説明

ディーゼル機関の制御装置

【課題】燃料性状の異なる燃料が供給された場合であっても、より正確に排気圧力及び排気温度を推定して、精度良くEGR率を算出可能なディーゼル機関の制御装置を提供する。
【解決手段】ディーゼル機関10は、通路50a(排気通路)からガスを取り入れて通路40a(吸気通路)に流すEGR装置70を備えている。ECU100は、給油された燃料の性状に係る情報である燃料性状情報として、理論空燃比、密度、発熱量のうち少なくとも1つを取得する機能(燃料情報取得手段)と、取得された燃料性状情報に基づいて、排気通路(通路50a)における排気圧力及び排気温度を推定する機能(排気状態推定手段)を有している。所定の軽油とは燃料性状の異なる燃料が給油された場合であっても、取得した燃料性状情報(理論空燃比、密度、発熱量)を反映させて、より正確に排気温度及び排気圧力を推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル式内燃機関の制御技術に関し、特に、排気ガス再循環(EGR)装置を備えたディーゼル式内燃機関におけるEGR率の算出に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル式の内燃機関(以下、単に「ディーゼル機関」と記す)においては、窒素酸化物等の排気ガス中の有害成分を低減するために、一般的に、気筒から排出された排気ガスの一部を、排気通路から取り入れて吸気通路に流し、再び吸気通路から気筒内に流入させる、いわゆる排気ガス再循環装置(以下、EGR装置と記す)が設けられている。EGR装置は、不活性な排気ガスを新気と共に吸気通路から気筒内に流入させることで、気筒内のガス充填効率を高めてポンプ損失を低減すると共に、不活性なガスの流入により気筒内における燃焼温度を低下させて、窒素酸化物等、排気ガス中の有害成分の発生を抑制している。
【0003】
このようなEGR装置は、一般的に、排気通路と吸気通路を連通させるEGR通路と、EGR通路を流れる排気ガス(以下、EGRガスと記す)の流量を制御するEGR弁が設けられており、アクチュエータによりEGR弁の開度を制御することで、気筒内に流入する不活性なEGRガスの流量が最適な値となるよう調整している。
【0004】
EGR装置が設けられたディーゼル機関としては、例えば、下記の特許文献1に記載のものがある。このディーゼル機関は、排気浄化触媒の温度に応じて、EGR装置とスロットル弁に加えて、燃料噴射時期と点火時期を制御することで、窒素酸化物の発生を抑制すると共に、始動暖機時における排気浄化触媒の早期活性化を図っている。
【0005】
【特許文献1】実開平6−30412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ディーゼル機関を制御する制御変数として、気筒内に流入するガス流量のうちEGRガスの流量が占める割合を示す「EGR率」がある。ディーゼル機関の制御装置は、EGR率が、最適な値となるよう、アクチュエータを介してEGR弁の開度を制御している。ディーゼル機関の制御装置は、算出されたEGR率に基づいて、EGR弁の開度を制御し、気筒内におけるEGRガスの割合を最適な値に調整することで、排気ガス中の有害成分の低減を図っている。したがって、ディーゼル機関の制御装置においては、精度良くEGR率を算出する必要がある。
【0007】
ところで、EGRガスは、高温の既燃ガスであるため、気筒内に流入するEGRガスの流量(以下、単に「EGRガス流量」と記す)を直接検出することは困難であり、ディーゼル機関の制御装置においては、通常、気筒内に流入するガス流量(以下、単に「流入ガス流量」と記す)から、気筒内に流入する新気の流量(以下、単に「流入新気流量」と記す)を除することで、EGRガス流量を算出している。なお、「新気」とは、外気ダクトから導入された酸素を十分に含んだ空気を意味している。流入新気流量は、ディーゼル機関に設けられたエアフロメータから検出して、精度良く求めることができる。
【0008】
一方、流入ガス流量は、ディーゼル機関の機関回転速度と所定のマップに基づいて、基本的な流量を算出しており、さらに、算出された基本流量を、新気とEGRガスが合流した後のガスの温度、すなわち気筒内に吸入されるガスの温度(以下、単に「吸気温度」と記す)と、気筒内に吸入されるガスの圧力(以下、吸気圧力と記す)を用いて補正を行っている。吸気圧力には、例えば、過給圧センサにより検出された過給圧を用いることができる。一方、吸気温度は、排気温度と排気圧力に基づいて算出される。つまり、「流入ガス流量」及び「EGR率」を精度良く求めるには、排気温度と排気圧力を正確に推定する必要がある。
【0009】
排気温度と排気圧力は、流入新気流量及び燃料噴射量の関係を示すマップを用いて推定している。この排気温度及び排気圧力を推定するためのマップは、所定の燃料性状の軽油(ディーゼル燃料)を基準として適合実験を行うことで求められている。このため、ディーゼル機関においては、所定の軽油と燃料性状の異なる燃料が供給された場合、排気通路における排気圧力及び排気温度と正確に推定することができなくなるという問題が生じる。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、燃料性状の異なる燃料が供給された場合であっても、より正確に排気圧力及び排気温度を推定して、精度良くEGR率を算出可能なディーゼル機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るディーゼル機関の制御装置は、排気通路からガスを取り入れて吸気通路に流すEGR装置を備えたディーゼル機関の制御装置であって、給油された燃料の性状に係る情報である燃料性状情報として、理論空燃比、密度、発熱量のうち少なくとも1つを取得する燃料情報取得手段と、取得された燃料性状情報に基づいて、排気通路における排気圧力及び排気温度を推定する排気状態推定手段と、推定された排気温度及び排気圧力に基づいてEGR率を算出するEGR率算出手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るディーゼル機関の制御装置において、燃料情報取得手段は、発熱量を取得するものであり、排気状態推定手段は、取得された発熱量に基づいて排気圧力を推定するものとすることができる。
【0013】
本発明に係るディーゼル機関の制御装置において、燃料状態取得手段は、密度を取得するものであり、排気状態推定手段は、取得された密度に基づいて排気圧力を推定するものとすることができる。
【0014】
本発明に係るディーゼル機関の制御装置において、排気状態推定手段は、推定された排気圧力に基づいて排気温度を推定するものとすることができる。
【0015】
本発明に係るディーゼル機関の制御装置において、燃料情報取得手段は、理論空燃比を取得するものであり、排気状態推定手段は、取得された理論空燃比に基づいて排気温度を推定するものとすることができる。
【0016】
本発明に係るディーゼル機関の制御装置において、燃料情報取得手段は、密度を取得するものであり、排気状態推定手段は、取得された密度に基づいて排気温度を推定するものとすることができる。
【0017】
本発明に係るディーゼル機関の制御装置において、燃料情報取得手段は、ディーゼル機関の始動ごとに、燃料性状情報を取得するものであり、燃料性状情報が前回の値と異なる場合には、燃料性状情報を更新する燃料情報更新手段を有し、排気状態推定手段は、更新された燃料性状情報に基づいて、排気温度及び排気圧力を推定するものとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所定の軽油とは燃料性状の異なる燃料が給油された場合であっても、取得した燃料性状情報(理論空燃比、密度、発熱量)を反映させて、より正確に排気温度及び排気圧力を推定することができる。推定された排気温度と排気圧力に基づいて、精度良くEGR率を算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0020】
まず、本実施例に係るディーゼル機関及び車両システムの概略構成について、図1を用いて説明する。図1は、ディーゼル機関を含む車両システムの概略構成を示す模式図である。なお、図1において、ディーゼル機関及び車両システムについては、本発明に関連する要部のみを模式的に示している。
【0021】
本実施例に係るディーゼル機関は、圧縮されて高温となった燃焼室内の雰囲気に、燃料を供給することで、燃料を自然着火させる圧縮自着火式の内燃機関である。ディーゼル機関は、自動車に原動機として搭載されるものであり、自動車には、ディーゼル機関を含む車両システムを制御する制御手段として、電子制御装置(以下、ECUと記す)が設けられている。以下、ディーゼル機関が有する複数の気筒のうち一つの気筒について説明する。
【0022】
図1に示すように、ディーゼル機関10は、気筒ごとに設けられた燃料噴射装置30が気筒に燃料を直接噴射する、いわゆる直接噴射式のディーゼル機関10である。ディーゼル機関10には、気筒から排出される排気ガスの運動エネルギにより吸入空気を圧縮するターボ過給機60と、気筒から排出された排気ガスの一部を排気通路から取り入れて吸気通路に流入させる、いわゆる排気ガス再循環装置70(以下、EGR装置と記す)が設けられている。このように構成されたディーゼル機関10を制御するために、車両システム1には、ディーゼル機関10用の電子制御装置100(以下、ECUと記す)が設けられている。
【0023】
ディーゼル機関10には、内部に気筒が形成される機関本体系の部品として、シリンダブロック12、ピストン16、コンロッド17、クランク軸18、及びシリンダヘッド20が設けられている。シリンダブロック12には、シリンダボア14が形成されており、ピストン16は、シリンダボア14の内壁面15(以下、シリンダ壁と記す)にピストンリング(図示せず)が摺接して、シリンダボア14内を往復運動する。
【0024】
ピストン16の往復運動が、コンロッド17を介してクランク軸18の回転運動に変換されることで、ディーゼル機関10が発生した機械的動力は、クランク軸18から出力される。クランク軸18の近傍には、クランク軸の回転角位置(以下、クランク角と記す)を検出するクランク角センサ80が設けられている。クランク角センサ80は、検出したクランク角に係る信号を、ECU100に送出している。
【0025】
また、シリンダブロック12には、ディーゼル機関10の機関本体(12,20)を循環する冷却水の温度(以下、単に「水温」と記す)を検出する水温センサ82が設けられている。水温センサ82は、検出した水温に係る信号を、ECU100に送出している。
【0026】
また、シリンダブロック12には、ピストン16の頂面に対向して、シリンダボア14を塞ぐようにシリンダヘッド20が結合されている。シリンダヘッド20のうちピストン16の頂面に対向する壁面22を、以下に、天井壁と記す。
【0027】
以上に説明した、シリンダブロック12のシリンダ壁15、ピストン16の頂面、及びシリンダヘッド20の天井壁22で囲まれた空間が、いわゆる「気筒」となる。
【0028】
シリンダヘッド20には、シリンダボア14の軸心を挟んで、一方の側には、後述する吸気通路からの吸入空気を気筒内に導く吸気ポート24が形成されており、他方の側には、気筒内からの排気ガスを後述する排気通路に排出する排気ポート26が形成されている。
【0029】
シリンダヘッド20には、吸気ポート24及び排気ポート26の気筒側の開口に対応して、図示しない吸気弁及び排気弁が配設されている。これら吸気弁及び排気弁は、カムシャフト28からの機械的動力を受けて駆動される。
【0030】
カムシャフトは、クランク軸18からの機械的動力を受けて回転駆動される。つまり、吸気弁及び排気弁は、クランク軸18の回転角位置(クランク角)に応じて開閉する。カムシャフト28の近傍には、カムシャフトの回転角位置(以下、カム角と記す)を検出するカム角センサ(図示せず)が設けられている。カム角センサは、検出したカム角に係る信号を、ECU100に送出している。
【0031】
吸気弁が開弁すると、吸気ポート24と気筒内が連通し、ディーゼル機関10は、後述する吸気通路の空気を、吸気ポート24から気筒内に吸入することが可能となっている。また、排気弁が開弁すると、排気ポート26と気筒内が連通し、ディーゼル機関10は、気筒内にある排気ガスを、排気ポート26から後述する排気通路に排出することが可能となっている。
【0032】
また、ディーゼル機関10には、外気から気筒内に空気を導く吸気系の部品として、外気から空気を導入する外気ダクト41と、吸入した空気(以下、吸入空気と記す)から塵芥を除去するエアクリーナ42と、吸入空気の流量を計測するエアフロメータ88と、ターボ過給機60により圧縮された空気を冷却するインタークーラ45と、吸入空気の流量を調整するスロットル弁46と、吸入空気を各気筒に分配する分配管である吸気マニホールド48が設けられている。
【0033】
吸気マニホールド48は、吸入空気の流動方向の下流側(以下、単に「下流側」と記す)がシリンダヘッド20に接続されており、その内部に形成された通路40aは、各気筒の吸気ポート24に連通している。
【0034】
一方、吸気マニホールド48のうち、吸入空気の流動方向の上流側(以下、単に「上流側」と記す)には、スロットル弁46が設けられている。スロットル弁46は、気筒内に吸入される流入新気流量を調整する。スロットル弁46の開度は、ECU100により制御される。
【0035】
また、吸気マニホールド48には、通路40aにおける吸入空気の圧力(以下、過給圧と記す)を検出する過給圧センサ92が設けられている。詳細には、過給圧センサ92は、スロットル弁46と気筒との間にある通路40aにおける過給圧(吸気圧)を検出している。過給圧センサ92は、検出した過給圧に係る信号を、ECU100に送出している。
【0036】
また、スロットル弁46の上流側には、吸気配管47が接続されている。吸気配管47内に形成された通路40cは、吸気マニホールド48内の通路40aに連通している。吸気配管47の上流側には、インタークーラ45が接続されている。インタークーラ45は、熱交換器として構成されており、後述するターボ過給機60のコンプレッサ62により圧縮されて高温となった吸入空気を冷却する。
【0037】
吸気配管47には、通路40cにおける吸入空気の温度(以下、吸気温と記す)を検出する吸気温センサ90が設けられている。詳細には、吸気温センサ90は、インタークーラ45とスロットル弁46との間にある通路40cにおける吸気温を検出している。吸気温センサ90は、検出した吸気温に係る信号を、ECU100に送出している。
【0038】
インタークーラ45の上流側には、吸気配管44が接続されている。吸気配管44内に形成された通路40eは、インタークーラ45内の通路(図示せず)を介して、吸気配管47内の通路40cに連通している。吸気配管44の上流側には、ターボ過給機60のコンプレッサ62が接続されている。吸気配管44内の通路40eは、ターボ過給機60のコンプレッサハウジング62a内に連通している。
【0039】
ターボ過給機60のコンプレッサ62の上流側には、吸気配管43が接続されている。吸気配管43内に形成された通路40gは、ターボ過給機60のコンプレッサ62内に連通している。吸気配管43の上流側には、エアクリーナ42が接続されており、エアクリーナ42の上流側には、外気ダクト41が設けられている。吸気配管43内の通路40gは、エアクリーナ42を介して外気ダクト41内に連通している。
【0040】
エアクリーナ42のエレメントより下流側には、エアフロメータ88が設けられている。エアフロメータ88は、外気ダクト41から導入された酸素を十分に含んだ空気(以下、新気と記す)の流量、すなわち気筒内に流入する新気の流量(以下、「吸入空気量」と記す)を検出する。エアフロメータ88は、検出した吸入空気量に係る信号を、ECU100に送出している。
【0041】
また、エアフロメータ88と同じ場所には、外気ダクト41から流入する吸入空気の温度を検出する外気温センサ86が設けられている。外気温センサ86は、検出した外気温に係る信号を、ECU100に送出している。
【0042】
外気ダクト41から導入された新気は、エアクリーナ42を通過し、エアフロメータ88で流量が検出されて、ターボ過給機60のコンプレッサ62で圧縮される。圧縮されて高温となった新気は、インタークーラ45で冷却されて、スロットル弁46に流れる。スロットル弁46で流量が調整された新気は、吸気マニホールド48に流入し、ディーゼル機関10に設けられた各気筒内に流入する。
【0043】
なお、「吸気通路」とは、前述の吸気系の部品と、吸気配管により形成され、外気ダクトから導入された新気が気筒に流入するまでに通過する流路を意味している。本実施例において、吸気通路には、吸気マニホールド48内の通路40aだけでなく、シリンダヘッド20の吸気ポート24が含まれている。
【0044】
また、ディーゼル機関10には、気筒内からの排気ガスを外気に排出する排気系の部品として、各気筒からの排気ガスを合流させてターボ過給機60に導く排気マニホールド52と、ターボ過給機60からの排気ガスを外気に導く排気管53と、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化触媒(図示せず)が設けられている。排気マニホールド52内には、通路50a(排気通路)が形成されており、ディーゼル機関10が有する複数の気筒から排出された排気ガスを合流させて、後述するターボ過給機60のタービン64に導く。
【0045】
ターボ過給機60は、吸気配管43と吸気配管44との間に介在して設けられたコンプレッサ62と、排気マニホールド52と排気管53との間に介在して設けられたタービン64とを有している。コンプレッサ62のハウジング62a内には、回転することで空気を圧縮するコンプレッサホイール62cが収容されており、タービン64のハウジング64a内には、排気ガスの流れにより回転駆動されるタービンホイール64cが収容されている。コンプレッサホイール62cとタービンホイール64cは一体に結合されている。
【0046】
ターボ過給機60は、通路50a(排気通路)からタービンハウジング64a内に流入する排気ガス流の運動エネルギによりタービンホイール64c及びコンプレッサホイール62cが回転駆動され、コンプレッサハウジング62a内にある空気を圧縮してインタークーラ45に給送する。タービンハウジング64a内の排気ガスは、排気管53内を下流側に流れ、図示しない排気浄化触媒で排気ガス中の有害成分が浄化された後、外気に放出される。
【0047】
なお、本実施例におけるターボ過給機60は、いわゆる可変ノズル式のターボ過給機60であり、タービンハウジング64a内においてタービンホイール64cの直上流側に設けられた複数の可動翼67と、可動翼67を駆動するアクチュエータ68とを備えている。アクチュエータ68が、可動翼67の姿勢(傾き)を変化させることで、ターボ過給機60は、隣り合う可動翼67間の流路幅である可変ノズル開度(以下、「Vn開度」と記す)を調整することができる。ターボ過給機60のVn開度は、アクチュエータ68を介して、ECU100により制御される。
【0048】
なお、「排気通路」とは、気筒内から排出された排気ガスが、ターボ過給機60のタービン64に流入までに通過する流路を意味している。本実施例において、排気通路には、排気マニホールド52内の通路50aだけでなく、シリンダヘッド20の排気ポート26が含まれている。
【0049】
また、ディーゼル機関10には、気筒内に燃料を供給する燃料供給系の部品として、燃料噴射装置30が設けられている。燃料噴射装置30は、気筒ごとに設けられており、噴孔が設けられたノズル部(図示せず)がシリンダヘッド20の天井壁22の中央部に配設されて、気筒内に露出している。各燃料噴射装置30は、共通の燃料レール(図示せず)から、所定の燃圧(例えば、180MPa)で燃料の供給を受けている。
【0050】
燃料噴射装置30は、ピエゾ式の燃料噴射弁で構成されており、1サイクル中に複数回の燃料噴射を行うことが可能となっている。各サイクルにおける燃料噴射装置30の噴射期間、すなわち噴射時期及び噴射時間長さ(開弁時間)は、図示しないドライバユニットを介して、ECU100により制御される。
【0051】
また、ディーゼル機関10には、気筒から排出された排気ガスの一部を、排気通路から取り入れて吸気通路に流す、いわゆる排気ガス再循環装置70(以下、EGR装置と記す)が設けられている。EGR装置70は、排気通路と吸気通路を連通させるEGR通路と、EGR通路を流れる排気ガス(以下、EGRガスと記す)の流量を調整するEGR弁77と、EGRガスを冷却するEGRクーラ74とを有しており、以下に詳細を説明する。
【0052】
上述した排気マニホールド52には、EGRガスの取入口71が設けられており、取入口71には、EGR配管72が接続されている。EGR配管72のうち、EGRガスの流動方向の下流側(以下、単に「下流側」と記す)には、EGRクーラ74が接続されている。EGRクーラ74は、熱交換器で構成されており、流入したEGRガスを冷却することが可能となっている。EGRクーラ74の下流側には、EGR配管76が接続されている。
【0053】
EGR配管76の下流側の端には、EGR弁77が配設されている。EGR弁77は、電磁式のバルブで構成されている。EGR弁77の下流側には、EGR配管78が接続されている。EGR配管78は、吸気マニホールド48に設けられたEGRガスの流出口79と、EGR弁77とを接続している。EGR弁77の開度は、ECU100により制御される。
【0054】
なお、「EGR通路」とは、EGR配管72,76,78と、EGRクーラ74及びEGR弁77により形成され、取入口71から導入された排気ガスすなわち不活性ガスが、流出口79に至るまでに通過する流路を意味している。本実施例において、EGR通路には、EGR配管72,76,78内の通路だけでなく、EGRクーラ74及びEGR弁77内に形成された通路を含んでいる。つまり、EGR通路を流れるEGRガスの流量は、EGR弁77を介して、ECU100により制御される。
【0055】
EGR弁77を開弁させると、EGR装置70は、通路50aすなわち排気通路を流れる排気ガスの一部を、取入口71からEGR通路に取り入れる。そして、EGR通路に取り入れた排気ガス(EGRガス)は、EGRクーラ74で冷却した後、EGR弁77で流量を調整して、流出口79から、通路40aすなわち吸気通路に流す。吸気通路に流入したEGRガスは、外気ダクト32から導入される酸素を十分に含んだ新気と混合されて、吸気ポート24から各気筒内に流入する。
【0056】
このようにして、EGR装置70は、酸素をほとんど含まない不活性な排気ガスであるEGRガスを吸気通路から気筒内に流入させることで、気筒内におけるガス充填効率を高めてポンプ損失を低減すると共に、気筒内における燃焼温度を低下させて窒素酸化物の発生を抑制することができる。
【0057】
以上に説明したディーゼル機関10を含む車両システム1には、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出するアクセルペダルポジションセンサ102が設けられている。アクセルペダルポジションセンサ102は、検出したアクセルペダルの操作量(以下、アクセル操作量と記す)に係る信号を、ECU100に送出している。また、車両システム1には、自動車がおかれた環境下における大気圧を検出する大気圧センサ104が設けられている。大気圧センサ104は、検出した大気圧に係る信号を、ECU100に送出している。
【0058】
また、車両システム1には、燃料タンク内に給油された燃料の温度(以下、燃料温度と記す)を検出する燃料温度センサ106が設けられている。燃料温度センサ106は、燃料温度に係る信号をECU100に送出している。
【0059】
また、車両システム1には、給油された燃料の性状に係る情報(以下、燃料性状情報と記す)を検出する機能(以下、燃料情報検出手段と記し、図1に符号108で示す)が設けられている。燃料性状情報には、燃料の理論空燃比、燃料の密度、燃料の発熱量のうち、すくなくとも1つが含まれている。この燃料情報検出手段108は、例えば、ディーゼル機関10に供給する燃料を貯蔵する燃料タンク(図示せず)に、燃料性状情報を検出可能な燃料性状センサを設けることで実現することができる。燃料情報検出手段108は、検出した燃料性状情報をECU100に送出している。
【0060】
以上のように構成された車両システム1において、ECU100は、クランク角センサ80からのクランク角に係る信号と、水温センサ82からの水温に係る信号と、外気温センサ86からの外気温に係る信号と、エアフロメータ88からの吸入空気量に係る信号と、吸気温センサ90からの新気の吸気温に係る信号と、過給圧センサ92からの過給圧に係る信号とを受けている。また、ECU100は、アクセルペダルポジションセンサ102からのアクセル操作量に係る信号と、大気圧センサ104からの大気圧に係る信号と、燃料温度センサ106からの燃料温度に係る信号とを受けている。また、ECU100は、上述の燃料情報検出手段108から、給油された燃料の燃料性状情報として、理論空燃比、密度、及発熱量に係る信号を受けている。
【0061】
これら信号に基づいて、ECU100は、各種制御変数を算出している。制御変数には、クランク軸の回転角位置(クランク角)、クランク軸の回転速度(以下、機関回転速度と記す)、ディーゼル機関10がクランク軸から出力している機械的動力(以下、機関負荷と記す)、水温、外気温、吸入空気量、吸気温、過給圧、アクセル操作量、大気圧、燃料温度などがある。また、ECU100は、給油された燃料の燃料性状情報として、理論空燃比、密度、及発熱量を算出している。また、ECU100は、検出された吸入空気量から外気ダクトから導入される時間あたりの平均空気量[g/sec]を算出している。
【0062】
ECU100は、これら制御変数から把握されるディーゼル機関10の運転状態に基づいて、燃料噴射装置30の燃料噴射量と、スロットル弁46の開度と、可変ノズル式ターボ過給機60のVn開度と、EGR弁77の開度を決定し、それぞれ制御することが可能となっている。
【0063】
ところで、ディーゼル機関10において、EGR弁77の開度を決定する制御パラメータとして、EGR率がある。「EGR率」は、気筒内に流入するガス流量のうち、EGRガスの流量が占める割合である。EGR率は、下記の式(e)により、算出する。
(EGR率)=((流入ガス流量)−(流入新気流量))/(流入ガス流量)
・・・(e)
【0064】
ここで、「流入ガス流量」とは、吸気通路から気筒内に流入するガスの流量であり、ガスには、新気とEGRガスが含まれている。これに対して、流入新気流量は、吸気通路から気筒内に流入する新気の流量であり、EGRガスは含まれていない。なお、流入ガス流量及び流入新気流量の単位は、[g/rev]である。流入新気流量[g/rev]は、エアフロメータ88からの信号に基づいて算出された平均空気量[g/sec]と機関回転速度から算出することができる。
【0065】
EGR率は、ディーゼル機関10の運転状態に応じた最適な値があり、ECU100は、ディーゼル機関10の運転状態に応じて、目標とするEGR率(以下、目標EGR率と記す)を設定すると共に、実際のEGR率が、目標EGR率に一致するように、アクチュエータ類(EGR弁77及びスロットル弁46等)を制御する。このため、ECU100は、各種センサから得られた制御変数に基づいて、実際のEGR率を精度良く算出する必要がある。EGR率を算出するにあたって、流入新気流量は、エアフロメータ88により検出された吸入空気量(平均空気量)から精度良く算出することができる。
【0066】
一方、流入ガス流量は、ディーゼル機関10の機関回転速度と所定のマップから基本となる流量(基本流量)を算出しており、さらに、算出された基本流量を、新気とEGRガスが合流した後のガスの温度、すなわち気筒内に吸入されるガスの温度(以下、単に「吸気温度」と記す)と、気筒内に吸入されるガスの圧力(以下、吸気圧力と記す)を用いて補正を行っている。吸気圧力には、過給圧センサ92により検出された過給圧を用いることができる。一方、吸気温度は、排気温度と排気圧力に基づいて算出される。つまり、「流入ガス流量」及び「EGR率」を精度良く求めるには、EGRガスを取り入れる排気通路における排気温度と排気圧力を正確に推定する必要がある。
【0067】
排気温度と排気圧力は、流入新気流量及び燃料噴射量の関係を示すマップを用いて推定している。この排気温度及び排気圧力を推定するためのマップは、所定の燃料性状の軽油(ディーゼル燃料)を基準として適合実験を行うことで求められているため、ディーゼル機関において、所定の軽油と燃料性状の異なる燃料が供給された場合、正確に排気圧力及び排気温度を推定することができなくなるという問題が生じる。すなわち、推定された排気圧力及び排気温度と実際の値との間に生じる「ずれ」が大きくなるという問題が生じる。
【0068】
そこで、本実施例に係るディーゼル機関の制御装置(ECU)においては、給油された燃料の性状に係る情報(以下、燃料性状情報と記す)として、理論空燃比、密度、及び発熱量を取得する燃料情報取得手段と、取得された燃料性状情報に基づいて、排気通路における排気圧力及び排気温度を推定する排気状態推定手段とを有しており、推定された排気温度及び排気圧力に基づいてEGR率を算出しており、以下に図1〜図4を用いて説明する。図2は、ECUが実行する燃料変化判別ルーチンを示すフローチャートである。図3は、ECUが実行する排気圧力推定ルーチンを示すフローチャートである。図4は、ECUが実行する排気温度推定ルーチンを示すフローチャートである。
【0069】
まず、燃料変化判別ルーチンについて、図1及び図2を用いて説明する。燃料変化判別ルーチンは、ディーゼル機関10の始動ごとに行われ、詳細には、ディーゼル機関10が搭載された自動車の車両システム1において、ディーゼル機関10の各種部品に電力を供給するイグニッション・リレーがオン(ON)となったときに、ECU100により開始される。
【0070】
燃料変化判別ルーチンが開始されると、まず、ステップS100において、ECU100は、燃料変化フラグをオフ(OFF)状態に初期化する。なお、燃料変化フラグは、前回から燃料性状情報が変化したか否かを判別するためのフラグであり、フラグがオン(ON)状態となっている場合、前回に対して、今回は、燃料性状情報に変化があったことを示すものである。
【0071】
そして、ステップS102において、ECU100は、図示しないフラッシュメモリ(以下、単に「メモリ」と記す)に保存されている、前回に記憶された燃料性状情報の値(以下、前回値と記す)を、メモリから読み出して、制御変数として取得する。燃料性状情報には、前回の給油時において、給油された燃料の理論空燃比、燃料の密度、燃料の発熱量が含まれている。
【0072】
なお、ディーゼル機関10は、所定の性状のディーゼル燃料(軽油)を用いて実験等を行うことにより、燃料性状情報に係る制御定数の適合がなされている。ECU100には、所定の性状のディーゼル燃料を用いて求められた燃料性状情報、すなわち理論空燃比、密度、発熱量が、制御定数として予め設定されており、ECU100のROM(図示せず)に記憶されている。
【0073】
そして、ステップS104において、ECU100は、燃料情報検出手段108から、新たに燃料性状情報を取得する。燃料性状情報に係る制御変数には、今回の給油時において、給油された燃料の理論空燃比、密度、及び発熱量が含まれている。以下、今回の給油時において、得られた燃料性状情報を「今回値」と記す。
【0074】
なお、燃料性状情報を取得する手法は、上述の燃料性状センサ等の燃料情報検出手段108から取得する手法に限定されるものではない。例えば、給油する際に、自動車のユーザや燃料スタンドの所員が、図示しない入力装置を操作することで、燃料性状情報をECU100に送信し、ECU100がこれを取得するものとしても良い。また、給油時において、燃料スタンドに設けられた装置から自動的に、燃料性状情報がECU100に送られて、これを取得するものとしても良い。
【0075】
そして、ステップS110において、ECU100は、燃料性状情報が、メモリに保存されていた前回値と、今回の給油時に得られた今回値で、同じであるか否かを判定する。すなわち、今回、給油された燃料が、前回、給油された燃料と略同一の性状のものであるか否かを判定する。詳細には、制御変数のうち、理論空燃比、密度、及び発熱量について、それぞれ前回値と今回値で比較を行う。
【0076】
燃料性状情報が前回値と今回値で同じである(Yes)、すなわち今回、給油された燃料が、前回、給油された燃料と略同一であると判定された場合、ECU100は、燃料判別ルーチンを終了する。
【0077】
一方、燃料性状情報が前回値と今回値で異なる(No)と判定された場合、すなわち、今回、給油された燃料が、前回、給油された燃料と略同一はないと判定された場合、ECU100は、燃料性状情報を、前回値から今回値に更新する(S112)。ECU100は、燃料性状情報の今回値を前回値に上書きしてメモリに保存する。
【0078】
そして、ステップS114において、ECU100は、今回の給油において、前回に給油された燃料とは異なる性状の燃料が給油された、すなわち燃料の理論空燃比、密度、及び発熱量のうち、少なくとも1つの物性値に変化があったものと判定して、燃料変化フラグをオン(ON)状態にした後、燃料判別ルーチンを終了する。
【0079】
次に、排気圧力推定ルーチンについて、図1及び図3を用いて説明する。排気圧力推定ルーチンは、ディーゼル機関10の運転状態に応じた排気圧力を推定するものであり、ディーゼル機関10の作動時において繰り返し実行されるものである。
【0080】
まず、ステップS120において、ECU100は、燃料変化フラグがオン状態であるか否かを判定する。すなわち、給油された燃料の性状に変化があって、排気圧力の推定に用いる燃料性状情報を新たに更新する必要があるか否かを判定する。
【0081】
燃料変化フラグがオン状態である(Yes)と判定された場合、ECU100は、メモリに保存されている燃料性状情報、すなわち理論空燃比、密度、及び発熱量を取得する(S122)。排気圧力推定ルーチンで用いる燃料性状情報を、取得された燃料性状情報に更新する。つまり、取得された燃料性状情報を、今回の排気圧力推定ルーチンで用いることとなる。
【0082】
一方、燃料変化フラグがオン状態ではない(No)と判定された場合、ECU100は、排気圧力推定ルーチンで用いる燃料性状情報を更新しない。前回から用いられている燃料性状情報を、そのまま今回の排気圧力推定ルーチンで用いることとなる。
【0083】
そして、ステップS124において、ECU100は、ディーゼル機関10の運転状態に係る制御変数を取得する。この制御変数には、燃料温度[K]、燃料噴射量[mm3/st]、機関回転速度[rpm]、Vn開度[%]、平均空気量[g/sec]、過給圧[Pa]、大気圧[Pa]などがある。
【0084】
なお、「Vn開度」とは、可変ノズル式過給機において可動翼間に形成される流路の開度を示す指数であり、流路が全開の状態で0%、全閉の状態で100%の値をとなる。
【0085】
そして、ステップS126において、ECU100は、密度と燃料温度に基づいて、燃料の比重を算出する。詳細には、燃料温度と所定の燃料温度補正係数マップから、燃料温度補正係数を算出し、燃料温度補正係数と密度から、下記の式(1)により、燃料の比重を算出する。
(比重)=(密度)×(燃料温度補正係数) ・・・(1)
なお、燃料温度補正係数と密度との関係を示す燃料温度補正係数マップは、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECUのROM(図示せず)に記憶されている。このように、燃料の比重には、取得された燃料性状情報としての密度が反映されている。
【0086】
そして、ステップS128において、ECU100は、燃料噴射量の単位換算を行う。ECU100は、1気筒1回噴射あたりの体積噴射量である燃料噴射量[mm3/st]、機関回転速度、及び算出された比重に基づいて、下記の式(2)により、1気筒1秒あたりの質量噴射量である燃料噴射量[g/sec]を算出する。
(燃料噴射量[g/sec])=(燃料噴射量[mm3/st])×(機関回転速度)×2/60×(密度)/1000 ・・・(2)
【0087】
そして、ステップS130において、ECU100は、Vn開度に基づいて、下記の式(3)により、ターボ絞り面積を算出する。
(ターボ絞り面積)=(1−Vn開度/100) ・・・(3)
つまり、Vn開度が全閉(100%)である場合、ターボ絞り面積は、ゼロとなり、全開(0%)である場合には、ターボ絞り面積は、「1」となる。
【0088】
そして、ステップS132において、ECU100は、平均空気量[g/sec]、燃料噴射量[g/sec]、ステップS122で取得された発熱量、所定の軽油発熱量、過給圧、ターボ絞り面積に基づいて、下記の式(4)により、排気圧力マップ引数を算出する。
(排気圧力マップ引数)=(吸入空気量)+((燃料噴射量)×(取得された発熱量)/所定の軽油の発熱量))×過給圧×ターボ絞り面積 ・・・(4)
【0089】
ここで、排気圧力マップ引数は、後述する所定のマップを用いて、標準排気圧力を算出するための指数である。また、所定の軽油の発熱量は、42.96[MJ/kg]に設定されている。なお、本実施例において、燃料の「発熱量」とは、蒸気潜熱を含まない「低位発熱量」を意味している。また、吸入空気量は、エアフロメータ88が検出した時間あたりの空気量を示している。このように、排気圧力マップ引数には、取得された燃料性状情報としての理論空燃比が反映されている。
【0090】
そして、ステップS134において、ECU100は、排気圧力マップ引数から標準条件における排気圧力(以下、標準排気圧力と記す)を算出する。詳細には、排気圧力マップ引数と、当該排気圧力マップ引数と標準排気圧力との関係を示す、所定の標準排気圧力マップから、標準排気圧力を算出する。なお、標準排気圧力マップは、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。
【0091】
なお、「標準条件」とは、ディーゼル機関10の各種制御定数の適合実験が行われる標準的な環境条件を意味しており、ディーゼル機関10は、所定の大気圧において適合が行われている。すなわち「標準排気圧力」は、所定の大気圧に対する差圧(ゲージ圧)として求められている。
【0092】
そして、ステップS136において、ECU100は、標準排気圧力と大気圧に基づいて、排気圧力を算出する。詳細には、大気圧と、当該大気圧と環境圧との関係を示す所定の環境圧マップから、環境圧を算出する。これと共に、環境圧と標準排気圧力から、下記の式(5)により、排気通路(通路50a)における絶対圧である排気圧力を算出する。
(排気圧力)=(標準排気圧力)+(環境圧) ・・・(5)
なお、環境圧と大気圧との関係を示す環境圧マップは、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。ステップS136において通路50a(排気通路)における排気圧力を推定した後、再びステップS120に戻る。
【0093】
以上のようにして、ECU100は、ステップS122で取得された燃料性状情報(理論空燃比、密度、及び発熱量)に基づいて、図1に示す通路50a(排気通路)における排気圧力を推定することができる。燃料の比重の算出(S126)において、燃料性状情報としての密度が反映されているため、所定の軽油とは燃料性状の異なる燃料が給油された場合であっても、燃料の比重を正確に算出することができる。加えて、排気圧力を示す排気圧力マップ引数の算出(S132)において、燃料性状情報としての理論空燃比が反映されているため、所定の軽油とは燃料性状の異なる燃料が給油された場合であっても、通路50a(排気通路)における排気圧力を精度良く推定することができる。
【0094】
次に、排気温度推定ルーチンについて、図1及び図4を用いて説明する。排気温度推定ルーチンは、ディーゼル機関10の運転状態に応じた排気温度を推定するものであり、ディーゼル機関10の作動時において繰り返し実行されるものである。
【0095】
まず、ステップS150において、ECU100は、燃料変化フラグがオン状態であるか否かを判定する。すなわち、給油された燃料の性状に変化があって、排気圧力の推定に用いる燃料性状情報を新たに更新する必要があるか否かを判定する。
【0096】
燃料変化フラグがオン状態である(Yes)と判定された場合、ステップS152において、ECU100は、メモリに保存されている燃料性状情報としての理論空燃比と、温度補正済み密度[g/cm3]を取得する。なお、「温度補正済み密度」は、燃料性状情報としての密度を、燃料温度により補正したものである。さらに、排気圧力推定ルーチンのステップS128で算出された、1秒あたりの質量噴射量である燃料噴射量[g/sec]を取得している。
【0097】
一方、燃料変化フラグがオン状態ではない(No)と判定された場合、ECU100は、排気温度推定ルーチンで用いる燃料性状情報を更新しない。前回から用いられている燃料性状情報を、そのまま今回の排気温度推定ルーチンで用いることとなる。
【0098】
そして、ステップS154において、ECU100は、ディーゼル機関10の運転状態に係る制御変数を取得する。この制御変数には、燃料温度[K]、燃料噴射量[mm3/st]、平均空気量[g/sec]、水温[℃]、新気の吸気温[℃]、過給圧[Pa]、及び燃料噴射量[mm3/st]などがある。
【0099】
そして、ステップS156において、ECU100は、平均空気量[g/sec]を単位換算して、1回転あたりの吸入空気量[g/rev]にすると共に、下記の式(6)により、1気筒あたりの流入新気量[g/st]を算出する。
(流入新気量[g/st])=(1回転あたりの吸入空気量[g/rev])/2
・・・(6)
【0100】
そして、ステップS158において、ECU100は、燃料の理論空燃比、燃料噴射量、燃料の密度、及び流入新気量に基づいて、下記の式(7)により、当量比を算出する。
(当量比)=(理論空燃比)×(燃料噴射量)×(温度補正済み密度)/1000/(流入新気量) ・・・(7)
【0101】
なお、当量比とは、気筒内において吸入空気に対して供給された燃料の濃さを示す指数であり、実際の燃料量と、理論空燃比で燃焼させる場合の燃料量との比率である。上記の式(7)で算出された当量比には、取得された燃料性状情報としての密度が反映されている。
【0102】
そして、ステップS160において、ECU100は、当量比、燃料噴射量、過給圧、および上述の排気圧力推定ルーチンで算出された排気圧力に基づいて、下記の式(8)により、排気温度マップ引数を算出する。
(排気温度マップ引数)=(燃料噴射量)×(当量比)×(過給圧)/(推定された排気圧力) ・・・(8)
【0103】
ここで、排気温度マップ引数は、後述する所定のマップを用いて、標準排気温度を算出するための指数である。排気温度マップ引数の算出には、当量比と推定された排気圧力が含まれており、取得された燃料性状情報(理論空燃比、密度、発熱量)が反映されている。
【0104】
そして、ステップS162において、ECU100は、排気温度マップ引数から標準条件における排気温度(以下、標準排気温度と記す)を算出する。詳細には、排気温度マップ引数と、当該排気温度マップ引数と標準排気温度との関係を示す、所定の標準排気温度マップから、標準排気温度を算出する。なお、標準排気温度マップは、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。
【0105】
なお、「標準条件」とは、ディーゼル機関10の各種制御定数の適合実験が行われる標準的な環境条件を意味しており、ディーゼル機関10は、所定の外気温度において適合が行われている。
【0106】
そして、ステップS164において、ECU100は、標準排気温度、水温、及び新気の吸気温に基づいて、排気温度を算出する。詳細には、水温と、当該水温と排気温度の水温補正係数との関係を示す所定の水温補正マップから、排気温度の水温補正係数を算出する。これと共に、新気の吸気温と、当該新気の吸気温と排気温度の吸気温補正係数との関係を示す所定の吸気温補正マップから、排気温度の吸気温補正係数を算出する。そして、水温補正係数、吸気温補正係数、及び標準排気温度に基づいて、下記の式(9)により、通路50a(排気通路)における排気温度を算出する。
(排気温度)=(標準排気温度)×(水温補正係数)×(吸気温補正係数)・・(9)
なお、気温と排気温度の吸気温補正係数との関係を示す吸気温補正マップと、吸気温と排気温度の吸気温補正係数との関係を示す吸気温補正マップは、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU100のROMに記憶されている。ステップS164において排気通路(通路50a)における排気温度を推定した後、再びステップS150に戻る。
【0107】
以上のようにして、ECU100は、ステップS152で取得された燃料性状情報(理論空燃比、密度)と、排気圧力推定ルーチン(S120〜S136)において燃料性状情報(理論空燃比、密度、及び発熱量)に基づいて推定された排気圧力に基づいて、排気通路(通路50a、図1参照)における排気温度を推定することができる。当量比の算出(S158)において、燃料性状情報としての理論空燃比と密度が反映されているため、所定の軽油とは燃料性状の異なる燃料が給油された場合であっても、当量比を正確に算出することができる。加えて、排気温度を示す排気温度マップ引数の算出(S160)において、燃料性状情報(理論空燃比、密度、及び発熱量)が反映されて推定された排気圧力を用いているため、所定の軽油とは燃料性状の異なる燃料が給油された場合であっても、排気通路における排気温度を精度良く推定することができる。
【0108】
以上の排気圧力推定ルーチン及び排気温度推定ルーチンを実行することで、所定の軽油とは燃料性状の異なる燃料が給油された場合であっても、ECU100は、給油された燃料の燃料性状情報を反映させて、排気通路における正確な排気圧力及び排気温度を推定することができる。
【0109】
これら推定された排気圧力及び排気温度に基づいて、ECU100は、新気とEGRガスが合流した後の気筒内に吸入されるガス温度である「吸気温度」を推定し、「流入ガス流量」を推定する。そして、上述の式(e)により、推定された「流入ガス流量」と、エアフロメータにより検出された吸入空気量から算出された「流入新気流量」から、精度良くEGR率を算出することができる。
【0110】
以上に説明したように、本実施例では、給油された燃料の性状に係る情報である燃料性状情報として、理論空燃比、密度、発熱量のうち少なくとも1つを取得する機能(燃料情報取得手段)と、取得された燃料性状情報に基づいて、排気通路における排気圧力及び排気温度を推定する機能(排気状態推定手段)と、推定された排気温度及び排気圧力に基づいてEGR率を算出する機能(EGR率算出手段)とを有するものとしたので、所定の軽油とは燃料性状の異なる燃料が給油された場合であっても、取得した燃料性状情報(理論空燃比、密度、発熱量)を反映させて、より正確に排気温度及び排気圧力を推定することができる。推定された排気温度と排気圧力に基づいて、精度良くEGR率を算出することができる。
【0111】
また、本実施例において、燃料情報取得手段は、発熱量を取得するものであり、排気状態推定手段は、取得された発熱量に基づいて排気圧力を推定するものとしたので、所定の軽油とは発熱量が異なる燃料が給油された場合であっても、正確に排気圧力を推定することができ、精度良くEGR率を算出することができる。
【0112】
また、本実施例において、燃料状態取得手段は、密度を取得するものであり、排気状態推定手段は、取得された密度に基づいて排気圧力を推定するものとしてので、所定の軽油とは密度が異なる燃料が給油された場合であっても、正確に排気圧力を推定することができ、精度良くEGR率を算出することができる。
【0113】
また、本実施例において、排気状態推定手段は、推定された排気圧力に基づいて排気温度を推定するものとしたので、正確に排気圧力と排気温度を推定することができ、精度良くEGR率を算出することができる。
【0114】
燃料情報取得手段は、理論空燃比を取得するものであり、排気状態推定手段は、取得された理論空燃比に基づいて排気温度を推定するものとしたので、所定の軽油とは理論空燃比が異なる燃料が給油された場合であっても、正確に排気温度を推定することができ、精度良くEGR率を算出することができる。
【0115】
燃料情報取得手段は、密度を取得するものであり、排気状態推定手段は、取得された密度に基づいて排気温度を推定するものとしたので、所定の軽油とは密度の異なる軽油が給油された場合であっても、正確に排気温度を推定することができ、精度良くEGR率を算出することができる。
【0116】
燃料情報取得手段は、ディーゼル機関の始動ごとに、燃料性状情報を取得するものであり、燃料性状情報が前回の値と異なる場合には、燃料性状情報を更新する機能(燃料情報更新手段)を有し、排気状態推定手段は、更新された燃料性状情報に基づいて排気温度及び排気圧力を推定するものとした。前回、給油された燃料とは燃料性状が異なる燃料が今回、給油された場合、給油後、ディーゼル機関を始動した直後から、更新された燃料性状情報(今回の値)に基づいて排気温度及び排気圧力を推定することができる。給油された燃料とは異なる燃料の燃料性状情報に基づいて、排気圧力及び排気温度の推定が行われることを防止することができる。
【0117】
なお、上述した実施例において、ECU100は、給油された燃料の燃料性状情報として理論空燃比、密度、発熱量を取得し、これら取得された燃料性状情報(制御変数)に基づいて、排気圧力及び排気温度を推定するものとしたが、取得する燃料性状情報は、理論空燃比、密度、発熱量の3つに限定されるものではない。例えば、燃料性状情報(制御変数)として理論空燃比及び発熱量を取得し、密度については、所定の軽油に合わせて予め設定されている値(制御定数)を用いて、排気温度及び排気圧力を推定するものとしても良い。また、燃料性状情報として、理論空燃比、密度、発熱量以外の制御変数、例えば、燃料の蒸発性状や、動粘度、セタン価に係る情報を取得し、これら取得された制御変数に基づいて、排気通路における排気圧力及び排気温度を推定するものとしても良い。
【0118】
なお、上述した実施例において、ディーゼル機関は、可変ノズル式のターボ過給機やインタークーラを備えるものとしたが、本発明を適用可能なディーゼル機関の構成は、この態様に限定されるものではない。吸気通路からガスを取り入れて吸気通路に流すEGR装置を備える内燃機関であれば本発明を適用することができ、例えば、過給機を備えていないディーゼル機関にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上のように、本発明に係るディーゼル機関の制御装置は、排気通路からガスを取り入れて吸気通路に流すEGR装置が設けられたディーゼル機関に有用であり、特に、EGR弁の開度を制御することにより、排気通路から吸気通路に流れるEGRガスの流量を調整可能なEGR装置を備えたディーゼル機関に適している。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】実施例に係るディーゼル機関を含む車両システムの概略構成を示す模式図である。
【図2】実施例に係るディーゼル機関の制御装置(ECU)が実行する燃料変化判別ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】実施例に係るディーゼル機関の制御装置(ECU)が実行する排気圧力推定ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】実施例に係るディーゼル機関の制御装置(ECU)が実行する排気温度推定ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0121】
1 車両システム
10 ディーゼル機関
12 シリンダブロック
20 シリンダヘッド
24 吸気ポート(吸気通路)
26 排気ポート(排気通路)
30 燃料噴射装置(燃料噴射弁)
40a 通路(吸気通路)
42 エアクリーナ
45 インタークーラ
46 スロットル弁
48 吸気マニホールド
50a 通路(排気通路)
52 排気マニホールド
60 ターボ過給機
62 コンプレッサ
64 タービン
70 EGR装置
74 EGRクーラ
77 EGR弁
80 クランク角センサ
82 水温センサ
88 エアフロメータ
90 吸気温センサ
92 過給圧(吸気圧)センサ
100 ディーゼル機関用の電子制御装置(ECU)
102 アクセルペダルポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路からガスを取り入れて吸気通路に流すEGR装置を備えたディーゼル機関の制御装置であって、
給油された燃料の性状に係る情報である燃料性状情報として、理論空燃比、密度、発熱量のうち少なくとも1つを取得する燃料情報取得手段と、
取得された燃料性状情報に基づいて、排気通路における排気圧力及び排気温度を推定する排気状態推定手段と、
推定された排気温度及び排気圧力に基づいてEGR率を算出するEGR率算出手段と、
を有することを特徴とするディーゼル機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のディーゼル機関の制御装置において、
燃料情報取得手段は、発熱量を取得するものであり、
排気状態推定手段は、取得された発熱量に基づいて排気圧力を推定する、
ことを特徴とするディーゼル機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のディーゼル機関の制御装置において、
燃料状態取得手段は、密度を取得するものであり、
排気状態推定手段は、取得された密度に基づいて排気圧力を推定する、
ことを特徴とするディーゼル機関の制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のディーゼル機関の制御装置において、
排気状態推定手段は、推定された排気圧力に基づいて排気温度を推定することを特徴とするディーゼル機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のディーゼル機関の制御装置において、
燃料情報取得手段は、理論空燃比を取得するものであり、
排気状態推定手段は、取得された理論空燃比に基づいて排気温度を推定する、
ことを特徴とするディーゼル機関の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のディーゼル機関の制御装置において、
燃料情報取得手段は、密度を取得するものであり、
排気状態推定手段は、取得された密度に基づいて排気温度を推定する、
ことを特徴とするディーゼル機関の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のディーゼル機関の制御装置において、
燃料情報取得手段は、
ディーゼル機関の始動ごとに、燃料性状情報を取得するものであり、
燃料性状情報が前回の値と異なる場合には、燃料性状情報を更新する燃料情報更新手段を有し、
排気状態推定手段は、更新された燃料性状情報に基づいて、排気温度及び排気圧力を推定する、
ことを特徴とするディーゼル機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−13849(P2009−13849A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175600(P2007−175600)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】