説明

ドアインナーシールの固定方法並びに固定装置

【課題】ドアインナーシールの固定方法並びに固定装置に係り、ドアインナーシールの確実な固定を図り、かつ表皮仕様のバリエーションを高める。
【解決手段】ドアトリム本体におけるウエストフランジ23の裏面には、係止爪33の折曲片33bの重合部位において、取付孔24から離れるにしたがって深さが深くなる傾斜状肉抜き25を形成し、固定装置における加工ローラー64により係止爪33を折曲加工する際、ウエストフランジ23の取付面に対して所定角度傾斜するように加工ローラー64をスライド操作して、係止爪33を傾斜状肉抜き25面に押し付けるように係止爪33の折曲片33bを鋭角状に折曲加工することで、取付完了後において係止爪33のバックリング現象が生じても、係止爪33は少なくとも90°の折曲角度をもつため、適正な係止爪33の折曲姿勢が確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドアトリムのウエストフランジにドアインナーシールを固定するドアインナーシールの固定方法並びに固定装置に係り、特に、長期使用によってもドアインナーシールがグラつくことがなく、ドアインナーシールの長期に亘る確実な取り付けを可能にするとともに、ドアトリムにおける表皮仕様のバリエーションを高めたドアインナーシールの固定方法並びに固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に示すように、車両のドアパネルの室内面側に取り付けられるドアトリム1は、ドアトリム本体2に各種機能部品を装着して構成されている。ドアトリム本体2は、保形性並びに図示しないドアパネルに対する取付剛性を備えた芯材2aの表面に表面風合い、表面感触を良好に維持する表皮2bを貼付して構成されており、特に、ドアトリム本体2におけるウエストフランジ2cには、ドアウインドウガラスGと摺接シールするドアインナーシール3が取り付けられている。このドアインナーシール3は、プレート状のシール本体3aにドアウインドウガラスGと摺接シールするシールリップ3bが一体化されており、シール本体3aの内部には、金属芯金3cがインサートされている。そして、この金属芯金3cの所定部位を適宜ピッチ間隔で切り起こした係止爪3dをドアトリム本体2におけるウエストフランジ2cの取付孔2d内に挿入した後、係止爪3dを折曲加工することで、ドアインナーシール3をドアトリム本体2のウエストフランジ2cに強固に取り付けるようにしている。
【0003】
そして、従来では、図12に示す構成の固定装置4が使用されている。ドアインナーシール3の固定装置4は、ドアトリム本体2にドアインナーシール3を仮セット状態で押圧する押さえ機構5と、係止爪3dを折曲加工するローラー駆動機構6とから構成されている。このローラー駆動機構6は、図13に示すように、係止爪3dを折曲加工する加工ローラー6aの駆動軸6bが可動板6cに取り付けられており、可動板6cは、シリンダ6dにより図中矢印方向に所定ストローク進退動作を行なう。この時、可動板6cに一体化したスライダ6eがガイドレール6fに沿ってスライド動作することで、所定の軌跡に沿って可動板6cが往復動作を行なう。
【0004】
従って、ドアトリム本体2のウエストフランジ2cにドアインナーシール3を重ね合わせ、係止爪3dをウエストフランジ2cの取付孔2d内に挿入した状態で位置決めする。そして、押さえ機構5により、ドアインナーシール3を仮セットした状態でロックした後、ローラー駆動機構6を駆動させれば、係止爪3dは加工ローラー6aが図14中点線矢印方向にスライド動作するため、係止爪3dは点線で示すようにほぼ90°折曲加工がなされる。従来のドアインナーシール3の固定方法並びに固定装置については、特許文献1に詳細に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−283383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ドアトリム本体2のウエストフランジ2cにドアインナーシール3を係止爪3dを折曲加工することで固定する従来方法においては、固定装置4における加工ローラー6aのスライド動作により、ドアインナーシール3の係止爪3dはほぼ90°の角度でドアトリム本体2におけるウエストフランジ2cの裏面に折り曲げ加工されるが、図15に示すように、長期使用により係止爪3dの折曲片3eは、バックリングと称される戻り現象により、点線で示す位置まで戻ってしまい、ドアインナーシール3の取付強度が低下して、ドアウインドウガラスGの昇降操作時にガタついたり、ドアウインドウガラスGとの摺接抵抗にバラツキが生じ、円滑な昇降操作が期待できないという問題点が指摘されている。また、この係止爪3dのバックリング現象は、特にドアトリム1に厚手仕様の表皮2bを用いた場合に顕著であるため、ドアトリム本体2の表皮2bは薄手仕様に制限され、表皮2bの材料の選定自由度に大きな制約を受けるという問題点も同時に指摘されている。
【0007】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ドアトリム本体のウエストフランジに装着されるドアインナーシールの固定方法並びに固定装置において、ドアインナーシールの係止爪にバックリング現象が生じても、ドアインナーシールの取付強度が低下することがなく、長期に亘り強固な取付強度が期待できるとともに、ドアトリム本体における表皮の材質として厚手仕様の表皮が使用できる等、ドアトリム本体における表皮仕様のバリエーションを高めたドアインナーシールの固定方法並びに固定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、ドアトリム本体のウエストフランジにドアインナーシールを重ね合わせ、ドアインナーシールの係止爪をウエストフランジの取付孔内に挿入し、固定装置におけるローラー駆動機構の加工ローラーをスライド動作させて係止爪を折曲加工し、ドアインナーシールを固定するドアインナーシールの固定方法において、ドアトリム本体におけるウエストフランジの裏面には、ドアインナーシールにおける係止爪の折曲片と重合する部位において、取付孔から離れるにしたがって深さが深くなる傾斜状肉抜きが形成されており、ドアインナーシールの係止爪をウエストフランジの取付孔内に挿入し、上記傾斜状肉抜き面に対して係止爪の折曲片を圧接するように、折曲ポイントを基に加工ローラーにより係止爪の折曲加工を施すことで、折曲ポイントを基に係止爪の折曲片が鋭角状に折曲加工され、ドアインナーシールの組み付け終了後、係止爪にバックリング現象が生じた際、係止爪の折曲片は折曲角度が90°以下の折曲姿勢を保つようにしたことを特徴とする。
【0009】
更に、本発明方法に使用する固定装置は、ドアトリム本体のウエストフランジにドアインナーシールを重ね合わせ、ドアインナーシールの係止爪をウエストフランジの取付孔内に挿入した後、折曲ポイントを基に折曲片を折曲加工することで、ドアインナーシールをドアトリム本体のウエストフランジに固定するドアインナーシールの固定装置において、前記固定装置は、ドアトリム本体におけるウエストフランジの所定位置にドアインナーシールを位置決めロックする押さえ機構と、ウエストフランジの取付孔内に挿入されたドアインナーシールの係止爪を折曲加工するローラー駆動機構とを備えており、上記ローラー駆動機構は、加工ローラーを支持する可動ブロックが傾斜状に設定されたガイドレールとスライダを介してウエストフランジの取付面に対して所定角度傾斜した方向にスライド操作されることにより、係止爪の折曲片がウエストフランジの傾斜状肉抜き面に圧接するように加工ローラーが傾斜状にスライド動作されるようにしたことを特徴とする。
【0010】
ここで、ドアトリム本体は、上下二分割体型、あるいは一体型のいずれでも良く、また、樹脂芯材の表面に表皮を積層した積層構成でも、樹脂成形品の単体構成でも良い。
【0011】
そして、ドアウインドウガラスに対するシール機能を付与するために、ドアトリム本体のウエストフランジには、ドアウインドウガラスをシールリップによりシールするドアインナーシールが爪固定方式により取り付けられている。特に本発明においては、係止爪に対して折曲ポイントを基に折曲片を折曲加工する際、バックリング現象を見越した形状に係止爪を折曲加工するために、ドアトリム本体におけるウエストフランジには、係止爪の折曲片が重合する部位において、取付孔から離れるにしたがって深さを深く設定した傾斜状肉抜きが設けられている。従って、係止爪を取付孔に挿入した後、この傾斜状肉抜き面に係止爪の折曲片を押し付けることで、係止爪の折曲片の折曲角度が90°未満の鋭角状に加工できるため、係止爪のバックリング現象が生じても、係止爪の折曲姿勢は有効に確保されている。
【0012】
更に、係止爪の固定装置は、ロケートされたドアトリム本体に対してドアインナーシールを押圧保持する押さえ機構と、ドアトリム本体の取付孔に挿入された係止爪を加工ローラーのスライド動作により折曲加工するローラー駆動機構とを備えている。すなわち、固定装置の具体的な構成としては、押さえ機構とローラー駆動機構を備えた加工ユニットのユニットケーシングが支持部材により支持されており、ユニットケーシングの上面に所定間隔を配して押さえ機構が配置されている。この押さえ機構は、ドアインナーシールをドアトリム本体に対して押圧する押圧盤と、この押圧盤を進退動作させるエアシリンダ、油圧シリンダ等の進退用シリンダとから構成されている。
【0013】
一方、ローラー駆動機構において、加工ローラーの駆動軸を支持する可動ブロックは、シリンダ駆動されるが、加工ローラーが係止爪の折曲片を傾斜状に折曲加工する必要があることから、可動ブロックは、傾斜状に設定されたガイドレールに対して可動ブロックと一体化したスライダがスライド動作することで、可動ブロック並びに加工ローラーは傾斜状にスライド動作される。また、可動ブロックとシリンダとの連結部分においては、リンクを介してシリンダの直進動作と可動ブロックの傾斜状のスライド動作とが干渉することがない構成が採用されている。また、ガイドレールは、傾斜ブロックにより所定角度傾斜するようになっている。
【0014】
このように、本発明に係るドアインナーシールの固定方法並びに固定装置によれば、ドアトリム本体におけるウエストフランジの取付孔内にドアインナーシールの係止爪を挿入した状態で両者を仮止めし、押さえ機構により両者をロックした状態でローラー駆動機構を駆動させれば、ドアトリム本体におけるウエストフランジの裏面に凹設した傾斜状肉抜き面に対して係止爪の折曲片が加工ローラーにより押圧加工されるため、係止爪は折曲ポイントを基に90°未満の折曲角度で折曲加工がなされることから、折曲加工後にバックリング現象が生じても、90°以下の折曲姿勢を保つことができ、係止爪の係着強度がそれ程低下することがない。
【0015】
従って、長期使用によっても、ドアインナーシールの強固な取付強度が維持できるため、ドアインナーシールのガタツキが生じることがないとともに、円滑なドアウインドウガラスの昇降操作が期待できる。更に、ドアインナーシールの係止爪にバックリング現象が生じても、90°以下の折曲姿勢を保っており、バックリング現象を見越した設定であるため、ドアトリム本体における表皮に厚手仕様のものを使用することもでき、ドアトリム本体における表皮仕様のバリエーションを高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明した通り、本発明に係るドアインナーシールの固定方法並びに固定装置によれば、ドアトリム本体のウエストフランジにドアインナーシールを重合し、ドアインナーシールの係止爪をウエストフランジの取付孔内に挿入した後、係止爪を折曲加工する際、ウエストフランジ裏面における係止爪の折曲片との重合部分には、取付孔から離れるにしたがって深さが深くなる傾斜状肉抜きが形成されており、固定装置におけるローラー駆動機構の加工ローラーを傾斜状にスライド動作させて、ウエストフランジ裏面の傾斜状肉抜き面に折曲片を押し付けるように係止爪の折曲加工を施せば、係止爪はバックリング現象を見越した90°未満の鋭角状に折曲されるため、仮にバックリング現象が生じても、係止爪の折曲角度はほぼ90°以下の折曲姿勢を保つことができ、係着強度が低下することがなく、長期に亘りドアインナーシールを強固に固定することができ、ドアウインドウガラスの昇降操作時にガタツキ音が発生したり、操作力にバラツキが生じることがなく、円滑な昇降操作性が期待できるという効果を有する。
【0017】
更に、係止爪のバックリング現象を見越した形状設定をしたため、ドアトリム本体の材料仕様として厚手仕様の表皮を使用することも可能となり、ドアトリム本体における表皮仕様のバリエーションを高めることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るドアインナーシールの固定方法によりドアインナーシールを取り付けたドアトリムを示す正面図である。
【図2】図1中II−II線断面図である。
【図3】図1に示すドアトリムにおけるドアインナーシールをドアトリム本体のウエストフランジに取り付ける状態を示す説明図である。
【図4】本発明に係るドアインナーシールの固定方法によりドアインナーシールをドアトリム本体に取り付けた構造を示す断面図である。
【図5】本発明に係るドアインナーシールの固定装置の全体構成を示す概要図である。
【図6】図5に示す固定装置におけるローラー駆動機構の概略構成を示す説明図である。
【図7】図6に示すローラー駆動機構の動作状態を示す説明図である。
【図8】本発明に係るドアインナーシールの固定方法の変形例を示すもので、ドアインナーシールをドアトリム本体のウエストフランジに取り付けた構造を示す断面図である。
【図9】本発明に係るドアインナーシールの固定方法の変形例を示す説明図である。
【図10】本発明に係るドアインナーシールの固定方法の変形例の作用を示す説明図である。
【図11】ドアインナーシールを取り付けたドアトリムの従来例を示す断面図である。
【図12】従来のドアインナーシールの固定装置の全体構成を示す説明図である。
【図13】従来のドアインナーシールの固定装置におけるローラー駆動機構の構成を示す説明図である。
【図14】従来のドアインナーシールの固定方法の概要を示す説明図である。
【図15】従来のドアインナーシールの固定方法の不具合点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るドアインナーシールの固定方法並びに固定装置の好適な実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0020】
図1乃至図10は本発明の一実施例を示すもので、図1,図2は本発明に係るドアインナーシールの固定方法によりドアインナーシールを取り付けたドアトリムを示す正面図並びに断面図、図3は同ドアトリムにおけるドアインナーシールの取付形態を示す説明図、図4は同ドアトリムにおけるドアインナーシールの固定構造を示す説明図、図5,図6は本発明に係るドアインナーシールの固定装置を示す全体図並びに要部説明図、図7は同ドアインナーシールの固定装置の動作状態を示す説明図である。また、図8乃至図10は本発明の変形例を示すもので、図8はドアインナーシールの固定構造を示す説明図、図9は同ドアインナーシールの固定方法を示す説明図、図10は同ドアインナーシールの固定方法の作用を示す説明図である。
【0021】
図1,図2において、ドアインナーパネル(図示せず)の室内面側に取り付けられるドアトリム10は、ドアトリム本体20に各種機能部品を取り付けて構成されている。ここで、本発明は、ドアインナーシール30の固定方法並びに固定装置に特徴があるため、ドアトリム本体20に取り付ける機能部品として、ドアインナーシール30以外のものについての説明は省略する。
【0022】
まず、ドアトリム本体20は、保形性及びドアインナーパネルに対する取付剛性を備えた樹脂芯材21の表面に良好な手触り感を付与し、外観性能に優れた表皮22を積層して構成されている。樹脂芯材21としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等の汎用の熱可塑性樹脂を使用し、射出成形工法、モールドプレス成形工法等により所要形状に成形されている。また、シート状の樹脂板や補強繊維、フィラー等を混入した熱可塑性複合樹脂板を加熱軟化処理した後、コールドプレス成形することで、所要形状に成形することもできる。更に、表皮22は、樹脂芯材21を射出成形、モールドプレス成形、コールドプレス成形する際、一体に成形することも可能であるとともに、真空成形等を使用して、予め所要形状に成形した樹脂芯材21の表面側に後工程で一体化しても良い。
【0023】
そして、このドアトリム10においては、ドアインナーシール30を取り付けるためにドアトリム本体20の上端縁が下方向に折曲され、ウエストフランジ23が形成されている。このウエストフランジ23は、ドアウインドウガラスGとほぼ平行となるように形状が設定され、このウエストフランジ23にドアインナーシール30が取り付けられる。図3に示すように、ドアインナーシール30には、軟質塩ビ、サーモプラスチックオレフィン等の熱可塑性エラストマー樹脂等を材料としたプレート状のシール本体31の内部に金属芯金32がインサートされており、この金属芯金32には、係止爪33が所定ピッチ間隔で切り起こし形成されている。尚、係止爪33と対応して、ドアトリム本体20のウエストフランジ23には、取付孔24が開設されている。
【0024】
更に、シール本体31のドアウインドウガラスG対向側には、シールリップ34が条設されている。従って、図示するように、係止爪33をドアトリム本体20におけるウエストフランジ23の取付孔24内に挿入し、その後、係止爪33を折曲加工により折り曲げて爪固定を行なえば、ドアインナーシール30をドアトリム本体20のウエストフランジ23に確実かつ堅固に取り付けることができる。
【0025】
ところで、本発明においては、ドアインナーシール30を係止爪33の折曲加工により取り付ける際、係止爪33のバックリング現象を見越した固定方法を採用することで、長期に亘りドアインナーシール30を強固に取り付けることができるように工夫されている。すなわち、図4に示すように、ドアトリム本体20のウエストフランジ23に係止爪33を挿入する取付孔24が開設されているとともに、取付孔24を挿入する係止爪33は、折曲ポイント33aを基に折曲片33bが図中時計回り方向に折曲加工されているが、特に、ウエストフランジ23裏面における取付孔24の近傍部分には、係止爪33の折曲片33bとの重合箇所において、取付孔24から離れるにしたがって深さを深く設定した傾斜状肉抜き25が設けられている。そして、係止爪33の折曲加工当初は、この傾斜状肉抜き25面に係止爪33の折曲片33bを当接させるように係止爪33は折曲ポイント33aを基に鋭角に折曲加工される。従って、係止爪33にバックリング現象が生じても、図4で示すように、係止爪33はほぼ90°の折曲姿勢を維持することができるため、折曲ポイント33aにおいて係止爪33はウエストフランジ23と強固に係着しており、ドアインナーシール30の取付強度を強固に維持することができる。
【0026】
次に、図5,図6に基づいて、ドアインナーシール30の固定方法に使用する固定装置40の構成について説明する。図5に示すように、固定装置40は、支持台41に対して加工ユニット42が支持部材43を介して取り付けられており、この加工ユニット42には、ドアトリム本体20のウエストフランジ23に対してドアインナーシール30を押さえ付けるための押さえ機構50と、係止爪33を加工ローラーにより折曲加工するローラー駆動機構60とが装備されている。押さえ機構50は、円盤状の押圧盤51が進退用シリンダ52のピストンロッド52aに取り付けられており、進退用シリンダ52が図5中矢印方向に前進動作することで、押圧盤51が同様に前進動作して、ドアトリム本体20におけるウエストフランジ23に対してドアインナーシール30を押圧保持する。
【0027】
また、ローラー駆動機構60は、図6に示すように、シリンダ61がリンク61aにより揺動可能に取り付けられており、このシリンダ61のピストンロッド62の先端もまたリンク62aにより可動ブロック63に取り付けられている。そして、加工ローラー64の駆動軸65が可動ブロック63に固定されており、可動ブロック63の動作方向に対して加工ローラー64は同一の方向に沿ってスライド動作を行なう。更に、可動ブロック63に一体化したスライダ66がガイドレール67に沿って案内され、ガイドレール67の傾斜角度に応じて、可動ブロック63及び加工ローラー64が傾斜状にスライド動作を行なうことになる。尚、ガイドレール67に設けた傾斜ブロック67aにより、傾斜角度が決定され、本実施例では、ドアトリム本体20におけるウエストフランジ23の取付孔24近傍に設けた傾斜状肉抜き25の傾斜角度に合致して、加工ローラー64の傾斜角度が調整されている。
【0028】
このように、シリンダ61が進退動作を行なえば、リンク61a,62aにより、ピストンロッド62と可動ブロック63とは干渉することがなく、可動ブロック63はガイドレール67に設定された傾斜角度に応じた傾斜方向に沿うスライド動作を行ない、加工ローラー64についても、図6中矢印方向に調整された軌跡に沿うスライド動作を行なう。従って、ドアインナーシール30の固定装置40にドアトリム本体20及びドアインナーシール30を適切に仮止めセットした後、押さえ機構50により両者を位置決めロックした状態でローラー駆動機構60を駆動すれば、図7に示すように、加工ローラー64が図中矢印で示す傾斜方向に沿って点線位置から実線位置にウエストフランジ23の取付面に対して所定角度傾斜した傾斜方向に沿ってスライド動作を行ない、ドアトリム本体20におけるウエストフランジ23の取付孔24の右側部分に設けられた傾斜状肉抜き25面に沿って係止爪33の折曲片33bが折曲加工される。その後、ドアトリム本体20における表皮22の反発力等により、係止爪33にバックリング現象が生じても、図4に示すように、係止爪33の折曲片33bの折曲角度は90°を超えることがなく、適切な折曲姿勢が確保できるため、長期使用によってもドアインナーシール30の良好な取付強度が確保できる。
【0029】
次いで、図8乃至図10は本発明の変形例を示すもので、基本的なアイディアは上述実施例と同様である。この変形例においては、図8に示すように、ウエストフランジ23における取付孔24の縁部には、凸部26が形成されている。従って、係止爪33の折曲加工時には、図9に示すように、この凸部26を乗り越えるように加工ローラー64による折曲加工が施される。そして、図10に示すように、係止爪33は図中実線で示す鋭角状に折曲加工され、仮に係止爪33にバックリング現象が生じても、図中点線で示す戻りが生じるだけで、係止爪33は図8に示すように、ほぼ90°の折曲角度を維持することができ、この変形例においてもドアインナーシール30の良好な取付強度が期待できる。尚、この変形例における固定装置40については、加工ローラー64を傾斜状に動作させる必要がなく、加工ローラー64はドアトリム本体20におけるウエストフランジ23の取付面とほぼ平行に駆動させれば良いため、既存の固定装置を使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明した通り、本実施例におけるドアインナーシール30の固定方法では、ドアトリム本体20は樹脂芯材21の表面に表皮22を貼付した構成のものを使用したが、表皮レスタイプのドアトリム本体20に適用することもできる。また、ドアインナーシール以外にも、爪固定方式の中接部材における固定方法に本発明方法を流用することもできる。
【符号の説明】
【0031】
10 ドアトリム
20 ドアトリム本体
21 樹脂芯材
22 表皮
23 ウエストフランジ
24 取付孔
25 傾斜状肉抜き
26 凸部
30 ドアインナーシール
31 シール本体
32 金属芯金
33 係止爪
33a 折曲ポイント
33b 折曲片
34 シールリップ
40 固定装置
41 支持台
42 加工ユニット
43 支持部材
50 押さえ機構
51 押圧盤
52 進退用シリンダ
60 ローラー駆動機構
61 シリンダ
62 ピストンロッド
61a,62a リンク
63 可動ブロック
64 加工ローラー
65 駆動軸
66 スライダ
67 ガイドレール
67a 傾斜ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアトリム本体(20)のウエストフランジ(23)にドアインナーシール(30)を重ね合わせ、ドアインナーシール(30)の係止爪(33)をウエストフランジ(23)の取付孔(24)内に挿入し、固定装置(40)におけるローラー駆動機構(60)の加工ローラー(64)をスライド動作させて係止爪(33)を折曲加工し、ドアインナーシール(30)を固定するドアインナーシール(30)の固定方法において、
ドアトリム本体(20)におけるウエストフランジ(23)の裏面には、ドアインナーシール(30)における係止爪(33)の折曲片(33b)と重合する部位において、取付孔(24)から離れるにしたがって深さが深くなる傾斜状肉抜き(25)が形成されており、ドアインナーシール(30)の係止爪(33)をウエストフランジ(23)の取付孔(24)内に挿入し、上記傾斜状肉抜き(25)面に対して係止爪(33)の折曲片(33b)を圧接するように、折曲ポイント(33a)を基に加工ローラー(64)により係止爪(33)の折曲加工を施すことで、折曲ポイント(33a)を基に係止爪(33)の折曲片(33b)が鋭角状に折曲加工され、ドアインナーシール(30)の組み付け終了後、係止爪(33)にバックリング現象が生じた際、係止爪(33)の折曲片(33b)は折曲角度が90°以下の折曲姿勢を保つようにしたことを特徴とするドアインナーシールの固定方法。
【請求項2】
ドアトリム本体(20)のウエストフランジ(23)にドアインナーシール(30)を重ね合わせ、ドアインナーシール(30)の係止爪(33)をウエストフランジ(23)の取付孔(24)内に挿入した後、折曲ポイント(33a)を基に折曲片(33b)を折曲加工することで、ドアインナーシール(30)をドアトリム本体(20)のウエストフランジ(23)に固定するドアインナーシール(30)の固定装置(40)において、
前記固定装置(40)は、ドアトリム本体(20)におけるウエストフランジ(23)の所定位置にドアインナーシール(30)を位置決めロックする押さえ機構(50)と、ウエストフランジ(23)の取付孔(24)内に挿入されたドアインナーシール(30)の係止爪(33)を折曲加工するローラー駆動機構(60)とを備えており、上記ローラー駆動機構(60)は、加工ローラー(64)を支持する可動ブロック(63)が傾斜状に設定されたガイドレール(67)とスライダ(66)を介してウエストフランジ(23)の取付面に対して所定角度傾斜した方向にスライド操作されることにより、係止爪(33)の折曲片(33b)がウエストフランジ(23)の傾斜状肉抜き(25)面に圧接するように加工ローラー(64)が傾斜状にスライド動作されるようにしたことを特徴とするドアインナーシールの固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−274819(P2010−274819A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130188(P2009−130188)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】