説明

ターボチャージャ部品用摺動部材、ターボチャージャ部品およびターボチャージャ部品の製造方法

【課題】可変ターボチャージャ用として、摺動部および可動部の高温耐摩耗性に優れたターボチャージャ部品を提供する。
【解決手段】可変ターボチャージャに使用する、可動ノズル機構等の部品の摺動部および/または可動部の表面に、射出成形または圧粉成形で成形され、HRC55〜65の硬さを有し、高温耐摩耗性を具備する合金製焼結体からなる摺動部材を、一体的に接合または嵌合する。ターボチャージャ部品をオーステナイト系ステンレス鋼製、摺動部材をCo基合金製焼結体とすることが好ましい。このような構成のターボチャージャ部品を使用することにより、ターボチャージャの信頼性が顕著に向上するとともに、高合金製部材の使用が部分的となり、高価な合金の使用量を低減でき、部品の低コスト化に大きく寄与する。なお、接合は、銅ろう、Niろうを用いたろう付けとすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用ターボチャージャ用部品に係り、とくにターボチャージャ用部品の高温耐摩耗性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点から、とくに自動車の燃費向上が強く要望され、排気ガス規制が強化されている。このような状況のなかで、エンジンの燃費向上に大きな効果があるターボチャージャは、内燃機関(エンジン)にとって必須の装置となっている。
ターボチャージャは、内燃機関(エンジン)の排気ガスを利用し、タービンを回転させ、タービンと同軸上に設けられたコンプレッサを駆動して、エンジンに高圧空気を供給する役割を有する。最近では、このようなターボチャージャとして、過給圧をコントロールできる、可変容量ターボチャージャが広く用いられている。このようなターボチャージャでは、タービンの外側に沿って複数のノズルベーンが設けられ、互いに隣接する2つのノズルベーン間で、タービンに向けて排気ガスを供給するノズル孔を形成している。そして、各ノズルベーンを回動させることで、ノズル孔の開口度を変更し、タービンへの排気ガスの流量を変更する。このような可変容量ターボチャージャは、エンジンの稼動条件に応じて、過給圧を最適に調整し、低速トルク向上、排ガス浄化、燃費向上などの効果をもたらすといわれている。
【0003】
一般的に、可変ターボチャージャ10は、図14に示すように、タービン20とコンプレッサー30とを、軸受40により回転自在に支持されたタービンロータ41の両端側に取り付けた構造を有している。タービン20は、タービンロータ41の一端側に取り付けられたタービンホイール21と、タービンホイール21を囲んで覆うように設けられたタービンケーシング22と、タービンホイール21に流入する排気ガスの流速を変化させる可変ノズル機構23と、を有する。また、コンプレッサー30は、タービンロータ41の他端側に取り付けられたコンプレッサーホイール31と、コンプレッサーホイール31を囲んで覆うように設けられたコンプレッサーケーシング32とを有している。コンプレッサーホイール31は、タービンホイール21の回転により回転駆動され、空気等の流体をエンジンに圧送する。
【0004】
最近では、自動車等の更なるNO低減等の環境対応や燃費向上の要求に伴い、可変ターボチャージャの信頼性、耐久性の更なる向上が強く求められている。このため、とくに高温ガス環境下で、かつ排気パルスやエンジンの振動下で駆動する、ターボチャージャ部品の高温耐摩耗性の向上が要望されている。
このような要望に対し、例えば特許文献1には、高温下における摩耗と腐食が問題となる過給機用可動部支持部品を、トリバロイ等のCo基系合金製で製造することが提案されている。特許文献1に記載された技術では、トリバロイ等のCo基系合金粉末を射出成形したのち焼結して焼結体とし、薄肉部を有する過給機用可動部支持部品としている。特許文献1に記載された過給機用可動部支持部品は、過給機の排気ベーン翼を開閉する可動装置を駆動する駆動レバーの支持軸を支持する軸用ホルダであり、射出成形−焼結法により製造すれば、形状自由度が高く、しかも安価に製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−265590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらに最近では、使用条件の苛酷化に伴い、とくに、製造コストの極端な増加を伴うことなく安価に、ターボチャージャ部品の摺動部や可動部などの高温耐摩耗性を更に向上させることが要望されている。
しかし、特許文献1に記載された技術で得られた部品は、全体を高価なCo基系合金粉末を使用して製造されるため、高価であるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、安価で、摺動部および可動部の高温耐摩耗性に優れたターボチャージャ部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、ターボチャージャ部品の高温耐摩耗性向上に寄与する各種要因について鋭意検討した。その結果、摺動部および可動部の表面に、高温耐摩耗性に優れた材料からなる摺動部材を一体的に接合または嵌合することがよいことに思い至った。そして、さらに、該摺動部材を、射出成形、または圧粉成形を用いて、所定形状とすることにより、寸法精度が高い、しかも安価な部材とすることができることを知見した。
【0009】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)ターボチャージャ部品の摺動部および/または可動部の表面に一体的に接合または嵌合されて使用される摺動部材であって、射出成形または圧粉成形で成形され、HRC55〜65の硬さを有し高温耐摩耗性を具備する合金製焼結体であることを特徴とするターボチャージャ部品用摺動部材。
【0010】
(2)(1)において、前記高温耐摩耗性を具備する合金がCo基合金であることを特徴とするターボチャージャ部品用摺動部材。
(3)摺動部および/または可動部を有するターボチャージャ部品であって、該摺動部および/または可動部の表面に、射出成形または圧粉成形で成形され、HRC55〜65の硬さを有し、高温耐摩耗性を具備する合金製焼結体である摺動部材が、一体的に接合または嵌合されて配設されてなることを特徴とするターボチャージャ部品。
【0011】
(4)(3)において、前記ターボチャージャ部品が、オーステナイト系ステンレス鋼製、高クロム鋳鉄製、ねずみ鋳鉄製、ダクタイル鋳鉄製のうちのいずれかであり、前記摺動部材がCo基合金製焼結体であることを特徴とするターボチャージャ部品。
(5)(3)または(4)において、前記接合が、ろう付であることを特徴とするターボチャージャ部品。
【0012】
(6)摺動部および/または可動部を有するターボチャージャ部品の前記摺動部および/または可動部に摺動部材を接合または嵌合してターボチャージャ部品を製造するに当たり、前記摺動部材を、射出成形または圧粉成形で成形され、HRC55〜65の硬さを有し、高温耐摩耗性を具備する合金製焼結体である摺動部材とし、該摺動部材の外面、あるいはさらに前記摺動部および前記可動部の表面を、前記摺動部材が前記摺動部および/または可動部の表面に接合または嵌合可能なように加工したのち、前記摺動部材を前記摺動部および/または可動部の表面に一体的に接合または嵌合することを特徴とするターボチャージャ部品の製造方法。
【0013】
(7)(6)において、前記ターボチャージャ部品が、オーステナイト系ステンレス鋼製、高クロム鋳鉄製、ねずみ鋳鉄製、ダクタイル鋳鉄製のうちのいずれかであり、前記高温耐摩耗性を具備する合金がCo基合金であることを特徴とするターボチャージャ部品の製造方法。
(8)(6)または(7)において、前記接合が、ろう付であることを特徴とするターボチャージャ部品の製造方法。
【0014】
(9)(8)において、前記ろう付で使用するろう材を、液相線温度が800〜1150℃の範囲の温度であるろう材とすることを特徴とするターボチャージャ部品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温耐摩耗性に優れた、とくに、摺動部、可動部の高温耐摩耗性に優れたターボチャージャ部品を、安価に提供でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、ターボチャージャの信頼性が顕著に向上するとともに、部品の薄肉化が可能となり、車体の軽量化に寄与するという効果もある。また、本発明は、耐熱性、耐摩耗性が強く要求される航空・宇宙産業の分野における製品にも適用可能であるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のターボチャージャ部品を使用した可変ノズル機構の概略を模式的に示す説明図である。
【図2】可変ノズル機構の作動状況を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明になるターボチャージャ部品の一例を模式的に示す説明図である。
【図4】(a)摺動部材の好ましい形状の一例と、(b)摺動部材をユニソンリングの駆動溝に接合した状況を模式的に示す説明図である。
【図5】摺動部材の好ましい形状の他の例((a)〜(c))と、それら摺動部材とユニソンリングとの接合状況を模式的に示す説明図である。
【図6】図4に示す摺動部材とユニソンリングとの接合における好ましい溶接箇所を模式的に示す説明図である。
【図7】図5に示す摺動部材とユニソンリングとの接合における好ましい溶接箇所を模式的に示す説明図である。
【図8】摺動部材とユニソンリングとのろう付け接合における、好ましい摺動部材および/またはユニソンリング摺動部・可動部の好ましい形状の一例を模式的に示す説明図である。
【図9】摺動部材とユニソンリングとのろう付け接合における、好ましい摺動部材および/またはユニソンリング摺動部・可動部の好ましい形状の他の一例を模式的に示す断面図である。
【図10】インターナルクランクと、駆動機構であるアクチュエータ取付け部近傍の構成の一例を模式的に示す、(a)断面図、および(b)斜視図である。
【図11】実施例で実施した高温弁座摩耗試験機の概略を模式的に示す説明図である。
【図12】実施例で行った高温摩耗試験における摩耗量の推移を模式的に示すグラフである。
【図13】実施例で行った単体疲労試験における試験片の装着状態を模式的に示す説明図である。
【図14】可変ターボチャージャの一般的構造を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
可変ターボチャージャ10は、一般に、可変タービン20とコンプレッサー30とを、軸受40により回転自在に支持されたタービンロータ41の両端側に取り付けた構造を有している。とくに、タービンホイール21に流入する排気ガスの流速を変化させる可変ノズル機構23には、摺動部、可動部が多数存在する。
可変タービン20における可変ノズル機構23は、図1に示すように、通常、つぎのような構造を有している。
【0018】
周方向に等間隔に配設された複数のノズルベーン11と、該各ノズルベーン11を回動可能に支持する一対のリング状のノズルリング12,12と、前記ノズルベーン11を回動させるためのリング状のユニソンリング13と、ユニソンリング13の回動に伴って各ノズルベーン11を回動させる複数のベーンアーム14と、一対のノズルリング12、12間に配設され、一対のノズルリング12、12間の間隔を一定に保持する複数のピン15とを有する。
【0019】
ノズルベーン11は、軸部11bと翼部11aとからなる。ノズルベーンの軸部11bの一端は、ベーンアーム14の一端に嵌着され、ベーンアーム14の回転に伴い、ノズルベーン翼部11aが回転し、隣接するノズルベーン11、11間の開口度を調整可能にする。
ノズルリング12は、タービンケーシング22に固定され、各ノズルベーンの軸部11bを回動可能に支持している。一対のノズルリング12、12には、各ノズルベーンの軸部11bを回動可能に支持するための、例えば貫通孔12aが複数個、等間隔に形成されている。また、一対のノズルリングの一方12と他方12は、複数のピン15を介して、間隔一定に支持される。これにより、一対のノズルリング12,12の間には、各ノズルベーンの翼部11aが配置可能となる。
【0020】
ユニソンリング13は、一対のノズルリングの一方12の外側面側に配設され、複数のローラ16を介し回転可能に支持されている。そしてユニソンリング13の内面側に沿っては、複数のベーンアーム14の一端側と係合する複数の溝13aが等間隔に形成されている。また、ユニソンリング13の外面側には、ユニソンリング13を駆動させるために、インターナルクランク17の一端側と係合する一つの駆動溝13bが形成されている。インターナルクランク17は、図10に示すように、センターハウジングに回転可能に保持され、一端側が駆動溝13bと係合し、他端側が駆動機構(アクチュエータ)の取付け部と係合するように配設されている。なお、駆動機構としては、アクチュエータが例示される。アクチュエータの作動によりアクチュエータロッド(図示せず)が往復運動し、その往復運動を、例えば図10に示す、インターナルクランク17他端側のアクチュエータ取付け部を介して、インターナルクランク17の回動に変換して、ユニソンリング13を回動させる。
【0021】
図2に示すように、ユニソンリング13の回動により、ユニソンリング13の内面側に形成された溝13aと一端が係合したベーンアーム14が回動し、それに伴いベーンアーム14に軸が嵌着されたノズルベーン翼部11aが回動しノズルベーン11の翼角が変化して、隣接するノズルベーン11,11間の開口度を変更可能とする。
このような構造を有する可変ノズル機構23では、ノズルベーンの軸部11bとノズルリングの貫通孔12aとの摺動、ユニソンリング13の溝部13aとベーンアーム14との摺動、ユニソンリングの駆動溝13bとインターナルクランク17との摺動、インターナルクランク17とセンターハウジングとの摺動、等があり、ターボチャージャの信頼性向上のために、これら摺動部(可動部をも含む)の耐摩耗性が要求される。
【0022】
本発明では、これらターボチャージャ部品の、とくに可変ノズル機構23における摺動部(可動部をも含む)の表面に、射出成形または圧粉成形で成形され、焼結後の硬さがHRC55〜65の硬さを有し、高温耐摩耗性を具備する合金製焼結体である摺動部材13aa、13ba、12aaを、一体的に接合または嵌合して配設する。これにより、摺動部分に、高温耐摩耗性を具備する摺動部材が一体化(複合化)されて配設されたターボチャージャ部品となり、ターボチャージャ部品摺動部の高温耐摩耗性が向上する。
【0023】
図3に、摺動部材の配設状況の一例を示す。図3(a)に示すように、ユニソンリング13の溝部13aとベーンアーム14との摺動部には、摺動部材13aaが、ユニソンリング13の駆動溝13bとインターナルクランク17との摺動部には、摺動部材13baが、図3(b)に示すように、ノズルベーンの軸部11bとノズルリング12の貫通孔12aとの摺動部には、円筒状の摺動部材12aaが、それぞれ配設される。なお、図3では、摺動部材をユニソンリングに配設しているが、摺動部材をベーンアームに配設しても、また両方に配設してもよい。
【0024】
例えば、ユニソンリング13の駆動溝13b表面には、図4に示すような、断面略U字状の摺動部材13baを、一体的に接合あるいは嵌合させることが好ましい。これにより、相手材であるインターナルクランク17と摺動する、ユニソンリングの駆動溝部13bの摩耗は低減される。なお、ユニソンリングの駆動溝部表面に配設する摺動部材の形状は、これに限定されるものではないが、相手材であるインターナルクランクの形状に応じた摺動性に優れた内面形状とすることはもちろん、ユニソンリングの駆動溝部から脱落しにくい外面形状、および、接合しやすい外面形状とすることが好ましい。これにより、ターボチャージャの信頼性を向上できる。なお、摺動部材の外面形状としては、接合のしやすさや、接合の相手材であるユニソンリングの製造のしやすさ、加工のしやすさを考慮して、図5(a)に示すような、例えば半径:Rの曲面とするか、あるいは図5(b)に示すように、ユニソンリングの円周方向の一部全体を摺動部材とするとともに、外面(接合面)ができるだけ直線状に形成し、かつ断面略U字状の端部の一方あるいは両方を凸状に形成するか、あるいは外面(接合面)を曲面と直線とが組合させた、図5(c)に示すような形状とすることが好ましい。
【0025】
また、インターナルクランク17とセンターハウジングとの摺動部である、図10に示すような、インターナルクランク17を挿通可能なようにセンターハウジングに形成された貫通孔の内表面に、摺動部材を配設することが好ましい。センターハウジングの貫通孔内表面に配設される摺動部材は、圧入等の嵌合によりセンターハウジングの貫通孔に配設することが好ましい。これにより、センターハウジング、インターナルクランクの摩耗が低減される。なお、図5、図10では、摺動部材をユニソンリング側、あるいはセンターハウジング側に配設しているが、インターナルクランク17側に摺動部材を配設しても、また両方に配設してもよい。
【0026】
また、摺動部材を、射出成形製または圧粉成形製とすることにより、少ない加工量でかつ高い精度で、さらに高い歩留りで、所望の寸法形状を有する摺動部材を確保でき、経済的に有利となるという利点がある。とくに、射出成形製とすることが、薄肉化が高精度で可能となり、部分的な小さい形状に成形するという観点から好ましい。
摺動部材は、高温耐摩耗性を具備する合金粉末を用いて、さらに熱可塑性樹脂、ワックス、植物油等のバインダを加えて混合した混合物を、加熱し、半溶融状態にして金型内に射出して成形体を得る射出成形(金属粉末射出成形(MIM))、または合金粉末に、ステアリン酸亜鉛等の潤滑剤、パラフィンワックス等の保形剤、あるいはさらに被削性改善粒子等の添加材を加えて混合した混合物を、金型に装入し、プレス成形等により成形し圧粉体を得る圧粉成形により、所望の寸法形状に成形される。成形された摺動部材は、所定の焼結処理を施され、HRC55〜65の硬さを有する、高温耐摩耗性を具備する合金製焼結体とする。
【0027】
高温耐摩耗性を具備する合金としては、例えばトリバロイ(登録商標名)等のCo基合金とすることが好ましい。
好ましいCo基合金としては、質量%で、Mo:25〜32%、Cr:7〜10%、Si:2〜3%、Fe+Ni:3%以下、残部Coからなる組成を有する合金が例示できる。この合金であれば、焼結処理は1200〜1300℃で真空もしくはArガス等の不活性雰囲気とすることが好ましい。なお、摺動部材の材質は、相手攻撃性の軽減という観点から、相手材の材質に応じて、上記した組成の範囲内で調整することが好ましい。
【0028】
また、焼結体の硬さがHRC55未満では、使用場所によっては、所望の高温耐摩耗性を確保できなくなる可能性がある。一方、HRC65を超える硬さでは、割れが発生しやすくなる、あるいは加工が困難となる場合があり、また相手攻撃性が増大するという問題がある。
また、ノズルリング、ユニソンリング等のターボチャージャ部品の素材はとくに限定する必要はなく、通常使用されているねずみ鋳鉄品、ダクタイル鋳鉄品がいずれも使用可能である。なお、高温環境下で使用されることを考慮すれば、その素材としては、耐熱特性に優れた材料、例えばオーステナイト系ステンレス鋼板SUS310、耐熱鋼板SUH660、高クロム鋳鉄品等を用いることが好ましい。
【0029】
なお、ねずみ鋳鉄品は、JIS G 5501に規定される各種のFCが、またダクタイル鋳鉄品はJIS G 5502に規定される各種FCDがいずれも適用できる。
また、高クロム鋳鉄品は、質量%で、C:1〜1.4%、Si:1.8〜2.1%、Mn:0.6%以下、Mo:2〜2.5%、Cr:33〜35%、Ni:0.5%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋳鉄品とすることが好ましい。
【0030】
本発明では、好ましくは、上記した組成、上記した範囲の硬さを有する、高温耐摩耗性を具備する合金製焼結体からなる摺動部材を、ターボチャージャ部品の摺動部および/または可動部の表層に、一体的に接合または嵌合して配設する。
なお、摺動部材を、ノズルリング、ユニソンリングの駆動部表層に一体的に接合あるいは嵌合する方法としては、溶材を使用しないTIG溶接、レーザ溶接等の溶接、あるいは真空もしくはArガス等の不活性雰囲気中での焼結、あるいはろう付、等による接合が好適であり、嵌合する方法としては、圧入、かしめ、等が好適である。
【0031】
例えば、焼結により一体化する場合には、予め摺動部材に所定の焼結処理を施した後、ユニソンリング等の接合箇所の形状に合致するように摺動部材の外面を加工し、該接合箇所に摺動部材を嵌め込み、焼結して、一体化接合することが好ましい。また、溶接による接合では、接合箇所に摺動部材を嵌め込み、レーザ溶接による接合とすることが溶接熱の影響を狭い範囲に限定するという観点から好ましい。
【0032】
なお、溶接箇所は溶接時の変形を少なくするため、図6、図7に示したハッチング部とすることが好ましい。溶接は、連続して行っても、点状に行ってもよい。又、溶接は摺動部材の両端面で行っても片端面だけでもよいが、応力集中の緩和という観点からは片端面のみとすることが好ましい。
また、ろう付により一体化する場合には、摺動部あるいは可動部の接合箇所の形状(表面形状)に合致するように摺動部材の外面を加工し、該摺動部あるいは可動部の接合箇所と摺動部材の外面との間にろう材を載置したのち、ろう材の融点以上の所定の温度に加熱して、一体化接合することが好ましい。あるいは、摺動部あるいは可動部の接合箇所の形状(表面形状)に合致するように摺動部材の外面、あるいはさらに摺動部あるいは可動部の表面を加工し、該接合箇所に摺動部材を嵌め込み、さらにろうが接合界面に供給可能なように所定の位置にろう材を載置したのち、ろう材の融点以上の所定の温度に加熱して、一体化接合することが好ましい。
【0033】
使用するろう材は、液相線温度が800〜1150℃の範囲である、ろう材とすることが好ましい。液相線温度が800℃未満のろう材では、ターボチャージャの使用温度で軟化し、所望の接合特性を確保できなくなる。一方、液相線が1150℃を超えて高温となると、接合のための加熱温度を高くする必要があり、摺動部材及びユニソンリングの強度が低下する恐れがある。なお、使用するろう材は、液相線温度が900〜1150℃であることがより好ましい。このような材料としては、耐熱性、耐食性という観点や、各種形状に加工しやすいという観点から、銅および銅合金ろう、NiおよびNi合金ろう、Auろう、Pdろう等が好適である。銅および銅合金ろうとしては、JIS Z 3262に規定された、BCu−1〜BCu−4として記載のものとすることが好ましい。また、Niろうとしては、JIS Z 3265に規定されるBNi−1〜BNi−5として記載のものとすることが好ましい。また、液相線温度が800〜1150℃の範囲となるように、適正な粉末を適正な量で配合した混合粉を用いてもよい。
【0034】
また、ろう付による接合のための加熱温度としては、ろう材の液相線温度に応じて、液相線温度超かつ1200℃以下の範囲の温度とすることが好ましい。加熱温度が1200℃を超えると、ユニソンリングが変形し、寸法精度が低下するとともに摺動部材及びユニソンリングの強度が低下する恐れがある。なお、より好ましくは950〜1200℃である。
なお、ろう付による一体化接合を行う場合には、接合界面に十分にろう材が供給できるように、摺動部材の外面形状および/またはユニソンリング摺動部/可動部の内面形状を、調整することが好ましい。好ましい摺動部材の形状の例を図8に示す。
【0035】
図8(a)は、摺動部材13abに、つば13abcと、突起部13abdを設けた例である。つば13abcを設けることにより、部材を嵌合する時の脱落を防止でき、さらに、接合界面の面積が増加し、接合強度の向上を図ることができる。また、突起部13abdを設けることにより、インターナルクランク17との接触面積が増加し、接触面圧の低下を図れる。また、つば13abcと、突起部13abdを設けることにより、ろう材の載置場所を提供することができ、接合界面にろう材を容易に供給できるとともに、さらに加熱時にろう材の流出を防止することができ、ろう付け作業が容易となる。
【0036】
図8(b)は、摺動部材13abに、突起部13abdを設け、ユニソンリング摺動部/可動部の内面側の一部に溝13acを形成した例である。溝13acを設けることにより、ろう材を載置できる場所を確保することができ、しかも接合界面にろう材を容易に供給できるようになる。さらには、溝13acと突起部13abdにより、加熱時にろう材の流出を防止することができ、ろう付け作業が容易となる。
【0037】
図9には、好ましい他の例を、図8と同様な位置での断面図で示す。
図9(a)には、摺動部材13abに突起部13abdと、摺動部材13abの一部とユニソンリング13摺動部/可動部の内面側の一部とで溝13acを形成するようにした例である。図9(b)には、摺動部材13abに突起部13abdを形成するとともに、摺動部材13abとユニソンリング13摺動部/可動部の内面との間で溝13acを形成できるように、摺動部材13ab側に肩部13abcを形成した例を示す。この例では、摺動部材13ab側のみの加工でよく、ユニソンリング13摺動部/可動部の内面側の加工を必要としない点で加工工程の短縮が可能となる。
【0038】
以下、実施例に基づき、さらに本発明を説明する。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
SUS310製ユニソンリングの駆動溝表面に一体化して接合する摺動部材を摺動材(大きさ:外径33mmφ×内径27mmφ×厚さ7.5mm)とし、図11に示す高温弁座摩耗試験機のセッティンググプレートに装入し、摺動材と、相手材(耐熱鋼製)とを摺動させる試験を実施し、本発明例とした。なお、本発明例の摺動材は、質量%で、Mo:28.5%、Cr:8.5%、Si:2.5%、Fe+Ni:0.4%を含み、残部Coからなる組成を有するCo基合金粉末に、バインダを添加し混合した混合物を、半溶融状態になるように加熱したのち、射出成形機により、成形し、脱脂焼結して、Co基合金製焼結体としたものを使用した。なお、焼結体の硬さはHRC57〜61であった。一方、相手材は、耐熱鋼製とし、バルブ形状に加工した。なお、ユニソンリングの駆動溝表面に摺動部材を接合しない場合を想定し、摺動材を窒化処理したSUS310製とし、相手材を窒化処理した耐熱鋼製として、摺動させる試験を行い、従来例とした。試験条件は、下記のとおりである。
試験条件;
相手材加熱温度:700℃
相手材回転数:20 rpm
スプリング荷重:35 kgf(345MPa セット時)
リフト量:4.0 mm
カム回転数:2000 rpm
試験時間:5h
なお、熱源は、LPG+Airとし、その量、および、冷却水量は一定とした。
【0040】
試験後、摺動材と相手材の摩耗量を測定し、その合計を算出した。得られた摩耗量合計を、本発明例と従来例とで比較した。その結果、試験中、本発明例と従来例は、図12に示すような摩耗量の推移を示した。そして、試験後、本発明例の摩耗量は、従来例(基準値)の1/2であり、高温耐摩耗性が顕著に向上していることがわかる。
(実施例2)
図1に示す可変ノズル機構における、SUS310製ユニソンリングの駆動溝13a表面に、摺動部材13abを一体化して接合した。
【0041】
摺動部材13abは、質量%で、Mo:28.5%、Cr:8.5%、Si:2.5%、Fe+Ni:0.4%を含み、残部Coからなる組成を有するCo基合金粉末に、バインダを添加し混合した混合物を、半溶融状態になるように加熱したのち、射出成形機により、図8(a)に示すようなつばおよび突起部を有する部材形状に成形し、脱脂焼結して、Co基合金製焼結体としたものを、ろう付け(接合)した。なお、焼結体の硬さはHRC57〜61であった。
【0042】
接合に際しては、駆動溝13aには、予め、摺動部材のつば13abcが嵌合可能な形状に溝部を形成した。そして、摺動部材13abを駆動溝13aに嵌合し、ついで、駆動溝と摺動部材との接合界面にろう材が十分供給するように、図8(a)の矢印の位置に、ろう材を載置した。使用したろう材は、銅ろう(BCu−1)(液相線温度:1083℃)とした。ついで、駆動溝13aに摺動部材13abを嵌合した一体を、加熱温度:1120℃に加熱し、ろう材を溶融し、ユニソンリングの駆動溝と摺動部材とを一体化接合した。
【0043】
接合後、接合部を目視観察、切断検査して、接合部の欠陥の有無を確認した。その結果、接合部の欠陥の発生は皆無であった。
ついで、得られたユニソンリングを試験材として単体疲労試験を実施し、接合部分の品質を評価した。試験方法は次のとおりとした。
図13に示す駆動側治具に、試験材(ユニソンリング)13を固定する。固定された試験材(ユニソンリング)の駆動溝部13bに、固定側治具の一端に配設されたインターナルクランク形状の端子を摺動可能に挿入する。そして、駆動溝部内をインターナルクランク形状の端子が摺動を繰返すように、負荷荷重を所定の試験回数(サイクル)まで負荷した。試験条件は下記のとおりとした。
試験温度:25℃
負荷荷重:±30kgf
荷重負荷サイクル:50Hz
試験回数:107サイクル
なお、ユニソンリング駆動溝部の摺動相手材であるインターナルクランク形状の端子の材質は、SUS310窒化品とした。
【0044】
試験後、ユニソンリング駆動溝と摺動部材との接合部について、割れ、脱落の有無を目視で観察した。
その結果、駆動溝部と摺動部材との接合部には割れも脱落も認められなかった。
【符号の説明】
【0045】
10 可変ターボチャージャ
11 ノズルベーン
11a ノズルベーン翼部
11b ノズルベーン軸部
12 ノズルリング
12a 貫通孔
12aa摺動部材
13 ユニソンリング
13a 溝部
13aa摺動部材
13b 駆動溝部
13ba摺動部材
14 ベーンアーム
15 ピン
16 ローラ
17 インターナルクランク
20 タービン(可変タービン)
21 タービンホイール
22 タービンケーシング
23 可変ノズル機構
30 コンプレッサー
31 コンプレッサーホイール
32 コンプレッサーケーシング
40 軸受
41 タービンロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャ部品の摺動部および/または可動部の表面に一体的に接合または嵌合されて使用される摺動部材であって、射出成形または圧粉成形で成形され、HRC55〜65の硬さを有し高温耐摩耗性を具備する合金製焼結体であることを特徴とするターボチャージャ部品用摺動部材。
【請求項2】
前記高温耐摩耗性を具備する合金がCo基合金であることを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャ部品用摺動部材。
【請求項3】
摺動部および/または可動部を有するターボチャージャ部品であって、該摺動部および/または可動部の表面に、射出成形または圧粉成形で成形され、HRC55〜65の硬さを有し、高温耐摩耗性を具備する合金製焼結体である摺動部材が、一体的に接合または嵌合されて配設されてなることを特徴とするターボチャージャ部品。
【請求項4】
前記ターボチャージャ部品が、オーステナイト系ステンレス鋼製、高クロム鋳鉄製、ねずみ鋳鉄製、ダクタイル鋳鉄製のうちのいずれかであり、前記摺動部材がCo基合金製焼結体であることを特徴とする請求項3に記載のターボチャージャ部品。
【請求項5】
前記接合が、ろう付であることを特徴とする請求項3または4に記載のターボチャージャ部品。
【請求項6】
摺動部および/または可動部を有するターボチャージャ部品の該摺動部および/または可動部に摺動部材を接合または嵌合してターボチャージャ部品とするに当たり、前記摺動部材を、射出成形または圧粉成形で成形され、HRC55〜65の硬さを有し、高温耐摩耗性を具備する合金製焼結体である摺動部材とし、該摺動部材の外面、あるいはさらに前記摺動部および前記可動部の表面を、前記摺動部材が前記摺動部および/または可動部の表面に接合または嵌合可能なように加工したのち、前記摺動部材を前記摺動部および/または可動部の表面に一体的に接合または嵌合することを特徴とするターボチャージャ部品の製造方法。
【請求項7】
前記ターボチャージャ部品が、オーステナイト系ステンレス鋼製、高クロム鋳鉄製、ねずみ鋳鉄製、ダクタイル鋳鉄製のうちのいずれかであり、前記高温耐摩耗性を具備する合金がCo基合金であることを特徴とする請求項6に記載のターボチャージャ部品の製造方法。
【請求項8】
前記接合が、ろう付であることを特徴とする請求項6または7に記載のターボチャージャ部品の製造方法。
【請求項9】
前記ろう付で使用するろう材を、液相線温度が800〜1150℃の範囲の温度であるろう材とすることを特徴とする請求項8に記載のターボチャージャ部品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−52520(P2012−52520A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18896(P2011−18896)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【出願人】(596112527)大同精密工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】