説明

ピストンの潤滑油供給構造及びピストンリング

【課題】ピストンリング周辺へ十分な潤滑油を供給することのできるピストンの潤滑油供給構造及びピストンリングを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の潤滑油供給構造100において、コンロッド2の内部にはコンロッド内部通路19が設けられ、ピストンピン3の内部にはピストンピン内部通路20が設けられ、ピストン1の内部にはピストン内部通路21が設けられている。これらを連続することで、潤滑油供給路22が形成される。さらに、リング溝16に設ける当該供給路22の出口位置をリング溝側面16a又はリング溝上面16bに開口することで、燃焼圧力作用時であっても、当該供給路22の出口が閉塞されず、継続して潤滑油がピストンリング周辺に供給される。また、潤滑油供給構造100は、潤滑油の蒸発を抑え、ピストンリング周辺の適切な潤滑の維持を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのピストンの潤滑油供給構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンに装着したピストンリング周辺の十分な潤滑を確保するため、ピストンのトップリング溝と当該ピストンの裏面とを連通する連通路を設け、潤滑油を上記ピストンの裏面側より上記連通路を通して上記トップリング溝の下面から供給する潤滑油供給手段が提案されている(特許文献1)。
【0003】
一方、特許文献2には燃料である軽油を潤滑油として利用する軽油潤滑式ディーゼルエンジンが開示されている。このような軽油潤滑式ディーゼルエンジンでは、燃料となる軽油がエンジン各部の潤滑油としても用いられ、エンジン各部を循環する。このため、潤滑専用のオイルは不要であり、オイル交換の手間も省くことができる。
【0004】
【特許文献1】特開平8−200152号公報
【特許文献2】実開昭60−194112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で提案されている潤滑油供給手段によれば、潤滑油をトップリング溝へ積極的に供給することができる。
【0006】
しかし、潤滑油を供給する連通路のトップリング溝における出口の配置によっては、ピストンへの燃焼圧力作用時に、燃焼ガス圧によって押し下げられるピストンリングが、前記出口を閉塞するおそれがあった。
【0007】
また、特許文献2で開示された軽油潤滑式ディーゼルエンジンにおいて、潤滑油としても利用される軽油は蒸発しやすいため、ピストンの摺動面における十分な量の潤滑油を維持することが困難である。
【0008】
そこで、本発明はピストンリングとシリンダライナとの摺動面に十分な潤滑油を供給することのできるピストンの潤滑油供給構造及びピストンリングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するための、本発明のピストンの潤滑油供給構造は、コンロッド、ピストンピン及びピストンのそれぞれの内部に設けた通路を連続させ、ピストンに設けたリング溝に潤滑油を供給する潤滑油供給路を備え、当該潤滑油供給路の出口をリング溝側面又はリング溝上面に開口したことを特徴とする(請求項1)。このような構成とすることにより、潤滑ポンプで加圧された潤滑油は、潤滑油供給路を通じ、リング溝に開口した出口からリング溝に供給され、ピストンリング周辺へ供給される。ここで、潤滑油供給路の出口をリング溝側面又はリング溝上面に開口することで、潤滑油がリング溝へ供給される。これは、燃焼圧力作用時の燃焼ガス圧でピストンリングが押し下げられ、リング溝下面に密着する場合であっても、ピストンリングが当該潤滑油供給路の出口を閉塞することがないためである。また、こうしたピストンなどの内部を通過する潤滑油供給構造では、経路が閉じているため、潤滑油を加圧してリング溝へ圧送することができるうえ、潤滑油の蒸発が抑えられるという利点もある。このため、例えば、蒸発しやすい軽油を潤滑油として利用するディーゼルエンジンにおいてもピストンリング周辺の適切な潤滑を維持することができる。
【0010】
ところで、前記潤滑油供給構造では、燃焼室から漏洩するブローバイガスが前記潤滑油供給路へ流入してしまう恐れがある。そこで、前記潤滑油供給構造は前記潤滑油供給路へのブローバイガス流入防止手段を備えることもできる(請求項2)。例えば、前記潤滑油供給路の出口に、ブローバイガスによって当該出口を閉塞する弁を前記ブローバイガス流入防止手段として備えた構成とすることができる(請求項3)。
【0011】
また、本発明における他のピストンの潤滑油供給構造は、ピストンの内部に形成したクーリングチャネルから、前記ピストンの外周壁に形成したリング溝に潤滑油を供給する潤滑油供給路を備えたことを特徴とする(請求項4)。クーリングチャネルは、ピストンをその内部から冷却するために、ピストン内に設けた通路であり、当該クーリングチャネルには冷却用の潤滑油が循環している。本発明は当該クーリングチャネル内を流通する潤滑油をピストンリング周辺の潤滑に利用する。ここで、前記潤滑油供給路の出口をリング溝下面に開口する構成とすれば(請求項5)、潤滑油供給路へのブローバイガスの流入防止に有効である。
【0012】
さらに、ピストンリングとシリンダライナとの摺動面へ供給される潤滑油の漏洩又は潤滑油供給路の油圧の低下を防止するために、合口形状がリング本体を当該リング本体の内外方向に分断する段付合口形状であるピストンリング(請求項7)をリング溝に装着することができる(請求項6)。これにより、効果的に潤滑油をピストンリング周辺に維持し、ピストンリング周辺の良好な潤滑を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、潤滑油供給路の出口をピストンリングによって閉塞されない位置に形成するので、潤滑油がリング溝へ供給できる。また、ピストン、ピストンピン及びコンロッドの内部を通過する潤滑油供給路が形成されたことで、潤滑油を加圧してリング溝へ圧送することができるうえ、潤滑油の蒸発が抑えられる。このような潤滑油供給構造を構成することで、リング溝へ適切な潤滑が維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面とともに詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
ここでは、本発明の実施例1について説明する。図1は本発明の潤滑油供給構造100の説明図である。この潤滑油供給構造100が組み込まれたエンジンは、燃料を潤滑油として利用する形式のエンジンである。このようなエンジンにおけるピストン周辺の主な構成要素はピストン1、コンロッド2及びピストンピン3であり、ピストン1とコンロッド2はピストンピン3によって連結されている。これらの構成要素内部にそれぞれ設けられた通路が連続することによって、本発明における潤滑油供給路22が形成されている。すなわち、コンロッド2の内部にはコンロッド内部通路19が設けられ、ピストンピン3の内部にはピストンピン内部通路20が設けられ、ピストン1の内部にはピストン内部通路21が設けられており、これらを連続することで、潤滑油供給路22が形成されている。
【0016】
ピストン1の側壁には下側から第1リング溝16、第2リング溝17、第3リング溝18の3条の溝が設けられている。また、ピストン1には前記のようにピストン内部通路21が設けられている。このピストン内部通路21の入口14はピストンピン3との摺動部に開口し、出口15は第1リング溝16のリング溝側面16aに開口している。この出口15にはチェックボール7が備えられている。このチェックボール7は本発明におけるブローバイガス流入防止手段に相当するもので、ピストン内部通路21を閉塞できる径を有している。また、第1リング溝16にはオイルリング5とコイルばね6が装着され、オイルリング5はコイルばね6の張力によってシリンダライナ4側へ押し付けられる。さらに、コイルばね6はチェックボール7をリング溝16内に保持する。第2リング溝17と第3リング溝18にはそれぞれ、コンプレッションリング8、9が装着されている。
【0017】
コンロッド内部通路19は、コンロッド2内部を通過する潤滑油の通路である。このコンロッド内部通路19の入口はコンロッド2の図示しない大端部に設けられ、出口11はピストンピン摺動部に開口するように小端部に設けられている。
【0018】
ピストンピン3は断面円形の筒状体の両側開口をピストンピン栓10によって閉塞して形成されている。また、筒状体の側壁には入口12及び出口13が開口している。このような筒状体の内部空間が本発明における通路、すなわち、ピストンピン内部通路20を形成している。ここで、前記ピストンピン3の側壁に設けた入口12はコンロッド2の小端部の出口11と合致する位置に開口し、一方、出口13はピストン1に設けたピストン内部通路21の入口14と合致する位置に開口している。このように、コンロッド内部通路19、ピストンピン内部通路20、ピストン内部通路21を連続させて、潤滑油供給路22が形成されている。
【0019】
このような潤滑油供給路22を備えることで、図示しない潤滑ポンプから圧送される潤滑油が矢示23で示すように、コンロッド内部通路19、ピストンピン内部通路20、ピストン内部通路21を経由して、第1リング溝16へ供給される。なお、実施例1ではリング溝側面16aに開口しているピストン内部通路21の出口15は、燃焼圧力によって押し下げられたピストンリングに閉塞されない他の位置、例えば、リング溝上面16bに移設することもできる。
【0020】
次に、前記、ピストン内部通路21の出口15に装着したチェックボール7の作用について説明する。図2及び図3はそれぞれ図1で示した第1リング溝16周辺の拡大図である。図2のように第1リング溝16側からピストン内部通路21へ流体が流入しようとするとチェックボール7が出口15側へ押し付けられて出口15を閉塞する。こうして、燃焼室から漏洩するブローバイガスの潤滑油供給路22への流入が防止される。一方、図3のように、ピストン内部通路21から第1リング溝16へ潤滑油が流出する状況では、潤滑油の圧力によってチェックボール7が出口15から離間する。これにより、出口15が開口状態となり、潤滑油の供給が確保される。なお、前記したコイルばね6が第1リング溝16からチェックボール7の脱落を防止している。このチェックボール7の作用によって、潤滑油の供給を確保しつつ、潤滑油供給路22へのブローバイガスの流入防止が図られる。
【0021】
続いて、リング溝16に装着したオイルリング5について説明する。このオイルリング5は本発明におけるピストンリングに相当する。図4はオイルリング5の合口部を拡大して示した斜視図であって、図5はオイルリング5のリング本体51における合口部の拡大平面図である。オイルリング5の合口形状はリング本体51をリング本体51の内外方向に分断する段付形状となっている。図5で示すようにオイルリング本体51の合口は第1端部52と第2端部56とで構成されている。第1端部は第1端部第1面53、第1端部第2面54、第1端部第3面55によって図5のような段付形状を成している。一方、第2端部56は第1端部52に合致する形状を有し、第1端部第1面53に対向する第2端部第1面57、第1端部第2面54に対向する第2端部第2面58、第1端部第3面55に対向する第2端部第3面59を備えている。
【0022】
図6はリング溝に装着された状態のオイルリング5の合口部周辺を拡大して示した平面図である。また、図7は図6におけるA−A線断面図である。本実施例の潤滑油供給構造において、ピストン内部から供給される潤滑油は加圧されているため、本実施例のオイルリング5は、オイルリング合口からの潤滑油漏洩を抑制する構成となっている。オイルリング51をリング溝に装着すると、図6、図7に示すように第1端部第2面54と第2端部第2面58が密着し、両面間の隙間を塞ぐ。そのため、ピストン内部からシリンダライナ側へ向かう潤滑油は第2端部56に堰きとめられ、潤滑油の過剰な漏洩を抑えることができる。このようにして、潤滑油の無駄な浪費や油圧低下が防がれる。なお、潤滑油はオイルリング51に設けられている図示しない供給口からシリンダライナへ供給され、周囲の潤滑が維持される。
【0023】
以上説明したように、コンロッド、ピストンピン及びピストンの内部にそれぞれ設けられた通路を連続させて潤滑油供給路を形成し、当該潤滑油供給路の開口位置をリング溝側面に設け、当該開口位置にチェックボールの弁を備え、本発明の潤滑油供給構造を構成することで、本発明の課題である十分な潤滑油の供給が可能となる。また、オイルリングの合口形状がリング本体をリング本体の内外方向に分断する形状を有することで、潤滑油の過剰な漏洩を防止し、潤滑油の無駄な浪費や油圧低下を回避し、ピストン摺動部の適切な潤滑の維持を実現する。
【実施例2】
【0024】
次に、本発明の実施例2について説明する。図8は実施例2の潤滑油供給構造の一部を拡大して示した説明図である。実施例1ではブローバイガス防止手段として、第1リング溝16に設けたピストン内部通路21の出口15にチェックボール7を備えていた。それに対し、実施例2ではブローバイガス防止手段として、図8で示すように第1リング溝16の下面16cにブローバイガス排出溝24を備えた点が実施例1との相違点ある。
【0025】
ピストン内部通路21は加圧された潤滑油によって占められているため、前記のように、第1リング溝16の下面16cにブローバイガス排出溝24を設けておけば、ブローバイガスが第1リング溝16へ流入したときに、ブローバイガスは圧の低いクランクケース側へ排出されることとなる。このようにして、潤滑油供給路へのブローバイガスの流入防止、潤滑油の供給が図られる。なお、その他の構成は実施例1と同一であるから、実施例1と同一の構成要素については、図面中、同一の参照番号を付し、その詳細な説明は省略する。
【実施例3】
【0026】
次に、本発明の実施例3について説明する。図9は実施例3の潤滑油供給構造200の説明図であって、図10は図9における潤滑油供給路38周辺の拡大図である。潤滑油供給構造200では、ピストン31内部に形成したクーリングチャネル37とピストン外周壁に形成した第3リング溝44とを連通させた通路を潤滑油供給路38として、クーリングチャネル37から第3リング溝44へ潤滑油の供給が行われる。これによりクーリングチャネル37内を流通する潤滑油が、第2コンプレッションリング41とシリンダライナ34との潤滑に利用される。また、第3リング溝44に設けた潤滑油供給路の出口39は、図10に示すように、第3リング溝44の下面44cであって、第2コンプレッションリング41に覆われる位置に開口されている。これは、燃焼圧力作用時に、第2コンプレッションリング41がリング溝44の下面44cへ押し付けられることで、出口39が閉塞され、燃焼室から漏洩するブローバイガスの流入が防止されるようにするためである。このようにクーリングチャネルからリング溝へ潤滑油供給路を構成することで、ピストンリングとシリンダライナとの摺動面へ潤滑油を供給することができる。
【0027】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、さらに本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1の潤滑油供給構造の説明図である。
【図2】図1におけるリング溝周辺部の拡大図であって、燃焼圧によるブローバイガス力を受けている状態を示す図である。
【図3】図1におけるリング溝周辺部の拡大図であって、リング溝に潤滑油が供給されている状態を示す図である。
【図4】実施例1のオイルリング合口部の斜視図である。
【図5】実施例1のオイルリング本体における合口部の平面図である。
【図6】実施例1のリング溝に装着したオイルリング合口部の平面図である。
【図7】図6におけるA−A線断面図である。
【図8】実施例2の潤滑油供給構造におけるリング溝周辺の拡大図である。
【図9】実施例3の潤滑油供給構造の説明図である。
【図10】図9における潤滑油供給路周辺の拡大図である。
【符号の説明】
【0029】
1、31 ピストン
2、32 コンロッド
3、33 ピストンピン
4、34 シリンダライナ
5 オイルリング
6 コイルばね
7 チェックボール
8 第1コンプレッションリング
9、41 第2コンプレッションリング
10 ピストンピン栓
16 第1リング溝
16a 第1リング溝側面
16b 第1リング溝上面
16c 第1リング溝下面
17 第2リング溝
18、44 第3リング溝
19 コンロッド内部通路
20 ピストンピン内部通路
21 ピストン内部通路
22、38 潤滑油供給路
24 ブローバイガス排出溝
37 クーリングチャネル
39 潤滑油供給路出口
44c 第3リング溝下面
51 オイルリング本体
100、200 潤滑油供給構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンロッド、ピストンピン及びピストンのそれぞれの内部に設けた通路を連続させ、ピストンに設けたリング溝に潤滑油を供給する潤滑油供給路を備え、当該潤滑油供給路の出口をリング溝側面又はリング溝上面に開口したことを特徴とするピストンの潤滑油供給構造。
【請求項2】
請求項1記載のピストンの潤滑油供給構造であって、前記潤滑油供給路へのブローバイガス流入防止手段を備えたことを特徴とするピストンの潤滑油供給構造。
【請求項3】
請求項1記載のピストンの潤滑油供給構造であって、前記潤滑油供給路の出口に、ブローバイガスによって当該出口を閉塞する弁を備えたことを特徴とするピストンの潤滑油供給構造。
【請求項4】
ピストンの内部に形成したクーリングチャネルから、前記ピストンの外周壁に形成したリング溝に潤滑油を供給する潤滑油供給路を備えたことを特徴とするピストンの潤滑油供給構造。
【請求項5】
請求項4記載のピストンの潤滑油供給構造であって、前記潤滑油供給路の出口をリング溝下面に開口したことを特徴とするピストンの潤滑油供給構造。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項記載のピストンの潤滑油供給構造であって、前記リング溝に装着したピストンリングを備え、当該ピストンリングの合口形状はリング本体を当該リング本体の内外方向に分断する段付形状であることを特徴とするピストンの潤滑油供給構造。
【請求項7】
リング本体を当該リング本体の内外方向に分断する段付合口を備えたことを特徴とするピストンリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−101594(P2008−101594A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287012(P2006−287012)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】