説明

ハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置

【課題】内燃機関の回転駆動の停止後のモータ走行時に、不必要なバッテリ消費を抑制しつつ動力伝達機構を潤滑することができるハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置を提供すること。
【解決手段】リングギヤ3Rの内歯とピニオンギヤ3Pの外歯との噛合部32に対して、ボールベアリング27、28のアウタレース27a、28aの内周部27i、28iがリングギヤ3Rの放射方向内方に位置するようにボールベアリング27、28をケース25の環状支持部25a、25bに取付け、リングギヤ3Rの内周部と一対のボールベアリング27、28とによってリングギヤ3Rの底部にオイル溜まり33を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置に関し、特に、内燃機関の回転駆動を停止させた状態で電動機のみを動力源とするモータ走行が可能なハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と電動機であるモータジェネレータを動力源として、内燃機関の出力軸の回転によってオイルポンプを作動させて動力伝達機構に潤滑油を供給するハイブリッド車両においては、電気自動車走行(EV走行)時のように内燃機関の回転駆動を停止させて走行するときには、モータジェネレータの回転トルクをオイルポンプに伝達し、動力伝達機構に潤滑油を供給するように構成されたものが知られている。
【0003】
例えば、内燃機関の出力を駆動輪とモータジェネレータに分配する動力伝達機構として遊星歯車機構を使用し、車両がハイブリッド走行(HV走行)しているときには、内燃機関の出力軸の回転トルクでオイルポンプを作動させる一方、車両がモータ走行(EV走行)しているときには、モータジェネレータの回転トルクにより内燃機関の出力軸を強制的に回転させ、オイルポンプを作動させるものが知られている。
【0004】
ところが、EV走行期間の全てにおいてモータジェネレータを駆動すると、バッテリの消費量を不要に増大させてしまい、EV走行の航続距離が短縮する等の不都合が生じてしまうことになる。
【0005】
このような課題を解決するために、内燃機関の回転駆動が停止されるEV走行モードに移行した場合に、動力伝達機構への潤滑油の供給が停止されてからの経過量を計測し、この計測結果が予め定められた所定量を超えた場合に、モータジェネレータを作動させて内燃機関の出力軸を所定時間強制的に回転させるようにしたハイブリッド駆動装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このハイブリッド駆動装置は、EV走行時に、動力伝達機構を構成する遊星歯車機構が無潤滑状態で焼き付け等が発生しない適切なタイミングでオイルポンプを作動させ、動力伝達機構に間欠的に潤滑油を供給することができるため、常にオイルポンプを作動させる必要がなく、モータジェネレータによるバッテリ消費を極力抑えることができ、EV走行の航続距離を延ばすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−238837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来のハイブリッド駆動装置にあっては、動力伝達機構にオイルを供給するために、オイルポンプがオイルを吐出する回転数までモータジェネレータによって内燃機関の出力軸を回転させる必要がある。
【0009】
すなわち、オイルポンプは、内燃機関の出力軸の回転数が低いとオイルの漏れ量が多く吐出効率が低いことから、例えば、出力軸をアイドル回転数程度まで回転させないと十分な量のオイルを動力伝達機構に供給することができない。
【0010】
このため、内燃機関の出力軸を、オイルの吐出量が十分となる回転数までモータジェネレータを所定時間駆動させる分だけ、バッテリの消費量を不要に増大させてしまうという問題が発生してしまう。
【0011】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、内燃機関の回転駆動の停止後のモータ走行時に、不必要なバッテリ消費を抑制しつつ動力伝達機構を潤滑することができるハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るハイブリッド駆動装置は、上記目的を達成するため、(1)内燃機関、第1の電動機および第2の電動機を組み合わせた動力源と、前記内燃機関の出力軸に連結され、複数のピニオンギヤを回転自在に支持するキャリア、前記第1の電動機の回転軸に連結され、前記ピニオンギヤに噛合されるサンギヤおよび車軸側に連結され、前記ピニオンギヤに噛合されるリングギヤを含んで構成され、前記第1の電動機により前記内燃機関の前記出力軸を強制回転することができる動力伝達機構と、前記リングギヤの内周部に設けられた外輪部材およびケースの支持部の外周部に設けられ、前記外輪部材に転動体を介して回転自在に取付けられた内輪部材を有し、前記キャリアを挟んで前記出力軸の軸線方向に離隔して設けられた複数の軸受とを含んで構成されたハイブリッド駆動装置であって、前記リングギヤの内歯と前記ピニオンギヤの外歯との噛合部に対して、前記軸受の外輪部材の内周部が前記リングギヤの放射方向内方に位置するように前記軸受を前記ケースの前記支持部に取付けたものから構成されている。
【0013】
このハイブリッド駆動装置は、リングギヤの内歯とピニオンギヤの外歯との噛合部に対して、軸受の外輪部材の内周部がリングギヤの放射方向内方に位置するように軸受がケースの支持部に取付けられ、リングギヤの内周部と一対の軸受とによってリングギヤの底部に潤滑油溜まりが形成されるので、ピニオンギヤを潤滑油に浸すことができる。
【0014】
また、複数のピニオンギヤを回転自在に支持するキャリアが内燃機関の出力軸に連結され、サンギヤが第1の電動機の回転軸に連結され、リングギヤが車軸側または第2の電動機側とに連結されるので、内燃機関の回転駆動が停止されて第2の電動機によりモータ走行に移行したときに、キャリアが回転しないため、潤滑油に浸されないピニオンギヤが存在する。
【0015】
この場合、第1の電動機の回転軸を回転させてピニオンギヤをサンギヤに対して公転させることにより、キャリアを介して内燃機関の出力軸を所定角度だけ回転させることにより、潤滑油に浸されていないピニオンギヤを潤滑油に浸すことができる。
【0016】
したがって、内燃機関の回転駆動の停止後のモータ走行時にオイルポンプから動力伝達機構に潤滑油を供給するのを不要にでき、従来のように、オイルポンプが潤滑油を動力伝達機構に供給する回転数まで第1の電動機によって内燃機関の出力軸を回転させる必要がなく、不必要なバッテリ消費を抑制しつつ動力伝達機構を潤滑することができる。
【0017】
上記(1)に記載のハイブリッド駆動装置において、(2)前記キャリアに対向する前記外輪部材と前記内輪部材との間の隙間の少なくとも一部を閉止する環状部材を有するものから構成されている。
【0018】
このハイブリッド駆動装置は、前記キャリアに対向する外輪部材と内輪部材との間の隙間の少なくとも一部を閉止する環状部材を有するので、潤滑油溜まりから外輪部材と内輪部材との間を通して転動体に流入される潤滑油量を少なくすることができる。このため、転動体の撹拌抵抗を低減することができ、動力伝達機構の駆動損失を低減することができる。
【0019】
上記(1)または(2)に記載のハイブリッド駆動装置において、(3)前記内輪部材の内周部と前記ケースの支持部の外周部との間に排出孔を形成したものから構成されている。
【0020】
このハイブリッド駆動装置は、内輪部材の内周部とケースの支持部の外周部との間にオイルを排出する排出孔を形成したので、潤滑油溜まりに必要以上の潤滑油が貯留されてしまうのを防止することができ、動力伝達機構の撹拌抵抗が増大してしまうのを防止することができる。
【0021】
また、内輪部材の内周部とケースの支持部の外周部との間に排出孔を形成したので、潤滑油溜まりに貯留される潤滑油の全てが排出孔から排出されてしまうのを防止することができ、動力伝達機構を確実に潤滑することができる。
【0022】
上記(1)ないし(3)に記載のハイブリッド駆動装置において、(4)前記内輪部材と前記ケースとの間に流入孔を形成し、前記流入孔は、前記ケースの壁面と前記リングギヤおよび前記軸受の一方との間に形成される潤滑油流入通路に流下される潤滑油を前記リングギヤの内方に導入するように、前記内燃機関の前記出力軸の中心軸よりも上方に位置するものから構成されている。
【0023】
このハイブリッド駆動装置は、内輪部材とケースの間に、例えば、デフリングギヤによってケースの上方に掻き上げられ、潤滑油流入通路に流下される潤滑油がリングギヤの内方に導入される流入孔を形成したので、遊星歯車機構からなる動力伝達機構を潤滑油によって潤滑することができる。また、この潤滑油を潤滑油溜まりに貯留して内燃機関の回転駆動の停止後のモータ走行時に動力伝達機構を潤滑油することができる。この結果、オイルポンプを廃止することができ、ハイブリッド駆動装置の製造コストを低減することができる。
【0024】
上記(1)ないし(4)に記載のハイブリッド駆動装置において、(5)上述したハイブリッド駆動装置の制御装置であって、車両の走行モードがモータ走行モードに移行したか否かを判定する走行モード判定手段と、前記走行モードの判定結果に基づいて前記第1の電動機を制御する電動機制御手段とを備え、前記電動機制御手段は、前記車両の走行モードがモータ走行モードに移行した後に、所定の条件が成立したときに、前記第1の電動機を駆動して前記内燃機関の出力軸を所定の回転角度だけ回転させるものから構成されている。
【0025】
このハイブリッド駆動装置は、車両の走行モードがモータ走行モードに移行した後に、所定の条件が成立したときに、第1の電動機を駆動して内燃機関の出力軸を一定の回転角度だけ回転させるので、ピニオンギヤの全てを潤滑油に浸すことができる。
【0026】
したがって、内燃機関の回転駆動の停止後のモータ走行時にオイルポンプから動力伝達機構に潤滑油を供給するのを不要にでき、従来のように、オイルポンプが潤滑油を動力伝達機構に供給する回転数まで第1の電動機によって内燃機関の出力軸を回転させる必要がなく、不必要なバッテリ消費を抑制しつつ動力伝達機構を潤滑することができる。
【0027】
上記(1)ないし(5)に記載のハイブリッド駆動装置において、(6)前記所定の条件は、前記モータ走行モードに移行してからの前記ピニオンギヤの回転状況に基づいて設定されるものから構成されている。
【0028】
このハイブリッド駆動装置は、モータ走行モードに移行してからのピニオンの回転状況に基づいて第1の電動機を駆動して内燃機関の出力軸を一定の回転角度だけ回転させるので、例えば、モータ走行モードに移行してからピニオンの回転時間が所定の時間経過したときに、潤滑油に浸されていないピニオンギヤに焼き付けが発生するものと判断して内燃機関の出力軸を一定の回転角度だけ回転させるようにすれば、内燃機関の停止時に動力伝達機構を潤滑することができる。したがって、不必要なバッテリ消費を抑制しつつ動力伝達機構を潤滑することができる。
【0029】
上記(6)に記載のハイブリッド駆動装置において、(7)前記所定の条件は、前記モータ走行モードに移行した後に、前記第2の電動機によって電力の回生が行われていることを条件とするものから構成されている。
【0030】
このハイブリッド駆動装置は、モータ走行モードに移行した後に第2の電動機によって電力の回生が行われている場合に、第1の電動機を駆動して内燃機関の出力軸を一定の回転角度だけ回転させるので、潤滑油に浸されていないピニオンギヤを潤滑油に浸すことができ、内燃機関の停止時に動力伝達機構を潤滑することができる。したがって、不必要なバッテリ消費を抑制しつつ動力伝達機構を潤滑することができる。
【0031】
また、減速動作中に内燃機関の出力軸を一定の回転角度だけ回転させるだけであるので、内燃機関のNV(ノイズ・バイブレーション)が発生するのを防止することができ、運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、内燃機関の回転駆動の停止後のモータ走行時に、不必要なバッテリ消費を抑制しつつ動力伝達機構を潤滑することができるハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第1の実施の形態を示す図であり、ハイブリッド車両のトランスアクスルを中心とした動力系統の主なシステム構成図である。
【図2】本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第1の実施の形態を示す図であり、動力分配装置の断面図である。
【図3】本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第1の実施の形態を示す図であり、動力分配装置を構成する遊星歯車機構のピニオンギヤの一部がオイルに漬かっている状態を示す図である。
【図4】本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第1の実施の形態を示す図であり、出力軸位相シフト制御の実行後にピニオンギヤの一部がオイルに漬かっている状態を示す図である。
【図5】本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第1の実施の形態を示す図であり、出力軸位相シフト制御処理のフローチャートである。
【図6】本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第1の実施の形態を示す図であり、他の出力軸位相シフト制御処理のフローチャートである。
【図7】本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第2の実施の形態を示す図であり、動力分配装置の断面図である。
【図8】本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第3の実施の形態を示す図であり、ケースとベアリングの要部断面図である。
【図9】図8のA−A方向矢視断面図である。
【図10】本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第4の実施の形態を示す図であり、動力分配装置の断面図である。
【図11】図10のB−B方向矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係るハイブリッド駆動装置の制御装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0035】
(第1の実施の形態)
図1〜図6は、本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第1の実施の形態を示す図である。
【0036】
まず、構成を説明する。
図1において、ハイブリッド駆動装置としてのトランスアクスルは、内燃機関であるエンジン1の運動エネルギーを電気エネルギーに変換する第1の電動機としてのモータジェネレータMG1と、エンジン1の補助動力源として機能する第2の電動機としてのモータジェネレータMG2と、エンジン1の出力をモータジェネレータMG1と駆動輪24とのそれぞれ2系統に分配する動力分配装置(動力伝達機構)2とを含んで構成されている。なお、エンジン1、モータジェネレータMG1およびモータジェネレータMG2は、動力源を構成している。
【0037】
図1、図2に示すように、動力分配装置2は、遊星歯車機構と称されるプラネタリギヤから構成されており、複数の歯車要素の中心で自転する外歯歯車のサンギヤ3Sと、サンギヤ3Sに外接しながらサンギヤ3Sの周囲を自転しつつ公転する外歯歯車のピニオンギヤ3Pと、ピニオンギヤ3Pと噛合するように中空環状に形成された内歯歯車のリングギヤ3Rと、ピニオンギヤ3Pをピニオンシャフト3PSを介して回転自在に支持するとともにピニオンギヤ3Pの公転を通じて自転するキャリア3Cとを備えている。
【0038】
キャリア3Cには、エンジン1の逆回転を阻止するワンウェイクラッチ34が接続されており、ワンウェイクラッチ34は、トランスアクスルのケース25(図2にケースの一部を示す)に取付けられている。
【0039】
エンジン1を回転駆動することによって発生した回転トルクは、エンジン1のクランク軸4およびコイルスプリング式のトランスアクスルダンパ5を介してインプットシャフト6に伝達されるようになっており、インプットシャフト6の軸線上にはオイルポンプ7が配設されている。すなわち、本実施の形態では、インプットシャフト6がクランク軸4を介してエンジン1の動力が伝達されるエンジン1の出力軸を構成している。
【0040】
オイルポンプ7は、例えば、インプットシャフト6の回転トルクの供給を受けて作動するようになっており、オイルポンプ7としては、トロコイド式ポンプ、ギヤ式ポンプ等を用いることができる。
【0041】
オイルパン8には潤滑油であるオイルが充填されており、オイルポンプ7によって吸引された潤滑油は、動力分配装置2等の各部の動力系統に搬送されて、各歯車要素および各軸の回転部分および摺動部分を循環し、各部を冷却するとともに、摩擦抵抗を低減し、腐食防止、気密保持の役割を果たすようになっている。
【0042】
モータジェネレータMG1は、インプットシャフト6の周囲にインプットシャフト6と同軸上に回転自在に配置された回転軸としてのモータ軸10と、このモータ軸10に取付けられた永久磁石から成るロータ9Rと、3相巻線が巻回されたステータ9Sとを備えた交流同期発電機から構成されており、バッテリ41の充電やモータ駆動用の電力を供給するようになっている。
【0043】
また、モータジェネレータMG2は、インプットシャフト6と平行に回転自在に設置されたモータ軸12と、モータ軸12に取付けられた永久磁石から成るロータ11Rと、3相巻線が巻回されたステータ11Sとを備えた交流同期発電機から構成されており、3相巻線に3相交流電流を供給することで、モータジェネレータMG2内に回転磁界を発生させ、所定の回転トルクを出力する。モータジェネレータMG2は、エンジン1の補助動力源として、円滑な発進、加速をアシストする他、回生ブレーキ作動時には、車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、バッテリ41を充電するようになっている。
【0044】
バッテリ41は、必要な定格電圧を備えるように個々のバッテリモジュールを適宜直列接続した構造を備えるようになっていてよい。
【0045】
図1、図2に示すように、動力分配装置2は、キャリア3Cがエンジン1のインプットシャフト6に連結されており、サンギヤ3Sがモータ軸10に連結されている。また、リングギヤ3Rは、カウンタドライブギヤ13と一体的に設けられており、このカウンタドライブギヤ13は、ギヤ列14を介してモータジェネレータMG2および車軸であるドライブシャフト23に接続されている。すなわち、リングギヤ3Rは、モータジェネレータMG2側およびドライブシャフト23側に連結されている。
なお、本実施の形態のリングギヤ3Rは、内歯の形成されている部位と内歯が形成されていない部位と含んで構成されており、内歯が形成されていない部位がリングギヤ3Rの内周部を構成するものである。
【0046】
動力分配装置2は、エンジン1の出力の一部をインプットシャフト6、キャリア3C、ピニオンギヤ3P、リングギヤ3Rおよびカウンタドライブギヤ13を介して駆動輪24に伝達する他、残りの一部をインプットシャフト6、キャリア3C、ピニオンギヤ3Pおよびサンギヤ3Sを介してモータジェネレータMG1のロータ9Rに伝達して発電に利用するようにしている。
【0047】
本実施の形態のトランスアクスルは、ギヤトレーンが4軸構成となっており、主軸上にはインプットシャフト6を中心としてモータジェネレータMG1、動力分配装置2およびカウンタドライブギヤ13が配置されている。
【0048】
また、第2軸上にはカウンタドライブギヤ13の回転トルクが伝達されるカウンタドリブンギヤ15と、カウンタドリブンギヤ15と一体的に設けられるとともに、カウンタドライブシャフト16の一端部に取付けられたカウンタドリブンギヤ17と、カウンタドライブシャフト16の他端部に設けられたデフドライブピニオン18とがカウンタドライブシャフト16を中心に配置されている。
【0049】
なお、カウンタドリブンギヤ15、カウンタドリブンギヤ17およびデフドライブピニオン18がギヤ列14を構成している。
【0050】
第3軸上にはモータジェネレータMG2のモータ軸12と、モータ軸12の端部に設けられ、ロータ11Rの回転をカウンタドリブンギヤ17に伝達するカウンタドライブギヤ19とが配置されている。
【0051】
第4軸上にはデフドライブピニオン18から動力が伝達されるデフリングギヤ20と、駆動輪24の内輪および外輪の回転差を吸収するように回転トルクを分配するディファレンシャル装置22と、ディファレンシャル装置22の差動出力を駆動輪24に伝達するドライブシャフト23とが配置されている。
【0052】
これらの動力系統を制御するシステムコントローラとして、図示しないクランクポジションセンサ、カムポジションセンサおよびスロットルポジションセンサ等の各種センサ出力からエンジン1の燃料噴射制御、点火時期制御および可変バルブタイミング制御等を行うエンジンコントロールユニット(ECU(Electronic Control Unit))42と、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ50、車速を車速センサ51からの検出情報に基づいて必要なエンジン出力、モータジェネレータMG1、MG2のトルクを求め、ECU42およびモータコントローラ43に要求値を出力し、動力系統の制御を行うハイブリッド制御用コントローラ44と、ハイブリッド制御用コントローラ44からの駆動要求値に従い、インバータ45を介してモータジェネレータMG1、MG2を制御するモータコントローラ43とを備えている。
【0053】
図2に示すように、モータジェネレータMG1のモータ軸10は、トランスアクスルのケース25にボールベアリング26を介して回転自在に取付けられており、動力分配装置2のリングギヤ3Rは、ケース25の環状支持部(支持部)25a、25bに軸受としてのボールベアリング27、28を介して回転自在に取付けられている。
【0054】
モータ軸10は、中空状に形成されており、モータ軸10の端部にはインプットシャフト6の端部がスプライン嵌合されている。また、インプットシャフト6の端部にはオイルポンプ駆動軸29の一端部が取付けられており、このオイルポンプ駆動軸29の他端部は、オイルポンプ7に連結されている。すなわち、オイルポンプ駆動軸29は、インプットシャフト6の動力をオイルポンプ7に伝達することにより、オイルポンプ7を駆動してオイルを吐出させる機能を有する。
【0055】
オイルポンプ駆動軸29の内部にはオイルポンプ駆動軸29の軸線方向に沿って延在する連通孔29aが形成されており、オイルポンプ7から吐出されるオイルは、連通孔29aを通してオイルポンプ駆動軸29の他端部から一端部に供給されるようになっている。
【0056】
また、インプットシャフト6の内部にはインプットシャフト6の軸線方向に沿って延在する連通孔6aが形成されており、この連通孔6aは、オイルポンプ駆動軸29の連通孔29aに連通している。また、連通孔6aには放射孔6bが形成されており、この放射孔6bは、連通孔6aからインプットシャフト6の放射方向に延在している。
【0057】
また、ピニオンギヤ3Pは、ニードルベアリング30を介してキャリア3Cのピニオンシャフト3PSに回転自在に連結されており、ピニオンシャフト3PSにはピニオンシャフト3PSの軸線方向に延在する連通孔3aおよび連通孔3aから放射方向に延在する放射孔3bが形成されている。
【0058】
本実施の形態では、オイルポンプ7からオイルポンプ駆動軸29の連通孔29aおよびインプットシャフト6の連通孔6aに供給されるオイルは、インプットシャフト6の回転による遠心力によって放射孔6bから動力分配装置2に供給される。
【0059】
放射孔6bからインプットシャフト6の放射方向外方に飛翔したオイルの一部は、ピニオンシャフト3PSの連通孔3aの開口端から連通孔3aに導入され、ピニオンシャフト3PSの回転による遠心力によって放射孔3bからニードルベアリング30に供給されてニードルベアリング30が潤滑される。
【0060】
また、動力分配装置2に供給される残りのオイルは、リングギヤ3Rとピニオンギヤ3Pの噛合部32に供給されてリングギヤ3Rとピニオンギヤ3Pが潤滑されるとともに、ピニオンギヤ3Pの回転に伴ってピニオンギヤ3Pとサンギヤ3Sの噛合部に供給されてピニオンギヤ3Pとサンギヤ3Sの噛合部が潤滑される。
【0061】
一方、ボールベアリング27、28は、リングギヤ3Rの内周部に取付けられた外輪部材としてのアウタレース27a、28aと、ケース25の環状支持部25a、25bの外周部に設けられ、アウタレース27a、28aに転動体としてボール部27b、28bを介して回転自在に取付けられた内輪部材としてのインナレース27c、28cとを備えており、キャリア3Cを挟んでインプットシャフト6の軸線方向に離隔して設けられている。
【0062】
また、ボールベアリング27、28のアウタレース27a、28aの内周部27i、28iは、リングギヤ3Rの内歯とピニオンギヤ3Pの外歯の噛合部32に対して、リングギヤ3Rの放射方向内方に位置しており、リングギヤ3Rの内周部とボールベアリング27、28のアウタレース27a、28aとによってリングギヤ3Rの底部にオイルOが貯留されるオイル溜まり33が形成されている。
【0063】
このため、放射孔6bから動力分配装置2に飛翔されたオイルは、ピニオンシャフト3PSの連通孔3aの開口端から連通孔3aに導入され、ピニオンシャフト3PSの回転による遠心力によって放射孔3bからニードルベアリング30に供給されてニードルベアリング30が潤滑される。
【0064】
また、リングギヤ3Rの内歯とピニオンギヤ3Pの外歯との噛合部32に供給されてリングギヤ3Rとピニオンギヤ3Pが潤滑されるとともに、ピニオンギヤ3Pの回転に伴ってピニオンギヤ3Pの内歯とサンギヤ3Sの外歯との噛合部32に供給されてピニオンギヤ3Pの内歯とサンギヤ3Sの外歯との噛合部32が潤滑される。
【0065】
また、動力分配装置2が潤滑されたときにリングギヤ3Rの内周部に供給されるオイルがオイル溜まり33に貯留される。また、インプットシャフト6とケース25との間にはオイルシール54が介装されており、インプットシャフト6は、ケース25およびモータ軸10にニードルベアリング55、56を介して回転自在に支持されている。
【0066】
ところで、エンジン1は、高出力で航続距離が長く、ある程度の負荷が荷重された状態ではエンジン効率は良好であるが、低速走行等の低負荷の状態ではエンジン効率が悪い。
一方、モータジェネレータMG2は、低速トルクが大きく、発進または低速走行を多用する市街地走行に適しているが、航続距離が短い。
【0067】
本実施の形態のハイブリッド車両では、このような特性を利用して、走行状況に応じてエンジン1とモータジェネレータMG2とを巧みに使い分けることで、それぞれの長所を活かしつつ、短所を補うことにより、滑らかでレスポンスのよい動力性能の実現と燃費向上を図っている。
【0068】
例えば、発進時または低速走行時では、エンジン1を停止する一方、バッテリ41からの電源供給を受けてモータジェネレータMG2を駆動し、モータ走行(EV走行)を行う。このため、ハイブリッド制御用コントローラ44は、バッテリ41に備えられたリレー46を作動し、インバータ45に直流高電圧電源を供給する。
【0069】
インバータ45にはモータジェネレータMG1用とモータジェネレータMG2用のそれぞれ6個のパワートランジスタで構成される3相ブリッジ回路が備えられており、直流電流と3相交流電流の変換を行う。
【0070】
パワートランジスタの制御は、モータコントローラ43によって行われ、インバータ45からモータコントローラ43に対して出力電流値等の電流制御に必要な情報が送信されている。
【0071】
インバータ45は、モータジェネレータMG2の出力トルクおよび回転数を所望の値に調整するために必要な三相交流電流の振幅および周波数を調整し、モータジェネレータMG2に供給する。
【0072】
通常走行時においては、エンジン1を駆動することでエンジン1の出力の一部を駆動輪24に伝達するとともに、残りの一部を発電に利用し、モータジェネレータMG1で得られた電力でモータジェネレータMG2を駆動してハイブリッド走行(HV走行)を行う。
【0073】
具体的には、エンジン1の回転駆動により発生した回転トルクがエンジン1のクランク軸4およびトランスアクスルダンパ5を介してインプットシャフト6に伝達されると、キャリア3Cがインプットシャフト6と共に回転するため、ピニオンギヤ3Pがサンギヤ3Sの周囲を自転しつつ公転することにより、リングギヤ3Rからカウンタドリブンギヤ15に動力を伝達する。
【0074】
カウンタドリブンギヤ15は、カウンタドリブンギヤ15、17を介してデフドライブピニオン18に動力を伝達する。デフドライブピニオン18は、デフリングギヤ20を介してディファレンシャル装置22の動力を伝達することにより、ディファレンシャル装置22がドライブシャフト23を介して差動出力を駆動輪24に伝達する。
【0075】
一方、ピニオンギヤ3Pの回転をサンギヤ3Sに伝達することにより、モータ軸10を介してモータジェネレータMG1のロータ9Rが回転することにより、モータジェネレータMG1の発電が行われる。
【0076】
また、このとき、インプットシャフト6からオイルポンプ駆動軸29を介してオイルポンプ7に動力が伝達されるため、オイルポンプ7からオイルポンプ駆動軸29の連通孔29aを介してインプットシャフト6の連通孔6aにオイルが供給され、インプットシャフト6の回転による遠心力によって放射孔6bから動力分配装置2にオイルが供給されて動力分配装置2の各部が潤滑される。
【0077】
また、全開加速走行や登坂走行等の高負荷走行時には、上述した通常走行時の駆動方法に加えて、バッテリ41からの電源供給を受けてモータジェネレータMG2を駆動し、モータジェネレータMG2がの出力トルクを増大させてエンジン出力をアシストする。
【0078】
モータジェネレータMG2に供給される三相交流電流の電流値を調整することでモータジェネレータMG2の出力トルクを調整できる。
【0079】
また、減速時若しくは制動時には、車両の運動エネルギーはギヤトレーンを介してモータジェネレータMG2に供給され、電気エネルギーに変換される。すなわち、このときモータジェネレータMG2は、発電機として機能する。
【0080】
モータジェネレータMG2によって発電された電気エネルギーは、バッテリ41に充電される。また、このとき、エンジン1は、自動的に停止される。
【0081】
一方、車両の走行モードがEV走行モードのときには、エンジン1が停止した状態で車両が走行しているため、この間はエンジン1の出力を利用してオイルポンプ7を作動することができない。
【0082】
すなわち、インプットシャフト6に連結される動力分配装置2のキャリア3Cが回転しないので、ピニオンギヤ3Pは、モータジェネレータMG2や駆動輪24からギヤ列14を介してリングギヤ3Rが受ける反力によって自転する。
【0083】
動力分配装置2の無潤滑状態が一定期間継続すると、ギヤ等の焼け付き、摩耗が生じることになる。本実施の形態では、キャリア3Cを挟んでインプットシャフト6の軸線方向に離隔して設けられたアウタレース27a、28aの内周部27i、28iを、リングギヤ3Rの内歯とピニオンギヤ3Pの外歯の噛合部32に対して、リングギヤ3Rの放射方向内方に位置させることにより、リングギヤ3Rの内周部とボールベアリング27、28のアウタレース27a、28aとによってリングギヤ3Rの底部にオイルOが貯留されるオイル溜まり33が形成されている。
【0084】
このため、図3に示すように、オイル溜まり33に貯留されるオイルOに複数のピニオンギヤ3Pのうち、例えば、2つを浸すことができる。但し、図3では、ピニオンギヤ3Pをピニオンギヤ3PA、3PB、3PCとして説明する。
【0085】
このため、ピニオンシャフト3PSまでオイルOに浸されたピニオンギヤ3PAにあっては、ピニオンギヤ3PAの連通孔3aの開口端から連通孔3aにオイルを導入して、このオイルをピニオンシャフト3PSの回転による遠心力によって放射孔3bからニードルベアリング30に供給することができ、ニードルベアリング30を潤滑することができる。
【0086】
また、ピニオンギヤ3PA、3PCをオイルOに浸すことができるため、リングギヤ3Rの内歯とピニオンギヤ3PA、3PCの外歯との噛合部32を潤滑することできるとともに、このオイルをピニオンギヤ3Pの回転に伴ってピニオンギヤ3Pの外歯とサンギヤ3Sの内歯の噛合部に供給することでピニオンギヤ3Pの外歯とサンギヤ3Sの外歯との噛合部32を潤滑することができる。
【0087】
ところで、図3に示すように、オイル溜まり33に浸っているのは、ピニオンギヤ3PA、3PCの2つであり、図3の上方に位置するピニオンギヤ3PBは、オイルOに漬かっていないため、ニードルベアリング30を潤滑することができない。
【0088】
そこで、エンジン1に代わるオイルポンプ7の代替動力源として、モータジェネレータMG1を駆動し、キャリア3Cに連結されたインプットシャフト6を所定角度だけ回転させることにより、オイルOに浸されていないピニオンギヤ3PBをオイルOに浸すように制御する。
【0089】
図1において、ハイブリッド制御用コントローラ44は、CPU(Central Processing Unit)44aと、ROM(Read Only Memory)44bやRAM(Random Access Memory)44c等の記憶部とを含むマイクロコンピュータを主体として構成される。
【0090】
ハイブリッド制御用コントローラ44にはクランク角センサ47が接続されている。クランク角センサ47は、クランク軸4の回転を検出するようになっており、ハイブリッド制御用コントローラ44は、クランク角センサ47からの検出情報に基づいてクランク軸4の位置、すなわち、インプットシャフト6の位置を検出するようになっている。
【0091】
また、ハイブリッド制御用コントローラ44には回転数センサ48が接続されており、回転数センサ48は、モータジェネレータMG2のモータ軸10の回転数を検出して、検出情報をハイブリッド制御用コントローラ44に出力するようになっている。また、ハイブリッド制御用コントローラ44にはタイマー49が設けられている。
【0092】
また、ハイブリッド制御用コントローラ44は、車両の走行モードに対応してフラグがセットされるレジスタ52を備えている。ハイブリッド制御用コントローラ44は、アクセル開度センサ50および車速センサ51からの検出情報に基づいて車両の走行モードがEV走行モードに移行したか否かを判断し、車両の走行モードがEV走行モードに移行したものと判断すると、レジスタ52に「1」のフラグをセットする。
また、車両の走行モードがエンジン作動走行モードに移行すると、レジスタ52に「0」のフラグをセットするようになっている。本実施の形態では、ハイブリッド制御用コントローラ44が走行モード判定手段を構成している。
【0093】
また、ハイブリッド制御用コントローラ44は、エンジン1の回転駆動が停止されてEV走行モードに移行したときに、タイマー49の計時情報と回転数センサ48からの検出情報とに基づいてモータジェネレータMG2から反力を受けるリングギヤ3Rの回転数を算出し、キャリア3Cを介してインプットシャフト6が所定の回転角度だけ回転することが可能なサンギヤ3Sの回転数、すなわち、モータジェネレータMG1の回転トルクおよび回転数を算出するようになっている。
【0094】
そして、ハイブリッド制御用コントローラ44は、インプットシャフト6を所定の回転角度だけ回転させるための制御信号をモータコントローラ43に出力し、モータコントローラ43は、この制御信号に基づいてモータジェネレータMG1を駆動してキャリア3Cを介してインプットシャフト6を回転駆動する。本実施の形態では、モータコントローラ43およびハイブリッド制御用コントローラ44が電動機制御手段を構成している。
【0095】
次に、図5に示すフローチャートに基づいて出力軸位相シフト処理を説明する。図5のフローチャートは、ハイブリッド制御用コントローラ44のROM44bに格納された出力軸位相シフト制御プログラムであり、この出力軸位相シフト制御を実行プログラムは、CPU44aによって実行されるものである。
【0096】
ハイブリッド制御用コントローラ44のCPU44aは、レジスタ52にセットされたフラグに基づいてEV走行モードであるか否かを判別する(ステップS1)。CPU44aは、レジスタ52に「0」がセットされている場合には、EV走行モードでないものと判断して今回の処理を終了し、レジスタ52に「1」がセットされている場合には、EV走行モードに移行したものと判断して、タイマー49をオンして計時を開始する(ステップS2)。
【0097】
ステップS1では、CPU44aは、アクセル開度センサ50および車速センサ51からの検出情報に基づいてエンジン1の運転状態が低エンジントルク域や車速の低車速域にあるときにEV走行モードに移行したものと判断して、レジスタ52に「1」をセットし、ECU42にエンジン停止信号を送信してエンジン1を停止させてEV走行モードに移行する。
【0098】
EV走行モードでは、CPU44aは、モータコントローラ43にモータジェネレータMG2の駆動信号を送信する。モータコントローラ43は、リレー46を作動し、インバータ45に直流高電圧電源を供給する。インバータ45は、モータジェネレータMG2の出力トルクおよび回転数を所望の値に調整するために必要な三相交流電流の振幅および周波数を調整し、モータジェネレータMG2に供給する。このようにしてEV走行が行われる。
【0099】
次いで、CPU44aは、EV走行モードに移行してからのタイマー49の計時時間Tが所定の時間経過Ta以上であるか否かを判断する(ステップS3)。この所定の時間Taは、例えば、動力分配装置2にオイルを供給しない状態(無潤滑走行可能時間)で走行できる時間に設定されており、この無潤滑走行可能時間は、動力分配装置2にオイルを供給しない状態でどの程度の時間だけ走行できるかを予め実験で求めた値であり、遊星歯車機構の各歯車要素が焼損しないで安全に走行できるように時間の余裕を持たせてある。
【0100】
CPU44aは、ステップS3でタイマー49の経過時間Tが所定の時間Ta以上でないものと判断した場合には、インプットシャフト6の位相を現状に維持し(ステップS5)、タイマー49の経過時間Tが所定の時間Ta以上であるものと判断した場合には、出力軸位相シフト制御を実行して(ステップS4)、今回の処理を終了する。
【0101】
出力軸位相シフト制御では、CPU44aは、3つのピニオンギヤ3Pのうちの上方のピニオンギヤ3PBがオイルOに漬かるように、インプットシャフト6の回転角度(位相)を、例えば、130°に設定するとともに、回転数センサ48からの検出情報に基づいてモータジェネレータMG2から反力を受けるリングギヤ3Rの回転数を算出する。
【0102】
EV走行モードでは、キャリア3Cが回転せずにリングギヤ3Rの反力を受けてピニオンギヤ3Pが自転しているだけであるため、キャリア3Cを介してインプットシャフト6が130°回転するようにリングギヤ3Rの回転数に対するサンギヤ3Sの回転数を算出する。
【0103】
すなわち、CPU44aは、モータコントローラ43にモータジェネレータMG1の駆動信号を送信する。モータコントローラ43は、リレー53を作動し、インバータ45に直流高電圧電源を供給する。インバータ45は、モータジェネレータMG1の出力トルクおよび回転数を所望の値に調整するために必要な三相交流電流の振幅および周波数を調整し、モータジェネレータMG1に供給する。
【0104】
CPU44aは、クランク角センサ47の検出情報に基づいて、モータジェネレータMG1が駆動されてキャリア3Cを介してインプットシャフト6が130°回転したときに、モータコントローラ43にモータ停止信号を出力し、モータコントローラ43によってモータジェネレータMG1の駆動を停止する。
【0105】
このため、インプットシャフト6が130°だけ回転することで、図4に示すように、ピニオンギヤ3PB、3PCをオイルOに漬けることができ、ピニオンギヤ3PBの連通孔6aおよび放射孔6bを通してニードルベアリング30を潤滑することができるとともに、ピニオンギヤ3PBの外歯とリングギヤ3Rの内歯の噛合部32を潤滑することができる。
【0106】
このように本実施の形態では、CPU44aが、車両の走行モードがEV走行モードに移行した後に、ピニオンギヤ3Pの回転状況を表す回転時間が所定の時間経過したときに所定の条件が成立したものと判断して、モータジェネレータMG1を駆動してインプットシャフト6を所定の回転角度だけ回転させるようにしている。
【0107】
なお、エンジン1の停止時にピニオンギヤ3Pがどの位置にあるのかを判断するのは困難であるため、インプットシャフト6を一定の角度で回転させた場合に、オイルOに漬からないピニオンギヤ3Pが存在する可能性がある。
【0108】
このため、ステップS3で設定される所定の時間を無潤滑走行可能時間の1/3程度の時間に設定して、インプットシャフト6の回転角度が、例えば、所定の時間が経過する毎にインプットシャフト6が130°、200°、90°というように不規則に回転するようにモータジェネレータMG2の回転トルクと回転数を設定するようにしてもよい。
【0109】
このようにすれば、EV走行モード中にピニオンギヤ3PA、3PB、3PCの全てををオイルOに浸すことができ、ピニオンギヤ3PA、3PB、3PCを潤滑することができる。
【0110】
以上のように本実施の形態では、リングギヤ3Rの内歯とピニオンギヤ3Pの外歯との噛合部32に対して、ボールベアリング27、28のアウタレース27a、28aの内周部27i、28iがリングギヤ3Rの放射方向内方に位置するようにボールベアリング27、28をケース25の環状支持部25a、25bに取付け、リングギヤ3Rの内周部と一対のアウタレース27c、28cとによってリングギヤ3Rの底部にオイル溜まり33を形成したので、ピニオンギヤ3PをオイルOに浸すことができる。
【0111】
また、エンジン1を停止してEV走行を行うときに、キャリア3Cが回転しないため、オイルに浸されないピニオンギヤ3Pが存在するが、本実施の形態では、車両の走行モードがEV走行モードに移行した後に、一定時間経過したときに、モータジェネレータMG1を駆動してインプットシャフト6を所定の回転角度だけ回転させるようにしたので、ピニオンギヤ3Pの全てを潤滑油に浸すことができる。
【0112】
したがって、エンジン1の回転駆動の停止後のモータ走行時にオイルポンプ7から動力分配装置2に潤滑油を供給するのを不要にでき、従来のように、オイルポンプ7が潤滑油を動力分配装置2に供給する回転数までモータジェネレータMG1によってインプットシャフト6を回転させる必要がなく、不必要なバッテリ消費を抑制しつつ動力分配装置2を潤滑することができる。
【0113】
なお、本実施の形態では、EV走行モードに移行した後に、ピニオンギヤ3Pが所定の時間回転したことを所定の条件としているが、この所定の条件として、車両の走行距離が一定距離に到達したことを条件としてもよい。
この場合には、ハイブリッド制御用コントローラ44は、車速センサ51が検出する車速を時間積分することで走行距離を算出し、この走行距離が一定距離(例えば、無潤滑走行可能距離)となったときに、インプットシャフト6を所定の角度だけ回転させるようにすればよい。
【0114】
また、本実施の形態では、EV走行時にインプットシャフト6を360°以内の角度だけ回転させるようにしているが、1回転以上回転させるようにしてもよい。この場合には、ピニオンギヤ3Pの連通孔3aがオイルOに十分に浸るようにインプットシャフト6を回転させるようにすれば、全てのピニオンギヤ3Pの連通孔6aおよび放射孔6bを通してニードルベアリング30を確実に潤滑することができる。
【0115】
また、本実施の形態では、EV走行モードに移行した後に、ピニオンギヤ3Pが所定の時間回転したことを所定の条件としているが、この所定の条件としてEV走行モードに移行したときにモータジェネレータMG2によって電力の回生が行われていることを条件としてもよい。
【0116】
この場合には、図6に示すように、ハイブリッド制御用コントローラ44のCPU44aは、ステップS11でEV走行モードであるものと判断した場合に、ステップS12において、モータジェネレータM2によって回生が行われているか否かを判断する。
すなわち、CPU44aは、アクセル開度センサ50および車速センサ51からの検出情報に基づいて車両が減速状態にあるか、また、図示しないブレーキペダルスイッチからの検出情報に基づいてブレーキペダルが踏み込まれた制動状態である否かを判断し、車両が減速状態あるいは制動状態にないものと判断した場合には、ステップS14に移行してインプットシャフト6の位相を現状に維持する。
【0117】
また、CPU44aは、車両が減速状態あるいは制動状態にあるものと判断した場合には、モータジェネレータMG2によって駆動輪24の回生を行っているものと判断してステップS13に移行して出力軸位相シフト制御を実行する。
【0118】
このようにすれば、回生時にオイルOに浸されていないピニオンギヤ3Pの噛合部をオイルOに浸すことができ、エンジン1の停止時に動力分配装置2を潤滑することができる。
【0119】
これに加えて、減速動作中にエンジン1のインプットシャフト6を一定の回転角度だけ回転させるだけであるので、エンジン1のNV(ノイズ・バイブレーション)が発生するのを防止することができ、運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0120】
(第2の実施の形態)
図7は、本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第2の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
【0121】
図7において、ボールベアリング27、28のアウタレース27a、28aとリングギヤ3Rの間には環状部材61a、61bが設けられており、この環状部材61a、61bの放射方向外端は、リングギヤ3Rの内周部の段差部62a、62bとアウタレース27a、28aとの間に圧入されている。
【0122】
この環状部材61a、61bは、アウタレース27a、28aとインナレース27c、28cと間の隙間の一部を閉止するようになっており、放射方向内端がアウタレース27a、28aの内周部27i、28iよりもリングギヤ3Rの放射方向内方に位置している。
【0123】
本実施の形態では、このようにアウタレース27a、28aとインナレース27c、28cと間の隙間の一部を閉止する環状部材61a、61bを設けることにより、オイル溜まり33からアウタレース27a、28aとインナレース27c、28cと間の隙間を通してボール部27b、28bに流入されるオイル量を少なくすることができる。このため、ボール部27b、28bの撹拌抵抗を低減することができ、動力分配装置2の駆動損失を低減することができる。
なお、環状部材61a、61bは、アウタレース27a、28aとインナレース27c、28cと間の隙間の全てを閉止するようにしてもよい。
【0124】
(第3の実施の形態)
図8、図9は、本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第3の実施の形態を示す図であり、第1の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
【0125】
図8、図9において、ケース25の環状支持部25bとボールベアリング28のインナレース28cとの間にはオイル溜まり33からオイルの一部を排出するための複数の排出孔71a、71bが形成されており、この排出孔71a、71bは、環状支持部25bの円周方向の一部分に形成された溝から構成されている。
【0126】
また、ボールベアリング28の軸方向一端部とケース25の壁面25cとの間には排出孔71bに連通するオイル排出流路(排出孔71a側は図示省略)72が形成されている。排出孔71a、71bは、オイル溜まり33の上方に位置しており、エンジン1の回転駆動が停止されたときにオイル溜まり33に貯留されたオイルの一部は、排出孔71a、71bからオイル排出通路72を通して排出されることにより、オイル溜まり33に貯留されるオイルは一定の高さに維持される。
【0127】
このように本実施の形態では、ケース25の環状支持部25bとボールベアリング28のインナレース28cとの間にオイル溜まり33に貯留されたオイルを排出する排出孔71a、71bを形成したので、オイル溜まり33に必要以上のオイルが貯留されてしまうのを防止することができ、動力分配装置2を構成するリングギヤ3Rやピニオンギヤ3Pの撹拌抵抗が増大してしまうのを防止することができる。
【0128】
また、排出孔71a、71bをオイル溜まり33の上方に形成したので、オイル溜まり33に貯留されるオイルの全てが排出孔71a、71bから排出されてしまうのを防止することができ、動力分配装置2を確実に潤滑することができる。
【0129】
(第4の実施の形態)
図10、図11は、本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置の第4の実施の形態を示す図であり、第1、第3の実施の形態と同一の構成には同一番号を付して説明を省略する。
【0130】
図10、図11に示すように、本実施の形態のトランスアクスルは、オイルポンプ駆動軸29が廃止されるとともに、インプットシャフト6に連通孔6aおよび放射孔6bが形成されていないものであり、オイルポンプ7が廃止されたものとなっている。
【0131】
ケース25の環状支持部25bとボールベアリング28のインナレース28cとの間には流入孔81が形成されており、この流入孔81は、環状支持部25bの円周方向の一部分に形成された溝から構成され、インプットシャフト6に中心軸に対して上方に位置している。
【0132】
また、ケース25の壁面25cとリングギヤ3Rおよびボールベアリング28との間には潤滑油流入通路としてのオイル流入通路82が形成されており、このオイル流入通路82にはケース25の底面に貯留され、デフリングギヤ20によってケース25の上方に掻き上げられるオイルが流下されるようになっている。
【0133】
本実施の形態では、ケース25の環状支持部25bとボールベアリング28のインナレース28cとの間に流入孔81を形成し、この流入孔81を、デフリングギヤ20によってケース25の上方に掻き上げられ、オイル流入通路82に流下されるオイルがリングギヤ3Rの内方に導入されるようにインプットシャフト6に対して上方に形成したので、サンギヤ3S、キャリア3Cおよびリングギヤ3Rからなる動力分配装置2をオイルによって潤滑することができる。
【0134】
また、このオイルをオイル油溜まり33に貯留してエンジン1の回転駆動の停止後のモータ走行時に動力分配装置2を潤滑油することができる。この結果、オイルポンプを廃止することができ、トランスアクスルの製造コストを低減することができる。
なお、上記各実施の形態のトランスアクスルは、モータジェネレータMG1、MG2の回転軸10、12が平行に設置されたものから構成されているが、モータジェネレータMG1、MG2のモータ軸が同軸上に設置されたトランスアクスルに本発明を適用してもよい。
【0135】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0136】
以上のように、本発明に係るハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置は、内燃機関の回転駆動の停止後のモータ走行時に、不必要なバッテリ消費を抑制しつつ動力伝達機構を潤滑することができるという効果を有し、内燃機関の回転駆動を停止させた状態で電動機のみを動力源とするモータ走行が可能なハイブリッド駆動装置およびハイブリッド駆動装置の制御装置等として有用である。
【符号の説明】
【0137】
1 エンジン(内燃機関、動力源)
2 動力分配装置(動力伝達機構)
3C キャリア
3P ピニオンギヤ
3R リングギヤ
3S サンギヤ
6 インプットシャフト(出力軸)
10 モータ軸(回転軸)
23 ドライブシャフト(車軸)
24 駆動輪
25 ケース
25a、25b 環状支持部(支持部)
25c 壁面
27、28 ボールベアリング(軸受)
27a、28a アウタレース
27b、28b ボール部(転動体)
27c、28c インナレース
27i、28i 内周部
32 噛合部
43 モータコントローラ(電動機制御手段)
44 ハイブリッド制御用コントローラ(走行モード判定手段)
61 環状部材
71a、71b 排出孔
81 流入孔
82 オイル流入通路
MG1 モータジェネレータ(第1の電動機、動力源)
MG2 モータジェネレータ(第2の電動機、動力源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関、第1の電動機および第2の電動機を組み合わせた動力源と、
前記内燃機関の出力軸に連結され、複数のピニオンギヤを回転自在に支持するキャリア、前記第1の電動機の回転軸に連結され、前記ピニオンギヤに噛合されるサンギヤおよび車軸側に連結され、前記ピニオンギヤに噛合されるリングギヤを含んで構成され、前記第1の電動機により前記内燃機関の前記出力軸を強制回転することができる動力伝達機構と、
前記リングギヤの内周部に設けられた外輪部材およびケースの支持部の外周部に設けられ、前記外輪部材に転動体を介して回転自在に取付けられた内輪部材を有し、前記キャリアを挟んで前記出力軸の軸線方向に離隔して設けられた複数の軸受とを含んで構成されたハイブリッド駆動装置であって、
前記リングギヤの内歯と前記ピニオンギヤの外歯との噛合部に対して、前記軸受の外輪部材の内周部が前記リングギヤの放射方向内方に位置するように前記軸受を前記ケースの前記支持部に取付けたことを特徴とするハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記キャリアに対向する前記外輪部材と前記内輪部材との間の隙間の少なくとも一部を閉止する環状部材を有すること特徴とする請求項1に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記内輪部材の内周部と前記ケースの支持部の外周部との間に排出孔を形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項4】
前記内輪部材と前記ケースとの間に流入孔を形成し、前記流入孔は、前記ケースの壁面と前記リングギヤおよび前記軸受の一方との間に形成される潤滑油流入通路に流下される潤滑油を前記リングギヤの内方に導入するように、前記内燃機関の前記出力軸の中心軸よりも上方に位置することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1の請求項に記載のハイブリッド駆動装置の制御装置であって、
車両の走行モードがモータ走行モードに移行したか否かを判定する走行モード判定手段と、前記走行モードの判定結果に基づいて前記第1の電動機を制御する電動機制御手段とを備え、
前記電動機制御手段は、前記車両の走行モードがモータ走行モードに移行した後に、所定の条件が成立したときに、前記第1の電動機を駆動して前記内燃機関の出力軸を所定の回転角度だけ回転させることを特徴とするハイブリッド駆動装置の制御装置。
【請求項6】
前記所定の条件は、前記モータ走行モードに移行してからの前記ピニオンギヤの回転状況に基づいて設定されることを特徴とする請求項5に記載のハイブリッド制御装置の制御装置。
【請求項7】
前記所定の条件は、前記モータ走行モードに移行した後に、前記第2の電動機によって電力の回生が行われていることを条件とすることを特徴とする請求項5に記載のハイブリッド制御装置の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−121374(P2012−121374A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271655(P2010−271655)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】