説明

ハードコートフィルムおよびハードコートフィルムを作製するプロセス

【課題】溶媒性ハードコーティングにおける設備、クリーンルーム環境等の不利点を克服する。
【解決手段】ハードコートフィルムであって、透明なポリマーフィルム基板2と、前記フィルム基板の表面上に形成される有機接着層4であって、約0.025μmから約20.0μmの範囲の厚さを有する接着層と、前記接着層の表面上に形成される有機ハードコート層6であって、約0.025μmから約20.0μmの範囲の厚さを有する有機ハードコート層と、を備えるハードコートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は概してハードコートフィルムに関する。より具体的には、本願は、真空中で基板へ有機ハードコート材料を真空蒸着することによって形成される、ハードコートフィルムに関する。
【発明の背景】
【0002】
ハードコートフィルムと呼ばれるタイプのものは多種多様の用途に見出され、溶液またはエマルジョンを表面上に噴霧または流し込んだ後に溶媒を蒸発させることによって製造されてきた。ハードコートまたはハードコーティングは、通常、耐摩耗性や化学抵抗等の表面特性を提供するための、基板に塗布される保護ポリマーを指す。現在のハードコートの厚さは、ポリマーおよび塗布技術に依存するが、典型的には約1μmから約8μmの厚さとなる。ハードコートは、典型的に、LCD(液晶ディスプレイ)やタッチパネル、CRT(陰極線管)、PDP(プラズマディスプレイパネル)、EL(エレクトロルミネッセンスディスプレイ)、光学ディスク、および他のデバイスといった、画像ディスプレイ装置の表面の保護のために使用される。
【0003】
従来、上で説明されるタイプのハードコートを形成するためには、まず溶媒または水性製剤を使用して基板上に塗布して湿潤コーティングを形成する。次に、水や溶媒を熱で蒸発させたり、UVや電子ビームのような線源を用いてコーティングを硬化させたりすることによって、湿潤コーティングを硬化する。
【0004】
溶媒性ハードコートの堆積、およびその後の乾燥または硬化に関連する、多くの既知の問題が存在する。いくつかの一般的な欠陥としては、クレータ、擦過、気泡、湾曲、Benard-Marangoniセル、オレンジピール、ピクチャフレーミング、エアバー摩擦、マッドクラッキング、細網化、層間剥離、ヘイズ、染み、および乾燥帯が挙げられる。また、環境的観点から、溶媒性ハードコーティングは、危険廃棄物として対処および処分される必要のある廃棄物を生成する場合がある。さらに、溶媒性ハードコーティングにおける典型的な大気中プロセスは、コーティング機器のために、クリーンルーム環境が必要な清浄および塵埃制御を要する。
【0005】
したがって、先行技術の欠陥および欠点を改善する、ハードコーティング、およびハードコーティングを形成するためのプロセスに対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本明細書において説明されるように、本発明の例示的な実施形態は、当該技術分野において既知の1つ以上の不利点を克服する。
【0007】
本発明の捉え方の一つによれば、本発明は、ポリマーフィルム基板と、フィルム基板の表面上に形成される有機接着層と、該接着層の表面上に形成される有機ハードコート層とを備えるハードコートフィルムに関する。ある実施形態において、前記接着層および前記ハードコート層は、個別に硬化させられる。前記接着層は、約0.025μmから約20μmの範囲の厚さを有し、前記ハードコート層は、約0.025μmから約20μmの範囲の厚さを有する。選択肢として、前記ハードコートフィルムは、前記接着層と前記ハードコート層との間に形成される無機層を有してもよい。
【0008】
本発明の別の捉え方によれば、本発明は、ポリマーフィルム基板と、有機接着層と、有機ハードコート層とを備えるハードコートフィルムに関する。前記有機接着層は、真空中でフィルム基板の表面上に第1の有機材料を堆積させることによって、該フィルム基板の表面上に形成される。前記有機ハードコート層は、前記有機接着層に真空中で第2の有機材料を堆積させることにより、前記有機接着層の表面上に形成される。前記接着層および前記ハードコート層は、堆積プロセスの後に、個別に硬化させられる。前記接着層は、約0.025μmから約20μmの範囲の厚さを有し、前記ハードコート層は、約0.025μmから約20μmの範囲の厚さを有する。選択肢として、前記ハードコートフィルムは、前記接着層と前記ハードコート層との間に形成される無機層を有してもよい。
【0009】
本発明のこれらおよび他の側面ならびに利点は、添付の図面と併せて以下の詳細説明を検討することにより明らかとなるであろう。なおこれらの図面は例示のためのものであり、本発明の限定の定義としては作成されておらず、本発明の限定のためには添付の請求項を参照すべきであるということは理解されたい。さらに、図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれておらず、別途指示されない限り、それらは、本明細書において説明される構造および手順を概念的に例示することを意図されるに過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面において、
【0011】
【図1】本明細書の開示に従うハードコートフィルムの実施形態の断面図である。
【0012】
【図2】本明細書の開示に従うハードコートフィルムの別の実施形態の断面図である。
【0013】
【図3】本明細書の開示に従うハードコートフィルムの別の実施形態の断面図である。
【0014】
【図4】本明細書の開示に従うハードコートフィルムを作製するためのプロセスの各工程を示す図である。
【発明の実施形態の詳細な説明】
【0015】
図1を参照すると、本明細書の開示に従うハードコートフィルム10の実施形態が、その積層構造を概略的に例示する断面図によって示されている。ハードコートフィルム10は、ハードコートフィルムの基部を形成する、透明なポリマーフィルム基板2を含む。有機接着層4はフィルム基板2の表面上に形成される。有機ハードコート層6は接着層4の表面上に形成され、ハードコートフィルム10における積層された複数の層のための保護面を提供する。ある用途において、ハードコートフィルム10は、ディスプレイデバイスおよび同等のもののための保護被膜として好適である。
【0016】
好ましい実施形態において、開示されるハードコートフィルム10は、真空蒸着コーティングプロセスを使用して、フィルム基板2の1つ以上の表面上に、選択された材料の有機および/または無機層の複数の個別の層を堆積することによって形成される。ハードコートフィルム10の複数の層のコーティングプロセスおよび硬化について以下に更に説明する。
【0017】
ポリマーフィルム基板2は、典型的には透明なポリマーフィルムであり、これは時間が経過しても、透明性に関して劣化しないか又は僅かに劣化するのみである。ハードコートフィルム10の種々の用途のために好適な好ましい材料の例としては、セルロースエステル(例えばトリアセチルセルロース,ジアセチルセルロース,プロピオニルセルロース,ブチリルセルロース,アセチルプロピオニルセルロース,ニトロセルロース),ポリアミド,ポリカーボネート,ポリエステル(例えばポリ(エチレンテレフタレート),ポリ(エチレンナフタレート),ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート),ポリエチレン-1,2-ジフェノキシエタン-4,4'-ジカルボキシレート,ポリ(ブチレンテレフタレート),ポリスチレン(例えばシンジオタクチックポリスチレン),ポリオレフィン(例えばポリプロピレン,ポリエチレン,ポリメチルペンテン),ポリスルホン,ポリ(エーテルスルホン),ポリアリレート,ポリ(エーテルイミド),ポリ(メチルメタクリレート),ポリ(エーテルケトン)トリアセチルセルロース,ポリカーボネート,ポリ(エチレンテレフタレート),およびポリ(エチレンナフタレート)が挙げられる。
【0018】
ハードコートフィルム10のある好ましい実施形態において、フィルム基板2は、高い機械的強度(20℃で3〜4GPa、および150℃で約1GPaのヤング係数)、ならびに寸法安定性(機械方向における収縮度は約0.1%未満で、熱膨張係数(CTE)は約20〜50ppm/℃)を有する、二方向に引き延ばされたポリエチレンテレフタレートフィルムである。
【0019】
透明なポリマーフィルム基板2の厚さは、塗布される材料および用途に従って選択されるが、一般的に、約1μmから約300μmの範囲である。
【0020】
ハードコートフィルム10の平滑性および連続性は、その上に接着層4を堆積させる前に、フィルム基板2を前処理することによって、向上させることができる。フィルム基板2の前処理は、フィルム基板の表面と、その後にその上に形成される層との間の密着性を向上させるために役立つことができる。ポリマーフィルム基板2のウェット特性(Wetting property)及び摩擦特性(Friction property)も、既知のプラズマ処理によって改善することができる。プラズマ処理に用いる気体タイプやプラズマ条件はフィルム基板のポリマーに依存して調整される。他の既知の前処理もまた、本発明のハードコートフィルムを形成する複数の層を形成する上で、フィルム基板2の表面を整えるために用いることができる。
【0021】
有機接着層4が提供される理由の一つは、ハードコート層6や他の中間層をフィルム基板2に接着することである。有機接着層4は通常、フィルム基板2よりも軟質の材料であり、好ましくは、それが堆積される基板の表面に湿気を与えるように選択される。フィルム基板2上に接着層4を堆積させる前に、フィルム基板の表面は前処理される。
【0022】
フィルム基板2の表面には、擦り傷など滑らかさを損なうものが存在する場合がある。接着層4は、そのような隙間を充填するためのレべリングコース(leveling course)として機能し、ハードコートフィルム10の更なる層を堆積させるための平滑で、水平で、かつ接着性の表面を提供する接着層4の厚さは形成プロセスによって制御される。ハードコートフィルム10の種々の実施形態において、接着層4は、約0.025μmから約20μmの範囲の厚みを有する。レべリングの目的上、接着層4は、フィルム基板2表面の孔隙等の不完全性を充填するために、約0.025μmから約0.1μmの範囲の厚さに塗布することができる。
【0023】
接着層4はまた、基板の表面不完全性による、フィルム基板2の表面上の光散乱を低減するように機能する。光散乱効果の除去は、ヘイズおよび反射の低減として、ならびにフィルム基板2および接着層4を通る光透過率の上昇によって、測定することができる。
【0024】
ハードコートフィルム10の好ましい実施形態において、有機レべリング・接着層4は、(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルに由来する構成要素を備える。例えば、接着層4は、以下の構成要素および/またはそれらの混成物を含むことができる:トリプロピレングリコール(メタ)アクリレート,エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,フェノキシエチル(メタ)アクリレート,ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート,トリエチレングリコールジビニルエーテル,1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート,テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート,イソデシルアクリレート,アルコキシル化ジアクリレート,エトキシエチルアクリレート,ポリエチレングリコールジアクリレート,ジエチレングリコールジアクリレート,トリメチロールプロパントリアクリレート,テトラエチレングリコールジアクリレート,シアノ-エチル(モノ)-アクリレート,オクトデシルアクリレート,ジニトリルアクリレート,ニトロフェニルアクリレート,テトラヒドロフルフリルアクリレート,1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート,トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート,イソ-ボルニルアクリレート,プロポキシル化ネオ-ペンチルグリコールジアクリレート,エトキシ化ビス-フェノールジアクリレート。
【0025】
さらに図1を参照すると、ハードコートフィルム10は有機ハードコート層6を有する。これは、接着層4の上側の表面上に堆積され、熱またはイオン化放射線硬化法によって硬化させられる。ハードコート層6は、典型的に、ハードコートフィルム10のための好適な保護層を提供するようにデザインされる、有機材料および反応性希釈剤の混成物である。ハードコート層6の有機材料は、接着層4の有機材料と同じでもよいし、または異なってもよい。ハードコート層6の所望の特性に依存して、反応性希釈剤(reactive diluents)は、種々のモノマー、オリゴマー、およびそれらの組み合わせを含む、樹脂構成要素を含むことができる。ハードコート層6の所望の性能特性の例は、接着性、化学抵抗性、擦過抵抗性、摩耗抵抗性、透明性、汚れにくさ、抗汚染性、抗反射性、抗微生物性、酸素および水蒸気障壁性、抗静電気性、化学レベリング/平坦化、親水性、疎水性、ならびに超疎水性である。
【0026】
ハードコートフィルム10の好ましい実施形態において、ハードコート層6は、(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルに由来する構成要素を備える。例えば、ハードコート層6は、以下の構成要素および/またはそれらの混成物を含むことができる:トリプロピレングリコール(メタ)アクリレート,エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,フェノキシエチル(メタ)アクリレート,ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート,トリエチレングリコールジビニルエーテル,1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート,テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート,イソデシルアクリレート,アルコキシル化ジアクリレート,エトキシエチルアクリレート,ポリエチレングリコールジアクリレート,ジエチレングリコールジアクリレート,トリメチロールプロパントリアクリレート,テトラエチレングリコールジアクリレート,シアノ-エチル(モノ)-アクリレート,オクトデシルアクリレート,ジニトリルアクリレート,ニトロフェニルアクリレート,テトラヒドロフルフリルアクリレート,1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート,トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート,イソ-ボルニルアクリレート,プロポキシル化ネオ-ペンチルグリコールジアクリレート,エトキシ化ビス-フェノールジアクリレート。
【0027】
ハードコート層6に含まれる反応性希釈剤の例としては、二官能性もしくはより高官能性モノマーまたはオリゴマー、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート,トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート,ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート,および同等のものが挙げられる。使用されるそれらの例としては、アクリル酸エステル、例えば、N-ビニルピロリドン,エチルアクリレート,およびプロピルアクリレートエチルメタクリレート,プロピルメタクリレート,イソプロピルメタクリレート,ブチルメタクリレート,ヘキシルメタクリレート,イソオクチルメタクリレート,2-ヒドロキシエチルメタクリレート,シクロヘキシルメタクリレート,ノニルフェニルメタクリレート,テトラヒドロフルフリルメタクリレート,カプロラクトン,スチレン,a-メチルスチレン,ならびにアクリル酸がさらに挙げられる。
【0028】
ハードコート形成材料の硬化は、紫外線硬化といった、熱硬化、またはイオン化放射線硬化によってもたらすことができ、硬化手段に適合する種々の種類の重合開始剤を使用することができる。既知の光重合開始剤は、紫外線が硬化手段として使用される場合に、使用することができる。好適な光重合開始剤の例としては、ベンゾインおよびそのアルキルエーテル、例えば、ベンゾイン,ベンゾインメチルエーテル,ベンゾインエチルエーテル,ベンゾインイソプロピルエーテル,N,N,N,N-テトラメチル-4,4'-ジアミノベンゾフェノン,ベンジルメチルケタール;アセトフェノン,例えば,アセトフェノン,3-メチルアセトフェノン,4-クロロベンゾフェノン,4,4'-ジメトキシベンゾフェノン,2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン,および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;アントラキノン,例えば,メチルアントラキノン,2-エチルアントラキノン,および2-アミルアントラキノン;キサンタン;チオキサンタン,例えば,チオキサンタン,2,4-ジエチルチオキサンタン,2,4-ジイソプロピルチオキサンタン,ケタール,例えば,アセトフェノンジメチルケタール,およびベンジルジメチルケタール;ベンゾフェノン,例えば,ベンゾフェノン,および4,4-ビスメチルアミノベンゾフェノン;ならびに他のもの、例えば、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オンが挙げられる。識別される光重合開始剤化合物は、単独で、または2つ以上の混合物として使用することができる。光重合開始剤の使用量は、ハードコート層6中の材料形態における全ての樹脂構成要素に対して、好ましくは、約5重量部以下、およびより好ましくは、1から4重量部の範囲である。ハードコート層6は、任意の方法によって硬化されてもよい一方で、イオン化放射線硬化が好ましい。任意のタイプの活性化エネルギーが、かかる硬化のために使用されてもよいが、好ましくは、電子ビームが使用される。
【0029】
ハードコートフィルム10の複数の層の収縮および湾曲は、ハードコートフィルムを形成する多層積層体全体に、可撓性および弾性を付与することによって対処される。これは、一つには接着層4の軟質材料を通じて達成される。接着層4の軟質材料は、剛性フィルム基板2と剛性ハードコート層6との間にクッションを提供し、硬化段階の間にハードコート層6がフィルム基板2上に加える力を吸収する、
【0030】
一般に、高い硬度および摩耗抵抗特性を有する無機および有機材料は、非常に脆弱な材料である。クラッキングは、これらの材料を可撓性基板フィルム2上に堆積させる時の問題となる可能性がある。軟質の可撓性接着層4は、ハードコート層から生成される収縮および湾曲効果を防止するだけではなく、脆弱なハードコート層6のためのクッションを提供するので、ハードコート層6のクラッキングもまた、接着層4の軟質有機材料を通じて大幅に低減することができる。
【0031】
さらに図1を参照すると、ある実施形態において、ハードコートフィルム10は、フィルム基板2と、接着層4と、ハードコート層6のみから成る。フィルム基板2をレべリングし、ハードコート層6をフィルム基板に接着させるための有機接着層4は、約0.025μmから約0.1μmの厚さの範囲で提供される。有機ハードコート層は上記のような有機材料または有機材料の混成物、および反応性希釈剤からなる別の層であって、約0.1μmから約20μmの範囲の厚さを有する。
【0032】
図2は、ハードコートフィルム10に関して上で説明されたような、フィルム基板2と、接着層4と、ハードコート層6とを含む、ハードコートフィルム20を示すが、接着層4とハードコート層6との間に無機層8が形成されている。用途に依存して、無機層8は、カルシウム(Ca),チタン(Ti),シリコン(Si),アルミニウム(Al),亜鉛(Zn),Tin(Sn),ジルコニウム(Zr),またはインジウム(In)の酸化物のうちのいずれであってもよい。無機層8は、ハードコートフィルム20の多層積層体に、硬度および摩耗抵抗を与える。無機層8の厚さは形成プロセスによって制御され、約5nmから約100nmに及ぶ。
【0033】
図3は、ハードコートフィルム10、20に関して上で説明されるように、フィルム基板2と、接着層4と、ハードコート層6とを含む、ハードコートフィルム30を示すが、接着層4とハードコート層6との間に2つの無機層8、8がそれぞれ形成される。用途に依存して、無機層8は、カルシウム(Ca),チタン(Ti),シリコン(Si),アルミニウム(Al),亜鉛(Zn),Tin(Sn),ジルコニウム(Zr),またはインジウム(In)の酸化物のうちのいずれであってもよい。無機層8は、ハードコートフィルム30の多層積層体に、硬度および摩耗抵抗を付与する。
【0034】
それぞれ個別に堆積および硬化させられる接着層4やハードコート層6、無機層8を有する独立の有機層を備えるハードコートフィルム10や20、30は、溶媒成形ハードコーティングにしばしば存在する、接着、収縮、および湾曲の多くの欠陥を回避する。
【0035】
ハードコートフィルム10や20、30における個別の層や、各層に関する多くの有機および無機材料ならびにそれらの混成物の選択の柔軟性や厚さの柔軟性は、選択された材料の機能性が積層ハードコートフィルムの各層に提供されることを可能にする。

フィルム基板2、1または複数の接着層4、1または複数の無機層8、およびハードコート層(複数を含む)6を含む、個々の層の各々の組成および厚さを個別に制御することは、ハードコートフィルム10、20、30を設計する当業者に、ハードコートフィルムの機能性および性能に関する事実上無制限の能力を与える。
【0036】
ハードコートフィルム10、20、30の抗反射特性は、積層ハードコートフィルムの個別の層間の相互作用により強化することができる。例えば、接着層4の塗布によってフィルム基板2をレべリングすることは、フィルム基板2に平坦な表面をもたらし、基板の表面のいかなる不完全性をも充填し、ハードコートフィルムの積層構造上に入射する光の散乱を低減する。抗反射特性は、積層ハードコートフィルム10、20、30の各層の間の屈折率を整合させることを通じてさらに強化することができる。例えば、ハードコート層の見掛けの屈折率を調整するために、透明なプラスチックフィルム基板2の屈折率、およびハードコート層6の屈折率が、相互にほぼ等しいことが好ましい。さらに、光学フィルムの屈折率および厚さ、ならびにその反射特性を厳格に制御するために、抗反射層(図示せず)が設けられてもよく、これは、ハードコート層6の上表面上に配置される薄い光学フィルムであってもよい。この技術は、入射光および反射光の逆位相が、光の干渉の原理を通じて相互に相殺することを可能にすることによって、抗反射機能を提供する。
【0037】
接着層4、無機層8、およびハードコート層6の各々の厚さは、真空中での好ましい蒸発、堆積、および/またはスパッタリングプロセスを介して正確に制御可能であり、約0.025μmから約20μmの範囲で選択可能である。以下に述べられるように、真空中でコーティング材料を塗布するための好ましいプロセスを使用することは、ハードコートフィルム20の種々の層が、フィルム基板2のウェブの方向およびウェブを横断する方向のいずれも、±2%以内のばらつきで、所望の厚さで正確に塗布されることを可能にする。(フィルム方向は、本明細書において以下で述べられるように、ロール・ツー・ロール蒸発器プロセスを通じて移動するフィルム基板2の方向に関する)。ハードコートフィルム10、20、30の個別の層の精密な厚さは、反応性気体流のプラズマ放出監視(PEM)を通じて制御される。このため、ハードコートフィルム10、20、30の種々の実施形態は、多数の用途、ならびに産業および用途の広い範囲(例えばバッテリや燃料セル用途のための高分子電解質フィルム、光起電性コーティング、透明な導電性酸化物、ならびに多くの他のもの)に好適である。
【0038】
図4は、本明細書の開示に従うハードコートフィルム10や20、20を形成するためのプロセス40のある実施形態の工程を示す図である。プロセス40は、真空チャンバ(図示せず)内でコーティング材料を蒸発させることによって、高い蒸着速度でのフィルム基板2の均一なコーティングを提供する。真空ポンプ(図示せず)は、適切な圧力になるようにチャンバを排気する。通常、開示されるプロセスのために使用される真空は、チャンバ内で約2×10-4から約2×10-5Torrの範囲の圧力を維持する。
【0039】
図4の実施形態において、蒸発器(evaporator,図示せず)は、ドラム46の周辺、および蒸発器の多数の連続的なコーティングおよび硬化ステーションを通って、フィルム基板2を運搬するように、それぞれ、電力供給された繰り出しおよび巻き戻しローラ42、44を備える。ポリマーフィルム基板は、繰り出しローラ22から、矢印によって示される方向に回転する回転ドラム46上へ給送される。ポリマーフィルム基板2は、いくつかのステーションを通過し、コーティングされたハードコートフィルム10、20、30として、巻き戻しローラ44によって取り上げられる。回転ドラム46は、コーティングプロセスおよび材料に依存して、約-20℃から約50℃の範囲に冷却される。ドラム温度は、典型的に、蒸気蒸発状態から、フィルム基板上2にコーティングを形成する液体状態への材料の凝縮を助長するために使用されている特定の材料に対応するように制御される。典型的に、プロセスは、繰り出しおよび巻き戻しローラ42、44間のフィルムの移動と等しい、および毎分約0.1から約500メートルの速度で回転しているドラム46を含む。接着層4、ハードコート層6、および無機層8の厚さは、一つには、コーティング材料の蒸発速度やコーティングステーションを通るフィルム基板2の移動の速度により、制御される。他の実施形態において、プロセスは、フィルム基板2の第2の側面に、コーティング材料を塗布することを含み、第2のドラムおよび追加のローラが、フィルム基板2の第2の側面上でのその後の処理のために、チャンバ内に提供されてもよい。
【0040】
例示される実施形態において、コーティングプロセス40は、フィルム基板2を前処理する第1の工程48を含む。ポリマーフィルム基板2のウェット特性及び摩擦特性は、既知のプラズマ処理によって改善することができ、フィルム基板2のポリマーに依存して、気体タイプやプラズマ条件に関して調整される。プラズマ前処理は、表面上の有機コーティングの堆積の前に、吸収された水、酸素、湿気、およびいかなる低分子量種も除去するように、コーティングされるべきフィルム基板2の表面を、プラズマに曝露させる。典型的に、前処理工程48において使用されるプラズマ源は、低周波数DC、AC、RF、または高周波数RFであってもよい。プラズマ前処理は、任意に、水蒸気および窒素を含むことができる。
【0041】
工程50Aにおいて、有機前駆体は、有機材料の蒸気を、上で述べられるハードコートフィルム10、20、30に接着層4を形成するフィルム基板の表面に送る材料源蒸発器を使用して、ポリマーフィルム基板2上に堆積される。ある実施形態において、有機前駆体は、加熱された蒸発器タンクを介してポリマーフィルム基板2上に蒸着される。蒸発器タンクには液体前駆体が供給され、モノマー液体が瞬時に蒸発する。このためポリマーフィルム基板上に蒸着される前に重合が生じることが防止される。蒸発した1つまたは複数の前駆体は、冷却されたドラム46に面するポリマーフィルム基板2の表面上で凝縮し、それは、ハードコートフィルム10、20、30の接着層4を形成することとなる、薄い有機フィルムコーティングを形成する。
【0042】
工程52Aにおいて、有機前駆体は、有機前駆体を架橋(cross-link)して材料を重合(polymerize)するべく、放射線源によって硬化させられる。次いで、凝縮した液体前駆体は、放射線硬化によって放射線硬化させられる。放射線硬化は、ラジカル形成を活性化するための既知の複数の方法のうちの1つまたはそれらの組み合わせとすることができる。利用可能な手段の例としては、電子ビームまたは紫外線放射線を放出するデバイスが挙げられる。1つの好ましい硬化方法は、電子ビームガンを介するものである。電子ビームガンは、有機層上に電子流を方向付けて、材料を硬化させ、架橋フィルムを形成する。硬化は、ポリマーフィルムの厚さに基づいて、有機前駆体に方向付けられる電子ビーム電圧によってもたらされる。6〜12KeVの電圧で、厚さ約1μmまで有機前駆体の液体層を硬化させることができる。有機材料(例えば接着層4)の電子ビーム硬化は、ほぼ瞬間的(通常10ナノ秒未満)である。この方法の放射線硬化によって得られる高速硬化は、蒸発が非一様に生じる場合のある溶媒コーティング方法にしばしば存在する、ピンホール、クラッキング、湾曲、および乏しい接着といった、完成したフィルム中の欠陥の発生を大幅に低減する。
【0043】
プロセス40の説明を続ける。工程54はオプションであってもよい。工程54は、無機層(例えば接着層4の上面上の無機層8)を堆積させるための1つ以上のステーションを含む。無機層8は、アルミニウム、チタン、シリコン、亜鉛、カルシウムジルコニウムのいずれかを含んでもよい。それらのそれぞれの酸化物、窒化物、および炭化物を、硬化された有機層上に堆積させることができる。通常、無機材料は、マグネトロンスパッタリングまたは金属スパッタリングプロセスといった、真空チャンバにおけるスパッタリングプロセスを使用して堆積される。代替的に、熱および電子ビーム蒸発プロセスを含む、他のタイプの蒸発プロセスが、無機材料のために採用されてもよい。
【0044】
実施例によっては、プロセス40は、第2の有機堆積プロセス50B、および対応する堆積ユニット、続いて、第2の放射線硬化プロセス52B、およびそのための手段を含んでもよい。第2の有機堆積および硬化プロセスは、典型的に、ハードコートフィルム10、20、30に関して、以上に述べられるハードコーティング層6を提供する。第2の有機堆積プロセス50Bは、ハードコートフィルム10、20、30の複数の層の積層体の上面上に別の層を塗布するために使用される。第2の有機堆積プロセス50Bにおいて使用される材料の組成は、以上に述べられるような第1の有機堆積プロセス50Aのものと同じまたは異なってもよい。
【0045】
上で説明されるプロセスの利点のうちの多くは、当業者には明らかであろうが、主要な利点のうちのいくつかは、以下を含む:
a)堆積材料の95%超の化学的利用。このため、開示されるハードコートフィルムを製造するために使用される原材料の廃棄量は最小限となる。
b)上述の広い範囲の表面特性および機能性。
c)コーティングプロセスが真空チャンバに含まれる。このため、特に、先行技術の溶媒性コーティングプロセスと比較した時に、環境的影響が無い;
d)堆積プロセスは、気相において完全な分子レベルの分散を提供する;
e)有機堆積材料の独自の平滑化および表面レべリングが提供される。それによって、堆積プロセスは、他の方法を使用して形成される表面にしばしば存在するピンホールや他の欠陥が無い表面を提供する。
【0046】
このように、例示的な実施形態に適用される際の本発明の根本的で新規な特性を示してきたが、例示されるデバイスの形態および詳細、ならびにそれらの動作における種々の省略および置換および変更が、本発明の精神から逸脱することなく、当業者によって為されてもよいことを理解されよう。さらに、同じ結果を達成するように、実質的に同じように、実質的に同じ機能を遂行する、それらの要素および/または方法工程の全ての組み合わせが、本発明の範囲であるということが明示的に意図されているる。さらに、本発明の任意の開示される形態もしくは実施形態と併せて示されるおよび/または説明される、構造および/または要素および/または方法工程が、設計選択の一般事項として、任意の他の開示、または説明、または提言される形態もしくは実施形態に組み込まれてもよいということを認識されたい。したがって、添付の特許請求項の範囲によって示されるようにのみ限定されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードコートフィルムであって、
透明なポリマーフィルム基板と、
前記フィルム基板の表面上に形成される有機接着層であって、約0.025μmから約20.0μmの範囲の厚さを有する、接着層と、
前記接着層の表面上に形成される有機ハードコート層であって、約0.025μmから約20.0μmの範囲の厚さを有する、有機ハードコート層と、
を備える、ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記透明なフィルム基板の屈折率は、前記ハードコート層の屈折率にほぼ等しい、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記接着層と前記ハードコート層との間に形成される無機層をさらに備え、前記無機層は、約5nmから約100nmの範囲の厚さを有する、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記接着層は、約0.025μmから約0.045μmの範囲の厚さを有する、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
前記接着層は、約0.025μm±約2パーセントの厚さを有する、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
前記ハードコート層は、約0.025μmから約0.1μmの範囲の厚さを有する、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項7】
前記ハードコート層は、約0.025μmから約0.045μmの範囲の厚さを有する、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項8】
前記ハードコート層は、約0.025μm±約2パーセントの厚さを有する、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項9】
前記ハードコート層の前記厚さは、約±2パーセント以内のばらつきで、ウェブを横断する方向に均一である、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項10】
前記ハードコート層の前記厚さは、約±2パーセント以内のばらつきで、ウェブの方向に均一である、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項11】
ハードコートフィルムであって、
透明なポリマーフィルム基板と、
真空中で前記フィルム基板の表面上に第1の有機材料を堆積させることによって、前記フィルム基板の表面上に形成される有機接着層と、
真空中で前記接着層上に第2の有機材料を堆積させることによって、前記接着層の表面上に形成される有機ハードコート層と、
を備え、前記接着層は約0.025μmから約20μmの範囲の厚さを有し、前記ハードコート層は約0.025μmから約20μmの範囲の厚さを有する、
ハードコートフィルム。
【請求項12】
前記透明なフィルム基板の屈折率は、前記ハードコート層の屈折率にほぼ等しい、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項13】
前記接着層と前記ハードコート層との間に形成される無機層をさらに備え、前記無機層は、約5nmから約100nmの範囲の厚さを有する、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項14】
前記接着層は、約0.025μmから約0.045μmの範囲の厚さを有する、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項15】
前記接着層は、約0.025μmから約0.1μmの範囲の厚さを有する、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項16】
前記ハードコート層は、約0.025μmから約0.045μmの範囲の厚さを有する、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項17】
前記ハードコート層の前記厚さは、約±2パーセント以内のばらつきで、ウェブを横断する方向に均一である、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項18】
前記ハードコート層の前記厚さは、約±2パーセント以内のばらつきで、ウェブの方向に均一である、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項19】
前記接着層および前記ハードコート層は、シングルパスの連続堆積プロセスによって前記フィルム基板上に形成され、前記フィルム基板の送給速度は、約0.1m/分から約1000m/分の範囲である、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項20】
前記接着層および前記ハードコート層は、シングルパスの連続堆積プロセスによって前記フィルム基板上に形成され、前記フィルム基板の送給速度は、約200m/分から約1000m/分の範囲である、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項21】
前記接着層および前記ハードコート層は、シングルパスの連続堆積プロセスによって前記フィルム基板上に形成され、前記フィルム基板の送給速度は、約500m/分から約1000m/分の範囲である、請求項11に記載のハードコートフィルム。
【請求項22】
前記接着層および前記ハードコート層は、シングルパスの連続堆積プロセスによって前記フィルム基板上に形成され、前記フィルム基板の送給速度は、約750m/分から約1000m/分の範囲である、請求項11に記載のハードコートフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−63653(P2013−63653A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−200086(P2012−200086)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【出願人】(512105587)ダーリー カスタム テクノロジー インク (1)
【氏名又は名称原語表記】Darly Custom Technology, Inc.
【住所又は居所原語表記】276 Addison Road, Windsor CT 06095 USA
【Fターム(参考)】