説明

スパッタリング装置およびスパッタリング方法並びに成膜システム

【課題】単一のスパッタリングチャンバを用いて基板に形成された開口部内へのAl材料の埋め込みを適切に行えるスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】スパッタリング装置100は、スパッタリングチャンバ30と、カソードユニット41およびアノードA間の放電によりプラズマを形成可能なプラズマガン40と、プラズマガン40から放出されたプラズマ22を磁界の作用によりシート状に変形可能な磁界発生手段24A、24Bと、を備える。シートプラズマ27は、スパッタリングチャンバ30内の基板34BとAlターゲット35Bとの間を通過するように誘導され、シートプラズマ27中の荷電粒子によってAlターゲット35BからスパッタリングされたAl材料が基板34Bの開口部に堆積する際に、Al堆積膜200のカバレッジ性が、プラズマ放電電流ID、ターゲットバイアス電圧VB、および、ターゲット−基板間距離Lに基づいて調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置およびスパッタリング方法並びに成膜システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高集積化と高速化を図るうえで、高密度な多層配線技術が必須である。例えば、多機能な高速ロジックLSIでは、配線の高密度化に加えて多層化が必要となり、半導体基板の開口部(例えば、コンタクトホール、ビアホール、溝など)の高アスペクト化および微細化が求められている。
【0003】
このような開口部の高アスペクト化および微細化に伴い、開口部に配線用の金属材料(例えば、アルミニウム(Al)材料)を、スパッタリング技術を用いて堆積させるだけでは、様々な不都合が生じると考えられている。
【0004】
具体的には、開口部のアスペクト比(=開口部の深さ/開口部の径(溝の場合は幅))が1を越えて大きくなると、金属材料からなる堆積膜のカバレッジ性の劣化が顕著になることが知られている。なお、堆積膜のカバレッジ性は、通常、ホール(或いは溝)の上部と底部での堆積膜の厚みの比率を用いて表すことができる。
【0005】
よって、最近では、開口部に金属材料を積極的に埋め込むことにより、金属材料からなる堆積膜のカバレッジ性を改善する試みが活発に行われている。
【0006】
例えば、スパッタリングチャンバを用いて半導体基板の全面にAl材料のスパッタリング堆積を行い、その後、リフローチャンバを用いて堆積膜を加熱および溶融させる技術(以下、「リフロースパッタ技術」と略す)がある(例えば、特許文献1、2参照)。これにより、基板の開口部にAl材料を適切に埋め込むことができるとされている。
【0007】
また、ターゲットおよび基板間の距離を長めに取ることによって、リフロー工程を用いずに、コンタクトホールに銅(Cu)材料を適切に充填(埋め込み)可能なスパッタリング技術(以下、「ロングスパッタ技術」と略す)がすでに提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−161661号公報
【特許文献2】特開2001−358091号公報
【特許文献3】特開2004−6942号公報(段落0041、0042)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本件発明者等は、シートプラズマ方式のスパッタリング装置を用いたAl材料の開口部埋め込み技術の開発を行っている。特に、従来のリフロースパッタ技術では、リフローチャンバの使用を前提としている点で様々な不都合があり(例えば、コストアップ)、未だ改善の余地があると考えている。
【0010】
そして、以上の技術開発の過程において、スパッタリング装置のスパッタ条件の最適な抽出によってリフロー工程を省略できることに気がついた。つまり、Al材料の開口部への堆積が行われるスパッタリングチャンバ内おいて、上記リフロースパッタ技術と同等の、Al材料の開口部埋め込み効果を発揮できるスパッタ条件を見出すことに成功した。なお、このようなスパッタ条件の詳細は後述する。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、単一のスパッタリングチャンバを用いて、基板に形成された開口部内へのAl材料の埋め込みを適切に行えるスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、このようなAl材料の開口部埋め込みを適切に行えるスパッタリング方法を提供することも目的とする。
【0013】
更に、本発明は、以上のスパッタリング装置が適用された成膜システムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、開口部が形成された基板を格納可能なスパッタリングチャンバと、カソードユニットおよびアノード間の放電により、プラズマを形成可能なプラズマガンと、前記プラズマガンから放出されたプラズマを磁界の作用によりシート状に変形可能な磁界発生手段と、を備え、
前記シート状のプラズマ(シートプラズマという)は、前記スパッタリングチャンバ内の前記基板とアルミニウムからなるターゲットとの間を通過するように誘導され、前記シートプラズマ中の荷電粒子によって前記ターゲットからスパッタリングされたアルミニウム材料が前記基板の開口部に堆積する際に、前記アルミニウム材料からなる堆積膜のカバレッジ性が、前記シートプラズマの放電電流、前記ターゲットのバイアス電圧、および、前記ターゲットと前記基板との間の距離、に基づいて調整されているスパッタリング装置を提供する。
【0015】
以上の構成により、本発明のスパッタリング装置では、単一のスパッタリングチャンバを用いて、基板に形成された開口部内へのAl材料の埋め込みを適切に行える。特に、高アスペクト比(例えば、アスペクト比が4以上)の開口部においても、Al材料の埋め込みを適切に行える。つまり、Al材料の開口部への堆積が行われるスパッタリングチャンバ内おいて、従来のリフロースパッタ技術と同等の、Al材料の開口部埋め込み効果を発揮できる。
【0016】
よって、本発明のスパッタリング装置は、リフローチャンバを設置しなくて済むという点で、従来のリフロースパッタ技術が適用されたスパッタリング装置と比べて有利な効果を奏する。
【0017】
また、本実施形態のスパッタリング装置では、基板にバイアス電圧を印加する必要が無い。更に、基板の加熱に、シートプラズマの輻射熱を利用しているので、基板ホルダをヒータなどで高温にする必要もない。よって、スパッタリング装置を簡易に構成できる。
【0018】
また、本実施形態のスパッタリング装置では、基板の温度を適温に維持できるので、バリア膜のバリア性の劣化を抑制できて基板内へのAl拡散が生じ難い。
【0019】
また、本発明のスパッタリング装置は、前記シートプラズマの放電電流の調整に用いるプラズマガン電源と、前記ターゲットのバイアス電圧の調整に用いるバイアス電源と、前記ターゲットと前記基板との間の距離の調整に用いるアクチュエータと、を備えてもよい。
【0020】
また、本発明のスパッタリング装置では、前記堆積膜の堆積レートが、前記ターゲットのバイアス電圧によって制御され、前記基板の温度(換言すると、その昇温速度)が、前記堆積レートに適合するよう、前記シートプラズマの放電電流、および、前記ターゲットと前記基板との間の距離のうちの少なくとも一方によって制御されてもよい。
【0021】
本発明は、プラズマガンから放出されたプラズマを磁界の作用によりシート状のプラズマ(シートプラズマという)に変形させて、前記シートプラズマを、スパッタリングチャンバ内の基板とアルミニウムからなるターゲットとの間を通過するよう誘導するシートプラズマ形成工程と、
前記シートプラズマ中の荷電粒子によって前記ターゲットからスパッタリングされたアルミニウム材料が前記基板の開口部に堆積する際に、前記アルミニウム材料からなる堆積膜のカバレッジ性を、前記シートプラズマの放電電流、前記ターゲットのバイアス電圧、および、前記ターゲットと前記基板との間の距離、に基づいて調整する堆積膜形成工程と、を含むスパッタリング方法も提供する。
【0022】
以上により、本発明のスパッタリング方法では、単一のスパッタリングチャンバを用いて、基板に形成された開口部内へのAl材料の埋め込みを適切に行える。特に、高アスペクト比(例えば、アスペクト比が4以上)の開口部においても、Al材料の埋め込みを適切に行える。つまり、Al材料の開口部への堆積が行われるスパッタリングチャンバ内おいて、従来のリフロースパッタ技術と同等の、Al材料の開口部埋め込み効果を発揮できる。
【0023】
よって、本発明のスパッタリング方法は、リフローチャンバを設置しなくて済むという点で、従来のリフロースパッタ技術が適用されたスパッタリング方法と比べて有利な効果を奏する。
【0024】
また、本実施形態のスパッタリング方法では、基板にバイアス電圧を印加する必要が無い。更に、基板の加熱に、シートプラズマの輻射熱を利用しているので、基板ホルダをヒータなどで高温にする必要もない。よって、スパッタリング方法を簡易に動作できるという効果もある。
【0025】
また、本実施形態のスパッタリング方法では、基板の温度を適温に維持できるので、バリア膜のバリア性の劣化を抑制できて基板内へのAl拡散が生じ難い。
【0026】
また、本発明のスパッタリング方法では、前記堆積膜形成工程において、前記ターゲットのバイアス電圧によって前記堆積膜の堆積レートが制御され、前記堆積レートに適合するよう、前記基板の温度(換言すると、その昇温速度)が、前記シートプラズマの放電電流、および、前記ターゲットと前記基板との間の距離のうちの少なくとも一方によって制御されてもよい。
【0027】
また、本発明は、アルミニウム材料からなる堆積膜が基板に形成される第1成膜室と、
前記堆積膜の下地膜としてのバリア膜が前記基板に形成される第2成膜室と、
前記第1成膜室および前記第2成膜室を大気開放せずに、前記堆積膜および前記バリア膜の成膜前後において、前記基板を外部との間で出し入れ可能にする真空搬送装置と、を備え、
前記第1成膜室が、上述のスパッタリング装置によって構成されている成膜システムも提供する。
【0028】
以上の構成により、本発明の成膜システムでは、単一のスパッタリングチャンバを用いて、基板に形成された開口部内へのAl材料の埋め込みを適切に行える。特に、高アスペクト比(例えば、アスペクト比が4以上)の開口部においても、Al材料の埋め込みを適切に行える。つまり、Al材料の開口部への堆積が行われるスパッタリングチャンバ内おいて、従来のリフロースパッタ技術と同等の、Al材料の開口部埋め込み効果を発揮できる。
【0029】
よって、本発明の成膜システムは、リフローチャンバを設置しなくて済むという点で、従来のリフロースパッタ技術が適用された成膜システムと比べて有利な効果を奏する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、単一のスパッタリングチャンバを用いて、基板に形成された開口部内へのAl材料の埋め込みを適切に行えるスパッタリング装置が得られる。
【0031】
また、本発明によれば、このようなAl材料の開口部埋め込みを適切に行えるスパッタリング方法も得られる。
【0032】
更に、本発明によれば、以上のスパッタリング装置が適用された成膜システムも得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態のスパッタリング装置の一構成例を示した概略図である。
【図2】スパッタリング開始時からの半導体基板の昇温プロファイルの一例を示した図である。
【図3】図2中の各サンプリングポイントでのAl材料の溝埋め込みの様子を示した図(断面写真)である。
【図4】本発明の実施形態のスパッタリング装置を用いて、高アスペクト比の開口部にAl堆積膜を埋め込んだ様子を示した図(断面写真)である。
【図5】本発明の実施形態のスパッタリング装置が適用された枚葉式の成膜システムの一構成例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0035】
図1は、本発明の実施形態のスパッタリング装置の一構成例を示した概略図である。
【0036】
なお、ここでは、便宜上、図1に示す如く、プラズマ輸送の方向をZ方向にとり、このZ方向に直交し、かつ棒磁石24A、24B(後述)の磁化方向をY方向にとり、これらのZ方向およびY方向の両方に直交する方向をX方向にとって、本スパッタリング装置100の構成を述べる。
【0037】
本実施形態のスパッタリング装置100は、図1に示す如く、YZ平面において略十字形をなしており、放電プラズマ輸送の方向(Z方向)から見て順番に、放電プラズマを高密度に生成するプラズマガン40と、Z方向の軸を中心とした円筒状の非磁性(例えばステンレス製やガラス製)のシートプラズマ変形室20と、Y方向の軸を中心とした円筒状の非磁性(例えばステンレス製)のスパッタリングチャンバ30と、を備える。
【0038】
また、スパッタリング装置100は、図1に示す如く、プラズマガン40に放電発生用の電力を供給できるプラズマガン電源50を備える。
【0039】
なお、上述の各部40、20、30は、放電プラズマを輸送する通路を介して互いに気密状態を保って連通されている。
【0040】
まず、スパッタリング装置100のプラズマガン40およびプラズマガン電源50の構成について説明する。
【0041】
スパッタリング装置100のプラズマガン40は、図1に示すように、カソードユニット41と、一対の中間電極G、Gと、を備える。
【0042】
カソードユニット41は、耐熱ガラス製の円筒状のガラス管41Aと、円板状の蓋部材41Bとを備えており、カソードユニット41の内部は、放電空間として機能している。このガラス管41Aは、適宜の固定手段(ボルトなど;図示せず)により、中間電極Gおよび蓋部材41Bとの間で気密に配されている。このため、中間電極Gの通孔(図示せず)を介して、放電空間で生成されたプラズマをカソードユニット41から外部に引き出すことができる。
【0043】
また、蓋部材41Bには、放電誘発用の熱電子を放出可能な六ホウ化ランタン(LaB)からなるカソードCが配置されているとともに、放電により電離される放電ガスとしてのアルゴン(Ar)ガスをこの放電空間に導くことができる放電ガス供給手段(図示せず)が設けられている。
【0044】
スパッタリング装置100のプラズマガン電源50は、図1に示すように、プラズマガン40に電力を供給できる電力発生部70と、各中間電極G、Gのそれぞれに対応して配され、中間電極G、Gを流れる電流を制限する抵抗素子R、Rと、を備える。
【0045】
中間電極Gは、プラズマガン40の放電空間においてカソードCとの間で補助放電(グロー放電)を適切に維持できるよう、抵抗素子Rを介して電力発生部70と接続されている。また、中間電極Gは、プラズマガン40の放電空間においてカソードCとの間で補助放電(グロー放電)を適切に維持できるよう、抵抗素子Rを介して電力発生部70と接続されている。
【0046】
このグロー放電においては、プラズマガン40の放電空間への荷電粒子(ここでは、Arと電子)の供給が、ArのカソードCへの衝突時に起こる二次電子放出および電子によるアルゴン電離によりなされる。これにより、プラズマガン40の放電空間には、荷電粒子の集合体としての放電プラズマが形成される。その後、プラズマガン40では、カソードCの加熱で起こる熱電子放出に基づいた主放電(アーク放電)に遷移する。このように、プラズマガン40は、プラズマガン電源50に基づく低電圧かつ大電流のアーク放電により、カソードCとアノードAとの間に高密度の放電を可能にする、圧力勾配型ガンである。
【0047】
なお、ここでは、詳細な図示を省略するが、この電力発生部70の内部では、電源切り替えスイッチを用いて、カソードCとトランスとの間の接続がなされた状態と、カソードCと、定電流電源との間の接続がなされた状態と、を取り得る。
【0048】
プラズマガン40のグロー放電時には、前者の状態が取られる。この場合、トランスの一次側の端子間には、商用周波数の200Vの一次電圧が印加される。すると、トランスの二次側の端子間に所定の二次電圧が誘起され、この二次電圧が整流回路により整流された後、プラズマガン40に印加される。
【0049】
一方、プラズマガン40のアーク放電時には、後者の状態が取られる。これにより、プラズマガン40は、プラズマガン電源50(定電流電源)により定電流制御され、アノードAからカソードCに向かって流れるプラズマ放電電流(プラズマ密度)IDが一定となる。
【0050】
上述のプラズマ放電電流IDは、プラズマガン電源50を用いて適宜の値に調整できる。
【0051】
以上のようにして、Z方向の輸送中心に対して略等密度分布してなる円柱状のアーク放電プラズマ(以下、「円柱プラズマ22」という)が、プラズマガン40のZ方向の他端とシートプラズマ変形室20のZ方向の一端との間に介在する通路(図示せず)を介してシートプラズマ変形室20へ引き出される。
【0052】
次に、スパッタリング装置100のシートプラズマ変形室20の構成およびその周辺構成について述べる。
【0053】
シートプラズマ変形室20は、Z方向の軸を中心とした円柱状の減圧可能な輸送空間21を有する。
【0054】
シートプラズマ変形室20の側面周囲には、このシートプラズマ変形室20を取り囲み、円柱プラズマ22のZ方向の推進力を発揮する円形状の第1の電磁コイル23(空芯コイル)が配設されている。なお、第1の電磁コイル23の巻線には、カソードC側をS極、アノードA側をN極とする向きの電流が通電されている。
【0055】
また、この第1の電磁コイル23のZ方向の前方側(アノードAに近い側)には、X方向に延びる一対の角形の棒磁石24A、24B(永久磁石;磁界発生手段の対)が、シートプラズマ変形室20(輸送空間21)を挟むように、Y方向に所定の間隔を隔てて配設されている。また、これらの棒磁石24A、24BのN極同士が対向し合っている。
【0056】
第1の電磁コイル23により輸送空間21に形成されるコイル磁界と、棒磁石24A、24Bにより輸送空間21に形成される磁石磁界との相互作用に基づいて、円柱プラズマ22は、その輸送方向(Z方向)の輸送中心を含むXZ平面(以下、「主面S」という)に沿って拡がる、均一なシート状のプラズマ(以下、「シートプラズマ27」という)に変形される。
【0057】
このようにして、シートプラズマ27は、図1に示す如く、シートプラズマ変形室20のZ方向の他端とスパッタリングチャンバ30の側壁との間に介在する、シートプラズマ27の通過用のスリット状のボトルネック部28を介してスパッタリングチャンバ30へ引き出される。
【0058】
なお、ボトルネック部28の間隔(Y方向寸法)および厚み(Z方向寸法)並びに幅(X方向寸法)は、シートプラズマ27を適切に通過するように設計されている。
【0059】
次に、スパッタリング装置100のスパッタリングチャンバ30の構成について述べる。
【0060】
スパッタリングチャンバ30では、シートプラズマ27中のArの衝突エネルギによりターゲット35Bの材料をスパッタリング粒子として叩き出すスパッタリングプロセスが行われる。
【0061】
スパッタリングチャンバ30は、Y方向の軸を中心とした円柱状の減圧可能な成膜空間31を有し、この成膜空間31は、バルブ37により開閉可能な排気口から真空ポンプ36(例えば、ターボポンプ)により真空引きされている。これにより、当該成膜空間31はスパッタリングプロセス可能なレベルの真空度にまで速やかに減圧される。
【0062】
ここで、成膜空間31には、その機能上、上下方向(Y方向)において、ボトルネック部28の間隔に対応する水平面(XZ平面)に沿った中央空間を境にして、板状のターゲット35Bを格納するターゲット空間と、板状の基板34Bを格納する基板空間と、がある。
【0063】
つまり、ターゲット35Bは、ターゲットホルダ35Aに装着された状態において、中央空間の上方に位置するターゲット空間内に格納され、適宜のアクチュエータ(図示せず)によりターゲット空間内を上下(Y方向)に移動可能に構成されている。
【0064】
これにより、ターゲット35Bとシートプラズマ27との間の間隔L1(以下、「ターゲット−プラズマ間距離L1」)を調整できる。
【0065】
同様に、基板34Bは、基板ホルダ34Aに装着された状態において、中央空間の下方に位置する基板空間内に格納され、適宜のアクチュエータ(図示せず)により基板空間内を上下(Y方向)に移動可能に構成されている。
【0066】
これにより、基板34Bとシートプラズマ27との間の間隔L2(以下、「基板−プラズマ間距離L2」)を調整できる。
【0067】
なお、上述の中央空間は、スパッタリングチャンバ30においてシートプラズマ27の主成分を輸送させる空間である。
【0068】
このようにして、ターゲット35Bおよび基板34Bは互いに、シートプラズマ27の厚み方向(Y方向)に一定の好適な間隔L(以下、「ターゲット−基板間距離L」と略す)を隔てるようにして、このシートプラズマ27を挟み、成膜空間31内に対向して配置されている。よって、ターゲット−基板間距離Lは、上述の図示しないアクチュエータにより調整できる。
【0069】
ターゲット35Bは、直流のバイアス電源52からのターゲットバイアス電圧VB(−数百V程度の電圧)が印加されている。
【0070】
すると、シートプラズマ27中のArがターゲット35Bに向かって引き付けられ、Arとターゲット35Bとの間に生じる衝突エネルギによって、スパッタ粒子が、ターゲット35Bから基板34Bに向かって叩き出され、基板34B上にスパッタ粒子からなる堆積膜が形成される。
【0071】
上述のターゲットバイアス電圧VBはバイアス電源52を用いて適宜の値に調整できる。
【0072】
基板34Bは、図1に示すように接地状態になっている。これにより、基板34Bにバイアス電圧を印加する必要が無くなり、スパッタリング装置100を簡易に構成できる。なお、基板34Bを接地状態にすることに代えて、基板34Bを電気的に浮かせてもよい。
【0073】
次に、ボトルネック部28から見て、Z方向に対向する位置のスパッタリングチャンバ30の周辺構成を説明する。
【0074】
当該位置のスパッタリングチャンバ30の側壁にはアノードAが配置され、この側壁とアノードAとの間には、プラズマ通過用の通路29が設けられている。
【0075】
アノードAは、カソードCとの間で基準電位が与えられ、カソードCおよびアノードAの間のアーク放電によるシートプラズマ27中の荷電粒子(特に電子)を回収する役割を担っている。
【0076】
また、アノードAの裏面(カソードCに対する対向面の反対側の面)には、アノードA側をS極、大気側をN極とした永久磁石38が配置されている。このため、この永久磁石38のN極から出てS極に入るXZ平面に沿った磁力線により、アノードAに向かうシートプラズマ27の幅方向(X方向)の拡散を抑えるようにシートプラズマ27が幅方向に収束され、シートプラズマ27の荷電粒子が、アノードAに適切に回収される。
【0077】
また、円形状の第2および第3の電磁コイル32、33(空芯コイル)は、互いに対をなして、スパッタリングチャンバ30の側壁を臨むようにして成膜空間31を挟み、異極同士(ここでは、第2の電磁コイル32はN極、第3の電磁コイル33はS極)を向かい合わせて配置されている。
【0078】
第2の電磁コイル32は、棒磁石24A、24Bとスパッタリングチャンバ30との間のZ方向の適所に配置され、第3の電磁コイル33は、スパッタリングチャンバ30の側壁とアノードAとの間のZ方向の適所に配置されている。
【0079】
第2および第3の電磁コイル32、33の対により作られるコイル磁界(例えば10G〜300G程度)によれば、シートプラズマ27は、その幅方向(X方向)の拡散を適切に抑えるように整形される。
【0080】
次に、Al材料の溝埋め込みが適切に行われるスパッタリング装置100のスパッタ条件について述べる。
【0081】
なお、ここでは、高アスペクト比の開口部の一例しての溝が形成された半導体デバイス用のシリコン基板34B(以下、「半導体基板34B」と略す)に対して、アルミニウム材料(Al材料)からなるターゲット35B(以下、「Alターゲット35B」と略す)のスパッタリングによって、Al材料の溝埋め込み実験が行われた。
【0082】
実験の結果、以下の好適なスパッタ条件が設定された場合、Al材料の溝埋め込みが良好であることがわかった。
【0083】
図2は、スパッタリング開始時からの半導体基板の昇温プロファイルの一例を示した図である。図2の横軸に経過時間(秒)を取り、縦軸に基板温度(℃)を取っている。
【0084】
図2の好適なスパッタ条件として、プラズマ放電電流IDが80Aに、ターゲットバイアス電圧VBが−200Vに、およびターゲット−基板間距離Lが70mm(ターゲット−プラズマ間距離L1:30mm;基板−プラズマ間距離L2:40mm)に設定されている。
【0085】
また、図2中のP1(スパッタリング開始時からの経過時間:120秒)、P2(同経過時間:240秒)、P3(同経過時間:360秒)は、Al材料の溝埋め込みの様子を確認するためのサンプリングポイントを表している。
【0086】
図3は、図2中の各サンプリングポイントでのAl材料の溝埋め込みの様子を示した図(断面写真)である。
【0087】
なお、図3に示すように、半導体基板34Bの溝の内壁全域には、半導体基板34B内へのAl拡散防止用のチタンタングステン(TiW)からなるバリア膜300(以下、「TiWバリア膜300」と略す)が形成されている。つまり、このTiWバリア膜300は、Al材料からなる堆積膜200(以下、「Al堆積膜200」と略す)の下地膜となっている。
【0088】
なお、このような下地膜の材料として、チタンタングステン(TiW)に代えて、チタン(Ti)や窒化チタン(TiN)を用いてもよい。
【0089】
図2に示すように、スパッタリング開始時からの経過時間が長くなるほど、半導体基板34Bの温度が、約220℃から約360℃にまで上昇する。すると、図3(a)、(b)のサンプリングポイントP1、P2では、半導体基板34Bの温度の上昇(約220℃から約310℃)に連れて、図3(a)、(b)の点線に示すように、Al堆積膜200が、半導体基板34Bの溝の入口側からその底壁に向かって流れるように、溝内に埋め込まれる様子が確認できる。
【0090】
つまり、本実施形態のスパッタリング装置100では、シートプラズマ27の輻射熱をAl材料のリフローの熱源として上手く利用でき、その結果、半導体基板34Bの溝の入口付近に堆積したAl堆積膜200を、当該溝内に効率的に溶かし入れていると理解できる。
【0091】
なお、本実施形態のスパッタリング装置100では、半導体基板34Bの加熱に、シートプラズマ27の輻射熱を利用しているので、基板ホルダ34Aをヒータなどで高温にする必要がない。よって、スパッタリング装置100を簡易に構成できる。
【0092】
また、サンプリングポイントP3では、半導体基板34Bの温度は、約360℃(図2参照)にまで達しており、この場合、半導体基板34Bの溝が、Al材料によって完全に埋め込まれていることが分かる(図3(c)参照)。
【0093】
特に、本実施形態のスパッタリング装置100では、アスペクト比(=溝の深さD/溝の幅W)が4以上の開口部において、Al堆積膜200を適切に形成できている。例えば、図4に例示するように、アスペクト比(=溝の深さD=900nm/溝の幅W=200nm)が4.5の溝においても、Al堆積膜200を適切に形成できることがわかった。
【0094】
ところで、以上の温度範囲は、Al材料の融点(約660℃)が比較的低いことを利用して、半導体基板の溝やコンタクトホールなどの開口部内にAl材料を流動化させるという従来のリフロースパッタ技術によるAl材料の開口部埋め込み時の温度条件とほぼ符合している。つまり、本実施形態のスパッタリング装置100では、リフローチャンバを用いずに、Al堆積膜のリフロー性を適切に達成できると考えられる。
【0095】
本実施形態のスパッタリング装置100には、プラズマ放電電流ID、ターゲットバイアス電圧VBおよびターゲット−基板間距離Lのそれぞれを個別に制御できるという特徴がある。
【0096】
そこで、本件発明者等は、上述の実験結果を踏まえ、上記各パラメータID、VB、Lによって、Al材料の溝埋め込み特性が受ける影響を以下のように考察した。
【0097】
<プラズマ放電電流ID>
プラズマ放電電流IDの多少により、シートプラズマ27の放熱量が変化する。
【0098】
プラズマ放電電流IDを多くすると、半導体基板34Bの温度を上げる方向に作用する。この場合、Al堆積膜200のリフロー性においては有利になると考えられる。但し、半導体基板34Bの温度が上がり過ぎた場合、TiWバリア膜300のバリア性が劣ってきて、半導体基板34B内へのAl拡散の問題が生じる場合がある。
【0099】
<ターゲット−基板間距離L>
ターゲット−基板間距離Lを短くすると、シートプラズマ27が半導体基板34Bに近づくので、半導体基板34Bの温度を上げる方向に作用する。この場合も、Al堆積膜200のリフロー性においては有利になると考えられる。但し、半導体基板34Bの温度が上がり過ぎた場合、TiWバリア膜300のバリア性が劣ってきて、半導体基板34B内へのAl拡散の問題が生じる場合がある。
【0100】
<ターゲットバイアス電圧VB>
ターゲットバイアス電圧VBの大小により、Alターゲット35Bに入射するArの加速度が変化するので、Al材料のスパッタリング収率が増減する。このため、ターゲットバイアス電圧VBは、Al堆積膜200の堆積レートに直接的な影響を与える。よって、ターゲットバイアス電圧VBの変更に基づいてAl堆積膜200の堆積レートが増減すると、Al材料の溝埋め込み特性が良好となる半導体基板34Bの温度(換言すれば、その昇温速度)が変化すると考えられる。
【0101】
このように、Al堆積膜200の堆積レートを、ターゲットバイアス電圧VBによって制御できるので、この堆積レートに適合できるよう、プラズマ放電電流ID、および、ターゲット−基板間距離Lのいずれか一方、または、その両方、によって、半導体基板34Bの温度(換言すれば、その昇温速度)を適切に制御する必要があると考えられる。
【0102】
以上により、上述の図2の良好なスパッタ条件は、これらのパラメータID、VB、Lのそれぞれが、半導体基板34Bの温度(換言すれば、その昇温速度)の観点においてAl材料の溝埋め込み特性が良好となるように適合できた一例であると考えられる。
【0103】
次に、スパッタリング装置100の動作例を述べる。
【0104】
まず、プラズマガン40から放出された円柱プラズマ22を、棒磁石24A、24B が作る磁界の作用によりシートプラズマ27に変形させる。
【0105】
そして、このシートプラズマ27を、スパッタリングチャンバ30内の半導体基板34BとAlターゲット35Bとの間を通過するよう誘導する。
【0106】
その後、シートプラズマ27中のArによってAlターゲット35BからスパッタリングされたAl材料が半導体基板34Bの溝に堆積する際に、Al堆積膜200のカバレッジ性を、プラズマ放電電流ID、ターゲットバイアス電圧VB、および、ターゲット−基板間距離L、に基づいて調整する。
【0107】
具体的には、Al堆積膜200の堆積レートが、ターゲットバイアス電圧VBによって制御されるので、半導体基板34Bの温度(換言すると、その昇温速度)が、この堆積レートに適合するよう、プラズマ放電電流ID、および、ターゲット−基板間距離Lのうちの少なくとも一方によって制御するとよい。
【0108】
例えば、Al材料の溝埋め込みを適切に行えるよう、上述のスパッタ条件の好適な一例(ターゲットバイアス電圧VB:−200V、プラズマ放電電流ID:80A、ターゲット−基板間距離L:70mm)に設定するとよい。
【0109】
次に、本実施形態のスパッタリング装置100を、Al電極配線形成用の枚葉式の成膜システムに適用した適用例を述べる。
【0110】
図5は、本発明の実施形態のスパッタリング装置が適用された枚葉式の成膜システムの一構成例を示した概略図である。
【0111】
枚葉式の成膜システム400は、図5に示すように、トランスファチャンバ401と、ロードロック室404と、Al堆積膜200を半導体基板34Bの溝に形成できるアルミ成膜室100Eと、TiWバリア膜300を半導体基板34Bの溝に形成できるバリア成膜室100Dと、を備える。
【0112】
なお、トランスファチャンバ401とロードロック室404との間、トランスファチャンバ401とバリア成膜室100Dとの間、トランスファチャンバ401とアルミ成膜室100Eとの間は、これらに対応するゲートバルブGV1、GV2、GV3で仕切ることができる。
【0113】
また、図5のバリア成膜室100Dおよびアルミ成膜室100Eのそれぞれには、図1のシートプラズマ方式のスパッタリング装置100が組み込まれ、Al堆積膜200およびTiWバリア膜300は何れも、シートプラズマ27(図1参照)を用いたスパッタリング法によって半導体基板34Bの溝に形成される。そこで、図5のバリア成膜室100Dにおいては、図1の構成要素と同一または相当する構成要素には、図1の構成要素と同一の参照番号に記号Dが付され、アルミ成膜室100Eにおいては、図1の構成要素と同一または相当する構成要素に、図1の構成要素と同一の参照番号に記号Eが付されている。よって、バリア成膜室100Dおよびアルミ成膜室100Eの内部の詳細な説明は省略する。
【0114】
ロードロック室404およびトランスファチャンバ401は、バリア成膜室100Dおよびアルミ成膜室100Eを大気開放せずに、Al堆積膜200およびTiWバリア膜300の成膜前後において、半導体基板34Bを、半導体基板34Bと外部(大気中)との間で出し入れ可能にする真空搬送装置の真空室に相当する。
【0115】
図5に示すように、上述の真空搬送装置は、基板搬送機構406を有しており、この基板搬送機構406がトランスファチャンバ401内からロードロック室404内にアクセス可能なよう、上述の真空室内に配され、これにより、半導体基板34Bを一枚ずつ、ロードロック室404の基板ストッカー(図示せず)から取り出すことができる。
【0116】
このように、本実施形態の成膜システム400では、ロードロック室404と、トランスファチャンバ401と、基板搬送機構406と、によって、半導体基板34Bを、その成膜中に大気に曝さずに搬送可能な真空搬送装置が構成されている。
【0117】
なお、基板搬送機構406は、半導体基板34Bを支持するハンド部403と、このハンド部403に接続された旋回アーム402と、この旋回アーム402の端に接続された回転軸405と、を備え、図5の矢印の如く、ハンド部403の直線移動およびスイング移動を行えるように構成されている。但し、このような基板搬送機構406は、公知の機構部品により様々に構成できるので、その詳細な説明は省略する。
【0118】
次に、半導体基板34Bの溝にAl電極配線を形成する場合の成膜システム400の動作例を述べる。
【0119】
なお、ここでは、バリア成膜室100Dおよびアルミ成膜室100Eの内部は、すでに真空成膜を行える高真空にまで減圧され、トランスファチャンバ401も適宜の真空度に減圧されているものとする。
【0120】
まず、ロードロック室404の扉(図示せず)が開いて、多数の半導体基板34Bを入れた基板ストッカーがロードロック室404内に導入される。
【0121】
そして、ロードロック室404の扉が閉まり、ロードロック室404内が減圧される。
【0122】
次に、ゲートバルブGV1が開いて、基板搬送機構406を用いて、ロードロック室404の基板ストッカー内の1枚目の半導体基板34Bが、トランスファチャンバ401に搬入され、その後、ゲートバルブGV1が閉まる。
【0123】
そして、ゲートバルブGV2が開いて、基板搬送機構406を用いて、半導体基板34Bが、バリア成膜室100Dのスパッタリングチャンバ30Dに搬入される。
【0124】
なお、このとき、半導体基板34Bは、円形状の第3の電磁コイル33D(空芯コイル)の空芯部を通すとよい。
【0125】
ついで、ゲートバルブGV2が閉まり、バリア成膜室100Dにおいて、TiWバリア膜300が、シートプラズマ27を用いたスパッタリング法によって半導体基板34の溝に形成される。
【0126】
ついで、ゲートバルブGV2が開いて、TiWバリア膜300の成膜後の半導体基板34Bが、基板搬送機構406を用いて、トランスファチャンバ401に搬入され、その後、ゲートバルブGV2が閉まる。
【0127】
そして、ゲートバルブGV3が開いて、基板搬送機構406を用いて、半導体基板34Bが、アルミ成膜室100Eのスパッタリングチャンバ30Eに搬入される。
【0128】
なお、このとき、半導体基板34Bは、円形状の第3の電磁コイル33E(空芯コイル)の空芯部を通すとよい。
【0129】
ついで、ゲートバルブGV3が閉まり、アルミ成膜室100Eにおいて、Al堆積膜200が、シートプラズマ27を用いたスパッタリング法によって半導体基板34の溝に形成される。
【0130】
なお、このとき、Al材料の溝埋め込みを適切に行えるよう、アルミ成膜室100Eの成膜条件を、上述の好適なスパッタ条件の一例(具体的には、プラズマ放電電流ID:80A、ターゲットバイアス電圧VB:−200A、ターゲット−基板間距離L:70mm)に設定するとよい。
【0131】
次に、ゲートバルブGV3が開いて、Al堆積膜200の成膜後の半導体基板34Bが、基板搬送機構406を用いて、トランスファチャンバ401に搬入され、その後、ゲートバルブGV3が閉まる。
【0132】
そして、ゲートバルブGV1が開いて、半導体基板34Bが、基板搬送機構406を用いてロードロック室404の基板ストッカーに再び、戻される。
【0133】
なお、ロードロック室404の基板ストッカー内の全ての半導体基板34Bに、上述のAl電極配線の形成が行われると、ゲートバルブGV1が閉まり、ロードロック室404が大気開放された後、基板ストッカーが外部に取り出される。
【0134】
このようにして、成膜システム400による半導体基板34BへのAl電極配線形成が終了する。
【0135】
以上のとおり、本実施形態のスパッタリング装置100は、開口部の一例としての溝が形成された基板(半導体基板34B)を格納可能なスパッタリングチャンバ30と、カソードユニット41およびアノードA間の放電により、プラズマ(円柱状プラズマ22)を形成可能なプラズマガン40と、プラズマガン40から放出されたプラズマを磁界の作用によりシート状に変形可能な磁界発生手段(棒磁石24A、24B)と、を備える。
【0136】
そして、本実施形態のスパッタリング装置100では、シートプラズマ27は、スパッタリングチャンバ30内の半導体基板34BとAlターゲット35Bとの間を通過するように誘導され、シートプラズマ27中の荷電粒子(Ar)によってAlターゲット35BからスパッタリングされたAl材料が半導体基板34Bの溝に堆積する際に、Al堆積膜200のカバレッジ性が、プラズマ放電電流ID、ターゲットバイアス電圧VB、および、ターゲット−基板間距離L、に基づいて調整されている。
【0137】
以上の構成により、本実施形態のスパッタリング装置100では、単一のスパッタリングチャンバ30を用いて、半導体基板34Bに形成された溝内へのAl材料の溝埋め込みを適切に行える。特に、高アスペクト比(例えば、アスペクト比が4以上)の溝においても、Al材料の溝埋め込みを適切に行える。つまり、Al材料の溝への堆積が行われるスパッタリングチャンバ30内おいて、従来のリフロースパッタ技術と同等の、Al材料の溝埋め込み効果を発揮できる。
【0138】
よって、本実施形態のスパッタリング装置100は、リフローチャンバを設置しなくて済むという点で、従来のリフロースパッタ技術が適用されたスパッタリング装置と比べて有利な効果を奏する。
【0139】
また、本実施形態のスパッタリング装置100では、半導体基板34Bにバイアス電圧を印加する必要が無い。更に、半導体基板34Bの加熱に、シートプラズマ27の輻射熱を利用しているので、基板ホルダ34Aをヒータなどで高温にする必要もない。よって、スパッタリング装置100を簡易に構成できる。
【0140】
また、本実施形態のスパッタリング装置100では、半導体基板34Bの温度を適温に維持できるので、TiWバリア膜300のバリア性の劣化を抑制できて半導体基板34B内へのAl拡散が生じ難い。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明は、単一のスパッタリングチャンバを用いて、基板に形成された開口部内へのAl材料の埋め込みを適切に行えるスパッタリング装置を提供する。よって、本発明は、例えば、シートプラズマ方式のスパッタリング装置に利用できる。
【符号の説明】
【0142】
20 シートプラズマ変形室
21 輸送空間
22 円柱プラズマ
23 第1の電磁コイル
24A、24B 棒磁石
27 シートプラズマ
28 ボトルネック部
29 通路
30 スパッタリングチャンバ
31 成膜空間
32 第2の電磁コイル
33 第3の電磁コイル
34A 基板ホルダ
34B 基板(半導体基板)
35A ターゲットホルダ
35B ターゲット(Alターゲット)
36 真空ポンプ
37 バルブ
38 永久磁石
40 プラズマガン
41 カソードユニット
41A ガラス管
41B 蓋部材
50 プラズマガン電源
52 バイアス電源
70 電力発生部
100 スパッタリング装置
100D バリア成膜室
100E アルミ成膜室
200 Al堆積膜
300 TiWバリア膜
400 成膜システム
401 トランスファチャンバ
402 旋回アーム
403 ハンド部
404 ロードロック室
405 回転軸
406 基板搬送機構
A アノード
D 溝の深さ
、G 中間電極
GV1、GV2、GV3 ゲートバルブ
C カソード
ID プラズマ放電電流
L ターゲット−基板間距離
P1、P2、P3 サンプリングポイント
、R 抵抗素子
S 主面
VB ターゲットバイアス電圧
W 溝の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が形成された基板を格納可能なスパッタリングチャンバと、
カソードユニットおよびアノード間の放電により、プラズマを形成可能なプラズマガンと、
前記プラズマガンから放出されたプラズマを磁界の作用によりシート状に変形可能な磁界発生手段と、を備え、
前記シート状のプラズマ(シートプラズマという)は、前記スパッタリングチャンバ内の前記基板とアルミニウムからなるターゲットとの間を通過するように誘導され、
前記シートプラズマ中の荷電粒子によって前記ターゲットからスパッタリングされたアルミニウム材料が前記基板の開口部に堆積する際に、前記アルミニウム材料からなる堆積膜のカバレッジ性が、前記シートプラズマの放電電流、前記ターゲットのバイアス電圧、および、前記ターゲットと前記基板との間の距離、に基づいて調整されている、スパッタリング装置。
【請求項2】
前記シートプラズマの放電電流の調整に用いるプラズマガン電源と、
前記ターゲットのバイアス電圧の調整に用いるバイアス電源と、
前記ターゲットと前記基板との間の距離の調整に用いるアクチュエータと、
を備える請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記堆積膜の堆積レートが、前記ターゲットのバイアス電圧によって制御され、
前記基板の温度が、前記堆積レートに適合するよう、前記シートプラズマの放電電流、および、前記ターゲットと前記基板との間の距離のうちの少なくとも一方によって制御されている、請求項2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記堆積膜の堆積レートが、前記ターゲットのバイアス電圧によって制御され、
前記基板の昇温速度が、前記堆積レートに適合するよう、前記シートプラズマの放電電流、および、前記ターゲットと前記基板との間の距離のうちの少なくとも一方によって制御されている、請求項2に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
プラズマガンから放出されたプラズマを磁界の作用によりシート状のプラズマ(シートプラズマという)に変形させて、前記シートプラズマを、スパッタリングチャンバ内の基板とアルミニウムからなるターゲットとの間を通過するよう誘導するシートプラズマ形成工程と、
前記シートプラズマ中の荷電粒子によって前記ターゲットからスパッタリングされたアルミニウム材料が前記基板の開口部に堆積する際に、前記アルミニウム材料からなる堆積膜のカバレッジ性を、前記シートプラズマの放電電流、前記ターゲットのバイアス電圧、および、前記ターゲットと前記基板との間の距離、に基づいて調整する堆積膜形成工程と、を含むスパッタリング方法。
【請求項6】
前記堆積膜形成工程において、前記ターゲットのバイアス電圧によって前記堆積膜の堆積レートが制御され、
前記堆積レートに適合するよう、前記基板の温度が、前記シートプラズマの放電電流、および、前記ターゲットと前記基板との間の距離のうちの少なくとも一方によって制御される請求項5に記載のスパッタリング方法。
【請求項7】
前記堆積膜形成工程において、前記ターゲットのバイアス電圧によって前記堆積膜の堆積レートが制御され、
前記堆積レートに適合するよう、前記基板の昇温速度が、前記シートプラズマの放電電流、および、前記ターゲットと前記基板との間の距離のうちの少なくとも一方によって制御される請求項5に記載のスパッタリング方法。
【請求項8】
アルミニウム材料からなる堆積膜が基板に形成される第1成膜室と、
前記堆積膜の下地膜としてのバリア膜が前記基板に形成される第2成膜室と、
前記第1成膜室および前記第2成膜室を大気開放せずに、前記堆積膜および前記バリア膜の成膜前後において、前記基板を外部との間で出し入れ可能にする真空搬送装置と、を備え、
前記第1成膜室が、請求項1ないし4のいずれかに記載のスパッタリング装置によって構成されている成膜システム。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−66085(P2011−66085A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213594(P2009−213594)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】