説明

タッチパネルセンサー

【課題】経時的な電気抵抗の増加や断線が起こり難く、かつ、低電気抵抗を示すと共に、透明導電膜との電気伝導性を確保できて該透明導電膜と直接接続させることのできる引き回し配線を有する、信頼性の高いタッチパネルセンサーを提供する。
【解決手段】透明導電膜およびこれと直接接続するアルミニウム合金膜からなる引き回し配線を有するタッチパネルセンサーであって、前記アルミニウム合金膜が、NiおよびCoよりなるX群から選ばれる少なくとも1種の元素を合計で0.2〜10原子%含み、かつ、前記アルミニウム合金膜の硬度が2〜15GPaであることを特徴とするタッチパネルセンサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルセンサーに関するものであり、特に、透明導電膜およびこれと直接接続するアルミニウム合金膜からなる引き回し配線を有するタッチパネルセンサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置の前面に配置された、画像表示装置と一体型の入力スイッチとして用いられるタッチパネルセンサーは、その使い勝手のよさから、銀行のATMや券売機、カーナビ、PDA、コピー機の操作画面など幅広く使用されている。その入力ポイントの検出方式には、抵抗膜方式、静電容量方式、光学式、超音波表面弾性波方式、圧電式等が挙げられる。これらのうち、抵抗膜方式が、コストがかからず構造が単純である等の理由から最も広く用いられている。
【0003】
抵抗膜方式のタッチパネルセンサーは、大別して、上部電極、下部電極、およびテール部分から構成されており、上部電極を構成する基板(例えばフィルム基板)上に設けられた透明導電膜と、下部電極を構成する基板(例えばガラス基板)上に設けられた透明導電膜が、スペーサを隔てて相対した構成となっている。この様な構成のタッチパネルセンサーにおける上記フィルム面を、指やペン等でタッチすると、上記両透明導電膜が接触し、透明導電膜の両端の電極を介して電流が流れ、上記それぞれの透明導電膜の抵抗による分圧比を測定することで、タッチされた位置が検出される。
【0004】
上記タッチパネルセンサーを製造するプロセスにおいて、透明導電膜と制御回路を接続するための引き回し配線は、一般に、銀ペーストなどの導電性ペーストや導電性インクを、インクジェットやその他の印刷方法で印刷することにより形成される。しかし、純銀または銀合金からなる配線は、ガラスや樹脂等との密着性が悪く、また、外部装置との接続部分において基板上で凝集することにより、電気抵抗の増加や断線等による不良を招く、といった問題がある。
【0005】
銀ペーストによる引き回し配線の信頼性を向上させた技術として、特許文献1には、配線の一部をメッキまたは金属箔で形成する方法が開示されている。しかし、該方法では、メッキまたは金属箔で形成された配線と外部装置との接続部分に銀ペーストを使用することに変わりないため、配線と外部装置の接続部分の強度をより高めることが難しい。
【0006】
更に、タッチパネルセンサーは、人の指等による押し込みを感知するセンサーであり、タッチ時に加わる応力により一時的に微小変形を生じる。タッチパネルの度重なる使用により、この微小変形が繰り返し生じ、引き回し配線にも応力が繰り返し加わる。よって、上記配線には、耐久性(応力に対する耐性)も要求される。しかし、純銀または銀合金からなる導電性ペーストを用いて形成された引き回し配線は、上記耐久性が十分であるとは言い難く、タッチパネル使用中に、引き回し配線が損傷し易い。引き回し配線が損傷すると、該配線の電気抵抗が大きくなり電圧降下が生じて、タッチパネルセンサーの位置検出の精度が低下し易くなる。また、ペンタッチ方式を採用する場合には、上記配線の狭ピッチ化が必要であるが、ペーストを用いる場合には塗布法で形成するため、狭ピッチ化が難しい。
【0007】
特許文献2には、耐久性に優れる導電性ペーストとして、銀粉と有機樹脂と溶剤からなるものが開示されている。しかし、この銀粉と有機樹脂と溶剤からなる導電性ペーストを用いて得られる引き回し配線は、電気抵抗率が1×10−4Ω・cm程度(アルミニウムのバルクの電気抵抗率のおよそ30倍)であることから、電気抵抗の十分に低い配線とは言い難い。
【0008】
一方、電気抵抗率の十分に低い純アルミニウムを、引き回し配線の材料に適用することも考えられる。しかし、引き回し配線の材料に純アルミニウムを使用すると、タッチパネルセンサーにおける透明導電膜と純アルミニウム膜の間に、絶縁性の酸化アルミニウムが形成され、電気伝導性を確保することができない、といった問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−18226号公報
【特許文献2】特開2006−59720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、断線や経時的な電気抵抗の増加が起こり難く、かつ、低電気抵抗を示すと共に、透明導電膜との電気伝導性を確保できて該透明導電膜と直接接続させることのできる引き回し配線を有する、信頼性の高いタッチパネルセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るタッチパネルセンサーとは、透明導電膜およびこれと直接接続するアルミニウム合金膜からなる引き回し配線を有するタッチパネルセンサーであって、前記アルミニウム合金膜が、NiおよびCoよりなるX群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下「X群元素」ということがある。)を合計で0.2〜10原子%含み、かつ、前記アルミニウム合金膜の硬度が2〜15GPa、好ましくは2〜10GPaであるところに特徴を有するものである(上記アルミニウム合金膜を「第1アルミニウム合金膜」ということがある)。
【0012】
尚、上記硬度は、後述する実施例に示す方法で測定したものである(以下、同じ)。
【0013】
前記アルミニウム合金膜は、更に、希土類元素、Ta、Ti、Cr、Mo、W、Cu、Zn、Ge、SiおよびMgよりなるZ群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下「Z群元素」ということがある。)を合計で0.05原子%以上含み、かつ、前記X群元素および前記Z群元素の合計量が10原子%以下であるものが好ましい。
【0014】
前記アルミニウム合金膜は、更に、希土類元素、Ta、Ti、Cr、Mo、W、Cu、Zn、Ge、SiおよびMgよりなるZ群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下「Z群元素」ということがある。)を合計で0.15原子%以上含み、かつ、前記X群元素および前記Z群元素の合計量が10原子%以下であるものが好ましい。
【0015】
前記アルミニウム合金膜は、Z群元素として希土類元素を含み、かつ希土類元素量が0.05原子%以上であると共に、前記X群元素および希土類元素の合計量が10原子%以下であるものが好ましい。
【0016】
前記希土類元素は、Nd、Gd、La、Y、Ce、PrおよびDyよりなる群から選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0017】
前記アルミニウム合金膜は、Z群元素としてCuを含み、かつCu量が0.05原子%以上であるものが好ましい。
【0018】
本発明に係る別のタッチパネルセンサーとは、透明導電膜およびこれと直接接続するアルミニウム合金膜からなる引き回し配線を有するタッチパネルセンサーであって、前記アルミニウム合金膜が、NiおよびCoよりなるX群から選ばれる少なくとも1種の元素(X群元素)を合計で0.02原子%以上、およびGeを0.2原子%以上含み、前記X群元素とGeの合計量が10原子%以下であり、かつ、前記アルミニウム合金膜の硬度が2〜15GPaであるところに特徴を有するものである(上記アルミニウム合金膜を「第2アルミニウム合金膜」ということがある)。
【0019】
前記第2アルミニウム合金膜は、更に、希土類元素、Ta、Ti、Cr、Mo、W、Cu、Zn、SiおよびMgよりなるZ'群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下「Z'群元素」ということがある)を合計で0.05原子%以上含み、かつ、前記X群元素、Geおよび前記Z'群元素の合計量が10原子%以下であるものが好ましい。
【0020】
前記第2アルミニウム合金膜は、Z'群元素として希土類元素を含み、かつ希土類元素量が0.05原子%以上であると共に、前記X群元素、Geおよび希土類元素の合計量が10原子%以下であるものが好ましい。
【0021】
前記希土類元素は、Nd、Gd、La、Y、Ce、PrおよびDyよりなる群から選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0022】
前記第2アルミニウム合金膜は、Z'群元素としてCuを含み、かつCu量が0.05原子%以上であるものが好ましい。
【0023】
上記構成を採用することで、前記アルミニウム合金膜の電気抵抗率を50μΩ・cm以下とすることができる。また、上記構成を採用することで、前記アルミニウム合金膜の電気抵抗率を25μΩ・cm以下とすることができる。
【0024】
また、前記透明導電膜は特に限定しないが、酸化インジウム錫(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)からなるものが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、タッチパネルセンサーの引き回し配線が規定のアルミニウム合金膜からなるため、上記配線の電気抵抗を小さくすることができると共に、透明導電膜と上記配線を直接接続させることができ、更に、外部装置(コントローラ)に接続する際に接続不良を起こし難く、経時的な電気抵抗の増加や断線も生じ難いため、信頼性の高いタッチパネルセンサーを提供することができる。また、規定のアルミニウム合金膜をスパッタリングで形成し、フォトリソグラフィー、エッチングを施す工程を採用することで、微細な加工を施すことができる。更に、タッチパネルセンサーの製造プロセスで用いられる現像液やレジスト剥離液に対する耐性も高めることができる。更には、透明導電層とアルミニウム合金膜との間に、電気伝導性を確保するための介在層を形成する必要がないため、プロセスを増やすことなく簡易なプロセスでタッチパネルセンサーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、ナノインデンターによる膜の硬度試験結果の一例を示した図である。
【図2】図2は、剥離液に対する耐性の評価結果の一例を示した光学顕微鏡写真である。
【図3】図3は、(a)Al−2原子%Ni−0.35原子%La合金膜、(b)Al−0.1原子%Ge−0.1原子%Gd合金膜の断面TEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述した通り、タッチパネルセンサーにおいて、引き回し配線の材料に純アルミニウムを用いた場合、透明導電膜と純アルミニウム膜の接触界面に、絶縁性の酸化アルミニウムが形成され、上記界面の電気伝導性が損なわれるといった問題が生じる。そこで本発明では、この様な純アルミニウムの問題点を改善すべく、アルミニウム合金材料に着目し、その成分組成について検討することとした。
【0028】
ところで、タッチパネルセンサーは、上述した通り、通常の使用時に、センサー端部に一時的な応力集中が発生し、配線の変形により断線等が生じて電気抵抗が増加する等の不具合が生じる場合がある。特に、引き回し配線を構成するアルミニウム合金膜が軟らかすぎる場合には、応力集中により配線の変形が繰り返されて、配線が劣化し破断や剥離を起こすといった問題が発生する。一方、上記アルミニウム合金膜が硬すぎると、押し込み荷重に対して変形が起こり難くなるため、微小なクラックが入ったり剥がれなどの劣化が生じ得る。以上のことから、本発明では、引き回し配線を構成するアルミニウム合金膜(第1アルミニウム合金膜、第2アルミニウム合金膜)の硬度を、2GPa以上(好ましくは2.5GPa以上)かつ15GPa以下(好ましくは10GPa以下、より好ましくは8GPa以下)と規定した。
【0029】
本発明者らは、上記適切な硬度を示して断線や経時的な電気抵抗の増加が起こり難く、かつ、低電気抵抗を示すと共に、透明導電膜との電気伝導性を確保することのできる引き回し配線として、一定量のNiおよび/またはCoを含むアルミニウム合金膜(第1アルミニウム合金膜)からなるものとすればよいことがわかった。以下、第1アルミニウム合金膜について説明する。
【0030】
タッチパネルセンサーにおける引き回し配線を、上記アルミニウム合金膜からなるものとした場合に、透明導電膜との電気伝導性を確保できる理由は、十分解明されたわけではないが、絶縁性の高い酸化アルミニウムの形成が抑制される;および/または、透明導電膜とアルミニウム合金膜の界面に導電パスが形成されて、透明導電膜との電気伝導性を確保できる;ことが考えられる。また、上記Niおよび/またはCoを含有させることで、固溶強化により上記適切な硬度を示す膜を実現できると考えられる。
【0031】
この様に、適切な硬度を示し、低電気抵抗率かつ透明導電膜との電気伝導性を確保できるアルミニウム合金膜(第1アルミニウム合金膜)を得るには、NiおよびCoよりなるX群から選ばれる少なくとも1種の元素(X群元素)を、合計で0.2原子%以上(好ましくは0.3原子%以上)含有させる必要がある。一方、上記X群元素の含有量が多過ぎると、アルミニウム合金膜自体の電気抵抗率が増加し易くなると共に、膜の硬度も必要以上に高くなり易い。よって、NiおよびCoよりなるX群から選ばれる少なくとも1種の元素は、合計で10原子%以下(好ましくは8原子%以下)とする。
【0032】
上記適切な硬度のアルミニウム合金膜を実現するには、上述の通り、規定量のX群元素(必要に応じて下記のZ群元素)を含有させ、成膜法としてスパッタリング法を採用して該X群元素を均一に分散させると共に、アルミニウム合金膜の成膜条件として、スパッタ時の基板温度やArガス圧を調整することが好ましい。基板温度が高いほど形成される膜の膜質はバルクに近づき、緻密な膜が形成され易く、膜の硬度が増加する傾向にある。また、Arガス圧を上げるほど膜の密度が低下し、膜の硬度が低下する傾向にある。この様な成膜条件の調整は、膜の構造が疎となって腐食が生じやすくなるのを抑制する観点からも好ましい。
【0033】
また、上記X群元素に加えて、更に、希土類元素、Ta、Ti、Cr、Mo、W、Cu、Zn、Ge、SiおよびMgよりなるZ群から選ばれる少なくとも1種の元素(Z群元素)を含有させることもできる。尚、本発明に用いられる希土類元素としては、ランタノイド元素(周期表において、原子番号57のLaから原子番号71のLuまでの合計15元素)に、Sc(スカンジウム)とY(イットリウム)とを加えた元素群を意味する(以下、同じ)。
【0034】
上記Z群元素を含有させることによって、膜の硬度をより調整し易くなると共に、製造プロセスで用いられる強アルカリ性の現像液やレジスト剥離液に対する耐性を高めることができる。具体的には、例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液)によるレジスト現像工程やアミン系剥離液によるレジスト剥離・洗浄工程でのアルミニウムの溶出や腐食を抑制でき、その結果、配線の断線等を抑制することができる。
【0035】
上記効果を十分に発揮させるには、Z群元素を合計で0.05原子%以上含有させることが好ましい。Z群元素を合計で0.15原子%以上(更に好ましくは0.2原子%以上)含有させることがより好ましい。しかし、Z群元素が過剰に含まれると、上記X群元素の場合と同様に、アルミニウム合金膜自体の電気抵抗率が増加し易くなると共に、膜の硬度も必要以上に高くなり易い。よって、Z群元素の含有量は、前記X群元素と該Z群元素の合計量が10原子%以下(より好ましくは7原子%以下)となるようにすることが好ましい。
【0036】
上記Z群元素として希土類元素を含み、かつ希土類元素量が0.05原子%以上であることが好ましい。より好ましくは0.1原子%以上である。しかし、希土類元素が過剰に含まれると、上記X群元素の場合と同様に、アルミニウム合金膜自体の電気抵抗率が増加し易くなると共に、膜の硬度も必要以上に高くなり易い。よって、希土類元素の含有量は、前記X群元素および該希土類元素の合計量が10原子%以下(より好ましくは7原子%以下)となるようにすることが好ましい。
【0037】
上記希土類元素は、Nd、Gd、La、Y、Ce、PrおよびDyよりなる群から選択される1種以上の元素であることがより好ましい。
【0038】
上記Z群元素の中でも、例えばLa、Nd、Cu、Ge、Gdの使用がより好ましく、これらのうち1種または2種以上を任意の組み合わせで用いることがより好ましい。
【0039】
上記Z群元素の中でも特にCuを含有させることによって、X群元素、即ちNiおよび/またはCoの析出物を微細分散させることができ、その結果、レジスト剥離液に対する耐性(剥離液耐性)を向上させることができる。
【0040】
上記効果を十分に発揮させるには、Cuを0.05原子%以上含有させるのがよい。より好ましくは0.1原子%以上である。
【0041】
また上記効果は、アルミニウム合金膜に含まれるX群元素量に対して一定以上のCuを含有させることで顕著に現れる。具体的には、Cu(原子%)/X群元素(原子%)が0.3以上で効果が顕著に現れる。前記Cu(原子%)/X群元素(原子%)はより好ましくは0.5以上である。尚、Cu(原子%)/X群元素(原子%)の上限については特に限定されず、上記Cu量の上限値および上記X群元素量の下限値からCu(原子%)/X群元素(原子%)の上限は50となる。
【0042】
上記第1アルミニウム合金膜として、例えばAl−2原子%Ni−0.35原子%La合金膜、Al−1原子%Ni−0.5原子%Cu−0.35原子%La合金膜、Al−0.6原子%Ni−0.5原子%Cu−0.3原子%La合金膜が挙げられる。
【0043】
本発明は、タッチパネルセンサーの引き回し配線に用いられるアルミニウム合金膜として、X群元素(NiおよびCoよりなるX群から選ばれる少なくとも1種の元素)を合計で0.02原子%以上、およびGeを0.2原子%以上含み、前記X群元素とGeの合計量が10原子%以下であるアルミニウム合金膜(第2アルミニウム合金膜)も規定する。
【0044】
第2アルミニウム合金膜におけるX群元素は、引き回し配線として、適切な硬度を示して断線や経時的な電気抵抗の増加が起こり難く、低電気抵抗を示し、かつ透明導電膜との電気伝導性に優れたものを実現させるのに有効な元素である。上記透明導電膜との優れた電気伝導性を確保できる理由として、上記Geとの複合添加により、第1アルミニウム合金膜の場合と同様に、絶縁性の高い酸化アルミニウムの形成が抑制される;および/または、透明導電膜とアルミニウム合金膜の界面に導電パスが形成されて、透明導電膜との電気伝導性を確保できる;ことが考えられる。
【0045】
上記の通り、GeとX群元素を複合添加することで、X群元素の含有量が比較的少ない場合であっても、ITO膜との優れた電気伝導性を確保することができる。この様な観点から、第2アルミニウム合金膜のX群元素量の下限を合計で0.02原子%とする。第2アルミニウム合金膜のX群元素量は、好ましくは0.05原子%以上、より好ましくは0.07原子%以上である。一方、上記X群元素量が多過ぎると、アルミニウム合金膜自体の電気抵抗率が増加し易くなると共に、膜の硬度も必要以上に高くなり易い。よって、X群元素量は、Geとの合計量で10原子%以下(より好ましくは7原子%以下)とする。
【0046】
Geは、前記第1アルミニウム合金膜で必要に応じて含有させるZ群元素に相当するが、第2アルミニウム合金膜では、後述する一定量以上のGeが、X群元素の含有量が比較的少ない場合であっても、ITO膜との優れた電気伝導性を確保できる、といった効果を発揮する。更にGeは、アルカリ性水溶液、例えば強アルカリ性の現像液やアミン系レジスト剥離液の水溶液などに対する耐性を高めるのに有効な元素であり、また、アルミニウム合金膜の硬度向上にも多少寄与する元素である。
【0047】
上記Geの添加効果を発揮させるには、Geを0.2原子%以上含有させる。好ましくは0.3原子%以上、より好ましくは0.4原子%以上、更に好ましくは0.5原子%以上である。一方、Geが過剰に含まれると、アルミニウム合金膜自体の電気抵抗率が増加し易くなると共に、膜の硬度も必要以上に高くなり易い。よって、第2アルミニウム合金膜におけるGe量は、上記の通り、X群元素との合計量で10原子%以下(より好ましくは7原子%以下)とする。
【0048】
また第2アルミニウム合金膜には、上記X群元素およびGeに加えて更に、希土類元素、Ta、Ti、Cr、Mo、W、Cu、Zn、SiおよびMgよりなるZ'群から選ばれる少なくとも1種の元素(Z'群元素)を含有させることもできる。
【0049】
上記Z'群元素を含有させることによって、上述したZ群元素の場合と同様に、膜の硬度をより高め易くなると共に、製造プロセスで用いられる強アルカリ性の現像液やレジスト剥離液に対する耐性を高めることができる。具体的には、例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液)によるレジスト現像工程やアミン系剥離液によるレジスト剥離・洗浄工程でのアルミニウムの溶出や腐食を抑制でき、その結果、配線の断線等を抑制することができる。
【0050】
上記効果を十分に発揮させるには、Z'群元素を合計で0.05原子%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.1原子%以上である。しかし、Z'群元素が過剰に含まれると、上記X群元素やGeの場合と同様に、アルミニウム合金膜自体の電気抵抗率が増加し易くなると共に、膜の硬度も必要以上に高くなり易い。よって、Z'群元素の含有量は、前記X群元素、Geおよび該Z'群元素の合計量が10原子%以下(より好ましくは7原子%以下)となるようにすることが好ましい。
【0051】
上記Z'群元素として希土類元素を含み、かつ希土類元素量が0.05原子%以上であることが好ましい。より好ましくは0.1原子%以上である。しかし、希土類元素が過剰に含まれると、上記X群元素やGeの場合と同様に、アルミニウム合金膜自体の電気抵抗率が増加し易くなると共に、膜の硬度も必要以上に高くなり易い。よって、希土類元素の含有量は、前記X群元素、Geおよび該希土類元素の合計量が10原子%以下(より好ましくは7原子%以下)となるようにすることが好ましい。
【0052】
上記希土類元素は、Nd、Gd、La、Y、Ce、PrおよびDyよりなる群から選択される1種以上の元素であることが好ましい。
【0053】
上記X群元素、Geおよび希土類元素を含む第2アルミニウム合金膜として、例えばAl−0.1原子%X群元素−Ge−0.3原子%以上のNdまたはLa合金膜(例えばAl−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.5原子%Nd合金膜)や、Al−0.2原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%La合金膜、Al−0.2原子%Ni−0.5原子%Ge−0.2原子%La合金膜、Al−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.3原子%Nd合金膜、Al−0.2原子%Co−0.5原子%Ge−0.2原子%La合金膜、Al−0.1原子%Co−0.5原子%Ge−0.3原子%Nd合金膜などが挙げられる。
【0054】
また、上記Z'群元素の中でも特にCuを含有させることによって、X群元素、即ちNiおよび/またはCoの析出物を微細分散させることができ、その結果、剥離液耐性を向上させることができる。
【0055】
上記効果を十分に発揮させるには、Cuを0.05原子%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.07原子%以上である。
【0056】
また上記効果は、第2アルミニウム合金膜に含まれるX群元素量に対して一定以上のCuを含有させることで顕著に現れる。具体的には、Cu(原子%)/X群元素(原子%)が0.3以上で効果が顕著に現れる。前記Cu(原子%)/X群元素(原子%)はより好ましくは0.5以上である。尚、Cu(原子%)/X群元素(原子%)の上限については特に限定されず、上記Cu量の上限値および上記X群元素量の下限値からCu(原子%)/X群元素(原子%)の上限は500となる。
【0057】
上記適切な硬度の第2アルミニウム合金膜を得るには、上記規定量のX群元素およびGe(必要に応じてZ'群元素)を含有させ、アルミニウム合金膜の成膜条件として、スパッタ時の基板温度やArガス圧を調整することが好ましい。基板温度が高いほど形成される膜の膜質はバルクに近づき、緻密な膜が形成され易く、膜の硬度が増加する傾向にある。また、Arガス圧を上げるほど膜の密度が低下し、膜の硬度が低下する傾向にある。この様な成膜条件の調整は、膜の構造が疎となって腐食が生じやすくなるのを抑制する観点からも好ましい。
【0058】
本発明に係る第1アルミニウム合金膜および第2アルミニウム合金膜において、硬度の向上は、Al結晶粒を微細化することによっても図ることができる。Al結晶粒の微細化には、製造プロセスで受けるアルミニウム合金膜の熱履歴に応じた合金元素の添加が有効であり、アルミニウム合金膜の熱履歴(例えば、アルミニウム合金膜成膜後の絶縁膜(SiN膜)形成時の熱処理温度)が高い(約250℃以上である)場合には、合金元素として、希土類元素や高融点金属(Ta、Ti、Cr、Mo、W)を添加することによってAl結晶粒の微細化を図ることができ、また、アルミニウム合金膜の熱履歴が低い(約200℃以下である)場合には、合金元素としてGeを添加することAl結晶粒の微細化を図ることができる。
【0059】
本発明に係る第1アルミニウム合金膜および第2アルミニウム合金膜(以下、これらを「アルミニウム合金膜」と総称することがある)の成分組成は上述の通りであり、残部はアルミニウムおよび不可避的不純物である。不可避的不純物として、例えば、上記アルミニウム合金膜の製造過程等で混入する不可避的不純物(例えば酸素(O)等)を含み得る。
【0060】
上記構成とすることで、タッチパネルセンサーの引き回し配線を構成するアルミニウム合金膜として、電気抵抗率が50μΩ・cm以下、好ましくは25μΩ・cm以下(より好ましくは20μΩ・cm以下)のものを実現することができる。
【0061】
本発明は、上記アルミニウム合金膜を形成するための方法まで規定するものではないが、細線化や膜内の合金成分の均一化を図る観点からは、スパッタリング法で形成することが好ましい。また、蒸着法で上記アルミニウム合金膜を形成することもできるが、添加元素量を容易にコントロールする観点からでスパッタリング法の方が好ましい。
【0062】
本発明のタッチパネルセンサーは、透明導電膜と直接接続するアルミニウム合金膜からなる引き回し配線以外の構成に特に限定はなく、該分野で公知のあらゆる構成を採用することができる。
【0063】
例えば、抵抗膜方式のタッチパネルセンサーは、次の様にして製造することができる。即ち、基板上に透明導電膜を形成してから、レジスト塗布、露光、現像、エッチングを順次行った後、アルミニウム合金膜を形成して、レジスト塗布、露光、現像、エッチングを実施して引き回し配線を形成し、次いで、該配線を被覆する絶縁膜等を形成して、上部電極とすることができる。また、基板上に透明導電膜を形成してから、上部電極と同様にフォトリソグラフィを行い、次いで、上部電極の場合と同様にアルミニウム合金膜からなる引き回し配線を形成してから、該配線を被覆する絶縁膜を形成し、マイクロ・ドット・スペーサ等を形成して下部電極とすることができる。そして、上記の上部電極、下部電極、および別途形成したテイル部分を張り合わせて、タッチパネルセンサーを製造することができる。
【0064】
上記透明導電膜は特に指定しないが、代表例として、酸化インジウム錫(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)からなるものを使用することができる。また、上記基板(透明基板)は、一般的に使用されているものとして、例えばガラス、ポリカーボネート系、またはポリアミド系のものを使用することができ、例えば、固定電極である下部電極の基板にガラスを用い、可撓性の必要な上部電極の基板にポリカーボネート系等のフィルムを用いることができる。
【0065】
また、本発明のタッチパネルセンサーは、上記抵抗膜方式以外に、静電容量方式や超音波表面弾性波方式等のタッチパネルセンサーとしても用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下では、本発明に係るアルミニウム合金膜が、タッチパネルセンサーの引き回し配線として好適であることを確認すべく、硬度試験、透明導電膜との電気伝導性の評価、アルミニウム合金膜の電気抵抗率の測定、および、現像液または剥離液に対する耐性の評価を行った。
【0067】
尚、本実施例では、本発明をより具体的に説明するが、本発明は本実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0068】
〈実施例1〉(ナノインデンターによる硬度試験)
無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を基板とし、その表面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、下記表1〜6に示すアルミニウム合金膜(膜厚はいずれも約300nm)を形成した。成膜は、成膜前にチャンバー内の雰囲気を一旦、到達真空度:3×10−6Torrにしてから、各アルミニウム合金膜と同一の成分組成の直径4インチの円盤型ターゲットを用い、下記に示す条件で行った。尚、形成されたアルミニウム合金膜の組成は、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)質量分析法で確認した。
(スパッタリング条件)
・Arガス圧:2mTorr
・Arガス流量:30sccm
・スパッタパワー:260W
・基板温度:室温
【0069】
上記の様にして得られたアルミニウム合金膜を用いて、ナノインデンターによる膜の硬度試験を行った。この試験では、MTS社製 Nano Indenter XP (解析用ソフト:Test Works 4)を用い、XPチップを用い、連続剛性測定を行った。押し込み深さを300nmとし、励起振動周波数:45Hz、振幅:2nmの条件で15点を測定した結果の平均値を求めた。尚、同様の測定を、アルミニウム合金膜のかわりに、純アルミニウム膜を形成した試料についても行った。
【0070】
上記測定結果の一例を図1に示す(尚、図1中のsample No.は測定便宜上つけられたものであって、表1〜6のNo.とは無関係である。)。図1では、Al−2原子%Ni−0.35原子%La合金膜の場合を示しているが、表1〜6のアルミニウム合金膜および純アルミニウム膜についても、同様の測定を行った。
【0071】
その結果を表1〜6に示す。表1〜6から次の様に考察できる。合金元素(第1アルミニウム合金膜中のX群元素、Z群元素、第2アルミニウム合金膜中のX群元素、Ge、希土類元素)の添加に伴い、アルミニウム合金膜の硬度は増加する傾向にあり、第1アルミニウム合金膜において、Z群元素を添加する場合に該硬度を10GPa以下とするには、X群元素およびZ群元素の含有量の上限を10原子%とするのがよいことがわかる。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
〈実施例2〉(下部:透明導電膜と上部:アルミニウム合金膜の電気伝導性の評価)
以下では、透明導電膜、アルミニウム合金膜の順に積層させた場合の両者の接触部分の接続抵抗値を測定し、該積層構造におけるアルミニウム合金膜の透明導電膜との電気伝導性を評価した。
【0079】
無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を基板とし、その表面に、酸化物透明導電膜であるITO膜またはIZO膜(膜厚はいずれも50nm以下)を、DCマグネトロンスパッタリング法により室温で形成し、フォトリソグラフィー、エッチングによるパターニングを行った。次に、その上部に、表1〜6のアルミニウム合金膜(膜厚はいずれも約300nm)を、上記実施例1と同様に成膜した。その後、アルミニウム合金膜に対して、レジスト塗布、露光、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)による現像を実施して、ケルビンパターン(透明導電膜とアルミニウム合金膜との接触面積は80μm角)を形成した。
【0080】
このケルビンパターンを用いて、透明導電膜とアルミニウム合金膜の界面の接続抵抗値を四端子ケルビン法で測定した。上記測定には、四端子のマニュアルプローバーと半導体パラメータアナライザー「HP4156A」(ヒューレットパッカード社製)を用いた。
【0081】
そして、上記接続抵抗値が150Ω以下であるものを良好とし、150Ωを超えるものを不良と判断した。尚、同様の測定を、アルミニウム合金膜のかわりに、純アルミニウム膜を形成した試料についても行った。しかし、純アルミニウム膜を形成した試料は、電気接触不良により測定できなかった。
【0082】
上記測定結果を表1〜6に併記する。表1〜6から、透明導電膜との電気伝導性を確保するには、X群元素の含有量を0.2原子%以上とすればよいことがわかる。
【0083】
〈実施例3〉(下部:アルミニウム合金膜と上部:透明導電膜の電気伝導性の評価)
以下では、アルミニウム合金膜、透明導電膜の順に積層させた場合の両者の接触部分の接続抵抗値を測定し、該積層構造におけるアルミニウム合金膜の透明導電膜との電気伝導性を評価した。
【0084】
無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を基板とし、その表面に、表1〜6のアルミニウム合金膜(膜厚はいずれも約300nm)を、上記実施例1と同様に成膜した。次に、これらの試料に、製造プロセスにおける熱履歴を模擬して270℃で10分間の熱処理を施した。熱処理雰囲気は、真空(真空度:3×10−4Pa以下)または窒素雰囲気とした。その後、フォトリソグラフィー、エッチングによるパターニングを行った。次に、その上部に、上記実施例2と同様に、ITO膜またはIZO膜(膜厚:50nm以下)を成膜してから、フォトリソグラフィー、エッチングを行って、ケルビンパターン(透明導電膜とアルミニウム合金膜との接触面積は80μm角)を形成し、上記実施例2と同様に接続抵抗値を四端子ケルビン法で測定した。
【0085】
上記接続抵抗値の測定は、上記の様にして形成したas−depositedのケルビンパターン、および、アルミニウム合金膜の成膜後に、真空または不活性ガス雰囲気にて250℃で30分間の熱処理を施し、その後に上記熱履歴を模擬した270℃で10分間の熱処理を行ってから、上記の通り形成したケルビンパターンについて行った。
【0086】
そして、上記接続抵抗値が150Ω以下であるものを良好とし、150Ωを超えるものを不良と判断した。同様の測定を、アルミニウム合金膜のかわりに、純アルミニウム膜を形成した試料についても行った。しかし、純アルミニウム膜を形成した試料は、電気接触不良により測定できなかった。
【0087】
上記測定結果を表1〜6に併記する。表1〜6から、透明導電膜との電気伝導性を確保するには、第1アルミニウム合金膜の場合、X群元素の含有量を0.2原子%以上、第2アルミニウム合金膜の場合、X群元素の含有量を0.02原子%以上かつGe量を0.2原子%以上とすればよいことがわかる。
【0088】
また表1〜6から、アルミニウム合金膜を形成後に250℃で30分間の熱処理を施した試料では、該熱処理を行わない試料と比較して、透明導電膜との接続抵抗が小さくなる傾向にあることを確認できる。
【0089】
これは上記熱処理によって、アルミニウム合金中に含まれる合金元素がアルミニウム結晶粒外に析出され、透明導電膜とアルミニウム合金膜の界面付近で導電パスを形成するためと考えられる。
【0090】
熱処理を施すことにより、更に以下の様なメリットがある。即ち、引き回し配線パターニングのためのTMAHによるレジスト現像工程の前に、真空または不活性ガス雰囲気にてアルミニウム合金膜を250℃以上の温度で熱処理すると、アルミニウム合金の組織変化によりピンホールや貫通粒界などのボイドを低減・消滅させることができる。また、基板温度を100℃以上の温度に加熱してアルミニウム合金膜を形成すると共に、引き回し配線パターニングのためのTMAHによるレジスト現像工程の前に、真空または不活性ガス雰囲気にて100℃以上の温度で熱処理すると、アルミニウム合金膜のカバレッジ(特に酸化物透明導電膜パタン端でのカバレッジ)が改善されて、現像液等の薬液の染み込みによる腐食を防止することができる。
【0091】
更に、熱処理を行うことで、ガルバニック腐食を抑制することができる。ガルバニック腐食は、例えば、ITOなどの酸化物透明導電膜と純アルミニウム膜のように、異種金属間の電極電位差が大きい場合に生じるといわれている。例えば、フォトレジストのアルカリ現像液である水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液中のAg/AgCl標準電極に対する電極電位は、アモルファス−ITOが約−0.17V、ポリ−ITOが約−0.19Vであるのに対し、純アルミニウムは約−1.93Vと非常に低い。更に、純アルミニウムは上述した通り、非常に酸化され易い。そのため、TMAH水溶液に浸漬中に、純アルミニウム膜と酸化物透明導電膜の界面で電池反応が発生し、腐食が発生する。TMAH水溶液が、アルミニウム合金膜に生じたピンホールや貫通粒界に沿って酸化物透明導電膜との界面まで侵入し、その界面でガルバニック腐食が発生すると、様々な不具合、例えば酸化物透明導電膜の黒化、それによる画素の黒化、配線細り・断線などのパタン形成不良、純アルミニウム膜と酸化物透明導電膜との接続抵抗の増大、それによる表示(点灯)不良などが生じる。
【0092】
本発明において、上記熱処理を施すことにより上記ガルバニック腐食をより抑制することができる。この熱処理により、アルミニウム合金膜中のNiおよび/またはCoの析出が促進されてアルミニウム合金膜の電極電位が高くなり、透明導電膜との電極電位差が縮まるためガルバニック腐食が抑制されることが理由として考えられる。
【0093】
以上のことから、透明導電膜との電気伝導性や耐食性をより高めるべく、上記の様な熱処理をアルミニウム合金膜に施してもよい。
【0094】
〈実施例4〉(アルミニウム合金膜の電気抵抗率の測定)
無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を基板とし、その表面に、表1〜6のアルミニウム合金膜(膜厚はいずれも約300nm)を、上記実施例1と同様に成膜した。その後、成膜後に熱処理を行なわずに、TMAHによるフォトリソグラフィーおよびエッチングを行って、幅100μm、長さ10mmのストライプ状パターン(電気抵抗率測定用パターン)に加工してから、該パターンの電気抵抗率を、プローバーを使用した直流4探針法で室温にて測定した。そして、電気抵抗率が50μΩ・cmを超えるものを不良、50μΩ・cm以下のものを良好と評価した。尚、同様の測定を、アルミニウム合金膜のかわりに、純アルミニウム膜を形成した試料についても行った。
【0095】
その結果を表1〜6に併記する。表1〜6から、第1アルミニウム合金膜中の合金元素(X群元素およびZ群元素)量や、第2アルミニウム合金膜中の合金元素(X群元素、Geおよび希土類元素)が多いほど電気抵抗率は大きくなっており、電気抵抗率を低減させる観点からは、第1アルミニウム合金膜中のX群元素およびZ群元素の合計量や、第2アルミニウム合金膜中のX群元素、Geおよび希土類元素の合計量を10原子%以下とすればよいことがわかる。
【0096】
〈実施例5〉(剥離液に対する耐性の評価)
無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を基板とし、その表面に、表1〜6のアルミニウム合金膜(膜厚はいずれも約300nm)を、上記実施例1と同様に成膜した。
【0097】
そして、上記アルミニウム合金膜に対し、製造プロセスにおける熱履歴を模擬して窒素フロー中にて320℃で30分間の熱処理を行ってから、アミン系剥離液(東京応化工業株式会社製:「TOK106」)の水溶液(pH10に調整)に5分間浸漬した。そして、浸漬後のアルミニウム合金膜に見られる黒点数が、上記浸漬後のAl−2原子%Ni−0.35原子%La合金膜に見られる黒点数と比較して、非常に少ない場合を◎(優良)、少ない場合を○(良好)、同等である場合を△、多い場合を×(不良)と評価した。
【0098】
尚、同様の評価を、アルミニウム合金膜のかわりに、純アルミニウム膜を形成した試料についても行った。
【0099】
その結果を表1〜6に併記する。表1〜6から、剥離液に対する耐性を高めるには、Z群元素やZ'群元素を0.05原子%以上、好ましくは0.15原子%以上含有させるのがよいことがわかる。特にはCuを含有させることにより、X群元素由来の析出物が微細化し、その結果、剥離液水溶液に暴露されても巨大な腐食が発生しにくく、より優れた剥離液耐性を示すことを確認した。
【0100】
また、上記浸漬後のアルミニウム合金膜表面の光学顕微鏡観察を行った。その観察例を図2に示す。この図2から、Al−Ni−La合金に更にIn(本発明で規定する合金元素でない元素)を添加したものは、膜一面に黒点が見られ、上記剥離液に対する耐性が得られていないことがわかる。これに対し、Al−Ni−La合金に更にMgを添加した本発明に係るアルミニウム合金膜の場合には、黒点数が少ないことがわかる。この様な効果は、Mg以外のZ群元素やZ'群元素についても確認された。このことから、推奨される量のZ群元素やZ'群元素を添加することにより、剥離液に対する耐性を確保できることがわかる。
【0101】
〈実施例6〉(現像液に対する耐性の評価)
無アルカリ硝子板(板厚0.7mm、直径4インチ)を基板とし、その表面に、表1〜6のアルミニウム合金膜(膜厚はいずれも約300nm)を、上記実施例1と同様に成膜した。
【0102】
そして、上記アルミニウム合金膜に対し、レジスト塗布、露光、現像液(TMAH)(2.38質量%)による現像を実施した後、レジストをアセトンで除去し、アルミニウム合金膜の膜厚を段差計で測定した。そして、TMAHによるアルミニウム合金のエッチングレート換算(1分間あたりの膜厚減少量)を求め、この1分間あたりの膜厚減少量が、Al−2.5原子%Ni合金膜の場合と比較して小さい場合を○(良好)、同等である場合を△、それよりも大きい場合を×(不良)とした。
【0103】
尚、同様の評価を、アルミニウム合金膜のかわりに、純アルミニウム膜を形成した試料についても行った。
【0104】
その結果を表1〜6に併記する。表1〜6から、Z群元素やZ'群元素を添加することにより、現像液に浸漬時のアルミニウム合金膜の上記膜厚減少量(エッチング量)が減少しており、Z群元素やZ'群元素の添加がアルミニウム合金の現像液に対する耐性向上に寄与していることを確認できる。またこの様な効果を十分発揮させるには、Z群元素やZ'群元素を0.05原子%以上含有させるのがよいことがわかる。
【0105】
また、アルミニウム合金膜の組織観察の一例として、図3に、(a)Al−2原子%Ni−0.35原子%La合金膜、(b)Al−0.1原子%Ge−0.1原子%Gd合金膜の断面TEM写真を示す。図3(a)(b)の各部分Aを対比すると、本発明の成分組成を満たす(a)Al−2原子%Ni−0.35原子%La合金膜は、結晶粒が微細となっていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜およびこれと直接接続するアルミニウム合金膜からなる引き回し配線を有するタッチパネルセンサーであって、
前記アルミニウム合金膜は、NiおよびCoよりなるX群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下「X群元素」という)を合計で0.2〜10原子%含み、かつ、前記アルミニウム合金膜の硬度は2〜15GPaであることを特徴とするタッチパネルセンサー。
【請求項2】
前記アルミニウム合金膜は、更に、希土類元素、Ta、Ti、Cr、Mo、W、Cu、Zn、Ge、SiおよびMgよりなるZ群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下「Z群元素」という)を合計で0.05原子%以上含み、かつ、前記X群元素および前記Z群元素の合計量が10原子%以下である請求項1に記載のタッチパネルセンサー。
【請求項3】
前記アルミニウム合金膜は、更に、希土類元素、Ta、Ti、Cr、Mo、W、Cu、Zn、Ge、SiおよびMgよりなるZ群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下「Z群元素」という)を合計で0.15原子%以上含み、かつ、前記X群元素および前記Z群元素の合計量が10原子%以下である請求項1に記載のタッチパネルセンサー。
【請求項4】
前記アルミニウム合金膜は、Z群元素として希土類元素を含み、かつ希土類元素量が0.05原子%以上であると共に、前記X群元素および希土類元素の合計量が10原子%以下である請求項2または3に記載のタッチパネルセンサー。
【請求項5】
前記希土類元素は、Nd、Gd、La、Y、Ce、PrおよびDyよりなる群から選択される1種以上の元素である請求項2〜4のいずれかに記載のタッチパネルセンサー。
【請求項6】
前記アルミニウム合金膜は、Z群元素としてCuを含み、かつCu量が0.05原子%以上である請求項2〜5のいずれかに記載のタッチパネルセンサー。
【請求項7】
透明導電膜およびこれと直接接続するアルミニウム合金膜からなる引き回し配線を有するタッチパネルセンサーであって、
前記アルミニウム合金膜は、NiおよびCoよりなるX群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下「X群元素」という)を合計で0.02原子%以上、およびGeを0.2原子%以上含み、前記X群元素とGeの合計量が10原子%以下であり、かつ、前記アルミニウム合金膜の硬度は2〜15GPaであることを特徴とするタッチパネルセンサー。
【請求項8】
前記アルミニウム合金膜は、更に、希土類元素、Ta、Ti、Cr、Mo、W、Cu、Zn、SiおよびMgよりなるZ'群から選ばれる少なくとも1種の元素(以下「Z'群元素」という)を合計で0.05原子%以上含み、かつ、前記X群元素、Geおよび前記Z'群元素の合計量が10原子%以下である請求項7に記載のタッチパネルセンサー。
【請求項9】
前記アルミニウム合金膜は、Z'群元素として希土類元素を含み、かつ希土類元素量が0.05原子%以上であると共に、前記X群元素、Geおよび希土類元素の合計量が10原子%以下である請求項8に記載のタッチパネルセンサー。
【請求項10】
前記希土類元素は、Nd、Gd、La、Y、Ce、PrおよびDyよりなる群から選択される1種以上の元素である請求項8または9に記載のタッチパネルセンサー。
【請求項11】
前記アルミニウム合金膜は、Z'群元素としてCuを含み、かつCu量が0.05原子%以上である請求項8〜10のいずれかに記載のタッチパネルセンサー。
【請求項12】
前記アルミニウム合金膜の電気抵抗率が50μΩ・cm以下である請求項1〜11のいずれかに記載のタッチパネルセンサー。
【請求項13】
前記アルミニウム合金膜の電気抵抗率が25μΩ・cm以下である請求項1〜12のいずれかに記載のタッチパネルセンサー。
【請求項14】
前記透明導電膜が、酸化インジウム錫(ITO)または酸化インジウム亜鉛(IZO)からなる請求項1〜13のいずれかに記載のタッチパネルセンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−245422(P2009−245422A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38052(P2009−38052)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】