説明

バリア性積層体、ガスバリアフィルム、デバイスおよび積層体の製造方法

【課題】より高いバリア性を有するガスバリアフィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層を有し、前記有機層は、環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなることを特徴とする、バリア性積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性積層体およびガスバリアフィルム、ならびに、これらを用いたデバイスに関する。また、バリア性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、バリア性を有するフィルムについて種々検討されている。例えば、特許文献1には、有機層にビスフェノールA型エポキシアクリル樹脂を用いた透明導電フィルムが開示されている。
また、特許文献2には、基材上にカルドポリマーを有する平坦化層を有するガスバリアフィルムが開示されている。
しかしながら、近年、より高いバリア性が要求される傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−165368号公報
【特許文献2】特開2004−299230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決することを目的としたものであって、より高いバリア性を有するガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が鋭意検討を行った結果、有機層を構成する材料として、環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートを採用することにより、バリア性が向上することを見出した。具体的には、以下の手段により、上記課題を解決しうることを見出した。
(1)少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層を有し、前記有機層は、環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなることを特徴とする、バリア性積層体。
(2)前記重合性組成物における重合性モノマーの環状炭素率が20%以上である、(1)に記載のバリア性積層体(ここにおいて、重合性モノマーの環状炭素率は下記式(A)により得られる)。
式(A)
【数1】

(式(A)において、Xは前記重合性組成物に含まれる重合性化合物の環状構造を構成する炭素原子の総質量であり、Yは前記重合性組成物に含まれる重合性化合物の総質量である。)
(3)前記環状炭素骨格が芳香環骨格である、(1)または(2)に記載のバリア性積層体。
(4)前記3官能以上の(メタ)アクリレートが、下記一般式(1)で表される、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基またはアリール基であり、R1とR2は、互いに結合して環を形成しても良い。R3およびR4は、置換基を表す。mおよびnは、それぞれ0〜5の整数であり、m≧2のとき、R3は同じでも異なっていてもよく、n≧2のとき、R4は同じでも異なっていてもよい。ただし、一般式(1)の化合物は、1分子中に3つ以上のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を含む。)
(5)前記重合性組成物が、2官能の(メタ)アクリレートを含有する、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(6)前記無機層が、金属酸化物からなる、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(7)前記金属酸化物からなる無機層が、スパッタリング法で成膜されたものである、(6)に記載のバリア性積層体。
(8)少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機層が、交互に積層している、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
(9)支持体上に、(1)〜(8)のいずれか1項に記載のバリア性積層体を設けたガスバリアフィルム。
(10)(9)に記載のガスバリアフィルムを基板に用いたデバイス。
(11)(9)に記載のガスバリアフィルムを用いて封止したデバイス。
(12)(1)〜(8)のいずれか1項に記載のバリア性積層体を用いて封止したデバイス。
(13)前記デバイスが、電子デバイスである、(10)〜(12)のいずれか1項に記載のデバイス。
(14)前記デバイスが、有機EL素子である、(10)〜(12)のいずれか1項に記載のデバイス。
(15)少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層を有するバリア性積層体の製造方法であって、
環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させて有機層を形成する工程と、
前記有機層を形成する工程の前または後に、無機層を形成する工程
を含むことを特徴とするバリア性積層体の製造方法。
(16)前記無機層をプラズマプロセスによって設ける、(15)に記載のバリア性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、高いバリア性能を有するガスバリアフィルムの提供が可能になった。さらに、本発明のガスバリアフィルムの有機層は、平滑性を向上させることができるため、無機層も平滑に設けることができる。この結果、最表面の平滑性も向上させることができ、該ガスバリアフィルム上に形成するデバイスの性能を向上させることが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、本発明における有機EL素子とは、有機エレクトロルミネッセンス素子のことをいう。本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの両方を含む意味で使用される。
【0008】
<バリア性積層体>
本発明のバリア性積層体は、少なくとも1つの有機層と、少なくとも1つの無機層とを有し、かつ、有機層が、環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなることを特徴とする。このような有機層を有するバリア性積層体とすることにより、バリア性をより向上させることができる。本発明のバリア性積層体は、好ましくは、少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機層とが交互に積層した構造である。
【0009】
(有機層)
本発明における有機層は、環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなることを特徴とする。
【0010】
(重合性モノマーの環状炭素率)
本発明で用いる重合性組成物における重合性モノマーの環状炭素率は20%以上であることが好ましく、25〜50%であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、高平滑な表面を有し、かつ無機層積層時により高いバリア性が得られる。ここでいう重合性モノマーの環状炭素率は、下記式(A)により得られる。
式(A)
【数2】

上式(A)において、Xは前記重合性組成物に含まれる重合性化合物の環状構造を構成する炭素原子の総質量であり、Yは前記重合性組成物に含まれる重合性化合物の総質量である。
【0011】
(環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレート)
本発明で用いる環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートにおける環状炭素骨格としては、芳香環骨格であることが好ましく、炭素数6の芳香環を有する芳香環骨格であることがより好ましい。
本発明で用いる環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートは、3または4官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。
本発明で用いる環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートの分子量は、450〜1000であることが好ましい。
環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートは、2種類以上含んでいてもよい。
【0012】
環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートは、下記一般式(1)で表されることがより好ましい。
一般式(1)
【化2】

(一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基またはアリール基であり、R1とR2は、互いに結合して環を形成しても良い。R1およびR2は、水素原子、アルキル基、アリール基のいずれも好ましいが、アルキル基としてはメチル基が、アリール基としてはフェニル基が特に好ましい。R1およびR2がともにアルキル基であって互いに結合して環を形成する場合、1,1−シクロヘキシリデン基を形成することが特に好ましい。R1およびR2の少なくとも一方がアリール基の場合、アクリロイル基またはメタクリロイル基を置換基として1つ以上有することが特に好ましい。
また、R1、およびR2は置換基を有しても良い。置換基の例としては、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基等)、アリール基(例えばフェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、アシル基(例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基等)、アシルオキシ基(例えばアセトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェニルオキシカルボニル基等)、スルホニル基(例えばメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基等)、スルフィニル基(メタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜12であり、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含み、脂肪族ヘテロ環基であってもヘテロアリール基であってもよく、例えばイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、チエニル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、カルバゾリル基、アゼピニル基等)等が挙げられる。これらの置換基は更に置換されていてもよい。
【0013】
3およびR4は置換基を表す。
3およびR4の例としては、前述のR1およびR2に対する置換基と同様のものが例示できる。これらの中でも、アクリロイルオキシ基もしくはメタクリロイルオキシ基を含む置換基が特に好ましい。このような置換基の例としては、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、2−アクリロイルオキシエトキシ基、2−メタクリロイルオキシエトキシ基、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロポキシ基、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ基、2−オクタノイルオキシ−3−アクリロイルオキシプロポキシ基、2−ヘプタノイルオキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ基、2、3−ビス(アクリロイルオキシ)プロポキシ基、2、3−ビス(メタクリロイルオキシ)プロポキシ基等が挙げられる。
mおよびnは、それぞれ0〜5の整数であり、m≧2のとき、R3は同じでも異なっていてもよく、n≧2のとき、R4は同じでも異なっていてもよい。R1、R2、R3およびR4は、それぞれ、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシを含んでいても良く、一般式(1)で表される化合物1分子中に3つ以上のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を含むことを要する。一般式(1)で表される化合物1分子中に含まれるアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基の数は3〜4が特に好ましい。
【0014】
以下に、環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレート化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
(2官能(メタ)アクリレート)
本発明で用いる重合性組成物には、2官能(メタ)アクリレートを含んでいることが好ましい。2官能(メタ)アクリレートを含有することにより、バリア性および有機層表面の平滑性がより向上する。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が好ましい例として挙げられる。
【0018】
以下に、2官能アクリレート系化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化6】

【0019】
【化7】

【0020】
2官能(メタ)アクリレートは、前記環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートに混合されるにあたり、得られる混合物の重合性モノマーの環状炭素率が20%以上となるように配合されることが好ましく、25〜50質量%となるように配合されることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、より高平滑な表面を有し、かつ無機層積層時に高いバリア性が得られる。また、2官能モノマーは2種類以上含んでいてもよい。
【0021】
本発明における重合性組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他のモノマーを含んでいてもよい。例えば、環状炭素骨格必ずしも有しない3官能以上の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0022】
【化8】

【0023】
【化9】

【0024】
【化10】

【0025】
(その他の重合性成分、ポリマー)
本発明で用いる重合性組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、(メタ)アクリレート以外のモノマー(例えばスチレン誘導体、無水マレイン酸誘導体、エポキシ化合物、オキセタン誘導体など)や、各種のポリマー(例えばポリエステル、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル等)を含んでも良い。
【0026】
(重合開始剤)
本発明における重合性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。光重合開始剤を用いる場合、その含量は、重合性化合物の合計量の0.1モル%以上であることが好ましく、0.5〜2モル%であることがより好ましい。このような組成とすることにより、活性成分生成反応を経由する重合反応を適切に制御することができる。光重合開始剤の例としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、ランベルティ(Lamberti)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZT、エザキュアKTO46など)、ランベルティ(Lamberti)社から市販されているオリゴマータイプのエザキュアKIPシリーズが挙げられる。
【0027】
(有機層の形成方法)
有機層の形成方法としては、特に定めるものではないが、例えば、溶液塗布法など既知の塗布方法や真空成膜法により形成することができる。溶液塗布法としては、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパ−を使用するエクストル−ジョンコート法により塗布することができる。真空成膜法としては、特に制限はないが、蒸着、プラズマCVD等の成膜方法が好ましい。本発明においてはポリマーを溶液塗布しても良いし、特開2000−323273号公報、特開2004−25732号公報に開示されているような無機物を含有するハイブリッドコーティング法を用いてもよい。
【0028】
本発明では、重合性化合物を含む組成物を、光照射して硬化させるが、照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.1J/cm2以上が好ましく、0.5J/cm2以上がより好ましい。重合性化合物として、(メタ)アクリレート系化合物を用いる場合、空気中の酸素によって重合阻害を受けるため、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で0.5J/cm2以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0029】
本発明における有機層は、平滑で、膜硬度が高いことが好ましい。有機層の平滑性は1μm角の平均粗さ(Ra値)として1nm未満であることが好ましく、0.5nm未満であることがより好ましい。モノマーの重合率は85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、92%以上であることが特に好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。重合率は赤外線吸収法によって定量することができる。
【0030】
有機層の膜厚については特に限定はないが、薄すぎると膜厚の均一性を得ることが困難になるし、厚すぎると外力によりクラックを発生してバリア性が低下する。かかる観点から、有機層の厚みは50nm〜2000nmが好ましく、200nm〜1500nmがより好ましい。
また、有機層は先に記載したとおり平滑であることが好ましい。有機層の表面にはパーティクル等の異物、突起が無いことが要求される。このため、有機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
有機層の硬度は高いほうが好ましい。有機層の硬度が高いと、無機層が平滑に成膜されその結果としてバリア能が向上することがわかっている。有機層の硬度はナノインデンテーション法に基づく微小硬度として表すことができる。有機層の微小硬度は100N/mm以上であることが好ましく、150N/mm以上であることがより好ましい。
有機層は2層以上積層することが好ましい。この場合、各層が同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、2層以上積層する場合は、各々の有機層が上記の好ましい範囲内にあるように設計することが好ましい。また、上述したとおり、米国公開特許2004−46497号明細書に開示してあるように無機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層であってもよい。
【0031】
(無機層)
無機層は、通常、金属化合物からなる薄膜の層である。無機層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(PVD)、種々の化学的気相成長法(CVD)、めっきやゾルゲル法等の液相成長法がある。本発明では、スパッタリング法で作成した場合であっても、高いバリア性を維持することができる。無機層に含まれる成分は、上記性能を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸化窒化物または金属酸化炭化物であり、Si、Al、In、Sn、Zn、Ti、Cu、Ce、またはTa等から選ばれる1種以上の金属を含む酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化炭化物などを好ましく用いることができる。これらの中でも、Si、Al、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる金属の酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましく、特にSiまたはAlの金属酸化物、窒化物もしくは酸化窒化物が好ましい。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。本発明では、無機層の材料として、金属酸化物を用い、プラズマプロセスにより製膜した場合であっても、高いバリア性を有するバリア性積層体が得られる点で、極めて有意である。
本発明により形成される無機層の平滑性は、1μm角の平均粗さ(Ra値)として1nm未満であることが好ましく、0.3nm以下がより好ましい。無機層の成膜はクリーンルーム内で行われることが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下がより好ましい。
【0032】
無機層の厚みに関しては特に限定されないが、1層に付き、通常、5〜500nmの範囲内であり、好ましくは10〜200nmである。無機層は複数のサブレイヤーから成る積層構造であってもよい。この場合、各サブレイヤーが同じ組成であっても異なる組成であってもよい。また、米国公開特許2004−46497号明細書に開示されているように有機層との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する層であってもよい。
【0033】
(有機層と無機層の積層)
有機層と無機層の積層は、所望の層構成に応じて有機層と無機層を順次繰り返し製膜することにより行うことができる。無機層を、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などの真空製膜法で形成する場合、有機層も前記フラッシュ蒸着法のような真空製膜法で形成することが好ましい。バリア層を製膜する間、途中で大気圧に戻すことなく、常に1000Pa以下の真空中で有機層と無機層を積層することが特に好ましい。圧力は100Pa以下であることがより好ましく、50Pa以下であることがより好ましく、20Pa以下であることがさらに好ましい。
特に、本発明は、少なくとも2層の有機層と少なくとも2層の無機層を交互に積層した場合に、高いバリア性を発揮することができる。例えば、支持体側から有機層/無機層/有機層/無機層の順に積層したり、無機層/有機層/無機層/有機層の順に積層したりすることができる。
バリア性積層体を構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。また、有機層および無機層以外の他の構成層を含んでいてもよい。
【0034】
また、本発明におけるバリア性積層体は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、バリア性積層体を構成する組成が膜厚方向に有機領域と無機領域が連続的に変化するいわゆる傾斜材料層を含んでいてもよい。前記傾斜材料の例としては、キムらによる論文「Journal of Vacuum Science and Technology A Vol. 23 p971−977(2005 American Vacuum Society) ジャーナル オブ バキューム サイエンス アンド テクノロジー A 第23巻 971頁〜977ページ(2005年刊、アメリカ真空学会)」に記載の材料や、米国公開特許2004−46497号明細書に開示されている有機領域と無機領域が界面を持たない連続的な層等が挙げられる。
【0035】
(機能層)
本発明のバリア性積層体は、バリア性積層体上、もしくはその他の位置に、機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、耐溶剤層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0036】
(バリア性積層体の用途)
本発明のバリア性積層体は、通常、支持体の上に設けるが、この支持体を選択することによって、様々な用途に用いることができる。支持体には、基材フィルムのほか、各種のデバイス、光学部材等が含まれる。具体的には、本発明のバリア性積層体はガスバリアフィルムのバリア層として用いることができる。また、本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、バリア性を要求するデバイスの封止に用いることができる。本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは、光学部材にも適用することができる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0037】
<ガスバリアフィルム>
ガスバリアフィルムは、基材フィルムと、該基材フィルム上に形成されたバリア性積層体とを有する。ガスバリアフィルムにおいて、本発明のバリア性積層体は、基材フィルムの片面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。本発明のバリア性積層体は、基材フィルム側から無機層、有機層の順に積層していてもよいし、有機層、無機層の順に積層していてもよい。本発明の積層体の最上層は無機層でも有機層でもよい。
また、本発明におけるガスバリアフィルムは大気中の酸素、水分、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等を遮断する機能を有するバリア層を有するフィルム基板である。
ガスバリアフィルムを構成する層数に関しては特に制限はないが、典型的には2層〜30層が好ましく、3層〜20層がさらに好ましい。
ガスバリアフィルムはバリア性積層体、基材フィルム以外の構成成分(例えば、易接着層等の機能性層)を有しても良い。機能性層はバリア性積層体の上、バリア性積層体と基材フィルムの間、基材フィルム上のバリア性積層体が設置されていない側(裏面)のいずれに設置してもよい。
【0038】
(プラスチックフィルム)
本発明におけるガスバリアフィルムは、通常、基材フィルムとして、プラスチックフィルムを用いる。用いられるプラスチックフィルムは、有機層、無機層等の積層体を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0039】
本発明のガスバリアフィルムを後述する有機EL素子等のデバイスの基板として使用する場合は、プラスチックフィルムは耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上および/または線熱膨張係数が40ppm/℃以下で耐熱性の高い透明な素材からなることが好ましい。Tgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。このような熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン(株)製 ゼオノア1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学(株)ネオプリム:260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の化合物:300℃以上)が挙げられる(括弧内はTgを示す)。特に、透明性を求める場合には脂環式ポレオレフィン等を使用するのが好ましい。
【0040】
本発明のガスバリアフィルムを有機EL素子等のデバイスに用いる場合は、プラスチックフィルムは透明であること、すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上であるものを用いる。光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
本発明のガスバリアフィルムをディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、プラスチックフィルムとして不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
本発明のガスバリアフィルムに用いられるプラスチックフィルムの厚みは、用途によって適宜選択されるので特に制限がないが、典型的には1〜800μmであり、好ましくは10〜200μmである。これらのプラスチックフィルムは、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層については、特開2006−289627号公報の段落番号0036〜0038に詳しく記載されている。これら以外の機能層の例としてはマット剤層、保護層、耐溶剤層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0041】
<デバイス>
本発明のバリア性積層体およびガスバリアフィルムは空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等)等の電子デバイスを挙げることができ有機EL素子に好ましく用いられる。
【0042】
本発明のバリア性積層体は、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のバリア性積層体を設ける方法である。バリア性積層体を設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
【0043】
本発明のガスバリアフィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、ガスバリアフィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
【0044】
(有機EL素子)
ガスバリアフィルム用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0045】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるガスバリアフィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明の基板は、前記上透明電極および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN型(Twisted Nematic)、STN型(Super Twisted Nematic)またはHAN型(Hybrid Aligned Nematic)、VA型(Vertically Alignment)、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)、IPS型(In-Plane Switching)であることが好ましい。
【0046】
本発明のガスバリアフィルムは偏光板と組み合わせて使用することもでき、このときガスバリアフィルムのバリア性積層体がセルの内側に向くようにし、最も内側に(素子に隣接して)配置することが好ましい。このとき偏光板よりセルの内側にガスバリアフィルムが配置されることになるため、ガスバリアフィルムのレターデーション値が重要になる。このような態様でのガスバリアフィルムの使用形態は、レターデーション値が10nm以下の基材フィルムを用いたガスバリアフィルムと円偏光板(1/4波長板+(1/2波長板)+直線偏光板)を積層して使用するか、あるいは1/4波長板として使用可能な、レターデーション値が100nm〜180nmの基材フィルムを用いたガスバリアフィルムに直線偏光板を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0047】
レターデーションが10nm以下の基材フィルムとしてはセルローストリアセテート(富士フイルム(株):富士タック)、ポリカーボネート(帝人化成(株):ピュアエース、(株)カネカ:エルメック)、シクロオレフィンポリマー(JSR(株):アートン、日本ゼオン(株):ゼオノア)、シクロオレフィンコポリマー(三井化学(株):アペル(ペレット)、ポリプラスチック(株):トパス(ペレット))ポリアリレート(ユニチカ(株):U100(ペレット))、透明ポリイミド(三菱ガス化学(株):ネオプリム)等を挙げることができる。
また1/4波長板としては、上記のフィルムを適宜延伸することで所望のレターデーション値に調整したフィルムを用いることができる。
【0048】
(太陽電池)
本発明のガスバリアフィルムは、太陽電池素子の封止フィルムとしても用いることができる。ここで、本発明のガスバリアフィルムは、接着層が太陽電池素子に近い側となるように封止することが好ましい。本発明のガスバリアフィルムが好ましく用いられる太陽電池素子としては、特に制限はないが、例えば、単結晶シリコン系太陽電池素子、多結晶シリコン系太陽電池素子、シングル接合型、またはタンデム構造型等で構成されるアモルファスシリコン系太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、色素増感型太陽電池素子、有機太陽電池素子等が挙げられる。中でも、本発明においては、上記太陽電池素子が、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子であることが好ましい。
【0049】
(電子ペーパー)
本発明のガスバリアフィルムは、電子ペーパーにも用いることができる。電子ペーパーは反射型電子ディスプレイであり、高精細且つ高コントラスト比を実現することが可能である。
電子ペーパーは、基板上にディスプレイ媒体および該ディスプレイ媒体を駆動するTFTを有する。ディスプレイ媒体としては、従来知られているいかなるディスプレイ媒体でも用いることができる。電気泳動方式、電子粉粒体飛翔方式、荷電トナー方式、エレクトロクロミック方式等のいずれのディスプレイ媒体であっても好ましく用いられるが、電気泳動方式のディスプレイ媒体がより好ましく、なかでもマイクロカプセル型電気泳動方式のディスプレイ媒体が特に好ましい。電気泳動方式のディスプレイ媒体は、複数のカプセルを含むディスプレイ媒体であり、該複数のカプセルのそれぞれが懸濁流体内で移動可能な少なくとも1つの粒子を含む。ここでいう少なくとも1つの粒子は、電気泳動粒子または回転ボールであることが好ましい。また、電気泳動方式のディスプレイ媒体は、第1の面および該第1の面と対向する第2の面を有し、該第1および該第2の面の内の1つの面を介して観察イメージを表示する。
また、基板上に設けられるTFTは、少なくともゲート電極、ゲート絶縁膜、活性層、ソース電極及びドレイン電極を有し、活性層とソース電極の間か活性層とドレイン電極の間の少なくとも一方に、電気的に接続する抵抗層をさらに有する。電子ペーパーは、電圧印加により光の濃淡を生じる。
【0050】
高精細なカラー表示の電子ディスプレイを製造する場合は、アライメント精度を確保するためにカラーフィルター上にTFTを形成することが好ましい。ただし、電流効率が低い通常のTFTで必要な駆動電流を得ようとしてもダウンサイジングに限界があるため、ディスプレイ媒体の高精細化に伴って画素内のTFTが占める面積が大きくなってしまう。画素内のTFTが占める面積が大きくなると、開口率が低下しコントラスト比が低下する。このため、透明なアモルファスIGZO型TFTを用いても、光透過率は100%にはならず、コントラストの低下は避けられない。そこで、例えば特開2009−021554号公報に記載されるようなTFTを用いることにより、画素内のTFTの占める面積を小さくして、開口率とコントラスト比を高くすることができる。また、この種のTFTをカラーフィルター上に直接形成すれば、高精細化も達成することができる。
【0051】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネルが挙げられる。
【0052】
<光学部材>
本発明のガスバリアフィルムを用いた光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるガスバリアフィルムを基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0054】
<ガスバリアフィルムの作製と評価>
ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製、テオネックスQ65FA、厚み100μm)上に、下記表に示した重合性化合物(合計15重量部)と重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社、IRGACURE907)(1重量部)とをメチルエチルケトン(185重量部)で調整製して乾燥膜厚が500nmとなるように製膜し、酸素100ppm雰囲気下で紫外線照射量0.5J/cm2で照射して硬化させ、有機層を作製した。その有機層表面に、膜厚が30nmとなるようにAl23を真空スパッタ(反応性スパッタリング)で製膜してガスバリアフィルムを作製した。得られたガスバリアフィルムについて、下記手法により水蒸気透過率および表面粗さRaを測定した。なお、本発明6においては、上記重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社、IRGACURE907)の代わりに、重合開始剤(ランベルティ社、KTO46)を用いた。
【0055】
[バリア性能]
G.NISATO、P.C.P.BOUTEN、P.J.SLIKKERVEERらSID Conference Record of the International Display Research Conference 1435-1438頁に記載の方法を用いて水蒸気透過率(g/m2/day)を測定した。このときの温度は40℃、相対湿度は90%とした。以下のように評価し、結果を下記表に示した。
(評価)
× :0.005g/m2/day以上
○ :0.001以上〜0.005g/m2/day未満
◎ :0.001g/m2/day未満
【0056】
[表面粗さRa]
電子間力顕微鏡(AFM)により、1μm角の表面粗さを測定した。以下のように評価し、結果を下記表に示した。
(評価)
× :1nm以上〜3nm未満
○ :0.5nm以上〜1nm未満
◎ :0.5nm未満
【0057】
【表1】

【0058】
上記表中、重合性化合物1と重合性化合物2の配合比は、モル比で示している。重合性モノマーの環状炭素率は、上記式(A)により得たものである。
上記表で用いた重合性組成物は、下記のとおりである。
【0059】
化合物A:
【化11】


化合物B:
【化12】


化合物C:
【化13】


化合物D:
【化14】


化合物E:
【化15】

【0060】
上記表から明らかなとおり、本発明のガスバリアフィルムでは、バリア性および表面粗さについて良好な結果が得られた。特に、2官能アクリレートを添加することにより、バリア性および表面粗さがより向上することが分かった。
【0061】
<有機EL発光素子の製造と評価>
バリア性を評価するために、水蒸気や酸素で黒点(ダークスポット)欠陥を生じる有機EL素子を作成し評価した。まず、ITO膜を有する導電性のガラス基板(表面抵抗値10Ω/□)を2−プロパノールで洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った。この基板(陽極)上に真空蒸着法にて以下の化合物層を順次蒸着した。
(第1正孔輸送層)
銅フタロシアニン:膜厚10nm
(第2正孔輸送層)
N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチルベンジジン:膜厚40nm
(発光層兼電子輸送層)
トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム:膜厚60nm
(電子注入層)
フッ化リチウム:膜厚1nm
この上に、金属アルミニウムを100nm蒸着して陰極とし、その上に厚み3μm窒化珪素膜を平行平板CVD法によって付け、有機EL素子を作成した。
次に、熱硬化型接着剤(エポテック310、ダイゾーニチモリ(株))を用いて、作成した有機EL素子上と、上記で作製した各ガスバリアフィルムを、バリア層が有機EL素子の側となるように貼り合せ、65℃で3時間加熱して接着剤を硬化させた。このようにして封止された有機EL素子を各20素子ずつ作成した。
作成直後の有機EL素子をソースメジャーユニット(SMU2400型、Keithley社製)を用いて7Vの電圧を印加して発光させた。顕微鏡を用いて発光面状を観察したところ、いずれの素子もダークスポットの無い均一な発光を与えることが確認された。
最後に、各素子を60℃・相対湿度90%の暗い室内に24時間静置した後、発光面状を観察した。直径300μmよりも大きいダークスポットが観察された素子の比率を故障率と定義し、各素子の故障率を算出した。故障率は、本発明の素子については、いずれも、5%以下と良好であった。
【0062】
<電子ペーパーの製造>
本発明2および本発明5のガスバリアフィルムを、それぞれ基板として用いて電子ペーパーを製造した。
本発明2または本発明5のガスバリアフィルム上に、ゲート電極として厚み30nmのITOを蒸着し、その上にゲート絶縁膜として厚み500nmのSiONを蒸着し、さらに活性層として厚み10nmのIGZO膜をRFマグネトロンスパッタ真空蒸着法により積層し(ターゲット:InGaZnO4の組成を有する多結晶焼結体、Ar流量:12sccm、O2流量:0.2sccm、RFパワー:200W、圧力:0.4Pa)、続けてO2流量を1.5sccmに変えたこと以外は活性層と同じ方法により抵抗層として厚み40nmのIGZO膜を積層した。次いで、活性層の上にソース電極及びドレイン電極として厚み40nmのITOを設けてTFTフィルムを作製した。
これとは別に、第2基板である5インチ×5インチのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム上に、特表2002−511606号公報に記載の実施例に従って電気泳動方式のディスプレイ媒体を設けて電気泳動フィルムを作製した。
TFTフィルムと電気泳動フィルムを、TFTフィルムのソース・ドレイン電極面と電気泳動フィルムの上部電極面とが相対するように重ね合わせてラミネートした。TFTフィルムと電気泳動フィルムは互いに電気的に絶縁されており、ドレイン電極上のコンタクトホールによってドレイン電極と電気泳動フィルムの上部電極とを電気的に接続することにより電子ペーパーを製造した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のガスバリアフィルムは、高いバリア性能を有するため、バリア性が求められる各種素子に広く採用することができる。本発明のガスバリアフィルムにおいは、有機層の平滑性を向上させることができるため、無機層も平滑に設けることができる。この結果、最表面の平滑性も向上させることができ、該ガスバリアフィルム上に形成するデバイスの性能を向上させることができる。さらに、本発明のガスバリアフィルムは、プラズマプロセスで製造しても、高いバリア性を維持することができる点で極めて有意である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の有機層と、少なくとも1層の無機層を有し、前記有機層は、環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させてなることを特徴とする、バリア性積層体。
【請求項2】
前記重合性組成物における重合性モノマーの環状炭素率が20%以上である、請求項1に記載のバリア性積層体(ここにおいて、重合性モノマーの環状炭素率は下記式(A)により得られる)。
式(A)
【数1】

(式(A)において、Xは前記重合性組成物に含まれる重合性化合物の環状構造を構成する炭素原子の総質量であり、Yは前記重合性組成物に含まれる重合性化合物の総質量である。)
【請求項3】
前記環状炭素骨格が芳香環骨格である、請求項1または2に記載のバリア性積層体。
【請求項4】
前記3官能以上の(メタ)アクリレートが、下記一般式(1)で表される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基またはアリール基であり、R1とR2は、互いに結合して環を形成しても良い。R3およびR4は、それぞれ置換基を表す。mおよびnは、それぞれ0〜5の整数であり、m≧2のとき、R3は同じでも異なっていてもよく、n≧2のとき、R4は同じでも異なっていてもよい。ただし、一般式(1)の化合物は、1分子中に3つ以上のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を含む。)
【請求項5】
前記重合性組成物が、2官能の(メタ)アクリレートを含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項6】
前記無機層が、金属酸化物からなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項7】
前記金属酸化物からなる無機層が、スパッタリング法で成膜されたものである、請求項6に記載のバリア性積層体。
【請求項8】
少なくとも2層の有機層と、少なくとも2層の無機層が、交互に積層している、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバリア性積層体。
【請求項9】
支持体上に、請求項1〜8のいずれか1項に記載のバリア性積層体を設けたガスバリアフィルム。
【請求項10】
請求項9に記載のガスバリアフィルムを基板に用いたデバイス。
【請求項11】
請求項9に記載のガスバリアフィルムを用いて封止したデバイス。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のバリア性積層体を用いて封止したデバイス。
【請求項13】
前記デバイスが、電子デバイスである、請求項10〜12のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記デバイスが、有機EL素子である、請求項10〜12のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項15】
少なくとも1層の有機層と少なくとも1層の無機層を有するバリア性積層体の製造方法であって、
環状炭素骨格を有する3官能以上の(メタ)アクリレートを含む重合性組成物を硬化させて有機層を形成する工程と、
前記有機層を形成する工程の前または後に、無機層を形成する工程
を含むことを特徴とするバリア性積層体の製造方法。
【請求項16】
前記無機層をプラズマプロセスによって設ける、請求項15に記載のバリア性積層体の製造方法。

【公開番号】特開2010−6064(P2010−6064A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129611(P2009−129611)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】