説明

ノズルプレート及びその製造方法、並びに液滴吐出ヘッド及びその製造方法

【課題】安定した吐出特性を有するとともに、ノズル密度の高密度化を図ることができる液滴吐出用のノズルプレート及びその製造方法、並びに液滴吐出ヘッド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】液滴を吐出するためのノズル孔11が、基板面に対して垂直な筒状の噴射口部分11aと、該噴射口部分11aと同軸上に設けられ該噴射口部分よりも径の大きい導入口部分とを有し、前記噴射口部分11aと前記導入口部分11bとの境界部11cがラッパ状に形成されている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出するためのノズル孔を有するノズルプレート及びその製造方法、並びに液滴吐出ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズルプレートと、このノズルプレートに接合されノズルプレートとの間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティプレートとを備え、駆動部により吐出室に圧力を加えることによりインク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商標)方式等がある。
近年、インクジェットヘッドに対して、印字、画質等の高品位化の要求が一段と強まり、そのため高密度化並びに吐出性能の向上が強く要求されている。このような背景から、インクジェットヘッドのノズル部に関して、従来より様々な工夫、提案がなされている。
【0003】
インクジェットヘッドにおいて、インク吐出特性を改善するためには、ノズルとして、先端側に一定断面の細いノズル孔部分と、その後側に円錐状あるいは角錐状に広がったノズル孔部分が形成された断面形状のものを使用することが望ましい。例えば、特許文献1に示されるように、ノズル形状を、先端側を円筒形状とし、後側の部分の内周面を四角錐台形状とすると、全体として円筒形状をしたノズルを使用する場合に比べて、インクキャビティの側からノズルに加わるインク圧力の方向をノズル軸線方向に揃えることができ、安定した吐出特性を得ることができる。また、特許文献2に示されるように、ノズルを、先端側のノズル部分を異方性ドライエッチングにより円筒状に形成し、後側のノズル部分を異方性ウェットエッチングによりテーパ状に形成すれば、インクの澱み部分が発生するおそれが少なくなり、さらに安定した吐出特性を得ることができる。
【0004】
【特許文献1】特開昭56−135075号公報(図2)
【特許文献2】特開平10−315461号公報(図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2のように、インクの導入口となるテーパ状ノズル部分をシリコン単結晶基板に異方性ウェットエッチングで形成する場合には、シリコン単結晶基板の面方位に依存するため、テーパ角が決まってしまい、ノズル密度を上げることには限界があるという課題があった。すなわち、ノズル密度を上げるにはノズルプレートの厚さをより薄くする必要があるが、そうするとノズルプレートが割れたり欠けたりしてハンドリングが難しくなるためである。
【0006】
そこで本発明は、安定した吐出特性を有するとともに、ノズル密度すなわち高密度化を図ることができる液滴吐出用のノズルプレート及びその製造方法、並びに液滴吐出ヘッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係るノズルプレートは、液滴を吐出するためのノズル孔が、基板面に対して垂直な筒状の噴射口部分と、該噴射口部分と同軸上に設けられ該噴射口部分よりも径の大きい導入口部分とを有し、前記噴射口部分と前記導入口部分との境界部がラッパ状に形成されているものである。
本発明のノズルプレートは、ノズル孔の噴射口部分と導入口部分との境界部がラッパ状に形成されているので、境界部で渦等を生ずることがなく、流路抵抗を減少させることができる。したがって、液滴をノズル孔の中心軸方向に吐出させることができ、安定した液滴吐出特性を有するものとなる。また、導入口部分は横断面形状を直筒状の円形もしくは角形に形成できるので、基板厚さを薄くしなくてもノズル密度の高密度化を図ることが可能となる。
【0008】
また、本発明に係るノズルプレートは、前記基板が、単結晶のシリコン基板からなるものである。
液滴吐出ヘッドを構成するキャビティプレートは、一般に、シリコン基板から形成されており、ノズルプレートはこのシリコン基板からなるキャビティプレートに接合される。したがって、同じ材質のシリコン基板を用いることにより、熱膨張特性が同じであるため、強固な接合が得られる。
【0009】
また、本発明において、前記基板は、硼珪酸系のガラス基板からなるものでもよい。
硼珪酸系のガラス基板は、シリコン基板と熱膨張特性が近似しているため、硼珪酸系のガラス基板からなるノズルプレートであっても、剥離のおそれのない強固な接合が得られる。
【0010】
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、液滴を吐出するためのノズル孔が、基板面に対して垂直な筒状の噴射口部分と、該噴射口部分と同軸上に設けられ該噴射口部分よりも径の大きい導入口部分とを有し、二種類以上のガスを交互に使用して異方性ドライエッチングを施すことにより、前記ノズル孔を形成するノズルプレートの製造方法であって、前記二種類以上のガスの導入時間を変化させることにより、前記噴射口部分と前記導入口部分との境界部をラッパ状に形成するものである。
本発明では、二種類以上のガスを交互に使用し、かつ二種類以上のガスの導入時間を変化させて異方性ドライエッチングを施すことにより、ノズル孔の噴射口部分と導入口部分との境界部がラッパ状(テーパもしくはアールの付いた形状を含む)に形成されたノズルプレートを製造することができる。また、本発明では異方性ドライエッチングのみでノズル孔を形成するものであるから、異方性ドライエッチングと異方性ウェットエッチングを組み合わせた製造方法に比べて、低コストでノズルプレートを製造することができる。
【0011】
また、エッチングガスとしては、前記ノズル孔の側面方向のエッチングを抑制して該側面を保護するための第1のガスと、前記ノズル孔の深さ方向のエッチングを促進するための第2のガスとを交互に使用することが好ましい。
前記第1および第2のエッチングガスを交互に使用することにより、ノズル孔の口径を拡大させることなく所望の径で筒状に形成することができる。したがって、より微細なノズル孔を高精度に形成することができる。
【0012】
また、本発明のノズルプレートの製造方法では、前記第1および第2のガスの導入時間を共に一定とする場合を除き、前記第1のガスの導入時間を一定または単調減少し、前記第2のガスの導入時間を一定または単調増加するものである。
これにより、ノズル孔の噴射口部分と導入口部分との境界部をラッパ状に形成することができる。
【0013】
また、前記第1のガスにはフッ化炭素、前記第2のガスにはフッ化硫黄を用いる。
フッ化炭素とフッ化硫黄のエッチングガスを交互に使用し、かつ、これらのガスの導入時間を変化させることにより、異方性ドライエッチングと異方性ウェットエッチングを用いる場合よりも短時間に、ノズル孔の噴射口部分と導入口部分との境界部をラッパ状に形成することができる。
【0014】
また、本発明に係るノズルプレートの製造方法では、液滴を吐出するためのノズル孔が、基板面に対して垂直な筒状で吐出方向の先端側となる噴射口部分と、噴射口部分から吐出方向の後端側に向けてノズル断面積が漸増しているテーパ状部分とを有し、ノズル孔を、シリコン基板をエッチングすることにより形成するノズルプレートの製造方法であって、シリコン基板の一方の面にドライエッチングを施して噴射口部分を形成する工程と、少なくとも一方の面と噴射口部分の側面及び底面とにエッチング保護膜を形成する工程と、エッチング保護膜のうち、噴射口部分の周囲部分を、噴射口部分の孔径よりも大きく除去して開口を形成する工程と、開口が形成されたエッチング保護膜を有するシリコン基板にドライエッチングを施し、テーパ状部分を形成する工程と、シリコン基板を、一方の面とは反対側の面側から噴射口部分の先端部が開口するまで薄板化する工程とを有するものである。
このように、異方性ウェットエッチングに依ることなくドライエッチングでノズル孔のテーパ状部分を形成するため、ノズル密度を高密度とすることが可能である。また、ノズル孔全体をドライエッチングで形成するため、噴射口部分とテーパ状部分との境界部分をなめらかに連続した形状とすることができ、気泡排出性が良く、安定した吐出特性を有するインクジェットヘッドを形成することができる。また、テーパ状部分を形成する際のエッチング工程では、噴射口部分の側面及び底面をエッチング保護膜で保護した状態で行うため、噴射口部分の孔径にエッチングガスの影響が及ぶのを防止でき、噴射口部分の孔径精度を維持することができる。
【0015】
また、本発明に係るノズルプレートの製造方法では、テーパ状部分を形成するドライエッチングを、テーパ状部分の側面方向のエッチングを抑制して側面を保護するための保護膜を形成するための第1のガスと、テーパ状部分の深さ方向のエッチングを促進するための第2のガスと、保護膜をエッチングしてテーパー角を調整するための第3のガスとを導入することにより行うものである。
これにより、テーパ状部分のテーパー角を自由に且つ高い精度で制御することができる。
【0016】
また、前記異方性ドライエッチングとしては、ICP(Inductively Coupled Plasma)放電によるドライエッチングが好適である。
【0017】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記のいずれかのノズルプレートの製造方法を用いて液滴吐出ヘッドを製造するものである。
上記のいずれかのノズルプレートの製造方法を用いて液滴吐出ヘッドを製造すれば、安定した液滴吐出特性を有し、かつ高密度の液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0018】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記のいずれかのノズルプレートを有するものである。これにより、安定した液滴吐出特性を有し、かつ高密度の液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施の形態1.
以下、本発明のノズルプレートを備えた液滴吐出ヘッドの実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、静電駆動方式のインクジェットヘッドについて図1乃至図3を参照して説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、また、駆動方式についても他の異なる駆動方式により液滴を吐出する液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置にも適用できるものである。
【0020】
図1は、本実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図であり、一部を断面で表してある。図2は、図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図であり、ノズル部をさらに拡大して表してある。図3は、図2のインクジェットヘッドの上面図である。なお、図1および図2では、通常使用される状態とは上下逆に示されている。
【0021】
本実施の形態1のインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)10は、図1および図2に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズルプレート1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティプレート2と、キャビティプレート2の振動板22に対峙して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0022】
ノズルプレート1は、例えば厚さ180μmのシリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板とも称する)から作製されている。ノズルプレート1は、複数のノズル孔11が設けられる領域に凹部12が形成され、この凹部12の底面にインク液滴を吐出するためのノズル孔11が開口している。すなわち、ノズル部分の長さ(基板厚み)を凹部12により薄肉化することにより各ノズル孔11の流路抵抗を調整している。これにより、均一な吐出性能を確保するとともに、吐出面(凹部12の底面)に記録用紙などの他の物体が直接接触することがないので、記録用紙の汚損やノズル孔11の先端の損傷などを防止することができる。
【0023】
各ノズル孔11は、図2に示すように、ノズルプレート1の表面(基板表面で凹部12の底面)に対して垂直な筒状の噴射口部分11aと、噴射口部分11aと同軸上に設けられ噴射口部分11aよりも径(あるいは横断面積)の大きい導入口部分11bとを有し、さらに噴射口部分11aと導入口部分11bとの境界部11cがラッパ状(テーパ状やアール等を含む。以下同じ。)に形成されている。これにより、境界部11cにインクの淀み部分が生じないため、ノズル孔11の流路抵抗を低減するとともに、インク滴の吐出方向をノズル孔11の中心軸方向に揃えることができ、安定したインク吐出特性を発揮させることができる。すなわち、インク滴の飛翔方向のばらつきがなくなり、またインク滴の飛び散りがなく、インク滴の吐出量のばらつきを抑制することができる。
【0024】
また、ノズルプレート1の図2において下面(キャビティプレート2との接合側の面)にはインク流路の一部を形成するオリフィス(細溝)13が設けられている。また、後述するキャビティプレート2のリザーバ23に対応する位置に凹部により薄肉化されたダイヤフラム部14が設けられている。ダイヤフラム部14はリザーバ23内の圧力変動を抑制するために設けられている。
【0025】
キャビティプレート2は、例えば厚さ約140μmの(110)面方位のシリコン単結晶基板(この基板も以下、単にシリコン基板とも称する)から作製されている。シリコン基板に異方性ウェットエッチングを施し、インク流路の吐出室21およびリザーバ23を構成するための凹部24、25が形成される。凹部24は前記ノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、図2に示すようにノズルプレート1とキャビティプレート2を接合した際、各凹部24は吐出室21を構成し、それぞれノズル孔11に連通しており、またインク供給口である前記オリフィス13ともそれぞれ連通している。そして、吐出室21(凹部24)の底壁が振動板22となっている。
【0026】
他方の凹部25は、液状材料のインクを貯留するためのものであり、各吐出室21に共通のリザーバ(共通インク室)23を構成する。そして、リザーバ23(凹部25)はそれぞれオリフィス13を介して全ての吐出室21に連通している。また、リザーバ23の底部には後述する電極基板3を貫通する孔が設けられ、この孔のインク供給孔34を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
【0027】
また、上述のように、キャビティプレート2に(110)面方位のシリコン単結晶基板を用いるのは、このシリコン基板に異方性ウエットエッチングを行うことにより、凹部や溝の側面をシリコン基板の上面または下面に対して垂直にエッチングすることができるためであり、これによりインクジェットヘッドの高密度化を図ることができるからである。
【0028】
また、キャビティプレート2の全面もしくは少なくとも電極基板3との対向面には熱酸化やプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によりSiO2やTEOS(Tetraethylorthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン、珪酸エチル)膜等からなる絶縁膜26が膜厚0.1μmで施されている。この絶縁膜26は、インクジェットヘッドを駆動させた時の絶縁破壊や短絡を防止する目的で設けられる。
【0029】
電極基板3は、例えば厚さ約1mmのガラス基板から作製される。中でも、キャビティプレート2のシリコン基板と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適している。これは、電極基板3とキャビティプレート2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティプレート2との間に生じる応力を低減することができ、その結果剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティプレート2を強固に接合することができるからである。
【0030】
電極基板3には、キャビティプレート2の各振動板22に対向する面の位置にそれぞれ凹部32が設けられている。凹部32は、エッチングにより深さ約0.3μmで形成されている。そして、各凹部32内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31が、例えば0.1μmの厚さでスパッタにより形成される。したがって、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ(空隙)は、この凹部32の深さ、個別電極31および振動板22を覆う絶縁膜26の厚さにより決まることになる。このギャップはインクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響する。ここで、個別電極31の材料はITOに限定するものではなく、クロム等の金属等を用いてもよいが、ITOは透明であるので放電したかどうかの確認が行いやすい等の理由から、一般にITOが用いられる。
【0031】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを有する。これらの端子部31bは、図1〜図3に示すように、配線のためにキャビティプレート2の末端部が開口された電極取り出し部29内に露出している。
【0032】
上述したように、ノズルプレート1、キャビティプレート2、および電極基板3は、一般に個別に作製され、これらを図2に示すように貼り合わせることによりインクジェットヘッド10の本体部が作製される。すなわち、キャビティプレート2と電極基板3は陽極接合により接合され、そのキャビティプレート2の上面(図2において上面)にノズルプレート1が接着等により接合される。さらに、振動板22と個別電極31との間に形成される電極間ギャップの開放端部はエポキシ等の樹脂による封止材27で封止される。これにより、湿気や塵埃等が電極間ギャップへ侵入するのを防止することができ、インクジェットヘッド10の信頼性を高く保持することができる。
【0033】
そして最後に、図2、図3に簡略化して示すように、ICドライバ等の駆動制御回路4が各個別電極31の端子部31bとキャビティプレート2上に設けられた共通電極28とに前記フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続される。
以上により、インクジェットヘッド10が完成する。
【0034】
次に、以上のように構成されるインクジェットヘッド10の動作を説明する。
駆動制御回路4は、個別電極31に電荷の供給および停止を制御する発振回路である。この発振回路は例えば24kHzで発振し、個別電極31に例えば0Vと30Vのパルス電位を印加して電荷供給を行う。発振回路が駆動し、個別電極31に電荷を供給して正に帯電させると、振動板22は負に帯電し、個別電極31と振動板22間に静電気力(クーロン力)が発生する。したがって、この静電気力により振動板22は個別電極31に引き寄せられて撓む(変位する)。これによって吐出室21の容積が増大する。そして、個別電極31への電荷の供給を止めると振動板22はその弾性力により元に戻り、その際、吐出室21の容積が急激に減少するため、そのときの圧力により吐出室21内のインクの一部がインク滴としてノズル孔11より吐出する。振動板22が次に同様に変位すると、インクがリザーバ23からオリフィス13を通じて吐出室21内に補給される。
【0035】
本実施の形態1のインクジェットヘッド10は、前述したように、ノズル孔11がノズルプレート1の表面(吐出面)に対して垂直な筒状の噴射口部分11aと、この噴射口部分11aと同軸上に設けられ噴射口部分11aよりも径の大きい導入口部分11bとを有し、さらに噴射口部分11aと導入口部分11bとの境界部11cがラッパ状に形成されているため、ノズル孔11内で渦等を生ずることがなく、ノズル孔11の流路抵抗を減少させることができる。そのため、インク滴をノズル孔11の中心軸方向に真っ直ぐに吐出させることができ、きわめて安定した吐出特性を有する。また、気泡の排出性も良好なものである。
さらに、導入口部分11bの横断面形状を円形や四角形などに形成することができるので、ノズルプレート1の厚さを薄くしなくてもインクジェットヘッド10の高密度化を図ることができる。
【0036】
なお、ノズル孔11の噴射口部分11aおよび導入口部分11bの横断面形状は特に限定されるものではなく、角形や円形などに形成される。但し、円形にする方が吐出特性や加工性の面で有利となるので好ましい。
【0037】
次に、このインクジェットヘッド10の製造方法について図4乃至図9を参照して説明する。
図4乃至図7は、ノズルプレートの製造方法を示す製造工程の断面図であり、図8および図9は、キャビティプレート2および電極基板3の製造方法を示す製造工程の断面図であり、ここでは、主に、電極基板3にシリコン基板200を接合した後にキャビティプレート2を製造する方法を示す。
まず最初に、ノズルプレート1の製造方法を説明する。
【0038】
(1)ノズルプレート1の製造方法
まず、厚さが180μmのシリコン基板100を用意し、このシリコン基板100の全面に膜厚1μmのSiO2膜101を均一に成膜する(図4(A))。このSiO2膜101は、例えば熱酸化装置にシリコン基板100をセットし、酸化温度1075℃、酸素と水蒸気の混合雰囲気中で4時間熱酸化を行うことにより形成する。SiO2膜101はシリコンの耐エッチング材として使用するものである。
【0039】
次に、シリコン基板100の両面にレジスト102をコーティングし、キャビティプレート2と接合される側の接合面100bに、ノズル孔11の導入口部分11bとなる部分105bをパターニングして、導入口部分11bとなる部分105bのレジスト102を除去する(図4(B))。
そして、例えばフッ酸水溶液とフッ化アンモニウム水溶液を1対6で混合した緩衝フッ酸水溶液でSiO2膜101をハーフエッチングし、導入口部分11bとなる部分105bのSiO2膜101を薄くする(図4(C))。
その後、上記レジスト102を剥離する(図4(D))。
【0040】
次に、レジスト102を剥離後、再度シリコン基板100の両面にレジスト106をコーティングし、接合面100bにノズル孔11の噴射口部分11aとなる部分105aをパターニングして、噴射口部分11aとなる部分105aのレジスト106を除去する(図5(E))。
【0041】
そして、例えばフッ酸水溶液とフッ化アンモニウム水溶液を1対6で混合した緩衝フッ酸水溶液でSiO2膜101をハーフエッチングして、噴射口部分11aとなる部分105aのSiO2膜101を開口する(図5(F))。SiO2膜101の開口が終わったら、両面のレジスト106を剥離する(図5(G))。
【0042】
次に、図6(H)に示すように、ICP(Inductively Coupled Plasma)放電によるドライエッチングによってSiO2膜101の開口部を、例えば深さ25μmで異方性ドライエッチングして、ノズル孔11の噴射口部分11aとなる凹部107を形成する。この場合、エッチングガスとして、例えば、C48(フッ化炭素:第1のエッチングガス)、SF6(フッ化硫黄:第2のエッチングガス)を使用し、これらのエッチングガスを交互に使用し、かつエッチングガス導入時間を段階的に変更する。ここで、C48は凹部107の側面方向にエッチングが進行しないように凹部107の側面を保護するために使用し、SF6は凹部107の垂直方向のエッチングを促進するために使用する。
【0043】
本実施の形態1では、例えば、C48、SF6の導入時間をそれぞれ3秒、4.5秒から開始し、SF6の導入時間のみを0.2秒ずつ段階的に増加するように変更し、終了時にはそれぞれ3秒、6秒となるようにした。すなわち、C48の導入時間は毎回3秒と一定とし、SF6の導入時間のみを毎回0.02秒ずつ段階的に増加する。これをそれぞれのエッチングガスについて76回ずつ交互に導入し、終了時にはそれぞれ3秒、6秒となるようにして、異方性ドライエッチングを行った。
【0044】
次に、導入口部分11bとなる部分105aのSiO2膜101のみが無くなるように、例えばフッ酸水溶液とフッ化アンモニウム水溶液を1対6で混合した緩衝フッ酸水溶液でハーフエッチングした(図6(I))。そして、再度ICP放電によるドライエッチングによりSiO2膜101の開口部を、例えば40μmの深さで垂直に異方性ドライエッチングし、凹部107よりも径の大きい凹部108、すなわち導入口部分11bとなる凹部108を形成する。そうしたところ、凹部107の縦断面形状が、図6(I)のように壺状の中太形状から図6(J)、(K)のように庇部109が次第にエッチングされて入口部がテーパ状に拡大していき、さらに図6(L)のように最終的には入口部(ノズル孔11の噴射口部分11aと導入口部分11bの境界部11c)がアールの付いたラッパ状の形状に形成された。
【0045】
次に、シリコン基板100の表面に残るSiO2膜101をフッ酸水溶液で除去した後、シリコン基板100を熱酸化装置にセットし、酸化温度1075℃、酸化時間4時間、水蒸気と酸素の混合雰囲気中の条件で熱酸化処理を行い、ICPドライエッチング装置で加工した噴射口部分11aとなる凹部107および導入口部分11bとなる凹部108の側面と底面に、膜厚1μmのSiO2膜110を均一に成膜する(図7(M))。
【0046】
次に、シリコン基板100の両面にレジスト(図示せず)をコーティングし、インク吐出面となる部分111をパターニングし、例えば、フッ酸水溶液とフッ化アンモニウム水溶液を1対6で混合した緩衝フッ酸水溶液でエッチングし、SiO2膜110を開口し、レジストを剥離する(図7(N))。
【0047】
次に、シリコン基板100を濃度25wt%の水酸化カリウム水溶液に浸漬し、インク吐出面となる部分111をエッチングして、インク吐出面112(図1、図2の凹部12の底面)を形成する。このとき、エッチング部のシリコン基板厚み(ノズル部分の基板厚み)が60μmとなるようにする(図7(O))。なお、このとき、図示は省略するが、図1、図2に示すオリフィス13およびダイヤフラム部14もエッチングにより形成される。
【0048】
最後に、シリコン基板100の表面のSiO2膜110をフッ酸水溶液等で除去すれば、ノズルプレート1が完成する(図7(P))。
【0049】
なお、本実施の形態1のノズルプレート1の製造方法では、第1、第2のエッチングガスであるC48、SF6の導入時間を、それぞれ3秒、3秒から開始し、SF6の導入時間のみを段階的に変更し、終了時にはそれぞれ3秒、6秒となるようにしても、図6(K)に示すように、ノズル孔11の噴射口部分11aと導入口部分11bの境界部11cをアールの付いたラッパ状の形状に形成することができた。
また、C48の導入時間を一定、または単調減少し、SF6の導入時間を一定、または単調増加(但し、C48、SF6の導入時間がともに一定の場合を除く。)させても同様のノズル形状(縦断面形状)が得られる。
また、ドライエッチングの際に、SF6に、酸素(O2)やアルゴン(Ar)、水素(H2)、あるいは3フッ化メタン(CHF3)等を添加してもよい。
また、本実施の形態1のノズルプレート1の製造方法は、単結晶のシリコン基板の代わりに、硼珪酸系のガラス基板を用いることもできる。
【0050】
以上のように、本実施の形態1のノズルプレート1の製造方法によれば、二種類以上のエッチングガスを使用し、そのエッチングガスの導入時間を変化させることにより、ノズル孔11の異方性ドライエッチングを行うものであり、これにより、高い寸法精度で、ノズル孔11の噴射口部分11aと導入口部分11bの境界部11cをラッパ状に形成することができる。
また、異方性ドライエッチングのみでノズル孔11を作製するため、異方性ドライエッチングと異方性ウェットエッチングを組み合わせた製造方法に比べて、低コストでノズルプレート1を製造することができる。
【0051】
(2)キャビティプレート2および電極基板3の製造方法
ここでは、電極基板3にシリコン基板200を接合した後、そのシリコン基板200からキャビティプレート2を製造する方法について図8、図9を参照して簡単に説明する。
【0052】
電極基板3は以下のようにして製造される。
まず、硼珪酸ガラス等からなる板厚約1mmのガラス基板300に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより凹部32を形成する。なお、この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極31ごとに複数形成される。
そして、凹部32の内部に、例えばスパッタによりITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31を形成する。
その後、ドリル等によってインク供給孔34となる孔部34aを形成することにより、電極基板3が作製される(図8(A))。
【0053】
次に、厚さが例えば525μmのシリコン基板200の両面を鏡面研磨した後に、シリコン基板200の片面にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によって厚さ0.1μmのTEOS(TetraEthylorthosilicate)からなるシリコン酸化膜(絶縁膜)26を形成する(図8(B))。なお、シリコン基板200を形成する前に、エッチングストップ技術を利用し振動板22の厚みを高精度に形成するためのボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとは、エッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0054】
そして、このシリコン基板200と、図8(A)のように作製された電極基板3を、例えば360℃に加熱し、シリコン基板200に陽極を、電極基板3を陰極に接続して800V程度の電圧を印加して陽極接合により接合する(図8(C))。
シリコン基板200と電極基板3を陽極接合した後に、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のシリコン基板200をエッチングすることにより、シリコン基板200の厚さを例えば140μmになるまで薄板化する(図8(D))。
【0055】
次に、シリコン基板200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)の全面にプラズマCVDによって例えば厚さ1.5μmのTEOS膜を形成する。
そして、このTEOS膜に、吐出室21となる凹部24およびリザーバ23となる凹部25を形成するためのレジストをパターニングし、これらの部分のTEOS膜をエッチング除去する。
その後、シリコン基板200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングすることにより、吐出室21となる凹部24およびリザーバ23となる凹部25を形成する(図9(E))。このとき、配線のための電極取り出し部29となる部分もエッチングして薄板化しておく。なお、図9(E)のウェットエッチングの工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制することができる。
【0056】
シリコン基板200のエッチングが終了した後に、フッ酸水溶液でエッチングすることによりシリコン基板200の上面に形成されているTEOS膜を除去する(図9(F))。
次に、シリコン基板200の吐出室21となる凹部24等が形成された面に、プラズマCVDによりTEOS膜(絶縁膜26)を例えば厚さ0.1μmで形成する(図9(G))。
その後、RIE(Reactive Ion Etching)等によって電極取り出し部29を開放する。また、電極基板3のインク供給孔34となる孔部からレーザ加工を施してシリコン基板200のリザーバ23となる凹部25の底部を貫通させ、インク供給孔34を形成する(図9(H))。また、振動板22と個別電極31の間の電極間ギャップの開放端部をエポキシ樹脂等の封止材(図示せず)を充填することにより封止する。また、図1、図2に示すように共通電極28がスパッタによりシリコン基板200の上面(ノズルプレート1との接合側の面)の端部に形成される。
【0057】
以上により、電極基板3に接合した状態のシリコン基板200からキャビティプレート2が作製される。
そして最後に、このキャビティプレート2に、前述のように作製されたノズルプレート1を接着等により接合することにより、図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が作製される。
【0058】
本実施の形態1のインクジェットヘッド10の製造方法によれば、キャビティプレート2を、予め作製された電極基板3に接合した状態のシリコン基板200から作製するものであるので、その電極基板3によりキャビティプレート2を支持した状態となるため、キャビティプレート2を薄板化しても、割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易となる。したがって、キャビティプレート2を単独で製造する場合よりも歩留まりが向上する。
【0059】
実施の形態2.
図10は、実施の形態2のインクジェットヘッドの断面図であり、ノズル部をさらに拡大して表してある。図10において、図2と同一部分には同一符号を付し、説明を省略する。
実施の形態2は、実施の形態1のノズルプレート1に代えて、ノズルプレート400としたもので、その他の構成は実施の形態1と同様である。以下、実施の形態2が実施の形態1と異なる部分について説明し、重複する説明は省略する。
【0060】
ノズルプレート400のノズル孔41は、吐出方向の先端側となる円筒状の噴射口部分41aと、噴射口部分41aから吐出方向の後端側に向けてノズル断面積が漸増しているテーパ状部分41bとを有している。なお、噴射口部分41aはノズルプレート400の表面(基板表面で凹部12の底面)に対して垂直に設けられており、噴射口部分41aとテーパ状部分41b とは同軸上に設けられている。かかる構成により、インク滴の吐出方向をノズル孔41の中心軸方向に揃えることができ、安定したインク吐出特性を発揮させることができる。すなわち、インク滴の飛翔方向のばらつきがなくなり、またインク滴の飛び散りがなく、インク滴の吐出量のばらつきを抑制することができる。
【0061】
ここで、実施の形態2は、ノズル密度を高密度化するにあたり、ノズルプレート400の製造工程に特徴を持たせたものであり、その製造工程について以下に詳細に説明する。
【0062】
図11乃至図16は、ノズルプレート400の製造方法を示す製造工程の断面図である。
まず、基板厚み280μmのシリコン基板411を用意し、熱酸化装置にセットし、酸化温度1075℃、酸化時間4時間、酸素と水蒸気の混合雰囲気中の条件で熱酸化処理を行い、シリコン基板411の両面411a、411bに、エッチング保護膜となる膜厚1μmのSiO2膜412を均一に成膜する(図11(A))。
【0063】
次に、シリコン基板411においてキャビティプレート2と接合される側の接合面411aにレジスト413をコーティングし、そのレジスト413から噴射口部分41aに対応する部分413aを除去し、レジストパターンを形成する(図11(B))。
そして、そのレジストパターンをマスクとして、例えば、緩衝フッ酸水溶液(フッ酸水溶液:フッ化アンモニウム水溶液=1:6)でエッチングし、SiO2膜412から噴射口部分41aに対応する部分412aを開口する。このとき、裏面411bのSiO2膜412はエッチングされ、完全に除去される(図11(C))。
その後、レジストパターンを硫酸洗浄などにより剥離する(図11(D))。
【0064】
次に、ICPドライエッチング装置によりSiO2膜412の開口412aを介して、例えば、深さ50μmで垂直に異方性ドライエッチングを行い、噴射口部分41aを形成する(図11(E))。この場合のエッチングガスとしては、例えば、C48、SF6を使用し、これらのエッチングガスを交互に使用すればよい。ここで、C48は形成される溝の側面にエッチングが進行しないように溝側面を保護するために使用し、SF6はSi基板の垂直方向のエッチングを促進させるために使用する。
その後、シリコン基板411の表面に残るSiO2膜412をフッ酸水溶液で除去する(図12(F))。
そして、シリコン基板411を熱酸化装置にセットし、酸化温度1075℃、酸化時間4時間、酸素と水蒸気の混合雰囲気中の条件で熱酸化処理を行い、シリコン基板411表面全体に、エッチング保護膜となる膜厚1μmのSiO2膜414を均一に成膜する(図12(G))。このとき、噴射口部分41aの内面(側面及び底面)全体にもSiO2膜414が形成される。
【0065】
次に、シリコン基板411においてキャビティプレート2と接合される側の接合面411aにレジスト415をコーティングし、そのレジスト415から、テーパ状部分41bをドライエッチングする際のガスの導入路となる部分415aを除去し、レジスト415をパターニングする(図12(H))。
そして、そのレジストパターンをマスクとしてSiO2膜414をRIEドライエッチング装置でドライエッチングし、SiO2膜414に開口414aを形成する(図12(I))。
その後、レジストパターンを硫酸洗浄などにより剥離する(図12(J))。
【0066】
図13は、図12の(J)工程及びそれ以降の工程を示す図で、ノズル孔部分のみを拡大して示している。
ICPドライエッチング装置によりSiO2膜414をエッチングマスクとしてテーパ状にドライエッチングし、テーパ状部分41bを形成する(図13(K))。この場合のエッチングガスとしては、例えばC48などの側面のエッチングが進行しないように側面を保護する保護膜を生成するガス(第1のガス)と、SF6などのシリコン基板411のエッチングを促進するガス(第2のガス)と、有機物(ここでは保護膜)を除去するO2などのガス(第3のガス)を混合して導入する。これにより、SiO2膜414の開口414aを起点としたテーパ状のドライエッチングが可能となる。本例では、SF6とC48とO2とをそれぞれ毎分20、40、50ccずつ導入して、テーパ角75度、深さ14μmのテーパ状部分41bを形成している。ここで、噴射口部分41aの側面及び底面にはエッチング保護膜としてのSiO2 膜414が形成されているため、この(K)のエッチング工程の際に噴射口部分41aにエッチングガスの影響が及ぶことはなく、噴射口部分41aの形状を維持することが可能となっている。
その後、噴射口部分41aの側面及び底面とシリコン基板411の表面に残るSiO2膜414をフッ酸水溶液で除去する(図13(L))。
【0067】
そして、シリコン基板411を熱酸化装置にセットし、酸化温度1000℃、酸化時間2時間、酸素雰囲気中の条件で熱酸化処理を行い、ICPドライエッチング装置で加工した噴射口部分41a及びテーパ状部分41bの側面及び底面を含むシリコン基板411の表面全体に膜厚0.1μmのSiO2膜416を均一に成膜する(図14(M))。
次に、透明材料(ガラス等)の支持基板500に、紫外線または熱などの刺激で容易に接着力が低下する自己剥離層601を持った両面テープ600を張り合わせる(図14(N))。具体的には、支持基板500に張り合わせた両面テープ600の自己剥離層601の面と、シリコン基板411の接合面411aとを向かい合わせ、真空中で貼り合せる。これにより接着界面に気泡が残らないきれいな接着が可能になる。この接着の際に接着界面に気泡が残ると、次の(O)の研削加工で薄板化されるシリコン基板411の板厚がばらつく原因となる。
【0068】
そして、シリコン基板411の吐出面側からバックグラインダーで研削加工を行い、噴射口部分41aの先端部41cが開口するまでシリコン基板411を薄くする(図14(O))。この薄板化の方法としては、他にポリッシャー、CMP装置による方法がある。これらの加工方法を用いた場合、研磨剤のカス等がノズル孔41内に残るため、ノズル孔41内の研磨材の水洗除去工程などで噴射口部分41a及びテーパ状部分41bの内壁は洗浄される。また、これらの方法以外に、ドライエッチングによりシリコン基板411を薄板化するようにしてもよい。すなわち、例えばSF6をエッチングガスとするドライエッチングにより、噴射口部分41aの先端部41cのSiO2膜416が露呈するまでシリコン基板411を薄くし、そして、その先端部41cのSiO2膜416をCF4又はCHF3等のエッチングガスとするドライエッチングで除去するようにしてもよい。
【0069】
次に、オゾンを溶存させた洗浄水にシリコン基板411を10分間浸し、吐出面411aに膜厚2nmの酸化膜417を形成する(図14(P))。このとき、ノズル孔41内に入り込んだ自己剥離層601の一部も除去される。また、シリコン基板411の表面が洗浄され、異物、汚れの付着が無くなり、これにより、次の工程で形成される撥インク膜の均一なコーティングが可能となる。
続いて、シリコン基板411の吐出面411aに撥インク処理を施す(図14(Q))。すなわち、F原子を含む撥インク性を持った材料を蒸着やディッピングで成膜し、撥インク層418を形成する。このとき、噴射口部分41a及びテーパ状部分41bの内壁も撥インク処理される。
次に支持基板500を剥離する。すなわち、先ず、吐出面411aにダイシングテープ700をサポートテープとして貼り付ける(図15(R))。
【0070】
そして、支持基板500側からUV光を照射し両面テープ600の自己剥離層601をシリコン基板411から剥離する(図15(S))。
次にArスパッタもしくは02プラズマ処理によってシリコン基板411の噴射口部分41a及びテーパ状部分41bの内壁に余分に形成された撥インク層418を除去する(図15(T))。
シリコン基板411においてダイシングテープ700を貼り付けている面とは反対側の面411bを真空ポンプに連通した吸着治具800に吸着固定し、その状態でダイシングテープ700を剥離する(図16(U))。
最後に、吸着治具800の吸着固定を解除し、ノズルプレート400が完成する(図16(V))。なお、図示省略したが、シリコン基板411にはノズル孔41を形成するのと同時にノズルプレート外輪となる部分に貫通溝を形成するようにしており、吸着治具800を取り外す段階でノズルプレート400が個片に分割されるようになっている。
【0071】
また、別の実施例として上記(K)の工程のガス導入量を、SF6、C48、O2をそれぞれ毎分20、40、70ccずつとなるようにしたところ、テーパ角65度、深さ13μmのテーパ状部分41bが形成できた。
【0072】
このように本実施の形態2のノズルプレート400の製造方法によれば、異方性ウェットエッチングに依ることなくドライエッチングでテーパ状部分41bを形成するため、ノズル密度を高密度とすることが可能である。また、ノズル孔全体をドライエッチングで形成するため、噴射口部分41aとテーパ状部分41bとの境界部分をなめらかに連続した形状とすることができ、気泡排出性が良く、安定した吐出特性を有するインクジェットヘッドを形成することができる。また、テーパ状部分41bを形成する際のエッチング工程では、噴射口部分41aの側面及び底面をエッチング保護膜としてのSiO2膜414で保護するため、噴射口部分41aの孔径にエッチングガスの影響が及ぶのを防止でき、噴射口部分41aの孔径精度を維持することができる。
【0073】
また、ノズル孔41の先端側の孔形状を円筒形状としたので、ノズルプレート400となるシリコン基板411を研削してノズル孔41の先端部41cを開口する際に、その研削量が所定量よりも多少ずれたとしても、吐出性能に非常に関わるノズル孔径は変化しないため、歩留まり良く製造することが可能となり、すなわち低コストで製造することが可能となる。
【0074】
また、ノズル孔41をICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)放電によるドライエッチングで形成することにより、短時間で高精度に形成することができる。
【0075】
上記の各実施の形態では、インクジェットヘッドおよびそのノズルプレート、ならびにこれらの製造方法について述べたが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、ノズル孔より吐出される液状材料を変更することにより、インクジェットプリンタのほか、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図。
【図3】図2のインクジェットヘッドの上面図。
【図4】ノズルプレートの製造方法を示す製造工程の断面図。
【図5】図4に続く製造工程を示す断面図。
【図6】図5に続く製造工程を示す断面図。
【図7】図6に続く製造工程を示す断面図。
【図8】キャビティプレートおよび電極基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図9】図8に続く製造工程を示す断面図。
【図10】実施の形態2に係るインクジェットヘッドの断面図。
【図11】図10のノズルプレートの製造方法を示す製造工程の断面図。
【図12】図11に続くノズルプレートの製造工程の断面図。
【図13】図12に続くノズルプレートの製造工程の断面図。
【図14】図13に続くノズルプレートの製造工程の断面図。
【図15】図14に続くノズルプレートの製造工程の断面図。
【図16】図15に続くノズルプレートの製造工程の断面図。
【符号の説明】
【0077】
1 ノズルプレート、2 キャビティプレート、3 電極基板、4 駆動制御回路、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、11a 噴射口部分、11b 導入口部分、11c 境界部、12 凹部、13 オリフィス、14 ダイヤフラム部、21 吐出室、22 振動板、23 リザーバ、24 凹部、25 凹部、26 絶縁膜、27 封止材、28 共通電極、29 電極取り出し部、31 個別電極、31a リード部、31b 端子部、32 凹部、34 インク供給孔、100 シリコン基板、101 SiO2膜、102 レジスト、106 レジスト、107 凹部、108 凹部、109 庇部、110 SiO2膜、112 インク吐出面、200 シリコン基板、300 ガラス基板、411 シリコン基板、412 SiO2 膜、414 SiO2膜、414a 開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するためのノズル孔が、基板面に対して垂直な筒状の噴射口部分と、該噴射口部分と同軸上に設けられ該噴射口部分よりも径の大きい導入口部分とを有し、前記噴射口部分と前記導入口部分との境界部がラッパ状に形成されていることを特徴とするノズルプレート。
【請求項2】
前記基板は、単結晶のシリコン基板からなることを特徴とする請求項1記載のノズルプレート。
【請求項3】
前記基板は、硼珪酸系のガラス基板からなることを特徴とする請求項1記載のノズルプレート。
【請求項4】
液滴を吐出するためのノズル孔が、基板面に対して垂直な筒状の噴射口部分と、該噴射口部分と同軸上に設けられ該噴射口部分よりも径の大きい導入口部分とを有し、二種類以上のガスを交互に使用して異方性ドライエッチングを施すことにより、前記ノズル孔を形成するノズルプレートの製造方法であって、前記二種類以上のガスの導入時間を変化させることにより、前記噴射口部分と前記導入口部分との境界部をラッパ状に形成することを特徴とするノズルプレートの製造方法。
【請求項5】
エッチングガスとして、前記ノズル孔の側面方向のエッチングを抑制して該側面を保護するための第1のガスと、前記ノズル孔の深さ方向のエッチングを促進するための第2のガスとを交互に使用することを特徴とする請求項4記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項6】
前記第1および第2のガスの導入時間を共に一定とする場合を除き、前記第1のガスの導入時間を一定または単調減少し、前記第2のガスの導入時間を一定または単調増加することを特徴とする請求項4または5記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項7】
前記第1のガスにはフッ化炭素、前記第2のガスにはフッ化硫黄を用いることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項8】
液滴を吐出するためのノズル孔が、基板面に対して垂直な筒状で吐出方向の先端側となる噴射口部分と、該噴射口部分から吐出方向の後端側に向けてノズル断面積が漸増しているテーパ状部分とを有し、前記ノズル孔を、シリコン基板をエッチングすることにより形成するノズルプレートの製造方法であって、
前記シリコン基板の一方の面にドライエッチングを施して前記噴射口部分を形成する工程と、
少なくとも前記一方の面と前記噴射口部分の側面及び底面とにエッチング保護膜を形成する工程と、
前記エッチング保護膜のうち、前記噴射口部分の周囲部分を、前記噴射口部分の孔径よりも大きく除去して開口を形成する工程と、
前記開口が形成された前記エッチング保護膜を有する前記シリコン基板にドライエッチングを施し、前記テーパ状部分を形成する工程と、
前記シリコン基板を、前記一方の面とは反対側の面側から前記噴射口部分の先端部が開口するまで薄板化する工程と
を有することを特徴とするノズルプレートの製造方法。
【請求項9】
前記テーパ状部分を形成するドライエッチングは、前記テーパ状部分の側面方向のエッチングを抑制して該側面を保護するための保護膜を形成するための第1のガスと、前記テーパ状部分の深さ方向のエッチングを促進するための第2のガスと、前記保護膜をエッチングしてテーパー角を調整するための第3のガスとを導入することにより行うことを特徴とする請求項8記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項10】
前記異方性ドライエッチングは、ICP放電によるドライエッチングであることを特徴とする請求項4乃至9のいずれかに記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項11】
請求項4乃至10のいずれかに記載のノズルプレートの製造方法を用いて液滴吐出ヘッドを製造することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至3のいずれかに記載のノズルプレートを有することを特徴とする液滴吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−55241(P2007−55241A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176592(P2006−176592)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】