説明

チロシナーゼ阻害剤

【課題】チロシナーゼ活性を阻害できる新規なチロシナーゼ阻害剤を提供すること。
【解決手段】イエロー・バタイ(Peltophorum dasyrachis)のエステル及び/又はハロゲン化炭化水素抽出物を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。抽出物は、アピゲニン、ジヒドロケンフェロール、ジヒドロクェルセチン、ジヒドロ−ar−ターメロン及びar−ターメロンからなる群から選択される少なくとも1種のフラボノイドを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イエロー・バタイ(Yellow batai)(Peltophorum dasyrachis)から得られる抽出物を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤、並びに該チロシナーゼ阻害剤からなる食品添加剤及び化粧品添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食物の褐変は、酵素的酸化及び非酵素的酸化に関与する2つの要素を包含するが、いずれも市場価格の低下につながるために防止する必要がある。非酵素的褐変は、抗酸化剤によって防ぐことができる。一方、酵素的褐変は、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)によって触媒されており、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)としてチロシナーゼが知られている。
【0003】
チロシナーゼは、銅を含む多機能性オキシダーゼであって、微生物、動物組織、及び植物組織中に広く分布している。チロシナーゼは、メラニン生合成に関与しているため、(非特許文献1参照)、チロシナーゼ阻害剤は食品業界で活用されているだけでなく、色素沈着を防ぐ目的で医薬品及び化粧品にも添加されている。化粧品添加剤と使用されているチロシナーゼ阻害剤として、例えば、アスコルビン酸(非特許文献2参照)、アルブチン(非特許文献3参照)及びコウジ酸(非特許文献4参照)が挙げられる。
このように、数多くのチロシナーゼ阻害剤が報告されているが、天然のチロシナーゼ阻害剤は一般的に有害な副作用がないと考えられるので、さらに、天然物から有用なチロシナーゼ阻害剤が単離されることが望ましい。
【0004】
一方、イエロー・バタイ(Yellow batai)(Peltophorum dasyrachis)は、タイハーブの1つであって、マメ科(Legminosae)に属する植物である。マメ科の種には、多くのフェノール化合物及びフラボノイドを含有していることが知られており、機能性食品又は化粧品の有効成分として使用されることが期待されている。イエロー・バタイについては、本発明者らが以前、その抽出物に含まれる抗変異活性効果を有する化合物を報告している(特許文献1参照)。また、本発明者らは、そのエタノール抽出物に美白効果があることについて報告しているが、その有効成分は解明されていなかった(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−151855号公報
【特許文献2】特開2005−23036号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sanchez-Ferrer, A., et al., Biochimica et Biophysica Acta, Protein Structure and Molecular Enzymology, 1247(1), 1-11 (1995)
【非特許文献2】Singh, R., et al., Haryana Agricultural University Journal of Research, 3(2), 93-6 (1973)
【非特許文献3】Akiu, S., et al., 日本皮膚科学会雑誌, 101(6), 609-13 (1991)
【非特許文献4】Hyun, S.K., et al., Biological & Pharmaceutical Bulletin, 31(1), 154-158 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、チロシナーゼ活性を阻害できる新規なチロシナーゼ阻害剤を提供することである。詳しくは、食品として使用できる成分を原料とした、安全性が高く、しかもチロシナーゼ活性に対する優れた阻害作用を有する新規なチロシナーゼ阻害剤、並びにチロシナーゼ阻害剤からなる食品添加剤及び化粧品添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、イエロー・バタイのエステル及び/又はハロゲン化炭化水素抽出物がチロシナーゼ活性に対する優れた阻害作用を有することを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記のチロシナーゼ阻害剤並びに該阻害剤からなる食品添加剤及び化粧品添加剤を提供することである。
【0009】
項1.イエロー・バタイ(Peltophorum dasyrachis)のエステル及び/又はハロゲン化炭化水素抽出物を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。
【0010】
項2.前記抽出物が、式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
で表されるアピゲニン(apigenin)、式(II):
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Rは水素原子又はラムノシド基を示す)
で表されるジヒドロケンフェロール(dihydrokaemferol)、式(III):
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又はラムノシド基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるジヒドロクェルセチン(dihydroquercetin)、式(IV):
【0017】
【化4】

【0018】
で表されるジヒドロ−ar−ターメロン(dihydro-ar-turmerone)、及び式(V):
【0019】
【化5】

【0020】
で表されるar−ターメロン(ar-turmerone)からなる群から選択される少なくとも1種のフラボノイドを含む、項1に記載のチロシナーゼ阻害剤。
【0021】
項3.前記抽出物が、式(IIa):
【0022】
【化6】

【0023】
で表される(+)−(2R,3R)−ジヒドロケンフェロール、式(IIIa):
【0024】
【化7】

【0025】
で表される(+)−(2R,3R)−ジヒドロクェルセチン、及び式(Va):
【0026】
【化8】

【0027】
で表される(+)−(S)−ar−ターメロン((+)-(S)-ar-turmerone)の少なくとも1種を含む、項1又は2に記載のチロシナーゼ阻害剤。
【0028】
項4.前記抽出物が、 (+)−(2R,3R)−ジヒドロケンフェロール及び (+)−(2R,3R)−ジヒドロクェルセチンの少なくとも1種を含む、項1〜3のいずれかに記載のチロシナーゼ阻害剤。
【0029】
項5.項1〜4のいずれかに記載のチロシナーゼ阻害剤からなる食品添加剤。
【0030】
項6.項1〜4のいずれかに記載のチロシナーゼ阻害剤からなる化粧品添加剤。
【発明の効果】
【0031】
本発明のチロシナーゼ阻害剤は、天然植物であるイエロー・バタイのエステル及び/又はハロゲン化炭化水素抽出物を有効成分とするものであり、優れたチロシナーゼ活性阻害作用を有する。
【0032】
また、今回、上記エステル抽出物における活性化合物を精製・同定することに成功し、(+)−(2R,3R)−ジヒドロケンフェロール及び(+)−(2R,3R)−ジヒドロクェルセチンがその有効成分であることをつきとめた。さらに、ハロゲン化炭化水素抽出物から単離した(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロン及び(+)−(S)−ar−ターメロンがチロシナーゼ阻害活性を有することをつきとめた。
【0033】
本発明のチロシナーゼ阻害剤は、食品添加剤、化粧用添加剤等として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】イエロー・バタイの抽出分離工程を示す図である。
【図2】化合物1〜8の構造式を示す図である。
【図3】化合物1〜8及びコウジ酸のチロシナーゼ活性阻害効果を示す図である。
【図4】(A)は、化合物2のチロシナーゼ阻害のLineweaver-Burkプロットを示す図であり、(B)は、化合物5のチロシナーゼ阻害のLineweaver-Burkプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0036】
本発明のチロシナーゼ阻害剤は、イエロー・バタイのエステル及び/又はハロゲン化炭化水素抽出物を有効成分とするものである。
本発明において、イエロー・バタイ(Peltophorum dasyrachis)とは、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム、マレーシア、スマトラ島等の東南アジア諸国で植栽されているマメ科(Legminosae)植物である。イエロー・バタイの抽出物は、その樹木の抽出物であればよく、特に樹皮の抽出物が好ましい。
【0037】
上記のイエロー・バタイは、そのまま抽出に供することができるが、より細かく粉砕した後、抽出に供してもよい。また、粉末にした後更に乾燥して抽出したり、水中で粉砕してスラリー状にして抽出することもできる。また、市販されている乾燥樹皮を使用することも可能である。
【0038】
抽出溶媒としては、エステル類及び/又はハロゲン化炭化水素を用いることができる。すなわち、エステル類及びハロゲン化炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を用いることができる。抽出溶媒は、エステル類及びハロゲン化炭化水素のどちらか1種単独で用いてもよいし、両方を混合して用いてもよい。エステル類として、特に、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の低級アルキルエステル類を用いる。ハロゲン化炭化水素として、ジクロロメタン、クロロホルム等を用いる。これらの中で、低級アルキルエステル類が、優れたチロシナーゼ阻害活性を有する抽出物を効率よく得ることができる点で好ましい。
【0039】
抽出方法については、特に限定されるものではなく、イエロー・バタイに溶媒(エステル及び/又はハロゲン化炭化水素)を加えた後、抽出物の抗変異原活性を失活させない程度に加温加熱する加熱抽出法や、超臨界抽出法等を適宜適用できる。また、一定量の溶媒に米糠及び玄米からなる群から選ばれた少なくとも一種を浸漬してバッチ処理する浸漬抽出法や連続的に溶媒を送り続ける連続抽出法等、公知の種々の抽出法を適用できる。
【0040】
具体的な抽出方法の一例を挙げると、例えば、イエロー・バタイの乾燥重量に対して、0.5〜5重量倍程度、好ましくは、2〜2.5重量倍程度の抽出溶媒(エステル及び/又はハロゲン化炭化水素)を加えて浸漬して加熱し、30〜60分間程度溶媒を還流させることにより、チロシナーゼ阻害活性を有する成分を抽出することができる。或いは、イエロー・バタイの乾燥重量に対して0.5〜5重量倍程度、好ましくは、2〜2.5重量倍程度の抽出溶媒(エステル)を加えて浸漬し、室温で1〜14日間程度放置するか、或いは40〜60℃程度に加熱して10〜20時間程度加熱することにより有効成分を抽出することも可能である、勿論、溶媒量や加熱温度、加熱時間等については、優れたチロシナーゼ阻害活性を有する成分を抽出できるように適宜調整すればよい。
【0041】
上記した方法によってイエロー・バタイからエステル及び/又はハロゲン化炭化水素を用いて抽出することにより抽出物を得た後、通常、濾過、遠心分離等の常法によって残渣と固液分離することによって、抽出液を得ることができる。本発明では、得られた抽出液をそのままチロシナーゼ阻害剤として用いることが可能であるが、活性が低い場合もあるため、適宜濃縮又は溶媒を留去して、エキス状や粉末状として用いることもできる。
【0042】
更に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、ベンゼン等の有機溶媒を1種又は2種以上用いた溶媒分画操作により得られた抽出画分から、活性画分を分取したものをチロシナーゼ阻害剤として用いることも可能である。
【0043】
更に、必要に応じて、アルミナカラムクロマトグラフィーやシリカゲルクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の適当な分離精製手段を1種若しくは2種以上組み合わせて、チロシナーゼ活性阻害作用のある画分又は化合物を取り出して、チロシナーゼ阻害剤とすることできる。これにより、少量の摂取で優れた活性を発揮させることができる。
【0044】
上記方法により得られた抽出物は、式(I):
【0045】
【化9】

【0046】
で表されるアピゲニン(apigenin)、式(II):
【0047】
【化10】

【0048】
(式中、Rは水素原子又はラムノシド基を示す)
で表されるジヒドロケンフェロール(dihydrokaemferol)、式(III):
【0049】
【化11】

【0050】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又はラムノシド基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるジヒドロクェルセチン(dihydroquercetin)、式(IV):
【0051】
【化12】

【0052】
で表されるジヒドロ−ar−ターメロン(dihydro-ar-turmerone)、及び式(V):
【0053】
【化13】

【0054】
で表されるar−ターメロン(ar-turmerone)からなる群から選択される少なくとも1種のフラボノイドを含んでいる。
ここで、ジヒドロケンフェロール及びジヒドロクェルセチンには、C2位及びC3位の置換基同士の相対配置、及び各置換基の立体配置に係る異性体が存在する。また、ジヒドロ−ar−ターメロン及びar−ターメロンには不斉炭素が存在することから、立体配置に係る異性体が存在する。本発明は、これらの異性体すべてを包含するものであり、単一の異性体であってもよく、任意の比率での異性体混合物であってもよい。
ジヒドロケンフェロール及びジヒドロクェルセチンの相対配置としては、いずれもトランス(trans)体が好ましく、絶対配置として、C2位及びC3位がともにR配置である、(2R,3R)体がさらに好ましい。また、旋光度は、(+)であることが好ましい。ジヒドロ−ar−ターメロン及びar−ターメロンの絶対配置としては、いずれも(S)体が好ましく、旋光度は、(+)であることが好ましい。
【0055】
次に、図1を参照して、イエロー・バタイからの活性化合物の精製・同定の手順を具体的に示す。
【0056】
イエロー・バタイをジクロロメタン及び酢酸エチルで抽出し、それらの画分を減圧下濃縮して、ジクロロメタン画分及び酢酸エチル画分を得る。チロシナーゼ活性阻害作用のある酢酸エチル画分を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分画し、チロシナーゼ活性阻害作用のある画分を炭酸ナトリウム水溶液で分配し、酸性化して酢酸エチルで抽出した後、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画して、化合物1〜2及び4〜5を得る。
【0057】
また、チロシナーゼ活性阻害作用のある酢酸エチル画分を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分画し、得られたメタノール画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分画し、炭酸ナトリウム水溶液で分配し、フェノール性にして酢酸エチルで抽出した後、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画して、化合物3及び6を得る。
【0058】
各種スペクトル分析により、化合物1は、式(I):
【0059】
【化14】

【0060】
で表されるアピゲニンと同定された。化合物2は、式(II):
【0061】
【化15】

【0062】
においてRが水素原子である、(+)−(2R,3R)−ジヒドロケンフェロールと同定され、化合物3は、上記式(II)においてRがラムノシド基である、(+)−(2R,3R)−ジヒドロケンフェロール3−O−α−L−ラムノシドと同定された。また、化合物4は、式(III):
【0063】
【化16】

【0064】
においてRがメチル基であり、Rが水素原子であり、Rがメチル基である、(+)−4’,7−ジメトキシ−(2R,3R)−ジヒドロクェルセチンと同定された。
【0065】
化合物5は、上記式(III)においてRが水素原子であり、Rが水素原子であり、Rが水素原子である、(+)−(2R,3R)−ジヒドロクェルセチンと同定された。化合物6は、上記式(III)においてRが水素原子であり、Rがラムノシド基であり、Rが水素原子である、(−)−(2R,3R)−ジヒドロクェルセチン−3−O−α−L−ラムノシドと同定された。
【0066】
また、チロシナーゼ活性阻害作用のあるジクロロメタン画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分画し、チロシナーゼ活性阻害作用のある画分について、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを繰り返すことにより分画して、化合物7〜8を得る。
【0067】
化合物7は、式(IVa):
【0068】
【化17】

【0069】
で表される(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンと同定され、化合物8は、式(Va):
【0070】
【化18】

【0071】
で表される(+)−(S)−ar−ターメロンと同定された。
【0072】
これらのことから、マメ科植物イエロー・バタイは、フラボノイドを多量に含有していることが明らかとなった。
【0073】
上述のイエロー・バタイからのエステル及び/又はハロゲン化炭化水素抽出物に含まれる、式(IIa):
【0074】
【化19】

【0075】
で表される化合物2、式(IIIa):
【0076】
【化20】

【0077】
で表される化合物5、及び式(Va):
【0078】
【化21】

【0079】
で表される化合物8は、後述する実施例で示すように、優れたチロシナーゼ活性の阻害作用を有している。そして、これらの中でも化合物2及び化合物5は、特に優れたチロシナーゼ活性の阻害作用を有している。このため、人及び動物に対するチロシナーゼ阻害剤として用いることができる。また、本発明のイエロー・バタイからのエステル抽出物は、チロシナーゼ活性を阻害する作用を有することから、美白(色素沈着やくすみの改善)作用を有しており、美白剤の有効成分として有用である。
【0080】
本発明のチロシナーゼ阻害剤の使用形態については、特に限定はなく、経口、非経口の何れも可能であるが、例えば、経口的に摂取する場合には、食品添加剤として食品に添加して摂取することができる。また、化粧品等に添加して皮膚等に塗布することによって、日焼け後の色素沈着、しみ、そばかす、紅斑等の淡色化、くすみの改善等に有効に使用できる。
【0081】
食品添加剤として用いる場合には、その添加量については、特に限定的ではなく、食品の種類に応じ適宜決めればよい。例えば、清涼飲料、炭酸飲料などの液体食品や菓子類やその他の各種食品等の固形食品に添加して用いることができるが、これらの場合の添加量については、食品の種類に応じて適宜決めればよく、一例としては、上記した抽出物の乾燥重量として、含有量が0.005重量%〜5重量%程度の範囲内となるように添加すればよい。
【0082】
また、化粧品添加剤として用いる場合には、例えば、化粧料成分として一般に使用されている成分、例えば、界面活性剤、油分、保湿剤、皮膜形成剤、色素、香料等と任意に組み合わせて配合することにより調製することができる。その形態は特に制限されず、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール、エッセンス、パック、洗浄剤、ファンデーション、打粉、各種メーク剤(口紅、チーク等)とすることができる。
【0083】
化粧品に添加する場合には、化粧品の本来の機能を阻害しない範囲において、添加量を適宜決めればよく、一例としては、上記した抽出物の乾燥重量として、含有量が0.05重量%〜10重量%程度の範囲内となるように添加すればよい。
【0084】
また、その他に、本発明のチロシナーゼ阻害剤を人体に投与する場合の投与方法及び投与量の一例を示すと次の通りである。
【0085】
投与は、種々の方法で行うことができ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤等による経口投与とすることができる。投与量については、経口投与の場合には、通常、成人において、有効成分量として0.01〜1000mg/kg程度が適当であり、これを1日1回〜数回に分けて投与すればよい。経口投与剤は、通常の製造方法に従って製造することができる。例えば、デンプン、乳糖、マンニット等の賦形剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、軽質無水ケイ酸等の流動性向上剤等を適宜組み合わせて処方することにより、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等として製造することができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
【0087】
<実施例1>
イエロー・バタイの抽出物についてチロシナーゼ阻害活性試験を行った。
【0088】
(1)イエロー・バタイからの化合物の抽出及び単離
イエロー・バタイからの化合物の抽出及び単離は、図1に従って行った。なお、減圧濃縮は、ロータリーエバポレーターを用い、樹皮原料以外の試薬及び溶剤は、和光純薬(株)から購入した。イエロー・バタイの乾燥樹皮(株式会社ピカソ美化学研究所製)(4.5kg)を、室温下でジクロロメタン(10リットル)及び酢酸エチル(8リットル)により順次6時間還流した。各可溶性画分を減圧濃縮することにより、ジクロロメタン抽出物(10g)及び酢酸エチル抽出物(24g)を得た。
【0089】
酢酸エチル抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離剤:ジクロロメタン−アセトン)に付すことにより3つのフラクション(以下、Fr.とする)1〜Fr.3に分画した。Fr.2(4.0g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離剤:ジクロロメタン−酢酸エチル)に付すことで4つのフラクション(Fr.4〜7)に分画した。Fr.6(1.18g)を5%炭酸ナトリウム水溶液で分配し、水層を希塩酸溶液で酸性化して酢酸エチルで抽出することにより、Fr.8を得た。Fr.8についてシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサン−酢酸エチル)を繰り返すことにより、化合物1(17mg)、化合物2(24mg)、化合物3(7.7mg)及び化合物4(110mg)を単離した。Fr.3について同様の方法を用いることにより、Fr.12から化合物5(900mg)及び化合物6(2.0g)を単離した。
【0090】
ジクロロメタン抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサン−ジクロロメタン)に付すことにより2つのフラクション(Fr.13〜Fr.14)に分画した。Fr.13(2.0g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサン−ジエチルエーテル)に付すことで2つのフラクション(Fr.16〜17)に分画した。Fr.16(500mg)についてシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサン−ジエチルエーテル)を繰り返すことにより、化合物7(30mg)及び化合物8(300mg)を単離した。
【0091】
(2)化合物1〜8の構造決定
化合物1〜8の構造を決定する目的で、IR、FAB−MS、H−NMR及び13C−NMRを測定した。
【0092】
IR(赤外線吸収)スペルトルの測定には、日本分光株式会社製のJASCO FT/IR-470 plus Fourier transform infrared spectrometerを使用した。
【0093】
FAB−MSの測定には、日本電子株式会社製JEOL the Tandem MS station JMS-700を使用した。
【0094】
H−NMR及び13C−NMR、異核多量子コヒーレンス(HMQC)及び異核多重結合コヒーレンス(HMBC)スペクトルは、JEOL ECA分光光度計で、内部基準としてTMSを用い、H−NMRでは400、500及び700MHzで、13C−NMRでは100、125及び175MHzでそれぞれ測定した。
【0095】
また、旋光度は、日本分光(株)のLTDDIP-1000で測定した。
【0096】
化合物1〜8の物性は、以下のとおりである。
化合物1: 淡い帯黄色粉末. IR νKBrmaxcm-1: 3491 (OH), 1653 (C=O); 1H-NMR (DMSO-d6, 400 MHz):δ 12.9 (1H, s, 5’-OH), 7.88 (2H, d, J = 8.8 Hz, H-2’ and H-6’), 6.93 (2H, d, J = 8.8 Hz, H-3’ and H-5’), 6.69 (1H, s, H-3), 6.47 (1H, d, J = 2.0 Hz, H-8), 6.19 (1H, d, J = 2.0 Hz, H-6) and 13C-NMR (DMSO-d6, 100 MHz) δ 181.8 (C-4), 164.0 (C-2), 163.7 (C-7), 161.6 (C-9), 161.4 (C-4’), 157.3 (C-5), 128.5 (C-2’, 6’), 121.4 (C-1’), 129.5 (C-2’, 6’), 116.0 (C-3’, 5’), 103.8 (C-10), 102.8 (C-3). 98.8 (C-6), 94.0 (C-8), Positive FAB-MS : m/z271 [M+H]+.
【0097】
化合物2:無色粉末; [α]29D +25.0°(c = 0.18, MeOH); IR νKBrmax cm-1 : 3372 (OH), 1636 (C=O); 1H-NMR (Acetone-d6, 400 MHz) δ 11.7 (1H, s, 5-OH), 7.41 (2H, d , J = 8.8 Hz, H-2’, H-6’), 6.88 (2H, d, J = 8.8 Hz, H-3’, H-5’), 5.98 (1H, d, J = 2.0 Hz, H-8), 5.93 (1H, d, J = 2.0 Hz, H-6), 5.08 (1H, d, J =11.6 Hz, H-2), 4.65 (1H, d, J = 11.6 Hz, H-3) and 13C-NMR (Acetone-d6, 100 MHz) δ 198.2 (C-4), 168.4 (C-7), 164.2 (C-9), 164.9 (C-5), 158.3 (C-4’), 158.2 (C-3’, 5’), 130.2 (C-2’, 6’), 129.1 (C-1’), 101.5 (C-10), 97.0 (C-6), 96.0 (C-8), 84.4 (C-2), 73.1 (C-3). Positive FAB-MS: m/z 289 [M+H]+.
【0098】
化合物3:無色粉末; [α]26D -10.3° (c = 0.75, Acetone); IR νKBrmax cm-1 : 3412 (OH), 1642 (C=O); 1H-NMR (CD3OD, 700 MHz) δ7.35 (2H, d, J = 8.6 Hz, H-2’, H-6’), 6.83 (2H, d, J = 8.6 Hz, H-3’, H-5’), 5.91 (1H, d, J = 2.2 Hz, H=6), 5.89 (1H, d, J = 2.2 Hz, H-8), 5.14 (1H, d, J = 10.4 Hz, H-2), 4.62 (1H, d, J = 10.4 Hz, H-3), 4.25 (1H, dq, J = 9.7, 6.4 Hz, Rha H-5”), 4.00 (1H, d, J = 1.6 Hz, Rha H-1”), 3.64 (1H, dd, J = 9.6, 3.2 Hz, Rha H-3”), 3.49 (1H, dd, J = 3.2, 1.6 Hz, Rha H-2”), 3.30 (1H, under the MeOH, Rha H-4”), 1.18 (1H, d, J= 6.4 Hz, Rha H-6”) and 13C-NMR (Methanol-d4, 175 MHz) δ 196.0 (C-4), 168.7 (C-9), 165.4 (C-5), 164.1 (C-7), 130.0 (C-2’ and C-6’), 128.6 (C-1’), 116.5 (C-3’) 3.8 (Rha C-4”), 72.2 (Rha C-3”), 71.8 (Rha C-2”), 70.5 (Rha C-5”), 17.8 (Rha C-6”); Positive FAB-MS: m/z 435 [M+H]+.
【0099】
化合物4:無色粉末. [α]28D+3.5°(c = 0.26, MeOH). IR νKBrmaxcm-1: 3429 (OH), 1627 (C=O); 1H-NMR (Acetone-d6, 500 MHz) δ 11.7 (1H, s, 5-OH), 7.72 (1H, s, 3’-OH), 7.08 (1H, d, J= 2.0 Hz, H-2’), 7.01 (1H, dd, J = 8.5, 2.0 Hz, H-6’ ), 6.97 (1H, d, J = 8.5 Hz, H-5’), 6.05 (1H, d, J = 2.3 Hz, H-8), 6.07 (1H, d, J = 2.3 Hz, H-6), 5.08 (1H, d, J = 11.7 Hz, H-2), 4.77 (1H, d, J = 4.2 Hz, 3-OH), 4.66 (1H, dd, J = 11.7, 4.2 Hz, H-3), 3.87 (3H, s, 4’-OCH3), 3.85 (3H, s, 7-OCH3) and 13C -NMR (Acetone-d6, 175 MHz) δ 198.6 (C-4), 169.2 (C-7), 163.9 (C-9), 164.7 (C-5), 148.9 (C-4’), 147.3 (C-3’), 130.9 (C-1’), 120.5 (C-6’), 115.5 (C-2’), 112.0 (C-5’), 102.1 (C-10), 95.7 (C-6), 94.7 (C-8), 84.4 (C-2), 73.1 (C-3), 56.2 and 56.3 (2-OCH3). Positive FAB-MS: m/z 333 [M+H]+.
【0100】
化合物5:無色粉末; [α]26D +3.6° (c = 0.61, Acetone); IR νKBrmax cm-1 : 3371 (OH), 1636 (C=O); 1H-NMR (Acetone-d6, 400 MHz) δ 6.96 (1H, d, J = 2.0 Hz, H-2’), 6.84 (1H, dd, J = 8.4, 2.0 Hz, H-6’), 6.80 (2H, d, J = 8.4 Hz, H-5’), 5.92 (1H, d, J= 2.0 Hz, H-8), 5.88 (1H, d, J = 2.0 Hz, H-6), 4.91 (1H, d, J = 2.3 Hz, H-2), 4.50 (1H, d, J = 2.3 Hz, H-3) and 13C-NMR (Acetone-d6, 175 MHz) δ 198.2 (C-4), 168.9 (C-7), 165.0 (C-5), 164.2 (C-9), 158.8 (C-4’), 130.3 (C-2’, 6’), 129.1 (C-1’), 115.9 (C-3’, 5’), 101.5 (C-10), 97.0 (C-6), 96.0 (C-8), 84.4 (C-2), 73.1 (C-3). Positive FAB-MS: m/z 305 [M+H]+.
【0101】
化合物6:淡い帯黄色粉末;IR νKBrmax cm-1 : 3400 (OH), 1642 (C=O); 1H-NMR (Acetone-d6, 400 MHz) δ11.9/11.8 (1H, s, 5-OH), 7.09/7.09 (1H, s, H-2’), 6.93/6.86 (2H, H-5’, H-6’), 6.00/5.99 (1H, d, J = 2.0 Hz, H=8), 5.97/5.99 (1H, d, J = 2.0 Hz, H-6), 5.19/5.96 (1H, d, J = 10.2 Hz, H-2), 4.73/5.10 (1H, d, J = 10.2 Hz, H-3), 4.25/4.69 (1H, dq, m, Rha H-5”), 4.12/ 4.25 (1H, d, J = 2.0 Hz, Rha H-1”), 3.70/4.02 (1H, dd, J = 9.6 and 3.6Hz, Rha H-3”), 3.41/3.60 (1H, dd, J = 3.6 and 2.0 Hz, Rha H-2”), 3.30/3.25 (1H, m, Rha H-4”), 1.16/0.85 (1H, d, J= 6.4 Hz, Rha H-6”); 13C-NMR (Acetone-d6, 125 MHz) δ195.9/197.7 (C-4), 167.6/167.8 (C-7), 165.2/165.2 (C-5), 163.6/163.8 (C-9), 146.7/146.8 (C-4’), 146.0/146.0 (C-3’), 129.0/129.7 (C-1’), 120.4/120.7 (C-6’), 115.4/116.0 (C-2’), 115.4/115.8 (C-5’), 102.0/102.4 (C-10), 102.0/101.6 (Rha C-1”), 97.1/97.2 (C-6), 96.0/96.0 (C-8), 83.0/83.2 (C-2), 77.3/75.7 (C-3), 73.2/73.5 (Rha C-4”), 72.0/72.2 (Rha C-3”), 71.3/71.5 (Rha C-2”), 69.8/69.5 (Rha C-5”), 17.9/17.9 (Rha C-6”) are common to (-)-(2R,3R)-dihydroquercetin-3-O-α-L-rhamnoside and (-)-(2S,3S)-dihydroquercetin-3-O-α-L-rhamnoside. Positive FAB-MS: m/z 451 [M+H]+.
【0102】
化合物7:無色油状物; [α]29D + 15.4° (c = 0.15,CHCl3); EIMS m/z (relative intensity) 218 (M+26 %), 203 (18 %), 161 (17 %), 133 (10 %), 119 (100 %), 105 (8 %), 91 (6 %), 85 (17 %), 57 (22 %) ; IR (KBr) cm-1 : 1685 (C=O), 1620 (C=C); 1H-NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 7.10 (4H, brs, ArH), 3.28 (1H, ddd, J = 8.0, 7.2, 6.3 Hz, H-7), 2.68 (1H, dd, J = 16.1, 6.3 Hz, H-8), 2.58 (1H, dd, J = 16.1, 8.0 Hz, H-8), 2.31 (3H, s, H-15), 2.19 (2H, m, H-10), 2.08(1H, m, H-11), 1.23 (3H, d, J = 7.2 Hz, H-14) ,0.85 (6H,d, J = 4.6 Hz,, H-12,13); 13C-NMR (CDCl3, 125 MHz) δ 209.9 (C-9), 9143.3 (C-4), 135.7 (C-1), 129.1 (C-3,5), 126.6 (C-2, 6), 52.5 (C-10), 51.7 (C-8), 34.9 (C-7), 24.4 (C-11), 22.5 (C-12,13), 22.0 (C-14), 21.0 (C-15). MS: m/z 217 [M+H]+.
【0103】
化合物8:淡黄色油状物; [α]29D +63.7°(c = 0.995,CHCl3); EIMS m/z (relative intensity) 216 (M+20 %), 201 (7 %), 132 (15 %), 119 (100 %), 105 (8 %), 98 (3 %), 91 (10 %), 83 (98 %), 77 (3 %), 55 (17 %) ; IR νKBrmax cm-1 : 1685 (C=O), 1620 (C=C); 1H-NMR (CDCl3, 400 MHz) δ7.10 (4H, brs, ArH), 6.02 (1H, brs, H-10), 3.29 (1H, ddd, J = 8.8, 7.6, 6.8 Hz, H-7), 2.71 (1H, dd, J = 16.4, 7.6 Hz, H-8), 2.61 (1H, dd, J = 16.4, 8.8 Hz, H-8), 2.31 (3H, s, H-15), 2.10 (3H, s, H-12), 1.86 (3H, s, H-13), 1.24 (3H, d, J = 6.8 Hz, H-14); 13C-NMR (CDCl3, 100 MHz) δ 200.0 (C-9), 155.1 (C-11), 143.7 (C-4), 135.3 (C-1), 129.1 (C-3,5), 126.7 (C-2, 6), 124.1 (C-10), 52.7 (C-8), 35.3 (C-7), 27.6 (C-15), 22.0 (C-13), 21.0 (C-12), 20.7 (C-14).
【0104】
上記スペクトルデータと文献中の化合物の物理的及びスペクトルデータとを比較することにより、化合物1〜5及び7〜8をそれぞれ、アピゲニン(Itokawa, H., et al., Chemical & Pharmaceutical Bulletin, 29(1), 254-256 (1981); Markham, K.R., et al., Tetrahedron 34, 1389-1397 (1977))、(+)−(2R,3R)−ジヒドロケンフェロール(Takahashi, H., et al., Chemical & Pharmaceutical Bulletin, 36(5), 1877-1881 (1988))、(+)−(2R,3R)−ジヒドロケンフェロール3−O−α−L−ラムノシド(Reisch, J., et al., Phytochemistry, 23, 2114-2115 (1984))、(+)−4’,7−ジメトキシ−(2R,3R)−ジヒドロクェルセチン(Islam, M.T., et al., Phytochemistry, 54, 901-907 (2000))、及び(+)−(2R,3R)−ジヒドロクェルセチン(Nonaka, G.,et al., Chemical & Pharmaceutical Bulletin, 35, 1105-1108 (1987))、(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロン(Honwad, V.K.; Rao, A.S. Terpenoids-LXIX ABSOLUTE CONFIGURATION OF (-)-α-CURCUMENE*. Tetrahedron. 2004, 21, 2593-2604、及びCrawford, R.J.; Erman, W.F.; Broaddus, C.D. Metalation of Limonene. A novel Method for the Synthesis of Bisabolene Sesquiterpens. J. Amer. Chem. Soc. 94(12), 1972, 4298-4306)、及び(+)−(S)−ar−ターメロン(Zhang, A.; Rajanbabu, T.V. Chiral Benzyl Centers through Asymmetric Catalysis. A Three-Step Synthesis of (R)-(-)-α-Curcumene via Asymmetric Hydrovinilation. Org. Lett. 2004, 6(18), 3159-3161、及び Mori, K. Synthesis of (R)-ar-turmerone and its conversion to (R)-ar-himachalene, a pheromone component of the flea beetle: (R)-ar-himachalene is dextrorotary in hexane, while levorotatory in chloroform. Tetrahedron: Asymmetry. 2005, 16, 685-692)と同定した。
【0105】
化合物6は、陽イオンFAB−MSにおいてm/z451に分子イオンピーク[M+H]を与え、これは分子量が450であることを示している。H-NMR[δ6.00/5.99 (1H, d, J = 2.0 Hz, H=8), 5.97/5.99 (1H, d, J = 2.0 Hz, H-6), 7.09/7.09 (1H, s, H-2’), 6.93/6.86 (2H, H-5’, H-6’)]は、化合物6がアグリコンとしてジヒドロクェルセリンを有していることを示した。さらに、フラバノールの[δ5.19/5.96 (1H, d, J = 10.2 Hz, H-2)及び 4.73/5.10 (1H, d, J = 10.2 Hz, H-3)]間のカップリング定数は、化合物6がtrans−立体配置であることを示唆した(Gaffield, W., et al., Journal of Organic Chemistry, 40(8), 1057-1061 (1974))。H−NMRスペクトルの分析により、δ4.12/4.25(1H, d, J=2.0Hz)の芳香族プロトン共鳴及びδ1.16/0.85(1H, d, J=6.4Hz)のメチル共鳴(これら両方ともα−L−ラムノピラノシル残基に典型的である)を含むことから、糖部分の存在が示された。さらにラムノシドの芳香族プロトン(H-1”)は、ジヒドロクェルセリンのC-3に相当した。それゆえ、化合物6は、疑いなく(−)−(2R,3R)−及び(-)−(2S,3S)−ジヒドロクェルセチン−3−O−α−L−ラムノシドと同定した(Kasai, R., Chemical & Pharmaceutical Bulletin, 36, 4167-4170 (1988))。化合物6の(−)−(2R,3R)体及び(−)−(2S,3S)体の割合は、C-1”プロトン共鳴の積分により1:1と観測された。
【0106】
化合物1〜8の構造式を図2に示す。なお、式中の「rha」は「ラムノシド基」を示す。
【0107】
これらのフラボノイド(化合物1〜8)は、Peltophorum属から初めて単離された。特に、イエロー・バタイの主成分である化合物2〜6(ジヒドロフラボノール)及び化合物7〜8は、Peltophorum属において有用な化学分類学的マーカーとなる見込みがある。
【0108】
(3)チロシナーゼ阻害活性試験(インビトロ)
チロシナーゼ阻害活性を、L−DOPAを用いて評価した。評価試験は、Masudaによって以前報告された96ウェルのマイクロプレート法(Masuda, T., et al., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 69(1), 197-201 (2005))を改良した方法で行った。以下、簡単に説明する。なお、マッシュルームチロシナーゼ(EC 1-14-18-1)及びTween(登録商標)20はSigma-Aldrich社から購入した。その他の試薬及び溶剤はすべて和光純薬(株)から購入した。
【0109】
全部で12ウェルをそれぞれA−D(各3ウェル)と指定し、以下の反応混合液を入れた。Aには、120μLの1/15Mリン酸バッファー(pH 6.8)と、40μLの2.5mM L−DOPAの該リン酸バッファー溶液と、の混合液を;Bには、160μLの該リン酸バッファーを;Cには、80μLの該リン酸バッファーと、40μLの2.5mM L−DOPAの該リン酸バッファー溶液と、40μLの適量の試料(化合物1〜6)−該リン酸バッファー溶液(試料を溶かすために4%DMSO+0.05%Tween(登録商標)20を含む)と、の混合液を;Dには、120μLの該リン酸バッファーと、40μLの適量の試料−該リン酸バッファー溶液(試料を溶かすために4%DMSO+0.05%Tween(登録商標)20を含む)と、の混合液を入れた。ポジティブコントロール試験として、コウジ酸(最終濃度=0.02mM)を参考試料として使用した。各ウェルの内容物を混合し、次いで、23℃で10分間インキュベートし、その後40μLのチロシナーゼ(500ユニット/ml)の該リン酸バッファー溶液をA及びCに添加するとともに、該リン酸バッファーをB及びDに添加した。23℃で2分間インキュベーションした後、各ウェルについて492nmの吸光度を測定した。
【0110】
チロシナーゼ活性の阻害パーセントを以下の式;
100−{[(A−B)−(C−D)]/(A−B)}×100
に従って計算した。
【0111】
その結果を図3に示す。
【0112】
図3の結果から、化合物1〜8の中で、化合物2が最も強力な阻害剤であり、化合物5が2番目に強力な阻害剤であり、化合物8が3番目に強い阻害剤であることがわかった。化合物2及び5のIC50値は、それぞれ126μM及び210μMであった。対照的に、化合物1、4及び7は、酵素をわずかに阻害したが、化合物3及び6は全くチロシナーゼ阻害活性を示さなかった。これらのチロシナーゼ阻害の違いは、活性な中央酵素中の銅をキレートするかどうかによって決まると考えられる。実際に、化合物1及び4のように酵素中の銅をキレートしない化合物は、わずかしか活性を示さず、3−ヒドロキシ基をラムノシドのような大きな基で保護すると(化合物4及び6)、阻害は観察されなかった。他方で、3−ヒドロキシ基が化合物2及び5のようにフリーである場合には、強力な阻害が観察された。
【0113】
一般に、3’,4’−ジヒドロキシ置換基を有するクェルセチンは、4’−ヒドロキシル置換基を有するケンフェロールよりもさらに有力な阻害剤であることが報告されている(Kubo, I & Kinst-Hori, I. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 47, 4121-4125 (1999))。しかし、図1の結果では、4’−ヒドロキシル置換基を有する化合物2が、3’,4’−ジヒドロキシ置換基を有する化合物5よりもさらに有力な阻害剤であるという結果となった。これは、興味深い新しい結果である。
そこで、次に化合物2及び5の動態を分析した。
【0114】
(4)動態解析
反応混合液は、1/15Mリン酸バッファー中に3つの異なる濃度のL−DOPA基質(0.3mMから2.5mM)及びマッシュルームチロシナーゼを含む。それぞれの反応混合液に、試料(化合物2又は5)を、最終濃度が0、100、及び250mMとなるように添加した。チロシナーゼのミカエリス定数(K)及び最大速度(Vmax)を、Lineweaver-Burkプロットによって決定した。競合阻害型の相反方程式は:
1/V=K / Vmax(1+[I]Ki)1/[S]+1/Vmax
であった。競合阻害剤の阻害定数(Ki)は、下式:
1/ Vmax app=1/Vmax
(式中、1/ Vmax appは任意の阻害剤濃度の存在下における見かけのVmaxである)
によって計算した。
【0115】
化合物2の結果を図4(A)に、化合物5の結果を図4(B)に示す。
【0116】
図4(A)及び(B)のLineweaver-Burkプロットから、化合物2及び5は、いずれもL−DOPA酸化の競合型阻害剤として作用することがわかった。また、化合物2の阻害定数は、Ki=0.12±0.04mMであり、化合物5の阻害定数は、Ki=0.19±0.09mMであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イエロー・バタイ(Peltophorum dasyrachis)のエステル及び/又はハロゲン化炭化水素抽出物を有効成分とするチロシナーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記抽出物が、式(I):
【化1】

で表されるアピゲニン、式(II):
【化2】

(式中、Rは水素原子又はラムノシド基を示す)
で表されるジヒドロケンフェロール、式(III):
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又はラムノシド基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるジヒドロクェルセチン、式(IV):
【化4】

で表されるジヒドロ−ar−ターメロン、及び式(V):
【化5】

で表されるar−ターメロンからなる群から選択される少なくとも1種のフラボノイドを含む、請求項1に記載のチロシナーゼ阻害剤。
【請求項3】
前記抽出物が、式(IIa):
【化6】

で表される(+)−(2R,3R)−ジヒドロケンフェロール、式(IIIa):
【化7】

で表される(+)−(2R,3R)−ジヒドロクェルセチン、及び式(Va):
【化8】

で表される(+)−(S)−ar−ターメロンの少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のチロシナーゼ阻害剤。
【請求項4】
前記抽出物が、 (+)−(2R,3R)−ジヒドロケンフェロール及び (+)−(2R,3R)−ジヒドロクェルセチンの少なくとも1種を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のチロシナーゼ阻害剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のチロシナーゼ阻害剤からなる食品添加剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のチロシナーゼ阻害剤からなる化粧品添加剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−260818(P2010−260818A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112920(P2009−112920)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(399091120)株式会社ピカソ美化学研究所 (29)
【Fターム(参考)】