説明

ターボチャージャにおける振動の低減

【課題】タービン動翼の振動によって生じる、使用可能な回転数領域の侵害、効率の低下、騒音および材料への負荷の増大、共鳴が生じた場合の構造的な機能障害などの不利点を回避する。
【解決手段】ターボチャージャのための流体機構であって、当該流体機構を貫流する流体のための流れ経路を画定するハウジング(1)と、当該ハウジング内で回転可能に支承されている翼車ハブ(2)と、流体の流れの方向転換を行うために当該ハブに設けられている複数のタービン動翼(3)と、流体の流れの方向転換を行うためのガイド翼(4)を具備するガイド装置と、前記流体の流れに干渉を発生させるための干渉発生装置(5)とを有してなる流体機構が提案され、当該干渉は前記ガイド翼(4)によって引き起こされた前記タービン動翼(3)の振動を重ね合わせによって減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1のおいて書き部に記載のターボチャージャのための流体機構と、このような流体機構を備える、特に自己点火式の内燃機関のためのターボチャージャと、このようなターボチャージャにおいて振動を低減させるための方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のためのターボチャージャは常に二つの流体機構、すなわち内燃機関のための燃焼空気を圧縮するためのコンプレッサと、当該コンプレッサを駆動するためのタービンと、を有している。特に高出力を有する自己点火式の内燃機関のためのターボチャージャ、例えば船舶用ディーゼルエンジンにおいてコンプレッサとタービンとは、当該コンプレッサとタービンとを貫流する流体、すなわち燃焼空気もしくは排ガスによって機械的および熱力学的に高い負荷を受ける。また一方、今日ではこのような流体機構のタービン動翼をできるだけスリムに実装するべく努力がなされている。
【0003】
しかしながら前記のような動翼は、当該動翼の慣性モーメントおよび剛性が小さいために、特に振動の励起に対して影響をうけやすい。このような振動はとりわけタービン動翼の上流もしくは下流にある流入ガイド装置もしくは流出ガイド装置のガイド翼によって、当該ガイド翼が流体の流れにおいて、多くの場合は周期的である干渉を引き起こすことによって誘発される。このように干渉を受けた流体は、その後、今日ではますます薄く形成される傾向にあるタービン動翼を振動させる。このような振動の励起は使用可能な回転数領域を侵害し、効率を低下させ、騒音および材料への負荷を増大させ、それによって共鳴が生じた場合には構造的な機能障害にまで至る可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の解決すべき課題は、前記のような損害の一つまたは複数を減少させるか、あるいは回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1のおいて書き部に記載の流体機構は当該請求項に記載の特徴によってさらなる形成が行われている。請求項11はこのような流体機構を備えるターボチャージャについて保護を請求し、請求項12はこのようなターボチャージャにおいて振動を低減させるための方法について保護を請求している。本発明の有利な実施の形態およびさらなる形成は従属請求項に記載されている。
【0006】
本発明に係るターボチャージャの流体機構は周知のように、当該流体機構を貫流する流体のための流れ経路を画定するハウジングと、当該ハウジング内で回転可能に支承されている翼車ハブと、流体の流れの方向転換を行うために当該ハブに設けられている複数のタービン動翼と、当該流体の流れの方向転換を行うためのガイド翼を具備するガイド装置と、を有している。
【0007】
前記流体の流れは例えば内燃機関のための燃料空気であって、特に遠心コンプレッサまたは斜流コンプレッサとして形成されたターボチャージャのコンプレッサによって圧縮された燃料空気、または内燃機関の排ガスであって、特に軸流タービンとして形成されたターボチャージャのタービンを駆動する排ガスであってよい。
【0008】
前記ガイド装置は特に流れ方向において下流であってタービン動翼に後置されている流出ガイド装置であり得るが、流れ方向において上流であってタービン動翼に前置されている流入ガイド装置でもあり得る。ガイド翼はガイド装置に対して固定されているか、または調整可能であってよい。
【0009】
このようなガイド装置によって流体において流れの干渉、特に圧力または速度の変動、例えば寄生的な流れまたは対向する流れが引き起こされ、これらの流れは動翼を振動させ得る。
【0010】
従って本発明によって提案されるのは干渉発生装置によって流体の流れに干渉を発生させることであり、当該干渉はガイド翼によって引き起こされたタービン動翼の振動を重ね合わせによって低減させる。
【0011】
ほぼ逆位相の振動の重ね合わせによって振動振幅を低減または消失させられることが知られている。干渉の原理またはカウンターノイズまたはアンチノイズの原理として知られているこの原理は本発明において好適に二通りに利用され得る。すなわち、一方で干渉発生装置は流体において流れの干渉、特に圧力または速度の変動を引き起こすことができ、当該流れの干渉、特に圧力または速度の変動は動翼を振動させ、当該振動はその後重ね合わせによって、ガイド翼によって引き起こされる振動を低減させる。タービン動翼にはこのように二つの流れの干渉がもたらされ、当該二つの流れの干渉によってタービン動翼の振動は互いに低減し合う。付加的または代替的に、干渉発生装置はまた流体において流れの干渉、特に圧力または速度の変動を引き起こすことができ、当該流れの干渉、特に圧力または速度の変動は重ね合わせによって、ガイド翼に起因するとともに動翼に望ましくない振動を励起させる流れの干渉を低減させる。タービン動翼にもたらされる流れの干渉およびそれとともにタービン動翼における振動の励起は、このように低減される。
【0012】
特にタービン動翼における共鳴振動はこのようにして低減または回避され得る。当該方法によって、当該方法によらなければ共鳴振動ゆえにアクセスしにくい回転数領域を利用することができ、効率を増大させ、熱力学的および/または機械的パラメータを向上させる、および/あるいは騒音増大または材料への負荷を著しく低減させることができる。
【0013】
干渉発生装置は流体において好適な流れの干渉を引き起こすために、例えば圧電センサ、電磁的に作動可能な膜などの能動的部材として形成されていて良い。付加的または代替的に、干渉発生装置は一つまたは複数の幾何学的な不連続部を有している。流体がこのような不連続部に沿って流れるとき、当該流れは干渉される。
【0014】
幾何学的な不連続部の位置および/または形状は、ガイド翼によって引き起こされるタービン動翼の振動が重ね合わせによって低減されるように好適に選択される。当業者はその時々の流体機構にとって最適な不連続部を例えば実験および/またはシミュレーション計算、特に有限要素法による振動および/または流れシミュレーションによって決定することができる。
【0015】
一つまたは複数の不連続部は特に貫通する凹所または出口のない、すなわち袋小路状の凹所として壁部に形成され得、当該壁部を流体が通過する。このような凹所は好適な形状で簡単に製造することができる。付加的または代替的に不連続部は隆起部としても壁部に形成され得、当該壁部を流体が通過する。このような凹所および/または隆起部は壁部とともに元から形成するか、あるいは後から切削または付加材料を塗布することなどによって形成することができる。
【0016】
このような凹所および/または隆起部は例えば、円形、楕円形、滴形、または長方形の断面であって、流体が環流する断面を有していてよい。凹所は例えば孔、特に長孔またはスリットの形状で形成されていてよい。流体が環流する凹所もしくは隆起部の断面の主軸は軸方向および/または周方向に延在し得る。
【0017】
干渉発生装置、特に前記の不連続部は好適にガイド装置および/または流体のための流れ経路を画定するハウジングに設けられ得る。
【0018】
幾何学的な不連続部の数は好適にガイド装置のガイド翼の数または当該ガイド翼の数の整数倍に相当する。これによって流体の流れに、ガイド翼によって引き起こされる振動を低減させるために特に好適な干渉が引き起こされるためである。
【0019】
特に効果的な振動低減のために、干渉発生装置によってタービン動翼に引き起こされる振動の位相または干渉発生装置によって流体の流れに引き起こされる干渉の位相は、ガイド翼によって引き起こされる振動もしくは干渉の位相に対してほぼ反対方向に向けられていてよい。しかしながら他の位相のずれおよび/または他の周波数を有する振動もしくは干渉もガイド翼によって引き起こされる振動を低減させるために好適である。
【0020】
さらなる有利点および特徴は従属請求項と実施の形態に記載されている。実施の形態に関して以下の図面に部分を概略的に示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例によるターボチャージャのコンプレッサの部分斜視図である。
【図2】本発明の実施例によるターボチャージャのタービンの部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には本発明に係る船舶用ディーゼルエンジンのターボチャージャの遠心コンプレッサの一部を示す斜視図である。
【0023】
翼車ハブまたはロータハブ2はハウジング1内で支承されており、それによって当該翼車ハブとハウジングとの間に船舶用ディーゼルエンジンのための燃焼空気のための流れ経路が画定されている。当該流れ経路に空気を加速させるためのタービン動翼3が設けられており、当該タービン動翼は翼車ハブ2とともに回転数nでコンプレッサの長手軸を中心として回転し、下流に設けられている流出ガイド装置のガイド翼4に空気を搬送し、当該流出ガイド装置において空気の動力学的エネルギーは部分的に圧力エネルギーに変換される。
【0024】
前記ガイド翼4によって空気の流れに、圧力および速度の変動という形での干渉がもたらされ、当該干渉はタービン動翼3にもたらされる。タービン動翼は壁厚が小さく形成されており、それによって曲げ強度が小さいために、ガイド翼4によって引き起こされる空気の流れの干渉によってタービン動翼には望ましくない振動が生じる。
【0025】
ハウジング1内には個々のガイド翼4に対して上流に長孔5が形成されており、当該長孔はほぼ周方向に延伸している。これによってもまた空気の流れに、圧力および速度の変動という形での干渉がもたらされ、当該干渉もまたタービン動翼3に振動を生じさせる。長孔5の位置、形、大きさおよび深さの選択は以下のように行われる。すなわち長孔によってタービン動翼にもたらされる振動が、ガイド翼4によって引き起こされる振動に対してほぼ逆の位相となるように選択される。従ってタービン動翼3における二つの振動は重ね合わせによって互いにほぼ消失され、これによってタービン動翼3の振動振幅全体が大幅に低減される。
【0026】
図2は本発明に係る船舶用ディーゼルエンジンのターボチャージャの軸流タービンの一部を示す斜視図である。対応する部材は図1と同一の参照符号で示されている。
【0027】
図1と対応するように、翼車ハブ2はハウジング1内で支承されており、それによって当該翼車ハブとハウジングとの間に船舶用ディーゼルエンジンの排ガスための流れ経路が画定されている。当該流れ経路に排ガスを方向転換させるためのタービン動翼3が設けられており、当該タービン動翼は翼車ハブ2とともに回転数nでタービンの長手軸を中心として回転する。
【0028】
排ガスを好適な方法で方向転換させるガイド装置のガイド翼4によって空気の流れに、圧力および速度の変動という形での干渉がもたらされ、当該干渉はタービン動翼3にもたらされる。タービン動翼は壁厚が小さく形成されており、それによって曲げ強度が小さいために、ガイド翼4によって引き起こされる排ガスの干渉によってタービン動翼には望ましくない振動が生じる。
【0029】
個々のガイド翼4に対してハウジング1内に形成された長孔5が配設されており、当該長孔はほぼ周方向に延伸している。これによってもまた排ガスの流れに、圧力および速度の変動という形での干渉がもたらされる。長孔5の位置、形、大きさおよび深さの選択は以下のように行われる。すなわち長孔によって排ガスの流れにもたらされる干渉が、ガイド翼4によって引き起こされる干渉に対してほぼ逆の位相となるように選択される。従って排ガスの流れにおける二つの干渉は重ね合わせによって互いにほぼ消失され、これによってタービン動翼3の負荷は小さくなり、振動の発生も低減され、この場合もタービン動翼3の振動振幅全体が大幅に低減される。
【符号の説明】
【0030】
1 ハウジング
2 翼車ハブ
3 タービン動翼
4 ガイド翼
5 孔
n 回転数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャのための流体機構であって、
当該流体機構を貫流する流体のための流れ経路を画定するハウジング(1)と、
当該ハウジング内で回転可能に支承されている翼車ハブ(2)と、
流体の流れの方向転換を行うために当該ハブに設けられている複数のタービン動翼(3)と、
当該流体の流れの方向転換を行うためのガイド翼(4)を具備するガイド装置と、を有してなる流体機構において、
前記流体の流れに干渉を発生させるための干渉発生装置(5)が設けられ、当該干渉は前記ガイド翼(4)によって引き起こされた前記タービン動翼(3)の振動を重ね合わせによって低減させることを特徴とする流体機構。
【請求項2】
前記流体機構はターボチャージャのコンプレッサ、特に遠心コンプレッサまたは斜流コンプレッサ、あるいはタービン、特に軸流タービンであることを特徴とする請求項1に記載の流体機構。
【請求項3】
前記ガイド装置は流れ方向において下流であって前記タービン動翼(3)に後置されている流出ガイド装置または流れ方向において上流であって前記タービン動翼(3)に前置されている流入ガイド装置であることを特徴とする請求項1または2に記載の流体機構。
【請求項4】
前記干渉発生装置は前記流体機構を貫流する流体の流れに干渉を発生させるために形成されており、それによって当該流体を介して前記タービン動翼(3)に振動を生じさせ、当該振動は前記ガイド翼(4)によって引き起こされる前記タービン動翼(3)の振動を重ね合わせによって低減させる、および/あるいは前記ガイド翼(4)によって前記流体機構を貫流する流体の流れに引き起こされた干渉を重ね合わせによって低減させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の流体機構。
【請求項5】
前記干渉発生装置は少なくとも一つの幾何学的な不連続部(5)を有していることをと特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の流体機構。
【請求項6】
少なくとも一つの不連続部は貫通する凹所または出口のない凹所(5)、あるいは隆起部として形成されていることを特徴とする請求項5に記載の流体機構。
【請求項7】
少なくとも一つの不連続部(5)は流体が環流する断面を有し、当該断面の主軸は軸方向および/または周方向に延在することを特徴とする請求項6に記載の流体機構。
【請求項8】
前記干渉発生装置は前記ガイド装置および/または前記ハウジング(1)に設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の流体機構。
【請求項9】
前記幾何学的な不連続部の数は前記ガイド装置の前記ガイド翼(4)の数または当該ガイド翼の数の整数倍に相当することを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の流体機構。
【請求項10】
前記幾何学的な不連続部の位置および/または形状は、前記ガイド翼(4)によって引き起こされる前記タービン動翼(3)の振動の共振振幅が重ね合わせによって低減されるように選択されることを特徴とする請求項5から9のいずれか一項に記載の流体機構。
【請求項11】
前記干渉発生装置(5)によって前記タービン動翼(3)に引き起こされる振動の位相は、前記ガイド翼(4)によって引き起こされる振動の位相に対してほぼ反対方向に向けられており、および/または前記干渉発生装置(5)によって前記流体の流れに引き起こされる干渉の位相は、前記ガイド翼(4)によって引き起こされる干渉の位相に対してほぼ反対方向に向けられていることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の流体機構。
【請求項12】
ターボチャージャであって、請求項1から11のいずれか一項に記載の流体機構を有して成る、特に自己点火式の内燃機関のためのターボチャージャ。
【請求項13】
前記ガイド翼(4)によって、請求項11に記載のターボチャージャの流体機構の前記タービン動翼(3)に引き起こされる振動を低減させるための方法において、前記干渉発生装置(5)は前記流体の流れに干渉を生じさせ、当該干渉は前記ガイド翼(4)によって引き起こされる前記タービン動翼(3)の振動を重ね合わせによって低減させることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−138896(P2010−138896A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233561(P2009−233561)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(500334036)エムアーエヌ・ディーゼル・エスエー (78)
【Fターム(参考)】