説明

ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法

【課題】低コストで製作でき、セラミックス基板と金属板との接合強度が高く信頼性の高いヒートシンク付パワーモジュールを製出することができるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックス基板11と第一、第二の金属板22、23との間に、固着層24,25を形成する固着層形成工程と、第二の金属板23と天板部41との間に介在層26を形成する介在層形成工程と、天板部41とフィン部46との間に接合層41Bを形成する接合層形成工程と、第一の金属板22、セラミックス基板11、第二の金属板23、天板部41、フィン部46を積層する積層工程と、加熱工程と、第1溶融金属領域、第2溶融金属領域、溶融金属部を凝固させる凝固工程と、を有し、セラミックス基板11と第一、第二の金属板22、23、第二の金属板23と天板部41、天板部41とフィン部46とを、同時に接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは、発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、AlN(窒化アルミ)やSi(窒化ケイ素)などからなるセラミックス基板上にAl(アルミニウム)の第一の金属板が接合されるとともに、基板の反対側にAl(アルミニウム)の第二の金属板を介してヒートシンクが接続されたヒートシンク付パワーモジュール用基板が用いられる。
このようなヒートシンク付パワーモジュール基板では、第一の金属板は回路層として形成され、第一の金属板の上には、はんだ材を介してパワー素子の半導体チップが搭載される。
【0003】
従来、前述のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、例えば特許文献1に記載されているように、以下の手順で製造される。
まず、セラミックス基板の一方の面にろう材を介して第一の金属板を積層し、セラミックス基板の他方の面にろう材を介して第二の金属板を積層して、これを積層方向に所定の圧力で加圧するとともに加熱し、セラミックス基板と第一の金属板及び第二の金属板とを接合させる(セラミックス基板接合工程)。
次に、第二の金属板のうちセラミックス基板とは反対側の面に、ろう材を介してヒートシンクの天板部を積層し、積層方向に所定の圧力で加圧するとともに加熱し、これにより第二の金属板とヒートシンクの天板部とを接合させる(ヒートシンク接合工程)。
【0004】
ここで、パワーモジュール用基板を冷却するためのヒートシンクとしては、天板部とこの天板部から立設されたフィン部とを備えたものが提案されている。従来、天板部とフィン部との接合には、例えば特許文献2に示すように、ろう付けが利用されている。このようなろう付けを行う場合、アルミニウム材の表面やろう材の表面に酸化被膜が存在するため、酸化被膜を除去するためのフラックスが使用されることがある。
【0005】
ここで、天板部とフィン部とを接合してヒートシンクを形成する工程(ヒートシンク形成工程)については、パワーモジュール用基板と天板部とを接合した後にフィン部を接合したり、予め天板部にフィン部を接合した状態でパワーモジュール用基板を接合したりしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−009212号公報
【特許文献2】特開2003−318578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ヒートシンクのフィン部は、その肉厚がうすく、かつ、例えばA3003といったアルミニウム合金で構成されており、比較的低い温度で溶融してしまうことから、このフィン部を天板部にろう付け等で接合する場合には、接合温度を低く設定する必要があった。また、上述のように、フラックスを用いて酸化被膜を除去していることから、フィン部の接合は窒素ガス雰囲気で行っていた。
【0008】
一方、セラミックス基板と金属板とを接合してパワーモジュール用基板を製出する際には、接合温度が低いと接合強度が不足し、熱サイクル負荷の信頼性が低下するおそれがある。このため、接合温度を高く設定する必要があった。また、ろう材を介して接合する場合、金属板の表面及びろう材の表面に形成された酸化被膜を除去するために、真空雰囲気で接合を行っていた。
【0009】
そこで、上述のように、まず、セラミックス基板と金属板とを高温で接合してパワーモジュール用基板を製出しておき、その後、このパワーモジュール用基板とヒートシンクの天板部とを接合していたのである。
このように、ヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造する際には、接合工程を2回又は3回行う必要があり、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造コストが増加してしまうといった問題があった。
【0010】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セラミックス基板と金属板の接合、ヒートシンクの天板部とフィン部との接合及び天板部とパワーモジュール用基板の接合を、同時に行い、低コストで製作することが可能であるとともに、セラミックス基板と金属板との接合強度が高く信頼性の高いヒートシンク付パワーモジュールを製出することができるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板と、該セラミックス基板の表面に一面が接合されたアルミニウムからなる第一の金属板と、前記セラミックス基板の裏面に一面が接合されたアルミニウムからなる第二の金属板と、該第二の金属板の他面に接合されたヒートシンクと、を備えるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、前記ヒートシンクは、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる天板部と、この天板部から立設されたフィン部と、を備えており、前記第一の金属板の一面と前記セラミックス基板の表面のうちの少なくとも一方と、前記第二の金属板の一面と前記セラミックス基板の裏面のうちの少なくとも一方とに、Cuを固着して、固着層を形成する固着層形成工程と、前記第二の金属板と前記天板部との間に介在層を形成する介在層形成工程と、前記天板部と前記フィン部との間に接合層を形成する接合層形成工程と、前記固着層を介して前記セラミックス基板と前記第一の金属板及び前記第二の金属板とを積層し、前記介在層を介して前記第二の金属板と前記天板部とを積層し、前記接合層を介して前記天板部と前記フィン部とを積層する積層工程と、積層された前記第一の金属板と前記セラミックス基板と前記第二の金属板と前記天板部と前記フィン部と積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記第一の金属板との界面に第1溶融金属領域を形成し、前記セラミックス基板と前記第二の金属板との界面に第2溶融金属領域を形成するとともに、前記第二の金属板と前記天板部との界面及び前記天板部と前記フィン部との界面に、溶融金属部を形成する加熱工程と、これら第1溶融金属領域、第2溶融金属領域、溶融金属部を凝固させることによって、前記第一の金属板と前記セラミックス基板、前記セラミックス基板と前記第二の金属板、前記第二の金属板と前記天板部、前記天板部と前記フィン部とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、前記固着層の元素を前記第一の金属板及び前記第二の金属板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記第一の金属板との界面に第1溶融金属領域を形成するとともに前記セラミックス基板と前記第二の金属板との界面に第2溶融金属領域を形成する構成とされており、前記第一の金属板と前記セラミックス基板、前記セラミックス基板と前記第二の金属板、前記第二の金属板と前記天板部、前記天板部と前記フィン部とを、同時に接合することを特徴としている。
【0012】
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法においては、前記第一の金属板と前記セラミックス基板、前記セラミックス基板と前記第二の金属板、前記第二の金属板と前記天板部、前記天板部と前記フィン部とを、同時に接合する構成としていることから、接合工程を1回で行うことができ、このヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造コストを大幅に削減することができる。また、パワーモジュール用基板に不要な熱負荷が作用することがなく、反り等の発生を抑制することができる。
【0013】
そして、前記セラミックス基板と前記第一、第二の金属板との界面部分に、Cuを固着した固着層を形成し、前記固着層の元素を前記第一、第二の金属板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記第一、第二の金属板との界面に第1、第2溶融金属領域を形成し、この第1、第2溶融金属領域を凝固させることで、セラミックス基板と第一、第二の金属板を接合する構成としているので、比較的低温条件下であっても、セラミックス基板と第一、第二の金属板とを強固に接合することが可能となる。すなわち、Cuは、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、Cuを第一、第二の金属板側に拡散させることで、低温条件下でも第1、第2溶融金属領域を確実に形成することができるのである。さらに、Cuが存在することによって接合界面が活性化すると推測され、低温状況下でもセラミックス基板と第一、第二の金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0014】
なお、前記セラミックス基板の接合面及び前記金属板の接合面のうち少なくとも一方に直接Cuを固着させる構成としているが、生産性の観点から、金属板の接合面にCuを固着させることが好ましい。セラミックス基板の接合面にCuを固着する場合、一枚毎のセラミックス基板にそれぞれCuを固着しなければならない。これに対して、金属板の接合面へCuを固着する場合には、ロール状に巻かれた長尺の金属条に対し、その一端から他端にまで連続的にCuを固着することが可能となり、生産性に優れている。
【0015】
ここで、前記接合層形成工程において、前記天板部と前記フィン部との界面に、ろう材とともに酸化被膜を除去するためのフラックスを配設することが好ましい。
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板材の表面には酸化被膜が存在しているが、本発明では、フラックスによって酸化被膜を除去してフィン部と天板部とをろう付けしていることから、低温条件下でもフィン部と天板部とを強固に接合することができる。
また、このように、フィン部と天板部とをフラックスを用いる場合には、従来、窒素ガス雰囲気でろう付けを行っていた。本発明では、セラミックス基板と第一の金属板及び第二の金属板との接合を、Cuの拡散を利用して行っていることから、窒素ガス雰囲気でセラミックス基板と第一の金属板及び第二の金属板との接合を行うことができる。
【0016】
また、前記固着層形成工程において、前記第一の金属板の一面と前記セラミックス基板の表面のうちの少なくとも一方と、前記第二の金属板の一面と前記セラミックス基板の裏面のうちの少なくとも一方とに、Cuに加えて、Si,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着することが好ましい。
Si,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiといった元素は、アルミニウムの融点をさらに降下させる元素であるため、比較的低温条件であっても、第一、第二の金属板とセラミックス基板との界面に、第1、第2溶融金属領域を確実に形成することができる。
【0017】
さらに、前記固着層形成工程では、CuとともにAlを固着させることが好ましい。
この場合、CuとともにAlを固着させているので、形成される固着層がAlを含有することになり、加熱工程において、この固着層が優先的に溶融し、第一、第二の金属板とセラミックス基板との界面に第1、第2溶融金属領域を確実に形成することが可能となり、第一、第二の金属板とセラミックス基板とを強固に接合することができる。なお、CuとともにAlを固着させるには、CuとAlとを同時に蒸着してもよいし、CuとAlの合金をターゲットとしてスパッタリングしてもよい。
【0018】
また、前記介在層形成工程においては、前記第二の金属板の他面と前記天板部の接合面のうちの少なくとも一方に、Cu又はSiのうちの少なくとも1種以上を固着し、前記介在層として金属固着層を形成することが好ましい。
この場合、前記介在層形成工程において、前記ヒートシンクの天板部と前記第二の金属板との界面部分に、介在層として、Cu又はSiのうちの1種以上を固着した金属固着層を形成し、この金属固着層の元素を前記天板部及び前記第二の金属板側に拡散させることにより、天板部と第二の金属板との界面に溶融金属領域(溶融金属部)を形成し、この溶融金属領域を凝固させることで、天板部と第二の金属板を接合する構成としているので、比較的低温条件下であっても、天板部と第二の金属板とを強固に接合することが可能となる。
【0019】
ここで、前記介在層形成工程において、前記第二の金属板の他面と前記ヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方に、Cu又はSiのうちの少なくとも1種以上に加えて、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着することが好ましい。
Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiといった元素は、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、比較的低温条件においても、ヒートシンクの天板部と第二の金属板との界面に溶融金属領域を確実に形成することができる。
【0020】
また、前記介在層形成工程では、前記第二の金属板の他面と前記ヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方に、Cu又はSiのうちの1種以上とともにAlを固着させることが好ましい。
この場合、Cu又はSiのうちの1種以上とともにAlを固着させているので、形成される金属固着層がAlを含有することになり、ヒートシンク加熱工程において、この金属固着層が優先的に溶融し、天板部と第二の金属板との界面に溶融金属領域(溶融金属部)を確実に形成することが可能となり、天板部と第二の金属板とを強固に接合することができる。なお、Cu又はSiのうちの1種以上とともにAlを固着させるには、Cu又はSiとAlとを同時に蒸着してもよいし、Cu又はSiとAlの合金をターゲットとしてスパッタリングしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、セラミックス基板と金属板の接合、ヒートシンクの天板部とフィン部との接合及び天板部とパワーモジュール用基板の接合を、同時に行い、低コストで製作することが可能であるとともに、セラミックス基板と金属板との接合強度が高く信頼性の高いヒートシンク付パワーモジュールを製出することができるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によって製出されたヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の回路層、金属層のCu濃度分布及びGe濃度分布を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の金属層及びヒートシンク(天板部)のCu濃度分布及びGe濃度分布を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図5】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図6】図5におけるセラミックス基板と第一、第二の金属板(回路層、金属層)との接合界面近傍を示す説明図である。
【図7】図5における天板部と第二の金属板(金属層)との接合界面近傍を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びこのヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、ヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0024】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。なお、本実施形態では、図1に示すように、セラミック基板11の幅は、回路層12及び金属層13の幅より広く設定されている。
【0025】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に導電性を有する金属板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に金属板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0026】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものである。本実施形態におけるヒートシンク40は、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と、この天板部41に対向するように配置された底板部45と、天板部41と底板部45との間に介装されたコルゲートフィン46と、を備えており、天板部41と底板部45とコルゲートフィン46とによって、冷却媒体が流通する流路42が画成されている。
【0027】
ここで、このヒートシンク40は、天板部41とコルゲートフィン46、コルゲートフィン46と底板部45が、それぞれろう付けされることによって構成されている。本実施形態では、図5に示すように、天板部41及び底板部45は、基材層41A、45Aと、基材層41A、45Aよりも融点の低い材料からなる接合層41B、45Bが積層された積層アルミ板で構成されており、接合層41B、45Bがコルゲートフィン46側を向くように、天板部41及び底板部45が配設されている。つまり、天板部41の基材層41Aが金属層13に接する構成とされているのである。
なお、本実施形態では、基材層41A,45AがA3003合金で構成されており、接合層41B、45BがA4045合金で構成されている。
【0028】
そして、図2に示すように、セラミックス基板11と回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)との接合界面30においては、回路層12(金属板22)及び金属層13(金属板23)に、Cuに加えてSi,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶している。なお、本実施形態では、添加元素としてGeが固溶している。
【0029】
ここで、回路層12及び金属層13の接合界面30近傍には、接合界面30から積層方向に離間するにしたがい漸次Cu濃度及びGe濃度が低下する濃度傾斜層33が形成されている。ここで、この濃度傾斜層33の接合界面30側(回路層12及び金属層13の接合界面30近傍)のCuと添加元素(本実施形態ではGe)の合計の濃度が、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、回路層12及び金属層13の接合界面30近傍のCu濃度及びGe濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)で、接合界面30から50μmまでの範囲内を5点測定した平均値である。
【0030】
また、図3に示すように、金属層13(金属板23)と天板部41との接合界面36においては、金属層13(金属板23)及び天板部41に、Cuに加えてSi,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶している。なお、本実施形態では、添加元素としてGeが固溶している。
金属層13及び天板部41の接合界面36近傍には、接合界面36から積層方向に離間するにしたがい漸次Cu濃度及びGe濃度が低下する濃度傾斜層38、39が形成されている。ここで、この濃度傾斜層38、39の接合界面36側(金属層13及び天板部41の接合界面36近傍)のCuと添加元素(本実施形態ではGe)の合計の濃度が、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、金属層13及び天板部41の接合界面36近傍のCuの濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)で、接合界面36から50μmまでの範囲内を5点測定した平均値である。
【0031】
以下に、前述の構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について説明する。
【0032】
(固着層形成工程S01)
まず、図5に示すように、回路層12となる金属板22の一面に、スパッタリングによってCuを固着して第1固着層24を形成するとともに、金属層13となる金属板23の一面に、スパッタリングによってCuを固着して第2固着層25を形成する
ここで、本実施形態では、Cuとともに、Si,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着しており、より具体的には、CuとGeとを固着している。第1固着層24及び第2固着層25におけるCu量は0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下、Ge量は0.002mg/cm以上2.5mg/cm以下に設定されている。
【0033】
(介在層形成工程S02)
また、金属板23の他面にCuを固着して、介在層として金属固着層26を形成する。ここで、本実施形態では、Cuとともに、Si,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着しており、より具体的には、CuとGeとを固着している。金属固着層26におけるCu量は0.08mg/cm以上2.7mg/cm以下、Ge量は0.002mg/cm以上2.5mg/cm以下に設定されている。
【0034】
(接合層形成工程S03)
さらに、天板部41とコルゲートフィン46との間に接合層を形成する。本実施形態では、上述のように、天板部41及び底板部45に予め接合層41B,45Bが形成されている。
【0035】
(積層工程S04)
次に、図5に示すように、金属板22をセラミックス基板11の一方の面側に積層し、かつ、金属板23をセラミックス基板11の他方の面側に積層する。さらに、金属板23の他方の面側に天板部41、コルゲートフィン46、底板部45を積層する。
このとき、図5に示すように、金属板22の第1固着層24、金属板23の第2固着層25が形成された面がセラミックス基板11を向くように、金属板22、23を積層する。すなわち、金属板22、23とセラミックス基板11との間にそれぞれ第1固着層24、第2固着層25を介在させているのである。また、金属板23の金属固着層26が形成された面が、天板部41側を向くように配置し、金属板23と天板部41との間に金属固着層26を介在させる。
さらに、天板部41の接合層41B及び底板部45の接合層45Bがコルゲートフィン46側を向くように、天板部41及び底板部45が配置され、天板部41とコルゲートフィン46、底板部45とコルゲートフィン46との間に、例えば、KAlFを主成分とするフラックス(図示なし)が供給される。
【0036】
(加熱工程S05)
次に、金属板22、セラミックス基板11、金属板23、天板部41、コルゲートフィン46、底板部45を積層方向に加圧(圧力0〜3kgf/cm)した状態で、雰囲気加熱炉内に装入して加熱する。
これにより、図6に示すように、金属板22、23とセラミックス基板11との界面にそれぞれ第一溶融金属領域27、第二溶融金属領域28を形成する。また、図7に示すように、金属板23と天板部41との界面に溶融金属領域29を形成する。さらに、接合層41B、45Bが溶融することで、天板部41とコルゲートフィン46、コルゲートフィン46と底板部45との界面に溶融金属層が形成される。
ここで、本実施形態では、雰囲気加熱炉内は窒素ガス雰囲気とされており、加熱温度は550℃以上630℃以下の範囲内に設定している。
【0037】
(溶融金属凝固工程S06)
次に、第一溶融金属領域27、第二溶融金属領域28が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、第一溶融金属領域27、第二溶融金属領域28中のCu及びGeが、さらに金属板22、23側へと拡散していくことになる。これにより、第一溶融金属領域27、第二溶融金属領域28であった部分のCu濃度及びGe濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより、セラミックス基板11と金属板22、23とが接合される。
同様に、溶融金属領域29中のCu及びGeが、さらに金属板23側及び天板部41側へと拡散し、溶融金属領域29であった部分のCu濃度及びGe濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより、金属板23と天板部41とが接合される。
【0038】
つまり、セラミックス基板11と金属板22,23、及び、天板部41と金属板23とは、いわゆる拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
また、天板部41とコルゲートフィン46、底板部45とコルゲートフィン46の間に形成された溶融金属層が凝固することによって、天板部41とコルゲートフィン46、底板部45とコルゲートフィン46とがろう付けされることになる。このとき、天板部41、コルゲートフィン46、底板部45の表面には、酸化被膜が形成されているが、前述のフラックスによってこれらの酸化被膜が除去されることになる。
【0039】
このようにして、天板部41とコルゲートフィン46と底板部45とがろう付けされてヒートシンク40が形成されるとともに、このヒートシンク40とパワーモジュール用基板10とが接合されて本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0040】
以上のような構成とされた本実施形態によれば、セラミックス基板11と金属板22,23とを接合する工程と、天板部41とコルゲートフィン46と底板部45とを接合してヒートシンク40を形成する工程と、金属板23と天板部41とを接合する工程と、を同時に行う構成としていることから、接合工程を1回で行うことができ、このヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造コストを大幅に削減することができる。また、パワーモジュール用基板に不要な熱負荷が作用することがなく、反り等の発生を抑制することができる。
【0041】
そして、セラミックス基板11と金属板22,23との界面部分に、Cu及びGeを固着した第1、第2固着層24、25を形成し、第1、第2固着層24、25のCu及びBGeを金属板22,23側に拡散させることにより、セラミックス基板11と金属板22,23との界面に第1、第2溶融金属領域27,28を形成し、この第1、第2溶融金属領域27,28を凝固させることで、セラミックス基板11と金属板22,23を接合する構成としているので、比較的低温条件下であっても、セラミックス基板11と金属板22,23とを強固に接合することが可能となる。すなわち、Cu及びGeは、アルミニウムの融点を降下させる元素であるため、Cu及びGeを金属板22,23側に拡散させることで、低温条件下でも第1、第2溶融金属領域27,28を確実に形成することができるのである。
さらに、Cuが存在することによって接合界面近傍が活性化すると推測され、低温状況下でもセラミックス基板11と金属板22,23とを強固に接合すること可能となるのである。
【0042】
また、天板部41とコルゲートフィン46、コルゲートフィン46と底板部45との接合を、酸化被膜を除去するためのフラックスを用いたろう付けによって行っているので、天板部41とコルゲートフィン46、コルゲートフィン46と底板部45とを確実に接合することができる。
【0043】
ここで、ヒートシンク40を、フラックスを用いたろう付けによって形成する場合、窒素ガス雰囲気で550℃以上630℃以下の温度条件で接合することになるが、本実施形態では、前述のように、セラミックス基板11と金属板22,23との接合に、Cuと添加元素(Ge)とを用いていて、前述のように、低温条件での接合及び窒素ガス雰囲気での接合が可能なことから、セラミックス基板11と金属板22,23との接合と同時に、天板部41とコルゲートフィン46と底板部45とを、ろう付けによって接合してヒートシンク40を製出することができる。よって、このヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造工程を省略することができ、製作コストの削減を図ることができる。
【0044】
さらに、本実施形態では、金属板23と天板部41との間に、CuとともにGeを固着させ、これらCuとGeを拡散させることによって溶融金属領域29を形成し、さらに溶融金属領域29中のCuとGeを拡散させて、ヒートシンク40の天板部41とパワーモジュール用基板10とを接合しているので、比較的低温条件においても、ヒートシンク40の天板部41とパワーモジュール用基板10とを確実に接合することが可能となる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層及び金属層を構成する金属板を純度99.99%の純アルミニウムの圧延板としたものとして説明したが、これに限定されることはなく、純度99%のアルミニウム(2Nアルミニウム)であってもよい。
また、セラミックス基板をAlNで構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、Si、Al等の他のセラミックスで構成されていてもよい。
【0046】
さらに、固着層形成工程において、スパッタによってCuや添加元素を固着するものとして説明したが、これに限定されることはなく、蒸着やCVD等でCuや添加元素を固着させてもよい。
また、固着層形成工程において、Cuや添加元素とともにAlを固着する構成としてもよい。
【0047】
さらに、ヒートシンクの天板部と金属層(金属板)とを、金属固着層を用いて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、天板部と金属層とをろう付けによって接合してもよい。すなわち、介在層としてろう材を配設してもよい。
また、本実施形態では、ヒートシンクの上に一つのパワーモジュール用基板が接合された構成として説明したが、これに限定されることはなく、一つのヒートシンクの上に複数のパワーモジュール用基板が接合されていてもよい。
【0048】
また、天板部及び底板部が、基材層と接合層とを備えた積層アルミ材で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、コルゲートフィンを、例えばA3003からなる芯材とこの芯材の両面にA4045からなる接合層とを備えたクラッド材で構成してもよい。この場合、天板部及び底板部は、単純なアルミニウム板を用いることができる。
【0049】
また、天板部、コルゲートフィン、底板部の材質は、本実施形態に限定されることはない。
さらに、コルゲートフィンの形状等を含め、ヒートシンクの構造も本実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0050】
3 半導体チップ(電子部品)
10 パワーモジュール用基板
11 セラミックス基板
12 回路層(第一の金属板)
13 金属層(第二の金属板)
40 ヒートシンク
24 第1固着層(固着層)
25 第2固着層(固着層)
26 金属固着層(介在層)
27 第一溶融金属領域
28 第二溶融金属領域
29 溶融金属領域(溶融金属部)
41B 接合層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、該セラミックス基板の表面に一面が接合されたアルミニウムからなる第一の金属板と、前記セラミックス基板の裏面に一面が接合されたアルミニウムからなる第二の金属板と、該第二の金属板の他面に接合されたヒートシンクと、を備えるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記ヒートシンクは、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる天板部と、この天板部から立設されたフィン部と、を備えており、
前記第一の金属板の一面と前記セラミックス基板の表面のうちの少なくとも一方と、前記第二の金属板の一面と前記セラミックス基板の裏面のうちの少なくとも一方とに、Cuを固着して、固着層を形成する固着層形成工程と、
前記第二の金属板と前記天板部との間に介在層を形成する介在層形成工程と、
前記天板部と前記フィン部との間に接合層を形成する接合層形成工程と、
前記固着層を介して前記セラミックス基板と前記第一の金属板及び前記第二の金属板とを積層し、前記介在層を介して前記第二の金属板と前記天板部とを積層し、前記接合層を介して前記天板部と前記フィン部とを積層する積層工程と、
積層された前記第一の金属板と前記セラミックス基板と前記第二の金属板と前記天板部と前記フィン部と積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記第一の金属板との界面に第1溶融金属領域を形成し、前記セラミックス基板と前記第二の金属板との界面に第2溶融金属領域を形成するとともに、前記第二の金属板と前記天板部との界面及び前記天板部と前記フィン部との界面に、溶融金属部を形成する加熱工程と、
これら第1溶融金属領域、第2溶融金属領域、溶融金属部を凝固させることによって、前記第一の金属板と前記セラミックス基板、前記セラミックス基板と前記第二の金属板、前記第二の金属板と前記天板部、前記天板部と前記フィン部とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、前記固着層の元素を前記第一の金属板及び前記第二の金属板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記第一の金属板との界面に第1溶融金属領域を形成するとともに前記セラミックス基板と前記第二の金属板との界面に第2溶融金属領域を形成する構成とされており、
前記第一の金属板と前記セラミックス基板、前記セラミックス基板と前記第二の金属板、前記第二の金属板と前記天板部、前記天板部と前記フィン部とを、同時に接合することを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記接合層形成工程において、前記天板部と前記フィン部との界面に、ろう材とともに酸化被膜を除去するためのフラックスを配設することを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記固着層形成工程において、前記第一の金属板の一面と前記セラミックス基板の表面のうちの少なくとも一方と、前記第二の金属板の一面と前記セラミックス基板の裏面のうちの少なくとも一方とに、Cuに加えて、Si,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
前記固着層形成工程では、CuとともにAlを固着させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記介在層形成工程においては、前記第二の金属板の他面と前記天板部の接合面のうちの少なくとも一方に、Cu又はSiのうちの少なくとも1種以上を固着し、前記介在層として金属固着層を形成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記介在層形成工程において、前記第二の金属板の他面と前記ヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方に、Cu又はSiのうちの少なくとも1種以上に加えて、Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着することを特徴とする請求項5に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
前記介在層形成工程では、前記第二の金属板の他面と前記ヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方に、Cu又はSiのうちの1種以上とともにAlを固着させることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−109000(P2011−109000A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264978(P2009−264978)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】