説明

スパッタ成膜装置

【課題】非晶質磁性膜上に形成される薄膜の結晶配向性を高めることが可能なスパッタ成膜装置を提供する。
【解決手段】非晶質磁性膜を有した基板Sが収容されて希ガスが供給される真空槽11と、前記真空槽11に設けられた接地電極であるシャッタ22と、前記真空槽11内に配置されたMgOターゲットTに接続されたターゲット電極を内蔵するカソード18と、高周波電力を前記ターゲット電極に出力する高周波電源GEと、前記MgOターゲットTと前記高周波電源GEとの間に直列に接続されたインピーダンス整合器20とを備えるスパッタ成膜装置10であって、前記シャッタ22に流れる電流値を変更する可変キャパシタ26が、前記インピーダンス整合器20に対する前記MgOターゲットT側に、前記MgOターゲットTと前記シャッタ22とから構成される負荷25に対して並列に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質磁性膜上に結晶配向性を有した薄膜を形成するスパッタ成膜装置、例えば酸化マグネシウムを表面に有したターゲットを用いて非晶質磁性膜上に(001)配向を有した酸化マグネシウム膜を形成するスパッタ成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル磁気抵抗素子の高出力化を図る技術の一つとして、結晶配向性が(001)配向である酸化マグネシウム(MgO)膜をトンネル絶縁膜に用いる提案がなされている。またトンネル絶縁膜のように非常に薄いMgO膜を形成する装置には、例えば特許文献1のように、高周波電力が供給されるターゲットから基板に向けてMgおよびO粒子が放出されるスパッタ成膜装置が広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−57162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記スパッタ成膜装置を利用してMgO膜に(001)配向を与えるためには、参考文献1(K. Ono, et al. Jpn. J. Appl. Phys., to be published.)にあるように下記条件(イ)(ロ)が必要とされている。
【0005】
(イ)MgO膜の下地となる磁性膜が非晶質であること。
(ロ)非晶質磁性膜に到達したMgおよびO粒子が、非晶質磁性膜上において結晶化するためのエネルギー、および成膜量を保有すること。
【0006】
一方、成膜中の基板表面には、ターゲットから放出されたMgおよびO粒子の他、例えば参考文献2(T. Ishijima, et al. Jpn. J. Appl. Phys. 48 (2009) 116004.)や参考
文献3(H. Toyoda, et al. Appl. Phys. Express 2 (2009) 126001.)のようにプラズマ中に発生した負イオンや電子等の負電荷粒子も衝突する。特にプラズマ中で発生し、陰極シース電圧によって加速された負イオンは、大きなエネルギーをもってターゲットから放出され、基板表面に衝突する。その結果、大きなエネルギーの負イオンと非晶質磁性膜との衝突によって、非晶質磁性膜がダメージを受け、上記条件(イ)が満たされ難くなる。
【0007】
ここで、大きなエネルギーの負イオンと基板表面との衝突を抑えるために高周波電力を低くすると、プラズマ密度が減少し、結晶化するためのエネルギーおよび成膜量も減少することになる。それゆえに、上述した条件(イ)が満たされるように高周波電力を低くすると、成膜量までもが少なくなる結果、上述した条件(ロ)がかえって満たされなくなってしまう。反対に、結晶化するためのエネルギーおよび成膜量を増大させるために高周波電力を高くすると、陰極シース電圧も大きくなる。それゆえに、上述した条件(ロ)が満たされるように高周波電力を高くすると、負イオンが有するエネルギーまでもが高くなる結果、上述した条件(イ)がかえって満たされなくなってしまう。
【0008】
要するに、ターゲット電極に供給する高周波電力を変更していずれかの条件を満たそうとすれば、他方の条件がより低いものにならざるを得ない。そのため、スパッタ成膜装置によって得られるMgO膜の(001)配向にもその配向強度に限りがあった。なお、このような問題は、MgO膜に限らず、非晶質磁性膜を表面に有した基板に対して結晶配向
性を有した薄膜を形成する方法において、概ね共通するものである。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、非晶質磁性膜上に形成される薄膜の結晶配向性を高めることが可能なスパッタ成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段及びその作用効果を以下に記載する。
請求項1に記載のスパッタ装置は、非晶質磁性膜を有した基板が収容されて希ガスが供給される真空槽と、前記真空槽内に設けられた接地電極と、前記真空槽内に配置されたターゲットに接続されたターゲット電極と、高周波電力を前記ターゲット電極に出力する高周波電源と、前記ターゲット電極と前記高周波電源との間に直列に接続されたインピーダンス整合器とを備えるスパッタ成膜装置であって、前記接地電極に流れる電流値を変更する可変キャパシタをさらに備え、該可変キャパシタが、前記インピーダンス整合器に対する前記ターゲット電極側であって、前記ターゲット電極と前記接地電極とから構成される負荷に対して並列に接続されていることを要旨とする。
【0011】
請求項1に記載のスパッタ成膜装置によれば、可変キャパシタの静電容量を大きくすることによって、接地電極とターゲット電極との間に印加される電圧を変えることなく、負荷に流れる電流を小さくすることが可能である。また可変キャパシタの静電容量を小さくすることによって、接地電極とターゲット電極との間に印加される電圧を変えることなく、負荷に流れる電流を大きくすることが可能である。それゆえに、ターゲットから放出された粒子が有するエネルギーと非晶質磁性膜に衝突する粒子数とを個別に調整することが可能である。ひいては、結晶配向性を得る上でスパッタ粒子に求められるエネルギーと、同じく結晶配向性を得る上で下地に求められる非晶質性とを、個別に調整することが可能である。そのため、非晶質磁性膜上に形成される薄膜の結晶配向性を高めることが可能である。
【0012】
請求項2に記載のスパッタ成膜装置は、前記ターゲットの構成材料が酸化マグネシウムであることを要旨とする。
請求項2に記載のスパッタ成膜装置によれば、酸化マグネシウム膜が有する結晶配向性を高めることが可能である。
【0013】
請求項3に記載のスパッタ成膜装置は、前記ターゲットと前記基板とが互いに平行となるように配置されることを要旨とする。
請求項3に記載のスパッタ成膜装置によれば、ターゲットの表面から基板の被成膜面までにおける最短距離のばらつきを抑えることができる。その結果、ターゲットから放出されたスパッタ粒子が基板の被成膜面に到達するために必要なエネルギーの均一化を図ることができる。それゆえに、非晶質磁性膜上に形成される薄膜の結晶配向性をさらに高めることが可能である。
【0014】
請求項4に記載のスパッタ成膜装置は、前記基板及び前記ターゲットは円板状をなしており、前記基板の被成膜面における中心と前記ターゲットの表面における中心とが前記被成膜面の法線上に配置されることを要旨とする。
【0015】
請求項4に記載のスパッタ成膜装置によれば、基板の被成膜面とターゲットの表面との大きさが異なる場合であっても、基板の被成膜面のうちでターゲットの表面に対向する領域を最も大きくすることができる。その結果、ターゲットの表面から基板の被成膜面までにおける最短距離のばらつきをさらに抑えることができることから、スパッタ粒子が基板に到達するために必要なエネルギーの均一化をより一層図ることができる。
【0016】
請求項5に記載のスパッタ装置は、請求項1又は2に記載のスパッタ成膜装置において、前記基板を該基板の周方向に回転させる基板回転装置をさらに備え、前記基板回転装置により前記基板を該基板の周方向に回転させながら、前記基板の回転軸から離間して、且つ前記ターゲットの表面における法線が前記基板の被成膜面に対して傾斜するかたちに配置された前記ターゲットをスパッタすることを要旨とする。
【0017】
ターゲット表面から放出される粒子の分布とは、該ターゲット表面において必ずしも均一であるとは限らず、むしろターゲット表面近傍に形成されるプラズマ密度の分布や該表面の近傍におけるガスの流れなどの影響により所定の偏りを有する。そのため、ターゲット表面と基板表面とが対向するかたちにターゲットが配置されたり、ターゲット表面が基板表面に対して静置されたりする構成では、ターゲット表面から放出される構成材料粒子の面内分布が、薄膜における膜厚の分布に反映されてしまう。これに対して、請求項3に記載の発明によれば、ターゲット表面から放出される粒子の分布が該ターゲット表面の面内において不均一であっても、ターゲット表面が基板の回転軸から離れて配置されること、ターゲット表面が基板の表面に対して傾いていること、そしてこうしたターゲット表面に対して回転軸を中心に基板が回転すること、それらによって上記の不均一が基板の表面で軽減されることとなる。それゆえに、薄膜における膜厚の分布を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るスパッタ成膜装置の概略構成図及び該スパッタ成膜装置における伝送線路の回路図。
【図2】可変キャパシタの静電容量とMgO(002)ピークの強度との関係を示すグラフ。
【図3】可変キャパシタの静電容量と磁気抵抗比との関係を示すグラフ。
【図4】変形例におけるスパッタ成膜装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施の形態について図1〜図3を参照して説明する。本実施の形態におけるスパッタ成膜装置は、装置内に配置される基板に対して結晶配向性を有する酸化マグネシウム(MgO)膜を形成する装置である。
【0020】
図1に示されるように、スパッタ成膜装置10における真空槽11には、該真空槽11の内部空間を排気するターボ分子ポンプ等からなる排気装置12が連結されている。また排気装置12と真空槽11との間には、真空槽11の内部圧力を検出する圧力検出装置VGが連結されている。そして排気装置12が排気動作を実行すると、真空槽11の内部が減圧されて、該内部の圧力が圧力検出装置VGにより検出される。
【0021】
真空槽11には、希ガスであるアルゴン(Ar)、キセノン(Xe)、又はクリプトン(Kr)を所定の流量で供給するマスフローコントローラ等からなるガス供給装置13が連結されている。そして排気装置12が排気処理を定常的に実行する状態でガス供給装置13が真空槽11に希ガスを供給すると、該希ガスの流量に基づき、真空槽11の内部圧力が所定の成膜圧力に変わる。
【0022】
真空槽11の内部空間における天部には、昇降装置15の出力軸15aに連結された基板ステージ14が収容されている。基板ステージ14に支持される基板Sは、例えば直径が8インチのSiウェハ、AlTiCウェハ、ガラスウェハ等の円板状を成す各種の基板である。この基板Sの表面Sa(被成膜面)には、非晶質のコバルト鉄ボロン(CoFeB)等、MgO膜の下地となる非晶質磁性膜が形成されている。昇降装置15は、上下方向に沿って基板ステージ14を昇降可能に構成されている。昇降装置15は、例えば基板
Sの交換時や成膜時など、その時々の状況に応じた位置に基板Sを配置すべく基板ステージ14を昇降させる。
【0023】
真空槽11の底部には、真空槽11の内部にプラズマを生成するためのカソード18が搭載されている。カソード18に内蔵されたターゲット電極(図示略)には、13.56MHzの高周波電力を電力密度が例えば0.67W/cmになるように出力する高周波電源GEがインピーダンス整合器20を介して接続されている。このターゲット電極における基板Sの側には、MgOが主成分となるターゲット表面Taを真空槽11の内部空間に露出する円板状のMgOターゲットTが接続されている。このMgOターゲットTは、それのターゲット表面Taが基板Sの表面Sa(被成膜面)に対して相対向するように、すなわちターゲット表面Taを含む平面と基板Sの表面Saを含む平面とが平行になるように真空槽11に搭載されている。またMgOターゲットTと基板Sとは、基板Sの表面Saにおける中心とターゲット表面Taにおける中心とが、上記平面の法線である同一の法線N上となるように真空槽11に搭載されている。そして、基板Sの表面Saを含む平面とターゲット表面Taを含む平面との間の距離は150mmとなるように、MgOターゲットTは真空槽11に搭載されている。
【0024】
また、カソード18には、ターゲット電極に対するMgOターゲットTの反対側に図示しない磁気回路が内蔵されている。高周波電源GEからの高周波電力がターゲット電極に供給される状態で磁気回路が駆動されると、MgOターゲットTのターゲット表面Taにマグネトロン磁場が形成される。そしてMgOターゲットTにおけるターゲット表面Taの近傍に高密度のプラズマが生成されるとともに、MgOターゲットTのターゲット表面Taが希ガスのイオンによってスパッタされる。
【0025】
真空槽11の内部空間であって、MgOターゲットTと基板Sとの間には、板状のシャッタ22が配設されている。シャッタ22はシャッタ回転装置23の出力軸23aに連結されて、シャッタ回転装置23がシャッタ22を回転させると、シャッタ22が該出力軸23aを中心に回転する。またシャッタ22が回転して該シャッタ22を介すことなくMgOターゲットTと基板Sとが対向したときに高周波電力がカソード18のターゲット電極に供給されると、MgOターゲットTに対するスパッタリングが可能になる。
【0026】
次に、スパッタ成膜装置10の電気的な構成について説明する。上述したインピーダンス整合器20は、高周波電源GEとカソード18に内蔵されたターゲット電極(MgOターゲットT)との間に直列に接続された可変キャパシタ20bと、該可変キャパシタ20bとターゲット電極(MgOターゲットT)との間にこれもまた直列に接続された可変インダクタ20cとを備えている。このインピーダンス整合器20は、可変キャパシタ20bに対する高周波電源GEが可変キャパシタ20aを介して接地されたL型整合器である。これら可変キャパシタ20a,20b、可変インダクタ20cは、例えばサーボモータなどから構成される調整機構によって静電容量やインダクタンスが調整される。またインピーダンス整合器20に対するターゲット電極(MgOターゲットT)の側には、ターゲット電極(MgOターゲットT)と、接地電極となるシャッタ22や真空槽11とから構成される負荷25に対して、接地電極に流れる電流値を変更する可変キャパシタ26が並列に接続されている。
【0027】
そして、インピーダンス整合器20におけるインピーダンス整合によって、負荷25と可変キャパシタ26とからなる並列回路に対する高周波電源GE側の出力インピーダンスと、該並列回路における入力インピーダンスとが整合される。スパッタ成膜装置10においては、こうしたインピーダンス整合器20のインピーダンス整合により高周波電源GEへの反射波が抑えられて、高周波電源GEから負荷25に対して効率よく電力を供給することが可能である。
【0028】
ここで、スパッタ成膜装置10を利用してMgO膜に(001)配向を与えるためには、下記条件(イ)(ロ)が必要とされている。
(イ)MgO膜の下地となる磁性膜が非晶質であること。
(ロ)非晶質磁性膜に到達したMgおよびO粒子が、非晶質磁性膜上において結晶化するためのエネルギーおよび成膜量を保有すること。
【0029】
一方、成膜中の基板Sの表面Saには、MgOターゲットTから放出されたMgおよびO粒子の他、プラズマ中に発生した負イオンや電子等の負電荷粒子も衝突する。特にプラズマ中で発生し、陰極シース電圧によって加速された負イオンは、大きなエネルギーをもってターゲットから放出され、基板Sの表面Saに対して衝突する。そのため、負イオンと非晶質磁性膜との衝突によって上記条件(イ)が満たされ難くなってしまう。
【0030】
この点、スパッタ成膜装置10においては、インピーダンス整合器20の出力側において上記負荷25に対して可変キャパシタ26が並列に接続されている。この可変キャパシタ26は、例えばサーボモータなどから構成される調整機構によってその静電容量が調整される。このような構成であれば、可変キャパシタ26の静電容量が大きくなることによって、接地電極とターゲット電極との間に印加される電圧が変わることなく、負荷25に流れる電流が小さくなる。また可変キャパシタ26の静電容量が小さくなることによって、接地電極とターゲット電極との間に印加される電圧が変わることなく、負荷25に流れる電流が大きくなる。それゆえに、MgOターゲットTから放出された粒子が有するエネルギーと非晶質磁性膜に衝突する粒子数とを個別に調整することが可能である。ひいては、結晶配向性を得る上でスパッタ粒子に求められるエネルギーと、同じく結晶配向性を得る上で下地に求められる非晶質性とを、個別に調整することが可能である。そのため、可変キャパシタ26における静電容量の変更より条件(イ)(ロ)が満たされやすくなる結果、非晶質磁性膜上に形成されるMgO膜の結晶配向性を高めることが可能である。
(試験例)
次に、上記スパッタ成膜装置10から得られる効果を試験例とともに以下に説明する。まず、下記成膜条件を用い、可変キャパシタ26の静電容量を0pFから500pFまで変更して、試験例となる複数のMgO膜を得た。そして、各試験例のMgO膜に対して、(001)配向を示すMgO(002)ピーク(2θ=42.9°)の強度をX線回折法により計測した。また、各試験例のMgO膜をトンネル絶縁膜に適用し、試験例となる複数のトンネル磁気抵抗素子を得た。そして、各試験例のトンネル磁気抵抗素子について磁気抵抗比を計測した。
【0031】
図2は、可変キャパシタ26の静電容量と、該静電容量にて得られたMgO膜における(002)ピークの強度との関係を示したグラフである。図3は、可変キャパシタ26の静電容量と、該静電容量にて得られたMgO膜を有するトンネル磁気抵抗素子の磁気抵抗比との関係を示したグラフである。なお、図2及び図3では、各成膜圧力で形成されたMgO膜におけるMgO(002)ピークの強度及び磁気抵抗比の平均値を示している。
(成膜条件)
・基板S:シリコン基板
・基板直径:4インチ
・ターゲット:MgOターゲット
・非晶質磁性膜:(CoFe)0.80.2
・基板温度:室温
・ターゲット/基板間距離:150mm
・成膜圧力:1.0Pa、2.0Pa、2.5Pa
・スパッタガス:Ar
・MgO膜厚:10nm
図2に示されるように、可変キャパシタ26の静電容量が0pFの場合、MgO(002)ピークの強度が相対的に小さく、MgO膜の結晶配向性が十分に得られていないことが認められた。一方、可変キャパシタ26の静電容量が100pFの場合、MgO(002)ピークの強度が相対的に大きく、これによりMgO膜の結晶配向性が高められることが分った。なお、可変キャパシタ26の静電容量が100pFよりも大きい場合では、MgO(002)ピークの強度が相対的に小さく、MgO膜の結晶配向性が十分に得られないことも認められた。これらの結果、可変キャパシタ26における静電容量の変更よりMgO膜の結晶配向性を高めることが可能であること、そして上記成膜条件でMgO膜を形成する上では、可変キャパシタ26の静電容量を約100pFすることが好適であることが分った。
【0032】
図3に示されるように、MgO膜をトンネル絶縁膜としたトンネル磁気抵抗素子の磁気抵抗比においても、MgO(002)ピークの強度と同様な傾向が認められ、可変キャパシタ26の静電容量を約100pFにすることが好適であることが分った。
【0033】
以上説明したように、上記実施の形態のスパッタ成膜装置によれば以下の効果を得ることができる。
(1)インピーダンス整合器20の出力側に接続された負荷25に対して可変キャパシタ26が並列に接続されている。このような構成によれば、可変キャパシタ26の静電容量を大きくすることによって、接地電極とターゲット電極との間に印加される電圧を変えることなく、負荷25に流れる電流を小さくすることが可能である。それゆえに、MgOターゲットTから放出された粒子が有するエネルギーを高周波電力等で調整することと、非晶質磁性膜に衝突する粒子数を減らすこととを、個別に実現することが可能である。
【0034】
(2)また可変キャパシタ26の静電容量を小さくすることによって、接地電極とターゲット電極との間に印加される電圧を変えることなく、負荷25に流れる電流を大きくすることが可能である。それゆえに、MgOターゲットTから放出された粒子が有するエネルギーを高周波電力等で調整することと、非晶質磁性膜に衝突する粒子数を増やすこととを、個別に調整することが可能である。
ひいては、結晶配向性を得る上でスパッタ粒子に求められるエネルギーと、同じく結晶配向性を得る上で下地に求められる非晶質性とを、個別に調整することが可能である。そのため、非晶質磁性膜上に形成される薄膜の結晶配向性を高めることが可能である。
【0035】
(3)MgO膜をトンネル絶縁膜として有したトンネル磁気抵抗素子における磁気抵抗比を高めることが可能である。
【0036】
(4)MgOターゲットTと基板Sとは、ターゲット表面Taと表面Saとが互いに平行となるように搭載されているとともに、ターゲット表面Taにおける中心と表面Saにおける中心とが法線N沿うように搭載されている。このような構成によれば、基板Sの表面Saとターゲット表面Taとの大きさが異なる場合であっても、基板Sの表面Saのうちでターゲット表面Taに対向する領域を最も大きくすることができる。その結果、ターゲット表面Taから基板Sの表面Saまでにおける最短距離のばらつきを抑えることができる。すなわち、スパッタ粒子が基板に到達するために必要なエネルギーの均一化を図ることができる。それゆえ、非晶質磁性膜上に形成される薄膜の結晶配向性をさらに高めることが可能である。
【0037】
なお、上記実施の形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態のスパッタ成膜装置10においては、基板Sの表面Saにおける中心とターゲット表面Taにおける中心とが法線Nに沿うように配置されている。これに限らず、基板Sの表面Saにおける中心とターゲット表面Taにおける中心とは、法線Nに沿
うような配置でなくてもよい。
【0038】
・上記実施の形態のスパッタ成膜装置10は、MgOターゲットTのターゲット表面Taと基板Sの表面Saとが対向するように配置される構成となっている。これに限らず、図4に示されるような構成のスパッタ成膜装置30にも適用可能であることが本発明者によって確認されている。以下、このスパッタ成膜装置30について図4を参照して詳しく説明するが、上記スパッタ成膜装置10における機能と同じ機能を有する構成については、同様の符号及び名称を用いその詳細な説明は省略する。
【0039】
図4に示されるように、スパッタ成膜装置30において、真空槽11の内部空間における底部には、基板回転装置31の出力軸に連結された基板ステージ14が収容されている。この基板回転装置31は、基板ステージ14に載置された基板Sに対する法線である基板回転軸線Asを回転中心にして基板Sを回転させる。
【0040】
真空槽11の内部空間には、有底筒状の下側遮蔽板32Aが基板ステージ14の周囲を覆うかたちに配置されている。基板ステージ14の周囲や真空槽11の底部に向けて飛行するスパッタ粒子は、この下側遮蔽板32Aの遮蔽効果によって、基板ステージ14の周囲や真空槽11の底部に対して遮蔽される。また下側遮蔽板32Aの径方向の内側には、基板Sの外周に沿う円環状のカバーリングCRが配置されている。基板ステージ14の周囲に向けて飛行するスパッタ粒子は、このカバーリングCRにより遮蔽される。
【0041】
真空槽11の天部には、カソード18が搭載されている。このカソード18に内蔵されたターゲット電極(図示略)における基板S側には、MgOターゲットTが電気的に接続された状態で搭載されている。このMgOターゲットTは、それのターゲット表面Taが基板回転軸線Asから離間し、且つターゲット表面Taの法線であるターゲット法線Atと基板回転軸線Asとが交差するように設けられている。なお、このスパッタ成膜装置30において、MgOターゲットTは、ターゲット表面Taの中心と基板Sの表面Saの中心との距離である最短飛行距離dtsが260mmとなるように搭載されている。また、ターゲット法線Atと基板回転軸線Asとがなす角度である斜入射角度θ1はMgOの膜厚の分布が最小となるように搭載されている。
【0042】
また、スパッタ成膜装置30には、MgOターゲットTに対する基板Sの側であって、基板ステージ14の直上に、接地電極として機能するシャッタ33が配設されている。このシャッタ33の一部には、上記MgOターゲットTのターゲット表面Taの略全体を基板Sに向けて露出可能にする貫通孔である開口33Hが設けられている。シャッタ33はシャッタ回転装置34の出力軸に連結されて、シャッタ33における開口33Hが、ターゲット表面Taに対向する位置とターゲット表面Taに対向しない位置との間を、基板回転軸線Asを中心にして回転する。
【0043】
こうした構成にスパッタ成膜装置30においては、シャッタ33の回転により開口33Hがターゲット表面Taと対向するときに高周波電力がカソード18に内蔵されたターゲット電極に供給されると、MgOターゲットTに対するスパッタリングが可能になる。その際、基板回転装置31により基板回転軸線Asを中心にして基板Sを回転させることによって、基板Sの表面Saに向けて一つの方向から飛行するスパッタ粒子が、基板Sの周方向の全体にわたり均一に分散することになる。その結果、非晶質磁性膜上における堆積物の膜厚均一性及び結晶配向性を高めることが可能である。また、基板ステージ14の周囲へと向かうスパッタ粒子が、下側遮蔽板32A及びカバーリングCRにより遮蔽される。その結果、スパッタ粒子による真空槽11内の汚染を抑制することが可能である。一方、シャッタ33の回転により開口33Hがターゲット表面Taと対向しないときには、ターゲット表面Taがシャッタ33により覆われるため、ターゲット表面Taに対する汚染
が抑制されることとなる。
【0044】
以上のような構成のスパッタ成膜装置、すなわち基板Sの表面Sa(被成膜面)に対してターゲット表面Taが傾斜するようにMgOターゲットTが配置される構成のスパッタ成膜装置30に対しても本発明は適用することが可能である。こうした構成であっても、上記(1)(2)に準じた効果を得ることができる。
【0045】
なお、上記最短飛行距離dtsは260mmに限らず適宜変更可能な値であり、上記斜入射角度θ1も0<θ1≦90°の範囲で適宜変更可能な値である。
・上記実施の形態のスパッタ成膜装置10では、ターゲット表面Taの構成材料を酸化マグネシウムとし、基板Sに対して(001)配向の酸化マグネシウム膜を形成させた。これに限らず、ターゲット表面Taの構成材料としては、非晶質磁性膜上で結晶配向性を有する絶縁材料であればよく、例えば酸化アルミニウム(Al)や酸化チタン(TiO)などであってもよい。
【符号の説明】
【0046】
θ1…斜入射角度、As…基板回転軸線、At…ターゲット法線、CR…カバーリング、dts…最短飛行距離、GE…高周波電源、N…法線、S…基板、Sa…表面、T…MgOターゲット、Ta…ターゲット表面、VG…圧力検出装置、10…スパッタ成膜装置、11…真空槽、12…排気装置、13…ガス供給装置、14…基板ステージ、15…昇降装置、15a…出力軸、18…カソード、20…インピーダンス整合器、20a,20b…可変キャパシタ、20c…可変インダクタ、22…シャッタ、23…シャッタ回転装置、23a…出力軸、25…負荷、26…可変キャパシタ、30…スパッタ成膜装置、31…基板回転装置、32A…下側遮蔽板、33…シャッタ、33H…開口、34…シャッタ回転装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質磁性膜を有した基板が収容されて希ガスが供給される真空槽と、
前記真空槽内に設けられた接地電極と、
前記真空槽内に配置されたターゲットに接続されたターゲット電極と、
高周波電力を前記ターゲット電極に出力する高周波電源と、
前記ターゲット電極と前記高周波電源との間に直列に接続されたインピーダンス整合器とを備えるスパッタ成膜装置であって、
前記接地電極に流れる電流値を変更する可変キャパシタをさらに備え、
該可変キャパシタが、前記インピーダンス整合器に対する前記ターゲット電極側であって、前記ターゲット電極と前記接地電極とから構成される負荷に対して並列に接続されている
ことを特徴とするスパッタ成膜装置。
【請求項2】
前記ターゲットの構成材料が酸化マグネシウムである
ことを特徴とする請求項1に記載のスパッタ成膜装置。
【請求項3】
前記ターゲットと前記基板とが互いに平行となるように配置される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタ成膜装置。
【請求項4】
前記基板及び前記ターゲットは円板状をなしており、
前記基板の被成膜面における中心と前記ターゲットの表面における中心とが前記被成膜面の法線上に配置される
ことを特徴とする請求項3に記載のスパッタ成膜装置。
【請求項5】
前記基板を該基板の周方向に回転させる基板回転装置をさらに備え、
前記基板回転装置により前記基板を該基板の周方向に回転させながら、
前記基板の回転軸から離間して、且つ前記ターゲットの表面における法線が前記基板の被成膜面に対して傾斜するかたちに配置された前記ターゲットをスパッタする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタ成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−149305(P2012−149305A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8863(P2011−8863)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】