説明

ナノサイズ粒子、ナノサイズ粒子を含むリチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、ナノサイズ粒子の製造方法

【課題】高容量と良好なサイクル特性を実現するリチウムイオン二次電池用の負極材料を提供する。
【解決手段】Si、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた2種の元素である元素A‐1と元素A‐2とを含み、前記元素A‐1の単体または固溶体である第1の相3と、前記元素A‐2の単体または固溶体である第2の相5と、を有し、前記第1の相3と前記第2の相5との両方が外表面に露出し、前記第1の相と前記第2の相の外表面が球形状であることを特徴とするナノサイズ粒子1と、このナノサイズ粒子を用いたリチウムイオン二次電池用負極材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用の負極などに関するものであり、特に、高容量かつ長寿命のリチウムイオン二次電池用の負極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負極活物質としてグラファイトを用いたリチウムイオン二次電池が実用化されている。また、負極活物質と、カーボンブラック等の導電助剤と、樹脂の結着剤とを混練してスラリーを調製し、銅箔上に塗布・乾燥して、負極を形成することが行われている。
【0003】
一方、高容量化を目指し、リチウム化合物として理論容量の大きな金属や合金、特にシリコンおよびその合金を負極活物質として用いるリチウムイオン二次電池用の負極が開発されている。しかし、リチウムイオンを吸蔵したシリコンは、吸蔵前のシリコンに対して約4倍まで体積が膨張するため、シリコン系合金を負極活物質として用いた負極は、充放電サイクル時に膨張と収縮を繰り返す。そのため、負極活物質の剥離などが発生し、従来のグラファイト電極と比較して、寿命が極めて短いという問題があった。
【0004】
そこで、シリコン系活物質の表面にカーボンナノファイバーを成長させ、その弾性作用により負極活物質粒子の膨張と収縮による歪みを緩和し、サイクル特性を向上させるという非水電解液二次電池用負極が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
また、SiやSnなどのLiを吸蔵可能な成分Aと、CuやFeなどの成分Bとをメカノケミカル法により混合することによって得られる、成分Aと成分Bの化合物の粉末からなるリチウム二次電池用負極材料が開示されている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−244984号公報
【特許文献2】特開2005−78999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、負極活物質と導電助剤と結着剤とのスラリーを塗布・乾燥して、負極を形成する従来の負極は、負極活物質と集電体とを導電性の低い樹脂の結着剤で結着しているところ、樹脂の使用量は、内部抵抗が大きくならないように最小限に抑える必要があり、結合力が弱い。そのため、シリコン自体の体積膨張を抑制できていないと、負極活物質は、充放電時に負極活物質の微粉化と負極活物質の剥離、負極の亀裂の発生、負極活物質間の導電性の低下などが発生して容量が低下する。それゆえ、サイクル特性が悪く、二次電池の寿命が短いという問題点があった。
【0008】
また、特許文献1に記載の発明は、シリコン自体の体積膨張を抑制することが不十分であり、負極活物質と集電体とを結合力の不十分な樹脂で結着するものであり、サイクル特性の劣化は十分には防げなかった。さらに、カーボンナノファイバーの形成工程があるため、生産性が悪かった。また、特許文献2に記載の発明も、ナノサイズのレベルで各成分を均質に分散させることが困難であり、サイクル特性の劣化は十分には防げなかった。
【0009】
特に、負極材料としての実用化が期待されているシリコンは、充放電時の体積変化が大きいため、シリコンを含む活物質粒子は割れが発生しやすく、粒子内の集電性劣化を生じ、充放電サイクル特性が悪いという問題点があった。
【0010】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、高容量と良好なサイクル特性を実現するリチウムイオン二次電池用の負極材料を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、リチウムを吸蔵する電気化学的電位が異なる第1の相と第2の相を設けると、一方の相が優先的にリチウムを吸蔵し、該一方の相がリチウムを吸蔵して膨張する際に、他方の相が相対的に膨張しないため、ナノサイズ粒子全体の膨張を抑えることができ、ナノサイズ粒子の充放電時の微細化を防止することができることを見出した。本発明は、この知見に基づきなされたものである。
【0012】
すなわち本発明は、以下のナノサイズ粒子やリチウムイオン二次電池用負極材料などを提供するものである。
(1)Si(シリコン)、Sn(スズ)、Al(アルミニウム)、Pb(鉛)、Sb(アンチモン)、Bi(ビスマス)、Ge(ゲルマニウム)、In(インジウム)およびZn(亜鉛)からなる群より選ばれた2種の元素である元素A‐1と元素A‐2とを含み、前記元素A‐1の単体または固溶体である第1の相と、前記元素A‐2の単体または固溶体である第2の相と、を有し、前記第1の相と前記第2の相との両方が外表面に露出し、前記第1の相と前記第2の相の外表面が球形状であることを特徴とするナノサイズ粒子。
(2)平均粒径が2〜300nmであることを特徴とする(1)に記載のナノサイズ粒子。
(3)前記第1の相と前記第2の相の接合部の界面形状が、円形または楕円形であることを特徴とする(1)に記載のナノサイズ粒子。
(4)Si、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた3種の元素である元素A‐1と元素A‐2と元素A‐3とを含み、前記元素A‐1の単体または固溶体である第1の相と、前記元素A‐2の単体または固溶体である第2の相と、前記元素A‐3の単体または固溶体である他の第2の相と、を有し、前記第1の相と前記第2の相と前記他の第2の相の全てが外表面に露出し、前記第1の相と前記第2の相と前記他の第2の相の外表面が球形状であることを特徴とするナノサイズ粒子。
(5)前記第1の相がリンまたはホウ素を添加したシリコンであることを特徴とする(1)または(4)に記載のナノサイズ粒子
(6)Cu(銅)、Ag(銀)およびAu(金)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である元素Mをさらに含み前記元素A‐1と前記元素Mとの化合物または前記元素Mの単体もしくは固溶体である第3の相をさらに有し、前記第1の相と前記第2の相と前記第3の相との全てが外表面に露出し、前記第1の相と前記第2の相と前記第3の相の外表面が球形状であることを特徴とする(1)に記載のナノサイズ粒子。
(7)前記第3の相がMA‐1(x≦1、3<x)なる化合物であることを特徴とする(6)に記載のナノサイズ粒子。
(8)前記元素A‐1と前記元素Mの合計に占める前記元素Mの原子比率が0.01〜60%であることを特徴とする(6)に記載のナノサイズ粒子。
(9)Cu、AgおよびAuからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素M´をさらに含み、前記元素M´が、前記第3の相を構成する前記元素Mとは種類の異なる元素であり、前記元素A‐1と前記元素M´との化合物または前記元素M´の単体もしくは固溶体である他の第3の相をさらに有し、前記第1の相と前記第2の相と前記第3の相と前記他の第3の相の全てが外表面に露出し、前記第1の相と前記第2の相と前記第3の相と前記他の第3の相の外表面が球形状であることを特徴とする(6)に記載のナノサイズ粒子。
(10)Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Ca(カルシウム)、Sc(スカンジウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Sr(ストロンチウム)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Tc(テクネチウム)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ba(バリウム)、ランタノイド元素(Ce(セリウム)、およびPm(プロメチウム)を除く)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)およびIr(イリジウム)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である元素Dをさらに含み、前記元素A‐1と前記元素Dとの化合物である第4の相をさらに有し、前記第4の相の一部または全部が、前記第1の相に覆われており、前記第1の相の外表面が球形状であることを特徴とする(1)または(6)に記載のナノサイズ粒子。なお、ランタノイド元素(CeおよびPmを除く)とは、La(ランタン)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)である。
(11)前記第4の相がDA‐1(1<y≦3)なる化合物であることを特徴とする(10)に記載のナノサイズ粒子。
(12)前記元素A‐1と前記元素A‐2と前記元素Dの合計に占める前記元素Dの原子比率が0.01〜30%であることを特徴とする(10)に記載のナノサイズ粒子。
(13)Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ba、ランタノイド元素(CeおよびPmを除く)、Hf、Ta、W、Re、OsおよびIrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である元素D´をさらに含み、前記元素D´が、前記第4の相を構成する前記元素Dとは種類の異なる元素であり、前記元素A‐1と前記元素D´との化合物である他の第4の相をさらに有し、前記他の第4の相の一部または全部が、前記第1の相に覆われていることを特徴とする(10)に記載のナノサイズ粒子。
(14)(1)ないし(13)のいずれかに記載のナノサイズ粒子を負極活物質として含むリチウムイオン二次電池用負極材料。
(15)導電助剤をさらに有し、当該導電助剤がC(炭素)、Cu(銅)、Sn(スズ)、Zn(亜鉛)、Ni(ニッケル)およびAg(銀)からなる群より選ばれた少なくとも1種の粉末であることを特徴とする(14)に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
(16)前記導電助剤がカーボンナノホーンを含むことを特徴とする(14)に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
(17)(14)ないし(16)のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を用いたリチウムイオン二次電池用負極。
(18)リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極と、(17)に記載の負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータとを有し、リチウムイオン伝導性を有する電解質中に、前記正極と前記負極と前記セパレータとを設けたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
(19)Si、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた少なくとも2種の元素を含む原料を、プラズマ中に供給してナノサイズ粒子を得ることを特徴とするナノサイズ粒子の製造方法。
(20)Si、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた少なくとも2種の元素とCu、AgおよびAuからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素と、を含む原料を、プラズマ中に供給してナノサイズ粒子を得ることを特徴とするナノサイズ粒子の製造方法。
(21)Si、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた少なくとも2種の元素とCu、AgおよびAuからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素と、Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ba、ランタノイド元素(CeおよびPmを除く)、Hf、Ta、W、Re、OsおよびIrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素と、を含む原料を、プラズマ中に供給してナノサイズ粒子を得ることを特徴とするナノサイズ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高容量と良好なサイクル特性を実現するリチウムイオン二次電池用の負極材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)、(b)第1の実施形態に係るナノサイズ粒子の概略断面図。
【図2】(a)、(b)第2の実施形態に係るナノサイズ粒子の概略断面図。
【図3】(a)、(b)第3の実施形態に係るナノサイズ粒子の概略断面図。
【図4】(a)、(b)第3の実施形態の他の例に係るナノサイズ粒子の概略断面図。
【図5】第3の実施形態の他の例に係るナノサイズ粒子の概略断面図。
【図6】第4の実施形態に係るナノサイズ粒子の概略断面図。
【図7】本発明に係るナノサイズ粒子製造装置を示す図。
【図8】本発明に係る負極の製造に用いられるミキサーを示す図。
【図9】本発明に係る負極の製造に用いられるコーターを示す図。
【図10】SiとSnの2元系状態図。
【図11】AlとSiの2元系状態図。
【図12】AlとSnの2元系状態図。
【図13】CuとSiの2元系状態図。
【図14】CuとSnの2元系状態図。
【図15】FeとSiの2元系状態図。
【図16】CoとSiの2元系状態図。
【図17】CoとFeの2元系状態図。
【図18】FeとSnの2元系状態図。
【図19】CuとFeの2元系状態図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
(1.第1の実施形態)
(1−1.ナノサイズ粒子1の構成)
第1の実施形態に係るナノサイズ粒子1について説明する。
図1(a)は、ナノサイズ粒子1の概略断面図である。ナノサイズ粒子1は、第1の相3と第2の相5を有しており、第1の相3と第2の相5は、両方がナノサイズ粒子1の外表面に露出しており、第1の相3と第2の相5の外表面が球形状を形成しており、第1の相3と第2の相5は接合している。
【0017】
第1の相3は、元素A‐1の単体であり、元素A‐1はSi、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた1種の元素である。元素A‐1は、リチウムを吸蔵しやすい元素である。なお、第1の相3は、元素A‐1を主成分とする固溶体であってもよい。元素A‐1と固溶体を形成する元素は、元素A‐1を選ぶことができる前記群より選ばれた元素でもよいし、前記群に挙げられていない元素であってもよい。第1の相3はリチウムを吸蔵可能である。
【0018】
第1の相3と第2の相5の外表面が球形状であるとは、第1の相3と第2の相5とが接する箇所以外の第1の相3と第2の相5とが、球や楕円体であることを意味し、言い換えると、第1の相3と第2の相5とが接する箇所以外の第1の相3と第2の相5の表面がおおむね滑らかな曲面で構成されていることを意味する。第1の相3と第2の相5の形状は、破砕法により形成されるような、表面に角を有する形状とは異なる形状である。また、第1の相3と第2の相5の接合部の界面形状が、円形または楕円形である。
【0019】
第2の相5は、元素A‐2の単体もしくは固溶体である。元素A‐2はSi、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた1種の元素であり、元素A‐1とは種類の異なる元素である。元素A‐2はLiを吸蔵可能である。
【0020】
また、第1の相3がリンまたはホウ素を添加したシリコンであることが好ましい。リンまたはホウ素を添加することでシリコンの導電性を高めることができる。リンの代わりに、インジウムやガリウムを用いることができ、ホウ素の代わりにヒ素を用いることも可能である。第1の相3のシリコンの導電性を高めることで、このようなナノサイズ粒子を用いた負極は、内部抵抗が小さくなり、大電流を流すことが可能となり、良好なハイレート特性を有する。
【0021】
ナノサイズ粒子1の平均粒径は、好ましくは2〜300nmであり、より好ましくは50〜200nmである。ホールペッチの法則により、粒子サイズが小さいと、降伏応力が高まるため、ナノサイズ粒子1の平均粒径が2〜300nmであれば、粒子サイズが十分小さく、降伏応力が十分大きく、充放電により微粉化しにくい。なお、平均粒径が2nmより小さいと、ナノサイズ粒子の合成後の取扱いが困難となり、平均粒径が300nmより大きいと、粒子サイズが大きくなってしまい、降伏応力が十分でない。
【0022】
なお、微粒子は通常は凝集して存在しているので、ナノサイズ粒子の平均粒径は、ここでは一次粒子の平均粒径を指す。粒子の計測は、電子顕微鏡(SEM)の画像情報と動的光散乱光度計(DLS)の体積基準メディアン径を併用する。平均粒径は、SEM画像によりあらかじめ粒子形状を確認し、画像解析(例えば、旭化成エンジニアリング製「A像くん」(登録商標))で粒径を求めたり、粒子を溶媒に分散してDLS(例えば、大塚電子製DLS−8000)により測定したりすることが可能である。微粒子が十分に分散しており、凝集していなければ、SEMとDLSでほぼ同じ測定結果が得られる。また、ナノサイズ粒子の形状が、アセチレンブラックのような高度に発達したストラクチャー形状である場合にも、ここでは一次粒径で平均粒径を定義し、SEM写真の画像解析で平均粒径を求めることができる。
【0023】
また、第1の実施形態に係るナノサイズ粒子1は、図1(b)に示すナノサイズ粒子7のように、第2の相5に加えて、他の第2の相9を有してもよい。他の第2の相9は、元素A‐3の単体もしくは固溶体であり、元素A‐3はSi、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた1種の元素であり、元素A‐1、元素A‐2とは異なる種類の元素である。他の第2の相9は、球形状であり、ナノサイズ粒子7の外表面に露出する。例えば、第1の相3の一端に第2の相5があり、他端に他の第2の相9があり、ナノサイズ粒子7は、大きな球の表面に二つの小さな球が接合している、水分子のような形状を有する。例えば、元素A‐1としてシリコン、元素A‐2としてスズ、元素A‐3としてアルミニウムを用いることができる。
【0024】
なお、ナノサイズ粒子1の最表面に酸素が結合しても良い。空気中にナノサイズ粒子1を取り出すと、空気中の酸素がナノサイズ粒子1の表面の元素と反応するからである。
【0025】
(1−2.ナノサイズ粒子1の効果)
第1の実施形態によれば、第1の相3がリチウムを吸蔵すると、体積膨張するが、第2の相5もリチウムを吸蔵すると膨張する。しかし、第1の相3と第2の相5では、リチウムを吸蔵する電気化学的電位が異なるため、一方の相が優先的にリチウムを吸蔵し、一方の相が体積膨張する際に、他方の相の体積膨張が相対的に少なくなり、他方の相により一方の相が体積膨張しにくくなる。そのため、一方の相のみを有する粒子に比べて、第1の相3と第2の相5を有するナノサイズ粒子1は、リチウムを吸蔵する際に膨張しにくく、リチウムの吸蔵量が抑制される。そのため、第1の実施形態によれば、ナノサイズ粒子1は、リチウムを吸蔵させても、体積膨張が抑えられ、サイクル特性時の放電容量の低下が抑制される。
【0026】
また、第1の実施形態によれば、ナノサイズ粒子1は膨張しにくいため、ナノサイズ粒子1を大気中に出したとしても、大気中の酸素と反応しにくい。一方の相のみを有するナノサイズ粒子は、表面保護せずに大気中に放置すると、表面から酸素と反応し、表面から粒子内部へと酸化が進行するため、ナノサイズ粒子全体が酸化する。しかしながら、本発明のナノサイズ粒子1を大気中に放置した場合、粒子の最表面は酸素と反応するが、全体としてナノサイズ粒子が膨張しにくいため、酸素が内部に侵入しにくく、ナノサイズ粒子1の中心部まで酸化が及びにくい。従って、通常の金属ナノ粒子は比表面積が大きく、酸化して発熱や体積膨張が生じやすいが、本発明のナノサイズ粒子1は、有機物や金属酸化物で特別な表面コートを行う必要がなく、大気中で粉体のまま扱うことができる。工業的利用価値が大きい。
【0027】
また、第1の実施形態によれば、第1の相3と第2の相5は、どちらも炭素よりもリチウムを大量に吸蔵可能な元素で構成されるため、ナノサイズ粒子1は、炭素の負極活物質よりもリチウムの吸蔵量が多くなる。
【0028】
また、第1の実施形態によれば、第2の相5が第1の相3よりも導電性が高い場合、ナノサイズ粒子1は、それぞれのナノサイズ粒子1にナノレベルの集電スポットを有し、ナノサイズ粒子1は導電性の良い負極材料となり、集電性能の良い負極が得られる。特に、第1の相3が導電性の低いシリコンで形成される場合、第2の相5をシリコンより導電性の高いスズやアルミニウムなどの金属元素を用いることで、シリコンナノ粒子に比べて導電性の良い負極材料が得られる。
【0029】
第2の相5と他の第2の相9の両方を備えるナノサイズ粒子7は、ナノサイズ粒子1と同様の効果を有するうえ、ナノレベルの集電スポットが増加し、集電性能が、効果的に向上する。
【0030】
(2.第2の実施形態)
(2−1.ナノサイズ粒子11の構成)
第2の実施形態に係るナノサイズ粒子11について説明する。以下の実施形態で第1の実施形態と同一の様態を果たす要素には同一の番号を付し、重複した説明は避ける。
図2(a)は、ナノサイズ粒子11の概略断面図である。ナノサイズ粒子11は、第1の相3と第2の相5と第3の相13とを有しており、第1の相3と第2の相5と第3の相13との全てが外表面に露出し、第1の相3と第2の相5と第3の相13の外表面が球形状であり、第2の相5は第1の相3と接合しており、第3の相13は第1の相3と接合している。
【0031】
第3の相13は、元素A‐1と元素Mとの化合物または元素Mの単体もしくは固溶体であり、結晶質である。元素MはCu、AgおよびAuからなる群より選ばれた1種の元素である。元素Mは、リチウムを吸蔵しにくい元素である。第3の相13は、リチウムをほとんど吸蔵しない。
【0032】
元素A‐1と元素Mが化合物を形成可能な組合せであれば、第3の相13は元素A‐1と元素Mの化合物であるMA‐1(x≦1、3<x)から形成される。一方、元素A‐1と元素Mとが化合物を形成しない組合せであれば、第3の相13は元素Mの単体や固溶体となる。
【0033】
例えば、元素A‐1がSiであり、元素MがCuである場合、第3の相13は、元素Mと元素A‐1の化合物である銅シリサイドから形成される。
【0034】
例えば、元素A‐1がSiであり、元素Mが、AgまたはAuである場合、第3の相13は、元素Mの単体または固溶体から形成される。
【0035】
元素A‐1と元素Mの合計に占める元素Mの原子比率が0.01〜60%であることが好ましい。この原子比率が0.01〜60%であると、ナノサイズ粒子11をリチウムイオン二次電池の負極材料に用いた際に、サイクル特性と高容量を両立できる。一方、0.01%を下回ると、ナノサイズ粒子11のリチウム吸蔵時の体積膨張を十分に抑制できず、60%を超えると、高容量であるメリットが特になくなってしまう。
【0036】
特に、第1の相3が主に結晶質シリコンで構成され、第3の相13が結晶質シリサイドであることが好ましい。
【0037】
なお、第2の実施形態に係るナノサイズ粒子11は、図2(b)に示すナノサイズ粒子15のように、他の第3の相17を有してもよい。他の第3の相17は、Cu、AgおよびAuからなる群より選ばれた元素M´を含み、元素M´は元素Mとは種類が異なる。他の第3の相17は、元素A‐1と元素M´との化合物または元素M´の単体もしくは固溶体である。第1の相3と第3の相13と他の第3の相17の全てが外表面に露出し、第1の相3と第3の相13と他の第3の相17の外表面が球形状である。例えば、ナノサイズ粒子15は、大きな球形状の第1の相3の表面に小さな球形状である第2の相5と第3の相13と他の第3の相17とが接合している形状を有する。また、元素A‐1と元素Mと元素M´の合計に占める、元素Mと元素M´の合計の原子比率が0.01〜60%であることが好ましい。
【0038】
(2−2.ナノサイズ粒子11の効果)
第2の実施形態によれば、第1の実施形態で得られる効果に加えて、ナノサイズ粒子11は、リチウムを吸蔵させても、さらに微粉化しにくいという効果がある。第2の実施形態では、第1の相3がリチウムを吸蔵すると体積膨張するが、第3の相13はリチウムを吸蔵しないため、第3の相13に接する第1の相3の膨張は、抑えられる。つまり、第1の相3がリチウムを吸蔵して体積膨張をしようとしても、第3の相13が膨張しにくいため、第3の相13がくさびやピンのような効果を発揮し、ナノサイズ粒子全体の膨張を抑制する。そのため、第3の相13を有しない粒子に比べて、第3の相13を有するナノサイズ粒子11は、リチウムを吸蔵する際に膨張しにくく、リチウムの吸蔵量が小さくなる。そのため、ナノサイズ粒子11は、リチウムを吸蔵させても、微粉化しにくい。
【0039】
第3の相13と他の第3の相17の両方を備えるナノサイズ粒子15は、ナノサイズ粒子11と同様の効果を有するうえ、ナノレベルの集電スポットが増加し、集電性能が効果的に向上する。
【0040】
(3.第3の実施形態)
(3−1.ナノサイズ粒子19の構成)
第3の実施形態に係るナノサイズ粒子19について説明する。
図3(a)は、ナノサイズ粒子19の概略断面図である。ナノサイズ粒子19は、第1の相3と第2の相5と第4の相21とを有しており、第1の相3と第2の相5は、両方がナノサイズ粒子19の外表面に露出しており、第1の相3と第2の相5の外表面が球形状を形成しており、第1の相3と第2の相5は接合している。また、第4の相21の一部または全部が、第1の相3に覆われている。
【0041】
第4の相21は、元素Aと元素Dとの化合物である。元素DはFe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ba、ランタノイド元素(CeおよびPmを除く)、Hf、Ta、W、Re、OsおよびIrからなる群より選ばれた1種の元素である。元素Dは、リチウムを吸蔵しにくい元素であり、元素A‐1とDA‐1(1<y≦3)である化合物を形成可能である。第4の相21は、リチウムをほとんど吸蔵しない。
【0042】
元素A‐1と元素Dの合計に占める元素Dの原子比率が0.01〜30%であることが好ましい。この原子比率が0.01〜30%であると、ナノサイズ粒子19をリチウムイオン二次電池の負極材料に用いた際に、サイクル特性と高容量を両立できる。一方、0.01%を下回ると、ナノサイズ粒子19のリチウム吸蔵時の微粉化を抑制できず、30%を超えると、高容量であるメリットが特になくなってしまう。
【0043】
なお、図3(a)においては、第1の相3中に、複数の第4の相21が分散しているが、単一の第4の相21が分散していてもよい。
【0044】
また、一部の第4の相21がナノサイズ粒子19の表面に露出していてもよい。つまり、必ずしも第4の相21の周囲の全てを第1の相3で覆っている必要はなく、第4の相21の周囲の一部のみを第1の相で覆っていてもよい。
【0045】
また、第3の実施形態に係るナノサイズ粒子19は、図3(b)に示すナノサイズ粒子23のように、第1の相3中に元素A‐1の微結晶25を有しても良い。元素A‐1の微結晶25は、元素A‐1と元素Dの合計に占める元素Dの原子比率が小さいときに生じやすい。元素Dが少ないほど、元素A‐1の結晶相が増える。
【0046】
また、第3の実施形態に係るナノサイズ粒子19は、図4(a)に示すナノサイズ粒子27のように元素Dと元素D´を含み、第1の相3中に第4の相21と他の第4の相29を有しても良い。他の第4の相29は、元素A‐1と元素D´の化合物である。例えば、第1の相3がシリコンであり、第4の相21が鉄シリサイドであり、他の第4の相29がコバルトシリサイドである場合が挙げられる。この際、第1の相3中に鉄とコバルトの固溶体が形成されていても良い。
【0047】
元素D´は、Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ba、ランタノイド元素(CeおよびPmを除く)、Hf、Ta、W、Re、OsおよびIrからなる群より選ばれた元素であり、元素Dとは異なる種類の元素である。
【0048】
また、第3の実施形態に係るナノサイズ粒子19は、図4(b)に示すナノサイズ粒子31のように、第1の相3中に、第4の相21、他の第4の相29、元素A‐1の微結晶25を有しても良い。元素A‐1の微結晶25は、元素A‐1と元素Dと元素D´の合計に占める元素Dと元素D´の合計の原子比率が小さいときに生じやすい。元素Dと元素D´の合計が少ないほど、元素A‐1の結晶相が増える。
【0049】
また、図5に示すナノサイズ粒子33のように、第2の相5に他の第4の相34が形成されていても良い。他の第4の相34は、元素Dと元素A‐2の化合物である。例えば、第1の相3がシリコンであり、第2の相5がスズであり、第4の相21が鉄シリサイドであり、他の第4の相34が鉄スズ合金である場合が挙げられる。他の第4の相34は、第4の相21が第1の相3の膨張を抑える効果と同様の作用で、第2の相5の膨張を抑える効果がある。
【0050】
(3−2.ナノサイズ粒子19の効果)
第3の実施形態によれば、第1の実施形態で得られる効果に加えて、ナノサイズ粒子19は、リチウムを吸蔵させても、微粉化しにくい。第3の実施形態において、第1の相3がリチウムを吸蔵すると、体積膨張するが、第4の相21は、リチウムを吸蔵しないため、第4の相21に接する第1の相3の膨張は、抑えられる。つまり、第1の相3がリチウムを吸蔵して体積膨張をしようとしても、第4の相21が膨張しにくいため、第1の相3と第4の相21との界面は滑りにくく、第4の相21がくさびやピンのような効果を発揮し、ナノサイズ粒子全体の膨張を抑制する。そのため、第4の相21を有しない粒子に比べて、第4の相21を有するナノサイズ粒子19は、リチウムを吸蔵する際に膨張しにくく、リチウムの吸蔵量が抑制される。そのため、ナノサイズ粒子19は、リチウムを吸蔵させても、微粉化しにくい。なお、他の第4の相34は、第2の相5に対して、第4の相21と同様の働きをする。
【0051】
(4.第4の実施形態)
(4−1.ナノサイズ粒子35の構成)
第4の実施形態に係るナノサイズ粒子35について説明する。
図6は、ナノサイズ粒子35の概略断面図である。ナノサイズ粒子35は、第1の相3と第2の相5と第3の相13と第4の相21とを有しており、第1の相3と第2の相5と第3の相13とは、全てがナノサイズ粒子35の外表面に露出しており、第1の相3と第2の相5と第3の相13の外表面が球形状を形成しており、第1の相3と第2の相5は接合し、第1の相3と第3の相13とは接合している。また、第4の相21の一部または全部が、第1の相3に覆われている。
【0052】
また、第4の実施形態に係るナノサイズ粒子35は、ナノサイズ粒子35の構成に加えて、第1の相3に接合する他の第2の相9を有してもよく、第1の相3に接合する他の第3の相17を有してもよく、第1の相3の内部に元素A‐1の微結晶25を有しても良く、第1の相3に覆われる他の第4の相29を有しても良く、第2の相5の内部に他の第4の相34を有しても良い。
【0053】
(4−2.ナノサイズ粒子35の効果)
第4の実施形態では、第1の実施形態で得られる効果に加えて、第2の実施形態の効果と第3の実施形態の効果とを併せ持ち、容量が大きく、リチウムを吸蔵および放出しても微粉化しにくく、集電特性に優れるナノサイズ粒子が得られる。
【0054】
(5.ナノサイズ粒子の製造方法)
ナノサイズ粒子の製造方法を説明する。
ナノサイズ粒子は、気相合成法により合成される。特に、原料粉末を、プラズマ化し、1万K相当にまで加熱し、その後冷却することで、ナノサイズ粒子を製造可能である。
【0055】
ナノサイズ粒子の製造に用いられる製造装置の一具体例を、図7に基づいて説明する。図7に示すナノサイズ粒子製造装置37において、反応チャンバー39の上部外壁には、プラズマ発生用の高周波コイル45が巻き付けてある。高周波コイル45には、高周波電源47より、数MHzの交流電圧が印加される。好ましい周波数は4MHzである。なお、高周波コイル45を巻きつける上部外壁は石英ガラスなどで構成された円筒形の2重管となっており、その隙間に冷却水を流してプラズマによる石英ガラスの溶融を防止している。
【0056】
また、反応チャンバー39の上部には、原料粉末供給口41と共に、シースガス供給口43が設けてある。原料粉末フィーダーから供給される原料粉末42は、キャリアガス(ヘリウム、アルゴンなどの希ガス)とともに原料粉末供給口41を通してプラズマ49中に供給される。また、シースガス44はシースガス供給口43を通して反応チャンバー39に供給される。なお、原料粉末供給口41は、必ずしも図7のようにプラズマ49の上部に設置する必要はなく、プラズマ49の横方向にノズルを設置することもできる。また、原料粉末供給口41を冷却水により水冷しても良い。なお、プラズマに供給するナノサイズ粒子の原料の性状は、粉末だけに限られず、原料粉末のスラリーやガス状の原料を供給しても良い。
【0057】
反応チャンバー39は、プラズマ反応部の圧力の保持や、製造された微粉末の分散を抑制する役割を果たす。反応チャンバー39も、プラズマによる損傷を防ぐため、水冷されている。また、反応チャンバー39の側部には、吸引管が接続してあり、その吸引管の途中には合成された微粉末を捕集するためのフィルター51が設置してある。反応チャンバー39とフィルター51を連結する吸引管も、冷却水により水冷されている。反応チャンバー39内の圧力は、フィルター51の下流側に設置されている真空ポンプの吸引能力によって調整する。
【0058】
ナノサイズ粒子の製造方法は、プラズマから気体、液体を経由して固体となり、ナノサイズ粒子を析出させるボトムアップの手法なので、液滴の段階で球形状となり、第1の相3と第2の相5とは球形状となる。一方、破砕法やメカノケミカル法では、大きな粒子を小さくするトップダウンの手法では、粒子の形状はごつごつしたものとなり、ナノサイズ粒子1の球形状の形状とは大きく異なる。
【0059】
なお、原料粉末に元素A‐1と元素A‐2のそれぞれの粉末の混合粉末を用いると、第1の実施形態に係るナノサイズ粒子1が得られる。一方、原料粉末に元素A‐1と元素A‐2と元素Mのそれぞれの粉末の混合粉末を用いると、第2の実施形態に係るナノサイズ粒子11が得られる。また、原料粉末に元素A‐1と元素A‐2と元素Dのそれぞれの粉末の混合粉末を用いると、第3の実施形態に係るナノサイズ粒子19が得られる。また、原料粉末に元素A‐1と元素A‐2と元素Mと元素Dのそれぞれの粉末の混合粉末を用いると、第4の実施形態に係るナノサイズ粒子35が得られる。
【0060】
(6.リチウムイオン二次電池の作製)
(6−1.リチウムイオン二次電池用負極の作製)
まず、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法を説明する。図8に示すように、ミキサー53に、スラリー原料57を投入し、混練してスラリー55を形成する。スラリー原料57は、ナノサイズ粒子、導電助剤、結着剤、増粘剤、溶媒などである。
【0061】
スラリー55中の固形分において、ナノサイズ粒子25〜90重量%、導電助剤5〜70重量%、結着剤1〜10重量%を含む。
【0062】
ミキサー53は、スラリーの調製に用いられる一般的な混練機を用いることができ、ニーダー、撹拌機、分散機、混合機などと呼ばれるスラリーを調製可能な装置を用いてもよい。また、増粘剤としてはカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類等を1種または2種以上の混合物として用いることが適している。また、溶媒としては水を用いることができる。また、有機系スラリーを調製するときは、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いることができる。
【0063】
導電助剤は、炭素、銅、スズ、亜鉛、ニッケル、銀からなる群より選ばれた少なくとも1種の導電性物質からなる粉末である。炭素、銅、スズ、亜鉛、ニッケル、銀の単体の粉末でもよいし、それぞれの合金の粉末でもよい。例えば、ファーネスブラックやアセチレンブラックなどの一般的なカーボンブラックを使用できる。さらに、カーボンナノホーンを導電助剤として加えることができる。特に、ナノサイズ粒子の元素A−1が導電性の低いシリコンである場合、ナノサイズ粒子の表面には、シリコンが露出することとなり、導電性が低くなるため、カーボンナノホーンを導電助剤として加えることが好ましい。ここで、カーボンナノホーン(CNH)とは、グラフェンシートを円錐形に丸めた構造をしており、実際の形態は多数のCNHが頂点を外側に向けて、放射状のウニのような形態の集合体として存在する。CNHのウニ様集合体の外径は50nm〜250nm程度である。特に、平均粒径80nm程度のCNHが好ましい。
【0064】
導電助剤の平均粒径も一次粒子の平均粒径を指す。アセチレンブラックのような高度にストラクチャー形状が発達している場合にも、ここでは一次粒径で平均粒径を定義し、SEM写真の画像解析で平均粒径を求めることができる。
【0065】
また、粒子状の導電助剤とワイヤー形状の導電助剤の両方を用いても良い。ワイヤー形状の導電助剤は導電性物質のワイヤーであり、粒子状の導電助剤に挙げられた導電性物質を用いることができる。ワイヤー形状の導電助剤は、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、銅ナノワイヤー、ニッケルナノワイヤーなどの外径が300nm以下の線状体を用いることができる。ワイヤー形状の導電助剤を用いることで、負極活物質や集電体などと電気的接続が保持しやすくなり集電性能が向上するとともに、ポーラス膜状の負極に繊維状物質が増え、負極にクラックが生じにくくなる。例えば粒子状の導電助剤として銅粉末を用い、ワイヤー形状の導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF:Vapor Grown Carbon Fiber)を用いることが考えられる。なお、粒子状の導電助剤を加えずに、ワイヤー形状の導電助剤のみを用いても良い。
【0066】
ワイヤー形状の導電助剤の長さは、好ましくは0.1μm〜2mmである。導電助剤の外径は、好ましくは4nm〜1000nmであり、より好ましくは25nm〜200nmである。導電助剤の長さが0.1μm以上であれば、導電助剤の生産性を上げるのには十分な長さであり、長さが2mm以下であれば、スラリーの塗布が容易である。また、導電助剤の外径が4nmより太い場合、合成が容易であり、外径が1000nmより細い場合、スラリーの混練が容易である。導電物質の外径と長さの測定方法は、SEMによる画像解析により行った。
【0067】
結着剤は、樹脂の結着剤であり、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などのフッ素樹脂やゴム系の有機材料を用いることができる。
【0068】
次に、図9に示すように、例えば、コーター59を用いて、集電体61の片面に、スラリー55を塗布する。コーターは、スラリーを集電体に塗布可能な一般的な塗工装置を用いることができ、例えばロールコーターやドクターブレードによるコーター、コンマコーター、ダイコーターである。
【0069】
集電体61は、銅、ニッケル、ステンレスからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属からなる箔である。それぞれを単独で用いてもよいし、それぞれの合金でもよい。厚さは4μm〜35μmが好ましく、さらに8μm〜18μmがより好ましい。
【0070】
その後、50〜150℃程度で乾燥し、厚みを調整するため、ロールプレスを通して、リチウムイオン二次電池用負極を得る。
【0071】
(6−2.リチウムイオン二次電池用正極の作製)
まず、正極活物質、導電助剤、結着剤および溶媒を混合して正極活物質の組成物を準備する。前記正極活物質の組成物をアルミ箔などの金属集電体上に直接塗布・乾燥し、正極を準備する。
【0072】
前記正極活物質としては、一般的に使われるものであればいずれも使用可能であり、例えばLiCoO、LiMn、LiMnO、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiFePOなどの化合物である。
【0073】
導電助剤としては、例えばカーボンブラックを使用し、結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、水溶性アクリル系バインダーを使用し、溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、水などを使用する。このとき、正極活物質、導電助剤、結着剤および溶媒の含量は、リチウムイオン二次電池で通常的に使用するレベルである。
【0074】
(6−3.セパレータ)
セパレータとしては、正極と負極の電子伝導を絶縁する機能を有し、リチウムイオン二次電池で通常的に使われるものであればいずれも使用可能である。例えば、微多孔性のポリオレフィンフィルムを使用できる。
【0075】
(6−4.電解液・電解質)
リチウムイオン二次電池、Liポリマー電池などにおける電解液および電解質には、有機電解液(非水系電解液)、無機固体電解質、高分子固体電解質等が使用できる。
有機電解液の溶媒の具体例として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;ベンゾニトリル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ―ブチロラクトン、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の非プロトン性溶媒、あるいはこれらの溶媒のうちの2種以上を混合した混合溶媒が挙げられる。
【0076】
有機電解液の電解質には、LiPF、LiClO、LiBF、LiAlO、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiCSO、LiN(CFSO等のリチウム塩からなる電解質の1種または2種以上を混合させたものを用いることができる。
【0077】
有機電解液の添加材として、負極活物質の表面に有効な固体電解質界面被膜を形成できる化合物を添加することが望ましい。例えば、分子内に不飽和結合を有し、充電時に還元重合できる物質、例えばビニレンカーボネート(VC)などを添加する。
【0078】
また、上記の有機電解液に代えて高分子固体電解質を用いる場合には、リチウムイオンに対するイオン導電性の高い高分子である、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン等からなるポリマーに電解液を含ませてゲル化したポリマーを用いることができる。
【0079】
さらに、リチウム窒化物、リチウムハロゲン化物、リチウム酸素酸塩、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiPO−LiSiO、LiSiS、LiPO−LiS−SiS、硫化リン化合物などの無機材料を無機固体電解質として用いてもよい。
【0080】
(6−5.リチウムイオン二次電池の組立て)
前述したような正極と負極との間にセパレータを配置して、電池構造体を形成する。このような電池構造体を巻くか、または折って円筒形の電池ケースや角形の電池ケースに入れた後、電解液を注入すれば、リチウムイオン二次電池が完成する。
【0081】
(6−6.本発明に係るリチウムイオン二次電池の効果)
本発明に係るナノサイズ粒子を負極材料として用いるリチウムイオン二次電池は、ナノサイズ粒子が炭素よりも単位体積あたりの容量の高い元素を用いるため、従来のリチウムイオン二次電池よりも容量が大きく、かつナノサイズ粒子が微粉化しにくいためサイクル特性が良い。
【実施例】
【0082】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。
[実施例1]
(ナノサイズ粒子の作製)
図7の装置を用い、シリコン粉末とスズ粉末とをモル比でSi:Sn=3:1になるように混合し、乾燥させた混合粉末を原料粉末として、反応チャンバー内に発生させたArガスのプラズマ中にキャリアガスで連続的に供給することにより、シリコンとスズのナノサイズ粒子を製造した。
【0083】
さらに詳細には、下記の通りの方法で製造した。反応チャンバー内を真空ポンプで排気した後、Arガスを導入して大気圧とした。この排気とArガス導入を3回繰り返して、反応容器内の残留空気を排気した。その後、反応容器内にプラズマガスとしてArガスを13L/minの流量で導入し、高周波コイルに交流電圧をかけて、高周波電磁場(周波数4MHz)により高周波プラズマを発生させた。この時のプレート電力は、20kWとした。原料粉末を供給するキャリアガスは、1.0L/minの流速のArガスを用いた。得られた微粉末をフィルターで回収した。
【0084】
実施例1に係るナノサイズ粒子の形成過程を考察する。図10は、シリコンとスズの2元系状態図である。シリコン粉末とスズ粉末とをモル比でSi:Sn=3:1になるように混合したので、原料粉末でのmole Sn/(Si+Sn)=0.25となる。図10中の太線は、mole Sn/(Si+Sn)=0.25を示す線である。高周波コイルにより生成したプラズマは、1万K相当となるので、状態図の温度範囲をはるかに超え、スズ原子とシリコン原子が均一に混合したプラズマが得られる。プラズマが冷却すると、SiとSnの両方が析出する。よって、シリコンとスズのプラズマが冷却すると、SiとSnを有するナノサイズ粒子が形成される。その際、SiとSnは親和性が低いため、SiとSnは互いに接触する面積を減らすように、二つの粒子が接合した形状をとると考えられる。
【0085】
(ナノサイズ粒子のサイクル特性の評価)
(i)負極スラリーの調製
実施例1に係るシリコンとスズのナノサイズ粒子を用いた。ナノサイズ粒子45.5wt%とアセチレンブラック(平均粒径35nm、電気化学工業株式会社製、粉状品)47.5wt%の比率でミキサーに投入した。さらに結着剤としてスチレンブタジエンラバー(SBR)40wt%のエマルジョン(日本ゼオン(株)製、BM400B)を固形分換算で2wt%、スラリーの粘度を調整する増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル化学工業(株)製、#2200)1wt%溶液を固形分換算で5wt%の割合で混合してスラリーを作製した。
(ii)負極の作製
調製したスラリーを自動塗工装置のドクターブレードを用いて、厚さ10μmの集電体用電解銅箔(古河電気工業(株)製、NC−WS)上に15μmの厚みで塗布し、70℃で乾燥させてリチウムイオン二次電池用負極を製造した。
(iii)特性評価
リチウムイオン二次電池用負極と、1mol/LのLiPFを含むエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶液からなる電解液と、金属Li箔対極を用いてリチウム二次電池を構成し、充放電特性を調べた。特性の評価は、初回の放電容量および50サイクルの充電・放電後の放電容量を測定し、放電容量の低下率を算出することによって行った。放電容量は、シリサイドを形成するなどリチウムの吸蔵・放出をしないようなシリコンやスズを除いた、リチウムの吸蔵・放出に有効な活物質SiとSnの重量を基準として算出した。まず、25℃環境下において、電流値を0.1C、電圧値を0.02Vまで定電流定電圧条件で充電を行い、電流値が0.05Cに低下した時点で充電を停止した。次いで、電流値0.1Cの条件で、金属Liに対する電圧が1.5Vとなるまで放電を行い、0.1C初期放電容量を測定した。なお、1Cとは、1時間で満充電できる電流値である。また、充電と放電はともに25℃環境下において行った。次いで、0.2Cでの充放電速度で上記充放電を50サイクル繰り返した。0.2C初期放電容量に対する、充放電を50サイクル繰り返したときの放電容量の割合を百分率で求め、容量維持率とした。
【0086】
[実施例2]
実施例1に係るシリコンとスズのナノサイズ粒子を用いた。ナノサイズ粒子と、カーボンナノホーン(NEC(株)製、平均粒径80nm)をナノサイズ粒子:CNH=7:3(重量比)の割合で磨砕機((株)奈良機械製作所製、ミラーロ)で精密混合させた後、精密混合品65wt%とアセチレンブラック28wt%の比率でミキサーに投入した。さらに、実施例1と同じ結着材と増粘剤を、実施例1と同じ割合、同じ方法で混合し、スラリーを作製した。実施例1と同様の方法で、リチウムイオン二次電池を構成し、サイクル特性を測定した。
【0087】
[実施例3]
図7の装置を用い、シリコン粉末とスズ粉末と銅粉末とをモル比でSi:Sn:Cu=3:3:2になるように混合し、乾燥させた混合粉末を原料粉末として、実施例1と同様の方法でナノサイズ粒子を作製した。
【0088】
その後、実施例1と同様の方法でスラリーを作製し、リチウムイオン二次電池を構成し、サイクル特性を測定した。
【0089】
[実施例4]
図7の装置を用い、シリコン粉末とスズ粉末と鉄粉末とをモル比でSi:Sn:Fe=3:3:2になるように混合し、乾燥させた混合粉末を原料粉末として、実施例1と同様の方法でナノサイズ粒子を作製した。
【0090】
その後、実施例1と同様の方法でスラリーを作製し、リチウムイオン二次電池を構成し、サイクル特性を測定した。
【0091】
[実施例5]
図7の装置を用い、シリコン粉末とスズ粉末と銅粉末と鉄粉末とをモル比でSi:Sn:Cu:Fe=9:9:6:2になるように混合し、乾燥させた混合粉末を原料粉末として、実施例1と同様の方法でナノサイズ粒子を作製した。
【0092】
その後、実施例1と同様の方法でスラリーを作製し、リチウムイオン二次電池を構成し、サイクル特性を測定した。
【0093】
[比較例1]
ナノサイズ粒子に代えて、平均粒径60nmのシリコンナノ粒子(Hefei Kai’er NanoTech製)を用いる以外は実施例1と同様の方法で、リチウムイオン二次電池を構成し、サイクル特性を測定した。
【0094】
[比較例2]
ナノサイズ粒子に代えて、平均粒径60nmのシリコンナノ粒子(Hefei Kai’er NanoTech製)と平均粒径100nmのスズナノ粒子をモル比でSi:Sn=3:1で混合した混合品を用いる以外は実施例1と同様の方法で、リチウムイオン二次電池を構成し、サイクル特性を測定した。
【0095】
実施例1〜5、比較例1〜2の放電容量と容量維持率を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示すように、50サイクル後容量維持率は、実施例1では38%であるのに対し、比較例1では23%まで低下する。実施例1に係るナノサイズ粒子は、シリコンナノ粒子に比べて、容量低下が抑えられ、サイクル特性が良好であることが分かる。
【0098】
また、実施例1と比較例2を比較すると、用いたシリコンとスズの量は同じであるにもかかわらず、シリコンとスズが複合したナノサイズ粒子を用いる実施例1は、シリコンとスズを単純に混合した比較例2に対して、初期放電容量と50サイクル後容量維持率の点で優れる。
【0099】
また、実施例1〜5と比較例1を比較すると、本発明に係るナノサイズ粒子を用いる実施例1〜5の全てが、シリコンナノ粒子を用いる比較例1よりも初期放電容量と50サイクル後容量維持率の点で優れる。
【0100】
また、実施例1と実施例2を比較すると、カーボンナノホーンを添加することで、初期放電容量が高くなり、50サイクル後容量維持率も向上することが分かる。
【0101】
なお、実施例1においては、シリコンとスズの2元系でナノサイズ粒子を作製したが、本発明のナノサイズ粒子は、シリコンとスズの2元系に限るものではない。例えば、図11に示すアルミニウム(Al)とシリコン(Si)の2元系状態図において、mole Si/(Al+Si)=0.75のプラズマを冷却すると、AlとSiが析出することから、Alの粒子とSiの粒子が接合したナノサイズ粒子が得られることが推測される。図11中の太線は、mole Si/(Al+Si)=0.75を示す線である。
【0102】
また、図12に示すアルミニウム(Al)とスズ(Sn)の2元系状態図においては、mole Al/(Sn+Al)=0.75のプラズマを冷却すると、AlとSnが析出し、AlとSnは親和性が低いため、Alと、Snは互いに接触する面積を減らすように、Alの粒子とSnの粒子が接合したナノサイズ粒子が得られることが推測される。図12中の太線は、mole Al/(Sn+Al)=0.75を示す線である。
【0103】
Siを元素A‐1として用い、Snを元素A‐2として用いる場合以外に、元素A‐1と元素A‐2をSi、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、Znから選択して用いるどの組合せにおいても、同様の2元系状態図が得られ、元素A‐1と元素A‐2は化合物を作らず、元素A‐1の単体または固溶体である第1の相と、元素A‐2の単体または固溶体である第2の相とが得られる。よって、以上の元素A‐1と元素A‐2の組合せにおいて、第1の相と第2の相の両方が外表面に露出し、第1の相と第2の相が接合する構成を有するナノサイズ粒子が得られるものと考えられる。
【0104】
第1の実施形態に係るナノサイズ粒子7の形成過程を考察する。Siを元素A−1として用い、Snを元素A−2として用い、Alを元素A−3として用いる場合、SiとAlとSnとを混合したプラズマを冷却すると、図10〜12に示すようにSiとAlとSnが化合物を作らないため、第1の相3としてSiが、第2の相5としてSnが、他の第2の相9としてAlが、単体または固溶体として析出する。
【0105】
第2の実施形態に係るナノサイズ粒子11の形成過程を考察する。図13は、銅とシリコンの2元系状態図である。シリコン粉末と銅粉末とをモル比でSi:Cu=3:1になるように混合すると、原料粉末でのmole Si/(Cu+Si)=0.75となる。図13中の太線は、mole Si/(Cu+Si)=0.75を示す線である。高周波コイルにより生成したプラズマは、1万K相当となるので、状態図の温度範囲をはるかに超え、銅原子とシリコン原子が均一に混合したプラズマが得られる。プラズマが冷却すると、Cu19Si(またはCuSi)とSiの両方が析出する。よって、シリコンと銅のプラズマが冷却すると、Cu19Si(またはCuSi)とSiを有するナノサイズ粒子が形成される。その際、CuとSiは親和性が低いため、Cu19Si(またはCuSi)と、Siは互いに接触する面積を減らすように、二つの粒子が接合した形状をとると考えられる。
【0106】
また、図14に示す銅(Cu)とスズ(Sn)の2元系状態図においては、mole Sn/(Cu+Sn)=0.75のプラズマを冷却すると、CuSnとSnが析出し、CuとSnは親和性が低いため、CuSnと、Snは互いに接触する面積を減らすように、CuSnの粒子とSnの粒子が接合したナノサイズ粒子が得られることが推測される。図14中の太線は、mole Sn/(Cu+Sn)=0.75を示す線である。
【0107】
Siを元素A‐1として用い、Cuを元素Mとして用いる場合以外に、元素A‐1をSi、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnから選択し、Cu、AgおよびAuから元素Mを選択して用いるどの組合せにおいても、MA‐1(x≦1、3<x)なる化合物が得られるか、元素Aと元素Mは化合物を作らず、元素Mの単体または固溶体である第3の相が得られる。よって、以上の元素A‐1と元素Mの組合せにおいて、第1の相と第3の相の両方が外表面に露出し、第1の相と第3の相が接合する構成を有するナノサイズ粒子が得られるものと考えられる。
【0108】
以上のように、元素A‐1の粉末と、元素A‐2の粉末と、元素Mの粉末とを混合した原料粉末をナノサイズ粒子製造装置に供給すると、元素A‐1と元素A‐2と元素Mを含むプラズマが生成する。このプラズマが冷却すると、元素A‐1からなる第1の相と、元素A‐2から成る第2の相と、元素A‐1と元素Mの化合物等の球形状の第3の相とが生成し、第1の相と第2の相が接合し、第3の相と第1の相が接合する構成を有するナノサイズ粒子が得られる。
【0109】
第3の実施形態に係るナノサイズ粒子19の形成過程を考察する。図15は、鉄とシリコンの2元系状態図である。シリコン粉末と鉄粉末とをモル比でSi:Fe=3:1になるように混合すると、原料粉末でのmole Si/(Fe+Si)=0.75となる。図15中の太線は、mole Si/(Fe+Si)=0.75を示す線である。高周波コイルにより生成したプラズマは、1万K相当となるので、状態図の温度範囲をはるかに超え、鉄原子とシリコン原子が均一に混合したプラズマが得られる。プラズマが冷却すると、FeSiとSiが析出する。よって、シリコンと鉄のプラズマが冷却すると、粒子内にFeSiとSiを有するナノサイズ粒子が形成される。その際、FeとSiは親和性が高いため、FeSiは、Si中に取り込まれると考えられる。
【0110】
本発明のナノサイズ粒子は、シリコンと鉄の2元系に限るものではない。例えば、図16に示すCo(コバルト)とSi(シリコン)の2元系状態図においても、mole Si/(Co+Si)=0.75のプラズマを冷却すると、CoSiとSiが析出することから、CoSiをSiが覆うナノサイズ粒子が得られることが推測される。図16中の太線は、mole Si/(Co+Si)=0.75を示す線である。
【0111】
Siを元素A‐1として用い、Feを元素Dとして用いる場合以外に、元素A‐1をSi、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnから選択し、元素DをFe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ba、ランタノイド元素(CeおよびPmを除く)、Hf、Ta、W、Re、OsおよびIrから選択したどの組合せにおいても、Fe−Siと同様の2元系状態図が得られ、DA‐1(1<x≦3)なる化合物が得られる。よって、以上の元素A‐1と元素Dの組合せにおいて、第4の相の一部または全てを第1の相が覆う構成を有するナノサイズ粒子が得られるものと考えられる。
【0112】
以上のように、元素A‐1の粉末と、元素A‐2の粉末と、元素Dの粉末を混合した原料粉末をナノサイズ粒子製造装置に供給すると、元素A‐1と元素A‐2と元素Dを含むプラズマが生成する。このプラズマが冷却すると、元素A‐1からなる第1の相と、元素A‐2からなる第2の相と、元素A‐1と元素Dの化合物の第4の相が生成し、第1の相と第2の相が接合し、第4の相が第1の相に覆われた構成を有するナノサイズ粒子が得られる。
【0113】
さらに、第3の実施形態に係り、他の第4の相29を有するナノサイズ粒子27の形成過程を考察する。図16に示すCo(コバルト)とSi(シリコン)の2元系状態図から、CoSiをSiが覆うナノサイズ粒子が得られることが推測される。
【0114】
図17は、コバルトと鉄の2元系状態図である。コバルト粉末と鉄粉末との混合粉末を、プラズマから冷却すると、コバルト単体と鉄コバルト固溶体、鉄単体と鉄コバルト固溶体、または鉄コバルト固溶体のみが析出する。よって、シリコンと鉄とコバルトを含有するプラズマが冷却すると、粒子内にFeSiとCoSiとSiを有するナノサイズ粒子が形成される。この際、シリコンと鉄とコバルトの含有量によっては、ナノサイズ粒子内に鉄コバルト固溶体が析出することがある。その際、FeとSi、CoとSiは親和性が高いため、FeSiやCoSi、鉄コバルト固溶体は、Si中に取り込まれると考えられる。
【0115】
以上のように、元素A−1の粉末と、元素A−2の粉末と、元素Dの粉末と、元素D´の粉末を混合した原料粉末をナノサイズ粒子製造装置に供給すると、元素A−1と元素A−2と元素Dと元素D´を含むプラズマが生成する。このプラズマが冷却すると、元素A−1からなる球形状の第1の相3と、元素A−2からなる球形状の第2の相5と、元素A−1と元素Dの化合物の第4の相21と、元素A−1と元素D´の化合物の他の第4の相29が生成し、第1の相3と第2の相5が接合し、第4の相21と他の第4の相29が第1の相に覆われた構成を有するナノサイズ粒子27が得られる。
【0116】
なお、図18に示す鉄(Fe)とスズ(Sn)の2元系状態図においても、鉄とスズが化合物を形成可能であることから、FeSnをSnが覆うナノサイズ粒子が得られる場合がある。つまり、図5に示すナノサイズ粒子33のように、第2の相5中に他の第4の相34が析出する可能性がある。
【0117】
第4の実施形態に係るナノサイズ粒子35の形成過程を考察すると、元素A‐1の粉末と、元素A‐2の粉末と、元素Mの粉末と、元素Dの粉末を混合した原料粉末をナノサイズ粒子製造装置に供給すると、元素A‐1と元素A‐2と元素Mと元素Dを含むプラズマが生成する。このプラズマが冷却すると、元素A‐1からなる第1の相と、元素A‐2からなる第2の相と、元素A‐1と元素Mの化合物等の第3の相と、元素A‐1と元素Dの化合物の第4の相が生成し、第1の相と第2の相が接合し、第3の相と第1の相とが接合し、第4の相が第1の相に覆われた構成を有するナノサイズ粒子が得られる。
【0118】
また、図19は、銅(Cu)と鉄(Fe)の2元系状態図である。銅と鉄とを含むプラズマを冷却すると、銅と鉄とは固溶体を作らず、銅と鉄とが析出する。よって、ナノサイズ粒子35中に鉄と銅の固溶体が析出することはない。つまり、ナノサイズ粒子35中の第1の相3や第2の相5の中に、元素Dと元素Mの化合物が析出することがない。
【0119】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0120】
1………ナノサイズ粒子
3………第1の相
5………第2の相
7………ナノサイズ粒子
9………他の第2の相
11………ナノサイズ粒子
13………第3の相
15………ナノサイズ粒子
17………他の第3の相
19………ナノサイズ粒子
21………第4の相
23………ナノサイズ粒子
25………元素A‐1の微結晶
27………ナノサイズ粒子
29………他の第4の相
31………ナノサイズ粒子
33………ナノサイズ粒子
34………他の第4の相
35………ナノサイズ粒子
37………ナノサイズ粒子製造装置
39………反応チャンバー
41………原料粉末供給口
42………原料粉末
43………シースガス供給口
44………シースガス
45………高周波コイル
47………高周波電源
49………プラズマ
51………フィルター
53………ミキサー
55………スラリー
57………スラリー原料
59………コーター
61………集電体
63………負極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた2種の元素である元素A‐1と元素A‐2とを含み、
前記元素A‐1の単体または固溶体である第1の相と、
前記元素A‐2の単体または固溶体である第2の相と、を有し、
前記第1の相と前記第2の相との両方が外表面に露出し、
前記第1の相と前記第2の相の外表面が球形状である
ことを特徴とするナノサイズ粒子。
【請求項2】
平均粒径が2〜300nmであることを特徴とする請求項1に記載のナノサイズ粒子。
【請求項3】
前記第1の相と前記第2の相の接合部の界面形状が、円形または楕円形であることを特徴とする請求項1に記載のナノサイズ粒子。
【請求項4】
Si、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた3種の元素である元素A‐1と元素A‐2と元素A‐3とを含み、
前記元素A‐1の単体または固溶体である第1の相と、
前記元素A‐2の単体または固溶体である第2の相と、
前記元素A‐3の単体または固溶体である他の第2の相と、を有し、
前記第1の相と前記第2の相と前記他の第2の相の全てが外表面に露出し、
前記第1の相と前記第2の相と前記他の第2の相の外表面が球形状である
ことを特徴とするナノサイズ粒子。
【請求項5】
前記第1の相がリンまたはホウ素を添加したシリコンであることを特徴とする請求項1または請求項4に記載のナノサイズ粒子。
【請求項6】
Cu、AgおよびAuからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である元素Mをさらに含み
前記元素A‐1と前記元素Mとの化合物または前記元素Mの単体もしくは固溶体である第3の相をさらに有し、
前記第1の相と前記第2の相と前記第3の相との全てが外表面に露出し、
前記第1の相と前記第2の相と前記第3の相の外表面が球形状である
ことを特徴とする請求項1に記載のナノサイズ粒子。
【請求項7】
前記第3の相がMA‐1(x≦1、3<x)なる化合物であることを特徴とする請求項6に記載のナノサイズ粒子。
【請求項8】
前記元素A‐1と前記元素Mの合計に占める前記元素Mの原子比率が0.01〜60%であることを特徴とする請求項6に記載のナノサイズ粒子。
【請求項9】
Cu、AgおよびAuからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素M´をさらに含み、
前記元素M´が、前記第3の相を構成する前記元素Mとは種類の異なる元素であり、
前記元素A‐1と前記元素M´との化合物または前記元素M´の単体もしくは固溶体である他の第3の相をさらに有し、
前記第1の相と前記第2の相と前記第3の相と前記他の第3の相の全てが外表面に露出し、
前記第1の相と前記第2の相と前記第3の相と前記他の第3の相の外表面が球形状である
ことを特徴とする請求項6に記載のナノサイズ粒子。
【請求項10】
Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ba、ランタノイド元素(CeおよびPmを除く)、Hf、Ta、W、Re、OsおよびIrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である元素Dをさらに含み、
前記元素A‐1と前記元素Dとの化合物である第4の相をさらに有し、
前記第4の相の一部または全部が、前記第1の相に覆われており、
前記第1の相の外表面が球形状である
ことを特徴とする請求項1または請求項6に記載のナノサイズ粒子。
【請求項11】
前記第4の相がDA‐1(1<y≦3)なる化合物である
ことを特徴とする請求項10に記載のナノサイズ粒子。
【請求項12】
前記元素A‐1と前記元素A‐2と前記元素Dの合計に占める前記元素Dの原子比率が0.01〜30%であることを特徴とする請求項10に記載のナノサイズ粒子。
【請求項13】
Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ba、ランタノイド元素(CeおよびPmを除く)、Hf、Ta、W、Re、OsおよびIrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である元素D´をさらに含み、
前記元素D´が、前記第4の相を構成する前記元素Dとは種類の異なる元素であり、
前記元素A‐1と前記元素D´との化合物である他の第4の相をさらに有し、
前記他の第4の相の一部または全部が、前記第1の相に覆われている
ことを特徴とする請求項10に記載のナノサイズ粒子。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載のナノサイズ粒子を負極活物質として含むリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項15】
導電助剤をさらに有し、当該導電助剤がC、Cu、Sn、Zn、NiおよびAgからなる群より選ばれた少なくとも1種の粉末であることを特徴とする請求項14に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項16】
前記導電助剤がカーボンナノホーンを含むことを特徴とする請求項15に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項17】
請求項14ないし請求項16のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を用いたリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項18】
リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極と、
請求項17に記載の負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータとを有し、
リチウムイオン伝導性を有する電解質中に、前記正極と前記負極と前記セパレータとを設けたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項19】
Si、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた少なくとも2種の元素を含む原料を、
プラズマ中に供給してナノサイズ粒子を得ることを特徴とするナノサイズ粒子の製造方法。
【請求項20】
Si、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた少なくとも2種の元素と
Cu、AgおよびAuからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素と、
を含む原料を、
プラズマ中に供給してナノサイズ粒子を得ることを特徴とするナノサイズ粒子の製造方法。
【請求項21】
Si、Sn、Al、Pb、Sb、Bi、Ge、InおよびZnからなる群より選ばれた少なくとも2種の元素と
Cu、AgおよびAuからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素と、
Fe、Co、Ni、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ba、ランタノイド元素(CeおよびPmを除く)、Hf、Ta、W、Re、OsおよびIrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素と、
を含む原料を、
プラズマ中に供給してナノサイズ粒子を得ることを特徴とするナノサイズ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−32541(P2011−32541A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180675(P2009−180675)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】