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タンパク質結晶製造方法
説明

タンパク質結晶製造方法

【課題】タンパク質結晶に損傷を与えることなく、かつ、簡便に、X線回折実験に適用するためのタンパク質結晶試料の調製方法を提供する。
【解決手段】タンパク質及びゲル化剤を含む溶液をイオン架橋形成溶液に加えて、タンパク質溶液を内包したイオン架橋ゲルカプセルを形成させる工程を含む、タンパク質結晶化用カプセルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質結晶製造方法、タンパク質結晶化用組成物、タンパク質結晶化用カプセル製造用キット、タンパク質結晶の製造方法、タンパク質結晶化用プレート、タンパク質結晶組成物及びタンパク質結晶構造解析方法に関する。
【0002】
本発明により得られるタンパク質結晶は、X線結晶構造解析に適用するためのタンパク質結晶試料として使用することができる。
【背景技術】
【0003】
近年の構造生物学において、NMR、電子顕微鏡を用いたタンパク質立体構造解析のための技術は飛躍的に発展しているが、良質タンパク質結晶さえ得られればX線結晶構造解析が原子分解能での立体構造を明らかにする最適な手法である。大型放射光施設SPring-8においては、最適化された構造生物学用理研ビームラインに加えて、新たにマイクロフォーカスビームラインも稼働し、これまで測定が困難であった微結晶の回折データ収集が可能になりつつある。例えば、特許文献1、2にはタンパク質の結晶化方法が開示されている。
【0004】
従来のタンパク質結晶化技術開発は、ハンギングドロップ、シッティングドロップ蒸気拡散法、オイルマイクロバッチ法等の結晶化方法をもとに、大規模結晶化条件スクリーニング、ナノスケールでのサンプル微量分注、さらに迅速な結晶化セットアップが可能なタンパク質結晶化装置の開発が主であった。結果として、多くのタンパク質立体構造が決定された。
【0005】
しかし、従来技術をもってしても良質タンパク質結晶は得難いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-055931号公報
【特許文献2】特開2007-230841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、良質タンパク質結晶が得難い問題として、X線結晶構造回折を行う際に結晶化したタンパク質を取り出す過程において、マウント器具等の直接接触によってタンパク質結晶が損傷し、その結果として良質タンパク質結晶が損なわれることに着目した。本発明は、タンパク質結晶に損傷を直接与えることなく、簡便に取り出して扱うことのできる新たな結晶化技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、イオン架橋による高分子ゲルのカプセル内で結晶を析出させる手法を開発した。
【0009】
本発明は以下の(1)〜(14)を提供するものである。
(1) タンパク質及びゲル化剤を含む溶液をイオン架橋形成溶液に加えて、タンパク質溶液を内包したイオン架橋ゲルカプセルを形成させる工程を含む、タンパク質結晶化用カプセルの製造方法。
(2) イオン架橋ゲルを含むシェルにタンパク質溶液を内包してなるタンパク質結晶化用組成物。
(3) ゲル化剤及びイオン架橋形成溶液を含む、タンパク質結晶化用カプセル製造用キット。
(4) 結晶化溶液と、不揮発性の油状物と、結晶化溶液及び不揮発性の油状物を収容する1つ又は複数のウェルを有するタンパク質結晶化用プレートとをさらに含む、(3)に記載のタンパク質結晶化用カプセル製造用キット。
(5) イオン架橋形成溶液と結晶化溶液が同一である、(4)に記載のタンパク質結晶化用カプセル製造用キット。
(6) 結晶化溶液と不揮発性の油状物がプレートのウェルに収容され、ウェルをシールするフィルムをさらに含む、(4)又は(5)に記載のタンパク質結晶化用カプセル製造用キット。
(7) (a)タンパク質及びゲル化剤を含む溶液をイオン架橋形成溶液に加えてイオン架橋ゲルカプセルを形成させる工程、及び
(b)工程(a)で形成されたカプセルを結晶化溶液中で維持する工程
を含む、タンパク質結晶の製造方法。
(8) イオン架橋形成溶液と結晶化溶液が同一であり、工程(a)の後、イオン架橋ゲルカプセルをそのまま放置して工程(b)で結晶化させる、(7)に記載のタンパク質結晶の製造方法。
(9) (a)イオン架橋形成溶液である結晶化溶液と、結晶化溶液を覆う不揮発性の油状物とを収容した1つ又は複数のウェルを有するタンパク質結晶化用プレートを提供する工程、及び
(b)タンパク質及びゲル化剤を含む溶液を、不揮発性の油状物に加え、結晶化溶液中でイオン架橋ゲルカプセルを形成及び維持する工程
を含む、タンパク質結晶の製造方法。
(10) 1つ又は複数の二価以上の金属陽イオンを含む結晶化溶液と、結晶化溶液を覆う不揮発性の油状物とを収容した複数のウェルを有するタンパク質結晶化用プレート。
(11) イオン架橋ゲルカプセルのシェルにタンパク質結晶を内包する、タンパク質結晶組成物。
(12) タンパク質結晶を内包するイオン架橋ゲルカプセルをタンパク質構造解析に供する工程を含む、タンパク質結晶構造解析方法。
(13) タンパク質結晶を内包するイオン架橋ゲルカプセルを容器内の液体窒素に保存する工程を含む、タンパク質結晶化用カプセルの保存方法。
(14) ゲル化剤がアルギン酸のアルカリ金属塩であり、イオン架橋形成溶液がカルシウムイオンを含む水溶液であり、イオン架橋ゲルがアルギン酸カルシウムゲルである、(1)に記載の製造方法、(2)に記載の組成物、(3)〜(6)のいずれか一項に記載のキット、(7)〜(9)のいずれか一項に記載の製造方法、(11)に記載の組成物、(12)に記載の解析方法、又は(13)に記載の保存方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タンパク質の結晶に作業者が直接接触することがないため、結晶に損傷を与えることがなく、そして、得られた結晶を全てX線回折に用いることができるため、微量のサンプルでもX線回折用の結晶試料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】カプセルの作製及び結晶化手順の一態様を模式的に示す図である。
【図2】カプセル内から析出したタンパク質結晶を示す写真である。(a) Chicken Egg White由来lysozyme、 (b) Trichoderma longibrachiatum 由来xylanase、 (c)Pyrococcus horikoshii OT3由来diphthine synthase (ID70067タンパク質,Y175H)、 (d)Thermus thermophilus HB8由来probable α-ribazole-5’-phosphate phosphatase(ID00367タンパク質)、 (e)Thermus thermophilus HB8由来glucose-1-phosphate thymidylyltransferase(ID00403タンパク質)、(f) カプセル内に導入したモレキュラーシーブ(MS)から析出したタンパク質。全てのカプセルの直径は約3mmである。
【図3】回折計にマウントしたタンパク質結晶含有カプセル((a及びb))及び回折イメージ(c)を示す図である。
【図4】ポリイオンコンプレックスによるポリマーカプセルの作製及び結晶化手順の一態様を模式的に示す図である。
【図5】カプセル内から析出したタンパク質結晶を示す写真である。 (a−k) 1.0μl分注。(a)分注直後の写真。イオン架橋の進行に伴い、中心部に向かって透明になる。(b)lysozyme結晶。結晶化試薬は試薬番号No.49を使用。(c)lysozyme結晶。試薬番号No.60を使用。(d)glucose isomerase結晶。試薬番号No.23を使用。(e) glucose isomerase結晶。試薬番号No.28を使用。(f) xylanase結晶。試薬番号No.63を使用。(g)catalase結晶。試薬番号No.24を使用。(h)ID00367タンパク質結晶。試薬番号No.57を使用。(i) ID00403タンパク質結晶。試薬番号No.64を使用。(j)ID70067タンパク質結晶。試薬番号No(k,l)0.5μl分注で結晶化を行い、得られたlysozymeの結晶。試薬番号 No.49(k)、及びNo.60(l)を使用。
【図6】(a)は真空ピンセット用チップを装着した真空ピンセットの写真。(b)はlysozymeの結晶。(c)はタンパク質結晶のクライオプロテクタント処理。(d)回折計へのカプセルのマウント時の写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、タンパク質及びゲル化剤を含む溶液をイオン架橋形成溶液に加えて、タンパク質溶液を内包したイオン架橋ゲルカプセルを形成させる工程を含む、タンパク質結晶化用カプセルの製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記方法に使用されるキット、及び上記方法によって製造される組成物、タンパク質結晶の製造方法、タンパク質結晶組成物、タンパク質結晶構造解析方法を提供する。
【0014】
本明細書において、イオン架橋ゲルとは、カチオンとアニオンによる架橋構造により形成されているゲルを指す。例えば、多糖類及び/又は多糖類の塩の水溶液にカルシウムイオン(Ca2+)、コバルトイオン(Co2+)、カドミウムイオン(Cd2+)などの2価以上の金属陽イオンを1つまたは複数加えると、イオン交換により架橋構造(エッグボックス構造)となり、ゲルが形成されることが知られている。
【0015】
イオン架橋ゲルカプセルは、ゲル化剤とイオン架橋形成溶液の混合によって作製された粒子である。
【0016】
本明細書において、「内包する」とは、イオン架橋ゲルカプセルのシェル(殻)の内部にタンパク質の溶液もしくはタンパク質の結晶が含まれていることを意味する。タンパク質又はその結晶はゲル化剤を含む流体中に存在する。当該流体は、濃度にもよるが粘性であり、対流も抑制されているので、結晶の析出及び析出に好ましい環境である。
【0017】
ゲル化剤は、アニオンポリマーを含んでなる。本発明では、イオン架橋を形成する任意のゲル化剤を使用することができる。ゲル化剤の例としては、ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸のアルカリ金属(Li,Na,K)塩、ジェランガム、ιカラギーナン等の多糖類及び/又は多糖類の塩が挙げられ、アルギン酸ナトリウムが好ましい。これらのゲル化剤はいずれもアニオンポリマーでもあるので、本明細書ではこれらをアニオンポリマーということがある。ゲル化剤の濃度は、0.05〜5重量%程度、好ましくは0.1〜1重量%程度である。
【0018】
イオン架橋形成溶液はゲル化剤の存在下でイオン架橋ゲルを形成するカチオン性物質を含む。そのような物質の例としては、カルシウムが挙げられる。カルシウムを使用する場合、溶液中のカルシウム濃度は、0.1〜0.5M程度、好ましくは0.2〜0.3M程度である。カルシウム濃度が低すぎるとゲル化しないか、或いはゲル化に時間がかかり、生じたゲルの強度が不足してタンパク質がゲルの外部に漏出するおそれがある。カルシウム濃度が高すぎるとタンパク質の結晶形成に悪影響を及ぼすことがある。ここで、カルシウムとしては、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウムなどの水に対する溶解度の高いカルシウム塩を用いることができる。
【0019】
1つの実施態様において、ゲル化剤としてアルギン酸のアルカリ金属塩を、イオン架橋形成溶液としてカルシウムイオンを含む溶液を使用して、イオン架橋ゲルとしてアルギン酸カルシウムのゲルが形成される。
【0020】
タンパク質としては、結晶化が望まれる任意の可溶性タンパク質を使用することができる。たとえばヒドロラーゼ、イソメラーゼ、リアーゼ、リガーゼ、トランスフェラーゼ、オキシドレダクターゼなどの酵素、受容体、ホルモン、サイトカイン、抗体、転写因子などが挙げられるが、タンパク質である限りにおいて、これらに特に制限されない。
【0021】
結晶化されるタンパク質の濃度はできるだけ高い方が結晶化のために好ましい。従って、タンパク質は前記ゲル化剤に溶解可能な高濃度で溶解させる。タンパク質の濃度は、例えば1〜100mg/ml、好ましくは2〜50mg/ml、より好ましくは5〜20mg/mlである。
【0022】
本発明では、タンパク質とゲル化剤を含む溶液をイオン架橋形成溶液に添加する。タンパク質とゲル化剤を含む溶液は滴下によりイオン架橋形成溶液に添加するのが好ましい。この滴下により、タンパク質を封入したゲルの粒子が形成される。添加するタンパク質及びゲル化剤を含む溶液の容量には特に限定はなく、例えば0.1〜100μl、好ましくは2〜50μl、より好ましくは5〜20μlであり、形成される粒子の初期の大きさは、平均粒径で0.01〜10mm程度、好ましくは1〜8mm程度、より好ましくは2〜4mm程度である。代わりに、微量分注の場合、溶液の容量は0.5〜1.0μlの微量であってよく、平均粒径は0.5〜0.9mm程度である。
【0023】
本発明により得られるタンパク質結晶化用カプセルは1ステップで作製できるため、結晶化セットアップが極めて容易であり、また微量分注、結晶化条件スクリーニング、自動化に都合が良く、さらに高価な結晶化プレートを購入する必要がない。また、カプセルは物理的衝撃に強いため輸送が可能である。
【0024】
本発明は、上記のようにして形成されたカプセルを結晶化溶液中で維持する工程を含む、タンパク質結晶の製造方法を提供する。
【0025】
本明細書において、結晶化溶液とは、その中に含まれるタンパク質の結晶化に適した組成を有する溶液をいう。
【0026】
結晶化溶液としては、任意の公知の溶液を使用することができ、当業者はタンパク質の種類に応じて適切な溶液を選択することができる。1つの実施態様では、結晶化溶液は水性溶液である。結晶化溶液は、沈殿剤を含む緩衝剤を含む。沈殿剤の例としては、イソプロパノール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、Jeffamine M-600、ポリエチレングリコール(PEG)400、ポリエチレングリコール(PEG)4000、及びエチレングリコール(PEG)8000等が挙げられ、結晶化溶液中の沈殿剤の濃度は1〜50%(v/v)程度、好ましくは5〜40%(v/v)程度である。緩衝剤は、例えば酢酸緩衝剤、MES(2-モルホリノエタンスルホン酸一水和物)緩衝剤、HEPES緩衝剤、及びBicine緩衝剤等が挙げられ、結晶化溶液中の緩衝剤の濃度は0.01〜1M,好ましくは0.1〜0.5M程度である。結晶化試薬のpHは緩衝剤の種類によるが、3.5〜9.5程度、好ましくは4.6〜9.0程度である。
【0027】
結晶化溶液は、ナトリウム塩又はアンモニウム塩を任意選択で含んでもよい。ナトリウム塩又はアンモニウム塩の例としては、塩化ナトリウム、ギ酸ナトリウム、及び塩化アンモニウム等が挙げられ、結晶化溶液中の塩の濃度は0.1〜5.0M、好ましくは0.4〜3.5M程度である。結晶化試薬に塩化ナトリウムなどのナトリウムイオンを加えておけば粒子の形状が崩れにくく、小さい粒子が形成されやすい。
【0028】
カプセル形成後にカプセルを結晶化溶液に移すことも可能であるが、イオン架橋形成溶液をそのまま結晶化溶液として使用することができれば、操作の簡便さの点から有利である。この場合、例えば、従来の結晶化溶液にカルシウムを加えたものをイオン架橋形成溶液かつ結晶化溶液として使用することができる。
【0029】
本明細書において、不揮発性の油状物とは、結晶化溶液と混合されずに分離する性質を有し、結晶化溶液よりも比重が軽い油状流体であって、かつ結晶化溶液に加えるとその表面を覆って蒸発を抑制するかまたは蒸発速度を遅延させるように作用するものという。
【0030】
本明細書において、不揮発性の油状物が結晶化溶液を覆うとは、下層にある結晶化溶液の表面全体を覆うように不揮発性の油状物が結晶化溶液を覆うことを意味する。また、不揮発性の油状物の厚みは、結晶化溶液の量やカプセルの大きさ等により異なるが、不揮発性の油状物中にタンパク質結晶化用カプセルを加えられる程度に十分厚いことが必要である。不揮発性の油状物が薄すぎてタンパク質結晶化用カプセルが下層にある結晶化溶液に接触すると分注チップ先端にてイオン架橋が不用意に進行し、好ましくない。1つの実施態様において、1μlの結晶化溶液に対する不揮発性の油状物の厚みは2〜3mmであることが好ましい。
【0031】
本発明は、ゲル化剤及びイオン架橋形成溶液と、結晶化溶液と、不揮発性の油状物と、結晶化溶液及び不揮発性の油状物を収容する1つ又は複数のウェルを有するプレートとを含む、タンパク質結晶化用カプセル製造用キットを提供する。イオン架橋形成溶液と結晶化溶液は同じであっても異なっていてもよい。イオン架橋形成溶液と結晶化溶液が同一であると、イオン架橋ゲルカプセルを形成した後、そのまま放置してカプセルを結晶化することができる。
【0032】
プレートは市販の結晶化プレートであってよく、蒸発又は汚染を防ぐためにプレートのウェルは、着脱可能なフィルムでシールされ得る。加えて、シール後のプレートへは、塵埃混入防止用の蓋が付けられ得る。結晶化溶液をピペット等の分注装置で手動で又は自動分注装置でプレートに分注し、結晶化溶液およびを覆う不揮発性の油状物を収容したプレートを予め準備することで、必要なときにすぐに結晶化が行える。自動分注装置に対応したプレートは、好ましくはSBS(Society for Biomolecular Screening)規格のプレートであり、例えばGreiner 社のIMP@CTTMプレートが挙げられる。プレートをシールするフィルムは、好ましくはシリコンベースの接着剤が付着したポリオレフィンフィルムであり、例えばClear Sealing FilmTM (ハンプトンリサーチ社、製品番号HR4-521)が挙げられる。
【0033】
1つの実施態様において、キットはさらに不揮発性の油状物を備え、不揮発性の油状物は、タンパク質とゲル化剤を含む溶液の、プレートへの分注時の分注装置の先端部、例えばチップへの付着を防止する。かかるキットの使用の際、ユーザはタンパク質にゲル化剤を混ぜ、不揮発性の油状物を加え、プレートに分注するだけでよい。
【0034】
本発明は、イオン架橋形成溶液であるカルシウムイオンを含む結晶化溶液と、結晶化溶液を覆う不揮発性の油状物とを収容した複数のウェルを有するタンパク質結晶化プレートを提供する。かかるプレートにより、複数のタンパク質のサンプルを簡便かつ迅速にカプセル形成かつ結晶化することが可能となる。
【0035】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施態様の一例を説明する。
【0036】
図1では、ゲル化剤としてアルギン酸ナトリウムを、イオン架橋形成溶液及び結晶化溶液としてカルシウム含有結晶化溶液を使用している。
【0037】
タンパク質とアルギン酸塩を含む溶液をカルシウム含有結晶化溶液に滴下することにより、アルギン酸カルシウムの粒子が形成される(図1a)。アルギン酸ナトリウム溶液に塩化ナトリウムなどのナトリウムイオンを加えておけば、溶液の粘度が低くなり、滴下しやすくなる。粒子の形状は、通常は球状か球状に近い形状(例えば楕円体状)であるが、滴下の態様により他の形状の粒子も作製可能である。
【0038】
得られた粒子を、上に蓋をして静置させることによりタンパク質の結晶化を行う。カルシウム含有結晶化溶液のカルシウム濃度がタンパク質とアルギン酸を含む溶液よりも高い場合、浸透圧の差により粒子内の溶媒が粒子外に放出され、またイオン架橋の進行にともない粒子は縮小する(図1b)。
【0039】
このとき、粒子内のタンパク質濃度は上昇し、結晶化しやすい条件に達する(図1c)。
【0040】
これでも結晶化されない場合には、カルシウム含有結晶化溶液を入れた容器の蓋を外し、パラフィンオイル、シリコーンオイル、又はこれらの組み合わせなどの不揮発性の油状物をカルシウム含有結晶化溶液の上に加えて油状物の膜を形成する(図1d)。この膜を通って溶媒は徐々に放出するため、前記粒子内のタンパク質、及び結晶化試薬濃度はさらに上昇し、タンパク質の結晶化が起こる。
【0041】
タンパク質とゲル化剤を含む溶液にゼオライトを配合しておけば、ゲルの粒子内にゼオライト粒子が封入され、このゼオライト粒子によりタンパク質の結晶化を促進することができる(図2f、特許文献1)。ゼオライトはアルミニウム及びケイ素を主成分とする多孔性結晶であり、天然ゼオライトと合成ゼオライトがある。本発明には天然ゼオライトと合成ゼオライトのいずれも使用できるが、品種の豊富さ、組成・形状が一定していること、結果の再現が良い等の点から、合成ゼオライトが好ましい。
【0042】
ゼオライトの種類、特性、形状等は特に限定されず、タンパク質の種類、所望の結晶の形状、空間群等の因子により、様々なものを使用することができる。合成ゼオライトの典型例はモレキュラーシーブ(MS)である。モレキュラーシーブは天然ゼオライトと同様の吸着特性を有する材料であり、種々の分子の吸着に使用されている。また、モレキュラーシーブは合成により得られるので、その性質や形状も種々のものが製造されている。例えば、モレキュラーシーブには3A、4A、5A、13X(吸着口径はこの順に大きくなる)等のタイプがあり、市販されている。
【0043】
ゲルの内部で形成された結晶は、市販のマウント用器具の利用等、任意の手段によりゲルの粒子ごと取り出してX線回折計にマウントすることができるので、タンパク質の結晶を傷つけることがない(図3)。
【0044】
本発明の一つの実施態様において、上記のようにタンパク質及びゲル化剤(アニオンポリマー)を含む溶液をイオン架橋形成溶液に滴下することにより粒子を形成し、その粒子をカチオンポリマー溶液、アニオンポリマー溶液に交互に浸漬し、カチオンポリマーとアニオンポリマーからなる被覆層を形成し、その後、図1(b)から図1(d)と同様な結晶化工程を行ってもよい(図4)。この方法は、膜厚を制御することによってカプセルからのタンパク質の流出を防止すること、結晶化溶液のカプセル内への急速な混入を回避することに有効である。さらに、高濃度のカルシウムイオンを含有する結晶化溶液がタンパク
質の結晶化の妨げになる場合などにもこの方法は有用である。
【0045】
アニオンポリマーとしては、アルギン酸などの上記のゲル化剤、アルギン酸、ヒアルロン酸、N−アセチルノイラミン酸、酸化澱粉、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられ、カチオンポリマーとしてキトサン、ポリリジン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。その膜厚は50〜200μm程度である。
【0046】
溶媒としては、通常水が用いられるが、水と混和性の溶媒、例えばエタノール、メタノール、イソプロパノール、DMF、THF、DMSO、ジメチルアセトアミド、アセトン、ジオキサン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンなどを単独又は2種以上を混合して用いることができる。これらの溶媒は水と混合するのが好ましいが、非水系で用いることもできる。
【0047】
本発明のタンパク質結晶の製造方法によれば、カプセル内の高粘度のゲル化剤(例えばアルギン酸)がタンパク質含有溶液の対流を抑え、また析出した結晶の沈降も防ぐことから良質な結晶が得られる。
【0048】
本発明のタンパク質結晶の製造方法によれば、カプセル内の成分の濃度が時間とともに上昇する。また、オイル(例えばパラフィンオイル)で結晶化溶液の表面を覆えば極限まで成分の濃度を上昇させることが可能である。従って、本発明の方法によれば、幅広い濃度領域をカバーできる。
【0049】
本発明により得られるタンパク質結晶は、タンパク質結晶の使用が望まれる任意の用途に使用される。そのような用途の例としてはタンパク質の構造解析が挙げられるがそれに限定されるものではなく、例えば、タンパク質結晶を医薬、試薬の製造に使用することができる。
【0050】
本発明は、上記のようにして製造されたイオン架橋ゲルカプセル中のタンパク質結晶を対象として、タンパク質構造解析を行う工程を含む、タンパク質結晶構造解析方法を提供する。
【0051】
タンパク質構造解析の方法に限定はないが、好ましくはX線回折が用いられる。本発明の方法によって得られるタンパク質結晶はカプセル内にあるため、直接結晶に触れることなく回折分解能評価が行える。さらに、クライオプロテクタント、重原子化等の結晶処理も簡単に行うことができる。
【0052】
上記のように本発明により得られるタンパク質結晶化用カプセルは自動化に適しているので、本発明は結晶化及び構造解析を自動化する場合などに有用である。
【実施例】
【0053】
実施例1:タンパク質結晶含有カプセルの作製及びX線回折実験
イオン架橋を利用したポリマーカプセルの作製、及び結晶化アルギン酸をカルシウムイオンでイオン架橋しカプセルを作る方法を実施した(図1)。その手順は、1%アルギン酸ナトリウムを含む5〜20 mg/mlのタンパク質溶液12μlを0.2 M CaCl2含有結晶化試薬500μlに滴下しカプセルを作製した。その結果、5種類のタンパク質((a) Chicken Egg White由来lysozyme、 (b) Trichoderma longibrachiatum 由来xylanase、 (c)Pyrococcus horikoshii OT3由来diphthine synthase(ID70067タンパク質, Y175H)、 (d)Thermus thermophilus HB8由来α-ribazole-5’-phosphate phosphatase(ID00367タンパク質)、 (e)Thermus thermophilus HB8由来glucose-1-phosphate thymidylyltransferase(ID00403タンパク質)の結晶化に成功した(図2a〜e)。
なお、上記(a)−(e)の5種類のタンパク質の結晶化に用いた0.2 M CaCl2含有結晶化試薬の組成はそれぞれ以下の通りとした。
(a)lysozyme:5%(w/v) PEG4000、3.0 M NaCl、0.2M CaCl2, 0.1M HEPES pH7.5
(b)xylanase:45%(v/v)-2-メチル-2,4-ペンタンジオール、0.2 M CaCl2、0.1 M BIS-TRIS pH6.5
(c)ID70067:3.5 M ギ酸ナトリウム、0.2 M CaCl2、0.1 M MES pH6.5
(d)ID00367:3.0 M 塩化ナトリウム、0.2 M CaCl2、0.1 M MES pH5.8
(e)ID00403:3.5 M ギ酸ナトリウム、0.2 M CaCl2、0.1 M HEPES pH7.5
さらに、タンパク質の結晶化を促進する合成ゼオライトのモレキュラーシーブ(MS)を用いたタンパク質結晶化も行った(図2f)。モレキュラーシーブは、3A、4A、5A、及び13Xを重量比で等量混合したものを用い、アルギン酸ナトリウムとタンパク質を含む溶液中に、5 mg/mlの割合で使用した。
【0054】
得られたタンパク質結晶含有カプセルを直接回折計(株式会社リガク製、CuKα)にマウントし、100 Kの温度条件下でX線回折実験を行った結果(図3a、b、c)、2.1Å分解能での回折データ収集に成功した(表1)。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例2:微量分注におけるタンパク質結晶含有カプセルの作製、及びX線回折実験
タンパク質結晶化
本研究では、より実用的な、微量分注(0.5〜1.0μlのタンパク質溶液)におけるタンパク質結晶化、及びX線回折実験を行った。
最初に1.0μlの結晶化試薬を分注装置で結晶化プレート(NUNC社製72穴HLAプレート)の各ウェルに分注した。ここで、カプセル作製時の妨げになるため、混入した気泡は取り除いた。表2に示される組成の70種類のCa含有結晶化試薬を結晶化プレートに分注した。次に、合計15〜20μlのパラフィンオイルで結晶化試薬ドロップを覆う。サンプル分注前に、タンパク質-アルギン酸混合溶液(数mg程度のタンパク質、20 mM程度の緩衝剤(Lysozymeの場合:酢酸緩衝剤pH4.6、glucose isomeraseの場合:HEPES 緩衝剤pH7.4、xylanaseの場合:Na/Kリン酸緩衝剤pH7、catalaseの場合:市販品のcatalase含有緩衝剤、ID00367, ID00403, ID70067の場合: TRIS緩衝剤 pH8.0))、1%アルギン酸、0.4 M 塩化ナトリウム水溶液)にパラフィンオイルを加えた。このパラフィンオイルは分注用チップ先端部へのサンプル溶液の付着を防止するためのものである。各1.0μl のタンパク質溶液の分注で72 μl 程度のサンプルに合計30μl程度のパラフィンオイルを加えた。0.5μl又は1.0μlタンパク質溶液を、上記パラフィンオイルを加えた結晶化試薬のオイル層に注入した。そのドロップは1分程度で結晶化試薬層に沈降した。沈降直後にイオン架橋が開始され、数時間程度で架橋は完了した。数日後、少量のサンプルでもタンパク質結晶が析出した(図5a〜l)。用いたタンパク質は、実施例1と同じとした。
【0057】
本実験によれば、微量スケールでもタンパク質結晶化に成功した。
【0058】
【表2】

【0059】
X線回折実験カプセル内に析出した結晶のX線回折実験は、以下の手順で行った。
【0060】
市販の真空ピンセットに真空ピンセット用チップ(株式会社ミラック光学製、ST-Cシリーズ)を装着し、カプセルを吸引し、結晶を取り出した。図6(a)は真空ピンセット用チップを装着した真空ピンセットの写真、図6(b)はlysozymeの結晶を示す。次に、ピンセットのエアーを吐き出し、結晶化試薬(3.0 M 塩化ナトリウム、0.2 M CaCl2、0.1 M BICINE pH9.0)に30%(v/v) glycerolを加えたもの(クライオプロテクタント溶液)にカプセルを沈め、十分に浸し、タンパク質結晶のクライオプロテクタント処理を行った(図6(c))。その後、カプセルを拾い上げ、真空ピンセットからチップを切り離し、チップを回折計にマウントした。その際、100Kの温度条件下でのフラッシュクーリングを行い(図6(d))、インハウス回折計により回折データ収集を行った。その結果、空間群P43212、格子定数a=b=78.62、c=37.02Å、回折分解能1.55Å、Mosaicity 0.33-0.39°の回折データセットを得た。
【0061】
本回折実験では、真空ピンセットの利用により、クライオプロテクタント処理及びフラッシュクーリングの操作が容易であり、タンパク質X線結晶構造解析の経験が未熟な研究者でも簡単に実験を行うことができる。また、回折データをタンパク質結晶に直接触れることなく収集でき、構造解析の完全自動化システム構築に役立ち得る。
【0062】
実施例3:タンパク質結晶含有カプセルの液体窒素中への保存
本実施例では、X線結晶構造解析を行う上で望ましい、タンパク質結晶の液体窒素中での保存の手順を確立した。
実験手順
X線回折実験で使用する真空ピンセット用チップ(株式会社ミラック光学製、ST-Cシリーズ)の本体に、ワッシャー(内径×外径、5mm×12mm)を嵌めた。タンパク質結晶含有カプセルをマウントした真空ピンセット用チップを、100Kの温度条件下、液体窒素で冷却したクライオトング(商標)(21mm, Hampton Research社製)で把持した。クライオトングをチップのワッシャーと係合し、チップをゴニオメータのヘッドから取り外した。クライオトングを上下反転し、先端の幅をチップの径に合わせて加工したクランプ(Hampton Research社製)でチップの付け根を挟み、チップをクライオトングから外し、液体窒素中、クライオケーン(Hampton Research社製)に入れた。結晶を容器内の液体窒素に保存した。ゴニオメータのヘッドへ結晶を再度マウントする時は、逆の手順を行った。
【0063】
実施例4:液体窒素への保存前と保存後の回折データの比較
本実施例では、実施例3の液体窒素中へのサンプル保存の手順に従うことで、タンパク質結晶含有カプセルを確実に保存できることを実証した。
実験手順
タンパク質結晶は、結晶化試薬(3.0 M 塩化ナトリウム、0.2 M 塩化カルシウム、0.1 M BICINE緩衝液pH9.0)0.5μlを15μlのパラフィンオイルで覆い、そのオイル層にタンパク質溶液(20 mg/ml lysozyme、10 mM 酢酸緩衝液pH4.6、0.4 M 塩化ナトリウム、1(w/v)% アルギン酸、)0.5μlを分注し、カプセルを作製することで得た。次に、タンパク質結晶含有カプセルを、結晶化試薬に35(v/v)%グリセロールを加えたもの(クライオプロテクタント溶液)に90秒浸した。その後、100 Kのクライオストリーム下でフラッシュクーリングを行うことで回折計にカプセルをマウントし、回折データを収集した(回折データ1)。保存後の回折データを取得するために、回折実験で使用したカプセルを実施例3の液体窒素中への保存手順に従い保存した。液体窒素中に保存したサンプルを再度回折計にマウントし、回折データの収集を行った(回折データ2)。
【0064】
液体窒素への保存前及び保存後の2回にわたり回折実験データを収集し、比較した(表3)。その結果、保存前後の回折データの質はほぼ同等であることが示された。液体窒素中への保存の操作により極端なタンパク質結晶の質低下が生じることなく、上記手順に従えば、サンプルに損傷を与えることなくサンプルを安定に保存できることが確認された。
【0065】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質及びゲル化剤を含む溶液をイオン架橋形成溶液に加えて、タンパク質溶液を内包したイオン架橋ゲルカプセルを形成させる工程を含む、タンパク質結晶化用カプセルの製造方法。
【請求項2】
イオン架橋ゲルを含むシェルにタンパク質溶液を内包してなるタンパク質結晶化用組成物。
【請求項3】
ゲル化剤及びイオン架橋形成溶液を含む、タンパク質結晶化用カプセル製造用キット。
【請求項4】
結晶化溶液と、不揮発性の油状物と、結晶化溶液及び不揮発性の油状物を収容する1つ又は複数のウェルを有するタンパク質結晶化用プレートとをさらに含む、請求項3に記載のタンパク質結晶化用カプセル製造用キット。
【請求項5】
イオン架橋形成溶液と結晶化溶液が同一である、請求項4に記載のタンパク質結晶化用カプセル製造用キット。
【請求項6】
結晶化溶液と不揮発性の油状物がプレートのウェルに収容され、ウェルをシールするフィルムをさらに含む、請求項4又は請求項5に記載のタンパク質結晶化用カプセル製造用キット。
【請求項7】
(a)タンパク質及びゲル化剤を含む溶液をイオン架橋形成溶液に加えてイオン架橋ゲルカプセルを形成させる工程、及び
(b)工程(a)で形成されたカプセルを結晶化溶液中で維持する工程
を含む、タンパク質結晶の製造方法。
【請求項8】
イオン架橋形成溶液と結晶化溶液が同一であり、工程(a)の後、イオン架橋ゲルカプセルをそのまま放置して工程(b)で結晶化させる、請求項7に記載のタンパク質結晶の製造方法。
【請求項9】
(a)イオン架橋形成溶液である結晶化溶液と、結晶化溶液を覆う不揮発性の油状物とを収容した1つ又は複数のウェルを有するタンパク質結晶化用プレートを提供する工程、及び
(b)タンパク質及びゲル化剤を含む溶液を、不揮発性の油状物に加え、結晶化溶液中でイオン架橋ゲルカプセルを形成及び維持する工程
を含む、タンパク質結晶の製造方法。
【請求項10】
1つ又は複数の二価以上の金属陽イオンを含む結晶化溶液と、結晶化溶液を覆う不揮発性の油状物とを収容した複数のウェルを有するタンパク質結晶化用プレート。
【請求項11】
イオン架橋ゲルカプセルのシェルにタンパク質結晶を内包する、タンパク質結晶組成物。
【請求項12】
タンパク質結晶を内包するイオン架橋ゲルカプセルをタンパク質構造解析に供する工程を含む、タンパク質結晶構造解析方法。
【請求項13】
タンパク質結晶を内包するイオン架橋ゲルカプセルを容器内の液体窒素に保存する工程を含む、タンパク質結晶化用カプセルの保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−254969(P2012−254969A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−107521(P2012−107521)
【出願日】平成24年5月9日(2012.5.9)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】