説明

バックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両

【課題】
この発明は、バックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両において、後突時に、衝撃によってシートバックが後方移動するような場合であっても、乗員を拘束して、確実に乗員の頭部とバックドアの間にエアバッグクッションを展開膨張させて、後突用エアバッグ装置の衝撃吸収機能や乗員拘束機能を得ることができるバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両を提供することを目的とする。
【解決手段】
後突時に乗員Pの下半身を拘束するため、バックル部材64を、バックル本体64aと連結部材64bとプリテンショナ装置64c(バックルプリテンショナ装置)とで構成している。
このように、バックル部材64にプリテンショナ装置64cを設けることで、下半身を拘束するベルト部材62cに直接張力を付与することができるため、確実に乗員Pの下半身を拘束することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワンボックスタイプやツーボックスタイプ等、車両後端部にバックドアを備える車両に関し、特に、後部座席のシートバック(背もたれ)が後突時の衝撃で後方に移動するような場合であっても、確実に後突用エアバッグ装置を作動させることができる車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両衝突時の乗員保護を目的として、エアバッグ装置が様々な箇所に設置されるようになっている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、後部座席に着座した乗員の車両後突時の後方移動を防止するため、ルーフ後端のリアヘッダーにエアバッグ装置を設け、後突時にそのエアバッグ装置のエアバッグクッションを膨張展開させるものが開示されている。
【0004】
また、この特許文献1には、後部座席のシートベルトを自動的に巻き込むシートベルト巻き込み装置(プリテンショナ装置)を設け、後突時にシートベルト巻き込み装置を作動させることにより、乗員の拘束をより適正に行うことが開示されている。
【0005】
この特許文献1によれば、エアバッグ装置によって、衝撃吸収機能のみならず、後部座席の乗員の後方移動が防止でき、さらにシートベルト巻き込み装置によって乗員拘束機能をも得ることができる旨、開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、特許文献1のエアバッグ装置の膨張展開方向をウインドガラスに沿うように案内する展開方向制御手段を設けることで、エアバッグクッション展開時の乗員頭部との干渉を防ぎ、確実にエアバッグ装置を作動させるものが開示されている。
【0007】
この特許文献2のエアバッグ装置によると、膨張展開方向が確実に規定されて案内されるため、後突時の後部座席の乗員保護をより確実に行うことができる旨、開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−58849号公報
【特許文献2】特開2004−58850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ワンボックスタイプやツーボックスタイプ等、車両後端部にバックドアを備える車両においては、車室空間をできるだけ確保するため、バックドアのすぐ前方にシートバックが位置するように後部座席を配置する場合がある。
【0010】
このように、後部座席のシートバックとバックドアが近接した車両においては、後突時に大きな衝撃を受けた場合に大きな問題が生じる可能性ある。
【0011】
それは、後突時の衝撃で、乗員の荷重がシートバックに対して後向きに掛かり、シートバック上端が後方に移動して(シートバックが弾性変形で後方側に反る場合又はシートバック下端のヒンジ部が破損してシートバックが後倒する場合等)、乗員の頭部とバックドアとの間が極めて近接し、その間にエアバッグクッションを展開膨張させることができなくなるといった問題である。
【0012】
この問題を、図14に示す状態説明図で説明する。(a)が通常時の乗員の着座状態を示す車両後部側面図、(b)が後突時の乗員の移動状態を示す車両後部側面図である。
【0013】
(a)に示すように、通常時には、乗員Pが車室内に設置された後部座席200のシートバック201に背中を付けた状態で着座していても、シートバック201が立っているため、乗員Pの頭部とバックドア202との間には、ある程度の空間が存在する。よって、この場合にはエアバッグクッションを容易に展開膨張させることができる。
【0014】
しかし、(b)に示すように、後突時には、乗員Pの荷重がシートバック201に掛かり、弾性変形又は破損によって、シートバック201上端が後方に移動(後傾)するため、乗員Pの上半身も後方に倒れて、また、例えば、肩を支持するシートベルトをピラーに設けた場合には、シートベルト203をしていても、シートベルト203が肩から外れることにより、乗員Pは後方斜め上方側に移行する。このため、乗員Pの頭部とバックドア202が極めて近接し、この間にエアバッグクッションを展開膨張させることが困難になるのである。
【0015】
このように、乗員の頭部とバックドアが極めて近接した場合には、エアバッグ装置を展開膨張させることができないため、特許文献1、2のように後突用エアバッグ装置を設置しても、その効果を充分に得ることができない。
【0016】
また、特許文献1に記載されているように、シートベルトをシートベルト巻き込み装置によって巻き込んだとしても、後突時の衝撃によってシートバックが後方に移動し、乗員の上半身も後方に傾動するため、乗員を充分に拘束することができず、やはり、乗員の頭部とバックドアが極めて近接して、この間にエアバッグクッションを展開膨張させることができないといった問題がある。
【0017】
そこで、この発明は、バックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両において、後突時に、衝撃によってシートバックが後方移動するような場合であっても、乗員を拘束して、確実に乗員の頭部とバックドアの間にエアバッグクッションを展開膨張させて、後突用エアバッグ装置の衝撃吸収機能や乗員拘束機能を得ることができるバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明のバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両は、車両後端部のバックドアの前方にシートバックを備えた後部座席を設置し、該シートバックをバックドアに近接配置するとともに、後突時、該シートバックと該バックドアとの間にエアバッグクッションを介在可能な後突用エアバッグ装置を備えた車両であって、前記後部座席は、前記シートバックが、後突荷重を受けた際、乗員の荷重を受けて後方に移動しうるとともに、該後部座席に設置し、乗員の腰部から太股部の間の少なくとも一部を略車幅方向に延びてシートクッション側に押圧する下半身用ベルト部材と、後突時、該下半身用ベルト部材に対して張力を付与し、乗員をシートクッション側に押圧する張力付与手段とを有するものである。
【0019】
上記構成によれば、後部座席のシートバックは、後突荷重を受けた際、乗員の荷重を受けて後方に移動するものの、乗員の腰部から太股部の間の一部をシートクッション側に押圧する下半身用ベルト部材に、張力付与手段が張力を付与することで、乗員の下半身をシートクッション側に押圧することになる。
【0020】
このため、後突時、乗員は下半身用ベルト部材によってシートクッションに拘束されることになり、乗員の後方移動が抑えられる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記張力付与手段を、前記下半身用ベルト部材のバックルを車体側部材に固定する連結部材に設置したテンショナ装置としたものである。
【0022】
上記構成によれば、下半身用ベルト部材のバックルを車体側部材に固定する連結部材に設置したテンショナ装置によって、後突時、下半身用ベルト部材に張力を付与することになる。
【0023】
このため、下半身ベルト部材に直接張力を付与することができ、後突時の乗員の後方移動を確実に抑えることができる。
【0024】
この発明の一実施態様においては、前記張力付与手段を、前記下半身用ベルト部材の一端部を車体側部材に固定するアンカ部に設置したテンショナ装置としたものである。
【0025】
上記構成によれば、下半身用ベルト部材の一端部を車体側部材に固定するアンカ部に設置したテンショナ装置によって、後突時、下半身用ベルト部材に張力を付与することになる。
【0026】
このため、下半身ベルト部材に直接張力を付与することができ、後突時の乗員の後方移動を確実に抑えることができる。
【0027】
この発明の一実施態様においては、前記下半身用ベルト部材から連なる、乗員の上半身を拘束する上半身用ベルト部材を、ピラー中間部に支持したものである。
【0028】
上記構成によれば、乗員の上半身を拘束する上半身ベルト部材をピラー中間部に支持することになる。
【0029】
このため、ベルト部材のリトラクタ装置等をシートバックに設置しなくてもよいため、シートバックの軽量化を図ることができ、また、後突時の衝撃によるシートバックの後方移動に対して肩を支持できなくても、下半身用ベルト部材によって、乗員をシートクッションに拘束するため、より効果的に乗員拘束の効果を得ることができる。
【0030】
この発明のバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両は、車両後端部のバックドアの前方にシートバックを備えた後部座席を設置し、該シートバックをバックドアに近接配置するとともに、後突時、該シートバックと該バックドアとの間にエアバッグクッションを介在可能な後突用エアバッグ装置を備えた車両であって、前記後部座席は、前記シートバックが、後突荷重を受けた際、乗員の荷重を受けて後方に移動しうるとともに、該後部座席のシートバック上端部に設置され、乗員の肩部を係止する上半身用ベルト部材を支持するシートベルト支持部を有するものである。
【0031】
上記構成によれば、後部座席のシートバックは、後突荷重を受けた際、乗員の荷重を受けて後方に移動するものの、シートバック上端部に設置したシートベルト支持部で、乗員の肩部を係止する上半身用ベルト部材を支持することで、上半身用ベルト部材は、シートバックと共に後方に移動することになる。
【0032】
このため、後突時、乗員の肩から上半身用ベルト部材が外れないため、乗員の後方移動が抑えられる。
【0033】
この発明の一実施態様においては、後突時、前記上半身用ベルト部材に張力を付与し、乗員をシートバック側に押圧する張力付与手段とを有するものである。
【0034】
上記構成によれば、後突時、張力付与手段で上半身用ベルト部材に対して張力を付与して、乗員をシートバック側に押圧することになる。
【0035】
このため、後突時、乗員は上半身用ベルト部材によってシートバッグに拘束されることになり、乗員の後方移動を確実に抑えられる。
【0036】
この発明の一実施態様においては、前記後部座席に、乗員の体重を検出する体重検出手段を設け、該体重検出手段によって検出した体重が所定値以下の場合に、前記張力付与手段の作動を禁止する制御手段とを有するものである。
【0037】
上記構成によれば、体重検出手段が、後部座席の乗員の体重を検出し、その体重が所定値以下の場合には、制御手段が張力付与手段の作動を禁止することになる。
【0038】
このため、軽量の乗員(例えば、子供)が、後部座席に着座している場合には、後突時であっても張力付与手段によるベルト部材の拘束を行わないため、軽量の乗員に対して過度の拘束を行わないようにすることができる。
【0039】
すなわち、軽量の乗員の場合には、後突時の荷重がシートバックに掛かりにくいため、シートバックの後方移動が少なく乗員の後方移動も少ない。この状況で張力付与手段で過度にベルト部材の拘束力を高めると、かえって乗員に衝撃を与えることになってしまうため、張力付与手段の作動を行わないことで乗員の保護を図っているのである。
【0040】
この発明の一実施態様においては、前記後部座席に、シートバックの傾斜角をリクライニング状態に変更するリクライニング機構を設けたものである。
【0041】
上記構成によれば、リクライニング機構により、後部座席のシートバックの傾斜角をリクライニング状態に変更することができる。
【0042】
このため、乗員の使用ニーズに合致した後部座席にすることができ、さらに、シートバックをリクライニング状態としていても、後突時には乗員を拘束することができるため、確実に乗員の後方移動を抑えられる。
【0043】
この発明の一実施態様においては、前記後部座席に、シートバックの傾斜角をリクライニング状態に変更するリクライニング機構を設け、前記体重検出手段によって検出した体重が所定値以下の場合であっても、シートバックの傾斜角をリクライニング状態とした際には、前記張力付与手段の作動を行う制御手段とを有するものである。
【0044】
上記構成によれば、制御手段によって、体重検出手段によって検出した体重が所定値以下の場合であっても、シートバックの傾斜角をリクライニング状態とした際には、張力付与手段の作動を行うことになる。
【0045】
このため、シートバックをリクライニング状態としている場合には、軽量の乗員が着座している場合であっても、張力付与手段によってベルト部材の拘束を行うことになり、乗員を確実に拘束することができる。
【0046】
すなわち、乗員が子供のような軽量な乗員であっても、リクライニング状態の場合には、すでにシートバックが後方移動(後傾)しているため、体重とは関係なく乗員の後方移動が生じることになる。この場合に、張力付与手段で乗員を拘束することで、乗員の後方移動を確実に抑えることができるのである。
【発明の効果】
【0047】
この請求項1記載の発明によれば、後突時、乗員は下半身用ベルト部材によってシートクッションに拘束されることになり、乗員の後方移動が抑えられる。
【0048】
したがって、バックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両において、後突時に、衝撃によってシートバックが後方移動するような場合であっても、乗員を拘束して、確実に乗員の頭部とバックドアの間にエアバッグクッションを展開膨張させて、後突用エアバッグ装置の衝撃吸収機能や乗員拘束機能を得ることができる。
【0049】
この請求項5記載の発明によれば、後突時、乗員の肩から上半身用ベルト部材が外れないため、乗員の後方移動が抑えられる。
【0050】
したがって、バックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両において、後突時に、衝撃によってシートバックが後方移動するような場合であっても、乗員を拘束して、確実に乗員の頭部とバックドアの間にエアバッグクッションを展開膨張させて、後突用エアバッグ装置の衝撃吸収機能や乗員拘束機能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
まず、図1〜図5に示す第一実施形態について説明する。図1は、本実施形態の後突用エアバッグ装置を採用した車両後部の側面概略図、図2はその車両後部の背面図、図3はシートベルト装置も含めた側面図、図4はそのシートベルト装置の車両後方側からの背面図、図5は本実施形態のタイミングチャートである。
【0052】
始めに、本実施形態の後突用エアバッグ装置の概略について説明する。
図1に示すように、本実施形態は、車両後端部にバックドア1を備えた車両Vを前提としており、このバックドア1にエアバッグ装置2を設置している。このバックドア1の前方に、車室Cと荷室Tの床面を構成するフロアパネル3を延設し、このフロアパネル3上面にスライドレール4を介して後部座席5を設置している。
【0053】
フロアパネル3の下方には、車両前後方向に延びるリアサイドフレーム31を配設し、このリアサイドフレーム31の後端部には、加速度センサによって構成される後突センサ32を設置している。
【0054】
前述の後部座席5は、スライドレール4上に設置したシートクッション51と、シートクッション51後端にリクライニング機構付きのヒンジ部52を介して立設したシートバック53と、シートバック53上端に固定したヘッドレスト54とからなる。
【0055】
後部座席5は、前述のスライドレール4によって車両前後方向にスライド可能に設置しており、図1に示した状態は最後部にスライドさせた状態である。なお、実線で示したシートバック53の位置が通常時であり、一点鎖線で示したシートバック53の位置が最大リクライニング時である。
【0056】
図1から分かるように、この車両Vにおいては、車室Cをできるだけ確保するため、シートバック53とバックドア1の間を近接するように設定し、後部座席5を最後部にスライドさせてシートバック53をリクライニング(後方に傾斜)させると、殆どシートバック53とバックドア1の間の空間がなくなるように設定している。
【0057】
ここで「近接する」とは、後部座席5のヒンジ部52が、後突時に壊れ、シートバック53が略水平状態と成ったと仮定した場合に、シートバック53の上端部(ヘッドレスト54を含む)がバックドア1に干渉するように設置されている位置関係をいう。
【0058】
前述のエアバッグ装置2は、バックドア1の上部に形成したバックウィンド11の上端部の周縁に設置しており(図2参照)、後突時に展開膨張するエアバッグクッション21と、エアバッグクッション21に高圧ガスを供給するインフレータ22と、インフレータ22とエアバッグクッション21を連結するガス供給管23と、で構成している。
【0059】
前述のインフレータ22は、バックドア1の上端部に、長手方向を車幅方向に向けて配設している。
【0060】
また、前述のガス供給管23も、バックドア1の上端部のインフレータ22の下側で、インフレータ22からの高圧ガスをエアバッグクッション21に均等に供給するよう、車幅方向に延びるように配設している。
【0061】
さらに、前述のエアバッグクッション21は、非展開膨張時には、上下方向に蛇腹状に折り畳んだ状態でバックドア1の上端部に車幅方向に延びるように配設しており(図示せず)、展開膨張時には、図2に示すように、バックウィンド11を車室側から覆うように、上方から展開膨張するように配設している。
【0062】
また、本実施形態では、エアバッグクッション21の展開膨張を補助するため、テンショナ装置8を設けている。すなわち、バックウィンド11の車幅方向両側端部の周縁に、長手方向を上下方向に向けて設置した二つのシリンダー81,81を設け、この二つのシリンダー81,81で、エアバッグクッション21の側端部に連結したワイヤ82を、バックドア1の両側端部に設けた滑車部83,83(ピンやロッドなどでも良い)を介して、上下方向に引っ張ることにより、エアバッグクッション21の下端部21aに車幅方向の張力を与えるように構成している。
【0063】
なお、このテンショナ装置8の張力発生構造は、シートベルト装置等で用いられるプリテンショナ装置と同様であり、具体的な説明は省略する。
【0064】
図1、図2は、エアバッグクッション21が展開膨張した状態を示している。
図1に示すように、エアバッグクッション21は、後部座席5のシートバック53の後方で、バックウィンド11の車室側側面に沿って、下方側に向かって展開膨張する。
【0065】
また、図2に示すように、このエアバッグクッション21は、車両後方視でバックウィンド11の枠よりも大きく展開して、バックウィンド11を車室側から完全に覆うように略四角形状に展開膨張する。
【0066】
このように、エアバッグクッション21が展開膨張することにより、乗員が後方移動しても、バックウィンド11に当接することを防ぐことができ、エアバッグ装置2に衝撃吸収機能と乗員拘束機能を与えることができる。
【0067】
特に、テンショナ装置8のシリンダー81,81を両側に設けて、エアバッグクッション21の両側端部に張力を与えることで、エアバッグクッション21を、バックドア1のバックウィンド11の両側端部の周縁に固定支持した状態で展開膨張させることができるため、エアバッグクッション21に確実に乗員拘束機能を与えることができる。
【0068】
このエアバッグクッション21は、テンショナ装置8のワイヤ82,82で引っ張られても破損しないように、側端部に上下方向に延びる補強部21b,21bを設けている。この補強部21b,21bには、エアバッグクッション21の略四角形に展開する展開形状を維持する機能もあり、エアバッグクッション21の側端部をバックウィンド11の側端部に沿って位置させる働きもある。
【0069】
また、エアバッグクッション21には、後部座席5の各ヘッドレスト54…を避けるように、各ヘッドレスト54…の間にエアバッグクッション21の車両前方側の面と後方側の面との夫々対面する部分を縫合した上下方向に延びる複数条の縫合ライン21c…を設けている。この縫合ライン21c…は、それぞれエアバッグクッション21の中間部から下端部まで延びるように設定している。
【0070】
このように、縫合ライン21cを設定したことにより、高圧ガスが確実に下方に流れ、側方(車幅方向)に流れないため、エアバッグクッション21の下方への展開膨張を確実にすることができる。
【0071】
また、この縫合ライン21c…を、各ヘッドレスト54…の間に設定して、各ヘッドレスト54…に対応するクッション部分21d…の厚みを厚くしたことにより、高圧ガスが、乗員の頭部(図示せず)がバックウィンド11に近接する部分に積極的に供給されるため、乗員の頭部がエアバッグクッション21に侵入することによる、所謂、底つき現象を防ぐことができ、よりエアバッグ装置2の衝撃吸収機能を高めることができる。
【0072】
もっとも、このようにエアバッグクッション21が展開膨張しても、その展開膨張よりも先に乗員が後方移動した場合には、その機能を発揮することはできない。
【0073】
そこで、乗員Pの早期の後方移動をできるだけ抑えるため、本実施形態では、図3及び図4に示すように、後突時に、乗員Pの下半身をシートベルト装置6で拘束するように構成している。
【0074】
このシートベルト装置6は、リアピラー7内部に設置したリトラクタ装置61(巻取り装置)と、リトラクタ装置61から引き出されるベルト部材62と、ベルト部材62の端部をリトラクタ装置61近傍のフロアパネルに固定するアンカ部材と、アンカ部材63の反対側のフロアパネル3から延びてベルト部材62を固定するバックル部材64とからなる。
【0075】
前述のベルト部材62には、ベルト部材62に沿って移動可能なタングプレート65を設け、このタングプレート65の先端を、バックル部材64のバックル本体64aに差し込み固定するように構成することで、シートベルト装置6を装着することができる。
【0076】
本実施形態では、後突時に乗員Pの下半身を拘束するため、バックル部材64を、バックル本体64aと連結部材64bとプリテンショナ装置64c(バックルプリテンショナ装置)とで構成している。すなわち、タングプレート65が差し込まれ、乗員Pの下半身を拘束するバックル部材64に、張力を付与するプリテンショナ装置64cを設けているのである。
【0077】
このように、バックル部材64にプリテンショナ装置64cを設けることで、下半身を拘束するベルト部材62cに直接張力を付与することができるため、確実に乗員Pの下半身を拘束することができる。
【0078】
後突時に、このプリテンショナ装置64cを作動させると、下半身を拘束するベルト部材62cには、図3、図4で矢印に示す方向に張力が付与され、張力が発生する。
【0079】
この方向に張力が発生すると、乗員Pの下半身は、ベルト部材62によってシートクッション51側に押圧され、シートクッション51に拘束されることになる。よって、後突時の衝撃でシートバック53が後方に移動して、乗員Pの上半身が後方に仰け反り、乗員Pの肩からベルト部材62が外れたとしても、乗員Pの後方移動を防ぐことができる(図3の一点鎖線の乗員P参照)。
【0080】
なお、さらにタングプレート65にベルト部材62の位置を固定する固定部材を設け、後突時に、ベルト部材62の位置を固定すれば、上半身を拘束するベルト部材62bが下側に引き込まれることが防止されるため、より確実に乗員Pの下半身を拘束することができる。
【0081】
また、リトラクタ装置61にさらにプリテンショナ装置を設け、後突の際に、乗員Pの肩から外れたベルト部材62の弛みを、リトラクタ装置61で巻き取るように構成してもよい。この場合には、より確実にベルト部材62の拘束力を高めることができる。
【0082】
図5は、このプリテンショナ装置64cの作動タイミングとエアバッグ装置2の作動タイミングを示したタイミングチャートである。
【0083】
この図に示すように、(ア)のタイミングで後突が開始すると、その後、衝撃値が所定値以上となった時に、ほぼ同時にエアバッグ装置2とプリテンショナ装置64cが(イ)と(ウ)のタイミングで作動を開始する。なお、プリテンショナ装置64cの作動開始は、後傾が開始する前に拘束力が作用するように設定すれば、エアバッグ装置2と同時でなくてもよい。
【0084】
プリテンショナ装置64cは、即座に作動を完了し、Δt1時間(約2〜3ms)で、乗員Pの下半身をシートクッション51に拘束するが、エアバッグ装置2は、作動完了(エアバッグクッション21の展開膨張完了)までに、Δt2時間(約20ms)程、時間がかかり、作動完了後、乗員拘束機能や衝撃吸収機能を発揮することになる。
【0085】
このように作動することで、プリテンショナ装置64cは早期の乗員拘束を行い、その後、エアバッグ装置2が確実に乗員拘束を行う。
【0086】
すなわち、プリテンショナ装置64cによって早期に乗員の後方移動を抑えることで、プリテンショナ装置64cの作動完了後、シートバック53の後方移動が発生しても、前述したエアバッグ装置2の乗員拘束機能や衝撃吸収機能を確実に確保することができるのである。
【0087】
また、エアバッグ装置2は、展開膨張後、徐々にエアバッグクッションからガスが漏れるが、プリテンショナ装置64cでは、このようなことが実質的にないため、早期に作動を開始しても、長い時間、高い拘束力を維持することができる。
【0088】
次に、以上のように構成した本実施形態の作用及び効果について詳述する。
この実施形態によるバックドア1と後突用エアバッグ装置2とを備えた車両Vは、車両後端部のバックドア1の前方にシートバック53を備えた後部座席5を設置し、該シートバック53をバックドア1に近接配置するとともに、後突時、該シートバック53と該バックドア1との間にエアバッグクッション21を介在可能な後突用エアバッグ装置2を備えた車両Vであって、前記後部座席5は、前記シートバック53が、後突荷重を受けた際、乗員の荷重を受けて後方に移動しうるとともに、該後部座席5に設置し、乗員Pの腰部から太股部の間の少なくとも一部を略車幅方向に延びてシートクッション51側に押圧するベルト部材62aと、後突時、該下半身を拘束するベルト部材62aに対して張力を付与し、乗員Pをシートクッション51側に押圧するプリテンショナ装置64cとを有するものである。
【0089】
上記構成によれば、後部座席5のシートバック53は、後突荷重を受けた際、乗員Pの荷重を受けて後方に移動するものの、乗員Pの腰部から太股部の間の一部をシートクッション51側に押圧する下半身を拘束するベルト部材62aに対して、プリテンショナ装置64cが張力を付与することで、乗員Pの下半身をシートクッション51側に押圧することになる。
【0090】
このため、後突時、乗員Pは下半身を拘束するベルト部材62aによってシートクッション51に拘束されることになり、乗員Pの後方移動が抑えられる。
【0091】
したがって、バックドア1と後突用エアバッグ装置2とを備えた車両Vにおいて、後突時に、衝撃によってシートバック53が後方移動するような場合であっても、乗員Pを拘束して、確実に乗員Pの頭部とバックドア1の間にエアバッグクッション21を展開膨張させて、後突用エアバッグ装置2の衝撃吸収機能や乗員拘束機能を得ることができる。
【0092】
また、この実施形態では、前記プリテンショナ装置64cを、前記下半身を拘束するベルト部材62aを固定するバックル部材64に設けたものである。
【0093】
上記構成によれば、下半身を拘束するベルト部材62aを固定するバックル部材64にプリテンショナ装置64cを設け、後突時、そのベルト部材62aに張力を付与することになる。
【0094】
このため、下半身を拘束するベルト部材62aに直接張力を付与することができ、後突時の乗員Pの後方移動を確実に抑えることができる。
【0095】
また、この実施形態では、前記下半身を拘束するベルト部材62aから連なる、乗員Pの上半身を拘束するベルト部材62bを、リアピラー7の中間部71に支持したものである(図3参照)。
【0096】
上記構成によれば、乗員Pの上半身を拘束するベルト部材62aをリアピラー7の中間部71で支持することになる。
【0097】
このため、ベルト部材62のリトラクタ装置61等をシートバック53に設置しなくてもよいため、シートバック53の軽量化を図ることができ、また、後突時の衝撃によるシートバック53の後方移動に対して、乗員Pの肩を支持できなくても、下半身を拘束するベルト部材62aによって、乗員Pをシートクッション51に拘束するため、より効果的に乗員拘束の効果を得ることができる。
【0098】
次に、図6、図7に示す第二実施形態を説明する。この実施形態も、第一実施形態と同様に、下半身を拘束するベルト部材62aに張力を付与するプリテンショナ装置63cを設けるものである。なお、第一実施形態と同一の構成要素については、符号を付して説明を省略する。
【0099】
第二実施形態では、プリテンショナ装置63cを、バックル部材64側ではなく、ベルト部材62の端部をフロアパネル3に固定するアンカ部材63側に設けている。すなわち、ベルト部材62を直接プリテンショナ装置63c(ラッププリテンショナ装置)に連結し、プリテンショナ装置63cをフロアパネル3に固設することで、アンカ部材63を設けることなく、ベルト部材62の端部を車体側に固定しているのである。
【0100】
このように、プリテンショナ装置63cをアンカ部材63側に設けた場合でも、第一実施形態と同様に、乗員Pの下半身を拘束するベルト部材62aに、直接張力を付与することができるため、確実に乗員Pの下半身を拘束することができる。
【0101】
この第二実施形態も、後突時に、このプリテンショナ装置63cを作動させることにより、下半身を拘束するベルト部材62aには、図6、図7で矢印に示す方向に張力が付与され、張力が発生する。
【0102】
この方向に張力が発生すると、乗員Pの下半身は、ベルト部材62によってシートクッション51側に押圧され、シートクッション51に拘束されることになるため、この実施形態でも、乗員Pの後方移動を防ぐことができる(図6の一点鎖線参照)。
【0103】
よって、第二実施形態でも、早期に乗員拘束が可能となるため、第一実施形態と同様に早期の乗員の後方移動を抑えることができ、前述したエアバッグ装置2の乗員拘束機能や衝撃吸収機能を確実に確保することができる。
【0104】
次に、以上のように構成した本実施形態の作用及び効果について詳述する。
この実施形態は、前記プリテンショナ装置63cを、前記下半身を拘束するベルト部材62aの一端をフロアパネル3に固定するアンカ部材63側に設けたものである。
【0105】
上記構成によれば、下半身を拘束するベルト部材62aの一端をフロアパネル3に固定するアンカ部材63側にプリテンショナ装置63cを設け、後突時、そのベルト部材62aに対して張力を付与することになる。
【0106】
このため、下半身を拘束するベルト部材62aに直接張力を付与することができ、後突時の乗員Pの後方移動を確実に抑えることができる。
その他の作用効果については、前述の第一実施形態と同様である。
【0107】
なお、前述の第一実施形態も第二実施形態も、一つのプリテンショナ装置のみで張力を付与したが、両実施形態を組み合わせて二つのプリテンショナ装置で張力を付与してもよい。
【0108】
次に、図8〜図13に示す第三実施形態について説明する。この第三実施形態は、後部座席5に様々な機構を設けることにより、より乗員の拘束機能を高めて、後突時における乗員保護を高めるものである。なお、前述の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0109】
まず、図8により後部座席5の構造について説明する。
この後部座席5には、シートクッション51の下部にシートスライドテンショナ装置100を設け、後突時には、後部座席5全体を自動的に車両前方側にスライド移動するように構成している。
【0110】
このシートスライドテンショナ装置100は、後突時に張力を発生するテンションシリンダ101と、テンションシリンダ101の先端に連結されてシートクッション51下部に固定されたワイヤ部材102と、ワイヤ部材102の動きを反転して案内する滑車部103とからなる。
【0111】
このシートスライドテンショナ装置100は、後突時にテンションシリンダ101がワイヤ部材102を車両後方側に引き込み、そのワイヤ部材102が引き込まれることにより、滑車部103を経由してシートクッション51が車両前方側に引っ張られ、後部座席5全体を、スライドレール4に沿って車両前方側にスライド移動させるようになっている。
これにより、後突時には、後部座席5が車両前方側に移動することになる。
【0112】
また、この後部座席5には、シート内蔵式シートベルト装置106が設けられ、後部座席5が、車両前後方向に移動したとしても、ベルト部材62の拘束力が変化しないように構成している。
【0113】
このシート内蔵式シートベルト装置106は、シートバック53内部に設置したリトラクタ装置161と、リトラクタ装置161から引き出されるベルト部材162と、ベルト部材162の端部をシートクッション51下部に固定するアンカ部材163と、アンカ部材163の反対側のシートクッション51下部にベルト部材62を固定するバックル部材164と、ベルト部材162が乗員Pの肩を確実に係止するようベルト位置を案内するガイドアーム165と、からなる。
【0114】
なお、この実施形態では、ガイドアーム165をシートバック53の上端に固設しているが、ガイドアームをヘッドレストに一体的に設けてもよいし、また、ガイドアームとリトラクタ装置を一体にしてシートバックの上端に設置してもよい。さらに、ガイドアームのみをシートバックに設け、リトラクタ装置を車体側に設けてもよい。
【0115】
このシート内蔵式シートベルト装置106の詳細構造は、後部座席5と共に車両前後方向に移動する点を除けば、第一、第二実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0116】
なお、ベルト部材162に張力を付与するプリテンショナ装置161a(図11参照)は、第一、第二実施形態と異なりリトラクタ装置161内に設けているが、このプリテンショナ装置付きリトラクタ装置161も、公知であるため詳細な説明は省略する。
【0117】
また、この後部座席5のシートクッション51中央には、着座した乗員Pの体重を検知する重量センサ120を設置している。この重量センサ120によって、乗員Pが大人か子供なのかを検出するように構成している。
【0118】
さらに、リクライニング機構付きのヒンジ部52には、シートバック53がリクライニング状態か否かを検出するリクライニング検知センサ130を設けている。このリクライニング検知センサ130を設けることにより、リクライニング状態に応じた制御を行うように構成している。
【0119】
図11のシステムブロック図は、本実施形態の制御ブロックを示す図である。
この制御の中央処理装置である後突安全制御部140には、入力手段である車速センサ141と、後突センサ32と、重量センサ120と、リクライニング検知センサ130と、を接続し、これらセンサから各種データを取り込むように構成している。また、この後突安全制御部140には、出力手段であるインフレータ22と、シートスライドテンショナ装置100と、リトラクタ装置161内に設けたプリテンショナ装置161aと、を接続し、これら装置の作動を制御するように構成している。
【0120】
さらに、中央処理装置である後突安全制御部140内には、インフレータの作動タイミングを設定するタイミング設定部140aを設け、衝突度合等により作動タイミングを設定するように構成している。
【0121】
本実施形態の制御は、図12のフローチャートに基づき行われる。
まず、S1で、前述の各センサからデータを取り込む。S2で、後突ありかの判定を行い、後突ありと判断されない場合(Nの場合)、再度、S1に移行してデータを取り込む。
【0122】
S2で、後突ありと判断された場合(Yの場合)、S3に移行してエアバッグ作動開始タイミングTABを設定する。このエアバッグ作動開始タイミングTABは、例えば、車速等により重衝突と判定した場合には、短い時間(例えば2ms)に設定し、軽衝突と判定した場合には、比較的長い時間(例えば4ms)に設定することが考えられる。
【0123】
次に、S4で、S3で設定したエアバッグ作動開始タイミングTABのタイマーカウントがスタートする。
【0124】
そして、S5で、シートスライドテンショナ装置100を作動する。このように早期にシートスライドテンショナ装置100を作動させることで、スライドレール4等が破損する前に後部座席5を車両前方側に移動させることができるため、確実に後部座席5を前方側に移動することができる。
【0125】
次に、S6で、乗員Pの重量(体重)が所定値以上かを判定する。所定値以上と判断された場合(Yの場合)は、S8に移行してリトラクタ装置161内のプリテンショナ装置161aを作動させる。この場合は、体重の重い大人が後部座席5に着座していると考えられるため、乗員Pを拘束することで、シートバック53が乗員Pの荷重で後方に移動する場合に備えて、乗員Pの後方移動を抑えるのである。
【0126】
一方、S6で所定値以上と判断されない場合(Nの場合)は、S7に移行してシートバック53がリクライニング状態か否かを判定する。ここでリクライニング状態と判断した場合(Yの場合)には、S8に移行してリトラクタ装置161内のプリテンショナ装置161aを作動させる。この場合は、体重の軽い子供が着座していると考えられるものの、すでにシートバック53がリクライニング状態で後傾しているため、乗員Pの体重と関係なく乗員Pの後方移動が生じるおそれがあることから、乗員Pを拘束して後方移動を抑えるのである。
【0127】
もっとも、S7でリクライニング状態と判断した場合(Nの場合)には、そのままリトラクタ装置161内のプリテンショナ装置161aを作動させることなく、S9に移行する。この場合は、体重の軽い子供が着座しているため、シートバック53の後方移動は生じることがなく、乗員Pを拘束しなくても立設したシートバック53によって乗員Pの後方移動が抑えられる。この場合に、プリテンショナ装置161aを作動させると、過度に乗員Pを拘束し、かえって乗員Pに衝撃を与えるおそれが生じるため、プリテンショナ装置161aを作動させないのである。
【0128】
次に、S9で、現在のタイミングTがS4で設定したエアバッグ作動開始タイミングTABになったかを判定する。エアバッグ作動開始タイミングTABになったと判断した場合(Yの場合)には、S10に移行してエアバッグ装置2のインフレータ22を作動させ、エアバッグクッション21を展開膨張させる。一方、エアバッグ作動開始タイミングTABになったと判断しない場合(Nの場合)には、S10に移行せずに、再度S9で、エアバッグ作動開始タイミングTABになるまで判定を行い、最終的に、S10でエアバッグ装置2のインフレータ22を作動させて、制御を終了する。
【0129】
この制御を行った場合における車両後部の挙動について、図8〜図10で説明する。
図8は後突前の通常時の車両後部の状態(S1〜S2の状態)、図9は後突直後に後部座席5を前方にスライドさせた状態(S5の状態)、図10は後突後にエアバッグクッション21を展開させた状態(S10の状態)を示した側面図である。
【0130】
まず、通常時には、図8に示すように、シートバック53の後方に若干の空間は確保されているため、乗員Pはシートバック53を一点鎖線で示すように自由にリクライニングすることができる。
【0131】
しかし、後突が生じると、その衝撃でシートバック53が後方に移動するため、図9に示すように後部座席5を車両前方側に移動させて、その後方にエアバッグクッション21の展開膨張空間を予め確保する。
【0132】
そして、それとほぼ同時に、プリテンショナ装置161aを作動して、乗員Pの上半身をシートバック53に拘束する。
【0133】
そして、後突の後期になると、図10に示すようにシートバック53が後方に移動するが、このときベルト部材62をガイドアーム165で支持しているため、ベルト部材62も共に後方に移動することになり、乗員Pの肩からベルト部材62が外れることがない。よって、乗員Pのそれ以上の後方移動を防ぐことができる。
【0134】
また、プリテンショナ装置161aで乗員Pの上半身をシートバック53に拘束しているため、シートバック53が後方に移動しても、確実にそれ以上の乗員Pの後方移動はない。
【0135】
さらに、シートバック53が後方移動したとしても、エアバッグ装置2のエアバッグクッション21がその後方で展開膨張しているため、確実に乗員Pの後方移動を防ぐことができる。
【0136】
このように、第三実施形態においても、乗員を後部座席5に拘束する手段等により、乗員の後方移動を抑えているため、前述したエアバッグ装置2の乗員拘束機能や衝撃吸収機能を確実に確保することができる。
【0137】
図13のタイミングチャートによって、本実施形態の作動タイミングについて説明する。
まず、(カ)のタイミングで後突が開始すると、その後、衝撃値が所定値以上になった時に、プリテンショナ装置161aとシートスライドテンショナ装置100が、(ク)、(ケ)のタイミングでほぼ同時に作動を開始する。そして、短時間のΔt3時間(例えば2〜3ms)でプリテンショナ装置の作動が完了し、その後、それよりも長い時間のΔt4時間(例えば50ms以上)で、シートスライドテンショナ装置100の作動も完了する。
【0138】
このとき、プリテンショナ装置161aの作動の完了後にシートバックが破損して後方に移動(後傾)したとしても、既にプリテンショナ装置161aの作動完了により乗員が後部座席5に拘束され、且つシートスライドテンショナ装置100によるシートスライドも作動中か、あるいは作動を完了しているため、乗員Pの頭部とバックドア1の間には、車両前後方向に十分に長い空間が形成される。
【0139】
そして、プリテンショナ装置161aとシートスライドテンショナ装置100の作動タイミングよりやや遅れて(キ)でエアバッグ装置2が作動を開始するように、プリテンショナ装置やシートスライドテンショナ装置の作動開始の判定衝撃値(加速度、速度によって決定する第一閾値)よりも大きい判定衝撃値(第二閾値)でエアバッグ装置を作動する。この作動はΔt5時間(例えば20〜30ms)で完了する。
【0140】
この(キ)のタイミングは、前述したように、タイミング設定部140aで決められたタイミングTABであり、衝突度合などによって変動する。
【0141】
このような作動タイミングで、各装置が作動することにより、後突時の乗員保護をより確実に行うことができる。
【0142】
なお、衝突予知センサを設け、衝突予知を検出した場合には、シートスライドテンショナ装置100を衝突よりも前に作動するように構成してもよい。この場合では、後突時にシートスライドテンショナ装置100を作動させた場合に、シートバック53に掛かる荷重がさらに大きくなり、シートバック53が後方に移動しやくなることを解消することができる。
【0143】
また、これに加え、プリテンショナ装置161aも衝突より前に作動するように構成してもよい。この場合には、シートスライドの際の乗員拘束を確実にすることができるといった効果を得ることができる。
【0144】
次に、以上のように構成した本実施形態の作用及び効果について詳述する。
この実施形態によるバックドア1と後突用エアバッグ装置2とを備えた車両Vは、車両後端部のバックドア1の前方にシートバック53を備えた後部座席5を設置し、該シートバック53をバックドア1に近接配置するとともに、後突時、該シートバック53と該バックドア1との間にエアバッグクッション21を介在可能な後突用エアバッグ装置2を備えた車両Vであって、前記後部座席5は、前記シートバック53が、後突荷重を受けた際、乗員の荷重を受けて後方に移動しうるとともに、該後部座席5のシートバック53上端部に設置され、乗員の肩部を係止するベルト部材62bを支持するガイドアーム165とを有するものである。
【0145】
上記構成によれば、後部座席5のシートバック53は、後突荷重を受けた際、乗員の荷重を受けて後方に移動するものの、シートバック53上端部に設置したガイドアーム165で、乗員の肩部を係止するベルト部材62bを支持することで、上半身を拘束するベルト部材62bは、シートバック53と共に後方に移動することになる。
【0146】
このため、後突時、乗員の肩から上半身を拘束するベルト部材62bが外れないため、乗員の後方移動が抑えられる。
【0147】
したがって、バックドア1と後突用エアバッグ装置2とを備えた車両Vにおいて、後突時に、衝撃によってシートバック53が後方移動するような場合であっても、乗員を拘束して、確実に乗員の頭部とバックドア1の間にエアバッグクッション21を展開膨張させて、後突用エアバッグ装置2の衝撃吸収機能や乗員拘束機能を得ることができる。
【0148】
また、この実施形態では、後突時、前記ベルト部材62bに張力を付与し、乗員をシートバック53側に押圧するプリテンショナ装置161aを設けたものである。
【0149】
上記構成によれば、後突時、プリテンショナ装置161aで上半身を拘束するベルト部材62bに対して張力を付与して、乗員をシートバック53側に押圧することになる。
【0150】
このため、後突時、乗員は上半身を拘束するベルト部材62aによってシートバック53に拘束されることになり、乗員の後方移動は確実に抑えられる。
【0151】
なお、本実施形態では、プリテンショナ装置をリトラクタ装置内に設けたもので説明したが、第一実施形態、第二実施形態同様、バックル部材側やアンカ部材側にプリテンショナ装置を設けるものであってもよい。
【0152】
また、この実施形態では、前記後部座席5に、シートバック53の傾斜角をリクライニング状態に変更するリクライニング機構を設けたものである。
【0153】
上記構成によれば、リクライニング機構により、後部座席5のシートバック53の傾斜角をリクライニング状態に変更することができる。
【0154】
このため、乗員Pの使用ニーズに合致した後部座席5にすることができ、さらに、シートバック53をリクライニング状態としていても、後突時には乗員を拘束することができるため、確実に乗員の後方移動を抑えられる。
【0155】
また、この実施形態では、前記後部座席5に、シートバック53のリクライニング状態を検出するリクライニング検出センサ130を設け、前記重量センサ120によって検出した体重が所定値以下の場合であっても、リクライニング検出センサ130でシートバック53がリクライニング状態であると検出した際には、前記プリテンショナ装置161aの作動を行う後突安全制御部140とを有するものである。
【0156】
上記構成によれば、後突安全制御部140によって、重量センサ120で検出した体重が所定値以下の場合であっても、シートバック53がリクライニング状態である場合には、プリテンショナ装置161aの作動を行うことになる。
【0157】
このため、シートバック53をリクライニング状態としている場合には、軽量の乗員が着座している場合であっても、プリテンショナ装置161aによってベルト部材62の拘束を行うことになり、乗員を確実に拘束することができる。
【0158】
すなわち、乗員が子供のような軽量な乗員であっても、リクライニング状態の場合には、すでにシートバック53が後方移動(後傾)しているため、体重とは関係なく乗員の後方移動が生じるおそれがある。この場合に、プリテンショナ装置161aで乗員を拘束することで、乗員の後方移動を確実に抑えることができるのである。
【0159】
なお、前記後部座席5に、乗員の体重を検出する重量センサ120のみを設け、該重量センサ120によって検出した体重が所定値以下の場合には、必ず前記プリテンショナ装置161aの作動を禁止するように後突安全制御部140を制御してもよい。
【0160】
この構成によれば、重量センサ120が、後部座席5の乗員の体重を検出し、その体重が所定値以下の場合には、必ず後突安全制御部140がプリテンショナ装置161aの作動を禁止することになる。
【0161】
このため、軽量の乗員(例えば、子供)が、後部座席5に着座している場合には、後突時であってもプリテンショナ装置161aによるベルト部材62bの拘束を行わないため、軽量の乗員に対して過度の拘束を行わないようにすることができる。
【0162】
すなわち、軽量の乗員の場合には、荷重がシートバック53に掛かりにくいため、シートバック53の後方移動が少なく乗員の後方移動も少ない。この状況でプリテンショナ装置161aで過度にベルト部材62の拘束力を高めると、かえって乗員に衝撃を与えることになってしまうため、プリテンショナ装置161aの作動を行わないことで乗員の保護を図っているのである。
【0163】
また、この乗員の体重を検出して行うプリテンショナ装置の制御(禁止制御)及び、乗員の体重やシートバックのリクライニング状態に応じて行うプリテンショナ装置の制御(禁止制御)を、前述の第一実施形態や第二実施形態に適用してもよい。
【0164】
以上、この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、
この発明の下半身用ベルト部材は、実施形態の下半身を拘束するベルト部材62aに対応し、
以下同様に、
上半身用ベルト部材は、上半身を拘束するベルト部材62bに対応し、
張力付与手段は、プリテンショナ装置63c,64c,161aに対応し、
シートベルト支持部は、ガイドアーム165に対応するも、
この発明は、前述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、様々な後突用エアバッグ装置に適用する実施形態を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】第一実施形態の車両後部の側面概略図。
【図2】第一実施形態の車両後部の背面図。
【図3】第一実施形態のシートベルト装置も含めた側面図。
【図4】第一実施形態のシートベルト装置の車両後方からの背面図。
【図5】第一実施形態のタイミングチャート。
【図6】第二実施形態のシートベルト装置も含めた側面図。
【図7】第二実施形態のシートベルト装置の車両後方からの背面図。
【図8】第三実施形態の通常時の車両後部側面図。
【図9】第三実施形態の後突直後の車両後部側面図。
【図10】第三実施形態の後突後の車両後部側面図。
【図11】第三実施形態のシステムブロック図。
【図12】第三実施形態の制御フローチャート
【図13】第三実施形態のタイミングチャート
【図14】(a)通常時の乗員の着座状態を示す車両後部側面図、(b)後突時の乗員の移動状態を示す車両後部側面図。
【符号の説明】
【0166】
V…車両
1…バックドア
2…エアバッグ装置
5…後部座席
51…シートクッション
53…シートバック
62…ベルト部材
63c,64c,161a…プリテンショナ装置(張力付与手段)
165…ガイドアーム(シートベルト支持部)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後端部のバックドアの前方にシートバックを備えた後部座席を設置し、該シートバックをバックドアに近接配置するとともに、後突時、該シートバックと該バックドアとの間にエアバッグクッションを介在可能な後突用エアバッグ装置を備えた車両であって、
前記後部座席は、前記シートバックが、後突荷重を受けた際、乗員の荷重を受けて後方に移動しうるとともに、
該後部座席に設置し、乗員の腰部から太股部の間の少なくとも一部を略車幅方向に延びてシートクッション側に押圧する下半身用ベルト部材と、
後突時、該下半身用ベルト部材に対して張力を付与し、乗員をシートクッション側に押圧する張力付与手段とを有する
バックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両。
【請求項2】
前記張力付与手段を、前記下半身用ベルト部材のバックルを車体側部材に固定する連結部材に設置したテンショナ装置とした
請求項1記載のバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両。
【請求項3】
前記張力付与手段を、前記下半身用ベルト部材の一端部を車体側部材に固定するアンカ部に設置したテンショナ装置とした
請求項1記載のバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両。
【請求項4】
前記下半身用ベルト部材から連なる、乗員の上半身を拘束する上半身用ベルト部材を、ピラー中間部に支持した
請求項1記載のバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両。
【請求項5】
車両後端部のバックドアの前方にシートバックを備えた後部座席を設置し、該シートバックをバックドアに近接配置するとともに、後突時、該シートバックと該バックドアとの間にエアバッグクッションを介在可能な後突用エアバッグ装置を備えた車両であって、
前記後部座席は、前記シートバックが、後突荷重を受けた際、乗員の荷重を受けて後方に移動しうるとともに、
該後部座席のシートバック上端部に設置され、乗員の肩部を係止する上半身用ベルト部材を支持するシートベルト支持部を有する
バックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両。
【請求項6】
後突時、前記上半身用ベルト部材に張力を付与し、乗員をシートバック側に押圧する張力付与手段とを有する
請求項5記載のバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両。
【請求項7】
前記後部座席に、乗員の体重を検出する体重検出手段を設け、
該体重検出手段によって検出した体重が所定値以下の場合に、前記張力付与手段の作動を禁止する制御手段とを有する
請求項1又は6記載のバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両。
【請求項8】
前記後部座席に、シートバックの傾斜角をリクライニング状態に変更するリクライニング機構を設けた
請求項1又は6記載のバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両。
【請求項9】
前記後部座席に、シートバックの傾斜角をリクライニング状態に変更するリクライニング機構を設け、
前記体重検出手段によって検出した体重が所定値以下の場合であっても、シートバックの傾斜角をリクライニング状態とした際には、前記張力付与手段の作動を行う制御手段とを有する
請求項7記載のバックドアと後突用エアバッグ装置とを備えた車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−88714(P2006−88714A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272662(P2004−272662)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】