説明

フェノール性水酸基を有する化合物、熱硬化性樹脂組成物および半導体封止材料

【課題】 熱硬化性樹脂組成物とした場合に、耐熱性と熱時低弾性の硬化物物性を有するものとなるフェノール性水酸基を有する化合物、耐熱性と熱時低弾性の硬化物物性を有する熱硬化性樹脂組成物および半導体封止材料を提供する。
【解決手段】 フェノール性水酸基を有する共役ジエン構造(a)およびフェノール性水酸基を有する親ジエン構造(b)からディールスアルダー反応によって形成される付加反応部を分子内に1個有し、前記付加反応部が前記共役ジエン構造より構成される構造および前記親ジエン構造より構成される構造の両方に少なくとも1個のフェノール性水酸基を有する化合物であって、前記ディールスアルダー付加反応部が200℃以上で解離することを特徴とするフェノール性水酸基を有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール性水酸基を有する化合物、これを含む熱硬化性樹脂組成物、および前記熱硬化性樹脂組成物で構成される半導体封止材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、各種基材に対して、接着性、耐熱性、耐薬品性、電気特性および機械特性等に優れるため、塗料、接着剤および各種成形品等に広く用いられており、半導体封止材料においても、主たる樹脂成分として使用されている。
【0003】
近年、半導体素子の高集積度化の進歩は、目覚ましく、これに伴って、素子の大型化が進む一方、高密度実装の点からは、パッケージの小型薄型化が要求されている。これらの技術動向は、従来の半導体封止材料では、パッケージクラックなどの問題を引き起こしており、その解決手段として封止材料には、より一層の低応力化が求められている。
【0004】
封止材料の低応力化の手法には、大きく分けて、低膨張率化と低弾性率化の2方法がある。
前者は、主に低線膨張材である溶融シリカ等の充填剤を増量することにより達成される。しかし、充填剤の増量は、成形時の流動性を低下させ、成形不良の原因となるため、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル樹脂など溶融粘度の小さい樹脂を用いるが、充填剤の増量には限界がある。
【0005】
後者は、主に可撓剤を添加する方法が用いられる。この時、エポキシ樹脂等ベース樹脂と可撓剤との相溶性が良好であると、封止材料硬化物のガラス転移温度(Tg)が下がり、耐熱性の低下を誘発し、好ましくない。低応力性と高耐熱性を両立させるには、封止材料において、樹脂に可撓剤成分を分散させた海島構造を構築し、エポキシ樹脂の高耐熱性を損なわない硬化構造にする手法が効果的である。封止材料樹脂の可撓剤に関してはシリコーン樹脂が分散性に優れており、用いられている。
シリコーン可撓剤は、当初、シリコーンオイルをベース樹脂に、単純に添加する添加型可撓剤が開発されたが、シリコーンのしみ出しによる外観不良等成形上好ましくない問題が発生した。そこで、このしみ出しを押さえ、さらに分散性を良好にして、低応力化を向上させるために、反応性官能基を含有したシリコーン樹脂を、ベース樹脂と、あらかじめ反応させて用いる樹脂変性型可撓剤が開発された。この樹脂変性型シリコーン可撓剤としては、これまで種々のシリコーン変性エポキシ樹脂(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)、シリコーン変性フェノール樹脂(例えば、特許文献1参照。)等が検討された。
【0006】
しかし、現行の半導体実装方式では、実装工程において、パッケージが200℃を超える高温になり、これら手法では低応力化が十分でなく、パッケージクラックの問題を解消できない。そのため、新たな低応力化の手法開発が望まれていた。
【特許文献1】特公昭61−48544号公報
【特許文献2】特公昭63−60069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、熱硬化性樹脂組成物とした場合に、耐熱性と熱時低弾性の硬化物物性を有するものとなるフェノール性水酸基を有する化合物を提供する。
また、本発明は、耐熱性と熱時低弾性の硬化物物性を有する熱硬化性樹脂組成物および半導体封止材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、下記第(1)項から第(8)項の本発明により解決される。
(1) フェノール性水酸基を有する共役ジエン構造(a)およびフェノール性水酸基を有する親ジエン構造(b)からディールスアルダー反応によって形成される付加反応部を分子内に1個有し、前記付加反応部が前記共役ジエン構造より構成される構造および前記親ジエン構造より構成される構造の両方に少なくとも1個のフェノール性水酸基を有する化合物であって、前記ディールスアルダー付加反応部が200℃以上で解離することを特徴とするフェノール性水酸基を有する化合物。
(2) 前記共役ジエン構造がアントラセン構造またはナフタレン構造である第(1)項記載のフェノール性水酸基を有する化合物。
(3) 前記親ジエン構造がマレイミド構造である第(1)項または第(2)項に記載のフェノール性水酸基を有する化合物。
(4) 前記フェノール性水酸基を有する共役ジエン構造(a)は、アリル基を有するフェノール類とヒドロキシフェニルマレイミドとを60〜150℃で付加反応させて得られるものである第(1)項〜第(3)項のいずれかに記載のフェノール性水酸基を有する化合物。
(5) エポキシ樹脂とフェノール樹脂と第(1)項〜第(4)項のいずれかに記載のフェノール性水酸基を有する化合物を含む熱硬化性樹脂組成物。
(6) エポキシ樹脂がフェノールアラルキル樹脂型エポキシ樹脂および/またはビフェニル型エポキシ樹脂である第(5)項記載の熱硬化性樹脂組成物。
(7) フェノール樹脂がフェノールアラルキル樹脂である第(5)項または第(6)項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
(8) 第(5)項〜第(7)項のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物で構成される半導体封止材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物とした場合に、耐熱性と熱時低弾性の硬化物物性を有するものとなるフェノール性水酸基を有する化合物を提供することができる。
また、本発明によれば、耐熱性と熱時低弾性の硬化物物性を有する熱硬化性樹脂組成物および半導体封止材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、フェノール性水酸基を有する共役ジエン構造(a)およびフェノール性水酸基を有する親ジエン構造(b)からディールスアルダー反応によって形成される付加反応部を分子内に1個有し、前記付加反応部が前記共役ジエン構造より構成される構造および前記親ジエン構造より構成される構造の両方に少なくとも1個のフェノール性水酸基を有する化合物であって、前記ディールスアルダー付加反応部が200℃以上で解離することを特徴とするフェノール性水酸基を有する化合物である。
共役ジエンと親ジエンが付加反応して6員環を形成するいわゆるディールスアルダー反応は平衡反応であり、付加反応が進行する温度よりも、さらに高温では、付加反応部が解離して、元の共役ジエンと親ジエンに戻る逆反応である、レトロディールスアルダー反応が進行することは広く知られている。
【0011】
本発明のフェノール性水酸基を有する化合物は、分子内にディールスアルダー反応による付加反応部を有するため、例えばエポキシ樹脂のように、フェノール性水酸基と反応する官能基を有する樹脂の硬化剤として使用すると、200℃以上の高温においては、フェノール性水酸基を有する化合物内に存在する付加反応部が、レトロディールスアルダー反応によって解離して、硬化物の架橋密度が低下し、内部応力が低下する。一方、200℃以下の低温域では、解離していた付加反応部が再結合することにより、諸物性を維持することができることを技術骨子とするものである。これにより、前記フェノール性水酸基を有する化合物を、熱硬化性樹脂組成物に用いた場合、熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、特に熱時低弾性を示すものとなる。
【0012】
本発明のフェノール性水酸基を有する化合物は、フェノール性水酸基を有する共役ジエン構造と、フェノール性水酸基を有する親ジエン構造とを有し、これらのディールスアルダー付加反応後も、それぞれの構造由来のフェノール性水酸基が1つずつ以上付加反応体に残存する構造を有するものである。
【0013】
また、本発明のフェノール性水酸基を有する化合物は、高温で付加反応部が解離するものである。一般的に、それぞれの構造部にエポキシ樹脂と反応する部位を有さない場合、解離した構造部が遊離することになり、低温時に付加反応部が再結合することが困難になり、低温での架橋密度が低下し、必要な力学特性や耐熱性等を保持できなくなるものとなる。しかし、前記付加反応部が解離しても、それぞれの構造部にフェノール性水酸基を有することから、硬化物中にそれぞれの構造部は固定され、また、それぞれの構造部が近接して存在するため容易に再結合することができる。この化合物を、エポキシ樹脂およびその硬化剤であるフェノール樹脂を含む樹脂組成物に、該フェノール樹脂の一部または全部を置き換える形で加えることにより、加熱、放冷により、熱可逆的に切断、結合がなされる架橋構造が導入できる。
【0014】
本発明のフェノール性水酸基を有する化合物において、フェノール性水酸基を有する共役ジエン構造を構成するものとしては、下記式で表されるフェノール性水酸基と共役ジエン構造とを有する化合物を挙げることができる。
これらの中でも、共役ジエン構造は、アントラセン構造またはナフタレン構造が高温においても安定であり好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
上記式中のR1〜R10は、それぞれ、水素、水酸基または炭素数18以下の有機基を示す、かつ、R1〜R10の少なくとも1つは、フェノール性水酸基またはフェノール性水酸基を有する有機基である。
前記炭素数18以下の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基およびシクロヘキシル基などのアルキル基、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基およびアントリル基などの芳香族置換基、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、2,3−ジヒドロキシフェニル基、2,4−ジヒドロキシフェニル基、2,5−ジヒドロキシフェニル基、2,6−ジヒドロキシフェニル基、3,4−ジヒドロキシフェニル基、3,5−ジヒドロキシフェニル基、2,3,4−トリヒドロキシフェニル基、2,3,5−トリヒドロキシフェニル基、2,3,6−トリヒドロキシフェニル基、2,4,5−トリヒドロキシフェニル基、2,4,6−トリヒドロキシフェニル基、3,4,5−トリヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシ−1−ナフチル基、3−ヒドロキシ−1−ナフチル基、4−ヒドロキシ−1−ナフチル基、5−ヒドロキシ−1−ナフチル基、6−ヒドロキシ−1−ナフチル基、7−ヒドロキシ−1−ナフチル基、8−ヒドロキシ−1−ナフチル基、1−ヒドロキシ−2−ナフチル基、3−ヒドロキシ−2−ナフチル基、4−ヒドロキシ−2−ナフチル基、5−ヒドロキシ−2−ナフチル基、6−ヒドロキシ−2−ナフチル基、7−ヒドロキシ−2−ナフチル基、8−ヒドロキシ−2−ナフチル基、2,3−ジヒドロキシ−1−ナフチル基、2,6−ジヒドロキシ−1−ナフチル基、2,7−ジヒドロキシ−1−ナフチル基、1,5−ジヒドロキシ−2−ナフチル基、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル基、1,6−ジヒドロキシ−2−ナフチル基および1,8−ジヒドロキシ−2−ナフチル基などの水酸基を有する芳香族基、前記水酸基を有する芳香族基のメチル、エチル、プロピルおよびブチル基置換体、(ヒドロキシフェニル)メチル基、(ヒドロキシフェニル)エチル基および(ヒドロキシジメチルフェニル)メチル基などの水酸基が置換された芳香族を有するアルキル基、ビス(ヒドロキシフェニル)メチル基、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メチル基およびビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エチル基などのビス(ヒドロキシフェニル)アルキル基などが挙げられる。
【0017】
上記フェノール性水酸基と共役ジエン構造とを有する化合物において、アリル基を有するフェノール化合物と、フェノール性水酸基を有するマレイミドとを、60〜150℃で付加反応させ、さらにフェノール性水酸基を有するマレイミドを、150〜200℃で反応させることより得られる、ディールスアルダー付加反応部とフェノール性水酸基とを有する化合物が好ましい。これにより、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、より熱時低弾性に優れたものとなる。
【0018】
上記アリル基を有するフェノール化合物としては、アリル基を有するフェノール化合物であれば、特に限定されるものではなく、該アリル基の置換数および置換位置についても、特に限定されない。このようなアリル基を有するフェノール化合物としては、アリルフェノール、ジアリルビスフェノールA、ジアリルビスフェノールF、ジアリルビスフェノールEおよびジアリルビスフェノールフルオレンなどのアリル化ビスフェノール化合物、トリス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)メタンなどのトリスフェノール化合物、o−アリル化ノボラックフェノール樹脂などが挙げられる。また、これらの化合物の構造におけるベンゼン環上の水素が、炭化水素基で置換されていても構わない。
【0019】
上記フェノール性水酸基を有するマレイミドとしては、ヒドロキシフェニルマレイミドなどが挙げられるが、これらは、その構造中のベンゼン環上の水素が、炭化水素基で置換されていても構わない。
【0020】
上記アリル基を有するフェノール化合物とフェノール性水酸基を有するマレイミドとを用いて得られるフェノール性水酸基と共役ジエン構造とを有する化合物の合成方法について、更に詳しく説明する。アリル基を有するフェノール化合物とフェノール性水酸基を有するマレイミドとの反応において、60〜150℃の低温領域でene反応が進行し、共役ジエン構造を形成し、さらに、この共役ジエン構造とフェノール性水酸基を有するマレイミドとが、150〜200℃の温度領域で、ディールスアルダー反応が進行して、目的の化合物を得ることができるが、該合成方法におけるディールスアルダー反応およびene反応は、既知の方法を用いればよい。例えば、まず、アリル基を有するフェノール化合物とフェノール性水酸基を有するマレイミドとを、アリル基1モルとマレイミド1モルとなるよう配合し、これを加熱溶融または溶媒に溶解して、60〜150℃の温度で加熱しながら1〜12時間攪拌する。さらに、これに、1モルのフェノール性水酸基を有するマレイミドを加えて、150〜200℃の温度で加熱しながら3〜12時間攪拌して、反応液を得た後、この反応液を、再結晶、再沈殿およびクロマトグラフィーなどの通常用いられる単離精製方法によって、精製して、目的のフェノール性水酸基と共役ジエン構造とを有する化合物を得ることができる。
【0021】
本発明のフェノール性水酸基を有する化合物において、フェノール性水酸基を有する親ジエン構造を構成するものとしては、下記式で表されるフェノール性水酸基と親ジエン構造とを有する化合物を挙げることができる。
これらの中でも、親ジエン構造は、高温での自己反応性が低く、解離後の副反応が生じ難いためマレイミド構造が好ましい。
【0022】
【化2】

【0023】
上記式中のR1〜R5は、それぞれ、水素、水酸基または炭素数18以下の有機基を示す、かつ、R1〜R5の少なくとも1つは、フェノール性水酸基またはフェノール性水酸基を有する有機基である。
前記炭素数18以下の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基およびシクロヘキシル基などのアルキル基、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基およびアントリル基などの芳香族置換基、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、2,3−ジヒドロキシフェニル基、2,4−ジヒドロキシフェニル基、2,5−ジヒドロキシフェニル基、2,6−ジヒドロキシフェニル基、3,4−ジヒドロキシフェニル基、3,5−ジヒドロキシフェニル基、2,3,4−トリヒドロキシフェニル基、2,3,5−トリヒドロキシフェニル基、2,3,6−トリヒドロキシフェニル基、2,4,5−トリヒドロキシフェニル基、2,4,6−トリヒドロキシフェニル基、3,4,5−トリヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシ−1−ナフチル基、3−ヒドロキシ−1−ナフチル基、4−ヒドロキシ−1−ナフチル基、5−ヒドロキシ−1−ナフチル基、6−ヒドロキシ−1−ナフチル基、7−ヒドロキシ−1−ナフチル基、8−ヒドロキシ−1−ナフチル基、1−ヒドロキシ−2−ナフチル基、3−ヒドロキシ−2−ナフチル基、4−ヒドロキシ−2−ナフチル基、5−ヒドロキシ−2−ナフチル基、6−ヒドロキシ−2−ナフチル基、7−ヒドロキシ−2−ナフチル基、8−ヒドロキシ−2−ナフチル基、2,3−ジヒドロキシ−1−ナフチル基、2,6−ジヒドロキシ−1−ナフチル基、2,7−ジヒドロキシ−1−ナフチル基、1,5−ジヒドロキシ−2−ナフチル基、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフチル基、1,6−ジヒドロキシ−2−ナフチル基および1,8−ジヒドロキシ−2−ナフチル基などの水酸基を有する芳香族基、水酸基を有する芳香族基のメチル、エチル、プロピルおよびブチル基置換体、(ヒドロキシフェニル)メチル基、(ヒドロキシフェニル)エチル基および(ヒドロキシジメチルフェニル)メチル基などの水酸基が置換された芳香族を有するアルキル基、ビス(ヒドロキシフェニル)メチル基、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メチル基およびビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エチル基などのビス(ヒドロキシフェニル)アルキル基などが挙げられる。
【0024】
本発明のフェノール性水酸基を有する化合物は、上記フェノール性水酸基と共役ジエン構造とを有する化合物と、フェノール性水酸基と親ジエン構造とを有する化合物とを、ディールスアルダー反応により、前記共役ジエン構造と親ジエン構造とを付加反応させることで合成することができる。
ディールスアルダー反応は既知の方法を用いればよい。例えば、共役ジエン化合物と親ジエン化合物を等モル、場合によっては一方の成分を過剰に混合し、加熱溶融またはは溶媒に溶解して、室温〜200℃の温度で3〜24時間攪拌し、再結晶、再沈殿およびクロマトグラフィーなどの、通常用いられる単離精製方法によって得ることができる。
【0025】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に用いるフェノール樹脂としては、特に限定しないが、例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、フェノールアラルキル樹脂の溶融粘度が低く成形性に優れ、また難燃性に優れるため、より好ましい。
前記フェノールアラルキル樹脂としては、下記式(1)及び式(2)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0026】
【化3】

式(1)および(2)中のmは1から10の数である。
【0027】
本発明の樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有する)、ナフトール型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの中でも、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂の溶融粘度が低く成形性が良好となるため特に好ましい。これらの樹脂は、1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
前記フェノールアラルキル型エポキシ樹脂としては、下記式(3)及び式(4)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0029】
【化4】

式(3)および(4)中のmは1から10の数である。
【0030】
本発明の熱硬化性樹脂組成物において、本発明のフェノール性水酸基を有する化合物とフェノール樹脂の比率は、フェノール性水酸基を有する化合物の水酸基当量にもよるが、重量比で3:97〜80:20が望ましい。前記範囲内において、硬化物が、高温領域でも低弾性率を示し、しかも形状を保持するのにより好ましいものとなる。
また、エポキシ樹脂の配合量としては、樹脂組成物中のフェノール性水酸基1モルに対して、エポキシ基が0.5〜1.5モルとなるようにするのが好ましい。前記モル比の範囲である場合、樹脂組成物の硬化性および成形性が特に好ましい。
【0031】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、上記成分の他に、前記エポキシ樹脂の硬化促進剤を添加することで、硬化性を調整することができる。前記エポキシ樹脂硬化促進剤としては、エポキシ基とフェノール性水酸基との硬化反応を促進させるものであればよく、一般に封止材料に使用するものを使用することができる。例えば、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、ベンジルジメチルアミン等の第3級アミン類、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、およびトリフェニルホスフィン等の有機リン化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの硬化促進剤は、単独でも混合して用いても良い。
【0032】
また、必要に応じて、溶融シリカ、結晶シリカ、タルク、アルミナ、窒化珪素および水酸化アルミニウム等の無機フィラーや、シランカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、天然ワックスおよび合成ワックス等の離型剤など当業者に公知な添加材を加えることができる。
【0033】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法としては、例えば、上記の成分を任意の割合で混合した後、熱ロールなどの混練機を用いて混錬し、冷却、粉砕して粉末状とする方法、前記混練後に造粒してペレット状とする方法などが挙げられる。
【0034】
本発明の半導体封止材料は、本発明の熱硬化性樹脂組成物を含んで構成されるものであり、本発明のフェノール性水酸基を有する化合物、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂、さらには任意に、エポキシ樹脂の硬化促進剤、溶融シリカ、シランカップリング剤、カーボンブラックなどの着色剤及び当業者に公知な添加剤を配合して、上記熱硬化性樹脂組成物と同様にして製造することができる。
【0035】
本発明の熱硬化性樹脂組成物および半導体封止材料は、例えば、タブレット状に成形し、これを低圧トランスファー成形機により所望の金型に注入し、100〜200℃の温度で加熱することで硬化させることができ、半導体素子などの電子部品を封止することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
ヒドロキシフェニルマレイミド0.95重量部と1,4,9,10−テトラヒドロキシアントラセン1.21重量部とを十分混合し、窒素気流下160℃で7時間加熱した。その後、減圧下で10時間加熱して、化学式(5)で表される構造のフェノール性水酸基を有する化合物を得た。ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより、上記で得られた化合物の分子量が432であることを確認した。
【0038】
【化5】

【0039】
(実施例2)
2,6−ジメチルフェノール7.32重量部と9−アントラアルデヒド6.18重量部に、水酸化ナトリウム0.21重量部、メタノール10重量部を加え、還流反応を15時間行なった。さらに、酢酸0.32重量部を加え、室温まで冷却し、静置すると結晶が析出した。濾別後結晶を水洗し減圧乾燥を行なった。この結晶4.32重量部とヒドロキシフェニルマレイミド1.89重量部とをエチルカルビトール10重量部に溶解し、160℃で12時間攪拌した。反応液を室温に戻し、純水に滴下すると樹脂が析出した。純水で繰り返し洗浄し、減圧乾燥を経て、化学式(6)で表される構造のフェノール性水酸基を有する化合物を得た。ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより、上記で得られた化合物の分子量が653であることを確認した。
【0040】
【化6】

【0041】
(実施例3)
ヒドロキシフェニルマレイミド3.78重量部と、2,7−ジヒドロキシナフタレン3.20重量部とを混合し、窒素気流下、220℃で4時間加熱し、化学式(7)で表される構造のフェノール性水酸基を有する化合物を得た。ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより、上記で得られた化合物の分子量が351であることを確認した。
【0042】
【化7】

【0043】
(実施例4)
2,6−ジメチルフェノール7.32重量部と1−ナフトアルデヒド4.68重量部に、水酸化ナトリウム0.21重量部、メタノール8重量部を加え、還流反応を15時間行なった。さらに、酢酸0.32重量部を加え、室温まで冷却し、静置すると結晶が析出した。濾別後結晶を水洗し減圧乾燥を行なった。この結晶3.82重量部とヒドロキシフェニルマレイミド1.89重量部とをエチルカルビトール10重量部に溶解し、190℃で7時間攪拌した。反応液を室温に戻し、純水に滴下すると樹脂が析出した。純水で繰り返し洗浄し、減圧乾燥を経て、化学式(8)で表される構造のフェノール性水酸基を有する化合物を得た。ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより、上記で得られた化合物の分子量が588であることを確認した。
【0044】
【化8】

【0045】
(実施例5)
アリルフェノール2.68重量部とヒドロキシフェニルマレイミド3.78重量部とを混合し、エチルカルビトール8.08重量部に溶解して、120℃で2時間加熱した。加熱終了後、溶液を純水に滴下して樹脂を得た。充分減圧乾燥した後、更にヒドロキシフェニルマレイミド3.40重量部加えて、180℃で2時間加熱することで、化学式(9)で表される構造のフェノール性水酸基を有する化合物を得た。ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより、上記で得られた化合物の分子量が514であることを確認した。
【0046】
【化9】

【0047】
(比較例1)
2,6−ジメチルフェノール7.32重量部とフルフラール2.88重量部に、水酸化ナトリウム0.21重量部、メタノール3.66重量部を加え、還流反応を15時間行なった。さらに、酢酸0.32重量部を加え、室温まで冷却し、静置すると結晶が析出した。濾別後結晶を水洗し減圧乾燥を行なった。この結晶3.22重量部とヒドロキシフェニルマレイミド1.89重量部とをテトラヒドロフラン10重量部に溶解し、室温で10時間攪拌した。テトラヒドロフランをエバポレーターで除去して、化学式(10)で表される構造のフェノール性水酸基を有する化合物を得た。ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより、上記で得られた化合物の分子量が513であることを確認した。
【0048】
【化10】

【0049】
(解離温度の確認)
実施例1〜5および比較例1で得られたフェノール性水酸基を有する化合物を、同量のフェノールノボラックと混合し、窒素気流下で、175℃、200℃、225℃、250℃で、それぞれ、4時間加熱し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、合成原料であるヒドロキシフェニルマレイミド生成を観察することで、解離の有無を確認した。結果を表1に記した。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例6)
実施例1で得られた樹脂0.57重量部、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬製、商品名NC3000P、エポキシ当量272)9.60重量部、フェノールアラルキル樹脂(明和化成製、商品名MEH7851SS、水酸基当量201)5.12重量部、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(以下、DBUという)0.21重量部、溶融球状シリカ(平均粒径22μm)84.00重量部、カルナバワックス0.20重量部およびエポキシシランカップリング剤0.3重量部を混合し、70〜100℃で混練、冷却後に混練物を粉砕して、熱硬化性樹脂組成物のサンプルを作製した。
熱硬化性樹脂組成物を、トランスファー成形機を用いて、成形温度175℃、射出圧6.9MPaで、120秒加圧成形後、175℃で4時間後硬化を行い、試験片(幅2mm×長さ30mm×厚さ1.0mm)を得た。
【0052】
(実施例7〜10、比較例2〜3)
実施例6において、実施例1で得られたフェノール性水酸基を有する化合物に代えて、実施例2〜5および比較例1で得られた樹脂を用い、それぞれ、表2に示した配合量により混合した以外は実施例1と同様にして熱硬化性樹脂組成物を作製し、評価を行った。
【0053】
(弾性率およびガラス転移温度(Tg)試験)
上記試験片を粘弾性測定装置(セイコーエプソン製、DMS6100)用いて、10℃/分の昇温速度で30℃から300℃の弾性率とTgを2回測定した。
【0054】
【表2】

【0055】
本発明のフェノール性水酸基を有する化合物を用いて得られた樹脂組成物の硬化物は、従来のエポキシ硬化物より260℃の高温で弾性率が小さ、200℃以下の弾性率は同等である。一方、200℃以下の温度で解離するフェノール性水酸基を有する化合物を用いて得られた樹脂組成物の硬化物は200℃以下の弾性率も低く、必要な耐熱性が確保されていないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物は200℃以上の高温で弾性率が小さく耐熱性を有することから、半導体用途、例えば、半導体封止材料、アンダーフィルなど高温で低応力が必要とされる用途に特に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール性水酸基を有する共役ジエン構造(a)およびフェノール性水酸基を有する親ジエン構造(b)からディールスアルダー反応によって形成される付加反応部を分子内に1個有し、前記付加反応部が前記共役ジエン構造より構成される構造および前記親ジエン構造より構成される構造の両方に少なくとも1個のフェノール性水酸基を有する化合物であって、前記ディールスアルダー付加反応部が200℃以上で解離することを特徴とするフェノール性水酸基を有する化合物。
【請求項2】
前記共役ジエン構造がアントラセン構造またはナフタレン構造である請求項1記載のフェノール性水酸基を有する化合物。
【請求項3】
前記親ジエン構造がマレイミド構造である請求項1または2に記載のフェノール性水酸基を有する化合物。
【請求項4】
前記フェノール性水酸基を有する共役ジエン構造(a)は、アリル基を有するフェノール類とヒドロキシフェニルマレイミドとを60〜150℃で付加反応させるものである、請求項1〜3のいずれかに記載のフェノール性水酸基を有する化合物。
【請求項5】
エポキシ樹脂とフェノール樹脂と請求項1〜4のいずれかに記載のフェノール性水酸基を有する化合物を含む熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂がフェノールアラルキル樹脂型エポキシ樹脂および/またはビフェニル型エポキシ樹脂である請求項5記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
フェノール樹脂がフェノールアラルキル樹脂である請求項5または6に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物で構成される半導体封止材料。

【公開番号】特開2006−306837(P2006−306837A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44073(P2006−44073)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】