電流が流れるが、このときカレントトランスCTには放電電流が流れることはなく、カレントトランスCTが放電に影響を与えることはない。しかも、スナバコンデンサC1およびスナバ抵抗R1の直列回路は、その両端間電圧が直流電源Eからの直流電圧に維持されているので、スナバコンデンサC1の両端間は0Vになるまで放電せず、スナバ回路52としての損失が小さくなる。さらに、こうしたスナバ回路52の効果は、図7に示すような主回路の配線インダクタンスLs11,Ls12の影響を受けないため、直流電源Eとスイッチング回路1との配線ループを最短に設計できる。
【0041】
このように本実施例では、直流電源Eからの直流電圧が断続的に印加されるスイッチング素子S1のスナバ回路52において、このスナバ回路52は、例えばローサイドのスイッチング素子Swの両端間にダイオードD3とスナバコンデンサC1との直列回路を接続し、直流電源Eの他端である正極端子にカレントトランスCTを接続し、スナバコンデンサC1とスナバ抵抗R1からなる直列回路を、直流電源Eの一端と他端との間に接続している。
【0042】
こうすると、スイッチング素子S2のターンオフ時に、スナバコンデンサC1に電荷を蓄えて、スイッチング素子S2の両端間に発生するサージ電圧を抑制すると共に、スイッチング素子S2がターンオンした瞬間の急峻な短絡電流を、従来のような配線インダクタンスLs12を考慮することなく、カレントトランスCTにより効果的に抑制することができる。またスナバコンデンサC1およびスナバ抵抗R1からなる直流電圧の両端間電圧が、直流電源によって一定の値に保たれているので、スナバコンデンサC1の両端間電圧が0Vになるまで放電せず、カレントトランスCTひいてはスナバ回路52としての損失が小さくなる。こうして、本実施例のスナバ回路52は、実装密度の高い電力変換装置に組み込んだ場合であっても、スイッチング素子S2の転流時における急峻な短絡電流を効果的に抑制でき、また少ない損失とすることができる。
【0043】
さらに、カレントトランスCTは本来電流検出用などに用いる部品であるため、わざわざ専用のインダクタンス素子を組み込む必要がなく、回路構成の簡素化を実現できる。
【0044】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲において種々の変形実施が可能である。例えば、上記第1実施例または第3実施例に示すようなハイサイドのスイッチング素子S1に適用したスナバ回路22,42と、第2実施例または第4実施例に示すようなローサイドのスイッチング素子S2に適用したスナバ回路32,52とを組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施例における電力変換装置の要部回路図である。
【図2】本発明の第2実施例における電力変換装置の要部回路図である。
【図3】本発明の第3実施例における電力変換装置の要部回路図である。
【図4】本発明の第4実施例における電力変換装置の要部回路図である。
【図5】図1に示す回路図で、インダクタンス素子Lsを設けていない場合のスナバ抵抗R1に発生する電圧波形図である。
【図6】図1に示す回路図のスナバ抵抗R1に発生する電圧波形図である。
【図7】従来例における電力変換装置の要部回路図である。
【図8】従来の別な例における電力変換装置の要部回路図である。
【符号の説明】
【0046】
E 直流電源
S1,S2 スイッチング素子
C1 スナバコンデンサ
CT カレントトランス
D3 ダイオード(スナバダイオード)
L1 インダクタンス素子
R1 スナバ抵抗(放電抵抗)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源からの直流電圧が断続的に印加されるスイッチング素子のスナバ回路において、
前記スイッチング素子の両端間にスナバコンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、
前記スナバコンデンサ,放電電流抑制用のインダクタンス素子および放電抵抗からなる直列回路を、前記直流電源の両端間に接続したことを特徴とするスナバ回路。
【請求項2】
直流電源からの直流電圧が断続的に印加されるスイッチング素子のスナバ回路において、
前記スイッチング素子の両端間にスナバコンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、
前記直流電源の一端にカレントトランスを接続し、
前記スナバコンデンサと放電抵抗からなる直列回路を、前記直流電源の一端と他端との間に接続したことを特徴とするスナバ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−206282(P2008−206282A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38835(P2007−38835)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(390013723)デンセイ・ラムダ株式会社 (272)
【Fターム(参考)】