説明

パーフルオロ化合物を必要としない、またはフッ素を含まない、超疎水性エアロゲル

超疎水性コーティング、超疎水性コーティングを含むデバイスおよび物品、ならびに超疎水性コーティングを調製する方法が提供される。例示的な超疎水性デバイスは、基材構成部分と、この基材構成部分を覆って配置された1層または複数の超疎水性コーティングであり、これらの1層または複数の超疎水性コーティングの少なくとも1層が、少なくとも約150°の水接触角および約1°未満の接触角ヒステリシスを有する超疎水性コーティングとを含むことができる。これらの1層または複数の超疎水性コーティングは、超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを含むことができ、このポリシリケートゲルは、シリル化剤により誘導体化された表面官能基を有するシリカ粒子の三次元網目、および多数の孔を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の説明)
(政府の権利)
本発明は、Sandia CorporationとU.S. Department of Energyとの間の契約番号DE−AC04−94AL85000、およびU.S. Air Force Office of Scientific Researchより授与されたFA9550−06−C−0033の下で、開発された。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
(関連出願)
本出願は、2008年6月30日に出願された米国仮特許出願第61/077,145号からの優先権を主張し、この仮特許出願は、その全体が本明細書により参考として援用される。
【0003】
(発明の分野)
本発明の主題は、保護コーティングに、より具体的には超疎水性コーティングに関する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
近年、防衛関連の腐食コストが、年間米国防衛費総額の約7%を超えるものと見積もられており、腐食関連コスト推定額の約20%が、鋼構造体におけるさび落とし(scraping)および再塗装に関連している。これらの驚くほどのコストが鋼の腐食から来ているため、従来のコーティングよりも性能が優れている可能性のある多機能コーティングを開発する途方もなく大きなニーズが存在する。例えば、撥水性の疎水性表面を作り出すことが、金属構成部分のための腐食抑制の分野において、および衣服の化学および生物学剤防護の分野においても、また多くの他の用途において巨大な可能性を有している。耐食性材料を達成するための多くの様々な取組みが試みられている。例えば、耐食性材料を作るために、金属構成部分上に2層コーティングを形成することができる。2層コーティングは、水および/または塩イオンがコーティング表面に浸透するのを防止するために使用される、疎水性下部層と、疎水性もしくは超疎水性表層とを含むことができる。しかし、大部分の超疎水性コーティングは、環境に優しくない恐れがあるフッ素を含有し、また製造するのに費用効果的ではない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、従来技術のこれらおよび他の問題を克服する必要性が、また、フッ素を含有しない、頑丈なおよび高価でない超疎水性コーティングを提供する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
種々の実施形態により、超疎水性コーティングを調製する一方法が存在する。この方法は、第1の溶媒、少なくとも1種のアルコキシシラン前駆体、水および酸を使用して形成される超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを提供するステップであり、このポリシリケートゲルが、表面官能基を有するシリカ粒子の三次元網目および多数の孔を含むことができ、この多数の孔内に流体が配置され、この流体が第1の溶媒、アルコキシシランの酸触媒作用加水分解の1種または複数の反応生成物および未反応材料を含むステップを含むことができる。この方法はまた、このポリシリケートゲルの多数の孔内に存在する第1の溶媒を、第1の溶媒と不混和性である第2の溶媒で置き換えるステップと、表面官能基を、シリル化剤を使用し誘導体化して、表面誘導体化ポリシリケートゲルを形成するステップとを含むこともできる。この方法はさらに、第3の溶媒中において表面誘導体化ポリシリケートゲルのコーティング溶液を形成するステップと、このコーティング溶液を基材表面に塗布して、超疎水性コーティングを形成するステップとを含むことができる。
【0007】
種々の実施形態に従って、基材構成部分と、この基材構成部分を覆って配置された1層または複数の超疎水性コーティングとを含む超疎水性デバイスであって、この1層または複数の超疎水性コーティングの少なくとも1層が、少なくとも約150°の水接触角および約1°未満の接触角ヒステリシスを有する超疎水性デバイスが存在する。この1層または複数の超疎水性コーティングは、超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを含むことができ、このポリシリケートゲルは、シリル化剤により誘導体化された表面官能基を有するシリカ粒子の三次元網目、および多数の孔を含む。
【0008】
別の実施形態に従って、少なくとも1つの領域を含む表面と、その少なくとも1つの領域上に配置された超疎水性コーティングとを含む物品であって、この超疎水性コーティングが、少なくとも約150°の水接触角および約1°未満の接触角ヒステリシスを有している物品が存在する。この超疎水性コーティングは、超高水分含量触媒作用されたポリシリケートゲルを含むことができ、このポリシリケートゲルは、シリル化剤により誘導体化された表面官能基を有するシリカ粒子の三次元網目、および多数の孔を含む。
【0009】
これらの実施形態のさらなる利点は、以下の記述において一部示されるであろうし、また一部はその記述から明らかであろうし、または本発明の実施により学習され得るものである。これらの利点は、添付される特許請求の範囲において特に指摘される要素および組合せによって、実現および達成されるであろう。
【0010】
前述の一般的記述および下記の詳細な記述は両方とも、例示的および説明的であるだけで、特許請求されるものとして本発明を制約するものではないことが理解されるはずである。
【0011】
本明細書に組み込まれその一部を構成する付属の図面は、本発明の実施形態を例示し、その記述と合わせて、本発明の原理を説明する役割を果たすものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本教示に従って超疎水性コーティングを調製する方法を示す図である。
【図2】図2は、本教示に従って例示的超疎水性コーティングの一部の横断面を概略的に示す図である。
【図3】図3は、本教示に従って例示的物品の一部の横断面を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態の説明)
ここで、その例が付属の図面中に例示されている、本実施形態を詳細に参照する。可能な箇所ではどこでも、図面全体にわたって同一の参照番号は、同一もしくは同様な部分を指すのに使用されるであろう。
【0014】
本発明の広範な範囲を示す数的範囲およびパラメータは近似値であるが、特定の例中に示される数値は、できるだけ正確に報告される。しかし、どんな数値も、それぞれのそれらの試験測定において見出される標準偏差から必然的にもたらされるいくつかの誤差を本来的に含むものである。その上、本明細書において開示される全ての範囲は、それらの中に包摂される任意のまた全ての小範囲(sub−range)を包含することを理解されたい。例えば、「10未満」の範囲には、最小値ゼロと最大値10の間の(ゼロと10とを含めて)任意のおよび全ての小範囲、すなわち、ゼロ以上の最小値と10以下の最大値とを有する任意のおよび全ての小範囲、例えば1〜5が含まれ得る。いくつかの場合、パラメータについて表される数値は、マイナス値を取る可能性がある。この場合、「10未満」として表される範囲の例値は、マイナス値、例えば−1、−2、−3、−10、−20、−30などと考えられる可能性がある。
【0015】
本明細書において使用される用語「疎水性の(hydrophobic)」および「疎水性(hydrophobicity)」は、およそ85°以上の水接触角を有する表面(例えばコーティング表面)の濡れ性を指す。用語「超疎水性の(superhydrophobic)」および「超疎水性(superhydrophobicity)」は、およそ150°以上の水接触角、および非常に低い接触角ヒステリシス(Δθ=θ−θ<1)を有する表面(例えばコーティング表面)の濡れ性を指す。典型的には、例えば、疎水性表面上では、表面を適度に傾ける場合、直径2mmの水滴は玉になるが、表面から流出することはない。表面を傾けると、水滴の下り坂側の接触角が増大し、一方水滴の上り坂側の濡れ角が小さくなる。その前進(下り坂)界面を、固体表面の次の増分(increment)まで前進させることが困難であり、またその後退(上り坂)界面を、固体表面のその小部分で動かすことが困難であるので、水滴は、そのまま停止し、もしくはその場に押し付けられる傾向がある。疎水性表面は、前進接触角と後退接触角の差が1°未満である場合、低い接触角ヒステリシスを有すると言われる。
【0016】
本教示の種々の実施形態に従って、図1は、超疎水性コーティングを調製する例示的な方法100を示し、例えば、例示的な超疎水性コーティング210および310が、図2および3中に示される。この方法100は、第1の溶媒と、少なくとも1種のアルコキシシラン前駆体と、水と、酸とを使用して形成される超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを提供するステップ101を含むことができ、その場合、このポリシリケートゲルは、表面官能基を有するシリカ粒子の三次元網目および多数の孔を含むことができる。種々の実施形態において、この多数の孔内に流体を配置することができる。例示的流体には、第1の溶媒、アルコキシシランの酸触媒作用による加水分解の1種もしくは複数の反応生成物、および未反応材料例えばアルコキシシラン前駆体などが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0017】
種々の実施形態において、このアルコキシシラン前駆体は、例えば(R’)Si(OR)4−x(式中、xは1または2であってよく、またRおよびR’は、同一もしくは異なることができ、有機基例えばアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール基など、またはこれらの組合せを含むことができる。)の一般式を有する有機修飾シランモノマーであり得る。このアルコキシシラン前駆体には、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン、ブロモプロピルトリメトキシシラン、ヨードプロピルトリメトキシシランおよびクロロメチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランならびに1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタンを含むがこれらに限定されない、1種もしくは複数のシラン化合物が含まれ得る。いくつかの実施形態において、第1の溶媒は、任意の適切な液体例えば、メタノール、エタノールなど、および少なくとも部分的に水混和性がある任意の有機溶媒であり得る。他の実施形態において、酸は、例えば1.0N塩酸などの任意の適切な酸、および任意の他の水素イオン供給源であり得る。
【0018】
いくつかの実施形態において、超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを提供するステップ101は、水 対 アルコキシシラン前駆体のモル比が約10〜約80の範囲であり得るように、第1の溶媒と、少なくとも1種のアルコキシシラン前駆体と、水と、酸とを使用してポリシリケートゲルを形成するステップを含むことができ、それにより、「超高水分」含量の特質がもたらされる。いくつかの実施形態において、水 対 アルコキシシラン前駆体のモル比は、約80を超えるものであり得る。種々の実施形態において、このポリシリケートゲルは、最初に第1の溶媒をアルコキシシラン前駆体に添加し、続いて水および酸を添加して、反応混合物を形成するステップによって形成することができる。次いでこの反応混合物を撹拌し、約15℃〜約80℃の範囲にある温度におよそ1日〜およそ90日の期間の間、置くことができ、またいくつかの場合、反応混合物を約40℃〜約60℃の範囲にある温度におよそ3日〜およそ10日の期間の間、置くステップによる。反応が完結すると、ポリシリケートゲルは幾分堅くなり得、また使用した第1の溶媒に応じて透明から不透明の外観を有することができる。ポリシリケートゲルは、この段階で弛んだものであるべきではない。反応容器の底を叩くと、ポリシリケートゲル全体にわたって反響をもたらすものであるべきである。過剰の水分、およびより高レベルの酸触媒により、この合成のうち加水分解の部分が支配的な工程となり、縮合が制約を受ける恐れがある。米国特許出願公開第20080113188号、および2007年5月の「Mechanical property characterization of sol−gel derived nanomaterials using an acoustic wave technique」と題するDavid J. Kisselの修士論文は、シリカゲルを形成するゾルゲル法を詳細に記述しており、それらの開示は、それらの全体が本明細書に参照により組み込まれている。
【0019】
超疎水性コーティングを調製する方法100は、ポリシリケートゲルの多数の孔内に配置された流体を、第2の溶媒で置き換えるステップ102をさらに含むことができる。種々の実施形態において、ポリシリケートゲルの多数の孔内に配置された流体を、第2の溶媒で置き換えるステップ102は、超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを砕いて破砕ゲルを形成し、この破砕ゲルに第2の溶媒を添加するステップを含むことができる。例えばヘキサンなどの、第1の溶媒と混和性のない任意の適切な溶媒を、第2の溶媒として使用することができる。第2の溶媒中の破砕ゲルは、約40℃〜約60℃の範囲にある温度に少なくとも約30分間保持して、溶媒交換させることができる。また最後に、破砕ゲルから過剰の第2の溶媒および流体を除去することができる。これらのステップは、少なくとも1回、好ましくは3回繰り返して、ポリシリケートゲルの多数の孔内に配置された大部分の流体の置き換えを可能とすることができる。新たな第2の溶媒をポリシリケートゲルに添加した後、約10℃未満の温度で冷貯蔵場所に貯蔵することができる。
【0020】
超疎水性コーティングを調製する方法100は、1種または複数のシリル化剤を使用し、ポリシリケートゲルの表面官能基を誘導体化して、表面誘導体化ポリシリケートゲルを形成するステップ103をさらに含むことができる。種々の実施形態において、ポリシリケートゲルの表面官能基を誘導体化するステップ103は、シリル化反応が特性として発熱性であるため、ポリシリケートゲルにシリル化剤を徐々に添加するステップを含むことができる。シリル化剤として、例えば、トリメチルクロロシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、および少なくとも1つの疎水性リガンドを含む任意の反応性シランなどの任意の適切なシランを使用することができる。シリル化反応は、溶媒の泡立ちをももたらす可能性があり、泡立ちが止まると直ぐに、ポリシリケートゲルは、約40℃〜約60℃の範囲にある温度でシリル化剤中において約6時間〜約10時間貯蔵して、表面誘導体化ポリシリケートゲルを形成することができ、また過剰のシリル化剤を除去することができる。どんな特定の理論によっても制約されようとせずに、第2の溶媒は、例えば、ポリシリケートゲルの表面ヒドロキシル部分などの表面官能基との反応のためにシリル化剤を輸送する助けになると考えられる。
【0021】
超疎水性コーティングを調製する方法100は、第3の溶媒中の表面誘導体化ポリシリケートゲルのコーティング溶液を形成するステップ104をさらに含むことができる。種々の実施形態において、第3の溶媒中の表面誘導体化ポリシリケートゲルのコーティング溶液を形成するステップ104は、表面誘導体化ポリシリケートゲルを過剰の第2の溶媒で洗浄し、そして表面誘導体化ポリシリケートゲルを第3の溶媒で少なくとも2回洗浄した後、表面誘導体化ポリシリケートゲルに第3の溶媒を添加して、コーティング溶液を形成するステップを含むことができる。ある実施形態において、コーティング溶液を形成するステップ104は、表面誘導体化ポリシリケートゲルを音波処理して凝集体を砕くステップと、第3の溶媒中に表面誘導体化ポリシリケートゲルを再分散させるステップとを含むこともできる。例えばエタノールなどの任意の適切な第3の溶媒を使用することができる。いくつかの実施形態において、第3の溶媒は、第1の溶媒と同じであり得る。超疎水性コーティングを調製する方法100はさらに、例えば、浸し塗り、はけ塗り、ローラ塗り、吹付け塗り、スピンコーティング、キャスティングおよび流し塗りなどの任意の適切な技術を使用して、基材にコーティング溶液を塗布することにより超疎水性コーティングを形成する105のステップを含むことができる。基材表面のために、例えば、金属、シリコンウエハ、ガラス、セラミック、プラスチックおよび布などの任意の適切な材料を使用することができる。
【0022】
図2は、本教示の種々の実施形態に従って、例示的超疎水性デバイス200の一部の横断面を概略的に図示する。例示的超疎水性デバイス200は、基材構成部分220と、この基材構成部分220を覆って配置された1層または複数の超疎水性コーティング210とを含むことができ、この1層または複数の超疎水性コーティングの少なくとも1層は、少なくとも約150°の水接触角および約1°未満の接触角ヒステリシスを有する。この基材構成部分のために、例えば、金属、シリコンウエハ、ガラス、セラミック、プラスチックおよび布などの任意の適切な材料を使用することができる。種々の実施形態において、それぞれの1層または複数の超疎水性コーティングは、超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを含むことができ、このポリシリケートゲルは、シリル化剤により誘導体化された表面官能基を有するシリカ粒子の三次元網目および多数の孔を含むことができる。例示的なシリル化剤には、トリメチルクロロシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザンまたは、少なくとも1つの疎水性リガンドを含む任意の反応性シランが含まれ得るが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、それぞれの1層または複数の超疎水性コーティング210は、化学組成および厚さに関して同一であり得る。実施形態において、1層または複数の超疎水性コーティング210の少なくとも1層は、化学組成および厚さに関して異なり得る。種々の実施形態において、1層または複数の超疎水性コーティングのそれぞれは、約0.2μm〜約3μmの厚さを有することができる。
【0023】
ある実施形態において、1層または複数の超疎水性コーティングの少なくとも1層は、約1800時間以上の間、腐食に耐えることができる。いくつかの他の実施形態において、1層または複数の超疎水性コーティングの少なくとも1層は、水環境における、防氷コーティング、防曇コーティング、抗菌コーティング、耐汚染性コーティング、または摩擦抵抗低減コーティングとして使用することができる。
【0024】
図3は、本教示の種々の実施形態に従って、例示的物品300の一部の横断面を概略的に図示する。例示的物品300は、表面320を含むことができ、この表面320は、少なくとも1つの領域330と、この少なくとも1つの領域330を覆って配置された超疎水性コーティング310とを含み、この場合この超疎水性コーティングは、少なくとも約150°の水接触角、および約1°未満の接触角ヒステリシスを有する。表面320の少なくとも1つの領域330のために、金属、シリコンウエハ、ガラス、セラミック、プラスチックおよび布を含むが、それらに限定されない任意の適切な材料を使用することができる。種々の実施形態において、超疎水性コーティング320は、超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを含むことができ、この場合このポリシリケートゲルは、シリル化剤により誘導体化された表面官能基を有するシリカ粒子の三次元網目および多数の孔を含むことができる。例示的なシリル化剤には、トリメチルクロロシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザンまたは、少なくとも1つの疎水性リガンドを含む任意の反応性シランが含まれ得るが、それらに限定されない。種々の実施形態において、超疎水性コーティング310は、約0.2μm〜約3μmの厚さを有することができる。
【0025】
ある実施形態において、超疎水性コーティング320は、約1800時間以上腐食に耐えることができる。種々の実施形態において、例示的物品300には、それらに限定されずにアンテナ、窓、自動車、航空機、建物、布地、ボート、部分的におよび/または完全に水没した水中構造体が含まれ得る。そして超疎水性コーティング320は、水環境における、防氷コーティング、防曇コーティング、抗菌コーティング、耐汚染性コーティング、および摩擦抵抗低減コーティングを含むがこれらに限定されない様々な用途に使用することができる。
【0026】
撥水性である同様なゾルゲル系コーティングのように、本明細書において開示される超疎水性コーティング210、310は、他の薄膜エアロゲルと同様な形で調製される。しかし、超疎水性コーティング210、310の表面化学的性質、すなわち、アルキルシリル部分(誘導体化表面官能基)が、その固有の材料粗さおよび超撥水性に起因する。この特質が、本開示の超疎水性コーティング210、310を、よりコストが安いものとし、またそれらを生物学的用途のために安全なものとしている。また、本開示の超疎水性コーティング210、310の製造においてフルオロ−アルキルシランおよび同様のフッ素化試薬を使用しないことによって、超疎水性コーティング210、310およびそれらの製造方法100は、環境に優しいものである。本開示の超疎水性コーティング210、310の他の特徴は、約600nmにおいて約1.06〜約1.08の範囲における低い屈折率、および光学的透明さである。
【0027】
本明細書において以下に実施例が示され、本開示の実施において利用することができる反応物および反応条件の種々の量および型を例示している。しかし、本開示は、本実施例において使用されるものよりも他の反応物および反応条件の量および型で、また、上記の開示に従いおよび本明細書において以後指摘されて、得られるデバイス、種々の異なる性状および用途で、実施することができる点は明らかであろう。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
超疎水性コーティングの形成
【0029】
【表1】

表1に示した試薬を、それらを掲げた順序で合わせた。反応混合物を撹拌し、約50℃でおよそ120時間の期間、置いた。反応が完結すると、ゲルは不透明な外観を有し、幾分堅かった。反応容器の底を叩くと、ゲル全体にわたって反響をもたらした。清浄な器具(例えば、撹拌棒、スパチュラなど)でゲルを砕き、反応容器内の破砕したゲルにおよそ100mlのヘキサンを添加した。約50℃で少なくとも30分間溶媒交換させた。溶媒交換期間の後、ガラスピペットおよび/またはシリンジで過剰のヘキサンを除去し、ヘキサン洗浄を少なくとももう一度繰り返した。過剰のヘキサンを排出した後、新たなヘキサン中で、ゲルを冷貯蔵場所に置いた。およそ50mlのトリメチルクロロシラン(TMCS)(クロロトリメチルシランとも呼ばれる)を、反応の発熱性のため、約8ml〜約12mlの増加分で徐々にゲルに添加した。泡立ちが止まると直ぐに、反応容器を閉じ、約50℃で少なくとも約8時間置いた。ガラスピペットで過剰のTMCSを除去し、過剰のヘキサン(およそ100ml)で洗浄した。ヘキサン洗浄を少なくとももう一度繰り返した。過剰のヘキサンを除去した後、ヘキサンで行ったように、過剰のエタノール(およそ100ml)で洗浄し、本溶液調製前に少なくとも1回繰り返した。最後の洗浄ステップから過剰のエタノールを除去し、本超疎水性コーティングの所望の厚さのために適正な体積のエタノールを添加した。約2000rpmで約30秒間のスピンコーティングにより形成され、約100℃で約15分間熱処理された種々の超疎水性コーティングの厚さを、表2に示している。浸し塗りまたは吹付け塗りが、はるかにより厚い超疎水性コーティングをもたらし得る点に注目されたい。
【0030】
【表2】

例示的な超疎水性コーティングの1つは、約369.47nmの厚さ、および約600nmにおける約1.0782の屈折率を有していた。
【0031】
本発明は、1つまたは複数の実施態様に関して例証されているが、添付した特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱せずに例示した実施例に対して変更および/または修正を行うことができる。さらに、いくつかの実施態様の1つのみに関して本発明の特定の特徴が開示され得ているが、このような特徴は、任意の所与のもしくは特定の機能について所望得、および有利であり得るように、他の実施態様の1つまたは複数の他の特徴と組み合わせることができる。その上、用語「含む(including)」、「含む(includes)」、「有する(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」またはこれらの変形形態が、詳細な説明(detailed description)および特許請求の範囲(claims)のいずれかで使用される範囲まで、このような用語は、用語「含む(comprising)」と同様な様式で包括的であることを意図されている。本明細書において使用される語句、例えば、A、BまたはCの「1つまたは複数(one or more of)」は、次のいずれかを意味している:A、BまたはC単独のいずれか;あるいは、AとB、BとC、AとCなどの2つの組合せ;あるいは、A、BおよびCの3つの組合せ。
【0032】
本発明の他の実施形態は、本明細書、および本明細書において開示される本発明の実施を考慮すれば、当業者には明らかであろう。明細書および実施例は例示的のみのものとみなされ、本発明の真の範囲および趣旨は、下記の特許請求の範囲によって示されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超疎水性コーティングを調製する方法であって、
第1の溶媒、少なくとも1種のアルコキシシラン前駆体、水および酸を使用して形成される超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを提供するステップであり、該ポリシリケートゲルが、表面官能基を有するシリカ粒子の三次元網目、および多数の孔を含み、該多数の孔内に流体が配置され、該流体が該第1の溶媒、該アルコキシシランの酸触媒作用加水分解の1種または複数の反応生成物および未反応材料を含むステップと、
該ポリシリケートゲルの該多数の孔内に配置される該流体を、該第1の溶媒と不混和性である第2の溶媒で置き換えるステップと、
該表面官能基を、シリル化剤を使用し誘導体化して、表面誘導体化ポリシリケートゲルを形成するステップと、
第3の溶媒中において該表面誘導体化ポリシリケートゲルのコーティング溶液を形成するステップと、
該コーティング溶液を基材表面に塗布して、超疎水性コーティングを形成するステップと
を含む方法。
【請求項2】
超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを提供する前記ステップが、水 対 アルコキシシラン前駆体のモル比が約10〜約80の範囲にあるように、前記第1の溶媒、少なくとも1種のアルコキシシラン前駆体、水および酸を使用して該ポリシリケートゲルを形成するステップを含む、請求項1に記載の超疎水性コーティングを調製する方法。
【請求項3】
前記アルコキシシラン前駆体が、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン、ブロモプロピルトリメトキシシラン、ヨードプロピルトリメトキシシランおよびクロロメチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランならびに1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタンからなる群から選択される1種または複数のシラン化合物を含む、請求項1に記載の超疎水性コーティングを調製する方法。
【請求項4】
前記ポリシリケートゲルの前記多数の孔内に配置される前記流体を、第2の溶媒で置き換える前記ステップが、
(a)前記超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを砕いて、破砕ゲルを形成するステップと、
(b)該破砕ゲルに第2の溶媒を添加し、約40℃〜約60℃の範囲にある温度で少なくとも約30分間保持するステップと、
(c)該破砕ゲルから、過剰な該第2の溶媒および該第1の溶媒を除去するステップと、
(d)ステップbおよびcを、少なくとも1回繰り返すステップと
を含む、請求項1に記載の超疎水性コーティングを調製する方法。
【請求項5】
前記表面官能基を、シリル化剤を使用し誘導体化して、表面誘導体化ポリシリケートゲルを形成する前記ステップが、
前記ポリシリケートゲルにシリル化剤を徐々に添加するステップであり、該シリル化剤が、トリメチルクロロシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、および少なくとも1つの疎水性リガンドを含む任意の反応性シランの1種または複数を含むステップと、
該ポリシリケートゲルを、約40℃〜約60℃の範囲にある温度でシリル化剤中において約6時間〜約10時間貯蔵して、表面誘導体化ポリシリケートゲルを形成するステップと、
過剰の該シリル化剤を除去するステップと
を含む、請求項1に記載の超疎水性コーティングを調製する方法。
【請求項6】
第3の溶媒中において前記表面誘導体化ポリシリケートゲルのコーティング溶液を形成する前記ステップが、
該表面誘導体化ポリシリケートゲルを前記第2の溶媒で洗浄するステップと、
該表面誘導体化ポリシリケートゲルを第3の溶媒で少なくとも2回洗浄するステップと、
該表面誘導体化ポリシリケートゲルに該第3の溶媒を添加して、コーティング溶液を形成するステップと
を含む、請求項1に記載の超疎水性コーティングを調製する方法。
【請求項7】
前記第3の溶媒が、前記第1の溶媒と同じである、請求項1に記載の超疎水性コーティングを調製する方法。
【請求項8】
前記コーティング溶液を基材表面に塗布する前記ステップが、浸し塗り、はけ塗り、ローラ塗り、吹付け塗り、スピンコーティング、キャスティングおよび流し塗りの少なくとも1種を使用して該コーティング溶液を塗布するステップを含む、請求項1に記載の超疎水性コーティングを調製する方法。
【請求項9】
前記基材表面が、金属、シリコンウエハ、ガラス、セラミック、プラスチックおよび布の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の超疎水性コーティングを調製する方法。
【請求項10】
基材構成部分と、
該基材構成部分を覆って配置された1層または複数の超疎水性コーティングであり、超高水分含量酸触媒作用によるポリシリケートゲルを含み、該ポリシリケートゲルが、シリル化剤により誘導体化された表面官能基を有するシリカ粒子の三次元網目、および多数の孔を含む1層または複数の超疎水性コーティングと
を備える超疎水性デバイスであって、
該1層または複数の超疎水性コーティングの少なくとも1層が、少なくとも約150°の水接触角および約1°未満の接触角ヒステリシスを有する超疎水性デバイス。
【請求項11】
前記基材構成部分が、金属、シリコンウエハ、ガラス、セラミック、プラスチックおよび布の少なくとも1つを含む、請求項10に記載の超疎水性デバイス。
【請求項12】
前記シリル化剤が、トリメチルクロロシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、および少なくとも1つの疎水性リガンドを含む任意の反応性シランの1種または複数を含む、請求項10に記載の超疎水性デバイス。
【請求項13】
それぞれの前記1層または複数の超疎水性コーティングが、約0.2μm〜約3μmの範囲にある厚さを有する、請求項10に記載の超疎水性デバイス。
【請求項14】
前記1層または複数の超疎水性コーティングの少なくとも1層が、水環境における、防氷コーティング、防曇コーティング、抗菌コーティング、耐汚染性コーティング、および摩擦抵抗低減コーティングの少なくとも1つとして使用される、請求項10に記載の超疎水性デバイス。
【請求項15】
前記1層または複数の超疎水性コーティングの少なくとも1層が、約1800時間以上の間、腐食に耐える、請求項10に記載の超疎水性デバイス。
【請求項16】
少なくとも1つの領域を含む表面と、
該少なくとも1つの領域を覆って配置された超疎水性コーティングであり、超高水分含量触媒作用によるポリシリケートゲルを含み、該ポリシリケートゲルが、シリル化剤により誘導体化された表面官能基を有するシリカ粒子の三次元網目、および多数の孔を含む超疎水性コーティングと
を備える物品であって、
該超疎水性コーティングが、少なくとも約150°の水接触角、および約1°未満の接触角ヒステリシスを有する物品。
【請求項17】
前記シリル化剤が、トリメチルクロロシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、および少なくとも1つの疎水性リガンドを含む任意の反応性シランからなる群から選択される、請求項16に記載の物品。
【請求項18】
前記超疎水性コーティングが、約0.2μm〜約3μmの範囲にある厚さを有する、請求項16に記載の物品。
【請求項19】
前記超疎水性コーティングが、約1800時間以上の間、腐食に耐える、請求項16に記載の物品。
【請求項20】
前記超疎水性コーティングが、水環境における、防氷コーティング、防曇コーティング、抗菌コーティング、耐汚染性コーティング、および摩擦抵抗低減コーティングの少なくとも1つのために使用される、請求項16に記載の物品。
【請求項21】
アンテナ、窓、自動車、航空機、建物、布地、ボート、部分的および/または完全に水没した水中構造体の少なくとも1つを備える、請求項16に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−526835(P2011−526835A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516803(P2011−516803)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/049208
【国際公開番号】WO2010/002859
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(503128320)
【氏名又は名称原語表記】STC.UNM
【Fターム(参考)】