バーハンドル車両用ブレーキ制御装置
【課題】車輪速度に基づきこの車両の動作を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置に関し、前輪又は後輪が浮上している状態を的確に認識するとともに、このように車両が浮上走行している場合であっても的確な推定車体速度を導いて車両を適切に制御する。
【解決手段】車両(20)の前輪(TF)及び後輪(TR)の車輪速度に基づき車両(20)を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置(10)であって、前輪接地信号(PF)が接地を示すときは前輪速度信号(ωF)を適用し浮上を示すときは後輪速度信号(ωR)を適用して前輪推定車体速度(VF)を演算する前輪推定車体速度演算手段(15F)と、後輪接地信号(PR)が接地を示すときは後輪速度信号(ωR)を適用し浮上を示すときは前記前輪速度信号(ωF)を適用して後輪推定車体速度(VR)を演算する後輪推定車体速度演算手段(15R)と、を備えることを特徴とする。
【解決手段】車両(20)の前輪(TF)及び後輪(TR)の車輪速度に基づき車両(20)を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置(10)であって、前輪接地信号(PF)が接地を示すときは前輪速度信号(ωF)を適用し浮上を示すときは後輪速度信号(ωR)を適用して前輪推定車体速度(VF)を演算する前輪推定車体速度演算手段(15F)と、後輪接地信号(PR)が接地を示すときは後輪速度信号(ωR)を適用し浮上を示すときは前記前輪速度信号(ωF)を適用して後輪推定車体速度(VR)を演算する後輪推定車体速度演算手段(15R)と、を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着される車輪の車輪速度に基づき前記車両を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バーハンドル車両の操縦性・安定性を向上させるための技術として、車両の制動性能を向上させるアンチロックブレーキ制御装置(ABS:Anti-lock Brake System)等のバーハンドル車両用ブレーキ制御装置(以下、「ブレーキ制御装置」)が用いられている。
これらブレーキ制御装置は、車両に装着されている車輪ごとに取得された車輪速度から推定車体速度を算出し、この算出された推定車体速度と各車輪の車輪速度とに基づいてスリップ率を算出し、制動時において過度なスリップが抑制されるよう車両を制御する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方で車両は、前輪及び後輪のいずれか一方を浮上させて走行する場合が知られている(例えば、ウィリーやジャックナイフ)。このような状態で、浮上した車輪の車輪速度に基づき算出された推定車体速度は正確性に欠けるといえる。
そこで従来技術として、車輪が浮上した場合、推定車体速度の算出に際し、浮上した車輪の車輪速度を除外して算出する技術(例えば、特許文献2参照)や、浮上していない車輪の車輪速度と浮上した車輪の車輪速度との中間値を推定車体速度として利用する技術(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2005−161968号公報
【特許文献2】特開2003−095080号公報
【特許文献3】特開2003−191832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2,3の従来技術において、車両が浮上走行しているか否かの判断は、浮上している車輪は車輪速度が失速することを利用して、前輪及び後輪の車輪速度差の大小関係に基づいて行われている。また、特許文献1の従来技術において、車輪がスリップをしているか否かの判断も同様に前輪及び後輪の車輪速度差の大小関係に基づいて行われている。
このため、前輪及び後輪の車輪速度差という共通の条件を用いて、浮上走行しているか否か、及び車輪がスリップしているか否かの判断が行われるのでいずれか一方の判断に誤判断が生じる問題がある。
【0005】
このように、従来技術では、車輪がスリップしているのか浮上走行しているのかの区別が不明確なため、車両の操縦性・安定性を向上させるブレーキ制御装置の動作が不適切になる問題がある。
【0006】
本発明は、前記した問題を解決するために創案されたものであり、車両の前輪又は後輪が浮上している状態を的確に認識するとともに、車両が浮上走行している場合であっても的確な推定車体速度を導いて車両を適切に制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置を提供することを課題にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために本発明は、車両の前輪及び後輪の車輪速度に基づき前記車両を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置であって、前輪の前記車輪速度を示す前輪速度信号を取得する前輪速度信号取得手段と、後輪の前記車輪速度を示す後輪速度信号を取得する後輪速度信号取得手段と、前輪の接地/浮上を示す前輪接地信号を取得する前輪接地信号取得手段と、後輪の接地/浮上を示す後輪接地信号を取得する後輪接地信号取得手段と、前記前輪接地信号が、接地を示すときは前記前輪速度信号を適用し、浮上を示すときは前記後輪速度信号を適用して、前輪推定車体速度を演算する前輪推定車体速度演算手段と、前記後輪接地信号が、接地を示すときは前記後輪速度信号を適用し、浮上を示すときは前記前輪速度信号を適用して、後輪推定車体速度を演算する後輪推定車体速度演算手段と、前記前輪推定車体速度及び前記前輪速度信号に基づき前輪を制御する前輪制御信号を出力する前輪制御信号出力手段と、前記後輪推定車体速度及び前記後輪速度信号に基づき後輪を制御する後輪制御信号を出力する後輪制御信号出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような手段から発明が構成されることにより、車両の前輪及び後輪のそれぞれが接地しているか浮上しているかが明確になるので、「ウィリー走行」、「ジャックナイフ走行」している状態と、「両輪走行」して車輪がスリップしている状態とを区別することができる。そして、浮上している車輪の車輪速度信号は、推定車体速度の演算に適用されないので、的確な推定車体速度が導きだされる。そして、この推定車体速度と各車輪の車輪速度とから正確なスリップ率を導くことが可能となる。
【0009】
さらに発明は、前記前輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記前輪推定車体速度演算手段の演算に適用される信号が、前記後輪速度信号から前記前輪速度信号に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第1遅延手段と、前記後輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記後輪推定車体速度演算手段の演算に適用される信号が、前記前輪速度信号から前記後輪速度信号に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第2遅延手段と、をさらに備えることを特徴とする。
このような手段から発明が構成されることにより、ウィリーやジャックナイフ後に着地して不安定な車輪速度信号は、車輪制御信号の生成に適用されない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両がウィリーやジャックナイフ等の走行をした場合であっても車両を適切に制御することができるバーハンドル車両用ブレーキ制御装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(第1実施形態)
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本発明の第1実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置10(以下、「ブレーキ制御装置10」と記載する)が適用される車両20について簡潔に説明する。本発明に適用される車両20は、図1に示されるように、ブレーキ制御装置10の他、液圧ユニット30と各種パーツと、を構成に含むものである。
【0012】
車両20は、進行方向前側の前輪TFと、進行方向後側の後輪TRとを少なくとも装着して、この車輪Tを介して路面に接地している。
後輪TRは、エンジン21の駆動力がチェーン22を介して伝達される駆動輪である。そして、この駆動力により回転する後輪TRの車輪速度が、近傍に設けられている後輪回転センサDRにより検知される。そして、この後輪TRは、図示しない運転者がフットブレーキペダルL2(第2ブレーキ操作子)を操作すると、油路A2,B2を介して押圧される後輪ブレーキパットBRの摩擦力により車輪速度が減速され、後輪TRと接地路面との間に制動力が発生する。
【0013】
前輪TFは、後輪TRの駆動力により走行する車両20の進行方向を、ハンドル23の操作に応じて角度が可変する操舵輪(従動輪)である。そして、走行中に接地路面から受ける摩擦力により回転する前輪TFの車輪速度が、近傍に設けられている前輪回転センサDFにより検出される。そして、前輪TFは、図示しない運転者がブレーキレバーL1(第1ブレーキ操作子)を操作すると、油路A1,B1を介して押圧される前輪ブレーキパットBFの摩擦力により車輪速度が減速され、前輪TFと接地路面との間に制動力が発生する。
エンジン21はフレーム24に支持されるとともに回転駆動力を出力するものである。この出力された回転駆動力は、ドライブスプロケットRDからチェーン22を介してリアスプロケットRRに伝達されて、後輪TRを回転させる。そして、エンジン21が出力する回転駆動力の大きさは、運転者が操作するアクセル25により調節される。
【0014】
フロントサスペンションEFは、自身が伸縮することにより、前輪TFをフレーム24に対して粘弾性的に支持するものである。同様にリアサスペンションERも、フレーム24に連結する部分が回動することにより、後輪TRをフレーム24に対して粘弾性的に支持するものである。このように構成されてフロントサスペンションEF及びリアサスペンションERは、前輪TF及び後輪TRが接地路面から受けた衝撃を吸収して、フレーム24に伝達される衝撃を緩和するものである。
さらに、フロントサスペンションEF及びリアサスペンションERには、それらの伸縮及び変動量に応じて、対応する車輪の接地/浮上を区別する図示しないセンサが設けられ、後記する接地信号取得手段13F,13Rに接続している。
【0015】
ブレーキ制御装置10は、速度信号取得手段(前輪速度取得手段11F、後輪速度取得手段11R)と、入力手段(第1入力手段12F,第2入力手段12R)と、接地信号取得手段(前輪接地信号取得手段13F、後輪接地信号取得手段13R)と、走行判定手段14と、推定車体速度演算手段(前輪推定車体速度演算手段15F,後輪推定車体速度演算手段15R)と、遅延手段(第1遅延手段17F,第2遅延手段17R)と、制御信号出力手段(前輪制御信号出力手段18F,後輪制御信号出力手段18R)とから構成される。
このように構成されるブレーキ制御装置10は、車両20に装着される車輪T(前輪TF,後輪TR)の車輪速度信号(前輪速度信号ωF,後輪速度信号ωR)及び車輪接地信号(前輪接地信号PF,後輪接地信号PR)に基づき車両20を制御するものである。
【0016】
速度信号取得手段(前輪速度取得手段11F、後輪速度取得手段11R)は、複数の車輪T(前輪TF,後輪TR)のそれぞれについて検出された車輪速度信号ωF,ωRを取得するものである。また、前輪回転センサDF及び後輪回転センサDRにより検知された車輪Tの車輪速度に関連する信号をブレーキ制御装置10の内部で処理可能な信号(前輪速度信号ωF,後輪速度信号ωR)に変換するものである。そして、この取得された車輪速度信号ωF,ωRは、図示しない記憶手段において一時記憶される。
【0017】
第1入力手段12Fは、後記する走行判定手段14における「ウィリー走行」「ジャックナイフ走行」「両輪走行」のうちいずれかの判定結果に基づいて、前輪速度信号ωF及び後輪速度信号ωRのうちいずれか一方を、前輪推定車体速度演算手段15Fに入力するものである。
第2入力手段12Rは、後記する走行判定手段14における「ウィリー走行」「ジャックナイフ走行」「両輪走行」のうちいずれかの判定結果に基づいて、前輪速度信号ωF及び後輪速度信号ωRのうちいずれか一方を、後輪推定車体速度演算手段15Rに入力するものである。
【0018】
接地信号取得手段(前輪接地信号取得手段13F、後輪接地信号取得手段13R)は、複数の車輪T(前輪TF,後輪TR)のそれぞれについて路面に接地しているか浮上しているかを示す車輪接地信号(前輪接地信号PF,後輪接地信号PR)を出力するものである。具体的に接地信号取得手段13F,13Rは、車両20のフロントサスペンションEF,リアサスペンションERが伸縮する動作に基づいて、支持される車輪Tが接地しているか浮上しているかを判定し、いずれの状態であるかを示す車輪接地信号PR,PFを出力する。
車輪Tが浮上しているときは、フロントサスペンションEF又はリアサスペンションERは伸長状態にあり、車輪Tが接地しているときは、フロントサスペンションEF又はリアサスペンションERは運転者及び車両20の重量により押縮状態にある。このような状態の変化を利用して路面に接地しているか浮上しているかを区別する。このような伸長・押縮状態を検出するためにフロントサスペンションEF及びリアサスペンションERには図示しない歪ゲージやピエゾ素子等のセンサが設けられている。
【0019】
ところで、本実施形態において接地信号取得手段13F,13Rは、フロントサスペンションEF及びリアサスペンションERの伸縮に基づいて車輪Tの浮上/接地を認識するものを例示しているが、必ずしもこのような形態に限定されるものではない。具体的に接地信号取得手段13F,13Rは、車両20のピッチング状態に相関するピッチング変数取得手段(ピッチングモーメント検出センサ、路面からの距離を計測する距離センサ、上下加速度を検出する加速度センサ、懸架手段の変位を検出する変位センサ等)からの情報に基づく信号を取得する手段である場合もある。または、車輪速度を元に推定車体速度、推定車体減速度から推定して実行される手段である場合もある。
【0020】
走行判定手段14は、前輪TF及び後輪TRのいずれか一方が浮上する「浮上走行」(「ウィリー走行」又は「ジャックナイフ走行」)しているか、前輪TF及び後輪TRのいずれも接地する「両輪走行」しているかを判定するものである。
つまり、前輪接地信号PFが浮上を示し後輪接地信号PRが接地を示していれば車両20は「ウィリー走行」していると判定され、前輪接地信号PFが接地を示し後輪接地信号PRが浮上を示していれば車両20は「ジャックナイフ走行」していると判定され、前輪接地信号PF及び後輪接地信号PRが共に接地を示していれば車両20は「両輪走行」していると判定される。
【0021】
前輪推定車体速度演算手段15Fは、前輪接地信号PFが、接地を示すときは前輪速度信号ωFを適用し、浮上を示すときは後輪速度信号ωRを適用して、前輪推定車体速度VFを演算するものである。
後輪推定車体速度演算手段15Rは、後輪接地信号PRが、接地を示すときは後輪速度信号ωRを適用し、浮上を示すときは前輪速度信号ωFを適用して、後輪推定車体速度VRを演算するものである。
つまり、「ウィリー走行」していると判定されれば、第1入力手段12Fの動作に基づき前輪推定車体速度演算手段15Fには後輪速度信号ωRが入力されて前輪推定車体速度VFが演算され、第2入力手段12Rの動作に基づき後輪推定車体速度演算手段15Rにも後輪速度信号ωRが入力されて後輪推定車体速度VRが演算される。
また「ジャックナイフ走行」していると判定されれば、第1入力手段12Fの動作に基づき前輪推定車体速度演算手段15Fには前輪速度信号ωFが入力されて前輪推定車体速度VFが演算され、第2入力手段12Rの動作に基づき後輪推定車体速度演算手段15Rにも前輪速度信号ωFが入力されて後輪推定車体速度VRが演算される。
そして、「両輪走行」していると判定されれば、第1入力手段12Fの動作に基づき前輪推定車体速度演算手段15Fには前輪速度信号ωFが入力されて前輪推定車体速度VFが演算され、第2入力手段12Rの動作に基づき後輪推定車体速度演算手段15Rには後輪速度信号ωRが入力されて後輪推定車体速度VRが演算される。
【0022】
遅延手段(第1遅延手段17F,第2遅延手段17R)は、車両20が「浮上走行」から「両輪走行」に移行した場合、入力手段12F,12Rにおける前輪速度信号ωFと後輪速度信号ωRとの切り替えを所定時間Δtだけ遅延させるものである。
これは、浮上した車輪Tが着地した直後は、当該車輪Tの検出される車輪速度信号ωF,ωRは、大きく揺らいで車両20の動作制御に用いるのに不適切であるためである。よって、着地した車輪Tの車輪速度信号ωF,ωRが安定する所定時間Δtが経過するまで切り替えを行わないようにする必要があるためである。なお、この遅延時間Δtは、車種に応じて適宜設定されるものである。
【0023】
つまり第1遅延手段17Fは、前輪接地信号PFが、浮上から接地に変化した場合、前輪推定車体速度演算手段15Fの演算に適用される信号が、後輪速度信号ωRから前輪速度信号ωFに切り替わるのを所定時間Δtだけ遅延するように動作する。
そして第2遅延手段17Rは、後輪接地信号PRが、浮上から接地に変化した場合、後輪推定車体速度演算手段15Rの演算に適用される信号が、前輪速度信号ωFから後輪速度信号ωRに切り替わるのを所定時間Δtだけ遅延するように動作する。
【0024】
制御信号出力手段(前輪制御信号出力手段18F,後輪制御信号出力手段18R)は、車輪速度信号ωF,ωR及び推定車体速度VF,VRに基づいてスリップ率を演算するとともに、液圧ユニット30をABS制御動作させる制御信号(前輪制御信号JF,後輪制御信号JR)を生成し出力するものである。
【0025】
ここでABS制御とは、スリップ率を一定に保とうとする(車体速度に対する車輪速度の一定以上の落ち込みを防ごうとする)ものである。すなわち、運転者が、ブレーキレバーL1及び/又はフットブレーキペダルL2を操作すると、次式(1)で示されるスリップ率が演算され、このスリップ率が路面に対する車輪の制動力が最大を示す理想スリップ率(10%程度)を示すように制御信号JF,JRが更新され液圧ユニット30の油圧が自動調節される。このようにして車両20は、ABS制御により、制動時に車両の操舵性・安定性が維持される。
【0026】
スリップ率=(推定車体速度−車輪速度)/ 推定車体速度 ×100・・・(1)
【0027】
そして、走行中の車両20の制動時、スリップ率(前記(1)式)が大きい場合は、路面とスリップして車輪Tがロックしていることが想定される。このような場合は、車両20の操舵性・制動性が低下するので、これらの安定性を向上させるために各車輪Tが理想スリップ率になるようにブレーキパットBF,BRの押圧力が調節されるように液圧ユニット30が制御される。
【0028】
液圧ユニット30は、運転者によるブレーキレバーL1の操作量に応じ、油圧を介して押圧力を前輪ブレーキパットBFに伝達し、前輪TFの回転を制動するものである。同様に、液圧ユニット30は、フットブレーキペダルL2の操作量に応じ、油圧を介して押圧力を後輪ブレーキパットBRに伝達し、後輪TRの回転を制動するものである。
そして、液圧ユニット30は、後記する制御信号JR,JFに基づいて、ブレーキパッドBF,BRへ伝達される油圧を調節し、車両を制御するものである。
【0029】
液圧ユニット30は、図2に示すように、第1マスタシリンダM1と、第2マスタシリンダM2と、油路(出力液圧路A1,A2、車輪液圧路B1,B2、開放路C1,C2)と、これら油路上に配置される複数の入口弁31、出口弁32及びチェック弁31aと、ディレイバルブ39と、を備えている。さらに液圧ユニット30は、第1マスタシリンダM1及び第2マスタシリンダM2に、それぞれ対応するリザーバ33,33、ポンプ34,34、吸入弁35,35、吐出弁36,36、ダンパ37,37、オリフィス37a,37aが設けられ、さらに二つのポンプ34を駆動する電動モータ38が備えられている。
【0030】
第1マスタシリンダM1は、運転者が第1ブレーキ操作子L1に付与した操作力に対応したブレーキ液圧を発生するものである。
第1マスタシリンダM1は、出力液圧路A1の一端に接続し、さらに車輪液圧路B1を経由して、前輪ブレーキパットBF1のホイールシリンダに接続している。そして、第1ブレーキ操作子L1に加えた操作力が、前輪TFに制動力として伝達されるようになっている。
【0031】
入口弁31は、常開型の電磁弁で、出力液圧路A1と車輪液圧路B1との間に設けられている。この入口弁31は開状態で、第1マスタシリンダM1から前輪ブレーキパットBF1のホイールシリンダへ、ブレーキ液圧が伝達するのを許容する。
そして入口弁31は、前輪TFがロックしそうになったとき、ブレーキ制御装置10からの前輪制御信号JFにより開状態から閉塞状態に変化し、前輪ブレーキパットBF1にかかるブレーキ液圧を遮断する。
【0032】
出口弁32は、常閉型の電磁弁で、開放路C1上のリザーバ33と前輪ブレーキパットBF1のホイールシリンダとの間に設けられている。この出口弁32は、前輪TFがロックしそうになったとき、ブレーキ制御装置10からの前輪制御信号JFにより閉塞状態から開状態に変化し、前輪ブレーキパットBF1にかかるブレーキ液圧をリザーバ33に逃がす。
【0033】
チェック弁31aは、入口弁31に並列に接続され、前輪ブレーキパットBF1から第1マスタシリンダM1への方向のみブレーキ液の流入を許容する。そしてチェック弁31aは、入口弁31が閉塞状態であっても、第1ブレーキ操作子L1の操作力が解除されれば、前輪ブレーキパットBF1から第1マスタシリンダM1への方向のみブレーキ液の流動を許容する。
【0034】
ポンプ34は、吸入弁35及び吐出弁36を備え、リザーバ33に吸収されているブレーキ液を第1マスタシリンダM1側へ戻す機能を有している。なお図2では、ポンプ34、吸入弁35及び吐出弁36が別体で示されているが、これらが一体的に組み込まれていてもよい。
【0035】
吸入弁35は、リザーバ33側からポンプ34側へのブレーキ液の流入のみ許容する弁である。
吐出弁36は、ポンプ34側から第1マスタシリンダM1側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁である。ダンパ37及びオリフィス37aは、吐出弁36を介して第1マスタシリンダM1側へ吐出したブレーキ液の脈動を吸収するものである。
【0036】
次に、第2マスタシリンダM2と後輪ブレーキパットBRとの接続及び動作態様は、前記第1ブレーキ操作子L1、出力液圧路A1、車輪液圧路B1、開放路C1、前輪TF及び前輪制御信号JFを、それぞれ第2ブレーキ操作子L2、出力液圧路A2、車輪液圧路B2、開放路C2、後輪TR及び後輪制御信号JRに読み替え適用させることとして、その説明を省略する。
【0037】
ところで、第2マスタシリンダM2は、出力液圧路A2及び車輪液圧路B2を経由して、前輪ブレーキパットBF2のホイールシリンダにも接続している。そして、この前輪ブレーキパットBF2のホイールシリンダとそれに対応する入口弁31との間には、ディレイバルブ39が設けられている。
ディレイバルブ39は、その機械的構造により、第2ブレーキ操作子L2の操作によってブレーキ液に加えられた圧力を、前輪ブレーキパットBF2に付加する押圧力が後輪ブレーキパットBRより小さくなるよう、伝達する機能を有している。
【0038】
次に図1及び図3を参照して、第1実施形態に係るブレーキ制御装置の動作を説明する。
まず、車両20が走行することで、速度信号取得手段11F,11Rにより前輪速度信号ωFと後輪速度信号ωRとが取得される(ステップS11、以下「S11」のように示す)。また同時に接地信号取得手段13F,13Rにより前輪接地信号PFと後輪接地信号PRとが取得される(S13)。そして、取得されたこれらの信号ωF,ωR,PF,PRは図示しない記憶手段において一時記憶される(S14)。この記憶された車輪速度信号ωF,ωRは、後に制御信号出力手段18F,18Rにおいてスリップ率の算出で適宜利用されることとなり(S26)、記憶された車輪接地信号PF,PRは次の走行判定に利用される。
【0039】
次に、前輪接地信号PFが前輪TFの浮上を示している場合は(S15:No)、走行判定手段14において車両20は「ウィリー走行」していると判定される(S17)。このように、「ウィリー走行」と判定された場合、入力手段12F,12Rは、推定車体速度演算手段15F,15Rに、後輪速度信号ωRを入力し、これに基づき推定車体速度VF,VRが演算される(S18)。
【0040】
一方、前輪接地信号PFが前輪TFの接地を示し(S15:Yes)、後輪接地信号PRが後輪TRの浮上を示している場合は(S19:No)、走行判定手段14において車両20は「ジャックナイフ走行」していると判定される(S20)。このように、「ジャックナイフ走行」と判定された場合、入力手段12F,12Rは、推定車体速度演算手段15F,15Rに、前輪速度信号ωFを入力し、これに基づき推定車体速度VF,VRが演算される(S21)。
【0041】
一方、前輪接地信号PFが前輪TFの接地を示し(S15:Yes)、後輪接地信号PRも後輪TRの接地を示している場合は(S19:Yes)、走行判定手段14において車両20は「両輪走行」していると判定される(S22)。このように、「両輪走行」と判定された場合、遅延手段17F,17Rにおいて、前回ジャックナイフ判定された時点又は前回ウィリー判定された時点から遅延時間Δtが経過しているか否かについて判断される(S23,S24)。そして、遅延時間Δtが経過前であれば(S23,S24:No)、着地した車輪の車輪速度信号ωF,ωRが不安定であるとして、入力手段12F,12Rは、入力する車輪速度信号ωF,ωRの切り替えを実行せず推定車体速度演算手段15F,15Rで推定車体速度VF,VRを演算させる(S18,S21)。
【0042】
一方、遅延時間Δtの経過後であれば(S23,S24:Yes)、入力手段12Fは推定車体速度演算手段15Fに前輪速度信号ωFを入力しこれに基づき推定車体速度VFを演算し、入力手段12Rは推定車体速度演算手段15Rに後輪速度信号ωRを入力しこれに基づき推定車体速度VRを演算する(S25)。
【0043】
次に、制御信号出力手段18F,18Rにおいて、推定車体速度演算手段15F,15Rで演算された推定車体速度VF,VRと、図示しない記憶手段に記憶されている車輪速度信号ωF,ωRとに基づいてスリップ率SF,SR(式(1)参照)を演算する(S26)。そして、このスリップ率SF,SRに基づいて車輪制御信号JF,JRを生成し、液圧ユニット30に出力する(S27)。これにより、車両20の操縦性・安定性が向上する。
【0044】
(第2実施形態)
次に、図4,図5を参照して、本発明の第2実施形態に係るブレーキ制御装置10´について説明する。
図4にブロック図が示されるように第2実施形態に係るブレーキ制御装置10´の特徴は、走行判定手段14の判定結果に基づいて入力信号の切り替えを行う入力手段12f,12rの設置位置が、制御信号出力手段18f,18rと推定車体速度演算手段15f,15rとの間に設けられている点にある(第1実施形態では速度信号取得手段11F,11Rと推定車体速度演算手段15F,15Rとの間に設けられている)。
よって、第2実施形態に係るブレーキ制御装置10´の構成要素のうち共通する部分については、同一符号を付して第1実施形態(図1)においてした説明を援用し記載を省略することにする。
【0045】
前輪推定車体速度演算手段15fは、前輪速度信号ωFに基づいて前輪推定車体速度VFを演算するものである。
後輪推定車体速度演算手段15rは、後輪速度信号ωRに基づいて後輪推定車体速度VRを演算するものである。
前輪制御信号出力手段18fは、第1入力手段12fの動作に基づいて、前輪接地信号PFが接地を示すときは前輪推定車体速度VFを適用し、浮上を示すときは後輪推定車体速度VRを適用して、前輪TFを制御する前輪制御信号JFを出力するものである。
後輪制御信号出力手段18rは、第2入力手段12rの動作に基づいて、後輪接地信号PRが接地を示すときは後輪推定車体速度VRを適用し、浮上を示すときは前輪推定車体速度VFを適用して、後輪TRを制御する後輪制御信号JRを出力するものである。
【0046】
次に図4及び図5を参照して、第2実施形態に係るブレーキ制御装置の動作を説明する。ここで、第2実施形態(図5参照)のS53〜S55、S57、S59〜S60、S62〜S64の動作フローの説明は、それぞれ第1実施形態(図3参照)のS13〜S15、S17、S19〜S20、S22〜S24の動作フローに対応するので、これらの説明を援用して記載を省略する。第2実施形態では、前輪速度信号ωFに基づき前輪推定車体速度VFが演算され、後輪速度信号ωRに基づき後輪推定車体速度VRが演算される(S51,S52)。
【0047】
そして、ウィリー走行判定された場合は(S57)、後輪推定車体速度VRと前輪速度信号ωFとに基づき前輪スリップ率SFが演算され、後輪推定車体速度VRと後輪速度信号ωRとに基づき後輪スリップ率SRが演算される(S58)。
また、ジャックナイフ走行判定された場合は(S60)、前輪推定車体速度VFと前輪速度信号ωFとに基づき前輪スリップ率SFが演算され、前輪推定車体速度VFと後輪速度信号ωRとに基づき後輪スリップ率SRが演算される(S61)。
さらに、両輪走行判定された場合は(S62)、遅延手段17F,17Rにおいて設定された遅延時間Δtの経過後(S63,S64)、前輪推定車体速度VFと前輪速度信号ωFとに基づき前輪スリップ率SFが演算され、後輪推定車体速度VRと後輪速度信号ωRとに基づき後輪スリップ率SRが演算される(S65)。
そして、このようにして求められた前輪スリップ率SFに基づいて前輪制御信号JFが生成され液圧ユニット30に出力され、後輪スリップ率SRに基づいて後輪制御信号JRが生成され液圧ユニット30に出力される(S67)。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
すなわち実施形態において二輪車を例示して説明したが、適宜三輪以上の車両にも適用することができる。
【0049】
以上、本発明に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置により次のような効果が発揮される。すなわち、「浮上」と判断された側の車輪速度はスリップ率の算出に影響を与えないため、スリップ率を精度よく算出することが可能となり、車両の操縦性・安定性を向上させるためのブレーキ制御装置の動作が最適化される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置が接続される液圧ユニットの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置の実行ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置の実行ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
10 ブレーキ制御装置(バーハンドル車両用ブレーキ制御装置)
11F 前輪速度信号取得手段(速度信号取得手段)
11R 後輪速度信号取得手段(速度信号取得手段)
13F 前輪接地信号取得手段(接地信号取得手段)
13R 後輪接地信号取得手段(接地信号取得手段)
14 走行判定手段
15F,15f 前輪推定車体速度演算手段(推定車体速度演算手段)
15R,15r 後輪推定車体速度演算手段(推定車体速度演算手段)
17F 第1遅延手段(遅延手段)
17R 第2遅延手段(遅延手段)
18F,18f 前輪制御信号出力手段(制御信号出力手段)
18R,18r 後輪制御信号出力手段(制御信号出力手段)
20 車両
30 液圧ユニット
PF 前輪接地信号(車輪接地信号)
PR 後輪接地信号(車輪接地信号)
TF(T) 前輪(車輪)
TR(T) 後輪(車輪)
VF 前輪推定車体速度(推定車体速度)
VR 後輪推定車体速度(推定車体速度)
ωF 前輪速度信号(車輪速度信号)
ωR 後輪速度信号(車輪速度信号)
JF 前輪制御信号(車輪制御信号)
JR 後輪制御信号(車輪制御信号)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着される車輪の車輪速度に基づき前記車両を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バーハンドル車両の操縦性・安定性を向上させるための技術として、車両の制動性能を向上させるアンチロックブレーキ制御装置(ABS:Anti-lock Brake System)等のバーハンドル車両用ブレーキ制御装置(以下、「ブレーキ制御装置」)が用いられている。
これらブレーキ制御装置は、車両に装着されている車輪ごとに取得された車輪速度から推定車体速度を算出し、この算出された推定車体速度と各車輪の車輪速度とに基づいてスリップ率を算出し、制動時において過度なスリップが抑制されるよう車両を制御する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方で車両は、前輪及び後輪のいずれか一方を浮上させて走行する場合が知られている(例えば、ウィリーやジャックナイフ)。このような状態で、浮上した車輪の車輪速度に基づき算出された推定車体速度は正確性に欠けるといえる。
そこで従来技術として、車輪が浮上した場合、推定車体速度の算出に際し、浮上した車輪の車輪速度を除外して算出する技術(例えば、特許文献2参照)や、浮上していない車輪の車輪速度と浮上した車輪の車輪速度との中間値を推定車体速度として利用する技術(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2005−161968号公報
【特許文献2】特開2003−095080号公報
【特許文献3】特開2003−191832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2,3の従来技術において、車両が浮上走行しているか否かの判断は、浮上している車輪は車輪速度が失速することを利用して、前輪及び後輪の車輪速度差の大小関係に基づいて行われている。また、特許文献1の従来技術において、車輪がスリップをしているか否かの判断も同様に前輪及び後輪の車輪速度差の大小関係に基づいて行われている。
このため、前輪及び後輪の車輪速度差という共通の条件を用いて、浮上走行しているか否か、及び車輪がスリップしているか否かの判断が行われるのでいずれか一方の判断に誤判断が生じる問題がある。
【0005】
このように、従来技術では、車輪がスリップしているのか浮上走行しているのかの区別が不明確なため、車両の操縦性・安定性を向上させるブレーキ制御装置の動作が不適切になる問題がある。
【0006】
本発明は、前記した問題を解決するために創案されたものであり、車両の前輪又は後輪が浮上している状態を的確に認識するとともに、車両が浮上走行している場合であっても的確な推定車体速度を導いて車両を適切に制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置を提供することを課題にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために本発明は、車両の前輪及び後輪の車輪速度に基づき前記車両を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置であって、前輪の前記車輪速度を示す前輪速度信号を取得する前輪速度信号取得手段と、後輪の前記車輪速度を示す後輪速度信号を取得する後輪速度信号取得手段と、前輪の接地/浮上を示す前輪接地信号を取得する前輪接地信号取得手段と、後輪の接地/浮上を示す後輪接地信号を取得する後輪接地信号取得手段と、前記前輪接地信号が、接地を示すときは前記前輪速度信号を適用し、浮上を示すときは前記後輪速度信号を適用して、前輪推定車体速度を演算する前輪推定車体速度演算手段と、前記後輪接地信号が、接地を示すときは前記後輪速度信号を適用し、浮上を示すときは前記前輪速度信号を適用して、後輪推定車体速度を演算する後輪推定車体速度演算手段と、前記前輪推定車体速度及び前記前輪速度信号に基づき前輪を制御する前輪制御信号を出力する前輪制御信号出力手段と、前記後輪推定車体速度及び前記後輪速度信号に基づき後輪を制御する後輪制御信号を出力する後輪制御信号出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような手段から発明が構成されることにより、車両の前輪及び後輪のそれぞれが接地しているか浮上しているかが明確になるので、「ウィリー走行」、「ジャックナイフ走行」している状態と、「両輪走行」して車輪がスリップしている状態とを区別することができる。そして、浮上している車輪の車輪速度信号は、推定車体速度の演算に適用されないので、的確な推定車体速度が導きだされる。そして、この推定車体速度と各車輪の車輪速度とから正確なスリップ率を導くことが可能となる。
【0009】
さらに発明は、前記前輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記前輪推定車体速度演算手段の演算に適用される信号が、前記後輪速度信号から前記前輪速度信号に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第1遅延手段と、前記後輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記後輪推定車体速度演算手段の演算に適用される信号が、前記前輪速度信号から前記後輪速度信号に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第2遅延手段と、をさらに備えることを特徴とする。
このような手段から発明が構成されることにより、ウィリーやジャックナイフ後に着地して不安定な車輪速度信号は、車輪制御信号の生成に適用されない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両がウィリーやジャックナイフ等の走行をした場合であっても車両を適切に制御することができるバーハンドル車両用ブレーキ制御装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(第1実施形態)
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本発明の第1実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置10(以下、「ブレーキ制御装置10」と記載する)が適用される車両20について簡潔に説明する。本発明に適用される車両20は、図1に示されるように、ブレーキ制御装置10の他、液圧ユニット30と各種パーツと、を構成に含むものである。
【0012】
車両20は、進行方向前側の前輪TFと、進行方向後側の後輪TRとを少なくとも装着して、この車輪Tを介して路面に接地している。
後輪TRは、エンジン21の駆動力がチェーン22を介して伝達される駆動輪である。そして、この駆動力により回転する後輪TRの車輪速度が、近傍に設けられている後輪回転センサDRにより検知される。そして、この後輪TRは、図示しない運転者がフットブレーキペダルL2(第2ブレーキ操作子)を操作すると、油路A2,B2を介して押圧される後輪ブレーキパットBRの摩擦力により車輪速度が減速され、後輪TRと接地路面との間に制動力が発生する。
【0013】
前輪TFは、後輪TRの駆動力により走行する車両20の進行方向を、ハンドル23の操作に応じて角度が可変する操舵輪(従動輪)である。そして、走行中に接地路面から受ける摩擦力により回転する前輪TFの車輪速度が、近傍に設けられている前輪回転センサDFにより検出される。そして、前輪TFは、図示しない運転者がブレーキレバーL1(第1ブレーキ操作子)を操作すると、油路A1,B1を介して押圧される前輪ブレーキパットBFの摩擦力により車輪速度が減速され、前輪TFと接地路面との間に制動力が発生する。
エンジン21はフレーム24に支持されるとともに回転駆動力を出力するものである。この出力された回転駆動力は、ドライブスプロケットRDからチェーン22を介してリアスプロケットRRに伝達されて、後輪TRを回転させる。そして、エンジン21が出力する回転駆動力の大きさは、運転者が操作するアクセル25により調節される。
【0014】
フロントサスペンションEFは、自身が伸縮することにより、前輪TFをフレーム24に対して粘弾性的に支持するものである。同様にリアサスペンションERも、フレーム24に連結する部分が回動することにより、後輪TRをフレーム24に対して粘弾性的に支持するものである。このように構成されてフロントサスペンションEF及びリアサスペンションERは、前輪TF及び後輪TRが接地路面から受けた衝撃を吸収して、フレーム24に伝達される衝撃を緩和するものである。
さらに、フロントサスペンションEF及びリアサスペンションERには、それらの伸縮及び変動量に応じて、対応する車輪の接地/浮上を区別する図示しないセンサが設けられ、後記する接地信号取得手段13F,13Rに接続している。
【0015】
ブレーキ制御装置10は、速度信号取得手段(前輪速度取得手段11F、後輪速度取得手段11R)と、入力手段(第1入力手段12F,第2入力手段12R)と、接地信号取得手段(前輪接地信号取得手段13F、後輪接地信号取得手段13R)と、走行判定手段14と、推定車体速度演算手段(前輪推定車体速度演算手段15F,後輪推定車体速度演算手段15R)と、遅延手段(第1遅延手段17F,第2遅延手段17R)と、制御信号出力手段(前輪制御信号出力手段18F,後輪制御信号出力手段18R)とから構成される。
このように構成されるブレーキ制御装置10は、車両20に装着される車輪T(前輪TF,後輪TR)の車輪速度信号(前輪速度信号ωF,後輪速度信号ωR)及び車輪接地信号(前輪接地信号PF,後輪接地信号PR)に基づき車両20を制御するものである。
【0016】
速度信号取得手段(前輪速度取得手段11F、後輪速度取得手段11R)は、複数の車輪T(前輪TF,後輪TR)のそれぞれについて検出された車輪速度信号ωF,ωRを取得するものである。また、前輪回転センサDF及び後輪回転センサDRにより検知された車輪Tの車輪速度に関連する信号をブレーキ制御装置10の内部で処理可能な信号(前輪速度信号ωF,後輪速度信号ωR)に変換するものである。そして、この取得された車輪速度信号ωF,ωRは、図示しない記憶手段において一時記憶される。
【0017】
第1入力手段12Fは、後記する走行判定手段14における「ウィリー走行」「ジャックナイフ走行」「両輪走行」のうちいずれかの判定結果に基づいて、前輪速度信号ωF及び後輪速度信号ωRのうちいずれか一方を、前輪推定車体速度演算手段15Fに入力するものである。
第2入力手段12Rは、後記する走行判定手段14における「ウィリー走行」「ジャックナイフ走行」「両輪走行」のうちいずれかの判定結果に基づいて、前輪速度信号ωF及び後輪速度信号ωRのうちいずれか一方を、後輪推定車体速度演算手段15Rに入力するものである。
【0018】
接地信号取得手段(前輪接地信号取得手段13F、後輪接地信号取得手段13R)は、複数の車輪T(前輪TF,後輪TR)のそれぞれについて路面に接地しているか浮上しているかを示す車輪接地信号(前輪接地信号PF,後輪接地信号PR)を出力するものである。具体的に接地信号取得手段13F,13Rは、車両20のフロントサスペンションEF,リアサスペンションERが伸縮する動作に基づいて、支持される車輪Tが接地しているか浮上しているかを判定し、いずれの状態であるかを示す車輪接地信号PR,PFを出力する。
車輪Tが浮上しているときは、フロントサスペンションEF又はリアサスペンションERは伸長状態にあり、車輪Tが接地しているときは、フロントサスペンションEF又はリアサスペンションERは運転者及び車両20の重量により押縮状態にある。このような状態の変化を利用して路面に接地しているか浮上しているかを区別する。このような伸長・押縮状態を検出するためにフロントサスペンションEF及びリアサスペンションERには図示しない歪ゲージやピエゾ素子等のセンサが設けられている。
【0019】
ところで、本実施形態において接地信号取得手段13F,13Rは、フロントサスペンションEF及びリアサスペンションERの伸縮に基づいて車輪Tの浮上/接地を認識するものを例示しているが、必ずしもこのような形態に限定されるものではない。具体的に接地信号取得手段13F,13Rは、車両20のピッチング状態に相関するピッチング変数取得手段(ピッチングモーメント検出センサ、路面からの距離を計測する距離センサ、上下加速度を検出する加速度センサ、懸架手段の変位を検出する変位センサ等)からの情報に基づく信号を取得する手段である場合もある。または、車輪速度を元に推定車体速度、推定車体減速度から推定して実行される手段である場合もある。
【0020】
走行判定手段14は、前輪TF及び後輪TRのいずれか一方が浮上する「浮上走行」(「ウィリー走行」又は「ジャックナイフ走行」)しているか、前輪TF及び後輪TRのいずれも接地する「両輪走行」しているかを判定するものである。
つまり、前輪接地信号PFが浮上を示し後輪接地信号PRが接地を示していれば車両20は「ウィリー走行」していると判定され、前輪接地信号PFが接地を示し後輪接地信号PRが浮上を示していれば車両20は「ジャックナイフ走行」していると判定され、前輪接地信号PF及び後輪接地信号PRが共に接地を示していれば車両20は「両輪走行」していると判定される。
【0021】
前輪推定車体速度演算手段15Fは、前輪接地信号PFが、接地を示すときは前輪速度信号ωFを適用し、浮上を示すときは後輪速度信号ωRを適用して、前輪推定車体速度VFを演算するものである。
後輪推定車体速度演算手段15Rは、後輪接地信号PRが、接地を示すときは後輪速度信号ωRを適用し、浮上を示すときは前輪速度信号ωFを適用して、後輪推定車体速度VRを演算するものである。
つまり、「ウィリー走行」していると判定されれば、第1入力手段12Fの動作に基づき前輪推定車体速度演算手段15Fには後輪速度信号ωRが入力されて前輪推定車体速度VFが演算され、第2入力手段12Rの動作に基づき後輪推定車体速度演算手段15Rにも後輪速度信号ωRが入力されて後輪推定車体速度VRが演算される。
また「ジャックナイフ走行」していると判定されれば、第1入力手段12Fの動作に基づき前輪推定車体速度演算手段15Fには前輪速度信号ωFが入力されて前輪推定車体速度VFが演算され、第2入力手段12Rの動作に基づき後輪推定車体速度演算手段15Rにも前輪速度信号ωFが入力されて後輪推定車体速度VRが演算される。
そして、「両輪走行」していると判定されれば、第1入力手段12Fの動作に基づき前輪推定車体速度演算手段15Fには前輪速度信号ωFが入力されて前輪推定車体速度VFが演算され、第2入力手段12Rの動作に基づき後輪推定車体速度演算手段15Rには後輪速度信号ωRが入力されて後輪推定車体速度VRが演算される。
【0022】
遅延手段(第1遅延手段17F,第2遅延手段17R)は、車両20が「浮上走行」から「両輪走行」に移行した場合、入力手段12F,12Rにおける前輪速度信号ωFと後輪速度信号ωRとの切り替えを所定時間Δtだけ遅延させるものである。
これは、浮上した車輪Tが着地した直後は、当該車輪Tの検出される車輪速度信号ωF,ωRは、大きく揺らいで車両20の動作制御に用いるのに不適切であるためである。よって、着地した車輪Tの車輪速度信号ωF,ωRが安定する所定時間Δtが経過するまで切り替えを行わないようにする必要があるためである。なお、この遅延時間Δtは、車種に応じて適宜設定されるものである。
【0023】
つまり第1遅延手段17Fは、前輪接地信号PFが、浮上から接地に変化した場合、前輪推定車体速度演算手段15Fの演算に適用される信号が、後輪速度信号ωRから前輪速度信号ωFに切り替わるのを所定時間Δtだけ遅延するように動作する。
そして第2遅延手段17Rは、後輪接地信号PRが、浮上から接地に変化した場合、後輪推定車体速度演算手段15Rの演算に適用される信号が、前輪速度信号ωFから後輪速度信号ωRに切り替わるのを所定時間Δtだけ遅延するように動作する。
【0024】
制御信号出力手段(前輪制御信号出力手段18F,後輪制御信号出力手段18R)は、車輪速度信号ωF,ωR及び推定車体速度VF,VRに基づいてスリップ率を演算するとともに、液圧ユニット30をABS制御動作させる制御信号(前輪制御信号JF,後輪制御信号JR)を生成し出力するものである。
【0025】
ここでABS制御とは、スリップ率を一定に保とうとする(車体速度に対する車輪速度の一定以上の落ち込みを防ごうとする)ものである。すなわち、運転者が、ブレーキレバーL1及び/又はフットブレーキペダルL2を操作すると、次式(1)で示されるスリップ率が演算され、このスリップ率が路面に対する車輪の制動力が最大を示す理想スリップ率(10%程度)を示すように制御信号JF,JRが更新され液圧ユニット30の油圧が自動調節される。このようにして車両20は、ABS制御により、制動時に車両の操舵性・安定性が維持される。
【0026】
スリップ率=(推定車体速度−車輪速度)/ 推定車体速度 ×100・・・(1)
【0027】
そして、走行中の車両20の制動時、スリップ率(前記(1)式)が大きい場合は、路面とスリップして車輪Tがロックしていることが想定される。このような場合は、車両20の操舵性・制動性が低下するので、これらの安定性を向上させるために各車輪Tが理想スリップ率になるようにブレーキパットBF,BRの押圧力が調節されるように液圧ユニット30が制御される。
【0028】
液圧ユニット30は、運転者によるブレーキレバーL1の操作量に応じ、油圧を介して押圧力を前輪ブレーキパットBFに伝達し、前輪TFの回転を制動するものである。同様に、液圧ユニット30は、フットブレーキペダルL2の操作量に応じ、油圧を介して押圧力を後輪ブレーキパットBRに伝達し、後輪TRの回転を制動するものである。
そして、液圧ユニット30は、後記する制御信号JR,JFに基づいて、ブレーキパッドBF,BRへ伝達される油圧を調節し、車両を制御するものである。
【0029】
液圧ユニット30は、図2に示すように、第1マスタシリンダM1と、第2マスタシリンダM2と、油路(出力液圧路A1,A2、車輪液圧路B1,B2、開放路C1,C2)と、これら油路上に配置される複数の入口弁31、出口弁32及びチェック弁31aと、ディレイバルブ39と、を備えている。さらに液圧ユニット30は、第1マスタシリンダM1及び第2マスタシリンダM2に、それぞれ対応するリザーバ33,33、ポンプ34,34、吸入弁35,35、吐出弁36,36、ダンパ37,37、オリフィス37a,37aが設けられ、さらに二つのポンプ34を駆動する電動モータ38が備えられている。
【0030】
第1マスタシリンダM1は、運転者が第1ブレーキ操作子L1に付与した操作力に対応したブレーキ液圧を発生するものである。
第1マスタシリンダM1は、出力液圧路A1の一端に接続し、さらに車輪液圧路B1を経由して、前輪ブレーキパットBF1のホイールシリンダに接続している。そして、第1ブレーキ操作子L1に加えた操作力が、前輪TFに制動力として伝達されるようになっている。
【0031】
入口弁31は、常開型の電磁弁で、出力液圧路A1と車輪液圧路B1との間に設けられている。この入口弁31は開状態で、第1マスタシリンダM1から前輪ブレーキパットBF1のホイールシリンダへ、ブレーキ液圧が伝達するのを許容する。
そして入口弁31は、前輪TFがロックしそうになったとき、ブレーキ制御装置10からの前輪制御信号JFにより開状態から閉塞状態に変化し、前輪ブレーキパットBF1にかかるブレーキ液圧を遮断する。
【0032】
出口弁32は、常閉型の電磁弁で、開放路C1上のリザーバ33と前輪ブレーキパットBF1のホイールシリンダとの間に設けられている。この出口弁32は、前輪TFがロックしそうになったとき、ブレーキ制御装置10からの前輪制御信号JFにより閉塞状態から開状態に変化し、前輪ブレーキパットBF1にかかるブレーキ液圧をリザーバ33に逃がす。
【0033】
チェック弁31aは、入口弁31に並列に接続され、前輪ブレーキパットBF1から第1マスタシリンダM1への方向のみブレーキ液の流入を許容する。そしてチェック弁31aは、入口弁31が閉塞状態であっても、第1ブレーキ操作子L1の操作力が解除されれば、前輪ブレーキパットBF1から第1マスタシリンダM1への方向のみブレーキ液の流動を許容する。
【0034】
ポンプ34は、吸入弁35及び吐出弁36を備え、リザーバ33に吸収されているブレーキ液を第1マスタシリンダM1側へ戻す機能を有している。なお図2では、ポンプ34、吸入弁35及び吐出弁36が別体で示されているが、これらが一体的に組み込まれていてもよい。
【0035】
吸入弁35は、リザーバ33側からポンプ34側へのブレーキ液の流入のみ許容する弁である。
吐出弁36は、ポンプ34側から第1マスタシリンダM1側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁である。ダンパ37及びオリフィス37aは、吐出弁36を介して第1マスタシリンダM1側へ吐出したブレーキ液の脈動を吸収するものである。
【0036】
次に、第2マスタシリンダM2と後輪ブレーキパットBRとの接続及び動作態様は、前記第1ブレーキ操作子L1、出力液圧路A1、車輪液圧路B1、開放路C1、前輪TF及び前輪制御信号JFを、それぞれ第2ブレーキ操作子L2、出力液圧路A2、車輪液圧路B2、開放路C2、後輪TR及び後輪制御信号JRに読み替え適用させることとして、その説明を省略する。
【0037】
ところで、第2マスタシリンダM2は、出力液圧路A2及び車輪液圧路B2を経由して、前輪ブレーキパットBF2のホイールシリンダにも接続している。そして、この前輪ブレーキパットBF2のホイールシリンダとそれに対応する入口弁31との間には、ディレイバルブ39が設けられている。
ディレイバルブ39は、その機械的構造により、第2ブレーキ操作子L2の操作によってブレーキ液に加えられた圧力を、前輪ブレーキパットBF2に付加する押圧力が後輪ブレーキパットBRより小さくなるよう、伝達する機能を有している。
【0038】
次に図1及び図3を参照して、第1実施形態に係るブレーキ制御装置の動作を説明する。
まず、車両20が走行することで、速度信号取得手段11F,11Rにより前輪速度信号ωFと後輪速度信号ωRとが取得される(ステップS11、以下「S11」のように示す)。また同時に接地信号取得手段13F,13Rにより前輪接地信号PFと後輪接地信号PRとが取得される(S13)。そして、取得されたこれらの信号ωF,ωR,PF,PRは図示しない記憶手段において一時記憶される(S14)。この記憶された車輪速度信号ωF,ωRは、後に制御信号出力手段18F,18Rにおいてスリップ率の算出で適宜利用されることとなり(S26)、記憶された車輪接地信号PF,PRは次の走行判定に利用される。
【0039】
次に、前輪接地信号PFが前輪TFの浮上を示している場合は(S15:No)、走行判定手段14において車両20は「ウィリー走行」していると判定される(S17)。このように、「ウィリー走行」と判定された場合、入力手段12F,12Rは、推定車体速度演算手段15F,15Rに、後輪速度信号ωRを入力し、これに基づき推定車体速度VF,VRが演算される(S18)。
【0040】
一方、前輪接地信号PFが前輪TFの接地を示し(S15:Yes)、後輪接地信号PRが後輪TRの浮上を示している場合は(S19:No)、走行判定手段14において車両20は「ジャックナイフ走行」していると判定される(S20)。このように、「ジャックナイフ走行」と判定された場合、入力手段12F,12Rは、推定車体速度演算手段15F,15Rに、前輪速度信号ωFを入力し、これに基づき推定車体速度VF,VRが演算される(S21)。
【0041】
一方、前輪接地信号PFが前輪TFの接地を示し(S15:Yes)、後輪接地信号PRも後輪TRの接地を示している場合は(S19:Yes)、走行判定手段14において車両20は「両輪走行」していると判定される(S22)。このように、「両輪走行」と判定された場合、遅延手段17F,17Rにおいて、前回ジャックナイフ判定された時点又は前回ウィリー判定された時点から遅延時間Δtが経過しているか否かについて判断される(S23,S24)。そして、遅延時間Δtが経過前であれば(S23,S24:No)、着地した車輪の車輪速度信号ωF,ωRが不安定であるとして、入力手段12F,12Rは、入力する車輪速度信号ωF,ωRの切り替えを実行せず推定車体速度演算手段15F,15Rで推定車体速度VF,VRを演算させる(S18,S21)。
【0042】
一方、遅延時間Δtの経過後であれば(S23,S24:Yes)、入力手段12Fは推定車体速度演算手段15Fに前輪速度信号ωFを入力しこれに基づき推定車体速度VFを演算し、入力手段12Rは推定車体速度演算手段15Rに後輪速度信号ωRを入力しこれに基づき推定車体速度VRを演算する(S25)。
【0043】
次に、制御信号出力手段18F,18Rにおいて、推定車体速度演算手段15F,15Rで演算された推定車体速度VF,VRと、図示しない記憶手段に記憶されている車輪速度信号ωF,ωRとに基づいてスリップ率SF,SR(式(1)参照)を演算する(S26)。そして、このスリップ率SF,SRに基づいて車輪制御信号JF,JRを生成し、液圧ユニット30に出力する(S27)。これにより、車両20の操縦性・安定性が向上する。
【0044】
(第2実施形態)
次に、図4,図5を参照して、本発明の第2実施形態に係るブレーキ制御装置10´について説明する。
図4にブロック図が示されるように第2実施形態に係るブレーキ制御装置10´の特徴は、走行判定手段14の判定結果に基づいて入力信号の切り替えを行う入力手段12f,12rの設置位置が、制御信号出力手段18f,18rと推定車体速度演算手段15f,15rとの間に設けられている点にある(第1実施形態では速度信号取得手段11F,11Rと推定車体速度演算手段15F,15Rとの間に設けられている)。
よって、第2実施形態に係るブレーキ制御装置10´の構成要素のうち共通する部分については、同一符号を付して第1実施形態(図1)においてした説明を援用し記載を省略することにする。
【0045】
前輪推定車体速度演算手段15fは、前輪速度信号ωFに基づいて前輪推定車体速度VFを演算するものである。
後輪推定車体速度演算手段15rは、後輪速度信号ωRに基づいて後輪推定車体速度VRを演算するものである。
前輪制御信号出力手段18fは、第1入力手段12fの動作に基づいて、前輪接地信号PFが接地を示すときは前輪推定車体速度VFを適用し、浮上を示すときは後輪推定車体速度VRを適用して、前輪TFを制御する前輪制御信号JFを出力するものである。
後輪制御信号出力手段18rは、第2入力手段12rの動作に基づいて、後輪接地信号PRが接地を示すときは後輪推定車体速度VRを適用し、浮上を示すときは前輪推定車体速度VFを適用して、後輪TRを制御する後輪制御信号JRを出力するものである。
【0046】
次に図4及び図5を参照して、第2実施形態に係るブレーキ制御装置の動作を説明する。ここで、第2実施形態(図5参照)のS53〜S55、S57、S59〜S60、S62〜S64の動作フローの説明は、それぞれ第1実施形態(図3参照)のS13〜S15、S17、S19〜S20、S22〜S24の動作フローに対応するので、これらの説明を援用して記載を省略する。第2実施形態では、前輪速度信号ωFに基づき前輪推定車体速度VFが演算され、後輪速度信号ωRに基づき後輪推定車体速度VRが演算される(S51,S52)。
【0047】
そして、ウィリー走行判定された場合は(S57)、後輪推定車体速度VRと前輪速度信号ωFとに基づき前輪スリップ率SFが演算され、後輪推定車体速度VRと後輪速度信号ωRとに基づき後輪スリップ率SRが演算される(S58)。
また、ジャックナイフ走行判定された場合は(S60)、前輪推定車体速度VFと前輪速度信号ωFとに基づき前輪スリップ率SFが演算され、前輪推定車体速度VFと後輪速度信号ωRとに基づき後輪スリップ率SRが演算される(S61)。
さらに、両輪走行判定された場合は(S62)、遅延手段17F,17Rにおいて設定された遅延時間Δtの経過後(S63,S64)、前輪推定車体速度VFと前輪速度信号ωFとに基づき前輪スリップ率SFが演算され、後輪推定車体速度VRと後輪速度信号ωRとに基づき後輪スリップ率SRが演算される(S65)。
そして、このようにして求められた前輪スリップ率SFに基づいて前輪制御信号JFが生成され液圧ユニット30に出力され、後輪スリップ率SRに基づいて後輪制御信号JRが生成され液圧ユニット30に出力される(S67)。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
すなわち実施形態において二輪車を例示して説明したが、適宜三輪以上の車両にも適用することができる。
【0049】
以上、本発明に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置により次のような効果が発揮される。すなわち、「浮上」と判断された側の車輪速度はスリップ率の算出に影響を与えないため、スリップ率を精度よく算出することが可能となり、車両の操縦性・安定性を向上させるためのブレーキ制御装置の動作が最適化される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置が接続される液圧ユニットの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置の実行ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置の実行ルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
10 ブレーキ制御装置(バーハンドル車両用ブレーキ制御装置)
11F 前輪速度信号取得手段(速度信号取得手段)
11R 後輪速度信号取得手段(速度信号取得手段)
13F 前輪接地信号取得手段(接地信号取得手段)
13R 後輪接地信号取得手段(接地信号取得手段)
14 走行判定手段
15F,15f 前輪推定車体速度演算手段(推定車体速度演算手段)
15R,15r 後輪推定車体速度演算手段(推定車体速度演算手段)
17F 第1遅延手段(遅延手段)
17R 第2遅延手段(遅延手段)
18F,18f 前輪制御信号出力手段(制御信号出力手段)
18R,18r 後輪制御信号出力手段(制御信号出力手段)
20 車両
30 液圧ユニット
PF 前輪接地信号(車輪接地信号)
PR 後輪接地信号(車輪接地信号)
TF(T) 前輪(車輪)
TR(T) 後輪(車輪)
VF 前輪推定車体速度(推定車体速度)
VR 後輪推定車体速度(推定車体速度)
ωF 前輪速度信号(車輪速度信号)
ωR 後輪速度信号(車輪速度信号)
JF 前輪制御信号(車輪制御信号)
JR 後輪制御信号(車輪制御信号)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪及び後輪の車輪速度に基づき前記車両を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置であって、
前輪の前記車輪速度を示す前輪速度信号を取得する前輪速度信号取得手段と、
後輪の前記車輪速度を示す後輪速度信号を取得する後輪速度信号取得手段と、
前輪の接地/浮上を示す前輪接地信号を取得する前輪接地信号取得手段と、
後輪の接地/浮上を示す後輪接地信号を取得する後輪接地信号取得手段と、
前記前輪接地信号が、接地を示すときは前記前輪速度信号を適用し、浮上を示すときは前記後輪速度信号を適用して、前輪推定車体速度を演算する前輪推定車体速度演算手段と、
前記後輪接地信号が、接地を示すときは前記後輪速度信号を適用し、浮上を示すときは前記前輪速度信号を適用して、後輪推定車体速度を演算する後輪推定車体速度演算手段と、
前記前輪推定車体速度及び前記前輪速度信号に基づき前輪を制御する前輪制御信号を出力する前輪制御信号出力手段と、
前記後輪推定車体速度及び前記後輪速度信号に基づき後輪を制御する後輪制御信号を出力する後輪制御信号出力手段と、を備えることを特徴とするバーハンドル車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記前輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記前輪推定車体速度演算手段の演算に適用される信号が、前記後輪速度信号から前記前輪速度信号に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第1遅延手段と、
前記後輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記後輪推定車体速度演算手段の演算に適用される信号が、前記前輪速度信号から前記後輪速度信号に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第2遅延手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のバーハンドル車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
車両の前輪及び後輪の車輪速度に基づき前記車両を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置であって、
前輪の前記車輪速度を示す前輪速度信号を取得する前輪速度信号取得手段と、
後輪の前記車輪速度を示す後輪速度信号を取得する後輪速度信号取得手段と、
前輪の接地/浮上を示す前輪接地信号を取得する前輪接地信号取得手段と、
後輪の接地/浮上を示す後輪接地信号を取得する後輪接地信号取得手段と、
前記前輪速度信号に基づいて前輪推定車体速度を演算する前輪推定車体速度演算手段と、
前記後輪速度信号に基づいて後輪推定車体速度を演算する後輪推定車体速度演算手段と、
前記前輪接地信号が、接地を示すときは前記前輪推定車体速度を適用し、浮上を示すときは前記後輪推定車体速度を適用して、前輪を制御する前輪制御信号を出力する前輪制御信号出力手段と、
前記後輪接地信号が、接地を示すときは前記後輪推定車体速度を適用し、浮上を示すときは前記前輪推定車体速度を適用して、後輪を制御する後輪制御信号を出力する後輪制御信号出力手段と、を備えることを特徴とするバーハンドル車両用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記前輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記前輪制御信号出力手段に適用される信号が、前記後輪推定車体速度から前記前輪推定車体速度に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第1遅延手段と、
前記後輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記後輪制御信号出力手段に適用される信号が、前記前輪推定車体速度から前記後輪推定車体速度に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第2遅延手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のバーハンドル車両用ブレーキ制御装置。
【請求項1】
車両の前輪及び後輪の車輪速度に基づき前記車両を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置であって、
前輪の前記車輪速度を示す前輪速度信号を取得する前輪速度信号取得手段と、
後輪の前記車輪速度を示す後輪速度信号を取得する後輪速度信号取得手段と、
前輪の接地/浮上を示す前輪接地信号を取得する前輪接地信号取得手段と、
後輪の接地/浮上を示す後輪接地信号を取得する後輪接地信号取得手段と、
前記前輪接地信号が、接地を示すときは前記前輪速度信号を適用し、浮上を示すときは前記後輪速度信号を適用して、前輪推定車体速度を演算する前輪推定車体速度演算手段と、
前記後輪接地信号が、接地を示すときは前記後輪速度信号を適用し、浮上を示すときは前記前輪速度信号を適用して、後輪推定車体速度を演算する後輪推定車体速度演算手段と、
前記前輪推定車体速度及び前記前輪速度信号に基づき前輪を制御する前輪制御信号を出力する前輪制御信号出力手段と、
前記後輪推定車体速度及び前記後輪速度信号に基づき後輪を制御する後輪制御信号を出力する後輪制御信号出力手段と、を備えることを特徴とするバーハンドル車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記前輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記前輪推定車体速度演算手段の演算に適用される信号が、前記後輪速度信号から前記前輪速度信号に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第1遅延手段と、
前記後輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記後輪推定車体速度演算手段の演算に適用される信号が、前記前輪速度信号から前記後輪速度信号に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第2遅延手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のバーハンドル車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
車両の前輪及び後輪の車輪速度に基づき前記車両を制御するバーハンドル車両用ブレーキ制御装置であって、
前輪の前記車輪速度を示す前輪速度信号を取得する前輪速度信号取得手段と、
後輪の前記車輪速度を示す後輪速度信号を取得する後輪速度信号取得手段と、
前輪の接地/浮上を示す前輪接地信号を取得する前輪接地信号取得手段と、
後輪の接地/浮上を示す後輪接地信号を取得する後輪接地信号取得手段と、
前記前輪速度信号に基づいて前輪推定車体速度を演算する前輪推定車体速度演算手段と、
前記後輪速度信号に基づいて後輪推定車体速度を演算する後輪推定車体速度演算手段と、
前記前輪接地信号が、接地を示すときは前記前輪推定車体速度を適用し、浮上を示すときは前記後輪推定車体速度を適用して、前輪を制御する前輪制御信号を出力する前輪制御信号出力手段と、
前記後輪接地信号が、接地を示すときは前記後輪推定車体速度を適用し、浮上を示すときは前記前輪推定車体速度を適用して、後輪を制御する後輪制御信号を出力する後輪制御信号出力手段と、を備えることを特徴とするバーハンドル車両用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記前輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記前輪制御信号出力手段に適用される信号が、前記後輪推定車体速度から前記前輪推定車体速度に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第1遅延手段と、
前記後輪接地信号が、浮上から接地に変化した場合、前記後輪制御信号出力手段に適用される信号が、前記前輪推定車体速度から前記後輪推定車体速度に切り替わるのを所定時間だけ遅延させる第2遅延手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のバーハンドル車両用ブレーキ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2008−37148(P2008−37148A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210523(P2006−210523)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
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