説明

ブースタ装置および液圧ブレーキ装置

【課題】ブースタ効き特性制御において運転者のブレーキフィーリングの低下を抑制する。
【解決手段】定常状態からのブースタ負圧の低下量が設定低下量以上となり、ブースタ負圧の低下勾配が第1設定値以上小さくなり、かつ、マスタシリンダ液圧の増加勾配が第2設定値以上小さくなった場合には、ブースタが助勢限界に達したとされる。ブースタが助勢限界に達した場合のマスタシリンダ液圧と定常状態のブースタ負圧との複数の組に基づいて、ブレーキ操作前のブースタ負圧と助勢限界時液圧との実際の関係が取得される。その実際に取得された関係を利用して、ブースタが助勢限界に達したことが検出され、ブースタ効き特性制御が行われる。その結果、ブースタ効き特性制御を適切な時期から開始させることができ、運転者のブレーキフィーリングの低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバキュームブースタを備えたブースタ装置およびブースタ装置を備えた液圧ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バキュームブースタと、バキュームブースタの助勢限界後に、ブレーキシリンダ圧を、助勢限界前後で特性が同じになるように制御するブレーキ液圧制御装置とを備えた液圧ブレーキ装置が記載されている。特許文献1に記載のブレーキ装置においては、マスタシリンダ圧が設定値より大きくなった場合に助勢限界に達したとされる。
特許文献2には、バキュームブースタと、バキュームブースタの助勢限界後に、ブレーキシリンダ圧を、助勢限界前後で特性が同じになるように制御するブレーキ液圧制御装置とを備えた液圧ブレーキ装置が記載されている。この液圧ブレーキ装置においては、マスタシリンダ圧の増加勾配が減少してから設定時間が経過した場合に助勢限界に達したとされる。マスタシリンダ圧の増加勾配が減少したことに基づけば、マスタシリンダ圧センサにゲイン異常が生じても、助勢限界に達したことを検出することができる。
特許文献3には、バキュームブースタと、そのバキュームブースタの負圧室に接続され、車両に設けられた回転軸の回転に伴って作動させられる真空ポンプとを含むブレーキ装置が記載されている。真空ポンプがエンジンによって作動させられるものではないため、エンジンを含まない電気自動車、あるいは、エンジンの作動頻度が低いハイブリッド自動車においても、バキュームブースタの負圧室の負圧の低下を抑制することができる。
【特許文献1】特開2001−334927号公報
【特許文献2】特開2000−168543号公報
【特許文献3】特開2007−223449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、バキュームブースタが助勢限界に達したことを正確に検出することである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0004】
請求項1に記載のブースタ装置は、(1)ブレーキ操作部材と、(2)(a)マスタシリンダの加圧ピストンに連携させられたパワーピストンと、(b)そのパワーピストンの前方の負圧室および後方の変圧室と、(c)その変圧室を、前記パワーピストンと前記ブレーキ操作部材との相対移動に伴って選択的に前記負圧室と大気とに連通させる制御弁とを備えたバキュームブースタと、(3)少なくとも、前記負圧室の圧力が、前記バキュームブースタが助勢限界に達する前の予め定められた標準状態から、設定変化量以上大気圧に近づいた場合に、前記バキュームブースタが助勢限界に達したと検出する助勢限界検出装置とを含むものとされる。
バキュームブースタ(以下、単に、ブースタと称する)において、ブレーキ操作部材が操作されて、パワーピストンが前進させられると、負圧室の容積は小さくなるため、負圧室の圧力は大気圧に近づく。そして、ブースタの標準状態から助勢限界に達するまでの間に、負圧室の圧力は、設定変化量以上、大気圧に近づくことが知られている。したがって、負圧室の圧力が、標準状態から設定変化量以上大気圧に近づいた場合には、ブースタが助勢限界に達したとすることができる。
一方、マスタシリンダの液圧の増加勾配は、運転者の操作に起因して小さくなることがある。そのため、特許文献3に記載のブレーキ装置における場合のように、マスタシリンダ圧の増加勾配の変化に基づく場合には、ブースタが助勢限界に達したことを正確に検出することができないことがある。それに対して、請求項1に記載のように、負圧室の圧力の変化量に基づく場合には、より正確にブースタが助勢限界に達したことを検出することが可能となる。また、ブレーキ操作部材の操作ストロークに基づいて検出されるのではないため、ストロークセンサが不要となり、その分、ブースタ装置のコストダウンを図ることができる。
標準状態は、ブースタが助勢限界に達する前の予め定められた状態であり、例えば、ブレーキ操作部材の非操作状態(ブレーキ操作開始前の状態であり、負圧室の圧力の変化が小さいため、定常状態と称することができる)としたり、ブレーキ操作開始時の状態としたり、ブレーキ操作部材の操作開始後設定時間が経過した時の状態としたりすること等ができる。
設定変化量は、予め定められた固定値としたり、可変値としたりすることができる。標準状態から助勢限界に達するまでの負圧室の圧力の変化量は、標準状態における負圧室の圧力が真空に近い場合は大気圧に近い場合より大きくなることが知られている(図8,9参照)。このことから、設定変化量は、標準状態の負圧室の圧力で決まる可変値とすることが望ましい(請求項3)。
以下、ブースタの負圧室の圧力は、大気圧と真空との間の値(負圧)であるため、以下、ブースタ負圧と称することがある。また、ブースタ負圧が真空に近い場合は負圧が大きいと生じ、大気圧に近い場合は負圧が小さいと称することがある。そして、ブースタ負圧の低下とは、大気圧に近づくことであり、低下勾配が小さくなるとは、大気圧に近づく勾配が緩やかになることである。なお、ブースタ負圧が大気圧に近づく場合の低下勾配は正の値であり、低下勾配が大きい場合には、その正の値の絶対値が大きくなる。
請求項2に記載のブースタ装置において、助勢限界検出装置が、(a)前記負圧室の圧力であるブースタ負圧を検出するブースタ負圧センサと、(b)前記マスタシリンダの液圧を検出するマスタシリンダ液圧センサと、(c)(i)前記ブースタ負圧センサによって検出されたブースタ負圧の前記バキュームブースタの前記標準状態からの低下量が前記設定変化量以上になったことに加え、(ii)(x)前記ブースタ負圧センサによって検出されたブースタ負圧の時間に対する低下勾配が前記第1設定値以上小さくなったことと、(y)前記マスタシリンダ液圧センサによって検出されたマスタシリンダの液圧の時間に対する増加勾配が前記第2設定値以上小さくなったこととの少なくとも一方が満たされた場合に、前記バキュームブースタが助勢限界に達したと検出する複数条件対応検出部を含むものとされる。
(x)について
ブースタが助勢限界に達した後には、倍力効果が得られなくなるため、運転者の通常の操作状態(例えば、時間に対する踏力の増加勾配が一定の状態)において、時間に対するブレーキ操作部材のストロークの増加勾配が急激に小さくなり、パワーピストンのストロークの増加勾配が急激に小さくなる。そのため、時間に対する負圧室の容積の減少勾配が急激に小さくなり、ブースタ負圧の低下勾配が急激に緩やかに(大気圧に近づく勾配が急激に小さく)なる。したがって、ブースタ負圧の時間に対する低下勾配が第1設定値以上小さくなった場合に、ブースタが助勢限界に達したとすることができる。
(y)について
同様に、ブースタが助勢限界に達すると、倍力効果が得られなくなるため、マスタシリンダにおいて、時間に対する加圧ピストンのストロークの増加勾配が小さくなり、マスタシリンダの加圧室の増圧勾配が緩やかになる。したがって、マスタシリンダ圧の時間に対する増加勾配が第2設定値以上小さくなった場合には、ブースタが助勢限界に達したとすることができる。
第1設定値、第2設定値は、予め定められた設定値(固定値)とすることができる。例えば、運転者が標準的な状態でブレーキ操作部材を操作した場合に、ブースタが助勢限界に達したことに起因して生じる負圧の低下勾配の変化、マスタシリンダ圧の増加勾配の変化を実験、シミュレーション等によりそれぞれ求め、求められたそれぞれの変化に基づいて決めることができるのである。
また、標準状態におけるブースタ負圧は、エンジンの作動状態等に基づいて推定された値であっても、ブースタ負圧センサによって検出された値であってもよい。標準状態が定常状態である場合には、複数回の検出値の平均値等統計的に処理した値を「標準状態におけるブースタ負圧」として採用したり、操作直前の検出値を採用したりすることができる。
請求項2に記載のブースタ装置においては、(i)ブースタ負圧の低下量が設定変化量以上になったこと、(x)ブースタ負圧の低下勾配が第1設定値以上小さくなったことの2つの条件が満たされた場合に助勢限界に達したと検出したり、(i)の条件と、(y)マスタシリンダ圧の増加勾配が第2設定値以上小さくなったことの2つの条件が満たされた場合に助勢限界に達したと検出したり、(i)、(x)、(y)の3つの条件すべてが満たされた場合に助勢限界に達したと検出したりすることができる。このように、2つ以上の条件に基づくため、より正確に、ブースタが助勢限界に達したと検出することができる。さらに、(i)、(x)、(y)の3つの条件に基づく場合には、より一層、正確に助勢限界に達したことを検出することができる。
請求項4に記載の液圧ブレーキ装置は、(1)請求項1ないし3のいずれか1つに記載のブースタ装置と、(2)前記マスタシリンダに接続されたブレーキシリンダと、(3)動力式液圧源と、(4) 前記バキュームブースタが助勢限界に達した後に、前記ブレーキ操作部材に加えられる操作力に対する前記ブレーキシリンダの液圧の増加勾配が前記バキュームブースタが助勢限界に達する前後で同じになるように、前記動力液圧源の液圧を利用して、前記ブレーキシリンダの液圧を制御するブレーキ液圧制御装置であって、前記バキュームブースタの標準状態における前記負圧室の圧力と、前記バキュームブースタが助勢限界に達した場合の前記マスタシリンダの液圧である助勢限界時液圧との関係を記憶する記憶部を備え、実際に取得された前記標準状態における前記負圧室の圧力と、前記関係とから前記助勢限界時液圧を取得し、実際のマスタシリンダの液圧が前記助勢限界時液圧に達した場合に、前記ブレーキシリンダの液圧制御を開始するブレーキ液圧制御装置とを含む液圧ブレーキ装置であって、前記ブレーキ液圧制御装置が、前記記憶部に、実際に取得された前記標準状態における前記負圧室の圧力と、前記助勢限界検出装置によって前記バキュームブースタが助勢限界に達したことが検出された場合の実際のマスタシリンダの液圧との少なくとも1組に基づいて取得される実際の関係を記憶させる関係記憶部を含むものとされる。
液圧ブレーキ装置においては、標準状態におけるブースタ負圧と、ブースタが助勢限界に達した場合のマスタシリンダ液圧(助勢限界時液圧)との関係が予め記憶されており、実際に取得された標準状態におけるブースタ負圧と、記憶部に記憶された関係とに基づいて助勢限界時液圧が求められ、実際のマスタシリンダ圧が助勢限界時液圧に達した場合に、ブースタが助勢限界に達したとされて、ブレーキシリンダの液圧制御が開始される。そのため、標準状態におけるブースタ負圧が変化しても、助勢限界に達したことを正確に検出することができる。
一方、記憶部には、多数の車両について、同じ関係(標準状態におけるブースタ負圧と助勢限界時液圧との関係)が記憶されているのが普通であるが、この関係は、多数の車両すべてについて同じであるとは限らず、車両個々で異なることがある。例えば、ブースタやマスタシリンダの特性の機械的なバラツキ、ブースタ負圧センサ、マスタシリンダ液圧センサの特性のバラツキ、コンピュータにおけるA/D変換誤差等に起因して、関係が、車両個々において異なるのである。また、ブースタ負圧センサ、マスタシリンダ液圧センサの特性が、温度、熱等による電子回路の変化等により、経時的に変化することもあり、関係が、経時的に変化することもある。いずれにしても、予め記憶されている関係と、実際の関係とが異なる場合には、ブースタが助勢限界に達したことを正確に検出することができず、実際に助勢限界に達していなくても(助勢限界に達する前に)ブレーキシリンダの液圧制御が開始されたり、実際に助勢限界に達した後、遅れて開始されたりすることがあり、運転者のブレーキフィーリングが低下するという問題があった。
そこで、請求項4に記載のブレーキ装置においては、関係が実際に取得され、記憶される。実際の関係に基づけば、ブースタが助勢限界に達したことを正確に検出することが可能となる。また、ブレーキシリンダの液圧制御を、ブースタが実際に助勢限界に達した時に開始することが可能となり、運転者のブレーキフィーリングの低下を抑制することができる。
実際の関係は、実際に取得された標準状態におけるブースタ負圧と、助勢限界に達した場合の実際のマスタシリンダ液圧との組が1組以上取得された場合に取得される。例えば、関係が直線で表される場合において、その直線の傾き、切片等が予め決まっている場合には、1点(1つの組)に基づけば、実際の直線を取得することができる。また、複数の組に基づいて、1つの近似直線(実際の関係)を取得することができる。
「記憶部に実関係が記憶される」ことには、車両の出荷前に実際の関係が取得されて、記憶部に記憶されること、出荷後に実際の関係が取得され、記憶されている関係に代わって記憶されることが含まれる。出荷後、実際の関係は少なくとも1回取得されて、記憶されれば、車両の個別のバラツキに起因する関係の違いを修正することができる。実際の関係が定期的に取得されて、記憶されるようにすれば、関係の経時的な変化を修正することができる。
なお、取得された実関係が、予め記憶された共通関係で決まる領域内にある場合には、修正されず、領域から外れた場合に修正されるようにすることもできる。
また、ブレーキシリンダの液圧制御においては、(a)ブレーキシリンダの液圧が動力液圧源の液圧を利用して直接制御されるようにしても、(b)マスタシリンダの液圧が動力液圧源の液圧を利用して制御されることにより、ブレーキシリンダの液圧が制御されるようにしてもよい。
【実施例】
【0005】
以下、本発明の一実施例であるブースタ装置を備えた液圧ブレーキシステムを図面に基づいて詳細に説明する。
この液圧ブレーキシステムにおいては、図1に示すように、ブレーキペダル10の踏力がバキュームブースタ12により倍力され、その倍力された踏力に応じた液圧がマスタシリンダ14に発生させられる。この液圧は、車輪に設けられたブレーキ16のブレーキシリンダ18に供給され、ブレーキシリンダ18が液圧により作動させられて車輪の回転が抑制される。また、ブレーキシリンダ18とマスタシリンダ14との間には、ブレーキシリンダ18の液圧を制御するアクチュエータである液圧制御ユニット20が設けられている。液圧制御ユニット20は、電子制御ユニット24(以下、ブレーキECU24と称する)により制御される。
【0006】
バキュームブースタ(以下、単にブースタと略称する)12は、後述する負圧室においてエンジン30のインテークマニホルド32に接続されており、負圧が供給される。インテークマニホルド32はエンジンの吸気側にあり、電子制御式スロットルバルブ34を介して大気に連通させられる。
ブースタ12とインテークマニホルド32との間にはチェック弁36が設けられている。チェック弁36は、インテークマニホルド32からブースタ12への負圧の供給(ブースタ12の空気がインテークマニホルド32側へ吸引されること)は許容するが、ブースタ12からインテークマニホルド32への負圧の流出(インテークマニホルド32内の空気がブースタ12へ吸引されること)は阻止するように設けられている。そのため、ブースタ12側の負圧は、インテークマニホルド32側の負圧より、チェック弁36の開弁圧分、低く、すなわち大気圧に近くなる。チェック弁36とブースタ12との間にはタンク38が設けられ、負圧が蓄えられる。タンク38は容量の小さいものとされている。
また、エンジン30において、電子制御式スロットルバルブ34の開度,インジェクタの燃料噴射量,タイミング等が、電子制御ユニット40(以下、EFI−ECU40と称する)により制御される。EFI−ECU40には、インテークマニホルド32の負圧を検出するインテークマニホルド負圧センサ42,電子制御式スロットルバルブ34の開度を検出するスロットルポジションセンサ44,回転数を検出するエンジン回転数センサ46等が接続されており、それらの検出値に基づいてエンジン30の作動状態が検出され、電子制御式スロットルバルブ34,インジェクタ等が制御される。
【0007】
図2に示すように、マスタシリンダ14は、ハウジングに、直列に摺動可能に嵌合された2つの加圧ピストン60a,60bを含む。加圧ピストン60a,60bの前方には、それぞれ、2つの加圧室61a,61bが形成される。
ブースタ12は、中空のハウジング64と、ハウジング64内に設けられたパワーピストン66とを含み、パワーピストン66によりマスタシリンダ14の側の負圧室68とブレーキペダル10の側の変圧室70とに仕切られる。
パワーピストン66は、ブレーキペダル10の側において、バルブオペレーティングロッド71を介してブレーキペダル10と連携させられ、マスタシリンダ14の側において、ゴム製のリアクションディスク72を介してブースタピストンロッド74と連携させられている。ブースタピストンロッド74はマスタシリンダ14の加圧ピストン60aに連携させられ、パワーピストン66の作動力を加圧ピストン60aに伝達する。
【0008】
負圧室68と変圧室70との間に弁機構76が設けられている。弁機構76は、バルブオペレーティングロッド71とパワーピストン66との相対移動に基づいて作動するものであり、コントロールバルブ76aと、エアバルブ76bと、バキュームバルブ76cと、コントロールバルブスプリング76dとを備えている。エアバルブ76bは、コントロールバルブ76aと共同して変圧室70の大気に対する連通・遮断を選択的に行うものであり、バルブオペレーティングロッド71に一体的に移動可能に設けられている。コントロールバルブ76aは、バルブオペレーティングロッド71にコントロールバルブスプリング76dによりエアバルブ76bに着座する向きに付勢される状態で取り付けられている。バキュームバルブ76cは、コントロールバルブ76aと共同して変圧室70の負圧室68に対する連通・遮断を選択的に行うものであり、パワーピストン66に一体的に移動可能に設けられている。
【0009】
このように構成されたブースタ12においては、非作動状態では、コントロールバルブ76aが、エアバルブ76bに着座する一方、バキュームバルブ76cから離間し、それにより、変圧室70が大気から遮断されて負圧室68に連通させられる。したがって、この状態では、負圧室68も変圧室70も共に等しい高さの圧力(大気圧以下の圧力)とされる。これに対して、作動状態では、バルブオペレーティングロッド71がパワーピストン66に対して相対的に接近し、やがてコントロールバルブ76aがバキュームバルブ76cに着座し、それにより、変圧室70が負圧室68から遮断される。その後、バルブオペレーティングロッド71がパワーピストン66に対してさらに相対的に接近すれば、エアバルブ76bがコントロールバルブ76aから離間し、それにより、変圧室70が大気に連通させられる。この状態では、変圧室70の圧力が大気圧に近づき、負圧室68と変圧室70との間に差圧が発生し、その差圧によってパワーピストン66が前進させられ、ブースタ12により倍力されたブレーキ操作力に応じた液圧がマスタシリンダ14に発生させられる。
負圧室68の圧力(以下、ブースタ負圧と略称することがある)は、ブースタ負圧センサ78によって検出され、マスタシリンダ14の加圧室61bの液圧はマスタシリンダ圧センサ79によって検出される。
パワーピストン66の前進に伴って負圧室68の容積が減少するため、負圧室68の負圧であるブースタ負圧は減少する(大気圧に近づく)。
【0010】
液圧ブレーキシステムの液圧ブレーキ回路を図3に基づいて説明する。
本実施例における液圧ブレーキ回路はX配管とされており、マスタシリンダ14の一方の加圧室61bには右前輪FRおよび左後輪RL用の第1ブレーキ系統が接続され、他方の加圧室61aには左前輪FLおよび右後輪RR用の第2ブレーキ系統が接続されている。それらブレーキ系統は互いに構成が共通するため、以下、第1ブレーキ系統のみを代表的に説明し、第2ブレーキ系統については説明を省略する。
【0011】
第1ブレーキ系統においては、加圧室61bと、右前輪FRのブレーキシリンダ18と左後輪RLのブレーキシリンダ18とが、それぞれ、主通路80を介して接続されている。主通路80は、基幹通路84と個別通路86とを含み、個別通路86の各々にはブレーキシリンダ18が接続されている。各個別通路86の途中には常開の電磁開閉弁である増圧弁90が設けられ、各増圧弁90と並列に作動液戻り用の逆止弁94が設けられる。各ブレーキシリンダ18にはリザーバ通路96を介してリザーバ98に接続され、リザーバ通路96の途中には、それぞれ常閉の電磁開閉弁である減圧弁100が設けられる。
【0012】
リザーバ98にはポンプ通路104が接続され、主通路80の増圧弁90の上流側に接続される。ポンプ通路104には、ポンプ106、吸入弁108、吐出弁110、オリフィス114、固定ダンパ116が設けられる。
また、リザーバ98は作動液収容部118aと、補給弁118bとを含む。作動液収容部118aは、ハウジングと、そのハウジングに摺動可能に設けられた可動部材118dと、可動部材118dの一方の側に設けられたスプリング118eと、可動部材118dの他方の側に設けられた収容室118fとを含み、補給弁118bは、弁子119aおよび弁座119bと、可動部材118aに設けられた弁駆動部材119cとを含む。補給弁118bには補給通路119dを介してマスタシリンダ14が接続される。
補給弁118bは、収容室118fに作動液が十分に収容されている場合には閉状態にある。収容室118fに収容される作動液量が設定量以下になると、可動部材118dが移動させられ、弁駆動部材119cにより補給弁118bが開状態に切り換えられる。それによって、補給通路119cを経てマスタシリンダ14から収容室118fに作動液が供給されるのであり、リザーバ98において作動液不足が生じないようにされている。
【0013】
前記主通路80のポンプ通路104の接続部とマスタシリンダ14(補給通路119cの接続部)との間に圧力制御弁120が設けられている。圧力制御弁120は、ブレーキシリンダ18側の液圧とマスタシリンダ14側の液圧との差圧を制御するものであり、マスタシリンダ14の液圧に対してブレーキシリンダ18の液圧を差圧だけ高くする。前記ブレーキECU24は、運転者によるブレーキ操作中であって、マスタシリンダ14の液圧より高い液圧をブレーキシリンダ18に発生させることが必要である場合に、ポンプ106を作動させるとともに圧力制御弁120を制御する。
【0014】
圧力制御弁120は、図4に示すように、図示しないハウジングと、弁子130および弁座132と、それら弁子130および弁座132の相対移動を制御する磁気力を発生させるソレノイド134と、弁子130を弁座132から離間させる向きに付勢するスプリング136とを含む常開弁であり、主通路80の基幹通路84に、弁子130に、ブレーキシリンダ18の液圧からマスタシリンダ14の液圧を引いた大きさの差圧が作用する姿勢で設けられる。
この圧力制御弁120において、ソレノイド134が励磁されない非作用状態(OFF状態)では開状態にある。主通路80においてマスタシリンダ側とブレーキシリンダ側との間での双方向の作動液の流れが許容され、その結果、ブレーキ操作が行われれば、ブレーキシリンダ圧はマスタシリンダ圧と同じとなり、マスタシリンダ圧の増加に伴って増加させられる。
これに対し、ソレノイド134が励磁される作用状態(ON状態)では、弁子130に、ブレーキシリンダ圧とマスタシリンダ圧との差に基づく力F2 とスプリング136の弾性力F3 との和と、ソレノイド134の磁気力に基づく吸引力F1 とが互いに逆向きに作用する。ブレーキシリンダ圧とマスタシリンダ圧との差圧F2 は、弾性力F3 が同じ場合に、吸引力F1 が大きい場合は小さい場合より大きくなるのであり、ソレノイド134への供給電流の制御によって、これらの差圧が制御される。
なお、図3に示すように、圧力制御弁120と並列に逆止弁144、リリーフ弁146が設けられている。逆止弁144は、ブレーキシリンダ18からマスタシリンダ14への作動液の流れは阻止するが、逆向きの流れは許容するものであり、圧力制御弁120が異常であっても、マスタシリンダ14からブレーキシリンダ18へ向かう作動液の流れが許容される。リリーフ弁146は、ブレーキシリンダ側の液圧がマスタシリンダ側の液圧よりリリーフ圧以上高くなると、ブレーキシリンダ側からマスタシリンダ側への作動液の流れを許容するものであり、ポンプ106による吐出圧が過大となることを回避し得る。
本実施形態においては、圧力制御弁120,リザーバ98,ポンプ106等が液圧制御ユニット20を構成している。
【0015】
前記ブレーキECU24は、図5に示すように、PU(プロセッシングユニット),ROM,RAM,I/O回路,それらを接続するバスを含むコンピュータを主体として構成されている。ブレーキECU24の入力側に前記ブースタ負圧センサ78,マスタシリンダ圧センサ79に加えて、ブレーキスイッチ156,車輪速センサ158等が接続されている。車輪速センサ158は、各輪毎に設けられ、各輪の車輪速を規定する車輪速信号を出力する。
ブレーキECU24の出力側には、前記ポンプ106を駆動するポンプモータ160が駆動回路162を介して接続されている。また、前記圧力制御弁120のソレノイド134の駆動回路164、増圧弁90および減圧弁100の各ソレノイド166の各駆動回路168(図には複数のソレノイド166,駆動回路168がそれぞれまとめて図示されている)も接続されている。ソレノイド134の駆動回路164には、ソレノイド134の磁気力をリニアに制御するための電流制御信号が出力され、一方、増圧弁90等の各ソレノイド166の各駆動回路168にはそれぞれ、ソレノイド166をON/OFF駆動するためのON/OFF駆動信号が出力される。図5においてブレーキECU24の出力側についての接続も、第1ブレーキ系統について代表的に図示されており、第2ブレーキ系統については図示を省略する。
ブレーキECU24とEFI−ECU40とは、CAN(Car Area Network)170を介して接続され、種々の情報の通信が行われる。
【0016】
ブレーキECU24のROMには、複数のプログラム、テーブル等が記憶されており、これらのプログラムに従って、ブースタ効き特性制御(以下、単に、効き特性制御と称する),アンチロック制御等がそれぞれ実行される。
増圧弁90,減圧弁100は、アンチロック制御ルーチンに従って開閉制御されるが、アンチロック制御についての説明は省略する。
効き特性制御とは、ブースタ12に助勢限界があることを考慮し、車体減速度が、ブースタ12の助勢限界の前後を問わず、ほぼ同じ勾配で増加するように行われるブレーキシリンダ18の液圧制御をいう。
ブースタ12は、ブレーキ操作力がある値まで増加すると、変圧室70の圧力が大気圧まで上昇し切ってしまい、助勢限界に達する。助勢限界後は、ブースタ12はブレーキ操作力を倍力することができないから、何ら対策を講じないと、図6(a)のグラフで表されているように、ブレーキの効き、すなわち、同じブレーキ操作力Fに対応するブレーキシリンダ圧P Wの高さが助勢限界がないと仮定した場合におけるブレーキシリンダ圧PWの高さより低下する。かかる事実に着目して効き特性制御が行われるのであり、具体的には、図6(b)のグラフで表されているように、ブースタ12が助勢限界に達した後には、ポンプ106を作動させてマスタシリンダ圧PM より差圧ΔPaだけ高い液圧をブレーキシリンダ18に発生させ、それにより、ブースタ12の助勢限界の前後を問わず、ブレーキの効きを安定させる。ここに、差圧ΔPa(目標差圧)とマスタシリンダ圧PM との関係は、予めROMに記憶されており、例えば、図6(c)のグラフで表されるものとされる。
尚、図6(d)のグラフは、圧力制御弁120のソレノイド134への供給電流と目標差圧ΔPaとの関係を示し、この関係も予めROMに記憶されている。
【0017】
本実施例においては、図7(a)に示すように、ブレーキペダル10の非操作状態(操作直前の状態も含む。ブレーキペダル10の非操作状態は特許請求の範囲に記載の標準状態の一態様であるため、以下、単に標準状態と称する。ブレーキペダル10の非操作状態は定常状態と称することもできる)におけるブースタ負圧と、ブースタ12が助勢限界に達した場合のマスタシリンダの圧PMB (以下、助勢限界時液圧と称する)との関係が予め記憶されている。これらの関係は、多数の車両について共通に設定されたものである。図7(b)に示すように、標準状態におけるブースタ負圧が大気圧に近づくと、ブースタ12が助勢限界に達した場合の助勢限界時液圧が小さくなるのであり、これらの間は、直線的に表される関係があるのである。
標準状態(ブレーキペダル10の非操作状態)におけるブースタ負圧が検出され、そのブースタ負圧と図7(a)の関係とに基づいて、助勢限界液圧PMBが取得され、マスタシリンダ圧センサ79によって検出された実際のマスタシリンダ圧PMが助勢限界時液圧PMBに達した場合に、ブースタ12が助勢限界に達したとされて、ポンプ106が作動させられ、圧力制御弁120が制御される(効き特性制御が開始されるのである)。
【0018】
また、図7(a)に示す関係が学習によって修正される。
図7(a)に示す関係は、多数の車両について同じとされているが、実際には、車両個々で異なることがある。例えば、ブースタ12やマスタシリンダ14の特性の機械的なバラツキ、ブースタ負圧センサ78、マスタシリンダ圧センサ79の特性のバラツキ、ブレーキECU24におけるA/D変換誤差等に起因して、異なることがあるのである。また、ブースタ負圧センサ78、マスタシリンダ液圧センサ79の特性が、経時的に変化することもあり、関係が、経時的に変化することもある。
いずれにしても、予め記憶されている関係と、実際の関係とが異なる場合には、ブースタ12が助勢限界に達したことを正確に検出することができず、実際に助勢限界に達する前に効き特性制御が開始されたり、実際に助勢限界に達した後、遅れて開始されることがあり、運転者のブレーキフィーリングが低下するという問題があった。
そこで、本実施例においては、実際の関係(以下、実関係と称することがある)が取得され、予め記憶されている関係(以下、共通関係と称することがある)が修正されるのである。
【0019】
本実施例において、(i)ブースタ負圧が標準状態から設定変化量(以下、設定低下量と称する)以上低下したこと、(x)ブースタ負圧の低下勾配が第1設定値以上小さくなったこと、(y)マスタシリンダ液圧の増加勾配が第2設定値以上小さくなったことの3つの条件が満たされた場合に、ブースタ12が助勢限界に達したとされる。
そして、ブースタ12が助勢限界に達したことが検出された場合の実際のマスタシリンダ14の液圧が検出され、実際に検出された標準状態におけるブースタ負圧との組が複数取得され、複数の組に基づいて、実関係が取得され、予め記憶されていた共通関係が修正されるのである。例えば、これらの組の複数に基づいて、回帰係数を求めて近似直線を取得し、その近似直線を実関係とすることができる。
【0020】
(i)について
ブレーキペダル10が操作され、パワーピストン66が前進させられると、負圧室68の容積が減少し、ブースタ負圧は大気圧に近づく(PV=一定の関係から)。また、図9に示すように、ブースタ12が助勢限界に達するまでのブースタ負圧の低下量は、ブレーキペダル10の非操作状態(定常状態)におけるブースタ負圧が真空に近いほど大きくなることが知られている。そこで、本実施例においては、図8に示すように、標準状態(定常状態)におけるブースタ負圧と、助勢限界に達するまでのブースタ負圧の低下量との関係が予め実験等により求められて記憶されている。したがって、ブースタ負圧の低下量ΔPBが、標準状態のブースタ負圧<PB0>と、図8の関係とで決まる設定低下量ΔPBth以上になった場合には、ブースタ12が助勢限界に達したとすることができる。
ブレーキペダル10の非操作状態においては、予め定められた設定時間毎に、ブースタ負圧PBが検出され、ブースタ負圧PBの平均値が取得される。そして、ブレーキペダル10の操作の開始が検出された場合には、その直前に取得された平均値が標準状態のブースタ負圧<PB0>とされる。
(x)について
図9に示すように、ブースタ12が助勢限界に達すると倍力効果がなくなるため、運転者の通常の操作状態において、助勢限界に達すると、ブレーキペダル10のストロークの増加速度が急激に小さくなる。ブレーキペダル10、パワーピストン66のストロークの増加速度が小さくなり、ブースタ負圧の低下勾配が小さくなる。したがって、ブースタ負圧の低下勾配(dPB/dt)が第1設定勾配(Bth)以上小さくなった場合に、ブースタ12が助勢限界に達したとすることができる。
(y)について
同様の理由で、マスタシリンダ14において、加圧ピストン66のストロークの増加勾配が小さくなるため、加圧室61の液圧の増加勾配が急激に小さくなる。したがって、
マスタシリンダ液圧の増加勾配(dPB/dt)が第2設定値(Mth)以上小さくなった場合に、ブースタ12が助勢限界に達したとすることができる。
なお、第1設定値Bth、第2設定値Mthは、本実施例においては、予め定められた固定値であり、標準的な運転者によってブレーキペダル10が通常の状態で操作された場合を想定して、予め実験、シミュレーションにより取得した値に基づいて定めた。
【0021】
ブレーキシリンダの液圧は、図10のフローチャートで表されるブレーキ液圧制御プログラムの実行に従って制御される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、ブレーキスイッチ156がON状態にあるか否かが判定される。ブレーキペダル10が踏み込まれていない場合には、S2〜5において、ブースタ負圧センサ78によりブースタ負圧が検出され、平均値が取得されて、標準状態のブースタ負圧<PB0>とされる。そして、図7の関係に従って、助勢限界時液圧PMBが決定される。また、圧力制御弁120がOFFとされ、ポンプ106が停止状態とされる。ブレーキペダル10の非操作状態において、S1〜5が繰り返し実行され、常に、最新の助勢限界時液圧PMBが取得されて、記憶されることになる。
S1〜5が繰り返し実行される間に、ブレーキペダル10が踏み込まれて、ブレーキスイッチ156がON状態になると、S6において、マスタシリンダ圧センサ79によりマスタシリンダ液圧PMが検出され、S7において、助勢限界時液圧PMB以上になったか否かが判定される。助勢限界時液圧PMBより小さい場合には、S5において、圧力制御弁120がOFFとされ、ポンプ106が停止状態とされる。S1,6,7,5が繰り返し実行されるうちに、実際のマスタシリンダ圧PMが助勢限界時液圧PMB以上になると、S7の判定がYESとなり、S8において、実際のマスタシリンダ圧PMと図6(c)に示す関係とに基づいて、目標差圧ΔPaが取得され、S9において、図6(d)に示す関係に従って、圧力制御弁120への供給電流量IPMが取得され、S10において、それに応じて圧力制御弁120が制御され、ポンプ106が作動させられる。
それによって、ブースタ12の助勢限界後も、助勢限界前と同じ勾配で、ブレーキシリンダ液圧、すなわち、減速度を増加させることが可能となる。
【0022】
次に関係の学習について説明する。
図11のフローチャートで表される関係学習プログラムの実行により、実際の関係が1回取得される。1回取得されれば、車両個々のバラツキに起因する相違を修正をすることができる。
S21において、ブースタ12が助勢限界に達したことが検出される。そして、その場合のマスタシリンダ圧が検出され、マスタシリンダ圧PMと標準状態のブースタ負圧<PB0>との組が記憶される。
具体的には、図12のフローチャートに示すように、S51において、ブレーキスイッチ156がON状態にあるか否かが判定され、OFF状態にある場合には、S52において、ブースタ負圧センサ78によってブースタ負圧PBが検出され、S53において、平均値が取得されて、標準状態のブースタ負圧<PB0>とされる。そして、S54において、設定低下量ΔPBthが図8に従って取得される。ブレーキスイッチ156がOFF状態の間、S51〜54が繰り返し実行され、最新の標準状態の負圧<PB0>、設定低下量ΔPBthが取得されて、記憶される。また、S55において、フラグ1〜3がリセットされる。
S51〜55が繰り返し実行される間に、ブレーキスイッチ156がON状態に切り換えられると、S51の判定がYESとなり、S56において、ブースタ負圧PBが取得され、標準状態の負圧<PB0>からの低下量ΔPBが取得され、時間に対する低下勾配dPB/dtが取得され、低下勾配の変化量ΔdPBが取得される。
ΔPB=<PB0>−PB
dPB/dt={PB(n-1)−PB(n)}/Δt
上式において、Δtは、本プログラムのサイクルタイムである。
ΔdPB=(dPB/dt)n−(dPB/dt)n-1
なお、最初にS56が実行された場合には、低下勾配dPB/dt、低下勾配の変化量ΔdPBが取得されることはない。
【0023】
次に、S57において、マスタシリンダ圧PMが検出され、時間に対する増加勾配dPM/dt(n)が取得され、増加勾配の変化量ΔdPMが取得される。
dPM/dt={PM(n-1)−PM(n)}/Δt
ΔdPM=(dPM/dt)n−(dPM/dt)n-1
そして、S58において、ブースタ負圧低下量ΔPBがS54において取得された設定低下量ΔPBthより大きいか否かが判定される。
ΔPB>ΔPBth
低下量ΔPBが設定低下量ΔPBthより大きい場合には、条件(i)が満たされたとされ、S59において、フラグ1がセットされる。条件(i)が満たされない場合には、S59が実行されることがない。
S60において、ブースタ負圧の低下勾配dPB/dtが第1設定値Bth以上小さくなったか否かが判定される。
ΔdPB>Bth
第1設定値以上小さくなった場合には、条件(x)が満たされたとされて、S61において、フラグ2がセットされる。第1設定値以上小さくなっていない場合には、フラグ2がセットされることなく、S62が実行される。
S62において、マスタシリンダ圧の増加勾配dPM/dtが第2設定値Mth以上小さくなったか否かが判定される。
ΔdPM>Mth
第2設定値以上小さくなった場合には、条件(y)が満たされたとされて、S63において、フラグ3がセットされる。
【0024】
S64において、フラグ1〜3のすべてがセットされているか否かが判定される。すべてがセットされた場合には、条件(i)、(x)、(y)が満たされ、助勢限界に達したとされる。S65において、標準状態の負圧<PB0>と、マスタシリンダ液圧PM(S62の判定がYESとなった場合にS57において検出された値)との組が記憶され、フラグ1〜3がリセットされる。
条件(i)、(x)、(y)は、同時に満たされるとは限らない。また、助勢限界に達した後は、ブースタ負圧PBやマスタシリンダ圧PMの変化勾配の変化が小さくなるため、S60,62の判定が1回「YES」になると、2回目以降実行された場合には、「NO」となる。そこで、条件(i)、(x)、(y)のすべてが同時に満たされなくても、助勢限界に達したことを検出できるように、フラグ1〜3を設けたのである。なお、S65が実行された場合にフラグ1〜3がリセットされるため、助勢限界に達した後に、再度S64の判定がYESとなることはない。
【0025】
このように取得された組(PM、<PB0>)が予め定められた設定個数以上になったか否かが、S22において判定される。設定個数より少ない場合には、関係の修正が行われることがなく、S21,22が繰り返し実行される。それらの組が設定個数以上取得された場合には、S22の判定がYESとなって、S23において、複数の点に基づいて、近似直線が取得され、実関係とされる。S24において、共通関係が実関係に修正される。例えば、図7(c)に示すように、共通関係(実線)が実関係(一点鎖線)に修正されるのである。
この修正後の実関係に基づけば、助勢限界時液圧PMBを正確に取得することができるため、ブースタ12が助勢限界に達したことを正確に取得することができる。その結果、効き特性制御を、適正な時期に開始することができ、運転者のブレーキフィーリングの低下を抑制することができる。
【0026】
以上のように、本実施例においては、液圧制御ユニット20,ブレーキECU24の図10のフローチャートで表されるブレーキ液圧制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等によりブレーキ液圧制御装置が構成される。また、ブレーキECU24の図11のフローチャートで表される関係学習プログラムを記憶する部分、実行する部分等により関係学習部が構成される。関係学習部のうちのS21を記憶する部分、実行する部分等により助勢限界検出装置が構成される。助勢限界検出装置は複数条件対応検出部でもある。さらに、ブレーキECU24のROMにより、関係を記憶する記憶部が構成される。
【0027】
なお、上記実施例においては、条件(i)、(x)、(y)の3つが満たされた場合に、ブースタ12が助勢限界に達したとされたが、条件(i)と、条件(x)または(y)との2つが満たされた場合に助勢限界に達したとしたり、条件(i)が満たされた場合に助勢限界に達したとしたりすることもできる。
また、実関係は、1つの組に基づいて取得することもできる。例えば、原点と、実際に取得された1点とを通る直線を実関係としたり、実際に取得された点を通り、共通関係を表す直線と同じ傾きの直線(平行な直線)を実際関係としたりすることもできる。
さらに、実関係は、定期的に取得することもできる。例えば、数日毎、数ヶ月毎、数年毎等の実関係取得条件が満たされた場合に、関係学習プログラムの実行が開始され、実関係が取得される。本実施例においては、その時点において予め記憶されている関係が、新たに取得された実関係に適宜修正されることになる。
また、実関係は、車両の出荷前に取得されるようにすることもできる。その場合には、記憶部に、実関係が予め記憶されることになる。
さらに、新たに取得された実関係が、その時点において既に記憶されている関係に対して予め定められた設定範囲内にある場合には、関係が変更されないようにすることもできる。
また、標準状態のブースタ負圧は、エンジン30の作動状態に基づいて推定される推定値を採用することもできる。
その他、本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例であるブレーキ操作装置を備えた液圧ブレーキシステムをエンジンシステムと共に概略的に示す図である。
【図2】上記液圧ブレーキシステムを構成するブースタおよびマスタシリンダを示す側面断面図である。
【図3】上記液圧ブレーキシステムを示す回路図である。
【図4】上記液圧ブレーキシステムを構成する圧力制御弁の構造および作動を説明するための図である。
【図5】上記液圧ブレーキシステムの電気的構成を示すブロック図である。
【図6】(a)上記液圧ブレーキシステムにおけるブレーキ操作力とブレーキシリンダ圧との関係を示すグラフである。(b)ブレーキ効き特性制御を説明するためのグラフである。(c)ブレーキ効き特性制御におけるマスタシリンダ圧と、マスタシリンダとブレーキシリンダとの間の液圧差との関係を示すグラフであり、上記液圧ブレーキシステムを構成するブレーキECUのコンピュータのROMに記憶されている。(d)マスタシリンダ圧と圧力制御弁のソレノイドへの供給電流量との関係を示すグラフであり、上記ROMに記憶されている。
【図7】(a)上記ROMに記憶された標準状態のブースタ負圧と助勢限界時液圧との関係を表す図である。(b)上記液圧ブレーキシステムにおける、踏力とマスタシリンダ圧との関係を示す図である。(c)予め記憶された関係(共通関係)と、修正後の関係(実関係)とを示す図である。
【図8】上記ROMに記憶された標準状態のブースタ負圧と助勢限界に達するまでのブースタ負圧の低下量との関係を示す図である。
【図9】ブースタ負圧の変化、マスタシリンダ圧の変化の状態を示す図である。
【図10】上記ROMに記憶されたブレーキ液圧制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図11】上記ROMに記憶された関係学習ルーチンを示すフローチャートである。
【図12】上記関係学習ルーチンの一部(S21)の実行を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0029】
10:ブレーキペダル 12:ブースタ 14:マスタシリンダ 24:ブレーキECU 68:負圧室 78:マスタシリンダ圧センサ 79:ブースタ負圧センサ 120:圧力制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作部材と、
(a)マスタシリンダの加圧ピストンに連携させられたパワーピストンと、(b)そのパワーピストンの前方の負圧室および後方の変圧室と、(c)その変圧室を、前記パワーピストンと前記ブレーキ操作部材との相対移動に伴って選択的に前記負圧室と大気とに連通させる制御弁とを備えたバキュームブースタと、
少なくとも、前記負圧室の圧力が、前記バキュームブースタが助勢限界に達する前の予め定められた標準状態から設定変化量以上大気圧に近づいた場合に、前記バキュームブースタが助勢限界に達したと検出する助勢限界検出装置と
を含むブースタ装置。
【請求項2】
前記助勢限界検出装置が、(a)前記負圧室の圧力であるブースタ負圧を検出するブースタ負圧センサと、(b)前記マスタシリンダの液圧を検出するマスタシリンダ液圧センサと、(c)(i)前記ブースタ負圧センサによって検出されたブースタ負圧の前記バキュームブースタの前記標準状態からの低下量が前記設定変化量以上になったことに加え、(ii)(x)前記ブースタ負圧センサによって検出されたブースタ負圧の時間に対する低下勾配が前記第1設定値以上小さくなったことと、(y)前記マスタシリンダ液圧センサによって検出されたマスタシリンダの液圧の時間に対する増加勾配が前記第2設定値以上小さくなったこととの少なくとも一方が満たされた場合に、前記バキュームブースタが助勢限界に達したと検出する複数条件対応検出部を含む請求項1に記載のブースタ装置。
【請求項3】
前記助勢限界検出装置が、前記設定変化量を、前記標準状態の前記負圧室の圧力が大気圧に近い場合に真空に近い場合より、小さい値に決定する設定変化量決定部を含む請求項1または2に記載のブースタ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のブースタ装置と、
前記マスタシリンダに接続されたブレーキシリンダと、
動力液圧源と、
前記バキュームブースタが助勢限界に達した後に、前記ブレーキ操作部材に加えられる操作力に対する前記ブレーキシリンダの液圧の増加勾配が前記バキュームブースタが助勢限界に達する前後で同じになるように、前記動力液圧源の液圧を利用して、前記ブレーキシリンダの液圧を制御するブレーキ液圧制御装置であって、前記バキュームブースタの標準状態における前記負圧室の圧力と、前記バキュームブースタが助勢限界に達した場合の前記マスタシリンダの液圧である助勢限界時液圧との関係を記憶する記憶部を備え、実際に取得された前記標準状態における前記負圧室の圧力と、前記関係とから前記助勢限界時液圧を取得し、実際のマスタシリンダの液圧が前記助勢限界時液圧に達した場合に、前記ブレーキシリンダの液圧制御を開始するブレーキ液圧制御装置と
を含む液圧ブレーキ装置であって、
前記ブレーキ液圧制御装置が、前記記憶部に、実際に取得された前記標準状態における前記負圧室の圧力と、前記助勢限界検出装置によって前記バキュームブースタが助勢限界に達したことが検出された場合の実際のマスタシリンダの液圧との少なくとも1組に基づいて取得される実際の関係を記憶させる関係記憶部を含むことを特徴とする液圧ブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−116069(P2010−116069A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291143(P2008−291143)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】