説明

ディーゼルエンジンのコントロール方法

本発明は、除粒子フィルタを装備したディーゼルエンジンをコントロールする方法に関し、この除粒子フィルタは、前記エンジンの排気ガスラインに設けられている。本発明の方法は、以下のステップ、つまり、少なくとも1つのエンジン運転パラメータ(P)を測定する操作と、除粒子フィルタの再生(R)を含むステップであって、排気ガスを350〜500℃の温度でフィルタに通過させるステップとを含む。この方法は、エンジン運転安定基準(CS)を計算するステップも含み、このステップは、上述のパラメータ(P)の、時間に対する少なくとも1つの導関数の計算を含む。本発明によれば、排気ガスの温度が350℃未満で且つ計算されたエンジン安定基準(CS)が予め規定された範囲(B1〜B2)内に含まれる場合には、エンジンは、所与の再生時間(R)にわたって、排気ガスの温度が350〜500℃になるように調整される。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、総括的には、ディーゼルエンジンのための除粒子フィルタの再生の分野に関連する。
より詳細には、本発明は、エンジンのガス排気ラインに配置されている除粒子フィルタが装着されたディーゼルエンジンをコントロールする方法であって、
− 前記エンジン吸気口での空気流量、除粒子フィルタに入る排気ガスの温度、除粒子フィルタから出る排気ガスの温度、エンジン冷却流体の温度、車両の速度、エンジンアクセルペダルの降下の相対位置及びエンジン速度からの少なくとも1つのエンジン運転パラメータ(P)を測定する操作と、
− 350〜500℃の温度で排気ガスを前記除粒子フィルタに通過させる、除粒子フィルタの再生(R)のステップと、
を含む方法に関する。
【0002】
除粒子フィルタは、噴煙中に含まれる粒子をフィルタリングし、これにより、ディーゼルエンジンが生成する汚染物質を低減するために、排気ラインで広く使用されている。このフィルタによってフィルタリングされる粒子は、主に煤及びエンジンオイルである。フィルタの粒子放出を行って、粒子に対する最適なフィルタリング及び汚染除去特性を回復させ、フィルタ中の粒子の蓄積によって引き起こされる圧力損失を低減するために、フィルタ再生と呼ばれる操作を行うことが公知の手順となっている。
従来、例えば欧州特許第1203876号明細書に記載されているように、この再生操作は500℃より高い温度で行う。この再生では、エンジンの性能にとって有害となるエネルギー/種々の燃料の大量の噴射が必要であるので、また、このような再生中に起こる化学反応が350〜500℃で起こるものとは異なるので、本発明による方法は、この種の500℃より高い温度で行うような再生に関するものではない。
【0003】
本発明による再生では、フィルタ中のガスの温度を350〜500℃に調節することによってフィルタ中に含まれる粒子を燃焼させる。この特定の温度範囲で行う再生は、再生触媒物質(高エネルギー噴射燃料)の利用を必要とする他のタイプの再生と対照的に、受動的再生と呼ばれる。
よって、本発明によるフィルタ再生方法は、専ら「受動的」再生方法に関する。
【0004】
この受動的再生方法では、触媒(つまり、粒子フィルタ)内に蓄積された粒子をCOの分子に変換させる。このプロセスを、車両が車道を走行する時に350〜500℃の温度範囲で連続的に行い、通常、この温度範囲外では行わない。
除粒子フィルタ内に堆積した煤(炭素)の燃焼は、酸化成分(二酸化窒素NO)の作用及び温度を組み合わせることによってのみ可能となる。
【0005】
受動的再生の化学反応は次の通りである。
C+2NO → CO +2NO
煤が酸化できない反応条件であったために、再生が不完全にしか行われない場合があることが指摘されている。これを受けて、本発明の課題は、除粒子フィルタの再生を改善することができ、不完全な再生の回数を低減できるエンジンのコントロール方法を提供することである。
【0006】
この目的のために、本発明のコントロール方法は、さらに上記序文による本発明の総括的な記述に従って、エンジン運転の安定基準を計算するステップであって、少なくとも1つの前記エンジン運転パラメータの、時間に対する少なくとも1つの導関数の計算を含むステップを含み、除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度が350℃未満で且つ前記計算されたエンジン安定基準が予め規定された範囲にある場合には、除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度を上昇させて所与の再生時間にわたり350〜500℃となるように、エンジンを調整することを原則的に特徴としている。
【0007】
本発明の方法により、少なくとも、計算された安定基準が予め規定された範囲内にある場合に、排気ガスの温度を上昇させることが決定される。この安定基準によって、除粒子フィルタ内部の反応条件は原則的に安定であり変動する傾向がなく、部分的な再生が生じてしまうリスクを伴わないようにすることができる。
【0008】
よって、本発明により、好ましくはエンジンの運転が安定である時に再生を開始させることによって、再生の成功率を増大させることができる。安定なエンジンの運転とは、少なくとも予定された再生の全時間にわたり、350〜500℃の温度の燃焼ガスが除粒子フィルタ中で確実に循環できる運転である。
【0009】
再生の目的のためにのみ必要な温度上昇を可能にしたり不可能にしたりするためのこのような安定基準をコントロール方法に含めることによって、エンジンの運転条件の変動をより十分に考慮し且つ予測することができ、不完全に行われてしまう再生の指示を回避することができる。したがって、部分的で且つ不完全な、よってより頻繁な再生が必要な同類のエンジンと比較して、再生のために使用されるエネルギーの量を低減することができるので、エンジンの性能が向上する。よって、本発明によって、エンジン内には比較的少量の燃料を噴射すればよく、これにより、より効率的な再生が得られる。その一方で、再生がより効率的になるほど、フィルタは、再び粒子を多量に蓄積させることができるようになり、これにより、2度の再生の間の時間が長くなり、フィルタの耐用年数も長くなる。
【0010】
例えば、安定基準が予め規定された範囲内にあり、且つ除粒子フィルタ中の煤の重量が予め規定された重量よりも大きいという条件、エンジン操作時間が予め規定された時間よりも長いという条件、排気ガスの温度が予め規定された第1の温度よりも高いという条件、除粒子フィルタに入る排気ガスの温度が予め規定された第2の温度よりも高いという条件、除粒子フィルタから出る排気ガスの温度が予め規定された第3の温度よりも高いという条件、エンジン冷却流体の温度が予め規定された第4の温度よりも高いという条件、エンジン吸気口での空気流量が予め規定された空気流量より大きいという条件、エンジン速度が予め規定された速度よりも大きいという条件のうちから少なくとも1つの条件が達成された場合に、除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度を上昇させて350〜500℃とするようにエンジンの調整を確実に行うことができる。
【0011】
安定基準に関連する条件と、特定のエンジンパラメータのレベルに関連する別の条件との組合せによって、再生指令が、可能である/価値がある場合にのみ開始され、エンジンが安定していることにより成功の可能性を得ることができる。
【0012】
したがって、除粒子フィルタ中の煤の重量が予め規定された重量を上回るという条件があることによって、再生が実際に必要であることが保証される(例えば、酸化させるべき煤の体積が十分でない場合には、再生は命令されない)。
【0013】
エンジンの運転時間が予め規定された時間より長くなっていることは、フィルタの粒子充填の度合いの有効な別のインジケータである。
【0014】
それ以外の条件、つまり、排気ガスの温度が予め規定された第1の温度より高い条件、除粒子フィルタに入る排気ガスの温度が予め規定された第2の温度よりも高い条件、除粒子フィルタから出る排気ガスの温度が予め規定された第3の温度よりも高い条件、及びエンジン冷却流体の温度が予め規定された第4の温度よりも高いという条件は、フィルタ内のガスの温度を(所与時間にわたって)350〜500℃に上昇させるために噴射すべきエネルギーの量を評価するために必要な条件である。
【0015】
エンジンの吸気口での空気流量が予め規定された空気流量よりも大きいという条件、及びエンジン速度が予め規定された速度よりも大きいということは、エンジン運転の安定性を判断するための追加的な基準を構成する。
【0016】
また、安定基準を計算するステップ及びエンジンの調整が、センサに接続されたコンピュータによって確実に管理されるようにすることが可能である。
【0017】
エンジン運転安定基準が、エンジン吸気口での空気流量の導関数であることと、安定基準が、少なくとも1つの前記測定されたエンジンの運転パラメータの可変関数である予め規定された範囲内にある場合に、除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度を上昇させて350〜500℃にするようエンジンが調整されるようにすることが可能である。
【0018】
この特徴によって、計算された基準が、再生を可能にするために収まらなくてはならない範囲の制限値を著しく変化させることができる。よって、この範囲は、現状のエンジン運転時点に応じて、予め規定された関数に応じて変化し、エンジンコントロールユニットのメモリに記録される。したがって、この特徴によって、エンジンで測定された動的データに基づいて、本発明の方法において、安定条件に与えられた重要性を適合させることができる。
【0019】
また、除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度を上昇させて、所与の受動的再生時間にわたり350〜500℃とするようなエンジンの調整も確実にすることができ、この調整においては、1エンジンサイクル中で少なくとも1つの燃焼室への燃料の噴射を数回行う。
【0020】
本発明は、本発明の方法を適用するための装置にも関する。この装置は、少なくとも1つのエンジン運転パラメータを測定するのに適したセンサと、前記安定基準を計算するのに適したコンピュータとを備えている。
【0021】
本発明の他の特徴及び利点は、添付の図1を参照して、本発明を制限しない例示としての以下の説明から明らかにされる。
【0022】
上述のように、本発明は、エンジン排気ガスから粒子をフィルタリングするために配置された除粒子フィルタを装着したディーゼルエンジンをコントロールする方法に関する。
この方法は、恒久的に且つ/又は周期的にエンジン運転パラメータPを測定することを含む。この本発明の方法で測定されたパラメータPは、通常、量産される車両で通常に測定されるものと同じパラメータである。したがって、本発明の方法は、多数の量産車両において実施でき、電子コントロールユニット(エンジンを管理するユニット)のプログラミングを変更すること以外に車両を変更する必要はない。
【0023】
測定されるパラメータPは、好ましくは、エンジン吸気口における空気流量、除粒子フィルタにおけるガスの温度を表す排気ガス温度、及びエンジンのアクセルペダルの降下の相対位置である。
【0024】
電子コントロールユニットは、
− ペダルの位置を分析して、加速命令が安定であるかないかを評価し、
− 空気流量を分析して、エンジン内への燃料の噴射が安定であるかないかを判断し、
そして、
− 排気ガスの温度を分析して、一方では、再生を行うための条件が達成されているか若しくは達成可能であるかを評価し(ガス温度レベル)、他方では、温度の安定性のレベルを判断する(突発的な温度降下が起こり、受動的再生の完全な実現が阻止されるようなリスクがあるかないかを確かめる)。
【0025】
エンジン運転安定基準を計算するために、他のパラメータを測定することもできる。これらの他のパラメータは、例えば、除粒子フィルタに入る排気ガスの温度、除粒子フィルタから出る排気ガスの温度、エンジン冷却流体の温度、車両の速度、エンジンの速度であってよい。
【0026】
コントロールユニットは、少なくとも1つの測定されたパラメータPの関数である安定基準CSを計算する。この安定基準を計算するために使用されるパラメータは、除粒子フィルタの内部の熱力学的条件と相互関連しているか若しくは相互関連可能であるように選択される。安定基準CSの計算は、少なくとも、測定されるパラメータの1つの一次導関数の計算を含む。このパラメータPは、エンジン運転の安定を表すように選択される。
【0027】
安定基準CSの計算には、測定される異なるエンジンパラメータPの時間の関数としてのいくつかの一次導関数の合計が含まれていてもよい。このように、安定基準CSは、いくつかのエンジン運転パラメータPの変量を表す。
計算する方法に関係なく、エンジン運転安定基準は、除粒子フィルタ内部の熱力学的条件の安定性を表すものとして選択される。
安定基準が予め規定された範囲にある場合、つまり、予め規定された下限値S1と上限値S2との間にある場合には、この安定基準は、エンジンが安定した運転状態にあることを示す。
この場合には、安定基準に関連する再生条件は満たされている。
【0028】
図1に、第1の入力として理論ブロック「COND」と、第2の入力として第2の理論ブロックB1<CS<B2とを有する「AND」関数を示す。
第1の理論ブロックCONDは、パラメータPが、予め規定された最低レベル「Min lev」を上回らなくてはいけないという条件を規定する。
第2の理論ブロックは、計算された安定基準CSに依存する安定基準を表す。
【0029】
理論ブロックの出力が両方とも1である場合、「AND」関数の出力は1となり、これにより、受動的再生ステップRの適用並びに排気ガス温度の350〜500℃での維持が可能となる。
これと逆の場合には、受動的再生を行うことはできない。
【0030】
図1の第1の理論条件は、単独のパラメータPを考慮するものであるが、複数のパラメータPを考慮することもできる。
したがって、この第1の条件「COND」を満たすための特定の形態では、エンジンで測定された複数のパラメータが、各最低レベルを同時に上回らなくてはならないということになり得る。
【0031】
例えば、条件「COND」が満足されるためには、除粒子フィルタ内の煤の重量が最低重量を上回らなくてはならず、車両が、最後に行った再生後、少なくとも所与の距離を移動しており、除粒子フィルタの吸気口温度が第1のしきい値を超えており、除粒子フィルタを出るガスの温度が第2のしきい値を超えており、エンジン冷却液の温度が第3のしきい値を超えており、フィルタリングされた排気ガスの速度が予め規定された速度を上回るようになっていてよい。
【0032】
要約すると、350〜500℃の温度で排気ガスを前記除粒子フィルタに通過させる除粒子フィルタの再生ステップRは、安定基準CS及び条件CONDが同時に満たされる時に達成される。その場合、エンジンは、除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度が上昇し、予め規定された再生時間Rにわたり350〜500℃に維持されるように調整される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による方法の動作の理論図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガスラインに配置された除粒子フィルタを装着したディーゼルエンジンをコントロールする方法であって、
− 前記エンジンの吸気口における空気流量、前記除粒子フィルタに入る排気ガスの温度、前記除粒子フィルタから出る排気ガスの温度、エンジン冷却流体の温度、車両の速度、エンジンアクセルペダルの降下の相対位置及びエンジン速度からの少なくとも1つのエンジン運転パラメータ(P)を測定する操作と、
− 前記除粒子フィルタの再生(R)のステップであって、350〜500℃の温度で排気ガスを前記除粒子フィルタに通過させるステップとを含み、
エンジン運転安定基準(CS)を計算するステップであって、少なくとも1つの前記エンジン運転パラメータ(P)の、時間に対する少なくとも1つの導関数の計算を含むステップを含み、前記除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度が350℃未満で且つ前記計算されたエンジン安定基準(CS)が予め規定された範囲(B1〜B2)にある場合に、前記除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度を上昇させて所与の再生時間(R)にわたり350〜500℃になるように、エンジンを調整することを特徴とする、ディーゼルエンジンをコントロールする方法。
【請求項2】
前記安定基準(CS)が予め規定された範囲(B1〜B2)にあり、且つ除粒子フィルタ中の煤の重量が予め規定された重量より大きいという条件、エンジン運転時間が予め規定された時間より長いという条件、排気ガス温度が予め規定された第1の温度より高いという条件、除粒子フィルタに入る排気ガスの温度が予め規定された第2の温度より高いという条件、除粒子フィルタから出る排気ガスの温度が予め規定された第3の温度より高いという条件、エンジン冷却流体の温度が予め規定された第4の温度より高いという条件、エンジン吸気口での空気流量が予め規定された空気流量より大きいという条件、エンジン速度が予め規定された速度より大きいという条件からの少なくとも1つの条件(COND)が達成されている場合、前記除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度を上昇させて350〜500℃とするように前記エンジンの調整を行うことを特徴とする、請求項1に記載のディーゼルエンジンをコントロールする方法。
【請求項3】
前記安定基準(CS)を計算するステップ及び前記エンジンの調整は、センサに接続されたコンピュータによって管理されていることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載のディーゼルエンジンをコントロールする方法。
【請求項4】
前記エンジン運転安定基準(CS)が、前記エンジン吸気口での空気流量の導関数であり、前記安定基準(CS)が予め規定された範囲にある場合、前記除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度が上昇し350〜500℃となるようにエンジンの調整を行い、前記予め規定された範囲が、少なくとも1つの前記測定されたエンジン運転パラメータ(P)の可変関数であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のディーゼルエンジンをコントロールする方法。
【請求項5】
所与の受動的再生時間(R)にわたって、前記除粒子フィルタを通過する排気ガスの温度が上昇して350〜500℃となるような前記エンジンの調整が、1エンジンサイクル中で少なくとも1つの燃焼室内への複数回の燃料噴射を行うことを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のディーゼルエンジンをコントロールする方法。
【請求項6】
少なくとも1つの前記エンジン運転パラメータ(P)を測定するのに適したセンサと、前記安定基準(CS)を計算するのに適したコンピュータとを備えていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のディーゼルエンジンをコントロールする方法を適用するための装置。

【図1】
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【公表番号】特表2008−533381(P2008−533381A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501379(P2008−501379)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050139
【国際公開番号】WO2006/097647
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】