説明

ディスクブレーキ装置

【課題】 パッドとディスクロータ間の摩擦係数が所期値に比して減少(増大)しても、ディスクロータを所期の制動モードと略同じ制動モードにて制動可能とする。
【解決手段】 ディスクブレーキ装置では、キャリパ15のシリンダ部15bに組付けた制動ピストン14が操作力に応じて動作するアクチュエータ20により軸方向に駆動されて、パッド12がディスクロータ11に向けて押動される。また、パッド12とディスクロータ11のロータ周方向での摩擦力がアンカー荷重として取り出されて、このアンカー荷重がサーボ機構Bにてサーボ荷重に変換されて制動ピストン14に付加される。サーボ機構Bには、サーボ荷重を増大・減少可能な変更手段(減圧制御弁V1、増圧制御弁V2、リザーバタンクT)が設けられている。この変更手段の作動は、操作力とアンカー荷重に応じて制御手段(電気制御装置ECU)により制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置に係り、特に、キャリパのシリンダ部に軸方向へ摺動可能に嵌合した制動ピストンが操作力(例えばブレーキペダル踏力)に応じて動作するアクチュエータによりその軸方向に駆動されて、パッドがディスクロータに向けて押動されるように構成され、前記パッドと前記ディスクロータのロータ周方向での摩擦力がアンカー荷重(制動反力)として取り出されて、このアンカー荷重がサーボ機構にてサーボ荷重に変換されて前記制動ピストンに付加されるように構成されたディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクブレーキ装置は、例えば、下記特許文献1に示されていて、このディスクブレーキ装置においては、アンカー荷重が油圧化されて取り出されるように構成されるとともに、取り出された油圧がサーボ機構の増圧制御弁を通して制動ピストンに付加されるように構成されている。
【特許文献1】特許第3000835号公報
【0003】
上記した特許文献1に記載されている増圧制御弁は、常開形の開閉弁として機能するものであり、取り出された油圧が操作力(すなわち、マスタシリンダ油圧)の所定倍以上になると、制動ピストンへの油圧伝達通路を遮断して、取り出された油圧が制動ピストンに付加されないようにする。このため、制動ピストンに付加される油圧(サーボ油圧)が所定値以上に昇圧するのを防止することが可能である。
【0004】
しかし、増圧制御弁を通して制動ピストンに付加される油圧(サーボ油圧)は、アンカー荷重として取り出されたままの油圧であるため、パッドとディスクロータ間の摩擦係数が水侵入、熱フェード等に起因して変動した場合、摩擦係数の変動に伴って変動する。具体的には、パッドとディスクロータ間の摩擦係数が所期値に比して減少(増大)すると、パッドとディスクロータ間の摩擦力が所期値に比して減少(増大)して、アンカー荷重が所期値に比して減少(増大)する。また、これに伴って、サーボ油圧が所期値に比して減少(増大)して、制動ピストンに付加されるサーボ荷重が所期値に比して減少(増大)し、当該ディスクブレーキ装置にて得られる制動力が所期値に比して減少(増大)する。したがって、ディスクロータを所期の制動モード(摩擦係数が所期値である場合の制動モード)にて制動することができなくて、車両の場合には、所期の制動距離で制動することができなくなる。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、上記した課題を解消すべくなされたものであり、キャリパのシリンダ部に軸方向へ摺動可能に嵌合した制動ピストンが操作力に応じて動作するアクチュエータによりその軸方向に駆動されて、パッドがディスクロータに向けて押動されるように構成され、前記パッドと前記ディスクロータのロータ周方向での摩擦力がアンカー荷重として取り出されて、このアンカー荷重がサーボ機構にてサーボ荷重に変換されて前記制動ピストンに付加されるように構成されたディスクブレーキ装置において、前記サーボ荷重を増大・減少可能な変更手段を前記サーボ機構に設けるとともに、この変更手段の作動を前記操作力と前記アンカー荷重に応じて制御する制御手段を設けて、前記サーボ荷重が前記操作力と前記アンカー荷重に応じて増減制御されるように構成したことに特徴がある。
【0006】
この場合において、前記アクチュエータは電動アクチュエータであっても油圧アクチュエータであってもよい。また、前記アンカー荷重と前記サーボ荷重が油圧化されるように構成されていて、前記変更手段が油圧制御弁とリザーバタンクを備えていることも可能である。
【0007】
本発明によるディスクブレーキ装置においては、制動時、パッドをディスクロータに向けて押動して制動させる制動ピストンに、操作力に応じて動作するアクチュエータの出力とサーボ機構にて得られるサーボ荷重を加えることができるため、アクチュエータの出力が小さくても大きな制動力を得ることが可能であり、アクチュエータの小型化(小出力化)を図ることが可能である。
【0008】
また、制動ピストンに付加されるサーボ荷重が、操作力とアンカー荷重に応じて変更手段により増減制御されるため、例えば、パッドとディスクロータ間の摩擦係数が水侵入、熱フェード等に起因して所期値に比して減少(増大)し、パッドとディスクロータ間の摩擦力が所期値に比して減少(増大)して、アンカー荷重がその時点の操作力によって決定される所期値に比して減少(増大)する場合には、サーボ荷重を変更手段により所期値に比して増大(減少)させることが可能である。
【0009】
このようにすれば、パッドとディスクロータ間の摩擦係数が所期値に比して減少(増大)したにも拘わらず、制動ピストンに付加されるサーボ荷重が所期値に比して増大(減少)して、上記した摩擦係数の減少(増大)を補うため、当該ディスクブレーキ装置にて得られる制動力が略所期値(その時点の操作力によって決定される所期の制動力に近似した値)とされる。したがって、ディスクロータを所期の制動モード(摩擦係数が所期値である場合の制動モード)と略同じ制動モードにて制動することができて、車両の場合において、所期の制動距離と略同じ制動距離で制動することが可能である。
【0010】
また、制動ピストンに付加されるサーボ荷重が所期値に比して増大する場合において、そのサーボ荷重の増大は、当該ディスクブレーキ装置にて得られる制動力が略所期値とされるまでであるため、制動ピストンに付加されるサーボ荷重が過剰に増大することを防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明を車両用のディスクブレーキ装置に実施した第1実施形態を概略的に示していて、この第1実施形態のディスクブレーキ装置は、車輪(図示省略)と一体的に回転するディスクロータ11を挟持可能な一対のインナパッド12およびアウタパッド13と、これら各パッド12,13をそれぞれディスクロータ11の各制動面に向けてロータ軸方向(図1の左右方向)に押動可能な制動ピストン14および可動型のキャリパ15を備えている。
【0012】
インナパッド12は、その裏金12aにて制動ピストン14によってディスクロータ11に向けて押動・押圧される構成であり、アウタパッド13は、その裏金13aにてキャリパ15の反力アーム部15aによってディスクロータ11に向けて押動・押圧される構成である。また、各パッド12,13は、車体(図示省略)に組付けられるマウンティング16にロータ軸方向へ移動可能に組付けられていて、制動時の制動トルクはマウンティング16に設けた受承部16a,16bと一対の単動形油圧シリンダA1,A2にて受け止められるようになっている。
【0013】
制動ピストン14は、キャリパ15のシリンダ部15bにシリンダ軸方向へ摺動可能かつ回転可能に組付けられた第1制動ピストン14aと、この第1制動ピストン14aに対して同軸で進退可能に螺合されインナパッド12の裏金12aに一体的に固定(回転不能に固定)された第2制動ピストン14bからなり、各パッド12,13のライニング12b,13b摩耗に応じて軸方向長さ(第1制動ピストン14aと第2制動ピストン14bの螺合量)が自動的に調整されるように構成されている。
【0014】
キャリパ15は、上記した反力アーム部15aとシリンダ部15bを有するとともに、これらを連結する連結アーム部15cを有していて、各連結アーム部15cにてマウンティング16に周知のようにしてロータ軸方向へ移動可能に組付けられている。また、このキャリパ15には、電動アクチュエータ20とクサビ伝達機構30を組付けたハウジング17が一体的に組付けられている。
【0015】
電動アクチュエータ20は、電気モータ21と、この電気モータ21の回転駆動力をナット22に減速して伝達する歯車伝達機構(ナット22に一体的に形成したギヤ22aを備えている)と、ナット22の回転駆動力をネジ軸23の軸方向駆動力に変換して連結ピン24と連結スリーブ25を介してクサビ伝達機構30のクサビ部材31に伝達するネジ送り機構を備えている。
【0016】
電気モータ21は、電気制御装置ECUにより作動を制御されるものであり、ハウジング17に組付けられていて、ペダルシミュレータ機構90にて検出される制動操作に応じて正方向に回転駆動され、制動解除操作に応じて逆方向に回転駆動されるように構成されている。ペダルシミュレータ機構90は、ブレーキペダルBPの操作力(踏力)に応じた反力を発生させる機構であり、操作力を検出するセンサ91を備えている。
【0017】
ナット22は、ハウジング17に一対の軸受18,19を介して回転可能かつ軸方向移動不能に組付けられている。ネジ軸23は、ナット22に螺合されていて、ナット22の回転に伴ってネジ軸方向に移動可能である。連結ピン24は、ネジ軸23と連結スリーブ25を連結している。連結スリーブ25は、図示省略のピンによりクサビ部材31の一端部に連結されていて、ネジ軸23に対して連結ピン24回りに傾動可能である。
【0018】
クサビ伝達機構30は、ネジ軸23の軸方向駆動力(電動アクチュエータ20の作動によって得られる直線的なブレーキ作動入力)を制動ピストン14の軸方向駆動力(ブレーキ作動出力)に変換して制動ピストン14に伝達するものであり、ネジ軸23と一体的にネジ軸方向に移動するクサビ部材31と、このクサビ部材31のピストン側に配置されて制動ピストン14の端部に組付けられたピストン側プレート32と、クサビ部材31の反ピストン側に配置されてハウジング17に一体的に組付けられピストン側プレート32に対向配置された反ピストン側プレート33と、これら両プレート32,33間にクサビ部材31とともに配置されてクサビ部材31と各プレート32,33間にて転動可能な二対4個のローラ34を備えている。
【0019】
クサビ部材31は、ピストン側をネジ軸方向に対して傾斜した傾斜面とし反ピストン側をネジ軸方向に対して略平行な平行面とするクサビ面を有していて、クサビ面には各ローラ34が転動可能に係合している。ピストン側プレート32は、制動ピストン14における第1制動ピストン14aの端部に、ピストン軸方向には一体的に移動可能に、かつピストン軸周りには回転可能に組付けられている。また、ピストン側プレート32は、クサビ部材34のピストン側クサビ面(傾斜面)に対して平行な係合斜面を有していて、この係合斜面にはピストン側の各ローラ34が転動可能に係合している。
【0020】
一方、反ピストン側プレート33は、クサビ部材31の反ピストン側クサビ面(平行面)に対して平行な係合面を有していて、この係合面には反ピストン側の各ローラ34が転動可能に係合している。反ピストン側プレート33の係合面は、ネジ軸23の軸線に対して略平行であり、クサビ部材31の移動方向とネジ軸23の移動方向は略一致している。
【0021】
ところで、この第1実施形態においては、制動時におけるインナパッド12とディスクロータ11のロータ周方向での摩擦力をアンカー荷重として取り出すアンカー機構として一対の単動形油圧シリンダA1,A2が採用されるとともに、このアンカー機構にて取り出されるアンカー荷重をサーボ荷重に変換してクサビ伝達機構30のクサビ部材31に伝達する(ブレーキ作動出力を助勢する)サーボ機構として単動形油圧シリンダBが採用されていて、アンカー荷重とサーボ荷重が油圧化されるように構成されている。また、サーボ機構としての単動形油圧シリンダBに、サーボ荷重を増大・減少可能な変更手段としてのリザーバタンクT、減圧電磁弁V1、増圧電磁弁V2等が付設されている。なお、リザーバタンクTは、ピストンとリターンスプリングを備えている。
【0022】
一方の単動形油圧シリンダA1は、前進制動時にアンカー荷重をアンカー油圧として取り出すものであり、インナパッド12における裏金12aのロータ周方向一側に設けられていて、アンカーピストン41とアンカーシリンダ42を備えている。アンカーピストン41は、アンカーシリンダ42に組付けられていて、油室43を形成しており、前進制動時にインナパッド12の裏金12aによってロータ周方向一側に押動されるように構成されている。なお、アンカーピストン41とアンカーシリンダ42間は、アンカーピストン41に組付けたシール部材44により大気圧側とは隔離されている。
【0023】
アンカーシリンダ42は、マウンティング16に一体的に設けられていて、アンカーピストン41がインナパッド12の裏金12aによってロータ周方向一側に押動されることにより油室43にアンカー荷重に応じた油圧を発生するように構成されている。なお、アンカーシリンダ42は、キャリパ15に一体的に設けられるようにして実施することも可能である。
【0024】
他方の単動形油圧シリンダA2は、後進制動時にアンカー荷重をアンカー油圧として取り出すものであり、インナパッド12における裏金12aのロータ周方向他側に設けられていて、アンカーピストン51とアンカーシリンダ52を備えている。アンカーピストン51は、アンカーシリンダ52に組付けられていて、油室53を形成しており、後進制動時にインナパッド12の裏金12aによってロータ周方向他側に押動されるように構成されている。なお、アンカーピストン51とアンカーシリンダ52間は、アンカーピストン51に組付けたシール部材54により大気圧側とは隔離されている。
【0025】
アンカーシリンダ52は、マウンティング16に一体的に設けられていて、アンカーピストン51がインナパッド12の裏金12aによってロータ周方向他側に押動されることにより油室53にアンカー荷重に応じた油圧を発生するように構成されている。なお、アンカーシリンダ52は、キャリパ15に一体的に設けられるようにして実施することも可能である。
【0026】
単動形油圧シリンダBは、サーボピストン61とサーボシリンダ62を備えている。サーボピストン61は、サーボシリンダ62に組付けられていて、油室63を形成しており、油室63内の油圧によって押動されてクサビ伝達機構30のクサビ部材31を押動するように構成されている。なお、サーボピストン61とサーボシリンダ62間は、サーボピストン61に組付けたシール部材64により大気圧側とは隔離されている。
【0027】
サーボシリンダ62は、ハウジング17に一体的に設けられている。油室63は、減圧電磁弁V1を介してリザーバタンクTに接続されるとともに、増圧電磁弁V2を介して単動形油圧シリンダA1,A2の油室43,53に接続されていて、減圧電磁弁V1と増圧電磁弁V2の作動によって制御されたサーボ油圧が内部に付与されるように構成されている。
【0028】
減圧電磁弁V1は、電気制御装置ECUにより作動を制御されて油室63とリザーバタンクT間を連通・遮断可能な油圧制御弁であって、制動時に油室63に付与されるサーボ油圧を減少可能である。増圧電磁弁V2は、電気制御装置ECUにより作動を制御されて油室43,53と油室63間を連通・遮断可能な油圧制御弁であって、制動時に油室63に付与されるサーボ油圧を増大可能である。また、減圧電磁弁V1と増圧電磁弁V2は、制動解除時に所定時間連通可能であり、リザーバタンクT内の作動油を各油室43,53,63に戻して初期状態とすることが可能である。
【0029】
電気制御装置ECUは、ペダルシミュレータ機構90のセンサ91が検出する操作力に応じて電気モータ21の作動を制御して、電動アクチュエータ20の作動によって得られる直線的なブレーキ作動入力が操作力により定まるように制御するものである。また、電気制御装置ECUは、ペダルシミュレータ機構90のセンサ91が検出する操作力と、増圧電磁弁V2の油室43,53側に設けた圧力センサPSが検出する油圧(アンカー油圧)に応じて、減圧電磁弁V1と増圧電磁弁V2の作動を制御して、単動形油圧シリンダBの油室63に付与されるサーボ油圧を制御し、最終的には各単動形油圧シリンダA1,A2の油室43,53にて得られるアンカー油圧(制動反力)が操作力により定まるように制御するものである。
【0030】
すなわち、この電気制御装置ECUでは、各単動形油圧シリンダA1,A2の油室43,53にて得られるアンカー油圧が、操作力により定まる設定値(操作力に応じて増減する値であり、電気制御装置ECUにて操作力に基づいて演算される)より低い場合、単動形油圧シリンダBの油室63に付与されるサーボ油圧を増大して、アンカー油圧を設定値に近づけるように、減圧電磁弁V1と増圧電磁弁V2の作動を制御し、また、アンカー油圧が操作力により定まる設定値より高い場合、単動形油圧シリンダBの油室63に付与されるサーボ油圧を減少して、アンカー油圧を設定値に近づけるように、減圧電磁弁V1と増圧電磁弁V2の作動を制御する。
【0031】
上記のように構成したこの第1実施形態のディスクブレーキ装置においては、ブレーキペダルBPが踏み込まれると、電気モータ21が正方向(制動方向)に回転駆動されて、電気モータ21の回転駆動力がナット22を介してネジ軸23の軸方向駆動力(図示下方への駆動力)に変換される。また、ネジ軸23の軸方向駆動力は、クサビ伝達機構30にて制動ピストン14の軸方向駆動力(図示左方への駆動力)に変換されて、制動ピストン14に伝達される。
【0032】
このため、制動ピストン14がその軸方向に駆動されてインナパッド12をディスクロータ11に向けて押動・押圧するとともに、その反力によりキャリパ15の反力アーム部15aがアウタパッド13をディスクロータ11に向けて押動・押圧し、インナパッド12とアウタパッド13がディスクロータ11を挟持する。これにより、各パッド12,13とディスクロータ11間に制動力(各パッド12,13におけるライニング12b,13bとディスクロータ11のロータ周方向での摩擦力)が発生して、ディスクロータ11が制動される。
【0033】
また、この第1実施形態のディスクブレーキ装置においては、ブレーキペダルBPの踏み込みを解除すると、電気モータ21への通電が遮断され、キャリパ15の剛性と図示しないリターンスプリングにより、制動ピストン14、クサビ部材31、ネジ軸23等が初期位置(制動前の位置)に戻り、ブレーキ作動入力およびブレーキ作動出力が無くなって、制動ピストン14によるインナパッド12のディスクロータ11への押動・押圧およびキャリパ15の反力アーム部15aによるアウタパッド13のディスクロータ11への押動・押圧が無くなる。このため、両パッド12,13によるディスクロータ11の制動が解除される。また、このときには、減圧電磁弁V1と増圧電磁弁V2が電気制御装置ECUにより所定時間連通可能に制御されるため、各油室43,53,63内の作動油とリザーバタンクT内の作動油は初期状態(制動前の状態)に戻る。
【0034】
また、この第1実施形態のディスクブレーキ装置においては、制動時に、インナパッド12におけるライニング12bとディスクロータ11のロータ周方向での摩擦力をアンカー荷重(アンカー油圧)として取り出すアンカー機構としての単動形油圧シリンダA1とA2が採用されるとともに、アンカー荷重(アンカー油圧)をサーボ荷重(サーボ油圧)に変換してクサビ伝達機構30のクサビ部材31に伝達するサーボ機構として単動形油圧シリンダBが採用されている。
【0035】
これにより、例えば、前進制動時には、単動形油圧シリンダA1のアンカーピストン41がアンカー荷重で押動されることにより、油室43に生じた油圧が油路を通して、単動形油圧シリンダA2の油室53に伝達されて、アンカー荷重の作用しないアンカーピストン51を作動させようとするが、このときのアンカーピストン51はアンカーシリンダ52の底部に当接していて移動不能である。したがって、このときには、単動形油圧シリンダA1の油室43に生じた油圧は、増圧電磁弁V2を通して単動形油圧シリンダBの油室63に伝達可能であり、サーボピストン61のみを押動することが可能である。
【0036】
また、この第1実施形態のディスクブレーキ装置においては、制動時、インナパッド12をディスクロータ11に向けて押動して制動させる制動ピストン14に、操作力に応じて動作する電動アクチュエータ20の出力とサーボ機構にて得られるサーボ荷重を加えることができるため、電動アクチュエータ20の出力が小さくても大きな制動力を得ることが可能であり、電動アクチュエータ20の小型化(小出力化)を図ることが可能である。
【0037】
また、制動ピストン14に付加されるサーボ荷重が、操作力とアンカー荷重に応じてリザーバタンクT、減圧電磁弁V1、増圧電磁弁V2等からなる変更手段により増減制御されるため、例えば、インナパッド12とディスクロータ11間の摩擦係数が水侵入、熱フェード等に起因して所期値に比して減少(増大)し、インナパッド12とディスクロータ11間の摩擦力が所期値に比して減少(増大)して、アンカー荷重がその時点の操作力によって決定される所期値に比して減少(増大)する場合には、サーボ荷重をリザーバタンクT、減圧電磁弁V1、増圧電磁弁V2等からなる変更手段により所期値に比して増大(減少)させることが可能である。
【0038】
このようにすれば、インナパッド12とディスクロータ11間の摩擦係数が所期値に比して減少(増大)したにも拘わらず、制動ピストン14に付加されるサーボ荷重が所期値に比して増大(減少)して、上記した摩擦係数の減少(増大)を補うため、当該ディスクブレーキ装置にて得られる制動力が略所期値(その時点の操作力によって決定される所期の制動力に近似した値)とされる。したがって、ディスクロータ11を所期の制動モード(摩擦係数が所期値である場合の制動モード)と略同じ制動モードにて制動することができて、当該車両において、所期の制動距離と略同じ制動距離で制動することが可能である。
【0039】
また、制動ピストン14に付加されるサーボ荷重が所期値に比して増大する場合において、そのサーボ荷重の増大は、当該ディスクブレーキ装置におけるサーボ機構の作動によって制御される。この場合、圧力センサPSが検出する油圧(アンカー油圧)が、ペダルシミュレータ機構90のセンサ91が検出する操作力に基づいて電気制御装置ECUが演算する目標アンカー油圧(設定値)よりも大きくならないように、電気制御装置ECUが減圧電磁弁V1と増圧電磁弁V2の作動を制御する。このため、制動ピストン14に付加されるサーボ荷重が過剰に増大することを防止することが可能である。
【0040】
また、この第1実施形態のディスクブレーキ装置においては、各単動形油圧シリンダA1,A2の油室43,53と単動形油圧シリンダBの油室63、すなわち、各アンカーシリンダ42,52とサーボシリンダ62を、各油路で容易に接続することが可能であり、クサビ伝達機構30がインナパッド12に対して如何なる配置で設けられていても、単動形油圧シリンダA1,A2と単動形油圧シリンダBをそれぞれ的確に配置することが可能である。
【0041】
また、この第1実施形態のディスクブレーキ装置において、ABS制御が実施される場合には、上記した作動よりABS制御を優先させる。そして、ABSの作動により制動力を低減させる場合は、電気制御装置ECUが電気モータ21への通電を止め(または電気モータ21へ反転電流を流し)、かつ、サーボ機構への油圧を低減することで制御する。また、ABSの作動により制動力を増大させる場合は、電気制御装置ECUがサーボ機構への油圧を増大することで制御する。この場合にも、圧力センサPSが検出する油圧(アンカー油圧)が、ペダルシミュレータ機構90のセンサ91が検出する操作力に基づいて電気制御装置ECUが演算する目標アンカー油圧(設定値)よりも大きくならないように、電気制御装置ECUが減圧電磁弁V1と増圧電磁弁V2の作動を制御する。
【0042】
また、この第1実施形態のディスクブレーキ装置において、ブレーキペダルを踏まないブレーキ制御(例えば、トラクション制御)を実施する場合、該当する車輪に対し、圧力センサPSが検出する油圧(実際のアンカー油圧)に基づいて、当該ディスクブレーキ装置にて実際に得られている制動力(電気制御装置ECUが電気モータ21の作動を予め設定したプログラムにしたがって制御することにより得られる制動力)が、電気制御装置ECUが演算する目標制動力と比較判定されながら制御されるように設定することも可能である。
【0043】
上記した第1実施形態においては、アンカー機構として一対の単動形油圧シリンダA1,A2を採用した実施形態について説明したが、図2および図3に示した第2実施形態のように、アンカー機構として一つの複動形油圧シリンダAoを採用して本発明を実施することも可能である。この第2実施形態においては、サーボ機構としての単動形油圧シリンダBに、サーボ荷重を増大・減少可能な変更手段としてのリザーバタンクTa、減圧電磁弁V1、増圧電磁弁V2等が付設されるとともに、前進制動時と後進制動時に油路を切り換えるための一対のチェック弁V3,V4と切換弁V5が付設されている。
【0044】
図2および図3に示した複動形油圧シリンダAoは、インナパッド12における裏金12aのロータ周方向一側に設けられていて、アンカーピストン71とアンカーシリンダ72を備えるとともに、一対のスプリング73,74を備えている。
【0045】
アンカーピストン71は、アンカーシリンダ72に組付けられるとともに、一端部71aにてインナパッド12の裏金12aに形成した係合溝12a1にロータ軸方向に移動可能かつロータ周方向に一体的に移動可能に組付けられていて、一対の油室75,76を形成しており、前進制動時および後進制動時にインナパッド12の裏金12aによってロータ周方向に押動されるように構成されている。なお、アンカーピストン71の一端部71aにおいて、インナパッド12の裏金12aと係合する部分は、球状(円弧状)とされていて、インナパッド12が傾いても、インナパッド12の裏金12aからアンカー荷重がアンカーピストン71に的確に伝達されるようになっている。また、アンカーピストン71には、大気圧側と油室75間をシールするシール部材77が組付けられるとともに、油室75,76間をシールするシール部材78が組付けられている。
【0046】
アンカーシリンダ72は、マウンティング16に一体的に設けられていて、アンカーピストン71がインナパッド12の裏金12aによってスプリング73または74のばね力に抗してロータ周方向に押動されることにより油室75または76にアンカー荷重に応じた圧力を発生するように構成されており、大気圧側と油室76間をシールするシール部材79が組付けられている。各スプリング73,74は、各油室75,76にそれぞれ収容されていて、アンカーピストン71を中立位置(初期位置)に向けて付勢している。なお、アンカーシリンダ72は、キャリパ15に一体的に設けられるようにして実施することも可能である。
【0047】
各油室75,76は、切換弁V5と増圧電磁弁V2を介して単動形油圧シリンダBの油室63に接続されているとともに、各チェック弁V3,V4を介してリザーバタンクTaに接続されている。なお、リザーバタンクTaは、その内部に組付けたピストンと、このピストンを中立位置に付勢する一対のスプリングを備えていて、ピストンには大気圧側と油溜間をシールするシール部材が組付けられている。
【0048】
各チェック弁V3、V4と切換弁V5とリザーバタンクTaは、一方の油室75が正圧となり他方の油室76が負圧となるとき、切換弁V5の弁体が差圧によって移動して油室75と増圧電磁弁V2を連通させるとともに油室76と増圧電磁弁V2の連通を遮断するため、油室75の圧力が増圧電磁弁V2を介して単動形油圧シリンダBの油室63に伝達されるとともに、リザーバタンクTaの油溜からチェック弁V4を介して油室76に作動油が供給されるように機能する。また、他方の油室76が正圧となり一方の油室75が負圧となるとき、切換弁V5の弁体が差圧によって移動して油室75と増圧電磁弁V2の連通を遮断するとともに油室76と増圧電磁弁V2を連通させるため、油室76の圧力が増圧電磁弁V2を介して単動形油圧シリンダBの油室63に伝達されるとともに、リザーバタンクTaの油溜からチェック弁V3を介して油室75に作動油が供給されるように機能する。
【0049】
この第2実施形態のディスクブレーキ装置においては、アンカー機構として一つの複動形油圧シリンダAoが採用されていて、インナパッド12における裏金12aのロータ周方向一側に設けられている。このため、インナパッド12における裏金12aのロータ周方向端部に配設する油圧シリンダを単一として、アンカー機構の簡素化を図ることが可能である。なお、この第2実施形態のディスクブレーキ装置においては、複動形油圧シリンダAoと各チェック弁V3、V4と切換弁V5とリザーバタンクTa以外の構成が上記第1実施形態の構成と同じであるため、制動時と制動解除時には上記第1実施形態と同様の作動が得られる。
【0050】
上記した第2実施形態においては、一方の油室75が正圧となり他方の油室76が負圧となるとき、一方の油室75と増圧電磁弁V2を連通させるとともに他方の油室76と増圧電磁弁V2の連通を遮断し、一方の油室75が負圧となり他方の油室76が正圧となるとき、一方の油室75と増圧電磁弁V2の連通を遮断するとともに他方の油室76と増圧電磁弁V2を連通させる切換弁V5を採用して実施したが、この切換弁V5に代えて、図4に示したように、一対のチェック弁V5a,V5bを採用して実施することも可能である。
【0051】
また、上記した各実施形態においては、操作力に応じて動作するアクチュエータとして電動アクチュエータ20を採用して本発明を実施したが、図5に示した第3実施形態のように、操作力に応じて動作するアクチュエータとして油圧アクチュエータ120を採用するとともに、この油圧アクチュエータ120とサーボ機構としてのサーボシリンダ162によって押動される段付の制動ピストン114を採用して本発明を実施することも可能である。
【0052】
図5に示した第3実施形態の油圧アクチュエータ120は、ブレーキペダルBPの踏み込みに応じて作動するブレーキマスタシリンダであり、その発生油圧(操作力に応じた油圧)はセンサ121によって検出可能であるとともに、制動ピストン114の小径部114aが露呈する油室R1に供給可能に構成されている。サーボシリンダ162は、キャリパ15に一体的に設けられていて、制動ピストン114の大径部114bとにより油室163を形成している。なお、制動ピストン114の小径部114aと大径部114bにはそれぞれシール部材114c,114dが組付けられている。
【0053】
この第3実施形態において、センサ121は上記した第1実施形態のセンサ91に相当し、油室163は上記した第1実施形態の油室63に相当する。その他の構成は、上記した第1実施形態の構成と実質的に同じであるため、同一符号を付してその説明は省略する。また、この第3実施形態の作動は、上記した第1実施形態の作動と実質的に同じであるためその説明は省略する。
【0054】
上記した各実施形態においては、アンカー油圧を増減制御する油圧制御弁として、二つの油圧制御弁、すなわち、減圧電磁弁V1と増圧電磁弁V2を採用して実施したが、これを一つの油圧制御弁に代えて実施することも可能である。また、上記した各実施形態においては、可動キャリパ型のディスクブレーキ装置に本発明を実施したが、本発明は、他のタイプのディスクブレーキ装置にも、上記実施形態と同様にまたは適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明によるディスクブレーキ装置の第1実施形態を概略的に示す図である。
【図2】本発明によるディスクブレーキ装置の第2実施形態を概略的に示す図である。
【図3】図2に示したアンカーピストンとインナパッドの裏金との関係を示す拡大図である。
【図4】本発明によるディスクブレーキ装置の第2実施形態の変形実施形態を概略的に示す図である。
【図5】本発明によるディスクブレーキ装置の第3実施形態を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0056】
11…ディスクロータ、12…インナパッド、12a…インナパッドの裏金、13…アウタパッド、14…制動ピストン、15…キャリパ、15b…シリンダ部、16…マウンティング、20…電動アクチュエータ、30…クサビ伝達機構、31…クサビ部材、41,51…アンカーピストン、42,52…アンカーシリンダ、43,53…油室、61…サーボピストン、62…サーボシリンダ、63…油室、91…センサ(操作力検出センサ)、A1,A2…単動形油圧シリンダ(アンカー機構)、B…単動形油圧シリンダ(サーボ機構)、V1…減圧制御弁、V2…増圧制御弁、T…リザーバタンク、PS…圧力センサ(アンカー荷重検出センサ)、ECU…電気制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパのシリンダ部に軸方向へ摺動可能に嵌合した制動ピストンが操作力に応じて動作するアクチュエータによりその軸方向に駆動されて、パッドがディスクロータに向けて押動されるように構成され、前記パッドと前記ディスクロータのロータ周方向での摩擦力がアンカー荷重として取り出されて、このアンカー荷重がサーボ機構にてサーボ荷重に変換されて前記制動ピストンに付加されるように構成されたディスクブレーキ装置において、前記サーボ荷重を増大・減少可能な変更手段を前記サーボ機構に設けるとともに、この変更手段の作動を前記操作力と前記アンカー荷重に応じて制御する制御手段を設けて、前記サーボ荷重が前記操作力と前記アンカー荷重に応じて増減制御されるように構成したことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは電動アクチュエータであることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは油圧アクチュエータであることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記アンカー荷重と前記サーボ荷重が油圧化されるように構成されていて、前記変更手段が油圧制御弁とリザーバタンクを備えていることを特徴とする請求項1、2または3に記載のディスクブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−64433(P2007−64433A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253589(P2005−253589)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】