パラメータ抽出方法及び装置
【課題】電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルにおけるパラメータを比較的簡単な方法において高精度に抽出することにより、高精度な回路シミュレーションが行える環境を提供する。
【解決手段】電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルにおいて、ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichを、電界効果型トランジスタの誘導性負荷におけるスイッチング波形から抽出する。
【解決手段】電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルにおいて、ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichを、電界効果型トランジスタの誘導性負荷におけるスイッチング波形から抽出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルのパラメータを抽出するパラメータ抽出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全エネルギー消費に占める電気エネルギーの比率(電力化率)は年々大きくなっている。現在、日本における電力化率は4割に達しており、今後さらに増加していくと見込まれる。限りある資源を有効に利用するためには、電気エネルギーの変換・制御技術を行う電力変換回路の高効率化が大きな課題である。また、ユビキタス社会の到来に伴い、パソコンや携帯電話などの情報機器に用いられる電力変換回路においては、より一層の小型化が望まれている。
【0003】
そのような状況の中、電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタ(以下、FET)は、従来に増して重要となっている。FETは、ユニポーラ素子であるため高速動作が可能であり、電力変換回路の小型化が期待できる。FETの種類として金属−酸化膜−半導体電界効果型トランジスタ(以下、MOSFET)、金属−絶縁膜−半導体電界効果型トランジスタ(以下、MISFET)、金属−半導体電界効果型トランジスタ(以下、MESFET)、高電子移動度トランジスタ(以下、HEMT)、及び静電誘導型トランジスタ(以下、SIT)などが挙げられる。
【0004】
電力変換回路に用いられるFET(以下、電力用FET)において、現在、最も一般的に利用されているのは、半導体材料としてSiを用いた、Si−MOSFETである。しかし、この従来型のMOSFETは、オン抵抗が高いという問題があったため、電力用FETの応用範囲は限られていた。
【0005】
近年では、この問題を解決した、スーパージャンクションMOSFETなどの、新しい素子構造が開発されており、電力用FETの応用範囲が拡大している。また、従来用いられてきたSiに比べて、物性の優れたSiC、III−V族窒化物半導体、II−VI族酸化物半導体、及びダイヤモンド等のワイドバンドギャップ材料を用いたFETの研究も進んでおり、将来的には電力用FETの応用範囲が、さらに広まると期待されている。
【0006】
これらの電力用FETを用いて、小型かつ高効率な電力変換回路を作製するためには、スイッチング周波数、波形整形のための入出力フィルタ、および放熱のためのヒートシンクなどを、電力変換回路の寄生容量、及び寄生インダクタンスを考慮して、総合的に設計することが必要である。従来技術では、開発者のノウハウに頼りながら試作と評価を繰り返すことにより、最適設計を行う方法が一般的である。しかし、このような方法では、電力変換回路の開発に多大な労力を必要とする。また、電力変換回路の実測による正確な評価は、電圧および電流波形を精密に測定する技術を必要とするが、電圧および電流測定のプローブ自体が波形に影響を与えること、およびプローブの立ち上がり時定数よりも高速な波形は測定できないことなどが原因となって、一般的に困難な課題となっている。
【0007】
係る課題を解決し、迅速な最適設計を行うためには、回路シミュレーション技術の利用が有効である。電力変換回路の作製にあたり、あらかじめ回路シミュレーションにより結果を予測することで、試作回数を減らすことが可能であるため、開発期間及び開発費用の大幅な低減が期待できる。
【0008】
電力変換回路の回路シミュレーションを行うためには、電力用FETを等価回路モデルで表すことが必要不可欠である。等価回路モデルとは、コンピュータによる演算可能なパラメータを用いて、FETの動作特性を擬似的に表した回路モデルである。図1に、従来から広く用いられている、一般的な電力用FETの等価回路モデルを示す。この等価回路モデルは、ゲート−ソース間容量(以下、Cgs)、ゲート−ドレイン間容量(以下、Cgd)、ドレイン−ソース間容量(以下、Cds)、及びチャネル電流源(以下、Ich)の4つのパラメータにより構成されている。
【0009】
等価回路モデルは、これらのパラメータの記述方法の違いにより、大きく分けて物理モデルと実験モデルの2種類に分類される。物理モデルにおけるパラメータは、半導体の物性および素子寸法を基にした方程式として記述される。物理モデルの特長は、素子の寸法の変化やドーピング濃度のばらつきなどに対応できることである。しかし、MOSFET、MISFET、MESFET、HEMT、及びSITなどのように、素子構造が異なる場合は、新たに方程式を導出する必要がある。また、半導体の物性や素子寸法を用いて現実の電力用FETの特性を完全に再現することは困難であり、シミュレーションと実測値の間の誤差が大きい。物理モデルの一例として、BSIM3v3などがあり、これを電力用FETの回路シミュレーションへの応用例として、例えば、非特許文献1がある。
【0010】
一方、実験モデルにおけるパラメータは、実測によりパラメータ抽出した値を基にした、適当な近似式、又は表として記述される。実験モデルの特長は、ユニポーラ素子であれば、MOSFET、MISFET、MESFET、HEMT、及びSITといったあらゆる種類のFETに対応できる汎用性の高さである。また、実測値をそのまま用いるためシミュレーションの精度が高く、アナログ回路のシミュレーションにも適している。そのため、実験モデルはGaAsによるFETを用いたモノリシックマイクロ波集積回路などのアナログ高周波回路において用いられており、その一例として非特許文献2にあるRootモデルがある。しかし、従来の高周波用の実験モデルにおけるパラメータ抽出方法は、直流特性、高周波特性、及び雑音特性を再現するために、Sパラメータ測定等を駆使して行う必要があり、複雑な手順、及び多くのノウハウを必要とする。
【0011】
そのため、電力用FETの実験モデルにおけるCgs、Cgd、及びCds等のパラメータ抽出には、より簡便な手法として、インピーダンス測定器を用いたパラメータ抽出方法が、従来技術として一般的に利用されている。インピーダンス測定器を用いたパラメータ抽出方法の説明は、非特許文献3にある。一例として、インピーダンス測定器を用いたCgdのパラメータ抽出装置の概略図を図2に示す。まず、電圧源3、及び電圧源4により、任意のゲート−ソース間電圧(以下、Vgs)、及びドレイン−ソース間電圧(以下、Vds)を、抽出対象となる電力用FET1に印加する。インピーダンス測定器2から微小な高周波電圧を発生させ、それに対する電流の応答を測定することで、Cgdを抽出することができる。
【0012】
また、インピーダンス測定器を用いた従来技術によるCgs、及びCdsの抽出装置では、図2におけるCgdの抽出装置と比べて、インピーダンス測定器、高周波遮断用リアクトル、及び直流遮断用コンデンサの構成が異なるが、基本的な抽出方法は、上記のCgdの抽出方法と同じである。
【0013】
現在、市販されているほとんどの電力用FETのデータシートには、このインピーダンス測定器を用いた従来技術により抽出されたモデルパラータが記載されている。しかし、この従来技術によるパラメータ抽出方法により測定したパラメータを用いて作成した等価回路モデルを使った、回路シミュレーション方法は、実測値との誤差が大きい。
【非特許文献1】名野隆夫 他、「BSIM3v3による高耐圧デバイスのモデル化とパラメータ抽出技法」、電子情報通信学会技術研究報告 集積回路 Vol.98 No.352 p.79−86、1998年
【非特許文献2】近藤博司、「HP Rootモデルの開発:標準問題への提案」、電子情報通信学会総合大会講演論文集 エレクトロニクス No.1 p.487、1996年
【非特許文献3】電気学会電気規格調査会標準規格 No.2406、「MOS形電界効果パワートランジスタ」、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように従来技術における電力用FETの等価回路モデルは、モデルの精度、又はパラメータ抽出方法の複雑さが課題となっている。本発明の目的は、係る課題を解決するために、電力用FETにおける、実験モデルに属する等価回路モデルに関して、比較的簡単な方法により高精度のパラメータを抽出し、かつ、これによって得られた等価回路モデルを用いた回路シミュレーション技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のパラメータ抽出方法及び装置は、電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルのパラメータを抽出する。前記等価回路モデルは、ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、ドレイン−ソース間容量Cds、およびチャネル電流源Ichからなるパラメータにより構成されている。前記電界効果型トランジスタに誘導性負荷、転流ダイオード、及びパルス電圧発生器、を接続して、該電界効果型トランジスタをスイッチングし、そのゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccのスイッチング波形から前記ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichを抽出する。
【0016】
ここで、前記スイッチング波形は、電界効果型トランジスタがオン状態からオフ状態、又はオフ状態からオン状態に移行する期間におけるゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccの波形である。
【0017】
オン状態からオフ状態に移行する期間におけるスイッチング波形を用いて、前記ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichは、以下のように抽出される。まず、ゲート−ソース間電圧Vgsの下降が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇が始まる時刻t1、ゲート−ソース間電圧Vgs及びドレイン電流Idの下降が始まる時刻t2、及びゲート−ソース間電圧Vgsがパルス電圧発生器の出力電圧Vgccに達する時刻t3として、かつ、時刻t1からt2までを期間1、及び時刻t2からt3までを期間2とする。ゲート−ソース間容量Cgsは、期間2におけるゲート−ソース間電圧Vgsの降下速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出する。ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間1におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出する。チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する。
【0018】
同様に、オフ状態からオン状態に移行する期間におけるスイッチング波形を用いて、前記ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichは、以下のように抽出される。パルス電圧発生器からパルス電圧が出力される時刻t4、ゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が始まる時刻t5、及びゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が始まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が止まる時刻t6として、かつ、時刻t4からt5までを期間3、及び時刻t5からt6までを期間4とする。ゲート−ソース間容量Cgsは、期間3におけるゲート−ソース間電圧Vgsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出する。ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間4におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの下降速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出する。チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する。
【0019】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(1)式を基に抽出する。
【数1】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【0020】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを、以下の(2)式を基に抽出する。
【数2】
【0021】
前記ゲート−ソース間容量Cgsを、以下の(3)式を基に抽出する。
【数3】
【0022】
前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを、以下の(4)式を基に抽出する。
【数4】
【発明の効果】
【0023】
本発明による電力用FETの等価回路モデルにおけるパラメータ抽出方法は、比較的簡単であり、かつ高精度なパラメータが得られるという特長を有し、また、それにより得られた等価回路モデルを用いることで、高精度な回路シミュレーションが行えるという、有利な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、従来技術において一般的に用いられているFETの等価回路モデルの基本構成である。本発明における電力用FETの等価回路モデルおいても、図1に示した等価回路モデルの構成を用いる。この等価回路モデルにおけるパラメータは、Cgs、Cgd、Cds、及びIch、の4種類である。
【0025】
本発明によるこれらのパラメータのパラメータ抽出方法を説明する。図3は、本発明におけるパラメータ抽出装置の概略図である。電力用FET1が抽出対象となるFET、及び誘導性負荷11がスイッチングにおける誘導性負荷である。パルス電圧発生器13から、パルス電圧を発生させることで、電力用FET1を、オン状態からオフ状態、又はオフ状態からオン状態にスイッチングさせる。
【0026】
本発明によるパラメータ抽出は、オン状態からオフ状態、又はオフ状態からオン状態における、どちらのスイッチング波形を用いても、行うことが出来る。ここでは、オン状態からオフ状態に移行する期間におけるスイッチング波形を用いたパラメータの抽出方法を説明する。まず、パルス電圧発生器13の出力電圧を調整することで、電力用FET1に閾値電圧以上の電圧を印加してオン状態にする。そして、誘導性負荷11に任意の負荷電流ILを流す。そして、パルス電圧発生器13により閾値電圧以下のパルス電圧を発生させることにより、電力用FET1をオン状態からオフ状態にスイッチングさせる。これにより、電力用FET1を流れていた負荷電流ILの電流経路が、転流ダイオード14に、転流する。このときの電力用FET1におけるVgs、Vds、Id、及びパルス電圧発生器13の出力電圧Vgccのスイッチング波形を、電圧計17、電圧計18、電流計19、及び電圧計16によりそれぞれ測定することで、図4に示す誘導性負荷におけるスイッチング波形が得られる。
【0027】
ここで、図4に示したスイッチング波形は、時刻t1からt2までの期間1、及び時刻t2からt3までの期間2に分けることが出来る。ただし、t1、t2、及びt3は、それぞれ、ゲート−ソース間電圧Vgsの下降が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇が始まる時刻、ゲート−ソース間電圧Vgs及びドレイン電流Idの下降が始まる時刻、及びゲート−ソース間電圧Vgsがゲートに接続されたパルス電圧発生器からの出力電圧に達する時刻である。
【0028】
ただし、可変抵抗15が小さすぎる場合には、測定装置のもつ寄生インダクタンスと電力用FET1の出力容量の間の共振により、Vds波形にサージ電圧が発生するため、本発明によるパラメータ抽出の精度が低下する。そのような場合には、可変抵抗15の抵抗値を調整することで、共振の発生を抑えることが可能である。共振の発生を抑えるために必要な可変抵抗15の値は、抽出対象となる電力用FET1の特性によって異なる。
【0029】
本発明によれば、以上のようにして得られた誘導性負荷におけるスイッチング波形を用いることで、Cgs及びCgdの値は、以下の方法で抽出することが出来る。まず、スイッチング期間1及び期間2において、本発明におけるCgs及びCgdの抽出の基本となる、以下の関係式が成り立つ。
【数5】
ここで、Vgccは電圧計16により測定したパルス電圧発生器13の出力電圧、Vgsは電圧計17で測定したゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは電圧計17で測定した単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは電圧計18で測定した単位時間当たりのVdsの変化量、Raは可変抵抗15の抵抗値、Caはパラメータ抽出装置の持つゲート−ソース間寄生容量20の値、及びCbはパラメータ抽出装置の持つゲート−ドレイン間寄生容量21の値である。上記(5)式における、左辺はゲート電流、及び右辺はCgs、Cgd、Ca、及びCbを流れる変位電流を表す。
【0030】
上記(5)式において、Ra、Ca、及びCbは抽出装置に固有の既知の値であるため、未知数はCgs、及びCgdの2つである。そのため、Cgs、又はCgdのどちらか一方を仮定することで、他方の値を、上記(5)式により、抽出することが出来る。ここでは、より具体的な例として、Cgsに比べてCgdが十分小さいと仮定した場合の、抽出方法を説明する。Cgsに比べてCgdが十分小さいと仮定した場合、上記(5)式は、次のように簡略化される。
【数6】
ここで、上記(6)における、Cgsに比べてCgdが十分小さいという仮定は、一般的な電力用FETにおいて成り立つ。
【0031】
上記式(6)を用いて、Cgsの値は、図4における期間2のスイッチング波形から、以下の方法で抽出される。期間2では、Vdsの値はほぼ一定であり、ゲート−ソース間電圧Vgsの降下速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則さる。よって、Cgsは、期間2におけるスイッチング波形より、上記(6)式を変形した、次式により高精度に抽出することが出来る。
【数7】
上記(7)式における、右辺第二項、右辺第三項、及び右辺第四項は、それぞれ期間2におけるVdsの変化、装置のゲート−ソース間寄生容量20、及び装置のゲート−ドレイン間寄生容量21の影響を表す、補正項である。
【0032】
上記(7)式における、右辺第二項に含まれるCgdの値には、例えば図2を参照して説明したインピーダンス測定器を用いた従来技術により抽出した値、又は下記(9)式又は(10)式により抽出した値を用いればよい。
【0033】
また、右辺第二項の影響が小さい場合には、上記(7)式における、右辺第二項を無視することにより簡略化した、次式によりCgsを抽出することが出来る。
【数8】
上記(8)式によるCgsの抽出は、上記(7)式に比べて、抽出精度は低下するが、Cgdが未知の条件においても、Cgsを抽出できる利点を持つ。
【0034】
次に、Cgdの値は、図4における期間1のスイッチング波形から、以下の方法で抽出される。期間1では、Vgsの値はほぼ一定であり、ドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則される。よって、Cgdは、期間1におけるスイッチング波形より、上記(6)式を変形した、次式により高精度に抽出することが出来る。
【数9】
上記(9)式における、右辺第二項、及び右辺第三項は、それぞれ期間1におけるVgsの変化、及び装置のゲート−ドレイン間寄生容量21の影響を表す、補正項である。
【0035】
上記(9)式における、右辺第二項に含まれるCgsの値には、例えばインピーダンス測定器を用いた従来技術により抽出したCgs、又は上記(7)式又は(8)式により抽出したCgsの値を用いればよい。
【0036】
また、右辺第二項の影響が小さい場合には、上記(9)式における、右辺第二項を無視することにより簡略化した、次式によりCgdを抽出することが出来る。
【数10】
上記(10)式によるCgdの抽出は、上記(9)式に比べて、抽出精度は低下するが、Cgsが未知の条件においても、Cgdを抽出できる利点を持つ。
【0037】
次に、Ichの値は、図4に示したスイッチング波形から、以下の方法で抽出される。まず、誘導性負荷11に流れる負荷電流ILの値を少しずつ変化させながら、図4に示すようなスイッチング波形を測定する。これによって得られたスイッチング波形における、VgsとVdsの関係をプロットすることで、図5に示すようなグラフが得られる。それぞれのVgsおよびVdsにおいて、電流計19により測定されたドレイン電流Idの値を、Ichとすることで、任意のVgsおよびVdsにおける、Ichの値を抽出することが出来る。
【0038】
以上のように、本発明による誘導性負荷におけるスイッチング波形から、Cgs、Cgd、及びIchを抽出することが可能となる。また、本発明におけるCdsの抽出方法は、従来技術であるインピーダンス測定器による抽出方法を、用いるものとする。
【0039】
また、以上では電力用FETがオン状態からオフ状態に移行する期間における、スイッチング波形を用いて、本発明の説明を行った。同様に方法により、電力用FETがオフ状態からオン状態に移行する期間における、スイッチング波形を用いて、本発明によるパラメータ抽出を行うことが可能である。
【0040】
図6は、図3に示したパラメータ抽出装置によって得られる、電力用FET1が、オフ状態からオン状態に移行する期間におけるスイッチング波形の概略図である。ここで、図6に示したスイッチング波形は、パルス電圧発生器13からパルス電圧が出力される時刻t4、ゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が始まる時刻t5、及びゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が始まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が止まる時刻t6とすることで、時刻t4からt5までの期間3、及び時刻t5からt6までの期間4に分けられる。
【0041】
オフ状態からオン状態へのスイッチング波形を用いた、本発明によるパラメータ抽出方法は、上記で説明した、オン状態からオフ状態へのスイッチング波形を用いた方法における、期間1を期間4、及び期間2を期間3と置き換えることにより、実行することが可能である。
【0042】
ここで、本発明における誘導背負荷によるスイッチング波形を用いた、パラメータ抽出方法の利点を説明する。本発明によるパラメータ抽出方法の利点は、従来技術であるインピーダンス測定器を用いたパラメータ抽出方法に比べて、高精度なパラメータのパラメータ抽出が行えることである。抽出精度が向上する理由は、誘導性負荷を用いることにある。誘導性負荷を用いることで、実際の電力変換回路における電力用FETの動作条件に近い状態でパラメータのパラメータ抽出が可能となり、抽出精度を向上させることが出来る。つまり、実際の電力変換回路は、多くの場合において誘導性負荷を有している。例えば、電力変換回路の一種であるインバータ回路を用いて、交流電動機を駆動する場合、交流電動機における電磁石が誘導性負荷となる。また、電力変換回路の一種であるDC−DCコンバータでは、出力段の低域通過濾波器に用いられるインダクタンスが誘導性負荷となる。
【0043】
このように、誘導性負荷を用いることで、実際の動作条件に近い状態において、パラメータのパラメータ抽出が可能となる。そして、これによって得られた電力用FETの等価回路モデルを用いることで、実際の波形を高精度に再現することが可能な、回路シミュレーションを行うことが可能となる。
【実施例1】
【0044】
以下では、本発明の実施例として、電力用FETの一種であるSi−MOSFETを用いた電力変換回路における、実測値と回路シミュレーション結果の比較を行う。まず、Si−MOSFETのパラメータ抽出を、図3に示したパラメータ抽出装置を用いて行った。パラメータ抽出装置における電圧源12は100Vに設定した。可変抵抗15は、1.2kΩとした。
【0045】
図7は、図3に示したパラメータ抽出装置を用いて測定した、Si−MOSFETにおける、オン状態からオフ状態への移行期間におけるスイッチング波形の一例である。このスイッチング波形から、図4を参照して説明した本発明によるパラメータ抽出方法を用いて、Cgs、Cgd、及びIchを抽出した。また、Cdsは、従来技術であるインピーダンス測定器を用いた方法により抽出した。以上によって得られた、Cgs、Cgd、Cds、及びIchによって図1に示した構成の等価回路モデルを作成し、これを本発明による等価回路モデルとした。
【0046】
また、比較のためにCgs及びCgdの抽出を、従来技術であるインピーダンス測定器を用いた方法により抽出し、上記の本発明による等価回路モデルにおける、CgsおよびCgdの代わりとしたものを、従来技術による等価回路モデルとした。
【0047】
本発明及び従来技術により抽出したCgdの比較を、図8に示す。このように、本発明と従来技術により抽出したCgdの値は異なっていた。
【0048】
本発明及び従来技術により作成した等価回路モデルを用いた回路シミュレーション結果を、電力変換回路における実測値と比較した。ここでは、電力変換回路として、DC−DCコンバータの一種である、降圧チョッパを用いた。図9に一般的な降圧チョッパの概略図を示す。本実験に用いた降圧チョッパにおける、入力電圧は40V、出力電流は4A、及びゲート抵抗は81Ωであった。
【0049】
図10は、降圧チョッパにおけるターンオフ波形の実測値、および従来技術による回路シミュレーション結果の比較である。回路シミュレーション結果におけるVdsの立ち上がりは、実測値に比べて速く、誤差が大きいことが分かる。
【0050】
一方、図11は、実測値、および本発明による回路シミュレーション結果の比較である。実測値と回路シミュレーション結果はほぼ重なっており、図10に示した従来技術に比べて、良い一致が得られていることが分かる。
【0051】
以上のように、本発明を用いることで、実際の電力変換回路における回路シミュレーションを、高精度に行うことができる。
【実施例2】
【0052】
以下では、本発明の実施例として、電力用FETの一種であるGaN−HMETを用いた電力変換回路における、実測値と回路シミュレーション結果の比較を行う。GaNはIII−V族窒化物半導体と呼ばれるワイドバンドギャップ半導体である。
【0053】
まず、GaN−HEMTのパラメータ抽出を、図3に示したパラメータ抽出装置を用いて行った。パラメータ抽出装置における電圧源12は45Vに設定した。可変抵抗15は9.8kΩとした。図3のパラメータ抽出装置を用いて測定したスイッチング波形から、図4を参照して説明した本発明によるパラメータ抽出方法を用いて、Cgs、Cgd、及びIchを抽出した。また、Cdsは、従来技術であるインピーダンス測定器を用いた方法により抽出した。以上によって得られた、Cgs、Cgd、Cds、及びIchによって図1に示した構成の等価回路モデルを作成し、これを本発明による等価回路モデルとした。
【0054】
また、比較のためにCgs及びCgdの抽出を、従来技術であるインピーダンス測定器を用いた方法により抽出し、上記の本発明による等価回路モデルにおける、CgsおよびCgdの代わりとしたものを、従来技術による等価回路モデルとした。
【0055】
本発明及び従来技術により抽出したCgdの比較を、図12に示す。このように、本発明と従来技術により抽出したCgdの値は異なっていた。また、図8に示したSi−MOSFETにおける抽出結果と比較して、本発明および従来技術により抽出したCgdの大小関係は、逆になっていた。
【0056】
本発明及び従来技術により作成した等価回路モデルを用いた回路シミュレーション結果を、電力変換回路における実測値と比較した。ここでは、電力変換回路として、降圧チョッパを用いた。降圧チョッパの入力電圧は40Vとし、ゲート抵抗および出力電流の値を変化させた。
【0057】
図13は、降圧チョッパのゲート抵抗を320Ωとして、出力電流を変化させたときの、スイッチング損失における、実測値、本発明による回路シミュレーション結果、及び従来技術における回路シミュレーション結果の、比較である。ただし、本明細書おけるスイッチング損失とは、電力用FETのターンオンおよびターンオフにおける、VdsおよびId波形の掛け算を時間積分したものとして定義する。図13から分かるように、従来技術による回路シミュレーション結果は、実測値との誤差が大きく、その最大誤差は24%であった。一方で、本発明による回路シミュレーション結果は、実測値との整合性が良く、最大誤差は6%と小さかった。
【0058】
図14は、スイッチング損失の実測値、および本発明による回路シミュレーション結果を、ゲート抵抗を大きく変化させて、比較した結果である。ゲート抵抗を変化させても、本発明による回路シミュレーション結果は、実測値とよく一致していることがわかる。また、出力電流の値を4A、2A、および1Aと変化させても、実測値との良い一致が得られている。本発明による回路シミュレーション結果の、実測値に対する最大誤差は、6%と小さかった。
【0059】
以上のように、本発明を用いることで、実際の電力変換回路における回路シミュレーションを、高精度に行うことができる。
【0060】
また、本明細書では、図1に示したCgs、Cgd、Cds、及びIchからなる電力用FETの等価回路モデルの基本構成を用いて本発明の説明を行ったが、図1は電力用FETの振る舞いを表すために最低限必要な等価回路モデルの構成であり、この基本構成に加えて、ゲート電極に伴う内部抵抗、ドレイン電極に伴う内部抵抗、ソース電極に伴う内部抵抗、ゲート電極に伴う内部インダクタンス、ドレイン電極に伴う内部インダクタンス、及びソース電極に伴う内部インダクタンス等の、パラメータが追加された等価回路モデルの構成においても、本発明を適用することが可能である。
【0061】
また、本実施例では、電力用FETとしてSi−MOSFETおよびGaN−HEMTを用いたパラメータ抽出結果および回路シミュレーション結果を示したが、本発明は、これら以外のあらゆる電力用FETに適用することが可能である。例えば、今回紹介したMOSFETおよびHEMTとは異なる素子構造を有する、MISFET、MESFET、およびSIT等の電力用FETにおいても、本発明を適用することが出来る。また、SiおよびGaN以外にも、SiC化合物半導体、III−V族窒化物半導体、II−VI族酸化物半導体、ダイヤモンド等の半導体材料を用いた電力用FETにおいても、本発明を適用することが出来る。
【0062】
また、本明細書では、電子が電流を運ぶnチャネル型の電力用FETを用いて本発明の説明を行ったが、正孔が電流を運ぶpチャネル型の電力用FETにおいても、本発明である誘導性負荷を用いたスイッチング波形によるパラメータ抽出方法を、適用することが出来る。pチャネル型の電力用FETにおいて、本発明を適用した場合、図4及び図6を参照して説明した、nチャネル型の電力用FETにおけるスイッチング波形に対して、ゲート−ソース間電圧Vgsの上昇、及び下降の関係が逆になる。
【0063】
また、本実施例では、電力変換回路として降圧チョッパを用いたが、本発明は電力用FETを用いる、すべての電力変換回路における回路シミュレーションに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】電力用FETの等価回路モデルの概略図
【図2】従来技術によるインピーダンス測定器を用いたCgd抽出装置の概略図
【図3】本発明によるパラメータ抽出装置の概略図
【図4】パラメータ抽出に用いるオン状態からオフ状態への移行期間におけるスイッチング波形の概略図
【図5】Ichの抽出に用いるスイッチング波形の概略図
【図6】パラメータ抽出に用いるオフ状態からオン状態への移行期間におけるスイッチング波形の概略図
【図7】Si−MOSFETにおけるパラメータ抽出に用いるスイッチング波形の測定結果
【図8】Si−MOSFETにおける、従来技術および本発明によるCgdの抽出結果
【図9】降圧チョッパの概略図
【図10】Si−MOSFETを用いた降圧チョッパにおける、ターンオフ波形の実測値、および従来技術による回路シミュレーション結果
【図11】Si−MOSFETを用いた降圧チョッパにおける、ターンオフ波形の実測値、および本発明による回路シミュレーション結果
【図12】GaN−HEMTおける、従来技術および本発明によるCgdの抽出結果
【図13】GaN−HEMTを用いた降圧チョッパにおいて、出力電流を変化させたときのスイッチング損失の、実測値および回路シミュレーション結果
【図14】GaN−HEMTを用いた降圧チョッパにおいて、ゲート抵抗を変化させたときのスイッチング損失の、実測値および回路シミュレーション結果
【符号の説明】
【0065】
1 抽出対象となる電力用FET
2 インピーダンス測定器
3 電圧源
4 電圧源
5 電圧計
6 電圧計
7 電流計
8 高周波遮断用リアクトル
9 高周波遮断用リアクトル
10 直流遮断用コンデンサ
11 誘導性負荷
12 電圧源
13 パルス電圧発生器
14 転流ダイオード
15 可変抵抗
16 電圧計
17 電圧計
18 電圧計
19 電流計
20 ゲート−ソース間寄生容量
21 ゲート−ドレイン間寄生容量
22 電力用FET
23 転流ダイオード
24 ゲート回路
25 ゲート抵抗
26 出力コンデンサ
27 出力インダクタ
28 入力コンデンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルのパラメータを抽出するパラメータ抽出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全エネルギー消費に占める電気エネルギーの比率(電力化率)は年々大きくなっている。現在、日本における電力化率は4割に達しており、今後さらに増加していくと見込まれる。限りある資源を有効に利用するためには、電気エネルギーの変換・制御技術を行う電力変換回路の高効率化が大きな課題である。また、ユビキタス社会の到来に伴い、パソコンや携帯電話などの情報機器に用いられる電力変換回路においては、より一層の小型化が望まれている。
【0003】
そのような状況の中、電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタ(以下、FET)は、従来に増して重要となっている。FETは、ユニポーラ素子であるため高速動作が可能であり、電力変換回路の小型化が期待できる。FETの種類として金属−酸化膜−半導体電界効果型トランジスタ(以下、MOSFET)、金属−絶縁膜−半導体電界効果型トランジスタ(以下、MISFET)、金属−半導体電界効果型トランジスタ(以下、MESFET)、高電子移動度トランジスタ(以下、HEMT)、及び静電誘導型トランジスタ(以下、SIT)などが挙げられる。
【0004】
電力変換回路に用いられるFET(以下、電力用FET)において、現在、最も一般的に利用されているのは、半導体材料としてSiを用いた、Si−MOSFETである。しかし、この従来型のMOSFETは、オン抵抗が高いという問題があったため、電力用FETの応用範囲は限られていた。
【0005】
近年では、この問題を解決した、スーパージャンクションMOSFETなどの、新しい素子構造が開発されており、電力用FETの応用範囲が拡大している。また、従来用いられてきたSiに比べて、物性の優れたSiC、III−V族窒化物半導体、II−VI族酸化物半導体、及びダイヤモンド等のワイドバンドギャップ材料を用いたFETの研究も進んでおり、将来的には電力用FETの応用範囲が、さらに広まると期待されている。
【0006】
これらの電力用FETを用いて、小型かつ高効率な電力変換回路を作製するためには、スイッチング周波数、波形整形のための入出力フィルタ、および放熱のためのヒートシンクなどを、電力変換回路の寄生容量、及び寄生インダクタンスを考慮して、総合的に設計することが必要である。従来技術では、開発者のノウハウに頼りながら試作と評価を繰り返すことにより、最適設計を行う方法が一般的である。しかし、このような方法では、電力変換回路の開発に多大な労力を必要とする。また、電力変換回路の実測による正確な評価は、電圧および電流波形を精密に測定する技術を必要とするが、電圧および電流測定のプローブ自体が波形に影響を与えること、およびプローブの立ち上がり時定数よりも高速な波形は測定できないことなどが原因となって、一般的に困難な課題となっている。
【0007】
係る課題を解決し、迅速な最適設計を行うためには、回路シミュレーション技術の利用が有効である。電力変換回路の作製にあたり、あらかじめ回路シミュレーションにより結果を予測することで、試作回数を減らすことが可能であるため、開発期間及び開発費用の大幅な低減が期待できる。
【0008】
電力変換回路の回路シミュレーションを行うためには、電力用FETを等価回路モデルで表すことが必要不可欠である。等価回路モデルとは、コンピュータによる演算可能なパラメータを用いて、FETの動作特性を擬似的に表した回路モデルである。図1に、従来から広く用いられている、一般的な電力用FETの等価回路モデルを示す。この等価回路モデルは、ゲート−ソース間容量(以下、Cgs)、ゲート−ドレイン間容量(以下、Cgd)、ドレイン−ソース間容量(以下、Cds)、及びチャネル電流源(以下、Ich)の4つのパラメータにより構成されている。
【0009】
等価回路モデルは、これらのパラメータの記述方法の違いにより、大きく分けて物理モデルと実験モデルの2種類に分類される。物理モデルにおけるパラメータは、半導体の物性および素子寸法を基にした方程式として記述される。物理モデルの特長は、素子の寸法の変化やドーピング濃度のばらつきなどに対応できることである。しかし、MOSFET、MISFET、MESFET、HEMT、及びSITなどのように、素子構造が異なる場合は、新たに方程式を導出する必要がある。また、半導体の物性や素子寸法を用いて現実の電力用FETの特性を完全に再現することは困難であり、シミュレーションと実測値の間の誤差が大きい。物理モデルの一例として、BSIM3v3などがあり、これを電力用FETの回路シミュレーションへの応用例として、例えば、非特許文献1がある。
【0010】
一方、実験モデルにおけるパラメータは、実測によりパラメータ抽出した値を基にした、適当な近似式、又は表として記述される。実験モデルの特長は、ユニポーラ素子であれば、MOSFET、MISFET、MESFET、HEMT、及びSITといったあらゆる種類のFETに対応できる汎用性の高さである。また、実測値をそのまま用いるためシミュレーションの精度が高く、アナログ回路のシミュレーションにも適している。そのため、実験モデルはGaAsによるFETを用いたモノリシックマイクロ波集積回路などのアナログ高周波回路において用いられており、その一例として非特許文献2にあるRootモデルがある。しかし、従来の高周波用の実験モデルにおけるパラメータ抽出方法は、直流特性、高周波特性、及び雑音特性を再現するために、Sパラメータ測定等を駆使して行う必要があり、複雑な手順、及び多くのノウハウを必要とする。
【0011】
そのため、電力用FETの実験モデルにおけるCgs、Cgd、及びCds等のパラメータ抽出には、より簡便な手法として、インピーダンス測定器を用いたパラメータ抽出方法が、従来技術として一般的に利用されている。インピーダンス測定器を用いたパラメータ抽出方法の説明は、非特許文献3にある。一例として、インピーダンス測定器を用いたCgdのパラメータ抽出装置の概略図を図2に示す。まず、電圧源3、及び電圧源4により、任意のゲート−ソース間電圧(以下、Vgs)、及びドレイン−ソース間電圧(以下、Vds)を、抽出対象となる電力用FET1に印加する。インピーダンス測定器2から微小な高周波電圧を発生させ、それに対する電流の応答を測定することで、Cgdを抽出することができる。
【0012】
また、インピーダンス測定器を用いた従来技術によるCgs、及びCdsの抽出装置では、図2におけるCgdの抽出装置と比べて、インピーダンス測定器、高周波遮断用リアクトル、及び直流遮断用コンデンサの構成が異なるが、基本的な抽出方法は、上記のCgdの抽出方法と同じである。
【0013】
現在、市販されているほとんどの電力用FETのデータシートには、このインピーダンス測定器を用いた従来技術により抽出されたモデルパラータが記載されている。しかし、この従来技術によるパラメータ抽出方法により測定したパラメータを用いて作成した等価回路モデルを使った、回路シミュレーション方法は、実測値との誤差が大きい。
【非特許文献1】名野隆夫 他、「BSIM3v3による高耐圧デバイスのモデル化とパラメータ抽出技法」、電子情報通信学会技術研究報告 集積回路 Vol.98 No.352 p.79−86、1998年
【非特許文献2】近藤博司、「HP Rootモデルの開発:標準問題への提案」、電子情報通信学会総合大会講演論文集 エレクトロニクス No.1 p.487、1996年
【非特許文献3】電気学会電気規格調査会標準規格 No.2406、「MOS形電界効果パワートランジスタ」、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように従来技術における電力用FETの等価回路モデルは、モデルの精度、又はパラメータ抽出方法の複雑さが課題となっている。本発明の目的は、係る課題を解決するために、電力用FETにおける、実験モデルに属する等価回路モデルに関して、比較的簡単な方法により高精度のパラメータを抽出し、かつ、これによって得られた等価回路モデルを用いた回路シミュレーション技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のパラメータ抽出方法及び装置は、電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルのパラメータを抽出する。前記等価回路モデルは、ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、ドレイン−ソース間容量Cds、およびチャネル電流源Ichからなるパラメータにより構成されている。前記電界効果型トランジスタに誘導性負荷、転流ダイオード、及びパルス電圧発生器、を接続して、該電界効果型トランジスタをスイッチングし、そのゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccのスイッチング波形から前記ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichを抽出する。
【0016】
ここで、前記スイッチング波形は、電界効果型トランジスタがオン状態からオフ状態、又はオフ状態からオン状態に移行する期間におけるゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccの波形である。
【0017】
オン状態からオフ状態に移行する期間におけるスイッチング波形を用いて、前記ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichは、以下のように抽出される。まず、ゲート−ソース間電圧Vgsの下降が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇が始まる時刻t1、ゲート−ソース間電圧Vgs及びドレイン電流Idの下降が始まる時刻t2、及びゲート−ソース間電圧Vgsがパルス電圧発生器の出力電圧Vgccに達する時刻t3として、かつ、時刻t1からt2までを期間1、及び時刻t2からt3までを期間2とする。ゲート−ソース間容量Cgsは、期間2におけるゲート−ソース間電圧Vgsの降下速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出する。ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間1におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出する。チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する。
【0018】
同様に、オフ状態からオン状態に移行する期間におけるスイッチング波形を用いて、前記ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichは、以下のように抽出される。パルス電圧発生器からパルス電圧が出力される時刻t4、ゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が始まる時刻t5、及びゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が始まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が止まる時刻t6として、かつ、時刻t4からt5までを期間3、及び時刻t5からt6までを期間4とする。ゲート−ソース間容量Cgsは、期間3におけるゲート−ソース間電圧Vgsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出する。ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間4におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの下降速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出する。チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する。
【0019】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(1)式を基に抽出する。
【数1】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【0020】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを、以下の(2)式を基に抽出する。
【数2】
【0021】
前記ゲート−ソース間容量Cgsを、以下の(3)式を基に抽出する。
【数3】
【0022】
前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを、以下の(4)式を基に抽出する。
【数4】
【発明の効果】
【0023】
本発明による電力用FETの等価回路モデルにおけるパラメータ抽出方法は、比較的簡単であり、かつ高精度なパラメータが得られるという特長を有し、また、それにより得られた等価回路モデルを用いることで、高精度な回路シミュレーションが行えるという、有利な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、従来技術において一般的に用いられているFETの等価回路モデルの基本構成である。本発明における電力用FETの等価回路モデルおいても、図1に示した等価回路モデルの構成を用いる。この等価回路モデルにおけるパラメータは、Cgs、Cgd、Cds、及びIch、の4種類である。
【0025】
本発明によるこれらのパラメータのパラメータ抽出方法を説明する。図3は、本発明におけるパラメータ抽出装置の概略図である。電力用FET1が抽出対象となるFET、及び誘導性負荷11がスイッチングにおける誘導性負荷である。パルス電圧発生器13から、パルス電圧を発生させることで、電力用FET1を、オン状態からオフ状態、又はオフ状態からオン状態にスイッチングさせる。
【0026】
本発明によるパラメータ抽出は、オン状態からオフ状態、又はオフ状態からオン状態における、どちらのスイッチング波形を用いても、行うことが出来る。ここでは、オン状態からオフ状態に移行する期間におけるスイッチング波形を用いたパラメータの抽出方法を説明する。まず、パルス電圧発生器13の出力電圧を調整することで、電力用FET1に閾値電圧以上の電圧を印加してオン状態にする。そして、誘導性負荷11に任意の負荷電流ILを流す。そして、パルス電圧発生器13により閾値電圧以下のパルス電圧を発生させることにより、電力用FET1をオン状態からオフ状態にスイッチングさせる。これにより、電力用FET1を流れていた負荷電流ILの電流経路が、転流ダイオード14に、転流する。このときの電力用FET1におけるVgs、Vds、Id、及びパルス電圧発生器13の出力電圧Vgccのスイッチング波形を、電圧計17、電圧計18、電流計19、及び電圧計16によりそれぞれ測定することで、図4に示す誘導性負荷におけるスイッチング波形が得られる。
【0027】
ここで、図4に示したスイッチング波形は、時刻t1からt2までの期間1、及び時刻t2からt3までの期間2に分けることが出来る。ただし、t1、t2、及びt3は、それぞれ、ゲート−ソース間電圧Vgsの下降が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇が始まる時刻、ゲート−ソース間電圧Vgs及びドレイン電流Idの下降が始まる時刻、及びゲート−ソース間電圧Vgsがゲートに接続されたパルス電圧発生器からの出力電圧に達する時刻である。
【0028】
ただし、可変抵抗15が小さすぎる場合には、測定装置のもつ寄生インダクタンスと電力用FET1の出力容量の間の共振により、Vds波形にサージ電圧が発生するため、本発明によるパラメータ抽出の精度が低下する。そのような場合には、可変抵抗15の抵抗値を調整することで、共振の発生を抑えることが可能である。共振の発生を抑えるために必要な可変抵抗15の値は、抽出対象となる電力用FET1の特性によって異なる。
【0029】
本発明によれば、以上のようにして得られた誘導性負荷におけるスイッチング波形を用いることで、Cgs及びCgdの値は、以下の方法で抽出することが出来る。まず、スイッチング期間1及び期間2において、本発明におけるCgs及びCgdの抽出の基本となる、以下の関係式が成り立つ。
【数5】
ここで、Vgccは電圧計16により測定したパルス電圧発生器13の出力電圧、Vgsは電圧計17で測定したゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは電圧計17で測定した単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは電圧計18で測定した単位時間当たりのVdsの変化量、Raは可変抵抗15の抵抗値、Caはパラメータ抽出装置の持つゲート−ソース間寄生容量20の値、及びCbはパラメータ抽出装置の持つゲート−ドレイン間寄生容量21の値である。上記(5)式における、左辺はゲート電流、及び右辺はCgs、Cgd、Ca、及びCbを流れる変位電流を表す。
【0030】
上記(5)式において、Ra、Ca、及びCbは抽出装置に固有の既知の値であるため、未知数はCgs、及びCgdの2つである。そのため、Cgs、又はCgdのどちらか一方を仮定することで、他方の値を、上記(5)式により、抽出することが出来る。ここでは、より具体的な例として、Cgsに比べてCgdが十分小さいと仮定した場合の、抽出方法を説明する。Cgsに比べてCgdが十分小さいと仮定した場合、上記(5)式は、次のように簡略化される。
【数6】
ここで、上記(6)における、Cgsに比べてCgdが十分小さいという仮定は、一般的な電力用FETにおいて成り立つ。
【0031】
上記式(6)を用いて、Cgsの値は、図4における期間2のスイッチング波形から、以下の方法で抽出される。期間2では、Vdsの値はほぼ一定であり、ゲート−ソース間電圧Vgsの降下速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則さる。よって、Cgsは、期間2におけるスイッチング波形より、上記(6)式を変形した、次式により高精度に抽出することが出来る。
【数7】
上記(7)式における、右辺第二項、右辺第三項、及び右辺第四項は、それぞれ期間2におけるVdsの変化、装置のゲート−ソース間寄生容量20、及び装置のゲート−ドレイン間寄生容量21の影響を表す、補正項である。
【0032】
上記(7)式における、右辺第二項に含まれるCgdの値には、例えば図2を参照して説明したインピーダンス測定器を用いた従来技術により抽出した値、又は下記(9)式又は(10)式により抽出した値を用いればよい。
【0033】
また、右辺第二項の影響が小さい場合には、上記(7)式における、右辺第二項を無視することにより簡略化した、次式によりCgsを抽出することが出来る。
【数8】
上記(8)式によるCgsの抽出は、上記(7)式に比べて、抽出精度は低下するが、Cgdが未知の条件においても、Cgsを抽出できる利点を持つ。
【0034】
次に、Cgdの値は、図4における期間1のスイッチング波形から、以下の方法で抽出される。期間1では、Vgsの値はほぼ一定であり、ドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則される。よって、Cgdは、期間1におけるスイッチング波形より、上記(6)式を変形した、次式により高精度に抽出することが出来る。
【数9】
上記(9)式における、右辺第二項、及び右辺第三項は、それぞれ期間1におけるVgsの変化、及び装置のゲート−ドレイン間寄生容量21の影響を表す、補正項である。
【0035】
上記(9)式における、右辺第二項に含まれるCgsの値には、例えばインピーダンス測定器を用いた従来技術により抽出したCgs、又は上記(7)式又は(8)式により抽出したCgsの値を用いればよい。
【0036】
また、右辺第二項の影響が小さい場合には、上記(9)式における、右辺第二項を無視することにより簡略化した、次式によりCgdを抽出することが出来る。
【数10】
上記(10)式によるCgdの抽出は、上記(9)式に比べて、抽出精度は低下するが、Cgsが未知の条件においても、Cgdを抽出できる利点を持つ。
【0037】
次に、Ichの値は、図4に示したスイッチング波形から、以下の方法で抽出される。まず、誘導性負荷11に流れる負荷電流ILの値を少しずつ変化させながら、図4に示すようなスイッチング波形を測定する。これによって得られたスイッチング波形における、VgsとVdsの関係をプロットすることで、図5に示すようなグラフが得られる。それぞれのVgsおよびVdsにおいて、電流計19により測定されたドレイン電流Idの値を、Ichとすることで、任意のVgsおよびVdsにおける、Ichの値を抽出することが出来る。
【0038】
以上のように、本発明による誘導性負荷におけるスイッチング波形から、Cgs、Cgd、及びIchを抽出することが可能となる。また、本発明におけるCdsの抽出方法は、従来技術であるインピーダンス測定器による抽出方法を、用いるものとする。
【0039】
また、以上では電力用FETがオン状態からオフ状態に移行する期間における、スイッチング波形を用いて、本発明の説明を行った。同様に方法により、電力用FETがオフ状態からオン状態に移行する期間における、スイッチング波形を用いて、本発明によるパラメータ抽出を行うことが可能である。
【0040】
図6は、図3に示したパラメータ抽出装置によって得られる、電力用FET1が、オフ状態からオン状態に移行する期間におけるスイッチング波形の概略図である。ここで、図6に示したスイッチング波形は、パルス電圧発生器13からパルス電圧が出力される時刻t4、ゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が始まる時刻t5、及びゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が始まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が止まる時刻t6とすることで、時刻t4からt5までの期間3、及び時刻t5からt6までの期間4に分けられる。
【0041】
オフ状態からオン状態へのスイッチング波形を用いた、本発明によるパラメータ抽出方法は、上記で説明した、オン状態からオフ状態へのスイッチング波形を用いた方法における、期間1を期間4、及び期間2を期間3と置き換えることにより、実行することが可能である。
【0042】
ここで、本発明における誘導背負荷によるスイッチング波形を用いた、パラメータ抽出方法の利点を説明する。本発明によるパラメータ抽出方法の利点は、従来技術であるインピーダンス測定器を用いたパラメータ抽出方法に比べて、高精度なパラメータのパラメータ抽出が行えることである。抽出精度が向上する理由は、誘導性負荷を用いることにある。誘導性負荷を用いることで、実際の電力変換回路における電力用FETの動作条件に近い状態でパラメータのパラメータ抽出が可能となり、抽出精度を向上させることが出来る。つまり、実際の電力変換回路は、多くの場合において誘導性負荷を有している。例えば、電力変換回路の一種であるインバータ回路を用いて、交流電動機を駆動する場合、交流電動機における電磁石が誘導性負荷となる。また、電力変換回路の一種であるDC−DCコンバータでは、出力段の低域通過濾波器に用いられるインダクタンスが誘導性負荷となる。
【0043】
このように、誘導性負荷を用いることで、実際の動作条件に近い状態において、パラメータのパラメータ抽出が可能となる。そして、これによって得られた電力用FETの等価回路モデルを用いることで、実際の波形を高精度に再現することが可能な、回路シミュレーションを行うことが可能となる。
【実施例1】
【0044】
以下では、本発明の実施例として、電力用FETの一種であるSi−MOSFETを用いた電力変換回路における、実測値と回路シミュレーション結果の比較を行う。まず、Si−MOSFETのパラメータ抽出を、図3に示したパラメータ抽出装置を用いて行った。パラメータ抽出装置における電圧源12は100Vに設定した。可変抵抗15は、1.2kΩとした。
【0045】
図7は、図3に示したパラメータ抽出装置を用いて測定した、Si−MOSFETにおける、オン状態からオフ状態への移行期間におけるスイッチング波形の一例である。このスイッチング波形から、図4を参照して説明した本発明によるパラメータ抽出方法を用いて、Cgs、Cgd、及びIchを抽出した。また、Cdsは、従来技術であるインピーダンス測定器を用いた方法により抽出した。以上によって得られた、Cgs、Cgd、Cds、及びIchによって図1に示した構成の等価回路モデルを作成し、これを本発明による等価回路モデルとした。
【0046】
また、比較のためにCgs及びCgdの抽出を、従来技術であるインピーダンス測定器を用いた方法により抽出し、上記の本発明による等価回路モデルにおける、CgsおよびCgdの代わりとしたものを、従来技術による等価回路モデルとした。
【0047】
本発明及び従来技術により抽出したCgdの比較を、図8に示す。このように、本発明と従来技術により抽出したCgdの値は異なっていた。
【0048】
本発明及び従来技術により作成した等価回路モデルを用いた回路シミュレーション結果を、電力変換回路における実測値と比較した。ここでは、電力変換回路として、DC−DCコンバータの一種である、降圧チョッパを用いた。図9に一般的な降圧チョッパの概略図を示す。本実験に用いた降圧チョッパにおける、入力電圧は40V、出力電流は4A、及びゲート抵抗は81Ωであった。
【0049】
図10は、降圧チョッパにおけるターンオフ波形の実測値、および従来技術による回路シミュレーション結果の比較である。回路シミュレーション結果におけるVdsの立ち上がりは、実測値に比べて速く、誤差が大きいことが分かる。
【0050】
一方、図11は、実測値、および本発明による回路シミュレーション結果の比較である。実測値と回路シミュレーション結果はほぼ重なっており、図10に示した従来技術に比べて、良い一致が得られていることが分かる。
【0051】
以上のように、本発明を用いることで、実際の電力変換回路における回路シミュレーションを、高精度に行うことができる。
【実施例2】
【0052】
以下では、本発明の実施例として、電力用FETの一種であるGaN−HMETを用いた電力変換回路における、実測値と回路シミュレーション結果の比較を行う。GaNはIII−V族窒化物半導体と呼ばれるワイドバンドギャップ半導体である。
【0053】
まず、GaN−HEMTのパラメータ抽出を、図3に示したパラメータ抽出装置を用いて行った。パラメータ抽出装置における電圧源12は45Vに設定した。可変抵抗15は9.8kΩとした。図3のパラメータ抽出装置を用いて測定したスイッチング波形から、図4を参照して説明した本発明によるパラメータ抽出方法を用いて、Cgs、Cgd、及びIchを抽出した。また、Cdsは、従来技術であるインピーダンス測定器を用いた方法により抽出した。以上によって得られた、Cgs、Cgd、Cds、及びIchによって図1に示した構成の等価回路モデルを作成し、これを本発明による等価回路モデルとした。
【0054】
また、比較のためにCgs及びCgdの抽出を、従来技術であるインピーダンス測定器を用いた方法により抽出し、上記の本発明による等価回路モデルにおける、CgsおよびCgdの代わりとしたものを、従来技術による等価回路モデルとした。
【0055】
本発明及び従来技術により抽出したCgdの比較を、図12に示す。このように、本発明と従来技術により抽出したCgdの値は異なっていた。また、図8に示したSi−MOSFETにおける抽出結果と比較して、本発明および従来技術により抽出したCgdの大小関係は、逆になっていた。
【0056】
本発明及び従来技術により作成した等価回路モデルを用いた回路シミュレーション結果を、電力変換回路における実測値と比較した。ここでは、電力変換回路として、降圧チョッパを用いた。降圧チョッパの入力電圧は40Vとし、ゲート抵抗および出力電流の値を変化させた。
【0057】
図13は、降圧チョッパのゲート抵抗を320Ωとして、出力電流を変化させたときの、スイッチング損失における、実測値、本発明による回路シミュレーション結果、及び従来技術における回路シミュレーション結果の、比較である。ただし、本明細書おけるスイッチング損失とは、電力用FETのターンオンおよびターンオフにおける、VdsおよびId波形の掛け算を時間積分したものとして定義する。図13から分かるように、従来技術による回路シミュレーション結果は、実測値との誤差が大きく、その最大誤差は24%であった。一方で、本発明による回路シミュレーション結果は、実測値との整合性が良く、最大誤差は6%と小さかった。
【0058】
図14は、スイッチング損失の実測値、および本発明による回路シミュレーション結果を、ゲート抵抗を大きく変化させて、比較した結果である。ゲート抵抗を変化させても、本発明による回路シミュレーション結果は、実測値とよく一致していることがわかる。また、出力電流の値を4A、2A、および1Aと変化させても、実測値との良い一致が得られている。本発明による回路シミュレーション結果の、実測値に対する最大誤差は、6%と小さかった。
【0059】
以上のように、本発明を用いることで、実際の電力変換回路における回路シミュレーションを、高精度に行うことができる。
【0060】
また、本明細書では、図1に示したCgs、Cgd、Cds、及びIchからなる電力用FETの等価回路モデルの基本構成を用いて本発明の説明を行ったが、図1は電力用FETの振る舞いを表すために最低限必要な等価回路モデルの構成であり、この基本構成に加えて、ゲート電極に伴う内部抵抗、ドレイン電極に伴う内部抵抗、ソース電極に伴う内部抵抗、ゲート電極に伴う内部インダクタンス、ドレイン電極に伴う内部インダクタンス、及びソース電極に伴う内部インダクタンス等の、パラメータが追加された等価回路モデルの構成においても、本発明を適用することが可能である。
【0061】
また、本実施例では、電力用FETとしてSi−MOSFETおよびGaN−HEMTを用いたパラメータ抽出結果および回路シミュレーション結果を示したが、本発明は、これら以外のあらゆる電力用FETに適用することが可能である。例えば、今回紹介したMOSFETおよびHEMTとは異なる素子構造を有する、MISFET、MESFET、およびSIT等の電力用FETにおいても、本発明を適用することが出来る。また、SiおよびGaN以外にも、SiC化合物半導体、III−V族窒化物半導体、II−VI族酸化物半導体、ダイヤモンド等の半導体材料を用いた電力用FETにおいても、本発明を適用することが出来る。
【0062】
また、本明細書では、電子が電流を運ぶnチャネル型の電力用FETを用いて本発明の説明を行ったが、正孔が電流を運ぶpチャネル型の電力用FETにおいても、本発明である誘導性負荷を用いたスイッチング波形によるパラメータ抽出方法を、適用することが出来る。pチャネル型の電力用FETにおいて、本発明を適用した場合、図4及び図6を参照して説明した、nチャネル型の電力用FETにおけるスイッチング波形に対して、ゲート−ソース間電圧Vgsの上昇、及び下降の関係が逆になる。
【0063】
また、本実施例では、電力変換回路として降圧チョッパを用いたが、本発明は電力用FETを用いる、すべての電力変換回路における回路シミュレーションに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】電力用FETの等価回路モデルの概略図
【図2】従来技術によるインピーダンス測定器を用いたCgd抽出装置の概略図
【図3】本発明によるパラメータ抽出装置の概略図
【図4】パラメータ抽出に用いるオン状態からオフ状態への移行期間におけるスイッチング波形の概略図
【図5】Ichの抽出に用いるスイッチング波形の概略図
【図6】パラメータ抽出に用いるオフ状態からオン状態への移行期間におけるスイッチング波形の概略図
【図7】Si−MOSFETにおけるパラメータ抽出に用いるスイッチング波形の測定結果
【図8】Si−MOSFETにおける、従来技術および本発明によるCgdの抽出結果
【図9】降圧チョッパの概略図
【図10】Si−MOSFETを用いた降圧チョッパにおける、ターンオフ波形の実測値、および従来技術による回路シミュレーション結果
【図11】Si−MOSFETを用いた降圧チョッパにおける、ターンオフ波形の実測値、および本発明による回路シミュレーション結果
【図12】GaN−HEMTおける、従来技術および本発明によるCgdの抽出結果
【図13】GaN−HEMTを用いた降圧チョッパにおいて、出力電流を変化させたときのスイッチング損失の、実測値および回路シミュレーション結果
【図14】GaN−HEMTを用いた降圧チョッパにおいて、ゲート抵抗を変化させたときのスイッチング損失の、実測値および回路シミュレーション結果
【符号の説明】
【0065】
1 抽出対象となる電力用FET
2 インピーダンス測定器
3 電圧源
4 電圧源
5 電圧計
6 電圧計
7 電流計
8 高周波遮断用リアクトル
9 高周波遮断用リアクトル
10 直流遮断用コンデンサ
11 誘導性負荷
12 電圧源
13 パルス電圧発生器
14 転流ダイオード
15 可変抵抗
16 電圧計
17 電圧計
18 電圧計
19 電流計
20 ゲート−ソース間寄生容量
21 ゲート−ドレイン間寄生容量
22 電力用FET
23 転流ダイオード
24 ゲート回路
25 ゲート抵抗
26 出力コンデンサ
27 出力インダクタ
28 入力コンデンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルのパラメータを抽出するパラメータ抽出方法において、
前記等価回路モデルは、ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、ドレイン−ソース間容量Cds、およびチャネル電流源Ichからなるパラメータにより構成されており、
前記電界効果型トランジスタに誘導性負荷、転流ダイオード、及びパルス電圧発生器を接続して、該電界効果型トランジスタをスイッチングし、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccのスイッチング波形から前記ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichを抽出することを特徴とするパラメータ抽出方法。
【請求項2】
前記スイッチング波形は、電界効果型トランジスタがオン状態からオフ状態に移行する期間における、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccの波形であり、
ゲート−ソース間電圧Vgsの下降が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇が始まる時刻t1、ゲート−ソース間電圧Vgs及びドレイン電流Idの下降が始まる時刻t2、及びゲート−ソース間電圧Vgsがパルス電圧発生器の出力電圧Vgccに達する時刻t3として、かつ、時刻t1からt2までを期間1、及び時刻t2からt3までを期間2として、
ゲート−ソース間容量Cgsは、期間2におけるゲート−ソース間電圧Vgsの降下速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間1におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する、
ことから成る請求項1に記載のパラメータ抽出方法。
【請求項3】
前記スイッチング波形は、電界効果型トランジスタがオフ状態からオン状態に移行する期間における、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccの波形であり、
パルス電圧発生器からパルス電圧が出力される時刻t4、ゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が始まる時刻t5、及びゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が始まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が止まる時刻t6として、かつ、時刻t4からt5までを期間3、及び時刻t5からt6までを期間4として、
ゲート−ソース間容量Cgsは、期間3におけるゲート−ソース間電圧Vgsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間4におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの下降速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する、
ことから成る請求項1に記載のパラメータ抽出方法。
【請求項4】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(1)式より抽出する請求項2、又は請求項3に記載のパラメータ抽出方法。
【数1】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項5】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(2)式より抽出する請求項2、又は請求項3に記載のパラメータ抽出方法。
【数2】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項6】
前記ゲート−ソース間容量Cgsを以下の(3)式より抽出する請求項2、又は請求項3に記載のパラメータ抽出方法。
【数3】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項7】
前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(4)式より抽出する請求項2、又は請求項3に記載のパラメータ抽出方法。
【数4】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項8】
電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルのパラメータを抽出するパラメータ抽出装置において、
前記等価回路モデルは、ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、ドレイン−ソース間容量Cds、およびチャネル電流源Ichからなるパラメータにより構成されており、
前記電界効果型トランジスタに誘導性負荷、転流ダイオード、及びパルス電圧発生器を接続して、該電界効果型トランジスタをスイッチングし、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccのスイッチング波形から前記ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichを抽出することを特徴とするパラメータ抽出装置。
【請求項9】
前記スイッチング波形は、電界効果型トランジスタがオン状態からオフ状態に移行する期間における、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccの波形であり、
ゲート−ソース間電圧Vgsの下降が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇が始まる時刻t1、ゲート−ソース間電圧Vgs及びドレイン電流Idの下降が始まる時刻t2、及びゲート−ソース間電圧Vgsがパルス電圧発生器の出力電圧Vgccに達する時刻t3として、かつ、時刻t1からt2までを期間1、及び時刻t2からt3までを期間2として、
ゲート−ソース間容量Cgsは、期間2におけるゲート−ソース間電圧Vgsの降下速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間1におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する、
ことから成る請求項8に記載のパラメータ抽出装置。
【請求項10】
前記スイッチング波形は、電界効果型トランジスタがオフ状態からオン状態に移行する期間における、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccの波形であり、
パルス電圧発生器からパルス電圧が出力される時刻t4、ゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が始まる時刻t5、及びゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が始まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が止まる時刻t6として、かつ、時刻t4からt5までを期間3、及び時刻t5からt6までを期間4として、
ゲート−ソース間容量Cgsは、期間3におけるゲート−ソース間電圧Vgsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間4におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの下降速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する、
ことから成る請求項8に記載のパラメータ抽出装置。
【請求項11】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(1)式より抽出する請求項9、又は請求項10に記載のパラメータ抽出装置。
【数5】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項12】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(2)式より抽出する請求項9、又は請求項10に記載のパラメータ抽出装置。
【数6】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項13】
前記ゲート−ソース間容量Cgsを以下の(3)式より抽出する請求項9、又は請求項10に記載のパラメータ抽出装置。
【数7】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項14】
前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(4)式より抽出する請求項9、又は請求項10に記載のパラメータ抽出装置。
【数8】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項1】
電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルのパラメータを抽出するパラメータ抽出方法において、
前記等価回路モデルは、ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、ドレイン−ソース間容量Cds、およびチャネル電流源Ichからなるパラメータにより構成されており、
前記電界効果型トランジスタに誘導性負荷、転流ダイオード、及びパルス電圧発生器を接続して、該電界効果型トランジスタをスイッチングし、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccのスイッチング波形から前記ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichを抽出することを特徴とするパラメータ抽出方法。
【請求項2】
前記スイッチング波形は、電界効果型トランジスタがオン状態からオフ状態に移行する期間における、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccの波形であり、
ゲート−ソース間電圧Vgsの下降が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇が始まる時刻t1、ゲート−ソース間電圧Vgs及びドレイン電流Idの下降が始まる時刻t2、及びゲート−ソース間電圧Vgsがパルス電圧発生器の出力電圧Vgccに達する時刻t3として、かつ、時刻t1からt2までを期間1、及び時刻t2からt3までを期間2として、
ゲート−ソース間容量Cgsは、期間2におけるゲート−ソース間電圧Vgsの降下速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間1におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する、
ことから成る請求項1に記載のパラメータ抽出方法。
【請求項3】
前記スイッチング波形は、電界効果型トランジスタがオフ状態からオン状態に移行する期間における、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccの波形であり、
パルス電圧発生器からパルス電圧が出力される時刻t4、ゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が始まる時刻t5、及びゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が始まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が止まる時刻t6として、かつ、時刻t4からt5までを期間3、及び時刻t5からt6までを期間4として、
ゲート−ソース間容量Cgsは、期間3におけるゲート−ソース間電圧Vgsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間4におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの下降速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する、
ことから成る請求項1に記載のパラメータ抽出方法。
【請求項4】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(1)式より抽出する請求項2、又は請求項3に記載のパラメータ抽出方法。
【数1】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項5】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(2)式より抽出する請求項2、又は請求項3に記載のパラメータ抽出方法。
【数2】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項6】
前記ゲート−ソース間容量Cgsを以下の(3)式より抽出する請求項2、又は請求項3に記載のパラメータ抽出方法。
【数3】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項7】
前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(4)式より抽出する請求項2、又は請求項3に記載のパラメータ抽出方法。
【数4】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項8】
電力変換回路に用いられる電界効果型トランジスタの等価回路モデルのパラメータを抽出するパラメータ抽出装置において、
前記等価回路モデルは、ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、ドレイン−ソース間容量Cds、およびチャネル電流源Ichからなるパラメータにより構成されており、
前記電界効果型トランジスタに誘導性負荷、転流ダイオード、及びパルス電圧発生器を接続して、該電界効果型トランジスタをスイッチングし、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccのスイッチング波形から前記ゲート−ソース間容量Cgs、ゲート−ドレイン間容量Cgd、及びチャネル電流源Ichを抽出することを特徴とするパラメータ抽出装置。
【請求項9】
前記スイッチング波形は、電界効果型トランジスタがオン状態からオフ状態に移行する期間における、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccの波形であり、
ゲート−ソース間電圧Vgsの下降が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇が始まる時刻t1、ゲート−ソース間電圧Vgs及びドレイン電流Idの下降が始まる時刻t2、及びゲート−ソース間電圧Vgsがパルス電圧発生器の出力電圧Vgccに達する時刻t3として、かつ、時刻t1からt2までを期間1、及び時刻t2からt3までを期間2として、
ゲート−ソース間容量Cgsは、期間2におけるゲート−ソース間電圧Vgsの降下速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間1におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する、
ことから成る請求項8に記載のパラメータ抽出装置。
【請求項10】
前記スイッチング波形は、電界効果型トランジスタがオフ状態からオン状態に移行する期間における、ゲート−ソース間電圧Vgs、ドレイン−ソース間電圧Vds、ドレイン電流Id、及びパルス電圧発生器の出力電圧Vgccの波形であり、
パルス電圧発生器からパルス電圧が出力される時刻t4、ゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が止まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が始まる時刻t5、及びゲート−ソース間電圧Vgsの上昇が始まりドレイン−ソース間電圧Vdsの下降が止まる時刻t6として、かつ、時刻t4からt5までを期間3、及び時刻t5からt6までを期間4として、
ゲート−ソース間容量Cgsは、期間3におけるゲート−ソース間電圧Vgsの上昇速度が、ゲート電流によって、Cgsが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
ゲート−ドレイン間容量Cgdは、期間4におけるドレイン−ソース間電圧Vdsの下降速度が、ゲート電流によって、Cgdが充放電される速度により律則されることを利用して抽出し、
チャネル電流源Ichは、任意のゲート−ソース間電圧Vgsおよびドレイン−ソース間電圧Vdsにおける測定したドレイン電流Idの値として抽出する、
ことから成る請求項8に記載のパラメータ抽出装置。
【請求項11】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(1)式より抽出する請求項9、又は請求項10に記載のパラメータ抽出装置。
【数5】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項12】
前記ゲート−ソース間容量Cgs及び前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(2)式より抽出する請求項9、又は請求項10に記載のパラメータ抽出装置。
【数6】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項13】
前記ゲート−ソース間容量Cgsを以下の(3)式より抽出する請求項9、又は請求項10に記載のパラメータ抽出装置。
【数7】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVgs/dtは単位時間当たりのVgsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、Caはゲート−ソース間寄生容量、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【請求項14】
前記ゲート−ドレイン間容量Cgdを以下の(4)式より抽出する請求項9、又は請求項10に記載のパラメータ抽出装置。
【数8】
ここで、Vgccはゲートに接続したパルス電圧発生器の出力電圧、Vgsはゲート−ソース間電圧、dVds/dtは単位時間当たりのVdsの変化量、Raは前記パルス電圧発生器とゲートの間に挿入した抵抗値、及びCbはゲート−ドレイン間寄生容量である。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−2202(P2010−2202A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158993(P2008−158993)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「情報通信機器用低損失電源基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「情報通信機器用低損失電源基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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