説明

ハイブリッド式ショベルの制御方法

【課題】作業要素の初動時の操作性を向上させるハイブリッド式ショベルの制御方法を提供すること。
【解決手段】本発明の実施例に係るハイブリッド式ショベルの制御方法は、レバー信号とエンジン出力状態とに基づいて、通常時のエンジン回転数制御指令と通常時よりも高い初動時のエンジン回転数制御指令とを切り換える。初動時のエンジン回転数制御指令は、レバー信号と傾転角とに対応するエンジン回転数を含む。アシストモータ12は、初動時のエンジン回転数制御指令に基づいてエンジン11をアシストする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン駆動の可変容量ポンプを備えるハイブリッド式ショベルの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ターボ過給圧の推移に基づいてエンジン負荷の変動を検出し、その検出結果に基づいてEGR(排気再循環)制御を実行する油圧ショベルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−163638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の油圧ショベルは、エンジン負荷の変動の検出結果をEGR制御に利用するのみであり、エンジン負荷が増大し始めるときのトルク不足に対処するためにその検出結果を利用することはない。そのため、特許文献1に記載の油圧ショベルは、ブーム、アーム、バケット等の作業要素が操作されエンジン負荷が増大し始めるときに、可変容量ポンプのトルクがエンジンのトルクを上回らないように可変容量ポンプのトルクを一定レベル以下に制限する必要がある。無負荷状態にあったエンジンが十分なトルクを出力するまでに一定の時間を要するためである。その結果、特許文献1に記載の油圧ショベルは、作業要素の初動時の動作速度を制限することとなり、操作者にもたつき感を抱かせてしまう。
【0005】
上述の点に鑑み、本発明は、作業要素の初動時の操作性を向上させるハイブリッド式ショベルの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明の実施例に係るハイブリッド式ショベルの制御方法は、レバー信号とエンジン出力状態とに基づいて、通常時のエンジン回転数制御指令と通常時よりも高い初動時のエンジン回転数制御指令とを切り換えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上述の手段により、本発明は、作業要素の初動時の操作性を向上させるハイブリッド式ショベルの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ハイブリッド式ショベルの側面図である。
【図2】第1実施形態によるハイブリッド式ショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。
【図3】蓄電系の構成を示すブロック図である。
【図4】初動時制御の原理の説明図である。
【図5】初動時制御を実行するコントローラの構成を示すブロック図(その1)である。
【図6】図5の構成を有するコントローラによる初動時制御の効果の説明図である。
【図7】初動時制御を実行するコントローラの構成を示すブロック図(その2)である。
【図8】図7の構成を有するコントローラによる初動時制御の効果の説明図である。
【図9】第2実施形態によるハイブリッド式ショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明が適用されるハイブリッド式ショベルを示す側面図である。
【0010】
ハイブリッド式ショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には、作業要素としてのブーム4が取り付けられている。また、ブーム4の先端には、作業要素としてのアーム5が取り付けられ、アーム5の先端には、作業要素としてのバケット6が取り付けられている。ブーム4、アーム5及びバケット6は、アタッチメントを構成し、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン等の動力源が搭載される。
【0011】
図2は、本発明の第1実施形態によるハイブリッド式ショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。図2において、機械的動力系は二重線、高圧油圧ラインは実線(太線)、パイロットラインは破線、電気駆動・制御系は実線(細線)でそれぞれ示されている。
【0012】
過給機を備えた機械式駆動部としてのエンジン11と、アシスト駆動部としての電動発電機12は、変速機13の2つの入力軸にそれぞれ接続されている。変速機13の出力軸には、可変容量型油圧ポンプとしてのメインポンプ14と固定容量型油圧ポンプとしてのパイロットポンプ15が接続されている。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。
【0013】
また、エンジン11には、エンジン制御装置11Aが接続されている。エンジン制御装置11Aは、過給機によるエンジン過給圧を検出するエンジン過給圧センサを含む。
【0014】
また、メインポンプ14には、レギュレータ14Aが接続されている。レギュレータ14Aは、メインポンプ14のポンプ容積を制御する装置であり、例えば、斜板傾転角制御装置である。具体的には、レギュレータ14Aは、吐出圧連動部14Aa、ポンプ比例弁14Ab、及びポンプ比例弁連動部14Acで構成される。吐出圧連動部14Aaは、メインポンプ14の吐出圧に連動するピストンを含むシリンダであり、そのピストンが斜板に結合されている。吐出圧連動部14Aaは、メインポンプ14の吐出圧が上昇した場合にポンプ容積を低減させるように斜板の傾転角を調整する。ポンプ比例弁連動部14Acは、ポンプ比例弁14Abの出力圧に連動するピストンを含むシリンダであり、そのピストンが斜板に結合されている。ポンプ比例弁連動部14Acは、ポンプ比例弁14Abの出力圧が上昇した場合にポンプ容積を低減させるように斜板の傾転角を調整する。ポンプ比例弁14Abは、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用して入力電流値に応じた圧力の作動油をポンプ比例弁連動部14Acに対して供給する。
【0015】
レギュレータ14Aは、例えば、作業要素が何れも操作されていない場合、すなわち無操作状態の場合に、ポンプ容積(傾転角)を最小にしてエンジンの負担を抑制し、作業要素が操作された場合に、ポンプ容積(傾転角)を増大させて必要な作動油が油圧アクチュエータに供給されるようにする。
【0016】
コントロールバルブ17は、ハイブリッド式ショベルにおける油圧系の制御を行う制御装置である。下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9等の油圧アクチュエータは、高圧油圧ラインを介してコントロールバルブ17に接続される。
【0017】
電動発電機12には、インバータ18を介して、蓄電器としてのキャパシタを含む蓄電系(蓄電装置)120が接続される。蓄電系120には、インバータ20を介して電動作業要素としての旋回用電動機21が接続されている。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回変速機24が接続される。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続される。旋回用電動機21と、インバータ20と、レゾルバ22と、メカニカルブレーキ23と、旋回変速機24とで負荷駆動系が構成される。ここで、旋回用電動機21が上部旋回体3を旋回駆動するための旋回用電動モータに相当し、メカニカルブレーキ23が上部旋回体3に機械的にブレーキをかけておくブレーキ装置に相当する。
【0018】
操作装置26は、レバー26A、レバー26B、ペダル26Cを含む。レバー26A、レバー26B、及びペダル26Cは、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及び圧力センサ29にそれぞれ接続される。圧力センサ29は、電気系の駆動制御を行うコントローラ30に接続されている。
【0019】
吐出圧センサ29Aは、メインポンプ14の吐出圧を検出するセンサであり、コントローラ30に対して検出値を出力する。
【0020】
図3は蓄電系120の構成を示すブロック図である。蓄電系120は、蓄電器としてのキャパシタ19と、昇降圧コンバータとDCバス110とを含む。第2の蓄電器としてのDCバス110は、第1の蓄電器としてのキャパシタ19、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を制御する。キャパシタ19には、キャパシタ電圧値を検出するためのキャパシタ電圧検出部112と、キャパシタ電流値を検出するためのキャパシタ電流検出部113が設けられている。キャパシタ電圧検出部112とキャパシタ電流検出部113によって検出されるキャパシタ電圧値とキャパシタ電流値は、コントローラ30に供給される。
【0021】
昇降圧コンバータ100は、電動発電機12及び旋回用電動機21の運転状態に応じて、DCバス電圧値を一定の範囲内に収まるように昇圧動作と降圧動作を切り換える制御を行う。DCバス110は、インバータ18及び20と昇降圧コンバータ100との間に配設されており、キャパシタ19、電動発電機12、及び旋回用電動機21の間での電力の授受を行う。
【0022】
図2に戻り、コントローラ30は、ハイブリッド式ショベルの駆動制御を行う主制御部としての制御装置である。コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置で構成され、CPUが内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムを実行することにより実現される装置である。
【0023】
コントローラ30は、圧力センサ29から供給される信号を速度指令に変換し、旋回用電動機21の駆動制御を行う。圧力センサ29から供給される信号は、旋回機構2を旋回させるために操作装置26を操作した場合の操作量を表す信号に相当する。
【0024】
また、コントローラ30は、電動発電機12の運転制御(電動(アシスト)運転又は発電運転の切り換え)を行うとともに、昇降圧制御部としての昇降圧コンバータ100を駆動制御することによるキャパシタ19の充放電制御を行う。コントローラ30は、キャパシタ19の充電状態、電動発電機12の運転状態(電動(アシスト)運転又は発電運転)、及び旋回用電動機21の運転状態(力行運転又は回生運転)に基づいて、昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切換制御を行い、これによりキャパシタ19の充放電制御を行う。
【0025】
この昇降圧コンバータ100の昇圧動作と降圧動作の切換制御は、DCバス電圧検出部111によって検出されるDCバス電圧値、キャパシタ電圧検出部112によって検出されるキャパシタ電圧値、及びキャパシタ電流検出部113によって検出されるキャパシタ電流値に基づいて行われる。キャパシタ19は、昇降圧コンバータ100を介してDCバス110との間で電力の授受が行えるように、充放電可能な蓄電器であればよい。なお、図3には、蓄電器としてキャパシタ19を示すが、キャパシタ19の代わりにリチウムイオン電池等の充放電可能な二次電池、リチウムイオンキャパシタ、又は、電力の授受が可能なその他の形態の電源を用いてもよい。
【0026】
以上のような構成において、アシストモータである電動発電機12が発電した電力は、インバータ18を介して蓄電系120のDCバス110に供給され、昇降圧コンバータ100を介してキャパシタ19に供給される。旋回用電動機21が回生運転して生成した回生電力は、インバータ20を介して蓄電系120のDCバス110に供給され、昇降圧コンバータ100を介してキャパシタ19に供給される。
【0027】
また、コントローラ30は、アタッチメントの初動時の操作性を向上させる初動時制御を行う。
【0028】
ここで、図4を参照しながら、初動時制御の原理について説明する。図4は、ブーム4が上げ操作されたときの、メインポンプ14のポンプトルクT、メインポンプ14のポンプ吐出流量Q、ブームシリンダ7のボトム側油室に流入する作動油量Q、及びブーム4の動作速度Vの関係を示す。
【0029】
メインポンプ14のポンプトルクTは、メインポンプ14の最大ポンプ容積VMAXと、傾転角制御量X(現在の傾転角の最大傾転角に対する割合であり、0以上1以下の値となる。)と、メインポンプ14の吐出圧Pとの積で表される。
【0030】
また、ポンプ吐出流量Qは、最大ポンプ容積VMAXと、傾転角制御量Xと、エンジン回転数Nとの積で表される。
【0031】
このように、エンジン回転数Nの増大は、ポンプ吐出流量Qを増大させるが、メインポンプ14のポンプトルクTに影響しない。
【0032】
なお、ブームシリンダ7のボトム側油室に流入する作動油量Qは、他の油圧アクチュエータが作動していない場合、ポンプ吐出流量Qに比例する。また、ブーム4の動作速度Vは、ブームシリンダ7のボトム側油室に流入する作動油量Qに比例する。すなわち、ブーム4の動作速度Vは、ポンプ吐出流量Q、ひいてはエンジン回転数Nに比例する。
【0033】
このような関係により、コントローラ30は、ブームシリンダ7の作動油量Qに基づいてメインポンプ14のポンプ吐出流量Qを推定する。また、コントローラ30は、推定したポンプ吐出流量Qとそのときの傾転角制御量Xとに基づいて、初動時に必要なエンジン回転数Nを算出することができる。
【0034】
上述の関係より、コントローラ30は、傾転角制御量Xを固定したままであっても、エンジン回転数Nを増大させることで、メインポンプ14のポンプトルクTを増大させることなく、ブーム4の動作速度Vを増大させることができる。これは、ブーム4の初動時にエンジン11が十分なトルクを出力できない場合であっても、エンジン11のトルク不足に起因してブーム4の動作速度が制限されてしまうのを回避できることを意味する。
【0035】
次に、図5を参照しながら、初動時制御を実行するコントローラ30の構成について説明する。
【0036】
初動時制御に関し、コントローラ30は、操作判断部300及びエンジン回転数制御指令生成部301を有する。
【0037】
操作判断部300は、エンジン回転数制御指令生成部301に対して切換信号を出力する機能要素である。
【0038】
具体的には、操作判断部300は、圧力センサ29が出力する操作装置26の操作状態を表すレバー信号に基づいて、アタッチメントの作動が必要な状態であるか否かを判断する。
【0039】
また、操作判断部300は、エンジン負荷率及びエンジン過給圧等のエンジン出力状態に基づいて、エンジン11の負荷状態を判断する。
【0040】
エンジン負荷率は、エンジン11の定格トルクに対する現在のエンジントルクとして算出される。ポンプトルクは、例えば、吐出圧センサ29Aが出力するメインポンプ14の吐出圧とレギュレータ14Aが出力する傾転角すなわちポンプ容積とに基づいて算出される。なお、エンジントルクは、例えば、エンジン制御装置11Aが出力する値である。
【0041】
エンジン過給圧は、エンジンの最大出力を表す指標として用いられる。エンジンの最大出力は、エンジン過給圧が大きくなるにつれて大きくなる。なお、エンジン過給圧は、例えば、エンジン制御装置11Aが出力する値である。
【0042】
操作判断部300は、エンジン11が無負荷状態にあり、且つ、アタッチメントの作動が必要な状態にあると判断した場合に、エンジン回転数制御指令生成部301に対して初動時切換信号を出力する。一方、操作判断部300は、エンジン11が負荷状態にあると判断した場合、或いは、アタッチメントの作動が必要な状態にないと判断した場合に、エンジン回転数制御指令生成部301に対して通常時切換信号を出力する。
【0043】
エンジン回転数制御指令生成部301は、エンジン回転数制御指令を生成する機能要素である。
【0044】
具体的には、エンジン回転数制御指令生成部301は、操作判断部300からの初動時切換信号又は通常時切換信号に応じて、初動時エンジン回転数又は通常時エンジン回転数の何れか一方に対応するエンジン回転数制御指令を生成し、生成したエンジン回転数制御指令をエンジン制御装置11A及び電動発電機12に対して出力する。
【0045】
また、エンジン回転数制御指令生成部301は、例えば、圧力センサ29が出力する操作装置26の操作状態を表すレバー信号と、レギュレータ14Aが出力する傾転角とに基づいて、初動時エンジン回転数を決定する。
【0046】
具体的には、エンジン回転数制御指令生成部301は、例えば、内部メモリに予め記憶された、操作装置26のレバー操作角度と傾転角との組み合わせに適したエンジン回転数を定める参照テーブルを参照し、現時点におけるレバー操作角度と傾転角との組み合わせに適した初動時エンジン回転数を決定する。或いは、エンジン回転数制御指令生成部301は、操作対象の油圧アクチュエータに流入する作動油量に基づいてメインポンプ14のポンプ吐出流量を推定し、推定したポンプ吐出流量とそのときの傾転角とに基づき、式1(図4参照。)を用いて初動時エンジン回転数を算出してもよい。なお、通常時エンジン回転数は、内部メモリに予め記憶される一定値である。
【0047】
そして、エンジン回転数制御指令生成部301は、操作判断部300から初動時切換信号を受信した場合に、初動時エンジン回転数に関するエンジン回転数制御指令を生成し、生成したエンジン回転数制御指令をエンジン制御装置11A及び電動発電機12に対して出力する。或いは、エンジン回転数制御指令生成部301は、通常時切換信号を受信した場合に、通常時エンジン回転数に関するエンジン回転数制御指令を生成し、生成したエンジン回転数制御指令をエンジン制御装置11A及び電動発電機12に対して出力する。
【0048】
エンジン制御装置11Aは、エンジン回転数制御指令として初動時エンジン回転数を受信すると、エンジン11の回転数を初動時エンジン回転数まで増大させる。
【0049】
また、電動発電機12は、エンジン回転数制御指令として初動時エンジン回転数を受信すると、エンジン11の回転数が初動時エンジン回転数となるようにエンジン11をアシストする。
【0050】
次に、図6を参照しながら、図5の構成を有するコントローラ30による初動時制御の効果について説明する。
【0051】
図6は、ブーム4の初動時制御を実行する際の各種物理量の時間的推移を示し、図6(A)がポンプ容積の推移を示し、図6(B)がエンジン回転数の推移を示し、図6(C)がポンプ吐出流量の推移を示し、図6(D)がポンプトルクの推移を示す。また、図6の破線で表される推移は、ブーム4の初動時にエンジン回転数を増大させない場合の推移を比較例として示す。
【0052】
ブーム4が上げ操作されると、コントローラ30は、操作判断部300により、必要なトルクをエンジン11が出力できないと判定する。そして、コントローラ30は、初動時エンジン回転数になるように、電動発電機12を速度制御する。所定の回転数になるまでトルク制御を継続させてもよい。これにより、コントローラ30は、図6(B)で示すように、時刻t1において、エンジン回転数を通常時エンジン回転数から初動時エンジン回転数に増大させる。その結果、コントローラ30は、図6(A)及び図6(D)で示すように、エンジン回転数を増大させない場合と同様にポンプトルク及びポンプ容積を推移させる。その上で、コントローラ30は、図6(C)で示すように、ポンプ吐出流量の増大率を大きくすることができる。すなわち、コントローラ30は、ポンプトルクをエンジントルク未満としながら、ブーム4をより迅速に上昇させることができる。
【0053】
その後、図6(C)で示すように、時刻t2においてポンプ吐出流量が所定値に達すると、コントローラ30は、初動時エンジン回転数となっているエンジン回転数を徐々に減少させながら通常時エンジン回転数に戻す。時間の経過と共にエンジン過給圧が増大してエンジントルクも増大するためである。すなわち、エンジン回転数を初動時エンジン回転数まで増大させなくとも、ポンプ容積を増大させることによって、ポンプ吐出流量を所定値で維持できるようになるためである。なお、ポンプ吐出流量の所定値は、操作判断部300により操作装置26の操作量に基づいて決定される。
【0054】
その後、図6(B)で示すように、時刻t3において、エンジン回転数は通常時エンジン回転数に復帰する。もはやエンジン回転数を通常時エンジン回転数より大きくする必要がないためである。すなわち、図6(C)で示すように、ポンプ吐出流量は、時刻t3の時点では、ブーム4の初動時にエンジン回転数を増大させなかった場合であっても、所定値に達するためである。
【0055】
以上により、コントローラ30は、ブーム4の初動時にエンジン回転数を増大させることによって、比較例と比べてポンプ容積すなわちポンプトルクの増大パターンを変化させなくとも、ポンプ吐出流量を一時的に増大させ、ブーム4の初動時の動作速度ひいては操作性を向上させることができる。
【0056】
なお、図6で示す初動時制御の効果は、ブーム4の上げ操作の初動時を例に説明されたが、他の作業要素の操作の初動時においても同様に実現される。また、ここではブーム単独動作時の事例を説明したが、ブーム4及びアーム5の複合動作時のメインポンプ14のポンプ吐出流量は、ブームシリンダ7とアームシリンダ8とに流入する作動油量に基づいて推定される。
【0057】
次に、図7を参照しながら、初動時制御を実行するコントローラ30の別の構成について説明する。
【0058】
図7の構成は、ポンプ比例弁制御指令生成部302を備える点、及びエンジン回転数制御指令生成部301が傾転角に関する情報をポンプ比例弁制御指令生成部302から取得する点で図5の構成と相違するが、その他の点で図5の構成と共通する。そのため、以下では、共通点の説明を省略しながら、相違点を詳細に説明する。
【0059】
ポンプ比例弁制御指令生成部302は、ポンプ比例弁制御指令を生成する機能要素である。ポンプ比例弁制御指令生成部302は、操作判断部300からの初動時切換信号又は通常時切換信号に応じて、初動時電流パターン又は通常時電流パターンの何れか一方に関するポンプ比例弁制御指令を生成し、生成したポンプ比例弁制御指令をポンプ比例弁14Abに対して出力する。
【0060】
具体的には、ポンプ比例弁制御指令生成部302は、吐出圧センサ29Aが出力するメインポンプ14の吐出圧と、エンジン制御装置11Aが出力するエンジン過給圧とに基づいて、メインポンプ14が無負荷状態にあるか否かを判断する。
【0061】
そして、ポンプ比例弁制御指令生成部302は、メインポンプ14が無負荷状態にあると判断した場合に、メインポンプ14によりエンジン11の負担を軽減可能であるとし、エンジン11の負担を軽減させるために必要なメインポンプ14のポンプ容積(傾転角)を決定する。
【0062】
なお、レギュレータ14Aの吐出圧連動部14Aaによる傾転角の変化はメインポンプ14の吐出圧によって決定されるが、レギュレータ14Aのポンプ比例弁連動部14Acによる傾転角の変化は、ポンプ比例弁14Abに供給される電流パターンに応じて決定される。
【0063】
そこで、ポンプ比例弁制御指令生成部302は、決定したポンプ容積(傾転角)を実現すべく、ポンプ比例弁14Abに対して出力する初動時電流パターンに関するポンプ比例弁制御指令を生成する。なお、初動時電流パターン及び通常時電流パターンは何れも、内部メモリに予め記憶される電流パターンである。
【0064】
なお、上記では、決定されたポンプ容積(傾転角)に基づいて初動時電流パターンが出力される例を記載したが、メインポンプ14が無負荷状態の際には、ポンプ容積(傾転角)にかかわらず、予め定めた初動時電流パターンが出力されるようにしてもよい。
【0065】
そして、ポンプ比例弁制御指令生成部302は、操作判断部300から初動時切換信号を受信した場合には、初動時電流パターンに関するポンプ比例弁制御指令をポンプ比例弁14Abに対して出力し、操作判断部300から通常時切換信号を受信した場合には、通常時電流パターンに関するポンプ比例弁制御指令をポンプ比例弁14Abに対して出力する。
【0066】
ポンプ比例弁14Abは、ポンプ比例弁制御指令として初動時電流パターンの供給を受けると、所望の傾転角ひいては所望のポンプ容積が実現されるようにポンプ比例弁連動部14Acに対して作動油を供給する。
【0067】
また、ポンプ比例弁制御指令生成部302は、操作判断部300から初動時切換信号を受信した場合には、上述のように導き出したポンプ容積(傾転角)をエンジン回転数制御指令生成部301に対して出力し、操作判断部300から通常時切換信号を受信した場合には、レギュレータ14Aが出力する傾転角をエンジン回転数制御指令生成部301に対して出力する。なお、エンジン回転数制御指令生成部301は、ポンプ比例弁制御指令生成部302を経由することなく、レギュレータ14Aが出力する傾転角を直接的に取得するようにしてもよい。
【0068】
また、図7の構成では、エンジン回転数制御指令生成部301は、1又は複数の制御周期毎に、圧力センサ29が出力する操作装置26の操作状態を表すレバー信号と、レギュレータ14Aが出力する傾転角とに基づいて、初動時エンジン回転数を決定する。或いは、エンジン回転数制御指令生成部301は、1又は複数の制御周期毎に、操作対象の油圧アクチュエータに流入する作動油量に基づいてメインポンプ14のポンプ吐出流量を推定し、推定したポンプ吐出流量とそのときの傾転角とに基づき、式1(図4参照。)を用いて初動時エンジン回転数を算出してもよい。
【0069】
次に、図8を参照しながら、図7の構成を有するコントローラ30による初動時制御の効果について説明する。
【0070】
図8は、図6と同様、ブーム4の初動時制御を実行する際の各種物理量の時間的推移を示す。なお、図8は、比較のため、図6の実線で表される推移を点線で示す。
【0071】
ブーム4が上げ操作されると、コントローラ30は、操作判断部300により、必要なトルクをエンジン11が出力できないと判定する。そして、コントローラ30は、図8(B)で示すように、時刻t1において、エンジン回転数制御指令生成部301が1又は複数の制御周期毎に出力する初動時エンジン回転数へのエンジン回転数の調整を開始する。なお、本実施例における初動時エンジン回転数は、図5の構成を有するコントローラ30による初動時制御の場合と比べて低くなっている。メインポンプ14の吐出圧とエンジン過給圧とをより詳細に考慮しながらエンジン11が出力可能なトルクをより詳細に判断し、ポンプトルクすなわちポンプ容積をより積極的に増大させているためである。
【0072】
図8(A)及び図8(D)は、図5の構成を有するコントローラ30による初動時制御の場合と比べ、ポンプトルク及びポンプ容積がより高めに推移していることを示す。また、図8(B)は、図5の構成を有するコントローラ30による初動時制御の場合と比べ、エンジン回転数の増大幅が抑制されていることを示す。一方で、図8(C)は、ポンプ吐出流量が、図5の構成を有するコントローラ30による初動時制御の場合と同様に推移することを示す。
【0073】
以上により、図7の構成を有するコントローラ30は、図5の構成を有するコントローラに比べ、ブーム4の初動時にポンプ容積すなわちポンプトルクをより積極的に増大させる。その結果、図5の構成を有するコントローラによる場合と同様のポンプ吐出流量の推移を実現しながら、ブーム4の初動時におけるエンジン回転数の増大幅を抑制することができる。すなわち、ブーム4の初動時の動作速度ひいては操作性を向上させながらも、燃費を向上させることができる。
【0074】
なお、図8で示す初動時制御の効果は、ブーム4の上げ操作の初動時を例に説明されたが、他の作業要素の操作の初動時においても同様に実現される。
【0075】
次に、第2実施形態について説明する。図9は、本発明の第2実施形態によるハイブリッド式ショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。図9において、図2に示す構成部品と同等な部品には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0076】
図9に示すように、第2実施形態によるハイブリッド式ショベルは、インバータ20、旋回用電動機21、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回変速機24で構成される負荷駆動系の代わりに、旋回用油圧モータ21Bを備える点で、第1実施形態によるハイブリッド式ショベルと相違するが、その他の点で共通する。
【0077】
第2実施形態によるハイブリッド式ショベルは、第1実施形態によるハイブリッド式ショベルと同様、図5及び図7の何れの構成を有するコントローラ30をも搭載可能である。そして、第2実施形態によるハイブリッド式ショベルに搭載されるコントローラ30は、第1実施形態によるハイブリッド式ショベルにおけるブーム4、アーム5、バケット6、及び下部走行体1の初動時と同様、旋回機構2の初動時の動作速度ひいては操作性を向上させることができる。具体的には、旋回機構2の初動時にエンジン回転数を増大させることによって、ポンプ容積すなわちポンプトルクの増大パターンを変化させなくとも、ポンプ吐出流量を一時的に増大させ、旋回機構2の初動時の動作速度ひいては操作性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0078】
1・・・下部走行体 1A、1B・・・油圧モータ 2・・・旋回機構 3・・・上部旋回体 4・・・ブーム 5・・・アーム 6・・・バケット 7・・・ブームシリンダ 8・・・アームシリンダ 9・・・バケットシリンダ 10・・・キャビン 11・・・エンジン 11A・・・エンジン制御装置 12・・・電動発電機 13・・・変速機 14・・・メインポンプ 14A・・・レギュレータ 14Aa・・・吐出圧連動部 14Ab・・・ポンプ比例弁 14Ac・・・ポンプ比例弁連動部 15・・・パイロットポンプ 16・・・高圧油圧ライン 17・・・コントロールバルブ 18、20・・・インバータ 19・・・キャパシタ 21・・・旋回用電動機 21B・・・旋回用油圧モータ 22・・・レゾルバ 23・・・メカニカルブレーキ 24・・・旋回変速機 25・・・パイロットライン 26・・・操作装置 26A、26B・・・レバー 26C・・・ペダル 27・・・油圧ライン 28・・・油圧ライン 29・・・圧力センサ 29A・・・吐出圧センサ 30・・・コントローラ 100・・・昇降圧コンバータ 110・・・出力端子DCバス 111・・・DCバス電圧検出部 112・・・キャパシタ電圧検出部 113・・・キャパシタ電流検出部 120・・・蓄電系 300・・・操作判断部 301・・・エンジン回転数制御指令生成部 302・・・ポンプ比例弁制御指令生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レバー信号とエンジン出力状態とに基づいて、通常時のエンジン回転数制御指令と通常時よりも高い初動時のエンジン回転数制御指令とを切り換える、
ことを特徴とするハイブリッド式ショベルの制御方法。
【請求項2】
前記初動時のエンジン回転数制御指令は、レバー信号と傾転角に対するエンジン回転数のパターンが設定されている請求項1に記載のハイブリッド式ショベルの制御方法。
【請求項3】
アシストモータは、前記初動時のエンジン回転数制御指令に基づいてアシストする請求項1又は2に記載のハイブリッド式ショベルの制御方法。
【請求項4】
更に、レバー信号とエンジン過給圧とに基づいて、通常時のポンプ比例弁制御指令と初動時のポンプ比例弁制御指令とが切り換えられる請求項1〜3のいずれかに記載のハイブリッド式ショベルの制御方法。
【請求項5】
前記初動時のポンプ比例弁制御指令は、ポンプ圧力とエンジン出力状態とに基づいて算出される請求項4に記載のハイブリッド式ショベルの制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−76311(P2013−76311A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218393(P2011−218393)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】