説明

パイプ用ポリマー組成物

【課題】少なくとも9.0MPaの設計応力を有すると共に、加工性、衝撃強さ、弾性率、急激な亀裂伝播、遅い亀裂成長に対する耐性にも優れたポリマーパイプを提供する。
【解決手段】遅い亀裂成長に対する耐性のあるカーボンブラックを1〜8重量%と、92〜99重量%のバイモーダルエチレンポリマーとからなる、0.15〜0.40g/10分の範囲のMFRおよび955〜965kg/m3の範囲の密度を有する特定のポリエチレン組成物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプ用のマルチモーダル(multimodal)ポリマー組成物およびそれから製造されるパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、ポリマー材料のパイプは、種々の用途、例えば流体輸送、すなわち、その際に流体が加圧され得る液体または気体(例えば、水または天然ガス)の輸送などのためにしばしば使用される。さらに、輸送される流体は、様々な温度を有する可能性があり、通常は約0℃〜約50℃の温度範囲内である。そのような耐圧パイプは、好ましくは、ポリオレフィンプラスチック、通常はユニモーダルエチレンプラスチック、例えば中密度ポリエチレン(MDPE;密度:0.930〜0.942g/cm3)および高密度ポリエチレン(HDPE;密度:0.942〜0.965g/cm3)で作られる。本明細書において、表現「耐圧パイプ」とは、使用されるとき、正圧に付されるパイプ、すなわちパイプの内側の圧力がパイプの外側の圧力より高いところのパイプを意味する。
【0003】
ポリマーパイプは一般に、押出成形、またはより小頻度で射出成形によって製造される。ポリマーパイプの押出のための通常のプラントは、押出機、ダイヘッド、較正デバイス、冷却装置、引抜きデバイスおよびパイプを切断しまたは巻くためのデバイスを含む。
【0004】
耐圧パイプで使用されるPE材料の製造はScheirsらの論文の中で論じられている(Scheirs,Boehm,Boot,and Leevers;PE100 Resins for Pipe Applications, TRIP Vol.4,No.12(1996)pp408−415)。著者らは製造技術およびPE100パイプ材料の性質について論じている。彼らは、遅い亀裂成長および急激な亀裂伝播を最適化するための、適切なコモノマー分布と分子量分布の重要性を指摘している。
【0005】
欧州公開EP739937は、特定された応力亀裂耐性、衝撃強さおよび剛性(stiffness)を有するバイモーダルPE樹脂で作られているパイプを開示し、該材料は好ましくは0.35g/10分より高くはないMFR5を有することを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のポリマーパイプの特性は、多くの目的に十分であるが、高い圧力耐性を必要とする用途、例えば長時間および/または短時間にわたって内部流体圧に付されるパイプにおいては、高められた特性が所望され得る。改善することが望ましい特性の例としては、パイプの加工性、衝撃強さ、弾性率、急激な亀裂伝播に対する耐性、遅い亀裂成長に対する耐性および設計応力等級が挙げられる。
【0007】
PE100材料を使用することにより、8.0MPaの設計応力に到達することは現在可能である。9.0MPa(PE112)あるいは10.0(PE125)の設計応力にさえ適切な、もっと強いPE材料が所望されるだろう。
【0008】
問題は、より高い設計応力を達成するためにバイモーダルポリエチレンの密度を増大させると、遅い亀裂成長性が失われてしまうことであった。しかし過剰量のゲルなしで、かつ、RCPレベルは保持されたまま、押出性とともに、(より高い応力においてさえ)非常に良好な遅い亀裂成長性を有する材料を製造することが今や、可能になった。
【0009】
パイプが特定のバイモーダルエチレンポリマー92〜99重量%、およびカーボンブラック1〜8重量%を含む組成物を含むとき、9.0MPa(PE112)の設計応力または10.0MPa(PE125)の設計応力にさえ到達することが可能であることが、今、発見された。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、少なくとも9.0MPa(PE112)の設計応力を有するパイプの製造のためのポリマー組成物は92〜99重量%のバイモーダルエチレンポリマーおよび1〜8重量%のカーボンブラックを含み、前記組成物は0.15〜0.40g/10分の範囲のMFR5および955〜965kg/m3の範囲の密度を有すること、ここで前記ポリマーは、350〜1500g/10分の範囲のMFR2を有する低分子量エチレンホモポリマー42〜55重量%、および1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンおよび/または1−デセンとエチレンの高分子量コポリマー58〜45重量%からなることを特徴とする。
【0011】
有利には、該組成物は少なくとも10.0MPa(PE125)の設計応力を有する。
【0012】
カーボンブラックは、他の成分、好適にはエチレンポリマーとの混合物中に20〜60、一般的には30〜50、好ましくは35〜45重量%のカーボンブラックを含む「マスターバッチ」の形で該組成物に導入されてもよい。
【0013】
好ましい実施態様においては、該組成物は、カーボンブラックと混合する前のポリマーの密度が、少なくとも953kg/m3であり、カーボンブラックを含む該組成物におけるFRR21/5値が少なくとも38であるものである。
【0014】
本発明はさらに、前述の組成物から製造されるパイプを含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の組成物は、特定のバイモーダルポリエチレンから製造される。これは、通常はユニモーダルポリエチレンまたは特定される分子量分布を持たないバイモーダルポリエチレン、および本発明のポリエチレンの組成から作られる従来のポリエチレンパイプと対照的である。
【0016】
ポリマーの「モーダリティー(modality)」とは、その分子量分布曲線の形状、すなわちその分子量の関数としてのポリマー重量画分のグラフの外観を意味する。ポリマーが、直列に結合した反応器を使用しかつ各反応器で異なる条件を使用して、逐次工程プロセスで製造されるならば、異なる反応器で製造された異なる画分は各々、それ自体の分子量分布を有するであろう。これらの画分の分子量分布曲線が重ね合わされて、得られるポリマー生成物全体の分子量分布曲線にされると、その曲線は、2以上の極大を示し、または、個々の画分の曲線と比較して少なくともはっきりと広がっているであろう。2以上の連続した工程で製造されたそのようなポリマー生成物は、工程数に応じてバイモーダルまたはマルチモーダルと呼ばれる。以下において、2以上の逐次工程でこのようにして製造された全てのポリマーを、「マルチモーダル」と言う。なお、異なる画分の化学組成も異なり得ることをここに記しておく。すなわち、1以上の画分は、エチレンコポリマーから成り得るが、一方、1以上の他の画分はエチレンホモポリマーから成り得る。
【0017】
種々のポリマー画分およびマルチモーダルポリエチレンにおけるそれらの割合を適切に選択することにより、加工性、良好な遅い亀裂成長に対する耐性、急激な亀裂伝播に対する耐性および高い応力等級を有するパイプを得ることができる。
【0018】
本発明の耐圧パイプ組成物は、マルチモーダルポリエチレン、好ましくはバイモーダルポリエチレンである。マルチモーダルポリエチレンは、低分子量(LMW)エチレンホモポリマー画分および高分子量(HMW)エチレンコポリマー画分を含む。マルチモーダルポリエチレンがバイモーダルであるかまたはより高次のモーダリティーを有するかに応じて、LMWおよびHMW画分は、各々一つのみの画分を含むか、またはサブ画分を含む、すなわちLMWは2以上のLMWサブ画分を含むことができ、同様にHMW画分は2以上のHMWサブ画分を含み得る。LMW画分がエチレンホモポリマーであること、およびHMW画分がエチレンコポリマーであること、すなわちコモノマーを含むのはHMW画分のみであることが本発明の特徴である。定義の問題として、本明細書で使用される表現「エチレンホモポリマー」は、実質的に、すなわち少なくとも97重量%、好ましくは少なくとも99重量%、より好ましくは少なくとも99.5重量%、最も好ましくは少なくとも99.8重量%のエチレンから成るエチレンポリマーに関し、従って、好ましくはエチレンモノマー単位のみを含むHDエチレンポリマーである。好ましくは、HMW画分の分子量範囲の下限は3500であり、より好ましくは4000である。これは、本発明のマルチモーダルポリエチレンパイプ組成物におけるほとんど全てのエチレンコポリマー分子が少なくとも3500、好ましくは少なくとも4000の分子量を有することを意味する。この好ましいHMW画分の下限が、高強度を有する耐圧パイプを与える。
【0019】
本発明では、LMWおよびHMW画分の割合(画分間の「スプリット」としても知られる)が適切に選択されることがまた重要である。特に、LMW画分対HMW画分の重量比は、好ましくは(42〜52):(58〜48)、より好ましくは(44〜50):(56〜50)の範囲にある。HMW画分の割合が大きくなりすぎると、低すぎる強度値を生じ、該割合が低すぎると、ゲルの許容され得ない生成を生じる。
【0020】
本発明のパイプは、80℃、4.6MPaのフープ応力で少なくとも1000時間、好ましくは少なくとも1200時間、特に1400時間、および80℃、4.9MPaのフープ応力で少なくとも800時間、好ましくは少なくとも900時間、特に少なくとも1000時間の遅い亀裂伝播に対する耐性を有する。加えて、それから該パイプが製造されるところの該組成物は、少なくとも10kJ/m2、好ましくは少なくとも12kJ/m2、特に少なくとも15kJ/m2の0℃におけるシャルピー衝撃強度を有する。さらに、該パイプの臨界温度は−7℃より高くなく、好ましくは−9℃より高くなく、特に−10℃より高くない。
【0021】
該パイプは、好ましくは97.0〜98.5重量%のバイモーダルエチレンポリマーおよび1.5〜3.0重量%のカーボンブラックを含む組成物から作られる。該組成物は、好ましくは約0.20〜0.35g/10分のMFR5および約958〜963kg/m3の密度を有する。
【0022】
好ましくは、該バイモーダルエチレンポリマーは多段階プロセスで製造される。特にループ反応器とガス相反応器のカスケードを含むプロセスが好まれ、国際公開99/51646に開示されているように、重合はチーグラー−ナッタ型触媒の存在下で起きる。
【0023】
メルトフローレート(MFR)は、以前使用された「メルトインデックス」と同じであり、本発明に係るパイプ用マルチモーダルポリエチレンの重要な特性である。MFRは、ISO1133に従って決定され、g/10分単位で示される。MFRは、ポリマーの流動性、従って加工性の指標である。メルトフローレートが高いほど、ポリマーの粘度は低い。MFRは、2.1kg(MFR2.1;ISO1133、条件D)または5kg(MFR5;ISO1133、条件T)などの種々の負荷で測定される。本発明では、マルチモーダルポリエチレンは0.1〜1.0g/10分、好ましくは0.15〜0.8g/10分のMFR5を有するべきである。
【0024】
FRR(フローレート比)の量は分子量分布の指標であり、異なる負荷におけるフローレートの比を表す。従ってFRR21/5は、MFR21/MFR5の値を表す。
【0025】
本発明の組成物の別の特徴は、その密度である。強度の理由のために、密度は、中〜高密度範囲、特に、0.955〜0.965g/cm3の範囲にある。中密度マルチモーダルポリエチレンの耐圧パイプは、高密度マルチモーダルポリエチレンの耐圧パイプよりも幾分可撓性が大きく、従って、より容易にロール状に巻くことができる。他方、高密度マルチモーダルポリエチレンを使用すると、中密度マルチモーダルポリエチレンの使用よりも高い設計応力等級の耐圧パイプを得ることができる。
【0026】
なお、本発明の組成物は、上記で定義した特徴のいずれかの1つではなく、それらの特徴の組み合わせを特徴とすることをここに記しておく。特徴のこの独特の組み合わせによって、優れた性能、特に設計応力、加工性、急激な亀裂伝播(RCP)に対する耐性、設計応力等級、衝撃強さおよび遅い亀裂伝播に対する耐性に関して優れた性能の耐圧パイプを得ることができる。
【0027】
パイプ(またはむしろそのポリマー)の加工性は、パイプの所定のアウトプット(kg/時)のための押出機の1分間当りのスクリュー回転数(rpm)によって決定され得るが、その時、パイプの表面外観も重要である。
【0028】
パイプの急激な亀裂伝播(RCP)に対する耐性は、S4試験(Small Scale Steady State)と呼ばれる方法に従って測定されてもよく、該方法は、Imperial College(ロンドン)で開発され、ISO13477:1977(E)に記載されている。RCP−S4試験に従って、7パイプ直径より小さい軸長さを有するパイプが試験される。パイプの外径は約110mm以上であり、その壁厚は約10mm以上である。本発明に関連してパイプのRCP特性を測定するとき、外径および壁圧は各々、110mmおよび10mmであるように選択された。パイプの外部は環境圧(大気圧)にあるが、パイプは内部で加圧され、パイプの内部圧は、0.5MPa正圧の圧力で一定に保持される。パイプおよびそれを取り囲む装置は、サーモスタットで所定の温度に調節される。試験中の減圧を防ぐために、パイプの内側でシャフト上に多数のディスクが取り付けられた。急激に走る軸方向の亀裂を開始するために、ナイフ発射体が、きちんと決められた仕方で、いわゆる開始ゾーンにあるパイプの一端付近に向けて発射される。開始ゾーンには、パイプの不必要な変形を回避するための迫持台(abutment)が備えられている。試験装置は、亀裂の開始が、問題の材料において生じ、かつ多くの試験が種々の温度で行われるように調整される。全長4.5直径を有する測定ゾーンにおける軸方向の亀裂長さが各試験ごとに測定され、設定された試験温度に対してプロットされる。亀裂長さが4直径を超えるならば、亀裂は、伝播したと評価される。パイプが所与の温度で試験に合格したならば、パイプがもはや試験に合格しないで、亀裂の伝播がパイプの直径の4倍を超えるところの温度に到達するまで、温度を順次下げる。臨界温度(Tcrit)、すなわち、ISO 13477:1997(E)に従って測定される延性脆性遷移温度は、パイプが試験に合格する最も低い温度である。臨界温度が低いほど、良好である。なぜならば、パイプの用途の拡大を生じるからである。臨界温度が約−5℃以下であるのが望ましい。本発明に係るマルチモーダルポリマー組成物で作られる耐圧パイプは好ましくは、−1℃(MD PE80パイプの最低要件)以下、より好ましくは−4℃(HD PE80パイプの最低要件)以下、最も好ましくは−7℃(HD PE100パイプの最低要件)以下のRCP−S4値を有する。
【0029】
設計応力等級は、欠陥を生じることなく50年間耐えるようにパイプが設計されるところの周方向応力であり、ISO/TR9080に従う最小要求強度(MRS)の項目で種々の温度に関して測定される。すなわち、MRS8.0は、パイプが、20℃で50年間、8.0MPaゲージのフープ応力に耐えるパイプであることを意味し、同様に、MRS10.0は、パイプが、20℃で50年間、10MPaゲージのフープ応力に耐えることを意味する。同様に、MRS11.2は、パイプが、20℃で50年間、11.2MPaゲージのフープ応力に耐えることを意味し、MRS12.5は、パイプが、20℃で50年間、12.5MPaゲージのフープ応力に耐えることを意味する。本発明に係る耐圧パイプは、少なくともMRS11.2のMRS等級を有する。
【0030】
衝撃強さは、ISO179に従うシャルピー衝撃強さとして測定される。本発明に係るポリマー組成物で作られる耐圧パイプは好ましくは、0℃で少なくとも10kJ/m2、より好ましくは少なくとも12kJ/m2、最も有利には少なくとも15kJ/m2の耐衝撃性を有する。
【0031】
遅い亀裂伝播に対する耐性は、ISO13479:1997に従って、パイプが欠陥を生じるまでにある温度である圧力に耐える時間数によって測定される。本発明に係るポリマー組成物で作られた耐圧パイプは、4.6MPaフープ応力、80℃で少なくとも1000時間、好ましくは少なくとも1200時間、特に1400時間、および、4.9MPaフープ応力、80℃では少なくとも800時間、好ましくは少なくとも900時間、特に少なくとも1000時間の遅い亀裂伝播に対する耐性を有する。
【0032】
弾性率は、ISO527−2(試験片1Bを用いる)に従って測定される。本発明に係るポリマー組成物で作られた耐圧パイプは好ましくは、少なくとも800MPa、より好ましくは少なくとも950MPa、最も好ましくは少なくとも1100MPaの弾性率を有する。
【0033】
本発明のマルチモーダルポリマー組成物で作られる耐圧パイプは、常法、好ましくは、当業者には周知の技術である、押出機での押出によって製造される。
【0034】
マルチモーダル、特にバイモーダルのオレフィンポリマー、例えばマルチモーダルポリエチレンを、直列に連結した2以上の反応器で製造することは、例えば欧州特許出願公開517868から従来公知であり、これは、マルチモーダルポリマーの製造に関して引用することにより本明細書に含められる。
【0035】
本発明で使用されるポリマーの製造において、主要な重合工程は好ましくは、スラリー重合/気相重合の組み合わせとして行われる。スラリー重合は好ましくは、いわゆるループ反応器において行われる。攪拌槽反応器中でのスラリー重合の使用は、本発明では好ましくない。なぜならば、そのような方法は、本発明組成物の製造のために十分柔軟性があるとは言えず、溶解性の問題を伴うからである。改善された特性の本発明組成物を製造するために、柔軟な方法が要求される。この理由のために、組成物が、ループ反応器/気相反応器の組み合わせにおいて、2つの主要な重合工程で製造されることが好ましい。所望により、および有利には、主要な重合工程の前に前重合を行うことができ、該前重合では、ポリマーの全量の20重量%まで、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%が製造される。プレポリマーは好ましくは、エチレンホモポリマー(HDPE)である。前重合では、触媒の全てが好ましくはループ反応器に充填され、前重合がスラリー重合として行われる。そのような前重合の結果、あまり細かくない粒子が、続く反応器で製造され、より均一な生成物が最後に得られる。一般に、この技術は、いくつかの連続する重合反応器においてチーグラー−ナッタ触媒またはメタロセン触媒による重合によってマルチモーダルポリマー混合物を生じる。クロム触媒は好ましくない。バイモーダルポリエチレンの製造では、第一のエチレンポリマーが、水素ガス濃度、温度、圧力などに関して適切な条件下で、第一の反応器において製造される。第一反応器での重合の後、触媒を含むポリマーが反応混合物から分離され、第二反応器へ供給され、ここで更なる重合が適切な条件下で起きる。通常、高いメルトフローレート(低分子量、LMW)の第一ポリマーがコモノマーの添加を伴わないで第一反応器で製造され、一方、低いメルトフローレート(高分子量、HMW)の第二ポリマーがコモノマーの添加を伴って第二反応器で製造される。HMW画分のコモノマーとして、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンおよび1−デセンから選択される種々のα−オレフィンが使用される。コモノマーの量は好ましくは、それがバイモーダルポリエチレンの0.1〜2.0モル%、より好ましくは0.1〜1.0モル%を含むような量である。得られる最終生成物は、2つの反応器からのポリマーの緊密な混合物から成り、これらのポリマーの異なる分子量分布曲線が一緒になって、一つのブロードな最大または2つの極大を有する分子量分布曲線を形成する。すなわち、最終生成物はバイモーダルポリマー混合物である。
【0036】
また、このバイモーダルポリマー混合物は、直列に連結した2以上の重合反応器において種々の重合条件下で上記した重合によって製造されるのが好ましい。こうして得られる反応条件に関する柔軟性故に、重合は、ループ反応器/気相反応器中で行われるのが最も好ましい。好ましくは、好ましい2工程法における重合条件が、コモノマー含量を有しない比較的低分子量のポリマーが、鎖移動剤(水素ガス)の高含量故に、一つの工程、好ましくは第一工程で製造され、一方、前記のコモノマー含量を有する高分子量ポリマーが別の工程、好ましくは第二工程で製造されるように選択される。しかし、これらの工程の順序は逆であってもよい。
【0037】
ループ反応器および続く気相反応器における重合の好ましい実施態様では、ループ反応器中の重合温度は好ましくは92〜98℃であり、より好ましくは約95℃であり、気相反応器中の温度は、好ましくは75〜90℃、より好ましくは82〜87℃である。
【0038】
鎖移動剤、好ましくは水素が、必要に応じて反応器に添加され、LMW画分がこの反応器で製造されているときは、好ましくは、エチレン1キロモルにつき200〜800モルのH2が該反応器に添加され、気相反応器がHMW画分を製造しているときは、エチレン1キロモルにつき0〜50モルのH2が該反応器に添加される。
【0039】
先に述べたように、重合触媒は好ましくは、チーグラー−ナッタ型触媒である。特に好ましくは、高い総活性および広範囲の水素分圧にわたる良好な活性バランスを有する触媒が好ましい。さらに、該触媒によって製造されるポリマーの分子量が非常に重要である。好ましい触媒の例として、国際公開99/51646で開示されている触媒を挙げることができる。驚いたことに、この触媒を多工程プロセスで使用すると、上述された性質を有するポリマーを得ることができることが見出された。この触媒は、触媒(プロ触媒および助触媒)が第一重合反応器に添加されるだけでよいという利点を有し、実際、第一重合反応器に添加されるべきだけである。
【0040】
本発明を、特定のポリエチレンを参照して上記で説明したが、このポリエチレンは、従来技術において公知であり慣例であるように、フィラーなどの種々の添加剤を含み得ると理解されるべきである。
【0041】
いくつかの添加剤はポリマーの性質に重大な効果を有し得る。その結果、カーボンブラック含有ポリマーの密度は典型的に反応器生成物の密度よりかなり高い。
【0042】
さらに本発明に係るポリエチレン組成物から製造されるパイプは単層パイプであってもよく、あるいは他のパイプ材料の更なる層を含む多層パイプの一部を形成してもよい。
【実施例】
【0043】
本発明の理解をさらに容易にするために、好ましい実施態様の非限定的実施例によって本発明を以下に説明する。実施例において特定されるすべての部は、別なように明確に示されない限り重量による。
【0044】
実施例1(触媒の調製)
錯体調製
2−エチル−1−ヘキサノール8.6g(66.4ミリモル)がブチルオクチルマグネシウムの19.9重量%溶液27.8g(33.2ミリモル)にゆっくり添加された。反応温度は35℃に保たれた。この錯体が触媒調製において使用された。2−エチル−1−ヘキサノール対ブチルオクチルマグネシウムのモル比は2:1であった。
【0045】
触媒調製
20%の二塩化エチルアルミニウム3.7g(1.0ミリモル/g担体)がシロポール(Sylopol)5510シリカ/MgCl2担体5.9gに添加され、混合物は30℃で1時間撹拌された。「錯体調製」に従って調製された錯体5.7g(0.9ミリモル/g担体)が添加され、混合物は35〜45℃で4時間撹拌された。TiCl40.6g(0.55ミリモル/g担体)が添加され、混合物は35〜45℃で4時間撹拌された。触媒は45〜80℃で3時間乾燥された。得られた触媒の組成はAl1.8%、Mg3.9%、Cl18.5%であった。
【0046】
実施例2
50dm3のループ反応器に、実施例1で調製された触媒7.0g/時、エチレン2kg/時、プロパン20kg/時、および水素1g/時が添加された。運転温度は80℃であり、運転圧力は65バールであった。
【0047】
スラリーは反応器から取り出され、500dm3のループ反応器に導入された。反応器は95℃、61バールの圧力で運転された。ポリマー生産速度が31kg/時であり、かつポリマーのMFR2が990g/10分になるように、追加のエチレン、プロパン希釈剤および水素が反応器に継続的に導入された。コモノマーは、ループ反応器に供給されなかった。
【0048】
スラリーは連続的に反応器から抜き出されてフラッシュステージへとおくられ、そこで炭化水素はポリマーから除去された。ポリマーは次に気相反応器に供給され、そこで重合が続けられた。反応器は20バールの圧力で85℃の温度で運転された。エチレン、水素、および1−ヘキセンが反応器に供給されて、ポリマー生産速度が38kg/時、ポリマーのMFR5が0.27g/10分、密度が0.953kg/dm3になるような条件を達成した。
【0049】
ポリマーは次に39.5%のカーボンブラックを含むカーボンブラックマスターバッチ5.7%と混合された。混合された材料のMFR5は0.29g/10分であり、密度は0.962kg/dm3であった。
【0050】
混合された材料は次に、約110mmの外径と約10mmの壁厚を有するパイプへと押出された。
【0051】
実施例3および4
実施例1のポリマー合成と類似のポリマー合成が、少し異なる条件下で実施された。
【0052】
実施例2〜4の重合条件、およびその生成物から製造されたパイプの性質を表1および2にそれぞれまとめた。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも9.0MPaの設計応力(PE112)を有し、92〜99重量%のバイモーダルエチレンポリマーおよび1〜8重量%のカーボンブラックを含むパイプの製造用のポリマー組成物であって、該組成物が0.15〜0.40g/10分の範囲のMFR5および955〜965kg/m3の範囲の密度を有し、該ポリマーが350〜1500g/10分の範囲のMFR2を有する低分子量エチレンホモポリマー42〜55重量%およびエチレンと1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、および/または1−デセンとの高分子量コポリマー58〜45重量%からなることを特徴とするポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリマーが42〜52重量%の前記ホモポリマーおよび58〜48重量%の前記コポリマーからなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリマーが45〜50重量%の前記ホモポリマーおよび55〜50重量%の前記コポリマーからなる、請求項1または2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
前記MFR5の範囲が0.15〜0.30g/10分である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記カーボンブラックが、20〜60重量%のマスターバッチを含み、マスターバッチはさらにそのための担体を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ホモポリマーが、少なくとも97重量%までのエチレンモノマー単位から構成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記コポリマーが少なくとも3500の分子量を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも10kJ/m2の0℃におけるシャルピー衝撃強さを有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ポリマー97.0〜98.5重量%およびカーボンブラック1.5〜3%を含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
958〜963kg/m3の密度を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記バイモーダルポリマーが0.1〜1.0g/10分のMFR5を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記バイモーダルポリマーが少なくとも953kg/m3の密度を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が少なくとも38のFFR21/5を有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
マンドレルとダイス上での請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物を押出すことおよび、その後、押出されたパイプの直径を規定値まで拡大することを含むパイプを製造する方法。
【請求項15】
拡大が遊動プラグマンドレルにより達成される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
拡大が、加熱された真空サイジングチェンバーを通してパイプを引き抜くことにより達成される請求項14に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物から成形されるパイプであって、少なくとも9.0MPaの設計応力を有するパイプ。
【請求項18】
少なくとも10.0PMaの設計応力を有する請求項17に記載のパイプ。
【請求項19】
80℃、4.6MPaのループ応力で少なくとも1000時間の遅い亀裂伝播に対する耐性を有する請求項17または18のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項20】
80℃、4.9MPaのループ応力で少なくとも800時間の遅い亀裂伝播に対する耐性を有する請求項17〜19のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項21】
−7℃より高くない臨界温度を有する請求項17〜20のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項22】
−10℃より高くない臨界温度を有する請求項17〜21のいずれか1項に記載のパイプ。
【請求項23】
少なくとも800MPaの弾性率を有する請求項17〜22のいずれか1項に記載のパイプ。

【公開番号】特開2012−67914(P2012−67914A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198853(P2011−198853)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【分割の表示】特願2001−577333(P2001−577333)の分割
【原出願日】平成13年3月21日(2001.3.21)
【出願人】(500224380)ボレアリス テクノロジー オイ (39)
【Fターム(参考)】