説明

ディーゼルエンジンおよび排ガス浄化用触媒を有する装置を運転する方法

本発明はエンジンが排ガス温度を有する排ガスを排出し、触媒が排ガス浄化のための触媒活性を有する、エンジンおよび触媒を含有する排ガス浄化装置を有する運転装置を運転する方法および装置に関する。前記方法において、触媒の触媒活性の老化に誘発された減少がエンジンの排ガス温度の上昇により少なくとも一部の時間補償される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンからの排ガスを浄化するためのディーゼル酸化触媒を備えたディーゼルエンジンを有する駆動装置を運転する方法に関する。
【0002】
ディーゼルエンジンからの主要汚染物はきわめて少量の炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)のほかに窒素酸化物(NOx)および煤粒子(PM)である。煤粒子は有機溶剤に溶解する成分および溶解しない成分からなる。溶解する部分は多数の異なる炭化水素からなり、これらの炭化水素が粒子コア上で凝縮または吸着または吸収される。溶解しない成分は三酸化硫黄または硫酸塩、炭素、消耗した金属(例えば鉄およびニッケル)および潤滑油および燃料中の添加物から形成される少量の他の酸化物(例えば亜鉛、カルシウム、燐)からなる。三酸化硫黄は温度の関数としての触媒、貴金属負荷および排ガス流による二酸化硫黄の酸化により形成される。ディーゼルエンジンの1つの特別な特性は排ガスの高い酸素含量である。化学量論で運転されるガソリンエンジンの排ガスは酸素約0.7体積%のみを含有するが、ディーゼルエンジンの排ガスは酸素6〜15体積%を含有することがある。
【0003】
ディーゼル排ガス中の種々の汚染物の互いに対する比はディーゼルエンジンの種類およびその運転形式に依存する。原則的にすでに述べたことは固定したディーゼルエンジンにおよび少ないおよび大きい効率の自動車のエンジンに該当する。
【0004】
ディーゼルエンジンの許容される排出は法律により課される上限に支配される。この限界を守るために、ディーゼルエンジンの種類および運転形式に依存して種々の構想が使用される。
【0005】
乗用車での比較的低い出力のディーゼルエンジンの場合に、しばしば排ガスが十分にディーゼル酸化触媒を通過し、排出される炭化水素、一酸化炭素、および煤粒子に吸着される溶解性有機化合物の部分が燃焼する。ディーゼル酸化触媒の酸化機能はこれらが有機化合物および一酸化炭素を酸化するにもかかわらず、窒素酸化物および二酸化硫黄をより高度に酸化された物質に変換しないように形成されている。残りの割合の粒子と一緒に窒素酸化物および硫黄酸化物がほとんど変化せずに残る。この触媒の典型的な表現はドイツ特許第3940758号(米国特許第5157007号)に記載されている。
【0006】
これらの触媒による汚染物の変換は温度に強く依存する。一酸化炭素と炭化水素の場合に、排ガス温度が上昇するとともに、汚染物の変換が増加する。規定された%、一般に50%の汚染物が反応する温度がこの汚染物が変換するための触媒のライトオフ温度と呼ばれる。これは触媒の触媒活性を記載するための重要なパラメーターである。
【0007】
更に触媒の老化状態が種々の汚染物の変換の程度に重要な影響を及ぼす。老化が増加するとともに触媒の触媒活性が低下する。老化は熱の過剰負荷および/または鉛、燐、カルシウムおよび硫黄のような有毒元素による毒化により生じる損傷を有することがあり、有毒元素の一部は燃料中に存在するかまたはモーターオイルの成分である。
【0008】
自動車を150000マイルまで運転した後でさえも汚染物の変換に関する個々の限界値を守ることが保証できなければならない。この要求は一般に新しい触媒を過剰の大きさにすることにより満たされる。従って新しい触媒を例えば新しい活性の仮定に必要であるより著しく大きくなるように形成することができるかまたは触媒組成物を組成および貴金属負荷に関して適当に適合する。
【0009】
低い排ガス温度のために老化後に排出限界を守ることができるために、ディーゼル自動車に高い貴金属負荷を使用しなければならないことは知られている。
【0010】
本発明の課題は、運転装置の運転中に適当な調節手段により補償される触媒の触媒活性を老化に誘発されて減少させ、触媒の通常の過剰の大きさを減少できる、ディーゼルエンジンおよびディーゼル酸化触媒を含有する排ガス浄化装置からなる運転装置を運転する方法を提供することである。
【0011】
前記課題は触媒の触媒活性の老化に誘発された減少がエンジンの排ガス温度を上昇することにより少なくとも一部の時間補償される方法により解決される。
【0012】
本発明を以下にディーゼルエンジンおよびディーゼル酸化触媒を有する排ガス浄化装置を有する運転装置に関して説明する。しかし本発明が他の内燃機関および触媒、例えば三元触媒を有する4サイクルエンジンに同様に適用できることは容易に理解できる。
【0013】
排ガス限界の遵守をチェックするために種々の運転サイクルが開発された。従ってNEDCと省略して呼ばれるNew European Driving Cycleは加速段階およびブレーキ段階および最大速度50km/hを有するインナーシティー運転に続くコールドスタートで開始する運転サイクルを記載する。試験の最後の三番目は最大速度120km/hで田舎の運転を考慮する。全試験は約1200秒かかる。自動車はこの運転サイクルの間に約11.4km/hの距離を走行する。
【0014】
図1はNEDC試験の最初の500秒の試験時間の関数としての1.41ディーゼルエンジンの排ガス温度を示す。“参考”として記載される曲線はディーゼルエンジンの該当する排ガス温度を記録する。このエンジンは2.41の体積を有する標準的なハネカム触媒が備えられ、セル密度62cm−2および排ガス浄化のための白金負荷2.83g/l(80g/ft)を有する。
【0015】
図2はディーゼル酸化触媒の種々の白金負荷に関する試験の間のディーゼルエンジンのCO排出に関する本発明者によるモデリング計算を示す。参考例に対して線的に減少したまたは増加した排ガス温度に関して排出値が計算された。横座標の値の排出値1.00は種々の白金負荷に関する図1の参考曲線に相当する当初の排ガス温度でのディーゼルエンジンのCO排出を示す。これから逸脱する横座標の値に関して、参考曲線に対して線的に増加したまたは減少したディーゼルエンジンの排ガス温度が仮定される。横座標の値が0.85および1.15の場合にこれらの温度曲線が図1に示され、曲線a)は15%線的に減少した排ガス温度に関し、曲線b)は15%線的に増加した排ガス温度に関する。
【0016】
所定の白金負荷での試験中の一酸化炭素の排出が排ガス温度の上昇により減少できることが図2から理解できる。従って老化に誘発された排出値の低下が排ガス温度の上昇により補償できる。
【0017】
ディーゼルエンジンの排ガス温度を種々の手段により上昇できることが知られている。本発明の目的のために、エンジンの排ガス温度をコールドスタートの直後にまたはしばらく遅らせて上昇することができる。第1の場合にコールドスタート段階中に汚染物の過剰の排出を防ぐためにエンジンの排出特性に少ない影響を与える手段を選択することが有利である。後者の場合にいくらか高い排出値を生じる手段を選択することもでき、それは本発明の方法により汚染物が非汚染物に確実に変換されるからである。
【0018】
本発明の方法のために排ガス温度を上昇する可能な手段は、例えば以下のものである。
(1)吸入空気を減少する、これは同じ出力で排ガス量が減少し、高い温度を生じる。
(2)場合により1個のみのシリンダー中に後注入することにより排ガス温度を上昇する。
(3)燃焼ピークを“後に”シフトする、燃焼ピークの1°のシフトは約10Kの温度上昇を生じる。
(4)排ガス背圧の上昇
(5)ギアボックスのギア比の変更
(6)装入物の冷却を中断する。
【0019】
排ガス温度を上昇する前記手段は燃料組成物のわずかな増加を生じる。この付加的な消耗をできるだけ少なく維持するために、この手段は有利に排ガス温度が前記最低温度以下に低下する場合にのみ使用する。ディーゼルエンジンを高い負荷を有して運転する場合に、排ガス温度は一般に汚染物の満足する変換を保証するために、老化した触媒でさえも十分に高い。
【0020】
排ガス温度を上昇する前記手段の中でエンジンの閉塞がきわめて有効である。図3はこれを例として強力自動車エンジンに関して示す。“製造モデル”により示される温度曲線は個々の運転サイクルの粒子フィルターの上流の排ガス温度を示す。この同じ運転サイクルの間の排ガス温度はエンジンの閉塞により約100℃上昇することができる(“改質エンジン”曲線)。これは約10%の付加的な燃料消耗を生じる。しかし本発明の方法は一般に触媒の老化を補償するために、20K以下の温度上昇を必要とする。従って前記方法による付加的な燃料消耗は相当して低下する。
【0021】
老化に誘発された触媒活性の減少は種々の方法で測定できる。
【0022】
最も簡単な場合は多くの触媒の平均老化特性を運転時間の関数として前記のように測定できる。前記方法を実施するために、運転時間の関数としてディーゼルエンジンのエンジン調節装置でのそれぞれの老化状態に関する排ガス温度の十分な上昇を保証する、運転パラメーターへの必要な変形を加えることができる。
【0023】
しかし触媒の老化状態を直接測定することがより有利である。この目的のために連続的および不連続的測定方法が適している。例えばガスセンサ装置を直接測定する手段により汚染物の変換を連続的に測定し、エンジン調節装置に導入される触媒モデルにデーターを適合することにより老化状態を測定することができる。前記の場合と同様にそれぞれの老化状態に関して排ガス温度の十分な上昇を保証する運転パラメーターへの必要な変形を測定された老化状態の関数としてエンジン調節装置に加えることができる。
【0024】
汚染物変換を測定するガスセンサ装置は例えば触媒の上流のセンサおよび関係する汚染物(CO、HCまたはNO)のために触媒の下流のセンサを有することができる。触媒の上流のセンサはエンジンの任意の運転時点に関する排ガス中の汚染物濃度が予めエンジン調節装置での性能特性の形で導入されている場合は省略することができる。
【0025】
すでに述べたように、触媒の老化状態は不連続的に、すなわち個々の距離が走行された後に、または個々の運転時間の後に測定することができる。この目的のために、例えば決められた量の炭化水素を後から注入する際に触媒上で発生する熱を測定することができる。新しい触媒が付加的な炭化水素を老化した触媒より良好に燃焼し、従ってこの方法の結果として排ガスの温度の大きな上昇を生じる。
【0026】
エンジンの運転パラメーターの必要な変化は以下のように直接測定できる。触媒上の所定の量の炭化水素の燃焼で発生する熱をまず測定し、この運転時点で新しい触媒上で発生する熱と比較する。新しい触媒と比較して発生した熱量が減少する場合は、この運転時点で支配するエンジンの排ガス温度はエンジン手段によりトルクを変更せずに、老化した触媒で発生する新しく測定した熱が新しい触媒で発生する熱に相当するまで上昇する。これから、老化により誘発された触媒の性能の低下を補償するために排ガス温度を上昇しなければならない係数を測定することができる。この場合もほかのすべての運転時点でのそれぞれの老化状態に関する排ガス温度の十分な上昇を保証する処理パラメーターへの必要な変形は測定された係数の関数としてエンジン調節装置に導入することができる。
【0027】
ディーゼルエンジンが粒子フィルターを有する場合は決められた量の炭化水素の燃焼中に発生する熱による老化状態の前記の測定は特に有利に粒子フィルターの再生機能と結合できる。粒子フィルターを再生するために、粒子フィルターでの排ガス温度はときおり煤の発火温度に上昇し、煤を燃焼する。これは一般に炭化水素の後注入および酸化触媒での炭化水素の燃焼により達成される。この工程で発生する熱は同時に酸化触媒の老化状態を測定するために利用できる。
【0028】
図4〜6は2.4lハネカム触媒を備えた1.4lディーゼルエンジンを有する前記運転装置でのモデリング計算を使用した熱の発生による老化状態の測定を示す。モデリング計算はNEDC試験の任意の部分で実施した。後注入が運転時間間隔710〜830秒で排ガス中のHC濃度を10000ppmに増加することが予測された。
【0029】
図4は触媒の入口での排ガス温度(導入温度曲線)および触媒を離れる際の排ガスの出口温度と導入温度の温度差に関する計算した温度曲線を示す。有利な温度差は触媒上の発熱反応を示す。図4の温度差の計算はHC後注入のない新しい触媒で実施した。
【0030】
図5は新しい触媒および老化した触媒への炭化水素の後注入による熱の発生の比較を示す。老化した触媒の熱の発生が新しい触媒の場合より著しく低いことが理解できる。
【0031】
図6は後注入した老化した触媒での熱の発生と後注入した新しい触媒での熱の発生の比較を示し、10%の同時の線温度上昇を示す。図6から理解できるように、計算した例での10%の線温度上昇が老化した触媒の触媒活性をほとんど新しい触媒の水準に上昇するために十分である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】NEDC試験の最初の500秒の試験時間の関数としての1.41ディーゼルエンジンの排ガス温度を示す図である。
【図2】ディーゼル酸化触媒の種々の白金負荷に関する試験の間のディーゼルエンジンのCO排出に関する本発明によるモデリング計算を示す図である。
【図3】強力自動車エンジンでの排ガス温度の上昇を示す図である。
【図4】触媒の入口での排ガス温度(導入温度曲線)および触媒を離れる際の排ガスの出口温度と導入温度の温度差に関する計算した温度曲線を示す図である。
【図5】新しい触媒および老化した触媒への炭化水素の後注入による熱の発生の比較を示す図である。
【図6】後注入した老化した触媒での熱の発生と後注入した新しい触媒での熱の発生の比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが排ガス温度を有する排ガスを排出し、触媒が排ガス浄化のための触媒活性を有するエンジンおよび触媒を含有する排ガス浄化装置を有する運転装置を運転する方法において、触媒の触媒活性の老化に誘発された減少がエンジンの排ガス温度の上昇により少なくとも一部の時間補償されることを特徴とする運転装置の運転方法。
【請求項2】
触媒の触媒活性の老化に誘発された減少がエンジンの排ガス温度の線的上昇により補償される請求項1記載の方法。
【請求項3】
それぞれ内燃機関の決められた運転時間の後に、内燃機関の個々の運転時点での触媒上の個々の炭化水素量の燃焼中に発生した熱を測定し、これをこの運転時点での新しい触媒で発生した熱と比較することにより触媒の老化状態を測定し、新しい触媒に対して熱の発生が減少する場合は、老化した触媒で発生した熱の測定した量が新しい触媒で発生した熱に相当するまでトルクを変化せずにエンジン手段によりこの運転時点で支配するエンジンの排ガス温度を上昇させ、新しい触媒の排ガス温度と老化した触媒の排ガス温度を比較して老化に誘発された触媒活性の減少を補償するために排ガス温度を上昇しなければならない係数を得る、請求項2記載の方法。
【請求項4】
エンジンが排ガス温度を有する排ガスを排出し、触媒が排ガス浄化のための触媒活性を有するエンジンおよび触媒を含有する排ガス浄化装置を有する運転装置のための装置であり、前記装置が、特に請求項1から3までのいずれか1項記載の方法を実施するために、エンジンの排ガス温度の上昇により少なくとも一部の時間触媒の触媒活性の老化に誘発された減少を補償する装置を有することを特徴とする運転装置のための装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−502388(P2007−502388A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529866(P2006−529866)
【出願日】平成16年5月18日(2004.5.18)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005360
【国際公開番号】WO2004/103528
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4、D−63457 Hanau、Germany
【Fターム(参考)】